説明

脂環式ラクトン化合物及びその製造法

【課題】 低複屈折で光透過性が高く、溶剤に対する溶解性に優れ、アルカリ等による高い加水分解性から半導体リソグラフィーのフォトレジストの原料として優れたモノマーの提供を課題とする。
【解決手段】 式[1]で表される脂環式ラクトン化合物、及び式[4]で表される5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸化合物と式[5]で表される環状エーテル化合物及び又は式[6]で表されるエチレングリコ−ル化合物を、タングステン金属を含むヘテロポリ酸触媒の存在下、加熱し反応させることを特徴とする該脂環式ラクトン化合物の製造法。


(式中、R〜Rは、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表し、pは1〜10の整数を表し、nは2〜10の整数を表し、mは1〜5の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料用のモノマーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光を用いる電子材料分野において、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル等の高分子材料が盛んに用いられている。しかし、分子内に芳香環を有する場合は、芳香族環のスタッキングに由来する複屈折性の問題点があり、光学材料として不十分な特性となることが多い。また、特にポリイミドなどの極性高分子は、溶剤への溶解性が低く、溶剤に溶解してワニス化する際の加工性やワニスの安定性に難がある。
よって、低複屈折で光透過性が高く、溶剤に対して優れた溶解性を有する高分子材料が望まれている。更に、半導体リソグラフィーのフォトレジスト用途を考慮すると、酸、アルカリ等による高い加水分解性を有する高分子材料が望まれている。
また、このような高分子材料の特性を発揮できるモノマー材料が望まれている。
【0003】
一方、脂環式ラクトン化合物として、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−3,5−カルボラクトン−トランス−2−カルボン酸が知られている。その製法は、エンド−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物を40〜60℃で45〜50%の硝酸と反応させる方法である。(例えば、特許文献1参照。)。
しかし、この製法では、有機物を含む廃酸の処理が工業的に課題になっている。
【0004】
【特許文献1】チェコスロバキア特許発明第202906号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、1.可視領域に吸収がなく、低複屈折で光透過性が高く、2.溶剤に対する溶解性に優れ、加工性が改善され、3.酸、アルカリ等による高い加水分解性から半導体リソグラフィーのフォトレジストの原料として優れたモノマーの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、脂環式ラクトン化合物である1,2−ビス(2,6−ノルボルナンカルボラクトン−3−カルボニルオキシ)エタン(以下BNLEと略記する。)が、上記モノマーとして好適であることを見出した。
更に、一工程で簡便にBNLEを製造できる方法も見出した。
【0007】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(9)の発明に関する。
(1) 式[1]
【化1】


(式中、Rは、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表し、pは1〜10の整数を表す。)
で表される脂環式ラクトン化合物。
(2)式[2]
【化2】


で表される1,2−ビス(2,6−ノルボルナンカルボラクトン−3−カルボニルオキシ)エタン。
(3)式[3]
【化3】


で表される1,2−ビス(2,6−ノルボルナンカルボラクトン−3−カルボキシエチル)エーテル。
(4)式[4]
【化4】


(式中、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
で表される5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸化合物と式[5]
【化5】


(式中、nは2〜10の整数を表す。)
で表される環状エーテル化合物及び/又は、式[6]
【化6】


(式中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、mは1〜5の整数を表す。)
で表されるエチレングリコ−ル化合物を、タングステン金属を含むヘテロポリ酸触媒の存在下、加熱し、式[7]
【化7】


(式中、Rは前記と同じ意味を表す。)
で表される中間体2,6−ノルボルナンカルボラクトン−3−カルボン酸化合物を生成させた後、継続して反応させることを特徴とする式[1]
【化8】


