説明

胞子様細胞の亜集団およびその用途

特定の細胞表面マーカー及び遺伝子発現マーカーを発現する胞子様細胞の亜集団を提供する。一実施形態では、細胞はOct4、nanog、Zfp296、cripto、Gdf3、UtF1、Ecat1、Esg1、Sox2、Pax6、ネスチン、SCA−1、CD29、CD34、CD90、B1インテグリン、cKit、SP−C、CC10、SF1、DAX1及びSCG10からなる群から選択される少なくとも1種類の細胞表面マーカー又は遺伝子発現マーカーを発現する。胞子様細胞の集団から目的の胞子様細胞の亜集団を精製する方法、及び単離された胞子様細胞が内胚葉、中胚葉又は外胚葉起源の細胞に分化するのを誘導する方法も提供する。胞子様細胞は3種類全ての胚葉から生ずる細胞を作製するのに使用でき、網膜、腸、膀胱、腎臓、肝臓、肺、神経系又は内分泌系を含めた多様な組織のいずれかで機能細胞が欠損した患者を処置するのに使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、胞子様細胞の亜集団の同定、単離及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多能性(pluripotent)細胞の用途は、医学的研究において、特に遺伝的欠陥、傷害及び/又は疾患過程の結果としての組織損傷を処置するための試薬を提供する領域において、関心を集めた。理想的には、患部細胞型に分化することができる細胞を、それを必要とする被験体に移植することができ、そこでこの細胞が器官微小環境と相互作用し、必要な細胞型を供給して、傷害を修復する。胚幹(ES)細胞は、インビトロで無期限に未分化で増殖することができ、すべての細胞系列にインビボで分化することができ、かつ大部分の細胞型にインビトロで分化するように誘導することができる、胚盤胞由来の多能性細胞である(非特許文献1)。ES細胞は、ヒトから単離されたが、研究及び治療法におけるその使用は倫理的な考慮によって妨げられている(非特許文献2)。
【0003】
造血幹細胞(特許文献1)、神経幹細胞(非特許文献3)、胃腸幹細胞(非特許文献4)、表皮幹細胞(非特許文献5)、及び間葉幹細胞(MSC)(特許文献2)を含めて、非胚組織から幹細胞を単離する試みが増加している。別の細胞集団である多分化能性(multipotent)成体前駆細胞(MAPC)は、骨髄からも純化されている(非特許文献6;非特許文献7)。これらの細胞は、テロメア短縮や核型異常の発生無しに、インビトロで100回の集団倍加を超えて増殖することができる。MAPCは、規定培養条件下で、種々の間葉細胞型(例えば、骨芽細胞、軟骨芽細胞、脂肪細胞及び骨格筋芽細胞)、内皮、神経外胚葉細胞に、より最近では肝細胞に、分化できることも示された(非特許文献8)。
【0004】
被験体における再生療法にES細胞又は他の多能性細胞を使用することの難題は、この細胞が被験体の処置に必要な特定の細胞型に成長および分化するのを制御することである。非特許文献9に開示されたように、そこで使用された8種類の増殖因子には、1つの細胞型のみに分化させるものはない。したがって、種々の器官及び/又は組織の傷害及び/又は疾患の処置を含めて、種々の用途に適切な移植可能な多分化能及び多能性(multi− and pluripotent)細胞集団を生成する新しいアプローチが引き続き必要とされる。さらに、多分化能又は多能性細胞源は、細胞を生組織から収集しなければならない点で制約がある。
【0005】
Vacantiらによる特許文献3及び特許文献4は、酸素欠乏に対して例外的に高い耐性を有する小さい初期細胞(primitive cell)を開示する。これらの細胞は、「胞子様」細胞と呼ばれ、本質的に完全な酸素欠乏に少なくとも24時間耐えることが示された(細胞は、酸素欠乏にもかかわらず4又は24時間生存可能であった)。胞子様細胞は、特化した組織から単離された最終分化細胞よりも増殖能力が高い。組織工学、細胞療法及び遺伝子ベースの療法はしばしば、患者に投与するに十分な数の細胞を医師が得ることができないことにより阻止されるので、増殖能力は重要な属性である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,750,397号明細書
【特許文献2】米国特許第5,736,396号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2004/0057942号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0033598号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Martin,Proc Natl Acad Sci USA.,78:7634−7638(1981)
【非特許文献2】Frankel,Science.287:1397(2000)
【非特許文献3】Gage,Science、287:1433−1438(2000)
【非特許文献4】Potten,Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci.353:821−830(1998)
【非特許文献5】Watt,Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci.,353:831−837(1998)
【非特許文献6】Reyes et al.,Blood,98(9):2615−2625(2001)
【非特許文献7】Reyes & Vetfaillie,Ann NY Acad Sci.,938:231−235(2001)
【非特許文献8】Schwartz et al.,Clin Invest,109:1291−1302(2000)
【非特許文献9】Schuldiner et al.,Proc Natl Acad Sci USA,97:11307−11312(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の一目的は、特定の細胞表面マーカー又は遺伝子発現マーカーを発現する胞子様細胞の亜集団を提供することである。
【0009】
本発明の一目的はまた、多能性胞子様細胞の亜集団、及び多能性胞子様細胞の亜集団を単離する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
特定の細胞表面受容体及び/又は遺伝子発現マーカーを発現する胞子様細胞の亜集団が同定された。一実施形態においては、この細胞は、Oct4、nanog、Zfp296、cripto、Gdf3、UtF1、Ecat1、Esg1、Sox2、Pax6、ネスチン、SCA−1、CD29、CD34、CD90、B1インテグリン、cKit、SP−C、CC10、SF1、DAX1、およびSCG10などの少なくとも1種類の細胞表面/遺伝子発現マーカーを発現する。大部分の実施形態においては、細胞はマーカーの組合せを発現する。内胚葉、中胚葉又は外胚葉起源の細胞への分化を誘導することができる胞子様細胞の亜集団も提供する。その起源組織にかかわらず、これらの胞子様細胞の亜集団を使用して、3種類の胚葉すべてから生ずる細胞を産生することができる。
【0011】
胞子様細胞の亜集団を同定し、得る方法を記述する。この方法は、単離された胞子様細胞を細胞表面及び/又は遺伝子発現マーカーの発現に十分な期間培養すること、並びに細胞表面及び/又は遺伝子発現マーカーを同定することを含む。
【0012】
胞子様細胞の集団から目的の胞子様細胞の亜集団を純化(purifying)する方法についても記述する。一部の実施形態においては、この方法は、(a)胞子様細胞の集団を提供すること、(b)Oct4、nanog、Zfp296、cripto、Gdf3、UtF1、Ecat1、Esg1、Sox2、Pax6、ネスチン、SCA−1、CD29、CD34、CD90、B1インテグリン、cKit、SP−C、CC10、SF1、DAX1及び/又はSCG10などの1種類以上のマーカーを発現する胞子様細胞の亜集団を同定すること、並びに(c)この亜集団を純化することを含む。一部の実施形態においては、細胞は、細胞表面マーカーに特異的な抗体を使用して単離される。
【0013】
皮膚障害などの障害、腫瘍、又は糖尿病などの疾患を有する患者は、例えば、損傷領域(例えば、患者の皮膚の損傷領域、腫瘍が切除された領域、又は膵臓)に胞子様細胞の亜集団を投与することによって、処置することができる。全身投与も可能である。この方法は、網膜、腸、膀胱、腎臓、肝臓、肺、脊髄若しくは脳を含めた神経系、又は内分泌系などの多種多様な組織のいずれかに機能細胞の欠損又は障害を有する患者の処置に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、インスリノーマ(膵臓からの腫瘍)から単離された胞子様細胞を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
