説明

脱硝装置および脱硝方法

【課題】ロータリキルンで発生する排ガス中のNOxを安価に低減すること。
【解決手段】ロータリキルン10の窯内へ投入する原料を供給する原料供給装置20にて、添加ポイント16において脱硝用添加剤添加装置15から散布された脱硝用添加剤を拡散混合する。脱硝用添加剤が拡散混合された原料は、原料供給装置20から窯内へ直接投入され、ロータリキルン10の長さ方向の中間近傍位置にあるNOx低減効果の高い適性温度域まで到達しNOxの発生量を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種プラントや製造ラインなどに用いられる回転型加熱処理炉(ロータリキルン)における脱硝装置および脱硝方法に関し、特にロータリキルンで発生する排ガス中のNOxを低減することができる脱硝装置および脱硝方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙会社などのパルプ製造ラインにおいては、パルプの原料である木材チップ等を水酸化ナトリウム(NaOH)などの薬品を使用して蒸解することによってパルプを製造することが行われている。これとともに、蒸解で発生した廃液(いわゆる「黒液」と称されることもある)を処理して蒸解に使用した薬品を再生することも行われる。
【0003】
このような廃液処理の工程については、周知であるため説明は割愛するが、例えばその工程の一例として、廃液を変化させた緑液中に加熱処理炉(キルン)で焼成した生石灰(CaO)を添加する、すなわち、緑液中の炭酸ナトリウム(NaCO)を水酸化ナトリウムと炭酸カルシウム(CaCO)に反応させる石灰焼成工程を含むものが知られている。なお、この炭酸カルシウム(CaCO3)はキルンで脱炭されて、再度生石灰(CaO)となる。
【0004】
前述のキルンとしては、いわゆる回転型加熱処理炉(ロータリキルン)が多く使用されているが、運転時の窒素化合物(NOx)の発生量がそれほど多くはないという理由から、ロータリキルンにNOxの低減を図るための専用の脱硝装置が設置されている例は少なかった。
【0005】
しかし、近年のNOxに対する規制強化に対応すべく、ロータリキルンにおいても脱硝装置を設置する必要性が高まってきている。そして、ロータリキルンに設置される脱硝装置としては、下記特許文献1に開示されているような脱硝装置が知られている。
【0006】
この脱硝装置は、ロータリキルン内に挿入された液体噴霧ノズルと、この液体噴霧ノズルから脱硝用添加剤を噴霧する噴霧装置と、液体噴霧ノズルの先端に設けられた温度センサと、液体噴霧ノズルをロータリキルンの長さ方向に移動させる駆動装置とを備えている。
【0007】
そして、ロータリキルンにおける脱硝用添加剤の最適な化学反応温度の場所を温度センサで検知し、液体噴霧ノズルをロータリキルンの長さ方向に移動させてノズル口をその場所へ移動させ、尿素水溶液等の脱硝用添加剤を噴霧するようにしている。
【特許文献1】特許第3681130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年の燃料の多様化に伴い、上述したロータリキルンなどにおいては、従来の重油燃焼(専焼)からプラスチック、再生油、オイルコークス等の種々の燃料が利用可能となっており、NOxの制限値は年々厳しい数値となってきている。そして、このような事態に対する対策としては、プラントに上述したような脱硝装置を設けたり、ロータリキルンの排ガスラインに脱硝装置を設置したりすることが考えられるが、以下のような問題がある。
【0009】
すなわち、(1)脱硝用添加剤である尿素の化学反応温度として適正な温度域は、約800℃〜900℃であるが、ロータリキルンにおいては窯尻温度は約600℃〜700℃になるため、化学反応が適正に行われない場合がある。また、(2)脱硝する(化学反応を起こさせる)場合、ロータリキルンの排ガスが石灰石や生石灰などの微粉を多量に含んでおり、これらが触媒に付着する特性を利用した触媒法が最も知られている。しかし、この場合であると短時間で触媒を交換しなくてはならないため、経費が嵩んでしまうことがある。
【0010】
さらに、(3)脱硝装置自体が非常に高価なものであるため、設備投資費が嵩んでしまったり、(4)上述した適正な温度域がロータリキルンの長さ方向の中央付近となる場合が多く、この場合には回転するキルン胴体に対して脱硝用添加剤の散布ができないこともある。また、(5)上述した脱硝装置のように液体噴霧ノズルをキルン窯尻フッドからキルン内に挿入して散布する場合、ロータリキルンの長さ如何によっては挿入した液体噴霧ノズルを支持することが困難となる場合もある。
【0011】