(式中、Rは、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表し、pは1〜10の整数を表す。)
で表される脂環式ラクトン化合物の製造法。
(5) タングステン金属を含むヘテロポリ酸が水和物である(4)記載の脂環式ラクトン化合物の製造法。
(6) タングステン金属を含むヘテロポリ酸がリンタングステン酸及び/又はシリカタングステン酸である(4)又は(5)記載の脂環式ラクトン化合物の製造法。
(7) 加熱温度が60〜250℃であることを特徴とする(4)乃至(6)のいずれかの請求項に記載の脂環式ラクトン化合物の製造法。
(8)式[4]
【化9】


(式中、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
で表される5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸化合物を、タングステン金属を含むヘテロポリ酸触媒の存在下、加熱することを特徴とする式[7]
【化10】


(式中、Rは前記と同じ意味を表す。)
で表される2,6−ノルボルナンカルボラクトン−3−カルボン酸化合物の製造法。
(9)式[7]
【化11】


(式中、Rは、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
で表される5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸化合物と式[5]
【化12】


(式中、nは2〜10の整数を表す。)
で表される環状エーテル化合物及び/又は、式[6]
【化13】


(式中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、mは1〜5の整数を表す。)
で表されるエチレングリコ−ル化合物を、タングステン金属を含むヘテロポリ酸触媒の存在下、加熱して反応させることを特徴とする式[1]
【化14】


(式中、Rは、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表し、pは1〜10の整数を表す。)
で表される脂環式ラクトン化合物の製造法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の脂環式ラクトン化合物は、各種ジアミンと重合させてポリアミドやラクトン環の開環重合でポリエステル等へ誘導することができる。
また、本発明の脂環式ラクトン化合物は、分子構造が低極性かつスタッキングの起こらない脂環式多環骨格とエチレングリコールエステル鎖のリンカーからなるところに特徴があり、重合誘導させた高分子材料は低複屈折、高透明性などの優れた光学特性、低誘電率、低誘電正接などの優れた電気特性、さらには広範な有機溶媒に対する高い溶剤溶解性や、酸、アルカリ分解性等の化学的特性を兼ね備えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る脂環式ラクトン化合物は、上記式[1]で表されることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の脂環式ラクトン化合物の製造法は、下記の反応式で表される。
【0011】
【化15】

