説明

脱離基含有量が低減された高分子化合物の製造方法

【課題】脱離基の含有量を十分に低減した高分子化合物を得ることができる新規な製造方法を提供する。
【解決手段】2価の芳香族基を構成単位として4個以上含む主鎖を有するとともに、1価の芳香族基及び脱離基を有する高分子化合物を、第8族〜第10族の金属を含む触媒の存在下において、還元剤として、ギ酸塩、金属アルコキシド、ホウ素水素化物、アルミニウム水素化物、ケイ素水素化物、スズ水素化物、銅水素化物、ジルコニウム水素化物、又はこれらの2種以上の組み合わせを用いて還元して該脱離基の少なくとも一部を除去することを含む、脱離基含有量が低減された高分子化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン原子等の脱離基の含有量が低減された高分子化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」という)、有機トランジスタ等に用いられる高分子化合物は、例えば、Suzukiカップリング反応若しくはKumada−Tamaoカップリング反応を利用して重合する方法、ニッケルゼロ価錯体により重合する方法、FeCl3等の酸化剤により重合する方法、又は電気化学的に酸化重合する方法により製造されるが、その結果、高分子鎖中にハロゲン原子等の脱離基を含有することが多い。これらの脱離基は、例えば有機EL素子の場合には、動作中に脱離すると発光輝度、発光効率等の特性の低下を引き起こすことがあり、有機トランジスタの場合には、ドレイン電流等の特性の低下を引き起こすことがある。
【0003】
従来、有機EL材料として、ハロゲン原子含有中間体から製造された高分子化合物中のハロゲン原子含有量を低減する方法として、フェニルボロン酸を用いるSuzukiカップリング反応を利用する方法、グリニャール試薬又は有機リチウム化合物を用いた後にプロトン化する方法が知られている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−77078号公報
【特許文献2】特開2007−220772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで本発明の課題は、脱離基の含有量を十分に低減した高分子化合物を得ることができる新規な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、
2価の芳香族基を構成単位として4個以上含む主鎖を有するとともに、1価の芳香族基及び脱離基を有する高分子化合物を、第8族〜第10族の金属を含む触媒の存在下において、還元剤として、ギ酸塩、金属アルコキシド、ホウ素水素化物、アルミニウム水素化物、ケイ素水素化物、スズ水素化物、銅水素化物、ジルコニウム水素化物、又はこれらの2種以上の組み合わせを用いて還元して該脱離基の少なくとも一部を除去することを含む、脱離基含有量が低減された高分子化合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法は、脱離基を有する高分子化合物から、脱離基含有量が十分に低減された高分子化合物を得ることができる。
【0008】
還元剤としてギ酸塩、金属アルコキシド又はこれらの組み合わせ(より好ましくはギ酸塩)を使用した場合には、これらは試薬として空気中での保存及び取り扱いが可能であるため、操作性が向上し、より効率良く脱離基含有量の低減された高分子化合物を得ることができるとともに、工業的規模の実施にも適している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態に即して本発明を詳細に説明する。
<用語の説明>
本願において、次の用語は特記しない限り、以下に定義又は説明する意味で用いられる。
【0010】
Meはメチル基、Etはエチル基、Prはn−プロピル基、Prはイソプロピル基、Buはn−ブチル基、Buはtert−ブチル基、Buはsec−ブチル基、Buはイソブチル基、Phはフェニル基、o−tolはオルトトリル基、Acはアセチル基、そして、Cpはシクロペンタジニエルを、それぞれ表す。
【0011】
「脱離基」とは一般的に脱離反応において除去される官能基である。ここで、「脱離反応」とは、有機化合物の分子から一つの原子又は原子団が分離していき、その結果新たな化合物が生成する反応を意味する。本願においては、脱離基とは特に金属錯体の存在下において、酸化的付加反応を経由することによって、出発物質である上記高分子化合物から他の基及び原子によって置換されることで除去される、脱離する基及び原子を意味する。該脱離基としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、トシルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ及びメタンスルホニルオキシ基が挙げられる。本願発明の方法は、なかでも、臭素原子、ヨウ素原子及びトリフルオロメタンスルホニルオキシ基に対してより有効で、これら脱離基を効果的に低減することができ、臭素原子及びヨウ素原子に対して更に有効であり、臭素原子に対して特に有効である。なお、本願においては、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子を「ハロゲン原子」と総称することがある。
【0012】
化合物、分子、分子の一部(moiety)、基(group)等が「置換基を有していてもよい」とは、例示されたままの(即ち、非置換状態の)化合物、分子、分子の一部(moiety)、基(group)等が有する1又は2以上の水素原子が置換基で置換された状態のものを包含することを意味する。
【0013】
「置換基」としては、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素原子数1〜60の炭化水素基、炭素原子数1〜60のヒドロカルビルオキシ基、架橋基等が挙げられる。これらの中でも、出発化合物(脱離基除去前の化合物であり、以下同様である。)に簡便に導入することができるとともに、該出発化合物の後述する溶媒への溶解性が向上する結果、本発明の製造方法をより効率的に実施できるため、炭素原子数1〜50の炭化水素基、炭素原子数1〜50のヒドロカルビルオキシ基が好ましく、炭素原子数1〜30の炭化水素基、炭素原子数1〜30のヒドロカルビルオキシ基がより好ましく、炭素原子数1〜18の炭化水素基、炭素原子数1〜18のヒドロカルビルオキシ基が更に好ましく、炭素原子数1〜12の炭化水素基、炭素原子数1〜12のヒドロカルビルオキシ基が特に好ましく、炭素原子数1〜8の炭化水素基、炭素原子数1〜8のヒドロカルビルオキシ基が特に好ましい。炭化水素基、ヒドロカルビルオキシ基等の置換基は直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれであってもよい。
【0014】
上記の炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれであってもよく、フッ素原子、シアノ基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の炭素原子1〜18のアルコキシ基により置換されていてもよい。
