説明

背面映写可能な産業資材シート、及びその映写システム

【課題】広角的に表示可能な背面映写スクリ−ン機能を有する、可撓性産業資材シートと、それを用いた背面映写システムの提供。
【解決手段】本発明の産業資材シート(3)は、延伸フィラメントを含んでなる編織布(1)の片面以上に可撓性樹脂層(2)を積層してなる複合基材を含み、前記可撓性樹脂層が、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、この海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方が着色剤を含むようにして、前記可撓性樹脂層全体のマンセル明度(JIS Z8721)を3.0〜9.0とすることによって得られ、さらに、その背面に映像投映装置を配置することによって斜め方向からの観察においても鮮明な映像を認識することが可能な本発明の背面映写システムを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、背面映写による画像映写が可能な産業資材シートと、その映写システムに関するものであり、更に詳しくは、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、及び各種公共施設などにおける天井部材や壁材、壁看板及びドーム状構造物の構築部材に用いる不燃性産業資材シートに関するものであり、特に照明シェード機能を有し、さらに広角的に表示可能な背面映写スクリ−ン機能を有する、光透過性、かつ建築基準法に適合する不燃性の可撓性産業資材シートと、その背面映写システムとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
商業施設、オフィスビル、学校などにおける照明は、多数の蛍光灯ユニットを天井の縦横に過密配置することによって、室内の明るさと照度の均一性とを保つ方法が主流であるが、しかし、この方法では蛍光灯ユニットの存在が目立ってしまい、施設空間デザインの自在性の障害となっている。そのため蛍光灯ユニットを乳白色のアクリル樹脂製の照明カバーで覆い隠したり、天井全体を白色を基調とする装飾として保護色化するなどの配慮がなされているものの、依然として蛍光灯ユニット自体の存在を目立たなくすることは困難な課題であった。
【0003】
特に高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、及び各種公共施設などでは、照明設備自体を極力露出しない照明デザインが採用されているが、最近の新築施設では、より空間の洗練性と明るさを追求した照明手段として、天井のほぼ全面を照明シェード化することによって、天井全体を発光させる方法によって、蛍光灯ユニットの存在を目立たなくした光天井照明の導入が進んでいる。光天井としては、無機系繊維織物を基材とする長尺膜材を天井全面に施工してなるものが、特に建築物の耐久性と施工性に融通し、しかも照明シェードとして優れた光拡散効果と蛍光灯隠蔽効果とを兼備している。
【0004】
一方、コンビニエンスストア、ファーストフード店、居酒屋、カラオケ店、ガソリンスタンド、金融ATMなどの各種販売業、及びサービス業においては、昼夜問わず内照表示する看板表示システムが多用されており、これらの内照式看板は屋号や広告の効果的表示機能と同時に夜間照明としても機能している。また一方で、駅構内、地下鉄駅構内、地下街、地下連絡通路の壁面には様々な広告看板で埋め尽くされているが、これらの広告看板も照明機能を兼用することで地下空間には欠かせない存在である。また建造物内や地下施設内などにおいては避難誘導などの情報表示も不可欠である。
【0005】
これらの内照式広告看板としては、光拡散性を有するアクリル樹脂板にプリントやマーキングを施し、看板の裏面側に設けた蛍光灯により行燈効果を得るタイプが主流であるが、建築物に附帯する大型看板用途では高い防炎性能と耐衝撃強度が必要であるため、例えば、ポリエステル繊維織物を基材として、その両面を軟質塩化ビニル樹脂フィルムで積層した繊維強化フレキシブル膜材が内照式看板に使用されており、特に屋内用途では無機系繊維織物を基材とする難燃性のフレキシブル膜材が使用されている。
【0006】
また一方で、アミューズメント施設、イベント会場、遊戯施設においては、来場者を円滑に誘導するための順路隔壁を内照式の光壁や行燈壁とする演出によって色と光のエンターティメント性を高める手法が用いられている。また、小型〜中型のドーム状密閉空間に構築されているアミューズメント施設、例えば、熱帯植物園、温水プール、プラネタリウム、水族館、各種テーマ館などの場合、外部からの照明透過光の陰影や色彩は極めて演出性が高いものとなる。
【0007】
光天井照明はシンプルな白色系平坦外観を基調とすることにより落ち着きのある瀟洒な空間を提供することができるので、特に公共施設の待合ロビーやホテルのエントランスに適し、また大ホールなどでのイベントやシンポジウムにおいては観衆や聴衆の興味、集中力を持続させる効果にも寄与する。それ故、光天井に華美なプリントや装飾などを施す事例は少ないが、しかし、冠婚葬祭式場やパーティ・イベント会場においては、光天井のような白色系平坦外観は映写スクリーンとして利用できる可能性を有している。
【0008】
また地下街や地下街連絡通路における雑踏の中では、進行方向の天井に行先表示の目印を求める意識が高く、それにより天井部に出口案内やトイレ位置などの表示プレートが随所に設置されている。それ故、地下街や地下街連絡通路の光天井自体に意匠や広告表示などを直接附帯させることは効果的であるが、しかしながら広告表示の多様性に伴う更新サイクル頻度、及び天井施工の手間との兼ね合いとの理由で、駅舎構内や地下街、地下街連絡通路における広告表示の実情は壁面看板が一般的である。しかし、これらの内照式看板の表示は文字・図柄・写真の組み合わせによる静止図柄の表示が主体で、これら多数の内照式看板が等間隔で連続する様は、俯瞰的に照明機能が抜き出た存在であった。
【0009】
最近、デジタルデータをガラスショウウインドウやスクリーンにプロジェクター映写することで画像や動画を表示するディスプレイが普及している。広告等の商業的利用においてのプロジェクター映写は、人影等が邪魔にならないようにスクリーン背面にプロジェクターを配置した背面投映が主流であり、背面映写用スクリーンとして、透光性と光拡散性を兼備する合成樹脂シートを用いることによってプロジェクター光源を隠しながら鮮明な映像表示を可能とするものである。このような透過型スクリーンとプロジェクターとを、光天井や内照式広告看板に応用することによって、画像を自在に切り替え表示したり、動画を映写したりすることが可能となる。また、例えば特開2004−77634号公報(特許文献1)には、地下街または大型複合商業ビルの天井面にデイスプレイ装置を設けて、これに実際の屋外風景を広角映像で映写することで、地下街やビル内における現在位置や方角の把握を容易とするナビゲーションシステム装置の提案がなされている。
【0010】
このように、天井や内照式看板に動画を表示する提案がいくつかなされているものの、実際に地下街や地下街連絡通路の天井部に画像や動画を投映したり、あるいは地下街連絡通路の壁面看板に画像や動画を投映する利用は困難であった。その理由として歩行者(観察者)の視野と画像鮮明認知性との関係が挙げられる。画像や動画の投映において、歩行者の視点がプロジェクター方向に対向して上下左右60°の視野が最も画像や動画の投映が鮮明に認知可能であるが、観察者が地下街や地下街連絡通路を歩行通過する時の目線は前方に向けられている。このため画像や動画の投映地点到達時に立ち止まって天井を見上げたり、左右に振り向くことは稀である。つまり地下街や地下街連絡通路の天井部や側壁部に画像や動画を効果的に演出するには、極端に斜め方向からも認知可能な画像や動画を投映する必要があるが、これらの投映システムでは斜め方向からの認識性に劣るのが実情であり、特に曲面部を有する天井部や側壁においての投映では、一層投映画像の認知性が劣ることが問題とされている。
【0011】
このような観点において、光拡散性と防眩性を兼備した映写スクリーンが開発され、例えば特開2005−24942号公報(特許文献2)にはプラスチックフィルムを支持体として、これに光拡散層を設けてなる、ヘーズ80%以上、全光線透過率60%以上、鏡面光沢度10%以下である透過型スクリーンが開示されている。一方、非相溶の熱可塑性樹脂のブレンドにより生じる海島分散によるヘイズを光拡散シートに応用する提案がなされている。(特許文献3,4)しかし、これらの光拡散シートではプロジェクター画像を投影した時に画像が白飛びする欠点があり、黒の網トーンなどの併用により色彩のコントラストを引き締めてやる必要があった。このような映写スクリーンを用いることによって、より様々な位置からの画像や動画の認識を可能とするが、この映写スクリーンでは建築基準法に適合する不燃性を有さないため、天井部材や壁材などの建築部材として使用することができない。つまり画像や動画を投映可能な光天井部材、光壁材、内照看板材として、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、及び各種公共施設などの建築部材に用いるには火災対策として建築基準法に適合する不燃性が必要である。
【0012】
