説明

肝障害のマーカーとしてのグルクロン酸抱合されたアセトアミノフェン

本発明は、ヒト肝障害、例えば、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を診断するための方法、有害な薬物反応のリスクがあるヒト被験体を同定するための方法、およびヒト被験体のための治療薬物の適切な投与量を決定するための方法を提供する。マーカーは、ヒト被験体に由来する血漿サンプルもしくは尿サンプル中のアセトアミノフェン−グルクロニドの増大したレベルである。アセトアミノフェン−グルクロニドの量は、血漿サンプル中で測定され、測定は、APAP投与の1分後〜180分後の間に行われる。アセトアミノフェン−グルクロニドの量は、尿サンプル中で測定され、測定は、APAP投与の120分後〜480分後の間に行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
この出願は、2008年10月1日に出願された米国仮特許出願第61/194,835号の優先権を主張し、上記米国仮特許出願の全容は参照によって本明細書に援用される。
【0002】
(政府の権利の陳述)
本発明は、国立衛生研究所(National Institutes of Health)によって与えられたR0l DK068039のもとで政府支援によってなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
アセトアミノフェン(APAP)は、最も一般に使用される非オピオイド鎮痛剤であり、標準的解熱剤および鎮痛剤であり、これに対して、大部分の他の同様の製品が比較される。APAPの代謝その大部分が肝臓で生じる)は、十分に規定されている(図1)。投与される用量のうちの少なくとも1/2は、グルクロン酸(GLUC)で抱合され、1/3は、サルフェート(SULF)で抱合される。上記CYP−450依存性混合機能オキシダーゼ酵素経路(主に、CYP2E1を介する)は、約5〜9%を代謝する。このことは、毒性の反応性中間代謝産物(NAPQI)の形成を生じ、この代謝産物は、その後、グルタチオンで抱合されて、非毒性のシステインおよびメルカプツール酸抱合体を形成する。推奨されるアセトアミノフェン用量のうちの5%未満が、腎臓によって変化しないまま排出される。アセトアミノフェンは、身体から一次排出(first−order elimination)を受け、短い血漿半減期(2.0〜2.4時間)を有する。
【0004】
APAPは、肝臓からの薬物代謝産物排出において、排出系トランスポーターが果たす不可欠な役割の最高の例を提供する。全てのAPAP代謝産物は、肝臓から排出されるために、排出系トランスポーターを必要とし、各々は、胆汁および尿の両方の中で検出され得る。インビボでの素因研究およびインビトロでの機能的輸送実験は、ABCトランスポーターであるABCC2、ABCC3、ABCC4およびABCG2が、各々、種々の非抱合化薬物および抱合化薬物(APAP代謝産物を含む)を輸送する能力を有することを示す。ABCC2およびABCG2は、肝細胞の毛細胆管側(canalicular)(頂側)膜に位置し、ここからABCC2およびABCG2は、その基質を毛細胆管へと排出する。よって、健康な肝臓では、APAPのSULF抱合体、GLUC抱合体およびGSH抱合体の胆汁中排出は、ABCC2によって主に媒介される一方で、ABCG2はまた、APAP−SULF抱合体の排出に寄与するようである。ABCC3およびABCC4は、肝細胞および胆管細胞の洞様毛細血管(基底外側)膜において発現され、上記膜からABCC3およびABCC4はそれらの基質を血液へ排出する。肝細胞からのAPAP−GLUC代謝産物の洞様毛細血管排出は、主にABCC3によって媒介される一方で、ABCC4は、APAP−SULF代謝産物の排出を媒介するようである。近年の研究から、ABCC3およびABCC4は、APAP−SULFの排出系(efflux)において等しい役割を有することが示された。
【0005】
近年の研究(非特許文献1)から、メチオニン欠乏コリン欠乏OLE_LINK4(MCD)食餌をラットに8週間にわたって給餌することによって生成される非アルコール性脂肪肝炎(NASH)のラットモデルにおいて、肝臓排出系トランスポーターABCC3およびABCC4は、タンパク質発現が増すことが示された。これらMCDラットへの多量の用量のAPAP(1mmol/kg)(150ポンドのヒトにおいて10g用量、または250ポンドのヒトにおいて17g用量に等しい)の投与は、コントロールと比較して、APAP−GLUCの、胆汁から血漿への排出のずれを生じた。しかし、メチオニン欠乏コリン欠乏のヒトが存在せず、多量の用量のAPAPが上記ラットモデルに投与されたことを考慮すると、上記MCDラットが、ヒトNASHの良好なモデルでもなく、ヒト肝臓の薬物代謝の研究の良好なモデルでもないことが、推測されてきた。一般に、動物モデルは、ヒトNASHを正確に再現しないことは、受け入れられている。多くの生化学的差異によって、いかなる直接比較も人為構造を潜在的にはらむ。例えば、上記MCDモデルは、しばしば、NASHの構成要素であるインスリン抵抗性を欠いている(非特許文献2)。さらに、ヒトにおける脂肪症が、高脂肪の代表的な西洋的食事(肝臓を介して脂質の正味のフラックスの増大を生じる)において生じるのに対して、上記MCDモデルは、脂質代謝の生化学的欠陥によって、脂肪症および脂肪性肝炎を引き起こす。従って、上記MCDモデルとヒトとの間の直接比較は、不適切である。これは、この不自然な食餌の影響 対 それらの変数に対する肝臓損傷の影響は、詳細に表せないので、特に、MCD食餌についての懸念事項である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Drug.Metabolism and Disposition(2007)35:1970−1978
【非特許文献2】Rinella MEおよびGreen RM、 J Hepatol.、2004年1月;40(1):47−51
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
第1の局面において、本発明は、ヒトにおける肝障害を診断するための方法を提供し、上記方法は、
(a)ヒト被験体にアセトアミノフェン(APAP)を投与した後に、ヒト被験体から得られた血漿サンプルおよび/もしくは尿サンプル中のアセトアミノフェン(APAP)−グルクロニドの量を決定する工程であって、ここで上記ヒト被験体は、肝障害のリスクがある、工程;
(b)上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量と、コントロールとを比較する工程;ならびに
(c)上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量が、コントロールと比較して上昇している場合、上記ヒト被験体を、肝障害を有すると同定する工程、
を包含する。
【0008】
第2の局面において、本発明は、有害薬物反応のリスクがあるヒト被験体を同定するための方法を提供し、上記方法は、
(a)ヒト被験体にアセトアミノフェン(APAP)を投与した後に、ヒト被験体から得られた血漿サンプルおよび/もしくは尿サンプル中のアセトアミノフェン(APAP)の量を決定する工程であって、ここで上記ヒト被験体は、治療薬物処置の必要がある、工程;