I.定義
本明細書で使用される場合、多能性胞子様細胞とは、3種類の胚葉、すなわち、中胚葉、内胚葉及び外胚葉すべてから生ずる細胞を産生する能力を有する胞子様細胞である。
【0016】
胞子様細胞に関連して使用される「単離された」という用語は、その細胞がその自然環境から離れて存在することを示す。単離された細胞は、他の細胞型から完全に単離されていてもよく、又は集団中に増加した量で存在してもよい。
【0017】
本明細書で使用される場合、濃縮された胞子様細胞集団とは、細胞混合物中のその細胞の割合が、その自然環境中に又は単離直後に存在するよりも大きくなるように、その自然環境中に存在する他の細胞から単離された細胞集団である。
【0018】
本明細書で使用される場合、「検出可能な標識」とは、目的の結合相手に付加されるとその結合相手の検出を可能にすることができる任意の部分を指す。
【0019】
II.胞子様細胞集団
胞子様細胞源
胞子様細胞は、トリ、爬虫類、両生類、またはほ乳動物などの動物ドナーから得ることができる。例えば、ほ乳動物の胞子様細胞は、げっ歯類、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、非ヒト霊長類又はヒトから単離することができる。胞子様細胞は成熟動物から得ることができる。胞子様細胞は分化細胞よりも酸素欠乏によく耐えるので、生存可能な胞子様細胞は、24時間以上前に死亡した動物を含めて、死亡動物から単離することもできる。胞子様細胞は、食料品店で購入されたニワトリ肝臓(鳥綱)から単離された。初期の単離では、トリパンブルー色素排除試験は、極めて小さい生存可能な(色素排除した)胞子様細胞を示した。単離から3日後、数えきれない多数の胞子様細胞の大きい浮遊クラスターを見ることができた(データ示さず)。
【0020】
所与のドナーの範囲内で、胞子様細胞は種々の供給源から得ることができる。例えば、胞子様細胞は、体液(例えば、血液、唾液又は尿)、及び全部ではなかったとしても大部分の機能的器官から得ることができる。さらに、胞子様細胞は、その後その細胞を用いた処置を受ける患者から、別の人から、又は異なる種の動物から得ることができる。自系、同種異系及び異種の亜集団胞子様細胞を入手し、患者の処置又は組織の増殖に使用することができる。
【0021】
胞子様細胞は、患部組織、例えば癌組織から単離することもできる(図1)。こうして単離された胞子様細胞は、適正条件下でかなりの再生可能性を有する。
【0022】
胞子様細胞の単離
胞子様細胞を単離する方法は、Vacantiらに対する米国特許第7,060,492号、同第7,575,921号及び同第7,560,275号に開示されている。手短に述べると、組織又は血液試料は動物から得られる。入手の最も容易な試料の一つは、全血試料である。当業者は、単離方法が、出発材料として使用される組織のタイプに応じてわずかに変わり得ることを理解するであろう。例えば、試料が血液試料の場合、抗凝固薬を含む管に入れることができる。
【0023】
収集後、組織試料は、体液試料でも、又は実質臓器から得られる細胞懸濁液の試料でも、試料中の細胞を遠心管の底部にペレット化するのに十分な時間及び速度で遠心分離される。生成したペレットは、グルコース、トランスフェリン、インスリン、プトリシン(putricine)、セレン、プロゲステロン、上皮成長因子(EGF)及び塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を補充したDMEM/F−12培地などの適切な培地に再懸濁される。
【0024】
次いで、懸濁細胞は、組織培養容器に移され、37℃又はその付近でインキュベートされる。最初に、試料が血液試料である場合には、培養フラスコは主に造血細胞を含む。しかし、数日間培養後、赤血球は溶解し、その結果、培養物は、胞子様細胞だけを含むわけではないが、胞子様細胞を主に含む。これは、赤血球が核を持たないからである。しかし、胞子様細胞は、これらの条件下で生きたままである。胞子様細胞が固形組織から単離されると、各々の口径が1つ前のものより小さくなる一連のピペットで試料を粉砕することによって分化細胞を溶解することができる。例えば、使用される最終ピペットは内径約15μとすることができる。更に数日間培養後、胞子様細胞は増殖し、合体して細胞のクラスター(球)を形成することができる。時間が経つと、通常はほぼ約7日間で、その数が大きく増加することができる。典型的には、90%を超える細胞が、上述したように単離された場合にトリパンブルー排除試験に従って生存可能である。
【0025】
当業者は、低減した口径のピペットを通した粉砕が、より大きい分化細胞から胞子様細胞を単離する唯一の方法ではないことを認識するであろう。例えば、胞子様細胞と分化細胞を含む懸濁液を、特定のサイズの孔を有するフィルターに通すことができる。フィルター内の孔のサイズ(同様に、粉砕に使用されるピペットの直径)は、単離手順の所望の厳密性に応じて変わり得る。一般に、フィルター内の孔が小さいほど、又は粉砕に使用されるピペットの直径が小さいほど、単離手順で残存する分化細胞の数は少なくなる。胞子様細胞を単離するための他の方法は、凍結/解凍及びサイズ排除である。
【0026】
一部の実施形態においては、種々の細胞/幹細胞を確実に排除しながら胞子様細胞を血液/骨髄から単離するための方法は、抗凝固処理した全血を、凍結保護剤を添加せずに−20℃から−80℃に凍結すること、次いで凍結試料を解凍することを含む。凍結中に形成された細胞内氷晶は、他の細胞すべてを死滅させるであろう。細胞は、次いで培養培地中で粉砕され、次いで培養される。増殖した残りの細胞は胞子様細胞である。胞子様細胞を血液から単離する他の技術としては、24時間にわたる酸素欠乏が挙げられる。血液又は骨髄試料を高張液で溶解させて、細胞/幹細胞を破裂させる。培養物に血清もフィーダー細胞も使用しないことにより、胞子様細胞を選択する。これらの方法は、他の組織と同様に血液でも十分に機能する。
【0027】
胞子様細胞亜集団の濃縮
胞子様細胞を濃縮し、そしてその濃縮された胞子様細胞の亜集団を特性分析するため、特定するため、又は分析するための方法を開示する。濃縮された亜集団は、細胞によって発現される細胞表面の遺伝子発現マーカーを使用して同定される。細胞は、実施例で示されるように、特定のマーカー発現に十分な期間培養され、マーカー発現は、当業者に既知の技術によって確認される。濃縮された胞子様細胞集団は、Oct4、nanog、Zfp296、cripto、Gdf3、UtF1、Ecat1、Esg1、Sox2、Pax6、ネスチン、SCA−1、CD29、CD34、CD90、B1インテグリン、cKit、SP−C、CC10、SF1、DAX1、SCG10などの1種類以上の特定の細胞マーカーに対して陽性である。濃縮された胞子様細胞集団は、目的のマーカーの検出後に使用することができ、これらの細胞を更に培養して更なる分化を促進することができ、又はこれらのマーカーを発現する細胞を濃縮亜集団から更に単離することができる。
【0028】
更に増殖させるための目的のタンパク質を発現する細胞を単離するための方法は、当業者に知られている。例えば、目的のマーカーを発現する細胞は、米国特許第7,310,147号に開示された市販のClonePix FLシステム(Gentix、UK)を使用して単離することができる。このシステムは、数千の細胞を画像処理することによって機能する。次いで、特定の蛍光プローブを使用して、蛍光を発するコロニーを検出し、同定する。次いで、所望レベルの蛍光を有する細胞(例えば、標的タンパク質の最高産生細胞)を自動的に収集する(Mann,Nature Methods,i−ii,(2007))。これらの細胞の球状クラスターを連続継代すると、未成熟のより初期の幹細胞のより純粋な集団が得られる。他の実施形態においては、細胞表面マーカー又は遺伝子発現マーカーを使用して、目的の胞子様細胞の亜集団を単離する。細胞表面マーカーの一実施形態においては、この方法は、(a)上述のように単離された胞子様細胞の集団を提供すること、(b)胞子様細胞の集団をマーカー発現に十分な時間培養すること、(c)細胞集団をマーカーに特異的な結合相手と、胞子様細胞の集団の各細胞上の、もし存在すればその標的に結合相手を結合させるのに十分な条件下で、接触させること、及び(d)マーカー陽性の亜集団を単離することを含む。
【0029】