上記の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基、3,7−ジメチルオクチル基で例示されるアルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基で例示されるシクロアルキル基;1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、ノルボルニル基で例示されるその他の脂環式炭化水素基;ベンジル基、α,α−ジメチルベンジル基、1−フェネチル基、2−フェネチル基で例示されるアラルキル基;ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、オレイル基、エイコサペンタエニル基、ドコサヘキサエニル基で例示されるアルケニル基;2,2−ジフェニルビニル基、1,2,2−トリフェニルビニル基、2−フェニル−2−プロペニル基で例示されるアリールアルケニル基;フェニル基、2−トリル基、4−トリル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−シアノフェニル基、2−ビフェニリル基、3−ビフェニリル基、4−ビフェニリル基、ターフェニリル基、3,5−ジフェニルフェニル基、3,4−ジフェニルフェニル基、ペンタフェニルフェニル基、4−(2,2−ジフェニルビニル)フェニル基、4−(1,2,2−トリフェニルビニル)フェニル基、フルオレニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、9−アントリル基、2−アントリル基、9−フェナントリル基、1−ピレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基及びコロニル基で例示されるアリール基が挙げられ、前記の出発化合物に簡便に導入することができるとともに、該出発化合物の後述する溶媒への溶解性が向上する結果、本発明の製造方法をより効率的に実施できるため、好ましくはメチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基、3,7−ジメチルオクチル基、ベンジル基、α,α−ジメチルベンジル基、1−フェネチル基、2−フェネチル基、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、オレイル基、エイコサペンタエニル基、ドコサヘキサエニル基、2,2−ジフェニルビニル基、1,2,2−トリフェニルビニル基、2−フェニル−2−プロペニル基、フェニル基、2−トリル基、4−トリル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−シアノフェニル基、2−ビフェニリル基、3−ビフェニリル基、4−ビフェニリル基、ターフェニリル基、3,5−ジフェニルフェニル基、3,4−ジフェニルフェニル基、ペンタフェニルフェニル基、4−(2,2−ジフェニルビニル)フェニル基、4−(1,2,2−トリフェニルビニル)フェニル基、フルオレニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、9−アントリル基、2−アントリル基、9−フェナントリル基であり、より好ましくはメチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、3,7−ジメチルオクチル基、ベンジル基、又はフェニル基であり、更に好ましくはメチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、又はオクチル基であり、特に好ましくはメチル基、エチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、又はオクチル基である。
【0015】
上記のヒドロカルビルオキシ基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれであってもよく、フッ素原子、シアノ基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の炭素原子1〜18のアルコキシ基により置換されていてもよい。
上記のヒドロカルビルオキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、1−プロポキシ基、2−プロポキシ基、1−ブトキシ基、2−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、3,7−ジメチルオクチルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、1−アダマンチルオキシ基、2−アダマンチルオキシ基、ノルボルニルオキシ基、トリフルオロメトキシ基、ベンジロキシ基、α,α-ジメチルベンジロキシ基、2−フェネチルオキシ基、1−フェネチルオキシ基、フェノキシ基、アルコキシフェノキシ基、アルキルフェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基及びペンタフルオロフェニルオキシ基が挙げられ、前記の出発化合物に簡便に導入することができるとともに、該出発化合物の後述する溶媒への溶解性が向上する結果、本発明の製造方法をより効率的に実施できるため、好ましくはメトキシ基、エトキシ基、1−プロポキシ基、2−プロポキシ基、1−ブトキシ基、2−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基又は3,7−ジメチルオクチルオキシ基であり、より好ましくはメトキシ基、エトキシ基、1−プロポキシ基、2−プロポキシ基、1−ブトキシ基、2−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基又はオクチルオキシ基であり、更に好ましくはメトキシ基、エトキシ基、1−ブトキシ基、2−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基又はオクチルオキシ基であり、特に好ましくはメトキシ基、エトキシ基、tert−ブトキシ基又はオクチルオキシ基である。
【0016】
上記の架橋基とは、熱、光、熱重合開始剤又は光重合開始剤の作用で重合反応を起こすことにより、2分子以上の分子間で結合を形成することができる置換基を表す。このような架橋基としては、例えば、ビニル基、エチニル基、ブテニル基、アクリロイル基、アクリロイルオキシ基、アクリロイルアミド基、メタクリロイル基、メタクロイルオキシ基、メタクリロイルアミド基、ビニルオキシ基、ビニルアミノ基、ヒドロキシシリル基、及び小員環(例えばシクロプロパン、シクロブタン、ベンゾシクロブテン、エポキシド、オキセタン、ジケテン、チイラン、ラクトン、ラクタム等)の構造を含有する官能基、又はシロキサン誘導体の構造を含有する官能基等がある。上記の基の他に、エステル結合又はアミド結合を形成可能な基の組み合わせなども利用できる。エステル結合又はアミド結合を形成可能な基の組み合わせとしては、例えばエステル基とアミノ基、エステル基とヒドロキシル基などの組み合わせが挙げられる。
【0017】
<出発化合物>
まず初めに、本発明の方法で使用される出発化合物について説明する。
該出発化合物は、2価の芳香族基を構成単位として4個以上含む主鎖を有するとともに、1価の芳香族基及び脱離基を有する高分子化合物である。この高分子化合物において、脱離基は1種のみ含まれていても2種以上含まれていてもよい。
【0018】
主鎖を構成する上記の2価の芳香族基は、芳香族化合物の芳香環を構成する炭素原子又はヘテロ原子に直接結合した水素原子を2個除いた残りの原子団である。取り除かれる2個の水素原子は両方が炭素原子に結合した水素原子でも同種又は異種のヘテロ原子に結合した水素原子でもよいし、一方が炭素原子に結合した水素原子で他方がヘテロ原子に結合した水素原子でもよい。
【0019】
上記芳香族化合物の例としては、下に例示する化合物1−1〜1−66及びこれらの化合物が有する1又は2以上の水素原子が上述した置換基で置換されている化合物が挙げられる。これらの中でも、得られる高分子化合物を用いて製造される有機EL素子や有機トランジスタの特性がより優れるため、通常、上記置換基を有していてもよい1−1、1−2、1−8、1−10、1−12、1−16、1−18、1−20、1−22、1−24、1−26、1−29、1−30、1−33、1−34、1−37、1−38、1−39、1−40、1−42、1−51、1−52、1−53、1−54、1−55、1−56、1−61、1−62、1−63、1−64、1−65,1−66であり、上記置換基を有していてもよい1−1、1−2、1−8、1−10、1−12、1−16、1−18、1−20、1−22、1−24、1−26、1−29、1−30、1−33、1−34、1−37、1−38、1−39、1−42、1−61、1−62、1−63、1−64、1−65,1−66が好ましく、上記置換基を有していてもよい1−1、1−2、1−10、1−12、1−24、1−26、1−29、1−39、1−61、1−64がより好ましく、上記置換基を有していてもよい1−1、1−10、1−12、1−26、1−39、1−61、1−64が更に好ましく、その中でも上記置換基を有していてもよい1−61及び1−64が特に好ましい。
【0020】
【化1】

