脂質含有率測定方法及び装置
【課題】 食品等の被測定物に含まれる脂質含有率の測定精度を向上することができる脂質含有率測定方法及び装置を提供する。
【解決手段】 マイクロ波の周波数を有する電磁波を試料(被測定物)に照射し、その反射波を検出し、この検出電磁波の照射電磁波に対する反射係数の振幅及び位相を測定するステップS1と、測定される反射係数の振幅及び位相に基づいて反射係数の実数部及び虚数部を算出するステップS2と、算出される反射係数の実数部及び虚数部に基づいて試料の比誘電率を求めるステップS3と、求められる比誘電率に基づいて試料に含まれる脂質の含有率を求めるステップS4とを有する。
【解決手段】 マイクロ波の周波数を有する電磁波を試料(被測定物)に照射し、その反射波を検出し、この検出電磁波の照射電磁波に対する反射係数の振幅及び位相を測定するステップS1と、測定される反射係数の振幅及び位相に基づいて反射係数の実数部及び虚数部を算出するステップS2と、算出される反射係数の実数部及び虚数部に基づいて試料の比誘電率を求めるステップS3と、求められる比誘電率に基づいて試料に含まれる脂質の含有率を求めるステップS4とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等に含まれる脂質含有率を測定するための脂質含有率測定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、糖尿病や脳卒中などに代表される生活習慣病が深刻化している。この生活習慣病を食生活の観点からみると、その背景には食生活の欧米化による栄養過剰、特に脂質の過剰摂取が存在する。厚生労働省の報告によると、1946年には国民の総摂取カロリーが1903kcal(脂質は16g/day)であったのに対し、2002年の総摂取カロリーは1930kcal(脂質は54.4 g/day)と、摂取カロリーはあまり変わっていないものの、脂質の摂取量は大幅に増加していることがわかる。
【0003】
近年ではデジタルカメラやデジタルカメラ付き携帯電話のような視覚媒体を用いた食事内容の遠隔栄養管理システムが注目されているが、明確な栄養量判断は難しく精度が低いといわれている。特に食品中の脂質含有率を正確に把握することは難しく、容易に測定できる機器の開発が望まれている。
【0004】
特許文献1には、食品に含まれる水分及び塩分の濃度を測定するための技術が開示されているが、脂質については一切考慮されていない。
【0005】
また、特許文献2には、食品等に含まれている水分の含有率を測定するための技術が開示されているが、脂質については一切考慮されていない。
【特許文献1】特開平8−105845号公報
【特許文献2】特開平6−129999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように従来、食品等に含まれる水分及び塩分を測定するための技術は存在するが、脂質含有率を正確に測定するための技術は見当たらない。
【0007】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、食品等の被測定物に含まれる脂質含有率の測定精度を向上することができる脂質含有率測定方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の脂質含有率測定方法は、マイクロ波の周波数を有する電磁波を被測定物に照射し、その反射波または透過波を検出し、この検出電磁波の前記照射電磁波に対する反射係数または透過係数の振幅及び位相を測定する第1のステップと、前記第1のステップにより測定される前記反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求める第2のステップと、前記第2のステップにより求められる前記比誘電率及び/又は誘電正接に基づいて前記被測定物に含まれる脂質の含有率を求める第3のステップとを有する。
【0009】
この方法によれば、測定される反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求め、その比誘電率及び/又は誘電正接に基づいて被測定物に含まれる脂質の含有率を求めることにより、脂質含有率の測定精度を向上でき、正確な測定が可能になる。
【0010】
また、前記第2のステップは、前記第1のステップにより測定される前記反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部を算出する第4のステップと、前記第4のステップにより算出される前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部に基づいて、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求める第5のステップとを有するようにしてもよい。
【0011】
この場合、前記第5のステップは、前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部の一方を縦軸とし他方を横軸とする複素平面に、前記実数部及び虚数部に対して理論的に算出された比誘電率及び/又は誘電正接の目盛りが記入されている予め準備されたチャートを用いて、前記第4のステップにより算出される前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部に対応する前記比誘電率及び/又は誘電正接の目盛りを読み取ることにより、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求めるようにしてもよい。
【0012】
このように、予め準備されたチャートを用いることで、被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を容易に求めることができる。
【0013】
また、前記第1のステップにおいて、前記反射係数の振幅及び位相を測定する際は、前記被測定物の背面に反射板を配置して前記電磁波を前記被測定物の前面に照射するようにしてもよい。
【0014】
また、前記電磁波は、周波数が8GHz以上で、12GHz以下のマイクロ波の周波数を有するものとしてもよい。
【0015】
また、前記被測定物が食品であるとしてもよい。
【0016】
また、前記被測定物の形状が板状であることが好ましい。
【0017】
本発明の脂質含有率測定装置は、被測定物に電磁波を照射するための発信用アンテナと、前記被測定物から反射される反射波または前記被測定物を透過した透過波を検出するための受信用アンテナと、前記発信用アンテナから照射された電磁波に対する前記受信用アンテナにより検出される検出電磁波の比を示す反射係数または透過係数の振幅及び位相を測定する測定部と、前記測定部により測定される前記反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求める第1の処理と、前記第1の処理により求められる前記比誘電率及び/又は誘電正接に基づいて前記被測定物に含まれる脂質の含有率を求める第2の処理とを行う脂質含有率算出部とを備えている。
【0018】
この構成によれば、測定部で測定される反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて、脂質含有率算出部において被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接が求められ、その比誘電率及び/又は誘電正接に基づいて被測定物に含まれる脂質の含有率を求められることにより、脂質含有率の測定精度を向上でき、正確な測定が可能になる。
【0019】
また、前記脂質含有率算出部は、前記第1の処理が、前記測定部により測定される前記反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部を算出する第3の処理と、前記第3処理により算出される前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部に基づいて、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求める第4の処理とを有するように構成されてあってもよい。
【0020】
この場合、前記脂質含有率算出部は、前記第4の処理が、前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部の一方を縦軸とし他方を横軸とする複素平面に、前記実数部及び虚数部に対して理論的に算出された比誘電率及び/又は誘電正接の目盛りが記入されている予め準備されたチャートを用いて、前記第3処理により算出される前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部に対応する前記比誘電率及び/又は誘電正接の目盛りを読み取ることにより、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求めるように構成されてあってもよい。
【0021】
このように、脂質含有率算出部において、予め準備されたチャートを用いることで、被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求めるための演算処理が容易になる。ここで、チャートはデータとして予め脂質含有率算出部に記憶されてあればよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、以上に説明した構成を有し、食品等の被測定物に含まれる脂質含有率の測定精度を向上することができる脂質含有率測定方法及び装置を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(発明に至る経緯)
本発明者は、食品中の脂質含有率を測定するため、まず、人体内の脂肪測定に用いられるインピーダンス法の応用を考えたが、インピーダンス法では、被測定物に微弱な定電流を流したときの電圧を測定し、オームの法則によってインピーダンスを求めるため、被測定物の脂質含有率が高くなると、定電流を流すための電圧を大きくしなければならないなど、広範囲の脂質含有率の測定の実現が困難であると予想した。
【0024】
そこで、本発明者は、マイクロ波(波長が数10cm以下の電波)が脂質のような高抵抗の物質中では、導電性の高い水など低抵抗の物質に比べて透過性が高いという、インピーダンス法とは逆ともいえる特徴を生かすことにより、マイクロ波を用いて広範囲にわたる脂質含有率の測定を容易に行えるのではないかと考え、検討を行った。
【0025】
−第1の検討内容−
まず、マイクロ波を用いて脂質含有率の測定が可能であるか否かについて検証した。ここでは、被測定物にマイクロ波を照射したときの被測定物の脂質含有率に対するマイクロ波の反射特性について考察した。
【0026】
物質にマイクロ波を照射したときの、物質に含まれる脂質の含有率(体積割合)に対する反射波の特性を調べるため、反射係数(照射したマイクロ波(入射波)に対して反射してきたマイクロ波(反射波)の比を表す値)を理論的に導いた。ここで、測定対象とする試料(被測定物)の形状を薄い板状とし、試料の後方が無限長線路の状態と、試料の背面が短絡の状態との2つの状態の場合について検討した。
【0027】
〔1.試料の後方が無限長線路の状態の場合〕
試料の後方に電波吸収体を置き、前方から入射され試料を透過したマイクロ波が吸収体で吸収されて反射しない場合(試料の後方が無限長線路の状態の場合;マイクロ波の伝搬する経路が吸収体により無限遠に拡がっている状態の場合)について検討する。この場合のマイクロ波の伝搬状態を図1に示す。
