説明

脂肪酸エステルの化学酵素的製造方法

脂肪酸エステルの製造方法であって、
(a)エステラーゼの存在下に脂肪酸を60〜120℃の間の沸点を有する水性脂肪族アルコールで処理して、予備エステル化生成物を得、
(b)水および未反応アルコールを予備エステル化生成物から分離し、
(c)予備エステル化生成物に第二の化学触媒によるエステル化を施し、工程(a)と同一の脂肪族アルコールを添加し、および
(d)工程(c)で除去された水性アルコールを、工程(a)での酵素による予備エステル化のために再使用する、方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概してバイオテクノロジー分野に、より詳しくは、そのアルコール成分が60〜120℃の間の沸点を有する脂肪族アルコールである脂肪酸エステルを化学酵素的に触媒製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学合成および生化学合成において、酵素は触媒としてますます使用されてきている。多くの場合、エステラーゼ、とりわけリパーゼ(EC3.1.1.3)は、しばしばより穏やかな反応条件ゆえに、工業的な脂肪分解、エステル化およびエステル交換プロセスにおいて既に使用されつつある。これらの酵素は、異なった微生物によって製造される。酵素を単離するため、微生物の発酵の続いて高価な精製プロセスが行われる。これらの触媒の有効性は製造と単離の高コストによって相殺されることが多いため、研究グループは、酵素の収率または酵素の生産性を高めるために絶えず努力している。
【0003】
適当な生体触媒合成法は、例えば、K. DrauzおよびH. Waldmannによる、有機合成における酵素触媒、WILEY-VCH、I〜III巻、2002年; U.T. Bornscheuer, R.J. Kazlauskas、有機合成における加水分解酵素、に記載されている。生体触媒法の工業的変形は、A. Liese, K. SeelbachおよびC. Wandreyによって、工業的生体内変換、WILEY-VCH、2002年、に記載されている。
【0004】
それ故に、酵素触媒によるエステル化は既知である。プロセスでの費用効率の改善を背景とする固定化酵素の使用も既知である。生体触媒反応の不都合は、プロセスに関わる触媒の入手可能性と安定性にあることが多い。例えば、マイクロカプセル化によって安定化された、幾度も使用可能な酵素または微生物は、既に先行技術から既知である。
【0005】
化学触媒、例えば酸性触媒によるエステル化も既知である。かかるエステル化法では、反応をエステル生成へと誘導するため、化学量論量の水が放出され、除去されなければならない。
【0006】
脂肪酸を沸点60〜120℃の脂肪族アルコールで純粋化学的または純粋酵素的に触媒によってエステル化する不都合は、転化率レベルに応じて種々の量の水を含有する大量の蒸留液にある。酵素触媒法においてでさえ、高転化率レベルで放出された水を反応混合物から、一般的には真空で、比較的高い温度で除去しなくてはならず、酵素が不活性化する結果となり得る。
【0007】
水の沸点より低い沸点を有するアルコール、または水と低沸点の共沸混合物を形成するアルコール(例えばエタノールなど)は、特に処理が難しい。複雑なプロセス、例えば膜分離、分子篩乾燥または共留剤を用いた共沸蒸留をこの目的で用いなければならず、高プロセスコストの結果となる。
【0008】
さらに、純粋に化学的な触媒によるプロセスを用いる場合、反応器の占有時間が長い結果となる。関わった高温度によって、酵素触媒によるエステル化と比較して相当程度まで生成物の明度に悪影響が及ぼされる。
【非特許文献1】K. DrauzおよびH. Waldmann、有機合成における酵素触媒、WILEY-VCH、I〜III巻、2002年
【非特許文献2】U.T. Bornscheuer, R.J. Kazlauskas、有機合成における加水分解酵素
【非特許文献3】A. Liese, K. SeelbachおよびC. Wandrey、工業的生体内変換、WILEY-VCH、2002年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明が解決すべき課題は、アルコール成分の高価な乾燥を何ら要さずに、沸点60〜120℃の脂肪族アルコールによって脂肪酸をエステル化し得る方法を提供することであった。また、該方法はコスト効率が高く、リサイクル可能である。酵素は、その安定性において最小限に低下するのみである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、脂肪酸エステルの製造方法であって、
