説明

脳に治療剤を送達するためのカニューレ配置の最適化

送達カニューレの最適な配置をもたらす配置座標の使用による、脳の標的領域への薬剤の送達を改善するための方法およびシステムが提供される。カニューレの配置を最適化することにより、脳の標的領域における注入剤の再現可能な分布が達成され、これにより、脳への治療剤のより有効な送達が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
対流強化送達(CED、Convection−enhanced delivery)は、中枢神経系(CNS)中への薬剤の送達の際に血液脳関門もすり抜ける、細胞間への(interstitial)中枢神経系(CNS)送達法である。脳内への大部分の治療剤の伝統的な局所送達は、濃度勾配に依存する拡散に頼ってきた。拡散速度は、薬剤のサイズに反比例し、通常、組織クリアランスに関して緩慢である。したがって、拡散の結果、大部分の送達薬剤は不均質に分布することとなり、拡散するのは拡散源から数ミリメートルに限定される。これに対し、CEDは、注入カテーテルの先端で形成される流体圧力勾配と、細胞外液腔内で物質を伝播する細胞間隙流とを用いる。CEDは、細胞外に注入された物質を、血管周囲腔を介してさらに伝播させることが可能であり、その際、血管の律動性収縮が、注入剤にとって効率的な駆動力として作用する。結果として、より高濃度の薬物が、単純な注射を用いた場合に見られると思われるより広い面積の標的組織にわたり、より均一に分布する。現在、CEDは、パーキンソン病(PD)などの神経変性疾患および神経腫瘍学の分野において臨床試験されている。CEDを用いた実験室研究は、小分子、巨大分子、ウイルス粒子、磁性ナノ粒子およびリポソームの送達など、広範な適用分野にわたっている。
【0002】
治療剤と同時注入される新規のコントラスト物質で補助されるCEDの可視化は、齧歯動物、非ヒト霊長動物(NHP)およびヒトにおいて研究されている。CED中、所与の薬剤の分布容積(Vd)は、対流により移動している組織の構造特性(透水度など)、血管容積の割合および細胞外液の割合に依存する。Vdは、送達効率を高めつつ標的外の領域中への治療剤の広がりを制限しようとする注入術の技術的なパラメーター(カニューレデザイン、カニューレ配置、注入容積および注入速度など)にも依存する。
【0003】
画像誘導ニューロナビゲーションは、定位固定の原理を利用する。脳は、デカルト座標系に基づく、互いに直交する3つの仮想上の交差空間面(水平面、前頭面および矢状面)により分割できる幾何学量としてとらえられる。脳内の任意の地点は、この3つの交差面に沿ったその距離を測定することにより特定できる。ニューロナビゲーションは、この脳座標系を、コンピューターワークステーションのコンソール上に表示される患者の三次元画像データの並行座標系と共に参照することで、該医用画像が、脳内の対応する実際の位置を1対1で示すマップとなるようにすることにより、正確な外科手術の誘導を行う(Golfinosら、J Neurosurg、1995、83、197〜205ページを参照されたい)。機能的画像モダリティー、とりわけ、脳磁図(MEG)、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)およびポジトロン放出断層撮影法(PET)をニューロナビゲーションと統合することにより、神経学において著しい進歩が可能になっている。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、カニューレ配置のための改善された方法を提供する。
【0005】
最適な配置を実現するための送達カニューレのポジショニングによる、脳の標的領域への治療剤の送達を改善するための方法およびシステムが提供される。本発明のカニューレポジショニング用ガイドラインを用いると、脳内に存在する「漏出経路」への治療剤の送達が回避されるので、このカニューレ配置用ガイドラインを利用することにより、脳の標的領域において注入剤の再現可能な分布が達成され、脳への治療剤のより有効な送達が可能になる。通常は、漏出経路が送達の先端から1mm超離れていることが好ましい。標的化の対象領域としては、限定するものではないが、被殻、視床、脳幹などが挙げられる。いくつかの実施形態では、受益者は、霊長動物、例えば、ヒトおよび非ヒト霊長動物である。
【0006】
カニューレ配置のための最適なポジショニングを決定する方法も提供される。いくつかの実施形態では、配置は、以下の方法により実験により決定される:脳の標的領域に造影剤を送達し、注入剤の分布を決定し、カニューレ配置の部位を所望の分布と相関させる方法であって、最適な配置の結果、注入剤が適切に封入される、すなわち注入剤が所望の標的区域外に広がらない、方法。別の実施形態では、本発明中で提供される配置ポジショニングは、三次元モデル化法により1つの種から別の種へ外挿するために使用される。
【0007】
脳に治療剤を送達するためのシステムであって、送達カニューレと、最適なカニューレ配置のための配置座標と共に提供される定位システムとを備えるシステムが提供される。
【0008】
本発明の治療剤投与は、治療剤の送達を可能にする任意の局所送達システムによるものであってもよい。そのような送達システムの例としては、CEDおよび脳内送達、とりわけCEDが挙げられるが、これらに限定されない。
【0009】
本発明のいくつかの実施形態では、送達カニューレはステップ型デザインのカニューレであり、このカニューレは、ステップを越えて流れる流体の初期の逆流を制限することにより、注入デバイスに沿った逆流を減少させる。そのような方法では、本発明の配置座標により、脳内の漏出経路(脳において漏出経路として作用する、周囲の白質路、血管、脳室など)への治療剤の送達を回避する形で、標的組織内での注入カニューレのステップおよび/または先端を最適な部位に配置することが可能になる。
【0010】
一態様では、本発明は、神経細胞の死滅および/または機能不全を特徴とするCNS障害を有する患者を治療する方法を提供する。一実施形態では、CNS障害は、慢性障害である。別の実施形態では、CNS障害は、急性障害である。本発明の方法による治療の対象となるCNS障害としては、限定するものではないが、以下が挙げられる:ハンチントン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、脳卒中、頭部外傷、脊髄傷害、多発性硬化症、レヴィー小体型認知症、網膜変性症、てんかん、精神障害、ホルモンバランス障害および蝸牛変性。治療方法としては、予防的な方法(例えば、術前診断を含む)を挙げることができる。術前診断としては、限定するものではないが、遺伝学的スクリーニング、神経画像法などを挙げることができる。神経画像法は、機能的神経画像法または非機能的画像法、例えばPET、MRIおよび/またはCTを含んでもよい。
【0011】
別の態様では、本発明は、CNS障害のリスクのある患者を治療する予防的な方法を提供する。この方法は、本発明のカニューレ配置座標を利用して患者における応答性のCNS神経集団に医薬組成物を局所送達するステップを含み、成長因子のそのような投与は、CNS障害を予防しもしくはその発症を遅らせ、または、一旦CNS障害が生じた場合に、その重症度を低下させる。
【0012】