【0028】
試料の後方が無限長線路の状態の場合、図1のように、入射領域(アンテナから試料までの領域(空気))を領域1、試料内部領域(試料の厚みをd[m]とする)を領域2、試料後方領域(図1では試料を透過したマイクロ波が進む領域(空気))を領域3とし、アンテナから照射されるマイクロ波の進行方向をz軸にとり、図1の紙面に垂直な方向をy軸にとり、z軸及びy軸に垂直な方向をx軸にとる。
【0029】
領域1の左方と領域3の右方は無限に拡がっているとすると、領域1には、アンテナから試料に向かって進む入射波と試料からの反射波が存在し、領域2にはz軸の正の方向へ伝搬するマイクロ波とz軸の負の方向へ伝搬するマイクロ波が存在し、領域3には透過波のみが存在する。いま、伝搬するマイクロ波を平面波と仮定すれば、各領域の電界、磁界は以下のように表される。
【0030】
まず、領域1について説明する。領域1を伝搬する入射波の電界E1i及び磁界H1iは、(数1)の式(1a)、(1b)により表され、反射波の電界E1r及び磁界H1rは式(2a)、(2b)により表される。
【0031】
【数1】
【0032】
ここで、ωは角周波数、ε0は真空の誘電率、μ0は真空の透磁率であり、k0及びη0は(数1)の式(3)、(4)で表される。また、ix、iyはそれぞれx方向、y方向の単位ベクトルである。
【0033】
次に、領域2について説明する。領域2(試料内部領域)において試料の比誘電率をεr、誘電正接をtanδとすると、z軸の正の方向に伝搬する波の電界E2i及び磁界H2iは、(数2)の式(5a)、(5b)により表され、z軸の負の方向に伝搬する波の電界E2r及び磁界H2r は式(6a)、(6b)により表される。
【0034】
【数2】
【0035】
ここで、γは伝搬定数、ηは特性インピーダンスであり、γ及びηは(数2)の式(7)、(8)で表される。
【0036】
次に、領域3について説明する。領域3では、試料を透過したz軸の正の方向に伝搬する透過波のみが存在し、この透過波の電界E3i及び磁界H3iは、(数3)の式(9a)、(9b)により表される。
【0037】
【数3】
【0038】
次に、領域1と領域2の境界(Z=0)において、電界、磁界の境界条件より、式(1a)、(2a)、(5a)、(6a)から(数4)の式(10a)が得られ、式(1b)、(2b)、(5b)、(6b)から式(10b)が得られる。
【0039】
【数4】
【0040】
同様に、領域2と領域3の境界(Z=d)において、式(5a)、(6a)、(9a)より(数5)の式(11a)が得られ、式(5b)、(6b)、(9b)より式(11b)が得られる。
【0041】
【数5】
【0042】
上記の式(10a)、(10b)、(11a)、(11b)を解くと、試料の後方が無限長線路の状態の場合における反射係数Γ1(=E1r/E1i)は、(数6)の式(12a)となり、Γ=|Γ|ejargΓとすると、反射係数の絶対値である反射係数の振幅(以下、「反射振幅」という)|Γ1|及び反射係数の位相(以下、「反射位相」という)argΓ1の式(12b)、(12c)が得られる。
【0043】
【数6】
【0044】
ここで、式(12b)、(12c)中のA、α、a(αに含まれるa)、Φは、それぞれ(数7)の式(13)〜(16)に示すとおりである。
【0045】
【数7】
【0046】
〔2.試料の背面が短絡の状態の場合〕
試料の後ろに金属板を置き、試料を透過したマイクロ波が金属板によって完全反射する場合(短絡の状態の場合;マイクロ波の伝搬する経路が金属板で短絡されている状態の場合)について検討する。この場合のマイクロ波の伝搬状態を図2に示す。図2において、領域1,2,3及びx、y、z軸等は、図1の場合と同様である。
【0047】
試料の背面が短絡の状態の場合、図2のように、領域2と領域3の境界に置いた金属板により領域2からz軸の正方向に伝搬する波が完全反射するため、領域3へ波は伝搬しない。また、領域1、領域2に伝搬する波の電界及び磁界は、試料の後方が無限長線路の状態の場合と同様に式(1a)、(1b)、(2a)、(2b)、(5a)、(5b)、(6a)、(6b)により表され、領域1と領域2の境界(Z=0)において、電界、磁界の境界条件より式(10a)、(10b)が得られる。また、領域2と領域3の境界(Z=d)において、電界の境界条件より式(5a)、(6a)から(数8)の式(17)が得られる。
【0048】
【数8】
【0049】
前述の式(10a)、(10b)、(17)を解くと、試料の背面が短絡の状態における反射係数Γ2(=E1r/E1i)は、(数9)の式(18a)となり、Γ=|Γ|ejargΓとすると、反射振幅|Γ2|及び反射位相argΓ2の式(18b)、(18c)が得られる。
【0050】
【数9】
【0051】
ただし、式(18b)、(18c)中のξ、ψ、ζについては、(数10)の式(19a)、(19b)、(19c)に示されるとおりである。
【0052】
【数10】
【0053】
次に、試料に含まれる脂質の体積割合に対する反射振幅を、無限長線路状態の場合と短絡状態の場合とについて、それぞれシミュレーションで求めるとともに、実験により求めた。
【0054】
ここで、シミュレーションでは、試料を脂質と赤身肉の混合物とし、試料の厚み(d)は2mmとした。また、照射するマイクロ波の周波数を10GHzとした。また、試料の比誘電率εr及び誘電正接tanδは、それぞれ、(数11)の式(20)、(21)で示されるものとした。
【0055】
【数11】
【0056】
ここで、Pfatは試料中の脂質の体積割合(%)を示す。なお、εrfatは脂質の比誘電率であり、εrmは赤身肉の比誘電率であり、tanδfatは脂質の誘電正接であり、tanδmは赤身肉の誘電正接である。これらのεrfat、εrm、tanδfat、tanδmには、「An Internet resource for the calculation of the Dielectric Properties of Body Tissues (ITALIAN NATIONAL RESERCH COUNCIL) 」で計算された人体の脂肪と筋肉の比誘電率、誘電正接の値を、それぞれ脂質と赤身肉の比誘電率、誘電正接の値として用いた。この場合、εrfat=4.602、εrm=42.76、tanδfat=0.2286、tanδm=0.4467である。また、真空の誘電率ε0は8.854×10-12(F/m)、真空の透磁率μ0は1.257×10-6(H/m)である。
【0057】
以上のシミュレーションの条件は、無限長線路状態の場合と短絡状態の場合も同じである。無限長線路状態の場合のシミュレーションでは、反射振幅の式(12b)を用いて、試料に含まれる脂質の体積割合に対する反射振幅(|Γ1|)を求めた。このシミュレーション結果を図3(a)に示す。また、短絡状態の場合のシミュレーションでは、反射振幅の式(12b)を用いて、試料に含まれる脂質の体積割合に対する反射振幅(|Γ2|)を求めた。このシミュレーション結果を図4(a)に示す。
【0058】
次に、実験では、脂質としてラードを、赤身肉として比較的扱いやすく食肉の中でも特に脂質の少ない鶏ささみ肉を使用し、試料全体に対する脂質の体積割合が0、10、20、40、60、80、100%で、それぞれ厚み(d)が2mmの試料を作成した。具体的には、上記のそれぞれの体積割合となるように、ラードと赤身肉をフードプロセッサーで均一に混ぜた後、エチレンのビニールにはさみ、厚さが2mmで均一になるように、厚さ2mmの枠を使って上方からめん棒で平らにして試料を作成した。
【0059】
実験装置の概略構成を図5に示す。この実験装置では、マイクロ波発振器21から出力されるマイクロ波は、ネットワーアナライザである測定装置22を介して発信及び受信兼用のアンテナ23から試料台24上の試料Sに照射される。そして、試料Sからの反射波がアンテナ23を介して測定装置22に入力され、この測定装置22では、反射振幅及び反射位相を測定値として出力表示可能である。具体的には、マイクロ波発振器21には、hp(ヒューレット・パッカード)社のSYNTHESIZED SWEEPER (HP83630A)を用い、測定装置22には、hp社のHP8510B ベクトルネットワークアナライザを用い、アンテナ23には、SPC electronics社の WR-90 Xバンド用ホーンアンテナ(TYPE 14T007)を用いた。
【0060】
無限長線路状態の場合の実験は、試料台24の上にマイクロ波吸収体を敷き、その上に、発砲スチロールを置き、その上に試料Sを載せて行った。また、短絡状態の場合の実験は、試料台24の上に発砲スチロールを置き、その上に金属板を置き、さらにその上に試料Sを載せて行った。いずれの場合の実験も、試料Sから80mm上方の位置にアンテナ23の開口面が水平になるように設置し、10GHzのマイクロ波を照射して、測定装置22にて反射振幅を測定した。この測定は、脂質の体積割合が0、10、20、40、60、80、100%の各試料を2個ずつ作成しておき、2回ずつ行った。無限長線路状態の場合の実験結果を図3(b)に示し、短絡状態の場合の実験結果を図4(b)に示す。
【0061】
図3(a)及び図3(b)に示されるように、シミュレーション及び実験のいずれの場合も、無限長線路状態の場合、反射振幅は、脂質含有率(脂質の体積割合)の増加とともに上昇し、最大となった後、脂質含有率の増加とともに低下するという結果が示された。また、図4(a)及び図4(b)に示されるように、シミュレーション及び実験のいずれの場合も、短絡状態の場合、反射振幅は、脂質含有率の増加とともに指数関数的に低下し、最小となった後、脂質含有率の増加とともに上昇するという結果が示された。
【0062】
以上より、シミュレーション結果(理論値)と実験結果とにおいて定性的に良い一致が見られ、理論的検討の妥当性が示された。なお、無限長線路状態の場合に反射振幅が最大値を示す脂質含有率、及び短絡状態の場合に反射振幅の最小値を示す脂質含有率が異なったのは、シミュレーションと実験で用いた脂質及び赤身肉のそれぞれの比誘電率及び誘電正接の値に誤差があったことが原因と考えられる。また、シミュレーション結果に比べて実験結果が全体的に低い値を示しているのは、シミュレーションでは反射した波をすべて測定できていることになっているが、実験では試料中においてマイクロ波の散乱などが生じ、反射した波をすべて測定できていないことが原因と考えられる。
【0063】
一方、無限長線路状態の場合及び短絡状態の場合のいずれも、1つの反射振幅に対して脂質含有率が1つに決まらないため、反射振幅のみから脂質含有率を求めることは困難であると考えられる。
【0064】
また、試料後方が無限長線路の状態における反射振幅よりも試料背面が短絡状態での反射振幅の方が、脂質の体積割合に対する変化が大きいため、脂質の含有率測定には試料背面が短絡状態での反射振幅を用いる方が適していると考えられる。
【0065】
そこで、次に、試料背面を短絡状態とした場合において、反射振幅に加えて反射位相の値も用い、反射振幅と反射位相とから脂質含有率を導出する方法について検討した。
【0066】
−第2の検討内容−
試料の背面が短絡された状態における反射振幅及び位相の測定値から脂質含有率を求める方法として、反射係数から比誘電率εr、誘電正接tanδを導出し、これらの値から脂質の体積割合を求める方法を検討した。反射係数の式に基づいて、反射振幅及び位相の測定値から比誘電率εr、誘電正接tanδを導出するようにしてもよいが、この場合、演算が複雑になる。そこで、反射係数の実数部と虚数部を軸にとった反射複素平面チャートを作成し、これを用いて試料の反射係数(反射振幅及び位相の測定値)から比誘電率εr、誘電正接tanδを導出することとした。
