説明

胎盤由来の幹細胞および前駆体細胞の単離方法

本発明は、哺乳類胎盤中の幹細胞および前駆体細胞を低温保存する方法;及び低温保存した哺乳類胎盤から胎児幹細胞および前駆体細胞を得る方法を提供する。当該方法を実施することにより得られる細胞は、様々な治療的応用に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本出願は2007年6月18日に出願した出願番号60/936,237の米国仮特許出願の利益を主張し、該仮出願は参照においてその全部が本明細書に取り込まれている。
【背景技術】
【0002】
ヒト幹細胞は分化全能性または多能性の前駆体細胞であり、様々な成熟ヒト細胞系譜を生み出すことができる。かような細胞を様々な治療応用に利用することで、再生医療や組織/器官復元といった臨床応用が期待される。現在、幹細胞の供給源は限られている。胎児由来の胎生幹細胞では、現実的な目的のために十分な数を供給することが困難である;なぜならこうした細胞を未分化の状態で増殖および維持するための現行の方法は、複雑かつ煩雑であるからである。
【0003】
誕生後、ほ乳類の胎盤は不要な器官となり、一般的には廃棄される。この胎盤は多様な幹細胞およびその他の多能性細胞を含んでいる。例えば、胎盤由来の多能性細胞は、含脂肪細胞や骨芽細胞といった中胚葉性系統細胞、神経性系統細胞および幹細胞といった外胚葉性細胞に分化することが報告されている。
【0004】
臍帯中の血(「臍帯血」)は造血前駆体幹細胞の供給源である。臍帯血由来の幹細胞は現在のところ、骨髄およびその他関連する移植の際に広く使用されている造血再構成という治療方法での使用のために低温保存されている。新生児由来の臍帯血は低温保存され、後日、該新生児の治療に使用するべく保管される。該臍帯血細胞は一般にこれらを採取したのと同一の個体の治療に用いられる(すなわち、ドナーとレシピエントが同一の個体である)ため、「ドナー」臍帯血細胞は「レシピエント」である個体と同一のヒト白血球抗原(HLA)を有している;それゆえ、移植における拒絶反応や移植片対宿主疾患の危険性は存在しない。
【0005】
幹細胞の供給源としての臍帯血の主要な問題点は、量が少なく、それ故、幹細胞の数が限られている点である。一般に臍帯血の単位はおよそ100ml程度で、この中には平均約2百万個の造血幹細胞が含まれており、この量で十分なのは子供での移植においてのみである。ヒト成人における移植では、一般に少なくとも1kg当たり2x10個の幹細胞が必要であり、より多くの細胞数を必要とする場合おいては、臍帯血サンプルは供給源として十分でないこととなる。
【0006】
当分野においては、胎盤組織の長期保存についての方法、および、低温保存された胎盤から十分な数の幹細胞および前駆体細胞を獲得するための方法の改良が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7045148号明細書
【特許文献2】米国特許第7147626号明細書
【特許文献3】米国特許第6059968号明細書
【特許文献4】米国特許第6461645号明細書
【特許文献5】米国特許第7160724号明細書
【特許文献6】米国特許公開第2007/0053888号明細書
【特許文献7】米国特許公開第2005/0176139号明細書
【特許文献8】米国特許公開第2005/0058631号明細書
【特許文献9】米国特許公開第2007/0009880号明細書
【特許文献10】米国特許公開第2006/0257842号明細書
【特許文献11】米国特許第5583131号明細書
【特許文献12】米国特許第7183273号明細書
【発明の概要】
【0008】
発明の要旨
本発明は哺乳類胎盤の幹細胞および前駆体細胞の低温保存方法および低温保存した哺乳類胎盤から胎児幹細胞および前駆体細胞を獲得する方法を提供する。該方法を実施することにより得られる細胞は様々な治療適用に使用しうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1A−Cは出産間近の胎盤および臍帯血、分化アッセイおよび長期培養の開始細胞由来の造血幹細胞を示す。
【図2】図2はCD34およびCD117を染色したヒト胎盤のパラフィン切片を示す。
【図3】図3はCD34およびCD38を染色したヒト胎盤のパラフィン切片を示す。
【図4】図4はCD34およびCD133を染色したヒト胎盤のパラフィン切片を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
定義
本願で使用されている「幹細胞」という用語は増殖を誘導しうる未分化細胞のことをさす。該幹細胞は自己保存ないしは自己再生することができ、これはすなわち、各細胞が細胞分裂し、その娘細胞もまた幹細胞であることを意味する。幹細胞は胎児、生後、若年または成人組織より獲得することができる。幹細胞は多分化能性または多能性であってもよい。「前駆体細胞」という用語は、ここで使用されているのは、幹細胞から由来する未分化細胞で、それ自体は幹細胞でないものをいう。いくつかの前駆体細胞は1種類以上の細胞型に分化しうる子孫細胞を生み出すことができる。
【0011】
抗体結合の文脈における「特異的に結合」という用語は、特異的なポリペプチド、すなわちポリペプチド(例えば接着分子)のエピトープに対する抗体の高い親和性および/または結合性をさす。例としては、特異的な接着分子またはその断片上のエピトープへの抗体結合が、それと同一抗体のその他のエピトープ、特に対象となっている特定の接着分子と関係する、またはそれと同一の分子中に存在しうるエピトープへの結合よりも強固であることが挙げられ、また、抗体が特定の接着分子に、その他のいかなるエピトープよりも余りに強固に結合するあまり、結合条件を調整することで、該抗体がほぼその特異的な接着分子のエピトープのみに結合し、その他のいかなるエピトープや該エピトープを含んでいないその他のいかなるポリペプチドにも結合しないことが挙げられる。特異的な抗体によって認識されるエピトープにはアミノ酸、炭水化物、糖またはこれらのもの1つまたは複数の組み合わせを含みうる。あるポリペプチド(例えば、接着分子)に特異的に結合する抗体はその他のポリペプチドに微弱ではあるが検出可能な程度(例えば、所望のポリペプチドに対して示される結合の10%またはそれ以下)結合してもよい。かような微弱な結合またはバックグラウンドレベルの結合は、標的となるポリペプチドへの得的な抗体結合から、例えば適当な対照を用いることによって、直ちに識別することができる。一般に、特異的な抗体は所定のポリペプチドに10−7Mまたはそれ以上、例えば10−8Mまたはそれ以上(例えば、10−9M,10−10M、10−11M等)の結合親和性をもって結合する。一般に、10−6Mまたはそれ以下の結合親和性しかない抗体では、現在使われている常套的な方法論を使用する上で、抗原を検出し得るレベルで結合しないため、有用ではない。
【0012】
本願で使用されている「治療」「治療する」という用語およびその類語は、望ましい薬理的および/または生理的効果をえることを意味する。該効果は、完全にまたは部分的に疾患またはその症状を予防するという意味において予防的効果であってもよく、および/または完全にまたは部分的に疾患および/または該疾患に起因する不都合な効果を治療するという意味において治療的効果であってもよい。「治療」は、本願で使用されているのは、哺乳類、特にヒトにおける疾患のいかなる治療をも網羅し、そして以下の点を含む:(a)疾患に感染しやすい状態にありながら、未だ感染していると診断されていない対象において疾患を未然に防ぐこと、(b)疾患を抑制すること、例えば、その進行を止めること、そして(c)疾患を寛解すること、例えば、疾患からの回復を誘導すること。
【0013】
本願で置き換え可能なものとして使用されている「個体」「対象」「宿主」および「患者」といった用語は、哺乳類をさし、これにはネズミ(ラット、マウス)、ヒト以外の霊長類、ヒト、イヌ、ネコ、有蹄類(ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ)等が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0014】
「治療上有効な用量」または「有効用量」とは、疾患治療の目的で哺乳類またはその他の対象に投与した際、該疾患の治療として有効性を発揮するのに十分な化合物の用量または細胞数を意味する。「治療上有効な用量」は、化合物または細胞、疾患及びその重篤度、および治療を受ける対象の年齢、体重等によって変動する。
【0015】
本願発明についてさらに説明する前に、本願発明が記載された特定の実施態様に限定されないことを理解頂きたい。なぜなら、それは当然変わりうるものだからである。これに加えて、ここで使用されている用語も特定の実施態様のみを説明する目的のためのものであり、それに限定することを意図していないことも理解頂きたい。なぜなら、本願発明の範囲は添付の請求項によってのみ規定されるからである。
【0016】
数値範囲が提示されている場合において、文章に明確な表記が無い場合は下限の単位の1/10まで、該範囲の上限と下限の間のそれぞれ介在する数値および規定された範囲にあるその他のいかなる規定値または介在する値は本願発明に包含されると解される。より小さい範囲の上限および下限は独立して小さい範囲に含まれ、これはまた本発明に包含され、規定範囲において特に境界値を除外する場合はそのようにされる。規定範囲が1つのまたは両方の境界値を含む場合において、この含まれている境界値の一方または両方を除外する場合も本発明は含んでいる。
【0017】
特に断わりが無い場合は、ここで使用される全ての技術および科学用語は本願発明が属する技術分野における当業者によって共通に理解されているものと同様の意味を有している。ここに記載されている方法および物質と類似または相当するものもまた、本願発明の実施または試験に使用しうるが、より好ましい方法および物質をここでは記載している。本出願で言及した全ての刊行物は参考文献として組み込んでおり、引用された刊行物との関係性を含めて方法および/または物質を開示および記載している。
【0018】
本明細書および添付の請求項で使用されているように、「a」「an」および「the」といった単数形は、文章に明確な記載がない限り、複数対象も含むことに留意すべきである。それ故、例えば、「a stem cell(幹細胞)」という言及は幹細胞の複数形を含み、「the pregenitor cell(前駆体細胞)」という言及は一つまたはそれ以上の前駆体細胞および当業者が知りうるこれと同等のものを含む、等が挙げられる。さらに、請求項はいかなる随意的な要素を排除して書かれていることにも注目すべきである。したがって、本明細書は、「単なる」「唯一の」といった排他的な用語およびその類義語を、列挙された請求項と関連づけながら使用することや「否定的な」制限を使用することについて、前もってその理由を提示するものとして意図されている。
