説明

育苗箱水稲用粒剤及びその製造方法

【課題】高温下での製造加工時においてカルタップ及び/又はチオシクラムの農薬殺虫活性成分の分解がほとんど抑制され、かつ得られる製剤においても農薬殺虫活性成分の保存安定性が優れた育苗箱水稲用粒剤を提供する。
【解決手段】1,3−ジカルバモイルチオ−2−(N、N−ジメチルアミノ)−プロパン(カルタップ)塩酸塩及び/又は5−ジメチルアミノ−1,2,3−トリチアンN,N−ジメチル−1,2,3−トリチアン−5−アミン(チオシクラム)シュウ酸塩の農薬殺虫活性成分、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂、フィラー成分及びモノフェノール系酸化防止剤からなる混合物であって、該系酸化防止剤を3〜20重量%含有する混合物を、例えば90℃〜150℃前後の高温度で加熱加工しても、農薬殺虫活性成分の分解がほとんど抑制され、かつ得られる育苗箱水稲用粒剤も農薬殺虫活性成分の保存安定性に優れたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、育苗箱水稲用粒剤及びその製造方法に関する。更に詳細には、本発明は、1,3−ジカルバモイルチオ−2−(N、N−ジメチルアミノ)−プロパン塩酸塩(以下、カルタップ塩酸塩と言うこともある)及び/又は5−ジメチルアミノ−1,2,3−トリチアンN,N−ジメチル−1,2,3−トリチアン−5−アミンシュウ酸塩(以下、チオシクラムシュウ酸塩と言うこともある)の農薬殺虫活性成分、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂、フィラー成分及びモノフェノール系酸化防止剤からなる育苗箱水稲用粒剤であって、粒剤中にモノフェノール系酸化防止剤を3〜20重量%含有する育苗箱水稲用粒剤に関する。また、本発明は、これらの農薬殺虫活性成分、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂、フィラー成分及びモノフェノール系酸化防止剤からなる混合物であって、モノフェノール系酸化防止剤を3〜20重量%含有する混合物を高温下で溶融混合して、成型する育苗箱水稲用粒剤の製造方法に関する。
本発明では、特定量のモノフェノール系酸化防止剤を用いて育苗箱水稲用粒剤を製造することにより、製造加工時に、例えば90℃〜150℃前後の高温度が掛かってもカルタップ塩酸塩やチオシクラムシュウ酸塩の農薬殺虫活性成分の分解がほとんど抑制され、また得られる育苗箱水稲用粒剤は、農薬殺虫活性成分の保存時の安定性に優れたものである。
【背景技術】
【0002】
カルタップ塩酸塩やチオシクラムシュウ酸塩等のネライストキシン系化合物はpHの変動や光等に不安定な農薬殺虫剤として知られており、それらの解決のために様々な安定剤が以下のように知られている。
【0003】
特許文献1にはネライストキシン系化合物の誘導体の安定剤として、例えば、塩酸、リン酸等の無機酸及び酸性白土を用いることが紹介されており、安定性及び徐放効果の優れた製剤が得られるとの提案がなされている。しかしながら、これらの安定剤を用いて農薬製剤に成型する際には、高温加工では無機酸が揮発し、有害な蒸気を発するため、これらの安定剤は適していない。
【0004】
特許文献2にはネライストキシン系化合物の誘導体であるベンスルタップ(S,S’−[2−(ジメチルアミノ)トリメチレン]ビス−ベンゼンチオスルホネート)の製剤に関して、無機塩である塩酸、臭化水素酸等を農薬活性成分を安定化させるための添加剤として用いることが挙げられているが、これも揮発しやすいという点で、農薬の製剤には不向きである。
【0005】
更に特許文献3ではベンスルタップ製剤に関して、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化亜鉛等が安定剤として提案され、特に酸化亜鉛が優れているとの記載がある。しかしながら、これらの安定剤が、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を用いた製剤の場合に、高温下での製剤の加工成型工程に適しているかはどうかは示されていない。
【0006】
【特許文献1】特開2001−72515号公報
【特許文献2】特開昭64−5号公報