【0067】
試料背面が短絡の状態における反射係数Γ2は(数12)の式(22)で表される。
【0068】
【数12】
【0069】
この式(22)を用いて、比誘電率εrを1、10、20、・・・、80に固定して誘電正接tanδを0〜1.0まで変化させた場合と、誘電正接tanδを0、0.05、0.1、・・・、1.0に固定して比誘電率εrを1〜80まで変化させた場合とについて、試料の厚みが1mm、 2mm、 4mmのそれぞれの場合についてシミュレーションを行い、複素反射係数の実数部を横軸にとり、虚数部を縦軸にとった複素平面上にプロットして複素平面チャートを作成した。なお、理論上、tanδは∞まで存在するが、今回測定の対象とする測定物は高損失の物でないことから、tanδ>1のグラフは省略した。
【0070】
シミュレーションの結果、試料厚みが1mm、2mmの場合には1≦εr≦80、0≦tanδ≦1の範囲内でεr、tanδの曲線同士が交わることなく比較的きれいなグラフとなり、4mmでは1≦εr≦80の範囲内で曲線が交わっているグラフとなった。図6に、シミュレーションを行うことにより作成された試料の厚みが2mmの場合の反射複素平面チャートを示す。
【0071】
このことから、試料の厚みを薄くして測定した反射振幅、反射位相を、(数13)の式(23)、(24)によって反射係数の実数部(ReΓ)、虚数部(ImΓ)に変換し、短絡状態における反射複素平面チャート上にプロットすれば、比誘電率εr及び誘電正接tanδを読み取ることが可能である。また、試料の厚みが薄いほど高い比誘電率において変化幅が大きく、試料の厚みが厚いほど低い比誘電率において変化幅が大きいことが示された結果となった。
【0072】
【数13】
【0073】
ただし、作成した反射複素平面チャートは測定が理想的に行えた場合の(純理論的な)シミュレーション結果によるものであるため、測定値をこのチャートにプロットする場合には、測定値を測定が理想的に行えた場合の値に補正する必要がある。
【0074】
次に、理論的検討の妥当性をみるため実験を行った。この実験では、アンテナから80mmの位置を基準として金属板を置き(試料の背面が短絡の状態)、試料のない状態で反射振幅及び反射位相を測定した後、金属板の上に脂質の体積割合が0、10、20、40、60、80、100%の厚み2mmの試料を載せて反射振幅及び反射位相を測定し、測定結果から反射複素平面チャートを用いて比誘電率εr及び誘電正接tanδを求めた。
【0075】
今回の実験では、先の実験と同様、脂質としてラードを、赤身肉として比較的扱いやすく食肉の中でも特に脂質の少ない鶏ささみ肉を使用し、試料全体に対する脂質の体積割合が0、10、20、40、60、80、100%で、それぞれ厚み(d)が2mmの試料を作成した。
【0076】
実験装置は、先の実験と同じ実験装置(図5)を用いた。
【0077】
まず、試料台24の上に金属板を置き、金属板の表面から80mm上方の位置にアンテナ23の開口面が水平になるようにアンテナ23を設置し、試料のない状態で、10GHzのマイクロ波を照射して、測定装置22にて反射振幅及び反射位相を測定した。次に、試料を金属板の上に置き、10GHzのマイクロ波を照射して、測定装置22にて反射振幅及び反射位相を測定した。この測定は、脂質の体積割合が0、10、20、40、60、80、100%の各試料を3個ずつ作成しておき、3回ずつ行った。
【0078】
ここで、理想的な測定が行えた場合の反射係数をΓ(振幅|Γ|、位相argΓ)、試料表面(基準面)に金属板を置いたときの反射係数をΓair(振幅|Γair|、位相argΓair)、実際の測定値をΓm(振幅|Γm|、位相argΓm)とすると、理想的な測定が行えた場合、全反射では反射係数の絶対値の2乗は|Γ|2=1であるが、実際に試料表面に金属板を置いて測定した場合にアンテナが受信する反射係数Γairの絶対値の2乗は1未満(|Γair|2<1)となる。従って、実測値Γmの絶対値の2乗|Γm|2は、測定が理想的に行えた場合の反射電力(真の反射電力すなわち反射係数Γの絶対値の2乗|Γ|2)の|Γair|2倍となり、(数14)の式(25)で表される。この式(25)より式(26)が求まる。
【0079】
【数14】
【0080】
また、完全反射の場合、反射面(今回の実験において金属板)では位相はπである。したがって、この面を基準面としたときの基準面における位相argΓは(数15)の式(27)となる。
【0081】
【数15】
【0082】
今回の実験で測定した反射振幅を式(26)で補正した結果、図7の実験値1,2,3で示される値となり、多少の誤差は見られたが理論値との定量的な一致が見られた。
【0083】
また、反射位相について、理論的検討では試料の上表面を基準としているが、実験では便宜性を考えて試料の下の表面(アンテナから80mmの位置)を基準としたため、試料の厚み(dmm)分の補正を付け加える必要がある。従って、式(27)は(数16)の式(28)となる。ここで、λはマイクロ波の波長である。
【0084】
【数16】
今回の実験において試料の厚みは2mmなので、式(28)のdに2(mm)を代入して測定した反射位相の補正を行った結果、図8の実験値1,2,3で示される値となり、理論値との定量的な一致が見られた。
【0085】
次に、補正した反射振幅及び反射位相を用いて式(23)、(24)に基づき反射係数の実数部及び虚数部を算出し、反射複素平面チャートにプロットした。これを図9に示す。図9において、例えば「fat100%」の文字の近傍にプロットされている実験値1,2,3が脂質の体積割合が100%の場合の実験値を示す。他の実験値についても同様である。
【0086】
この反射複素平面チャートにプロットされている実験値1,2,3の各位置から比誘電率εr及び誘電正接tanδの値を読み取り、それぞれを脂質の体積割合に対してプロットした結果、図10の脂質の体積割合に対する比誘電率を示すグラフ、及び図11の脂質の体積割合に対する誘電正接を示すグラフが得られた。また、図10、図11には実験結果とともに、先の(数11)の式(20)、(21)で示したεr、tanδの脂質の体積割合に対する理論値も示した。
【0087】
理論値と実験結果とにおいて、図10のように、比誘電率については、脂質の体積割合が20%〜100%で定量的によく一致する結果となったが、20%未満において0%に近づくほど実験値と理論値との差が大きくなる結果となった。また、図11のように、誘電正接についても、誤差はあるものの定量的な一致がみられた。
【0088】
比誘電率、誘電正接ともに、理論値と実験結果に定量的な一致が見られるが、理論値と実験結果における誤差の要因としては、(1)試料作成時に脂質の割合が正確でなかったこと、(2)シミュレーションと実験において用いた脂質と赤身肉の比誘電率及び誘電正接に誤差があったこと、が考えられる。また、比誘電率は脂質の体積割合が少なくなるほど大きくなるが、試料の比誘電率が大きくなるほど空気との境界面において、誘電率の差が大きくなるため表面での反射が主要となる。このため、試料の表面位置の誤差は脂質割合が少ないほど大きく影響することが、脂質割合20%未満において理論値との誤差が大きくなった要因と考えられる。誘電正接については、脂質割合の変化に対する変化幅が小さいため誤差の影響が大きくなる。従って、比誘電率、誘電正接の測定精度をより向上させるためには、上記(1)、(2)に示した原因や、試料の厚み、アンテナの位置などに誤差がなく再現性の高い方法で測定すればよい。
【0089】
なお、この「第2の検討内容」において行われたシミュレーションでは、特に記載されなかった条件については、先の「第1の検討内容」において行われたシミュレーションと同じ条件を用いた。
【0090】
以上では、マイクロ波を発信及び受信するアンテナから一定の距離に板状の試料を設置し、試料背面に金属板をあてて短絡状態とした系において、試料の比誘電率、誘電正接が変化した場合の反射係数の変動を反射複素平面チャートとして理論的に導き、このチャートを用いて測定された反射係数から被測定物の比誘電率及び誘電正接を求める方法を導出し、さらにこの方法の妥当性を確認するため実験を行った結果、理論値と実験値が定量的な一致を示した。この反射複素平面チャートを用いた方法は、比誘電率と誘電正接を同時に測定・解析できる簡便な方法として有用である。よって、脂質と脂質以外の成分からなる混合物において各成分単体での比誘電率、誘電正接が既知であれば、この反射複素平面チャートを用いた方法によって混合物の反射係数から脂質の体積割合を求めることが可能である。
【0091】
(実施の形態)
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0092】
図12は、本発明の実施の形態における脂質含有率測定方法を示すフローチャートである。
【0093】
まず、ステップS1では、マイクロ波(マイクロ波の周波数を有する電磁波)を試料(被測定物)に照射し、その反射波を検出し、反射係数の振幅及び位相を測定する。この場合、試料背面に金属板(反射板)をおいて短絡状態にして測定することが好ましい。また、試料は、厚みが所定値(例えば、1mm以上4mm未満の所定値)の薄い板状の形状にしておくことが好ましい。照射するマイクロ波の周波数は、例えば、8〜12GHz程度である。
【0094】
次に、ステップS2では、ステップS1により測定される反射係数の振幅及び位相に基づいて反射係数の実数部及び虚数部を算出する。この算出方法については、前述の「第2の検討内容」において説明した通りである。
【0095】
次に、ステップS3では、ステップS2により算出される反射係数の実数部及び虚数部に基づいて、試料の比誘電率を求める。ここでは、反射係数の実数部及び虚数部から演算により比誘電率を求めるようにしてもよい。あるいは、予め図6に示すような反射複素平面チャートを作成しておき、その反射複素平面チャートに、ステップS2により算出され反射係数の実数部及び虚数部をプロットした位置の、比誘電率の目盛りをよみとることにより、比誘電率の値を求めてもよい。この場合、反射複素平面チャートには比誘電率の目盛りが記載されてあればよく、誘電正接の目盛りは無くてもよい。
【0096】
次に、ステップS4では、ステップS3により求められた比誘電率に基づいて試料に含まれる脂質の体積割合(脂質含有率)を求める。ここでは、例えば図10の理論値を算出する場合と同様、先の(数11)の式(20)を用いて脂質の体積割合を求めればよい。
【0097】
なお、試料の誘電正接の測定誤差を小さくできる場合には、ステップS3において、比誘電率に代えて、誘電正接を求めるようにし、ステップS4において誘電正接に基づいて脂質の体積割合を求めるようにしてもよい。あるいは、ステップS3において、比誘電率と誘電正接を求めるようにし、ステップS4において比誘電率と誘電正接とに基づいて脂質の体積割合を求めるようにしてもよい。この場合、比誘電率に基づいて求められる脂質の体積割合と、誘電正接に基づいて求められる脂質の体積割合との平均値を、求めるべき脂質の体積割合とすればよい。いずれにしても、誘電正接を求める場合には、前述の比誘電率を求める場合と同様、反射係数の実数部及び虚数部から演算により求めるようにしてもよいし、予め図6に示すような反射複素平面チャートを作成しておいて、反射係数の実数部及び虚数部をプロットした位置の、誘電正接の目盛りをよみとることにより、誘電正接の値を求めるようにしてもよい。反射複素平面チャートには、比誘電率及び誘電正接のうち求めるべき対象の目盛りが記載されてあればよい。また、誘電正接に基づいて試料に含まれる脂質の体積割合を求める場合には、例えば図11の理論値を算出する場合と同様、先の(数11)の式(21)を用いて脂質の体積割合を求めればよい。
