説明

脂肪肝炎の診断及び/又は治療における肝臓へのコリン集積値の有用性

【課題】 従来の肝生検より簡単な方法で、脂肪肝炎の診断を可能とする検査薬及び方法を提供すること。
【解決手段】 検出可能に標識されたコリンを含む、脂肪肝炎への罹患、前記疾患の重症度又は前記疾患に対する治療効果の判定のための診断薬。脂肪肝炎への罹患、前記疾患の重症度又は前記疾患に対する治療効果を判定する方法であって、脂肪肝炎への罹患、前記疾患の重症度又は前記疾患に対する治療効果の判定基準として、検出可能に標識されたコリンの肝臓への取り込みを測定することを含む、前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪肝炎の診断及び/又は治療における肝臓へのコリン集積値の有用性に関する。
【背景技術】
【0002】
近年食生活の欧米化、都市化による運動不足にともないわが国を含む欧米諸国でアルコールを飲まないのに脂肪肝から脂肪肝炎に罹患する患者が急増している。このような新しい疾患概念は非アルコール性脂肪性肝障害(Non-alcoholic fatty liver disease: NAFLD)、非アルコール性脂肪肝炎(Non-alcoholic steatohepatitis: NASH)とよばれている(非特許文献1)。NASHは放置すると徐々に肝臓の繊維化が進行し肝硬変に至ることがわかっており、時として脂肪肝由来の肝臓がんが発症することも知られている。脂肪肝は、人間ドックや健康診断で高頻度に見つかる異常である。これまで肝機能異常が軽度な脂肪肝はアルコールを飲まないのなら病的意義がほとんどなく放置してよいとされてきた。
【0003】
アルコール飲酒の習慣があると、これだけでも脂肪肝、肝障害を起こすことは古くから知られている。しかしながらこの場合原因がアルコールであるので、節酒ないしは禁酒をすることで治療することができる。一方アルコール習慣のないNASH/NAFLDに関して原因はもとより病態や診断・治療法もいまだ定まったものがないのが現状である。
【0004】
大変侵襲的な検査であるが、肝生検が現在できうる範囲でもっとも確実な診断方法である。肝生検は、被験者の入院が必要である上、肝臓の組織を注射針で採取する観血的検査で、痛みや出血はもとより、さまざまな合併症が知られているので、より簡単な診断に有用な検査法の開発が望まれている。
【0005】
また、本疾患の発症メカニズムの関しては、肥満や糖尿病などを背景にすることが多いことがわかっているが、なぜ、肥満や、運動不足などだけで肝硬変にまでなってしまうのかはよくわかっていない。少なくとも以前にはほとんどなかった疾患が近年新しく出現したと考えられその病態解明が求められている。
【0006】
【非特許文献1】Ludwig, J., Viggiano, T.R., McGill, D.B. et al.:Nonalcoholic steatohepatitis: Mayo Clinic experiences with a hitherto unnamed disease. Mayo Clin Proc 55:434-438, 1980
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の肝生検より簡単な方法で、脂肪肝と脂肪肝炎の鑑別を可能とする検査薬及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
コリンは生体内に取り込まれると速やかに肝臓に集積され代謝される。非アルコール性脂肪性肝障害(NAFLD)患者では血清中のコリン値が高値を示す(後述の実施例1、図1)ことから、NAFLD患者では正常人に比し肝臓への取り込み障害をきたしていることが予測された。そこで、本発明者らは、血中に投与された11C-コリンの肝臓への取り込みに関し、陽電子放出断層撮影(Positron Emission Tomography: PET)を用いて経時連続的な集積収集を施行したところ、NAFLD患者では正常健常人と比較し、11C-コリンの集積のピーク点の遅延と集積量の低下が確認された。特に、病理学的変化に乏しい早期病態においても正常とは差異を認めた点が特徴的であった。本発明は、これらの知見に基づいて、完成されたものである。
【0009】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)検出可能に標識されたコリンを含む、脂肪肝炎への罹患、前記疾患の重症度又は前記疾患に対する治療効果の判定のための診断薬。