【特許文献3】特開昭64−4号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するもので、カルタップ塩酸塩やチオシクラムシュウ酸塩を農薬殺虫活性成分とし、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を用いた育苗箱水稲用粒剤では、製造する際に加工温度が90℃〜150℃前後という過酷な条件が必要であり、従って、本発明の課題は、農薬殺虫活性成分の熱的な分解を抑制した育苗箱水稲用粒剤の製造方法、並びに保存安定性等に優れた育苗箱水稲用粒剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、これらの課題を解決すべく、鋭意研究した結果、カルタップ塩酸塩やチオシクラムシュウ酸塩を農薬殺虫活性成分とし、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を用いた育苗箱水稲用粒剤を高温下で製造する際に、特定量のモノフェノール系酸化防止剤を用いることにより、高温の製造温度でもカルタップ塩酸塩やチオシクラムシュウ酸塩が分解されないこと、また、かくして得られる育苗箱水稲用粒剤が保存時の安定性等において優れていることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
即ち、本発明は、1,3−ジカルバモイルチオ−2−(N、N−ジメチルアミノ)−プロパン塩酸塩及び/又は5−ジメチルアミノ−1,2,3−トリチアンN,N−ジメチル−1,2,3−トリチアン−5−アミンシュウ酸塩の農薬殺虫活性成分、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂、フィラー成分、及びモノフェノール系酸化防止剤からなる育苗箱水稲用粒剤であって、該モノフェノール系酸化防止剤を粒剤中に3〜20重量%含有する育苗箱水稲用粒剤に関する。
更に本発明は、1,3−ジカルバモイルチオ−2−(N、N−ジメチルアミノ)−プロパン塩酸塩及び/又は5−ジメチルアミノ−1,2,3−トリチアンN,N−ジメチル−1,2,3−トリチアン−5−アミンシュウ酸塩の農薬殺虫活性成分、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂、フィラー成分、及びモノフェノール系酸化防止剤からなる混合物であって、該モノフェノール系酸化防止剤を該混合物中に3〜20重量%含有する混合物を高温下で溶融混合し、次いで粒剤に成型する、育苗箱水稲用粒剤の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、カルタップ塩酸塩及び/又はチオシクラムシュウ酸塩を農薬殺虫活性成分とし、ポリエチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネートなどの熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を用いた育苗箱水稲用粒剤の製造において、特定量のモノフェノール系酸化防止剤を用いるため、製造工程での高温加工時にカルタップ塩酸塩やチオシクラムシュウ酸塩の分解が抑制され、また得られる育苗箱水稲用粒剤は、農薬殺虫活性成分の保存時の安定性等において優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の育苗箱水稲用粒剤及びその製造方法についてより詳しく説明する。
【0012】
本発明の育苗箱水稲用粒剤に使用される農薬殺虫活性成分は、カルタップ塩酸塩(融点:179〜180℃)及び/又はチオシクラムシュウ酸塩(融点:125〜128℃)である(文献:第3版農薬データブック、ソフトサイエンス社)。これらの農薬殺虫活性成分は高温での加工やアルカリ性物質、その他原材料との相性により著しい分解が起きやすい化合物である。粒剤中の農薬殺虫活性成分の含有量は、用いる農薬殺虫活性成分に応じて任意に設定できるが、農薬殺虫活性成分の含有量は、粒剤中で3〜23重量%が好ましい。
【0013】