【0098】
なお、反射複素平面チャートを用いない場合には、ステップS2からステップS4まで全て演算により行われ、ステップS1で測定された反射係数の振幅及び位相に基づいて試料の比誘電率及び/又は誘電正接が求められ、続いて脂質の体積割合が求められる。
【0099】
また、以上では、反射係数の振幅及び位相を測定し、その測定値に基づいて試料の比誘電率及び/又は誘電正接を求めるようにしたが、同様にして透過係数(照射したマイクロ波(入射波)に対して試料を通過した透過波の比を表す値)の振幅及び位相を測定し、その測定値に基づいて試料の比誘電率及び/又は誘電正接を求めるようにしてもよい。
【0100】
以上のように、試料(被測定物)にマイクロ波を照射して測定される反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて試料の比誘電率及び/又は誘電正接を求め、その比誘電率及び/又は誘電正接に基づいて試料に含まれる脂質の含有率を求めることにより、脂質含有率の測定精度を向上でき、正確な測定が可能になる。
【0101】
次に、図13は、本発明の実施の形態における脂質含有率測定装置の構成を示すブロック図である。
【0102】
この脂質含有率測定装置は、マイクロ波発生部11、発信用のアンテナ12a、受信用のアンテナ12b、測定部13、脂質含有率算出部14及び表示部15を備えている。マイクロ波発生部11は、所望の周波数のマイクロ波を発生し、発生されたマイクロ波は測定部13を介して発信用アンテナ12aから発信され、試料(図示せず)に照射される。試料からの反射波または試料を通過した透過波は受信用アンテナ12bで検出されて測定部13へ入力される。
【0103】
なお、反射波を検出する場合には、図5の実験装置のように、発信用アンテナ12aと受信用アンテナ12bとを1つのアンテナで兼用した構成とした方がコンパクトになる。また、透過波を検出する場合には、発信用アンテナ12aと受信用アンテナ12bとを対向して配置し、その間に試料を配置して、発信用アンテナ12aから試料へ向けてマイクロ波を発信し、試料を通過した透過波を受信用アンテナ12bで受信するように構成すればよい。
【0104】
測定部13は、ネットワーアナライザの機能を有しており、アンテナ12aから発信される電磁波(マイクロ波)とアンテナ12bで受信される電磁波とに基づいて、反射係数または透過係数の振幅及び位相を求めて測定値とし、その測定値を脂質含有率算出部14へ出力する。
【0105】
脂質含有率算出部14は、マイコン等の演算装置で構成され、例えば前述のステップS2〜S4の処理を行い、それにより求められた脂質の体積割合を表示部15へ出力するようにプログラムされている。したがって、脂質含有率算出部14では、測定部13により測定される反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて、試料の比誘電率及び/又は誘電正接を求める処理が行われ、続いて、求められた比誘電率及び/又は誘電正接に基づいて試料に含まれる脂質の体積割合を求める処理が行われる。ここで、前述の反射複素平面チャートを用いる場合には、反射複素平面チャートのデータを例えばテーブルとして上記演算装置内のメモリに記憶しておき、反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて反射係数または透過係数の実数部及び虚数部を算出し、算出した実数部及び虚数部に対応する誘電率及び/又は誘電正接の目盛りを上記テーブルから読み取ることにより試料の比誘電率及び/又は誘電正接を求めるようにプログラムしておけばよい。
【0106】
表示部15は、例えば液晶ディスプレイ等で構成され、脂質含有率算出部14により求められた脂質の体積割合を表示するようになっている。
【0107】
この構成によれば、試料を所定位置(前述のように反射波を検出して反射係数を測定する場合と透過波を検出して透過係数を測定する場合とで試料とアンテナとの位置関係が異なる)にセットして、例えばスタートボタン(図示せず)を押せば、マイクロ波発生部11で発生されるマイクロ波が測定部13を介して発信用アンテナ12aから発信され、測定部13によって反射係数または透過係数の振幅及び位相が測定され、その測定値に基づいて脂質含有率算出部14では試料に含まれる脂質の含有率(脂質の体積割合)が算出され、その算出された脂質の含有率が表示部15に表示される。したがって、前述の脂質含有率測定方法を自動的に実施することができ、脂質含有率の測定を容易に行うことが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、食品等に含まれる脂質含有率を測定するための脂質含有率測定方法及び装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】試料の後方が無限長線路状態の場合に試料の前方から入射されるマイクロ波の伝搬状態を示す図である。
【図2】試料の背面が短絡状態の場合に試料の前方から入射されるマイクロ波の伝搬状態を示す図である。
【図3】(a)は、シミュレーションにより求められた無限長線路状態の場合の試料に含まれる脂質の体積割合に対する反射振幅を示す図であり、(b)は、実験により求められた無限長線路状態の場合の試料に含まれる脂質の体積割合に対する反射振幅を示す図である。
【図4】(a)は、シミュレーションにより求められた短絡状態の場合の試料に含まれる脂質の体積割合に対する反射振幅を示す図であり、(b)は、実験により求められた短絡状態の場合の試料に含まれる脂質の体積割合に対する反射振幅を示す図である。
【図5】実験装置の構成を示す図である。
【図6】試料の厚みが2mmの場合の反射係数の実数部及び虚数部と試料の比誘電率及び誘電正接との関係を示す反射複素平面チャートである。
【図7】試料に含まれる脂質の体積割合に対する反射振幅(実験値及び理論値)を示す図である。
【図8】試料に含まれる脂質の体積割合に対する反射位相(実験値及び理論値)を示す図である。
【図9】図6の反射複素平面チャートに実験値及び理論値をプロットした図である。
【図10】試料に含まれる脂質の体積割合に対する比誘電率(実験値及び理論値)を示す図である。
【図11】試料に含まれる脂質の体積割合に対する誘電正接(実験値及び理論値)を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態における脂質含有率測定方法を示すフローチャートである。
【図13】本発明の実施の形態における脂質含有率測定装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0110】
11 マイクロ波発生部
12a 発信用のアンテナ
12b 受信用のアンテナ
13 測定部
14 脂質含有率算出部
15 表示部
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等に含まれる脂質含有率を測定するための脂質含有率測定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、糖尿病や脳卒中などに代表される生活習慣病が深刻化している。この生活習慣病を食生活の観点からみると、その背景には食生活の欧米化による栄養過剰、特に脂質の過剰摂取が存在する。厚生労働省の報告によると、1946年には国民の総摂取カロリーが1903kcal(脂質は16g/day)であったのに対し、2002年の総摂取カロリーは1930kcal(脂質は54.4 g/day)と、摂取カロリーはあまり変わっていないものの、脂質の摂取量は大幅に増加していることがわかる。
【0003】
近年ではデジタルカメラやデジタルカメラ付き携帯電話のような視覚媒体を用いた食事内容の遠隔栄養管理システムが注目されているが、明確な栄養量判断は難しく精度が低いといわれている。特に食品中の脂質含有率を正確に把握することは難しく、容易に測定できる機器の開発が望まれている。
【0004】
特許文献1には、食品に含まれる水分及び塩分の濃度を測定するための技術が開示されているが、脂質については一切考慮されていない。
【0005】
また、特許文献2には、食品等に含まれている水分の含有率を測定するための技術が開示されているが、脂質については一切考慮されていない。
【特許文献1】特開平8−105845号公報
【特許文献2】特開平6−129999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように従来、食品等に含まれる水分及び塩分を測定するための技術は存在するが、脂質含有率を正確に測定するための技術は見当たらない。
【0007】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、食品等の被測定物に含まれる脂質含有率の測定精度を向上することができる脂質含有率測定方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の脂質含有率測定方法は、マイクロ波の周波数を有する電磁波を被測定物に照射し、その反射波または透過波を検出し、この検出電磁波の前記照射電磁波に対する反射係数または透過係数の振幅及び位相を測定する第1のステップと、前記第1のステップにより測定される前記反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求める第2のステップと、前記第2のステップにより求められる前記比誘電率及び/又は誘電正接に基づいて前記被測定物に含まれる脂質の含有率を求める第3のステップとを有する。
【0009】
この方法によれば、測定される反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求め、その比誘電率及び/又は誘電正接に基づいて被測定物に含まれる脂質の含有率を求めることにより、脂質含有率の測定精度を向上でき、正確な測定が可能になる。
【0010】
また、前記第2のステップは、前記第1のステップにより測定される前記反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部を算出する第4のステップと、前記第4のステップにより算出される前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部に基づいて、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求める第5のステップとを有するようにしてもよい。
【0011】
この場合、前記第5のステップは、前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部の一方を縦軸とし他方を横軸とする複素平面に、前記実数部及び虚数部に対して理論的に算出された比誘電率及び/又は誘電正接の目盛りが記入されている予め準備されたチャートを用いて、前記第4のステップにより算出される前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部に対応する前記比誘電率及び/又は誘電正接の目盛りを読み取ることにより、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求めるようにしてもよい。
【0012】