(2)脂肪肝炎が非アルコール性脂肪性肝障害である(1)記載の診断薬。
(3)検出可能に標識されたコリンが放射性同位元素で標識されたコリンである(1)記載の診断薬。
(4)放射性同位元素がγ線を放射するものである(3)記載の診断薬。
(5)γ線を放射する放射性同位元素が11Cである(4)記載の診断薬。
(6)γ線を放射する放射性同位元素で標識されたコリンが11C-コリンである(5)記載の診断薬。
(7)11C-コリンが下記の式で表される(6)記載の診断薬。
【化2】

(8)脂肪肝炎への罹患、前記疾患の重症度又は前記疾患に対する治療効果を判定する方法であって、脂肪肝炎への罹患、前記疾患の重症度又は前記疾患に対する治療効果の判定基準として、検出可能に標識されたコリンの肝臓への取り込みを測定することを含む、前記方法。
(9)脂肪肝炎が非アルコール性脂肪性肝障害である(8)記載の方法。
(10)検出可能に標識されたコリンが11C-コリンであり、11C-コリンの肝臓への取り込みを陽電子放出断層撮影で測定する(8)又は(9)記載の方法。
(11)正常健常人と比較して、検出可能に標識されたコリンの肝臓への集積のピークの遅延及び/又は集積量の低下が確認された場合に、脂肪肝炎に罹患している、前記疾患の重症度が高い、あるいは前記疾患に対する治療効果が十分でないと判定する(8)〜(10)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、従来の肝生検よりも簡便、安全かつ安価な方法で、脂肪肝炎の診断やこれらの疾患に対する治療効果の判定ができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。
本発明は、脂肪肝炎への罹患、前記疾患の重症度又は前記疾患に対する治療効果の判定のための診断薬を提供する。本発明の診断薬は、検出可能に標識されたコリンを含む。本発明の診断薬により、特に、非アルコール性脂肪性肝障害への罹患、前記疾患の重症度又は前記疾患に対する治療効果を判定することができる。
【0012】
検出可能に標識されたコリンは、放射性同位元素で標識されたコリンであるとよい。放射性同位元素がγ線を放射するものであると、陽電子放出断層撮影(Postron Emission Tomography: PET)や単一光子放射断層撮影(Single Photon Emission Computed Tomography: SPECT)による検出が可能となるので、好都合である。
【0013】
PETで測定する場合には、酸素、炭素、窒素、フッ素などの身体を構成している元素の放射性同位体でコリンが標識されているとよい。PETでは、陽電子が消滅するときに放出するγ線が検出されるので、コリンを標識する放射性同位元素は、15O, 11C, 13N, 18F、などのγ線を放射するものであるとよい。γ線を放射する放射性同位元素で標識されたコリンとしては、11C-コリンの他、18F-コリンなどを例示することができる。現段階において日本アイソトープ協会医学・薬学部会サイクロトロン核医学利用専門委員会で成熟技術と認定されているのは11C-コリンのみである。標識コリンは、ジメチルアミノエタノールと[11C]ヨウ化メチルまたは[11C]メチルトリフレートを反応させた後、未反応の試薬を加熱減圧留去し、得られた乾固物を蒸留水に溶解し、これを陽イオン交換樹脂を用いて精製した後、注射剤の製法により製することができる。より具体的に述べると、高純度窒素ガス(99.9999%)に陽子を照射して、14N(P,α)11Cの核反応で生成した11CO2をコリン合成装置に導き、マイナス20度冷却下の第一反応器でTHF溶媒中のリチウムアルミニウムハイドライド(LiALH4)と反応させる。THFを蒸留乾固しヨウド酸(HI)を加えて、11Cで標識したヨウ化メチル(11CH3I)を生成し、第二反応器の2-ジメチルアミノエタノールと反応させて、11C-コリンを合成する。合成後、80度に過熱して未反応の2-ジメチルアミノエタノールおよびヨウ化メチルを蒸発させる。1.5mlの注射用蒸留水で11C-コリンを溶解し陽イオン交換フィルター(CMプラス)にトラップした後、20mlの注射用蒸留水で洗い、10mlの生理食塩水でトラップした11C-コリンを洗い出しミリポアフィルターに通して、20ml無菌バイアルに集め注射剤とする。
【0014】
11C-コリンの製造方法は、Hara,T. and Yuasa,M.: Appl. Radiat. Isot.,50,531-533(1999)
Pascali,C.,Bogni,A.,Iwata,R. et al.: J. Label. Comp. Radiopharm.,43,195-203(2000)