(b)上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドと、コントロールとを比較する工程;ならびに
(c)上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量が、上記コントロールと比較して上昇している場合、上記ヒト被験体を、有害薬物反応のリスクがあると同定する工程、
を包含する。
【0009】
第3の局面において、本発明は、ヒト被験体のための治療薬物の適切な投与量を決定するための方法を提供し、上記方法は、
(a)ヒト被験体にアセトアミノフェン(APAP)を投与した後に、ヒト被験体から得られた血漿サンプルおよび/もしくは尿サンプル中のアセトアミノフェン(APAP)の量を決定する工程であって、ここで上記ヒト被験体は、治療薬物処置の必要がある、工程;
(b)上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量と、コントロールとを比較する工程;ならびに
(c)上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量が、上記コントロールと比較して上昇している場合、上記ヒト被験体が、上記薬物の非標準的投与量を受けるべきであると決定する工程、
を包含する。
【0010】
第4の局面において、本発明は、機械読み取り可能保存媒体を提供し、上記媒体は、代謝産物測定デバイスに、上記第1の、第2の、および第3の実施形態の方法のうちのいずれかの実施形態の測定する工程、比較する工程、および同定する工程を実施させるための指示のセットを含む。
【0011】
本発明のこれら局面の各々の実施形態は、本明細書に提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、アセトアミノフェンの代謝を示すフローチャートである。
【図2】図2は、NAFLDを有するヒトにおいて肝臓のABCC3およびABCC4の発現を示すオートラジオグラフを提供する。
【図3】図3A〜Bは、通常の健康な患者由来の肝臓における毛細胆管側膜の非常に明瞭な縁部に位置している(A)が、NASH肝臓における毛細胆管から離れた膜小胞へと明らかに不鮮明になった(B)ABCC2タンパク質を示す。
【図4】図4は、4時間にわたる血漿中のAPAPおよびその主要な代謝産物の濃度を示す。
【図5】図5は、通常の健康なボランティア、脂肪症を有する患者、および脂肪性肝炎を有する患者の尿中のAPAPおよびAPAP代謝産物の濃度を示すグラフである。
【図6】図6A〜Cは、NASH(A)、肝炎(B)、および肝線維症(C)についての血漿APAP−Gluc分析のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(発明の詳細な説明)
引用される全ての参考文献は、その全体が本明細書に参考として援用される。本願において、別段示されなければ、利用される技術は、例えば、以下のいくつかの周知の参考文献のうちのいずれかに見いだされ得る:Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Sambrookら,1989,Cold Spring Harbor Laboratory Press)、Gene Expression Technology(Methods in Enzymology,Vol.185,edited by D.Goeddel,1991.Academic Press,San Diego,CA)、「Guide to Protein Purification」in Methods in Enzymology(M.P.Deutshcer,ed.,(1990)Academic Press,Inc.);PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications(Innisら,1990.Academic Press,San Diego,CA)、Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique,2nd Ed.(R.I.Freshney.1987.Liss,Inc. New York,NY)、Gene Transfer and Expression Protocols,pp.109−128,ed.E.J.Murray,The Humana Press Inc.,Clifton,N.J.)、およびAmbion 1998 Catalog(Ambion,Austin,TX)。
【0014】
本明細書で使用される場合、単数形「1つの、ある(a)」、「1つの、ある(an)」および「上記、この、その(the)」は、文脈が別のことを明らかに示さなければ、複数形を含む。「および、ならびに、そして(and)」は、本明細書で使用される場合、別のことを明らかに示さなければ、「もしくは、または、あるいは(or)」と交換可能に使用される。
【0015】
第1の局面において、本発明は、ヒトにおける肝障害を診断するための方法を提供し、上記方法は、
(a)上記ヒト被験体にアセトアミノフェン(APAP)を投与した後に、ヒト被験体から得られた血漿サンプルおよび/もしくは尿サンプル中のAPAP−グルクロニドの量を決定する工程であって、ここで上記ヒト被験体は、肝障害のリスクがある、工程;
(b)上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量と、コントロールとを比較する工程;ならびに
(c)上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量が、上記コントロールと比較して上昇している場合、上記ヒト被験体を、肝障害を有すると同定する工程、
を包含する。
【0016】
この第1の局面の好ましい実施形態において、上記方法は、
(a)アセトアミノフェン(APAP)を、肝障害のリスクのあるヒト被験体に投与する工程;
(b)上記ヒト被験体から血漿サンプルおよび/もしくは尿サンプルを得る工程;
(c)上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量を測定する工程;
(d)上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量と、コントロールとを比較する工程;ならびに
(e)上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量が、上記コントロールと比較して上昇している場合、上記ヒト被験体を、肝障害を有すると同定する工程、
を包含する。
【0017】
本発明者は、本発明の方法が、種々の肝障害を有するヒト患者を同定するために非侵襲性の血液試験もしくは尿試験を提供することを実証した。
【0018】
上記ヒト被験体は、肝障害のリスクがある任意のヒト(青年期のおよび成人のヒト被験体を含む)であり得る。血漿サンプルおよび/もしくは尿サンプルは、当業者に周知の標準的技術によって、上記ヒト被験体から得られる。
【0019】