【0012】
(式中、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表し、nは2〜10の整数を表し、mは1〜5の整数を表し、pは1〜10の整数を表す。)
即ち、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸化合物(DCNと略記する。)と環状エーテル化合物及び又は鎖状エーテル化合物とをヘテロポリ酸(HPAと略記する。)触媒下、反応させて中間体5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸化合物(NCCAと略記する。)を経て該脂環式ラクトン化合物を製造する。
出発原料のDCNは、例えば、無水マレイン酸とシクロペンタジエン又はジシクロペンタジエンとのディ−ルズ・アルダ−反応による公知の方法で容易に製造される5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物を水和、アルコリシス又は、ジアルキルエステル化して得られる5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸モノアルキルエステル及び5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸ジアルキルエステルを表す。
【0013】
、R及びRとしては、一例として水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、具体的には、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸モノメチルエステル、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸ジメチルエステル、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸モノエチルエステル、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸ジエチルエステル
5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸モノプロピルエステル、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸ジプロピルエステル、及びそれらのメチル、エチル、プロピル置換体が好ましい。特には、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸モノメチルエステル及び5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸ジメチルエステルが好ましい。
【0014】
もう一方の原料となる環状エーテル化合物としては、1,4−ジオキサン、12−クラウン−4−エーテル(1,4,7,10−テトラオキサシクロドデカン)、
15−クラウン−5−エーテル(1,4,7,10,13−ペンタオキサシクロペンタデカン)、18−クラウン−6−エーテル(1,4,7,10,13,16−ヘキサオキサシクロオクタデカン)等が挙げられ、特には経済的な15−クラウン−5−エーテルが好ましい。
一方、鎖状のエチレングリコ−ル化合物も用いることができる。Rが炭素数1〜6のアルキル基を有し、mが1〜5で表されるエチレングリコ−ル誘導体は、具体的には、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコ−ルジメチルエ−テル(ジグライム)、ジエチレングリコ−ルジエチルエ−テル、ジエチレングリコ−ルジn−プロピルエ−テル、ジエチレングリコ−ルジn−ブチルエ−テル、ジエチレングリコ−ルジn−アミルエ−テル、ジエチレングリコ−ルジn−ヘキシルエ−テル、トリエチレングリコ−ルジメチルエ−テル、トリエチレングリコ−ルジエチルエ−テル、テトラエチレングリコ−ルジメチルエ−テル、テトラエチレングリコ−ルジエチルエ−テル、ペンタエチレングリコ−ルジメチルエ−テル及びペンタエチレングリコ−ルジエチルエ−テル等が挙げられ、特には経済的なジエチレングリコ−ルジメチルエ−テルが好ましい。
これらの使用量は、DCNに対し0.5モル倍当量から溶媒を兼ねて大過剰用いることもできる。通常2〜10モル倍当量使用するのが経済的である。
【0015】
本発明では、触媒の存在が重要である。即ち、タングステン金属を含むヘテロポリ酸(HPA)であり具体的な一例を挙げれば、以下のようになる。
PW1240・nHO、HSiW1240・nHO、HBW1240・nHO、HSiW1240・nHO、HAsW1240・nHO、HVW1240・nHO、HGaW24・nHO、(NHPW1240・nHO、HGeW1240・nHO、HTiW1240・nHO、HNiW24・nHO、HBW1240・nHO、HCoW1240・nHO、HFeW1240・nHO、HIW24・nHO、HBeW31・nHO、H1862・nHO、HTeW24・nHO、HAs1862・nHO、HPW1133・nHO。(但し、上記化学式のnHOは、環状エーテル化合物の一般式のnと異なる。)