(a)エステラーゼの存在下に脂肪酸を60〜120℃の間の沸点を有する含水脂肪族アルコールで処理して、予備エステル化生成物を得、
(b)水および未反応アルコールを予備エステル化生成物から除去し、
(c)予備エステル化生成物に工程(a)と同一の脂肪族アルコールによって、第二の化学触媒によるエステル化を施し、および
(d)工程(c)で除去された含水アルコールを、工程(a)での酵素による予備エステル化のために再使用する、方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
別の実施形態では、予備エステル化工程(a)の間に、相分離によって水を除去する。
驚くべきことに、本発明による方法によって、水と低沸点の共沸混合物を形成する沸点が60〜120℃の間の脂肪族アルコールの水含有成分を処理する必要がなくなることが判った。化学エステル化において放出される含水アルコールは、酵素による予備エステル化において容易に使用することができるが、それは、酵素が低温でエステル化を触媒し、エステル側に大きく存在する反応平衡に到達するからである。低温で反応を行うため、蒸留液は蓄積しない。予備反応が完結すると、水と残存アルコールを除去して廃棄する。反応はエステル合成の方向に大きく進行するため、低沸点アルコールの損失は最小限である。例えば、ヘキサン、イソオクタンまたはn−オクタンなどの不活性溶媒を添加することによって反応をさらにエステルの方向に移すことができ、その結果、低沸点アルコールの損失をさらに少なく維持することができる。この反応により、反応に伴う含水アルコールの複雑でエネルギーを大量に消費する処理の必要がなくなる。この節約は経済上および環境保護上の利点を表す。よって、本発明によれる方法の好適な実施形態では、不活性有機溶媒を触媒反応に添加する。
【0012】
本発明による方法の利点は、それが化学酵素的方法であるということである。第一段階では、脂肪酸を脂肪族アルコール/水混合物で部分転化率へエステル化する。反応が完結すると、ほとんどの反応水は、相分離によって生成物混合物から除去できる。この工程は、規定の水/アルコール/エステル組成物によって穏やかな温度で行われる。水の除去は、酵素段階で溶媒、例えばn−オクタンの添加によって改善される。酵素段階が完結すると、溶媒、未反応アルコールおよび除去されなかった水を留去する。その後、残存する部分的に反応した物質を第二のエステル化段階に送り、例えば、酸または錫塩によって触媒し、転化率99〜99.7%まで続ける。蓄積する反応蒸留液のアルコール/水は集められて、第一の酵素触媒による予備エステル化段階で完全に用いられる。両方のプロセスおよび酵素触媒段階での分離による水の除去の組合せを通じて、該プロセスは極めて相乗的である。さらに、本発明による反応によって、僅かな条件変更とともに、先行技術から既知の方法によって可能とされるよりも、より良好な収率で、より穏やかな条件下で、非常に広範囲の様々な生成物を製造することが可能であることを強調しなければならない。
【0013】
工程(a)における酵素による予備エステル化のためのいくつかの条件を以下に列挙できる。
・含水量0.1〜50%、純粋アルコールは沸点が60〜120℃の間である、アルコール/水混合物の使用;
・必要に応じ、工程(b)における改良された水除去のため、および酵素触媒反応温度を下げるための、不活性溶媒、例えばn−オクタンなどの使用;
・1〜5倍モル過剰、好適には1.1倍過剰の、沸点が60〜120℃の間の脂肪族アルコール;
・20〜70℃の間の温度;
・好ましくは標準圧。
【0014】
他の全ての条件、特に、好適な条件は、明細書の他の部分に記載されている。
予備エステル化において、反応時間に応じて最終転化率50〜85%に到達する。転化率80%では、キャリア材料、出発水量および使用する脂肪酸に応じて、反応時間は8〜16時間である。
【0015】
化学的触媒条件下でのポストエステル化のための条件のいくつかを以下に列挙できる。
・アルコール含量が少なくとも95%の脂肪族アルコールの使用;
・予備エステル化からの脂肪酸/脂肪酸エステル/アルコール混合物の使用、必要に応じ、溶媒を添加し、水と脂肪族アルコールの共沸混合物を事前に留去してよい;
・1倍〜4倍モル過剰、好適には1倍過剰の、沸点が60〜120℃の間の脂肪族アルコール;
・150〜250℃の間の温度;
・圧力は、反応の開始での5barから1barの圧力勾配によって調節するように意図される。生成物混合物を未反応脂肪族アルコールから分離するため、反応の最後に向かって真空を適用する;
