説明

脱墨パルプ、その製造方法及び製造装置、並びにパルプのリサイクルシステム及びリサイクル装置

【課題】低コスト及び簡易な処理であり、環境への負荷を低減し、かつ記録物から白色度の高くて繰り返し利用可能な紙が得られる、脱墨パルプの製造方法を提供する。
【解決手段】水又は水系有機溶媒と顔料とを含む水系インクのうち少なくとも前記顔料がパルプに固着した記録物を離解する離解工程と、前記記録物を水又は水系有機溶媒で洗浄することにより前記記録物から前記顔料を剥離させる処理を含む脱墨工程と、を含む脱墨パルプの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱墨パルプ、その製造方法及び製造装置、並びにパルプのリサイクルシステム及びリサイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パルプ資源の不足や印刷古紙の大量発生などの問題を解消するために、印刷古紙の再利用の重要性が高くなってきている。特に、地球温暖化が進行し、危機的な状況になりつつある現在では、印刷古紙の再利用技術の向上が強く求められている。
【0003】
印刷古紙の再利用技術を向上させるアプローチの一つとして、脱墨処理の向上が挙げられる。従来、古紙再生プロセスに添加される洗浄剤の一種である脱墨剤及びアルカリ剤などを用いたフローテーション処理により、印刷古紙を脱墨して脱墨パルプを得る方法が知られている。近年、再生される脱墨パルプの白色度を高める目的で、脱墨剤を改良した技術が開示されている(特許文献1、2)。
【0004】
また、特にオフィスから出る印刷古紙が非常に多いため、オフィスでの印刷古紙の再利用が強く求められている。そこで、近年では、オフィスで簡易に印刷古紙から再生される脱墨パルプを得る、溶解機と紙抄機で構成されたオールインワン型の古紙再生装置が提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−257081号公報
【特許文献2】特開2006−169668号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「オフィスで古紙を再生 環境配慮、節約にメリット 明光商会とシード」、[online]、2008年11月27日、株式会社ニチマ、文具流通マガジン、インターネット< URL: http://www.nichima.co.jp/news/entry/177.html >
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2に開示の発明では、脱墨剤を種々改良しているが、これらの脱墨剤は、トナーがパルプに固着した記録物には効果があるものの、使用済みの脱墨剤を含む洗浄液が大量に発生して地球環境を悪化させる。また、脱墨剤を用いたフローテーション処理は複雑でコストのかかる処理である。
【0008】
また、非特許文献1に開示の発明では、溶解機及び紙抄機からなる古紙再生装置のうちの溶解機に印刷古紙などの記録物をそのまま投入し、紙抄機を経て再生パルプを得るが、得られる再生パルプは強く着色されている。したがって、同じパルプを繰り返し再生できる回数は非常に限られる。加えて、防腐剤などを頻繁に用いる必要があるため、ランニングコストの高さや装置のメンテナンスの煩雑さの点でも問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、低コスト及び簡易な処理であり、環境への負荷を低減し、かつ記録物から白色度の高くて繰り返し利用可能な、脱墨パルプの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。上述のとおり、脱墨剤を用いたフローテーション処理は複雑でコストのかかる処理である。そこで、本発明者らは、脱墨剤を用いたフローテーション処理を行うことなく脱墨する方法を検討した。その結果、脱墨剤を用いたフローテーション処理は、非水系インク、トナー及びオフセット等の非水系、並びに水系インクのうち、水系インクをパルプに固着して得られる記録物を脱墨するには不要なことを見出した。さらにいえば、当該フローテーション処理は、かかる水系インクのうち少なくとも前記顔料をパルプに固着して得られる記録物を脱墨するには不要なことを見出した。
【0011】
したがって、水又は水系有機溶媒と顔料とを含む水系インクのうち少なくとも前記顔料をパルプに固着して得られる記録物を脱墨の対象とすることにより、脱墨剤を用いたフローテーション処理のない脱墨工程を実現できることに想到し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、以下のとおりである。
【0012】
[1]
水又は水系有機溶媒と顔料とを含む水系インクのうち少なくとも前記顔料がパルプに固着した記録物を離解する離解工程と、
前記記録物を水又は水系有機溶媒で洗浄することにより前記記録物から前記顔料を剥離させる処理を含む脱墨工程と、を含む、脱墨パルプの製造方法。
【0013】
[2]
前記顔料が、50〜200nmの平均粒径を有する、[1]に記載の脱墨パルプの製造方法。
【0014】
[3]
前記脱墨工程は、前記剥離させる処理の後に得られた前記パルプと前記顔料と前記水又は水系有機溶媒との混合液をろ過して、前記パルプと前記顔料及び水又は水系有機溶媒とを実質的に分離する処理をさらに含む、[1]又は[2]に記載の脱墨パルプの製造方法。
【0015】
[4]
前記ろ過は、メッシュサイズとして、目開きが縦横共に0.1mm以上1.5mm以下であり、かつ空間率が30%以上のフィルターを用いて行う、[3]に記載の脱墨パルプの製造方法。
【0016】
[5]
前記ろ過により得られたろ液中の前記顔料を凝集及び沈降させて、前記脱墨工程における洗浄に利用可能な水又は水系有機溶媒を得る再生工程をさらに含む、[3]又は[4]に記載の脱墨パルプの製造方法。
【0017】
[6]
[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法により得られる、脱墨パルプ。
【0018】
[7]
再生パルプである、[6]に記載の脱墨パルプ。
【0019】
[8]
水又は水系有機溶媒と顔料とを含む水系インクのうち少なくとも前記顔料がパルプに固着した記録物を離解する離解手段と、
前記記録物を水又は水系有機溶媒で洗浄することにより、前記記録物から前記顔料を剥離させる手段を含む脱墨手段と、
を少なくとも具備する、脱墨パルプの製造装置。
【0020】
[9]
前記脱墨手段により得られた前記パルプを抄紙して原紙を得、前記原紙に塗工液を塗工して塗工層を形成し、かつ前記原紙に塗工された前記塗工層を平坦にする、パルプの再生手段と、
前記剥離させる手段の後に得られた前記パルプと前記顔料と前記水又は水系有機溶媒との混合液をろ過して得られたろ液中の顔料を凝集及び沈降させて、前記脱墨手段における洗浄に利用可能な水又は水系有機溶媒を得る再生手段と、
をさらに具備する、[8]に記載の脱墨パルプの製造装置。
【0021】
[10]
前記ろ過は、メッシュサイズとして、目開きが縦横共に0.1mm以上1.5mm以下であり、かつ空間率が30%以上のフィルターを用いて行う、[9]に記載の脱墨パルプの製造装置。
【0022】
[11]
水又は水系有機溶媒と顔料とを含む水系インクのうち少なくとも前記顔料がパルプに固着した記録物を離解する離解工程と、
脱墨工程であって、該脱墨工程は、
前記記録物を水又は水系有機溶媒で洗浄することにより前記記録物から前記顔料を剥離させる処理;及び
前記剥離させる処理の後に得られた前記パルプと前記顔料と前記水又は水系有機溶媒との混合液をろ過して、前記パルプと前記顔料及び水又は水系有機溶媒とを実質的に分離する処理;を含む工程と、を含み、