Roivainen,A.,Forsback,S.,Gronroos,T. et al.: Eur.J.Nucl.Med.,27,25-32(2000)
などに記載されている。
検出可能に標識されたコリンは、薬理上許容される塩又はエステルの形態であってもよい。また、水和物および溶媒和物であってもよい。
【0015】
本発明の診断薬は、現状では静脈内投与など非経口的に投与することが望ましいが、経口的に投与する事も理論上は可能である。但し、消化管内における安定性や吸収率の個体差などの点から治療以外では経口投与は実施されていないのが現状である。非経口投与に適する製剤形態としては、注射剤などを挙げることができる。経口投与に適する製剤形態としては、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤などを挙げることができる。製剤形態の調整にあたっては、適宜の薬理学的に許容される、溶剤、溶解補助剤、保存剤、安定剤、乳化剤、懸濁化剤、無痛化剤、等張化剤、緩衝剤等の製剤用添加物を用いることができる。
【0016】
本発明の診断薬は、検出可能に標識されたコリンを単独で、あるいは溶剤、溶解補助剤、保存剤、安定剤、乳化剤、懸濁化剤、無痛化剤、等張化剤、緩衝剤などの薬理上許容される製剤用添加剤と混合し、注射剤等に製剤化されたものであるとよい。溶剤、溶解補助剤、保存剤、安定剤、乳化剤、懸濁化剤、無痛化剤、等張化剤、緩衝剤、賦形剤、着色剤は当分野で常套的に使用され、薬剤学的に許容されるものであればよく、その種類及び組成は適宜変更される。例えば、溶剤としては、注射用水、生理食塩液、リンゲル液などを使用してよい。溶解補助剤としては、アルコール、プロピレングリコール、液状ポリエチレングリコールなどが例示される。保存剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、クロロクレゾール、クレゾール、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、フェノールなどが例示される。安定剤としては、亜硫酸塩、ピロ亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸などが例示される。乳化剤、懸濁化剤としては、非イオン性界面活性剤、HCO-60、レシチンなどが例示される。無痛化剤としては、ベンジルアルコール、クロロブタノールなどが例示される。等張化剤及び緩衝剤としては、ブドウ糖、クエン酸塩、酢酸塩、リン酸塩などが例示される。
【0017】
検出可能に標識されたコリンの製剤中における含量は、製剤形態により異なるが、通常1〜100 重量%、好ましくは50〜100 重量%である。例えば、注射剤の場合には、検出可能に標識されたコリンの製剤中における含量は、通常99.9999重量%である。
【0018】
本発明の診断薬の投与量は、肝臓への標識コリンの集積が確認できる量が必要であり、患者の年齢、体重、検査目的、投与経路等により異なりうるが、例えば、1回当たりの投与量は成人の場合、200〜370MBq程度の放射能の強さとなる量が適当であり、370MBq程度の放射能の強さとなる量が好ましい。例えば、11C-コリンを非経口投与(静脈注射など)する場合には、有効成分(11C-コリン)の量に換算して、成人一人あたり1×10-5g以下が適当であり好ましい。
【0019】
本発明の診断薬を用いる検査は、検出可能に標識されたコリンを被験者に投与し、標識コリンの肝臓への取り込みを測定する画像診断により行うことができる。
本発明の診断薬は、脂肪肝炎、特に、非アルコール性脂肪性肝障害(NAFLD)への罹患、前記疾患の重症度又は前記疾患に対する治療効果の判定に利用できる。
本発明は、脂肪肝炎への罹患、前記疾患の重症度又は前記疾患に対する治療効果を判定する方法であって、脂肪肝炎への罹患、前記疾患の重症度又は前記疾患に対する治療効果の判定基準として、標識されたコリンの肝臓への取り込みを測定することを含む、前記方法も提供する。
【0020】
本発明の方法は、脂肪肝炎、特に、非アルコール性脂肪性肝障害(NAFLD)への罹患、前記疾患の重症度又は前記疾患に対する治療効果を判定するのに有効である。
「脂肪肝炎の重症度」とは、肝生検における肝臓組織の壊死や繊維化の程度から判定されるスコアーをいう。
脂肪肝炎に対する治療方法としては、基本的には運動療法、食事療法、薬物療法などが知られているが、これらの治療効果を本発明の方法により判定することができる。
