説明

脂肪族ポリカルボナートおよびその製造方法

【課題】新規脂肪族ポリカルボナートおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、下記一般式(I):


(式中、それぞれの重合単位について、R1およびR2のうちいずれか一方が、炭素数3〜10の、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基であり、かつR1およびR2のうちもう一方が水素原子であり、mは10〜約10000の整数である。)で表される、脂肪族ポリカルボナート、およびその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシドと二酸化炭素との反応によって得られるポリカルボナートおよびその製造方法に関する。詳細には、脂肪族エポキシドと二酸化炭素との反応によって得られる脂肪族ポリカルボナートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシドと二酸化炭素との共重合によって得られるポリカルボナートは、二酸化炭素を合成樹脂の原料に利用する点で興味深い。また、脂肪族ポリカルボナートは、透明性を有しかつ所定温度以上に加熱すると完全に分解するため、一般成形物、フィルム、ファイバーなどの用途に使用できることに加えて、光ファイバー、光ディスクなどの光学材料、あるいはセラミックバインダー、ロストフォームキャスティングなどの熱分解性材料として利用することも可能である。さらに、脂肪族ポリカルボナートは、生体内で分解可能であるため、徐放性の薬剤カプセルなどの医用材料、生分解性樹脂の添加剤または生分解性樹脂の主成分として応用できる。
【0003】
特許文献1には、コバルトポルフィリンクロリド錯体とピリジン系化合物またはイミダゾール系化合物との存在下で、脂肪族エポキシドと二酸化炭素とを反応させて得られた、脂肪族ポリカルボナートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−241247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規脂肪族ポリカルボナートおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の代表的な実施態様を以下に記載する。
【0007】
1.下記一般式(I):
【化1】

(式中、それぞれの重合単位について、R1およびR2のうちいずれか一方が、炭素数3〜10の、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基であり、かつR1およびR2のうちもう一方が水素原子であり、mは10〜約10000の整数である。)で表される、脂肪族ポリカルボナート。
【0008】
2.前記一般式(I)中、それぞれの重合単位について、R1およびR2のうちいずれか一方がイソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、およびシクロヘキシル基からなる群から選択される脂肪族炭化水素基であり、かつR1およびR2のうちもう一方が水素原子である、項目1に記載の脂肪族ポリカルボナート。
【0009】
3.下記一般式(II):
【化2】

(式中、それぞれの重合単位について、R1およびR2のうちいずれか一方が、炭素数3〜10の、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基であり、かつR1およびR2のうちもう一方が水素原子であり、R3およびR4のうちいずれか一方が、水素原子およびメチル基から選択され、かつR3およびR4のうちもう一方が水素原子であり、mは1〜10000の整数であり、nは1〜10000の整数であり、m+nは10〜約10000である。)で表される、脂肪族ポリカルボナート。
【0010】
4.前記一般式(II)中、それぞれの重合単位について、R1およびR2のうちいずれか一方がイソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、およびシクロヘキシル基からなる群から選択される脂肪族炭化水素基であり、かつR1およびR2のうちもう一方が水素原子である、項目3に記載の脂肪族ポリカルボナート。
【0011】
5.コバルトポルフィリンクロリド錯体、およびピリジン系化合物またはイミダゾール系化合物の存在下で、下記一般式(III):
【化3】

(式中、R1およびR2のうちいずれか一方が、炭素数3〜10の、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基であり、かつR1およびR2のうちもう一方が水素原子である。)で表されるエポキシドと二酸化炭素とを共重合させることを含む、脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
【0012】
6.さらに、下記一般式(IV):
【化4】

(式中、R3およびR4のうちいずれか一方が、水素原子およびメチル基から選択され、かつR3およびR4のうちもう一方が水素原子である。)で表されるエポキシドを、前記式(III)のエポキシドおよび二酸化炭素と共重合させる、項目5に記載の方法。
【0013】
7.前記コバルトポルフィリンクロリド錯体が、(5,10,15,20−テトラフェニルポルフィナト)コバルトクロリドである、項目5または6のいずれかに記載の方法。
【0014】
8.前記ピリジン系化合物が、下記一般式(V):
【化5】