一部の実施形態においては、上で考察した工程(c)において、細胞は、第1のマーカーに特異的な第1の結合相手、及び第1のマーカーとは異なる第2のマーカーに特異的な第2の結合相手と、胞子様細胞の集団の各細胞上の、もし存在すればその標的に各結合相手を結合させるのに十分な条件下で、接触され、(d)マーカーに陽性である胞子様細胞の第1の亜集団を選択すること、(e)胞子様細胞の第1の亜集団を1種類以上の追加の細胞表面マーカーに特異的な1種類以上の追加の結合相手と、細胞集団の各細胞上の、もし存在すればその標的に各結合相手を結合させるのに十分な条件下で、接触させること、(f)細胞の第1の亜集団から工程(e)の抗体の少なくとも1種類に結合する細胞を取り出すこと、並びに(g)細胞の第2の亜集団を収集し、それによって胞子様細胞の亜集団が単離されること。一部の実施形態においては、結合相手は、細胞表面マーカーに特異的な抗体である。
【0030】
開示された亜集団の単離は、蛍光活性化細胞選別(FACS)を含めて、ただしそれだけに限定されない、1種類以上の特定のマーカーの発現又は発現の欠如に基づいて細胞を分離することができる任意の方法論によって、実施することができる。このマーカーは、Oct4、nanog、Zfp296、cripto、Gdf3、UtF1、Ecat1、Esg1、Sox2、Pax6、ネスチン、SCA−1、CD29、CD34、CD90、B1インテグリン、cKit、SP−C、CC10、SF1、DAX1、SCG10、SCA−1、CD34、CD90、CKIT、B1インテグリンからなる群から選択される。
【0031】
分離工程は、一連の工程として段階的に、又は同時に、実施することができる。例えば、各マーカーの有無を個々に評価し、個々のマーカーが存在するかどうかに基づいて各工程で2つの亜集団を生成することができる。その後、目的の亜集団を選択することができ、次のマーカーの有無に基づいて更に分割することができる。
【0032】
あるいは、亜集団は、特定のマーカープロファイルを有する細胞のみを分離することによって生成することができる。ここで、用語「マーカープロファイル」とは、2種類以上のマーカーの有無のまとめを指す。マーカーのこれら個々の組合せの各々は、異なるマーカープロファイルを示す。追加のマーカーが追加されると、プロファイルは、より複雑になり、細胞の最初の混合集団のますます小さい百分率に対応する。一部の実施形態においては、マーカーに特異的な抗体を、目的のマーカープロファイルを有する胞子様細胞の亜集団の単離及び/又は精製に使用する。そして、この目的のマーカープロファイルに基づいて、抗体を使用して集団の一部分を陽性又は陰性選択することができ、一部の実施形態においては、これらは次いで更に分割されることが理解される。
【0033】
一部の実施形態においては、結合相手は、検出可能な標識で標識される。異なるマーカーに結合する異なる結合相手は、異なる検出可能な標識で標識することができるか、又は同じ検出可能な標識を使用することができる。種々の検出可能な標識が当業者に知られており、検出可能な標識を抗体並びにその断片及び/又は誘導体などの生体分子に結合させる方法も知られている。代表的な検出可能な部分としては、共有結合した発色団、蛍光部分、酵素、抗原、特異的な反応性を有する基、化学発光部分、および電気化学的に検出可能な部分などが挙げられるが、それだけに限定されない。一部の実施形態においては、結合相手はビオチン化される。一部の実施形態においては、細胞表面のマーカーに結合するビオチン化された結合相手(第1の結合相手)は、Cy3、Cy5及びCy7が挙げられるがそれだけに限定されない蛍光標識と結合されたアビジン基又はストレプトアビジン基を含む第2の結合相手を使用して検出される。一部の実施形態においては、結合相手は、Cy3、Cy5、又はCy7などの蛍光標識で直接標識される。一部の実施形態においては、結合相手は、蛍光標識で直接標識され、この抗体に結合した細胞は、蛍光活性化細胞選別によって分離される。更なる検出戦略も当業者には知られている。
【0034】
III.胞子様細胞の亜集団の適用
細胞培養及び遺伝子操作
本明細書に開示する細胞は、患者に直接投与されてもよく、内胚葉、外胚葉又は中胚葉起源のいずれかの細胞に分化するように誘導された後に投与されてもよく、又は遺伝子操作後に特定の因子を発現するようにされてもよい。例えば、胞子様細胞の亜集団は、インスリンなどのホルモンをコードする配列を含む遺伝子構築物を移入することによって、これらの因子を発現するようにすることができる。
【0035】
胞子様細胞の亜集団の分化
胞子様細胞の亜集団は、その起源組織にかかわらず、3種類の胚葉のいずれかからの細胞、例えば、上皮細胞を含めた皮膚及び有毛細胞、ケラチノサイト、メラノサイト、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞、骨細胞、肺胞細胞などの骨、筋肉及び結合組織を形成する細胞、肝細胞、腎細胞、副腎細胞、島細胞(例えば、アルファ細胞、デルタ細胞、PP細胞及びベータ細胞)などの実質細胞、血球(例えば、白血球、赤血球、マクロファージ及びリンパ球)、網膜細胞(及び耳の有毛細胞又は舌の味蕾を形成する細胞などの知覚認知に関与する他の細胞)、脳及び神経を含めた神経組織、並びに線維芽細胞に分化するように誘導することができる。
【0036】
胞子様細胞の亜集団は、種々の様式で分化するように誘導することができる。マーカー陽性の胞子様細胞は、患者の体内の組織と接触したときに、又は組織から放出された物質(例えば、増殖因子、酵素又はホルモン)によって影響を受けるのに十分近く組織に接近したときに、分化することができる。細胞分化は、細胞が周囲組織から受け取るシグナルによって影響される。かかるシグナル伝達は、例えば、細胞表面の受容体が結合し、患者内の組織によって放出された増殖因子、酵素、ホルモンなどの分子からのシグナルを伝達するときに起こる。あるいは、又はさらに、本明細書に開示する細胞は、物質(例えば、増殖因子、酵素、ホルモン又は他のシグナル伝達分子)を細胞の環境に添加することによって、分化するように誘導することができる。例えば、物質は、胞子様細胞の亜集団を含む培養皿に、細胞を組織に適用するのに適切なメッシュ若しくは他の基材に、又は患者の体内の組織に、添加することができる。細胞の分化を誘導する物質を全身的又は局所的のいずれかで投与する場合には、薬学的に容認された方法によって投与することができる。例えば、タンパク質、ポリペプチド又はオリゴヌクレオチドを、担体又は賦形剤を使用して又は使用しないで、生理学的に適合したバッファー中で投与することができる。したがって、胞子様細胞の亜集団は、培養中又は患者の体内のいずれかで分化することができ、さらに、固体支持体との接触後に、又は自然に発現される、外から投与される、若しくは遺伝子操作の結果として発現される物質に曝露後に、そうすることができる。
【0037】
一実施形態においては、胞子様細胞集団は、これらの細胞を「外胚葉分化」培地に曝露することによって、外胚葉起源の細胞に分化するように誘導される。別の一実施形態においては、胞子様細胞集団は、これらの細胞を「中胚葉分化培地」に曝露することによって、中胚葉起源の細胞に分化するように誘導される。更に別の一実施形態においては、胞子様細胞集団は、これらの細胞を「内胚葉培地」に曝露することによって、内胚葉起源の細胞に分化するように誘導される。「内胚葉」培地、「中胚葉」培地及び「外胚葉」培地の成分は当業者に既知である。公知の細胞表面マーカーを使用して、これらの細胞が実際に、対応する細胞培地の系列の細胞へと分化することを検証することができる。3種類の胚葉の分化を確認する最も一般的に容認されたマーカーは、内胚葉細胞の場合はアルファ胎児性タンパク質、中胚葉の場合はアルファ平滑筋アクチン、及び外胚葉の場合はベータIIIチューブリンの発現であり、これらすべては、通常はこれらの組織の発生の極めて早期に発現される。
【0038】
分化のための刺激にかかわらず、組織の維持又は修復を助けるのに十分に分化した、又は分化する、胞子様細胞の亜集団を、患者に(例えば、皮膚の熱傷若しくは他の外傷領域、骨折、断裂靭帯、萎縮筋肉、機能不全の腺、又は神経変性プロセス若しくは自己免疫応答によって悪影響を受けた領域の部位に)投与することができる。
【0039】
腫瘍胞子様細胞
(i)ワクチン処置
得られる胞子様細胞の亜集団は、極めて有用な研究ツールであり得、治療法の可能性を有し、例えば、膵臓からの腫瘍から単離された胞子様細胞は、樹状抗原提示細胞と共に、
一連の細胞媒介性ワクチンとして使用することができる。
【0040】