本明細書で使用される場合、用語「肝障害」とは、本明細書で実証される場合、アセトアミノフェン代謝の改変を示すヒトにおける任意の肝臓疾患を含む。上記肝臓疾患としては、肝線維症、肝炎、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、アルコール性脂肪性肝炎、毒素誘導性脂肪性肝炎、原発性硬化性胆管炎、肝硬変、および敗血症が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
本明細書で使用される場合、「アセトアミノフェン」(APAP)は、図1に示される構造の広く公知の鎮痛解熱剤およびその処方物である。APAPの任意の適切な投与量は、上記ヒト被験体に投与され得る。APAPの1より多い投与量が、上記ヒト被験体に投与され得る一方で、1000mgというその示された最大用量は、代謝産物形成の分析をなお容易にしつつ、毒性のリスクを最小限にすることが好ましい。本発明の全ての局面および実施形態のうちの1つの好ましい実施形態において、250mg〜1000mgの間のAPAPの総投与量は、上記ヒト被験体に投与される。1つの好ましい実施形態において、上記ヒト被験体は、上記試験前の少なくとも24時間にわたっていかなるAPAPをも摂取しない。本発明の全ての局面および実施形態のうちの1つの好ましい実施形態において、250mg〜1000mgの間のAPAPの総投与量は、上記ヒト被験体に投与される。APAPの任意の適切な処方物が投与され得る。上記処方物としては、液体経口投与形態および固体経口投与形態が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
本明細書で使用される場合、「APAP−グルクロニド」とは、図1に示される構造を有するAPAPの1つの特定の代謝産物をいう。
【0022】
本明細書で使用される場合、「コントロール」は、健康な肝臓を有する上記ヒト被験体において測定される、APAP−グルクロニドの量を正規化するための任意の手段である。1つの好ましい実施形態において、上記コントロールは、通常の個体もしくは集団(すなわち、目的の肝障害に罹患していないことが分かっている)から予め規定されるAPAP−グルクロニドレベルを含む。
【0023】
本明細書で使用される場合、コントロールと比較して「上昇している」量のAPAP−グルクロニドは、コントロールを上回る任意の増大であり得、好ましくは、統計学的に有意な増大である(例えば、p≦0.05)。種々の好ましい実施形態において、APAP−グルクロニドの上昇したレベルは、適切なコントロールと比較した、上記血液サンプルもしくは尿サンプル中のAPAP−グルクロニドの量において、1.2倍、1.4倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、もしくはより大きな差異がある。
【0024】
APAP−グルクロニドの検出のためにAPAP投与後の任意の適切な時間で得られた血漿サンプルおよび/もしくは尿サンプルは、本発明の全ての局面および実施形態の方法において使用され得る。本発明の全ての局面および実施形態のうちの1つの好ましい実施形態において、APAP−グルクロニドの量は、血漿サンプル中で測定され、上記測定は、APAP投与の1分後〜180分後の間;より好ましくは、APAP投与の1分後〜120分後、および皿により好ましくは、APAP投与の1分後〜60分後で行われる。種々のさらに好ましい実施形態において、上記測定は、10分〜180分の間;30分〜180分の間;45分〜180分の間;60分〜180分の間;10分〜120分の間;30分〜120分の間;45分〜120分の間;10分〜60分の間;30分〜60分の間;および45分〜60分の間で行われる。本発明の全ての局面および実施形態のうちの別の好ましい実施形態において、APAP−グルクロニドの量は、尿サンプル中に測定され、ここで測定は、APAP投与の120分後〜480分後の間;より好ましくは、APAP投与の120分後〜360分後の間;およびさらにより好ましくは、APAP投与後の120分後〜300分後の間、またはAPAP投与の120分後〜240分後の間で行われる。種々のさらに好ましい実施形態において、上記測定は、180分〜480分の間;180分〜360分の間;180分〜300分の間;180分〜240分の間;240分〜480分の間;240分〜360分の間;240分〜300分の間;300分〜480分の間;300分〜360分の間;360分〜480分の間で行われる。種々のさらに好ましい実施形態において、1回、2回、3回、4回以上の測定が、1以上の時点でのコントロールと比較して、例えば、APAP−グルクロニドにおける増大を評価するために行われ得る。上記方法は、上記血漿および/もしくは尿中の他の分析物(APAP、APAP−サルフェート、APAP−NACおよびAPAP−CG/CYSが挙げられるが、これらに限定されない)の検出および/もしくは測定をさらに含み得る。
【0025】
任意の適切な加工処理工程は、APAP−グルクロニド測定のための上記血漿サンプルおよび/もしくは尿サンプルを調製するために行われ得る。1つの例示的実施形態において、タンパク質は、標準的な技術を使用して、上記血漿サンプルおよび/もしくは尿サンプルから沈殿させられ、遠心分離される;次いで、得られた上清は、本発明の方法の測定工程のために使用される。
【0026】
上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量の測定は、分析物測定のための任意の適切な技術(クロマトグラフィー(例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)、GC−質量分析法(GC−MS)、薄層クロマトグラフィー(TLC)など、核磁気共鳴法(NMR)、分光学電気科学技術、キャピラリー電気泳動、および免疫学的技術が挙げられるが、これらに限定されない)によって行われ得る。
【0027】
上記実施形態のうちのいずれかのさらに好ましい実施形態において、上記測定工程、比較工程、および同定工程は、自動化されている;この実施形態において、これら工程は、自動化機器(例えば、上記技術のうちのいずれかを行うためのデバイス)を使用して行われ得る。このようなデバイスは、上記デバイスに上記測定工程、比較工程、および同定工程を行わせるための指示を含む機械読み取り可能保存媒体を組み込む。
【0028】
ヒト試験被験体から得られた血漿サンプルおよび/もしくは尿サンプルは、APAP−GLUCを測定する前に貯蔵され得る;適切な貯蔵条件は、当業者に公知である。例えば、サンプルは、所望の長さの貯蔵に適切な温度で冷凍され得;一実施形態において、上記サンプルは、−80℃において最大1年まで安定である。
【0029】
この第1の局面の1つの好ましい実施形態において、上記ヒト被験体は、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)のリスクがある。非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)は、肝臓脂肪症から非アルコール性脂肪肝炎(NASH)として公知の脂肪肝肝炎(NAFLDの最も重篤な形態)の形態までの範囲に及ぶ、ある範囲の病的な病変を含む。ヒト生検においてNASHの診断とは独立して関係づけられる組織学的特徴としては、肝臓脂肪症、肝細胞の膨張(ballooning)、肝葉の炎症、マロリーヒアリン(Mallory’s hyaline)および類洞周囲線維症(perisinusoidal fibrosis)が挙げられる。さらに、NASHは、肝移植を必要とする肝硬変へと進行する可能性を有する。