本発明のさまざまな態様および実施形態、ならびに本発明を作製および使用する方法は、図面および発明の説明、実施例、請求項、ならびに以下に説明する図面に、より詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】被殻におけるMRIトレーサーの分布を用いて、空間座標と逆流の長さとの相関を示すグラフである。
【図2】(A)被殻におけるステップ型カニューレ配置の概略図である。各ケースについて、グリーンゾーン、ブルーゾーンおよびレッドゾーンにカニューレを配置した場合のステップおよび先端部分を両方示す。(B)各ゾーンの合計Vdに対する被殻におけるVdと定義される分布の成功を示す(p<0.01)。(C).グリーンゾーン、ブルーゾーンおよびレッドゾーンについて、被殻におけるガドテリドール分布を示す代表的なMR画像である。各ゾーンについてのパネルC、DおよびEは、カニューレ配置および初期注入を示す。パネルF、GおよびHは、それぞれのRGBゾーン中への注入後の脳内におけるガドテリドール分布を示す。G(ブルー)における白質路中へのわずかな漏出、および、H(レッド)における顕著な漏出に注目されたい。グリーンゾーン(F)中に注入した結果、トレーサーは被殻のみに分布した。
【図3】NHPの被殻(A)、および、NHPにおいて得られたRGBパラメーターに基づくヒトの被殻(B)において輪郭を描き、同じスケールを用いて比較した、ステップについてのRGBゾーンを示す図である。
【図4】グリーンゾーンの3D再構成、ならびに、NHP(AおよびC)およびヒトの被殻(BおよびD)における「グリーンゾーン」の代表的な容積を示す図である。グリーンゾーンの区域は、MR画像から、腹側からCC(脳梁)まで少なくとも3mm、AC(前交連)から少なくとも6mm(カニューレ先端からACまでの3mm+先端長さの3mm)垂直に離れ、EC(外包)から外側に2.75mm超、IC(内包)から内側に3mm超の容積と定義した。
【図5】被殻におけるガドテリドール分布および白質路中への漏出を、MRIトレーサーの注入容積が小さい場合および大きい場合について示す代表的なMR画像である。
【図6】視床およびWMT(白質路)における合計Vdに対する視床におけるGd(ガドテリドール)のVdの比率(%)を示す図である。
【図7】視床におけるカニューレ配置を示す図である。
【図8】注入トレーサーの視床内封入率(%)を進入点に対してプロットしたグラフである。
【図9】注入トレーサーの視床内封入率(%)を側面境界に対してプロットしたグラフである。
【図10】カニューレステップから正中への距離が視床封入率と相関したことを示すグラフである。
【図11】CED中の、脳幹におけるガドテリドール分布を示す図である。
【図12】脳幹におけるカニューレステップ配置についてのパラメーターの測定を示す図である。
【図13】脳幹封入率を、測定したパラメーターに対して示すグラフである。
【図14】視床および脳幹におけるVi対Vdを示す図である。
【図15】GdのRCDを行った際のT1強調MR画像、および、ROIの3D構成である。(a)〜(e)は、NHPの視床中への注入の初めから終わりまでの多様な時点で得られた、冠状面における一連のリアルタイムT1強調MR画像である。対応する注入時点での注入剤の容積(V)を、各パネルの下部に示す。スケールバー=0.5cm。(f)は、注入が終了した後の左視床におけるGdシグナルに基づくROIの三次元再構成を示す。Gdの分布容積(V)をパネルの下部に示す。RCD:リアルタイム対流送達。ROI:対象領域。
【図16】AAV2−GDNF/Gdを注入したNPHにおける、VとVとの間の線形関係を示すグラフである。プロットは、NHP(n=5)におけるVとVとの間の線形関係を示す(R=0.904、P<0.0001)。平均V/V比は4.68±0.33(平均±SEM)であった。V:注入剤容積。V:Gdの分布容積。
【図17】AAV2−GDNFを視床中に両側注入した霊長動物1番における、組織像とのMRI相関を示す図である。(a).視床におけるGd分布(緑色で輪郭を示してある)を示すT1強調MR画像である。対応する組織切片の、GDNFについて陽性に染まっている区域(オレンジ色で輪郭を示してある)を、比較のためにMR画像に転写した。左右の注入は、異なる回数により完了したので、各注入について最終系列のMR画像を切り取ってパネルaに合成した。左右の脳への注入容積をパネルの下部に示した[V(L)およびV(R)]。スケールバー=0.5cm。(b).aにおいて画像化した霊長動物の脳の冠状組織切片であり、Gdを用いたMRIにおいて認めたものと類似のパターンのGDNF染色を示している。スケールバー=1cm。(c)bに囲みを入れた部分を高倍率にしたものであり、視床内のGDNF陽性細胞を示している。スケールバー=50mm。(d)および(e)は、一連のMR画像における、脳の左側(d)および右側(e)でのGd分布面積およびGDNF発現面積を示すグラフである。r.相関係数。
【図18】視床中にAAV2−GDNFおよびAAV2−AADCを片側同時注入した霊長動物2番における、組織像とのMRI相関を示す図である。(a)視床におけるGd分布(緑色で輪郭を示してある)を示すT1強調MR画像である。対応する組織切片の、GDNF(オレンジ色で輪郭を示してある)およびAADC(青色で輪郭を示してある)について陽性に染まっている区域を、比較のためにMR画像に転写した。スケールバー=0.5cm。(b)aにおいて画像化した霊長動物の脳の冠状組織切片であり、Gdを用いたMRIにおいて認めたものと類似のパターンのGDNF染色を示している。スケールバー=1cm。(c)bに隣接する、AADC染色した組織切片であり、内因性AADCおよび形質導入AADCの発現を両方示している。形質導入AADCは青色で輪郭を示してある。(d)cに隣接する、AADCとTHとを同時標識した組織切片であり、AADCについては茶色、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)については赤色で同時に染色することにより、内因性AADC/TH(濃い赤色)が、形質導入AADC(茶色)と区別されることを示している。形質導入AADCの発現パターンは、bにおけるGDNF発現とほぼ同一である。(e)cに囲みを入れた部分の高倍率画像であり、黒質における内因性AADC陽性細胞を示している。スケールバー=200mm。(f)dに囲みを入れた部分の高倍率画像であり、黒質におけるAADC/TH陽性細胞を示している。スケールバー=200mm。(g)cに囲みを入れた部分の高倍率画像であり、被殻における内因性AADC陽性線維を示している。スケールバー=200mm。(h)cに囲みを入れた部分の高倍率画像であり、被殻におけるAADC陽性細胞を示している。スケールバー=200mm。(i)dに囲みを入れた部分の高倍率画像であり、視床におけるAADC陽性細胞を示している。スケールバー=200mm。(j)一連のMR画像における、脳の右側でのGd、GDNFおよびAADCの分布面積を示すグラフである。r:GdとGDNFとの発現面積間の相関係数。r:GdとAADCとの発現面積間の相関係数。r:GDNFとAADCとの発現面積間の相関係数。