本発明は、これらの問題点に鑑みてなされたもので、ロータリキルンで発生する排ガス中のNOxを安価に低減することができる脱硝装置および脱硝方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る脱硝装置は、プラントの所定プロセスにおけるロータリキルンの窯内で発生するNOxを低減させる脱硝装置であって、前記ロータリキルンの窯尻側から窯前側を循環する原料を前記ロータリキルンの窯内へ投入する投入手段と、前記投入手段によって投入される原料に対して前記NOxの発生量を抑制する脱硝用添加剤を添加する添加手段とを備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る脱硝装置は、上記のように構成することにより、ロータリキルンの窯内へ投入される原料に対して脱硝用添加剤を添加するという簡単な構成で、ロータリキルンで発生する排ガス中のNOxを安価に低減することができる。
【0014】
前記原料は例えば石灰石であり、前記脱硝用添加剤は例えば尿素からなる。
【0015】
本発明に係る脱硝方法は、プラントの所定プロセスにおけるロータリキルンの窯内で発生するNOxを低減させる脱硝方法であって、前記ロータリキルンの窯尻側から窯前側を循環する原料を前記ロータリキルンの窯内へ投入する投入工程と、前記投入工程による原料の投入に先立って、前記原料に対して前記NOxの発生量を抑制する脱硝用添加剤を添加する添加工程とを備えたことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る脱硝方法は、上記のように構成されることにより、ロータリキルンの窯内への原料の投入に先立って、この原料に対して脱硝用添加剤を添加することで、ロータリキルンで発生する排ガス中のNOxを安価に低減することができる。
【0017】
前記投入工程にて投入される原料は例えば石灰石であり、前記添加工程にて添加される脱硝用添加剤は例えば尿素からなる。
【0018】
なお、本発明に係る脱硝装置および脱硝方法における前記プラントは、例えば製紙プラントであり、この場合、前記所定プロセスは、例えば苛性プロセスである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ロータリキルンで発生する排ガス中のNOxを安価に低減することができる脱硝装置および脱硝方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照して、本発明に係る脱硝装置および脱硝方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施の形態に係る脱硝方法を実現する脱硝装置が設けられた製紙プラントの一部を説明するための説明図、図2は尿素濃度とNOx値との関係を示す説明図である。
【0022】
図1に示すように、製紙プラントの一部のパルプ製造ライン100における苛性プロセスでは、例えばロータリキルン10が利用される。この苛性プロセスとは、製紙工程のパルプ製造ラインにおいて、パルプを不純物から分離するための蒸解窯にて使用される水酸化ナトリウムを回収して再使用するためのプロセスであり、蒸解窯の廃液(黒液)を炭酸ソーダを主成分とする緑液化し、この緑液に生石灰や水を混合することで、水酸化ナトリウムと石灰石を再生させるプロセスのことをいう。
【0023】
ロータリキルン10は、キルン回転軸Pを中心に図中白抜き矢印Rで示すように躯体が回転するものであり、その長さ方向の両端部が窯前11および窯尻12となっている。このロータリキルン10の窯内には、窯尻12側に設置された原料供給装置20から上述した石灰石が投入され、この石灰石は図中矢印Sで示すように窯尻12側から窯前11側へ加熱されながら流れる。
【0024】
石灰石は、例えば図示しないスラッジフィルタからのブロワ30を介した循環ラインS1と、図示しない湿式の集塵機からの循環ラインS2と、サイクロン40からの循環ラインS3とを介してフィーダ50に集められる。フィーダ50に集められた石灰石は、原料供給装置20側と後述するフラッシュドライヤ(気流乾燥機)60側とに分配供給される。
【0025】
なお、ロータリキルン10の窯内にて石灰石を加熱する加熱ガス(排ガス)は、石灰石の流れとは反対に図中矢印Gで示すように窯前11側から窯尻12側へと流れる。フィーダ50から原料供給装置20側へ供給された石灰石には、添加ポイント16にて脱硝用添加剤添加装置15から供給された脱硝用添加剤が散布され、原料供給装置20にて石灰石と脱硝用添加剤とが拡散混合される。
【0026】
フラッシュドライヤ60には、フィーダ50からの石灰石と、循環ラインG1を介したロータリキルン10からの燃焼ガスとが供給され、これらの加熱乾燥が行われる。そして、乾燥された石灰石を含む燃焼ガスは、循環ラインG2を介してサイクロン40に供給される。サイクロン40では、燃焼ガスから石灰石が分離され、石灰石はフィーダ50へ、燃焼ガスは集塵機へそれぞれ送られる。
【0027】
このような苛性プロセスにおいては、ロータリキルン10の窯尻12側の温度は約600℃〜約700℃となり、NOx低減効果の高い(すなわち、脱硝用添加剤の反応がよい)適性温度域である約800℃〜約900℃を下回る温度となっている。さらに、フラッシュドライヤ60の出口付近では、燃焼ガスの温度は200℃前後まで低下することとなってしまう。
【0028】
