脱氷装置、製氷装置、氷蓄熱装置、及び脱氷方法
【課題】効率的に脱氷することができる脱氷装置を提供する。
【解決手段】氷蓄熱装置2は、製氷装置10で製造した氷を蓄熱槽20に貯蓄する。製氷装置10の製氷板11には、脱氷装置100のアクチュエーター110が装着される。製氷装置10では、製氷板11の外側表面に薄氷が形成される。アクチュエーター110は、脱氷装置100の電源から電力が供給されると駆動され、印加された電圧に応じて自ら変形を起こす。この変形によって発生した力が薄氷に作用することにより、薄氷は製氷板11から脱落する。
【解決手段】氷蓄熱装置2は、製氷装置10で製造した氷を蓄熱槽20に貯蓄する。製氷装置10の製氷板11には、脱氷装置100のアクチュエーター110が装着される。製氷装置10では、製氷板11の外側表面に薄氷が形成される。アクチュエーター110は、脱氷装置100の電源から電力が供給されると駆動され、印加された電圧に応じて自ら変形を起こす。この変形によって発生した力が薄氷に作用することにより、薄氷は製氷板11から脱落する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱氷装置、製氷装置、氷蓄熱装置、及び脱氷方法に関し、特に、結氷する部材から氷を脱落させる脱氷装置及び脱氷方法、並びに、該脱氷装置を備える製氷装置、及び該製氷装置を備える氷蓄熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ビル等の建物において日中に冷房を行うために、夜間の安価な電力を用いて冷熱を貯蓄することが行われている。
【0003】
冷熱を貯蓄する蓄熱装置としては、製氷装置を用いて製造した氷を貯蓄する氷蓄熱装置がある。氷蓄熱装置用の製氷装置は、結氷する部材としての製氷板を備えている。製氷装置では、低温の冷媒を製氷板の内部に供給することにより、製氷板が冷却されている。このように冷却された製氷板の外側表面に水を供給することにより、製氷板の外側表面で水が凍結して氷が形成される(結氷)。
【0004】
氷蓄熱装置では、製氷板から氷を脱落(脱氷)させて下方の蓄熱槽に氷を貯蓄している。製氷板の外部において機械的に脱氷を行う脱氷装置としてはワイパーが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1記載のワイパーは、モーターによって駆動されて、製氷板の表面を摺動することにより、製氷板に付着した氷粒を掻き落とすものである。
【特許文献1】特開平03−244986号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記ワイパーを駆動するためには、駆動源としてのモーターが必要となる。また、モーターの駆動力でワイパーに変位(摺動)を起こさせるためには、モーターとワイパーの間に、ギアやカムなどの駆動力伝達機構を設ける必要がある。駆動力伝達機構は、モーターの駆動力の一部を消費(ロス)するため、ワイパーに伝達すべきモーターの駆動力を小さくしてしまう。つまり、駆動力伝達機構を設けると、エネルギー効率が低下することになる。
【0006】
また、製氷板においてワイパーが脱氷可能な面積(最大面積)は、ワイパーが摺動する摺動面積にほぼ等しい。したがって、ワイパーの摺動面積以上に広い面積に亘る脱氷を行うことはできないため、脱氷効率のさらなる向上を期待することはできない。また、製氷板の表面に薄氷が形成されてからワイパーを駆動すると、ワイパーが薄氷上を摺動して脱氷することができない場合がある。
【0007】
本発明の目的は、効率的に脱氷することができる脱氷装置及び脱氷方法を提供することにある。また、該脱氷装置を備える製氷装置、及び該製氷装置を備える氷蓄熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1記載の脱氷装置は、結氷する部材に装着され、変形を起こすことにより前記部材から氷を脱落させることを特徴とする。
【0009】
本発明の脱氷装置によれば、自ら変形を起こし、その変形によって発生した力は、脱氷装置に接触している氷に作用する。この結果、氷の内部には応力が発生し、氷は、部材から自然に脱落する。ここで、脱氷装置が起こすのは、変形であって、変位ではないので、脱氷装置に駆動力伝達機構を設ける必要がなく、エネルギー効率が高い。また、変形によって発生した力が氷に作用するので、変形に要した空間の広さ以上に広い体積に亘る脱氷を行うことができるため、脱氷効率が高い。
【0010】
請求項2記載の脱氷装置は、請求項1記載の脱氷装置において、高分子材料を有するアクチュエーターを備え、当該アクチュエーターは、印加された電圧に応じて前記変形を起こすことを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の脱氷装置によれば、アクチュエーターに電圧を印加するだけでアクチュエーターを駆動する(変形させる)ことができるので、モーターや駆動力伝達機構を脱氷装置に設ける必要がなく、脱氷装置の構成を単純にすることができる。また、アクチュエーターを変形させるために、高分子材料の特性(伸縮性や膨張性)を利用することができる。
【0012】
請求項3記載の脱氷装置は、請求項2記載の脱氷装置において、前記高分子材料は、一対の電極板間に配置されたイオン交換樹脂、電歪ポリマー、及び圧電ポリマーから選択されたいずれかの材料からなるか、又は多孔質の導電性材料からなることを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の脱氷装置によれば、高分子材料が、イオン交換樹脂、導電性材料、電歪ポリマー、圧電ポリマーなどからなるので、アクチュエーターに印加された電圧(電力)の電荷を利用して、イオン交換樹脂や導電性材料に膨張変形を起こしたり、電歪ポリマーや圧電ポリマーに伸張変形を起こしたりすることができる。
【0014】
請求項4記載の脱氷装置は、請求項2又は3記載の脱氷装置において、前記アクチュエーターと前記部材との間に配置された弾性部材を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項4記載の脱氷装置によれば、アクチュエーターと部材との間に弾性部材が配置されているので、弾性部材の弾性により、アクチュエーターの変形を妨げることが防止される。
【0016】
請求項5記載の脱氷装置は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の脱氷装置において、可撓性のある可撓性材料により被覆されていることを特徴とする。
【0017】
請求項5記載の脱氷装置によれば、脱氷装置が変形を起こしたときに、可撓性材料も変形する。これにより、脱氷に際し、可撓性材料の変形によって発生した力も利用することができる。
【0018】
上記目的を達成するために、本発明の請求項6記載の製氷装置は、上述した脱氷装置を少なくとも1つ備えると共に、前記部材として、水を冷却して氷を製造する製氷部材を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明の製氷装置によれば、上述した脱氷装置が奏する効果と同等の効果を奏することができる。つまり、製氷装置は、製氷部材を用いて製造した氷を製氷部材から効率的に脱落させることができる。また、製造した氷が厚くなる前に脱氷を行うことで、製氷装置の製氷効率が低下するのを防止することができる。
【0020】
請求項7記載の製氷装置は、請求項6記載の製氷装置において、前記脱氷装置を複数備えており、当該複数の脱氷装置の各々は互いに離間した状態で前記製氷部材に装着されていることを特徴とする。
【0021】
請求項7記載の製氷装置によれば、複数の脱氷装置を備えているので、より効率的な脱氷を行うことができる。また、複数の脱氷装置の各々が互いに離間しているので、各脱氷装置の変形によって発生した力を同じ場所の氷に作用させることができる。また、脱氷装置が離間している場所では、製氷装置と水との間に脱氷装置が介在しないので、製氷装置の製氷効率が維持される。
【0022】
上記目的を達成するために、本発明の請求項8記載の氷蓄熱装置は、上述した製氷装置と、当該製氷装置が製造した氷を貯蓄する蓄熱槽とを備えることを特徴とする。
【0023】
本発明の氷蓄熱装置によれば、上述した脱氷装置が奏する効果と同等の効果を奏することができる。つまり、氷蓄熱装置は、製氷部材を用いて製造した氷を製氷部材から効率的に脱落させることができると共に、製氷装置の製氷効率の低下が防止される。これにより、製氷時のエネルギー消費量を減少させることができる。
【0024】
上記目的を達成するために、本発明の請求項9記載の脱氷方法は、結氷する部材に装着された脱氷装置に変形を起こさせることにより、前記部材から氷を脱落させることを特徴とする。
【0025】
本発明の脱氷方法によれば、結氷する部材に装着した脱氷装置に変形を起こさせる。その変形によって発生した力は、脱氷装置に接触している氷に作用する。この結果、氷の内部には応力が発生し、氷は、部材から自然に脱落する。ここで、脱氷装置に起こさせるのは、変形であって、変位ではないので、脱氷装置に駆動力伝達機構を設ける必要がなく、エネルギー効率が高い。また、変形によって発生した力が氷に作用するので、変形に要した空間の広さ以上に広い体積に亘る脱氷を行うことができるため、脱氷効率が高い。
【発明の効果】
【0026】
本発明の脱氷装置及び脱氷方法によれば、結氷する部材に装着された脱氷装置に変形を起こさせることにより、効率的に脱氷することができる。また、これにより、脱氷効率が高い脱氷装置を備える製氷装置や、当該製氷装置を備える氷蓄熱装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る氷蓄熱装置を含む冷房システムの構成を概略的に示す模式図である。図1に示す冷房システム1は、例えば、ビル等の建物に設置される。
【0028】
図1に示すように、冷房システム1は、氷蓄熱装置2と、冷房設備3と、熱交換器4とを備えている。氷蓄熱装置2は、建物の屋上に設置され、冷房設備3は、建物のフロアに設置され、熱交換器4は、建物内において、氷蓄熱装置2と冷房設備3の間に設置される。なお、冷房設備3は図1では1台が示されているが、冷房システム1が備える冷房装置は複数台であってもよく、この場合には、建物の各フロアに冷房装置を設置することが好ましい。
【0029】
氷蓄熱装置2は、水を冷却して氷を製造する製氷装置10と、氷や水を貯蓄する蓄熱槽20とを備える。本実施の形態に係る氷蓄熱装置2は、蓄熱槽20の上に製氷装置10が設置された一体型氷蓄熱装置である。氷蓄熱装置2は、製氷装置10で製造した氷を収穫して(脱落させて)、収穫した氷を水と共に蓄熱槽20に貯蓄するハーベストタイプのものである。製氷装置10は、製造した氷を収穫するために、後述する脱氷装置100を備えている。
【0030】
熱交換器4は、図1に示すように、配管5を介して氷蓄熱装置2の蓄熱槽20と接続されており、また、配管6を介して冷房設備3に接続されている。配管5には、蓄熱槽20に貯蓄されている水が循環しており、熱交換器4は、配管5内を流れる水を介して、蓄熱槽20に貯蓄されている氷の潜熱(氷が水に融解するときに生じる熱)を冷熱として取り出す。また、配管6には、冷房設備3内部を通過するように水が循環しており、熱交換器4は、冷房設備3に配管6内を流れる水を介して、冷房設備3に冷熱を供給する。冷房設備3は、熱交換器4で取り出した冷熱を利用して、建物内に冷気を供給する。
【0031】
図1の冷房システム1によれば、氷蓄熱装置2が設置された建物において、夜間に氷蓄熱装置2を稼働し昼間に冷房設備3を稼働することで、夜間に貯蓄した氷を利用した昼間の冷気供給が可能となる。これにより、建物における昼間の省電力を実現することができる。
【0032】
図2は、図1における製氷装置10の構成を概略的に示す側面図である。図3は、図2の製氷装置10の下部の外観を示す斜視図である。図4は、図2の製氷装置10の製氷板の構成及び当該製氷板に装着された脱氷装置100の配置を示す断面図である。
【0033】
図2に示すように、製氷装置10は、複数(図では6枚)の製氷板11と、製氷板11の上端に接続された冷媒供給管12と、製氷板11の下端に接続された冷媒回収管13と、給水管14と、氷破砕装置30とを備えている。また、図3及び図4に示すように、製氷板11には、脱氷装置100のアクチュエーター110が装着されている。アクチュエーター110は、後述するように、電圧が印加されると、自己変形を起こすものであり、製氷板11上に形成された氷を脱落させるために設置されている。また、図2及び図3に示すように、製氷装置10の下部において製氷板11の下方には、断面U字形のトラフ(溝)15が形成されており、氷破砕装置30は、トラフ15内に配設されている。
【0034】
給水管14は、不図示の水源から供給された水を製氷板11に供給するための配管であり、水は配管内孔を通過する。図2に示すように、給水管14は、製氷板11の上方に配置されたシャワーヘッド14aを有する。シャワーヘッド14aは、製氷装置10の稼働時に、製氷板11の外側表面に向かって散水する。なお、給水管14の水源は、蓄熱槽20に貯蓄された水であることが好ましい。
【0035】