【図19】視床中にAAV2−GDNFおよびAAV2−AADCを両側同時注入した霊長動物3番における組織像とのMRI相関を示す図である。(a)視床におけるGd分布(緑色で輪郭を示してある)を示すT1強調MR画像である。対応する組織切片の、GDNF(オレンジ色で輪郭を示してある)およびAADC(青色で輪郭を示してある)について陽性に染まっている区域を、比較のためにMR画像に転写した。スケールバー=0.5cm。(b)aにおいて画像化した霊長動物の脳の冠状組織切片であり、Gdを用いたMRIにおいて認めたものと類似のパターンのGDNF染色を示している。スケールバー=1cm。(c)bに隣接する、AADCとTHとを同時標識した組織切片であり、AADCについては茶色、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)については赤色で同時に染まっていることを示している。(d)および(e)は、一連のMR画像における、脳の左側(d)および右側(e)でのGd、GDNFおよびAADCの分布面積を示すグラフである。r:GdとGDNFとの発現面積間の相関係数。r:GdとAADCとの発現面積間の相関係数。r:GDNFとAADCとの発現面積間の相関係数。
【図20】カニューレ先端の配置が「グリーンゾーン」の外であったことによるCEDの失敗を示す図である。A.カニューレ先端を漏出経路(軸索路)にあまりに近く配置すると、被殻にではなく前交連中へ注入されることになる(B)。C.カニューレ先端を漏出経路(血管)にあまりに近く配置すると、被殻にではなく血管周囲腔中へ注入されることになる(D)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
霊長動物の脳内にタンパク質(成長因子、ポリヌクレオチド、ウイルスベクターなどを含む)などの脳治療剤を直接脳送達する際に最適な結果を得られるかどうかは、標的領域全体にわたる再現可能な分布次第である。本明細書中で提供されるのは、非ヒト霊長動物およびヒトの脳内へ標的領域に向けて注入する際の最適な部位を定義する配置座標であり、この配置座標を用いると、例えば、送達先端と漏出経路との間に少なくとも1mm、少なくとも1.5mm、少なくとも2mmまたはそれを超える距離が置かれることにより、脳における漏出経路の回避が可能になる。
【0015】
本発明を説明する前に、本発明は、記載する特定の実施形態に限定されず、したがって、当然ながら変化する可能性があることは理解されたい。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書中で使用する専門用語は特定の実施形態のみを説明することを目的としており限定的なものであることを意図していないことも理解されたい。
【0016】
値の範囲が示される場合、当該範囲の上限値と下限値との間の各介在値も、文脈によりそうでないことが明らかに述べられていない限り下限の10分の1の単位まで、明確に開示されていることが理解される。任意の記載値または記載範囲の介在値と、任意の他の記載値または当該記載範囲の介在値との間の、より小さい範囲は、それぞれ本発明内に包含される。これらのより小さい範囲の上限値および下限値は、独立に、当該範囲に含まれても除かれてもよく、このより小さい範囲中に上下限値のいずれかが含まれるかいずれも含まれないか両方とも含まれる各範囲もまた、本発明内に包含され、記載の範囲において明確に除かれた上下限値に従う。記載の範囲が上下限値の一方または両方を含む場合、それらの含まれる上下限値のいずれかまたは両方を除く範囲も、本発明に含まれる。
【0017】
特に定義しない限り、本明細書中で使用する全ての専門用語および科学用語は、本発明が属する当業者により通常理解されるものと同じ意味を有する。本発明の実行または試験においては、本明細書に記載するものと類似または等価の任意の方法および材料を使用できるが、好ましい方法および材料を次に記載する。本明細書中で言及する全ての刊行物は、関連して該刊行物が引用される方法および/または材料を開示および記載するために、参照により本明細書に組み込まれる。本開示が、矛盾が生じる限度まで、組み込まれた任意の刊行物の開示内容に優先することは理解される。
【0018】
本明細書中および添付の特許請求の範囲中で使用する場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈によりそうでないことが明確に述べられていない限り、複数の指示物を含むことに注意しなければならない。したがって、例えば、「個体(an individual)」と言った場合は、1つまたは複数の個体を含み、「方法(the method)」と言った場合は、当業者に公知の等価のステップおよび方法への言及を含む、など。
【0019】
本明細書中で論じる刊行物は、本出願の出願日に先行するその開示内容についてのみ掲載するものである。本明細書におけるいかなる内容も、本発明が、先行発明を理由に当該刊行物に先行する権利がないと認めたものと解釈されるべきではない。さらに、掲載する刊行物の日付は実際の刊行日と異なる場合があり、独立に確認する必要があり得る。
【0020】
定義
定位送達:脳における地点の正確な位置決定のためのコンピューターベースのモダリティー。定位法は、脳アトラスを利用してもよく、そのいくつかはデジタル形式で入手可能である。例えば、Talairach−Tournoux(TT)アトラス(総説については、Nowinski、(2005)、Neuroinformatics、3、293〜300ページを参照のこと)は電子形式で入手可能である。このアトラスは、画像を素早く無意識に読み取れるように、脳の三次元表示を提供している。
【0021】
定位送達はフレームを使用してもよく、この場合、フレームを頭蓋に取り付けて、固定された基準点を得る。この点が、コンピューターおよびMRI走査により得られる脳の三次元画像と組み合わされて、標的領域の正確なマッピングおよび可視化が可能になる。フレームに取り付けられたさまざまなデバイスを用いることで、標的部位への正確なナビゲーションが可能である。あるいは、フレームレス定位送達では、「ワンド」、プラスチックのガイドまたは赤外線マーカーにより作り出される参照座標系をフレームの代わりにすることにより、配置の正確さが得られる。
【0022】
機能的MRI(fMRI)を用いて、脳の機能領野を特定してもよい。MRIが走査している間、患者に一連の行動および動作(リストを読む、または、指をコツコツ打ちつけるなど)を行うように依頼する。こうした動作および行動と関係のある脳領野が走査時に「明るくなり」、画像を生成する。この情報を、切開術、頭蓋の開頭術および腫瘍除去の計画において手術用のナビゲーションコンピューターにより用いて、神経学的欠損を最小化させる。コンピューター断層撮影法(CT)は、X線をコンピューターと組み合わせて脳の詳細な画像を生成する走査手段である。
【0023】
画像化。注入剤のin vivo分布は画像化を用いて決定してもよく、その場合、検出可能な標識を有する分子を脳の標的領域に注入して、脳への広がりをMRI、ポジトロン放出断層撮影法(PET)などにより決定する。選択されるトレーサーのための適当な標識としては、分光学的、光化学的、免疫化学的、電気的、光学的または化学的な手段により検出可能な任意の組成物が挙げられる。本発明において有用な標識としては、放射性標識(例えば、18F、H、125I、35S、32Pなど)、酵素、比色分析用の標識、蛍光色素などが挙げられる。標識を検出する手段は、当業者に周知である。例えば、放射性標識は、画像化法、写真フィルムまたはシンチレーションカウンターを用いて検出してもよい。いくつかの実施形態では、MRIによる画像化のために、例えばガドテリドールでリポソームを標識する。
【0024】