【0030】
本明細書で開示されるように、本発明者は、ヒトNASH患者において、上記ABCC2トランスポーターが、毛細胆管側膜に正確には位置しないが、代わりに、NASH肝臓中の毛細胆管から離れた膜小胞に位置することが発見された。上記ABCC2トランスポーターのこの異常な位置づけは、Lickteigら(2007)に記載されるラットMCDモデルにおいて同定されなかった。本発明者はまた、肝臓のABCC3およびABCC4の発現が、ヒトNASH患者においてアップレギュレートされていることを発見した。いかなる作用機構にも束縛されないが、本発明者は、膜小胞へのABCC2の改変された肝臓の行き来が、APAP−GLUCの性質を改変して、ABCC2を介する胆汁クリアランスではなく、ABCC3および/もしくはABCC4を介した血漿保持(および次いで、尿への排出)に好都合にすると考える。
【0031】
この実施形態の方法は、NAFLDに罹患している被験体を階層分類し、NASHに罹患しているヒトを、肝臓脂肪症を有するヒトから区別するように働き得る。NASHを診断するための現在の方法は、肝臓生検に依存している。従って、NASHを診断するための非侵襲的方法が、臨床的に価値があり、NASHの処置(積極的な体重減少プログラムおよび治療薬物処置が挙げられるが、これらに限定されない)のより迅速な着手を可能にする。
【0032】
好ましい実施形態において、NASHのリスクがある上記ヒト被験体は、非アルコール性脂肪性肝疾患、脂肪症、代謝症候群、肥満、脂質異常症、インスリン抵抗性、心血管疾患、および糖尿病のうちの1つ以上に罹患する。
【0033】
本発明の第1の局面の別の好ましい実施形態において、上記ヒト被験体は、肝線維症のリスクがある。肝線維症は、肝臓において過剰な結合組織を作り上げる、過度に豊富な創傷治癒である。細胞外マトリクスは、過剰生産されるか、不十分にしか分解されないか、もしくはその両方のいずれかである。線維症自体は、症状を引き起こさないが、門脈圧亢進(瘢痕が、肝臓を通る血流をゆがめる)もしくは肝硬変(壊れた肝細胞を適切に置換できないことにより、肝機能不全が生じる)をもたらし得る。肝線維症を診断するための現在の方法は、肝臓生検に依存している。従って、肝線維症を診断するための非侵襲的方法は、臨床的に価値がある。好ましい実施形態において、肝線維症のリスクがある上記ヒト被験体は、α−アンチトリプシン欠損、ウィルソン病、フルクトース血症、ガラクトース血症、III型、IV型、VI型、IX型、およびX型の糖原病、ヘモクロマトーシス、ゴーシェ病、ツェルベルガー症候群、チロシン血症、細菌感染症、ウイルス感染症(例えば、B型肝炎ウイルス(HBV)もしくはC型肝炎ウイルス(HCV))、寄生生物感染症、バッド・キアリ症候群、アルコール依存症、薬物嗜癖、心不全、肝静脈閉塞性疾患、胆道閉鎖症、ならびに門脈血栓症からなる群より選択される肝線維症に罹りやすくする1つ以上の状態に罹患しているか、もしくは以前に罹患したことがある。
【0034】
以下でより詳細に開示されるように、本発明者は、肝線維症を有するヒト被験体が、肝線維症を有さないヒト被験体より、血漿中および尿中に増大した量のAPAP−GLUCを有することを発見した。本発明の方法は、肝線維症のための処置(肝損傷の基礎を除去すること(例えば、HBCもしくはHCVを排除するための抗ウイルス治療によって);アルコール性肝疾患において禁酒すること;重金属(例えば、ヘモクロマトーシスおよびウィルソン病において、それぞれ、鉄もしくは銅)を除去すること;またはたん同閉鎖症において胆管を減圧することが挙げられるが、これらに限定されない)のより迅速な開始を可能にする。
【0035】
肝線維症は、一般に、組織学的に軽度(血管の周りの最小限の瘢痕形成)、中程度(肝臓欠陥から外に向かって拡がる瘢痕形成)、もしくは重度(瘢痕形成が欠陥の間にまたがる)と階層化される。好ましい実施形態において、上記ヒト被験体は、上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量が、上記コントロールと比較して上昇している場合、重度の肝線維症を有すると同定される。さらに好ましい実施形態において、上記ヒト被験体は、NASHに罹患している。
【0036】
本発明の第1の局面の別の好ましい実施形態において、上記ヒト被験体は、肝炎(びまん性もしくは斑点状の壊死によって特徴付けられる肝臓の炎症)のリスクがある。主な原因は、特異的肝炎ウイルス、アルコール、および薬物である。従って、好ましい実施形態において、上記ヒト被験体は、アルコール依存症、薬物嗜癖、細菌感染症、ウイルス感染症(例えば、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、D型肝炎ウイルス、および/もしくはE型肝炎ウイルス)、真菌感染症、原生動物感染症、蠕虫感染症、スピロヘータ感染症、サルコイドーシス、潰瘍性大腸炎、およびクローン病からなる群より選択される1つ以上の障害に罹患しているか、もしくは以前に罹患したことがある。
【0037】
以下でより詳細に開示されるように、本発明者は、肝臓の炎症(肝炎)を有するヒト被験体が、肝線維症を有さないヒト被験体より、血漿中および尿中において増大した量のAPAP−GLUCを有することを発見した。肝臓の炎症は、一般に、軽度(炎症の病巣が2個より少ない)、中程度(炎症の病巣が2〜4個)、もしくは重度(炎症の病巣が4個より多い)として組織学的に階層化される。好ましい実施形態において、上記ヒト被験体は、上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量が、上記コントロールと比較して上昇している場合、中程度もしくは重度の肝臓の炎症を有すると同定する。最も好ましい実施形態において、上記ヒト被験体は、上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量が、上記コントロールと比較して上昇している場合、重度の肝臓の炎症を有すると同定される。さらに好ましい実施形態において、上記ヒト被験体は、NASHおよび/もしくは肝線維症に罹患している。
【0038】
第2の局面において、本発明は、有害薬物反応のリスクがあるヒト被験体を同定するための方法を提供し、上記方法は、
(a)上記ヒト被験体にアセトアミノフェン(APAP)が投与された後に、ヒト被験体から得られた血漿サンプルおよび/もしくは尿サンプルにおけるAPAP−グルクロニドの量を決定する工程であって、ここで上記ヒト被験体は、治療薬物処置の必要がある、工程;
(b)上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドと、コントロールとを比較する工程;ならびに
(c)上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量が、上記コントロールと比較して上昇している場合、上記ヒト被験体を、有害薬物反応のリスクがあると同定する工程、
を包含する。
【0039】
この第2の局面の好ましい実施形態において、上記方法は、
(a)アセトアミノフェン(APAP)を、治療薬物書値の必要があるヒト被験体に投与する工程;
(b)血漿サンプルおよび/もしくは尿サンプルを、上記ヒト被験体から得る工程;
