説明

脂肪除去装置

【課題】周辺組織への伝熱を抑制して脂肪組織を除去する。
【解決手段】脂肪組織Aに押し付けられる開口部10aを有する略筒状の筐体10と、筐体10に収容され、開口部10aが押し付けられることにより筐体10の内部に露出される脂肪組織Aの表面に、集束させた超音波を照射する超音波素子20と、流動性を有し超音波を伝播する伝播部材Wを筐体10内に供給する供給管30とを備え、筐体10が、開口部10aから内部に露出される脂肪組織Aの表面と超音波素子20との間に、供給管30により供給される伝播部材Wを充満させる貯留空間12を有する脂肪除去装置100を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪除去装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、集束超音波を用いて患者の体内の脂肪組織を除去する脂肪除去装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の脂肪除去装置は、患者の体内の脂肪組織に焦点を合わせて体外から集束超音波を照射し、集束超音波の発熱により脂肪組織を融解することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−212708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、臓器に付着している脂肪組織を除去する場合において、特許文献1に記載の脂肪除去装置を適用しようとすると、特許文献1の脂肪除去装置は脂肪組織の焦点周辺を除去することができないため、超音波による発熱が脂肪組織の周辺組織に伝達してしまうことがあるという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、周辺組織への伝熱を抑制して脂肪組織を除去することができる脂肪除去装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、脂肪組織に押し付けられる開口部を有する略筒状の筐体と、該筐体に収容され、前記開口部が押し付けられることにより前記筐体の内部に露出される脂肪組織の表面に、集束させた超音波を照射する超音波素子と、流動性を有し超音波を伝播する伝播部材を前記筐体内に供給する供給管とを備え、前記筐体が、前記開口部から内部に露出される脂肪組織の表面と前記超音波素子との間に、前記供給管により供給される前記伝播部材を充満させる貯留空間を有する脂肪除去装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、生体の臓器等に付着している脂肪組織に開口部を押し当てて筐体内に脂肪組織の表面を露出させることにより、筐体内に伝播部材を貯留可能な貯留空間が形成される。この状態で、供給管により貯留空間内に伝播部材を充満させ、超音波素子により超音波を発生させることで、筐体内に露出されている脂肪組織の表面に伝播部材を介して超音波が照射される。
【0008】
脂肪組織の表面に焦点を結ぶように超音波が照射されると、超音波の焦点位置である脂肪組織の表面付近で負圧が生じて伝播部材に含まれる気泡核が成長し、キャビテ−ションが発生する。これにより、超音波が照射された脂肪組織が融解または破砕され、臓器等から剥離される。
【0009】
この場合において、超音波の非線形性により伝播部材に音響流が発生する。音響流は、超音波の音圧が最も高い位置、すなわち、超音波の焦点位置で音速が最大になるため、キャビテ−ションにより臓器等から剥離された脂肪組織を音響流により除去することができる。また、音響流による水冷効果により、脂肪組織が剥離された箇所を冷却することができる。したがって、超音波により発生する熱が周辺組織に伝熱するのを抑制して脂肪組織を除去することができる。
【0010】
本発明は、脂肪組織に押し付けられる開口部を有する略筒状の筐体と、該筐体に収容され、前記開口部が押し付けられることにより前記筐体の内部に露出される脂肪組織の表面に、集束させた超音波を照射する超音波素子と、前記筐体内に流動性を有する伝播部材を供給する供給管とを備え、前記筐体が、前記供給管により供給される伝播部材が充満される開口部側領域と予め伝播部材が充満されている超音波素子側領域とに区画する音響透過特性を有する区画部材を備える脂肪除去装置を提供する。