基準座標。カニューレ配置のX軸、Y軸およびZ軸の値を、画像化、例えば、MR画像が3つの次元全て(軸方向、冠状方向および矢状方向の次元)で投影される磁気共鳴画像法により決定する。便宜上、また、従来の方法に従い、前交連−後交連(AC−PC)ラインの中間点を、三次元(3D)脳空間のゼロ地点(0,0,0)と決めてもよい。AC−PCラインは、前交連の上表面から出て後交連の中央に至る。MRIの正中矢状面上のAC−PCラインを決定した後で、AC−PCラインの中間点を決定してもよい。AC−PCラインの中間点を通る水平面および垂直面を用いて3つの面全てを表示でき、カニューレから冠状MRI面上の正中までの距離(X値)、前方(または後方)から冠状MRI面のAC−PCラインの中間点までの距離(Y値)、および、MRI上のAC−PCラインを含んでいる軸面の上方(または下方)の距離(Z値)を測定することにより、カニューレポジションのX軸、Y軸およびZ軸の値を得ることができる。
【0025】
漏出経路。本明細書中で使用する場合、用語「漏出経路」は、中枢神経系(とりわけ脳)における、可溶性の薬剤を輸送する物理的構造を指す。そのような漏出経路のごく近くで治療剤が組織に送達されると、意に反して薬剤が非標的領域に輸送される恐れがある。CNSにおいて漏出経路となる解剖学的な構造としては、限定するものではないが、軸索路、血管、血管周囲腔および心室空間が挙げられる。
【0026】
血液脳関門:脳膜を取り巻く神経および細胞の壁。この障壁は、保護的な機能を有するが、治療剤が脳の標的領域に有効に到達する能力も低下させる。
【0027】
被殻:前脳(終脳)の基底に位置する丸い構造。被殻と尾状核とは、一緒になって背側線条体を形成する。被殻は、基底核を構成する構造の1つでもある。多様な経路を通して、被殻は黒質および淡蒼球と連絡する。被殻の主要な機能は、動作を統制し、多様な種類の学習に影響することである。被殻は、ドーパミンを用いて自身の機能を果たす。被殻は、パーキンソン病などの神経変性障害にも関与している。
【0028】
脳幹:脳幹は、小脳の前に位置し、大脳を脊髄と連結し、多様な自律機能ならびに運動機能を制御する。脳幹は、延髄、橋、中脳および毛様体から成る。
【0029】
小脳:脳の背側に位置し、小脳は、体の動作、すなわち、平衡、歩行などを制御する。
【0030】
大脳:脳の最大の区画は、2つの部分、すなわち左右の大脳半球に分けることができる。これらの半球は脳梁により結合しており、これにより、「メッセージ」が2つの半球間で送達されることが可能になる。脳の右側は体の左側を制御し、脳の左側は体の右側を制御する。各半球は、異なる機能に関与する4つの頭葉、すなわち前頭葉、側頭葉、頭頂葉および後頭葉も有する。
【0031】
頭蓋骨:脳を取り巻く骨の覆い。頭蓋骨および顔面骨は、頭蓋を構成する。
【0032】
視床下部:脳下垂体へのメッセンジャーとして作用する脳の一部であり、体温、睡眠、食欲および性行動において不可欠な役割も果たす。
【0033】
中脳:脳幹の一部であり、眼球運動および開瞼を制御する第3脳神経および第4脳神経の起始部である。
【0034】
橋:脳幹のこの部分は、4対の脳神経、すなわち、第5脳神経(顔面の感覚)、第6脳神経(眼球運動)、第7脳神経(味覚、表情、閉瞼)および第8脳神経(聴覚および平衡)の起始部である。
【0035】
後頭蓋窩:頭蓋の、脳幹および小脳を含有する部分。
【0036】
視床:皮質との間で行き来する情報を中継する、脳における小区域。
【0037】
霊長動物。霊長動物は、生物学的な霊長目、すなわち、キツネザル、アイアイ、ロリシド(lorisid)、ガラゴ、メガネザル、サルおよび類人猿が含まれるグループの構成員であり、最後の分類には大型類人猿が含まれる。霊長動物は原猿類および真猿類に分けられ、この場合、真猿類にはサルおよび類人猿が含まれる。真猿類は以下の2つのグループに分けられる:広鼻類または新世界サル、ならびに、アフリカおよび東南アジアの狭鼻類サル。新世界サルにはオマキザル、ホエザルおよびリスザルが含まれ、狭鼻類には旧世界サル(ヒヒおよびマカクなど)ならびに類人猿が含まれる。
【0038】
本発明の方法は、全ての霊長動物に適用できる。特に興味の対象となるのは類人猿である。いくつかの実施形態では、この方法はヒトに適用される。他の実施形態では、この方法は非ヒト霊長動物に適用される。
【0039】
調べることとは、任意の形態の測定を含み、ある要素が存在するか否かを決定することを含む。用語「決定すること」、「測定すること」、「評価すること」、「調べること」および「アッセイすること」は、互換的に使用され、定量的および定性的な決定を含む。調べることは、相対的なものであっても絶対的なものであってもよい。「の存在を調べること」は、ある物が存在する量を決定すること、および/または、ある物が存在するか不在であるかを決定することを含む。本明細書中で使用する場合、用語「決定すること」、「測定すること」および「調べること」および「アッセイすること」は、互換的に使用され、定量的および定性的な決定の両方を含む。
【0040】
本明細書中で使用する場合、「治療」または「治療すること」は、疾患もしくは障害の進行を阻害すること、または、疾患もしくは障害の発症を遅らせることを指し、物理的な治療(例えば、識別可能な症状の安定化)であるか、生理学的な治療(例えば、物理的なパラメーターの安定化)であるか、またはその両方であるかを問わない。本明細書中で使用する場合、用語「治療」、「治療すること」などは、所望の薬理学的および/または生理学的な効果を得ることを指す。この効果は、疾患もしくは病態またはその症状を完全または部分的に予防するという点で予防的なものであってもよく、ならびに/あるいは、疾患もしくは障害および/または該疾患もしくは障害に起因する悪影響の部分的または完全な治癒という点で治療的なものであってもよい。「治療」は、本明細書中で使用する場合、哺乳動物(ヒトなど)の疾患または障害の任意の治療を包含し、以下を含む:該疾患による死亡リスクを減少させること、該疾患の素因を有する可能性があるが当該疾患に罹患しているとはまだ診断されていない対象において障害又は疾患が発症しないように予防すること、該疾患または障害を阻害すること、すなわち、その発症を阻止すること(例えば、疾患の進行の速度を低下させること)、および、該疾患を緩和すること、すなわち、該疾患を退行させること。本発明の治療利益は、パーキンソン病に伴う疾患または病態の発生リスクまたは重症度の低下を含むが、必ずしもこれに限定されない。
【0041】
送達カニューレ。本発明の方法により、当技術分野で公知であるような任意の送達カニューレの正確な配置が可能になる。例えば、総説、とりわけ、参照により本明細書に具体的に組み込まれる以下の文献を参照されたい:Fiandacaら、(2008)、Neurotherapeutics.、5(1)、123〜7ページ;Hunterら、(2004)、Radiographics24(1)、257〜85ページ;およびOmmaya、(1984)、Cancer Drug Deliv.、1(2)、169〜79ページ。
【0042】
特に関心の対象となる送達カニューレはステップ型デザインの逆流防止機能付きカニューレであり、このカニューレは、対流強化送達(CED)において特定の用途がある。そのようなカニューレは、例えば、Krauzeら、(2005)、J Neurosurg.、103(5)、923〜9ページにより、また、公開済の特許出願US2007−0088295およびUS2006−0135945に記載されており、そのそれぞれは参照により具体的に組み込まれる。
【0043】