したがって、例えば脱硝用添加剤を添加ポイント16ではなく循環ラインG1において添加したとしても、温度が低いため思うような脱硝効果を得ることは困難となる。これに対し、上述したように添加ポイント16にて脱硝用添加剤を供給し、原料供給装置20にて石灰石と拡散混合することで、ロータリキルン10の窯内に石灰石とともに脱硝用添加剤を直接投入することが可能となる。
【0029】
ロータリキルン10における上記適正温度域の分布は、その長さ方向の中間近傍箇所(すなわち、中間点を含むその近傍箇所)となるが、このように石灰石とともに脱硝用添加剤を直接投入することで、窯内で発生するNOxの発生量をより効果的に抑制することが可能となる。
【0030】
また、原料供給装置20にて脱硝用添加剤を拡散混合するという簡単な構成でNOxの発生量を抑えることができるので、安価に排ガス(燃焼ガス)中のNOxを低減することが可能となる。なお、この脱硝用添加剤としては、尿素水溶液などが挙げられる。そして、尿素は、約130℃の温度で融解してアンモニアを発生するが、上記原料供給装置20にて拡散混合された上でロータリキルン10の窯内にて融解されるため、本実施の形態に係る脱硝装置および脱硝方法によれば、より適正な反応温度に近づけることができる。
【0031】
図2に示すように、本出願人による実験結果によれば、その脱硝効果は顕著なものとなった。図2は、尿素濃度とNOx値との関係を示すものであるが、上述した脱硝用添加剤を(1)燃焼ガス中に散布した場合(点線で図示)と、(2)原料に散布(拡散混合)した場合(実線で図示)とでは、以下のような違いが見られた。
【0032】
すなわち、上記(1)および(2)のいずれの場合でも、尿素濃度が0%のときはNOx値は80ppm程度あったが、尿素濃度を上げるにしたがってNOx値に開きが生じ、尿素濃度40%においては、(1)の場合はNOx値約70ppmであったが、(2)の場合はNOx値約60ppmと10ppmの差が生じる結果となった。つまり、(1)の場合は尿素濃度を0%から40%へ変化させてもNOx値として10ppm程度の脱硝作用しか得られなかったが、(2)の場合は同様の条件でNOx値として20ppm程度の脱硝作用を得ることができた。
【0033】
以上述べたように、本実施の形態に係る脱硝装置および脱硝方法によれば、ロータリキルン10の窯内へ供給する原料(石灰石)に脱硝用添加剤(尿素水溶液等)を原料供給装置20にて拡散混合し、これらをロータリキルン10の窯内へ直接投入することで、窯内で発生する燃焼ガス中のNOxを安価に低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施の形態に係る脱硝方法を実現する脱硝装置が設けられた製紙プラントの一部を説明するための説明図である。
【図2】尿素濃度とNOx値との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0035】
10…ロータリキルン、11…窯前、12…窯尻、15…脱硝用添加剤添加装置、16…添加ポイント、20…原料供給装置、30…ブロワ、40…サイクロン、50…フィーダ、60…フラッシュドライヤ、100…パルプ製造ライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの所定プロセスにおけるロータリキルンの窯内で発生するNOxを低減させる脱硝装置であって、
前記ロータリキルンの窯尻側から窯前側を循環する原料を前記ロータリキルンの窯内へ投入する投入手段と、
前記投入手段によって投入される原料に対して前記NOxの発生量を抑制する脱硝用添加剤を添加する添加手段とを備えた
ことを特徴とする脱硝装置。
【請求項2】
前記原料は石灰石であり、前記脱硝用添加剤は尿素からなることを特徴とする請求項1記載の脱硝装置。
【請求項3】
前記プラントは製紙プラントであり、前記所定プロセスは苛性プロセスであることを特徴とする請求項1または2記載の脱硝装置。
【請求項4】
プラントの所定プロセスにおけるロータリキルンの窯内で発生するNOxを低減させる脱硝方法であって、
前記ロータリキルンの窯尻側から窯前側を循環する原料を前記ロータリキルンの窯内へ投入する投入工程と、
前記投入工程による原料の投入に先立って、前記原料に対して前記NOxの発生量を抑制する脱硝用添加剤を添加する添加工程とを備えた
ことを特徴とする脱硝方法。
【請求項5】
前記投入工程にて投入される原料は石灰石であり、前記添加工程にて添加される脱硝用添加剤は尿素からなることを特徴とする請求項4記載の脱硝方法。
【請求項6】
前記プラントは製紙プラントであり、前記所定プロセスは苛性プロセスであることを特徴とする請求項4または5記載の脱硝方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−154116(P2009−154116A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336382(P2007−336382)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【Fターム(参考)】