(I)前記脱墨工程に含まれる、前記分離する処理の後に存在するフィルター上のパルプを加工し、利用可能なパルプを得る処理を経て、前記利用可能なパルプを再生紙として印刷し顔料が前記再生紙に固着した記録物を得ること、及び/あるいは、
(II)前記脱墨工程における洗浄に利用可能な水又は水系有機溶媒を得る再生工程を経て、前記利用可能な水又は水系有機溶媒を前記脱墨工程中で再利用することを実行すること、
をさらに含む、パルプのリサイクルシステム。
【0023】
[12]
前記ろ過は、メッシュサイズとして、目開きが縦横共に0.1mm以上1.5mm以下であり、かつ空間率が30%以上のフィルターを用いて行う、[11]に記載のパルプのリサイクルシステム。
【0024】
[13]
再生紙を印刷して顔料が前記再生紙に固着した記録物を得るインクジェットプリンタと、
前記記録物から脱墨パルプとしての前記再生紙を得る[9]又は[10]に記載の脱墨パルプの製造装置と、
を備える、パルプのリサイクル装置。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る脱墨パルプの製造装置の構成を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0027】
本発明における「脱墨パルプ」とは、後述する脱墨工程中の洗浄処理及びそれ以降の処理により得られる、顔料が実質的に剥離した全てのパルプを意味する。そのため、前記脱墨パルプには、本発明に係る製造装置や製造方法で再生されるパルプ(以下、「再生パルプ」、「再生紙」ともいう。)なども含まれる。
本明細書における「印字印写材料」とは、顔料又は染料を含む水系インク、非水系インク、トナー、及びオフセット等を意味する。
【0028】
本発明における「記録物」とは、水系インクを用いた印刷により顔料がパルプ、即ち記録媒体に固着したもの全体を意味し、以下では「印刷パルプ」とも称する。このように、本発明における「記録媒体」とは、顔料が付着する前の媒体を意味する。
まず、本発明に係る脱墨パルプの製造装置及び製造方法の処理対象となる記録物について詳細に説明する。
【0029】
上記の記録物は、上記で定義したとおり、水系インクを用いた印刷により顔料がパルプ、即ち記録媒体に固着したものである。換言すれば、前記記録物は、少なくとも顔料及びパルプ(記録媒体)で構成される。
【0030】
上記の記録物は本発明に係る製造装置や製造方法で再生されるパルプの原料となるものであり、その具体的態様として、インクジェット記録用紙、新聞紙、コート紙、アート紙、微塗工紙などの塗工オフセット印刷用紙、上質紙などの非塗工オフセット印刷用紙、及び電子写真用紙(PPC用紙)等が挙げられる。中でも、填料やコート剤の少ない観点から、電子写真用紙(PPC用紙)、及び新聞紙が好ましい。記録物は、例えば、再生紙として使用された後、リサイクル再生処理のため、本発明に係る製造装置や製造方法で処理されて、上記の脱墨パルプとなる。
なお、上記の顔料及びパルプは、後で詳細に説明することとする。
【0031】
水又は水系有機溶媒で洗浄する対象である「記録物」は、離解した記録物及び離解していない記録物(印刷パルプ)の双方を含む。換言すれば、以下に説明する脱墨工程は、後述の離解工程と同時に行われる場合と、離解工程の後に行われる場合とがある。
本発明における「水系有機溶媒」とは、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒を意味する。
【0032】
[脱墨パルプの製造装置]
本発明の一実施形態は、脱墨パルプの製造装置に係る。図1は、本実施形態に係る脱墨パルプの製造装置の構成を説明するブロック図である。
本実施形態の製造装置は、記録物を再生することを目的として利用することができる。
【0033】
脱墨パルプの製造装置1は、離解手段10と脱墨手段11とを少なくとも備え、さらに任意で、ろ過手段12、パルプの再生手段16、及び水又は水系有機溶媒の再生手段17を備えている。
【0034】
離解手段10は、水又は水系有機溶媒と顔料とを含む水系インクのうち少なくとも前記顔料がパルプに固着した記録物を離解する機能ブロックであり、後述する離解工程を実行可能となるように構成されている。脱墨手段11は、前記記録物を水又は水系有機溶媒で洗浄することにより前記記録物から前記顔料を剥離させる機能ブロックであり、後述する脱墨工程を実行可能となるように構成されている。
【0035】
ろ過手段12は、顔料が剥離されたパルプと顔料と水又は水系有機溶媒との混合液を、ろ過処理する機能ブロックである。
前記ろ過処理は、メッシュサイズとして、目開きが縦横共に0.1mm以上1.5mm以下であり、かつ空間率が30%以上のフィルターを用いて行うことが好ましい。
【0036】
パルプの再生手段16は、具体的に抄紙手段13、塗工層形成手段14、及び平坦化手段15を備える。抄紙手段13は、脱墨手段11により得られた前記パルプに対し抄紙処理を行って原紙を得る機能ブロックである。上記抄紙手段13は例えば後述の抄紙装置であり、具体的な抄紙手段13の処理については後述の抄紙工程において説明する。塗工層形成手段14は、前記原紙に塗工液を塗工して塗工層を形成する機能ブロックである。上記塗工層形成手段14は例えば後述の塗工装置であり、具体的な塗工層形成手段14の処理については後述の塗工工程において説明する。平坦化手段15は、前記原紙に塗工された前記塗工層を平坦化する機能ブロックである。上記平坦化手段15は例えば後述のスーパーカレンダー装置であり、具体的な平坦化手段15の処理については後述の仕上工程において説明する。
【0037】
水又は水系有機溶媒の再生手段17は、前記ろ過手段12により得られたろ液中の顔料を凝集及び沈降させて脱墨手段11における洗浄に利用可能な水又は水系有機溶媒を得るための機能ブロックである。上記水又は水系有機溶媒の再生手段17は、例えば後述の凝集剤を用いた装置であり、具体的な前記水又は水系有機溶媒の再生手段17の処理については、後述の水の再生工程において説明する。
【0038】
本実施形態では、上記の各手段のうち、少なくとも離解手段及び脱墨手段を備えた脱墨パルプの製造装置を用いることにより、低コスト及び簡易な処理を実現し、脱墨剤を用いない点で環境への負荷を低減し、かつ記録物から白色度の高くて繰り返し利用可能な脱墨パルプを得ることができる。
また、上記のさらなる各手段を備えた脱墨パルプの製造装置を用いることにより、再利用可能な脱墨パルプ(再生パルプ)及び洗浄用の水又は水系有機溶媒が得られる点で、環境への負荷を一層低減することができるため、好適である。
【0039】
[脱墨パルプの製造方法]
次に、本発明の他の実施形態として、上記脱墨パルプの製造装置1に適用可能な脱墨パルプの製造方法について、具体的に説明する。本実施形態に係る脱墨パルプの製造方法は、上記特定の製造装置によってのみならず、以下の説明の範囲において他の任意の態様で実施することが可能である。本実施形態の製造方法は、記録物を再生することを目的として利用することができる。
【0040】
本発明に係る製造方法は、水又は水系有機溶媒と顔料とを含む水系インクのうち少なくとも前記顔料がパルプに固着した記録物を離解する離解工程と、前記記録物を水又は水系有機溶媒で洗浄することにより前記記録物から前記顔料を剥離させる処理を含む脱墨工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
以下、本実施形態に係る脱墨パルプの製造方法の例を説明する。
【0041】
まず、パルプにインクを打つことにより、記録物(印刷パルプ)となる。このとき、当該記録物は、水又は水系有機溶媒と顔料とを含む水系インクがパルプに付着した状態となる。