製氷板11は、熱伝導性のあるプレート状の部材で構成されている。具体的には、図4に示すように、アルミニウム製又はアルミニウム合金製の下地基板層11aと、下地基板層11aの外側表面を所定の厚さで被覆する熱伝導層11bとから構成されている。熱伝導層11bは、下地基板層11aよりも熱伝導性の高い材料、例えば炭素(カーボン)系材料で構成される。炭素系材料としては、例えば、炭素(グラファイト)を繊維状又はシート状に成形したものを用いることができる。熱伝導層11bは、製氷装置10の製氷効率を向上させるために設けられたものである。そのため、下地基板層11aを構成する材料よりも熱伝導性が高い材料であれば、カーボン系材料以外のものを用いることも可能である。
【0036】
また、製氷板11の下地基板層11a内部には、冷媒が通過するための流路11cが形成されている。
【0037】
冷媒供給管12は、低温の冷媒を製氷板11内部に供給するための配管であり、配管内孔には、冷媒が充填されている。冷媒としては、ハイドロフルオロカーボン系のガス(例えば、R134a,R404A,R407C)を用いることができる。また、冷媒供給管12には、図2に示すように、圧力調整バルブ12aが製氷板11近傍に設けられている。圧力調整バルブ12aは、製氷板11内部に供給される冷媒の圧力や流量を調整する。
【0038】
冷媒回収管13は、製氷板11内部の流路11cを流れた冷媒を回収するための配管であり、冷媒は配管内孔を通過する。なお、冷媒回収管13を用いて回収した冷媒は、図示しない凝縮器による凝縮を経て冷却されて再び冷媒供給管12に供給される。
【0039】
製氷板11内部に形成されている流路11cは、一端で冷媒供給管12の内孔と連通しており、他端で冷媒回収管13の内孔と連通している。これにより、製氷装置10では、冷媒供給管12を介して供給された冷媒が、製氷板11の内部を通過して、冷媒回収管13を介して回収される。
【0040】
また、氷破砕装置30は、図2及び図3に示すように、軸受けによって回転可能に支持されたスクリュー(コンベクター)31で構成されている。スクリュー31は、シャフト31aと、シャフト31aに立設するらせん状回転体である羽根31bとを有している。スクリュー31は、羽根31bで、トラフ15に回収された氷を細かく破砕する。
【0041】
次に、図1の氷蓄熱装置2によって実行される氷蓄熱処理について説明する。
製氷装置10が稼働されると、まず、冷媒供給管12の圧力調整バルブ12aが開き、冷媒供給管12から製氷板11内部の流路11cに冷媒が供給される。冷媒により、製氷板11の内部が冷却され、熱伝導により、製氷板11の外側表面も冷却されて低温となる。
【0042】
このとき、給水管14のシャワーヘッド14aによる散水が開始される。これにより、製氷板11の外側表面に水膜が形成される。製氷板11の外側表面が低温であるため、製氷板11に形成された水膜は凍結する(結氷)。水膜の凍結が進行することによって、例えば10分程度で、厚みが小さい板状の薄氷が製氷板11の外側表面に形成される。なお、凍結しなかった水は、直接に、又は製氷板11の外側表面を伝って流下し、下方のトラフ15で回収される。
【0043】
薄氷が形成されたタイミングで脱氷装置100の電源がONになりアクチュエーター110が駆動される。これにより、アクチュエーター110の自己変形によって発生した力が、製氷板11で製造した薄氷に作用して、図3に示すように、薄氷は、製氷板11から脱落する(脱氷)。脱落した氷は、トラフ15で回収される。トラフ15で回収された氷や水は、蓄熱槽20に流入する。したがって、蓄熱槽20には、氷と水が混在した状態で貯蓄されることになる。氷は、上述した氷破砕装置30により細かく破砕されているので、配管5内を流れることができる。
【0044】
なお、アクチュエーター110は、薄氷が厚くなる前に駆動される。これにより、氷が厚くなって製氷装置10の製氷効率が悪化するのを防止することができる。言い換えると、薄氷が形成される度にアクチュエーター110を駆動することにより製氷効率を向上させることができ、その結果、蓄熱槽20における氷の貯蓄量を増大させることができる。
【0045】
次に、脱氷装置100のアクチュエーター110について詳細に説明する。
本実施の形態に係る脱氷装置100のアクチュエーター110は、高分子材料の特性(伸縮性や膨張性)を利用して自ら変形を起こすように構成された高分子アクチュエーターである。アクチュエーター110は、例えば厚さ2mmのフィルム体であり、厚みが小さい。アクチュエーター110は、フィルム体に配線が接続された状態で、製氷板11の表面に沿って装着される。アクチュエーター110には、配線を介して脱氷装置100の電源(不図示)から電力が供給され、アクチュエーター110は、供給された電力に応じた電圧が印加されることで駆動されて変形を起こす。
【0046】
大別すると、アクチュエーター110には、直動タイプのものと、屈曲タイプのものとの2種類がある。直動タイプのアクチュエーターは、高分子材料が起こす伸張を利用したものであり、駆動されると、フィルム体の水平面に沿う方向(製氷板11の表面に水平な方向)に沿った直線的な動き(直動)の変形を起こす。屈曲タイプのアクチュエーターは、高分子材料が起こす膨張を利用したものであり、駆動されると、フィルム体が屈曲する動きの変形を起こす。
【0047】
まず、第1実施例として、直動タイプの高分子アクチュエーターについて、図5乃至図7を用いて詳細に説明する。
【0048】
図5は、図4における脱氷装置100のアクチュエーター110の第1実施例の構成及びその設置例を示す断面図である。図6は、図5のアクチュエーター110の配置の一例を示す製氷板11の平面図である。
【0049】
図5に示すように、本実施例に係る脱氷装置100のアクチュエーター110は、製氷板11と平行に装着されている。製氷板11に装着される際に、各アクチュエーター110は、被覆材120によりラミネート(被覆)される。ラミネートに用いる被覆材120としては、可撓性のある可撓性材料(例えば、高分子ゲル)が用いられる。
【0050】
図5及び図6に示すように、1枚の製氷板11に装着されているアクチュエーター110の数は複数であり、複数個のアクチュエーター110の各々は、製氷板11上において、互いに離間した状態で装着されている。このように離間させることにより、製氷板11と水との間にアクチュエーター110が介在していない場所では、製氷板11が氷を製造する際の製氷効率が低下するのが防止される。
【0051】
各アクチュエーター110は、図5に示すように、一対の電極板111,111と、一対の電極板111,111間に配置された絶縁層112とから構成されている。絶縁層112は、電極板111,111間に電流が流れないようにする絶縁体で構成されており、本実施例では、絶縁層112が有機物の高分子材料で構成されている。このようなアクチュエーター110は、絶縁層112に2枚の電極板111を接着することで容易に製造することができる。各アクチュエーター110の形状は、図6に示すように、正六角形である。
【0052】
各電極板111は、金(Au)などの金属のプレートで構成されており、可撓性をもたない程度に厚みが大きくなるように成形されている。各電極板111に上記配線が接続される(図示せず)。
【0053】
絶縁層112を構成する高分子材料として、誘電性のある誘電体であってゴムのように伸縮性のある弾性体である電歪ポリマー(electrostrictive polymer)又は圧電ポリマー(piezoelectric polymer)を用いる。このような電歪ポリマーには、アクリルゴム(acrylic rubber)やシリコーンゴム(silicone rubber)があり、圧電ポリマーには、ポリフッ化ビニリデン(PVDF:poly (vinylidene fluoride))などがある。
【0054】
高分子アクチュエーター110は、脱氷装置100の電源がOFFであるとき、図5に示すように、装着時の形状が維持された状態にあり、被覆材120の表面も平ら(フラット)である。このため、製氷板11の表面(被覆材120の表面)には、広い範囲に亘って薄氷が形成される。脱氷装置100の電源がONになると、アクチュエーター110が自己変形した状態になり(図7参照)、アクチュエーター110の変形によって発生した力が製氷板11で製造した薄氷に作用して、薄氷の剥離・破砕が発生し、その結果、薄氷は、製氷板11からトラフ15へと脱落する。
【0055】
図7は、図5のアクチュエーター110の動作原理を説明するのに有用な図であって、製氷板11の断面を模式的に示す図である。図7における細い矢印A,Bは、アクチュエーター110の内部で発生する応力の方向を示しており、太い矢印Cは、被覆材120の内部で発生する応力の方向を示している。
【0056】
脱氷装置100の電源をONにしてアクチュエーター110を駆動すると、電極板111,111間に電位差が生じる。このとき、電極板111,111間の空間には、マクスウェル(Maxwell)応力と呼ばれる力が発生する。マクスウェル応力とは、電場の方向において収縮させる力と(矢印A参照)、電場の方向とは垂直な方向に伸張させる力(矢印B参照)の双方を、同時に電極板111,111間の空間に発生させる応力をいう。
【0057】
ここで、電極板111,111間に、例えば電歪ポリマーが配置されている場合、電極板111,111間の空間に発生したマクスウェル応力により、電歪ポリマーは、電極板111の水平面と垂直な方向に収縮する収縮変形と、電極板111の水平面に水平な方向に伸張する伸張変形とを起こす。このときの変形量(変形方向における長さの変化量)は、収縮変形よりも伸張変形の方が大きい。アクチュエーター110の厚みが小さいためである。
【0058】
伸張変形によって発生した力(矢印B)は、フィルム体側方にある被覆材120に作用する。ここで、図5及び図6に示されているように、アクチュエーター110の側面は、他のアクチュエーター110と対面しているので、他のアクチュエーター110が起こした伸張変形によって発生した力(矢印B)も、フィルム体側方にある被覆材120に作用する。この結果、2つのアクチュエーター110,110の間では、被覆材120を構成する可撓性材料を押し上げる応力(太い矢印C)が発生し、結果的に、被覆材120には、図7に示すような突条部121が形成されるような大きな変形が起きる。突条部121は、実際には、正六角形形状をなすアクチュエーター110の周囲に形成される。なお、図6には、このようにして突条部121が形成される位置が破線Lで示されている。
【0059】
突条部121が形成されると、製氷板11の表面に沿って平らに広く形成されている薄氷にとっては、局所的に力が作用することになるので、薄氷に亀裂(クラック)が入って、薄氷の破砕が促進される。
【0060】
さらには、突条部121が形成されるとき、突条部121の周囲にある可撓性材料の表面部分が突条部121に向かって収縮する。この結果、被覆材120と薄氷との間でそれらの接触面に沿う方向に相対変位が生じる。これにより、被覆材120の表面に形成された薄氷の剥離が促進される。
【0061】
また、電歪ポリマーや圧電ポリマーが収縮変形を起こすと、電極板111,111間の距離が短くなる。この結果、被覆材120と薄氷との間に間隙が形成されるような相対変位が発生する。これによっても、薄氷の剥離が促進される。
【0062】
以上詳細に説明したように、第1実施例に係る脱氷装置100のアクチュエーター110が動作すると、アクチュエーター110の伸張変形によって発生した力がアクチュエーター110近傍の薄氷に作用して、薄氷の剥離・破砕が促進される。また、アクチュエーター110の収縮変形によっても、薄氷の剥離が促進される。これらの結果、効率的な脱氷が実現される。
【0063】
そして、電源をOFFにすると、アクチュエーター110の変形が元に戻って、電歪ポリマーや圧電ポリマー及び可撓性材料は、変形前の状態(図5)に復帰する。続いて、電源をONにすると、電圧の極性(プラス,マイナス)に依らず、上述した伸張変形と同様の伸張変形を起こす。したがって、電源のONとOFFの切り替えを繰り返す(例えば交流電源を用いる)ことにより、アクチュエーター110の伸張変形を繰り返すことが可能である。これにより、脱氷効率をさらに向上させることができる。
【0064】
ここで、アクチュエーター110の配置について図6を用いて詳細に説明する。
上述したように、各アクチュエーター110の外周は、正六角形形状をなしており、複数のアクチュエーター110の各々は、製氷板11上において、互いに離間した状態で製氷板11に装着されている。
【0065】
また、図6に示すように、1つのアクチュエーター110外周をなす各辺は、隣にあるアクチュエーター110の外周をなす辺の1辺と平行となっており、図5に示すように外周側面が対面している。このような配置を繰り返すことで、複数のアクチュエーター110は、図6に示すように、蜂の巣状に配置されている。このような配置を、本明細書では、「ハニカム配置」という。
【0066】
ハニカム配置を採用することにより、2つのアクチュエーター110,110間に形成される突条部121(図7)が形成されやすくなる(図6の破線L参照)。また、図6に示す破線Lが2つのアクチュエーター110,110間の中心線を通っていることから分かるように、破線Lから一方のアクチュエーター110までの距離は、破線Lの交点付近を除いては変化しない。このため、双方のアクチュエーター110,110が可撓性材料に作用させる力は破線L上でほぼ等しい。この結果、破線Lに沿って形成される突条部121の高さは、大部分が同じ程度の高さである。
【0067】