(c)上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量を測定する工程;
(d)上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量と、コントロールとを比較する工程;ならびに
(e)上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量が、上記コントロールと比較して上昇している場合、上記ヒト被験体を、有害薬物反応のリスクがあると同定する工程、
を包含する。
【0040】
第3の局面において、本発明は、ヒト被験体のために治療薬物の適切な投与量を決定するための方法を提供し、上記方法は、
(a)上記ヒト被験体にアセトアミノフェン(APAP)を投与した後に、ヒト被験体から得られた血漿サンプルおよび/もしくは尿サンプルにおけるAPAP−グルクロニドの量を決定する工程であって、ここで上記ヒト被験体は、治療薬物処置が必要である、工程;
(b)上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量を、コントロールと比較する工程;ならびに
(c)上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量が、上記コントロールと比較して上昇している場合、上記ヒト被験体が、上記薬物の非標準的投与量を受けるべきであると決定する工程、
を包含する。
【0041】
この第3の局面の好ましい実施形態において、上記方法は、
(a)アセトアミノフェン(APAP)を、治療薬物処置の必要があるヒト被験体に投与する工程;
(b)血漿サンプルおよび/もしくは尿サンプルを、上記ヒト被験体から得る工程;
(c)上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量を測定する工程;
(d)上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量と、コントロールとを比較する工程;ならびに
(e)上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量が、上記コントロールと比較して上昇している場合、上記ヒト被験体を、上記薬物の非標準的投与量を受けるべきであると同定する工程、
を包含する。
【0042】
本発明の第1の、第2の、および第3の局面の間での全ての一般的用語は、同じ定義を共有する;第1の局面の全ての実施形態は、文脈が別段明示しない限り、本発明の第2の局面および第3の局面に適用可能である。
【0043】
本明細書で開示されるように、本発明者は、ヒトNASH患者において、上記ABCC2トランスポーターが、胆管側膜に正確には位置していないが、代わりに、NASH肝臓における毛細胆管から離れた膜小胞に位置していることを発見した。上記ABCC2トランスポーターのこの異常な位置づけは、Lickteigら(2007)において記載されたラットMCDモデルでは同定されなかった。本発明者はまた、肝臓のABCC3およびABCC4の発現が、ヒトNASH患者においてアップレギュレートされていることを発見した。いかなる作用機構によっても拘束されないが、本発明者は、膜小胞へのABCC2の改変された肝臓の行き来が、APAP−GLUCの性質を改変して、ABCC2を介する胆汁クリアランスではなく、ABCC3および/もしくはABCC4を介した血漿保持(および次いで、尿への排出)に好都合にすると考える。従って、APAP代謝産物を、胆汁から血漿/尿へ排出することにおける比例したシフトは、薬物排出の経路に影響を及ぼし得る排出系トランスポーター発現および/もしくは細胞での位置づけの改変を示し、従って、排出系トランスポーター発現および/もしくは位置づけにおける改変に起因して、有害薬物反応のリスクがあるそれらヒト被験体を同定するための方法を提供する。
【0044】
本明細書で使用される場合、「有害薬物反応のリスクがある」とは、上記ヒト被験体が、その受ける薬物と関連した1つより有害な反応を経験する可能性が高いことを意味する。このような考えられる有害反応としては、任意のこのような有害反応、任意の所定の薬物に関して製品文献に列挙されたもの、および特異体質による有害反応の両方が挙げられる。
【0045】
本明細書で使用される場合、「薬物の非標準的投与量」とは、主治医が、上記ヒト被験体に投与されるべき薬物の投与量を変更して、有害薬物反応の増大したリスクを考慮に入れるべきであることを意味する。
【0046】
本発明の第2および第3の局面の種々の好ましい実施形態において、治療薬物処置が必要な上記ヒト被験体は、NASH、肝線維症、および/もしくは肝臓の炎症のリスクがあるか、またはそれらに罹患している。これら障害の各々のリスクがあるヒト被験体は、本発明の第1の局面において、詳細に開示されている。別の好ましい実施形態において、上記ヒト被験体は、ABCC2、ABCC3、および/もしくはABCC4トランスポーターの発現および/もしくは位置づけにおける改変をもたらす任意の障害に罹患している。1つの好ましい実施形態において、上記障害は、上記ABCC2トランスポーターの異常な位置づけをもたらす。
【0047】
種々の好ましい実施形態において、上記治療薬物は、その代謝産物が、上記ABCC2、ABCC3、および/もしくはABCC4トランスポーターを介して肝臓から輸送されるものである。種々の非限定的な例において、このような治療薬物としては、ドキソルビシン、シスプラチン、エトポシド(ectoposide)、メトトレキサート、モルフィン、エゼチミブ(ezeitimibe)、グルクロン酸抱合された抱合化薬物、グルタチオン抱合化薬物、およびサルフェート抱合化薬物が挙げられる。
【0048】
APAPの任意の適切な投与量が、上記ヒト被験体に投与され得る。APAPの1より多い投与量が、上記ヒト被験体に投与され得る一方で、好ましい実施形態において、単一の投与量(disage)が、代謝産物形成の分析を容易にするために投与される。1つの好ましい実施形態において、上記ヒト被験体は、上記試験の少なくとも24時間前にわたっていかなるAPAPをも摂取しない。本発明の全ての局面および実施形態のさらに好ましい実施形態において、250mg〜1000mgの間のAPAPの総投与量が、上記ヒト被験体に投与される。APAPの任意の適切な処方物が、投与され得る。上記処方物としては、液体経口投与形態および固体経口投与形態が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
APAP−グルクロニドの検出のためにAPAP投与後の任意の適切な時点で得られる血漿サンプルおよび/もしくは尿サンプルは、本発明の全ての局面および実施形態の方法において使用され得る。本発明の全ての局面および実施形態のうちの1つの好ましい実施形態において、APAP−グルクロニドの量は、血漿サンプルにおいて測定され、上記測定は、APAP投与の1後〜240分後の間;より好ましくは、APAP投与の1分後〜180分後、およびさらにより好ましくは、APAP投与の1分後〜120分後の間もしくは1分後〜60分後の間に行われる。本発明の全ての局面および実施形態のうちの別の好ましい実施形態において、APAP−グルクロニドの量は、尿サンプル中において測定され、ここで測定は、APAP投与の120分後〜480分後の間;より好ましくは、APAP投与の120分後〜360分後;およびさらにより好ましくは、APAP投与の120分後〜300分後もしくはAPAP投与の120分後〜240分後の間に行われる。