時間が経過するにつれて、水又は水系有機溶媒は蒸発して当該記録物は乾燥した記録物となる。このとき、当該乾燥した記録物は、水又は水系有機溶媒と顔料とを含む水系インクのうち前記顔料がパルプに固着した状態となる。具体的にいえば、前記の固着した状態は、上記の付着した状態の中でも、水系インク中の顔料とパルプとの結合がとりわけ強くなっている。そのため、本発明における「付着」とは、「固着」をも含む概念である。
かかる顔料がパルプに付着した記録物は、離解工程で離解される対象となることができる。ここで、前記対象は、離解の効率の観点から、顔料がパルプに固着した記録物であることが好ましい。
【0042】
処理対象となる記録物に印刷により付着している水系インクとしては、顔料系インクと染料系インクとがあり得る。本製造方法の処理対象となる記録物は、滲み出しを防止する観点から、染料系ではなく顔料系のインクにより記録されたものである。即ち、本実施形態では、好適な再生パルプを得るために、利用する記録物には、顔料系インクという特定のインクが使用される。
顔料系インクに含まれる顔料(以下、「インクジェット顔料」ともいう。)について具体的に説明すると、インクジェット顔料を用いた場合、染料系インクに含まれる染料(以下、「インクジェット染料」ともいう。)を用いた場合と比べて、パルプ繊維がより浄化されるため、紙の再利用性に優れる。また、インクジェット顔料を洗浄した場合、インクジェット染料の場合と比べて、白水、即ちパルプ繊維を洗浄した際にでる洗浄水がより浄化されるため、水を再利用することができ、さらに再生紙に顔料が残りづらいため、他のパルプを汚染することもない。これらのことから、記録物としては、インクジェット染料ではなくインクジェット顔料を含むインクを使用して印刷されたものを特徴とする。
なお、インクジェット顔料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。
【0043】
ここで、顔料系インクは組成物の形態を採るのが通常である。かかる顔料系インク組成物に含まれる成分としては、特に制限されないが、例えば、着色剤、分散剤、浸透促進剤、湿潤剤(保湿剤)及び水、並びにその他の添加剤があり得る。なお、前記着色剤は、本実施形態では顔料である。また、前記その他の添加剤として、例えば、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤及び増粘剤などが挙げられる。
【0044】
本実施形態に係る製造方法で処理可能な顔料は、その平均粒径が50〜200nmの範囲にあるものが好ましい。なぜなら、インクジェット顔料は、上記の範囲内にあることが通常であるためである。また、前記平均粒径は、インクの保存安定性、吐出安定性及び沈降性などの観点から、50〜150nmの範囲にあるものがより好ましい。なお、本明細書における平均粒径の測定方法は、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)を採用する。
【0045】
また、本実施形態に係る製造方法で処理可能な顔料の含有量は、適宜決定されてよいが、紙の再利用性を向上させる観点から、インク組成物中、好ましくは1〜10質量%であり、より好ましくは1〜6質量%である。
【0046】
顔料系インクの中でも、ブラックインクは、表面処理顔料及び、必要に応じて、エマルジョンを用いることができ、カラーインクはポリマー分散剤を用いた顔料やマイクロカプセル化顔料を用いることができる。表面処理顔料、エマルジョン、ポリマー分散剤及びマイクロカプセル化顔料については、公知のものを用いればよく、特に限定されることはない。
【0047】
また、ブラックインクは、紙を再利用するためにパルプからの脱離しやすさと発色性とを両立させる観点から、当該インク顔料表面の酸価が、30〜200mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは50〜150mgKOH/gである。一方、カラーインクは、紙を再利用するためにパルプからの脱離しやすさと発色性とを両立させる観点から、当該インク用の分散ポリマーの酸価が、30〜200mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは50〜150mgKOH/gである。
【0048】
上述した、分散剤、浸透促進剤、湿潤剤(保湿剤)、水及び水系有機溶媒、並びにその他の添加剤については特に限定されることはなく、従来公知の成分を用いることができる。なお、前記の水及び水系有機溶媒は、後述するように、離解工程と脱墨工程とが同時に行われる場合には、脱墨工程で用いられる洗浄用の溶媒を指す。
【0049】
上記インクが印刷された記録媒体を構成するパルプとしては、特に限定されることはなく、公知のパルプを用いることができる。具体例として、化学パルプ及び機械パルプ等の木材パルプ;木綿、アマ、麻、黄麻、マニラ麻及びラミー等を原料とするパルプ;わらパルプ、エスパルトパルプ、バガスパルプ、竹パルプ及びケナフパルプ等の茎稈パルプ;並びに靭皮パルプ等が挙げられる。
【0050】
以下、上記記録物を再生処理する、本実施形態の製造方法の詳細について説明する。
〔離解工程〕
本実施形態における離解工程では、記録物、即ち印刷パルプを水中で繊維状に解きほぐし、スラリーにする。より具体的には、例えば、離解装置に、記録物、及び離解液となる水を収容し、固形分濃度や離解温度などを調整しつつ、乾燥したシート状の記録物、即ち印刷パルプから繊維を個々に分離し、パルプのスラリーを調製する。なお、前記離解液は、離解促進剤や離解助剤などの薬品をさらに含有してもよい。
なお、脱墨工程を行う前に予め印刷パルプから繊維を個々に分離し、パルプのスラリーを調製することにより、脱墨工程を行う際にパルプから顔料を効果的に剥離させることができる。
【0051】
上述の離解促進剤や離解助剤などの薬品は、地球環境の悪化を防止する観点から、離解液に含めないことが好ましい。ただし、本発明の目的を阻害しない範囲で、かかる薬品を離解液に添加してもよい。
なお、前記薬品としては、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物その他のアルカリ剤、離解助剤、脱蛍光剤、消泡剤及び脱墨剤(界面活性剤)などが挙げられる。
【0052】
離解装置としては、特に限定されることはなく、公知の装置、例えば高濃度パルパーや低濃度パルパー等を使用できる。また、離解後に、ニーダー、ディスパーザーやリファイナー等による処理を行ってもよい。
【0053】
離解の際のパルプ濃度として、10〜50質量%(高濃度パルパーの場合)又は2〜10質量%(低濃度パルパーの場合)になるように水を添加し、さらに必要に応じて、上記の薬品をパルプに対して0.1〜5質量%、好ましくは0.3〜3質量%添加する。なお、本明細書における「パルプ濃度」とは、パルプの固形分濃度を意味する。
【0054】
離解温度は、好ましくは10℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上である。温度が高い程、離解液が記録物に浸透し易く、粘度が低下し攪拌し易いため、短時間で十分に離解させることができる。一方、離解温度の上限は、特に限定されることはないが、90℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましい。
【0055】
離解時間は、離解温度と相関があり、離解温度が高いほど離解時間は短くなる。
【0056】
〔除塵工程〕
本実施形態では、離解工程の後であって脱墨工程の前に、記録物、例えば古紙などに含まれる異物やゴミを除去する除塵工程を含んでもよい。
【0057】
除塵の方法は特に限定されない。スクリーンやクリーナー等の除塵装置を用いて、離解工程を経た記録物中の異物を取り除いてもよい。前記スクリーンとしては、スリットスクリーン(1段目0.15mmスリット以下、2段目0.15mmスリット以下)等が挙げられる。前記クリーナーとしては、異物やゴミを効率良く除去することができるものであれば、特に限定されることはない。