従って、建築基準法に適合する不燃性を有し、かつ光透過性と投映性とを有する産業資材シートであって、さらに投映された映像が斜め方向からも明瞭に認知でき、曲面部にも投映可能な建築材料があれば、それらを光天井部材、光壁材、内照看板材として用いて、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、及び各種公共施設などに広く利用でき、照明機能と兼用してデジタル画像や動画を投映することで情報伝達にエンターティメント性を附帯させたり、アミューズメント分野においては演出効果が飛躍的に向上するなど様々な活用が期待できる。またさらにアナウンスに替わる視覚的情報提供手段として、イベント開催案内、ニュース報道、更には災害時の緊急避難誘導としての利用なども期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−77634号公報
【特許文献2】特開2005−24942号公報
【特許文献3】特開2001−272511号公報
【特許文献4】特開2001−31774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、良好な光透過性と鮮明なプロジェクター投映性とを有する産業資材シートであって、しかも投映された映像が斜め方向からも明瞭に認知可能であり、特に曲面部を有する光天井部材、光壁材、内照看板材、ドーム状構造材などの建築材料に適して用いることができ、さらに建築基準法に適合する不燃性を有する産業資材シートと、この産業資材シートの背面にプロジェクターなどの投映装置を配置してなる光天井システム、光壁システム、内照看板システム、ドーム状構造物システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明者は、延伸フィラメントを含んでなる編織布の片面以上に、可撓性樹脂層を積層してなる複合基材を含む光拡散透過性シートにおいて、前記可撓性樹脂層が、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、かつ、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方に着色剤を含むことによって、コントラスト調整機能を発揮し、それによって観察方向の影響を受けず、しかも斜め方向からの観察における映写画像の認識性が飛躍的に向上して曲面部にも投映可能となることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち本発明の背面映写可能な産業資材シートは、延伸フィラメントを含んでなる編織布の片面以上に、可撓性樹脂層を積層してなる複合基材を含む光拡散透過性シートであって、前記可撓性樹脂層が、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、かつ、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方が着色剤を含んでいることが好ましい。本発明の背面映写可能な産業資材シートは、前記海島構造において、島成分が着色剤を含むことが好ましい。本発明の背面映写可能な産業資材シートは、前記着色剤が、白色顔料または黒色顔料のいずれかを含むことが好ましい。本発明の背面映写可能な産業資材シートは、前記着色剤が、青(シアン)・赤(マゼンダ)・黄(イエロー)・黒(ブラック)から選ばれた3種以上の顔料の混合物であることが好ましい。本発明の背面映写可能な産業資材シートは、前記延伸フィラメントが、延伸方向a、及び前記延伸方向aに対する延伸垂直方向b、とを有し、前記可撓性樹脂層の屈折率n1と前記延伸フィラメントの延伸方向の屈折率naとの差の絶対値|n1−na|が下記式1を満たし、かつ、前記可撓性樹脂層の屈折率n1と、延伸垂直方向bの屈折率nbとの差の絶対値|n1−nb|が、下記式2を満たす光学特性を有することが好ましい。
0<|n1−na|≦0.2 式1
|n1−nb|≦0.2 式2
本発明の背面映写可能な産業資材シートは、前記光拡散透過性シートにおいて、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において前記光拡散透過性シートに対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/mで照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/mを超えない不燃特性を有することが好ましい。本発明の産業資材構造物の背面映写システムは、延伸フィラメントを含んでなる編織布の片面以上に可撓性樹脂層を積層してなる光拡散透過性シートの背面に、映像投映装置を配置してなる産業資材構造物であって、前記可撓性樹脂層が、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、かつ、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方が着色剤を含んでいることが好ましい。本発明の産業資材構造物の背面映写システムは、前記産業資材構造物が、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において前記光拡散透過性シートに対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/mで照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/mを超えない不燃特性を有する天井であることが好ましい。本発明の産業資材構造物の背面映写システムは、前記産業資材構造物が、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において前記光拡散透過性シートに対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/mで照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/mを超えない不燃特性を有する壁であることが好ましい。本発明の産業資材構造物の背面映写システムは、前記産業資材構造物が、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において前記光拡散透過性シートに対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/mで照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/mを超えない不燃特性を有するドームであることが好ましい。本発明の産業資材構造物の背面映写システムは、前記産業資材構造物が、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において前記光拡散透過性シートに対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/mで照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/mを超えない不燃特性を有する看板であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、良好な光透過性と鮮明なプロジェクター投映性とを有する産業資材シートの提供を可能とし、しかも投映された映像が斜め方向からも明瞭に認知可能であるため、特に曲面部を有する光天井部材、光壁材、内照看板材、ドーム状構造材などの建築材料に適して用いることができる。また本発明の産業資材シートは、特に建築基準法に適合する不燃性を有するので、この産業資材シートの背面にプロジェクターなどの投映装置を配置してなる光天井システム、光壁システム、内照看板システム、ドーム状構造物システムを、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、及び各種公共施設などにおける天井部材や壁材、壁看板及びドーム状構造材などに広く利用でき、照明機能と兼用してデジタル画像や動画を投映することで情報伝達にエンターティメント性を附帯させたり、アミューズメント分野においては演出効果が飛躍的に向上させるなど様々な用途での活用が可能となる。またさらにアナウンスに替わる視覚的情報提供手段として、イベント開催案内、ニュース報道、更には災害時の緊急避難誘導としての利用なども可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】延伸フィラメントの延伸方向と延伸垂直方向示す図 (a)延伸方向a (b)延伸垂直方向b
【図2】本発明の光拡散透過性シートの一例を示す図
【図3】広角のレンズから投映した状態を示す図
【図4】斜め方向から投映した状態を示す図
【図5】光の入射角による光拡散性の違いを示す図
【図6】鏡に反射させて投映した状態を示す図
【図7】天井に用いた背面映写システムの一例を示す図
【図8】天井に用いた背面映写システムの利用の一例を示す図
【図9】壁に用いた背面映写システムの一例を示す図
【図10】内側に向けて投映するドームに用いた背面映写システムの一例を示す図
【図11】外側に向けて投映するドームに用いた背面映写システムの一例を示す図
【図12】看板に用いた背面映写システムの一例を示す図
【図13】実施例及び比較例において、光天井に施工した産業資材シートの背面から 映写した映像を垂直方向、及び面に対して15度の角度から観察した状態を示す図 (a)平面施工 (b)曲面施工
【図14】実施例及び比較例において、映写スクリーン機能を評価する際の映像投映 装置と観察者の位置関係を示す図