【0019】
ここで議論されている刊行物は、本出願の出願日前に開示されたもののみ提示している。本明細書は、本願発明が先行発明によって刊行日が早まる権利を有していないという承認に基づき記載されているわけではない。さらに、提示されている刊行物の日付は、独自に確認する必要のある実際の刊行日とは異なっている場合もある。
【0020】
詳細な説明
本発明は、哺乳類胎盤を低温保存する方法、哺乳類胎盤中の胎児幹細胞/前駆体細胞を低温保存する方法、および胎児細胞集団が幹細胞および/または前駆体細胞から構成されている低温保存哺乳類胎盤から胎児細胞集団を獲得する方法、を提供する。主題となる哺乳類胎盤の低温保存方法は、通常、哺乳類胎盤を、動脈を介して、少なくとも1つの抗凝結剤、1つの血管拡張剤および少なくとも1つの低温保存物質より構成される低温保存液により環流させるものである。該低温保存液−環流胎盤は0℃以下に凍結保存され、数日、数週間、数か月または数年間保存しうる。
【0021】
哺乳類胎盤、例えばヒト胎盤、の低温保存は、胎盤幹細胞および/または前駆体細胞が、個体の生後、例えば数日、数週間、数か月または数年後に該個体に利用するのに将来必要かもしれないという臨床的状況において興味深いものである。低温保存した胎盤から得られる細胞は、大部分は母親由来ではなく、胎児由来のものである。胎盤から得られる細胞の「ドナー」は将来のレシピエントと同一であるため、レシピエントによる該細胞の拒絶の可能性は低いか皆無である。
【0022】
幹細胞/前駆体細胞は低温保存胎盤より多数、例えば、治療上有効な細胞数獲得することができる。さらに、低温保存胎盤より得られた幹細胞/前駆体細胞は様々な幹細胞/前駆体細胞および/または、例えば、造血性幹細胞、神経性前駆体細胞、間葉性幹細胞、等を含む分化細胞種を提供し得る。
【0023】
哺乳類胎盤中の幹細胞/前駆体細胞を低温保存する方法
本願発明は哺乳類胎盤中の胎児幹細胞および前駆体細胞を低温保存する方法を提供する。該方法は、一般に、以下のものより構成される;a)哺乳類胎盤を、抗凝結剤、血管拡張剤および低温保存物質より構成される低温保存液により環流すること、b)還流した胎盤を0℃以下で凍結すること。
【0024】
いくつかの実施態様においては、胎盤は出産後、例えば、出産後1分からおよそ1時間に入手している。例としては、哺乳類胎盤は出産後およそ1分から5分、およそ5分から10分、およそ10分から20分、およそ20分から30分、およそ30分から45分、またはおよそ45分から60分に入手している。
【0025】
胎盤入手後、該胎盤の動脈および静脈に挿管し、環流回路に接続する。環流回路はポンプおよびリザバーより構成され、さらに熱交換ユニットおよび/または血液酸素処理機を含んでいてもよい。
【0026】
環流はおよそ4℃から37℃、例えば、およそ4℃から10℃、およそ10℃から15℃、およそ15℃から17℃、およそ17℃から20℃、およそ20℃から22℃、およそ22℃から25℃、およそ25℃から30℃またはおよそ30℃から37℃、の温度下で実施される。いくつかの実施態様において、該還流は室温、例えばおよそ17℃から25℃、さらに具体的には、およそ17℃から20℃、およそ20℃から22℃、およそ22℃から25℃、にて実施されている。
【0027】
環流液は抗凝血剤、血管拡張剤および低温保存物質を含んでいる。該還流液はまた一つまたは複数の溶解酸素、二酸化炭素および不活性ガスを含みうる。
【0028】
適当な抗凝血剤には、ヘパリン、例えば、未細分化ヘパリン、低分子量ヘパリン(例えばロボノックス、フラグミン、抗−XA、アクリスタ等)、エチレンジアミン4酢酸(EDTA),ヒルジン、ヒルジン類縁体、リフルジン(リフルダン、組み換えヒルジン)、ビバリルジン(アンジオックス)、クマリン、例えばワーファリン(4ヒドロキシクマリン)、(例えばクマジン(登録商標)としても知られているワーファリンナトリウム;例として米国特許第6512005号参照)、クマリン類縁体(例として米国特許第7179838号)、スロンビン阻害剤、凝固因子阻害剤、プロテインC経路コンポーネント、組織因子経路阻害剤、抗血小板化合物、ビタミンK拮抗剤、血小板凝集阻害剤、繊維素溶解経路コンポーネント、アセチルサリチル酸、およびその類縁体が含まれるが、これらに限定するものではない。適当な抗凝血剤の例としては、例えば、アセノクマロール、アンクロド、アニシンジオン、ブロミンジオン、クロリンジオン、クネタロール、シクロクマロール、デキストラン硫酸ナトリウム、ジクマロール、ジフェナジオン、エチルビスクムアセテート、エチルイデンジクマロール、フルイジオン、ヘパリン、ヒルジン、リアポラートナトリウム、オキサジディジオン、ペンストサン、ポリ硫酸、フェニンジオン、フェンプロクモン、フォスビチン、ピコタミド、チオクロマロールおよびワーファリンが含まれる。適当な抗凝血剤には、使用濃度/用量において、胎盤に存在する幹細胞/前駆体細胞の生存可能性に対する有意な副作用を有しないものが含まれる。
【0029】
抗凝血剤の適当な用量は、およそ1U/mlから100u/mlまでの範囲、例えば、およそ1U/mlから5U/ml、およそ5U/mlから10U/ml、およそ10U/mlから20U/ml、およそ20U/mlから30U/ml、およそ30U/mlから50U/ml、およそ50U/mlから75U/ml、またはおよそ75U/mlから100U/mlまでの範囲であってよい。
【0030】
適当な血管拡張剤は、パパベリン、モクサベリン、ヒロララジン(例えば、ヒドララジン塩酸塩、1−ヒドラジノフタラジン1塩酸塩、アプレソリンR)、ジヒドララジン、ミノキシジル(3-ヒドロキシ−2−イミノ−6−(1−ピペリジル)ピリミジン−4−アミン)、ニトログリセリン、イソソルビドジニトレート、ジアソキシド、ニトロプラッシッド、ジルチアゼム、アミノダロン、イソキシサプリン、ナイリドリン、トラゾリン(2−ベンジル−4,5−ジヒドロ−1H−イミダゾール)、およびベラパミルを含むが、これらに限定されない。適当な血管拡張剤には、使用濃度/用量において、胎盤に存在する幹細胞/前駆体細胞の生存可能性に対する有意な副作用を有しないものが含まれる。
【0031】
適当な低温保存物質は、プロピレングリコール、ジメチルスルフォキシド(DMSO),フォルムアミド、グリセロール、ポリビニルピロリジン(例えば、PVP−40),ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール/ポリビニルアセテート共重合体、例えば、グリセロフォスフォコリン(GPC)、セリンエタノールアミンリン酸ジエステル、グリセロフォスフォイノシトール、ジホスホトリグリセロール、等の両親媒性リン脂質由来リン酸ジエステル、例えば、ベタイン、タウリン、アセチル−L−カミチン、等の両親媒性オスモライト、ミオイノシトールまたはトレハロースといったポリオール糖およびその類縁体を含むが、これらに限定されない。2またはそれ以上の低温保存物質を組み合わせて使用することは可能である。適当な低温保存物質としては、例えば米国特許出願No.2007/0009880に記載される低温保存物質組成、ビアスパン(DuPont;米国特許第4798824号、第4879283号および第4873230号)、ヒスチジン−トリプトファン−ケトグルタミン酸(HTK)溶液(カストジオール)、米国特許第7220538号に記載の低温保存液およびその類縁体を含む。
【0032】
上記のとおり、環流液は一つまたは複数の溶解酸素、二酸化炭素、不活性ガスをも含んでいる。適当な不活性ガスとしては、例えば、ヘリウム、アルゴン、クリプトンおよびキノンが含まれる。酸素張力はおよそ10mmHgから200mmHg、例えば、およそ10mmHgから25mmHg、およそ25mmHgから50mmHg、およそ50mmHgから75mmHg、およそ75mmHgから100mmHg,およそ100mmHgから125mmHg,およそ125mmHgから150mmHg,およそ150mHgから175mmHg、または、およそ175mmHgから200mmHgの範囲でありうる。
【0033】
いくつかの実施態様においては、環流液はさらに、一つまたは複数の抗細菌物質、成長因子、サイトカインおよび抗酸化剤、を含んでいる。
【0034】
適当な抗微生物物質は、グラム陽性バクテリアの増殖および/または生存可能性を阻害する物質、グラム陰性バクテリアの増殖および/または生存可能性を阻害する物質、抗酸バチルス菌(例えば、マイコバクテリア)の増殖および/または生存可能性を阻害する物質、酵母菌または糸状菌の増殖および/または生存可能性を阻害する物質、原生動物の増殖および/または生存可能性を阻害する物質、およびその類縁体を含むが、これらに限定されない。適当な抗微生物物質は、例えば、ペニシリン、ペニシリンの派生物および類似体、セファロスポリン等のベータラクタム系抗生物質、カルバエネム、例えばストレプトマイシン、カナマイシンおよびその類縁体といったアミノグリコシド、例えば、エリスロマイシン、チロシン等のマクロライド系抗生物質、バシトラシン、グラミシジン、ムピロシン、クロラムフェニコール、チアンフェニコール、フシジン酸ナトリウム、リコマイシン、クリンダマイシン、ノボビオシン、ポリミクシン、リフアミシン、スペクチノマイシン、テトラサイクリン、バンコマイシン、テイコプラニン、ストレプトグラミン、スルフォンアミド、トリメソプリンおよびこの組み合わせおよびピリメテナミンを含む抗葉酸物質、ニトロフラン、マンデル酸メテナミン、および馬尿酸メテナミン、ニトロイミダゾール、キノリン、フルオロキノロン、イソニアジド、エタミブトール、ピラジナミド、パラアミノサリチル酸(PAS),シクロセリン、カプレマイシン、エチオナミド、プロチオナミド、チアセタゾン、およびバイオマイシンを含む合成抗生物質を含むが、これらに限定されない。適当な抗微生物物質には、使用濃度/用量において、胎盤に存在する幹細胞/前駆体細胞の生存可能性に対する有意な副作用を有しないものが含まれる。
【0035】
環流液に含めることのできる適当なサイトカインおよび/または成長因子は、例えばコロニー刺激因子−1、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、巨核球コロニー刺激因子、といったコロニー刺激因子、例えばインターフェロン−α(IFN−α)、コンセンサスインターフェロン、IFN−β、IFN−γ、およびその類縁体といったインターフェロン、例えば、IL−1α、IL−1β、IL−2,IL−3,IL−4,IL−5,IL−6,IL−10,IL−11,IL−13,およびその類縁体といったインターロイキン、幹細胞因子、白血病抑制因子(LIF),オンコスタチンM(OSM)、エリスロポエチン、スロンボポエチン、等を含むが、これらに限定されない。