【0021】
【化2】

【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
【化6】

【0026】
【化7】

【0027】
該出発化合物は主鎖の構成単位として上述した2価の芳香族基を4個以上含み、7個以上含むことが好ましく、13個以上含むことがより好ましい。また、該2価の芳香族基は通常400個以下であり、300個以下であることが好ましく、200個以下であることがより好ましい。
【0028】
上記出発化合物は、別の特徴として、1価の芳香族基を有する。該1価の芳香族基は、通常、主鎖の両末端に位置する。該1価の芳香族基は、芳香族化合物の芳香環を構成する炭素原子又はヘテロ原子に直接結合した水素原子を1個除いた残りの原子団である。
【0029】
水素原子が1個取り除かれる上記芳香族化合物の例としては、上述した化合物1−1〜1−66及びこれらの化合物が有する1又は2以上の水素原子が上述した置換基で置換されている化合物が挙げられる。これらの中でも、得られる高分子化合物を用いて製造される有機EL素子や有機トランジスタの特性がより優れるため、通常、上記置換基を有していてもよい1−1、1−2、1−8、1−10、1−12、1−16、1−18、1−20、1−22、1−24、1−26、1−29、1−30、1−33、1−34、1−37、1−38、1−39、1−40、1−42、1−51、1−52、1−53、1−54、1−55、1−56、1−61、1−62、1−63、1−64、1−65,1−66であり、上記置換基を有していてもよい1−1、1−2、1−8、1−10、1−12、1−16、1−18、1−20、1−22、1−24、1−26、1−29、1−30、1−33、1−34、1−37、1−38、1−39、1−42、1−61、1−62、1−63、1−64、1−65,1−66が好ましく、上記置換基を有していてもよい1−1、1−2、1−10、1−12、1−24、1−26、1−29、1−39、1−61、1−64がより好ましく、上記置換基を有していてもよい1−1、1−10、1−12、1−26、1−39、1−61、1−64が更に好ましく、その中でも上記置換基を有していてもよい1−61及び1−64が特に好ましい。
【0030】
該出発化合物は、本発明の方法で得られる高分子化合物を溶媒に溶解して塗布により機能性膜を形成することにより塗布型電子デバイス(例えば、塗布型の有機EL素子や有機トランジスタ。)の製造に使用する場合、溶媒への溶解性と成膜性の観点から、重量平均分子量が、5000以上1000000以下が好ましく、10000以上500000以下がより好ましく、20000以上200000以下が更に好ましい。数平均分子量は2500以上500000以下が好ましく、5000以上250000以下がより好ましく、10000以上100000以下が更に好ましい
【0031】
該出発化合物は脱離基を重量基準で通常150ppm以上含有し、典型的には170ppm以上含有し、更に典型的には190ppm以上含有していることが多い。脱離基含有量の上限は何ら制限されず、本発明の方法により低減することができる。
【0032】
該脱離基は出発化合物の構造に結合している。該構造のいずれの部位に結合しているかについては何らの制約もない。後述する製造方法に起因して脱離基の多くは該化合物を構成する1価の芳香族基及び2価の芳香族基の芳香環の環構成原子に、特に1価の芳香族基の芳香環の環構成原子に直接結合しているが、更に他の部位にも結合していることがある。本発明の方法はいずれの部位に結合した脱離基に対しても有効であり、これを還元、除去する作用を示す。
【0033】
以上で一般的に説明した出発化合物のより具体的な例としては、一般式(1):
【0034】
【化8】

〔式中、
ArT1及びArT2は相互に独立に1価の芳香族基であり、
Arは2価の芳香族基であって、複数存在するArは同一又は異なり、mは4以上の整数である。〕
で表され、かつ、一般式(1)で表される構造に結合した脱離基を有する高分子化合物が挙げられる。ここで、1価の芳香族基、2価の芳香族基及び脱離基は上述した通りである。mは4以上の整数であり、7以上の整数であることが好ましく、13以上の整数であることがより好ましい。また、mは通常400以下の整数であり、300以下の整数であることが好ましく、200以下の整数であることがより好ましい。
【0035】
上記一般式(1)において、前記のArは、好ましくは、一般式(2):
【0036】
【化9】