(式中、R5は、置換または非置換の、メチル基、ホルミル基またはアミノ基から選択され、yは0〜5の整数である。)で表される、項目5〜7のいずれか1つに記載の方法。
【0015】
9.前記イミダゾール系化合物が、下記一般式(VI):
【化6】

(式中、R6は、置換または非置換のアルキル基である。)で表される、項目5〜7のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基を有するエポキシドを用いて、ガラス転移温度Tgおよび/または熱分解温度Tdの高い脂肪族ポリカルボナートを提供することができる。
【0017】
なお、上述の記載は、本発明の全ての実施態様および本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的でより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
【0019】
本発明の脂肪族ポリカルボナートは、以下の一般式(I)で表すように、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基を有するエポキシドのエポキシド部位が開環して二酸化炭素と交互に共重合した構造を有する。
【0020】
【化7】

【0021】
式(I)のmは、ポリマー1分子中の、二酸化炭素とエポキシドからなる重合単位の数を表し、一般に10〜約10000の整数である。
【0022】
それぞれの重合単位について、R1およびR2のうちいずれか一方は、炭素数3〜10の、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基であり、かつR1およびR2のうちもう一方は水素原子である。例えば、ポリマー1分子中の全ての重合単位について、R1が水素原子である場合、またはR2が水素原子である場合、そのポリマーは完全な位置規則性(頭−尾結合)を有している。
【0023】
炭素数3〜10の、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基として、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基などの分岐状脂肪族炭化水素基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などの環状脂肪族炭化水素基が挙げられる。いかなる理論に拘束されることを望むわけではないが、脂肪族ポリカルボナートの側鎖をこのような分岐状または環状の脂肪族炭化水素基とすると、その立体的な嵩高さに起因して、ポリマー鎖の自由度が減少する、および/またはポリマー鎖のカルボナート結合が外部から遮蔽されると考えられ、その結果、本発明の脂肪族ポリカルボナートのガラス転移温度Tgおよび/または熱分解温度Tdは、そのような側鎖を持たない脂肪族ポリカルボナートと比べて高くなると考えられる。
【0024】
本発明の一実施態様では、そのような分岐状または環状の脂肪族炭化水素基の、ポリカルボナート主鎖と結合している炭素原子(α炭素)またはその隣の炭素原子(β炭素)が、3級または4級の炭素原子であることが好ましい。また、本発明の別の実施態様では、そのような分岐状または環状の脂肪族炭化水素基は、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、およびシクロヘキシル基からなる群から選択されることが好ましい。これらの実施態様のように、ポリカルボナート主鎖に比較的近い部分に立体的な嵩高さを導入することが、上述したように、高いガラス転移温度Tgおよび/または熱分解温度Tdを達成するのに、特に有利であると考えられる。
【0025】
本発明の他の実施態様の脂肪族ポリカルボナートは、以下の一般式(II)で表すように、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基を有するエポキシドおよび第2のエポキシドのエポキシド部位が開環して二酸化炭素と共重合した構造を有する。分岐状または環状の脂肪族炭化水素基を有するエポキシドおよび第2のエポキシドは、それぞれ二酸化炭素と対になって重合単位を構成する。これらの重合単位は、ポリマー中でランダムに存在していてもよく、これらの重合単位がブロックとして配置された状態または交互に配列した状態でポリマーの少なくとも一部分に存在していてもよい。
【0026】
【化8】