【0021】
本発明の方法において、例えば、検出可能に標識されたコリンを200〜370MBq程度、好ましくは、370MBq程度の放射能の強さとなるような投与量(例えば、11C-コリンを非経口投与(静脈注射など)する場合には、有効成分(11C-コリン)の量に換算して、成人一人当たり1×10-5g以下の量)で、静脈内投与などの方法で被験者の血中に投与し、PET、SPECT、PET-CTなどの検査法で、投与直後〜60分、好ましくは、投与直後〜20分、肝臓へのコリン集積を経時連続的に測定する。
【0022】
12時間以上の絶食下での検査が望ましい為、検査前日の夜9時以降は絶飲食とし、検査当日の午前中にPET撮影を施行するとよい。検査室入室後、前腕肘部よりルートを作成し、検査台上に仰臥位の体勢をとり、標識コリン薬剤注入後より速やかにPET撮影を開始するとよい。
【0023】
PET装置の原理として、1つの放射性同位元素から同時に正反対の方向に発射される2本の陽電子を向かい合った2個の検出器で同時に検出したものを1カウントとし、一方だけ検出されたものは散乱線(ノイズ)とみなし排除する同時係数回路が働く。体の回りに多数配置された検出器と同時係数回路により記録されたカウントを元に、体内の放射能分布の画像を再構成する事で集積を評価する。
【0024】
一律370MBqの投与量で11C-コリンを静脈注射した後、11C-コリンの肝臓への取り込みをPETで測定した場合、例えば、後述の実施例2に示すように、肝臓への集積のピーク点が、健常人では投与後180秒に観察されたが、NAFLD患者では投与後1200秒に観察された。また、肝臓への集積量は、健常人では6000カウントであったが、NAFLD患者では2000カウントであった。従って、正常健常人と比較して、標識されたコリンの肝臓への集積のピークの遅延と集積量の低下が確認された場合に、脂肪肝炎に罹患している、前記疾患の重症度が高い、あるいは前記疾患に対する治療効果が十分でないと判定することができる。なお、上記の測定値は一例にすぎず、さらに多数の被験者のデータを取得すれば、適切なカットオフ値を見出すことができるであろう。
【0025】
本発明の方法による判定結果を他の診断基準(例えば、飲酒歴がない、画像診断(エコー、CT、MRIなど)で脂肪肝と診断された、他の疾患(例えば、ウイルス性肝炎、自己免疫性肝炎など)が除外されるなど)と組合せて、脂肪肝炎への罹患、前記疾患の重症度又は前記疾患に対する治療効果を判定できる。
【0026】
本発明の方法により、血液検査で単純性脂肪肝と脂肪肝炎を区別することが可能となる。また、特に、病理的変化に乏しい早期病態においても、正常との差異を検出できる。本発明の方法は、脂肪肝炎の治療や病状のモニターとしての有用性がある。
【実施例】
【0027】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
〔実施例1〕
材料及び方法
早朝空腹時に患者前腕肘部より血液を採取した。その血液を直ちに遠心分離し、その上清を採取し、血清中のコリン含量をLC-MSスペクトロメトリー質量分析装置(島津製作所;LCMS-2010 Evolution)を用いて定量した。
結果
結果を図1に示す。
健常人と比し、ウイルス性慢性肝炎/肝硬変などの肝障害病態や糖尿病などの代謝異常病態では血清コリン値において有意差を認めなかったが、一方、非アルコール性脂肪性肝障害(NAFLD)病態では健常人と比し、有意に血清コリン値の上昇を認めた。単純性脂肪肝病態では血清コリン値が正常範囲内から異常高値まで幅広く分布しているのに対し、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)病態では異常高値に限局していた。
考察
血清コリンは肝臓内でフォスフォコリン、CDPコリン、フォスファチジルコリンと形態変化して、VLDL合成系に作用し肝臓における脂質排泄に司る。本検討の結果から、コリン代謝障害を引き起こす事でVLDL合成障害を引き起こし、脂質の肝内停滞、蓄積、酸化が進行しNASH病態を引き起こすと共に、コリンの利用障害に伴う血清コリン値上昇を引き起こしているという仮説を立てるに至った。血清コリン値を測定することにより脂肪肝や脂肪肝炎を簡便に診断できる可能性や治療の効果判定に利用できる可能性を強く示唆するものであると結論できた。
【0029】
〔実施例2〕
材料及び方法
