説明

脱臭フィルター及び脱臭システム

【課題】高湿度の環境下で極端に脱臭性能が低下する従来の活性炭による脱臭フィルターの課題を解決するため、高湿度の臭気に対する脱臭性能の向上を図り、高湿度の環境下においても高い脱臭効果を発揮することのできる脱臭フィルター及び脱臭システムを提供する。
【解決手段】本発明に係る脱臭フィルター1は、吸湿性能を有するハニカム状の基材2の表面に触媒が添着されて構成されていることを特徴とし、この基材2は、ゾノトライト系珪酸カルシウムを含んでいるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱臭フィルターに関し、特に、下水処理場等、雨水貯留施設、ビルピットや浄化槽、中継ポンプ場、排水処理施設等、高湿度の環境下において臭気を除去することのできる脱臭フィルター及び脱臭システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、快適な生活環境に対するニーズの高まりに伴い、身近な生活環境から発生する臭気を除去しようとする動きが出てきており、下水処理場、雨水貯留施設、ビルピットや浄化槽、中継ポンプ場、排水処理施設等の換気設備に脱臭フィルターが装着されるようになっている。
【0003】
この種の従来の脱臭フィルターは、通常、活性炭を使用しており、この活性炭により、硫化水素等の臭気成分を吸着し、脱臭を行うようになっている(例えば、特許文献1又は2参照)。
【特許文献1】特開2000−157620号公報
【特許文献2】特開2001−321424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の脱臭フィルターでは、活性炭を使用しているため、高湿度の臭気に対しては脱臭性能が極端に低下するといった問題があった。したがって、下水処理場、雨水貯留施設、ビルピットや浄化槽等のように、脱臭フィルターが高湿度の環境下に置かれる場合には、脱臭効果があまり期待できなかった。
【0005】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、高湿度の臭気に対する脱臭性能の向上を図り、高湿度の環境下においても高い脱臭効果を発揮することのできる脱臭フィルター及び脱臭システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る脱臭フィルターは、吸湿性能を有するハニカム状の基材の表面に触媒が添着されて構成されていることを特徴とする。
【0007】
そして、前記基材は、ゾノトライト系珪酸カルシウムを含んでいるのが好ましい。
【0008】
さらに、前記触媒は、少なくともマンガン、コバルト、銅、亜鉛のいずれかを含む酸化物、水酸化物、複合酸化物、或いはそれらの混合物であってもよい。
【0009】
また、本発明に係る脱臭装置は、 上記した脱臭フィルターを備えており、下方から、臭気の入口、除塵フィルター、前記脱臭フィルター、処理ガスの出口が順次設けられていることを特徴とする。
【0010】
そして、前記脱臭フィルターの上流側には、加湿装置が設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、脱臭フィルターの基材がハニカム状に形成されているため、通風時の圧力損失を減少させることができ、低静圧の換気ファンを使用したコンパクトな脱臭設備を実現することができる。さらに、雨水貯留施設や浄化槽では、ファンを使用せずに漏洩する臭気を処理する、いわゆる自然通風型の脱臭を行うこともできる。
【0012】
さらにまた、基材に触媒を添着させることにより、通風ガスとの接触効率が高くなるため、脱臭設備の大幅なコンパクト化を図ることができる。
【0013】
さらに、基材に添着された触媒が臭気成分を連続的に酸化及び分解するため、脱臭フィルターの寿命を延ばすことができる。また、洗浄や加熱等の方法により、脱臭フィルターを簡単に再生することができるため、メンテナンスや交換作業が簡略化され、保守管理コストの低減化を図ることができる。
【0014】
また、基材がゾノトライト系珪酸カルシウムを含んでいる場合には、高湿度の環境で脱臭性能が一段と向上するため、下水処理場、雨水貯留施設、ビルピットや浄化槽等のような高湿度の環境下において、一層優れた脱臭効果を発揮することができる。
【0015】
さらにまた、脱臭フィルターの上流側に加湿装置を設けた場合には、臭気の湿度が高くなるため、脱臭フィルターの脱臭性能をさらに高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。ここで、図1は本発明の実施の形態に係る脱臭フィルターを示す正面図である。
【0017】
本実施の形態に係る脱臭フィルター1は、ハニカム状に形成された基材2の表面に触媒が添着されて構成されている。そして、この脱臭フィルター1は、周囲に矩形環状の枠体3が設けられてユニット化されており、例えば、縦30cm、横30cm、厚さ3cmの外形寸法を有している。
【0018】
基材2は、吸湿性能を有する素材製であり、この素材としては、ゾノトライト系珪酸カルシウムを含むゾノトライト紙が好ましいが、セラミックファイバー紙を使用することもできる。