【0027】
式(II)のmおよびnはそれぞれ、ポリマー中の2つのタイプの重合単位の数を表し、一般に、mは、1〜10000の整数であり、nは1〜10000の整数であって、かつm+nは10〜約10000である。ポリマー1分子中の全ての重合単位について、R1が水素原子であってもよく、あるいはR2が水素原子であってもよい。このような場合、そのポリマーは、R1とR2を含む重合単位については少なくとも、完全な位置規則性(頭−尾結合)を有している。
【0028】
式(II)における置換基R1およびR2については、式(I)の脂肪族ポリカルボナートについて上述したとおりである。
【0029】
それぞれの重合単位について、R3およびR4のうちいずれか一方は、水素原子およびメチル基から選択され、かつR3およびR4のうちもう一方は水素原子である。ポリマー1分子中の全ての重合単位について、R3がメチル基であってR4が水素原子であってもよく、その逆でもよい。このような場合、そのポリマーは、R3とR4を含む重合単位については少なくとも、完全な位置規則性(頭−尾結合)を有している。
【0030】
本発明の脂肪族ポリカルボナートは、従来知られている脂肪族ポリカルボナートの製造方法に従って合成できる。そのような製造方法には、例えば、亜鉛錯体(G. W. Coates, et al., J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 14284-14285)、アルミニウム錯体(W. Kuran, et al., J. Macromol. Sci., Pure Appl. Chem., A35, 427-437 (1998))、ポルフィリン錯体(特開2006−241247号明細書)またはサレン錯体(G. W. Coates, et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 5484-5487)を用いた、エポキシドと二酸化炭素の共重合反応が含まれる。中でも、特開2006−241247号明細書に記載されているような、コバルトポルフィリンクロリド錯体とピリジン系化合物またはイミダゾール化合物とを組み合わせた触媒システムを用いる方法が、本発明の脂肪族ポリカルボナートの合成に有利に使用できる。本発明を説明する目的で、この方法を以下詳細に記載するが、本発明はこの方法に限られない。
【0031】
本発明の一実施態様の製造方法によれば、コバルトポルフィリンクロリド錯体、およびピリジン系化合物またはイミダゾール系化合物の存在下で、下記一般式(III):
【化9】

で表されるエポキシドと二酸化炭素とを共重合させることにより、脂肪族ポリカルボナートが製造される。
【0032】
式(III)のエポキシドにおける置換基R1およびR2については、式(I)および(II)の脂肪族ポリカルボナートについて上述したとおりである。
【0033】
式(III)のエポキシドは、当業者に公知の種々の反応および合成スキームを利用して合成できる。一例として、3−メチル−1−ブテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、エチニルシクロヘキサンなどの、不飽和炭化水素の炭素−炭素二重結合を、例えばメタ−クロロペル安息香酸などの酸化剤を用いてエポキシ化する方法が挙げられる。
【0034】
式(III)のエポキシドの具体例として、2−(プロパン−2−イル)オキシラン、2−(2−メチルプロピル)オキシラン、2−(ブタン−2−イル)オキシラン、2−tert−ブチルオキシラン、2−(3−メチルブチル)オキシラン、2−(2,2−ジメチルプロピル)オキシラン、2−(2−メチルブタン−2−イル)オキシラン、2−シクロプロピルオキシラン、2−シクロブチルオキシラン、2−シクロペンチルオキシラン、2−シクロヘキシルオキシラン、2−シクロヘプチルオキシラン、2−シクロオクチルオキシランなどが挙げられるが、これらに限られない。本発明の一実施態様では、オキシランと結合している炭素原子(α炭素)またはその隣の炭素原子(β炭素)が、3級または4級の炭素原子であるエポキシド(例えば、2−(プロパン−2−イル)オキシラン、2−(2−メチルプロピル)オキシラン、2−tert−ブチルオキシラン、2−シクロヘキシルオキシランなど)が好ましい。また、本発明の別の実施態様では、2−(プロパン−2−イル)オキシラン、2−(2−メチルプロピル)オキシラン、2−(ブタン−2−イル)オキシラン、2−tert−ブチルオキシラン、および2−シクロヘキシルオキシランからなる群から選択されるエポキシドが好ましい。
【0035】
本発明の製造方法で使用するコバルトポルフィリンクロリド錯体は、テトラフェニルポルフィリン(TPP)の4つの窒素原子が平面四座配位で中心金属のコバルトに配位し、塩素原子がアキシャル位に配位している、(5,10,15,20−テトラフェニルポルフィナト)コバルトクロリド[(TPP)CoCl]であることが好ましい。
【0036】
使用するコバルトポルフィリンクロリド錯体の量は、反応させるエポキシド全量に対して、一般に0.05モル%〜1モル%であり、0.1モル%〜0.5モル%であることが好ましい。
【0037】
ピリジン系化合物として、下記一般式(V):
【化10】