【0058】
〔脱墨工程〕
本実施形態における脱墨工程は、記録物を水又は水系有機溶媒で洗浄することにより、記録物から顔料を剥離させる処理を含む。前記脱墨工程により、パルプ繊維に固着している顔料を剥離することができる。
【0059】
ここで、上記の記録物は、何らの工程も経ていない記録物と、上記の離解工程、及び必要に応じて除塵工程を経た記録物と、のうちのいずれかである。換言すれば、前者の記録物とは、上記の脱墨工程が上記の離解工程と同時に行われる場合の記録物であり、一方、後者の記録物とは、上記の脱墨工程が上記の離解工程の後に行われる場合の記録物である。
【0060】
前記脱墨工程は、汚染源となる脱墨剤(界面活性剤)を利用するものではなく、水又は水系有機溶媒を利用した洗浄処理を利用するものである。また、アルカリ剤、及び大掛かりな装置によるフローテーション処理も利用することなく、水又は水系有機溶媒のみを利用した簡素な洗浄処理を利用することが好ましい。
【0061】
このような洗浄処理により、多量の水やエネルギーを必要とせず、かつ低コストで簡易な処理によって、記録物から白色度の高い脱墨パルプが得られる。加えて、脱墨剤及び、場合によりアルカリ剤を実質的に用いることなく、代わりに水又は水系有機溶媒のみを用いるため、水が薬品で汚染されてしまうことを防止でき、環境への負荷を軽減することができる。特に、本実施形態における脱墨工程では、脱墨剤を使用の有無に関わらず、顔料の剥離の程度に変化がないため、脱墨剤は用いないことが好ましい。
【0062】
ここで、本明細書における「脱墨パルプ」とは、上記の定義のとおり、本工程中の洗浄処理及びそれ以降の処理により得られる、顔料が実質的に剥離した全てのパルプを意味する。
【0063】
なお、本実施形態における水系インクを用いて印刷された記録物の場合と異なり、非水系の印字印写材料により得られる記録物の場合には、脱墨剤を用いたフローテーション処理によりインクを除去する必要がある。前記非水系の印字印写材料により得られる記録物としては、例えば、オフセット、グラビア及び凸版などの通常の印刷法により印刷された記録物並びにトナーにより印刷された記録物が挙げられる。
脱墨剤を用いたフローテーション処理で除去できるのは、平均粒径10〜150μm程度のインク粒子に限られるのが通常である上、さらに大きな粒径のインク粒子についてはさらにスクリーンやクリーナー等も用いて除去する必要がある。特にトナーの場合には完全には取り除くことが困難であり、チリ状の汚れが紙に残りやすい。
【0064】
以下、脱墨工程における洗浄処理について詳細に説明する。
洗浄用の溶媒としては、水、又は水系有機溶媒が挙げられる。中でも好ましくは水である。
【0065】
使用可能な水としては、水道水、並びにイオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水及び蒸留水等の純水、超純水、並びに後述の再生された水などが挙げられる。中でも、純水、超純水、及び再生された水が好ましく、さらに環境への負荷を軽減する観点から、再生された水がより好ましい。なお、前記の再生された水は、純水又は超純水に由来することが好ましい。
また、上記の水又は水系有機溶媒をアルカリ処理した溶媒を用いてもよい。
さらに、これらの水を、紫外線照射又は過酸化水素添加などにより滅菌処理した水は、長期間に亘ってカビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。また、必要に応じて、分散剤、高沸点有機溶媒、低沸点有機溶媒や浸透促進剤を含有させてもよい。
【0066】
一方、水系有機溶媒に含有される水溶性有機溶媒としては、特に制限されないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5ーペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール等のアルコール類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類;アセトニルアセトン等のケトン類;γ−ブチロラクトン、ジアセチン、エチレンカーボネート、リン酸トリエチル等のエステル類;ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等の窒素化合物類;ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−プロパンスルトン等の硫黄化合物類;及び、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−イソペンチルオキシエタノール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジアセトンアルコール、モノエタノールアミン、チオジグリコール、モルホリン、N−エチルモルホリン、2−メトキシエチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ヘキサメチルホスホルアミド等の多官能基化合物類が挙げられる。好ましくは、上記で列挙した成分のうちの1種以上である。
【0067】
水と水溶性有機溶媒とを混合する場合、それらの混合比率は特に限定されることはない。また、使用する水溶性有機溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
脱墨装置、即ち洗浄装置として、フローテーション処理を行うフローテーターは複雑でコストがかかるため、用いないことが好ましい。特に、上述のとおり、水又は水系有機溶媒と顔料とを含む水系インクのうち少なくとも前記顔料をパルプに固着して得られる記録物を脱墨するに当たって、脱墨剤の使用の有無によらずフローテーション処理は殆ど効果を奏しないため、フローテーターを用いる必要がない。
【0069】
一方、脱墨工程が上述の離解工程の後に行われる場合の、上記フローテーター以外の装置としては、特に制限されることはない。かかる具体例として、エキストラクター、フォールウオッシャー(栄工機製)、マルチウォッシャー、ドラムエキストラクター/デッカー、バルブレスフィルター、サクションフィルター、ファイバーセパレーター(相川鉄工製)、ダブルニップシックナー(石川島産業機械製)、及び洗浄フィルター装置などが挙げられる。
なお、脱墨工程が上述の離解工程と同時に行われる場合には、脱墨装置として上記の離解装置を用いてもよい。
【0070】
これらの中でも、パルプ繊維とインクとの混在を回避しつつパルプに固着した顔料をパルプから効果的に剥離(除去)させ、得られる再生パルプの着色度を顕著に低下させる観点から、後述の実施例で用いたような洗浄フィルターが好ましく用いられる。より具体的に説明すると、本発明者らは、非特許文献1に開示されたオールインワン型の古紙再生装置を用いて得られる再生パルプが強く着色されている原因を検討した。その結果、かかる原因は、パルプ繊維とインクが混在したまま古紙から再生紙が製造されるためであることを見出した。したがって、古紙を繰り返し再生利用でき、かつ高品質の再生紙を得る観点から、再生紙が得られる過程で、パルプ繊維とインクとの混在を回避することができる洗浄フィルターを用いることが好ましいことを見出した。
【0071】
洗浄処理の際のパルプ濃度は、特に制限されないが、好ましくは3〜30質量%、より好ましくは5〜15質量%である。
【0072】
洗浄処理の温度は、洗浄効率を向上させる観点から、好ましくは40〜80℃、より好ましくは50〜70℃、さらに好ましくは55〜65℃である。
【0073】
洗浄処理の時間は、洗浄効率を向上させる観点から、好ましくは10〜600分であり、より好ましくは20〜300分であり、さらに好ましくは30〜60分である。