ところで、アクチュエーター110の形状が、例えば円形である場合にも、製氷板11上に破線Lと同様の線(以下、「破断線」という)を考えることができる。しかしながら、円形のアクチュエーターをどのように配置しても、破断線から1つのアクチュエーターまでの距離は変化しており、破断線から1つのアクチュエーターまでの最短距離に該当する場所は1箇所しかない。この結果、アクチュエーターの形状が円形である場合、破断線に沿って形成される突条部121の高さは、アクチュエーターからの距離が最短距離の部分が最も高く、距離が遠くなるにつれて低くなる。このように突条部121の高さが変化すると、薄氷にクラックが入りやすい位置は、突条部121の高さが最も高い場所が中心となる。このため、薄氷の剥離・破砕が十分に促進されず、脱氷効率が悪い。
【0068】
つまり、アクチュエーター110を製氷板11に装着する際に、図6に示すようなハニカム配置を採用することにより、脱氷効率を向上させることができる。
【0069】
以上詳細に説明したように、第1実施例に係る脱氷装置100のアクチュエーター110によれば、アクチュエーター110に電力を供給することにより、アクチュエーター110は自己変形(主に伸張変形)を起こす。この変形によって発生した力は、薄氷に作用して、薄氷の剥離・破砕が促進される。
【0070】
また、アクチュエーター110の変形によって発生した力の薄氷への伝達は、被覆材120を介して行われる。このとき、複数のアクチュエーター110を、図5や図6に示したように側面同士が対面するように配置することで、被覆材120に大きな変形をもたらすことができ、薄氷の剥離・破砕の促進をより効率的に行うことができる。
【0071】
なお、第1実施例では、アクチュエーター110を可撓性部材でラミネートしたが、ラミネートしなくてもよい。この場合には、アクチュエーター110の伸張変形によって発生した力は、アクチュエーター110,110間に形成された薄氷に対して直接的に作用することになる。
【0072】
続いて、第2実施例として、屈曲タイプの高分子アクチュエーターについて、図8乃至図10を用いて詳細に説明する。
【0073】
図8は、図4における脱氷装置100のアクチュエーター110の第2実施例の構成及びその設置例を示す断面図である。
【0074】
図8に示すように、本実施例に係る脱氷装置100のアクチュエーター110は、製氷板11と平行に装着されている。製氷板11に装着される際に、各アクチュエーター110は、弾性部材の一例であるスプリング220により製氷板11と点接続される。図8に示すように、1枚の製氷板11に装着されているアクチュエーター110の数は、多数であり、複数個のアクチュエーター110の各々は、製氷板11上において、互いに離間した状態で装着されている。これにより、第1実施例同様に、製氷効率の低下が防止される。
【0075】
各アクチュエーター110は、図8に示すように、一対の電極板211,211と、一対の電極板211,211間に配置されたイオン伝導層212とから構成されている。イオン伝導層212は、電極板211,211間に電流が流れることを可能にするイオン伝導体で構成されており、本実施例では、イオン伝導層212が有機物の高分子材料で構成されている。このようなアクチュエーター110は、例えば厚さ1.5mmのフィルム状又は薄膜状に成形したイオン伝導層212の2つの面に対して化学メッキを施すことで製造することができる。各アクチュエーター110の形状は、矩形である。
【0076】
各電極板211は、金(Au)などの金属の薄膜で構成されており、可撓性をもたせるために厚みが小さくなるように成形されている。各電極板211に配線が接続される(図示せず)。
【0077】
イオン伝導層212を構成する高分子材料として、ポリエチレン系樹脂(基本骨格)に親水性を付与すると共にイオン交換樹脂化させたもの(以下、「イオン伝導性高分子」という)を用いる。なお、ポリエチレン系樹脂に親水性を付与するためには、ポリエチレン系樹脂に、例えばカルボキシル基(−COOH)を導入すればよい。また、ポリエチレン系樹脂をイオン交換樹脂にするには、ポリエチレン系樹脂に、例えばスルホン基(−SO3H)を導入してプロトン(H+)を金属の陽イオンで置換すればよい。このイオン伝導性高分子は、親水性であるため、極性溶媒である水を取り込むことができ、実際に、本実施例では、水を取り込んで膨潤した状態(ゲル状態)で使用される。
【0078】
高分子アクチュエーター110は、脱氷装置100の電源がOFFであるとき、図8に示すように、装着時の形状が維持された状態にある。また、スプリング220による点接続により、製氷板11とアクチュエーター110の間には空間が形成されている。このため、製氷板11とアクチュエーター110の間には、広い範囲に亘って薄氷が形成される。また、薄氷は、アクチュエーター110の外側表面にも形成される。脱氷装置100の電源がONになると、アクチュエーター110が自己変形した状態になり(図9参照)、アクチュエーター110の変形によって発生した力が製氷板11で製造した薄氷に作用して、薄氷の剥離・破砕が発生し、その結果、薄氷は、製氷板11からトラフ15へと脱落する。
【0079】
図9は、図8のアクチュエーター110の駆動状態を説明するための製氷板11の側面図であり、図9Aは、アクチュエーター110に、ある極性の電圧を印加した場合を示している。
【0080】
脱氷装置100の電源をONにしてアクチュエーター110を駆動すると、一方の電極板211が陽極となり、他方の電極板211が陰極となる。図9Aに示す例では、製氷板11側の電極板211が陰極となっている。このとき、図10を用いて後述する動作原理にしたがってアクチュエーター110内部に応力が発生し、その結果、アクチュエーター110は、製氷板11側に向かって凸となるように屈曲変形を起こす。
【0081】
屈曲変形によって発生した力は、アクチュエーター110の表面に形成されている氷に直接的に作用する。この結果、薄氷に亀裂(クラック)が入って、薄氷の破砕が促進される。また、アクチュエーター110が屈曲変形を起こすと、アクチュエーター110の表面と薄氷との間でそれらの接触面に沿う方向に相対変位が生じる。これにより、アクチュエーター110の表面に形成された薄氷の剥離が促進される。
【0082】
また、アクチュエーター110が屈曲変形を起こす際、スプリング220の弾性により、アクチュエーター110の変形を妨げることが防止されている。このようにすることで、製氷板11とアクチュエーター110の間の空間に形成された氷の破砕の促進も確実に行われる。
【0083】
以上詳細に説明したように、本実施例に係る脱氷装置100のアクチュエーター110が動作すると、アクチュエーター110の屈曲変形によって発生した力がアクチュエーター110近傍の薄氷に作用して、薄氷の剥離・破砕が促進される。この結果、効率的な脱氷が実現される。
【0084】
そして、電源をOFFにすると、アクチュエーター110の変形が元に戻って、アクチュエーター110は、変形前の状態(図8)に復帰する。続いて、電源をONにすると、上述した屈曲変形と同様の屈曲変形を起こす。したがって、電源のONとOFFの切り替えを繰り返すことにより、アクチュエーター110の屈曲変形を繰り返すことが可能である。これにより、さらに脱氷効率を向上させることができる。
【0085】
図9Bは、図9Aとは逆の極性の電圧をアクチュエーター110に印加した場合を示している。
図9Bに示すように、逆の極性の電圧を印加すると、アクチュエーター110は、逆方向に屈曲変形を起こす。そこで、電源をONにする度に、電極板211に印加する電圧の極性を変更する(例えば交流電源を用いる)ことで、図9Aに示す屈曲変形と、図9Bに示す屈曲変形を交互に起こさせることが可能となる。これにより、アクチュエーター110の屈曲可能な範囲が拡大化することになるので、さらに脱氷効率を向上させることができる。
【0086】
次に、図10を用いて、第2実施例に係るアクチュエーター110の動作原理を説明する。
図10は、図8のアクチュエーター110の動作原理を説明するための模式図である。
【0087】
図10Aは、アクチュエーター110に電圧を印加する前の状態を示しており、脱氷装置100の電源がOFFである。そのため、電極板211に電子が供給されることはない。
このとき、イオン伝導層212では、電解質(イオン交換樹脂)であるイオン伝導性高分子が、取り込んだ水により電離(イオン化)した状態にある。具体的には、図10Aに示すように、イオン伝導性高分子は、ポリエチレン系樹脂に導入したスルホン基に由来する陰イオン212aと、金属の陽イオン212bとに分離している。
【0088】
基本骨格であるポリエチレン系樹脂の陰イオン212aに比べて小型の陽イオン212bや水分子213は、イオン伝導層212内で比較的自由に移動することができる。水分子213の自由な移動が可能であるため、イオン伝導層212内における含水率には偏りがない。このような状態(図10A)にあるときには、アクチュエーター110には変形が起こらない。
【0089】
図10Bは、アクチュエーター110に電圧を印加したときの状態を示しており、脱氷装置100の電源がONである。電源をONにすると、一方の電極板211(図では左側の電極板211)に電子が供給されて、その電極板211は陰極となる。陰極は、イオン伝導層212内の陽イオン212bを引き寄せる。このとき、陽イオン212bは水分子213を伴って陰極に向かって移動する。
【0090】
他方の電極板211は、陽極となって、陰イオン212aを引き寄せようとする。しかし、陰イオン212aは、基本骨格を含む大型のものであるため、イオン伝導層212内での流動性が低く、陽極に引き寄せられにくい。
【0091】
これらの結果、イオン伝導層212内において、陰極側では、水分子213の密度が図10Aに示す状態よりも高くなって、イオン伝導性高分子の含水率が上昇し、一方、陽極側では、水分子213の密度が低くなって、イオン伝導性高分子の含水率が低下する。つまり、図10Bに示すように、イオン伝導層212内において、イオン伝導性高分子の含水率に偏りが生じる。
【0092】
上述したように陰極側でイオン伝導性高分子の含水率が上昇する際、イオン伝導性高分子は、図10Aに示す状態よりもさらに膨潤することになる。このようにして、イオン伝導性高分子が膨潤する際にイオン伝導層212内に膨張圧力が生じ、その膨張圧力の大きさに応じて、陰極である電極板211は外側に向かって反るように伸張する変形を起こす。一方、陽極である電極板211は、陰極と同じ方向に反るように収縮する変形を起こす。これらの結果、アクチュエーター110は、図9Aに示したような屈曲変形を起こす。
【0093】
その後、電源がOFFになると、アクチュエーター110の変形が元に戻って、変形前の状態(図10A,図8)に復帰する。
【0094】
図10Cは、図10Bとは逆の極性の電圧をアクチュエーター110に印加したときの状態を示しており、脱氷装置100の電源がONである。電源をONにすると、図10Bを用いて説明した現象と同じ現象が陰極側(図では右側の電極板211)及び陽極側で起きて、アクチュエーター110は、図9Bに示したような屈曲変形を起こす。この場合にも、電源をOFFにすれば、アクチュエーター110の変形が元に戻って、変形前の状態(図10A,図8)に復帰する。
【0095】
以上詳細に説明したように、第2実施例に係る脱氷装置100のアクチュエーター110によれば、アクチュエーター110に電力を供給することにより、アクチュエーター110は、自己変形(屈曲変形)を起こす。この変形によって発生した力は、薄氷に作用して、薄氷の剥離・破砕が促進される。
【0096】
また、アクチュエーター110が、スプリング220などの弾性部材を介して製氷板11と点接続されているので、アクチュエーター110の屈曲変形を妨げることが防止される。このようにすることで、製氷板11とアクチュエーター110の間の空間に形成された氷の破砕の促進も確実に行われる。なお、弾性部材として、スプリング220を例示したが、これに代えてゴムなどを用いてもよい。
【0097】
なお、上述した第2実施例では、高分子材料が起こす膨張変形を利用した屈曲タイプのアクチュエーター110が構成されているが、高分子材料が起こす膨張変形の伸張方向成分を抽出して利用することにより、直動タイプのアクチュエーター110を構成してもよい。直動タイプのアクチュエーター110を構成した場合には、図5に示したように、ラミネートを行うことが有効となる。
【0098】
また、本実施例のように、屈曲タイプのアクチュエーター110を用いる場合には、図5に示したようなラミネートを行う必要はない。このようにラミネートを行う必要がない場合には、製氷板11に熱伝導層11bを設けなくてもよい。
【0099】
図10に示した例では、アクチュエーター110は、高分子材料が電極板211近傍で膨潤している。これに代えて、電極板を高分子材料で構成することにより、電極板そのものが膨潤するように構成することもできる。以下、そのようなアクチュエーター110を第3実施例として説明する。本実施例では、高分子材料で電極板を構成するため、高分子材料としては、導電性のあるもの(以下、「導電性高分子材料」という)が用いられる。
【0100】
図11は、図4に示す脱氷装置100の第3実施例に係るアクチュエーター110の構成を概略的に示す断面図である。
【0101】