【0050】
任意の適切な加工処理工程は、APAP−グルクロニド測定のために、上記血漿サンプルおよび/もしくは尿サンプルを調製するために行われ得る。1つの例示的実施形態において、タンパク質は、標準的技術を用いて、上記血漿サンプルおよび/もしくは尿サンプルから沈殿させられ、遠心分離される;次いで、得られた上清は、本発明の方法の測定工程のために使用される。
【0051】
上記血漿サンプルおよび上記尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量の測定は、分析物測定のための任意の適切な技術(クロマトグラフィー(例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)、GC−質病分析法(GC−MS)、薄層クロマトグラフィー(TLC)など)、核磁気共鳴法(NMR)、分光的電気化学技術、キャピラリー電気泳動、および免疫学的技術が挙げられるが、これらに限定されない)によって行われ得る。
【0052】
本明細書で使用される場合、「コントロール」とは、健康な肝臓を有する上記ヒト被験体において測定されるAPAP−グルクロニドの量を正規化するための任意の手段である。1つの好ましい実施形態において、上記コントロールは、正常な個体もしくは集団(すなわち、目的の肝障害に罹患していなことが公知)からの所定のAPAP−グルクロニドレベルを含む。
【0053】
本明細書で使用される場合、コントロールと比較したAPAP−グルクロニドの量の「上昇」は、コントロールを上回る任意の増大であり得、好ましくは、統計学的に有意な増大(例えば、p≦0.05)である。種々の好ましい実施形態において、上記上昇したレベルのAPAP−グルクロニドは、適切なコントロールと比較して、血液サンプルもしくは尿サンプル中のAPAP−グルクロニドの量において、1.2倍、1.4倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍以上の差異である。
【0054】
上記実施形態のうちのいずれかのさらに好ましい実施形態において、上記測定する工程、比較する工程、および同定する工程は、自動化されている;この実施形態において、これら工程は、自動化機器(例えば、上記技術のうちのいずれかを行うためのデバイス)を使用して行われ得る。このようなデバイスは、上記デバイスに上記測定する工程、比較する工程、および同定する工程を行わせるための指示を含む機械読み取り可能保存媒体を組み込む。
【0055】
第4の局面において、本発明は、代謝産物測定デバイスに、本発明の第1の、第2の、および第3の局面の方法のいずれかの実施形態の測定する工程、比較する工程、および同定する工程を行わせるための指示のセットを含む機械読み取り可能保存媒体を提供する。本明細書で使用される場合、用語「コンピューター読み取り可能媒体」とは、CPUによって読み取り可能な磁性ディスク、光学ディスク、有機メモリ、および任意の他の揮発性(例えば、ランダムアクセスメモリ(「RAM」))もしくは非揮発性(例えば、リードオンリーメモリ(「ROM」))の大容量記憶システムを含む。上記コンピューター読み取り媒体は、協同するもしくは相互連結されるコンピューター読み取り可能媒体を含み、これらは、もっぱら上記プロセシングシステム上に存在するか、または上記プロセシングシステムに対してローカルもしくは遠隔であり得る複数の相互連結プロセシングシステムの中で配置される。本明細書で使用される場合、「代謝産物測定デバイス」は、本発明を行うための、上記代謝産物測定を行い得るデバイスを意味する。上記デバイスとしては、クロマトグラフィーデバイス(例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)デバイス、ガスクロマトグラフィー(GC)デバイス、GC−質量分析(GC−MS)デバイス、薄層クロマトグラフィー(TLC)デバイスなど)、核磁気共鳴(NMR)デバイス、分光学デバイス、電気化学デバイス、免疫学的検出デバイス、およびキャピラロー電気泳動デバイスが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0056】
(実施例1:NASHを有すると診断されたヒトにおける増大した肝臓の排出系トランスポーター発現)
NAFLDに罹患している患者が、アセトアミノフェンの変化した代謝および性質を示すか否かを決定するために、研究を行った。正常肝臓、脂肪症、脂肪肝を有するNASH、および末期のNASH(原因不明の肝硬変)を有する患者に由来するヒト肝臓サンプルを、NIHが資金援助した肝臓組織調達および分配システム(LTPADS)から得た。
【0057】
イムノブロットタンパク質分析。全細胞溶解物(20μg/ウェル)を、7.5%ゲル上でのSDS−PAGEによって分離し、30mAの定電流で一晩PVDF膜に転写した。全ての膜を、Tween 20を有するリン酸緩衝化生理食塩水(PBST)中で作製した5% 無脂肪乾燥ミルクにおいて、室温で1時間ブロックした。次いで、膜を、ABCC3、ABCC4(Abcam,Cambridge,MA)モノクローナル抗体、もしくはGAPDH(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)ポリクローナル抗体のいずれかからなる一次抗体溶液(PBST−ミルク中で1:2000希釈)中で、一晩4℃でインキュベートした。一晩インキュベートした後、膜を、室温で1時間にわたって、HRP結合体化2次抗体(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)溶液中でインキュベートした。抗体結合を、製造業者のプロトコルに従って、ECL Advance Western Blotting Detection Kit(GE Healthcare Life Sciences,Piscataway,NJ)を使用して検出した。
【0058】
図2は、NAFLDを有するヒトにおける肝臓のABCC3およびABCC4の発現を示す。正常肝臓と比較した場合、脂肪症を有する肝臓においてABCC3およびABCC4発現の変化は、ほとんどなかった;しかし、いずれかのステージのNASHを有するヒト肝臓において、タンパク質発現の劇的な増大が存在する。ヒトにおけるこれらトランスポーターの発現は、大きな個体間バリエーションを有すると以前は考えられていたのに対して、上記バリエーションが大部分において疾患状態に起因し得るようである。
【0059】
(実施例2:ABCC2の細胞位置づけは、NASHを有すると診断されたヒト肝臓において変化する)
ABCC2の機能を調節する手段としての細胞の変化した行き来は、種々の条件(例えば、薬物誘導性の毒性および妊娠)において十分に記録されてきた。ABCC2活性の要件は、胆管側膜における適切な位置づけである。上記ABCC2トランスポーターを、上記胆管側膜から離れて膜小胞へと動くことは、上記細胞が、タンパク質分解/デノボ合成の比較的ゆっくりとしたプロセスを待つ必要なしに、輸送活性を迅速に調節することを可能にする進化による利点であり得る。
【0060】
