説明

脂質類似の燐酸トリエステル

本発明は、無極脂質構造を有する新規の燐酸トリエステルに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無極脂質構造を有する新規の燐酸トリエステルに関する。
【0002】
このトリエステルは、殊にリポソーム成分として使用されることができる。
【0003】
本発明の対象は、式(I)
【0004】
【化1】

〔式中、Rは、コレステリン、ジアシルグリセリン、ジアルキルグリセリン、アシルアルキルグリセリン、セラミド、12〜24個のC原子を有する第1アルコールもしくは第2アルコールまたはアシルグリセロ−ベンジルエーテルから選択された基を表わし、
は、エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、プロパノールアミン、コリン、グリセリン、オリゴグリセリン、グリコグリセリンまたはセリンから選択された基を表わし、この場合これらの基は、場合によっては保護基を含有していてもよく、
は、C〜C−アルキルまたはC〜C−アルケニルから選択された基を表わすかまたはRを表わす〕で示される化合物である。
【0005】
本発明による化合物は、脂質類似の燐酸トリエステル、殊に燐原子1個当たり複数のヒドロキシル基、殊に燐原子1個当たり少なくとも2個のヒドロキシル基、好ましくは燐原子1個当たり少なくとも3個のヒドロキシル基、よりいっそう好ましくは燐原子1個当たり少なくとも4個のヒドロキシル基を有する燐酸トリエステルである。
【0006】
本発明による燐酸トリエステルは、無極脂質構造を有する基Rを含有する。Rに適した構造は、殊にコレステリン基であり、したがって好ましい燐酸トリエステルは、コレステリル化合物である。
【0007】
更に、Rの好ましい基は、ジアシルグリセリンであり、この場合アシル基は、それぞれ独立に特に12〜28個、殊に13〜27個、有利に14〜26個の炭素原子を含有する。アシル基は、飽和基であることができるかまたは1個または数個、殊に2個または3個の不飽和基であることができる。特の好ましいのは、不飽和脂肪酸基、例えば油酸、リノール酸またはリノレン酸の基を含有するアシルグリセリンである。
【0008】
更に、基Rは、本発明によれば、ジアルキルグリセリン基であることができ、この場合その中のアルキル基は、それぞれ互いに独立に特に1〜28個、殊に12〜26個、好ましくは14〜24個の炭素原子を有する。ジアルキルグリセリン基中のアルキル基は、飽和であってもよいし、1個または数個、殊に2個または3個の不飽和であってもよい。好ましいのは、基(Z)−9−オクタデセニル−、(Z.Z.)−9.12−オクタデカンジエニル−、(Z.Z.Z)−9.12.15−オクタデカントリエニルならびに製薬学的作用を有する親油性基体、例えば1−オクタデシル−2−メチル−sn−グリセリンである。
【0009】
更に、Rは、セラミド基を表わすことができる。セラミドは、一般式(IV)
【0010】
【化2】

〔式中、Rは、長鎖状脂肪酸基、殊に12〜28個のC原子を有する脂肪酸基であり、Rは、長鎖状アルキル基、殊に12〜28個のC原子を有するアルキル基であり、Rは、Hである〕で示される、特に脳物質中および結合されたZNSのミエリン中で見出すことができる、体内固有の親油性アミドである。
【0011】
更に、Rは、12〜24個の炭素原子、殊に13〜22個の炭素原子を有する第1アルコールまたは第2アルコールの基を表わすことができ、この場合アルコールは、飽和であってもよいし、1個または数個の飽和であってもよい。
【0012】
更に、Rは、アシルグリセロ−ベンジルエーテル基を表わし、この場合このような化合物は、殊にリゾホスノリピドの合成のための出発生成物として使用されることができる。
【0013】
本発明による化合物において、基Rは、エナンチオマーの形であってもよいし、ラセミ混合物として存在していてもよい。
【0014】
は、天然のリン脂質およびスフィンゴミエリン中に由来する全ての基を表わすことができる。殊に、Rは、エタノールアミン基、N−メチルエタノール基またはプロパノールアミン基を表わし、この場合これらの基には、場合によっては適当な保護基、例えばBOCが設けられていてよい。更に、Rは、コリン基を表わすことができる。好ましくは、Rは、−CH−CH−N(CHを表わす。更に、Rは、グリセリン基(−CH−CH(OH)−CH(OH))を表わし、ならびにオリゴグリセリン、殊にジグリセリン基またはトリグリセリン基を表わす。更に、適当な基Rは、グリコグリセリン、ならびにセリン基である。また、グリセリン基およびセリン基は、場合によっては適当な保護基を備えていてよい。
【0015】
は、C〜C−アルキルまたはC〜C−アルケニルから選択された基であるかまたはRに関して上記された意味を有することができる。RがRに関して記載された意味を有する場合には、生物学的に高度に活性の構造を形成することができ、この構造は、新規の陽イオン脂質として重要な意味を有する。このような陽イオン脂質は、例えば遺伝子の形質転換に使用されることができる。
【0016】
しかし、Rは、一時的な特性を有することができるにすぎず、即ち保護基の機能を引き受けることができ、この機能は、後に再び解除されうる。この場合、Rは、好ましくはメチル、エチル、アリルまたはプロピルを表わす。
【0017】
本発明による化合物は、pH3〜pH8の間で極めて安定であり、殊にリポソーム成分として使用されることができる。
【0018】
更に、本発明は、式(I)による化合物の製造法に関し、この方法は、式(II)の化合物を、式(III)HO−Rで示される化合物でエステル化することによって特徴付けられている。
【0019】
化合物は、リン脂質に由来し、例えば
【0020】
【化3】