【0037】
〔式中、
Gは2価の連結基であり、
及びRは相互に独立に水素原子又は置換基であり、
p1、Rp2、Rp3及びRp4は相互に独立に水素原子又は置換基であり、
とRp1は結合して2価の基を形成してもよく、RとRp2は結合して2価の基を形成してもよい。
なお、一般式(1)中に複数存在するG、R、R、Rp1、Rp2、Rp3及びRp4は、それぞれ、同一でも異なっていてもよい。〕
で表される2価のフルオレン残基からなる構成単位を含み、かつ、該2価のフルオレン残基からなる構成単位以外の2価の芳香族基からなる構成単位を含んでもよい。
【0038】
上記一般式(2)において、2価のフルオレン残基からなる構成単位以外の2価の芳香族基からなる構成単位が存在する場合には、上記2価のフルオレン残基からなる構成単位と該構成単位以外の2価の芳香族基からなる構成単位とはブロック状態で配列していてもよくランダムに配列していてもよく、一方又は両者が部分的なブロック状態で存在してもよい。
【0039】
上記一般式(2)において、Rp1〜Rp4は水素原子又は置換基を表す。ここで置換基は上記の用語の説明において説明した通りである。
【0040】
上記一般式(2)で表される2価のフルオレン残基は、前記1−37〜1−40、1−51〜1−56、1−61〜1−66及びこれらの化合物が有する1又は2以上の水素原子が上述した置換基で置換されていてもよい化合物の中から、上記一般式(2)で示された位置の水素原子を2個除いた原子団である。
【0041】
上記ArT1及びArT2は、上述した化合物1−1〜1−66及びこれらの化合物が有する1又は2以上の水素原子が上述した置換基で置換されていてもよい化合物から水素原子を1個除いた原子団である。これらの中でも、得られる高分子化合物を用いて製造される有機EL素子や有機トランジスタの特性がより優れるため、通常、上記置換基を有していてもよい1−1、1−2、1−8、1−10、1−12、1−16、1−18、1−20、1−22、1−24、1−26、1−29、1−30、1−33、1−34、1−37、1−38、1−39、1−40、1−42、1−51、1−52、1−53、1−54、1−55、1−56、1−61、1−62、1−63、1−64、1−65,1−66であり、上記置換基を有していてもよい1−1、1−2、1−8、1−10、1−12、1−16、1−18、1−20、1−22、1−24、1−26、1−29、1−30、1−33、1−34、1−37、1−38、1−39、1−42、1−61、1−62、1−63、1−64、1−65,1−66が好ましく、上記置換基を有していてもよい1−1、1−2、1−10、1−12、1−24、1−26、1−29、1−39、1−61、1−64がより好ましく、上記置換基を有していてもよい1−1、1−10、1−12、1−26、1−39、1−61、1−64が更に好ましく、その中でも上記置換基を有していてもよい1−61及び1−64が特に好ましい。
【0042】
・出発化合物の製造方法:
上記出発化合物である脱離基を有する高分子化合物は、縮合重合に関与する基に応じて公知の縮合重合反応を採用する重合方法により得られ、脱離基の種類は主として採用する反応により異なる。このような重合方法としては、例えば、該当するモノマーを、Suzukiカップリング反応により重合する方法、Kumada−Tamaoカップリングにより重合する方法、ニッケルゼロ価錯体により重合する方法、FeCl3等の酸化剤により重合する方法、電気化学的に酸化重合する方法が挙げられる。このような重合反応の中でも、Suzukiカップリング反応により重合する方法、Kumada−Tamaoカップリングにより重合する方法及びニッケルゼロ価錯体により重合する方法が、得られる高分子化合物の構造制御がし易いため好ましい。
【0043】
・・Suzukiカップリング反応の利用:
Suzukiカップリング反応を用いて製造する場合、原料化合物が有する縮合重合に関与する基が、各原料化合物ごとに独立に、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、トシルスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基、ホウ酸基(−B(OH)2)及びホウ酸エステル基から選ばれ、全原料化合物が有する、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、トシルスルホニルオキシ基及びメタンスルホニルオキシ基のモル数の合計(J)と、ホウ酸基(−B(OH)2)及びホウ酸エステル基のモル数の合計(K)の比(K/J)が実質的に1(通常、0.7〜1.2の範囲)であり、かつ、ニッケル触媒又はパラジウム触媒を用いて縮合重合して共役系ポリマーを製造する方法が挙げられる。
【0044】
Suzukiカップリング反応を用いた前記高分子化合物の製造方法を採用する場合における具体的な原料化合物の組み合わせとしては、ジハロゲン化合物、ビストリフルオロメタンスルホニルオキシ化合物、ビストシルスルホニルオキシ化合物、ビスメタンスルホニルオキシ化合物、ビスベンゼンスルホニルオキシ化合物のうちのいずれかと、ジホウ酸化合物又はジホウ酸エステル化合物のうちのいずれかとの組み合わせ等が挙げられる。
【0045】
また、Suzukiカップリング反応を用いた前記高分子化合物の製造方法に用いる有機溶媒としては、用いる化合物や反応によっても異なるが、一般に副反応を抑制するために十分に脱酸素処理を施したものを用いることが好ましい。高分子化合物を製造する際には、このような有機溶媒を用いて不活性雰囲気下で反応を進行させることが好ましい。また、前記有機溶媒においては、前記脱酸素処理と同様に脱水処理を行うことが好ましい。
但し、水との2相系での反応の場合にはその限りではない。
【0046】
また、有機溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンなどの飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンなどの不飽和炭化水素、ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアミド類が例示される。これらの有機溶媒は1種を単独で、又は2種以上を混合して用いてもよい。また、このような有機溶媒の中でも、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエンがより好ましく、トルエンが更に好ましい。