【0036】
いくつかの実施態様において、解凍時に生じうる酸化ストレスを軽減するために、環流液に一つまたは複数の抗酸化剤を含ませている。適当な抗酸化剤は、N−アセチルシステイン、グルタチオン、ビタミンC、ビタミンE、およびカタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、ペルオキシダーゼ、といった酵素およびペルオキシレドキシンを含むが、これらに限定されない。
【0037】
使用される環流液の容積はおよそ25mlから1000ml、例えば、およそ25mlから50ml、およそ50mlから100ml、およそ100mlから200ml、およそ200mlから300ml、およそ300mlから400ml、およそ400mlから500ml、およそ500mlから600ml、およそ600mlから700ml、およそ700mlから800ml、およそ800mlから900ml、または、およそ900mlから1000ml、の範囲である。
【0038】
環流液は胎盤に動脈を通じて環流されるが、その速度は、およそ10ml/分から500ml/分、例えば、およそ10ml/分から25ml/分、およそ20ml/分から50ml/分、およそ50ml/分から75ml/分、およそ75ml/分から100ml/分、およそ100ml/分から125ml/分、およそ125ml/分から150ml/分、およそ150ml/分から175ml/分、およそ175ml/分から200ml/分、およそ200ml/分から250ml/分、およそ250ml/分から300ml/分、およそ300ml/分から350ml/分、およそ350ml/分から400ml/分、およそ400ml/分から450ml/分、または、およそ450ml/分から500ml/分であってもよい。
【0039】
上述したように、哺乳類胎盤は環流液により、およそ4℃から37℃の温度下で実施される。環流液にて環流後、該胎盤を維持する温度をゆっくりと0℃まで減じていく。例として、温度はおよそ0.5℃/分から5℃/分、例えば、およそ0.5℃/分から1℃/分、およそ1℃/分から1.5℃/分、およそ1.5℃/分から2℃/分、およそ2℃/分から3℃/分、およそ3℃/分から4℃/分、または、およそ4℃/分から5℃/分の速度で減じていく。最後に、該環流胎盤は、およそ−50℃から−180℃、例えば、およそ−50℃から−100℃、およそ−100℃から−150℃、または、およそ−150℃から−180℃の温度下に保存する。例としては、該還流胎盤は液体窒素中にて保管してもよい。
【0040】
環流胎盤は適当な保管容器、例えば、滅菌済み保管容器にて保管することができる。該保管容器には、胎盤の入手先である新生児および/または母親の情報、胎盤を入手した日付、環流液の組成、およびこれらと類似したことを記録しておくことができる。こうした情報は、様々な媒体、例えば、紙またはその他の媒体に印字したもの、バーコード形式、チップまたはその他の適当な媒体を用いたデジタル形式、等に含ませることができる。該情報は、また、容器から遠隔的に、例えば、チップまたはその他のデジタル情報記録媒体といったコンピューター読み取り可能な媒体により管理することもできる。
【0041】
環流され、低温保存されている哺乳類胎盤は胎児幹細胞/前駆体細胞を含んでいる。本方法を用いて哺乳類胎盤中に低温保存することのできる胎児幹細胞/前駆体細胞には、造血幹細胞(HSCs),間葉幹細胞(MSCs),神経幹細胞、胎盤多能性細胞(PDMCs),および胚性様幹細胞、が含まれるが、これらに限定されない。
【0042】
環流され、低温保存されている哺乳類胎盤は、およそ10から10、例えば、およそ10から5x10、およそ5x10から10、およそ10から5x10、およそ5x10から10、およそ10から5x10、または5x10から10の胎児幹細胞/前駆体細胞を含有しうる。
【0043】
上述の哺乳類胎盤中の胎児幹細胞/前駆体細胞を低温保存する方法を用いることにより、該胎盤に存在する幹細胞/前駆体細胞の生存可能性は継続的に維持される。例として、環流前の胎盤に存在する胎児幹細胞/前駆体細胞の、少なくともおよそ50%、少なくともおよそ60%、少なくともおよそ70%、少なくともおよそ75%、少なくともおよそ80%、少なくともおよそ85%、少なくともおよそ90%、少なくともおよそ95%、少なくともおよそ98%、または少なくともおよそ99%は、上述の低温保存後も生存維持し続けている。例として、環流前の胎盤に存在する胎児幹細胞/前駆体細胞の、およそ50%から60%、およそ60%から70%、およそ70%から75%、およそ75%から80%、およそ80%から85%、およそ85%から90%、およそ90%から95%、およそ95%から98%、98%以上、または99%以上は、上述の低温保存後も生存維持し続けている。
【0044】
いくつかの実施態様において、幹細胞/前駆体細胞の少なくとも一部集団の生存可能性は、本方法により、哺乳類胎盤中の幹細胞/前駆体細胞の低温保存後も持続維持されている。例としては、いくつかの実施態様において、造血幹細胞、間葉幹細胞、および神経幹細胞といった幹細胞/前駆体細胞の一部集団のうちの1つまたは複数のものの生存可能性が持続維持されている。
【0045】
低温保存された哺乳類胎盤から幹細胞/前駆体細胞を取得する方法
本願発明は低温保存された哺乳類胎盤から胎児幹細胞/前駆体細胞を取得する方法を提供する。一般に、該方法は以下の工程を含む:a)低温保存された哺乳類胎盤を、幹細胞および/または前駆体細胞の該胎盤の血管(例えば、臍帯動脈または静脈)への流動化を促進する物質を含む幹細胞/前駆体細胞回収液により環流する工程、および、b)該胎盤の血管(例えば、臍帯動脈または静脈)から幹細胞/前駆体細胞を回収する工程。該哺乳類胎盤は、本方法を用いて低温保存されたものである。従って、該哺乳類胎盤は、抗凝血剤および血管拡張剤を含む環流液にて環流し、凍結し、そして0℃以下(例えば、上述したように−50℃以下、または上述したように丁度またはおよそ−150℃)に保存されている。
【0046】
低温保存された哺乳類胎盤から胎児幹細胞/前駆体細胞を取得するために、該胎盤を、最初に解凍する。解凍は、例としては、およそ4℃から37℃に引き上げることで行い、例えば、およそ4℃から10℃、およそ10℃から15℃、およそ15℃から17℃、およそ17℃から20℃、およそ20℃から22℃、およそ22℃から25℃、およそ25℃から30℃、およそ30℃から34℃、または34℃から37℃に引き上げる。該低温保存胎盤は、いかなる方法によっても解凍され、例えば、該低温保存胎盤を格納した保存用容器を水槽につけ、およそ4℃から37℃に引き上げるのでもよい。
【0047】
解凍胎盤の動脈および静脈は挿管され、該凍結胎盤は、幹細胞および/または前駆体細胞の胎盤血管中への流動化を誘導する物質を含む幹細胞/前駆体細胞回収液により環流される。例としては、該回収液を臍帯動脈より環流し、幹細胞/前駆体細胞を臍帯静脈より流出されることにより回収する。いくつかの実施態様においては、臍帯は除去されており、例えば、およそ50%から90%またはそれ以上の臍帯が除去されている。
【0048】
解凍された哺乳類胎盤は、幹細胞/前駆体細胞回収液によって、およそ5分から1時間、例えば、およそ5分から10分、およそ10分から15分、およそ15分から20分、およそ20分から30分、およそ30分から40分、およそ40分から50分、またはおよそ50分から60分の間、環流される。
【0049】
解凍された哺乳類胎盤は、幹細胞/前駆体細胞回収液によって、およそ4℃から37℃、例えば、およそ4℃から10℃、およそ10℃から15℃、およそ15℃から17℃、およそ17℃から20℃、およそ20℃から22℃、およそ22℃から25℃、およそ25℃から30℃、およそ30℃から34℃、またはおよそ34℃から37℃の温度下にて環流される。
【0050】
幹細胞/前駆体細胞回収液は、胎盤血管への幹細胞および/または前駆体細胞の流動化を誘導する物質を含んでいる。胎盤血管への幹細胞および/または前駆体細胞の流動化を誘導する物質には、生物学的適合を有する非イオン性界面活性剤(洗浄剤)、例えば、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)のような細胞接着を崩壊させる物質、細胞−細胞相互作用の崩壊を触媒し、および/または組織を消化する酵素、細胞接着分子に特異的で、該細胞接着分子に結合した場合、該細胞接着分子により仲介される細胞接着を阻害する抗体、および血栓溶解酵素、が含まれるが、これらに限定されない。
【0051】
いくつかの実施態様においては、該幹細胞/前駆体細胞回収液は2つまたはそれ以上の流動化物質を含んでいる。例えば、いくつかの実施態様において、該幹細胞/前駆体細胞回収液は、生物学的適合を有する非イオン性界面活性剤および組織を消化する酵素を含んでいる。その他の実施態様において、該幹細胞/前駆体細胞回収液は、生物学的適合を有する非イオン性界面活性剤および細胞接着分子に特異的で、該細胞接着分子に結合した場合、該細胞接着分子により仲介される細胞接着を阻害する抗体を含んでいる。その他の実施態様においては、該幹細胞/前駆体細胞回収液は、生物学的適合を有する非イオン性界面活性剤、組織を消化する酵素、および細胞接着分子に特異的で、該細胞接着分子に結合した場合、該細胞接着分子により仲介される細胞接着を阻害する抗体を含んでいる。その他の流動化物質の組み合わせが幹細胞/前駆体細胞回収液に含まれていてもよい。
【0052】
従って、例としては、いくつかの実施態様において、胎児幹細胞および前駆体細胞を低温保存した哺乳類胎盤から取得する本方法は、以下の工程を含んでいる:a)低温保存された哺乳類胎盤を、i)該胎盤の血管への幹細胞および/または前駆体細胞の流動化を誘導する生物学的適応を有する界面活性剤、およびii)組織を消化する酵素を含む幹細胞/前駆体細胞回収液により環流する工程、および、b)該胎盤の血管から幹細胞および/または前駆体細胞を回収する工程。典型的な実施態様においては、本方法は、以下の工程を含んでいる:a)低温保存された哺乳類胎盤を、i)有効用量のチロキサポール、およびii)組織を消化する酵素を含む幹細胞/前駆体細胞回収液により環流する工程、および、b)該胎盤の血管から幹細胞および/または前駆体細胞を回収する工程。典型的な実施態様においては、本方法は、以下の工程を含んでいる:a)低温保存された哺乳類胎盤を、i)有効用量のAMD−3100、およびii)組織を消化する酵素を含む幹細胞/前駆体細胞回収液により環流する工程、および、b)該胎盤の血管から幹細胞および/または前駆体細胞を回収する工程。
【0053】