【0011】
本発明によれば、開口部が近接させられる脂肪組織の表面に対して、筐体と共に区画部材により超音波素子を二重に絶縁し、電気安全性を向上することができる。また、供給管により供給される伝播部材が貯留される筐体内の空間を、脂肪組織の表面から超音波素子までの領域全体とする場合と比較して超音波素子側領域の分だけ狭くすることができる。これにより、供給管からの伝播部材に含まれる気泡核の浮遊時間を低減し、キャビテーションの発生効率を向上することができる。また、伝播部材を環流させ易くし、臓器等から剥離された脂肪組織をより効率的に除去することができる。
【0012】
上記発明においては、前記筐体が、前記貯留空間に貯留されている前記伝播部材を吸引して排出可能な吸引経路を有することとしてもよい。
このように構成することで、超音波を照射して臓器等から剥離させた脂肪組織を伝播部材と共に吸引経路から吸引して排出することができる。これにより、臓器等から剥離させた脂肪組織を患者の体内から容易に除去することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記供給管が、前記貯留空間内に前記伝播部材を吐出させる細径の吐出口を有することとしてもよい。
このように構成することで、供給管により貯留空間に伝播部材が供給される際に、伝播部材が細径の吐出口から貯留空間の広い領域に広がることで、伝播部材に気泡核が含まれ易くなる。これにより、予め気泡核が含まれている伝播部材を用いた場合は、気泡核をさらに増加してキャビテ−ションを発生させ易くすることができる。一方、気泡核が含まれていない脱気水のような伝播部材を用いた場合でも、気泡核を含有させてキャビテ−ションの発生を促進することができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記供給管が、鋭利な形状の尖端部を有する穿刺針を挿脱可能に形成されていることとしてもよい。
このように構成することで、供給管から筐体内に伝播部材を供給する前に、供給管に穿刺針を挿入して脂肪組織の表面の心外膜等を穿刺し突き破ることができる。これにより、穿刺針を用いて、心外膜に脂肪組織を除去するための孔を形成することができ、心外膜に孔を開けるためのキャビテーション発生に必要な超音波照射が不要になる。
【0015】
また、上記発明においては、前記開口部が、前記筐体の中心線に対してその開口面が傾斜して配置されていることとしてもよい。
このように構成することで、脂肪組織の表面に対して略筒状の筐体を傾けた姿勢で開口部を押し付けることになる。したがって、脂肪組織の表面からの距離が狭い狭小空間においても、脂肪組織の表面にアプローチし易くなる。例えば、心外側アプローチでは、心嚢膜までの距離を短くし、心タンポナーゼのリスクを低減することができる。
【0016】
また、上記発明においては、前記開口部を露出させて前記筐体を覆う筒部材を備え、該筒部材が、前記筐体との間に配置された吸引管と、脂肪組織の表面に前記開口部を押し付けた状態で該脂肪組織の表面に吸着可能な開口孔とを備えることとしてもよい。
このように構成することで、脂肪組織の表面に筐体の開口部を押し付けた状態で、筒部材が開口孔により脂肪組織の表面に吸着される。この場合において、筐体の貯留空間に給水された伝播部材が開口部を介して筐体の外側に漏れても、筒部材により伝播部材の流出をせき止めて吸引管により回収することができる。これにより、生体の体内における伝播部材の残存をより確実に防止することができる。
【0017】
また、上記発明においては、前記開口部に対して近接または離間する方向に前記超音波素子を進退可能な押引機構を備えることとしてもよい。
このように構成することで、押引機構によって超音波素子を進退させることにより、超音波の焦点位置を脂肪組織の厚さ方向に移動させることができる。したがって、脂肪組織が付着している臓器等の表面付近まで、脂肪組織を厚さ方向に掘り進めて除去していくことができる。
【0018】
また、上記発明においては、前記開口部から前記筐体内に露出される脂肪組織の表面と前記超音波素子との距離を算出する距離算出部と、該距離算出部により算出された距離に応じて前記押引機構を制御する制御部とを備えることとしてもよい。
