説明

胸部用パッド及びこれを備えたブラジャー

【課題】水に接触しても吸水せず常に軽く、しかもバスト矯正機能や保持機能を安定して発揮する胸部パッドを提供する。
【解決手段】女性用の衣類の胸部に装着される胸部用パッド1aであって、胸部の形に対応した椀形状の基材2を発泡スチロールで形成し、前記発泡スチロールの少なくとも片面には布材4が貼着してある。基材をなす発泡スチロールは軽く、防水性、撥水性に富んだ素材であるので、水に触れても吸水することなく常に軽く、バスト矯正機能や保持機能を安定して発揮する胸部パッドとして提供できる。また、布材が表面に貼着されていることで製造工程での加工性を向上させることができ、衣類に適用したときに胸部用パッドの位置ずれの防止もできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胸部(バスト)形状を整えるため、女性用の衣類に装着される胸部用パッドに関する。なお、本明細書における「衣類」の語は、女性用の水着、下着及び上着も含んだ広い概念である。
【背景技術】
【0002】
女性用の衣類には、バスト位置を安定化するため或いはバスト形状を美しく見せるためなどの目的で、胸部パッドが装着されているものが多くある。特に、胸に直接に当てられるブラジャーにあっては、胸部パッドを備えた構造が一般的である。
【0003】
例えば、特許文献1は、左右それぞれのカップが外側底部の内側が徐々に肉厚になるようにした矯正肉厚構造を設けることによりバストを美しく見せることができ、また着用に際してバストの位置ずれさせることなく正位置に保持できるように形成した胸部パッドについて開示している。
【0004】
【特許文献1】特開平9−157913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1で提案する胸部パッドは、従来の一般的な胸部パッドの場合と同様に、スポンジ状のポリウレタン樹脂などの素材を用いて形成したものである。ポリウレタン等のスポンジ状素材は、軽量であり柔軟性や通気性に富むので、胸部パッド用の基材材として最も広く利用されている。
【0006】
しかしながら、ポリウレタン等の素材は吸水性も大きい。よって、特許文献1で記載するように女性水着用の胸部パッドとして使用すると、水と接触したときに吸水して重量が急激に増加することになる。すなわち、特許文献1で開示するような胸部パッドは、乾燥している状態ではバスト矯正や保持機能が発揮されるものの、一度、水に濡れてしまうと吸水して重くなるので上記機能が失われてしまう。例えば女性がプールや海で泳いだ後、水から出るときに、このような状態を実感することになる。このときには、胸部パッドは水で重くなるので外側に垂れ下がる力が作用するので、ブラジャーのバスト矯正や保持機能は大幅に失われてしまう。その結果、水着を着けている女性が水から出るときにブラジャーが重く、負担に感じることになる。
【0007】
本発明は、上記で指摘した従来の胸部パッドの課題を解決するためになされたもので、水と接触しても吸水せず常に軽く、しかもバスト矯正機能や保持機能を安定して発揮する胸部パッドを提供することを、主な目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、女性用の衣類の胸部に装着される胸部用パッドであって、胸部の形に対応した椀形状の基材を発泡スチロールで形成し、前記発泡スチロールの少なくとも片面には布材を貼着してあることを特徴とする胸部用パッドにより達成される。
【0009】
基材をなす発泡スチロールは軽く、防水性、撥水性に富んだ素材であるので、水と接触しても吸水しないので常に軽量である。よって、本発明によると、バスト矯正機能や保持機能を常に発揮できる胸部パッドを提供できる。また、発泡スチロールの表面に布材を貼着しておくことで、製造工程での加工性を向上させることができ、また衣類に適用したときに胸部用パッドの位置ずれを防止できる。
【0010】
上記胸部パッドがさらに内外を連通する貫通孔を複数備えていれば、通気性を付与することもできる。なお、胸部側となる内面に、複数の溝部をさらに設けた構造とすることによっても通気性を付与することができる。
【0011】
前記発泡スチロールとして、架橋高発泡ポリエチレンを採用することがより好ましい。
【0012】
上記に記載の胸部用パッドを備えたブラジャーは、軽く常に安定した形状を維持できる。特に水着用のブラジャーの場合には吸水しないので、装着している女性への負担が軽く、バスト矯正機能や保持機能が常に発揮されるのでバストを美しく見せることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、水と接触しても吸水することがないので軽く、バスト矯正機能や保持機能を常に発揮する胸部パッドを提供できる。よって、このような胸部パッドを備えるブラジャーなどの衣類は、常にバストを美しく見せることができる信頼性の高い製品として提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る胸部パッドについて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、実施例1に係る胸部パッド1について示した正面図である。図2は片側のパッドを後方から見た斜視図である。図1で示すように、実施例1の胸部パッド1は従来の一般的な胸部パッドと同様に左右1a、1bで一対となり、ブラジャー等の衣類に装着して使用されるものである。衣類への装着形態については特に限定は無く、衣類側に設けた収納部に胸部パッド1a、1bを収納してもよいし、衣類側の布地に直接、縫い付けるようにしてもよい。また、衣類側と胸部パッド1a、1b側とを接続する接続治具(フックなど)を設けて衣類に対して、胸部パッド1a、1bを着脱自在にしてもよい。