別の例として、いくつかの実施態様において、胎児幹細胞および前駆体細胞を低温保存した哺乳類胎盤から取得する本方法は、以下の工程を含んでいる:a)低温保存された哺乳類胎盤を、該胎盤の血管への幹細胞および/または前駆体細胞の流動化を誘導する生物学的適応を有する界面活性剤を含む幹細胞/前駆体細胞回収液により環流する工程、b)該胎盤の血管から幹細胞および/または前駆体細胞を回収する工程、およびc)該胎盤を、組織を消化する酵素を含む幹細胞/前駆体細胞回収液により環流する工程、およびd)該胎盤の血管から幹細胞および/または前駆体細胞を回収する工程。
【0054】
その他の実施態様において、胎児幹細胞および前駆体細胞を低温保存した哺乳類胎盤から取得する本方法は、以下の工程を含んでいる:a)低温保存された哺乳類胎盤を、該胎盤の血管への幹細胞および/または前駆体細胞の流動化を誘導する生物学的適応を有する界面活性剤を含む幹細胞/前駆体細胞回収液により環流する工程、b)該胎盤の血管から幹細胞および/または前駆体細胞を回収する工程、およびc)該胎盤を、組織を消化する酵素を含む幹細胞/前駆体細胞回収液により環流し、酵素消化した胎盤組織を生ずる工程、およびd)酵素消化した胎盤組織を物理的に破砕させる工程、およびe)物理的に破砕した該胎盤から幹細胞および/または前駆体細胞を回収する工程。
【0055】
組織を物理的に破砕する方法は、当該技術分野において周知であり、酵素消化した胎盤組織を物理的に破砕するのにいかなる既知の方法を使用してもよい。適当な方法には、例えば、ミンチにする、ミキサーにかける等が含まれる。酵素消化した胎盤組織を物理的に破砕することにより、結果として、浮遊する胎盤細胞と胎盤組織の組織混合物が生じる。組織混合物を1つまたは複数の篩、例えば、50μmから500μmまでの範囲の様々なポアサイズのメッシュ、にかけることで、浮遊している胎盤細胞から組織を分離することが可能である。例としては、該胎盤組織混合物を繰り返し徐々に小さなポアサイズのメッシュに通すことで、最後には、ほぼ全ての組織を除去し、胎盤細胞懸濁液(例えば、単細胞懸濁液)を取得することとなる。
【0056】
胎盤細胞懸濁液は、胎児幹細胞/前駆体細胞以外に、一つまたは複数のその他の胎盤細胞種、例えば、上皮細胞(例えば、胎生繊毛膜細胞)、を含んでいてもよい。胎児幹細胞/前駆体細胞以外の胎盤細胞、これは胎盤細胞懸濁液中に存在しているが、は胎児幹細胞/前駆体細胞から、1回または複数回の洗浄、遠心分離、密度勾配遠心分離、溶出、ポジティブセレクションおよびネガティブセレクションにより、すでに確立している方法を用いて、分離することができる。密度勾配遠心分離は、例えばフィコールハイパック勾配遠心分離、ヒストパック勾配遠心分離、およびその類似の方法、を含む。
【0057】
胎児幹細胞/前駆体細胞以外の胎盤細胞、これは胎盤細胞懸濁液に含まれているが、は胎児幹細胞/前駆体細胞から、ポジティブセレクション、ネガティブセレクション、またはポジティブおよびネガティブセレクションの組み合わせにより、当該技術分野において周知の方法を用いて、分離することができる。例えば、一つまたは複数の所望の胎児幹細胞/前駆体細胞種に対し特異的な一つまたは複数の抗体を不溶性の担体(例えば、磁性体ビーズ)に結合することで、該抗体を固定化し、この固定化した抗体を胎盤細胞懸濁液と接触させ、そしてこれに磁場をかけることで、一つまたは複数の所望の胎児幹細胞/前駆体細胞種をポジティブに選択することが可能である。例としては、CD34に対する抗体を磁性体ビーズに結合し、この固定化した抗体を胎盤細胞懸濁液と接触させ、そして、これに磁場をかけることで、胎児HSCsをポジティブに選択することができる。もう一つ別の例として、所望しない細胞種(例えば、胎生上皮細胞)に対し特異的な一つまたは複数の抗体を不溶性の担体(例えば、磁性体ビーズZ)に結合することで、該抗体を固定化し、この固定化した抗体を胎盤細胞懸濁液と接触させ、そしてこれに磁場をかけることで、所望しない細胞種をネガティブに選択し、除去することが可能である。
【0058】
生物学的適応を有する界面活性剤
適当な「生物学的適応を有する」非イオン性界面活性剤とは、使用する濃度/用量において、胎児幹細胞/前駆体細胞種の生存可能性をほぼ減じないものである。生物学的適応を有する界面活性剤とは、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、アルキルアリルポリエステルアルコール(例えば、チロキサポール)、様々なポリソルベート(例えば、ポリソルベート80、ポリソルベート20)、およびポリエトキシル化化合物およびポロキサマー(例えば、ポロキサマー282)である。生物学的適応を有する界面活性剤には、非イオン性、陽イオン性、イオン性、および両性イオン性界面活性剤が含まれる。適当な非イオン性界面活性剤は、ジアセチル化モノグリセリド、ジエチレングリコールモノステアリン酸、エチレングリコールモノステアリン酸、グリセリルモノオレイン酸、グリセリルモノステアリン酸、プロピレングリコールモノステアリン酸、マクロゴールエステル、マクロゴールステアリン酸400、マクロゴールステアリン酸2000、ポリオキシエチレン50ステアリン酸、マクロゴールエーテル、セトマクロゴール1000、ラウロマクロゴール、ノノキシノール、オクトキシノール、チロキサポール、ポロキサマー、ポリビニルアルコール、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート85、ソルビタンモノラウリン酸、ソルビタンモノオレイン酸、ソルビタンモノパルミチン酸、ソルビタンモノステアリン酸、ソルビタンセスキオレイン酸、ソルビタントリオレイン酸、ソルビタントリステアリン酸、およびスクロースエステルを含むが、これらに限定されない。
【0059】
いくつかの実施態様において、該非イオン性界面活性剤はチロキサポールである。チロキサポールは、エチレンオキシドおよびホルムアルデヒドを伴う4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−フェノールポリマーである(チロキサポールとしても公知である)。チロキサポールは、また、トライトンWR−1339としても知られている。これらの実施態様において、チロキサポールは、該幹細胞/前駆体細胞回収液中に、およそ20mg/Lから500mg/L、例えば、およそ20mg/Lから50mg/L、およそ50mg/Lから100mg/L、およそ100mg/Lから150mg/L、およそ150mg/Lから200mg/L、およそ200mg/Lから250mg/L、およそ250mg/Lから300mg/L、およそ300mg/Lから350mg/L、およそ350mg/Lから400mg/L、およそ400mg/Lから450mg/L、またはおよそ450mg/Lから500mg/Lの濃度で存在している。
【0060】
その他の実施態様において、幹細胞/前駆体細胞流動化物質はAMD−3100またはその派生物および類似物といったCXCR4拮抗剤である。AMD−3100(1,1‘−[1,4−フェニレン−ビス(メチレン)]−ビス−1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン)は米国特許No.5583131に記載されている。また、例えば、米国特許No.7169750および7183273に記載されている化合物のようなAMD−3100の派生物および類似物も使用に適している。AMD−3100またはその派生物または類似物は該幹細胞/前駆体細胞回収液中に、およそ50mg/Lから500mg/L、例えば、およそ50mg/Lから100mg/L、およそ100mg/Lから150mg/L、およそ150mg/Lから200mg/L、およそ200mg/Lから250mg/L、およそ250mg/Lから300mg/L、およそ300mg/Lから350mg/L、およそ350mg/Lから400mg/L、およそ400mg/Lから450mg/L、またはおよそ450mg/Lから500mg/Lの濃度で存在している。
【0061】
酵素
幹細胞/前駆体細胞回収液中に含まれうる適当な酵素には、組織を消化する酵素が含まれ、こうした適当な酵素としては、マトリクスメタロプロテインナーゼ(例えば、コラゲナーゼ)、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、ペプシン、プロテインナーゼK、DNA分解酵素、ディスパーゼ、カルボキシペプチダーゼ、カルパインおよびスブチリシンが挙げられるが、これらに限定されない。幹細胞/前駆体細胞回収液中に含まれる適当な血栓溶解酵素は、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼおよびその類縁体を含むが、これらに限定されない。
【0062】
細胞接着を阻害する抗体
幹細胞/前駆体細胞回収液中に含まれうる抗体は、細胞接着分子に特異的で、かつ細胞接着分子に結合すると、該細胞接着分子により仲介された細胞接着を阻害する抗体を含む。接着分子は、例えば、細胞内接着分子(ICAM)(例えば、ICAM−1),血管細胞接着分子(VCAM;CD106)、血小板−内皮細胞接着分子(PECAM),インテグリン、カドヘリン、およびセレクチンを含む。接着分子に特異的で、かつ該接着分子に結合すると、該接着分子により仲介された細胞接着を阻害する抗体はいずれも使用に適している。こうしたいくつかの抗体は既知であり、使用することができる。「抗体」という用語は、ポリクロナル抗体、モノクロナル抗体、モノクロナル抗体の抗原結合フラグメント(例えば、Fab,Fv,scFv,およびFdフラグメント)、キメラ抗体、ヒト化抗体、単鎖抗体、等のいかなる種類のアイソタイプの抗体も含む。
【0063】
上記したように、幹細胞/前駆体細胞回収液は、胎盤中の血管への幹細胞および/または前駆体細胞の流動化を促進する物質を含んでいる。該幹細胞/前駆体細胞回収液は、さらに、例えば、成長因子、サイトカイン、幹細胞/前駆体細胞の分化を誘導する物質、抗微生物物質、等といった一つまたは複数の成分を含んでいる。
【0064】
環流液に含めることのできる適当なサイトカインおよび/または成長因子は、例えばコロニー刺激因子−1、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、巨核球コロニー刺激因子、といったコロニー刺激因子、例えばインターフェロン−α(IFN−α)、コンセンサスインターフェロン、IFN−β、IFN−γ、およびその類縁体といったインターフェロン、例えば、IL−1α、IL−1β、IL−2,IL−3,IL−4,IL−5,IL−6,IL−10,IL−11,IL−13,およびその類縁体といったインターロイキン、幹細胞因子、白血病抑制因子(LIF),オンコスタチンM(OSM)、エリスロポエチン、スロンボポエチン、等を含むが、これらに限定されない。
【0065】