【0016】
・適当な触媒は、任意のエステル化触媒であり、錫(II)化合物、亜鉛化合物、硫酸、p−トルエンスルホン酸または酸性イオン交換体が、好適に用いられる。
・化学的触媒による反応のための反応時間は、ほんの10〜12時間であって、従って、酵素による予備エステル化を行わない純粋に化学的な触媒による反応と比較して、少なくとも50%低減される。
【0017】
本発明による方法において用いられる脂肪酸は、一般式R−COOH(式中、Rは、6個までの共役または非共役二重結合を含む直鎖状または分枝状の、必要に応じてヒドロキシ置換された、炭素数6〜32のアルキル基またはアルケニル基である)で示されるカルボン酸である。
本発明による方法のある特定の実施形態では、使用する脂肪酸は、直鎖状または分枝状の、必要に応じてヒドロキシ置換された、炭素数2〜32のアルキル鎖またはアルケニル鎖を有するジ−および/またはポリカルボン酸である。
【0018】
本発明による方法において使用する脂肪酸は、カプロン酸、エナント酸(oenanthic acid)、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ラウロレイン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、ペトロセリン酸、ペトロセライジン酸、オレイン酸、エライジン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレイジン酸(linolaidic acid)、リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキン酸、ガドレイン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、クルパノドン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、共役リノール酸、イソステアリン酸、2-エチルヘキサン酸からなる群から選択される。ミリスチン酸、オレイン酸、ラウリン酸およびパルミチン酸は、本発明による方法にとって特に好ましい。
【0019】
好適な実施形態では、本発明による方法において使用する脂肪酸と脂肪族アルコールの間のモル比は、1から極めて僅かにのみ、より具体的には、0.8〜1.2の範囲内で相違するが、それは所望の生成物の最高収率が得られるからである。
【0020】
基本的に、予備およびポストエステル化の間に添加される適当な脂肪族アルコールは、沸点が60〜120℃の間である任意の脂肪アルコールであり、即ち、メタノール(沸点64℃)、エタノール(沸点78℃)、プロパノール(沸点97℃)、イソプロピルアルコール(沸点82℃)および1−ブタノール(沸点118℃)、イソブチルアルコール(沸点108℃)、sec.ブチルアルコール(沸点99℃)およびtert.ブチルアルコール(沸点83℃)などの、例えば炭素数1〜4のアルコールである。沸点が60〜100℃の間のアルコールは、本発明による方法にとって特に好適である。これらのアルコールのうち、イソプロピルアルコールは特に好適である。
【0021】
本発明に従って用いる酵素のうち、エステラーゼの群、とりわけリパーゼに由来する酵素は好適であり、単独でまたは様々な酵素と組み合わせて用い得る。
【0022】
Thermomyces lanugenosus、Candida antarctica A、Candida antarctica B、Rhizomucor miehei、Candida cylindracea、Rhizopus javanicus、Porcine pancreas、Aspergillus niger、Candida rugosa、Mucor javanicus、Pseudomonas fluorescens、Rhizopus oryzae、Pseudomonas sp.、Chromobacterium viscosum、Fusarium oxysporumおよびPenicilium camenbertiからなる群から選択される生物に由来するエステラーゼは好適である。上記生物に由来するリパーゼ、とりわけCandida antarctica Bに由来するリパーゼは、生体触媒用に特に好適な酵素である。
【0023】
本発明に従って使用されるべき酵素は、異なる形態で用いてよい。原則として、酵素の任意の提示形態であって当業者によく知られるものを用いてよい。酵素は、純粋形態で、またはキャリア材料に固定化した工業用の酵素調製物として、および/または溶液、とりわけ水溶液で用いることが好ましく、繰り返されるバッチにおいて再使用される。例えばポリスチレン、ポリアクリルアミドまたはポリプロピレンキャリヤなどの疎水性キャリヤ上に吸着された固定化酵素は、特に好適である。