現行の実験的な樹状ワクチンは、短期間は作用するが、最終的には失敗する。最も可能性のある理由は、それが成熟腫瘍細胞に由来するからである。腫瘍細胞が遺伝的に変化すると、ワクチンは、インフルエンザウイルスワクチンで毎年起こるのと同様に、無用になり得る。強力な進化する腫瘍幹細胞を有することは、より有効なワクチンに役立つはずである。例えばLiau et al.,J.of Neuro.90(6):1115−24(1999)で示されたように、腫瘍由来の胞子様細胞集団は、培養物であり得、そして免疫系の細胞を刺激して、腫瘍又は悪性疾患を攻撃し、場合によっては処置するために使用することができる。Liau等(1999)は、特別なタイプの脳腫瘍(頭蓋内神経膠腫)が、これらの脳腫瘍細胞を実際に単離し、樹状細胞と呼ばれる患者に由来し得る特別なタイプの免疫細胞を刺激することによって、処置できることを実証した。樹状細胞は実際に、次いで腫瘍細胞によって産生される抗原をプロセシングし、その結果、免疫系の残りの部分を刺激して、実際の脳腫瘍を攻撃して腫瘍を退縮又は消滅させる。この攻撃は、T−8、T−4並びにB細胞及びナチュラルキラー細胞などの免疫細胞によって産生されるサイトカインの産生によって媒介される。この特別なアプローチは、脳腫瘍の処置において動物と初期のヒト試験の両方で治療的利益を示した。この技術の主な制限の一つは、特定のタイプの腫瘍細胞に対しては有効なワクチンを作製できるが、時間が経つと腫瘍が変異し、その結果、最初のワクチンに反応しない新しい腫瘍が生じ得ることである。したがって、さらに多様な抗原を発現し、培養して連続的に維持することができる、腫瘍由来の胞子様細胞を、腫瘍細胞の代わりに使用することができる。これらの胞子様細胞は抗原を発現し、変異するので、最新のワクチンを合成することができ、患者における腫瘍再発の処置に使用することができる。本発明者らは、インスリノーマと呼ばれる特別なタイプの腫瘍中に胞子様細胞が存在することに注目した。胞子様細胞をすべての腫瘍タイプから単離することができないことを予想する理由はない。腫瘍由来の胞子様細胞を使用してワクチンを刺激する一つの潜在的利点は、胞子様細胞は極めて原始的なので、発現し、複数種類の腫瘍細胞に分化し、複数の抗原を発現する十分な可能性を有するということである。換言すれば、より基本的な腫瘍細胞を使用してワクチンを製造すると、異なるタイプの腫瘍抗原を産生するより大きい可能性を有する細胞に対する多様な免疫応答によって、腫瘍中で生じる通常の変異に起因して、より強力なワクチンが最終的に得られるであろう。さらに、胞子様細胞は、血液、骨髄及び胸腺から単離することができ、ナチュラルキラー細胞、T−4及びT−8細胞、並びにB又は抗体産生細胞を含めて、すべての細胞型の免疫系に分化する能力を有する。さらに、樹状細胞(抗原提示細胞)は、胞子様細胞から発達することができる。これは、種々のタイプの腫瘍細胞によってだけでなく、ウイルス、HIV、炭疽などの細菌などの微生物によっても、免疫系の可能なインビトロでの刺激を可能にする。これは、腫瘍、ならびにHIVおよび炭疽などの感染症に対する新しいワクチンを創出する機序を提供することができる。さらに、生検によって腫瘍から誘導される胞子様細胞はインビトロで培養することができ、異なる治療薬を使用してインビトロで悪性疾患の胞子様細胞に対する効果を試験することができ、したがって患者の応答が化学療法剤、ワクチン又は放射線かどうかを予測することができる。培養によって細菌が病気の患者から単離され、有効な抗生物質処置を選択するために感受性がなされるように、生検試料からの腫瘍胞子様細胞の単離は、腫瘍培養及び化学療法感受性試験を可能にする。さらに、患者から単離される腫瘍胞子様細胞は、必要な診断及び治療的介入のために患者の腫瘍のプロファイリングするために、分子診断学及びプロテオノミクス(proteonomics)の発展的分野における使用に適しているであろう。
【0041】
(ii)腫瘍細胞におけるDNA修復
生細胞(living cell)中のDNAは、放射線、発癌物質および酸化などの損傷因子に常に曝露される。損傷DNAが細胞の悪性トランスフォーメーションに関連することが知られている。したがって、細胞は、DNA修復遺伝子の存在によって、悪性になることから保護される。例えば、特定のタイプの癌に対して遺伝的素因を有する場合、このDNA修復系の欠陥が実証され得る場合がある。一例は、遺伝性非ポリポーシス結腸癌症候群である。これは、結腸の家族性癌として現れる、DNA修復の欠陥からなる。ヌクレオチドのミスマッチは癌をもたらし得る。正常なDNA修復遺伝子は、このミスマッチを修正し、その結果、腫瘍形成が回避される。最近の幹細胞研究によれば、ニューロン幹細胞は、遊走性神経膠腫(特別なタイプの脳腫瘍)細胞に随行し、追跡する能力を有することが示されている。この腫瘍追跡現象のために、神経幹細胞には、インターフェロンガンマ、腫瘍壊死因子およびインターロイキン12などの化学物質についての遺伝子がその中に挿入された。移植されると、これらの独特の幹細胞は、脳腫瘍細胞を追跡し、抗腫瘍化学物質を分泌することによってそれに損傷を与えることができた。さらに、最近の文献によれば、成体幹細胞は、体内に置かれたときに正常細胞と融合する能力を有する。上述したようなDNA修復に関連する開示は、例えば、Ourednik,et al.,Nature Biotechnol.,20(11):1103−1110(2002);Stewart,et al.,Bioessays,24(8):708−13(2002);Ehtesham,et al.,Cancer Therapy,9(11):925−934(2002);Ehtesham,et al.,Cancer Reserves,62(20):5657−63(2002);Ferguson,et al.,Oncogene 20(40):5572−9(2001)に見いだすことができる。
【0042】
したがって、本明細書に開示する胞子様細胞集団は、追跡による悪性細胞の発見、融合及びDNA修復の独特の諸性質を用いて腫瘍を処置するのに使用することができる。インビトロでの胞子様細胞は、クラスター形成し、胞子様細胞と一緒に培養増殖された正常細胞と融合することが観察された。胞子様細胞は、非調製の抗凝固処理された冷凍血液から容易に単離され、容易に培養で増殖することができる。神経幹細胞とは対照的に、これらの胞子様細胞は、特に血液から、容易に誘導され、インキュベートすると数が急速に増加する。さらに、それらは小さく、その結果、その数が多く、サイズが小さく、構造が極めて単純であるために腫瘍細胞と融合する機会が増す。先の記述は、本質的に、膜結合DNAの極めて小さい単純な構造又はパケットを示す。すべての細胞は、天然のDNA修復系を有する。一例は、損傷を受けた欠陥DNAを切除することができ、次いでこれらの損傷DNAセグメントをDNAポリメラーゼを使用して正常DNAで置換することができるエンドヌクレアーゼであろう。細胞の加齢につれて、そのDNA修復系が衰え、その結果悪性トランスフォーメーションが生ずる。大部分の癌治療様式は、腫瘍の外科的除去、及び化学療法、放射線または免疫療法などの腫瘍細胞死滅機序の使用に焦点を合わせる。これらのアプローチは、かなりの死亡率を伴い、必ずしも有効ではない。腫瘍細胞を正常細胞に変換するDNA修復を使用するアプローチは、これらの修復系があることは知られているが、存在せず、その失敗は癌を引き起こすことに関与する。腫瘍細胞を探し出し、追跡することができる新しいDNA修復系と一緒に、患者自身の血液に由来する10億個の胞子様細胞を注入することは、腫瘍細胞と融合し、そのDNA修復系を欠陥腫瘍細胞に供与する能力を有する。それらは、栄養(trophic)効果のある物質を分泌することによって腫瘍細胞に対する修復効果も発揮し得る。これらの胞子様細胞は、腫瘍に直接注入してもよく、又はIV若しくはIP経路で投与してもよい。これは、存在が知られている天然DNA修復系の増強であるので、副作用は、化学療法などのより伝統的な細胞自殺アプローチと比較して最小である。本質的に、無制限の数の胞子様細胞が患者自身の血液から生成されて、この任務を果たすことができる。
【0043】
さらに、遺伝子挿入技術を使用して、インターフェロンガンマおよび腫瘍壊死因子などの抗腫瘍物質を発現するヌクレオチド配列を胞子様細胞に挿入することができる。一旦注入されると、これらの遺伝子操作された胞子様細胞は、腫瘍細胞を追跡し、それと融合して、インターフェロン又はTNFを腫瘍に治療効果を持って直接送達する。胞子様細胞集団は、インビトロで増殖して、腫瘍細胞中に見出される損傷DNAを追跡し、融合し、その結果修復することができる無尽蔵の量の単純な細胞構造を供給することができるので、これは従来技術の改善を示す。従来技術によれば、神経幹細胞はこれらの諸性質を有することが実証されているが、患者から神経幹細胞を収集することは多くのリスクを伴い得る。この処置アプローチは、乳房、肺、脳及び前立腺(prostrate)並びに他の器官の癌に使用することができる。
【0044】
(iii)変性疾患の逆転