【図15】可撓性樹脂層の海島構造を示し、島成分が着色剤を含む状態を示す図
【図16】可撓性樹脂層の海島構造を示し、海成分が着色剤を含む状態を示す図
【図17】可撓性樹脂層の海島構造を示し、島成分が白色顔料を含む状態を示す図
【図18】可撓性樹脂層の海島構造を示し、海成分が白色顔料を含む状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の産業資材シートにおいて、編織布に使用する延伸フィラメントとしては、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維などの合成繊維による長繊維、ジアセテート繊維、トリアセテート繊維などの半合成繊維による長繊維、レーヨン繊維、ポリノジック繊維などの再生繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維などの無機繊維による長繊維などであり、これらは単独使用または混用、混紡であってもよい。また、延伸フィラメントは、マルチフィラメント糸条、もしくはモノフィラメント糸条が好ましく、本発明においてはフィラメント数3〜300本、繊度138〜2223dtex(デシテックス)、特に277〜1112dtexのマルチフィラメント糸条が好ましい。延伸フィラメントは、溶融紡糸した未延伸の長繊維紡糸原糸を加熱延伸、または常温近傍の冷延伸によって3.0〜5.0倍に延伸し、繊維のミクロ構造を配列、結晶化させたものである。これらの延伸フィラメントは、図1(a)の様に延伸方向aを有し、図1(b)の様に延伸方向に対する延伸垂直方向bを有する。ここで、延伸フィラメントとして、合成繊維、半合成繊維、再生繊維の場合には延伸により高分子の結晶構造を任意配向させることで、延伸方向aの屈折率naと延伸垂直方向bの屈折率nbを適宜調整することができる。またガラス繊維の様に非晶質の無機材料を用いる場合には、naとnbは等しくなる。
【0020】
本発明に使用する編織布には織布、または編布が用いられ、織布としては平織、綾織、繻子織、模紗織など公知の織布が挙げられるが、中でも特に平織織布が得られる産業資材シートの経緯物性バランスに優れて好ましい。編布としてはラッセル編の緯糸挿入トリコットが好ましく用いられる。これら編織物は、糸間間隙を均等において平行に多数配置した経糸、及び糸間間隙を均等において平行に多数配置した緯糸を含んで構成された粗目状の編織物(空隙率5〜50%)、及び非粗目状編織物(空隙率5%未満)を包含する。中でも、補強効果、光拡散効果などの点から、経緯糸条の交絡間に形成される空隙率が0〜5%の高密度編織物が特に好ましく用いられる。前記編織布には油剤や糊剤を除くために精練や熱処理を施しても良く、可撓性樹脂加工液に濡れやすくし可撓性脂層との接着性を向上させる目的でコロナ放電処理、プラズマ放電処理、シランカップリング剤処理などを行っても良い。
【0021】
本発明の産業資材シートにおいて可撓性樹脂層は合成樹脂ブレンドの溶融、または合成樹脂ブレンドの液状合成樹脂の攪拌混合物からなるものである。本発明で好ましく用いられる合成樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル系共重合体樹脂、オレフィン樹脂(PE,PPなど)、オレフィン系共重合体樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン系共重合体樹脂、アクリル樹脂、アクリル系共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル系共重合体樹脂、スチレン樹脂、スチレン系共重合体樹脂、ポリエステル樹脂(PET,PEN,PBTなど)、ポリエステル系共重合体樹脂、フッ素含有共重合体樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエーテル、ポリエステルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエステルなどの熱可塑性樹脂、及びビニルエステル樹脂などである。
【0022】
本発明において可撓性樹脂層は、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる白濁概観を有するもので、非相溶であれば合成樹脂の組合せに制限はない。非相溶の組合せ例としては、塩化ビニル樹脂とポリエチレン、塩化ビニル樹脂とポリプロピレン、塩化ビニル樹脂とポリスチレン、塩化ビニル樹脂とシリコーン樹脂、塩化ビニル樹脂とフッ素含有共重合体樹脂、ポリスチレンとポリエチレン、ポリスチレンとポリプロピレン、ウレタン樹脂とポリエチレン、ウレタン樹脂とポリプロピレン、ポリエステル樹脂とポリエチレン、ポリエステル樹脂とポリプロピレン、ポリアミドとポリカーボネート、アクリル樹脂とポリスチレン、アクリル樹脂とポリカーボネート、ポリアミドとポリスチレン、ポリアミドとポリプロピレンなどの2種類の合成樹脂によるブレンドである。これらの非相溶の熱可塑性樹脂対に対して、さらに別種の熱可塑性樹脂を含有することもできる。
【0023】
これらの非相溶混合物は相分離構造を示すもので特に海島構造であることが好ましい。この海島構造において海成分と島成分は種類の異なる樹脂で構成され、例えば熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bからなる非相溶混合物において、熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bとの比率設定により、海成分を熱可塑性樹脂Aで構成し、島成分を熱可塑性樹脂Bで構成することができ、また海成分を熱可塑性樹脂Bで構成し、島成分を熱可塑性樹脂Aで構成することもできる。島成分を構成する樹脂の比率は、海成分を構成する樹脂の体積に対して10〜70体積%(好ましくは20〜50体積%)、可撓性樹脂層全体に対する島成分含有率は9〜41.1体積%(好ましくは16.6〜33.3体積%)である。また非相溶の熱可塑性樹脂対A−Bに対して、さらに別種の熱可塑性樹脂Cを含有する場合、海島構造において島成分が熱可塑性樹脂Bによる島成分と熱可塑性樹脂Cによる島成分で構成されてもよく、同様に島成分が熱可塑性樹脂Aによる島成分と熱可塑性樹脂Cによる島成分で構成されてもよい。
【0024】
また島成分の形状は球状、歪んだ球状、碁石状、ラグビーボール状などである。島成分の平均粒径は0.1〜50μmであり、特に0.1〜30μmが好ましい。島成分のサイズを0.1μmより大きくすることによって可撓性樹脂層に全光線透過率を維持しながら良好な光拡散効果を得ることができる。本発明において可撓性樹脂層は、海成分を構成する合成樹脂の屈折率と島成分を構成する合成樹脂の屈折率差を有することが好ましい。屈折率が同一であると海成分と島成分との界面における屈折散乱現象が起こらず、十分な光拡散効果が得られない。良好な光拡散性を得るための屈折率差は、0.01以上、より好ましくは0.05以上であり、屈折率差を構成する条件は海成分と島成分の、何れの側の屈折率が高くても構わない。屈折率はD線を光源とするアッベ屈折率計により求めることができる。
【0025】
本発明において可撓性樹脂層は、2種類の合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有しており、かつ、海島構造において海成分または島成分のいずれか一方が着色剤を含んでいる。海成分または島成分のいずれか一方が着色剤を含んで着色するには、非相溶混合物を構成する2種類の合成樹脂のいずれか一方をあらかじめ着色し、非着色合成樹脂と着色合成樹脂との溶融混合によって、着色海成分と非着色島成分による構成、または非着色海成分と着色島成分による構成を得ることができる。本発明の混合物では着色合成樹脂成分は非相溶対の非着色合成樹脂成分と交じり合うことは無いから、非着色合成樹脂成分が着色合成樹脂成分に含まれる着色剤によって着色されることはない。本発明において海島構造は、海成分と島成分が各々異なる着色剤により着色されていてもよい。海成分または島成分を着色する着色剤は、映像投映装置(プロジェクター)から投映された映像をより色鮮やかに鮮明表示する作用を有する。本発明の産業資材シートにおいて可撓性樹脂層は島成分が着色されていることが好ましい。また本発明の産業資材シートにおいて可撓性樹脂層は、海成分または島成分のいずれか一方が着色されていることで、背面から投映された映像の光拡散効果を向上させると同時に、良好な光線透過性を確保することができるので、より輝度が高く、色鮮やかな映像表示を可能とする。
【0026】
海成分または島成分の着色に用いる着色剤は、白色顔料または黒色顔料のいずれかを含むことが色鮮やかな映像表示するために不可欠である。本発明の産業資材シートを比較的照明の明るい場所で背面映写用膜材として用いるには特に黒色顔料を用いることが好ましい。また普段は光天井や光壁、及びバックリット看板としての使用が主であるばあいは、特に白色顔料を用いることが好ましい。黒色顔料としては、カーボンブラック、アニリンブラック、チタンブラックなど公知の黒顔料を用いることができる。着色剤は光透過性の黒とすることが好ましく、必要に応じて青、赤、黄などの有機系顔料を併用することもできる。またカーボンブラック、アニリンブラック、チタンブラックなど公知の黒顔料を用いずに、青(シアン)・赤(マゼンダ)・黄(イエロー)の有機系顔料の3原色混合によって黒系の着色としてもよく、3原色混合に黒(カーボンブラック、アニリンブラック、チタンブラック)を併用して黒色の調整を図ることもできる。