【0024】
特に好適な実施形態では、エステラーゼ、とりわけリパーゼは、架橋試薬、とりわけグルタルアルデヒドで化学修飾することによって、または例えばオクタナールで化学的に表面修飾することによって得られた安定化形態で用いられる。
【0025】
生体触媒反応のための本発明による反応条件は、選択した酵素の最適な反応範囲に依存する。より具体的には、該条件は、とりわけ反応温度が20〜70℃の間、好ましくは35〜55℃の間、とりわけ43〜45℃の間である条件である。
【実施例】
【0026】
実施例1:段階1、酵素による予備エステル化
試験装置:撹拌機、内部温度計、加熱低温保持装置、底部排出弁を装備した二重ジャケット付き四口丸底フラスコ
ミリスチン酸125g(0.548mol)、イソプロピルアルコール62.5g(1.04mol)および脱イオン水6.25gを、ポリプロピレンペレット上の固定化酵素10g、MP−100(Candida antarctica B リパーゼ、Novozymes、ポリプロピレンキャリヤ上に吸着、酵素チャージはキャリヤ1g当たり200mgの工業用液体調製物)に添加し、43℃で撹拌した。24時間後、転化率55%が得られた。転化率約40%の後、最大30%のイソプロピルアルコールを含有する比較的重い水相が分離し始めた。それを生成物混合物から除去して、反応を再スタートさせることができた。さらに24時間後、最終転化率70%が得られ、転化率57%の後に別の水相が形成された。水相の組成物を分析したところ、可溶化剤を使用しない場合、典型的に、最大イソプロピルアルコール含量10%を示した。
【0027】
実施例2:段階1、酵素による予備エステル化
試験装置:撹拌機、内部温度計、加熱低温保持装置、底部排出弁を装備した二重ジャケット付き四口丸底フラスコ
ミリスチン酸125g(0.548mol)、イソプロピルアルコール62.5g(1.04mol)および脱イオン水11gを、ポリプロピレンペレット上の固定化酵素10g、MP−100(Candida antarctica B リパーゼ、Novozymes、ポリプロピレンキャリヤ上に吸着、酵素チャージはキャリヤ1g当たり200mgの工業用液体調製物)に添加し、43℃で撹拌した。24時間後、転化率55%が得られた。転化率約40%の後、最大30%のイソプロピルアルコールを含有する比較的重い水相が分離し始めた。それを生成物混合物から除去して、反応を再スタートさせることができた。さらに24時間後、最終転化率70%が得られ、転化率57%の後に別の水相が形成された。水相の組成物を分析したところ、可溶化剤を使用しない場合、典型的に、最大イソプロピルアルコール含量10%を示した。
【0028】
実施例3:段階1、酵素による予備エステル化
試験装置:撹拌機、内部温度計、加熱低温保持装置、底部排出弁を装備した二重ジャケット付き四口丸底フラスコ
ミリスチン酸125g(0.548mol)、イソプロピルアルコール62.5g(1.04mol)および脱イオン水11gを、ポリプロピレンペレット上の固定化酵素10g、MP−100(Candida antarctica B リパーゼ、Novozymes、ポリプロピレンキャリヤ上に吸着、酵素チャージはキャリヤ1g当たり200mgの工業用液体調製物)に添加し、53℃で撹拌した。24時間後、転化率55%が得られた。転化率約40%の後、最大30%のイソプロピルアルコールを含有する比較的重い水相が分離し始めた。それを生成物混合物から除去して、反応を再スタートさせることができた。さらに24時間後、最終転化率70%が得られ、転化率57%の後に別の水相が形成された。水相の組成物を分析したところ、可溶化剤を使用しない場合、典型的に、最大イソプロピルアルコール含量10%を示した。
【0029】
実施例4:段階1、酵素による予備エステル化
試験装置:撹拌機、内部温度計、加熱低温保持装置、底部排出弁を装備した二重ジャケット付き四口丸底フラスコ
ミリスチン酸125g(0.548mol)、イソプロピルアルコール62.5g(1.04mol)および脱イオン水3.25gを、ポリプロピレン粉末上の固定化酵素10g、MP−1000(Candida antarctica B リパーゼ、Novozymes、ポリプロピレンキャリヤ上に吸着、酵素チャージはキャリヤ1g当たり500mgの工業用液体調製物)に添加し、60℃で撹拌した。8時間後、転化率70%が得られた。転化率約60%の後、最大30%のイソプロピルアルコールを含有する比較的重い水相が分離し始めた。それを生成物混合物から除去して、反応を再スタートさせることができた。さらに4時間後、最終転化率83%が得られ、別の水相が形成された。水相の組成物を分析したところ、可溶化剤を使用しない場合、典型的に、最大イソプロピルアルコール含量10%を示した。