【0047】
また、Suzukiカップリング反応を用いた前記高分子化合物の製造する際においては、原料化合物を反応させるために適宜アルカリや適当な金属錯体を添加することが好ましい。このようなアルカリ又は金属錯体は、採用する重合方法等に応じて選択すればよい。このようなアルカリ又は金属錯体としては、反応に用いる溶媒に十分に溶解するものが好ましい。また、前記アルカリ又は金属錯体を混合する方法としては、反応液をアルゴンや窒素などの不活性雰囲気下で攪拌しながらゆっくりとアルカリ又は金属錯体の溶液を添加するか、逆にアルカリ又は金属錯体の溶液に反応液をゆっくりと添加する方法が例示される。
【0048】
また、Suzukiカップリング反応を用いる際においては、反応温度は20℃〜150℃の中で任意に選択できる。その中でも、20℃〜120℃が好ましく、60℃〜120℃が更に好ましい。
【0049】
・・Kumada−Tamaoカップリング反応の利用:
Kumada−Tamaoカップリング反応を用いて製造する場合、原料化合物が有する縮合重合に関与する基が、各原料化合物ごとに独立に、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、トシルスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基、−MgCl、−MgBr及び−MgIから選ばれ、全原料化合物が有する、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、トシルスルホニルオキシ基及びメタンスルホニルオキシ基のモル数の合計(J)と、−MgCl、−MgBr、−MgIで表される基のいずれかのモル数の合計(K)の比が実質的に1(通常 K/J は0.7〜1.2の範囲)であり、かつ、ニッケル触媒又はパラジウム触媒を用いて縮合重合して共役系ポリマーを製造する方法が挙げられる。
【0050】
Kumada−Tamaoカップリング反応を用いた前記高分子化合物の製造方法を採用する場合における具体的な原料化合物の組み合わせとしては、ジハロゲン化合物、ビストリフルオロメタンスルホニルオキシ化合物、ビストシルスルホニルオキシ化合物、ビスメタンスルホニルオキシ化合物、ビスベンゼンスルホニルオキシ化合物のうちのいずれかと、−MgCl、−MgBr、−MgIで表される基のうちのいずれかを二つ以上有する化合物との組み合わせ等が挙げられる。
【0051】
また、Kumada−Tamaoカップリング反応を用いた前記高分子化合物の製造方法を採用する場合における有機溶媒としては、用いる化合物や反応によっても異なるが、一般に副反応を抑制するために十分に脱酸素処理を施したものを用いることが好ましく、高分子化合物を製造する際には、このような有機溶媒を用いて不活性雰囲気下で反応を進行させることが好ましい。また、前記有機溶媒においては、前記脱酸素処理と同様に脱水処理を行うことが好ましい。
【0052】
また、有機溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンなどの飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンなどの不飽和炭化水素、ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類等が例示される。これらの有機溶媒は1種を単独で、又は2種以上を混合して用いてもよい。また、このような有機溶媒の中でも、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランがより好ましく、テトラヒドロフランが更に好ましい。
【0053】
また、Kumada−Tamaoカップリング反応を用いて前記高分子化合物の製造する際においては、反応温度は20℃〜150℃の中で任意に選択できる。その中でも、20℃〜100℃が好ましく、40℃〜80℃が更に好ましい。
【0054】
・・ニッケルゼロ価錯体により重合する方法:
ニッケルゼロ価錯体により重合する方法を用いて製造する場合、原料化合物が有する縮合重合に関与する基が、各原料化合物ごとに独立に、上記の用語の説明における脱離基から選択され、かつ、ニッケルゼロ価錯体存在下で縮合重合して高分子化合物を製造する方法が挙げられる。このような方法に使用する原料化合物としては、例えば、ジハロゲン化合物、ビストリフルオロメタンスルホニルオキシ化合物、ビストシルスルホニルオキシ化合物、ビスメタンスルホニルオキシ化合物、ハロゲン−トリフルオロメタンスルホニルオキシ化合物、ハロゲン−トシルスルホニルオキシ化合物、ハロゲン−メタンスルホニルオキシ化合物、トリフルオロメタンスルホニルオキシ−トシルスルホニルオキシ化合物、トリフルオロメタンスルホニルオキシ−メタンスルホニルオキシ化合物及びトシルスルホニルオキシ−メタンスルホニルオキシ化合物等が挙げられる。
【0055】
また、ニッケルゼロ価錯体により重合する方法を用いた前記高分子化合物の製造方法を採用する場合における有機溶媒としては、用いる化合物や反応によっても異なるが、一般に副反応を抑制するために十分に脱酸素処理を施したものを用いることが好ましく、高分子化合物を製造する際には、このような有機溶媒を用いて不活性雰囲気下で反応を進行させることが好ましい。また、前記有機溶媒においては、前記脱酸素処理と同様に脱水処理を行うことが好ましい。
【0056】
また、有機溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンなどの飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンなどの不飽和炭化水素、ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアミド類等が例示される。これらの有機溶媒は1種を単独で、又は2種以上を混合して用いてもよい。また、このような有機溶媒の中でも、N,N−ジメチルホルムアミド、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエンがより好ましく、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、トルエンが更に好ましい。