本明細書中では、逆流防止機能付きカニューレの配置に言及することがある。MRI座標に基づき、このカニューレを、定位用の保持器上に載せ、脳の標的領域に、例えば、予め配置したガイドカニューレを通して誘導する。各注入カニューレの長さを測定して、遠位先端がそれぞれのガイドの長さを越えて(例えば、約1mm、約2mm、約3mmなど)延びていることを確認する。これにより、カニューレ先端でステップ型のデザインが作り出されて、CED術中の流体分布が最大化され、カニューレ穿刺路に沿った逆流が最小化される。先端からシースへのこの移行部を、本明細書中では「ステップ」と呼ぶことがある。ポジショニングデータは、MRI上ではっきり見えることからこのステップのポジションから場合により得るが、代替的に、カニューレ先端を基準点として用いてもよい。当業者には、ポジショニングにおいて任意のはっきりしたマーカーを利用でき、そのようなマーカーは送達カニューレ上に提供されてもよいこと、例えば、画像の「ドット」を統合するとカニューレのデザインになるなどであってもよいことは理解されよう。
【0044】
送達用具は、浸透圧ポンプまたは注入ポンプを包含してもよい。浸透圧ポンプおよび注入ポンプはいずれも、さまざまな供給者(例えば、Alzet Corporation、Hamilton Corporation、Alza,Inc.、Palo Alto、Calif.)から市販されている。
【0045】
一実施形態では、本カニューレは、慢性投与に適合する。別の実施形態では、本ステップ型デザインのカニューレは、急性投与に適合する。
【0046】
治療剤。本発明の方法は、脳の標的領域への治療剤の送達に適用できる。対象となる薬剤としては、限定するものではないが以下が挙げられる:タンパク質、薬物、抗体、抗体断片、免疫毒素、化学化合物、タンパク質断片および毒素。
【0047】
本発明の方法で用いることができる治療剤の例としては、以下が挙げられる:GDNFファミリーのリガンド、PDGF(血小板由来成長因子)ファミリーのリガンド、FGF(線維芽細胞成長因子)ファミリーのリガンド、VEGF(血管内皮成長因子)およびその相同体、HGF(肝細胞成長因子)、ミッドカイン、プレイオトロフィン、アンフィレグリン、血小板因子4、CTGF、インターロイキン8、γ−インターフェロン、TGF−βファミリーの構成要素、Wntファミリーのリガンド、WISPファミリーのリガンド(Wnt誘導分泌タンパク質)、トロンボスポンジン、TRAP(トロンボスポンジン関連無名タンパク質)、RANTES、プロペルジン、F−スポンジン、DPP(デカペンタプレジック)、ならびに、ヘッジホッグファミリーの構成要素。対象となる特定の薬剤としては以下が挙げられる:GDNF、ニュールツリン、アルテミン、ペルセフィン(persephin)、NG、BDNF、NT3、IGF−1およびソニックヘッジホッグ。さらに、ウイルスベクター、例えば、AAVベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクターなども挙げられ、これらは、遺伝子コンストラクトの送達に有用である。
【0048】
治療剤は、任意の有効濃度で投与される。治療剤の有効濃度は、特定の薬理効果を減少または増加させる結果をもたらす濃度である。当業者であれば、当技術分野で公知の、ならびに本明細書中で提供する方法に従った、有効濃度の決定の仕方を承知していよう。
【0049】
本発明の治療剤および促進剤の投与量は、治療対象となる疾患または病態、および、個々の対象の状態(例えば、種、体重、疾患状態など)により決まるであろう。また、投与量は、投与されている薬剤によっても決まるであろう。そのような投与量は、当技術分野で公知であるか、または経験的に決定できる。さらに、投与量は、治療対象となる特定の疾患または病態についての典型的な投与量に従い調節できる。多くの場合は単回投与で十分と考えられるが、投与は、所望により反復できる。投与量は、意に反する副作用を引き起こすほど大きなものであるべきではない。一般的に、投与量は、患者の年齢、病態、性別および疾患の程度に応じて変化するはずであり、常法通りの方法(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciencesを参照されたい)に従い、当業者が決定できる。投与量は、何らかの合併症が生じた場合に個々の医師が調節することもできる。
【0050】
本発明の治療剤および/または促進剤は、典型的には、有効量のそれぞれの該治療剤および/または促進剤を、薬学的に許容できる担体と組み合わせて含むことができ、加えて、他の医療剤、医薬剤、担体、アジュバント、賦形剤などを含んでもよい。「薬学的に許容できる」とは、生物学的にまたは他の点で有害ではない物質を意味し、すなわち、該物質は、選択された該治療剤および/または促進剤と共に個体に投与でき、何らかの望ましくない生物学的効果を引き起こすことも、該物質が含有されている医薬組成物の他の成分のいずれかと有害な形で相互作用することもない。
【0051】
臨床治験:こうした試験には、新しい治療および療法の試験実施に患者が関わっており、薬物認可プロセスの一部である。臨床試験は、典型的には、3つの段階または相を有し、薬物の安全性、有効性、必要投与量および副作用を判断する。患者は、臨床試験に登録するには一定の基準(各個々の試験について決定される)を満たさなければならず、試験への参加は自由意志によるものである。一連のルールまたはプロトコールが、各治験について定められる。
【0052】
用語「基準」および「対照」は、観察された値をそれに対して比較できる既知の値または一連の既知の値を指すために互換的に使用される。本明細書中で使用する場合、既知とは、その値が、予め知られたパラメーター(例えば、形質移入剤と接触していない条件下での細胞傷害性のマーカー遺伝子の発現レベル)を示すことを意味する。
【0053】
使用方法
本発明の方法では、脳の標的領域への治療剤の送達を改善するための配置座標が提供される。この座標は、送達カニューレを正確にポジショニングするために、定位法と共に使用される。カニューレ配置および送達角度にこの座標を利用することにより、脳の標的領域における注入剤の再現可能な分布が達成され、これにより、脳への治療剤のより有効な送達が可能になる。標的化の対象領域としては、限定するものではないが、被殻、視床、脳幹などが挙げられる。本発明の方法は、脳の漏出経路から適当な距離のある標的領域ゾーンである「グリーンゾーン」に薬剤を送達するためのガイダンスを提供する。
【0054】
典型的には、薬剤は、例えばCEDデバイスにより、次のように送達する。カテーテル、カニューレまたは他の注射デバイスを、選ばれた対象のCNS組織中に挿入する。本明細書中での教示に照らせば、当業者には、適切な標的であるCNSのおおまかな区域を容易に決定できよう。定位用のマップおよびポジショニング用のデバイスは、例えば、ASI Instruments、Warren、Michから入手可能である。ポジショニングは、選ばれた標的への注射デバイスの誘導を助けるために、対象の脳のCTおよび/またはMRI画像化により得られた解剖学的なマップを用いることにより実施することもできる。
【0055】
送達カニューレの正確なポジションは、本発明の配置用ガイドラインを用いて決定する。当業者には、標的領域の座標を非ヒト霊長動物について実験によりマッピングした後、その座標から、他の霊長動物(ヒトなど)における所望の座標へ外挿することが好ましいことは理解されよう。
【0056】