本発明の粒剤においては、カルタップ塩酸塩、チオシクラムシュウ酸塩以外にも、以下の農薬殺虫殺菌活性成分もカルタップ塩酸塩、チオシクラムシュウ酸塩に対して分解面での影響を与えない範囲であれば併用することができる。具体的には、次のようなものが挙げられるがこれに限定されるものではない。例えば、殺虫活性成分では、カルタップ塩酸塩、チオシクラムシュウ酸塩以外のネライストキシン系殺虫剤、N−[(6−クロロ−3−ピリジニル)メチル]−N−エチル−N′−メチル−2−ニトロ−1,1−エテンジアミン(一般名:ニテンピラム)、(RS)−1−メチル−2−ニトロ−3−(テトラヒドロ−3−フリルメチル)グアニジン(一般名:ジノテフラム)、(E)−N−[(6−クロロ−3−ピリジル)メチル]−N′−シアノ−N−メチルアセトアミジン(一般名:アセタミプリド)、3−(2−クロロ−1,3−チアゾール−5−イルメチル)−5−メチル−1,3,5−オキサジアジナン−4−イリデン(ニトロ)アミン(一般名:チアメトキサム)等のネオニコチノイド系殺虫剤等が挙げられる。農薬殺菌活性成分では、[5−アミノ−2−メチル−6−(2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシシクロヘキシロキシ)テトラヒドロピラン−3−イル]アミノ−α−イミノ酢酸(一般名:カスガマイシン)等が挙げられる。
【0014】
本発明で使用する熱可塑性生分解性プラスチック樹脂は、ポリエチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン/ブチレンサクシネート及びポリブチレンサクシネート/アジペートからなる群から選ばれる1種以上の熱可塑性生分解性プラスチック樹脂が好ましい。より具体的には、例えば、ポリエチレンサクシネート(代表的なものとしては、商品名ルナーレSE−P、日本触媒社製)、ポリカプロラクトン(代表的なものとしては、商品名CELGREEN PH7、ダイセル化学工業社製)、ポリカプロラクトン/ブチレンサクシネート(代表的なものとしては、CELGREEN CBS17X、ダイセル化学工業社製)、ポリブチレンサクシネート(代表的なものとしては、商品名ビオノーレ1000、昭和高分子社製))、ポリブチレンサクシネート/アジペート(代表的なものとしては商品名ビオノーレ3000、昭和高分子社製)等があり、これらを任意に組み合わせて使用することもできる。これら熱可塑性生分解性プラスチック樹脂の中でも、ポリエチレンサクシネート及びポリカプロラクトンが好ましい。
【0015】
これら熱可塑性生分解性プラスチック樹脂の粒剤中の含有量は任意に設定できるが、30〜90重量%が好ましい。熱可塑性生分解性プラスチック樹脂の含有量が90重量%を超えると、他の農薬殺虫活性成分、フィラー成分及びモノフェノール系酸化防止剤の適切な組成が組めなくなり、水中への農薬殺虫活性成分の水中への溶出が極端に抑制されてしまい、効力的に不十分になる。また、30重量%未満では熱可塑性生分解性プラスチック樹脂量が少ないために水中へのカルタップ塩酸塩やチオシクラムシュウ酸塩の溶出が適切に抑えることができず、農薬殺虫活性成分による薬害の発生や短期間の効力発現だけになり、適切な育苗箱水稲用粒剤は期待できない。
【0016】
本発明で使用するフィラー成分は、水中へのカルタップ塩酸塩やチオシクラムシュウ酸塩の溶出をコントロールする効果のある材料、即ち、得られる粒剤の内部構造を粗くする効果を有するものであればいずれでも使用することができる。具体的なフィラー成分としては、下記のものが挙げられるがこれに限定されるものではない。例えば、クレー、珪砂、タルク、炭酸カルシウム、軽石、珪藻土、バーミキュライト、アタパルジャイト、アッシュメント、ホワイトカーボンなどの鉱物質が挙げられる。また、一般的に農薬水和剤、粒剤に利用される、いわゆる増量剤や担体の一種またはそれ以上をフィラー成分として使用することもできる。また、有機物質をフィラー成分として使用することもできる。有機物質としては、例えば、ショ糖、コーンコブ等が挙げられる。また、農薬活性成分の安定性等を考慮して、紫外線吸収剤である二酸化チタンなどの無機化合物系紫外線吸収剤、べンゾトリアゾールやベンゾフェノン系の有機化合物系紫外線吸収剤等やホワイトカーボンに吸着させた界面活性剤等も内部構造を粗くする効果が同様にあり、これらもフィラー成分として使用できる。これらの界面活性剤としては、例えば、農薬製剤に通常使用されるノニオン系イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤が一般的に挙げられる。より具体的には、例えば、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンフェニルエーテルポリマー、ポリオキシエチレンアルキレンアリールフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等のノニオン系イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルサルフエート、リグニンスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩等の陰イオン性界面活性剤、アルキルベタイン、第四級アンモニウム塩等の陽イオン性界面活性剤もしくは両性界面活性剤が挙げられる。本発明の粒剤におけるフィラー成分としては、鉱物質、有機物質が好ましく、中でもクレーや珪砂が好ましい。