で表される化合物が使用できる。
【0038】
5は、ピリジン環上の1または複数の位置に導入されうる置換基であって、置換または非置換の、メチル基、ホルミル基またはアミノ基から選択され、メチル基、ホルミル基またはジメチルアミノ基であることが好ましく、ジメチルアミノ基であることがさらに好ましい。上記式(V)において置換数を表すyは、yは0〜5の整数であり、0または1であることが好ましい。yが2以上の場合、複数のR5は、それぞれ異なる置換基であっても、同じ置換基であってもよい。R5の置換位置は、ピリジン環の3位または4位であることが好ましく、4位であることがさらに好ましい。
【0039】
このようなピリジン系化合物として、一般に、ピリジン、4−メチルピリジン、4−ホルミルピリジン、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジンなどが挙げられ、ピリジン、4−メチルピリジン、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジンが好ましく、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジンがより好ましい。
【0040】
イミダゾール系化合物として、下記一般式(VI):
【化11】

で表される化合物が使用できる。
【0041】
6は、置換または非置換のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基などである。そのようなイミダゾール化合物として、N−メチルイミダゾール、N−エチルイミダゾール、N−プロピルイミダゾールなどが挙げられ、N−メチルイミダゾールが好ましい。
【0042】
コバルトポルフィリンクロリド錯体とピリジン系化合物の比率は、錯体1モルに対してピリジン系化合物が0.3〜5モルであるのが一般的であり、0.3〜2モルであることが好ましく、0.3〜1モルであることがさらに好ましい。5モルを超えると、反応速度が遅くなり、収率が低下して環状カルボナート(エポキシド1分子と二酸化炭素1分子が反応して環化した化合物)が生成しやすくなる。一方、0.3モルより低いと、反応速度が遅くなり、二酸化炭素が取り込まれず、エポキシドのみが反応したポリエーテルが生成しやすくなる。
【0043】
コバルトポルフィリンクロリド錯体とイミダゾール系化合物の比率は、錯体1モルに対してイミダゾール系化合物が0.3〜1モルであるのが一般的であり、0.4〜0.6モルであることが好ましい。
【0044】
エポキシドと二酸化炭素との共重合は、無溶媒で行ってもよく、溶媒中で行ってもよい。溶媒を使用する場合、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミドなどのアミド、テトラヒドロフランなどのエーテル、およびそれらの組み合わせを用いることができ、ジクロロメタン、トルエン、ジメチルホルムアミドおよびテトラヒドロフランが好ましく、ジクロロメタンおよびテトラヒドロフランがより好ましい。溶媒を用いて反応を行う場合は、エポキシド1体積部に対して、溶媒は9体積部以下であることが好ましく、3体積部以下であることがより好ましい。
【0045】
コバルトポルフィリンクロリド錯体、エポキシド、ピリジン系化合物またはイミダゾール化合物、および必要に応じて使用される溶媒について、反応容器に添加する順序に特に制限はないが、溶媒を用いる場合は、その溶媒に錯体を予め溶解した溶液を調製しておくことが好ましい。
【0046】
反応の進行に必要な二酸化炭素圧は、一般に1〜100気圧とすることができ、1〜50気圧としてより低圧で反応させることも可能である。二酸化炭素圧は、二酸化炭素のみを充填して調整してもよいし、窒素との共存下で二酸化炭素分圧が上記範囲内となるように調整してもよい。
【0047】
反応温度は、一般に100℃以下とすることができ、室温〜80℃であることが好ましく、30〜60℃であることがより好ましい。
【0048】
所望量のエポキシドが反応したら、無水酢酸、メタノールなどを反応停止剤として反応混合物に投入し、必要に応じて昇温および/または攪拌して、反応を終了することができる。反応終了後、ポリマー中に取り込まれたコバルトポルフィリンクロリド錯体は、錯体およびポリマーの溶解液から一方のみを析出させる方法、または錯体およびポリマーの固体状混合物から一方のみを抽出する方法によって除去することができる。具体的には、錯体を溶解可能であるがポリマーに対しては貧溶媒である溶媒、ポリマーを溶解可能であるが錯体に対しては貧溶媒である溶媒、あるいは錯体の塩基性部位と反応して塩を形成可能な酸性物質などを用いて、錯体をポリマーと分離することが可能である。例えば、貧溶媒としてメタノール、クロロホルム、ジクロロメタン、またはこれらの混合溶媒などを用いてポリマーを再沈殿してもよく、ソックスレー抽出器を利用して固体状混合物から錯体を抽出してもよい。また、カラムクロマトグラフィーなどの周知の手段を用いて、ポリマーをさらに精製してもよい。
【0049】
また、本発明の他の実施態様では、第2のエポキシドを、式(III)のエポキシドおよび二酸化炭素と共重合させることができる。
【0050】
第2のエポキシドは、下記一般式(IV):
【化12】