配置を実験により決定する場合、実施例に記載の方法を用いることができる。造影剤を脳の標的領域に送達して注入剤の分布を決定し、カニューレ配置部位を所望の分布と相関させるが、このとき、最適な配置のための座標は、それを用いる結果、注入剤が適切に封入される座標である、すなわち、注入剤は所望の標的区域の外に広がらない。標的化の対象領域としては以下が挙げられる:被殻、脳幹、小脳、大脳、脳梁、視床下部、橋、視床など。
【0057】
他の実施形態では、本明細書中で提供する座標を使用して、1つの種から別の種へ、三次元モデル化法により外挿する。
【0058】
座標は、基準点、例えばカニューレの「ステップ」に対して測定するが、基準点は、カニューレ先端とシースとの間の移行点、カニューレ先端などであってもよい。当業者は、異なる先端長さについて、または、基準点がステップ以外の物である場合について、容易に外挿して、調節できる。
【0059】
カニューレ配置および最適な定位座標の定義は、治療剤を標的脳領域中へ確実に有効送達するうえで重要な意味を有する。本発明の座標を用いる常法に従う定位局在化術の利用は、治療剤の脳へのより有効な送達をもたらし、臨床療法において用いられるべきである。
【0060】
霊長動物の脳へ治療剤を送達する多くの方法は、対象領域へ薬剤を有効に局在化させることにより効果が得られる。例えば、標的領域から遠位で成長因子が漏出すると、標的領域に存在する有効量の薬剤が減少し、同時に非標的領域を薬剤と接触させる、という、二重の不利益を被る可能性がある。本発明の方法の場合、標的領域は、神経細胞体、神経網(樹状突起、軸索終端およびグリア細胞突起)、グリア細胞(星状膠細胞および希突起膠細胞)ならびに毛細管から成る、全体的に均質な「灰白質」である。
【0061】
灰白質は、神経細胞体を含む。灰白質は、大脳の表面(すなわち大脳皮質)および小脳の表面(すなわち小脳皮質)、ならびに、大脳の腹側領域(例えば、線条体、尾状核、被殻、淡蒼球、側坐核、中隔核、視床下核);視床および視床下部の領域および核;深部小脳の領域および核(例えば、歯状核、球状核、栓状核、室頂核)ならびに脳幹(例えば、黒質、赤核、橋、オリーブ核、脳神経核);ならびに脊椎の領域(例えば、前角、側角、後角)に分布しており、そうした領域のいずれも、本発明の方法を用いた標的化に適している。
【0062】
本発明の方法により標的化されない領域、および、注入剤の望ましくない拡散を伴う傾向がある領域は、漏出経路(白質など)である。白質は、大部分が、有髄軸索路、例えば、脳梁(CC)、前交連(AC)、海馬交連(HC)、外包(EC)、内包(IC)および大脳脚(CP)を含有する。
【0063】
出願人らは、薬剤の対流強化送達により送達される注入剤を灰白質の標的領域へ封入するには、送達カニューレの配置のための、白質または脳領域の境界(例えば側面境界または正中など)の漏出経路に対する「グリーンゾーン」が必要であることを見出した。本発明の方法では、送達カニューレは、カニューレ先端がグリーンゾーン(すなわち、注入された物質が標的領域内に封入されるゾーン)内にあるようにポジショニングされる。
【0064】
対流強化送達(CED)による注入を、脳の標的領域における分布について、コントラスト剤の磁気共鳴画像法(MRI)により後ろ向きに分析した。注入容積(Vi)を、標的領域内の合計分布容積(Vd)と比較した。コントラスト剤の優れた分布をもたらした当該注入を用いて、最適な標的容積、または「グリーン」ゾーンを定義した。隣接する解剖学的構造中への漏出を伴う、部分的〜不十分な分布につながった当該注入を用いて、あまり望ましくない「ブルー」ゾーンおよび「レッド」ゾーンをそれぞれ定義した。送達カニューレを所望の座標内に配置することにより、脳の標的領域内では、注入剤の少なくとも約90%、注入剤の少なくとも約95%、注入剤の少なくとも約98%またはそれを超える封入率が達成される。こうした結果を用いて、霊長動物の脳の標的領域への注入のための最適な部位を定義する配置基準を決定した。
【0065】
送達カニューレをグリーンゾーンに配置すると、約30μl容積未満の小容積、ならびに、最大約100μl、および約100μl〜約250μlまたはそれを超える容積である大容積のいずれの場合にも、標的領域内の注入剤の優れた封入率を得ることができる。これに対し、グリーンゾーンの外にカニューレを配置すると、注入容積が増すにつれ、注入剤の分布が増加した。これらのデータから、最適な注入はカニューレ配置に基づいて得ることができることが確認された。
【0066】
したがって、グリーンゾーンは標的領域の三次元の塊であり、その中に送達カニューレ先端を配置する。グリーンゾーンは、注入剤を封入するのに十分な幅の「シェル」に囲まれた内部領域である。
【0067】
一般には、送達カニューレ先端をポジショニングするための「グリーンゾーン」は、漏出経路を回避するのに十分に、灰白質の標的領域内にある。
【0068】
例えば、標的領域が大脳内、例えば、大脳皮質、線条体、被殻、尾状核などにある場合、配置座標は、脳梁(CC)、前交連(AC)、外包(EC)および内包(IC)などの軸索路に対してマッピングしてもよく、この場合、グリーンゾーンは、距離が少なくとも約2mm、少なくとも約2.5mm、通常は少なくとも約3mmであり、十分なサイズの標的領域においては、グリーンゾーンは、少なくとも約3.5mm、少なくとも約4mmであってもよく、それぞれの距離は、実施例1に示すように、軸索路(例えば白質)から測定する。
【0069】
標的領域が視床または視床下部である場合、「グリーンゾーン」は、標的領域の境界により定義され、例えば、実施例2に示すように、進入点まで少なくとも2.5mm、少なくとも2.8mm、少なくとも3.0mm、側面境界から少なくとも1.8mm、少なくとも2.0mm、少なくとも2.2mm、正中から少なくとも4.5mm、少なくとも4.75mm、少なくとも5mmである。
【0070】
標的領域が脳幹内、例えば、黒質、赤核、橋、オリーブ核、脳神経核などである場合、「グリーンゾーン」は、標的領域の境界により、例えば、実施例2に示すように、進入点まで少なくとも2.8mm、少なくとも3.0mm、少なくとも3.5mm、脳幹の側面境界から少なくとも2.5mm、少なくとも2.75mm、少なくとも2.92mm、正中から少なくとも1.25mm、少なくとも1.5mm、少なくとも1.6mmと定義される。
【0071】
望ましくは、カニューレ先端の長さは、少なくとも約1mm、少なくとも約1.5mm、少なくとも約2mm、少なくとも約2.5mm、約3mm、少なくとも約3.5mm、少なくとも約4mm、少なくとも約4.5mm、少なくとも約5mmまたはそれを超える。
【0072】
上で明示した座標位置に送達カニューレを配置することにより、脳の標的領域内の、注入剤の少なくとも約90%、注入剤の少なくとも約95%、注入剤の少なくとも約98%またはそれを超える定量的な封入が達成される。
【0073】
本発明のいくつかの実施形態では、脳の標的領域に薬物送達カニューレを正確に配置するためのシステムが提供される。当該システムは、定位送達システム中に、本明細書に記載のとおりの座標情報を備える。当該システムは、送達カニューレ、ポンプおよび治療剤のうち1つまたは複数をさらに備えてもよい。
【0074】