【0017】
フィラー成分の含有量としては任意に設定できるが、3〜50重量%が好ましい。
フィラー成分の粒子径は様々なものが使用できるが、そのなかでも粒子径が20μm〜200μmが製造上、及び水中へのカルタップ塩酸塩やチオシクラムシュウ酸塩の溶出を促す作用を導き出すのに好ましい。また、フィラー成分は、粒剤中において、上記した熱可塑性生分解性プラスチック樹脂のマトリックス中に入り込んで内部構造を粗くするようなものが好ましく、そのようなものとしては、例えば、上記した熱可塑性生分解性プラスチック樹脂の融点よりも高い融点を有するものが好ましい。
【0018】
本発明では、粒剤の製造工程において、カルタップ塩酸塩やチオシクラムシュウ酸塩の農薬殺虫活性成分の高温による分解を抑制し、得られる育苗箱水稲用粒剤の安定性などを達成するために、モノフェノール系酸化防止剤を用いることが重要であり、粒剤中の含有量が3〜20重量%の範囲となる量で使用することにより、これらの効果を達成することができる。モノフェノール系酸化防止剤の粒剤中の含有量が3重量%未満では、農薬殺虫活性成分の熱分解抑制効果が不十分であり、また20重量%を超えると、過剰な含有量となる。中でも、4〜15重量%が好ましい。モノフェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル4−メチルフェノール(以下、BHTと略す:代表的なものとしてB−NOX BHT−P(商品名、共同薬品社))、ブチル化ヒドロキシアニソール(以下、BHAと略す:代表的なものとしてBHA−wako(商品名、和光純薬社))、2,6−ジ−tert−ブチル 4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が挙げられるがこれに限定されるものではない。これらのモノフェノール系酸化防止剤中でも、BHTが好ましい。
【0019】
本発明の育苗箱水稲用粒剤は、具体的には、以下の工程により製造することができるが、類似の機械や工程を適応することができ、これに限定されるものではない。
【0020】
工程1:溶融混合
熱可塑性生分解性プラスチック樹脂に、農薬殺虫活性成分、フィラー成分及びモノフェノール系酸化防止剤を加えて、得られる混合物を、90℃から150℃程度の高温下で加熱して、溶融混合する。より具体的には、例えば以下のような方法が採用される。
熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を、溶融温度より少し高めに設定した6インチテストロール機(機械名、西村工機社製、溶融機)にてロール状に溶融させ、カルタップ塩酸塩及びチオシクラムシュウ酸塩の少なくとも1種類の農薬殺虫活性成分、フィラー成分及びモノフェノール系酸化防止剤を、融点以上になった熱可塑性生分解性プラスチック樹脂に添加し、十分に均一溶融混練した後、プレス機にてシート化する。なお、溶融加温温度は農薬殺虫活性成分の分解温度を考慮し、分解温度以下で溶融する。
また、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂、農薬殺虫活性成分、フィラー成分及びモノフェノール系酸化防止剤をリボンミキサーにて混合し、次いで約100℃の高温槽に12時間程度入れ、保管し、自然溶融し、次いで冷却して混合物として得ることもできる。
【0021】
工程2:成型
溶融混合の後、得られた均一な混合物を、必要に応じて、適当な方法により成型する。具体的には、以下のような方法が採用される。
ラボプラストミル(機械名、東洋精機製作所社製、成型機)にて加熱造粒する。造粒機の種類は、目的とする造粒物の形状、粒子径等を考慮して、適宜選択する。具体的には、粒状成型物を得るためには、所望する粒径に相応したスクリーンを備えた押し出し成型部品等が例示される。造粒する温度は、用いる熱可塑性生分解性プラスチック樹脂が溶融する温度以上で且つ含有するカルタップ塩酸塩やチオシクラムシュウ酸塩が分解しない温度で対応する。
【0022】
工程3:冷却・破砕・篩別等