で表され、置換基R3およびR4については、式(II)の脂肪族ポリカルボナートについて上述したとおりである。第2のエポキシドは、具体的には、エチレンオキシド、プロピレンオキシドおよびそれらの組み合わせである。
【0051】
第2のエポキシドは、式(III)のエポキシドと混合して添加してもよく、反応開始前または反応中の任意の段階で別途添加してもよい。第2のエポキシドは、一般に式(III)のエポキシドより反応性が高いことが多く、その場合、反応の進行に伴って系中の第2のエポキシドは相対的に早く消費され、未反応の第2のエポキシドと式(III)のエポキシドの比率は経時で変化する。このような場合、反応中に第2のエポキシドを適量追加することによって、ポリマーの成長部分(共重合が進行している部分)に取り込まれる、第2のエポキシドと式(III)のエポキシドの比率を必要に応じてある程度の範囲に維持できる。あるいは、反応開始時に式(III)のエポキシドのみを使用し、それらが完全に消費されてから第2のエポキシドを添加することによって、式(III)のエポキシドと二酸化炭素が交互共重合したブロックと、第2のエポキシドと二酸化炭素が交互共重合したブロックをポリマー鎖に作ることもできる。あるいは、式(III)のエポキシドと第2のエポキシドの投入順序を入れ替えて、ブロックの配置を反転させることもできる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
(1)2−tert−ブチルオキシラン(tBuOX)の合成
本実施例において分岐状脂肪族炭化水素基を有するエポキシドとして使用した、2−tert−ブチルオキシランは、Alfa Aesar社製のものを購入し、窒素下、水素化カルシウム・水酸化カリウムから蒸留して用いた。1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ2.70−2.74(1H,m,C),2.56−2.65(2H,m,C2),0.94(9H,s,C3).
【0054】
(2)コバルトポルフィリンクロリド錯体の合成
本実施例で使用したコバルトポルフィリンクロリド錯体[(TPP)CoCl]は以下のように合成した。
【0055】
2Lの二口ナスフラスコにプロピオン酸(2L)を入れて還流させた。加熱を停止してから、これにベンズアルデヒド(60mL、0.6mol)およびピロール(40mL、0.6moL)を加え、反応溶液が室温になるまで撹拌して一晩放置した。その後、吸引濾過し、得られた紫色固体を温水とメタノールで繰り返し洗浄した。この紫色固体をクロロホルム(800mL)/メタノール(1200mL)にて再結晶することにより、針状紫色結晶(テトラフェニルポルフィリン、TPPH2)(収量8.6g、収率9.6%)を得た。
【0056】
次に、2000mLの二口ナスフラスコに酢酸(1500mL)を入れて還流させた。これにTPPH2(2.4mmol、1.5g)、塩化コバルト(11.9mmol、2.85g)および酢酸ナトリウム(2.0g)を加え、120℃で5分間還流した後、室温まで戻して一晩放置した。その後、吸引濾過し、濾物を水、重曹水、水の順で繰り返し洗浄して乾燥することにより、赤色固体(テトラフェニルポルフィナトコバルト、TPPCo)(収量1.13g、収率69%)を得た。
【0057】
1000mLの一口ナスフラスコに、TPPCo(1.0g、1.46mmol)、メタノール(1000mL)および塩酸(10mL)を入れて室温で一晩撹拌した。これを減圧留去し、クロロホルム/ヘキサンで再結晶した後、乾燥することにより、紫色固体の(テトラフェニルポルフィナト)コバルトクロリド錯体[(TPP)CoCl](収量0.98g、収率93%)を得た。メタノール中のUV−visスペクトルはそれぞれ文献値とよい一致を示した。
【0058】
【表1】