このように、予め準備されたチャートを用いることで、被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を容易に求めることができる。
【0013】
また、前記第1のステップにおいて、前記反射係数の振幅及び位相を測定する際は、前記被測定物の背面に反射板を配置して前記電磁波を前記被測定物の前面に照射するようにしてもよい。
【0014】
また、前記電磁波は、周波数が8GHz以上で、12GHz以下のマイクロ波の周波数を有するものとしてもよい。
【0015】
また、前記被測定物が食品であるとしてもよい。
【0016】
また、前記被測定物の形状が板状であることが好ましい。
【0017】
本発明の脂質含有率測定装置は、被測定物に電磁波を照射するための発信用アンテナと、前記被測定物から反射される反射波または前記被測定物を透過した透過波を検出するための受信用アンテナと、前記発信用アンテナから照射された電磁波に対する前記受信用アンテナにより検出される検出電磁波の比を示す反射係数または透過係数の振幅及び位相を測定する測定部と、前記測定部により測定される前記反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求める第1の処理と、前記第1の処理により求められる前記比誘電率及び/又は誘電正接に基づいて前記被測定物に含まれる脂質の含有率を求める第2の処理とを行う脂質含有率算出部とを備えている。
【0018】
この構成によれば、測定部で測定される反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて、脂質含有率算出部において被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接が求められ、その比誘電率及び/又は誘電正接に基づいて被測定物に含まれる脂質の含有率を求められることにより、脂質含有率の測定精度を向上でき、正確な測定が可能になる。
【0019】
また、前記脂質含有率算出部は、前記第1の処理が、前記測定部により測定される前記反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部を算出する第3の処理と、前記第3処理により算出される前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部に基づいて、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求める第4の処理とを有するように構成されてあってもよい。
【0020】
この場合、前記脂質含有率算出部は、前記第4の処理が、前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部の一方を縦軸とし他方を横軸とする複素平面に、前記実数部及び虚数部に対して理論的に算出された比誘電率及び/又は誘電正接の目盛りが記入されている予め準備されたチャートを用いて、前記第3処理により算出される前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部に対応する前記比誘電率及び/又は誘電正接の目盛りを読み取ることにより、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求めるように構成されてあってもよい。
【0021】
このように、脂質含有率算出部において、予め準備されたチャートを用いることで、被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求めるための演算処理が容易になる。ここで、チャートはデータとして予め脂質含有率算出部に記憶されてあればよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、以上に説明した構成を有し、食品等の被測定物に含まれる脂質含有率の測定精度を向上することができる脂質含有率測定方法及び装置を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(発明に至る経緯)
本発明者は、食品中の脂質含有率を測定するため、まず、人体内の脂肪測定に用いられるインピーダンス法の応用を考えたが、インピーダンス法では、被測定物に微弱な定電流を流したときの電圧を測定し、オームの法則によってインピーダンスを求めるため、被測定物の脂質含有率が高くなると、定電流を流すための電圧を大きくしなければならないなど、広範囲の脂質含有率の測定の実現が困難であると予想した。
【0024】
そこで、本発明者は、マイクロ波(波長が数10cm以下の電波)が脂質のような高抵抗の物質中では、導電性の高い水など低抵抗の物質に比べて透過性が高いという、インピーダンス法とは逆ともいえる特徴を生かすことにより、マイクロ波を用いて広範囲にわたる脂質含有率の測定を容易に行えるのではないかと考え、検討を行った。
【0025】
−第1の検討内容−
まず、マイクロ波を用いて脂質含有率の測定が可能であるか否かについて検証した。ここでは、被測定物にマイクロ波を照射したときの被測定物の脂質含有率に対するマイクロ波の反射特性について考察した。
【0026】
物質にマイクロ波を照射したときの、物質に含まれる脂質の含有率(体積割合)に対する反射波の特性を調べるため、反射係数(照射したマイクロ波(入射波)に対して反射してきたマイクロ波(反射波)の比を表す値)を理論的に導いた。ここで、測定対象とする試料(被測定物)の形状を薄い板状とし、試料の後方が無限長線路の状態と、試料の背面が短絡の状態との2つの状態の場合について検討した。
【0027】
〔1.試料の後方が無限長線路の状態の場合〕
試料の後方に電波吸収体を置き、前方から入射され試料を透過したマイクロ波が吸収体で吸収されて反射しない場合(試料の後方が無限長線路の状態の場合;マイクロ波の伝搬する経路が吸収体により無限遠に拡がっている状態の場合)について検討する。この場合のマイクロ波の伝搬状態を図1に示す。
【0028】
試料の後方が無限長線路の状態の場合、図1のように、入射領域(アンテナから試料までの領域(空気))を領域1、試料内部領域(試料の厚みをd[m]とする)を領域2、試料後方領域(図1では試料を透過したマイクロ波が進む領域(空気))を領域3とし、アンテナから照射されるマイクロ波の進行方向をz軸にとり、図1の紙面に垂直な方向をy軸にとり、z軸及びy軸に垂直な方向をx軸にとる。
【0029】
領域1の左方と領域3の右方は無限に拡がっているとすると、領域1には、アンテナから試料に向かって進む入射波と試料からの反射波が存在し、領域2にはz軸の正の方向へ伝搬するマイクロ波とz軸の負の方向へ伝搬するマイクロ波が存在し、領域3には透過波のみが存在する。いま、伝搬するマイクロ波を平面波と仮定すれば、各領域の電界、磁界は以下のように表される。
【0030】
まず、領域1について説明する。領域1を伝搬する入射波の電界E1i及び磁界H1iは、(数1)の式(1a)、(1b)により表され、反射波の電界E1r及び磁界H1rは式(2a)、(2b)により表される。
【0031】
【数1】
【0032】
ここで、ωは角周波数、ε0は真空の誘電率、μ0は真空の透磁率であり、k0及びη0は(数1)の式(3)、(4)で表される。また、ix、iyはそれぞれx方向、y方向の単位ベクトルである。
【0033】
次に、領域2について説明する。領域2(試料内部領域)において試料の比誘電率をεr、誘電正接をtanδとすると、z軸の正の方向に伝搬する波の電界E2i及び磁界H2iは、(数2)の式(5a)、(5b)により表され、z軸の負の方向に伝搬する波の電界E2r及び磁界H2r は式(6a)、(6b)により表される。
【0034】
【数2】
【0035】
ここで、γは伝搬定数、ηは特性インピーダンスであり、γ及びηは(数2)の式(7)、(8)で表される。
【0036】
次に、領域3について説明する。領域3では、試料を透過したz軸の正の方向に伝搬する透過波のみが存在し、この透過波の電界E3i及び磁界H3iは、(数3)の式(9a)、(9b)により表される。
【0037】
【数3】
【0038】
次に、領域1と領域2の境界(Z=0)において、電界、磁界の境界条件より、式(1a)、(2a)、(5a)、(6a)から(数4)の式(10a)が得られ、式(1b)、(2b)、(5b)、(6b)から式(10b)が得られる。
【0039】
【数4】
【0040】
同様に、領域2と領域3の境界(Z=d)において、式(5a)、(6a)、(9a)より(数5)の式(11a)が得られ、式(5b)、(6b)、(9b)より式(11b)が得られる。
【0041】
【数5】
【0042】
上記の式(10a)、(10b)、(11a)、(11b)を解くと、試料の後方が無限長線路の状態の場合における反射係数Γ1(=E1r/E1i)は、(数6)の式(12a)となり、Γ=|Γ|ejargΓとすると、反射係数の絶対値である反射係数の振幅(以下、「反射振幅」という)|Γ1|及び反射係数の位相(以下、「反射位相」という)argΓ1の式(12b)、(12c)が得られる。
【0043】
【数6】
【0044】
ここで、式(12b)、(12c)中のA、α、a(αに含まれるa)、Φは、それぞれ(数7)の式(13)〜(16)に示すとおりである。
【0045】
【数7】
【0046】
〔2.試料の背面が短絡の状態の場合〕
試料の後ろに金属板を置き、試料を透過したマイクロ波が金属板によって完全反射する場合(短絡の状態の場合;マイクロ波の伝搬する経路が金属板で短絡されている状態の場合)について検討する。この場合のマイクロ波の伝搬状態を図2に示す。図2において、領域1,2,3及びx、y、z軸等は、図1の場合と同様である。
【0047】
試料の背面が短絡の状態の場合、図2のように、領域2と領域3の境界に置いた金属板により領域2からz軸の正方向に伝搬する波が完全反射するため、領域3へ波は伝搬しない。また、領域1、領域2に伝搬する波の電界及び磁界は、試料の後方が無限長線路の状態の場合と同様に式(1a)、(1b)、(2a)、(2b)、(5a)、(5b)、(6a)、(6b)により表され、領域1と領域2の境界(Z=0)において、電界、磁界の境界条件より式(10a)、(10b)が得られる。また、領域2と領域3の境界(Z=d)において、電界の境界条件より式(5a)、(6a)から(数8)の式(17)が得られる。
【0048】
【数8】
【0049】
前述の式(10a)、(10b)、(17)を解くと、試料の背面が短絡の状態における反射係数Γ2(=E1r/E1i)は、(数9)の式(18a)となり、Γ=|Γ|ejargΓとすると、反射振幅|Γ2|及び反射位相argΓ2の式(18b)、(18c)が得られる。
【0050】
【数9】
【0051】
ただし、式(18b)、(18c)中のξ、ψ、ζについては、(数10)の式(19a)、(19b)、(19c)に示されるとおりである。
【0052】
【数10】
【0053】
次に、試料に含まれる脂質の体積割合に対する反射振幅を、無限長線路状態の場合と短絡状態の場合とについて、それぞれシミュレーションで求めるとともに、実験により求めた。
【0054】
ここで、シミュレーションでは、試料を脂質と赤身肉の混合物とし、試料の厚み(d)は2mmとした。また、照射するマイクロ波の周波数を10GHzとした。また、試料の比誘電率εr及び誘電正接tanδは、それぞれ、(数11)の式(20)、(21)で示されるものとした。
【0055】
【数11】
【0056】