更に2種以上の原子を配位させた混合配位ヘテロポリ酸としては、例えば、HPMo40・nHO、HPMoW1140・nHO、HPReW1224・nHO、H0.5Cs2.5PW1240・nHO等も挙げられる。
nは通常1〜30を表し、一般には30の水和物を使用することができる。
これらの中で特にはHPW1240・nHO、HSiW1240・nHO、HSiW1240・nHO、H1862・nHO、及びHPW1133・nHO等が好ましい。
これらヘテロポリ酸(HPA)の使用量は、DCNに対して1〜200重量%が使用でき、経済的には5〜20重量%が好ましい。
また、本発明者らは、触媒のリサイクルに有利な担持触媒の検討を行い、同様に反応が進行することを確認した。担体としては、例えばシリカ、アルミナ、ゼオライト、炭素、イオン交換樹脂、シリカアルミナ、珪藻土、チタニア及びSiC等が挙げられ、特には、シリカ、アルミナ、珪藻土及びチタニア等が好ましい。ヘテロポリ酸の担体に対する担持量は、1〜20重量%が好ましい。
【0016】
反応終了後、濾過、有機溶媒での洗浄、更に水を加えてから蒸発乾固させることにより、次の反応に使用することができる。
本反応は、溶媒を使用することもできる。例えば、トルエン、キシレン及びエチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン類、アセトニトリル及びプロピオニトリル等のニトリル類が挙げられる。その使用量は、例えば、DCNに対して1〜10重量倍である。
本反応は、加熱して行なう必要がある。好ましくは60〜200℃であり、特には80〜150℃で高収率で脂環式ラクトン化合物を与える。通常、常圧で1,4−ジオキサンや溶媒の還流下で行なうのが一般的であるが、加圧下で行なうこともできる。
又、本反応は窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気で行なうのが好ましい。更に、反応時間は、反応液を下記のガスクロマトグラフィ−で分析することにより終点を決定することができる。この分析条件下に於いて、2〜4種の異性体の混合物として観測される。反応方式としては、回分式でも、連続式でも行なうことができる。
反応終了後は、有機溶媒を加えて生成物を抽出により触媒と分離する。この抽出液を濃縮後シリカゲルカラムクロマトグラフィ−(溶離液:ヘプタン、酢酸エチル、アセトニトリルの組合せ)及び再結晶等の方法で目的の脂環式ラクトン化合物を精製することができる。
【0017】
次に本発明では、DCNをヘテロポリ酸(HPA)触媒下、加熱させて中間体NCCAを選択的に製造することができる。
触媒、溶媒は前述の脂環式ラクトン化合物の一段製造時と同じ化合物を使用することができる。そしてその反応の初期においてNCCAを主に得ることができる。反応後、室温に冷却してから濾過により触媒と反応生成物及び溶媒の有機分を分離し、濃縮後、再結晶法等で目的物を得ることができる。
更に、触媒の回収・再生・再使用が可能であり、前述の特許文献1の硝酸を触媒とした時の目的物と硝酸触媒の分離の煩雑さがない。
又、本発明では、NCCAと環状エーテル化合物及び又は鎖状エーテル化合物とをヘテロポリ酸(HPA)触媒下に脂環式ラクトン化合物を製造することができる。反応条件は、前述の脂環式ラクトン化合物の一段製造時と同様な条件が採用できる。又、目的物の精製も同様にできる。
【実施例】
【0018】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
尚、実施例で用いた分析法は以下の通りである。ガスクロマトグラフィーでの分析条件は、以下の通りである。
[1] [ガスクロマトグラフィー (GC)]
機種: Shimadzu GC−2010, Column:キャピラリカラム CBP1−W25−100(25m×0.53mmφ×1μm), カラム温度:100℃(保持2min.)−8℃/min. (昇温速度)−290℃(保持15min.), 注入口温度:290℃, 検出器温度:290℃, キャリアガス:ヘリウム, 検出法:FID法.
[2] [質量分析 (MASS)]
機種: LX−1000(JEOL Ltd.), 検出法:FAB法.
[3] [H NMR]
機種: INOVA500 (VARIAN Corp.), 測定溶媒:DMSO−d
[4] [13C NMR]
機種: INOVA500 (VARIAN Corp.), 測定溶媒:DMSO−d
[5][融点(mp.)]
測定機器:自動融点測定装置、FP62(METTLER TOLEDO)
[6] [液体クロマトグラフィー (LC)]
機種: Shimadzu LC−10A, Column:YMC−Pack ODS−AM(S−5μm, 120A, AM−303, AM12S05−2546WT) ( 250mm×4.6mmφ), カラム温度:40℃, 検出器波長:UV230nm, 溶離液:HO/CHCN=1/2, 流速:0.5ml/min.
[7] [X線結晶解析 ]
装置: DIP2030K(マックサイエンス製)
X線:MoKα(50kV, 200mA)
測定温度:150K
結晶:柱状結晶(0.6×0.1×0.03mm)
[8] [GC−MS]
機種: Shimadzu GCMS−QP 5050
【0019】
(参考例1)
【化16】