【0059】
(3)評価装置および方法
1H−NMRおよび13C−NMR測定は、Bruker DPX−400 分光測定装置において、溶媒としてCDCl3、内部標準としてテトラメチルシラン(δ=0.00ppm)を用いて27℃で行った。IR測定は、Horiba FT−210 分光測定装置を用い、KBr法で行った。GPC測定は、示差屈折率検出器および波長可変UV−可視光検出器を備えた、東ソー 8020 高速液体クロマトグラフにおいて、溶出剤としてTHF、および標準ポリスチレン(TSK標準ポリスチレン、東ソー)で作成した校正曲線を用い、40℃、流量0.8mL/分で行った。DSC測定は、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 DSC7020において、窒素下、測定温度範囲−20℃〜110℃または80℃、昇温速度10℃/分で行った。TG−DTA測定は、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 TG/DTA6200において、窒素下、測定温度範囲30℃〜350℃、昇温速度20℃/分で行った。
【0060】
例1(tBuOXおよび二酸化炭素の二元共重合体)
マグネチックスターラーを入れ、内部を窒素パージしたオートクレーブに、(TPP)CoCl 0.1mmol(71mg)および4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン(Sigma−Aldrichより入手)0.075mmol(9mg)[(TPP)CoCl 1当量に対して0.75当量]を入れ、そこへ溶媒としてジクロロメタン 3.5mLを加えた後、2−tert−ブチルオキシラン(tBuOX)50mmol(6mL)[(TPP)CoClに対して500倍当量]を入れた。圧力をかけて二酸化炭素を注入し、全圧が50気圧(二酸化炭素300mmol相当)となるように調整した。40℃で7日間反応を行った後、反応混合物を室温まで冷却し、この反応混合物をサンプリングして1H−NMRおよびIRにより分析した。
【0061】
1H−NMRスペクトルにおいて、残存するtBuOXのメチン水素のピーク(2.70−2.875ppm)の積分値から、tBuOXの反応転化率は約95%であると見積もられた。また、開環したtBuOXの連続したエーテル結合由来のピークは見られなかった。
【0062】
また、IRスペクトルから、鎖状のポリカルボナート由来のC=O伸縮振動による吸収(1751cm-1)と、環状カルボナート由来のC=O伸縮振動による吸収(1780cm-1)とが確認され、これらのピーク強度から、環状カルボナートが約10%生成していると見積もられた。
【0063】
次に、停止剤としてメタノールをオートクレーブに投入し、80℃に昇温して、その温度で24時間かけて反応を停止した後、内容物を取り出してクロロホルム/メタノールから再沈殿した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/1(体積比))で精製して、1.6g(収率22%)の生成物を得た。得られた生成物について、1H−NMR、13C−NMR、IR、GPC、DSCおよびTG−DTAを測定した結果を以下に示す。
【0064】
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ4.78(1H,m,C),3.98−4.54(2H,m,C2),0.95(9H,s,C(C33
13C−NMR(400MHz,CDCl3):δ155.2(=O),82.2(H),66.8(2),33.8((CH33),25.9(C(33
IR(KBrペレット):1749cm-1(C=O)
GPC(THF):Mn=27,000,Mn/Mw=1.1
DSC:Tg=64℃
TG−DTA:Td=288℃
【0065】
1H−NMRスペクトルより、鎖状カルボナートのメチンプロトン由来のシグナル(4.78ppm)が確認されたが、ポリエーテルのメチンプロトン由来のシグナル(3−4ppm付近)は確認されなかった。従って、得られた生成物は、tBuOXと二酸化炭素が交互共重合したポリカルボナートであった。また、13C−NMRスペクトルより、位置規則性(頭−尾結合)が95%以上であることが分かった。
【0066】