得られた成型物を、使用目的などに応じて、更に、破砕、篩別などの工程に付して最終製品とする。具体的には、例えば、得られた成型物を、放冷し、破砕が必要で有れば所望する粒径に相応したスクリーンを備えた破砕機等にて破砕し、必要により篩別して、目的とする形状、粒径の粒剤とする。
【0023】
本発明の育苗箱水稲用粒剤を、粒状物として使用する場合、その平均粒径は3.0mm以下が好ましく、さらに好ましくは2.0mm以下0.5mm以上である。平均粒径が3.0mmを超えると、育苗箱への散布の際に撒きむらが生じやすく、薬効・薬害的に好ましくない。平均粒径が0.5mmより小さい場合には、粉立ちやハンドリングの問題があり好ましくない。
【0024】
本発明の育苗箱水稲用粒剤は、例えば、水稲の育苗箱用粒剤とする際、田植え前の水稲育苗箱に施用する。また、育苗箱用粒剤とする際、その施用量は水稲育苗箱(30cm×60cm)当たり10g〜200g程度であり、通常30〜50g程度であるが、特に限定されるものでなく製剤中の農薬活性成分の含有量、育苗箱枚数等によって決めればよい。
【0025】
次に実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。また実施例および比較例で供試したチオシクラムシュウ酸塩の純度は約89%であった。
【0026】
実施例1
チオシクラムシュウ酸塩17.2重量部、DLクレー(商品名、日東製粉社製、クレー、平均粒子径 約25μm)20重量部、B−NOX BHT−P(商品名、共同薬品社製、BHT)5.0重量部及びルナーレSE−P(商品名、日本触媒社製、ポリエチレンサクシネート樹脂)57.8重量部を、リボンミキサーにて混合し、次いで約100℃高温槽に入れて12時間保管し、溶融させ、次いで冷却し混合物を得た。その混合物をハサミにて切断し、粒径が約2.0mmでチオシクラムシュウ酸塩を13.1重量%含有する粒剤を得た。
【0027】
実施例2
チオシクラムシュウ酸塩17.2重量部、DLクレー(商品名、日東製粉社製、クレー、平均粒子径 約25μm)20重量部、BHA−wako(商品名、和光純薬社、ブチル化ヒドロキシアニソール)10.0重量部及びルナーレSE−P(商品名、日本触媒社製、ポリエチレンサクシネート樹脂)52.8重量部を、リボンミキサーにて混合し、次いで約100℃高温槽に入れて12時間保管し、溶融させ、次いで冷却して混合物を得た。ハサミで混合物を切断し、粒径約2.0mmでチオシクラムシュウ酸塩を13.1重量%含有する粒剤を得た。
【0028】
実施例3
チオシクラムシュウ酸塩11.6重量部、DLクレー(商品名、日東製粉社製、クレー、平均粒子径 約25μm)40重量部、B−NOX BHT−P(商品名、共同薬品社製、BHT)10.0重量部及びルナーレSE−P(商品名、日本触媒社製、ポリエチレンサクシネート樹脂)38.4重量部を、リボンミキサーにて混合し、次いで約100℃高温槽に入れて12時間保管し、溶融させ、次いで冷却して混合物を得た。ハサミで混合物を切断し、粒径約2.0mmでチオシクラムシュウ酸塩を8.88重量%含有する粒剤を得た。
【0029】
実施例4
チオシクラムシュウ酸塩11.7重量部、DLクレー(商品名、日東製粉社製、クレー、平均粒子径 約25μm)10重量部及びB−NOX BHT−P(商品名、共同薬品社製、BHT)5.0重量部を、約120℃に熱して溶融させたルナーレSE−P(商品名、日本触媒社製、ポリエチレンサクシネート樹脂)73.3重量部に溶融機にて10分間溶融混合し、次いで冷却後、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒機にて押出し、篩別し、粒径約1.0mmでチオシクラムシュウ酸塩を9.86重量%含有する粒剤を得た。
【0030】
実施例5
チオシクラムシュウ酸塩11.7重量部、DLクレー(商品名、日東製粉社製、クレー、平均粒子径 約25μm)10重量部及びB−NOX BHT−P(商品名、共同薬品社製、BHT)10.0重量部を、約120℃に熱して溶融させたルナーレSE−P(商品名、日本触媒社製、ポリエチレンサクシネート樹脂)68.3重量部に溶融機にて10分間溶融混合し、次いで冷却後、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒機にて押出し、篩別し、粒径約1.0mmでチオシクラムシュウ酸塩を9.88重量%含有する粒剤を得た。
【0031】
実施例6