図11に示すアクチュエーター110は、図8に示すアクチュエーター110に代えて製氷板11に装着されるものであり、一対の電極板311,312と、一対の電極板311,312間に配置された電解液保持層313とから構成されている。電解液保持層313は、液体を吸収可能な吸収体を有し、本実施例では、その吸収体に電解液が保持されている。したがって、本実施例に係るアクチュエーターは、電解セルと同様の構成をなしている。このようなアクチュエーター110は、電解液を吸収した吸収体を電解液保持層313として、その電解液保持層313を2枚の電極板311,312で挟持し、所定の方法で全体を封止することで製造することができる。封止することで電極板311,312と電解液とが一体化されて電解液の漏出が防止され、これにより、アクチュエーター110を空中で駆動することが可能となる。
【0102】
電解液保持層313の電解液は、電極板311,312間に電流が流れることを可能にするためのものである。電解液は、嵩高いイオン(体積の大きいイオン)に電離可能な電解質を所定の溶媒に溶解させることで調製される。嵩高いイオンは、後述するようにドーパントとして機能する。
【0103】
一対の電極板311,312には、配線が接続される。一方の電極板311は、金(Au)などの金属の薄膜で構成されており、可撓性をもたせるために厚みが小さくなるように成形されている。
【0104】
本実施例では、もう一方の電極板312に、上記導電性高分子材料を用いる。導電性高分子材料としては、多孔質のもの(例えばポリアニリン)が用いられる。多孔質のものを用いることで、電解液中のドーパントを導電性高分子材料にドープ(添加)することが可能となる。
【0105】
図12は、図11のアクチュエーター110の動作原理を説明するのに有用な図である。なお、図12では、電解セルを例に説明する。
【0106】
図12Aは、アクチュエーター110に電圧を印加する前の状態を示しており、脱氷装置100の電源がOFFである。そのため、電極板311又は電極板312に電子が供給されることはない。高分子アクチュエーター110は、装着時の形状が維持された状態にあり、アクチュエーター110には変形が起こらない。
このとき、電解液保持層313では、電解質が溶媒により電離(イオン化)した状態にある。図12に示す例では、電解質は、嵩高い陰イオン313aと、金属の陽イオン313bとに分離している。
【0107】
図12Bは、アクチュエーター110に電圧を印加したときのアクチュエーター110の状態を示しており、脱氷装置100の電源がONである。電源をONにすると、図12Bに示す例では、電極板311に電子が供給されて、その電極板311は陰極となる。陰極は、電解液保持層313内の陽イオン313bを引き寄せる(図示せず)。
【0108】
一方、電極板312は、陽極となって、陰イオン313aを引き寄せる。ここで、電極板312は、多孔質であるため、陰イオン313aを内部に取り込む。つまり、電極板312に陰イオン313a(ドーパント)がドープされる。ドーパントとして、嵩高いものを用いているので、電極板312は、図12Aに示す状態よりもさらに膨潤する。具体的には、電極板312は、取り込んだ陰イオン313aの体積に応じて全表面が膨張する。
【0109】
実際には、本実施例に係る脱氷装置100のアクチュエーター110は、空気中での駆動を可能にすべく封止されているので、全表面が膨張することはなく、例えば、膨張が制限されていない中央部分(周縁部以外の部分)から膨張する。この膨張圧力の大きさに応じて、電極板312は外側に向かって反るように伸張する変形を起こす。一方、電極板311は、陰イオン313aが電極板312に取り込まれたことに起因する電解液保持層313の体積減少を補うように、陽極と同じ方向に向かって収縮する変形を起こす。これらの結果、アクチュエーター110は、第2実施例に係るアクチュエーター110と同様の屈曲変形を起こす。
【0110】
その後、電源がOFFになると、アクチュエーター110の変形が元に戻って、変形前の状態(図12A)に復帰する。
【0111】
図12Cは、図12Bとは逆の極性の電圧をアクチュエーター110に印加したときの状態を示しており、脱氷装置100の電源がONである。電源をONにすると、図12Bを用いて説明した現象(ドープ)と逆の現象(脱ドープ)が起きる。具体的には、電極板312は、取り込んでいた陰イオン313a又はその電解質を電解液保持層313中に陰イオン313aとして放出し、その結果、収縮する。これにより、電解液保持層313の体積が増大して、図11に示すような構成のアクチュエーター110では、陽極である電極板311を外側に向かって膨張させる。ただし、陽極である電極板311は、多孔質のものではないので、陰イオン313aを内部に取り込むことはない。
【0112】
なお、電極板312が収縮した結果、図12Aに示した状態よりも体積が小さくなるように構成するためには、電極板312を製造する際に、予め多孔質の部分に電解質を取り込んでおけばよい。このように構成することで、図11に示すアクチュエーター110は、図12Cに示した状態にあるときに、屈曲変形を確実に起こすことができる。
【0113】
以上詳細に説明したように、本実施例によれば、アクチュエーター110に電力を供給することにより、自己変形(屈曲変形)を起こす。この変形によって発生した力は、薄氷に作用して、薄氷の剥離・破砕が促進される。
【0114】
なお、上述した第3実施例では、電極板そのものが膨張変形を起こすことを利用して、屈曲タイプのアクチュエーター110を構成しているが、膨張変形の伸張方向成分を取り出すことにより、直動タイプのアクチュエーター110を構成してもよい。作製したタイプに応じて、アクチュエーター110は製氷板11に配置・装着される(図5,図8参照)。
【0115】
なお、第3実施例では、電解セルの一方の電極板に高分子材料を用いたが、双方の電極板に高分子材料を用いてもよい。この場合、一方の電極板にドープ可能な導電性材料を用い、他方の電極板に脱ドープ可能な導電性材料を用いることで、電極板間でドーパントの授受を効率的に行うことができる。
【0116】
以上詳細に説明したことをまとめると、本実施の形態では、脱氷装置100のアクチュエーター110に電力を供給することにより、アクチュエーター110が自己変形(伸張変形や屈曲変形)を起こす。アクチュエーター110の変形によって発生した力は、製氷板が製氷した氷に作用する。これにより、製氷板に形成された薄氷の剥離や破砕が促進され、効率的な脱氷を行うことができる。また、アクチュエーター110が変形に要した空間の広さ以上に広い体積に亘る脱氷を行うことができる。したがって、脱氷効率が高い。
【0117】
また、本実施の形態によれば、アクチュエーター110が起こすのは、上述したように変形であって、ワイパーのような脱氷装置が起こす変位とは異なる。したがって、本実施の形態では、アクチュエーター110に、ワイパーのようにギアやカムなどの駆動力伝達機構を設ける必要がなく、エネルギー効率が高い。
【0118】
さらに、本実施の形態によれば、脱氷させるために、製氷板11の外側で変形を起こすアクチュエーター110を用いているので、製氷板11に付着した氷に製氷板11側から熱的エネルギーを投入して氷の一部を融解させる必要がない。さらには、熱エネルギーを投入する必要がないので、無駄なエネルギー消費を削減することができて駆動電圧を小さくすることができると共に、製氷装置10に熱エネルギーを投入することによる製氷装置10内の温度上昇を招くことをなくして製氷効率を向上させることができる。また、熱エネルギーを投入するタイプの氷蓄熱装置では、脱氷中に製氷を行うことができず運転ロスが発生するが、本実施の形態では、製氷中に脱氷を行うことができるので、運転ロスがなく、効率的な稼働を実現させることができる。
【0119】
なお、製氷板側から熱エネルギーを投入するタイプの氷蓄熱装置としては、例えば、回収した冷媒が氷に対して相対的に温かいことを利用して、温かい冷媒をホットガスとして製氷板内部に供給するホットガス供給型のものが知られている。これに対して、本実施の形態では、このようなホットガスを利用する必要がないので、ホットガスを製氷板内部に供給するための配管などが不要であり、氷蓄熱装置2の構成は、ホットガス供給型の氷蓄熱装置の構成よりも単純である。
【0120】
なお、上述した実施の形態では、脱氷装置100のアクチュエーター110の数は、複数に限られることはなく、1つであってもよい。
【0121】
また、脱氷装置100のアクチュエーター110は、高分子材料の特性を利用した高分子アクチュエーター110であるとしたが、自己変形を起こすアクチュエーターであれば上述した効果を奏することができるので、高分子アクチュエーターに限られることはない。
【0122】
また、上述した実施の形態では、氷蓄熱装置2について説明したが、アクチュエーター110は製氷板11に装着されているので、製氷装置10のみの場合(蓄熱槽20及び搬送装置30がない場合)であっても同様の説明が適用される。さらには、製氷板11以外の部材にアクチュエーター110を装着してもよく、例えば窓ガラスの屋外側にアクチュエーター110を装着することにより、窓ガラス表面に形成された氷を脱落させることができる。
【0123】
また、上述した実施の形態では、結氷する部材として、プレート状の製氷板11を用いたが、結氷する部材の形状はプレート状に限られることはなく、例えば、円筒形であってもよい。上述した実施の形態で挙げたようなアクチュエーター110はフィルム状又は薄膜状であるため、円筒形などの部材が有する曲面にも装着することが可能である。
【0124】
また、上述した実施の形態では、アクチュエーター110を製氷板11の表面に装着したが、これに代えて、アクチュエーター110の一部を製氷板11内部に埋設してもよい。この場合、アクチュエーター110は、製氷板11内部から突出した部分で脱氷を行うように構成される。
【0125】
また、アクチュエーター110の形状は、図6に示した例では、正六角形であるとしたが、三角形、正方形、又は長方形であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明の実施の形態に係る氷蓄熱装置を含む冷房システムの構成を概略的に示す模式図である。
【図2】図1における製氷装置の構成を概略的に示す側面図である。
【図3】図2の製氷装置の下部の外観を示す斜視図である。
【図4】図2の製氷装置の製氷板の構成及び当該製氷板に装着された脱氷装置の配置を示す断面図である。
【図5】図4における脱氷装置のアクチュエーターの第1実施例の構成及びその設置例を示す断面図である。
【図6】図5のアクチュエーターの配置の一例を示す製氷板の平面図である。
【図7】図5のアクチュエーターの動作原理を説明するのに有用な図であって、製氷板の断面を模式的に示す図である。
【図8】図4における脱氷装置のアクチュエーターの第2実施例の構成及びその設置例を示す断面図である。
【図9】図8のアクチュエーターの駆動状態を説明するための製氷板の側面図であり、図9Aは、アクチュエーターにある極性の電圧を印加した場合を示しており、図9Bは、図9Aとは逆の極性の電圧をアクチュエーターに印加した場合を示している。
【図10】図8のアクチュエーターの動作原理を説明するための模式図であり、図10Aは、アクチュエーターに電圧を印加する前の状態を示し、図10Bは、アクチュエーターにある極性の電圧を印加したときの状態を示し、図10Cは、図10Bとは逆の極性の電圧をアクチュエーターに印加したときの状態を示している。
【図11】図4における脱氷装置の第3実施例に係るアクチュエーターの構成を示す断面図である。
【図12】図11のアクチュエーターの動作原理を説明するのに有用な図であり、図12Aは、アクチュエーターに電圧を印加する前の状態を示し、図12Bは、アクチュエーターにある極性の電圧を印加したときの状態を示し、図12Cは、図12Bとは逆の極性の電圧をアクチュエーターに印加したときの状態を示している。
【符号の説明】
【0127】
1 冷房システム
2 氷蓄熱装置
3 冷房設備
4 熱交換器
10 製氷装置
11 製氷板
20 蓄熱槽
100 脱氷装置
110 アクチュエーター
120 被覆材
121 突条部
220 スプリング
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱氷装置、製氷装置、氷蓄熱装置、及び脱氷方法に関し、特に、結氷する部材から氷を脱落させる脱氷装置及び脱氷方法、並びに、該脱氷装置を備える製氷装置、及び該製氷装置を備える氷蓄熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ビル等の建物において日中に冷房を行うために、夜間の安価な電力を用いて冷熱を貯蓄することが行われている。
【0003】
冷熱を貯蓄する蓄熱装置としては、製氷装置を用いて製造した氷を貯蓄する氷蓄熱装置がある。氷蓄熱装置用の製氷装置は、結氷する部材としての製氷板を備えている。製氷装置では、低温の冷媒を製氷板の内部に供給することにより、製氷板が冷却されている。このように冷却された製氷板の外側表面に水を供給することにより、製氷板の外側表面で水が凍結して氷が形成される(結氷)。
【0004】
氷蓄熱装置では、製氷板から氷を脱落(脱氷)させて下方の蓄熱槽に氷を貯蓄している。製氷板の外部において機械的に脱氷を行う脱氷装置としてはワイパーが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1記載のワイパーは、モーターによって駆動されて、製氷板の表面を摺動することにより、製氷板に付着した氷粒を掻き落とすものである。