遺伝子ベースの治療法又は遺伝子挿入技術は、特定のヌクレオチド配列又は遺伝子の効果的な送達を必要とし、特定の遺伝子によって産生される必要なタンパク質の産生のために臨床を改善する。潜在的用途としては、癌、ワクチン、遺伝障害及び代謝障害、並びにウイルス感染症、心血管疾患及び他の器官の疾患状態を含めた他の領域に対する治療様式が挙げられる。遺伝子ベースの治療法の主要な制限の一つは、適切で有効な送達系を見いだすことである。患者が結果的に感染し、必要な治療遺伝子の挿入により必要なタンパク質の発現をもたらす、遺伝子挿入及びアデノウイルスベクターに関して多大な研究が成された。問題は、所望の宿主細胞への無効な遺伝子挿入、及び宿主に実際に感染するウイルスベクターの有害効果などを含んでいる。実施例で実証されるように、胞子様細胞集団は、インビトロで増殖された血液を含めて、患者から容易に単離することができ、胞子様細胞は、少数の例を挙げるとIV、腹腔内または皮下などの種々の経路によって患者に安全に戻すことができる。(血友病処置のための)第8因子などのタンパク質をコードする遺伝子は、Vacanti,et al.,Transplantation Proceedings,33:592−598(2001)に開示された技術などの技術を使用して、新しい治療遺伝子及び産物と一緒に胞子様細胞集団を増殖させて、インビトロの環境に挿入することができる。使用可能性の更なる証拠としては、活性な核酸合成を示すBrduの発現が挙げられる。この方法は、組換え技術において胞子様細胞集団を利用して第8因子などの必要な治療タンパク質の実際のインビトロでの産生も可能にし、その結果、治療タンパク質が産生される。理想的には、持続的なインビボでの効果が可能であり得る。例えば、血液胞子様細胞集団は、血友病又はテイサックス病患者から単離することができ、遺伝子がインビトロで挿入され、次いで酵素欠乏を修正しこの疾患を治癒させる潜在能力を有する増殖性細胞と一緒に、修正された細胞を患者に安全に移植して戻すことができる。疾患を生じる任意の公知の遺伝子酵素欠乏が、このアプローチを使用した処置の対象となり得る。潜在的に治療可能な遺伝病としては、少数の例を挙げると、ハンチントン病、筋ジストロフィー、家族性高コレステロール血症、嚢胞性線維症、フェニルケトン尿症、血色素症、鎌状赤血球貧血及び糖原蓄積症が挙げられる。ヒトゲノムのマッピングを使用して、疾患を生じる最終的に大部分の遺伝子変異が、適切な遺伝子挿入技術による処置の機会を広げることに成功した。自系由来の胞子様細胞集団は、これらの修正された遺伝子の必要な送達ビヒクルを提供することができる。そのサイズが小さく、分裂して治療核酸配列の挿入及び発現を可能にする増殖能力の性質は、これが妥当な用途であることを示している。この遺伝子挿入は、必要な遺伝子配列を含む裸のDNA単独のみを用いて胞子様細胞中でインビトロで起こり得る。これは、アデノウイルス技術などのウイルスベクターの使用を含むあらゆる種類の潜在的な危険を回避するであろう。この遺伝子挿入様式の使用は、核酸配列を挿入して、腫瘍抑制タンパク質、又は腫瘍の増殖を阻止する血管新生阻害剤などの治療薬を作製するなどの更なる治療様式を提供することができる。胞子様細胞集団に挿入することができる別の遺伝子としては、虚血性心疾患を処置し、したがってバイパス心臓手術を不要にする、VEGFなどの血管作用性遺伝子が挙げられる。嚢胞性線維症を処置するタンパク質を生成するCFRT遺伝子は、循環によって肺に移動した、又は気管支を介して肺に注入された、胞子様細胞によって発現することができ、その結果、肺組織に移植され、分化して、嚢胞性線維症の症候の処置に役立つ必要な遺伝子産物が産生される。
【0045】
必要な産物のバルク産生が望ましい場合、生分解性足場材料、ヒドロゲル、又は冷凍血液及び心臓、肺、及びCSFなどの他の組織から我々が単離したものなどの天然由来のマトリックスとともに胞子様細胞に移植することができる。遺伝子挿入療法の以前の制限は、恐らく、修正された細胞が体内に散逸し、最終的に消失するという理由から、時間が経つと生成物の量が減少することである。天然又は生分解性足場上での遺伝子ヌクレオチドが挿入された胞子様細胞集団を使用した組織構築物の産生は、この制限を克服する一方法であろう。
【0046】
細胞投与のための構造及び処方
細胞集団は、胞子様細胞の集団を単独で又は担体若しくは支持構造体の上若しくは中に含む組成物によって、患者に投与することができる。多数の実施形態においては、担体は不要であろう。胞子様細胞は、細胞が必要とされる部位の上又は中に注射によって投与される。これらの場合、細胞は、典型的には、洗浄して細胞培養培地を除去し、生理学的バッファーに懸濁される。
【0047】
他の実施形態においては、細胞は、支持構造体を備えるか、又は支持構造体の上若しくは中に取り込まれる。支持構造体は、メッシュ、固体支持体、管、多孔質構造体及び/又はヒドロゲルであり得る。支持構造体は、全体的又は部分的に、生分解性又は非生分解性であり得る。支持体は、天然若しくは合成のポリマー、チタンなどの金属、骨若しくはヒドロキシアパタイト、又はセラミックから形成することができる。天然ポリマーとしては、コラーゲン、ヒアルロン酸、多糖類及びグリコサミノグリカンが挙げられる。合成ポリマーとしては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸及びそれらのコポリマーなどのポリヒドロキシ酸、ポリヒドロキシブチエートなどのポリヒドロキシアルカノエート、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物、ポリウレタン、ポリカーボネート、及びポリエステルが挙げられる。
【0048】
固体支持体
支持構造体は、織り目の緩い又は不織のメッシュとすることができ、ここで、細胞はメッシュの中及び上にまかれる。この構造体としては、固体構造支持体が挙げられる。支持体は、管、例えば、神経軸索の再増殖のための神経管とすることができる。支持体は、ステント又は弁であり得る。支持体は、細胞の内殖及び/又は多孔質構造体中への細胞の接種を可能にする多孔質界面を有する、膝若しくは腰又はその一部などの人工関節とすることができる。
【0049】
支持構造体は、ヒドロゲル−細胞混合物を成形及び支持する孔状空洞又は間隙を有する透過性構造体であり得る。例えば、支持構造体は、多孔質ポリマーメッシュ、天然若しくは合成のスポンジ、或いは金属又は骨若しくはヒドロキシアパタイトなどの材料で形成された支持構造体であり得る。支持構造体の多孔度は、栄養素が構造体中に拡散することができ、それによって細胞内部に効果的に到達し、細胞によって産生される老廃物が構造体から外へ拡散することができるようにすべきである。
【0050】
支持構造体は、新しい組織が望まれる空間に一致するように成形することができる。例えば、支持構造体は、熱傷した皮膚領域又は欠失した軟骨若しくは骨の部分の形状に一致するように成形することができる。支持構造体は、その製造材料に応じて、切断、モールディング、キャスティング、又は所望の形状を生成する任意の他の方法によって成形することができる。支持体は、以下に示すように、支持構造体に細胞をまく前若しくは後に、又はヒドロゲル−細胞混合物を充填する前若しくは後に、成形することができる。
【0051】
増殖因子などの追加の因子、分化又は脱分化を誘導する他の因子、分泌産物、免疫調節物質、抗炎症剤、退縮因子、神経支配を促進する又はリンパネットワークを増強する生物活性化合物、及び薬物を、ポリマー支持構造体に組み込むことができる。
【0052】
適切なポリマーの一例はポリグラクチンである。ポリグラクチンは、グリコリドとラクチドとの90:10のコポリマーであり、VICRYL(商標)編組吸収性縫合糸として製造されている(Ethicon Co.,Somerville,N.J.)。(VICRYL(商標)などの)ポリマー繊維は、織るか又は圧縮してフェルト状ポリマーシート状にすることができ、次いで任意の所望の形状に切断することができる。あるいは、ポリマー繊維は、支持構造体の所望される形状にそれらを成型する型中で一緒に圧縮することができる。ある場合には、追加のポリマーをポリマー繊維に添加し、それらを成型して、繊維メッシュを改良する又は繊維メッシュに追加の構造を付与することができる。例えば、ポリ乳酸溶液をポリグリコール酸繊維メッシュのこのシートに添加することができ、この組合せを一緒に成形して、多孔質支持構造体を形成することができる。ポリ乳酸は、ポリグリコール酸繊維の架橋を結合し、それによってこれらの個々の繊維を被覆し、成形された繊維の形状を固定する。ポリ乳酸は、繊維間の空間も埋める。したがって、多孔度は、支持体に導入されたポリ乳酸の量に応じて変わり得る。繊維メッシュを望ましい形状に成形するのに必要な圧力は、かなり下げることができる。必要なのは、ポリ乳酸の結合及び被覆作用が奏功するのに十分な期間繊維が適所に保持されることだけである。
【0053】
あるいは、又はさらに、支持構造体は、当該技術分野で公知の技術によって製造された他のタイプのポリマー繊維又はポリマー構造体を含むことができる。例えば、溶媒をポリマー溶液から蒸発させることによって薄いポリマーフィルムを得ることができる。ポリマー溶液が所望の形状のレリーフパターンを有する型から蒸発すると、これらのフィルムを所望の形状に成形することができる。ポリマーゲルも、当該技術分野で公知の圧縮成形技術を使用して薄い透過性ポリマー構造体に成形することができる。
【0054】