GPCの測定結果から、得られたポリカルボナートは狭い分子量分布で共重合されたことが分かった。DSCおよびTG−DTAの結果から、tert−ブチル基側鎖を有するポリカルボナートのガラス転移温度Tgは64℃、熱分解温度Tdは288℃であり、いずれも脂肪族末端エポキシドから生成するポリカルボナートとして、非常に高い値であった。
【0067】
例2(tBuOX、POおよび二酸化炭素の三元共重合体)
マグネチックスターラーを入れ、内部を窒素パージしたオートクレーブに、(TPP)CoCl 0.1mmol(71mg)および4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン0.075mmol(9mg)[(TPP)CoCl 1当量に対して0.75当量]を入れ、そこへ溶媒としてジクロロメタン 3.5mLを加えた後、tBuOX 25mmol(3mL)[(TPP)CoClに対して250倍当量]およびプロピレンオキシド(PO)(東京化成工業株式会社より入手)25mmol(1.8mL)[(TPP)CoClに対して250倍当量]を入れた。圧力をかけて二酸化炭素を注入し、全圧が50気圧(二酸化炭素300mmol相当)となるように調整した。40℃で48時間反応させた時点で、反応混合物をサンプリングして各エポキシドの反応転化率を確認したところ、tBuOXは70%、POは97%反応していた。また、IRスペクトルから、検出可能量の環状カルボナートは生成していないことが分かった。
【0068】
例1と同様にメタノールで反応を停止した後、内容物を取り出してクロロホルム/メタノールから再沈殿した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/1(体積比))で精製して、2.8g(収率46%)の生成物を得た。得られた生成物について、1H−NMR、13C−NMR、IR、GPC、DSCおよびTG−DTAを測定した結果を以下に示す。
【0069】
以下、「PtBEC」および「PPC」は、それぞれポリ(tert−ブチルエチレンカルボナート)およびポリプロピレンカルボナートに由来する重合単位を意味する。
1H−NMR(400MHz,CDCl3):δ4.90−5.10(br,PPC−C),4.73−4.88(br,PtBEC−C),3.94−4.63(m,PPC−C2+PtBEC−C2),1.34(s,PPC−C3),0.95(s,PtBEC−C(C33
13C−NMR(400MHz,CDCl3):δ155.1(PtBEC−=O),154.2(PPC−=O),82.2(PtBEC−H),72.6(PPC−H),69.0(PPC−2),66.8(PtBEC−2),33.8(PtBEC−(CH33),25.9(PtBEC−C(33),16.2(PPC−3
PtBEC:PPC=40:60(重合単位比、1H−NMRより算出)
IR(KBrペレット):1749cm-1(C=O)
GPC(THF):Mn=17000,Mn/Mw=1.2
DSC:Tg=40℃
TG−DTA:Td=270℃
【0070】
1H−NMRスペクトルの積分値より、得られた生成物はPtBEC:PPC=40:60で構成されている共重合体であることが分かった。また、鎖状カルボナートのメチンプロトン由来のシグナル(4.7−5.1ppm)が確認されたが、ポリエーテルのメチンプロトン由来のシグナル(3−4ppm付近)は確認されなかった。従って、得られたポリマーは、エポキシド(tBuOXおよびPO)と二酸化炭素が交互共重合したポリカルボナートであった。得られたポリカルボナートは、例1で得られたポリカルボナートと同様のGPCピーク形状を示すことから、狭い分子量分布で共重合された、tBuOX、POおよび二酸化炭素の三元共重合体であることが分かった。また、そのガラス転移温度Tgは40℃、熱分解温度Tdは270℃であり、例1のポリカルボナートよりもやや低い値であった。このことから、第2のエポキシド(エチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシド)を、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基を有するエポキシドと適当量併用することにより、TgおよびTdを所望の範囲に調節できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】