【0020】
5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物8.2g(50mmol)と水41gを100ml四つ口反応フラスコに仕込み、油浴120℃で加熱還流下3時間撹拌した。
室温に冷却静置後、析出した結晶を濾過・水洗後、減圧乾燥すると液体クロマトグラフィーで単一ピークの白色結晶が8.24g(収率90.5%)得られた。
この結晶は、MASS、H NMRから5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸(DCN)であることを確認した。
mp.179℃
【0021】
(参考例2)
【化17】

【0022】
5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物3.28g(20mmol)とメタノール16gを50ml四つ口反応フラスコに仕込み、油浴120℃で加熱還流下3時間撹拌した。
反応終了後、濃縮すると油状物3.9g(収率99.5%)が得られた。この油状物は25℃で静置すると固化し、ガスクロマトグラフィーで単一ピークを示した。
この結晶は、MASS、H NMRから5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸モノメチルエステル(MCN)であることを確認した。
mp.75〜76℃
【0023】
(参考例3)
【化18】

【0024】
5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物8.2g(50mmol)、95%硫酸0.82g(10質量%)及びメタノール41gを100ml四つ口反応フラスコに仕込み、油浴90℃で加熱還流下6時間撹拌した。
反応終了後、濃縮し得られた油状物12.1gに酢酸エチルと水を加えて抽出し、酢酸エチル層を水洗後濃縮するとガスクロマトグラフィーで単一ピークの油状物9.30g(収率88.6%)得られた。
この結晶は、MASS、H NMRからジメチル5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシレート(DMN)であることを確認した。
【0025】
(実施例1)
【化19】

【0026】
5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸(DCN)9.1g(50mmol)、1,4−ジオキサン46g及びリンタングステン酸(HPW1240・30HO)3.64g(40wt%)を100ml四つ口反応フラスコに仕込み、油浴130℃で加熱還流下17時間撹拌した。
反応終了後、濃縮し得られた残渣に酢酸エチルと水を加えて抽出し、酢酸エチル層を水洗後濃縮すると黄色油状物10.8gが得られた。この油状物をガスクロマトグラフィーで分析の結果、保持時間29.9分に54.2面積%のピークと保持時間30.9分に28.5面積%のピークが出現した。
そこで、この油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィ−(溶離液:酢酸エチル/ヘプタン=1/5〜1/0)で精製すると前留分としてガスクロマトグラフィーでの保持時間29.9分に対応した油状成分5.7g(収率29.2%)と、ガスクロマトグラフィーで保持時間30.9分に対応した結晶3.8g(収率19.5%)が得られた。
【0027】
この油状物質の分析結果は以下の通りであった。
MASS(FAB, m/e(%)):391([M+H],100), 209(70), 165(39).
H NMR(DMSO−d6,δppm):1.47〜1.54(m,2H), 1.59〜1.73(m,4H), 1.78〜1.83(m,1H), 2.07〜2.12(m,1H), 2.60(s,1H), 2.71〜2.74(m,3H), 2.97〜2.99(m,2H), 3.17(t,J=4.89Hz,1H), 3.25(t,J=5.04Hz,1H), 4.21〜4.32(m,4H), 4.73〜4.77(m,2H).
13C NMR(DMSO−d6,δppm):32.6, 35.4, 37.5, 37.7, 39.3, 40.5, 41.5, 42.2, 45.7, 47.9, 48.8, 49.8, 62.1, 62.7, 79.9, 80.1, 170.5, 171.6, 177.7, 178.9.
以上の結果から、本油状物質は、上記スキームに記載した構造式の1,2−ビス(2,6−ノルボルナンカルボラクトン−3−カルボニルオキシ)エタン(BNLE)であることを確認した。
【0028】
また、結晶物質の分析結果は以下の通りであった。
MASS(FAB, m/e(%)):391([M+H],100), 209(67), 165(16).
H NMR(DMSO−d6,δppm):1.56〜1.67(m,4H), 2.13(dd,J=3.22Hz,J=14.52Hz,2H), 2.61(s,2H), 2.75(dd,J=4.58Hz,J=10.69Hz,2H), 3.00(dd,J=1.98Hz,J=3.20Hz,2H), 3.02(dd,J=1.98Hz,J=3.20Hz,2H), 3.21〜3.23(m,2H), 4.18〜4.22(m,2H), 4.32〜4.36(m,2H), 4.74(dd,J=4.89Hz,J=8.25Hz,2H).
13C NMR(DMSO−d6,δppm):32.8, 37.7, 39.5, 41.7, 48.1, 48.2, 62.4, 80.2, 170.8, 177.9(いずれも炭素原子2本分を表す).
mp.193〜194℃
【0029】
BNLE単結晶X線測定結果
分子式 C2022
分子量 390.388
色相, 形状 colorless, plate
晶系 Monoclinic
空間群 Cc
結晶系 Cube
格子定数 a=16.816(1)Å, b=12.944(3)Å, c=9.893(3)Å
α=90.00°, β=126.033(5)°, γ=90.00°
V=1741.4(4)Å
Z値=4
Dx=1.489Mg/m
Mo K<α> radiation
λ(MoKa)=0.70926Å, μ(MoKa)=0.11mm−1
No. of measured reflections=4666
No. of observed reflections=2279
R(gt)=0.07
WR(gt)=0.08
Temp.=150K
図1にこの単結晶X線のチャートを示す。
【0030】
以上の結果から、本結晶物質は、上記スキームに記載した構造の1,2−ビス(2,6−ノルボルナンカルボラクトン−3−カルボニルオキシ)エタン(BNLE)(前記油状物質の立体異性体)であることを確認した。
【0031】
(実施例2)
【化20】