【0030】
実施例5:段階1、酵素による予備エステル化
試験装置:撹拌機、内部温度計、加熱低温保持装置、底部排出弁を装備した二重ジャケット付き四口丸底フラスコ
ミリスチン酸125g(0.548mol)、イソプロピルアルコール62.5g(1.04mol)および脱イオン水11gを、ポリプロピレン粉末上の固定化酵素10g、MP−1000(Candida antarctica B リパーゼ、Novozymes、ポリプロピレンキャリヤ上に吸着、酵素チャージはキャリヤ1g当たり500mgの工業用液体調製物)に添加し、43℃で撹拌した。8時間後、転化率70%が得られた。転化率約60%の後、最大30%のイソプロピルアルコールを含有する比較的重い水相が分離し始めた。それを生成物混合物から除去して、反応を再スタートさせることができた。さらに4時間後、最終転化率83%が得られ、別の水相が形成された。水相の組成物を分析したところ、可溶化剤を使用しない場合、典型的に、最大イソプロピルアルコール含量10%を示した。
【0031】
実施例6:段階1、酵素による予備エステル化
ミリスチン酸7.5g(32.9mmol)、イソプロピルアルコール2.5g(41.7mmol)、脱イオン水0.2gおよびオクタン10gを、ポリプロピレン粉末上の固定化酵素2g(Candida antarctica B リパーゼ、Novozymes、ポリプロピレンキャリヤ上に吸着、酵素チャージはキャリヤ1g当たり500mgの工業用液体調製物、標準法によってグルタルアルデヒドで架橋)に添加した。振盪機上の栓付き三角フラスコにて45℃で混合物をインキュベートした。4時間後および24時間後に試料を採取し、酸価の測定によって転化率を決定した。反応終了後、酵素固定化物を濾別して、新たなバッチで同一条件下に再使用した。この形態で35日の期間にわたって試験を実施した。
【0032】
表1:酵素固定化物の活性測定

【0033】
35日の期間にわたって、酵素固定化物の活性損失は観察されなかった。反応生成物を除去せずに、転化率約80%に到達した。各反応において、有機相から明らかに分画された水相を分離した。水相の組成物を分析したところ、可溶化剤を用いた場合、典型的に、最大イソプロピルアルコール含量3〜5%を示した。
【0034】
実施例7:段階1、酵素による予備エステル化
ミリスチン酸11.25g(49.3mmol)、イソプロピルアルコール3.75g(62.5mmol)、脱イオン水0.2gおよびオクタン5gを、固定化酵素(再使用した実施例6からの固定化物)2gに添加した。振盪機上の栓付き三角フラスコにて45℃で混合物をインキュベートした。4時間後および24時間後に試料を採取し、酸価の測定によって転化率を決定した。反応終了後、酵素固定化物を濾別して、新たなバッチで同一条件下に再使用した。この形態で115日の期間にわたって試験を実施した。
【0035】
表2:酵素固定化物の活性測定−第2試験

【0036】
115日の期間にわたって、約50%の酵素固定化物の活性損失が観察された。上記条件下での固定化酵素の半減期は、100〜120日であった。反応生成物を除去せずに、転化率約80%に到達した。各反応において、有機相から明らかに分画された水相を分離した。水相の組成物を分析したところ、可溶化剤を用いた場合、典型的に、最大イソプロピルアルコール含量3〜5%を示した。
【0037】
実施例8:段階1、酵素による予備エステル化
ミリスチン酸11.25g(49.3mmol)、イソプロピルアルコール3.75g(62.5mmol)、脱イオン水0.2gおよびオクタン5gを、ポリプロピレン粉末上の固定化酵素2g(実施例7によるもの、Candida antarctica B リパーゼで再チャージ、Novozymes、ポリプロピレンキャリヤ上に吸着、酵素チャージはキャリヤ1g当たり1100mgの工業用液体調製物、標準法によってグルタルアルデヒドで架橋)に添加した。振盪機上の栓付き三角フラスコにて45℃で混合物をインキュベートした。4時間後および24時間後に試料を採取し、酸価の測定によって転化率を決定した。反応終了後、酵素固定化物を濾別して、新たなバッチで同一条件下に再使用した。この形態で68日の期間にわたって試験を実施した。
【0038】
表3:酵素固定化物の活性測定−第3試験

【0039】