【0019】
また、触媒としては、少なくともマンガン、コバルト、銅、亜鉛のいずれかを含む酸化物、水酸化物、複合酸化物、或いはそれらの混合物を使用するのが好ましい。そして、この触媒を基材2に添着させるには、前記複合酸化物の粉体に、コロイダルシリカ及び超純水を混合し、均一に分散するまで攪拌して前記複合酸化物のスラリーを作製した後、基材2を浸漬させ、その後、水分が完全に抜け切るまで十分に乾燥させることにより行う。これにより、基材2の表面に前記触媒が薄膜状に形成され、該触媒と臭気成分とが高効率で接触可能となる。
【0020】
このような構成を備えた脱臭フィルター1において、臭気成分である硫化水素等を含有するガスを通過させると、先ず、前記触媒の表面にガス中の臭気成分が捕捉される。次いで、この臭気成分は、前記触媒により酸化及び分解され、除去される。また、高湿度のガス中の臭気成分に対しては、前記触媒表面に薄い水膜が生成され、臭気成分がその水膜に溶け込むことにより酸化分解が促進され、臭気成分が除去される。したがって、湿度が高い程、脱臭性能は向上する。
【0021】
図2は、ゾノトライト紙製の基材2を使用した厚み18cmの脱臭フィルター1において、湿度40%及び70%の各環境下で、硫化水素を含有するガスを、それぞれ1.0m/secの線速度で通過させて実験を行った時の、触媒添着量当たりの硫化水素吸着量の割合(%)を比較して示す図である。この実験結果から明らかなように、ゾノトライト紙製の基材2を使用した脱臭フィルター1では、湿度70%の環境下における硫化水素吸着量の割合(128%)が湿度40%の環境下の場合の2倍以上の値を示しており、脱臭フィルター1は高湿度の環境下において極めて優れた硫化水素除去性能を有することが分かる。
【0022】
また、図3は、本実施の形態のようにゾノトライト紙製の吸湿基材を使用した場合と、従来のように水酸化アルミ紙製の疎水基材を使用した場合のそれぞれにおいて、湿度70%の環境下で、硫化水素を含有するガスを、厚み18cmの脱臭フィルターに1.0m/secの線速度(Linear Velocity)で通過させて実験を行った時の、触媒添着量当たりの硫化水素吸着量の割合(%)を比較して示す図である。この実験結果から明らかなように、ゾノトライト紙製の吸湿基材を使用した脱臭フィルター1では、硫化水素吸着量が128%を示し、水酸化アルミ紙製の疎水基材を使用した従来の脱臭フィルターの場合の約2倍の値を示しており、脱臭フィルター1は極めて優れた硫化水素除去性能を有することが分かる。
【0023】
なお、使用済みの脱臭フィルター1は、加熱したアルカリ溶液中の浸漬して洗浄したり、或いは、真空中で加熱したりすることにより、吸着した硫化水素から析出した硫黄を容易に除去し、再生することができ、何度も繰り返し使用することができる。
【0024】
次に、図4を参照しつつ、本実施の形態に係る脱臭フィルター1を下水処理場の換気設備に使用した場合について例示して説明する。ここで、図4は、本実施の形態に係る脱臭フィルター1を下水処理場の換気設備に設置した状態を示す図である。
【0025】
この場合の換気設備は、処理槽3の上部のダクト4に設けられた吸気口5と、ダクト4の途中に設けられた換気ファン6と、換気室7において開放された排気口8と、外壁9に設けられた排気ガラリ10とを備えており、脱臭フィルター1は、換気室7の排気口8と排気ガラリ10との間に設けられている。
【0026】
このような換気設備を備えた下水処理場において、処理槽3から発生した臭気を含んだガスは、換気ファン6によって、吸気口5、ダクト4、排気口8を介して、換気室7内に放出され、脱臭フィルター1によって臭気成分を除去された後、排気ガラリ10から大気中に放出される。したがって、大気中に臭気を含んだガスが放出されることがないため、下水処理場周辺の生活環境を快適に保つことできると共に、下水処理場を住宅地域に設置したとしても、近隣の住民から臭気に対する苦情が出ることはない。
【0027】
なお、この脱臭フィルター1は、上記した下水処理場の換気設備に限らず、例えば、図5に示すビルピットや浄化槽の換気設備11や、図6に示す中継ポンプ場の換気設備12や、厨房除外処理施設等のような高湿度の環境下の他、病院、介護施設、便所等のような中低湿度の環境下においても使用可能である。
【0028】
このように、上記した実施の形態に係る脱臭フィルター1によれば、高湿度の環境で脱臭性能が一段と向上するため、下水処理場、雨水貯留施設、ビルピットや浄化槽等のような高湿度の環境下において、一層優れた脱臭効果を発揮することができる。
【0029】
また、脱臭フィルター1の基材2がハニカム状に形成されているため、通風時の圧力損失を減少させることができ、低静圧の換気ファンを使用したコンパクトな脱臭設備を実現することができる。さらに、雨水貯留施設や浄化槽では、ファンを使用せずに漏洩する臭気を処理する、いわゆる自然通風型の脱臭を行うこともできる。
【0030】
さらにまた、基材2に前記触媒を添着させることにより、通風ガスとの接触効率が高くなるため、従来の活性炭を使用した脱臭フィルターの約3倍の通風速度での高速処理が可能となり、脱臭設備の大幅なコンパクト化を図ることができる。