【0032】
5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸(DCN)0.91g(5mmol)、1,4−ジオキサン9.6g及び10%リンタングステン酸(HPW1240・30HO)/シリカ粉末1.92g(20wt%)を50ml四つ口反応フラスコに仕込み、油浴120℃で加熱還流下24時間撹拌した。
反応終了後、室温に戻してからセライト濾過し、続いて濃縮した。得られた結晶をガスクロマトグラフィーで分析の結果、保持時間12.6分に79.8面積%のピークと保持時間29.6分(BNLE)に4.2面積%のピークが出現した。
そこで、この結晶を酢酸エチル/ヘプタンから再結晶すると保持時間12.6分の単一ピークの白色結晶0.82g(収率85.4%)が得られた。
【0033】
この結晶物質の分析結果は以下の通りであった。
MASS(FAB, m/e(%)):183([M+H],100), 165(62), 137(39), 136(30).
H NMR(DMSO−d6,δppm):1.52(d,J=10.07Hz,1H), 1.59(d,J=10.69Hz,1H), 1.61〜1.67(m,1H), 1.94(dd,J=3.06Hz,J=14.04Hz,1H), 2.47〜2.49(m,1H), 2.66(dd,J=4.88Hz,J=10.70Hz,1H), 2.97(dt,J=2.44Hz,J=8.29Hz,1H), 3.21(t,J=4.88Hz,J=5.80Hz,1H), 4.76(dd,J=5.35Hz,J=8.10Hz,1H), 12.44(s,1H).
13C NMR(DMSO−d6,δppm):32.3, 36.9, 39.2, 41.0, 47.7, 47.8, 79.7, 172.6, 177.8.
mp.198〜199℃
以上の結果から、本油状物質は、上記スキームに記載した中間体の構造式の2,6−ノルボルナンカルボラクトン−3−カルボン酸(NCCA)であることを確認した。
【0034】
(実施例3〜8)
【化21】

【0035】
DCN0.96g(5mmol)、溶媒9.6g及びヘテロポリ酸(HPA)を50ml四つ口反応フラスコに仕込み、油浴で加熱撹拌した後、ガスクロマトグラフィーで分析した結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
(実施例9)
【化22】

【0038】
5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸モノメチルエステル(MCN)0.98g(5mmol)、1,4−ジオキサン9.8g及びリンタングステン酸(HPW1240・30HO)0.392g(40wt%)を50ml四つ口反応フラスコに仕込み、油浴120℃で加熱還流下24時間撹拌した。
この反応液をガスクロマトグラフィーで分析の結果、BNLE1(保持時間29.9分)の19.5面積%のピークとBNLE2(保持時間30.9分)の7.9面積%のピークが観測された。
【0039】
(実施例10)
【化23】

【0040】
5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸ジメチルエステル(DMN)6.3g(30mmol)、1,4−ジオキサン30g及びリンタングステン酸(HPW1240・30HO)2.52g(40wt%)を100ml四つ口反応フラスコに仕込み、油浴120℃で48時間加熱還流下撹拌した。
この反応液をガスクロマトグラフィーで分析の結果、BNLE1(保持時間29.9分)の40.2面積%のピークとBNLE2(保持時間30.9分)の14.0面積%のピークが観測された。
【0041】
(実施例11)
【化24】