ここで、Pfatは試料中の脂質の体積割合(%)を示す。なお、εrfatは脂質の比誘電率であり、εrmは赤身肉の比誘電率であり、tanδfatは脂質の誘電正接であり、tanδmは赤身肉の誘電正接である。これらのεrfat、εrm、tanδfat、tanδmには、「An Internet resource for the calculation of the Dielectric Properties of Body Tissues (ITALIAN NATIONAL RESERCH COUNCIL) 」で計算された人体の脂肪と筋肉の比誘電率、誘電正接の値を、それぞれ脂質と赤身肉の比誘電率、誘電正接の値として用いた。この場合、εrfat=4.602、εrm=42.76、tanδfat=0.2286、tanδm=0.4467である。また、真空の誘電率ε0は8.854×10-12(F/m)、真空の透磁率μ0は1.257×10-6(H/m)である。
【0057】
以上のシミュレーションの条件は、無限長線路状態の場合と短絡状態の場合も同じである。無限長線路状態の場合のシミュレーションでは、反射振幅の式(12b)を用いて、試料に含まれる脂質の体積割合に対する反射振幅(|Γ1|)を求めた。このシミュレーション結果を図3(a)に示す。また、短絡状態の場合のシミュレーションでは、反射振幅の式(12b)を用いて、試料に含まれる脂質の体積割合に対する反射振幅(|Γ2|)を求めた。このシミュレーション結果を図4(a)に示す。
【0058】
次に、実験では、脂質としてラードを、赤身肉として比較的扱いやすく食肉の中でも特に脂質の少ない鶏ささみ肉を使用し、試料全体に対する脂質の体積割合が0、10、20、40、60、80、100%で、それぞれ厚み(d)が2mmの試料を作成した。具体的には、上記のそれぞれの体積割合となるように、ラードと赤身肉をフードプロセッサーで均一に混ぜた後、エチレンのビニールにはさみ、厚さが2mmで均一になるように、厚さ2mmの枠を使って上方からめん棒で平らにして試料を作成した。
【0059】
実験装置の概略構成を図5に示す。この実験装置では、マイクロ波発振器21から出力されるマイクロ波は、ネットワーアナライザである測定装置22を介して発信及び受信兼用のアンテナ23から試料台24上の試料Sに照射される。そして、試料Sからの反射波がアンテナ23を介して測定装置22に入力され、この測定装置22では、反射振幅及び反射位相を測定値として出力表示可能である。具体的には、マイクロ波発振器21には、hp(ヒューレット・パッカード)社のSYNTHESIZED SWEEPER (HP83630A)を用い、測定装置22には、hp社のHP8510B ベクトルネットワークアナライザを用い、アンテナ23には、SPC electronics社の WR-90 Xバンド用ホーンアンテナ(TYPE 14T007)を用いた。
【0060】
無限長線路状態の場合の実験は、試料台24の上にマイクロ波吸収体を敷き、その上に、発砲スチロールを置き、その上に試料Sを載せて行った。また、短絡状態の場合の実験は、試料台24の上に発砲スチロールを置き、その上に金属板を置き、さらにその上に試料Sを載せて行った。いずれの場合の実験も、試料Sから80mm上方の位置にアンテナ23の開口面が水平になるように設置し、10GHzのマイクロ波を照射して、測定装置22にて反射振幅を測定した。この測定は、脂質の体積割合が0、10、20、40、60、80、100%の各試料を2個ずつ作成しておき、2回ずつ行った。無限長線路状態の場合の実験結果を図3(b)に示し、短絡状態の場合の実験結果を図4(b)に示す。
【0061】
図3(a)及び図3(b)に示されるように、シミュレーション及び実験のいずれの場合も、無限長線路状態の場合、反射振幅は、脂質含有率(脂質の体積割合)の増加とともに上昇し、最大となった後、脂質含有率の増加とともに低下するという結果が示された。また、図4(a)及び図4(b)に示されるように、シミュレーション及び実験のいずれの場合も、短絡状態の場合、反射振幅は、脂質含有率の増加とともに指数関数的に低下し、最小となった後、脂質含有率の増加とともに上昇するという結果が示された。
【0062】
以上より、シミュレーション結果(理論値)と実験結果とにおいて定性的に良い一致が見られ、理論的検討の妥当性が示された。なお、無限長線路状態の場合に反射振幅が最大値を示す脂質含有率、及び短絡状態の場合に反射振幅の最小値を示す脂質含有率が異なったのは、シミュレーションと実験で用いた脂質及び赤身肉のそれぞれの比誘電率及び誘電正接の値に誤差があったことが原因と考えられる。また、シミュレーション結果に比べて実験結果が全体的に低い値を示しているのは、シミュレーションでは反射した波をすべて測定できていることになっているが、実験では試料中においてマイクロ波の散乱などが生じ、反射した波をすべて測定できていないことが原因と考えられる。
【0063】
一方、無限長線路状態の場合及び短絡状態の場合のいずれも、1つの反射振幅に対して脂質含有率が1つに決まらないため、反射振幅のみから脂質含有率を求めることは困難であると考えられる。
【0064】
また、試料後方が無限長線路の状態における反射振幅よりも試料背面が短絡状態での反射振幅の方が、脂質の体積割合に対する変化が大きいため、脂質の含有率測定には試料背面が短絡状態での反射振幅を用いる方が適していると考えられる。
【0065】
そこで、次に、試料背面を短絡状態とした場合において、反射振幅に加えて反射位相の値も用い、反射振幅と反射位相とから脂質含有率を導出する方法について検討した。
【0066】
−第2の検討内容−
試料の背面が短絡された状態における反射振幅及び位相の測定値から脂質含有率を求める方法として、反射係数から比誘電率εr、誘電正接tanδを導出し、これらの値から脂質の体積割合を求める方法を検討した。反射係数の式に基づいて、反射振幅及び位相の測定値から比誘電率εr、誘電正接tanδを導出するようにしてもよいが、この場合、演算が複雑になる。そこで、反射係数の実数部と虚数部を軸にとった反射複素平面チャートを作成し、これを用いて試料の反射係数(反射振幅及び位相の測定値)から比誘電率εr、誘電正接tanδを導出することとした。
【0067】
試料背面が短絡の状態における反射係数Γ2は(数12)の式(22)で表される。
【0068】
【数12】
【0069】
この式(22)を用いて、比誘電率εrを1、10、20、・・・、80に固定して誘電正接tanδを0〜1.0まで変化させた場合と、誘電正接tanδを0、0.05、0.1、・・・、1.0に固定して比誘電率εrを1〜80まで変化させた場合とについて、試料の厚みが1mm、 2mm、 4mmのそれぞれの場合についてシミュレーションを行い、複素反射係数の実数部を横軸にとり、虚数部を縦軸にとった複素平面上にプロットして複素平面チャートを作成した。なお、理論上、tanδは∞まで存在するが、今回測定の対象とする測定物は高損失の物でないことから、tanδ>1のグラフは省略した。
【0070】
シミュレーションの結果、試料厚みが1mm、2mmの場合には1≦εr≦80、0≦tanδ≦1の範囲内でεr、tanδの曲線同士が交わることなく比較的きれいなグラフとなり、4mmでは1≦εr≦80の範囲内で曲線が交わっているグラフとなった。図6に、シミュレーションを行うことにより作成された試料の厚みが2mmの場合の反射複素平面チャートを示す。
【0071】
このことから、試料の厚みを薄くして測定した反射振幅、反射位相を、(数13)の式(23)、(24)によって反射係数の実数部(ReΓ)、虚数部(ImΓ)に変換し、短絡状態における反射複素平面チャート上にプロットすれば、比誘電率εr及び誘電正接tanδを読み取ることが可能である。また、試料の厚みが薄いほど高い比誘電率において変化幅が大きく、試料の厚みが厚いほど低い比誘電率において変化幅が大きいことが示された結果となった。
【0072】
【数13】
【0073】
ただし、作成した反射複素平面チャートは測定が理想的に行えた場合の(純理論的な)シミュレーション結果によるものであるため、測定値をこのチャートにプロットする場合には、測定値を測定が理想的に行えた場合の値に補正する必要がある。
【0074】
次に、理論的検討の妥当性をみるため実験を行った。この実験では、アンテナから80mmの位置を基準として金属板を置き(試料の背面が短絡の状態)、試料のない状態で反射振幅及び反射位相を測定した後、金属板の上に脂質の体積割合が0、10、20、40、60、80、100%の厚み2mmの試料を載せて反射振幅及び反射位相を測定し、測定結果から反射複素平面チャートを用いて比誘電率εr及び誘電正接tanδを求めた。
【0075】
今回の実験では、先の実験と同様、脂質としてラードを、赤身肉として比較的扱いやすく食肉の中でも特に脂質の少ない鶏ささみ肉を使用し、試料全体に対する脂質の体積割合が0、10、20、40、60、80、100%で、それぞれ厚み(d)が2mmの試料を作成した。
【0076】
実験装置は、先の実験と同じ実験装置(図5)を用いた。
【0077】
まず、試料台24の上に金属板を置き、金属板の表面から80mm上方の位置にアンテナ23の開口面が水平になるようにアンテナ23を設置し、試料のない状態で、10GHzのマイクロ波を照射して、測定装置22にて反射振幅及び反射位相を測定した。次に、試料を金属板の上に置き、10GHzのマイクロ波を照射して、測定装置22にて反射振幅及び反射位相を測定した。この測定は、脂質の体積割合が0、10、20、40、60、80、100%の各試料を3個ずつ作成しておき、3回ずつ行った。
【0078】
ここで、理想的な測定が行えた場合の反射係数をΓ(振幅|Γ|、位相argΓ)、試料表面(基準面)に金属板を置いたときの反射係数をΓair(振幅|Γair|、位相argΓair)、実際の測定値をΓm(振幅|Γm|、位相argΓm)とすると、理想的な測定が行えた場合、全反射では反射係数の絶対値の2乗は|Γ|2=1であるが、実際に試料表面に金属板を置いて測定した場合にアンテナが受信する反射係数Γairの絶対値の2乗は1未満(|Γair|2<1)となる。従って、実測値Γmの絶対値の2乗|Γm|2は、測定が理想的に行えた場合の反射電力(真の反射電力すなわち反射係数Γの絶対値の2乗|Γ|2)の|Γair|2倍となり、(数14)の式(25)で表される。この式(25)より式(26)が求まる。
【0079】
【数14】
【0080】
また、完全反射の場合、反射面(今回の実験において金属板)では位相はπである。したがって、この面を基準面としたときの基準面における位相argΓは(数15)の式(27)となる。
【0081】
【数15】
【0082】
今回の実験で測定した反射振幅を式(26)で補正した結果、図7の実験値1,2,3で示される値となり、多少の誤差は見られたが理論値との定量的な一致が見られた。
【0083】
また、反射位相について、理論的検討では試料の上表面を基準としているが、実験では便宜性を考えて試料の下の表面(アンテナから80mmの位置)を基準としたため、試料の厚み(dmm)分の補正を付け加える必要がある。従って、式(27)は(数16)の式(28)となる。ここで、λはマイクロ波の波長である。
【0084】
【数16】
今回の実験において試料の厚みは2mmなので、式(28)のdに2(mm)を代入して測定した反射位相の補正を行った結果、図8の実験値1,2,3で示される値となり、理論値との定量的な一致が見られた。
【0085】
次に、補正した反射振幅及び反射位相を用いて式(23)、(24)に基づき反射係数の実数部及び虚数部を算出し、反射複素平面チャートにプロットした。これを図9に示す。図9において、例えば「fat100%」の文字の近傍にプロットされている実験値1,2,3が脂質の体積割合が100%の場合の実験値を示す。他の実験値についても同様である。