このように構成することで、距離算出部により算出された脂肪組織の表面と超音波素子との距離に基づいて、制御部により押引機構をフィードバック制御し、脂肪組織を厚さ方向に自動で除去していくことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、周辺組織への伝熱を抑制して脂肪組織を除去することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は本発明の第1実施形態に係る脂肪除去装置を長手方向に切断した縦断面図であり、(b)は(a)の脂肪除去装置の横断面図である。
【図2】(a)は本発明の第1実施形態の第1変形例に係る脂肪除去装置の縦断面図であり、(b)は(a)の脂肪除去装置の横断面図である。
【図3】図2の脂肪除去装置に給水ポンプおよび排水ポンプを接続した状態を示す外観図である。
【図4】本発明の第1実施形態の第2変形例に係る脂肪除去装置の縦断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態の第3変形例に係る脂肪除去装置の縦断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態の第4変形例に係る脂肪除去装置の縦断面図である。
【図7】(a)本発明の第1実施形態の第5変形例に係る脂肪除去装置の外観を示す図であり、(b)は(a)の脂肪除去装置の縦断面図である。
【図8】本発明の第1実施形態の第6変形例に係る脂肪除去装置の縦断面図である。
【図9】(a)は図8の脂肪除去装置により心外膜等を突き破る様子を示す図であり、(b)は心外膜等を突き破った後に貯留空間内に伝播部材を供給する様子を示す図である。
【図10】本発明の第1実施形態の第7変形例に係る脂肪除去装置の縦断面図である。
【図11】本発明の第1実施形態の第8変形例に係る脂肪除去装置の縦断面図である。
【図12】(a)は図11の脂肪除去装置により脂肪組織の表面に超音波の焦点位置を合わせた状態を示す図であり、(b)は脂肪組織に孔を形成した状態を示す図であり、(c)は、(b)の孔を深く掘り進めた状態を示す図である。
【図13】図11の脂肪除去装置の押引機構を自動制御する構成を示す図である。
【図14】本発明の第2実施形態に係る脂肪除去装置を長手方向に切断した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態に係る脂肪除去装置について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る脂肪除去装置は、生体の心臓等の臓器に付着している脂肪組織を溶解することができるようになっている。この脂肪除去装置100は、例えば、図1(a)に示すように、生体内に挿入される細長い中空略円筒形状の筐体10と、筐体10に収容され、集束させた超音波を発生する超音波素子20と、超音波を伝播する伝播部材Wを筐体10内に供給する供給管30とを備えている。
【0022】
筐体10は、先端部の中心線上に開口する開口部10aを有しており、脂肪組織Aに開口部10aを押し付けることにより、開口部10aから筐体10内に脂肪組織Aの表面を露出させることができるようになっている。また、筐体10は、開口部10aから内部に露出される脂肪組織Aの表面と超音波素子20との間に、伝播部材Wを満たすように貯留可能な貯留空間12を有している。伝播部材Wとしては、流動性を有する液体、例えば、脱気していない生理食塩水などを用いることとができる。
【0023】
超音波素子20は、図1(a),(b)に示すように、中央に貫通孔20aを有する円環状に形成され、表面が厚さ方向に窪む凹面形状を有している。この超音波素子20は、筐体10の内径寸法よりも若干小さい外形寸法を有する筒形状の素子ホルダ22の先端に嵌合されて保持され、開口部10aに表面を対向させて配置されている。また、超音波素子20は、集束させた超音波の焦点位置が筐体10の開口部10aにほぼ一致するように位置決めされている。符合Pは超音波の焦点位置を示している。
【0024】