適当な抗微生物物質は、例えば、ペニシリン、ペニシリンの派生物および類似体、セファロスポリン等のベータラクタム系抗生物質、カルバエネム、例えばストレプトマイシン、カナマイシンおよびその類縁体といったアミノグリコシド、例えば、エリスロマイシン、チロシン等のマクロライド系抗生物質、バシトラシン、グラミシジン、ムピロシン、クロラムフェニコール、チアンフェニコール、フシジン酸ナトリウム、リコマイシン、クリンダマイシン、ノボビオシン、ポリミクシン、リフアミシン、スペクチノマイシン、テトラサイクリン、バンコマイシン、テイコプラニン、ストレプトグラミン、スルフォンアミド、トリメソプリンおよびこの組み合わせおよびピリメテナミンを含む抗葉酸物質、ニトロフラン、マンデル酸メテナミン、および馬尿酸メテナミン、ニトロイミダゾール、キノリン、フルオロキノロン、イソニアジド、エタミブトール、ピラジナミド、パラアミノサリチル酸(PAS),シクロセリン、カプレマイシン、エチオナミド、プロチオナミド、チアセタゾン、およびバイオマイシンを含む合成抗生物質を含むが、これらに限定されない。適当な抗微生物物質には、使用濃度/用量において、胎盤に存在する幹細胞/前駆体細胞の生存可能性に対する有意な副作用を有しないものが含まれる。
【0066】
回収した幹細胞/前駆体細胞は生存能力があり、例えば、回収した幹細胞/前駆体細胞の少なくともおよそ80%、少なくともおよそ85%、少なくともおよそ90%、少なくともおよそ95%、少なくともおよそ98%、または少なくともおよそ99%に生存能力がある。生存可能性は標準的ないずれかの方法、例えば、ヨウ化プロピジウムといった色素の取り込み(該色素は、死細胞によって取り込まれ、生細胞によってはほぼ取り込まれない)、によって決定することができる。
【0067】
胎盤からの胎児幹細胞/前駆体細胞の回収率はおよそ50%から100%、例えば、およそ50%から60%、およそ60%から70%、およそ70%から75%、およそ75%から80%、およそ80%から85%、およそ85%から90%、およそ90%から95%、およそ95%から98%、またはおよそ98%から100%の範囲である。例として、本方法を用いて回収された低温保存哺乳類胎盤に存在する生存能力のある胎児幹細胞/前駆体細胞の割合は、およそ50%から100%、例えば、およそ50%から60%、およそ60%から70%、およそ70%から75%、およそ75%から80%、およそ80%から85%、およそ85%から90%、およそ90%から95%、およそ95%から98%、またはおよそ98%から100%の範囲である。
【0068】
本方法を用いて低温保存哺乳類胎盤から回収した胎児幹細胞/前駆体細胞は、また、本明細書においては、「回収幹細胞/前駆体細胞」または「回収幹細胞/前駆体細胞集団」と称される。該回収幹細胞/前駆体細胞は実質的には元来胎生であり、例えば、本方法を用いて取得された幹細胞/前駆体細胞の少なくともおよそ90%、少なくともおよそ95%、少なくともおよそ98%、または少なくともおよそ99%は元来胎生である。回収幹細胞/前駆体細胞が胎生か否かは該幹細胞/前駆体細胞表面上の主要組織適合(MHC)抗原の同定を行うことにより容易に確認しうる。該回収幹細胞/前駆体細胞がヒト由来である場合、これらの細胞が胎児由来か母親由来かは、該幹細胞/前駆体細胞表面上のヒト白血球抗原(HLA)の同定を行うことで、容易に決定できる。MHC(またはHLA)抗原は、該抗原に特異的な抗体を用いることで、容易に検出でき、このような抗体は容易に調達できる。例としては、該抗体は検出可能なように標識することができ(直接的または間接的に)、そして検出可能にすべく標識した抗体の結合は、いくつかの標準的なアッセイ方法のいずれか、例えば、蛍光発色セルソーティング(FACS)、免疫組織化学アッセイ法、およびその類似方法、を用いて検出することができる。
【0069】
低温保存後、解凍された哺乳類胎盤から回収(取得)された幹細胞/前駆体細胞の数は、およそ10から10、例えば、およそ10から5x10、およそ5x10から10、およそ10から5x10、およそ5x10から10、およそ10から5x10、または5x10から10の範囲となる。
【0070】
いくつかの実施態様において、回収幹細胞/前駆体細胞集団は造血幹細胞より構成されている。造血幹細胞(HSCs)は中胚葉由来の細胞であり、CD34陽性として特徴づけることができ、そして、また、一つまたは複数の更なるマーカー、例えば、一つまたは複数のCD38、CD90,CD133、CD105、およびCD45、に対して陽性であってもよく、様々な系統特異的マーカー(lin)に対して陰性として特徴づけることもできる。HSCsは赤血球、好中球−マクロファージ、巨核球、およびリンパ造血細胞系統を生体内に再配置させることができる。体外において、HSCsは少なくとも自己更新のための細胞分裂に進むべく誘導することができ、また、生体内にて見られるのと同様な系統に分化するよう誘導することができる。従って、HSCsは一つまたは複数の赤血球細胞、巨核球、白血球、マクロファージ、およびリンパ系細胞に分化するよう誘導することが出来る。
【0071】
いくつかの実施態様において、回収幹細胞/前駆体細胞集団は神経幹細胞より構成されている。神経幹細胞(NSCs)は神経およびグリア(オリゴデンドロサイトおよびアストロサイト)に分化することができる。神経幹細胞は多分裂することが可能な多能性幹細胞であり、そして、特定の条件下においては、神経幹細胞または神経芽細胞または神経膠芽細胞、例えば、それぞれ、1種または複数種の神経細胞またはグリア細胞になることが規定されている細胞、となりうる神経前駆体細胞となる娘細胞を作ることも可能である。NSCsを取得し、培養する方法は当業者にとって周知である。
【0072】
いくつかの実施態様において、回収幹細胞/前駆体細胞集団は間葉幹細胞より構成されている。間葉幹細胞(MSC)は、元来、胎生中胚葉より由来し、成体骨髄より単離することができ、筋、骨、軟骨、脂肪、骨髄間質、および腱を形成すべく分化しうる。MSCsはCD90陽性、CD105陽性、CD166陽性、STRO−1陽性、およびCD73陽性、およびCD31陰性、CD34陰性、およびCD45陰性、として特徴づけることができる。MSCを単離し、培養する方法は当業者に周知であり、MSCを取得するためには、いかなる既知の方法をも使用しうる。例えば、ヒトMSCの単離および培養について記載されている米国特許No.5736396を参照のこと。また、例としては、Fukuchi等(2004)Stem Cells 22:649−658)およびAnker等(2007)Stem Cells 22:1338−1345)を参照のこと。
【0073】
いくつかの実施態様において、回収幹細胞/前駆体細胞集団は多能性胎盤由来前駆体細胞を含んでおり、これらは体外において、様々な細胞種、例えば、脂肪細胞、破骨細胞、肝細胞、等への分化を誘導することができる。例として、Chien等((2006)Stem Cells 24:1759−1768)を参照のこと。
【0074】
回収幹細胞/前駆体細胞はさらに、様々な方法の内のいずれかにって操作することが可能である。例としては、該回収幹細胞/前駆体細胞は、所望のサブポピュレーション細胞を取得し、残渣の母親由来細胞を除去する等のために、分類することができる。該幹細胞/前駆体細胞は体外細胞培養中において、肝細胞が分化することを妨げる因子、または幹細胞/前駆体細胞の所望の細胞種への分化を誘導する因子、と接触させることが可能である。幹細胞/前駆体細胞は遺伝的に修飾することが可能であり、例えば、該幹細胞/前駆体細胞は、成長因子、サイトカイン、血液凝固因子、またはその他の治療用ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列を含む核酸によって遺伝的に修飾することが可能である。該幹細胞/前駆体細胞は、後日使用のために、保存(例えば、液体窒素に低温保存)することが可能である。さらに、2以上の操作を実施することも可能である。例として、回収幹細胞/前駆体細胞を分類した後、所望の細胞種への分化を誘導する因子と共に培養することができる。もう一つ別の例として、該幹細胞/前駆体細胞は、分化を誘導する因子と共に培養した後、分類することも可能である。
【0075】
幹細胞/前駆体細胞を体外において分化するように誘導する方法は、当業者にとって既知であり、すでに知られたいかなる方法をも使用できる。例えば、Odorico等((2001)Stem Cells 19:193−204)を参照のこと。
【0076】
本方法は、a)回収幹細胞/前駆体細胞集団での分化を誘導し、未分化の幹細胞/前駆体細胞と分化細胞を含む混合細胞集団を生み出す工程、およびb)分化細胞を未分化細胞より分離する工程、より構成されうる。一つの例として、HSCsは体外において、例えば、白血球、顆粒球、マクロファージ、骨髄細胞(例えば、B細胞、T細胞)、等といった様々な分化細胞への分化を誘導することができる。
【0077】
一つの例として、本方法は、a)HSCsを回収幹細胞/前駆体細胞の集団から分離する工程、およびb)該HSCsの骨髄細胞系統細胞、またはその他の系統への分化を誘導する工程、より構成されうる。
【0078】
もう一つ別の例として、本方法は、a)回収幹細胞/前駆体細胞の集団において、心筋形成を誘導し、未分化幹細胞と心筋細胞の混合集団を生み出す工程、b)心筋細胞を未分化(非心筋細胞)細胞から分離する工程、より構成されうる。該分離段階は、混合細胞集団を心筋細胞特異的な細胞表面マーカーに特異的な抗体と接触させることを伴う。
【0079】
神経細胞およびグリア細胞
例として、ある対外培養条件下において、幹細胞は神経細胞、アストログリア、オリゴデンドロサイト、または、神経前駆体細胞への分化を誘導することができる。一つの例として、回収幹細胞/前駆体細胞(または回収幹細胞/前駆体細胞集団)は、成長因子受容体と結合するリガンド存在下で培養することにより、神経前駆体細胞の比率が増大するよう促進することができる。該増殖環境は、フィブロネクチンといった神経細胞を支持する細胞外マトリクスを含んでいてもよい。幹細胞を神経前駆体細胞に分化誘導するその他の方法は、例えば、米国特許第6887706号および米国特許第7011828号に記載されている。興味深いマーカーには、神経に特徴的な、βチューブリンIII、または微小管関連タンパク2(MAP−2)、アストロサイトに存在するグリア線維酸性タンパク(GFAP),オリゴデンドロサイトに特徴的な、ガラクトセレブロシド(GalC)、または、ミエリン塩基性タンパク(MBP),神経前駆体細胞およびその他の細胞に特徴的な、ネスチンまたはムサシ、が含まれるが、これらに限定されない。成熟神経細胞は、1、2、3、4、5、6,7または8すべての160kDaニューロフィラメントタンパク、MAP2ab、グルタミン酸、シナプトファイシン、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)チロシン水酸化酵素、GABA,およびセロトニンを発現出来ることにより特徴づけることができる。神経前駆体細胞、神経細胞および/またはグリア細胞を形成している分化細胞は、また、分化細胞に特徴的な発現マーカーによって特徴づけることができる。体外での分化細胞培養は神経外胚葉系統のマーカー、神経前駆体細胞のマーカー、ニューロフィラメントタンパク、MAP2ab、グルタミン酸、シナプトファイシン、グルタミン酸脱炭酸酵素、GABA,セロトニン、チロシン水酸化酵素、βチューブリンIII,GABA Aα2受容体、グリア線維酸性タンパク(GFAP)、2‘、3’−環状ヌクレオチド3‘−ホスホジエステラーゼ(CNPアーゼ)、plp、DM−20.O4、およびNG−2染色といった分子を検出することにより、同定することができる。