【0057】
また、ニッケルゼロ価錯体により重合する際においては、反応温度は20℃〜150℃の中で任意に選択できる。その中でも、20℃〜120℃が好ましく、60℃〜120℃が更に好ましい。
【0058】
<反応>
本発明の方法によれば、上述した出発化合物を、第8族〜第10族の金属を含む触媒の存在下において、ギ酸塩、金属アルコキシド、ホウ素水素化物、アルミニウム水素化物、ケイ素水素化物、スズ水素化物、銅水素化物、ジルコニウム水素化物、又はこれらの2種以上の組み合わせを用いて還元する。その結果、該脱離基の少なくとも一部が除去される。
【0059】
・還元剤:
この方法では、還元剤として、ギ酸塩、金属アルコキシド、ホウ素水素化物、アルミニウム水素化物、ケイ素水素化物、スズ水素化物、銅水素化物、ジルコニウム水素化物、又はこれらの2種以上の組み合わせを用いる。中でも、ギ酸塩、金属アルコキシドは、空気中で容易に取り扱い可能であるので好ましく、ギ酸塩がより好ましい。このとき、ギ酸塩と金属アルコキシドとを組み合わせて使用することもできる。
【0060】
前記ギ酸塩として、例えば、HCOLi、HCONa、HCOK、HCORb、HCOCs、HCOT1、HCONH、HCONH、HCOHNEt、HCOHEtNPr、(HCOBe、(HCOCa、(HCOZn、(HCOCo、(HCOFe、(HCOSr、(HCOSn、(HCOCu、(HCOPb、(HCOBa、(HCOMg、(HCONi、(HCOY、(HCOCr、(HCOFe、(HCOSc、(HCOA1、(HCOBi、(HCONd、(HCOPb、(HCOLa、(HCOSnが挙げられるが、HCOLi、HCONa、HCOK、HCORb、HCOCs、HCOTl、HCONH、HCONH、HCOHNEt、HCOHEtNPrが好ましく、HCOLi、HCONa、HCOK、HCOCs、HCOHNEt、HCOHEtNiPrが更に好ましく、HCOHNEt、HCOHEtNPrが特に好ましい。なお、ギ酸と塩基を別々に所要の割合で反応系に添加して混合することにより、反応系内でギ酸塩を生成させてもよい。
【0061】
前記金属アルコキシドとして、1級アルコキシド、又は、2級アルコキシドが挙げられる。例えば、MeOLi、MeONa、MeOK、MeOCs、(MeO)Mg、(MeO)Ca、(MeO)Zn、(MeO)B、(MeO)Al、(MeO)Ti、EtOLi、EtONa、EtOK、EtOCs、(EtO)Mg、(EtO)Ca、(EtO)Zn、(EtO)B、(EtO)A1、(EtO)Ti、iPrOLi、iPrONa、PrOK、PrOCs、(PrO)Mg、(PrO)Ca、(PrO)Zn、(PrO)B、(PrO)Al、(PrO)Tiが挙げられるが、PrOLi、PrONa、PrOK、PrOCsが好ましく、PrOLi、PrONa、PrOCsが更に好ましく、PrOLi、PrOCsが特に好ましい。なお、アルコールと塩基を別々に所要の割合で反応系に添加し混合することにより、反応系内で金属アルコキシドを生成させてもよい。
【0062】
前記ホウ素水素化物として、NaBH、NaBHCN、NaBHBu、LiBHEt、LiBHBu、LiBHBu、LiBH、KBHBu、Zn(BH、BH、NaBH(OAc)、NBuBH、NMeBH、NMeBH(OAc)が挙げられる。
【0063】
前記アルミニウム水素化物として、AlHBu、AlBu、NaAlH(OCOCH、LiAIH(OBu)、AlH、LiAlHが挙げられる。また、AlBuを用いて、反応系中でAlHBuを発生させることもできる。
【0064】
前記ケイ素水素化物として、PhHSiSiHPh、MeHSiOSiHMe、HSiEt、HSiC1、EtSiH、PhMeSiH、PhMeSiH、PhSiH、PhSiH、SiH、(C13SiHが挙げられる。
【0065】
前記スズ水素化物として、SnH、BuSnH、HSnCl、(C17SnHが挙げられる。
前記銅水素化物として、[(PPh)CuH]が挙げられる。
前記ジルコニウム水素化物として、CpZrHClが挙げられる。
【0066】
・触媒:
本発明の製造方法には、触媒として、第8族〜第10族の金属を含む触媒が用いられる。第8族〜第10族の金属としては、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金がある。これらの中でも、第10族金属、即ち、ニッケル、パラジウム及び白金が好ましく、ニッケルとパラジウムがより好ましく、パラジウムが更に好ましい。
【0067】
該触媒は均一系触媒でも不均一系触媒でもよいが、均一系触媒が好ましく、特に金属錯体からなる均一系触媒が好ましい。該金属錯体として、第8族〜第10族の金属を含む金属錯体が挙げられる。その中でも、前記金属を含む金属錯体が好ましく、第10族金属を含む金属錯体がより好ましく、ニッケル又はパラジウムの錯体が更に好ましく、パラジウム錯体が特に好ましい。
触媒である金属錯体は予め錯体として用意したものを使用してもよいし、配位子になる化合物と金属成分とを別々に反応系に添加し、反応系中で生成させてもよい。
【0068】
上記触媒が金属錯体の状態であるとき、配位子として含リン有機配位子が好ましい。第10族金属を含み(通常、中心元素として)、含リン有機配位子を有する金属錯体がより好ましく、含リン有機配位子を有するパラジウム錯体が更に好ましい。
【0069】
前記含リン有機配位子としては、置換基を有していてもよい下記の2−1〜2−30の有機リン化合物が挙げられる。これらの中でも、金属錯体の形成時における安定性の観点から、2−1、2−11、2−12、2−13、2−17、2−19、2−21、2−23、2−25、2−27、2−29の化合物が好ましく、2−1、2−17、2−19、2−21、2−25の化合物がより好ましく、2−1、2−19、2−25の化合物が更に好ましく、その中でも2−1及び2−19の化合物が特に好ましい。
【0070】
【化10】