免疫組織化学的染色。完結には、ホルマリン固定パラフィン包埋ヒト肝臓サンプルに由来する組織切片を、キシレン中で脱パラフィンし、エタノール中で再水和し、その後、クエン酸緩衝液(pH6.0)中で抗原回復した。内因性ペルオキシダーゼ活性を、20分間にわたってメタノール中0.3%(v/v) Hでブロックした。全てのスライドを、試薬インキュベーションを保持するために、Shandon SequenzaTM Slide Racks(Thermo−Scientific,Waltham,MA)中に置いた。バックグラウンド染色を、Background SniperTM(Biocare Medical,Concord,CA)において全てのサンプルを10分間にわたってインキュベートすることによってブロックした。次いで、サンプルを、マウスモノクローナルMRP2抗体中で、一晩4℃においてインキュベートした。翌日、サンプルを、結合した抗体を検出するために各々15分間にわたって、マウスプローブおよびHRPポリマー(Biocare Medical,Concord,CA)中でインキュベートした。発色を、BetazoidTM DAB(Biocare Medical,Concord,CA)中で3分間にわたってインキュベートし、続いて、脱イオン水でクエンチすることによって行った。全てのサンプルを、新たに濾過したヘマトキシリン溶液(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)で対比染色した。全てのスライドを、Nikon EclipseTM E4000顕微鏡およびSony ExwaveTM DXC−390カメラで画像化した。
【0061】
図3に示されるように、ABCC2タンパク質を、正常で健康な患者に由来する肝臓における胆管側膜の非常に明瞭な縁部に位置するが、NASH肝臓における毛細胆管から離れて膜小胞へと明らかに不鮮明である。その活性部位から離れてABCC2を行き来するこの機構は、タンパク質発現を維持しながら、上記肝細胞が、重要な内因性成分を細胞ストレスの間に効率的に調節しかつ保存することを可能にする。膜小胞へのABCC2の変化した細胞の行き来は、胆汁クリアランスよりむしろ、血漿保持に好都合であるように、APAP−GLUCの性質を変化させる。
【0062】
(実施例3:アセトアミノフェン−グルクロニドレベルは、脂肪症を有する患者においてより、NASHを有する小児患者の血漿および尿中で高い)
その疾患状態が生検で確認された小児患者において、研究を行った。24名の小児患者(12〜18歳)は、混乱させる因子(例えば、アルコール消費、違法薬物使用)および幼少期の肥満の増大した罹患率がないと推定されることに起因して、予備研究のために望ましかった。逆に言えば、小児患者は、単に年齢に起因して起こり得る本当の肝臓損傷の量が限定される。ここで小児患者は、バルーン形成変性を発症できず、脂肪蓄積、炎症、および線維症に限定される。
【0063】
高速液体クロマトグラフィー分析。血漿サンプルおよび尿サンプル中のAPAPおよびその代謝産物を、以前に記載された方法(Howieら,1977a;Chenら,2000;Slittら,2003d)に基づく高速液体クロマトグラフィー分析によって定量した。APAPおよびその代謝産物を、PhenomenexTM Security Guard Column Guardを備えたZorbmaxTM SB−C18逆相4.6mm×25cmカラムを使用して分離し、12.5% HPLCグレードのメタノール、1% 酢酸、および86.5% 水からなる移動相を使用して溶出し、1.2mL/分の流速において均一濃度で実施した。代謝産物の溶出を、波長254nmでモニターした。APAPおよびその代謝産物の保持時間を、確実な標準物質のものと比較することによって決定した。このHPLC法は、APAPのシステイニルグリシンおよびシステイン結合体を分離しないので、これらは、APAP−CG/CYSとして一緒に定量した。サンプルを、128nm溶媒モジュールおよび166nm検出器を備えたBeckman System GoldTM HPLCシステム(Beckman Coulter,Inc.,Fullerton,CA)を使用して分析した。定量を、積分したピーク面積に基づいた。APAPおよびその代謝産物の濃度を、APAP標準曲線を使用して計算した。なぜなら、APAPおよびその抱合化代謝産物のモル吸光係数は、ほぼ同じであるからである(Howieら,1977b)。血漿サンプルおよび尿サンプル中のタンパク質を沈潜させるために、これらサンプルを、氷冷メタノールでそれぞれ、1:2、1:2および1:3に希釈し、30分間にわたって4℃において4,000×gで遠心分離した。得られた上清を集め、HPLC分析の前に、移動相において1:3(尿)もしくは1:2(血漿)で希釈した。
【0064】
図4は、APAP投与の1時間後の血漿中のAPAPおよびその主要な代謝産物の濃度を示す。平均および中央値データを、表1に示す。
【0065】
【表1】

脂肪肝炎を有する患者の血漿中のAPAP−GLUCの濃度は、測定した全ての時点において、単純な脂肪症を有する患者においてより有意に高かった。さらに、図5は、正常で健康なボランティア、脂肪症を有する患者、および脂肪性肝炎を有する患者の尿中の、APAPおよびAPAP代謝産物の濃度を示す。APAP−GLUCのレベルにおける差異は、尿生成および膀胱が空になるという制約、ならびに肝臓代謝およびその後の腎臓への分配の要件に起因して、4時間までNASHを有する患者と、他の群を有する患者との間に有意差はない。これらデータは、非侵襲性の血液試験および尿試験を開発して、NASHを有する患者と、脂肪症を単に有する患者とを区別する可能性を明らかに示す。
【0066】
(実施例4.アセトアミノフェン−グルクロニドレベルは、肝線維症を有さない患者においてより、肝線維症を有する小児患者の血漿中において高い)
HPLC測定および他の実験の詳細は、実施例3に記載されるとおりである;データは、図6に示される。肝線維症を、軽度(血管の周りの最小の瘢痕形成)、中程度(肝臓血管から外へ拡がる瘢痕形成)、もしくは重度(血管の間にわたる瘢痕形成)として組織学的に特徴付けた。
【0067】
(実施例5.アセトアミノフェン−グルクロニドレベルは、肝臓の炎症を有さない患者におけるより、肝臓の炎症を有する小児患者の血漿中において高い) HPLC測定および他の実験の詳細は、実施例3に記載されるとおりである;データは、図6に示される。肝臓の炎症を、軽度(炎症の病巣が2個より少ない)、中程度(炎症の病巣が2〜4個)、もしくは重度(炎症の病巣が4個より多い)と組織学的に特徴付けた。
【図3A】

【図3B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトにおける肝障害を診断するための方法であって、該方法は、
(a)ヒト被験体にアセトアミノフェン(APAP)を投与した後に、該ヒト被験体から得られた血漿サンプルおよび/もしくは尿サンプル中のアセトアミノフェン(APAP)−グルクロニドの量を決定する工程であって、該ヒト被験体は、肝障害のリスクがある、工程;
(b)該血漿サンプルおよび該尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量と、コントロールとを比較する工程;ならびに