【0086】
この反射複素平面チャートにプロットされている実験値1,2,3の各位置から比誘電率εr及び誘電正接tanδの値を読み取り、それぞれを脂質の体積割合に対してプロットした結果、図10の脂質の体積割合に対する比誘電率を示すグラフ、及び図11の脂質の体積割合に対する誘電正接を示すグラフが得られた。また、図10、図11には実験結果とともに、先の(数11)の式(20)、(21)で示したεr、tanδの脂質の体積割合に対する理論値も示した。
【0087】
理論値と実験結果とにおいて、図10のように、比誘電率については、脂質の体積割合が20%〜100%で定量的によく一致する結果となったが、20%未満において0%に近づくほど実験値と理論値との差が大きくなる結果となった。また、図11のように、誘電正接についても、誤差はあるものの定量的な一致がみられた。
【0088】
比誘電率、誘電正接ともに、理論値と実験結果に定量的な一致が見られるが、理論値と実験結果における誤差の要因としては、(1)試料作成時に脂質の割合が正確でなかったこと、(2)シミュレーションと実験において用いた脂質と赤身肉の比誘電率及び誘電正接に誤差があったこと、が考えられる。また、比誘電率は脂質の体積割合が少なくなるほど大きくなるが、試料の比誘電率が大きくなるほど空気との境界面において、誘電率の差が大きくなるため表面での反射が主要となる。このため、試料の表面位置の誤差は脂質割合が少ないほど大きく影響することが、脂質割合20%未満において理論値との誤差が大きくなった要因と考えられる。誘電正接については、脂質割合の変化に対する変化幅が小さいため誤差の影響が大きくなる。従って、比誘電率、誘電正接の測定精度をより向上させるためには、上記(1)、(2)に示した原因や、試料の厚み、アンテナの位置などに誤差がなく再現性の高い方法で測定すればよい。
【0089】
なお、この「第2の検討内容」において行われたシミュレーションでは、特に記載されなかった条件については、先の「第1の検討内容」において行われたシミュレーションと同じ条件を用いた。
【0090】
以上では、マイクロ波を発信及び受信するアンテナから一定の距離に板状の試料を設置し、試料背面に金属板をあてて短絡状態とした系において、試料の比誘電率、誘電正接が変化した場合の反射係数の変動を反射複素平面チャートとして理論的に導き、このチャートを用いて測定された反射係数から被測定物の比誘電率及び誘電正接を求める方法を導出し、さらにこの方法の妥当性を確認するため実験を行った結果、理論値と実験値が定量的な一致を示した。この反射複素平面チャートを用いた方法は、比誘電率と誘電正接を同時に測定・解析できる簡便な方法として有用である。よって、脂質と脂質以外の成分からなる混合物において各成分単体での比誘電率、誘電正接が既知であれば、この反射複素平面チャートを用いた方法によって混合物の反射係数から脂質の体積割合を求めることが可能である。
【0091】
(実施の形態)
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0092】
図12は、本発明の実施の形態における脂質含有率測定方法を示すフローチャートである。
【0093】
まず、ステップS1では、マイクロ波(マイクロ波の周波数を有する電磁波)を試料(被測定物)に照射し、その反射波を検出し、反射係数の振幅及び位相を測定する。この場合、試料背面に金属板(反射板)をおいて短絡状態にして測定することが好ましい。また、試料は、厚みが所定値(例えば、1mm以上4mm未満の所定値)の薄い板状の形状にしておくことが好ましい。照射するマイクロ波の周波数は、例えば、8〜12GHz程度である。
【0094】
次に、ステップS2では、ステップS1により測定される反射係数の振幅及び位相に基づいて反射係数の実数部及び虚数部を算出する。この算出方法については、前述の「第2の検討内容」において説明した通りである。
【0095】
次に、ステップS3では、ステップS2により算出される反射係数の実数部及び虚数部に基づいて、試料の比誘電率を求める。ここでは、反射係数の実数部及び虚数部から演算により比誘電率を求めるようにしてもよい。あるいは、予め図6に示すような反射複素平面チャートを作成しておき、その反射複素平面チャートに、ステップS2により算出され反射係数の実数部及び虚数部をプロットした位置の、比誘電率の目盛りをよみとることにより、比誘電率の値を求めてもよい。この場合、反射複素平面チャートには比誘電率の目盛りが記載されてあればよく、誘電正接の目盛りは無くてもよい。
【0096】
次に、ステップS4では、ステップS3により求められた比誘電率に基づいて試料に含まれる脂質の体積割合(脂質含有率)を求める。ここでは、例えば図10の理論値を算出する場合と同様、先の(数11)の式(20)を用いて脂質の体積割合を求めればよい。
【0097】
なお、試料の誘電正接の測定誤差を小さくできる場合には、ステップS3において、比誘電率に代えて、誘電正接を求めるようにし、ステップS4において誘電正接に基づいて脂質の体積割合を求めるようにしてもよい。あるいは、ステップS3において、比誘電率と誘電正接を求めるようにし、ステップS4において比誘電率と誘電正接とに基づいて脂質の体積割合を求めるようにしてもよい。この場合、比誘電率に基づいて求められる脂質の体積割合と、誘電正接に基づいて求められる脂質の体積割合との平均値を、求めるべき脂質の体積割合とすればよい。いずれにしても、誘電正接を求める場合には、前述の比誘電率を求める場合と同様、反射係数の実数部及び虚数部から演算により求めるようにしてもよいし、予め図6に示すような反射複素平面チャートを作成しておいて、反射係数の実数部及び虚数部をプロットした位置の、誘電正接の目盛りをよみとることにより、誘電正接の値を求めるようにしてもよい。反射複素平面チャートには、比誘電率及び誘電正接のうち求めるべき対象の目盛りが記載されてあればよい。また、誘電正接に基づいて試料に含まれる脂質の体積割合を求める場合には、例えば図11の理論値を算出する場合と同様、先の(数11)の式(21)を用いて脂質の体積割合を求めればよい。
【0098】
なお、反射複素平面チャートを用いない場合には、ステップS2からステップS4まで全て演算により行われ、ステップS1で測定された反射係数の振幅及び位相に基づいて試料の比誘電率及び/又は誘電正接が求められ、続いて脂質の体積割合が求められる。
【0099】
また、以上では、反射係数の振幅及び位相を測定し、その測定値に基づいて試料の比誘電率及び/又は誘電正接を求めるようにしたが、同様にして透過係数(照射したマイクロ波(入射波)に対して試料を通過した透過波の比を表す値)の振幅及び位相を測定し、その測定値に基づいて試料の比誘電率及び/又は誘電正接を求めるようにしてもよい。
【0100】
以上のように、試料(被測定物)にマイクロ波を照射して測定される反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて試料の比誘電率及び/又は誘電正接を求め、その比誘電率及び/又は誘電正接に基づいて試料に含まれる脂質の含有率を求めることにより、脂質含有率の測定精度を向上でき、正確な測定が可能になる。
【0101】
次に、図13は、本発明の実施の形態における脂質含有率測定装置の構成を示すブロック図である。
【0102】
この脂質含有率測定装置は、マイクロ波発生部11、発信用のアンテナ12a、受信用のアンテナ12b、測定部13、脂質含有率算出部14及び表示部15を備えている。マイクロ波発生部11は、所望の周波数のマイクロ波を発生し、発生されたマイクロ波は測定部13を介して発信用アンテナ12aから発信され、試料(図示せず)に照射される。試料からの反射波または試料を通過した透過波は受信用アンテナ12bで検出されて測定部13へ入力される。
【0103】
なお、反射波を検出する場合には、図5の実験装置のように、発信用アンテナ12aと受信用アンテナ12bとを1つのアンテナで兼用した構成とした方がコンパクトになる。また、透過波を検出する場合には、発信用アンテナ12aと受信用アンテナ12bとを対向して配置し、その間に試料を配置して、発信用アンテナ12aから試料へ向けてマイクロ波を発信し、試料を通過した透過波を受信用アンテナ12bで受信するように構成すればよい。
【0104】
測定部13は、ネットワーアナライザの機能を有しており、アンテナ12aから発信される電磁波(マイクロ波)とアンテナ12bで受信される電磁波とに基づいて、反射係数または透過係数の振幅及び位相を求めて測定値とし、その測定値を脂質含有率算出部14へ出力する。
【0105】
脂質含有率算出部14は、マイコン等の演算装置で構成され、例えば前述のステップS2〜S4の処理を行い、それにより求められた脂質の体積割合を表示部15へ出力するようにプログラムされている。したがって、脂質含有率算出部14では、測定部13により測定される反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて、試料の比誘電率及び/又は誘電正接を求める処理が行われ、続いて、求められた比誘電率及び/又は誘電正接に基づいて試料に含まれる脂質の体積割合を求める処理が行われる。ここで、前述の反射複素平面チャートを用いる場合には、反射複素平面チャートのデータを例えばテーブルとして上記演算装置内のメモリに記憶しておき、反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて反射係数または透過係数の実数部及び虚数部を算出し、算出した実数部及び虚数部に対応する誘電率及び/又は誘電正接の目盛りを上記テーブルから読み取ることにより試料の比誘電率及び/又は誘電正接を求めるようにプログラムしておけばよい。
【0106】
表示部15は、例えば液晶ディスプレイ等で構成され、脂質含有率算出部14により求められた脂質の体積割合を表示するようになっている。
【0107】
この構成によれば、試料を所定位置(前述のように反射波を検出して反射係数を測定する場合と透過波を検出して透過係数を測定する場合とで試料とアンテナとの位置関係が異なる)にセットして、例えばスタートボタン(図示せず)を押せば、マイクロ波発生部11で発生されるマイクロ波が測定部13を介して発信用アンテナ12aから発信され、測定部13によって反射係数または透過係数の振幅及び位相が測定され、その測定値に基づいて脂質含有率算出部14では試料に含まれる脂質の含有率(脂質の体積割合)が算出され、その算出された脂質の含有率が表示部15に表示される。したがって、前述の脂質含有率測定方法を自動的に実施することができ、脂質含有率の測定を容易に行うことが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、食品等に含まれる脂質含有率を測定するための脂質含有率測定方法及び装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】試料の後方が無限長線路状態の場合に試料の前方から入射されるマイクロ波の伝搬状態を示す図である。
【図2】試料の背面が短絡状態の場合に試料の前方から入射されるマイクロ波の伝搬状態を示す図である。
【図3】(a)は、シミュレーションにより求められた無限長線路状態の場合の試料に含まれる脂質の体積割合に対する反射振幅を示す図であり、(b)は、実験により求められた無限長線路状態の場合の試料に含まれる脂質の体積割合に対する反射振幅を示す図である。
【図4】(a)は、シミュレーションにより求められた短絡状態の場合の試料に含まれる脂質の体積割合に対する反射振幅を示す図であり、(b)は、実験により求められた短絡状態の場合の試料に含まれる脂質の体積割合に対する反射振幅を示す図である。