【0074】
上記の洗浄処理の後、脱水処理を行うことが好ましい。前記脱水処理においては、脱水装置又は洗浄脱水装置を用いて、パルプ濃度が好ましくは3〜30質量%、より好ましくは5〜15質量%となるまで脱水することが好ましい。上記の洗浄装置として洗浄脱水装置を用いた場合には、洗浄処理に続いて脱水処理を行えばよい。なお、脱水専用の装置としては、特に制限されないが、ディスクエキストラクターやディスクシックナー(相川鉄工製)等が挙げられる。
【0075】
前記脱墨工程は、上記の剥離させる処理の後に得られたパルプと顔料と水又は水系有機溶媒との混合液をろ過して、前記パルプと前記顔料及び水又は水系有機溶媒とを実質的に分離するろ過処理をさらに含むことが好ましい。
前記ろ過処理は、メッシュサイズとして、目開きが縦横共に0.1mm以上1.5mm以下であり、かつ空間率が30%以上のフィルターを用いて行うことが好ましい。
【0076】
上記のろ過処理を行うことにより、フィルター上に存在する分離されたパルプ(スラリー状)に対しては後述するパルプの再生工程を実施し、一方、フィルターを通過したろ液に存在する分離された顔料及び水又は水系有機溶媒に対しては後述する水の再生工程を実施することができる。このような工程を経て、再利用可能な脱墨パルプと、脱墨パルプの製造などに利用可能な水又は水系有機溶媒とが得られ、環境への負荷を顕著に軽減することができる。
【0077】
上記フィルターのメッシュサイズとして、より好ましくは目開きが縦横共に0.3mm以上1.0mm以下であり、かつ空間率が30%以上50%以下、さらに好ましくは目開き縦0.81mm、目開き横0.95mm、かつ空間率43%の単純平織ステンレスメッシュである。なお、ろ過装置については特に限定されることなく、公知のろ過装置を使用することができる。
【0078】
本実施形態の脱墨パルプの製造方法は、パルプの再生工程と、上記脱墨工程での洗浄処理に利用できる水の再生工程とをさらに含むことが好ましい。以下において、パルプの再生工程及び水の再生工程の一例を説明する。
【0079】
まず、上記のパルプの再生工程は、特に限定されないが、例えば、前記脱墨工程により脱墨された原紙を抄紙する抄紙工程と、前記抄紙工程により抄紙された原紙に塗工液を塗工する塗工工程と、前記塗工工程で原紙に塗工された塗工層を平坦にする仕上工程とを含む。
【0080】
なお、上記の抄紙工程に供される原紙とは、上述の脱墨工程により得られた脱墨パルプを意味する。また、前記原紙を抄紙する前に、必要に応じて、サイズ剤、填料、紙力増強剤、薬品安定剤、ろ水剤や嵩高剤などを前記原紙に適宜添加することができる。
【0081】
〔パルプの再生工程〕
<抄紙工程>
本実施形態における抄紙工程は、特に限定されるものではなく、公知の方法を適用することができる。
【0082】
抄紙工程ではまず、上記の調製を施した脱墨パルプを抄紙装置に載せて抄紙する。かかる脱墨パルプの状態は、スラリー状である。抄紙装置は、特に限定されるものではなく、例えば、丸網式抄紙機、短網式抄紙機、長網式抄紙機、ツインワイヤー式抄紙機等を用いることができる。抄紙方法としては、印刷用塗工紙や塗工白板紙を得るための一般的な抄紙方法を適宜選択して用いることができる。
【0083】
また、抄紙工程において、サイズプレスを実施することにより、原紙の表面に塗工液を塗工し、紙力、塗工適性や印刷適性などに優れた原紙とすることができる。上記の塗工液としては、特に限定されないが、例えば、デンプン類、ポリビニルアルコール類、ポリアクリルアミド類及び表面サイズ剤などが挙げられる。また、用いるサイズプレス装置については、特に限定されることはなく、公知のものを用いればよい。
【0084】
さらに、抄紙工程において、カレンダー加工を実施することにより、原紙の表面を平滑化することができる。用いるカレンダー装置については、特に限定されることはない。
【0085】
<塗工層形成工程>
塗工層形成工程では、上記の抄紙工程を経た原紙の両面に、塗工液を塗工し、乾燥して塗工層を原紙の両面に形成し、印刷用塗工紙を得る。この塗工工程により、美しい印刷や艶のある印刷が可能となる塗工紙が得られる。上記の塗工液としては、例えば、顔料及びバインダを主成分とする顔料塗工液が挙げられる。
【0086】
前記顔料としては、特に限定されないが、例えば、炭酸カルシウム、クレー、焼成カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、水酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、シリカ、アルミナ珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、ベントナイト、ゼオライト及びタルク等の無機顔料、並びにプラスチックピグメント及びバインダーピグメント等の有機顔料が挙げられる。
【0087】
前記バインダとしては、特に限定されないが、例えば、デンプン類、タンパク類、セルロース誘導体及びポリビニルアルコールが挙げられる。
【0088】
また、用いる塗工装置については、特に限定されることはなく、例えば、シリンダードライヤー、熱風ドライヤー及びコーターヘッドを備えた装置が挙げられる。
【0089】
<平坦化工程>
平坦化工程(仕上工程)では、塗工工程を経た印刷用塗工紙をスーパーカレンダーに通紙することにより、前記塗工工程で原紙に塗工された塗工層を平坦化するとともに、光沢に優れた印刷用塗工紙を得ることができる。スーパーカレンダー装置としては、特に限定されることはなく、市販のものを用いればよい。温度や線圧といった通紙の条件については、一般的な条件を用いればよく、特に限定されることはない。
【0090】
また、本実施の形態のパルプの再生工程は、裁断工程や巻取工程をさらに含むことができる。
【0091】
<裁断工程、巻取工程>
上記の平坦化工程を経て得られた印刷用塗工紙は、裁断工程を実施することにより平判状の再生紙とすることができる。また、上記の印刷用塗工紙は、巻取工程を実施することによりロール状の再生紙とすることもできる。裁断や巻取の各種条件については、従来公知の条件を適用することができる。
【0092】
次に、上記の水の再生工程は、例えば、上記ろ過により得られたろ液中の顔料を凝集及び沈降させて、脱墨のための洗浄に利用可能な水又は水系有機溶媒を得る再生工程を含む。
【0093】
〔水の再生工程〕
前記ろ過により得られたろ液中の顔料を凝集及び沈降させて、前記脱墨工程における洗浄に利用可能な水又は水系有機溶媒を得る再生工程をさらに含むことが好ましい。
【0094】
上記のろ液は白水であり、顔料が分散しているため濁っている。かかるろ液中の顔料を凝集・沈降させるために、凝集剤を用いてもよい。凝集剤の中でも、再生した紙の印刷安定性の観点から、高分子系凝集剤、酸、及び多価金属塩からなる群より選択される一以上が好ましい。
【0095】
高分子系凝集剤としては、特に制限されないが、例えば、ポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(ポリダドマック)、ポリアミン、ポリエチレンイミン及びポリエチレンオキシドが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(ポリダドマック)及びポリアミンからなる群より選択される一以上が好ましく、ポリビニルアミン及び/又はポリアミンがより好ましい。
【0096】
酸としては、特に制限されないが、例えば、塩析が可能な濃度の塩酸、硫酸、硝酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸及びクロム酸などの無機酸、並びにクエン酸、酢酸、乳酸、酪酸、蟻酸、シュウ酸、アミノ酸、アスコルビン酸及びパラトルエンスルホン酸などの有機酸が挙げられる。これらの中でも、塩酸、硫酸、クエン酸、乳酸、酪酸及びパラトルエンスルホン酸からなる群より選択される一以上が好ましく、塩酸、クエン酸及びパラトルエンスルホン酸からなる群より選択される一以上がより好ましい。