【特許文献1】特開平03−244986号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記ワイパーを駆動するためには、駆動源としてのモーターが必要となる。また、モーターの駆動力でワイパーに変位(摺動)を起こさせるためには、モーターとワイパーの間に、ギアやカムなどの駆動力伝達機構を設ける必要がある。駆動力伝達機構は、モーターの駆動力の一部を消費(ロス)するため、ワイパーに伝達すべきモーターの駆動力を小さくしてしまう。つまり、駆動力伝達機構を設けると、エネルギー効率が低下することになる。
【0006】
また、製氷板においてワイパーが脱氷可能な面積(最大面積)は、ワイパーが摺動する摺動面積にほぼ等しい。したがって、ワイパーの摺動面積以上に広い面積に亘る脱氷を行うことはできないため、脱氷効率のさらなる向上を期待することはできない。また、製氷板の表面に薄氷が形成されてからワイパーを駆動すると、ワイパーが薄氷上を摺動して脱氷することができない場合がある。
【0007】
本発明の目的は、効率的に脱氷することができる脱氷装置及び脱氷方法を提供することにある。また、該脱氷装置を備える製氷装置、及び該製氷装置を備える氷蓄熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1記載の脱氷装置は、結氷する部材に装着され、変形を起こすことにより前記部材から氷を脱落させることを特徴とする。
【0009】
本発明の脱氷装置によれば、自ら変形を起こし、その変形によって発生した力は、脱氷装置に接触している氷に作用する。この結果、氷の内部には応力が発生し、氷は、部材から自然に脱落する。ここで、脱氷装置が起こすのは、変形であって、変位ではないので、脱氷装置に駆動力伝達機構を設ける必要がなく、エネルギー効率が高い。また、変形によって発生した力が氷に作用するので、変形に要した空間の広さ以上に広い体積に亘る脱氷を行うことができるため、脱氷効率が高い。
【0010】
請求項2記載の脱氷装置は、請求項1記載の脱氷装置において、高分子材料を有するアクチュエーターを備え、当該アクチュエーターは、印加された電圧に応じて前記変形を起こすことを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の脱氷装置によれば、アクチュエーターに電圧を印加するだけでアクチュエーターを駆動する(変形させる)ことができるので、モーターや駆動力伝達機構を脱氷装置に設ける必要がなく、脱氷装置の構成を単純にすることができる。また、アクチュエーターを変形させるために、高分子材料の特性(伸縮性や膨張性)を利用することができる。
【0012】
請求項3記載の脱氷装置は、請求項2記載の脱氷装置において、前記高分子材料は、一対の電極板間に配置されたイオン交換樹脂、電歪ポリマー、及び圧電ポリマーから選択されたいずれかの材料からなるか、又は多孔質の導電性材料からなることを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の脱氷装置によれば、高分子材料が、イオン交換樹脂、導電性材料、電歪ポリマー、圧電ポリマーなどからなるので、アクチュエーターに印加された電圧(電力)の電荷を利用して、イオン交換樹脂や導電性材料に膨張変形を起こしたり、電歪ポリマーや圧電ポリマーに伸張変形を起こしたりすることができる。
【0014】
請求項4記載の脱氷装置は、請求項2又は3記載の脱氷装置において、前記アクチュエーターと前記部材との間に配置された弾性部材を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項4記載の脱氷装置によれば、アクチュエーターと部材との間に弾性部材が配置されているので、弾性部材の弾性により、アクチュエーターの変形を妨げることが防止される。
【0016】
請求項5記載の脱氷装置は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の脱氷装置において、可撓性のある可撓性材料により被覆されていることを特徴とする。
【0017】
請求項5記載の脱氷装置によれば、脱氷装置が変形を起こしたときに、可撓性材料も変形する。これにより、脱氷に際し、可撓性材料の変形によって発生した力も利用することができる。
【0018】
上記目的を達成するために、本発明の請求項6記載の製氷装置は、上述した脱氷装置を少なくとも1つ備えると共に、前記部材として、水を冷却して氷を製造する製氷部材を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明の製氷装置によれば、上述した脱氷装置が奏する効果と同等の効果を奏することができる。つまり、製氷装置は、製氷部材を用いて製造した氷を製氷部材から効率的に脱落させることができる。また、製造した氷が厚くなる前に脱氷を行うことで、製氷装置の製氷効率が低下するのを防止することができる。
【0020】
請求項7記載の製氷装置は、請求項6記載の製氷装置において、前記脱氷装置を複数備えており、当該複数の脱氷装置の各々は互いに離間した状態で前記製氷部材に装着されていることを特徴とする。
【0021】
請求項7記載の製氷装置によれば、複数の脱氷装置を備えているので、より効率的な脱氷を行うことができる。また、複数の脱氷装置の各々が互いに離間しているので、各脱氷装置の変形によって発生した力を同じ場所の氷に作用させることができる。また、脱氷装置が離間している場所では、製氷装置と水との間に脱氷装置が介在しないので、製氷装置の製氷効率が維持される。
【0022】
上記目的を達成するために、本発明の請求項8記載の氷蓄熱装置は、上述した製氷装置と、当該製氷装置が製造した氷を貯蓄する蓄熱槽とを備えることを特徴とする。
【0023】
本発明の氷蓄熱装置によれば、上述した脱氷装置が奏する効果と同等の効果を奏することができる。つまり、氷蓄熱装置は、製氷部材を用いて製造した氷を製氷部材から効率的に脱落させることができると共に、製氷装置の製氷効率の低下が防止される。これにより、製氷時のエネルギー消費量を減少させることができる。
【0024】
上記目的を達成するために、本発明の請求項9記載の脱氷方法は、結氷する部材に装着された脱氷装置に変形を起こさせることにより、前記部材から氷を脱落させることを特徴とする。
【0025】
本発明の脱氷方法によれば、結氷する部材に装着した脱氷装置に変形を起こさせる。その変形によって発生した力は、脱氷装置に接触している氷に作用する。この結果、氷の内部には応力が発生し、氷は、部材から自然に脱落する。ここで、脱氷装置に起こさせるのは、変形であって、変位ではないので、脱氷装置に駆動力伝達機構を設ける必要がなく、エネルギー効率が高い。また、変形によって発生した力が氷に作用するので、変形に要した空間の広さ以上に広い体積に亘る脱氷を行うことができるため、脱氷効率が高い。
【発明の効果】
【0026】
本発明の脱氷装置及び脱氷方法によれば、結氷する部材に装着された脱氷装置に変形を起こさせることにより、効率的に脱氷することができる。また、これにより、脱氷効率が高い脱氷装置を備える製氷装置や、当該製氷装置を備える氷蓄熱装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る氷蓄熱装置を含む冷房システムの構成を概略的に示す模式図である。図1に示す冷房システム1は、例えば、ビル等の建物に設置される。
【0028】
図1に示すように、冷房システム1は、氷蓄熱装置2と、冷房設備3と、熱交換器4とを備えている。氷蓄熱装置2は、建物の屋上に設置され、冷房設備3は、建物のフロアに設置され、熱交換器4は、建物内において、氷蓄熱装置2と冷房設備3の間に設置される。なお、冷房設備3は図1では1台が示されているが、冷房システム1が備える冷房装置は複数台であってもよく、この場合には、建物の各フロアに冷房装置を設置することが好ましい。
【0029】
氷蓄熱装置2は、水を冷却して氷を製造する製氷装置10と、氷や水を貯蓄する蓄熱槽20とを備える。本実施の形態に係る氷蓄熱装置2は、蓄熱槽20の上に製氷装置10が設置された一体型氷蓄熱装置である。氷蓄熱装置2は、製氷装置10で製造した氷を収穫して(脱落させて)、収穫した氷を水と共に蓄熱槽20に貯蓄するハーベストタイプのものである。製氷装置10は、製造した氷を収穫するために、後述する脱氷装置100を備えている。
【0030】
熱交換器4は、図1に示すように、配管5を介して氷蓄熱装置2の蓄熱槽20と接続されており、また、配管6を介して冷房設備3に接続されている。配管5には、蓄熱槽20に貯蓄されている水が循環しており、熱交換器4は、配管5内を流れる水を介して、蓄熱槽20に貯蓄されている氷の潜熱(氷が水に融解するときに生じる熱)を冷熱として取り出す。また、配管6には、冷房設備3内部を通過するように水が循環しており、熱交換器4は、冷房設備3に配管6内を流れる水を介して、冷房設備3に冷熱を供給する。冷房設備3は、熱交換器4で取り出した冷熱を利用して、建物内に冷気を供給する。
【0031】
図1の冷房システム1によれば、氷蓄熱装置2が設置された建物において、夜間に氷蓄熱装置2を稼働し昼間に冷房設備3を稼働することで、夜間に貯蓄した氷を利用した昼間の冷気供給が可能となる。これにより、建物における昼間の省電力を実現することができる。
【0032】
図2は、図1における製氷装置10の構成を概略的に示す側面図である。図3は、図2の製氷装置10の下部の外観を示す斜視図である。図4は、図2の製氷装置10の製氷板の構成及び当該製氷板に装着された脱氷装置100の配置を示す断面図である。
【0033】
図2に示すように、製氷装置10は、複数(図では6枚)の製氷板11と、製氷板11の上端に接続された冷媒供給管12と、製氷板11の下端に接続された冷媒回収管13と、給水管14と、氷破砕装置30とを備えている。また、図3及び図4に示すように、製氷板11には、脱氷装置100のアクチュエーター110が装着されている。アクチュエーター110は、後述するように、電圧が印加されると、自己変形を起こすものであり、製氷板11上に形成された氷を脱落させるために設置されている。また、図2及び図3に示すように、製氷装置10の下部において製氷板11の下方には、断面U字形のトラフ(溝)15が形成されており、氷破砕装置30は、トラフ15内に配設されている。
【0034】
給水管14は、不図示の水源から供給された水を製氷板11に供給するための配管であり、水は配管内孔を通過する。図2に示すように、給水管14は、製氷板11の上方に配置されたシャワーヘッド14aを有する。シャワーヘッド14aは、製氷装置10の稼働時に、製氷板11の外側表面に向かって散水する。なお、給水管14の水源は、蓄熱槽20に貯蓄された水であることが好ましい。
【0035】
製氷板11は、熱伝導性のあるプレート状の部材で構成されている。具体的には、図4に示すように、アルミニウム製又はアルミニウム合金製の下地基板層11aと、下地基板層11aの外側表面を所定の厚さで被覆する熱伝導層11bとから構成されている。熱伝導層11bは、下地基板層11aよりも熱伝導性の高い材料、例えば炭素(カーボン)系材料で構成される。炭素系材料としては、例えば、炭素(グラファイト)を繊維状又はシート状に成形したものを用いることができる。熱伝導層11bは、製氷装置10の製氷効率を向上させるために設けられたものである。そのため、下地基板層11aを構成する材料よりも熱伝導性が高い材料であれば、カーボン系材料以外のものを用いることも可能である。
【0036】
また、製氷板11の下地基板層11a内部には、冷媒が通過するための流路11cが形成されている。
【0037】
冷媒供給管12は、低温の冷媒を製氷板11内部に供給するための配管であり、配管内孔には、冷媒が充填されている。冷媒としては、ハイドロフルオロカーボン系のガス(例えば、R134a,R404A,R407C)を用いることができる。また、冷媒供給管12には、図2に示すように、圧力調整バルブ12aが製氷板11近傍に設けられている。圧力調整バルブ12aは、製氷板11内部に供給される冷媒の圧力や流量を調整する。
【0038】
冷媒回収管13は、製氷板11内部の流路11cを流れた冷媒を回収するための配管であり、冷媒は配管内孔を通過する。なお、冷媒回収管13を用いて回収した冷媒は、図示しない凝縮器による凝縮を経て冷却されて再び冷媒供給管12に供給される。
【0039】
製氷板11内部に形成されている流路11cは、一端で冷媒供給管12の内孔と連通しており、他端で冷媒回収管13の内孔と連通している。これにより、製氷装置10では、冷媒供給管12を介して供給された冷媒が、製氷板11の内部を通過して、冷媒回収管13を介して回収される。
【0040】
また、氷破砕装置30は、図2及び図3に示すように、軸受けによって回転可能に支持されたスクリュー(コンベクター)31で構成されている。スクリュー31は、シャフト31aと、シャフト31aに立設するらせん状回転体である羽根31bとを有している。スクリュー31は、羽根31bで、トラフ15に回収された氷を細かく破砕する。
【0041】
次に、図1の氷蓄熱装置2によって実行される氷蓄熱処理について説明する。
製氷装置10が稼働されると、まず、冷媒供給管12の圧力調整バルブ12aが開き、冷媒供給管12から製氷板11内部の流路11cに冷媒が供給される。冷媒により、製氷板11の内部が冷却され、熱伝導により、製氷板11の外側表面も冷却されて低温となる。
【0042】