から燐酸ジエステルとグリセリン:
【0021】
【化4】

とのエステル化によって生成される。
【0022】
また、相応してコレステリン誘導体を得ることができる。
【0023】
【化5】

【0024】
この化合物は、種々の実施態様において製造可能である。また、この化合物は、例えばグリセリンの代わりに、オリゴグリセリン、例えばグリセログリセリン、ジグリセログリセリンまたはトリグリセログリセリンを含有することもできる。図解的には、例えばコレステリンホスホ−モノグリセリントリグリセログリセリンは、次の構造式を有する:
【0025】
【化6】

【0026】
本発明による化合物は、殊にリポソームの製造に適しているかまたはリポソーム成分として適している。この本発明による化合物は、リポソームに特殊な性質、例えば血中での長い循環時間、肝臓中での意図された含量増加または脾臓中での殆んど例外的な吸収を付与する。また、本発明による燐酸トリエステルにより、新しい性質を有するリポソームを形成させることもでき、この場合このリポソームは、高い血清安定性を有し、長い循環時間を有し、例外的に脾臓中で含量増加が生じる。従って、長い循環時間も特に重要であり、それというのも、この構造は、公知のリポソームのように、肝臓中で含量増加が生じるのではなく、例えば脾臓が遭遇するような別の目的または脾臓にとって特に重要であるような別の目的を腫瘍細胞によって評価されうるからである。従って、本発明による化合物は、癌腫疾患の治療に使用されることもできる。
【0027】
更に、本発明は、中間段階としての本発明による燐酸トリエステルを使用しながら新規の合成経路に関する。本発明による合成経路の特殊な利点は、早期の合成において利用された反応の実施(a)が回避され、(b)により重要な化合物1.2−ジオレイル−sn−グリセロ−3−ホスホグリセリンまたは相応する化合物が中性の条件下で明らかになることである:
【0028】
【化7】

【0029】
新規の合成の実施の場合の本質的な利点は、無極中間生成物を合成中にできるだけ遙かに先行するようにもたらし、したがって極性構造を方法の終結時に初めて導入する方法にある。これは、以下、実施例に詳説されている。カルジオリピンおよび類似の化合物は、複雑化された構造であり、これは、合成によりkgの量で得ることは極めて困難である。しかし、本発明の新規の合成方法によれば、これは、良好に可能である。
【0030】
カルジオリピン
【0031】
【化8】

【0032】
合成は、Rがパルミチン酸である例について記載されている。出発生成物は、1.2−ジパルミトイル−sn−グリセリンであり、これは、THF中のオキシ塩化燐および塩基としてのトリエチルアミンを用いて常法で1.2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−燐酸ジクロリドに変換される:
【0033】
【化9】

【0034】
構成成分I
カルジオリピンを合成するための簡単な方法、2−ベンジル−グリセリンとの直接の反応は、残念なことに、相応するホスホランの主要な形成を生ぜず、有効ではない:
【0035】
【化10】