【0097】
多価金属塩としては、特に制限されないが、例えば、チタン塩、クロム塩、銅塩、コバルト塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、鉄塩、アルミニウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩が挙げられる。これらの中でも、アルミニウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩からなる群より選択される一以上が好ましく、カルシウム塩及び/又はマグネシウム塩がより好ましい。
【0098】
また、上記のろ液中の顔料を凝集・沈降させるために、凝集剤を用いず、単にろ液を静置して顔料を沈降させる手段も好ましい。その理由は、凝集剤を用いた場合と比較して、単にろ液を静置した方が、ろ液の混濁が生じにくいからである。凝集剤を用いず、単にろ液を静置する場合の時間としては、特に限定されることはないが、例えば、1時間以上が好ましい。静置時間が1時間以上の場合、自然に凝集して十分沈降するとともに、ろ過効率を十分に高めることができる。
【0099】
このように、本実施形態では、上記の各工程のうち、少なくとも離解工程及び脱墨工程を含む脱墨パルプの製造方法を用いる。これにより、低コスト及び簡易な処理を実現し、脱墨剤を用いない点で環境への負荷を低減し、かつ記録物から白色度が高くて繰り返し利用可能な高品質の脱墨パルプ(再生紙)を得ることができる。
【0100】
[脱墨パルプ]
本発明の他の実施形態は、上記した製造方法により得られる脱墨パルプに係る。前記脱墨パルプは、上記で定義したため、ここでは説明を省略する。
【0101】
前記脱墨パルプは、そのまま印刷用媒体として供することができる観点から、再生パルプであることが好ましい。
【0102】
本実施形態により得られた脱墨パルプのうち再生パルプは、従来に比して高品質の再生パルプとなる観点から、脱墨パルプ表面に残留したカーボンインクの面積率(以下、「残留カーボンインク面積率」という。)が0.1%未満であることが好ましい。なお、本明細書における残留カーボンインク面積率は、後述する実施例に記載の方法に準じて測定する。
【0103】
また、本実施形態により得られた脱墨パルプは、そのまま再生パルプ、即ち再生紙として用いてもよいし、他の種類のパルプなどと配合して再生紙を得てもよい。本実施形態で得られた脱墨パルプは、パルプ白色度が高くて残留カーボンインク面積率が低いため、そのまま再生紙としても、又は他の種類のパルプなどと配合しても、高品質の再生紙を得ることができる。
【0104】
本実施形態により、記録物から製造される再生パルプのパルプ白色度は、好ましくは55以上、より好ましくは60以上である。かかる範囲内の場合、従来に比して高品質の再生パルプとなる。なお、本明細書におけるパルプ白色度は、後述する実施例に記載の方法に準じて測定する。
【0105】
[パルプのリサイクルシステム]
本発明の他の実施形態は、パルプのリサイクルシステムに係る。下記の各工程及び処理は、上記の実施形態である脱墨パルプの製造方法における工程や処理の説明がそのまま引用される。そのため、本実施形態においては、下記の各工程及び処理に関する詳細な説明は省略する。
【0106】
本実施形態における離解工程では、水又は水系有機溶媒と顔料とを含む水系インクのうち少なくとも前記顔料がパルプに固着した記録物を離解する。
【0107】
本実施形態における脱墨工程は、少なくとも下記の2つの処理を含む。第1の処理では、前記記録物を水又は水系有機溶媒で洗浄することにより前記記録物から前記顔料を剥離させる。第2の処理では、前記剥離させる処理の後に得られた前記パルプと前記顔料と前記水又は水系有機溶媒との混合液をろ過して、前記パルプと前記顔料及び水又は水系有機溶媒とを実質的に分離する。
さらに、前記脱墨工程は、第3の処理(以下、「(I)の処理」ともいう。)として、前記分離する処理の後に存在するフィルター上のパルプを加工して利用可能なパルプを得る処理を含み得る。なお、前記加工とは、上述の抄紙などを意味する。
ここで、上記第2の処理におけるろ過は、メッシュサイズとして、目開きが縦横共に0.1mm以上1.5mm以下であり、かつ空間率が30%以上のフィルターを用いて行うことが好ましい。
【0108】
本実施形態における再生工程(以下、「(II)の工程」ともいう。)では、前記ろ過により得られたろ液中の前記顔料を凝集及び沈降させて、前記脱墨工程における洗浄に利用可能な水又は水系有機溶媒を得ることができる。
ここで、本実施形態に係るパルプのリサイクルシステムは、上記の(I)の処理及び(II)の工程のうち少なくともいずれか一方を含んでいればよい。即ち、本実施形態は、(I)の処理もしくは(II)の工程を含むか、又は(I)の処理及び(II)の工程を含む。(I)の処理を含む場合、再生紙として利用可能なパルプを得ることができ、かかる再生紙は後述のように印刷して記録物を得ることができる。一方、(II)の工程を含む場合、脱墨工程における洗浄に利用可能な水又は水系有機溶媒を得ることができ、かつ再生紙などの各種パルプ原料として利用可能な脱墨パルプを得ることができる。
【0109】
さらに、前記(I)の処理を経た前記利用可能なパルプを再生紙として印刷し、顔料が前記再生紙に固着した記録物を得ること、及び/あるいは前記(II)の工程を経た前記利用可能な水又は水系有機溶媒を前記脱墨工程中で再利用することを実行する。これにより、当初の記録物から、再生紙として利用可能な白色度の高いパルプ、及び/あるいは上記脱墨工程における洗浄に利用可能な清澄性に優れた水又は水系有機溶媒をリサイクルすることができる。従って、本実施形態に係るリサイクルシステムは、同じ出発物質を用いて繰り返し実行できる点で非常に優れている。
【0110】
[パルプのリサイクル装置]
本発明の他の実施形態は、パルプのリサイクル装置に係る。
前記パルプのリサイクル装置は、再生紙に画像や文字を印刷するインクジェットプリンタと、上述の脱墨パルプの製造装置とを備える。このリサイクル装置によれば、インクジェットプリンタでの印刷により顔料が再生紙に固着した記録物から、上記脱墨パルプの製造装置を用いて脱墨パルプである白色度の高い再生紙が得られる。この再生紙は再びインクジェットプリンタでの印刷に用いられる。
【0111】
このようなパルプのリサイクル装置を利用することにより、オフィスや工場からパルプ等の廃材及び排水が外に出ることなく、枯渇しつつある資源を有効活用し、かつ環境汚染や環境破壊を効果的に防止することができる。
上記インクジェットプリンタとしては、特に制限されないが、例えば、後出の実施例で用いたセイコーエプソン製のインクジェットプリンタが挙げられる。
【実施例】
【0112】
以下、本実施の形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0113】
[パルプ試料の作製]
後述する実施例、参考例及び比較例において、紙は全て、王子製紙株式会社製のOKプリンス上質紙(米坪64g/mT目A4版)を用いた。印刷は全て、ブラック格子模様かつDuty30%の固定した条件で行った。このようにして印刷された紙、即ち印刷パルプ100gを用意し、相川鉄工製の30L容高濃度パルパーを用い、パルプ濃度が15%となるように水のみを添加し、離解及び脱墨を行った。なお、離解・脱墨温度は60℃、離解・脱墨時間は60分であった。その後、パルプ濃度が20%になるまで脱水することにより、パルプ試料を作製した。
【0114】
[測定方法]
<パルプ白色度及び残留カーボンインク面積率>