また、超音波素子20は、集束させた超音波(例えば、中心周波数が1MHz)を発生し、開口部10aから貯留空間12に露出させられた脂肪組織Aの表面に超音波を照射することができるようになっている。超音波素子20の裏面は空気に接しており、素子ホルダ22により水密が保たれるようになっている。筐体10内に超音波素子20を収容することで、超音波素子20が生体に直接接触するのを防ぎ電気的安全性を確保することができる。特に、心臓に対して処置する場合に電気安全性を担保することができる。
【0025】
供給管30は、超音波素子20の貫通孔20aに挿脱可能に配置されている。この供給管30は、伝播部材Wを吐出する吐出口30aを有し、吐出口30aが超音波素子20の表面に対して面一となるように配置されている。筐体10の開口部10aから脂肪組織Aの表面が貯留空間12に露出させられた状態で、供給管30により貯留空間12に伝播部材Wを供給して充満させることにより、脂肪組織Aの表面と超音波素子20との間に伝播部材Wによる超音波の伝播空間が形成されるようになっている。
【0026】
次に、このように構成された脂肪除去装置100の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る脂肪除去装置100を用いて、生体の臓器等に付着している脂肪組織Aを除去するには、まず、生体内に筐体10を挿入し、脂肪組織Aに筐体10の開口部10aを押し当てる(押付工程)。これにより、筐体10の開口部10aが脂肪組織Aにより閉塞され、筐体10の貯留空間12に脂肪組織Aの表面が露出される。
【0027】
次いで、供給管30により貯留空間12に伝播部材Wを供給し、貯留空間12内に伝播部材Wを充満させる(供給工程)。貯留空間12が伝播部材Wで満たされたら、超音波素子20から筐体10の開口部10aに向けて集束させた1MHzの高強度の超音波を発生させ、貯留空間12に露出されている脂肪組織Aの表面に伝播部材Wを介して超音波を照射する(照射工程)。
【0028】
脂肪組織Aの表面に焦点を結ぶように超音波が照射されると、超音波の焦点位置Pに一致する脂肪組織Aの表面付近で負圧が生じて伝播部材Wに含まれる気泡核が成長し、キャビテ−ションが発生する。これにより、超音波が照射された脂肪組織Aが融解または破砕され、臓器等から剥離される。
【0029】
この場合において、超音波の非線形性により伝播部材Wに音響流が発生する。音響流は、超音波の照射方向に沿って流れ、超音波の音圧が最も高い位置、すなわち、超音波の焦点位置Pで音速が最大になる。したがって、脂肪組織Aの表面付近で発生したキャビテ−ションにより臓器等から剥離された脂肪組織Aを音響流により押し流すことができる。また、音響流による水冷効果により、脂肪組織Aが剥離された箇所を冷却することができる。
【0030】
以上説明したように、本実施形態に係る脂肪除去装置100によれば、筐体10の開口部10aから内部に露出された脂肪組織Aの表面に対して超音波素子20により超音波を照射することで、キャビテ−ションを発生させて臓器等から脂肪組織Aを剥離させることができる。また、剥離させた脂肪組織Aを伝播部材Wの音響流により押し流しつつ、その水冷効果により脂肪組織Aが剥離された箇所を冷却することができる。これにより、超音波により発生する熱が周辺組織に伝熱するのを抑制して脂肪組織Aを除去することができる。
【0031】
本実施形態は以下のように変形することができる。
第1変形例としては、図2に示すように、例えば、筐体10が、貯留空間12に貯留されている伝播部材Wを吸引して排出可能な吸引経路14を有することとしてもよい。この場合、筐体10の内壁と素子ホルダ22の外壁との間に隙間を設け、この隙間を吸引経路14として機能させることとすればよい。また、図3に示すように、供給管30に給水ポンプ31を接続するとともに吸引経路14に排水ポンプ15を接続し、給水ポンプ31から送られてくる伝播部材Wを供給管30により貯留空間12内に供給しつつ、排水ポンプ15により吸引経路14を介して貯留空間12内の伝播部材Wを吸引して排出し、貯留空間12内に伝播部材Wを満たした状態で脂肪組織Aの表面に超音波を照射することとすればよい。
【0032】
このようにすることで、超音波の照射により臓器等から剥離させて音響流によって押し流した脂肪組織Aを、伝播部材Wと共に吸引経路14から吸引して排出する(吸引工程)ことができる。これにより、臓器等から剥離させた脂肪組織Aを患者の体内から容易に除去することができる。