(c)該血漿サンプルおよび該尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量が、該コントロールと比較して上昇している場合、該ヒト被験体を、肝障害を有すると同定する工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記肝障害のリスクがあるヒト被験体は、代謝症候群、肥満、脂質異常症、インスリン抵抗性、および糖尿病のうちの1つ以上に罹患している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒト被験体は、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)のリスクがある、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記NASHのリスクがあるヒト被験体は、非アルコール性脂肪性肝疾患、代謝症候群、肥満、脂質異常症、インスリン抵抗性、および糖尿病のうちの1つ以上に罹患している、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒト被験体は、肝線維症のリスクがある、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒト被験体は、α−アンチトリプシン欠損、ウィルソン病、フルクトース血症、ガラクトース血症、III型、IV型、VI型、IX型、およびX型の糖原病、ヘモクロマトーシス、ゴーシェ病、ツェルベルガー症候群、チロシン血症、細菌感染症、ウイルス感染症、寄生生物感染症、バッド・キアリ症候群、アルコール依存症、薬物嗜癖、心不全、肝静脈閉塞性疾患、および門脈血栓症からなる群より選択される1つ以上の状態に罹患しているか、または以前に罹患したことがある、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒト被験体は、肝炎のリスクがある、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒト被験体は、アルコール依存症、薬物嗜癖、細菌感染症、ウイルス感染症、真菌感染症、原生動物感染症、蠕虫感染症、スピロヘータ感染症、サルコイドーシス、潰瘍性大腸炎、およびクローン病からなる群より選択される1つ以上の障害に罹患しているか、または以前に罹患したことがある、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記APAP−グルクロニドの量は、血漿サンプル中で測定され、測定は、APAP投与の1分後〜180分後の間に行われる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記APAP−グルクロニドの量は、尿サンプル中で測定され、測定は、APAP投与の120分後〜480分後の間に行われる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
250mg〜1000mgの間のAPAPが、前記ヒト被験体に投与される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
有害薬物反応のリスクがあるヒト被験体を同定するための方法であって、該方法は、
(a)ヒト被験体にアセトアミノフェン(APAP)を投与した後に、該ヒト被験体から得られた血漿サンプルおよび/もしくは尿サンプル中のアセトアミノフェン(APAP)の量を決定する工程であって、ここで該ヒト被験体は、治療薬物処置の必要がある、工程;
(b)該血漿サンプルおよび該尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量と、コントロールとを比較する工程;ならびに
(c)該血漿サンプルおよび該尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量が、該コントロールと比較して上昇している場合、該ヒト被験体を、有害薬物反応のリスクがあると同定する工程、
を包含する、方法。
【請求項13】
ヒト被験体のために治療薬物の適切な投与量を決定するための方法であって、該方法は、
(a)ヒト被験体にアセトアミノフェン(APAP)を投与した後に、該ヒト被験体から得られた血漿サンプルおよび/もしくは尿サンプル中のアセトアミノフェン(APAP)の量を決定する工程であって、ここで該ヒト被験体は、治療薬物処置の必要がある、工程;
(b)該血漿サンプルおよび該尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量と、コントールとを比較する工程;ならびに
(c)該血漿サンプルおよび該尿サンプルのうちの一方もしくは両方におけるAPAP−グルクロニドの量が、該コントロールと比較して上昇している場合、該ヒト被験体が、該薬物の非標準的投与量を受けるべきであると決定する工程、
を包含する、方法。
【請求項14】
前記ヒト被験体は、ドキソルビシン、シスプラチン、エトポシド、メトトレキサート、グルクロン酸抱合された抱合化薬物、グルタチオン抱合化薬物、およびサルフェート抱合化薬物からなる群より選択される1種以上の治療薬物での処置の必要がある、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記APAP−グルクロニドの量は、血液サンプル中で測定され、測定は、APAP投与の1分後〜180分後の間に行われる、請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記APAP−グルクロニドの量は、尿サンプル中で測定され、測定は、APAP投与の120分後〜480分後の間に行われる、請求項12〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
250mg〜1000mgの間のAPAPが、前記ヒト被験体に投与される、請求項12〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記測定する工程、比較する工程、および同定する工程は、自動化されている、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
代謝産物測定デバイスに、請求項1〜18のいずれか1項に記載の測定する工程、比較する工程、および同定する工程を行わせるための指示のセットを含む、機械読み取り可能保存媒体。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−504629(P2012−504629A)
【公表日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530152(P2011−530152)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【国際出願番号】PCT/US2009/058913
【国際公開番号】WO2010/039754
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(511081428)ザ アリゾナ ボード オブ リージェンツ, オン ビハーフ オブ ザ ユニバーシティー オブ アリゾナ (1)
【Fターム(参考)】