【0027】
白色顔料としては、金属酸化物、金属水酸化物、金属複合酸化物、金属複合水酸化物などが挙げられ、これらは具体的に酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化モリブデン、酸化アンチモン、酸化ケイ素(シリカ)などの金属酸化物、及びホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム、ジルコニウム−アンチモンなどの金属複合酸化物などが挙げられる。また水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ジルコニウム、塩基性炭酸マグネシウムなどの金属水酸化物、及びドロマイト、ハイドロタルサイト、ヒドロキシスズ酸亜鉛、酸化スズの水和物、ホウ砂などの金属複合水酸化物が挙げられ、その他白色微粒子としては硫酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、クレー、モンモリロナイト、ベントナイトなどが挙げられる。これらの白色顔料の粒子径は0.25〜10μmであることが好ましい。
【0028】
本発明において可撓性樹脂層は、全体の厚さが均一で、0.05〜1.0mm、好ましくは0.1〜0.5mmで、海成分及び島成分に含む着色剤含有率は0.01〜10質量%、好ましくは0.05〜5.0質量%である。また特に島成分に着色剤を含有する場合、島成分の比率は、海成分に対して10〜70体積%(好ましくは20〜50体積%)、可撓性樹脂層全体に対する島成分含有率は9〜41.1体積%(好ましくは16.6〜33.3体積%)である。
【0029】
本発明において可撓性樹脂層を編織布に設ける方法としては、例えば、有機溶剤に分散させた樹脂非相溶混合物、樹脂エマルジョン(ラテックス)非相溶混合物、樹脂ディスパージョン非相溶混合物、軟質ポリ塩化ビニル樹脂を主体とするペーストゾル非相溶混合物、熱硬化性樹脂を主体とする非相溶混合物などを用いて、公知の塗工方法、例えばディッピング(編織布への両面加工)、コーティング(繊維布帛への片面加工、または両面加工)などの塗工が例示できる。また編織布にカレンダー成型、Tダイス押出法により成形した、非相溶熱可塑性混合物からなる0.05〜1.0mmのフィルム又はシートを、接着剤を介して、あるいは熱ラミネートにより積層する方法、及びこれらの塗工と積層の組み合わせが例示できる。このとき、少なくとも編織布に直接積層した可撓性樹脂層の屈折率n1と、延伸フィラメントの延伸方向の屈折率naとの差の絶対値|n1−na|が0<|n1−na|≦0.2を満たし、かつ、可撓性樹脂層の屈折率n1と、延伸フィラメントの延伸垂直方向の屈折率nbとの差の絶対値|n1−nb|が|n1−nb|≦0.2を満たす様に、可撓性樹脂と延伸フィラメントを適宜選択することが好ましい。
【0030】
本発明の産業資材シートは40〜90%の可視光透過率(JIS Z8722)を有する光拡散透過性シートであることが好ましい。可視光透過率が40%未満であると光天井、光壁、内照看板、ドーム状構造物に用いた場合、十分な照明機能が発揮できなくなると同時に、背面から映写した映像が暗く充分な輝度が得られないことがあり、また90%を超えると前面及び背面から映写した映像のコントラストや色相の再現性が不充分となる問題を生じることがある。
【0031】
本発明の産業資材シートに関して、図2の光拡散透過性シートを一例として説明する。図2の光拡散透過性シートは、編織布(1)として平織り織布を用い、非相溶系樹脂加工液をディップ加工することにより可撓性樹脂層(2−1)が編織布の両面に形成され、更にその片面上に非相溶系樹脂加工液をコーティング加工して可撓性樹脂層(2−2)が形成されている。このとき、可撓性樹脂層(2−1)を構成する樹脂と延伸フィラメントの選択において|n1−nb|が0.2以下となるような組合せを選択すれば、延伸垂直方向bの屈折率nb、すなわち織布の表面や裏面に垂直な方向の延伸フィラメントの屈折率nbと可撓性樹脂の屈折率n1の差が小さいため、延伸フィラメントと可撓性樹脂の界面での光の屈折がほとんどないか、あるいはわずかしか起こらず、産業資材シート内部に含まれる織布はほとんど視認することができない。この光拡散透過性シートのいずれかの面を前面として、前面側から映写すれば可撓性樹脂層に含まれる海島構造(島成分が着色剤を含む)により光が拡散され、前面側から観て鮮明な映像を投映することができ、また、背面から映写して前面から観た場合でも、織布がほとんど視認されないため延伸フィラメントによる陰影を生じず、前面から映写した場合と同様の鮮明な映像を投映することができる。
【0032】
実際の使用において背面から映写される場合には、映像投映装置とスクリーンの間の距離を充分にとることができず、図3の様に広角の映写レンズから投映したり、図4の様に斜め方向から投映したりすることがある。このときスクリーンとして例えば、単に光拡散性粒子を練り混んだ等方的な拡散性を示す拡散板を用いると、広角の映写レンズを有する映像投映装置から映写した場合には中央部が明るく、周辺部が暗くなり、斜めから映写した場合には映像投映装置から近い部分が明るく、遠い部分が暗くなるなど、投映画像に輝度差を生じることがあるが、本発明の産業資材シートにおいてはその様な輝度差はほとんど確認されず、ほぼ均一な輝度の映像を得ることができる。このような効果が得られる原因は定かではないが以下の様に推察される。
1、例えば図5において、延伸フィラメントの延伸垂直方向の屈折率nbが可撓性樹脂
層の屈折率n1の屈折率とほぼ等しい光拡散透過性シートを想定した場合、光拡散透
過性シートの垂直方向から入射した光(Lv)は、可撓性樹脂と延伸フィラメントα
(1−a)、可撓性樹脂と延伸フィラメントβ(1−b)の界面どちらでも、延伸フ
ィラメントの延伸垂直方向から入射するため屈折せず拡散されない。
2、一方、光拡散透過性シートの斜め方向から入射した光(Ls)は、延伸フィラメン
トα(1−a)に対して延伸方向aから入射し、延伸フィラメントの延伸方向aの屈
折率naと、編織布に積層した可撓性樹脂層の屈折率n1との差の絶対値|n1−n
a|は0を超えて0.2以下であるため、可撓性樹脂と延伸フィラメントαとの界面
で僅かに屈折して適度に拡散され、光が斜めに入射した部分で輝度が上がる。
3、可撓性樹脂と延伸フィラメントの界面においては、垂直に近い角度で光が入射した
部分では拡散が少なく、より斜めの角度から入射した光が拡散される。そのため、光
拡散物質を練りこんだだけのスクリーンに比べて、光の入射角度による輝度のバラツ
キが少なくなるので、斜め方向からの観察によっても投映映像の認識可能であり、さ
らに曲面部にも投映可能となる。なお、図5では光拡散性物質からなる粒子の表現は
省略している。
【0033】
本発明の産業資材シートにおいて|n1−na|、|n1−nb|のいずれか一方あるいは両方が0.2を超えると、可撓性樹脂と延伸フィラメントの界面での光拡散が過剰となり産業資材シートの光線透過率が低下し、背面から映写する際に延伸フィラメントの陰影が目立つようになり、シート背面からの投映に対してシート前面から鮮明な映像を観賞することができなくなることがある。また|n1−na|が0であると、可撓性樹脂と延伸フィラメント界面での適度な光拡散が得られず、広角の映像投映装置から投映した場合には中央部が明るく、周辺部が暗くなり、斜めから投映した場合には映像投映装置から近い部分が明るく、遠い部分が暗くなるなど、輝度差を生じ斜め方向からの観察においては認識性が劣ることがある。
【0034】
本発明の産業資材シートにおいて、表面の傷つき、汚れの付着、各種添加剤の表面への移行などを防止する目的で、上述の光拡散透過性シートが、その一方の面もしくは両面上に保護樹脂層を有していていることが好ましい。保護樹脂層は防汚性を有する樹脂層であることが好ましく、これらは例えばアクリル系樹脂、フッ素系共重合樹脂、アクリル−シリコン共重合樹脂、アクリルーフッ素共重合樹脂、アクリル−ウレタン共重合樹脂、アクリル系樹脂とフッ素系共重合樹脂とのブレンド、及びこれらにシリカ微粒子、コロイダルシリカ、オルガノシリケートを含んでなる樹脂層である。この保護樹脂層の形成例としては、溶剤あるいは水に可溶な樹脂の溶液、または樹脂を水などの分散媒に分散したエマルジョン液をスプレーコート、グラビアコート、バーコートなどのコーティング法で塗布・乾燥する事による形成、最外表面をフッ素含有樹脂またはフッ素含有共重合体樹脂とするフィルムを接着剤もしくは熱溶融加工により積層することによる形成である。また、これらの保護樹脂層上には更に、光触媒性無機材料(例えば光触媒性酸化チタン・光触媒性酸化タングステン)を含む光触媒層を設けることが防汚性付与の観点で好ましい。特に蛍光灯の配置を伴う光天井や光壁、光看板などの屋内用途においては可視光活性型の光触媒性無機材料を含む光触媒層を形成することがセルフクリーニングによる防汚性付与の観点で更に好ましい。
【0035】
本発明の産業資材シートにおいて、可撓性樹脂層には必要に応じて公知の添加剤を含んでいても良い。添加剤としては、例えば、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、可撓性付与剤、充填剤、接着剤、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、安定剤、レベリング剤、消泡剤、抗菌剤、防黴剤、着色剤、蛍光増白剤、蛍光顔料、蓄光顔料などが挙げられる。
【0036】