以下、下記の変形例および実施形態においては、筐体10が吸引経路14を有する構成を例示して説明する。また、下記の変形例2〜5,7,8および第2実施形態においても、図3に示すような給水ポンプ31および排水ポンプ15をそれぞれ供給管30および吸引経路14に接続することとすればよい。
【0033】
第2変形例としては、図4に示すように、例えば、伝播部材Wが貯留空間12に勢いよく吐出され易くなるように、供給管30の吐出口30aを細径に形成することとしてもよい。この場合、供給管30の先端をテーパ状に形成し、超音波素子20の貫通孔20aに挿入される供給管30の先端のみを局所的に細径にすることとしてもよい。
【0034】
このようにすることで、供給管30により貯留空間12に伝播部材Wが供給される際に、伝播部材Wが細径の吐出口30aから貯留空間12の広い領域に勢いよく広がることで、伝播部材Wに気泡核が含まれ易くなる。これにより、予め気泡核が含まれている伝播部材Wを用いた場合は、気泡核をさらに増加してキャビテ−ションを発生させ易くすることができる。一方、気泡核が含まれていない脱気水のような伝播部材Wを用いた場合でも、気泡核を含有させてキャビテ−ションの発生を促進することができる。
【0035】
第3変形例としては、供給管30の吐出口30aを超音波素子20の表面と面一になるように配置することとに代えて、図5に示すように、供給管30の先端が超音波素子20の表面よりも突出して筐体10の開口部10aに向かって延び、開口部10aの近傍に吐出口30aが配置されていることとしてもよい。
【0036】
このようにすることで、開口部10aから露出されている脂肪組織Aの表面から供給管30の吐出口30aまでの距離が近づくため、伝播部材Wの音響流の効果に加え、超音波の焦点位置P近傍における環流の流速を向上することができる。
【0037】
第4変形例としては、図6に示すように、超音波素子20が円盤状に形成され、超音波素子20の半径方向外方に供給管30の吐出口30aを配置することとしてもよい。この場合、素子ホルダ22の外側に複数の供給管30を周方向に間隔を空けて配置し、超音波素子20から発せられる超音波の照射方向に沿って各供給管30の吐出口30aから伝播部材Wを吐出させることとすればよい。このようにすることで、伝播部材Wの音響流の効果に加え、超音波の焦点位置P近傍における環流の流速を向上することができる。
【0038】
第5変形例としては、筐体10の中心線に対して開口面が直交するように開口部10aを配置することに代えて、図7(a),(b)に示すように、筐体10の中心線に対して開口部10aの開口面を傾斜させて配置することとしてもよい。この場合、筐体10の中心線と開口部10aの開口面とが成す角度が鋭角となるように、開口部10aを配置することとすればよい。また、開口部10aの位置および向きに合わせて、超音波の焦点位置Pが開口部10aに一致するように超音波素子20の配置を調整することとすればよい。
【0039】
このようにすることで、脂肪組織Aの表面に対して筐体10を傾けた姿勢で開口部10aを押し付けることになる。したがって、脂肪組織Aの表面からの距離が狭い狭小空間においても、脂肪組織Aの表面にアプローチし易くなる。例えば、心外側アプローチでは、心嚢膜までの距離を短くし、心タンポナーゼのリスクを低減することができる。
【0040】
第6変形例としては、図8に示すように、供給管30が、例えば、鋭利な形状の尖端部32aを有する穿刺針32を挿脱可能なシースとして機能することとしてもよい。この場合、例えば、供給管30の基端部を二股に分岐させ、一方の分岐路は伝播部材Wが送り出されるポンプ等に接続し、他方の分岐路は穿刺針32を進退可能に収容するように形成することとすればよい。
【0041】
この場合、図9(a)に示すように、供給管30から貯留空間12に伝播部材Wを供給する前に、供給管30に穿刺針32を挿入して脂肪組織Aの表面の心外膜B等を穿刺し突き破る(穿刺工程)。次いで、図9(b)に示すように、供給管30内の穿刺針32を後退させ、供給管30から貯留空間12内に伝播部材Wを供給する。このようにすることで、穿刺針32を用いて、心外膜Bに脂肪組織Aを除去するための孔を形成することができ、心外膜Bに孔を開けるためのキャビテーション発生に必要な超音波照射が不要になる。
【0042】