(式中、それぞれの重合単位について、R1およびR2のうちいずれか一方が、炭素数3〜10の、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基であり、かつR1およびR2のうちもう一方が水素原子であり、mは10〜約10000の整数である。)で表される、脂肪族ポリカルボナート。
【請求項2】
前記一般式(I)中、それぞれの重合単位について、R1およびR2のうちいずれか一方がイソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、およびシクロヘキシル基からなる群から選択される脂肪族炭化水素基であり、かつR1およびR2のうちもう一方が水素原子である、請求項1に記載の脂肪族ポリカルボナート。
【請求項3】
下記一般式(II):
【化2】

(式中、それぞれの重合単位について、R1およびR2のうちいずれか一方が、炭素数3〜10の、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基であり、かつR1およびR2のうちもう一方が水素原子であり、R3およびR4のうちいずれか一方が、水素原子およびメチル基から選択され、かつR3およびR4のうちもう一方が水素原子であり、mは1〜10000の整数であり、nは1〜10000の整数であり、m+nは10〜約10000である。)で表される、脂肪族ポリカルボナート。
【請求項4】
前記一般式(II)中、それぞれの重合単位について、R1およびR2のうちいずれか一方がイソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、およびシクロヘキシル基からなる群から選択される脂肪族炭化水素基であり、かつR1およびR2のうちもう一方が水素原子である、請求項3に記載の脂肪族ポリカルボナート。
【請求項5】
コバルトポルフィリンクロリド錯体、およびピリジン系化合物またはイミダゾール系化合物の存在下で、下記一般式(III):
【化3】

(式中、R1およびR2のうちいずれか一方が、炭素数3〜10の、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基であり、かつR1およびR2のうちもう一方が水素原子である。)で表されるエポキシドと二酸化炭素とを共重合させることを含む、脂肪族ポリカルボナートの製造方法。
【請求項6】
さらに、下記一般式(IV):
【化4】

(式中、R3およびR4のうちいずれか一方が、水素原子およびメチル基から選択され、かつR3およびR4のうちもう一方が水素原子である。)で表されるエポキシドを、前記式(III)のエポキシドおよび二酸化炭素と共重合させる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記コバルトポルフィリンクロリド錯体が、(5,10,15,20−テトラフェニルポルフィナト)コバルトクロリドである、請求項5または6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記ピリジン系化合物が、下記一般式(V):
【化5】

(式中、R5は、置換または非置換の、メチル基、ホルミル基またはアミノ基から選択され、yは0〜5の整数である。)で表される、請求項5〜7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記イミダゾール系化合物が、下記一般式(VI):
【化6】

(式中、R6は、置換または非置換のアルキル基である。)で表される、請求項5〜7のいずれか1つに記載の方法。

【公開番号】特開2011−190367(P2011−190367A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58259(P2010−58259)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(899000024)株式会社東京大学TLO (50)
【Fターム(参考)】