【0071】
【化11】

【0072】
上記の含リン有機配位子を含む第8族〜第10族金属の錯体の好ましい例としては、下記の化合物3−1〜3−15が挙げられ、3−1、3−2、3−3、3−4、3−5が好ましく、3−1、3−3がより好ましい。
【0073】
【化12】

【0074】
<生成物>
本発明の製造方法により、出発化合物中の脱離基の少なくとも一部、通常相当量が還元されて除去される。具体的には、脱離基は水素原子に還元される。その結果、脱離基含有量が低減された高分子化合物が得られる。
【0075】
こうして得られた脱離基含有量が低減された高分子化合物は、基本的に出発化合物と同一の構造を有するが、脱離基含有量は重量基準で通常100ppm以下であり、好ましくは60ppm以下とすることが可能であり、より好ましくは40ppm以下とすることも可能である。
【実施例】
【0076】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0077】
重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ−(GPC)(東ソー株式会社製:HLC−8220GPC)を用いて、ポリスチレン換算の数平均分子量及び重量平均分子量として求めた。また、測定する試料は、約0.5重量%の濃度になるようにテトラヒドロフランに溶解させ、GPCに50μL注入した。更に、GPCの移動相としてはテトラヒドロフランを用い、0.5mL/minの流速で流した。重合体の構造分析はVarian社製300MHzNMRスペクトロメータ−を用いた、H−NMR解析によって行った。また、測定は、20mg/mLの濃度になるように試料を可溶な重溶媒に溶解させて行った。
【0078】
[合成例1]
<2,7−ジブロモ−9,9−ビス[3−エトキシカルボニル−4−ビス(3,6,9−トリオキサデシルオキシ)フェニル]−フルオレン(A)の合成>
2,7−ジブロモ−9−フルオレノン(52.5g)、サリチル酸エチル(154.8g)、メルカプト酢酸(1.4g)を300mLフラスコに入れ、該フラスコ内の気体を窒素ガスで置換した。その後、メタンスルホン酸(630mL)を添加し、混合物を75℃で終夜撹拌した。得られた混合物を放冷し、氷水に添加して1時間撹拌した。生じた固体をろ別し、温アセトニトリルで洗浄した。洗浄後の粗生成物をアセトンから再結晶することで、精製した固体を得た。この固体(62.7g)、3,6,9−トリオキサデシルp−トルエンスルホネート(86.3g)、炭酸カリウム(62.6g)、1,4,7,10,13,16−ヘキサオキサシクロオクタデカン(「18−クラウン−6」と呼ばれることもある。)(7.2g)をN、N−ジメチルホルムアミド(DMF)(670 mL)に溶解させ、溶液をフラスコへ移して105℃で終夜撹拌した。得られた混合物を室温まで放冷し、氷水へ加え、1時間撹拌した。その後、クロロホルム(300mL)を加えて分液抽出を行い、得られたクロロホルム溶液を濃縮することで、2,7−ジブロモ−9,9−(3,6,9−トリオキサデシルオキシ)フェニル]−フルオレン(A)(51.2g)を得た。該化合物であることをH−NMR及び質量分析を用いて確認した。
【0079】
【化13】

(A)
【0080】
[合成例2]
<2,7−ビス(4,4,5,5−テトラメチル-1,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ビス[3−エトキシカルボニル−4−(3,6,9−トリオキサデシルオキシ)フェニル]−フルオレン(B)の合成>
反応容器内の気体を窒素ガスで置換した後、合成例1で合成した化合物(A)(15g)、ビス(ピナコラート)ジボロン(8.9g)、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)ジクロロメタン錯体(0.8g)、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(0.5g)、酢酸カリウム(9.4g)、ジオキサン(400mL)を混合し、110℃に加熱し、10時間加熱還流した。放冷後、反応溶液をろ過し、ろ液を減圧濃縮した。反応混合物をメタノールで3回洗浄した。沈殿物をトルエンに溶解させ、溶液に活性炭を加えて攪拌した後ろ過を行い、ろ液を減圧濃縮することで、下式で表される2,7−ビス(4,4,5,5−テトラメチル-1,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ビス[3−エトキシカルボニル−4−(3,6,9−トリオキサデシルオキシ)フェニル]−フルオレン(B)(11.7g)を得た。該化合物であることをH−NMR及び質量分析を用いて確認した。
【0081】
【化14】

(B)
【0082】
[合成例3]
<ポリマー(C)の合成>
合成例1で得られた化合物(A)(0.586mmol,0.554g)、合成例2で得られた化合物(B)(0.586mmol,0.609g)、2M炭酸ナトリウム水溶液(10mL)、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド(アルドリッチ製、商品名Aliquat336(登録商標))(0.20g,アルドリッチ製)、トルエン(10mL)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(10.2mg)を100mLフラスコの中で混合し、80℃に加熱し6時間還流させた。その後、化合物(B)(10mg)とテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(5.1mg)を加えて、更に1時間加熱した。こうして目的とするポリマー(C)を含むトルエン溶液約10mLを得、これを室温下で放冷した後、該トルエン溶液中の水を除去した。次に、こうして得たトルエン溶液10mLの内、5mLを後述する実施例1に供し、残る5mLを濃縮した。濃縮により得られた残渣をTHF(2mL)に溶解させ、得られた溶液をメタノール100mLに滴下させることにより固形物を析出させた。得られた固形物をTHF(5mL)に溶解し、該溶液にジチオカルバミン酸ナトリウム3水和物(EtNCSNa・3HO)水溶液(20mg,水1.00mL)を加えた後、室温で1時間撹拌した。得られた混合液を濃縮し、次いで水(15mL)・メタノール(15mL)で洗浄し、得られた残渣を乾燥させることでポリマー(C)(400mg)を得た。
【0083】
ポリマー(C)のポリスチレン換算の数平均分子量は3.0×104、重量平均分子量は6.0×104であった。ポリマー(C)の酸素燃焼によるイオンクロマトグラフ方法で求めた臭素濃度は重量基準で190ppmであった。
【0084】
ポリマー(C)は下記式で表される構造を有する。但し、臭素原子は両末端に結合する臭素原子以外にも存在する可能性がある。
【0085】
【化15】