第7変形例としては、図10に示すように、筐体10よりも大径の筒部材40により、筐体10の開口部10aを露出させて筐体10の半径方向外方を覆うこととしてもよい。この場合、筒部材40が、筐体10の外壁面との間の隙間に配置される吸引管42と、脂肪組織Aの表面に開口部10aを押し付けた状態で脂肪組織Aの表面に吸着可能な開口孔40aとを備えることとしてもよい。図10では、筐体10の周囲および吸引経路14に間隔を空けて複数の吸引管42が配置されている。
【0043】
筒部材40の開口孔40aを脂肪組織Aの表面に吸着させることで、筐体10の貯留空間12に給水された伝播部材Wが開口部10aを介して筐体10の外側に漏れても、筒部材40により伝播部材Wの流出をせき止めて吸引管42により回収することができる。これにより、生体の体内における伝播部材Wの残存をより確実に防止することができる。
【0044】
第8変形例としては、図11に示すように、筐体10の開口部10aに対して近接または離間する方向に超音波素子20を進退可能な押引機構50を備えることとしてもよい。この場合、素子ホールド22の基端部側に押引機構50を配置し、押引機構50により素子ホールド22の基端部を押したり引いたりすることで、素子ホールド22ごと超音波素子20を進退させることとすればよい。押引機構50としては、小型に作製できるものであればよく、例えば、形状記憶合金や、筐体10の中心線方向に伸縮可能な圧電素子等を用いることができる。
【0045】
押引機構50によって超音波素子20を進退させることにより、超音波の焦点位置Pを脂肪組織Aの厚さ方向に移動させることができる。したがって、脂肪組織Aが付着している臓器等の表面付近まで、脂肪組織Aを厚さ方向に掘り進めて除去していくことができる。
【0046】
例えば、図12(a)に示すように、脂肪組織Aを溶解する治療を開始する際に、超音波の焦点が筐体10の開口部10a(つまり、脂肪組織Aの表面。)と略一致する位置に調整する。この状態で、脂肪組織Aの表面に超音波を照射すると、焦点位置P付近の脂肪組織Aの表面が溶解して物理的に除去され、脂肪組織Aに孔Cが形成される。次いで、図12(b)に示すように、押引機構50により、脂肪組織Aに形成された孔Cの底面に焦点位置Pが略一致するように素子ホルダ22を前進させる。そして、再び超音波を照射して孔Cを深く形成する。
【0047】
この動作を繰り返すことで、図12(c)に示すように、心筋近傍まで延びる深く細長い孔Cを形成することができる。このような一連の動作は、押引機構50を手動で操作することとしてもよいし、自動制御することとしてもよい。また、この一連の動作を連続的に行うために、押引機構50により素子ホルダ22を連続的に前進させてもよい。
【0048】
押引機構50を自動制御する場合は、以下のように構成することができる。例えば、図13に示すように、パルス信号を生成する送受信回路52と、パルス信号を送受信する送受信変換器54と、開口部10aから貯留空間12に露出される脂肪組織Aの表面と超音波素子20との距離を算出する距離算出部56と、距離算出部56により算出された距離に応じて押引機構50を制御する制御部58とを備えることとしてもよい。
【0049】
この場合、送受信変換器54は供給管30内に挿脱可能に設け、供給管30内に挿入した送受信変換器54の検出面が超音波素子20の表面にほぼ一致するように配置することとすればよい。また、距離算出部56は、送受信変換器54により検出され送受信回路52に送られてきた反射波のパルス信号に基づいて、音波の送信時刻と最初の音波の受信時刻までの差分(時間差)を計算し、音源から脂肪組織Aの表面までの距離を算出することとすればよい。
【0050】
このようにすることで、距離算出部56により算出された脂肪組織Aの表面と超音波素子20との距離に基づいて、制御部58により押引機構50をフィードバック制御し、脂肪組織Aを厚さ方向に自動で除去していくことができる。
【0051】
また、制御部58は、押引機構50の制御に加えて、反射波の応答に応じて脂肪組織Aを溶解するための超音波の照射を停止することとしてもよい。例えば、心臓表面の脂肪組織Aを除去中のモニタリングにおいて、第1反射波と第2反射波の時間差が短い場合は、心筋外側の脂肪除去がほぼ完了しまもなく心筋表面が露出することを意味する。そこで、第1反射波と第2反射波の時間差△Tを予め設定し、これを閾値としてモニタリング時の時間差△t≦△Tとなった場合に、超音波素子20を制御して超音波の照射を停止することとしてもよい。