多数の他のタイプの支持構造体も可能である。例えば、支持構造体は、内部細孔を有するスポンジ、発泡体、サンゴ若しくは生体適合性無機構造体、又は織り合わされたポリマー繊維のメッシュシートから形成することができる。これらの支持構造体は、公知の方法を使用して調製することができる。
【0055】
ヒドロゲル
別の一実施形態においては、細胞をヒドロゲルと混合して、細胞−ヒドロゲル混合物を形成する。この細胞−ヒドロゲル混合物は、損傷を受けた組織に直接適用することができる。例えば、米国特許第5,944,754号に記載のように、ヒドロゲル−細胞混合物は、所望の表面に単にはけ塗り、滴下又は噴霧することができ、又は注ぐことができ、又は所望の空洞若しくは装置を満たすことができる。ヒドロゲルは、その中に細胞が付着し、増殖する、薄いマトリックス又は足場を提供する。これらの投与方法は、患者の障害に付随する組織が不規則な形状を有するとき、又は細胞が遠位部位に適用されるとき(例えば、胞子様細胞が腎嚢下に置かれて糖尿病を処置するとき)に、特に適切であり得る。
【0056】
あるいは、ヒドロゲル−細胞混合物は、この混合物が支持構造体を本質的に満たし、固化すると支持構造体の形状をとるように、透過性生体適合性支持構造体に導入することができる。したがって、支持構造体は、その中に置かれた胞子様細胞又はその子孫から成熟する組織の発生及び形状を導くことができる。更に以下に記述するように、支持構造体は、ヒドロゲル−細胞混合物で満たす前又は後に、患者に提供することができる。例えば、支持構造体を組織(例えば、皮膚、肝臓又は骨格系の損傷領域)内に置き、続いてシリンジ、カテーテル又は他の適切な装置を使用して、ヒドロゲル−細胞組成物で満たすことができる。望ましい場合には、支持構造体の形状を損傷組織の形状に一致させることができる。以下のサブセクションでは、適切な支持構造体、ヒドロゲル及び送達方法を記述する。
【0057】
ヒドロゲルは、生体適合性であって、生分解性であって、生細胞を維持可能であって、好ましくは、インビボで急速に(例えば、支持構造体に送達後約5分で)凝固できるべきである。多数の細胞がヒドロゲル内に均一に分布することができる。ヒドロゲルは、通常、約5×10細胞/mlを支持することができる。ヒドロゲルは、栄養素が細胞に到達し、老廃物が運び出され得るように拡散させることもできる。
【0058】
種々の異なるヒドロゲルを使用することができる。これらとしては、(1)体温で凝固又は硬化する温度依存性ヒドロゲル(例えば、PLURONICS(商標))、(2)イオンによって架橋されたヒドロゲル(例えば、アルギン酸ナトリウム)、(3)可視光又は紫外線曝露によって硬化されるヒドロゲル(例えば、アクリレート末端基を有するポリエチレングリコールポリ乳酸コポリマー)、及び(4)pH変化によって硬化又は固化されるヒドロゲル(例えば、TETRONICS(商標))が挙げられるが、それだけに限定されない。上記の他のポリマーの合成方法は、当業者に知られている。例えば、Concise Encyclopedia of Polymer Science and Engineering,J.I.Kroschwitz,Ed.,John Wiley and Sons,New York,N.Y.,1990を参照されたい。ポリ(アクリル酸)、アルギネートおよびPLURONICS(商標)などの多数のポリマーが市販されている。
【0059】
アルギネートまたはキトサンなどのイオン性多糖類は、胞子様細胞及びその子孫を含めて、生細胞の懸濁に使用することができる。これらのヒドロゲルは、海藻から単離された炭水化物ポリマーであるアルギン酸の陰イオン塩をカルシウム陽イオンなどのイオンで架橋することによって製造することができる。ヒドロゲルの強度は、カルシウムイオン又はアルギネートの濃度の増加とともに増加する。米国特許第4,352,883号は、水中で、室温で、二価の陽イオンを使用したアルギネートのイオン架橋によるヒドロゲルマトリックスの形成を記載している。
【0060】
胞子様細胞の亜集団は、アルギネート溶液と混合される。この溶液は、既に移植された支持構造体に送達され、次いで、生理的濃度のカルシウムイオンがインビボで存在するため短時間で固化する。あるいは、この溶液は移植前に支持構造体に送達され、カルシウムイオンを含有する外部溶液中で固化する。
【0061】
一般に、これらのポリマーは、水溶液(例えば、水、荷電した側基を有するアルコール水溶液又はその一価のイオン塩)に少なくとも一部可溶である。陽イオンと反応し得る酸性側基を有するポリマーの多数の例がある(例えば、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(アクリル酸)及びポリ(メタクリル酸))。酸性基の例としては、カルボン酸基、スルホン酸基及びハロゲン化(好ましくはフッ化)アルコール基が挙げられる。陰イオンと反応し得る塩基性側基を有するポリマーの例は、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(ビニルピリジン)及びポリ(ビニルイミダゾール)である。
【0062】
荷電側基を有する水溶性ポリマーは、このポリマーを反対電荷の多価イオン(このポリマーが酸性側基を有する場合は多価陽イオン、又はこのポリマーが塩基性側基を有する場合は多価陰イオンのいずれか)を含有する水溶液と反応させることによって架橋される。酸性側基を有するポリマーを架橋してヒドロゲルを形成する陽イオンとしては、銅、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム及びストロンチウムなどの二価及び三価の陽イオンが挙げられる。これらの陽イオンの塩の水溶液をこのポリマーに添加して軟性の高度に膨潤したヒドロゲルを形成する。
【0063】
このポリマーを架橋してヒドロゲルを形成する陰イオンとしては、低分子量ジカルボン酸イオン、テレフタル酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオンなどの二価及び三価の陰イオンが挙げられる。陽イオンに関して記述したように、これらの陰イオンの塩の水溶液をポリマーに添加して軟性の高度に膨潤したヒドロゲルを形成する。
【0064】
抗体がヒドロゲル中に移動するのを防止するが、栄養素は流入させるために、ヒドロゲルにおける有用なポリマーサイズは、10kDaと18.5kDaとの間の範囲である。より小さいポリマーは、より小さい細孔を有するより高密度のゲルをもたらす。
【0065】
温度依存性又は感熱性ヒドロゲルを使用することもできる。これらのヒドロゲルは、いわゆる「逆ゲル化」性を有し、すなわち、室温以下では液体であるが、より高温(例えば、体温)に加温した場合、ゲルである。したがって、これらのヒドロゲルは、室温以下では液体として容易に塗布することができ、体温に加温すると自動的に半固体ゲルを形成することができる。その結果、これらのゲルは、支持構造体をまず患者に移植し、次いでヒドロゲル−細胞組成物で満たす場合に特に有用である。かかる温度依存性ヒドロゲルの例は、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンF−108、F−68及びF−127などのPLURONICS(商標)(BASF−Wyandotte)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、並びにN−イソプロピルアクリルアミドコポリマーである。
【0066】
これらのコポリマーは、標準技術によって操作して、多孔度、分解速度、転移温度及び剛性度などのその物性を変化させることができる。例えば、塩の存在下及び非存在下の低分子量糖類の添加は、典型的な感熱性ポリマーの下限臨界共溶温度(LCST)に影響を与える。さらに、これらのゲルが5%(W/Vと25%(W/V)との間の範囲の濃度で4℃で分散して調製される場合には、粘度及びゲル−ゾル転移温度が影響を受ける。ゲル−ゾル転移温度は、濃度と逆の関係にある。これらのゲルは、胞子様細胞及びその子孫が生存し、栄養を与えられるようにすることができる拡散特性を有する。
【0067】
米国特許第4,188,373号は、水性組成物中のPLURONIC(商標)ポリオールを使用して熱ゲル化水性系を提供することを記載している。米国特許第4,474,751号、同第4,474,752号、同第4,474,753号及び同第4,478,822号は、熱硬化性ポリオキシアルキレンゲルを利用する薬物送達システムを記載している。これらのシステムを使用して、ゲル転移温度及び/又はゲルの剛性の両方を、pH及び/又はイオン強度の調節によって、さらにポリマー濃度によって、変更することができる。
【0068】