【0016】
各胸部パット1a、1bは、女性のバストの形に対応して大略の形状が、お椀状に形成されている。図2は片側のパッド1aを後方から示した斜視図であり、円CR内に断面の組織構成が確認できるように拡大して示してある。
【0017】
この円CRで示すように、この胸部パッド1は中央の基材2の表裏面に接着剤3a、3bを介して、布材4a、4bが貼着された積層構造をなしている。ここで、特に基材2として発泡スチロールが採用されている点が特徴的である。発泡スチロールは、従来において広く使用されていたスポンジ状のポリウレタン樹脂とは異なり、防水性及び撥水性を備えた樹脂素材である。また、発泡スチロール樹脂は断熱性、緩衝性に富み、軽く、金型等により成形できる加工性の良い素材でもある。
【0018】
発泡スチロール自体は、従来からよく知られた素材であり、ポリエチレンを原料として製造される発泡性樹脂である。一般に発泡スチロールは軽量で断熱性や耐衝撃性などに優れている樹脂材と知られているので、この点に着目されて包装材、保護材、緩衝材として使用されることが多かった。すなわち、従来において一般的に胸部パッド用素材として使用されていたポリウレタン樹脂よりも、発泡スチロールは多くの優れた特質を備えものであるが胸部パッド用の素材としては着目されていなかった。
【0019】
なお、発泡スチロール樹脂は水素と炭素とにより形成されている樹脂なので、完全燃焼させると水と二酸化炭素しか生じないクリーンな素材として知られている。また、ポリウレタン樹脂は、経時変化して黄色く変色する現象(当業界では、「黄変(おうへん)」と称される)が知られているので、一般に当初から黄色みが掛かった色に調整されている場合が多い。しかし、発泡スチロールはこのような黄変を生じないので、常に清潔感のある白を強調できる。
【0020】
近年、種々の材質の発泡スチロールが提供されるようになっている。本実施例の胸部パッド1の基材2とする発泡スチロールとしては、例えば架橋高発泡タイプのポリエチレンを採用することが好ましい。この架橋高発泡ポリエチレンは、一般的な発砲スチロールと同様に防水性、撥水性を備えるだけでなく、適度な弾力性も備えており、胸部パッド用素材として好適な素材である。例えば積水化学工業(株)からソフトロン(登録商標)で販売されているポリエチレンを好適に使用できる。
【0021】
先に指摘したように、従来において広く使用されていたポリウレタン樹脂は吸水性があるので、水と接触すると水を吸収して重量が増加する。これに対して発泡スチロールは防水性、撥水性に富むので、水に触れても重量が増加することがなく常に軽量であり、形状安定性が高い。このように優れた発泡スチロールを胸部パッド用に使用するという発想が無かったのは、水と接触したときにポリウレタン樹脂が吸水して重くなるという問題が当業界で意識されていなかった為と推測される。すなわち、先に指摘した従来における課題の指摘自体が本願発明者によって新たに提示されたものである。そして、本願発明者は、防水性、撥水性に富む発泡スチロールを胸部パッドに採用することで、上記問題を解決できることを見出したものである。
【0022】
再度、図1を参照して発泡スチロール構成を説明する。基材2の両面には、接着剤3a、3bを介して布材4a,4bが貼着されている。このように基材2表面に、布材4a,4bを設けておくと、ブラジャー側に設けた収納部に胸部パット1を収めたときに、一定の滑りを発生させて内部での位置が偏ることを抑制できる。また、表面に布材を備えることで装着する衣類(ブラジャー側の布地など)への縫製が容易となる。さらに、基材2の表面が布材4a、4bにより被覆することになるので、洗濯したときなどに基材2の損傷を予防することもできる。
【0023】
ここで使用する布材4a,4bは、発泡スチロールとの地合が良く接着剤により貼付できるものであれば、その素材については特段の限定はない。なお、本実施例で示しているように、基材2の表裏両面に布材を貼着することが好ましいが、表裏面のいずれかにだけ布材を貼着してもよい。なお、いずれか一方に布材を貼着する場合には、内面側(バスト側)とするのが好ましい。
【0024】
図3は、上記胸部パッド1の製造工程を模式的に示した図である。素材メーカから購入した板状の発泡スチロール基材12の表裏面に接着剤13a、13bを塗布し、その表面に布材14a、14bを載せた積層体10を準備する。この積層体10を、胸部パッドの形状に加工してある上下の金型21、22を加熱しながら接近させて加圧する。所定時間保持して金型21、22を離すと、厚みが圧縮され表裏面に布材が貼着されているお椀状の発泡スチロール15が得られる。この後、所定位置で裁断すれば上記で図示した実施例の胸部パッド1を得ることができる。なお、製造に使用する設備は、従来のものを流用できるので設備についてコスト上昇を伴うことなく、本実施例の胸部パッド1を製造することができる。
【0025】
以上で説明した、実施例1の胸部パッド1は基材に発泡スチロールを採用しているので、水に触れても吸水せず重量が増加することがない。よって、本実施例1の胸部パッド1は、常に軽く、一定の形状が維持されるので、設計したバスト矯正や保持機能を安定して発揮する。
【実施例2】
【0026】