【0052】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る脂肪除去装置200について、図14を参照して説明する。
本実施形態に係る脂肪除去装置200は、筐体10が、供給管30により供給される伝播部材Wが充満される開口部側領域62Aと予め伝播部材Wが充満されている超音波素子側領域62Bとに区画するフィルム(区画部材)60を備える点で、第1実施形態と異なる。
以下、第1実施形態に係る脂肪除去装置100と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0053】
素子ホルダ22は、超音波素子20の前面よりも筐体10の開口部10aに向かって突き出た形状を有し、長手方向の途中位置に超音波素子20を位置決め固定するようになっている。
供給管30は、素子ホルダ22と同様に、超音波素子20の前面よりも筐体10の開口部10aに向かって延びている。
【0054】
フィルム60は、音響透過率に優れる樹脂材料、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)やポリカーボネートなどの樹脂により形成され、薄膜強度が保てる範囲で薄く作製したものが用いられる。望ましくは、音波の波長に対して、フィルム60の厚みが十分に薄い(例えば、1/10程度もしくはそれ以下である)ことが望ましい。
【0055】
また、フィルム60は、円環形状を有し、素子ホルダ22の先端部に供給管30の吐出口30aの周囲を取り巻くように配置されている。これにより、素子ホルダ22と超音波素子20とフィルム60とによって供給管30の周囲に密閉された空間である超音波素子側領域62Bが形成されるようになっている。また、超音波素子側領域62Bの外側に、筐体10と開口部10aから内部に露出される脂肪組織Aの表面とにより覆われて、供給管30の吐出口30aが開口する開口部側領域62Aが形成されるようになっている。
超音波素子側領域62Bに予め充満されている伝搬媒質としては、超音波素子20と音響整合条件を満たす材料や吸収係数が小さい液体、例えば、水などを用いることができる。
【0056】
このように構成された本実施径他に係る脂肪除去装置200によれば、筐体10の開口部10aが近接させられる脂肪組織Aの表面に対して、筐体10と共にフィルム60により超音波素子20を二重に絶縁し、電気安全性を向上することができる。また、供給管30により供給される伝播部材Wが貯留される筐体10内の空間を、脂肪組織Aの表面から超音波素子20までの領域全体とする場合と比較して、超音波素子側領域62Bの分だけ狭くすることができる。これにより、供給管30により供給される伝播部材Wに含まれる気泡核の浮遊時間を低減し、キャビテーションの発生効率を向上することができる。また、伝播部材を環流させ易くし、臓器等から剥離された脂肪組織Aをより効率的に除去することができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本発明を上記の各実施形態および変形例に適用したものに限定されることなく、これらの実施形態および変形例を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定されるものではない。また、例えば、上記各実施形態においては、超音波素子20が中心周波数1MHzの超音波を照射するとして説明したが、超音波素子20の中心周波数は、例えば、数十kHz〜数MHz程度であればよく、上記実施形態の数値に限定されるものではない。キャビテーションの効果をより高めたい場合は数十kHz程度の低めの周波数にし、音響流の効果をより高めたい場合は高めの周波数にすればよい。
【0058】
さらに、複数の周波数の超音波を組み合わせて照射してもよい。例えば、1MHzの超音波と1.5MHzの超音波を同時に照射し、その差音500kHzと和音2.5MHzが焦点で効果的に発生することを利用し、差音成分によるキャビテーション発生の促進と、和音による音響流発生の促進を利用してもよい。複数の周波数の組み合わせは、注入する液体(伝播部材)に含まれる気泡核の大きさ、すなわち、その気泡核の共振周波数に合わせて設定してもよい。