本発明の産業資材シートは消防法、または建築基準法に規定される難燃性、または不燃性を有する光拡散透過性シートであることが好ましく、このため産業資材シート、及び背面映写システムを搭載した産業資材構造物は、輻射電気ヒーターを用いて50kW/mの輻射熱を照射する発熱性試験(ASTM−E1354:コーンカロリーメーター試験法)において、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、かつ加熱開始後20分間、最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/mを超えないことを満足する不燃性を有する光拡散透過性シートであることが好ましい。このような不燃性の産業資材シートは、ガラス繊維織布(目付質量200〜300g/m 、空隙率1%以下の非目抜け平織)を基材として、この1面以上に可撓性樹脂層を設けることで得られる。
【0037】
本発明の背面映写システムは、延伸フィラメントを含んでなる編織布の片面以上に、可撓性樹脂層を積層してなる複合基材を含み、可視光透過率(JIS Z8722)40〜90%を有する光拡散透過性シートの背面に、映像投映装置を配置してなる産業資材構造物である。本システムにおいて可撓性樹脂層は、2種類の熱可塑性樹脂の非相溶混合物からなる海島構造を有し、この海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方が着色剤を含んでいる。また本システムにおいて可撓性樹脂層の屈折率n1と延伸フィラメントの延伸方向の屈折率naとの差の絶対値|n1−na|が下記式1を満たし、かつ、可撓性樹脂層の屈折率n1と、延伸垂直方向bの屈折率nbとの差の絶対値|n1−nb|が、下記式2を満たすことで背面から映写した画像を前面から観賞する際に光拡散透過性シートに含まれる編織布がほとんど目立たず、色の再現性に優れ、尚且つ斜め方向からの観察においても鮮明な映像を認識することができるので曲面部を有する天井や壁にも投映が可能となる。
0<|n1−na|≦0.2 式1
|n1−nb|≦0.2 式2
また、光拡散透過性シートが延伸フィラメントを含む編織布で補強された光拡散透過性シートであるため、産業資材構造物として充分な強度と耐久性を有している。本発明の背面映写システムは産業資材シート(3)を映写スクリーンとし、その背面側に映像投映装置(4)を配し、前記映像投映装置から投映された映像を、産業資材シートを透過させて観賞する構成を有する。背面に充分なスペースがない場合には、図3の様に広角レンズを有する映像投映装置を用いたり、図4の様に上下左右いずれかの方向に配した映像投映装置から斜めに投映したり、図6の様に上下左右いずれかの方向に配した映像投映装置から鏡(5)に反射させて投映する方法を用いることができる。
【0038】
本発明の背面映写システムは、光拡散透過性シートを、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において前記光拡散透過性シートに対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/mで照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/mを超えない産業資材シートとすることで、建築基準法に定められる不燃性を求められる用途に本発明の背面映写システムを応用することができる。
【0039】
本発明において、映像投映装置は、スライド映写機、フィルム映写機、プラネタリウム投映機、レーザー投映機、オーバーヘッドプロジェクターおよびビデオプロジェクターなど従来公知の映像投映装置から適宜選択して単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でビデオプロジェクターは、テレビ、ビデオ、DVD、ブルーレイ、及びコンピュータの画像など、各種映像ソースの投映に対応することができるため好ましく用いられる。特にコンピュータ処理画像をビデオプロジェクターを介して投映する場合には、コンピュータのハードディスクに保存された静止画や動画、コンピュータにLAN経由で配信した情報、静止画、動画、及びライブカメラの映像、コンピュータに内蔵された受信機で受信したテレビの映像、などを随時選択し、必要に応じて複合表示することができる。映像投映装置は固定である必要はなく、投映角度を制御可能に設置したり、レールを走行して直線状に移動可能にしたり、XYステージにより平面を移動可能に設置したり、更にはクレーンなどにより3次元を移動可能に設置することで、投映位置を自在に変更することが可能となる。本発明の背面映写システムは、更に音響装置を併用することで、映像に合わせた音声情報、効果音、バックグラウンドミュージック等を組み合わせた多彩な表現が可能となる。映像表示のタイミングや組合わせ、映像投映装置の投映角度や位置を変えることによる投映位置の制御、音声の制御に関しては、コンピュータのプログラムによって設定したり、オペレーターが直接制御することが可能であり、自由度が高く表現力に富んだ背面映写システムを構築することができ
【0040】
図7は本発明の産業資材シートを天井に用いた背面映写システムの一例を示すものである。産業資材シートとしては、天井材に求められる不燃性を満たし、且つ充分な強度や耐久性を有した光拡散透過性シートを用いる。そのため、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、及び各種公共施設などにおける大面積の天井に適して用いることが可能で、更にはエレベーターかご内の天井や鉄道車両の天井などにも用いることができる。光拡散透過性シートは天井の全面に用いても良いし、所望の一部分だけに用いても良い。大面積に同時に投映する場合には、複数の映像投映装置を配置すればよい。光拡散透過性シート(3)の背面には照明装置(6)を配置することで、映写システムを利用しないときには光天井システムとして用いる事もでき、照明を点灯した状態で同時に天井の一部に映像を投映する利用も可能である。また、映像投映装置から単色光を映写して照明装置の代わりとして用いれば、映像投映装置のみで映写システムと光天井システムを兼用することもできる。天井の形状としては、図7の様な平面状に限らず、アーチ型やドーム型など曲面状であっても良く、映像投映角度や観察者の観る角度に係わりなく鮮明な映像を得る事ができる。図8は図7の背面映写システムを地下街通路の天井に用いた例を示すものである。天井一面に光拡散透過性シート(3)が用いられており、普段は照明装置(6)を点灯することで光天井として機能しているが、任意のタイミングで任意の位置に映像を投映することで、例えば地下街の通行人に店舗(9)への来店を促す情報をタイムリーに掲示するなどの利用が可能となる。
【0041】
図9は本発明の産業資材シートを壁に用いた背面映写システムの一例を示すものである。産業資材シートとして、壁材に求められる不燃基準を満たし、且つ充分な強度や耐久性を有した光拡散透過性シートを用いる。天井に用いる場合同様、壁面の全面に用いてもよいし、所望の一部分だけに用いても良い。光拡散透過性シート(3)の背面に照明装置(6)を配置すれば、照明機能を併せ持つ壁面とする事ができ、照明を点灯した状態で同時に壁面の一部に映像を投映する利用も可能である。壁の形状も、天井の場合同様、図9の様な平面状に限らず、曲面状であっても良く、映像投映角度や観察者の観る角度に係わりなく鮮明な映像を得る事ができる。
【0042】
図10は本発明の産業資材シートをドームに用いた背面映写システムの一例を示すものである。産業資材シートとして、ドーム材料として求められる難燃基準及び不燃基準を満たし、且つ充分な強度や耐久性を有した光拡散透過性シートを用いる。光拡散透過性シート(3)は内膜として映写用のドームを構成し、その外側に外膜として遮光性の産業資材シート(7)を用いたドームを有する2層構造となっており、映像投映装置(4)は内幕と外膜の間に配置されている。遮光性の外膜を配することで、昼間でも投映された映像をドーム内部で観賞することができる。大面積に同時に投映する場合には、複数の映像投映装置を配置すれば良い。また、図11の様に1層のドーム構造物として、映像投映装置(4)をドーム内部に配置することで、ドームの外側にむけて映像を表示する産業資材構造物とすることもできる。これら映写用のドームにおいては全体を本発明の産業資材シートによって構成してもよく、一部のみに本発明の産業資材シートを用いても良い。ドーム状の産業資材構造物においては光拡散透過性シート(3)が曲面状に設置されているため、一つの映像投映装置(4)から投映された映像の部分によって光拡散透過性シート(3)に投映される角度が異なり、また、複数の観察者が異なる位置から観察する場合に、それぞれが異なる角度から同じ映像を観察することになるが、本発明の産業資材構造物は投映する角度や観察する角度に係わり無く、鮮明な映像を得ることができる。
【0043】
図12は本発明の産業資材シートを看板に用いた背面映写システムの一例を示すものである。産業資材シートとして、防火地域内の看板材料として求められる不燃基準を満たしており、かつ編織布を含むため充分な強度や耐久性を有した光拡散透過性シートを用いる。下部に配置した映像投映装置から鏡(5)に反射させて、表示部に展張された光拡散透過性シート(3)に投映する。通常の内照式看板とは異なり、任意の静止画や動画を逐次投映することが可能となり、看板、ディスプレイ、案内板など、多目的な表示システムとして活用範囲を大きく拡げることができる。看板の形状も、天井の場合同様、平面状に限らず、曲面を有する立体的な形状であっても良く、映像投映角度や観察者の観る角度に係わりなく鮮明な映像を得る事ができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