【0080】
肝細胞
もう一つ別の例として、回収幹細胞/前駆体細胞(または回収幹細胞/前駆体細胞集団)は、肝細胞分化因子の存在下で培養することにより、肝細胞様細胞の比率が増大するよう促進することができる。該増殖環境は、コラーゲンまたはマトリジェルRといった肝細胞を支持する細胞外マトリクスを含んでいてもよい。適当な分化因子には、典型的な例としては、n−酪酸のような、酪酸塩の様々な異性体およびその類似物が含まれる。該培養細胞は、ジメチルスルフォキシド(DMSO)の様な有機溶媒、レチノイン酸といった成熟コファクター、またはグルココルチコイド、上皮成長因子(EGF)、インシュリン、形質転換成長因子(TGF−α、およびTGF−β)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、ヘパリン、肝細胞増殖因子(HGF),インターロイキン(IL−1およびIL−6),インシュリン様成長因子(IGF−1およびIGF−II)、およびヘパリン結合成長因子(HBGF−1)といったサイトカインまたはホルモンと同時に、または順次、随意的に培養される。幹細胞から分化した肝細胞系統細胞には、1,2,3、またはそれ以上の以下に示すマーカーが発現しうる:α1−アンチキモトリプシン(AAT)合成、アルブミン合成、アシアログリコプロテイン受容体(ASGF)発現、α−フェトプロテインが存在しないこと、グリコーゲン蓄積が存在すること、チトクロームp450活性が存在すること、およびグルコース−6−フォスファターゼ活性が存在すること。
【0081】
心筋細胞
回収幹細胞/前駆体細胞(または、回収幹細胞/前駆体細胞集団)は体外において、心筋細胞に分化誘導し、心筋細胞を生み出すことが可能である。心筋細胞は、例えば、心筋梗塞、心不全、およびその類似疾患から生ずる虚血心臓組織領域の治療に使用することができる。適当な心筋細胞特異的な細胞表面マーカーには、トロポニンおよびトロポミオシンが含まれるが、これらに限定されない。
【0082】
間葉細胞系統
回収幹細胞/前駆体細胞(または回収幹細胞/前駆体細胞集団)は、間葉細胞系統、例えば、骨形成、軟骨形成、腱形成、靭帯形成、筋形成、骨髄間質形成、脂肪形成、および皮膚形成から選択された細胞系統、の細胞に、体外において分化誘導することが可能である。従って、例としては、回収幹細胞/前駆体細胞は体外において、既知のいずれかの方法を用いて分化誘導され、骨芽細胞、軟骨細胞、筋芽細胞、間質細胞、等になることができる。例として、ヒト間葉幹細胞の体外における分化の方法を記載している米国特許第5736396号を参照のこと。
【0083】
膵島細胞
回収幹細胞/前駆体細胞(または回収幹細胞/前駆体細胞集団)は、体外において膵島細胞に分化誘導され、1型糖尿病の治療に使用しうる膵島細胞を産生することができる。膵島細胞に分化誘導する方法は、例えば、Zulewski(2006)Swiss Med. Weekly 136(41−42):647−54,Trounson(2006)Endocrin.Rev. 27(2):208−19,Soria等(2005)Novartis Found.Symp.265:158−67,およびXu等(2006)Cloning and Stem Cells 8:96−107に記載されている。
【0084】
未分化細胞からの分化細胞の分離
上記したように、回収幹細胞/前駆体細胞集団が体外において分化誘導された場合、混合細胞集団が生じ、そこには未分化細胞と分化細胞が混在した状況となる。殆ど、もしくはほぼ全ての細胞が分化している細胞集団を生み出すことを所望する場合は、該分化細胞を未分化細胞から分離することができる。分離は、分化細胞で発現しており、未分化細胞では発現していない細胞表面マーカーに基づいて実施することができる。様々な細胞種の分化細胞における適当な細胞表面マーカーは当業者において公知であり、上述されている。
【0085】
分離は、例えば、様々な分類方法、例としては、蛍光発色セルソーティング(FACS),ネガティブセレクション法、等、の内のいずれかを含む周知の方法を用いて実施することができる。選択された(分化)細胞は選択されなかった(未分化)細胞から分離され、選択された(“分類”)細胞集団を生み出す。選択細胞集団は、少なくともおよそ75%、少なくともおよそ80%、少なくともおよそ85%、少なくともおよそ90%、少なくともおよそ95%、少なくともおよそ98%、少なくともおよそ99%、または99%以上が特定の(選択された)細胞種に分化された細胞でありうる。
【0086】
細胞分類(分離)方法は当業者において周知である。分離の手段には磁気による分離、抗体でコートした磁性体ビーズを用いるもの、アフィニティークロマトグラフィー、および固体マトリクス、例えば、プレートまたはその他の従来技術、に接着した抗体を用いた“バンニング法”が含まれうる。厳密な分離を供する技術には、多色チャンネル、ローアングルかつ鈍角光散乱検出チャンネル、電気抵抗チャンネル、等といった様々な程度の技術を伴う蛍光発色セルソーターが含まれる。死細胞は、死細胞を着色する色素(ヨウ化プロピジウム[PI]、LDS,およびその類縁体)を用いた選択により除去することができる。選択される細胞の生存可能性を甚だしく害するものでない限りは、いかなる技術も採用することが可能である。こうした選択が一つまたは複数の抗体の利用を伴うものである場合は、該抗体は特定の細胞種を容易に分離することができるようにするために、標識、例えば、磁性体ビーズ、アビジンまたはストレプトアビジンと高い親和力により結合するビオチン、蛍光発色セルソーターにおいて使用される蛍光色素、ハプテンおよびその類縁体、と結合することが可能である。多色分析は、FACSまたは抗体および磁性体を利用した分離およびフローサイトメトリーの組み合わせにおいて採用することが可能である。
【0087】
有用性
胎児幹細胞および前駆体細胞を低温保存する本方法、および胎児幹細胞および前駆体細胞を低温保存した哺乳類胎盤から回収する本方法、は胎児幹細胞および前駆体細胞を低温保存し、取得するために有用であり、こうした細胞は様々な研究および臨床適用に利用される。
【0088】
研究適用には、様々な因子の分化に対する効果決定についての該細胞の利用、多能性を維持する因子の同定についての該細胞の利用、例えば、実験動物モデルや生体内での幹細胞または前駆体細胞の分化についての研究への該細胞の利用、例えば、幹細胞または前駆体細胞の疾患進行への影響を判断するといった、疾患の実験動物モデルでの該細胞の利用、およびこれらと類似するものが含まれるが、これらに限定されない。
【0089】
回収細胞の臨床適用には、胎児幹細胞/前駆体細胞を入手した個体(例えば、ヒト)における疾患の治療が含まれる。例としては、回収幹細胞/前駆体細胞またはその子孫細胞を状態または疾患を治療する必要のある個体に導入することができる。該個体は新生児(例えば、およそ1週間から1カ月齢の個体)、乳児(例えば、およそ1カ月から12カ月齢の個体)、幼児(例えば、およそ12カ月から3歳の個体)、およそ3歳から8歳までの子供、思春期直前の子供(例えば、およそ9歳から12歳の個体)、ティーンエイジャー(例えば、およそ13歳から19歳までの個体)、成人(例えば、20歳またはそれ以上の個体)老齢患者(例えば、およそ65歳から100歳まで、またはそれ以上の個体)、等であってよい。
【0090】
回収幹細胞/前駆体細胞は、例えば、一つまたは複数の血液細胞種の数に異常がある(例として、癌治療や疾患の影響による等)異常ヘモグロビン症といった様々な血液疾患、例えば、神経変性疾患(例として、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症(MS)、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、等)といった中枢神経系疾患、急性脳損傷(例えば、脳梗塞、頭部外傷、脳性麻痺)、免疫不全疾患、等を治療するのに使用することができる。
【0091】
回収幹細胞/前駆体細胞、またはその子孫細胞は、骨髄、皮膚、軟骨、腱、骨、筋(心筋を含む)、血管、角膜、神経細胞、胃腸細胞、等の移植において、組織を供給するのに利用することができる。例えば、ある個体において、疾患の影響で、または癌に対する化学療法の影響で、一つまたは複数の決栄細胞種の数が通常よりも少ない場合、回収幹細胞/前駆体細胞、またはその子孫細胞は、一つまたは複数の血液細胞種を再生するのに使用することができる。
【0092】
本方法を用いて回収した幹細胞/前駆体細胞、およびその子孫細胞を用いた治療に適当な対象には、一つまたは複数の血液細胞種の数に関する疾患である血液疾患、神経疾患(例えば、パーキンソン病)およびこれらの類似疾患、の様な疾患を患っている個体が含まれる。
【実施例】
【0093】
以下の実施例は、当該技術分野における通常の知識に、本願発明を作成し、使用する方法の完全なる開示および記載を加えるために、提出されており、発明者が本願発明とみなしている対象の範囲を制限するよう意図されておらず、以下の実験が実施された全ての、または、唯一の実験であると表わしているわけでもない。使用された数字(例えば、用量や温度、等)については正確であるよう努力しているが、ある程度の実験誤差やバラツキは考慮されるべきである。もし、別途表記されていない場合は、割合は重量に対する割合であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏であり、圧力は丁度またはほぼ大気圧である。標準的な略語は使用されている。例えば、bpは塩基対を、kbはキロベースを、plはピコリットルを、または、secは秒を、minは分を、hまたはhrは時間を、aaはアミノ酸を、kbはキロベースを、bpは塩基対を、ntはヌクレオチドを、i.m.は筋肉内を、i.p.は腹腔内を、s.c.は皮下を、表わしている。
【0094】
実施例1:哺乳類胎盤の低温保存および低温保存胎盤からの幹細胞/前駆体細胞の回収
方法