このとき、給水管14のシャワーヘッド14aによる散水が開始される。これにより、製氷板11の外側表面に水膜が形成される。製氷板11の外側表面が低温であるため、製氷板11に形成された水膜は凍結する(結氷)。水膜の凍結が進行することによって、例えば10分程度で、厚みが小さい板状の薄氷が製氷板11の外側表面に形成される。なお、凍結しなかった水は、直接に、又は製氷板11の外側表面を伝って流下し、下方のトラフ15で回収される。
【0043】
薄氷が形成されたタイミングで脱氷装置100の電源がONになりアクチュエーター110が駆動される。これにより、アクチュエーター110の自己変形によって発生した力が、製氷板11で製造した薄氷に作用して、図3に示すように、薄氷は、製氷板11から脱落する(脱氷)。脱落した氷は、トラフ15で回収される。トラフ15で回収された氷や水は、蓄熱槽20に流入する。したがって、蓄熱槽20には、氷と水が混在した状態で貯蓄されることになる。氷は、上述した氷破砕装置30により細かく破砕されているので、配管5内を流れることができる。
【0044】
なお、アクチュエーター110は、薄氷が厚くなる前に駆動される。これにより、氷が厚くなって製氷装置10の製氷効率が悪化するのを防止することができる。言い換えると、薄氷が形成される度にアクチュエーター110を駆動することにより製氷効率を向上させることができ、その結果、蓄熱槽20における氷の貯蓄量を増大させることができる。
【0045】
次に、脱氷装置100のアクチュエーター110について詳細に説明する。
本実施の形態に係る脱氷装置100のアクチュエーター110は、高分子材料の特性(伸縮性や膨張性)を利用して自ら変形を起こすように構成された高分子アクチュエーターである。アクチュエーター110は、例えば厚さ2mmのフィルム体であり、厚みが小さい。アクチュエーター110は、フィルム体に配線が接続された状態で、製氷板11の表面に沿って装着される。アクチュエーター110には、配線を介して脱氷装置100の電源(不図示)から電力が供給され、アクチュエーター110は、供給された電力に応じた電圧が印加されることで駆動されて変形を起こす。
【0046】
大別すると、アクチュエーター110には、直動タイプのものと、屈曲タイプのものとの2種類がある。直動タイプのアクチュエーターは、高分子材料が起こす伸張を利用したものであり、駆動されると、フィルム体の水平面に沿う方向(製氷板11の表面に水平な方向)に沿った直線的な動き(直動)の変形を起こす。屈曲タイプのアクチュエーターは、高分子材料が起こす膨張を利用したものであり、駆動されると、フィルム体が屈曲する動きの変形を起こす。
【0047】
まず、第1実施例として、直動タイプの高分子アクチュエーターについて、図5乃至図7を用いて詳細に説明する。
【0048】
図5は、図4における脱氷装置100のアクチュエーター110の第1実施例の構成及びその設置例を示す断面図である。図6は、図5のアクチュエーター110の配置の一例を示す製氷板11の平面図である。
【0049】
図5に示すように、本実施例に係る脱氷装置100のアクチュエーター110は、製氷板11と平行に装着されている。製氷板11に装着される際に、各アクチュエーター110は、被覆材120によりラミネート(被覆)される。ラミネートに用いる被覆材120としては、可撓性のある可撓性材料(例えば、高分子ゲル)が用いられる。
【0050】
図5及び図6に示すように、1枚の製氷板11に装着されているアクチュエーター110の数は複数であり、複数個のアクチュエーター110の各々は、製氷板11上において、互いに離間した状態で装着されている。このように離間させることにより、製氷板11と水との間にアクチュエーター110が介在していない場所では、製氷板11が氷を製造する際の製氷効率が低下するのが防止される。
【0051】
各アクチュエーター110は、図5に示すように、一対の電極板111,111と、一対の電極板111,111間に配置された絶縁層112とから構成されている。絶縁層112は、電極板111,111間に電流が流れないようにする絶縁体で構成されており、本実施例では、絶縁層112が有機物の高分子材料で構成されている。このようなアクチュエーター110は、絶縁層112に2枚の電極板111を接着することで容易に製造することができる。各アクチュエーター110の形状は、図6に示すように、正六角形である。
【0052】
各電極板111は、金(Au)などの金属のプレートで構成されており、可撓性をもたない程度に厚みが大きくなるように成形されている。各電極板111に上記配線が接続される(図示せず)。
【0053】
絶縁層112を構成する高分子材料として、誘電性のある誘電体であってゴムのように伸縮性のある弾性体である電歪ポリマー(electrostrictive polymer)又は圧電ポリマー(piezoelectric polymer)を用いる。このような電歪ポリマーには、アクリルゴム(acrylic rubber)やシリコーンゴム(silicone rubber)があり、圧電ポリマーには、ポリフッ化ビニリデン(PVDF:poly (vinylidene fluoride))などがある。
【0054】
高分子アクチュエーター110は、脱氷装置100の電源がOFFであるとき、図5に示すように、装着時の形状が維持された状態にあり、被覆材120の表面も平ら(フラット)である。このため、製氷板11の表面(被覆材120の表面)には、広い範囲に亘って薄氷が形成される。脱氷装置100の電源がONになると、アクチュエーター110が自己変形した状態になり(図7参照)、アクチュエーター110の変形によって発生した力が製氷板11で製造した薄氷に作用して、薄氷の剥離・破砕が発生し、その結果、薄氷は、製氷板11からトラフ15へと脱落する。
【0055】
図7は、図5のアクチュエーター110の動作原理を説明するのに有用な図であって、製氷板11の断面を模式的に示す図である。図7における細い矢印A,Bは、アクチュエーター110の内部で発生する応力の方向を示しており、太い矢印Cは、被覆材120の内部で発生する応力の方向を示している。
【0056】
脱氷装置100の電源をONにしてアクチュエーター110を駆動すると、電極板111,111間に電位差が生じる。このとき、電極板111,111間の空間には、マクスウェル(Maxwell)応力と呼ばれる力が発生する。マクスウェル応力とは、電場の方向において収縮させる力と(矢印A参照)、電場の方向とは垂直な方向に伸張させる力(矢印B参照)の双方を、同時に電極板111,111間の空間に発生させる応力をいう。
【0057】
ここで、電極板111,111間に、例えば電歪ポリマーが配置されている場合、電極板111,111間の空間に発生したマクスウェル応力により、電歪ポリマーは、電極板111の水平面と垂直な方向に収縮する収縮変形と、電極板111の水平面に水平な方向に伸張する伸張変形とを起こす。このときの変形量(変形方向における長さの変化量)は、収縮変形よりも伸張変形の方が大きい。アクチュエーター110の厚みが小さいためである。
【0058】
伸張変形によって発生した力(矢印B)は、フィルム体側方にある被覆材120に作用する。ここで、図5及び図6に示されているように、アクチュエーター110の側面は、他のアクチュエーター110と対面しているので、他のアクチュエーター110が起こした伸張変形によって発生した力(矢印B)も、フィルム体側方にある被覆材120に作用する。この結果、2つのアクチュエーター110,110の間では、被覆材120を構成する可撓性材料を押し上げる応力(太い矢印C)が発生し、結果的に、被覆材120には、図7に示すような突条部121が形成されるような大きな変形が起きる。突条部121は、実際には、正六角形形状をなすアクチュエーター110の周囲に形成される。なお、図6には、このようにして突条部121が形成される位置が破線Lで示されている。
【0059】
突条部121が形成されると、製氷板11の表面に沿って平らに広く形成されている薄氷にとっては、局所的に力が作用することになるので、薄氷に亀裂(クラック)が入って、薄氷の破砕が促進される。
【0060】
さらには、突条部121が形成されるとき、突条部121の周囲にある可撓性材料の表面部分が突条部121に向かって収縮する。この結果、被覆材120と薄氷との間でそれらの接触面に沿う方向に相対変位が生じる。これにより、被覆材120の表面に形成された薄氷の剥離が促進される。
【0061】
また、電歪ポリマーや圧電ポリマーが収縮変形を起こすと、電極板111,111間の距離が短くなる。この結果、被覆材120と薄氷との間に間隙が形成されるような相対変位が発生する。これによっても、薄氷の剥離が促進される。
【0062】
以上詳細に説明したように、第1実施例に係る脱氷装置100のアクチュエーター110が動作すると、アクチュエーター110の伸張変形によって発生した力がアクチュエーター110近傍の薄氷に作用して、薄氷の剥離・破砕が促進される。また、アクチュエーター110の収縮変形によっても、薄氷の剥離が促進される。これらの結果、効率的な脱氷が実現される。
【0063】
そして、電源をOFFにすると、アクチュエーター110の変形が元に戻って、電歪ポリマーや圧電ポリマー及び可撓性材料は、変形前の状態(図5)に復帰する。続いて、電源をONにすると、電圧の極性(プラス,マイナス)に依らず、上述した伸張変形と同様の伸張変形を起こす。したがって、電源のONとOFFの切り替えを繰り返す(例えば交流電源を用いる)ことにより、アクチュエーター110の伸張変形を繰り返すことが可能である。これにより、脱氷効率をさらに向上させることができる。
【0064】
ここで、アクチュエーター110の配置について図6を用いて詳細に説明する。
上述したように、各アクチュエーター110の外周は、正六角形形状をなしており、複数のアクチュエーター110の各々は、製氷板11上において、互いに離間した状態で製氷板11に装着されている。
【0065】
また、図6に示すように、1つのアクチュエーター110外周をなす各辺は、隣にあるアクチュエーター110の外周をなす辺の1辺と平行となっており、図5に示すように外周側面が対面している。このような配置を繰り返すことで、複数のアクチュエーター110は、図6に示すように、蜂の巣状に配置されている。このような配置を、本明細書では、「ハニカム配置」という。
【0066】
ハニカム配置を採用することにより、2つのアクチュエーター110,110間に形成される突条部121(図7)が形成されやすくなる(図6の破線L参照)。また、図6に示す破線Lが2つのアクチュエーター110,110間の中心線を通っていることから分かるように、破線Lから一方のアクチュエーター110までの距離は、破線Lの交点付近を除いては変化しない。このため、双方のアクチュエーター110,110が可撓性材料に作用させる力は破線L上でほぼ等しい。この結果、破線Lに沿って形成される突条部121の高さは、大部分が同じ程度の高さである。
【0067】
ところで、アクチュエーター110の形状が、例えば円形である場合にも、製氷板11上に破線Lと同様の線(以下、「破断線」という)を考えることができる。しかしながら、円形のアクチュエーターをどのように配置しても、破断線から1つのアクチュエーターまでの距離は変化しており、破断線から1つのアクチュエーターまでの最短距離に該当する場所は1箇所しかない。この結果、アクチュエーターの形状が円形である場合、破断線に沿って形成される突条部121の高さは、アクチュエーターからの距離が最短距離の部分が最も高く、距離が遠くなるにつれて低くなる。このように突条部121の高さが変化すると、薄氷にクラックが入りやすい位置は、突条部121の高さが最も高い場所が中心となる。このため、薄氷の剥離・破砕が十分に促進されず、脱氷効率が悪い。
【0068】
つまり、アクチュエーター110を製氷板11に装着する際に、図6に示すようなハニカム配置を採用することにより、脱氷効率を向上させることができる。
【0069】
以上詳細に説明したように、第1実施例に係る脱氷装置100のアクチュエーター110によれば、アクチュエーター110に電力を供給することにより、アクチュエーター110は自己変形(主に伸張変形)を起こす。この変形によって発生した力は、薄氷に作用して、薄氷の剥離・破砕が促進される。
【0070】
また、アクチュエーター110の変形によって発生した力の薄氷への伝達は、被覆材120を介して行われる。このとき、複数のアクチュエーター110を、図5や図6に示したように側面同士が対面するように配置することで、被覆材120に大きな変形をもたらすことができ、薄氷の剥離・破砕の促進をより効率的に行うことができる。
【0071】
なお、第1実施例では、アクチュエーター110を可撓性部材でラミネートしたが、ラミネートしなくてもよい。この場合には、アクチュエーター110の伸張変形によって発生した力は、アクチュエーター110,110間に形成された薄氷に対して直接的に作用することになる。
【0072】
続いて、第2実施例として、屈曲タイプの高分子アクチュエーターについて、図8乃至図10を用いて詳細に説明する。
【0073】
図8は、図4における脱氷装置100のアクチュエーター110の第2実施例の構成及びその設置例を示す断面図である。
【0074】
図8に示すように、本実施例に係る脱氷装置100のアクチュエーター110は、製氷板11と平行に装着されている。製氷板11に装着される際に、各アクチュエーター110は、弾性部材の一例であるスプリング220により製氷板11と点接続される。図8に示すように、1枚の製氷板11に装着されているアクチュエーター110の数は、多数であり、複数個のアクチュエーター110の各々は、製氷板11上において、互いに離間した状態で装着されている。これにより、第1実施例同様に、製氷効率の低下が防止される。