【0031】
さらに、基材2に添着された触媒が臭気成分を連続的に酸化及び分解するため、脱臭フィルター1は、従来の活性炭を使用した脱臭フィルターと比べて、2倍以上の寿命を有するようになり、耐久性が向上する。また、上記した方法によって、基材2に析出した硫黄を除去することにより、脱臭フィルター1を簡単に再生することができると共に、脱臭フィルター1がユニット化されているため、脱臭フィルター1のメンテナンスや交換作業の簡略化を図ることができる。
【0032】
なお、図7に示すように、上記した実施の形態に係る脱臭フィルター1の上流側に、臭気を加湿するために加湿装置13を設置すると共に、臭気の入口側及び処理ガスの出口側にそれぞれ、防虫及び除塵用のフィルター14,15を設置し、自然通風型の脱臭装置16を構成することもできる。そして、この場合には、臭気の湿度が高くなるため、脱臭フィルター1の脱臭性能を一段と高めることができる。
【0033】
また、上記した実施の形態に係る脱臭フィルター1を使用した自然通風型の脱臭装置としては、図8に示すように、加湿装置13のない脱臭装置21であってもよい。
【0034】
この脱臭装置21は、箱型形状を成し、その下面側に臭気の入口(図示せず)が設けられており、該臭気の入口に浄化槽、雨水貯留池、排水処理槽等の臭気排出用のダクト22が接続されている。また、この脱臭装置21には、下方から順次、除塵フィルター23と脱臭フィルター1がそれぞれ水平姿勢で着脱可能に設けられており、脱臭フィルター1の上方の両側側面24には、下向きに排気可能なように処理ガスの出口25が形成されている。なお、処理ガスの出口25の取り付け位置は、脱臭フィルター1の上方であれば、脱臭装置21の上面26であってもよい。
【0035】
このような構成のもと、浄化槽、雨水貯留池、排水処理槽等において発生した臭気は、ダクト22を通って前記臭気の入口から脱臭装置21内に流入し、除塵フィルター22で粉塵等を除去されると共に脱臭フィルター1によって臭気成分を除去処理された後、処理ガスとなって各出口25から外部に自然排気される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態に係る脱臭フィルターを示す正面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る脱臭フィルターの硫化水素吸着量を湿度別に比較して示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る脱臭フィルターの基材と従来の基材の硫化水素吸着量を比較して示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る脱臭フィルターを下水処理場に設置した状態を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る脱臭フィルターをビルピットや浄化槽に設置した状態を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る脱臭フィルターを中継ポンプ場に設置した状態を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る脱臭装置を示す概略構成図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る脱臭装置の別の例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0037】
1 脱臭フィルター
2 基材
13 加湿装置
16 脱臭装置
21 脱臭装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸湿性能を有するハニカム状の基材の表面に触媒が添着されて構成されていることを特徴とする脱臭フィルター。
【請求項2】
前記基材は、ゾノトライト系珪酸カルシウムを含んでいる請求項1に記載の脱臭フィルター。
【請求項3】
前記触媒は、少なくともマンガン、コバルト、銅、亜鉛のいずれかを含む酸化物、水酸化物、複合酸化物、或いはそれらの混合物である請求項1又は2に記載の脱臭フィルター。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1の請求項に記載の脱臭フィルターを備えた脱臭装置であって、下方から、臭気の入口、除塵フィルター、前記脱臭フィルター、処理ガスの出口が順次設けられていることを特徴とする脱臭装置。
【請求項5】
前記脱臭フィルターの上流側に、加湿装置が設けられている請求項4に記載の脱臭装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−152311(P2007−152311A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−354485(P2005−354485)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(000120401)荏原実業株式会社 (31)
【Fターム(参考)】