図4は、実施例2に係る胸部パッド5について示した図である。本実施例2の胸部パッド5は、基本構成については実施例1で示した胸部パッド1と同様であり、更に外側と内側とを連通する貫通孔HLが複数設けられている。(A)は同じ径の貫通孔HLを形成した場合、(B)は貫通孔HLの径の大きに変化をつけた場合について示している。
【0027】
発泡スチロールは、防水性或いは撥水性に富んでいるので常に軽く、保温性にも優れているという利点がある。しかし、これは反面において、発泡スチロールでバスト全体を覆っているとバストに付着した水分が蒸発し難く、蒸れ易いということにもなる。この点を改善して、通気性について改善しているのが本実施例2の胸部バット5である。
【0028】
実施例2の胸部パッド5は、内外を貫通する貫通孔HLを複数設けることにより通気性が確保されている。よって、実施例2に係る胸部パッド5は、上記の蒸れ易いという点にも対処できる。なお、貫通孔HLは適宜に配置し、孔径も適宜に変更すればよい。例えば(B)で示すように下側の貫通孔HLを大きな径BHLにすると、蒸れ易い部分の通気性を向上させることができる。
【0029】
図5は、水着用のブラジャーBRに実施例2の胸部パッド5を適用した場合について示している。このブラジャーBRは泳いだ後に水から出るときになどにおいて、基材部分が吸水しないので軽く、一定の形状に維持される。よって、装着している女性への負担が軽く、バスト矯正機能や保持機能が安定して発揮されるのでバストを美しく見せることができる。
【0030】
上記実施例2で示した貫通孔HLを備えた構造の胸部パッド5は、図3で示した加工前の積層体10に予めパンチ加工を施してから金型加工を行って製造してもよいし、金型加工後にパンチ加工を施して製造するようにしてもよい。
【0031】
また、実施例2は通気性を付与するために貫通孔HLを設ける場合を例示しているが、胸部パッドに通気性を付与するための構造はこれに限らない。例えば、胸部パッドの内面(バスト側の面)に複数の溝部(長く延在する凹部)を設けて、バストとパッド内面との間に空気通路が形成されるような構造としてもよい。このような溝構造は金型側(図3の場合は上部金型22)の表面に複数の長い凸部を設けることで簡単に形成できる。なお、実施例2の貫通孔HLを備える胸部パッド5に、更に溝部を設けてもよい。このような貫通孔と溝部を併設した構造にすれば、十分な通気性を備えた胸部パッドになる。
【0032】
なお、図5は、水着用ブラジャーに実施例2の胸部パッド5を適用した場合を一例として示している。しかし、本発明に係る胸部パッドは、このような水着用のブラジャーの使用に限るものではなく、通常の下着用ブラジャーに適用してもよい。胸部パッドに貫通孔を設けることで通気性も付与されるので、常に安定してバスト矯正機能や保持機能を維持できる下着用ブラジャーを提供できる。ただし、下着用ブラジャーの場合には貫通孔を設けない構造或いは貫通孔の数や孔径を小さくした構造とすることにより、保温性を高めて冬季使用に適した防寒用ブラジャーにすることもできる。
【0033】
上記のように、本発明に係る胸部パッドは上記のようにブラジャーに好適に採用できるものではあるが、もちろん他の衣類に適用してもよい。例えば、胸部パッド付きのセータ等の衣類に本発明の胸部パッドを採用できる。本発明に係る胸部パッドを装着したブラジャー等の衣類は、水の影響を受けずバスト形状を常に一定に維持できる優れた製品となる。また、本発明に係る胸部パッドは、撥水性に富むので、洗濯をしたときに従来の吸水性パッドを装着されている衣類と比較して、乾燥が早いという副次的な効果を得ることもできる。
【0034】
以上本発明の好ましい一実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1に係る胸部パッドについて示した図である。
【図2】片側のパッドを後方から見た斜視図である。
【図3】実施例1の胸部パッドの製造工程を模式的に示した図である。
【図4】実施例2に係る胸部パッドについて示した図である。
【図5】水着用のブラジャーに実施例2の胸部パッドを適用した場合について示している図である。
【符号の説明】
【0036】
1(1a、1b) 胸部パッド
2 基材(発泡スチロール)
3(3a、3b) 接着剤
4(4a、4b) 布材
HL 貫通孔
BR ブラジャー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
女性用の衣類の胸部に装着される胸部用パッドであって、
胸部の形に対応した椀形状の基材を発泡スチロールで形成し、
前記発泡スチロールの少なくとも片面には布材を貼着してある、ことを特徴とする胸部用パッド。
【請求項2】
さらに内外を連通する貫通孔を複数備えている、ことを特徴とする請求項1に記載の胸部用パッド。
【請求項3】
胸部側となる内面に、複数の溝部をさらに設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の胸部用パッド。
【請求項4】
前記発泡スチロールが架橋高発泡ポリエチレンである、ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の胸部用パッド。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の胸部用パッドを備えた、ことを特徴とするブラジャー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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