分子生化学および細胞生化学における一般的な方法は、以下のような標準的な教科書に見出すことができる:Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版(Sambrookら、Harbor Laboratory Press 2001);Short Protocols in Molecular Biology、第4版(Ausubelら編、John Wiley&Sons、1999);Protein Methods(Bollagら、John Wiley&Sons、1996);Nonviral Vectors for Gene Therapy(Wagnerら編、Academic Press、1999);Viral Vectors(Kaplift&Loewy編、Academic Press、1995);Immunology Methods Manual (I.Lefkovits編、Academic Press、1997);およびCell and Tissue Culture:Laboratory Procedures in Biotechnology(Doyle&Griffiths、John Wiley&Sons、1998)。本開示において参照した、遺伝子操作のための試薬、クローニングベクターおよびキットは、BioRad、Stratagene、Invitrogen、Sigma−AldrichおよびClonTechなど民間のメーカーから入手可能である。
【0075】
以下の実施例は、本発明の作製および使用の方法についての完全な開示および説明を当業者に提供するために記載するものであり、本発明者らが自身の発明とみなすものの範囲を限定することを意図したものでも、下記の実験が、実施した全てまたは唯一の実験であることを示すことを意図したものでもない。使用した数字(例えば、量、温度など)に関しては正確さを確保するよう努力してきたが、ある程度の実験誤差および偏差は考慮されるべきである。特に指示のない限り、部は重量部、分子量は重量平均分子量、温度は摂氏度、圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。
【0076】
本明細書中で引用した全ての刊行物および特許出願は、各個々の刊行物または特許出願が、参照により組み込まれると具体的かつ個々に示された場合と同様に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0077】
本発明は、本発明の実行にとって好ましい様式を含むように、本発明者が見出しまたは提案する特定の実施形態に関して記載してある。当業者には、本開示に照らせば、本発明の意図される範囲から逸脱することなく、例示する特定の実施形態において多数の改変および変更を行うことができることは理解されよう。そのような改変は全て、添付の特許請求の範囲内に含まれることを意図している。
【実施例】
【0078】
(実施例1)
ヒトおよび非ヒト霊長動物における、画像誘導による治療剤の対流強化送達のための被殻の最適な領域
材料および方法
実験対象および試験デザイン。13匹の正常な成体のNHP(11匹のアカゲザル(7匹がオス、4匹がメス、年齢8〜18歳、平均年齢11.9歳、体重4〜9.4kg)および2匹のカニクイザル(1匹がオス、1匹がメス、両方とも年齢は7歳、体重はそれぞれ5kgおよび7kg)を含む)が本試験の対象であった。実験作業は、国立衛生研究所(National Institutes of Health)のガイドライン、ならびに、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California San Francisco)(San Francisco、CA)およびValley Biosystems(Sacramento、CA)の施設内動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)により承認されたプロトコールに従って実施した。13匹の動物は、被殻中へのGDL(2mM)または遊離ガドテリドール(2mM、Prohance、Bracco Diagnostics、Princeton、NJ)の延べ25回の頭蓋内注入を行った。注入は、NHPについてこれまでに確立されたCED手法(Bankiewicz、Eberlingら、2000)により実施した。これまでに記載されたとおりにGDLを調製した(Fiandaca、Varenikaら、2008)(Krauze、McKnightら、2005)。
【0079】
注入術。霊長動物は、解剖学的目標を可視化し、各動物について、提案される標的注入部位の定位座標を生成するために、外科手術前にベースラインのMRIを受けた。NHPは、MRI適合性のガイドカニューレを被殻にわたりポジショニングするための神経外科手術を受けた。それぞれのカスタマイズしたガイドカニューレを特定の長さに切り、頭蓋に開けた骨孔を通してカニューレの標的に定位的に誘導し、歯科用アクリル樹脂により頭蓋に固定した。注入術中に簡単に操作できるように、ガイドカニューレ組立体の最上部にスタイレットのねじで栓をした。動物は注入術の開始前に少なくとも2週間回復させた。リアルタイムMRIの取得中、動物に、イソフルラン(Aerrane、Ohmeda Pharmaceutical Products Division、Liberty Corner、NJ)で麻酔をかけた。各動物の頭部をMRI適合性の定位フレーム中に置き、ベースラインのMRIを実施した。心拍数およびPOなどの生命徴候を、手術の間中モニターした。
【0080】
簡潔に言えば、注入システムは、溶融石英製の逆流防止機能付きカニューレ(Fiandaca、Varenikaら、2008)(Krauze、McKnightら、2005)を、装填ライン(GDLまたは遊離ガドテリドールを含有する)、油の入った注入ライン、および、トリパンブルー溶液の入った別の注入ラインと接続したもので構成されていた。微量注入ポンプ(BeeHive、Bioanalytical System、West Lafayette、IN)上に載せた1ml注射器(トリパンブルー溶液を充填)により、該システムを通る流体の流れを統制した。MRI座標に基づき、カニューレを、定位用の保持器上に載せ、予め配置したガイドカニューレを通して脳の標的領域に手作業で誘導した。各注入カニューレの長さを測定して、遠位先端がそれぞれのガイドの長さを3mm越えて延びていることを確認した。これにより、カニューレの先端でステップ型のデザインが作り出されて、CED術中の流体分布が最大化され、カニューレ穿刺路に沿った逆流が最小化された。本出願人らは、溶融石英先端から溶融石英シースへのこの移行部を「ステップ」と呼び、MRI上ではっきり見えることから全てのポジショニングデータをこのステップのポジションから得る。
【0081】
注入カニューレの配置を確保した後、取得中のリアルタイムMRIデータを用いたCED術(リアルタイム対流送達、RCD)を開始した。試験を通じ、注入を行ったNHP全てについて同じ注入パラメーターを用いた。注入速度は次のとおりであった:カニューレを標的区域に下ろす際には0.1μl/分を適用し、10分間隔で0.2μl/分、0.5μl/分、0.8μl/分、1.0μl/分および2.0μl/分に増加させた。注入のおよそ15分後、カニューレを脳から抜去した。4匹の動物は、複数回の注入を行った。各動物には、各注入術間に少なくとも4週間の間隔を与えた。
【0082】