チオシクラムシュウ酸塩11.7重量部、DLクレー(商品名、日東製粉社製、クレー、平均粒子径 約25μm)10重量部及びB−NOX BHT−P(商品名、共同薬品社製、BHT)10.0重量部を、約120℃に熱して溶融させた商品名ビオノーレ1000(商品名、昭和高分子社製、ポリブチレンサクシネート樹脂)68.3重量部に溶融機にて10分間溶融混合し、次いで冷却後、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒機にて押出し、篩別し、粒径約1.0mmでチオシクラムシュウ酸塩を10.06重量%含有する粒剤を得た。
【0032】
実施例7
チオシクラムシュウ酸塩11.7重量部、DLクレー(商品名、日東製粉社製、クレー、平均粒子径 約25μm)10.0重量部及びB−NOX BHT−P(商品名、共同薬品社製、BHT)5.0重量部を、約120℃に熱して溶融させたCELGREEN PH5(商品名、ダイセル化学社製、ポリカプロラクトン樹脂)73.3重量部に溶融機にて10分間溶融混合し、次いで冷却後、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒機にて押出し、篩別し、粒径約1.0mmでチオシクラムシュウ酸塩を9.80重量%含有する粒剤を得た。
【0033】
実施例8
カルタップ塩酸塩(純度95%)10.8重量部、DLクレー(商品名、日東製粉社製、クレー、平均粒子径 約25μm)10.0重量部及びB−NOX BHT−P(商品名、共同薬品社製、BHT)5.0重量部を、約120℃に熱して溶融させたCELGREEN PH5(商品名、ダイセル化学社製、ポリカプロラクトン樹脂)73.3重量部に溶融機にて10分間溶融混合し、次いで冷却後、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒機にて押出し、篩別し、粒径約1.0mmでカルタップ塩酸塩を10.05重量%含有する粒剤を得た。
【0034】
比較例1
モノフェノール系酸化防止剤を3重量%より少ない量で用いて、実施例1と同様にして粒剤を製造した。即ち、チオシクラムシュウ酸塩17.2重量部、DLクレー(商品名、日東製粉社製、クレー、平均粒子径 約25μm)10重量部、B−NOX BHT−P(商品名、共同薬品社製、BHT)1.0重量部及びルナーレSE−P(商品名、日本触媒社製、ポリエチレンサクシネート樹脂)71.8重量部をリボンミキサーにて混合し、次いで約100℃高温槽に入れて12時間保管し、溶融させ、次いで冷却して混合物を得た。ハサミで混合物を切断し、粒径約2.0mmでチオシクラムシュウ酸塩を3.84重量%含有する粒剤を得た。
【0035】
比較例2
モノフェノール系酸化防止剤を用いないで、実施例1と同様にして粒剤を製造した。即ち、チオシクラムシュウ酸塩17.2重量部、DLクレー(商品名、日東製粉社製、クレー、平均粒子径 約25μm)10重量部及びルナーレSE−P(商品名、日本触媒社製、ポリエチレンサクシネート樹脂)72.8重量部を、リボンミキサーにて混合し、次いで約100℃高温槽に入れて12時間保管し、溶融させ、次いで冷却して混合物を得た。ハサミで混合物を切断し、粒径約2.0mmでチオシクラムシュウ酸塩を2.75重量%含有する粒剤を得た。
【0036】
比較例3
モノフェノール系酸化防止剤を用いる代わりに酸性白土及びリン酸を用い、フィラー成分用いることなく、実施例1と同様にして粒剤を製造した。即ち、チオシクラムシュウ酸塩17.2重量部、酸性白土#10(商品名、水澤化学社製、酸性白土)30.0重量部及び85%リン酸(試薬)2.0重量部、ルナーレSE−P(商品名、日本触媒社製、ポリエチレンサクシネート樹脂)50.8重量部を、リボンミキサーにて混合し、次いで約100℃高温槽に入れて12時間保管し、溶融させ、次いで冷却して混合物を得た。ハサミで混合物を切断し、粒径約2.0mmでチオシクラムシュウ酸塩を4.28重量%含有する粒剤を得た。
【0037】
比較例4
モノフェノール系酸化防止剤を用いる代わりに酸化亜鉛を用い、フィラー成分を用いることなく、実施例1と同様にして粒剤を製造した。即ち、チオシクラムシュウ酸塩17.2重量部、酸化亜鉛(試薬)32.0重量部及びルナーレSE−P(商品名、日本触媒社製、ポリエチレンサクシネート樹脂)50.8重量部を、リボンミキサーにて混合し、次いで約100℃高温槽に入れて12時間保管し、溶融させ、次いで冷却して混合物を得た。ハサミで混合物を切断し、粒径約2.0mmでチオシクラムシュウ酸塩を3.72重量%含有する粒剤を得た。
【0038】
比較例5