上記パルプ試料を、パルプ濃度が0.5%になるまで水で希釈し、米坪100g/mで手抄きした後、風乾した。得られた手抄きシートについて、パルプ白色度及び残留カーボンインク面積率を測定した。
手抄きシートのパルプ白色度はエルレホ白色度測定装置(ローレンツェンアンド ベットレー株式会社製、SE070R)により測定した。また、手抄きシートの残留カーボンインク面積率は、オリンパス工業製顕微鏡STM−UMにデジタルカメラDP−12を取り付け、そのデジタル画像を専用ソフトである画像解析ソフトanarySIS FIVEで測定した。
【0115】
[処理方法]
<アルカリ処理>
上記パルプ試料を、パルプ濃度15%、NaOH濃度3%及び珪酸Na濃度9%に調整して、80℃で3時間処理した。
【0116】
<フローテーション処理>
上記パルプ試料を、パルプ濃度1%まで希釈し、脱墨剤としてライオン株式会社製のレオックス2008C 70%及びレオコールSC−90 30%の混合物を1%添加して、ラボ用フローテーター(極東振興社製 ラボフローテーター)に入れ、180L/hrの空気流量で5分間フローテーションした。
【0117】
[実施例1]
セイコーエプソン製のインクジェットプリンタ(PX−B500)を用いたインクジェット(IJ)法により、インクジェット用の顔料インクを上記の上質紙に印刷して、上記の印刷された紙を作製し、さらに離解、脱墨及び脱水を行って、サンプルである上記パルプ試料を作製した。パルプ試料の作製、並びにパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定は、上記のとおり行った。したがって、本実施例では、上述の離解工程と脱墨工程とを同時に行ったことになる。なお、上記のアルカリ処理及びフローテーション処理は行わなかった。得られたサンプルについてのパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定結果を表1に示す。
【0118】
[実施例2]
上記のフローテーション処理を行った点以外は、実施例1と同様にしてサンプルを作製した。得られたサンプルについてのパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定結果を表1に示す。
【0119】
[実施例3]
上記のアルカリ処理を行った点以外は、実施例1と同様にしてサンプルを作製した。得られたサンプルについてのパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定結果を表1に示す。
【0120】
[実施例4]
上記のアルカリ処理及びフローテーションを行った点以外は、実施例1と同様にしてサンプルを作製した。得られたサンプルについてのパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定結果を表1に示す。
【0121】
[比較例1]
染料タイプである、セイコーエプソン株式会社製のインクジェットプリンタ(PM−A840S)を用いた点以外は実施例1と同様にしてサンプルを作製した。得られたサンプルについてのパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定結果を表1に示す。
【0122】
[比較例2]
染料タイプである、セイコーエプソン株式会社製のインクジェットプリンタ(PM−A840S)を用いた点以外は実施例2と同様にしてサンプルを作製した。得られたサンプルについてのパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定結果を表1に示す。
【0123】
[比較例3]
染料タイプである、セイコーエプソン株式会社製のインクジェットプリンタ(PM−A840S)を用いた点以外は実施例3と同様にしてサンプルを作製した。得られたサンプルについてのパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定結果を表1に示す。
【0124】
[比較例4]
染料タイプである、セイコーエプソン株式会社製のインクジェットプリンタ(PM−A840S)を用いた点以外は実施例4と同様にしてサンプルを作製した。得られたサンプルについてのパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定結果を表1に示す。
【0125】
[比較例5]
セイコーエプソン株式会社製のレーザープリンタ(LP−V500)を用いた点以外は実施例1と同様にしてサンプルを作製した。得られたサンプルについてのパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定結果を表1に示す。
【0126】
[比較例6]
セイコーエプソン株式会社製のレーザープリンタ(LP−V500)を用いた点以外は実施例2と同様にしてサンプルを作製した。得られたサンプルについてのパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定結果を表1に示す。
【0127】
[比較例7]
セイコーエプソン株式会社製のレーザープリンタ(LP−V500)を用いた点以外は実施例3と同様にしてサンプルを作製した。得られたサンプルについてのパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定結果を表1に示す。
【0128】
[比較例8]
セイコーエプソン株式会社製のレーザープリンタ(LP−V500)を用いた点以外は実施例4と同様にしてサンプルを作製した。得られたサンプルについてのパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定結果を表1に示す。
【0129】
[比較例9]
リョービ株式会社製のオフセット印刷機(3303H)を用い、東洋インキ株式会社製のTKハイユニティネオSOY(大豆油)インクを用い、かつオフセット印刷した記録物をサンプルとして用いた点以外は実施例1と同様にしてサンプルを作製した。得られたサンプルについてのパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定結果を表1に示す。
【0130】
[比較例10]
リョービ株式会社製のオフセット印刷機(3303H)を用い、東洋インキ株式会社製のTKハイユニティネオSOY(大豆油)インクを用い、かつオフセット印刷した記録物をサンプルとして用いた点以外は実施例2と同様にしてサンプルを作製した。得られたサンプルについてのパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定結果を表1に示す。
【0131】
[比較例11]
リョービ株式会社製のオフセット印刷機(3303H)を用い、東洋インキ株式会社製のTKハイユニティネオSOY(大豆油)インクを用い、かつオフセット印刷した記録物を用いた点以外は実施例3と同様にしてサンプルを作製した。得られたサンプルについてのパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定結果を表1に示す。
【0132】
[比較例12]
リョービ株式会社製のオフセット印刷機(3303H)を用い、東洋インキ株式会社製のTKハイユニティネオSOY(大豆油)インクを用い、かつオフセット印刷した記録物を用いた点以外は実施例4と同様にしてサンプルを作製した。得られたサンプルについてのパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定結果を表1に示す。
【0133】
【表1】

【0134】
[実施例5]
実施例1で作製したサンプルと離解液である水とから再生紙を作る装置である、古紙再生装置(RPM−1500P及びRPM−1500Sのセット、明光商会・シード製)のうち、溶解機のみを用いた。なお、この古紙再生装置は、上述の非特許文献1に開示された装置である。