【0075】
各アクチュエーター110は、図8に示すように、一対の電極板211,211と、一対の電極板211,211間に配置されたイオン伝導層212とから構成されている。イオン伝導層212は、電極板211,211間に電流が流れることを可能にするイオン伝導体で構成されており、本実施例では、イオン伝導層212が有機物の高分子材料で構成されている。このようなアクチュエーター110は、例えば厚さ1.5mmのフィルム状又は薄膜状に成形したイオン伝導層212の2つの面に対して化学メッキを施すことで製造することができる。各アクチュエーター110の形状は、矩形である。
【0076】
各電極板211は、金(Au)などの金属の薄膜で構成されており、可撓性をもたせるために厚みが小さくなるように成形されている。各電極板211に配線が接続される(図示せず)。
【0077】
イオン伝導層212を構成する高分子材料として、ポリエチレン系樹脂(基本骨格)に親水性を付与すると共にイオン交換樹脂化させたもの(以下、「イオン伝導性高分子」という)を用いる。なお、ポリエチレン系樹脂に親水性を付与するためには、ポリエチレン系樹脂に、例えばカルボキシル基(−COOH)を導入すればよい。また、ポリエチレン系樹脂をイオン交換樹脂にするには、ポリエチレン系樹脂に、例えばスルホン基(−SO3H)を導入してプロトン(H+)を金属の陽イオンで置換すればよい。このイオン伝導性高分子は、親水性であるため、極性溶媒である水を取り込むことができ、実際に、本実施例では、水を取り込んで膨潤した状態(ゲル状態)で使用される。
【0078】
高分子アクチュエーター110は、脱氷装置100の電源がOFFであるとき、図8に示すように、装着時の形状が維持された状態にある。また、スプリング220による点接続により、製氷板11とアクチュエーター110の間には空間が形成されている。このため、製氷板11とアクチュエーター110の間には、広い範囲に亘って薄氷が形成される。また、薄氷は、アクチュエーター110の外側表面にも形成される。脱氷装置100の電源がONになると、アクチュエーター110が自己変形した状態になり(図9参照)、アクチュエーター110の変形によって発生した力が製氷板11で製造した薄氷に作用して、薄氷の剥離・破砕が発生し、その結果、薄氷は、製氷板11からトラフ15へと脱落する。
【0079】
図9は、図8のアクチュエーター110の駆動状態を説明するための製氷板11の側面図であり、図9Aは、アクチュエーター110に、ある極性の電圧を印加した場合を示している。
【0080】
脱氷装置100の電源をONにしてアクチュエーター110を駆動すると、一方の電極板211が陽極となり、他方の電極板211が陰極となる。図9Aに示す例では、製氷板11側の電極板211が陰極となっている。このとき、図10を用いて後述する動作原理にしたがってアクチュエーター110内部に応力が発生し、その結果、アクチュエーター110は、製氷板11側に向かって凸となるように屈曲変形を起こす。
【0081】
屈曲変形によって発生した力は、アクチュエーター110の表面に形成されている氷に直接的に作用する。この結果、薄氷に亀裂(クラック)が入って、薄氷の破砕が促進される。また、アクチュエーター110が屈曲変形を起こすと、アクチュエーター110の表面と薄氷との間でそれらの接触面に沿う方向に相対変位が生じる。これにより、アクチュエーター110の表面に形成された薄氷の剥離が促進される。
【0082】
また、アクチュエーター110が屈曲変形を起こす際、スプリング220の弾性により、アクチュエーター110の変形を妨げることが防止されている。このようにすることで、製氷板11とアクチュエーター110の間の空間に形成された氷の破砕の促進も確実に行われる。
【0083】
以上詳細に説明したように、本実施例に係る脱氷装置100のアクチュエーター110が動作すると、アクチュエーター110の屈曲変形によって発生した力がアクチュエーター110近傍の薄氷に作用して、薄氷の剥離・破砕が促進される。この結果、効率的な脱氷が実現される。
【0084】
そして、電源をOFFにすると、アクチュエーター110の変形が元に戻って、アクチュエーター110は、変形前の状態(図8)に復帰する。続いて、電源をONにすると、上述した屈曲変形と同様の屈曲変形を起こす。したがって、電源のONとOFFの切り替えを繰り返すことにより、アクチュエーター110の屈曲変形を繰り返すことが可能である。これにより、さらに脱氷効率を向上させることができる。
【0085】
図9Bは、図9Aとは逆の極性の電圧をアクチュエーター110に印加した場合を示している。
図9Bに示すように、逆の極性の電圧を印加すると、アクチュエーター110は、逆方向に屈曲変形を起こす。そこで、電源をONにする度に、電極板211に印加する電圧の極性を変更する(例えば交流電源を用いる)ことで、図9Aに示す屈曲変形と、図9Bに示す屈曲変形を交互に起こさせることが可能となる。これにより、アクチュエーター110の屈曲可能な範囲が拡大化することになるので、さらに脱氷効率を向上させることができる。
【0086】
次に、図10を用いて、第2実施例に係るアクチュエーター110の動作原理を説明する。
図10は、図8のアクチュエーター110の動作原理を説明するための模式図である。
【0087】
図10Aは、アクチュエーター110に電圧を印加する前の状態を示しており、脱氷装置100の電源がOFFである。そのため、電極板211に電子が供給されることはない。
このとき、イオン伝導層212では、電解質(イオン交換樹脂)であるイオン伝導性高分子が、取り込んだ水により電離(イオン化)した状態にある。具体的には、図10Aに示すように、イオン伝導性高分子は、ポリエチレン系樹脂に導入したスルホン基に由来する陰イオン212aと、金属の陽イオン212bとに分離している。
【0088】
基本骨格であるポリエチレン系樹脂の陰イオン212aに比べて小型の陽イオン212bや水分子213は、イオン伝導層212内で比較的自由に移動することができる。水分子213の自由な移動が可能であるため、イオン伝導層212内における含水率には偏りがない。このような状態(図10A)にあるときには、アクチュエーター110には変形が起こらない。
【0089】
図10Bは、アクチュエーター110に電圧を印加したときの状態を示しており、脱氷装置100の電源がONである。電源をONにすると、一方の電極板211(図では左側の電極板211)に電子が供給されて、その電極板211は陰極となる。陰極は、イオン伝導層212内の陽イオン212bを引き寄せる。このとき、陽イオン212bは水分子213を伴って陰極に向かって移動する。
【0090】
他方の電極板211は、陽極となって、陰イオン212aを引き寄せようとする。しかし、陰イオン212aは、基本骨格を含む大型のものであるため、イオン伝導層212内での流動性が低く、陽極に引き寄せられにくい。
【0091】
これらの結果、イオン伝導層212内において、陰極側では、水分子213の密度が図10Aに示す状態よりも高くなって、イオン伝導性高分子の含水率が上昇し、一方、陽極側では、水分子213の密度が低くなって、イオン伝導性高分子の含水率が低下する。つまり、図10Bに示すように、イオン伝導層212内において、イオン伝導性高分子の含水率に偏りが生じる。
【0092】
上述したように陰極側でイオン伝導性高分子の含水率が上昇する際、イオン伝導性高分子は、図10Aに示す状態よりもさらに膨潤することになる。このようにして、イオン伝導性高分子が膨潤する際にイオン伝導層212内に膨張圧力が生じ、その膨張圧力の大きさに応じて、陰極である電極板211は外側に向かって反るように伸張する変形を起こす。一方、陽極である電極板211は、陰極と同じ方向に反るように収縮する変形を起こす。これらの結果、アクチュエーター110は、図9Aに示したような屈曲変形を起こす。
【0093】
その後、電源がOFFになると、アクチュエーター110の変形が元に戻って、変形前の状態(図10A,図8)に復帰する。
【0094】
図10Cは、図10Bとは逆の極性の電圧をアクチュエーター110に印加したときの状態を示しており、脱氷装置100の電源がONである。電源をONにすると、図10Bを用いて説明した現象と同じ現象が陰極側(図では右側の電極板211)及び陽極側で起きて、アクチュエーター110は、図9Bに示したような屈曲変形を起こす。この場合にも、電源をOFFにすれば、アクチュエーター110の変形が元に戻って、変形前の状態(図10A,図8)に復帰する。
【0095】
以上詳細に説明したように、第2実施例に係る脱氷装置100のアクチュエーター110によれば、アクチュエーター110に電力を供給することにより、アクチュエーター110は、自己変形(屈曲変形)を起こす。この変形によって発生した力は、薄氷に作用して、薄氷の剥離・破砕が促進される。
【0096】
また、アクチュエーター110が、スプリング220などの弾性部材を介して製氷板11と点接続されているので、アクチュエーター110の屈曲変形を妨げることが防止される。このようにすることで、製氷板11とアクチュエーター110の間の空間に形成された氷の破砕の促進も確実に行われる。なお、弾性部材として、スプリング220を例示したが、これに代えてゴムなどを用いてもよい。
【0097】
なお、上述した第2実施例では、高分子材料が起こす膨張変形を利用した屈曲タイプのアクチュエーター110が構成されているが、高分子材料が起こす膨張変形の伸張方向成分を抽出して利用することにより、直動タイプのアクチュエーター110を構成してもよい。直動タイプのアクチュエーター110を構成した場合には、図5に示したように、ラミネートを行うことが有効となる。
【0098】
また、本実施例のように、屈曲タイプのアクチュエーター110を用いる場合には、図5に示したようなラミネートを行う必要はない。このようにラミネートを行う必要がない場合には、製氷板11に熱伝導層11bを設けなくてもよい。
【0099】
図10に示した例では、アクチュエーター110は、高分子材料が電極板211近傍で膨潤している。これに代えて、電極板を高分子材料で構成することにより、電極板そのものが膨潤するように構成することもできる。以下、そのようなアクチュエーター110を第3実施例として説明する。本実施例では、高分子材料で電極板を構成するため、高分子材料としては、導電性のあるもの(以下、「導電性高分子材料」という)が用いられる。
【0100】
図11は、図4に示す脱氷装置100の第3実施例に係るアクチュエーター110の構成を概略的に示す断面図である。
【0101】
図11に示すアクチュエーター110は、図8に示すアクチュエーター110に代えて製氷板11に装着されるものであり、一対の電極板311,312と、一対の電極板311,312間に配置された電解液保持層313とから構成されている。電解液保持層313は、液体を吸収可能な吸収体を有し、本実施例では、その吸収体に電解液が保持されている。したがって、本実施例に係るアクチュエーターは、電解セルと同様の構成をなしている。このようなアクチュエーター110は、電解液を吸収した吸収体を電解液保持層313として、その電解液保持層313を2枚の電極板311,312で挟持し、所定の方法で全体を封止することで製造することができる。封止することで電極板311,312と電解液とが一体化されて電解液の漏出が防止され、これにより、アクチュエーター110を空中で駆動することが可能となる。
【0102】
電解液保持層313の電解液は、電極板311,312間に電流が流れることを可能にするためのものである。電解液は、嵩高いイオン(体積の大きいイオン)に電離可能な電解質を所定の溶媒に溶解させることで調製される。嵩高いイオンは、後述するようにドーパントとして機能する。
【0103】
一対の電極板311,312には、配線が接続される。一方の電極板311は、金(Au)などの金属の薄膜で構成されており、可撓性をもたせるために厚みが小さくなるように成形されている。
【0104】
本実施例では、もう一方の電極板312に、上記導電性高分子材料を用いる。導電性高分子材料としては、多孔質のもの(例えばポリアニリン)が用いられる。多孔質のものを用いることで、電解液中のドーパントを導電性高分子材料にドープ(添加)することが可能となる。
【0105】
図12は、図11のアクチュエーター110の動作原理を説明するのに有用な図である。なお、図12では、電解セルを例に説明する。
【0106】
図12Aは、アクチュエーター110に電圧を印加する前の状態を示しており、脱氷装置100の電源がOFFである。そのため、電極板311又は電極板312に電子が供給されることはない。高分子アクチュエーター110は、装着時の形状が維持された状態にあり、アクチュエーター110には変形が起こらない。
このとき、電解液保持層313では、電解質が溶媒により電離(イオン化)した状態にある。図12に示す例では、電解質は、嵩高い陰イオン313aと、金属の陽イオン313bとに分離している。
【0107】
図12Bは、アクチュエーター110に電圧を印加したときのアクチュエーター110の状態を示しており、脱氷装置100の電源がONである。電源をONにすると、図12Bに示す例では、電極板311に電子が供給されて、その電極板311は陰極となる。陰極は、電解液保持層313内の陽イオン313bを引き寄せる(図示せず)。