【0036】
従って、構成成分IIを使用しなければならない。保護されたグリセリン誘導体:
構成成分II
【0037】
【化11】

【0038】
更に、トリエチルアミンを用いてのTHF中での構成分Iと構成成分IIとの結合は、構成成分IIIを生じる:
構成成分III
【0039】
【化12】

【0040】
更に、構成成分IIIは、構成成分Iと常法で反応されることができ、カルジオリピンの直接の前生成物に変わり、これは、さらにメタノリシスによってジメチルエステルに変換される。更に、接触水素化分解によって、中程度のグリセリン上でヒドロキシル基が明らかになる。メチル基は、LiBrによって中性のpHで除去され、この場合最終生成物は、カルジオリピンである。
【0041】
【化13】

【0042】
本明細書の記載は、次の実施例によってさらに詳説される。
【0043】
例1
1)コレステリル−ホスホ−ジグリセリン
3359P (分子量614.801)
2)コレステリル−ホスホ−グリセリン−グリセログリセリン
366510P (分子量688.880)
3)コレステリル−ホスホ−ジ−グリコグリセリン
376710P (分子量702.907)
4)1.2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−ジグリセリン
377312P (分子量740.953)
5)1.2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−ジグリセリン
418112P (分子量797.061)
6)1.2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−ジグリセリン
458912P (分子量853.169)
7)1.2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−ジグリセリン
458512P (分子量849.137)
8)1.2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−ジ−グリコグリセリン
499314P (分子量937.243)
9)1.2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−ジ−グリセログリセリン
519716P (分子量997.295)
例2
【0044】
【化14】

および1.2.ジオレオイルグリセリン。
【0045】
【化15】

【0046】
例3
次の組成:
モル比
1.2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン 40%
コレステリン 30%
コレステリン−ホスホ−ジグリセリン 20%
コレステリン−ホスホ−グリセリン、Na()塩 10%
100%
のリポソームは、主に脾臓a中で含量増加が生じ、他方、通常の組成:
1.2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン 50%
コレステリン 40%
1.2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホグリセリン、
Na()塩 10%
100%
のリポソームは、主に肝臓中で含量増加が生じる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

〔式中、Rは、コレステリン、ジアシルグリセリン、ジアルキルグリセリン、アシルアルキルグリセリン、セラミド、12〜24個のC原子を有する第1アルコールもしくは第2アルコールまたはアシルグリセロ−ベンジルエーテルから選択された基を表わし、
は、エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、プロパノールアミン、コリン、グリセリン、オリゴグリセリン、グリコグリセリンまたはセリンから選択された基を表わし、この場合これらの基は、場合によっては保護基を含有していてもよく、
は、C〜C−アルキルまたはC〜C−アルケニルから選択された基を表わすかまたはRを表わす〕で示される化合物。
【請求項2】
は、コレステリン基を表わす、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
は、1−オクタデシル−2−メチル−sn−グリセリン基を表わす、請求項1記載の化合物。
【請求項4】
は、グリセリン基を表わす、請求項1から3までのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
は、グリセリン基を表わす、請求項1から4までのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
コレステリル−ホスホ−ジグリセリン、コレステリル−ホスホ−グリセリングリセログリセリン、コレステリル−ホスホ−ジ−グリコグリセリン、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−ジグリセリン、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−ジグリセリン、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−ジグリセリン、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−ジグリセリン、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−ジ−グリコグリセリン、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−ジ−グリセログリセリンから選択された、請求項1から5までのいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の式(I)による化合物の製造法において、
式(II)
【化2】

で示される化合物を、式(III)
HO−R
で示される化合物でエステル化することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の式(I)による化合物の製造法。
【請求項8】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の化合物を含有するリポソーム。
【請求項9】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の化合物または請求項7記載のリポソームを含有する医薬品。
【請求項10】
癌腫を治療する医薬品を製造するための請求項1から6までのいずれか1項に記載の化合物または請求項8記載のリポソームの使用。

【公表番号】特表2006−501287(P2006−501287A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−540761(P2004−540761)
【出願日】平成15年10月1日(2003.10.1)
【国際出願番号】PCT/EP2003/010870
【国際公開番号】WO2004/031199
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(390040420)マックス−プランク−ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・ヴィッセンシャフテン・エー・ファオ (54)
【住所又は居所原語表記】Berlin,BRD
【Fターム(参考)】