【0086】
(式中、nは上記の重量平均分子量を、ポリマー(C)を構成する繰返し単位の式量で除して76と計算された。)
【0087】
[実施例1]
<ワンポットで行うポリマー(C)の脱離基の除去>
合成例3において、本実施例のために分けたトルエン溶液5mLに対して、N,N−ジメチルホルムアミド(10mL)、ギ酸・トリエチルアミン塩(9.00mol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(10.2mg)を添加し、80℃で6時間撹拌した。その後、混合液を室温にまで放冷し、メタノール(200mL)に滴下することにより析出させて固形物を得た。得られた固形物をTHF(5mL)に溶解させて、ジチオカルバミン酸ナトリウム3水和物(EtNCSNa・3HO)水溶液(20mg,水1.00mL)を加えた後、得られた混合溶液を室温で1時間撹拌した。その後、該混合溶液を濃縮して残渣を得、該残渣をTHF(2mL)に溶解させ、得られたTHF溶液を水・メタノールの混合溶液(水、メタノール各100mL)に滴下することにより析出させた。得られた固形物を、アルミナカラムによって精製した(展開溶媒THF)。こうして得られた溶液を濃縮して残渣を得、該残渣をTHF(2mL)に溶解させ、得られたTHF溶液を水・メタノールの混合溶液(水、メタノール各100mL)に滴下することにより、脱離基含有量が低減されたポリマー(C)(150mg)を析出させた。
【0088】
こうしてワンポットで処理したポリマー(C)のポリスチレン換算の数平均分子量は4.9×104、重量平均分子量は7.8×104と測定された。また、該ポリマー(C)の酸素燃焼によるイオンクロマトグラフ法で求めた臭素含有量は重量基準で40ppmであった。なお、複数の段階の反応を経て目的化合物を合成する過程において、中間生成物の単離や精製を行うことなく、単一の容器で目的化合物を合成する手法を「ワンポット合成」ということがあり、本明細書における「ワンポット」とは、その際の単一の容器のことを意味する。
【0089】
[実施例2]
<2ポットで行うポリマー(C)の脱離基の除去>
合成例3で得られた190ppmの臭素を有するポリマー(C)(200mg)に、N,N−ジメチルホルムアミド(10mL)、ギ酸・トリエチルアミン塩(9.00mol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(10.2mg)を添加し、得られた混合液を110℃で20時間撹拌した。その後、該混合液を室温まで放冷し、メタノール(200mL)に滴下することにより析出させ固形物を得た。得られた固形物をTHF(5mL)に溶解させて、ジチオカルバミン酸ナトリウム3水和物(EtNCSNa・3HO)水溶液(20mg,水1.00mL)を加えて、室温で1時間撹拌した。その後、混合溶液を濃縮し、得られた残渣をTHF(2mL)に溶解させ、水・メタノールの混合溶液(水、メタノール各100mL)に滴下することにより析出させ固形物を得た。得られた固形物を再びTHF(2mL)に溶解させ、得られた溶液を水・メタノールの混合溶液(水、メタノール各100mL)に滴下することにより析出させて固形物を得た。得られた固形物をアルミナカラムによって精製した(展開溶媒THF)。得られた溶液を濃縮し、脱離基含有量が低減されたポリマー(C)(100mg)を得た。
【0090】
こうして、2ポットで脱離基含有量が低減されたポリマー(C)のポリスチレン換算の数平均分子量は3.2×104、重量平均分子量は6.4×104であった。該ポリマー(C)のICP−MS法で求めた臭素濃度は重量基準で8ppmであった。なお、複数の段階の反応を経て目的化合物を合成する過程において、2つの容器を用いて目的化合物を合成する場合があるが、本明細書における「2ポット」とは、その際の2つの容器のことを意味する。
【0091】
合成例3並びに実施例1及び2で得られた結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
表1から明らかなように、本発明の製造方法によって、脱離基含有量が顕著に低減された高分子化合物を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の製造方法により得られる高分子化合物はハロゲン原子などの有機EL素子、有機トランジスタ等の特性を損なうことがある脱離基が低減されている。したがって、本発明の製造方法は有機EL素子や有機トランジスタ等の電子素子の製造において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2価の芳香族基を構成単位として4個以上含む主鎖を有するとともに、1価の芳香族基及び脱離基を有する高分子化合物を、
第8族〜第10族の金属を含む触媒の存在下において、還元剤として、ギ酸塩、金属アルコキシド、ホウ素水素化物、アルミニウム水素化物、ケイ素水素化物、スズ水素化物、銅水素化物、ジルコニウム水素化物、又はこれらの2種以上の組み合わせを用いて還元して該脱離基の少なくとも一部を除去することを含む、脱離基含有量が低減された高分子化合物の製造方法。
【請求項2】
前記の脱離基除去前の高分子化合物が、一般式(1):
【化1】

〔式中、
ArT1及びArT2は相互に独立に1価の芳香族基であり、
Arは2価の芳香族基であって、複数存在するArは相互に独立にmは4以上の整数である。〕
で表され、かつ、一般式(1)で表される構造に結合した脱離基を有する高分子化合物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記のArが、一般式(2):
【化2】

〔式中、
Gは2価の連結基であり、
及びRは相互に独立に水素原子又は置換基であり、
p1、Rp2、Rp3及びRp4は、相互に独立に水素原子又は置換基であり、
とRp1は結合して2価の基を形成してもよく、RとRp2は結合して2価の基を形成してもよい。
なお、一般式(1)中に複数存在するG、R、R、Rp1、Rp2、Rp3及びRp4は、それぞれ、同一でも異なっていてもよい。〕
で表される2価のフルオレン残基からなる構成単位を含み、かつ、該2価のフルオレン残基からなる構成単位以外の2価の芳香族基からなる構成単位を含んでもよい、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記の触媒が、前記の金属を含む金属錯体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記の金属錯体が、含リン有機配位子を有する金属錯体である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記の第8族〜第10族の金属が、パラジウム又はニッケルである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記の還元剤として、ギ酸塩、金属アルコキシド又はこれらの組み合わせを用いる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記の脱離基が、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、トシルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ及びメタンスルホニルオキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記の脱離基除去前の脱離基を有する高分子化合物の脱離基含有量が重量基準で150ppm以上であり、
脱離基除去により得られた高分子化合物の脱離基含有量が重量基準で100ppm以下である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。