胎盤の環流および低温保存:IRBの同意およびインフォームドコンセント後、ヒト出産時胎盤を、Alta Bates病院(オークランド、CA)において健康な女性より帝王切開後に入手した。胎盤からほぼ全ての臍帯血を除去するという従来の臍帯血回収処理をうけた新鮮なヒト胎盤を使用した。胎盤には最初に抗血栓剤/血管拡張剤液(ヘパリン30U/ml、パパベリン0.05mg/ml)を温度20℃から25℃にて注入した。環流工程を行うために、臍帯動脈および静脈はさらに挿管し、熱交換ユニット、血液酸素処理機、ローラーポンプおよび環流離リザーバーを含む環流回路と接続した。血液酸素張力および二酸化炭素張力、環流液の温度、環流液の流速は継続的にモニターした。臍帯動脈および静脈中の圧力は、血圧モニターに接続したBaxter圧力変換器を用いてコンスタントに測定した(Protocol Systems、ポートランド、OR)。環流液の温度は温度制御水槽につないだ熱交換ユニットを用いることで維持した。
【0095】
胎盤造血CD34陽性および間葉幹細胞の単離:胎盤の一部をクランプで単離し、動脈血管を50ccのリン酸バッファー塩(PBS)で洗浄後、ペニシリン/ストレプトマイシン/フンギソン(PSF)、2.5U/mlディスパーゼ、トリプシン(0.25mg/ml)/エチレンジアミン4酢酸(EDTA)を含んだPBS50ccを20分間室温にて注入した。組織サンプルは細かく裁断し、0.1%コラゲナーゼ、2.5U/mlディスパーゼを含むPBS中に30分37℃に静置した。組織サンプルはボルテックスにて5分間攪拌し、100ミクロンフィルターにてろ過した。
【0096】
CD34陽性細胞を取得するために、組織消化物を400xg15分間遠心分離し、上清を廃棄し、PSF,15%ウシ胎児血清(FCS),2mM L−グルタミンを含んだα−修飾Eagle‘s培地(MEM)よりなる増殖培地(GM)に細胞を再懸濁した。サンプルは蛍光発色セルソーティング(FACS)分析のために4℃にて保存した。
【0097】
間葉幹細胞を取得するために、組織消化物を400xg15分間遠心分離し、上清を廃棄し、PSF,15%FCS,2mM L−グルタミンを含んだα−MEM培地よりなるGMに細胞を再懸濁した。細胞は60mmペトリ皿に播種した。24時間後、皿を洗浄し、2回PBSにて洗浄後、GMを添加した。プラスチックに接着性のある細胞をさらに2−3週間、PSF、15%FCS,2mM L−グルタミンを含むα−MEM中にて培養した。
【0098】
胎盤低温保存:胎盤を50mlPBSにて洗浄した後、20分間、低温保存用混合液、15%プロプレングリコール、14%ジメチルスルフォキシド(DMSO)、14%フォルムアミド、57%PBS,PSF、にて環流した。動脈および静脈線を閉じ、サーモカップルを組織中央部に挿入した。胎盤はプラスチック容器に格納し、ふたを閉めて固定した。胎盤を格納した該プラスチック容器は、−80℃フリーザーに12時間保管した後、液体窒素にて保存した。
【0099】
胎盤の再解凍:胎盤を格納したプラスチック容器を37℃の水槽中に浸し、組織の温度(サーモカップル)をモニターした。組織の温度が34−36℃に達した後、容器を開き、事前に温めておいた環流システムをカテーテルにつなぎ、環流液を40分間、10分おきに交換しながら、PBS(PSF)にて環流した。
【0100】
低温保存した胎盤からの細胞の単離:動脈血管を50ccPBSで洗浄した後、PSF、2.5U/mlディスパーゼ、トリプシン/EDTA(0.5mg/ml/0.2mg/ml)を含有する50ccのPBSを20分間室温にて注入した。組織サンブルは細かく破砕し、トリプシン/EDTA(20%標準液)、0.1%コラゲナーゼ、2.5U/mlディスパーゼを含有するPBS中に30分間37℃にて静置した。組織はボルテックスにて5分間攪拌し、100ミクロンのフィルターにてろ過した。造血および間葉幹細胞は上記に従い単離した。
【0101】
胎盤由来造血幹細胞の誘導および分化。胎盤組織(5g)のサンプルをPSF、30U/mlヘパリンを含む滅菌BS(100ml)を3回交換して徹底的に洗浄し、3x3x3mmの小片にカットし、トリプシン/EDTA溶液(0.25mg/mlトリプシン)中に移し、37℃60分間、定期的に浸透した。5mlの組織消化物を45mlの2%FCSを含むDulbecco‘s修飾Eagle’s培地(DMEM)にて希釈し、ボルテックスにて攪拌後、300xg10分間遠心分離した。上清は廃棄し、組織沈査を同一溶液で2回洗浄した。最終的な細胞残渣は10%FCSとPSFを含むα−MEM培地5mlにて懸濁した。
【0102】
臍帯血および胎盤組織派生物中にある造血幹細胞の生存可能性の解析および数。細胞混合物中のCD34細胞の数はCD34およびCD45マーカーを用いて決定される。CD34抗原は骨髄や血液中の未成熟な造血前駆体細胞および全ての造血コロニー形成細胞上に発現しており、これらは、分化単能および多能性前駆体細胞を含んでいる(Graves MF,Titley,I,Colman SM et al.In:Schlossman SF Boumsell L,Gilks W et al.eds Leukocyte Typing V:White cell differentiation antigens. New York NY:Oxford University Press、1955;1:840−846)。 CD34分子を認識する蛍光色素結合モノクロナル抗体は、Procount Progenitor Cell Enumeration Kit(BD Biosciences,サンジョゼ、CA)を用いたFACScaliber Flow cytometer(BD Biosciences,サンジョゼ、CA)を用いてフローサイトメトリーにより細胞を同定するのに使用した。細胞集団中の生存CD34細胞の絶対数を同定するための多色解析は製造者によって提供された詳細なプロトコルに従って使用された。造血前駆体細胞の生存可能性の解析と数のカウントはFACSにより実施した。CD34陽性CD45陽性細胞集団を二重染色し、製造者のプロトコルに従い、陽性対照としてCD34陽性CD45陽性蛍光ビーズを使用したキット(BD Biosciences)を使用した。CD34−CD45陽性集団をゲートに通し、To−Pro細胞核/細胞質染色によって生存可能性を決定した。細胞数は全有核細胞に対するパーセントおよび試料の単位体積/量当たりの絶対数として決定した。
【0103】
分化アッセイ。分化アッセイは完全にMethoCult(登録商標)メチルセルロースベースの培地(30%FCS,エリスロポエチン(3U/ml),IL−3(10ng/ml),幹細胞因子(50ng/ml)および顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)(10ng/ml))を用いて、これを30mlプラスチックペトリ皿(すべてStem Cell Technologiesより入手、カナダ)に入れて行った。培養は14−16日間続け、コロニーは赤芽球コロニー形成細胞(CFU−E)、赤芽球バースト形成細胞(BFU−E)、顆粒球マクロファージコロニー形成細胞(CFU−GM)、および顆粒球赤芽球マクロファージ巨核球コロニー形成細胞(CFU−GEMM)の存在について評価した。
【0104】
長期間培養開始細胞(Long−term Culture−initiating cell)(LTC−IC)アッセイ。LTC−ICアッセイは本研究の胎盤から単離した胎盤由来間質細胞株をフィーダー層に用いて実施した。胎盤由来間質細胞は24穴培養クラスターに播種し、10%FCSを含んだα−MEM培地にて2−3日培養してコンフレントにした。フィーダー層の細胞を不活性化するために、細胞を10μg/mlマイトマイシンC(Sigma)nite2時間処理し、PBSにて3回洗浄した。胎盤組織から単離した細胞は、製造者のプロトコルに従って、長期培養培地(MyeloCult,Stem Cell Technologies,カナダ)に懸濁し、フィーダー層を有するウェルに播いた。細胞は6週間5%CO2を含む大気中、37℃にて培養し、培地は各週で交換した。6週間後、細胞をトリプシンにて浮遊させ、30mlプラスチックペトリ皿内の30%FCS,エリスロポエチン(3U/ml),IL−3(10ng/ml),幹細胞因子(50ng/ml)および顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)(10ng/ml))を含むメチルセルロース培地(MethoCult,Stem Cell technologies)中にて上記記載の通り、分化アッセイを行った。培養は14−16日間維持し、コロニーを評価した。
【0105】
ヒト胎盤由来間質細胞の誘導および分化。細胞は100μ径のフィルターにてろ過し、増殖培地(GM)、すなわち2mM L−グルタミン、20%ウシ胎児血清(FBS)(Invitrogen)およびペニシリン/ストレプトマイシンを含んだα−MEM、にて再懸濁した。コンフレントになった初代培養はCaMg不含のPBS(Invitrogen)にて2回洗浄した。細胞はこの後、トリプシン/EDTA処理により遊離させる。細胞を40mlのGMにて再懸濁し、100mm培養皿(Costar)にて培養した。およそ70−90%コンフレントになった段階で最初の2回は1:1に分割して継代した。分化アッセイのために、該細胞は2x10/mlの初期濃度で、滅菌カバーガラスを入れた60mm皿中、GMにて培養した。脂肪細形成分化には、細胞を3週間10−8ml/lデキサメサゾンおよび5μg/mlインシュリンを含むGM中にて培養することで刺激した。骨形成分化は10mM βリン酸グリセロール、50μ/mlアスコルビン酸、および10−8ml/lデキサメサゾンを含むGMにて3週間培養することで誘導した。神経形成分化はレチノイン酸(10−7−10−8M)を添加することで行った。
【0106】
免疫染色。組織は4%パラフォルムアルデヒドにて固定し、PBSで洗浄後、1%トライトンX−100にて透過した。切片はブロッキング緩衝液(4xSCC中3%BSAおよび0.1%トライトンX−100)にて60分間37℃でインキュベートし、第一抗体(1:100希釈)により一晩4℃でインキュベートした。切片を洗浄し、ブロッキング液でインキュベート後、FITCおよびローダミン標識した第二抗体(1:500)により60分間37℃にてインキュベートした。洗浄後、退色防止剤と共にスライドガラス状にマウントした。パラフィン切片は最初にパラフィン除去し、同様の処理を行った。
【0107】
結果
臍帯血およびこれに対応する消化した胎盤組織の比較分析により、胎盤の消化組織から同等またはより多くの生存CD45陽性CD34陽性細胞を生ずることが明らかとなった。顆粒球のCD45陽性CD34陽性細胞の割合は胎盤組織で4−5倍高値であった。従って、一つの胎盤より入手しうる造血細胞の平均推定総数は、全臍帯血サンプルからの細胞数よりも、大幅に高いこととなる。これらの結果は表1に表記している。