【0042】
2,6−ノルボルナンカルボラクトン−3−カルボン酸(NCCA)0.91g(5mmol)、1,4−ジオキサン3g及びシリカタングステン酸(HSiW1240・30HO)0.36g(40wt%)を50ml四つ口反応フラスコに仕込み、油浴120℃で24時間加熱還流下撹拌した。
この反応液をガスクロマトグラフィーで分析の結果、BNLE1(保持時間29.9分)の56.9面積%のピークとBNLE2(保持時間30.9分)の3.6面積%のピークが観測された。更に、新たなピーク(保持時間35.4分)が13.9面積%で観測された。このピークは、GC−MASSから1,2−ビス(2,6−ノルボルナンカルボラクトン−3−カルボキシエチル)エーテル(BNCE)であることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1で得た1,2−ビス(2,6−ノルボルナンカルボラクトン−3−カルボニルオキシ)エタン(BNLE)についての単結晶X線のチャート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[1]
【化1】


(式中、Rは、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表し、pは1〜10の整数を表す。)
で表される脂環式ラクトン化合物。
【請求項2】
式[2]
【化2】


で表される1,2−ビス(2,6−ノルボルナンカルボラクトン−3−カルボニルオキシ)エタン。
【請求項3】
式[3]
【化3】


で表される1,2−ビス(2,6−ノルボルナンカルボラクトン−3−カルボキシエチル)エーテル。
【請求項4】
式[4]
【化4】


(式中、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
で表される5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸化合物と式[5]
【化5】


(式中、nは2〜10の整数を表す。)
で表される環状エーテル化合物及び/又は、式[6]
【化6】


(式中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、mは1〜5の整数を表す。)
で表されるエチレングリコ−ル化合物を、タングステン金属を含むヘテロポリ酸触媒の存在下、加熱し、式[7]
【化7】


(式中、Rは前記と同じ意味を表す。)
で表される中間体2,6−ノルボルナンカルボラクトン−3−カルボン酸化合物を生成させた後、継続して反応させることを特徴とする式[1]
【化8】


(式中、Rは、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表し、pは1〜10の整数を表す。)
で表される脂環式ラクトン化合物の製造法。
【請求項5】
タングステン金属を含むヘテロポリ酸が水和物である請求項4記載の脂環式ラクトン化合物の製造法。
【請求項6】
タングステン金属を含むヘテロポリ酸がリンタングステン酸及び/又はシリカタングステン酸である請求項4又は5記載の脂環式ラクトン化合物の製造法。
【請求項7】
加熱温度が60〜250℃であることを特徴とする請求項4乃至6のいずれかの請求項に記載の脂環式ラクトン化合物の製造法。
【請求項8】
式[4]
【化9】


(式中、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
で表される5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸化合物を、タングステン金属を含むヘテロポリ酸触媒の存在下、加熱することを特徴とする式[7]
【化10】


(式中、Rは前記と同じ意味を表す。)
で表される2,6−ノルボルナンカルボラクトン−3−カルボン酸化合物の製造法。
【請求項9】
式[7]
【化11】


(式中、Rは、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
で表される5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸化合物と式[5]
【化12】


(式中、nは2〜10の整数を表す。)
で表される環状エーテル化合物及び/又は、式[6]
【化13】


(式中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、mは1〜5の整数を表す。)
で表されるエチレングリコ−ル化合物を、タングステン金属を含むヘテロポリ酸触媒の存在下、加熱して反応させることを特徴とする式[1]
【化14】


(式中、Rは、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表し、pは1〜10の整数を表す。)
で表される脂環式ラクトン化合物の製造法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−96691(P2006−96691A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−283091(P2004−283091)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】