68日の期間にわたって、酵素固定化物の活性損失は観察されなかった。反応生成物を除去せずに、転化率約80%に到達した。各反応において、有機相から明らかに分画された水相を分離した。水相の組成物を分析したところ、可溶化剤を用いた場合、典型的に、最大イソプロピルアルコール含量3〜5%を示した。
【0040】
実施例9:段階1、酵素による予備エステル化
ミリスチン酸37.5g(164.5mmol)、イソプロピルアルコール10.5g(175.0mmol)、脱イオン水2.0gおよびヘキサン50gを、ポリプロピレン粉末上の固定化酵素5g(Candida antarctica B リパーゼ、Novozymes、ポリプロピレンキャリヤ上に吸着、酵素チャージはキャリヤ1g当たり500mgの工業用液体調製物)に添加した。振盪機上の栓付き三角フラスコにて35℃で混合物をインキュベートした。5時間後および22時間後に試料を採取し、酸価の測定によって転化率を決定した。反応終了後、酵素固定化物を濾別して、新たなバッチで同一条件下に再使用した。この形態で77日の期間にわたって試験を実施した。
【0041】
















表4:酵素固定化物の活性測定−第4試験

【0042】
酵素の半減期約30日に相当する酵素固定化物の不活性化が、上記条件下で観察された。反応生成物を除去せずに、転化率約80%に到達した。各反応において、有機相から明らかに分画された水相を分離した。水相の組成物を分析したところ、可溶化剤を用いた場合、典型的に、最大イソプロピルアルコール含量3〜5%を示した。
【0043】
実施例10:ラウリン酸によるエステル化:段階1、酵素による予備エステル化
試験装置:撹拌機、内部温度計、加熱低温保持装置、底部排出弁を装備した二重ジャケット付き四口丸底フラスコ
ラウリン酸125g(0.625mol)、イソプロピルアルコール62.5g(1.04mol)および脱イオン水11gを、ポリプロピレンペレット上の固定化酵素10g、MP−100(Candida antarctica B リパーゼ、Novozymes、ポリプロピレンキャリヤ上に吸着、酵素チャージはキャリヤ1g当たり200mgの工業用液体調製物)に添加し、43℃で撹拌した。24時間後、転化率55%が得られた。転化率約40%の後、最大30%のイソプロピルアルコールを含有する比較的重い水相が分離し始めた。それを生成物混合物から除去して、反応を再スタートさせることができた。さらに24時間後、最終転化率71%が得られ、転化率57%の後に別の水相が形成された。
【0044】
実施例11:段階1、酵素による予備エステル化
ラウリン酸30g(150.0mmol)、イソプロピルアルコール9.9g(165.0mmol)、脱イオン水0.5gおよびオクタン8.5gを、ポリプロピレン粉末上の固定化酵素3g(Candida antarctica B リパーゼ、Novozymes、ポリプロピレンキャリヤ上に吸着、酵素チャージはキャリヤ1g当たり500mgの工業用液体調製物、標準法によってグルタルアルデヒドで架橋)に添加した。振盪機上の栓付き三角フラスコにて45℃で混合物をインキュベートした。5時間後および24時間後に試料を採取し、酸価の測定によって転化率を決定した。反応終了後、酵素固定化物を濾別して、新たなバッチで同一条件下に再使用した。この形態で9日の期間にわたって試験を実施した。
【0045】
表5:酵素固定化物の活性測定−第5試験

【0046】
9日の期間にわたり、酵素固定化物の活性損失約10%が観察された。反応生成物を除去せずに、転化率約75%に到達した。各反応において、有機相から明らかに分画された水相を分離した。水相の組成物を分析したところ、可溶化剤を用いた場合、典型的に、最大イソプロピルアルコール含量3〜5%を示した。
【0047】
実施例12:パルミチン酸によるエステル化:段階1、酵素による予備エステル化
パルミチン酸30g(117.2mmol)、イソプロピルアルコール7.7g(128.3mmol)、脱イオン水0.5gおよびオクタン8.5gを、ポリプロピレン粉末上の固定化酵素3g(Candida antarctica B リパーゼ、Novozymes、ポリプロピレンキャリヤ上に吸着、酵素チャージはキャリヤ1g当たり500mgの工業用液体調製物、標準法によってグルタルアルデヒドで架橋)に添加した。振盪機上の栓付き三角フラスコにて45℃で混合物をインキュベートした。5時間後および24時間後に試料を採取し、酸価の測定によって転化率を決定した。反応終了後、酵素固定化物を濾別して、新たなバッチで同一条件下に再使用した。この形態で9日の期間にわたって試験を実施した。