【図5】実験装置の構成を示す図である。
【図6】試料の厚みが2mmの場合の反射係数の実数部及び虚数部と試料の比誘電率及び誘電正接との関係を示す反射複素平面チャートである。
【図7】試料に含まれる脂質の体積割合に対する反射振幅(実験値及び理論値)を示す図である。
【図8】試料に含まれる脂質の体積割合に対する反射位相(実験値及び理論値)を示す図である。
【図9】図6の反射複素平面チャートに実験値及び理論値をプロットした図である。
【図10】試料に含まれる脂質の体積割合に対する比誘電率(実験値及び理論値)を示す図である。
【図11】試料に含まれる脂質の体積割合に対する誘電正接(実験値及び理論値)を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態における脂質含有率測定方法を示すフローチャートである。
【図13】本発明の実施の形態における脂質含有率測定装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0110】
11 マイクロ波発生部
12a 発信用のアンテナ
12b 受信用のアンテナ
13 測定部
14 脂質含有率算出部
15 表示部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波の周波数を有する電磁波を被測定物に照射し、その反射波または透過波を検出し、この検出電磁波の前記照射電磁波に対する反射係数または透過係数の振幅及び位相を測定する第1のステップと、
前記第1のステップにより測定される前記反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求める第2のステップと、
前記第2のステップにより求められる前記比誘電率及び/又は誘電正接に基づいて前記被測定物に含まれる脂質の含有率を求める第3のステップとを有する脂質含有率測定方法。
【請求項2】
前記第2のステップは、
前記第1のステップにより測定される前記反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部を算出する第4のステップと、
前記第4のステップにより算出される前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部に基づいて、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求める第5のステップとを有する請求項1に記載の脂質含有率測定方法。
【請求項3】
前記第5のステップは、
前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部の一方を縦軸とし他方を横軸とする複素平面に、前記実数部及び虚数部に対して理論的に算出された比誘電率及び/又は誘電正接の目盛りが記入されている予め準備されたチャートを用いて、前記第4のステップにより算出される前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部に対応する前記比誘電率及び/又は誘電正接の目盛りを読み取ることにより、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求める請求項2に記載の脂質含有率測定方法。
【請求項4】
前記第1のステップにおいて、前記反射係数の振幅及び位相を測定する際は、前記被測定物の背面に反射板を配置して前記電磁波を前記被測定物の前面に照射する請求項1に記載の脂質含有率測定方法。
【請求項5】
前記電磁波は、周波数が8GHz以上で、12GHz以下のマイクロ波の周波数を有する請求項1に記載の脂質含有率測定方法。
【請求項6】
前記被測定物が食品である請求項1に記載の脂質含有率測定方法。
【請求項7】
前記被測定物の形状が板状である請求項1に記載の脂質含有率測定方法。
【請求項8】
被測定物に電磁波を照射するための発信用アンテナと、
前記被測定物から反射される反射波または前記被測定物を透過した透過波を検出するための受信用アンテナと、
前記発信用アンテナから照射された電磁波に対する前記受信用アンテナにより検出される検出電磁波の比を示す反射係数または透過係数の振幅及び位相を測定する測定部と、
前記測定部により測定される前記反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求める第1の処理と、前記第1の処理により求められる前記比誘電率及び/又は誘電正接に基づいて前記被測定物に含まれる脂質の含有率を求める第2の処理とを行う脂質含有率算出部とを備えた脂質含有率測定装置。
【請求項9】
前記脂質含有率算出部は、前記第1の処理が、
前記測定部により測定される前記反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部を算出する第3の処理と、
前記第3処理により算出される前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部に基づいて、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求める第4の処理とを有するように構成された請求項8に記載の脂質含有率測定装置。
【請求項10】
前記脂質含有率算出部は、前記第4の処理が、
前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部の一方を縦軸とし他方を横軸とする複素平面に、前記実数部及び虚数部に対して理論的に算出された比誘電率及び/又は誘電正接の目盛りが記入されている予め準備されたチャートを用いて、前記第3処理により算出される前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部に対応する前記比誘電率及び/又は誘電正接の目盛りを読み取ることにより、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求めるように構成された請求項9に記載の脂質含有率測定装置。
【請求項1】
マイクロ波の周波数を有する電磁波を被測定物に照射し、その反射波または透過波を検出し、この検出電磁波の前記照射電磁波に対する反射係数または透過係数の振幅及び位相を測定する第1のステップと、
前記第1のステップにより測定される前記反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求める第2のステップと、
前記第2のステップにより求められる前記比誘電率及び/又は誘電正接に基づいて前記被測定物に含まれる脂質の含有率を求める第3のステップとを有する脂質含有率測定方法。
【請求項2】
前記第2のステップは、
前記第1のステップにより測定される前記反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部を算出する第4のステップと、
前記第4のステップにより算出される前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部に基づいて、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求める第5のステップとを有する請求項1に記載の脂質含有率測定方法。
【請求項3】
前記第5のステップは、
前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部の一方を縦軸とし他方を横軸とする複素平面に、前記実数部及び虚数部に対して理論的に算出された比誘電率及び/又は誘電正接の目盛りが記入されている予め準備されたチャートを用いて、前記第4のステップにより算出される前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部に対応する前記比誘電率及び/又は誘電正接の目盛りを読み取ることにより、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求める請求項2に記載の脂質含有率測定方法。
【請求項4】
前記第1のステップにおいて、前記反射係数の振幅及び位相を測定する際は、前記被測定物の背面に反射板を配置して前記電磁波を前記被測定物の前面に照射する請求項1に記載の脂質含有率測定方法。
【請求項5】
前記電磁波は、周波数が8GHz以上で、12GHz以下のマイクロ波の周波数を有する請求項1に記載の脂質含有率測定方法。
【請求項6】
前記被測定物が食品である請求項1に記載の脂質含有率測定方法。
【請求項7】
前記被測定物の形状が板状である請求項1に記載の脂質含有率測定方法。
【請求項8】
被測定物に電磁波を照射するための発信用アンテナと、
前記被測定物から反射される反射波または前記被測定物を透過した透過波を検出するための受信用アンテナと、
前記発信用アンテナから照射された電磁波に対する前記受信用アンテナにより検出される検出電磁波の比を示す反射係数または透過係数の振幅及び位相を測定する測定部と、
前記測定部により測定される前記反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求める第1の処理と、前記第1の処理により求められる前記比誘電率及び/又は誘電正接に基づいて前記被測定物に含まれる脂質の含有率を求める第2の処理とを行う脂質含有率算出部とを備えた脂質含有率測定装置。
【請求項9】
前記脂質含有率算出部は、前記第1の処理が、
前記測定部により測定される前記反射係数または透過係数の振幅及び位相に基づいて前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部を算出する第3の処理と、
前記第3処理により算出される前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部に基づいて、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求める第4の処理とを有するように構成された請求項8に記載の脂質含有率測定装置。
【請求項10】
前記脂質含有率算出部は、前記第4の処理が、
前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部の一方を縦軸とし他方を横軸とする複素平面に、前記実数部及び虚数部に対して理論的に算出された比誘電率及び/又は誘電正接の目盛りが記入されている予め準備されたチャートを用いて、前記第3処理により算出される前記反射係数または透過係数の実数部及び虚数部に対応する前記比誘電率及び/又は誘電正接の目盛りを読み取ることにより、前記被測定物の比誘電率及び/又は誘電正接を求めるように構成された請求項9に記載の脂質含有率測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−271412(P2007−271412A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−96490(P2006−96490)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000208444)大和製衡株式会社 (535)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000208444)大和製衡株式会社 (535)
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