上記の古紙再生装置を用いてパルプ試料を洗浄したところ、洗浄後のパルプ試料にインクジェット用インクが目視で確認できるほど残留していた。
【0135】
そこで、上記の洗浄されたパルプ試料からインク成分を取り除くために、洗浄フィルターを用いた。かかる洗浄フィルターを用いた点以外は実施例1と同様にしてサンプルを作製した。したがって、本実施例では、上述の離解工程を行った後に上述の脱墨工程を行ったことになる。得られたサンプルについてのパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定結果を表2に示す。
なお、上記の洗浄フィルターは、装置の内部で洗浄されたパルプ試料を、単純平織ステンレスメッシュ(目開き縦0.81mm、目開き横0.95mm、空間率43%)の上でパルプと洗浄水とに分離し、分離された洗浄水をデプスフィルターにかけ、インク成分を取り除き、得られた水を再利用可能にする装置である。
【0136】
[実施例6]
実施例1で作製したサンプルを用い、実施例5と同じように古紙再生装置のうちの溶解機のみを用い、かつ実施例5の洗浄フィルターを用いなかった点以外は比較例1と同様にしてサンプルを作製した。したがって、本実施例では、上述の離解工程を行った後に上述の脱墨工程を行ったことになる。得られたサンプルについてのパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定結果を表2に示す。
【0137】
[比較例13]
比較例1で作製したサンプルを用い、かつ実施例5と同じ古紙再生装置を用いた点以外は比較例1と同様にしてサンプルを作製した。得られたサンプルについてのパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定結果を表2に示す。
【0138】
[比較例14]
比較例5で作製したサンプルを用い、かつ実施例5と同じ古紙再生装置を用いた点以外は比較例5と同様にしてサンプルを作製した。得られたサンプルについてのパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定結果を表2に示す。
【0139】
[比較例15]
比較例9で作製したサンプルを用い、かつ実施例5と同じ古紙再生装置を用いた点以外は比較例9と同様にしてサンプルを作製した。得られたサンプルについてのパルプ白色度及び残留カーボンインク面積率の測定結果を表2に示す。
【0140】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明は、低コスト及び簡易な処理であり、回収した水が再利用可能なため環境への負荷を低減し、かつ記録物から白色度の高くて高品質な紙が得られる、脱墨パルプの製造方法を提供することができる。かかる製造方法により得られた脱墨パルプは、従来以上に、繰り返し再生可能な紙である点で、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0142】
1 脱墨パルプの製造装置、10 離解手段、11 脱墨手段、12 ろ過手段、13 抄紙手段、14 塗工層形成手段、15 平坦化手段、16 パルプの再生手段、17 水又は水系有機溶媒の再生手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水又は水系有機溶媒と顔料とを含む水系インクのうち少なくとも前記顔料がパルプに固着した記録物を離解する離解工程と、
前記記録物を水又は水系有機溶媒で洗浄することにより前記記録物から前記顔料を剥離させる処理を含む脱墨工程と、を含む、脱墨パルプの製造方法。
【請求項2】
前記顔料が、50〜200nmの平均粒径を有する、請求項1に記載の脱墨パルプの製造方法。
【請求項3】
前記脱墨工程は、前記剥離させる処理の後に得られた前記パルプと前記顔料と前記水又は水系有機溶媒との混合液をろ過して、前記パルプと前記顔料及び水又は水系有機溶媒とを実質的に分離する処理をさらに含む、請求項1又は2に記載の脱墨パルプの製造方法。
【請求項4】
前記ろ過は、メッシュサイズとして、目開きが縦横共に0.1mm以上1.5mm以下であり、かつ空間率が30%以上のフィルターを用いて行う、請求項3に記載の脱墨パルプの製造方法。
【請求項5】
前記ろ過により得られたろ液中の前記顔料を凝集及び沈降させて、前記脱墨工程における洗浄に利用可能な水又は水系有機溶媒を得る再生工程をさらに含む、請求項3又は4に記載の脱墨パルプの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法により得られる、脱墨パルプ。
【請求項7】
再生パルプである、請求項6に記載の脱墨パルプ。
【請求項8】
水又は水系有機溶媒と顔料とを含む水系インクのうち少なくとも前記顔料がパルプに固着した記録物を離解する離解手段と、
前記記録物を水又は水系有機溶媒で洗浄することにより、前記記録物から前記顔料を剥離させる手段を含む脱墨手段と、
を少なくとも具備する、脱墨パルプの製造装置。
【請求項9】
前記脱墨手段により得られた前記パルプを抄紙して原紙を得、前記原紙に塗工液を塗工して塗工層を形成し、かつ前記原紙に塗工された前記塗工層を平坦にする、パルプの再生手段と、
前記剥離させる手段の後に得られた前記パルプと前記顔料と前記水又は水系有機溶媒との混合液をろ過して得られたろ液中の顔料を凝集及び沈降させて、前記脱墨手段における洗浄に利用可能な水又は水系有機溶媒を得る再生手段と、
をさらに具備する、請求項8に記載の脱墨パルプの製造装置。
【請求項10】
前記ろ過は、メッシュサイズとして、目開きが縦横共に0.1mm以上1.5mm以下であり、かつ空間率が30%以上のフィルターを用いて行う、請求項9に記載の脱墨パルプの製造装置。
【請求項11】
水又は水系有機溶媒と顔料とを含む水系インクのうち少なくとも前記顔料がパルプに固着した記録物を離解する離解工程と、
脱墨工程であって、該脱墨工程は、
前記記録物を水又は水系有機溶媒で洗浄することにより前記記録物から前記顔料を剥離させる処理;及び
前記剥離させる処理の後に得られた前記パルプと前記顔料と前記水又は水系有機溶媒との混合液をろ過して、前記パルプと前記顔料及び水又は水系有機溶媒とを実質的に分離する処理;を含む工程と、を含み、
(I)前記脱墨工程に含まれる、前記分離する処理の後に存在するフィルター上のパルプを加工し、利用可能なパルプを得る処理を経て、前記利用可能なパルプを再生紙として印刷し顔料が前記再生紙に固着した記録物を得ること、及び/あるいは、
(II)前記脱墨工程における洗浄に利用可能な水又は水系有機溶媒を得る再生工程を経て、前記利用可能な水又は水系有機溶媒を前記脱墨工程中で再利用することを実行すること、
をさらに含む、パルプのリサイクルシステム。
【請求項12】
前記ろ過は、メッシュサイズとして、目開きが縦横共に0.1mm以上1.5mm以下であり、かつ空間率が30%以上のフィルターを用いて行う、請求項11に記載のパルプのリサイクルシステム。
【請求項13】
再生紙を印刷して顔料が前記再生紙に固着した記録物を得るインクジェットプリンタと、
前記記録物から脱墨パルプとしての前記再生紙を得る請求項9又は10に記載の脱墨パルプの製造装置と、
を備える、パルプのリサイクル装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−94265(P2011−94265A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250148(P2009−250148)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】