モノフェノール系酸化防止剤を用いることなく、実施例4と同様にして粒剤を製造した。即ち、チオシクラムシュウ酸塩11.7重量部及びDLクレー10重量部(商品名、日東製粉社製、クレー、平均粒子径 約25μm)10重量部を、約120℃に熱して溶融させたルナーレSE−P(商品名、日本触媒社製、ポリエチレンサクシネート樹脂)78.3重量部に溶融機にて10分間溶融混合し、次いで冷却後、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒機にて押出し、篩別し、粒径約1.0mmでチオシクラムシュウ酸塩を2.29重量%含有する粒剤を得た。
【0039】
比較例6
モノフェノール系酸化防止剤を用いることなく、実施例4と同様にして粒剤を製造した。即ち、チオシクラムシュウ酸塩11.7重量部及びDLクレー(商品名、日東製粉社製、クレー、平均粒子径 約25μm)10重量部を、約120℃に熱して溶融させた商品名ビオノーレ1000(商品名、昭和高分子社製、ポリブチレンサクシネート樹脂)78.3重量部に溶融機にて10分間溶融混合し、次いで冷却後、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒機にて押出し、篩別し、粒径約1.0mmでチオシクラムシュウ酸塩を2.85重量%含有する粒剤を得た。
【0040】
試験例1
チオシクラムシュウ酸塩の分解率
上記の実施例1〜3ならびに比較例1〜4での粒剤の製造において、加熱加工されたことによるチオシクラムシュウ酸塩の分解に対する影響を、約100℃高温槽に入れる前のチオシクラムシュウ酸塩の量と、入れた後12時間保管し、溶融した後のチオシクラムシュウ酸塩の量を比較して分解率を求めて評価した。チオシクラムシュウ酸塩の量の分析はHPLCにて実施し、カラムはInertsil ODS−3(商品名、島津製作所社製)を用いた。試験結果は表1に示した。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示した結果より、実施例1〜3の本発明の製造方法は、比較例1〜4の製造方法に比べて、チオシクラムシュウ酸塩の安定性が著しく良好であることを示している。モノフェノール系酸化防止剤は、酸化亜鉛や酸性白土とリン酸等の組み合わせに比較しチオシクラムシュウ酸塩に対して良好な安定性を確保しているといえる。
【0043】
試験例2
チオシクラムシュウ酸塩の分解率
上記の実施例4〜7ならびに比較例5〜6ででの粒剤の製造において、加熱加工されたことによるチオシクラムシュウ酸塩の分解に対する影響を、約120℃溶融機に入れる前のチオシクラムシュウ酸塩の量と、入れた後10分間溶融混合後のチオシクラムシュウ酸塩の量を比較して分解率を求めて評価した。チオシクラムシュウ酸塩の量の分析はHPLCにて実施し、カラムはInertsil ODS−3(商品名、島津製作所社製)を用いた。試験結果は表2に示した。
【0044】
【表2】

【0045】
表2に示した結果より、実施例4〜7の本発明の製造方法は、比較例5〜6の製造方法に比べて、チオシクラムシュウ酸塩の安定性が著しく良好であることを示している。
【0046】
試験例3
保存安定性試験
上記の実施例4〜7ならびに比較例5〜6で得られた粒剤について、54℃2週間の保存安定性試験を実施した。即ち、粒剤20gを50ml茶褐色サンプル瓶SV−50A(商品名、日電理化社製)に入れ、密閉後、54℃に設定した恒温槽にいれ2週間保管した後、粒剤中に含まれるチオシクラムシュウ酸塩含量をHPLCにて分析し、分解率を求めた。チオシクラムシュウ酸塩の粒剤からの分析はHPLCにて実施し、カラムはInertsil ODS−3(商品名、島津製作所社製)を用いた。
試験結果は表3に示した。
【0047】
【表3】

【0048】
表3の結果より、本発明により得られる粒剤は、チオシクラムシュウ酸塩の保存安定性において良好な結果を示した。