【0059】
(付記項1)
筐体の開口部を脂肪組織の表面に押し付ける押付工程と、該押付工程により前記開口部から前記筐体内に露出される脂肪組織の表面と超音波素子との間の空間に、流動性を有し超音波を伝播する伝播部材を充満させる供給工程と、前記伝播部材が充満された空間内に露出させられた脂肪組織の表面に対して、前記超音波素子により集束させた超音波を照射する照射工程とを含む脂肪除去方法。
【0060】
(付記項2)
前記押付工程により押し付けられた脂肪組織を覆う心外膜を穿刺針を穿刺して突き破る穿刺工程を含む付記項1に記載の脂肪除去方法。
【0061】
(付記項3)
前記照射工程により照射された超音波の発熱により融解させられた脂肪組織を吸引して排出する吸引工程とを含む付記項1または付記項2に記載の脂肪除去方法。
【符号の説明】
【0062】
A 脂肪組織
10 筐体
10a 開口部
12 貯留空間
14 吸引経路
20 超音波素子
20a 貫通孔
22 フィルム(区画部材)
30 供給管
30a 吐出口
32 穿刺針
32a 尖端部
40 筒部材
40a 開口孔
42 吸引管
50 押引機構
56 距離算出部
58 制御部
62A 開口部側領域
62B 超音波素子側領域
100,200 脂肪除去装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪組織に押し付けられる開口部を有する略筒状の筐体と、
該筐体に収容され、前記開口部が押し付けられることにより前記筐体の内部に露出される脂肪組織の表面に、集束させた超音波を照射する超音波素子と、
流動性を有し超音波を伝播する伝播部材を前記筐体内に供給する供給管とを備え、
前記筐体が、前記開口部から内部に露出される脂肪組織の表面と前記超音波素子との間に、前記供給管により供給される前記伝播部材を充満させる貯留空間を有する脂肪除去装置。
【請求項2】
脂肪組織に押し付けられる開口部を有する略筒状の筐体と、
該筐体に収容され、前記開口部が押し付けられることにより前記筐体の内部に露出される脂肪組織の表面に、集束させた超音波を照射する超音波素子と、
前記筐体内に流動性を有する伝播部材を供給する供給管とを備え、
前記筐体が、前記供給管により供給される伝播部材が充満される開口部側領域と予め伝播部材が充満されている超音波素子側領域とに区画する音響透過特性を有する区画部材を備える脂肪除去装置。
【請求項3】
前記筐体が、前記貯留空間に貯留されている前記伝播部材を吸引して排出可能な吸引経路を有する請求項1または請求項2に記載の脂肪除去装置。
【請求項4】
前記供給管が、前記貯留空間内に前記伝播部材を吐出させる細径の吐出口を有する請求項1または請求項3に記載の脂肪除去装置。
【請求項5】
前記供給管が、鋭利な形状の尖端部を有する穿刺針を挿脱可能に形成されている請求項1から請求項4のいずれかに記載の脂肪除去装置。
【請求項6】
前記開口部が、前記筐体の中心線に対してその開口面が傾斜して配置されている請求項1から請求項5のいずれかに記載の脂肪除去装置。
【請求項7】
前記開口部を露出させて前記筐体を覆う筒部材を備え、
該筒部材が、前記筐体との間に配置された吸引管と、脂肪組織の表面に前記開口部を押し付けた状態で該脂肪組織の表面に吸着可能な開口孔とを備える請求項1から請求項6のいずれかに記載の脂肪除去装置。
【請求項8】
前記開口部に対して近接または離間する方向に前記超音波素子を進退可能な押引機構を備える請求項1から請求項7のいずれかに記載の脂肪除去装置。
【請求項9】
前記開口部から前記筐体内に露出される脂肪組織の表面と前記超音波素子との距離を算出する距離算出部と、
該距離算出部により算出された距離に応じて前記押引機構を制御する制御部とを備える請求項1から請求項8のいずれかに記載の脂肪除去装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−90809(P2013−90809A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234840(P2011−234840)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】