他の適切なヒドロゲルはpH依存性である。これらのヒドロゲルは、特定のpH値で、特定のpH値未満で、又は特定のpH値を超えると液体であり、特定のpH値、例えば、人体内の細胞外液の正常pH範囲である7.35から7.45に曝された場合にはゲルである。したがって、これらのヒドロゲルは、移植された支持構造体に液体として容易に送達することができ、身体のpHに曝されると半固体ゲルを自動的に形成することができる。かかるpH依存性ヒドロゲルの例は、TETRONICS(商標)(BASF−Wyandotte)エチレンジアミンのポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンポリマー、ポリ(メタクリル酸ジエチルアミノエチル−g−エチレングリコール)、及びポリ(メタクリル酸2−ヒドロキシメチル)である。これらのコポリマーは、標準技術によって操作してその物性に影響を与えることができる。
【0069】
胞子様細胞又はその子孫を投与するのに使用することができる他のヒドロゲルは、可視光又は紫外線のいずれかによって固化する。これらのヒドロゲルは、水溶性領域、生分解性領域、及び少なくとも2個の重合可能な領域を含むマクロマーでできている(例えば、米国特許第5,410,016号を参照されたい)。例えば、このヒドロゲルは、コア、コアの各末端の伸長部、及び各伸長部の末端キャップ部を含む、生分解性の重合可能なマクロマーで開始することができる。コアは親水性ポリマーであり、伸長部は生分解性ポリマーであり、末端キャップ部は、可視光又は紫外線、例えば長波長紫外線に曝露されるとマクロマーを架橋する能力のあるオリゴマーである。
【0070】
かかる光凝固されるヒドロゲルの例としては、ポリエチレンオキシドブロックコポリマー、アクリレート末端基を有するポリエチレングリコールポリ乳酸コポリマー、及びアクリレートで両端がキャップされた10Kポリエチレングリコール−グリコリドコポリマーが挙げられる。PLURONIC(商標)ヒドロゲル同様、これらのヒドロゲルを構成するコポリマーは、標準技術によって操作して、分解速度、結晶化度の差および剛性度などのその物性を変更することができる。
【0071】
ヒドロゲルは、注射若しくはカテーテルによって、又は他の支持構造体の移植時に、投与することができる。架橋は、投与前、投与中又は投与後に行うことができる。
【0072】
別段の記載がない限り、本明細書で使用するすべての技術用語及び科学用語は、開示する発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書で引用する刊行物、及びそれらが引用される資料は、参照により具体的に援用される。
【実施例】
【0073】
本特許出願に記載の方法を使用して、胞子様細胞の集団を骨髄、並びに内胚葉、中胚葉及び外胚葉を代表する幾つかの組織から単離した。単離直後、抗生物質B27、FGF及びEGFを含むDMEM/F12で構成された「基本培地」と称される培地に細胞を入れた。この細胞を基本培地中に数週間維持し、その間に、一連の試験を実施してこれらの細胞によって発現されるマーカーを同定した。タンパク質発現の確認に遺伝子発現分析と免疫組織化学の両方を使用してマーカーを同定した。
【0074】
内胚葉、中胚葉及び外胚葉の代表的な組織から得られた胞子様細胞を、「基本培地」に曝露しながら、胚性幹細胞に関連したマーカーの発現について分析した。内胚葉組織(肺及び肝臓)、中胚葉組織(筋肉)及び外胚葉組織(脊髄及び副腎)から得られた胞子様細胞の集団はすべて、骨髄から得られた胞子様細胞と同じパネルの遺伝マーカーおよびタンパク質マーカーを発現し、「基本培地」中に維持している間は骨髄由来の胞子様細胞と同じマーカーはなかった。
【0075】
次いで、細胞を3種類の分化培地(内胚葉分化培地、中胚葉分化培地及び外胚葉分化培地)のうちの一つに曝露した。培地の組成は以下のとおりである。
【0076】
内胚葉分化培地:肝細胞培養培地、アスコルビン酸、BSA−FAF、ヒドロコルチゾン、トランスフェリン、インスリン、hEGF、ゲノミオシン(genomyosin)、+10%ウシ胎仔血清。
【0077】
中胚葉分化培地:DMEM+20%ウシ胎仔血清。
【0078】
外胚葉分化培地:DMEM/F12+B27、BEDA FGF、EGFで構成された基本培地に添加された10%ウシ胎仔血清。
【0079】
骨髄および代表的組織の各々から得られた脱凝集クラスターを含め、胞子様細胞集団を、上述したように補充した「分化培地」の各々に曝露した場合、公知のタンパク質及び遺伝マーカーの発現によって測定したところ、この細胞は、使用した培地の機能として、内胚葉、中胚葉又は外胚葉のいずれかの代表的な細胞に分化した。すなわち、内胚葉分化培地を使用した場合には、細胞は、内胚葉組織と一致する以下のタンパク質マーカーを発現した:サイトケラチン18、アルブミン及びアルファ胎児性タンパク質。遺伝マーカーGATA4も発現された。
【0080】
中胚葉分化培地を使用した場合には、この細胞は、中胚葉組織と一致する以下のタンパク質マーカーを発現した:ミオシン、デスミン、アルファ平滑筋アクチン。遺伝マーカーブラキュリ(burachyury)も発現された。
【0081】
外胚葉分化培地を使用した場合には、この細胞は、外胚葉組織と一致する以下のタンパク質マーカーを発現した:ネスチン、Map2ベータIIIチューブリン(どちらもニューロンのマーカー)、04(乏突起膠細胞のマーカー)、GFAP(グリア細胞のマーカー)。Map2の発現もまた、遺伝子発現分析によって確認された。
【0082】
当業者には理解されるように、3種類の胚葉の分化を確認する最も一般的に容認されたマーカーは、内胚葉の場合はアルファ胎児性タンパク質、中胚葉の場合はアルファ平滑筋アクチン、そして外胚葉の場合はベータIIIチューブリンの発現であり、これらすべては、通常はこれらの組織の発生の極めて早期に発現される。さらに、遺伝マーカーmap2、ブラキュリ及びgata4は、胚の胚葉形成の極めて早期に発現される。
【0083】
結果
(i)骨髄由来の胞子様細胞:
骨髄から単離された胞子様細胞集団は、数日以内に多細胞クラスターを形成した。クラスターに含まれるか又は単独のいずれかの個々の細胞は、以下の遺伝マーカーを発現する。そのすべては、胚性幹細胞に関連付けられている:Oct4、Nanog、Dax1、Fgf4、Zfb296、Cripto、Gdf3、Utf1、Cdx2、Ecat1、Esg1、Sox2及びPax6、cMyc(増殖遺伝子)、Fgf5、Olig2並びにPdgfrl2。マーカーネスチン(神経幹細胞に一般に関連するマーカー)も確認された。
【0084】
Oct4はPOU転写因子であり、nanogはNK−2クラスのホメオボックス転写因子であり、どちらも胚性幹細胞における未分化状態及び多能性の維持に関連付けられている(Pan,et al.,Cell Res.,12:321−329(2002);Clark,et al.,Stem Cells,22:169−179(2004);Niwa,Development,134:635−646(2007))。内部細胞塊において早期に発現されるマーカーであるCripto(奇形癌由来の増殖因子1)は、脊椎動物の胚形成において重要な役割を果たす多機能細胞表面タンパク質である(Strizzi,Oncogene,24:5731−5741(2005))。GDF3は、多能性状態で特異的に発現されるリガンドのTGFβスーパーファミリーの一員である(Levine,Development,133:209−16(2005))。未分化胚性転写因子(UtF1)は、マウス胚性幹細胞において幹細胞特異的な様式で発現される転写補因子として最初に同定された。Utf1は、多能性の推定マーカーである(Niwa,Cell Structure and Function,26(3):137−148(2001))。胚性幹細胞関連転写産物1(Ecat1)は、胚性幹細胞関連導入遺伝子である。KHドメイン含有タンパク質をコードする胚性幹細胞特異的遺伝子(Esg1)は、ES細胞、胚性生殖細胞及び多分化能生殖系列幹細胞を含めて、多能性細胞において発現される(Kanatsu−Shinohara,Cell,1001−1012(2004))。Sox2としても知られるSRY(性決定領域Y)−box2及びPax6は、ES細胞及び神経幹細胞の両方に関連するマーカーである。Sox2は、誘導多能性幹細胞に必要な重要な転写因子の一つである(Zhao,J.Cell.Biochem.105(4):949−55(2008))。ネスチンは、中枢神経系からの幹細胞において主に発現されるクラスVI中間径フィラメントタンパク質である(Frederisken,et al.,J.Neurosci.,8:1144−51(1988))。したがって、骨髄から得られる胞子様細胞は、多能性を示すマーカーを発現する。
【0085】
これらの細胞は、免疫組織化学によって実証されたところ、胚性幹細胞に関連する以下のタンパク質マーカーも発現した:C−kit及びSca1(表面マーカー)及びE−カドヘリン。
【0086】