以下の実施例および比較例において、編織布として下記の基布を用いた。基布の寸法は全てたて(経糸方向)150cm×よこ(緯糸方向)150cmとした。
(基布1)
溶融延伸フィラメント直径9μm/750dtexのガラス繊維(naおよびnb:
1.556)を用いたガラス繊維平織り布
織密度 たて(経糸) 40本/インチ よこ(緯糸) 30本/インチ
精練(ヒートクリーニング)
シランカップリング処理 メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウ
コーニング社製Z6030)
(基布2)
延伸ナイロン333dtexマルチフィラメント(na:1.578、
nb:1.522)を用いた平織り布
密度 たて(経糸) 40本/インチ よこ(緯糸) 30本/インチ
(基布3)
延伸ポリプロピレン278dtexマルチフィラメント
(na:1.530、nb:1.496)を用いた平織り布
密度 たて(経糸) 40本/インチ よこ(緯糸) 30本/インチ
(基布4)
溶融延伸フィラメント直径9μm/750dtexで基布1とは屈折率の異なるガラス
繊維(naおよびnb:1.524)を用いたガラス繊維平織り布
密度 たて(経糸) 40本/インチ よこ(緯糸) 30本/インチ
精練(ヒートクリーニング)
シランカップリング処理 メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウ
コーニング社製Z6030)
【0046】
実施例及び比較例で作成した産業資材シートについて光天井モデルを作製して以下の評価を行った。光天井に用いた産業資材シートのサイズはたて1.5m×よこ1.5m、であり、産業資材シートは平面施工、及び緩やかな曲面施工の2タイプを作製し、背面に30ワット40型の蛍光灯4本を均等に配置した。また映像投映装置として液晶式ビデオプロジェクター(セイコーエプソン(株)社製EMP−400W)を使用した。
<背面映写の輝度均一性及び斜め方向からの視認性>
たて1.5m×よこ1.5mの産業資材シート(3)を、図13(a)の様に天井に平
面施工しその上方1mの位置に映像投映装置(4)としてビデオプロジェクターを配
し、産業資材シートの中心に向けて垂直に映写した。映写された映像について、下方か
ら、シートの面に対して垂直の角度、及び面に対して15度の角度で5m離れた位置か
ら観察し、以下の基準で評価した。次いで、図13(b)の様な曲面施工についても、
同様に評価した。なお、図13(a)及び(b)において、蛍光灯の表現は省略した。
1:映像中心部と映像周辺部の輝度差がほとんど無く、垂直方向からの観察に対して
15度の角度で5m離れた位置からの観察においても輝度の低下が少なく、鮮明
な映像が得られる
2:明らかに映像中心部と映像周辺部の輝度差があり、15度の角度で5m離れた位
置からの観察においては垂直方向からの観察に比べて輝度が低下した
3:映像中心部と映像周辺部の輝度差は少なく、垂直方向からと15度の角度で5m
離れた位置からの観察における輝度にも大きな差はないが、全体的に輝度やコン
トラストが低く映像が不鮮明である
<背面映写に対する延伸フィラメントの陰影>
産業資材シートの上方に配置したビデオプロジェクターからの映写を、産業資材シート
下方から観察したときの、延伸フィラメントによる陰影の有無を以下の様に評価した。
1:延伸フィラメントの陰影がほとんど視認できない
2:延伸フィラメントの陰影により映像の鮮明さが阻害される
<映写スクリーン機能>
図14のように産業資材シート(3)と映像投映装置(4)としてビデオプロジェクタ
ーを配置し、ビデオプロジェクター側(前面投映)およびビデオプロジェクターとは反
対側からそれぞれ観察し、前面および背面からの投映に対する映写スクリーンとしての
機能を、映像の鮮明さ、発色性、輝度などの観点から以下の様に評価した。
1:前面および背面からの投映に対する映写スクリーンとして優れている
2:前面からの投映に対する映写スクリーンとして使用可能だが、
背面からの映写には不適切である
3:前面投映・背面投映ともに映写スクリーンとして不適切である
<可視光透過率>
産業資材シートの可視光透過率を分光側色計CM−3600d(コニカミノルタ(株)
製)を使用しJISZ 8722に従って測定した。
<マンセル明度>
産業資材シートの可撓性樹脂層のマンセル明度(JIS Z8721)を、
MUNSELL BOOK OF COLOR標準色見本に照合させた。
<引張強度>
産業資材シートから基布の糸目に沿って経糸方向30cm、緯糸方向3cmの短冊(経
方向試料)、経糸方向3cm、幅方向30cmの短冊(緯方向試料)をそれぞれ採取
し、JISL1096ストリップ法により引張試験を行い、破断強さ(N/3cm)を
求めた。
<燃焼試験>(ASTM−E1354:コーンカロリーメーター試験法)
輻射電気ヒーターによる50kW/mの輻射熱を産業資材構造物に20分間照射し、
この発熱性試験において、20分間の総発熱量と発熱速度を測定し、試験後の膜材外観
を観察した。
(a)総発熱量:8MJ/m以下のものを適合とした。
(b)発熱速度:10秒以上継続して200kW/mを超えないものを適合とした。
(c)外観観察:直径0.5mmを超えるピンホール陥没痕の発生がないものを適合と
した。
【0047】
[実施例1]
下記配合1の軟質塩化ビニル樹脂ペーストの攪拌混合物に、下記配合2の黒着色ビニルエステル樹脂攪拌混合物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して20質量%加えて撹拌し、黒着色ビニルエステル樹脂を均一分散させ非相溶樹脂混合物液1を得た。この樹脂混合物液1を充満させた浴槽に基布1を浸漬し、基布1に樹脂混合物液1を完全に含浸させた。次いで、ドクターブレードで基布1両面の余分な樹脂混合物液1を掻き落とし、180℃×5分間電気炉加熱して、基布1の両面に可撓性樹脂を被覆したシートを得た。次にPETフィルムの1面上に樹脂混合物液1を0.12mm厚でコートし、これを先に作成したシートの片面に重ね、電気炉で180℃×5分間加熱して樹脂混合物液1を固化させて、からPETフィルムを除去して平滑な可撓性樹脂層を形成した。この可撓性樹脂層を顕微鏡観察すると、ビニルエステル樹脂が黒色の島成分を構成しており、軟質塩化ビニル樹脂が無色の海成分を構成していた。このシートの可視光透過率は66%、屈折率n1は1.548であった。
<配合1>
乳化重合ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1700) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 50質量部
リン酸クレジルフェニル(可塑剤) 46質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部

<配合2>
ビニルエステル樹脂 100質量部
(日本ユピカ(株)製 商品名:ネオポール8319)
硬化剤 1質量部
(ジ−(4−tert−ブチルシクロヘキシル)パ−オキシジカ-ボネ-ト)
着色剤(アニリンブラック) 1質量部
得られたシートを光天井に施工して各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0048】
[実施例2]
下記配合1の軟質塩化ビニル樹脂ペーストの攪拌混合物に、下記配合3の白着色ビニルエステル樹脂攪拌混合物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して20質量%加えて撹拌し、白着色ビニルエステル樹脂を均一分散させ非相溶樹脂混合物液2を得た。この樹脂混合物液2を充満させた浴槽に基布2を浸漬し、基布2に樹脂混合物液2を完全に含浸させた。次いで、ドクターブレードで基布2両面の余分な樹脂混合物液2を掻き落とし、180℃×5分間電気炉加熱して、基布2の両面に可撓性樹脂を被覆したシートを得た。次にPETフィルムの1面上に樹脂混合物液1を0.12mm厚でコートし、これを先に作成したシートの片面に重ね、電気炉で180℃×5分間加熱して樹脂混合物液2を固化させて、からPETフィルムを除去して平滑な可撓性樹脂層を形成した。この可撓性樹脂層を顕微鏡観察すると、ビニルエステル樹脂が白色の島成分を構成しており、軟質塩化ビニル樹脂が無色の海成分を構成していた。このシートの可視光透過率は65%、屈折率n1は1.548であった。
<配合3>
ビニルエステル樹脂 100質量部
(昭和高分子(株)製SSP50−C06)
硬化剤 1質量部
(ジ−(4−tert−ブチルシクロヘキシル)パ−オキシジカ-ボネ-ト)
着色剤:酸化チタン粒子(平均粒子径0.4μm) 3質量部
得られたシートを光天井に施工して各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0049】
[実施例3]
基布3を用いた以外は実施例2と同様に産業資材シートを作成した。このシートの可視光透過率は67%、硬化した可撓性樹脂の屈折率n1は1.548であった。得られたシートを光天井に施工して各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0050】
[実施例4]