【0048】
表6:酵素固定化物の活性測定−第6試験

【0049】
9日の期間にわたって、酵素固定化物の活性損失は観察されなかった。反応生成物を除去せずに、転化率約78%に到達した。各反応において、有機相から明らかに分画された水相を分離した。水相の組成物を分析したところ、可溶化剤を用いた場合、典型的に、最大イソプロピルアルコール含量3〜5%を示した。
【0050】
実施例13:オレイン酸によるエステル化:段階1、酵素による予備エステル化
オレイン酸110.0g(390.1mmol)、イソプロピルアルコール26.0g(433.3mmol)および脱イオン水1.0gを、ポリプロピレン粉末上の固定化酵素7g(Candida antarctica B リパーゼ、Novozymes、ポリプロピレンキャリヤ上に吸着、酵素チャージはキャリヤ1g当たり500mgの工業用液体調製物、標準法によってグルタルアルデヒドで架橋)に添加した。振盪機上の栓付き三角フラスコにて60℃で混合物をインキュベートした。酸価の測定によって転化率を決定した。
【0051】
表7:オレイン酸とイソプロピルアルコールの反応における転化率の測定

【0052】
実施例14:段階2、化学的に触媒された反応
予備エステル化混合物(IPM、IPA、オクタン、ミリスチン酸)100kgを反応槽中へ導入した。窒素の穏やかな流れ(4l/h)にて、混合物を撹拌しながら225℃に加熱した。蓄積する蒸留液を分縮器(Tset=130℃)によって集め、バランスさせた。反応終了後、蒸留液を酵素による予備エステル化へと導入した。該温度に到達したら、圧力5barに初期設定した。その後、触媒である錫(II)化合物200gを導入した。触媒を添加後、5barから1barへの圧力勾配を確立し、圧力を1時間当たり1bar減少させた。圧力5barで、イソプロピルアルコールの添加を開始した。99.9%イソプロピルアルコール1.5kgを1時間当たりに添加した。イソプロピルアルコール/水の蒸留液を、反応の間に絶えず得た。これを分縮器に通過させ、分縮器の後で完全に凝縮し、集めた。圧力の降下に従って分縮器温度を下げた。
【0053】
表8:反応中の圧力と温度

【0054】
転化率を酸価によって決定した。従って、酸価を決定するために試料を毎時に採取した。反応を約8時間継続し、その後、最終の酸価は2より低いはずである。次いで、反応を停止した。過剰のイソプロピルアルコールを留去した(反応器温度200℃、分縮器温度100℃、真空勾配は30分で1000mbarから500mbar)。集められた蒸留液は全て、酵素による予備エステル化へ送った。
【0055】
表9:転化率コントロール

【0056】
反応を停止後、過剰のイソプロピルアルコールを留去した(反応器温度200℃、分縮器温度100℃、真空勾配は30分で1000mbarから500mbar)。集められた蒸留液は全て、酵素による予備エステル化へ送った。蒸留液の分析により、以下の組成であることが判った。
水5%
IPA94%
脂肪酸1%、IPエステル混合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸エステルの製造方法であって、
(a)エステラーゼの存在下に脂肪酸を60〜120℃の間の沸点を有する含水脂肪族アルコールで処理して、予備エステル化生成物を得、
(b)水および未反応アルコールを予備エステル化生成物から除去し、
(c)予備エステル化生成物に工程(a)と同一の脂肪族アルコールによって、第二の化学触媒によるエステル化を施し、および
(d)工程(c)で除去された含水アルコールを、工程(a)での酵素による予備エステル化のために再使用する、方法。
【請求項2】
使用する脂肪酸は、一般式R−COOH(式中、Rは、6個までの共役または非共役二重結合を含む直鎖状または分枝状の、必要に応じてヒドロキシ置換された、炭素数6〜32のアルキル基またはアルケニル基である)で示されるカルボン酸であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