【0108】
一方、電極板312は、陽極となって、陰イオン313aを引き寄せる。ここで、電極板312は、多孔質であるため、陰イオン313aを内部に取り込む。つまり、電極板312に陰イオン313a(ドーパント)がドープされる。ドーパントとして、嵩高いものを用いているので、電極板312は、図12Aに示す状態よりもさらに膨潤する。具体的には、電極板312は、取り込んだ陰イオン313aの体積に応じて全表面が膨張する。
【0109】
実際には、本実施例に係る脱氷装置100のアクチュエーター110は、空気中での駆動を可能にすべく封止されているので、全表面が膨張することはなく、例えば、膨張が制限されていない中央部分(周縁部以外の部分)から膨張する。この膨張圧力の大きさに応じて、電極板312は外側に向かって反るように伸張する変形を起こす。一方、電極板311は、陰イオン313aが電極板312に取り込まれたことに起因する電解液保持層313の体積減少を補うように、陽極と同じ方向に向かって収縮する変形を起こす。これらの結果、アクチュエーター110は、第2実施例に係るアクチュエーター110と同様の屈曲変形を起こす。
【0110】
その後、電源がOFFになると、アクチュエーター110の変形が元に戻って、変形前の状態(図12A)に復帰する。
【0111】
図12Cは、図12Bとは逆の極性の電圧をアクチュエーター110に印加したときの状態を示しており、脱氷装置100の電源がONである。電源をONにすると、図12Bを用いて説明した現象(ドープ)と逆の現象(脱ドープ)が起きる。具体的には、電極板312は、取り込んでいた陰イオン313a又はその電解質を電解液保持層313中に陰イオン313aとして放出し、その結果、収縮する。これにより、電解液保持層313の体積が増大して、図11に示すような構成のアクチュエーター110では、陽極である電極板311を外側に向かって膨張させる。ただし、陽極である電極板311は、多孔質のものではないので、陰イオン313aを内部に取り込むことはない。
【0112】
なお、電極板312が収縮した結果、図12Aに示した状態よりも体積が小さくなるように構成するためには、電極板312を製造する際に、予め多孔質の部分に電解質を取り込んでおけばよい。このように構成することで、図11に示すアクチュエーター110は、図12Cに示した状態にあるときに、屈曲変形を確実に起こすことができる。
【0113】
以上詳細に説明したように、本実施例によれば、アクチュエーター110に電力を供給することにより、自己変形(屈曲変形)を起こす。この変形によって発生した力は、薄氷に作用して、薄氷の剥離・破砕が促進される。
【0114】
なお、上述した第3実施例では、電極板そのものが膨張変形を起こすことを利用して、屈曲タイプのアクチュエーター110を構成しているが、膨張変形の伸張方向成分を取り出すことにより、直動タイプのアクチュエーター110を構成してもよい。作製したタイプに応じて、アクチュエーター110は製氷板11に配置・装着される(図5,図8参照)。
【0115】
なお、第3実施例では、電解セルの一方の電極板に高分子材料を用いたが、双方の電極板に高分子材料を用いてもよい。この場合、一方の電極板にドープ可能な導電性材料を用い、他方の電極板に脱ドープ可能な導電性材料を用いることで、電極板間でドーパントの授受を効率的に行うことができる。
【0116】
以上詳細に説明したことをまとめると、本実施の形態では、脱氷装置100のアクチュエーター110に電力を供給することにより、アクチュエーター110が自己変形(伸張変形や屈曲変形)を起こす。アクチュエーター110の変形によって発生した力は、製氷板が製氷した氷に作用する。これにより、製氷板に形成された薄氷の剥離や破砕が促進され、効率的な脱氷を行うことができる。また、アクチュエーター110が変形に要した空間の広さ以上に広い体積に亘る脱氷を行うことができる。したがって、脱氷効率が高い。
【0117】
また、本実施の形態によれば、アクチュエーター110が起こすのは、上述したように変形であって、ワイパーのような脱氷装置が起こす変位とは異なる。したがって、本実施の形態では、アクチュエーター110に、ワイパーのようにギアやカムなどの駆動力伝達機構を設ける必要がなく、エネルギー効率が高い。
【0118】
さらに、本実施の形態によれば、脱氷させるために、製氷板11の外側で変形を起こすアクチュエーター110を用いているので、製氷板11に付着した氷に製氷板11側から熱的エネルギーを投入して氷の一部を融解させる必要がない。さらには、熱エネルギーを投入する必要がないので、無駄なエネルギー消費を削減することができて駆動電圧を小さくすることができると共に、製氷装置10に熱エネルギーを投入することによる製氷装置10内の温度上昇を招くことをなくして製氷効率を向上させることができる。また、熱エネルギーを投入するタイプの氷蓄熱装置では、脱氷中に製氷を行うことができず運転ロスが発生するが、本実施の形態では、製氷中に脱氷を行うことができるので、運転ロスがなく、効率的な稼働を実現させることができる。
【0119】
なお、製氷板側から熱エネルギーを投入するタイプの氷蓄熱装置としては、例えば、回収した冷媒が氷に対して相対的に温かいことを利用して、温かい冷媒をホットガスとして製氷板内部に供給するホットガス供給型のものが知られている。これに対して、本実施の形態では、このようなホットガスを利用する必要がないので、ホットガスを製氷板内部に供給するための配管などが不要であり、氷蓄熱装置2の構成は、ホットガス供給型の氷蓄熱装置の構成よりも単純である。
【0120】
なお、上述した実施の形態では、脱氷装置100のアクチュエーター110の数は、複数に限られることはなく、1つであってもよい。
【0121】
また、脱氷装置100のアクチュエーター110は、高分子材料の特性を利用した高分子アクチュエーター110であるとしたが、自己変形を起こすアクチュエーターであれば上述した効果を奏することができるので、高分子アクチュエーターに限られることはない。
【0122】
また、上述した実施の形態では、氷蓄熱装置2について説明したが、アクチュエーター110は製氷板11に装着されているので、製氷装置10のみの場合(蓄熱槽20及び搬送装置30がない場合)であっても同様の説明が適用される。さらには、製氷板11以外の部材にアクチュエーター110を装着してもよく、例えば窓ガラスの屋外側にアクチュエーター110を装着することにより、窓ガラス表面に形成された氷を脱落させることができる。
【0123】
また、上述した実施の形態では、結氷する部材として、プレート状の製氷板11を用いたが、結氷する部材の形状はプレート状に限られることはなく、例えば、円筒形であってもよい。上述した実施の形態で挙げたようなアクチュエーター110はフィルム状又は薄膜状であるため、円筒形などの部材が有する曲面にも装着することが可能である。
【0124】
また、上述した実施の形態では、アクチュエーター110を製氷板11の表面に装着したが、これに代えて、アクチュエーター110の一部を製氷板11内部に埋設してもよい。この場合、アクチュエーター110は、製氷板11内部から突出した部分で脱氷を行うように構成される。
【0125】
また、アクチュエーター110の形状は、図6に示した例では、正六角形であるとしたが、三角形、正方形、又は長方形であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明の実施の形態に係る氷蓄熱装置を含む冷房システムの構成を概略的に示す模式図である。
【図2】図1における製氷装置の構成を概略的に示す側面図である。
【図3】図2の製氷装置の下部の外観を示す斜視図である。
【図4】図2の製氷装置の製氷板の構成及び当該製氷板に装着された脱氷装置の配置を示す断面図である。
【図5】図4における脱氷装置のアクチュエーターの第1実施例の構成及びその設置例を示す断面図である。
【図6】図5のアクチュエーターの配置の一例を示す製氷板の平面図である。
【図7】図5のアクチュエーターの動作原理を説明するのに有用な図であって、製氷板の断面を模式的に示す図である。
【図8】図4における脱氷装置のアクチュエーターの第2実施例の構成及びその設置例を示す断面図である。
【図9】図8のアクチュエーターの駆動状態を説明するための製氷板の側面図であり、図9Aは、アクチュエーターにある極性の電圧を印加した場合を示しており、図9Bは、図9Aとは逆の極性の電圧をアクチュエーターに印加した場合を示している。
【図10】図8のアクチュエーターの動作原理を説明するための模式図であり、図10Aは、アクチュエーターに電圧を印加する前の状態を示し、図10Bは、アクチュエーターにある極性の電圧を印加したときの状態を示し、図10Cは、図10Bとは逆の極性の電圧をアクチュエーターに印加したときの状態を示している。
【図11】図4における脱氷装置の第3実施例に係るアクチュエーターの構成を示す断面図である。
【図12】図11のアクチュエーターの動作原理を説明するのに有用な図であり、図12Aは、アクチュエーターに電圧を印加する前の状態を示し、図12Bは、アクチュエーターにある極性の電圧を印加したときの状態を示し、図12Cは、図12Bとは逆の極性の電圧をアクチュエーターに印加したときの状態を示している。
【符号の説明】
【0127】
1 冷房システム
2 氷蓄熱装置
3 冷房設備
4 熱交換器
10 製氷装置
11 製氷板
20 蓄熱槽
100 脱氷装置
110 アクチュエーター
120 被覆材
121 突条部
220 スプリング
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結氷する部材に装着され、変形を起こすことにより前記部材から氷を脱落させることを特徴とする脱氷装置。
【請求項2】
高分子材料を有するアクチュエーターを備え、当該アクチュエーターは、印加された電圧に応じて前記変形を起こすことを特徴とする請求項1記載の脱氷装置。
【請求項3】
前記高分子材料は、一対の電極板間に配置されたイオン交換樹脂、電歪ポリマー、及び圧電ポリマーから選択されたいずれかの材料からなるか、又は多孔質の導電性材料からなることを特徴とする請求項2記載の脱氷装置。
【請求項4】
前記アクチュエーターと前記部材との間に配置された弾性部材を備えることを特徴とする請求項2又は3記載の脱氷装置。
【請求項5】
可撓性のある可撓性材料により被覆されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の脱氷装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の脱氷装置を少なくとも1つ備えると共に、前記部材として、水を冷却して氷を製造する製氷部材を備えることを特徴とする製氷装置。
【請求項7】
前記脱氷装置を複数備えており、当該複数の脱氷装置の各々は互いに離間した状態で前記製氷部材に装着されていることを特徴とする請求項6記載の製氷装置。
【請求項8】
請求項7又は8記載の製氷装置と、当該製氷装置が製造した氷を貯蓄する蓄熱槽とを備えることを特徴とする氷蓄熱装置。
【請求項9】
結氷する部材に装着された脱氷装置に変形を起こさせることにより、前記部材から氷を脱落させることを特徴とする脱氷方法。
【請求項1】
結氷する部材に装着され、変形を起こすことにより前記部材から氷を脱落させることを特徴とする脱氷装置。
【請求項2】
高分子材料を有するアクチュエーターを備え、当該アクチュエーターは、印加された電圧に応じて前記変形を起こすことを特徴とする請求項1記載の脱氷装置。
【請求項3】
前記高分子材料は、一対の電極板間に配置されたイオン交換樹脂、電歪ポリマー、及び圧電ポリマーから選択されたいずれかの材料からなるか、又は多孔質の導電性材料からなることを特徴とする請求項2記載の脱氷装置。
【請求項4】
前記アクチュエーターと前記部材との間に配置された弾性部材を備えることを特徴とする請求項2又は3記載の脱氷装置。
【請求項5】
可撓性のある可撓性材料により被覆されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の脱氷装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の脱氷装置を少なくとも1つ備えると共に、前記部材として、水を冷却して氷を製造する製氷部材を備えることを特徴とする製氷装置。
【請求項7】
前記脱氷装置を複数備えており、当該複数の脱氷装置の各々は互いに離間した状態で前記製氷部材に装着されていることを特徴とする請求項6記載の製氷装置。
【請求項8】
請求項7又は8記載の製氷装置と、当該製氷装置が製造した氷を貯蓄する蓄熱槽とを備えることを特徴とする氷蓄熱装置。
【請求項9】
結氷する部材に装着された脱氷装置に変形を起こさせることにより、前記部材から氷を脱落させることを特徴とする脱氷方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−36403(P2009−36403A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199421(P2007−199421)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
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