実施例1の配合2の黒着色ビニルエステル樹脂攪拌混合物を、下記配合4の黒着色シリコーン樹脂に置き換え、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して20質量%加えて撹拌し、黒着色シリコーン樹脂を均一分散させ非相溶樹脂混合物液3を得た。この樹脂混合物液3を充満させた浴槽に基布4を浸漬し、基布4に樹脂混合物液3を完全に含浸させた。次いで、ドクターブレードで基布4両面の余分な樹脂混合物液3を掻き落とし、180℃×5分間電気炉加熱して、基布4の両面に可撓性樹脂を被覆したシートを得た。次にPETフィルムの1面上に樹脂混合物液3を0.12mm厚でコートし、これを先に作成したシートの片面に重ね、電気炉で180℃×5分間加熱して樹脂混合物液3を固化させて、からPETフィルムを除去して平滑な可撓性樹脂層を形成した。この可撓性樹脂層を顕微鏡観察すると、シリコーン樹脂が黒色の島成分を構成しており、軟質塩化ビニル樹脂が無色の海成分を構成していた。可撓性樹脂層の屈折率n1は1.529であった。次に、表裏両面に添加剤移行防止層と接着・保護層からなる保護層を順次設け、両面の保護層上に更に光触媒層を設けた。添加剤移行防止層は下記配合5からなる加工液をグラビヤコーターを用いて塗布し、120℃で1分間乾燥後冷却して形成した。接着・保護層は下記配合6からなる加工液をグラビヤコーターを用いて塗布し、100℃で1分間乾燥後冷却して形成した。光触媒層は下記配合7からなる加工液をグラビヤコーターで塗布し、100℃で1分間乾燥後冷却して形成した。得られた添加剤移行防止層は5g/m、接着・保護層は1.5g/m、光触媒防汚層は1.5g/mであった。このシートの可視光透過率は69%であった。
<配合4>
商標:シラスコンRTV4086A
(2液付加反応硬化型シリコーン樹脂:有効成分100%:ダウコーニングアジア社製)
50質量部
商標:シラスコンRTV4086B
(2液付加反応硬化型シリコーン樹脂:有効成分100%:ダウコーニングアジア社製)
50質量部
着色剤(カーボンブラック) 1質量部

<配合5>添加剤移行防止層組成
ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂 20質量部
(商標:カイナー7201:エルフ・アトケム・ジャパン(株))
MEK(溶剤) 80質量部

<配合6>接着・保護層処理液組成
シリコン含有量3mol%のアクリルシリコン樹脂を8質量%(固形分)含有する
エタノール−酢酸エチル(50/50質量比)溶液 100質量部
メチルシリケートMS51(コルコート(株))の20%エタノール溶液
(ポリシロキサン) 8質量部
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤 )1質量部

<配合7>光触媒層処理液組成
酸化チタン含有量10質量%に相当する硝酸酸性酸化チタンゾルを分散させた
水−エタノール(50/50質量比)溶液 50質量部
酸化珪素含有量10質量%に相当する硝酸酸性シリカゾルを分散させた
水−エタノール(50/50質量比)溶液 50質量部
得られた産業資材シートを光天井に施工して各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0051】
[実施例5]
実施例4において配合4の黒着色シリコーン樹脂を、下記配合8の黒着色シリコーン樹脂に置き換え、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して20質量%加えて撹拌し、黒着色シリコーン樹脂を均一分散させ非相溶樹脂混合物液4を得た。それ以外は実施例4と同様にして、光触媒層を両面に設けた産業資材シートを得た。このシートの可視光透過率は54%、屈折率n1は1.529であった。得られた産業資材シートを光天井に施工して各種評価を行った。結果を表1に示す。
<配合8>
商標:シラスコンRTV4086A
(2液付加反応硬化型シリコーン樹脂:有効成分100%:ダウコーニングアジア社製)
50質量部
商標:シラスコンRTV4086B
(2液付加反応硬化型シリコーン樹脂:有効成分100%:ダウコーニングアジア社製)
50質量部
着色剤:フタロシアニンブルー、キナクリドンマゼンタ、ハンザイエローミディアムを
2:4:3質量比で混合した黒色系顔料 1質量部
【0052】
[実施例6]
下記配合9のシリコーン樹脂の攪拌混合物に、下記配合10の黒着色塩化ビニル樹脂攪拌混合物を、シリコーン樹脂単体の質量に対して20質量%加えて撹拌し、黒着色塩化ビニル樹脂を均一分散させ非相溶樹脂混合物液5を得た。この樹脂混合物液5を充満させた浴槽に基布1を浸漬し、基布1に樹脂混合物液5を完全に含浸させた。次いで、ドクターブレードで基布1両面の余分な樹脂混合物液5を掻き落とし、180℃×10分間電気炉加熱して、基布1の両面に可撓性樹脂を被覆したシートを得た。次にPETフィルムの1面上に樹脂混合物液1を0.12mm厚でコートし、これを先に作成したシートの片面に重ね、電気炉で180℃×10分間加熱して樹脂混合物液5を固化させてからPETフィルムを除去して平滑な可撓性樹脂層を形成した。この可撓性樹脂層を顕微鏡観察すると、塩化ビニル樹脂が黒色の島成分を構成しており、シリコーン樹脂が無色の海成分を構成していた。このシートの可視光透過率は54%、屈折率n1は1.419であった。
<配合9>
商標:シラスコンRTV4086A
(2液付加反応硬化型シリコーン樹脂:有効成分100%:ダウコーニングアジア社製)
50質量部
商標:シラスコンRTV4086B
(2液付加反応硬化型シリコーン樹脂:有効成分100%:ダウコーニングアジア社製)
50質量部

<配合10>
乳化重合ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1700) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 50質量部
リン酸クレジルフェニル(可塑剤) 46質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
着色剤(アニリンブラック) 1質量部
得られたシートを光天井に施工して各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0053】
[実施例7]
下記配合11の軟質塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物に、下記配合12の黒着色ポリエチレン樹脂の熱溶融混練物を、塩化ビニル樹脂単体の質量に対して20質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、黒着色ポリエチレン樹脂を均一分散させ非相溶樹脂混合物6を得た。この樹脂混合物6を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.12mmのフィルムに成型した。このフィルムを可撓性樹脂層として基布1の両面に積層して産業資材シートを得た。この可撓性樹脂層を顕微鏡観察すると、ポリエチレン樹脂が黒色の島成分を構成しており、軟質塩化ビニル樹脂が無色の海成分を構成していた。このシートの可視光透過率は63%、屈折率n1は1.540であった。
<配合11>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 50質量部
リン酸クレジルフェニル(可塑剤) 46質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部

<配合12>
低密度ポリエチレン樹脂(密度0.945) 100質量部
着色剤(アニリンブラック) 1質量部
得られたシートを光天井に施工して各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
[実施例8]
下記配合13の軟質フッ素樹脂の熱溶融混練物に、下記配合14の白着色塩化ビニル樹脂の熱溶融混練物を、軟質フッ素樹脂単体の質量に対して20質量%加えてバンバリーミキサーで熱溶融混練し、白着色塩化ビニル樹脂を均一分散させ非相溶樹脂混合物7を得た。この樹脂混合物7を180℃設定のカレンダーロール4本を通過させて厚さ0.12mmのフィルムに成型した。このフィルムを可撓性樹脂層として基布1の両面に積層して産業資材シートを得た。この可撓性樹脂層を顕微鏡観察すると、塩化ビニル樹脂が白色の島成分を構成しており、軟質フッ素樹脂が無色の海成分を構成していた。このシートの可視光透過率は58%、屈折率n1は1.397であった。
<配合13>
軟質フッ素樹脂
(四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン−フッ化ビニリデン三元共重合体樹脂)
100質量部

<配合14>
ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
リン酸トリクレジル(可塑剤) 50質量部
リン酸クレジルフェニル(可塑剤) 46質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
酸化チタン粒子(着色剤:平均粒子径0.4μm) 3質量部
【0055】
実施例1〜8の産業資材シートは、可視光透光率が高く、産業資材として充分な強度を有し、平面施工、曲面施工ともに背面からの映写に対して、映像中心部と映像周辺部の輝度差がほとんどみられず、斜め15度からの観察でも垂直方向から観察したのと同等の輝度の鮮明な映像が得られ、背面から映写した映像を前面から観察した際に延伸フィラメントの陰影はほとんど視認されなかった。また実施例1、4、5〜8は燃焼試験の結果不燃性に適合するものであった。