100℃での試験は加熱安定性試験としては製造時の状態を把握するに適しており、そのまま保存安定性試験としても応用できるが、かなり過酷であるため、54℃の試験法も実施したが、同様の安定性効果が得られ、本発明の製造方法はチオシクラムシュウ酸塩の安定性において優れており、また本発明の粒剤もチオシクラムシュウ酸塩の保存安定性において優れていることを示した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を用いた育苗箱水稲用粒剤の製造方法では、特定量のモノフェノール系酸化防止剤を用いるため、製造工程での高温加工時における、カルタップ塩酸塩及び/又はチオシクラムシュウ酸塩の農薬殺虫活性成分の分解が抑制され、また、本発明の育苗箱水稲用粒剤は、農薬殺虫活性成分の保存時の安定性等において優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3−ジカルバモイルチオ−2−(N、N−ジメチルアミノ)−プロパン塩酸塩及び/又は5−ジメチルアミノ−1,2,3−トリチアンN,N−ジメチル−1,2,3−トリチアン−5−アミンシュウ酸塩の農薬殺虫活性成分、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂、フィラー成分、及びモノフェノール系酸化防止剤からなる育苗箱水稲用粒剤であって、該モノフェノール系酸化防止剤を粒剤中に3〜20重量%含有する育苗箱水稲用粒剤。
【請求項2】
モノフェノール系酸化防止剤が2,6−ジ−tert−ブチル 4−メチルフェノール、ブチル化ヒドロキシアニソール及び2,6−ジ−tert−ブチル 4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートからなる群から選ばれる1種以上である請求項1の育苗箱水稲用粒剤。
【請求項3】
モノフェノール系酸化防止剤が2,6−ジ−tert−ブチル 4−メチルフェノールである請求項1又は2の育苗箱水稲用粒剤。
【請求項4】
粒剤中に、モノフェノール系酸化防止剤を4〜15重量%含有する請求項1から3のいずれかの育苗箱水稲用粒剤。
【請求項5】
熱可塑性生分解性プラスチック樹脂がポリエチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン/ブチレンサクシネート及びポリブチレンサクシネート/アジペートからなる群から選ばれる1種以上である請求項1から4のいずれかの育苗箱水稲用粒剤。
【請求項6】
熱可塑性生分解性プラスチック樹脂がポリエチレンサクシネートである請求項1から5のいずれかの育苗箱水稲用粒剤。
【請求項7】
フィラー成分がクレー及び/又は珪砂である請求項1から6のいずれかの育苗箱水稲用粒剤。
【請求項8】
粒剤中に、農薬殺虫活性成分を3〜23重量%、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を30〜90重量%、フィラー成分を3〜50重量%及びモノフェノール系酸化防止剤を4〜15重量%含有する請求項1から7のいずれかの育苗箱水稲用粒剤。
【請求項9】
1,3−ジカルバモイルチオ−2−(N、N−ジメチルアミノ)−プロパン塩酸塩及び/又は5−ジメチルアミノ−1,2,3−トリチアンN,N−ジメチル−1,2,3−トリチアン−5−アミンシュウ酸塩の農薬殺虫活性成分、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂、フィラー成分、及びモノフェノール系酸化防止剤からなる混合物であって、該モノフェノール系酸化防止剤を該混合物中に3〜20重量%含有する混合物を高温下で溶融混合し、次いで粒剤に成型する、育苗箱水稲用粒剤の製造方法。
【請求項10】
混合物を90℃から150℃の高温下で溶融混合する請求項9の育苗箱水稲用粒剤の製造方法。
【請求項11】
モノフェノール系酸化防止剤が2,6−ジ−tert−ブチル 4−メチルフェノール、ブチル化ヒドロキシアニソール及び2,6−ジ−tert−ブチル 4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートからなる群から選ばれる1種以上である請求項9又は11の育苗箱水稲用粒剤の製造方法。
【請求項12】
モノフェノール系酸化防止剤が2,6−ジ−tert−ブチル 4−メチルフェノールである請求項9から11のいずれかの育苗箱水稲用粒剤の製造方法。
【請求項13】
混合物中にモノフェノール系酸化防止剤が4〜15重量%含有する請求項9から12のいずれかの育苗箱水稲用粒剤の製造方法。

【公開番号】特開2007−63178(P2007−63178A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−250455(P2005−250455)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【出願人】(392029074)日東化成工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】