【0108】
【表1】

【0109】
胎盤由来造血細胞は、さらに、標準的なコロニー形成分析によって血液細胞に分化する能力について評価された。胎盤組織由来の細胞は、CFU−E、BFU−E、CFU−GM,CFU−GEMM,を含んだ多くのコロニー形成単位を産生し、これは臍帯血も類似していた。図1にこれらコロニーの顕微鏡像を図示する。
【0110】
図1:出産時胎盤および臍帯血由来の造血幹細胞、分化アッセイおよびLTC−IC。
胎盤由来造血細胞は多くの血液細胞の細胞系統を生み出す。臍帯血(A)および環流/低温保存後の消化胎盤組織(B、C)由来のコロニー形成単位の顕微鏡像(A;倍率x10、CFU−E、BFU−EおよびCFU−GEMMが認められる、B;倍率x5,多くのCFU−Eが存在する、C;倍率x40、CFU−EおよびCFU−GEMMが明瞭に見える)。
【0111】
対応する臍帯血単位と比較した、胎盤組織消化物から得られるコロニー形成単位の量についての定量データは表2に提示されている。胎盤由来細胞は、臍帯血よりも極めて多くの量のコロニー形成単位を産生している。
【0112】
【表2】

【0113】
出産時ヒト胎盤中の造血細胞の免疫蛍光染色は造血幹細胞として陽性、すなわち、CD34,CD117、CD133、CD38陽性、の多くの細胞クラスターの存在を示した。一つの胎盤当たりのこれらの細胞の推定数は、平均で10細胞であった。該クラスターの実例としては、胎盤の血管周囲領域の疎性結合組織に局在しており、血液循環路とは連関していなかった。これを図2−4に示す。
【0114】
図2:造血細胞マーカーとして、CD34(FITC、緑)およびCD117(c−kit)(PE,赤)を染色したヒト胎盤のパラフィン切片。DAPI(青)にて核を染色。
【0115】
図3:造血細胞マーカーとして、CD34(FITC、緑)およびCD38(PE,赤)を染色したヒト胎盤のパラフィン切片。DAPI(青)にて核を染色。
【0116】
図4:造血細胞マーカーとして、CD34(FITC、緑)およびCD133(PE,赤)を染色したヒト胎盤のパラフィン切片。DAPI(青)にて核を染色。
【0117】
表3に示すように、低温保存液による胎盤の環流により、造血細胞の生存は数倍上昇した。また、表4に表示するように、環流はこれらの細胞の分化能を維持した。
【0118】
【表3】

【0119】
【表4】

【0120】
低温保存胎盤からの胎盤由来間質幹細胞の分化および誘導。低温保存胎盤よりプラスチックに接着性のある細胞を取得し、30継代まで増殖させることができた。ヒト胎盤由来の、プラスチックに接着性のある、間質“幹細胞”は、その特徴として、CD45、CD34、CD38、SH2b(分化過程の神経細胞のマーカー)に対して陰性であった。細胞増殖速度はとても速く、倍増期間はおよそ8−10時間である。ある細胞集団は、ヒト骨髄間葉幹細胞のマーカー(CD90,CD105)に対して中の下程度、すなわち10%以下の陽性反応を示している。細胞は、ニューロフィラメント−200(神経細胞のマーカー)に対して高い陽性反応を示している。ニューロフィラメント−200の核への局在(これらの細胞で見られる)は胎生神経細胞のマーカーである。細胞は、ヒト胎生幹細胞のマーカーであるOct−4およびSSEA−3に対して高い陽性反応を示している。細胞は、ヒト多能性(造血、内皮、神経および上皮細胞前駆体)幹細胞のマーカーであるCD133に対して高い陽性反応を示している。細胞は脂肪細胞、骨芽細胞および神経脂肪に分化する。
【0121】
これらの細胞は、非接着性細胞のフィーダー層として利用された。これらのフィーダー層と造血前駆体細胞を6週間共培養し、その後MethoCult培地にて培養を続けることで、いくつかのLTC−ICを確定した。表5に表示するように、低温保存液による胎盤の環流により、低温保存胎盤由来のLTC−ICの産生は向上した。表5は臍帯血および低温保存胎盤のLTC−IC培養細胞を示す。臍帯血および低温保存後に胎盤の環流を行ったおよび行わなかった胎盤組織の消化物におけるコロニー形成能についてである。環流により、LTC−ICの生存は有意に向上した。
【0122】
【表5】

【0123】
本願発明をこれら特定の実施例を参照して記載したが、当該分野の当業者においては、これらに対し様々な変形か可能であり、該発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、これらと等価のものにより置き換えうることを理解するべきである。加えて、本願発明の対象、精神、および範囲に、特定の状況、材料、組成物、工程、工程段階、または段階を適合させるために、様々な変更がなされうる。このような変更の全ては、この文書に付加した特許請求の範囲の範囲内にあると意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
a)哺乳類胎盤を、抗血栓剤、血管拡張剤、および低温保存物質を含む環流液により環流する工程、および
b)環流した胎盤を0℃以下の温度で凍結する工程、
を含む、哺乳類胎盤中の胎児幹細胞および前駆体細胞を低温保存する方法。
【請求項2】
前記環流を、およそ4℃から37℃までの温度中で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗血栓剤が、ヘパリン、クマリン、エチレンジアミン4酢酸、ヒルジン、またはヒルジン類縁体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記血管拡張剤が、パパベリン、モキサベリン、ヒドララジン、ジヒロラライジン、ミノキシジル、ニトログリセリン、イソソルビド、ジニトラート、ジアゾキシド、ニトロプルシド、ジルチアゼム、アミオダロン、イソクスプリン、ナイリドリン、トラゾリン、またはベラパミルである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記環流液が、さらにサイトカイン、または成長因子を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
凍結胎盤を−50℃以下の温度に保存する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
以下の工程:
a)低温保存した哺乳類胎盤を、該胎盤の血管への幹細胞および/または前駆体細胞の流動化を誘導する物質を含む回収液により環流する工程、および
b)血管から、流動化された細胞を回収する工程を含み、該回収細胞が胎児幹細胞および前駆体細胞を含む、低温保存哺乳類胎盤から胎児幹細胞および前駆体細胞を取得する方法。
【請求項8】
流動化を誘導する物質が、生物学的適合性のある非イオン性界面活性剤、組織消化酵素、接着分子に特異的に結合し、細胞接着を阻害する抗体、血栓溶解酵素、または、エチレンジアミン4酢酸である、請求項8に記載の方法。
【請求項9】
生物学的適合性のある非イオン性界面活性剤がチロキサポールである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
流動化を誘導する物質が、AMD−3100である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
回収液が、幹細胞または前駆体細胞の表現型の維持を促進するサイトカインを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
回収液が、2またはそれ以上の流動化物質を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
回収した細胞から、残余の、母親由来の、いかなる細胞をも除去する工程をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
体外での、回収した胎児幹細胞/前駆体細胞の分化を誘導する工程であり、前記の誘導により、回収胎児幹細胞/前駆体細胞が、一つまたは複数の分化細胞種に分化する結果を伴うもの、をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
一つまたは複数の分化細胞種が脂肪細胞、肝細胞、オリゴデンドロサイト、および骨髄系統細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記の回収幹細胞/前駆体細胞が造血幹細胞を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項17】
前記の回収幹細胞/前駆体細胞が間葉幹細胞を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項18】
前述の回収幹細胞/前駆体細胞が胎盤由来の多能性細胞を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項19】
前述の回収幹細胞および前駆体細胞が、およそ10から10の、生存能力のある胎児幹細胞および前駆体細胞を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項20】
流動化物質が組織消化酵素であり、酵素により消化した胎盤組織を生成する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
酵素により消化した胎盤組織を物理的に崩壊させることで、胎盤組織と胎盤細胞懸濁液からなる胎盤組織混合物を生成し、該胎盤組織を該胎盤細胞懸濁液から分離する工程を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
幹細胞/前駆体細胞を胎盤細胞懸濁液から分離する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記の分離工程に、一回または複数回の洗浄、遠心分離法、密度勾配遠心分離法、溶出、ポジティブセレクション、および、ネガティブセレクションを含む、請求項22に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2010−530243(P2010−530243A)
【公表日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513198(P2010−513198)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【国際出願番号】PCT/US2008/007381
【国際公開番号】WO2008/156659
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(505307563)チルドレンズ ホスピタル アンド リサーチ センター アット オークランド (12)
【Fターム(参考)】