使用する脂肪酸は、カプロン酸、エナント酸(oenanthic acid)、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ラウロレイン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、ペトロセリン酸、ペトロセライジン酸、オレイン酸、エライジン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレイジン酸(linolaidic acid)、リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキン酸、ガドレイン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、クルパノドン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、共役リノール酸、イソステアリン酸、2-エチルヘキサン酸からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
直鎖状または分枝状の、必要に応じてヒドロキシ置換された、炭素数2〜32のアルキル鎖またはアルケニル鎖を有するジ−および/またはポリカルボン酸を脂肪酸として使用することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
1〜5倍モル過剰の沸点60〜120℃の脂肪族アルコールが予備エステル化工程(a)の間に存在し、および1〜4倍モル過剰の沸点60〜120℃の脂肪族アルコールがポストエステル化工程(d)の間に存在することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
脂肪族アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、イソブチルアルコール、sec.ブチルアルコールおよびtert.ブチルアルコールからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
脂肪族アルコールはイソプロピルアルコールである、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
遊離または固定化形態のエステラーゼを工程(a)で使用することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
エステラーゼは、Thermomyces lanugenosus、Candida antarctica A、Candida antarctica B、Rhizomucor miehei、Candida cylindracea、Rhizopus javanicus、Porcine pancreas、Aspergillus niger、Candida rugosa、Mucor javanicus、Pseudomonas fluorescens、Rhizopus oryzae、Pseudomonas sp.、Chromobacterium viscosum、Fusarium oxysporumおよびPenicilium camenbertiからなる群から選択される生物に由来することを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
エステラーゼはリパーゼであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
固定化形態のCandida antarcticaをリパーゼとして使用することを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
不活性有機溶媒を触媒反応に添加することを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
錫(II)化合物、亜鉛化合物、硫酸、p−トルエンスルホン酸および酸性イオン交換体からなる群から選択される触媒を、化学的に触媒されたポストエステル化工程(c)で使用することを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2009−504813(P2009−504813A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−525434(P2008−525434)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【国際出願番号】PCT/EP2006/007633
【国際公開番号】WO2007/017167
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(505066718)コグニス・アイピー・マネージメント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (191)
【氏名又は名称原語表記】Cognis IP Management GmbH
【Fターム(参考)】