横浜市立大学附属病院施設内ラジオアイソトープ室で厳重管理の元、作成された11C-コリンを体重×2.5(MBq)<但し極量は200MBqとする>の投与量で静脈注射した後、11C-コリンの肝臓への取り込みを経時的連続的にPETで測定した。被検者は超音波やCT等の画像検査で脂肪肝を有せず血液学的検査でtransamynase異常を認めない健常人4名と、画像上明らかな脂肪肝を認め血液学的検査でtransamynase異常高値を認め、他の肝障害を有しない非アルコール性脂肪肝患者3名の2群に群別して実験を行った。
結果
結果を図2及び3に示す。
健常人では投与後早期から11C標識コリンの肝への集積を認め、投与後300秒では明らかな集積のピークを迎えていたのに対し、NAFLD患者では投与後1200秒においても集積のピークを認めず、明らかな集積ピークの遅延を認めた。また、健常人ではおよそ6000カウントの集積量を呈していたのに対し、NAFLD患者ではおよそ2000カウントと肝へのコリン集積量も明らかに低下していた。
考察
健常人から単純性脂肪肝、NASHへと病態進展が進むにつれて、肝臓におけるコリン利用率の低下が原因と思われる標識コリンの肝内流入量の低下と集積ピークの遅延を認めた。この事から、NASH病態ではコリン代謝障害に伴うVLDL合成障害を引き起こし、それに伴い肝臓内の余剰脂質が排泄できず蓄積、酸化を引き起こし、炎症や繊維化といった病態進展の系を辿っていることが予想され、その結果、血中に余剰コリンがあふれ、コリン抵抗性を辿っていることが考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、これまで入院/肝生検が必要であった脂肪肝炎、特に、NAFLDの診断や治療の判定、病態解明等を簡易にするといった応用性がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】疾患別血清コリン値を示す。Healthyは健常人、SSはNAFLD、DMは糖尿病、NASHは非アルコール性脂肪肝炎、CHは慢性C型肝炎、LCは肝硬変を表す。
【図2】肝臓への11C-コリン集積の経時的変化を示す。Healthyは健常人、NAFLDは非アルコール性脂肪肝性肝障害を表す。
【図3】肝臓への11C-コリン集積を示した時間−放射能曲線を示す。Healthyは健常人、NAFLDは非アルコール性脂肪肝性肝障害を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出可能に標識されたコリンを含む、脂肪肝炎への罹患、前記疾患の重症度又は前記疾患に対する治療効果の判定のための診断薬。
【請求項2】
脂肪肝炎が非アルコール性脂肪性肝障害である請求項1記載の診断薬。
【請求項3】
検出可能に標識されたコリンが放射性同位元素で標識されたコリンである請求項1記載の診断薬。
【請求項4】
放射性同位元素がγ線を放射するものである請求項3記載の診断薬。
【請求項5】
γ線を放射する放射性同位元素が11Cである請求項4記載の診断薬。
【請求項6】
γ線を放射する放射性同位元素で標識されたコリンが11C-コリンである請求項5記載の診断薬。
【請求項7】
11C-コリンが下記の式で表される請求項6記載の診断薬。
【化1】

【請求項8】
脂肪肝炎への罹患、前記疾患の重症度又は前記疾患に対する治療効果を判定する方法であって、脂肪肝炎への罹患、前記疾患の重症度又は前記疾患に対する治療効果の判定基準として、検出可能に標識されたコリンの肝臓への取り込みを測定することを含む、前記方法。
【請求項9】
脂肪肝炎が非アルコール性脂肪性肝障害である請求項8記載の方法。
【請求項10】
検出可能に標識されたコリンが11C-コリンであり、11C-コリンの肝臓への取り込みを陽電子放出断層撮影で測定する請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】
正常健常人と比較して、検出可能に標識されたコリンの肝臓への集積のピークの遅延及び/又は集積量の低下が確認された場合に、脂肪肝炎に罹患している、前記疾患の重症度が高い、あるいは前記疾患に対する治療効果が十分でないと判定する請求項8〜10のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−201759(P2008−201759A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−42095(P2007−42095)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(505155528)公立大学法人横浜市立大学 (101)
【Fターム(参考)】