【0056】
[比較例1]
実施例1において、配合2の黒着色ビニルエステル樹脂攪拌混合物の併用を省略した以外は実施例1と同様にしてマンセル明度9.5のシートを得た。得られた産業資材シートを光天井に施工して各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0057】
[比較例2]
実施例1において、配合1の軟質塩化ビニル樹脂ペースト攪拌混合物の併用を省略した以外は実施例1と同様にしてマンセル明度2.0のシートを得た。得られた産業資材シートを光天井に施工して各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0058】
[比較例3]
実施例1において、配合2の黒着色ビニルエステル樹脂攪拌混合物から黒の着色剤を省略した以外は実施例1と同様にしてマンセル明度9.5のシートを得た。得られた産業資材シートを光天井に施工して各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0059】
比較例1のシートは光拡散効果が不足して、前面および背面からの投映による映像が白飛びしてぼやけた状態となり映写スクリーンとして不適切なシートであった。特に透光率が高く透視性も高いため、平面施工、曲面施工ともに背面から投映した際に反対側からプロジェクターの存在が目立ち、照明カバーとしても不適切であった。また比較例2のシートは光拡散効果が不足して全体的に黒いため、前面および背面からの投映による映像の鮮明さが不足していた。また平面施工、曲面施工ともに背面から投映した際に反対側からプロジェクターの存在が認識できるものであった。比較例3のシートは、光拡散効果は満足でき、背面のプロジェクターの存在が目立たないレベルであったが、映像が白飛びしてぼやけた状態となり映写スクリーンとして不適切なシートであった。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の背面映写可能な産業資材シートは、前面及び背面から投影する映写スクリーンとしての機能を有する光拡散透過性シートであり、且つ産業資材シートとして充分な強度と耐久性を有しているため、これを用いた天井、壁、内照看板、ドーム、テント、シートシャッター、間仕切りなど、さまざまな産業資材構造物に対して背面投映可能なシステムを構築することができ、更に映像を斜め方向から見た際の認識性や曲面部への投映性にも優れるため、歩行者の自然な視線に対する認識性の高い背面投映システムが得られる。特に不燃特性を有する本発明の産業資材シートを、天井材、壁材、内照看板材、ドーム材として用いた産業資材構造物は、高層ホテル、インテリジェントビル、ステーションビル、エアポート、駅舎構内、地下街通路、大型商業施設、アミューズメント施設、冠婚葬祭式場、総合病院、及び各種公共施設などに広く利用でき、照明機能と兼用してデジタル画像や動画を投映することで情報伝達にエンターティメント性を附帯させたり、アミューズメント分野においては演出効果が飛躍的に向上するなど様々な活用が期待できる。またさらに迅速な情報提供事例として、災害時の緊急避難誘導としての利用も期待される。
【符号の説明】
【0063】
1:編織布
1−a:延伸フィラメントα
1−b:延伸フィラメントβ
2:海島構造を有する可撓性樹脂層
3:産業資材シート(光拡散透過性シート)
4:映像投映装置
5:鏡
6:照明装置
7:遮光性シート
8:ハウジング
9:地下街の店舗
10:海成分
10−a:着色剤を含む海成分
10−b:着色剤を含まない海成分
10−c:白色顔料を含む海成分
11:島成分
11−a:着色剤を含む島成分
11−b:着色剤を含まない島成分
11−c:白色顔料を含む海成分
a:延伸フィラメントの延伸方向
b:延伸フィラメントの延伸垂直方向
Lv:光拡散透過シートに垂直に入射した光
Ls:光拡散透過シートに斜めに入射した光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
延伸フィラメントを含んでなる編織布の片面以上に、可撓性樹脂層を積層してなる複合基材を含む光拡散透過性シートであって、前記可撓性樹脂層が、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、かつ、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方が着色剤を含んでいることを特徴とする背面映写可能な産業資材シート。
【請求項2】
前記海島構造において、島成分が着色剤を含む、請求項1に記載の背面映写可能な産業資材シート。
【請求項3】
前記着色剤が、白色顔料または黒色顔料のいずれかを含む、請求項1または2に記載の背面映写可能な産業資材シート。
【請求項4】
前記着色剤が、青(シアン)・赤(マゼンダ)・黄(イエロー)・黒(ブラック)から選ばれた3種以上の顔料の混合物である、請求項1または2に記載の背面映写可能な産業資材シート。
【請求項5】
前記延伸フィラメントが、延伸方向a、及び前記延伸方向aに対する延伸垂直方向b、とを有し、前記可撓性樹脂層の屈折率n1と前記延伸フィラメントの延伸方向の屈折率naとの差の絶対値|n1−na|が下記式1を満たし、かつ、前記可撓性樹脂層の屈折率n1と、延伸垂直方向bの屈折率nbとの差の絶対値|n1−nb|が、下記式2を満たす光学特性を有することを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の背面映写可能な産業資材シート。
0<|n1−na|≦0.2 式1
|n1−nb|≦0.2 式2
【請求項6】
前記光拡散透過性シートにおいて、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において前記光拡散透過性シートに対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/mで照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/mを超えない不燃特性を有することを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の背面映写可能な産業資材シート。
【請求項7】
延伸フィラメントを含んでなる編織布の片面以上に、可撓性樹脂層を積層してなる光拡散透過性シートの背面に、映像投映装置を配置してなる産業資材構造物であって、前記可撓性樹脂層が、合成樹脂ブレンドによる非相溶混合物からなる海島構造を有し、かつ、前記海島構造において、海成分または島成分のいずれか一方が着色剤を含んでいることを特徴とする、産業資材構造物の背面映写システム。
【請求項8】
前記産業資材構造物が、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において前記光拡散透過性シートに対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/mで照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/mを超えない不燃特性を有する天井である、請求項7に記載の背面映写システム。
【請求項9】
前記産業資材構造物が、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において前記光拡散透過性シートに対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/mで照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/mを超えない不燃特性を有する壁である、請求項7に記載の背面映写システム。
【請求項10】
前記産業資材構造物が、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において前記光拡散透過性シートに対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/mで照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/mを超えない不燃特性を有するドームである、請求項7に記載の背面映写システム。
【請求項11】
前記産業資材構造物が、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において前記光拡散透過性シートに対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/mで照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/mを超えない不燃特性を有する看板である、請求項7に記載の背面映写システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−13282(P2011−13282A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155084(P2009−155084)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000239862)平岡織染株式会社 (81)
【Fターム(参考)】