骨髄から単離された胞子様細胞は、以下の胚性幹細胞マーカーについて陰性染色であったことが注目される:Dax1、線維芽細胞増殖因子4(Fgf4)、caudalタイプホメオボックス転写因子2(Cdx2)、Neo及びEras(ESの腫瘍形成遺伝子)、並びにRex1。この細胞は、神経堤幹細胞マーカーP75についても陰性染色であった。この細胞は、以下のタンパク質マーカーのいずれも発現しなかった:Cd45、Cd31又はCd34(内皮及び造血幹細胞のマーカー)。
【0087】
(ii)筋肉
筋肉から得られた胞子様細胞は、骨髄から得られた胞子様細胞で認められたものと同じ胚性幹細胞マーカーを初期に発現した。すなわち、この細胞は、Oct4、Dax1、Fgf4、Zfp296、Cripto Gdf3、Utf1、Cdx2、Ecat1、Esg1、Sox2及びPax6、cMyc、Fgf5、Olig2、Pdgfrl2を発現した。
【0088】
筋肉由来の胞子様細胞は、骨髄由来の胞子様細胞と同様に、Dax1、Fgf4、Cdx2、Neo及びEras、Rex1(胚性幹細胞マーカー)、P75(神経堤マーカー)、Cd45又はCd31(内皮及び造血幹細胞のマーカー)について陰性染色であった。
【0089】
筋肉から単離された胞子様細胞は、(球の形状の)多細胞クラスターを形成した後に試験された。
【0090】
この球は、早くも数日で形成し始めたが、初期の単離後少なくとも3週間はマーカーについて試験されなかった。この球は、最終的に、直径300ミクロンを超えるサイズに成長した。筋肉の胞子様細胞から形成された球は、以下のマーカーについて陽性染色であった:ckit(必ずしも胚性幹細胞(ESC)ではない、幹細胞を示す細胞表面マーカー)。この球中の細胞のほぼ50%は3週目で陽性であったが、90日目ではわずか1〜5%が陽性であった(これは、これらの細胞が、成熟するにつれてその「幹細胞性(stem cellness)」を失ったことを示している)。
【0091】
ミオスフェア(myosphere)から脱落した細胞についても分析した。これらは、ミオスフェアから誘導され、その増殖及び成熟につれてそこから脱落した細胞である。幹細胞抗原1(Sca−1)に対する抗体、CD31に対する抗体及びCD45に対する抗体は、すべてPEと直接結合体化された。CD29に対する抗体、CD34に対する抗体及びCD90に対する抗体は、すべてFITCと直接結合体化された。この球中の細胞は、以下のマーカー:SCA−1、CD29、CD34、CD90及びB1インテグリンについて陽性であったが、より成熟した細胞の造血細胞及び内皮細胞のマーカーであるCD31、CD45については陰性であった。マーカー発現は、時間とともに変化した。この球から脱落した細胞が付着すると、それらは未成熟マーカーCD90をまず失い、次いでSca−1を失い始めた。さらに、ミオスフェア細胞は、成熟細胞マーカーMyoDを発現せず、Pax7及びMyf5をほとんど又は全く発現しなかった。
【0092】
しかし、これらのミオスフェアをプレーティングすると、接着細胞は、成熟してPax7、MyoD及びデスミンを発現し、分化培地に添加後、融合して、多核筋管を形成した。脂肪生成培地及び骨形成培地でプレーティングされたミオスフェア細胞は、脂肪及び骨に分化した。ミオスフェア由来の細胞をGFPで標識し、次いで筋肉に注射すると、それらはGFPで標識された筋線維を生成した。ミオスフェアの形成を介して産生された細胞は、多分化能幹細胞である。というのは、それらは、Pax7、Myf5、MyoDなどの筋原性マーカーをまだ発現しないが、成熟するにつれてこれらのマーカーを発現し、多核筋管、脂肪生成細胞及び骨形成原細胞を形成することができ、損傷を受けた筋をインビボで再生することができるからである。MyoD(核)、デスミン(細胞質)及びSca1(表面)の染色は、黄赤色で示された。Pax7(核)の染色は、緑色で示された。ミオスフェアがプレ筋原性(pre−myogenic)であり、Pax7、Myf5又はMyoDを発現しない点で、逆転写酵素PCRを用いてこの知見が確認された。このミオスフェアから脱落した細胞が付着し、次いで成熟してPax7、Myf5及びMyoDを発現した間に。
【0093】
(iii)肺
肺から単離された胞子様細胞を用いて、マーカーの類似の時間依存発現が観察された。肺から単離された胞子様細胞は、初期にcKit、次いでネスチンを発現する。
【0094】
その後、球から脱落した細胞は、肺胞中のII型上皮細胞のマーカーSP−C(遺伝子発現及びタンパク質分析)及びClara細胞のCC10(遺伝子発現及びタンパク質分析)を発現した。
【0095】
(iv)副腎
副腎は、極めて早期の幹細胞マーカーを発現し、次いで成熟して、クロム親和細胞及びカテコールアミンを産生する細胞のマーカーを発現する。初期に単離すると、副腎から得られた胞子様細胞は、骨髄からの細胞と同様に、Oct4、Dax1、Fgf4、Zfp296、Cripto Gdf3、Utf1、Cdx2、Ecat1、Esg1、Sox2及びPax6、cMyc、Fgf5、Olig2、Pdgfrl2を発現した。
【0096】
副腎由来の胞子様細胞は、同様に、Dax1、Fgf4、Cdx2、Neo及びEras、Rex1(胚性幹細胞マーカー)、P75(神経堤マーカー)、Cd45又はCd31(内皮及び造血幹細胞のマーカー)について陰性染色であった。
【0097】
やがて成熟細胞マーカーが発現された:SF1(副腎皮質のステロイド産生マーカー)、DAX1、SCG10前駆体、クロマフィン。
【0098】
(v)脳及び末梢神経系
脳及び末梢神経系としては、脳、脊髄及び末梢神経が挙げられる。これらの組織においては、本発明者らは胚性マーカーSca−1及びOct−4を確認した。それらは、成熟して、ネスチン、他の神経マーカー、及び末梢神経中のシュワン細胞のマーカーを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された、胞子様細胞の亜集団。
【請求項2】
Oct4、nanog、Zfp296、cripto、Gdf3、UtF1、Ecat1、Esg1、Sox2、Pax6、ネスチン、SCA−1、CD29、CD34、CD90、B1インテグリン、cKit、SP−C、CC10、SF1、DAX1及びSCG10からなる群から選択される1種類以上のマーカーを発現する、請求項1に記載の胞子様細胞の亜集団。
【請求項3】
前記細胞が、外胚葉組織、中胚葉組織及び内胚葉組織からなる群から選択される出生後動物の組織から単離される、請求項2に記載の胞子様細胞の亜集団。
【請求項4】
前記出生後動物の組織が、ほ乳動物、トリ、爬虫類及び両生類の組織からなる群から選択される、請求項3に記載の胞子様細胞の亜集団。
【請求項5】
前記組織が、心臓、腸、膀胱、腎臓、肝臓、肺、副腎、皮膚、網膜及び膵臓からなる群から選択される、請求項4に記載の胞子様細胞の亜集団。
【請求項6】
胞子様細胞の亜集団を単離する方法であって、
(a)胞子様細胞を組織から単離する工程、
(b)群Oct4、nanog、Zfp296、cripto、Gdf3、UtF1、Ecat1、Esg1、Sox2、Pax6、ネスチン、SCA−1、CD29、CD34、CD90、B1インテグリン、cKit、SP−C、CC10、SF1、DAX1及びSCG10から選択される1種類以上のマーカーの発現に十分な時間にわたって該細胞を培養する工程、並びに
(c)該1種類以上のマーカーを発現する細胞を同定して単離する工程
を包含する、方法。
【請求項7】
前記細胞が前記マーカーに特異的な抗体を使用して単離される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
(a)細胞の集団をマーカーに特異的な結合相手と、胞子様細胞の集団の各細胞上の、もし存在すればその標的に該結合相手を結合させるのに十分な条件下で接触させる工程、及び
(b)マーカー陽性亜集団を単離する工程
を包含する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞が蛍光活性化細胞選別によって単離される、請求項8に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−510577(P2013−510577A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538970(P2012−538970)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際出願番号】PCT/US2010/056340
【国際公開番号】WO2011/060135
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(512123640)ブイビーアイ テクノロジーズ, エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】