磁気共鳴画像(MRI)。NHPを、ケタミン(Ketaset、7mg/kg、IM)とキシラジン(Rompun、3mg/kg、IM)との混合物で鎮静させた。鎮静後、各動物をMRI適合性の定位フレーム中に置いた。イヤーバーおよびアイバーの測定値を記録し、静脈路を確保した。次に、MRIデータを入手し、その後、動物を、ホームケージ内で常態を取り戻すことができるまで厳密な観察下で回復させた。9匹のNHPにおける脳のMR画像を、1.5T Siemens Magnetom Avanto(Siemens AG、Munich、ドイツ)で取得した。三次元高速グラジエントエコー(MPRAGE)画像を、以下の条件で得た:繰返し時間(TR)=2110ms、エコー時間(TE)=3.6ms、フリップ角は15°、励起数(NEX)=1(3回繰返し)、マトリックス=240×240、視野(FOV)=240×240×240、スライス厚=1mm。これらのパラメーターの結果、ボクセル容積は1mmとなった。走査時間はおよそ9分であった。4匹のNHPのMR画像を、1.5−T Sigma LXスキャナー(GE Medical Systems、Waukesha、WI)を用い、5インチの表面コイルを対象の頭部に床と並行に載せて取得した。スポイルドグラジエントエコー(SPGR)画像は、T1強調画像であり、以下の条件で得た:スポイルドグラスシーケンス、TR=2170ms、TE=3.8ms、フリップ角は15°。NEX=4、マトリックス=256×192、FOV=16cm×12cm、スライス厚=1mm。これらのパラメーターの結果、ボクセル容積は0.391mmとなった。走査時間はおよそ11分であった。
【0083】
4匹のNHPのMR画像を、1.5−T Sigma LXスキャナー(GE Medical Systems、Waukesha、WI)を用い、5インチの表面コイルを対象の頭部に床と並行に載せて取得した。スポイルドグラジエントエコー(SPGR)画像は、T1強調画像であり、以下の条件で得た:スポイルドグラスシーケンス、TR=2170ms、TE=3.8ms、フリップ角は15°。NEX=4、マトリックス=256×192、FOV=16cm×12cm、スライス厚=1mm。これらのパラメーターの結果、ボクセル容積は0.391mmとなった。走査時間はおよそ11分であった。
【0084】
NHPの脳における容積および距離の測定。MR画像を各リアルタイム対流送達(RCD)から得、これを用いて、カニューレステップから脳梁(CC)、内包(IC)および外包(EC)までの距離を測定した。測定は、OsiriX(登録商標)Medical Image Software(v2.5.1)を搭載したApple Macintosh G4コンピューターで行った。OsiriXソフトウェアは、画像保存通信システム(PACS、local picture archiving and communication system)により得られたDICOM(digital imaging and communications in medicine、医用デジタル画像と通信に関する標準規格)フォーマットのMR画像から全てのデータ仕様を読み取る。カニューレステップから前述の各構造までの距離を手作業で定義してから、ソフトウェアにより計算した。全ての距離を、MRI断面上で同じ方式にて測定した。
【0085】
グリーンゾーンにおけるカニューレステップ位置のX軸、Y軸およびZ軸の値を、MR画像が全3つの次元(軸方向、冠状方向および矢状方向の次元)で投影されるOsiriXソフトウェアにより生成させた2Dの直交MR画像を用いて決定した。本出願人らは、前交連−後交連(AC−PC)ラインの中間点を、三次元(3D)脳空間のゼロ地点(0,0,0)として用いた。簡潔に言えば、AC−PCラインをMRIの正中矢状面上で引き、AC−PCラインの中間点を決定した。次に、AC−PCラインの中間点を通る水平面および垂直面を得たが、これらの面は、全3つの平面図上で同時に示すことができた。次に、カニューレステップから冠状MRI面上の正中までの距離(X値)、前方(または後方)から冠状MRI面のAC−PCラインの中間点までの距離(Y値)、およびMRI上のAC−PCラインを含んでいる軸面の上方(または下方)の距離(Z値)を測定することにより、カニューレステップのX軸、Y軸およびZ軸の値を得た。全ての距離を、各ケースについてMRI断面上で同じ方式にて測定した(単位:ミリメートル)。
【0086】
MR画像は、ガドテリドール分布の容積定量化にも使用した。各対象の脳におけるガドテリドールVdも、Apple Macintosh G4コンピューターで定量化した。被殻および白質路において得られたROIを手作業で定義し、次に、ソフトウェアが、各MR画像から面積を計算し、スライス厚を乗じて定義した面積に基づいてROIの容積を確定した(PACS容積)。各分布の境界線を一連のMRI断面において同じ方式で定義した。分析中の特定の分布についてのPACS ROI容積の合計(評価したMRIスライスの数)により、測定した構造の容積を決定した。定義されたROI容積により、BrainLABソフトウェア(BrainLAB、Heimstetten、ドイツ)を用いた3D画像再構成が可能になった。互いの存在を知らされていない2名の外部観察者が、MRIを評価し、全ての測定を実施した。NHPにおいて2名の観察者が測定した距離の予備的比較においては、得られた平均値間に有意差はなかった。
【0087】
統計分析。異なるゾーンにカニューレステップが位置しているときに得られた、該ステップから脳梁、内包および外包までの距離を、スチューデントt検定により対象群全てに対して比較した。全ての検定についての統計的有意性の判定基準は、p<0.05であった。
【0088】
結果
この試験では、13匹のNHPが25回の被殻注入を行った。NHPの脳のリアルタイムMR画像を各RCDから得て、ガドテリドール分布を評価し、被殻におけるカニューレステップからCC、ICおよびECまでの距離を、カニューレステップの位置を基準に測定した。本出願人らは、何回かの注入では、結果として、トレーサーが被殻内にあまり封入されず、脳梁(CC)ならびに時に内包(IC)および外包(EC)といった近接する白質路(WMT)中に著しく分布したのに対し、トレーサーが被殻中にのみ分布した注入もあったことを観察した(表1)。被殻内の注入トレーサー封入率(%)を各変数に対してプロットすると(図1)、カニューレに沿った逆流が被殻(PUT)中への注入剤の分布の急激な減少と相関することは明らかである(図1A)。95%を超えるトレーサーの被殻(PUT)内封入率が達成可能であり、逆流は約5mm未満であった。この実験における先端長さは3mmであった。続いて、PUT被覆率と解剖学的座標との間を相関させたところ、もう1つの重要な変数は脳梁(CC)からカニューレステップまでの距離であるらしいことも明らかになった(図1B)。被殻封入率が95%を超えた8回の注入では、カニューレステップからCCまでの範囲は3.14mm〜3.76mm、平均距離は3.35±0.08mm、ステップからICまでの範囲は2.13mm〜5.65mm、平均距離は4.01±0.42mm、ステップ−ECの範囲は1.98mm〜3.28mm、平均距離は2.75±0.17mmであった。
【0089】
本出願人らは、被殻内に注入剤を最適に封入するには、ステップからCCまでの距離は約3mmを超えるべきであると結論付ける。カニューレステップからICおよびECまでの距離(図1C、D)は、被殻封入率とあまり相関しなかった。本出願人らは、トレーサーの本質的に定量的な被殻封入率に関する空間的限界を「グリーンゾーン」と定義した。CC中への小量の漏出を示す79%〜94%、平均が87%±3%のトレーサーの被殻封入率に関する、対応する「ブルーゾーン」も4ケースにおいて定義した。ここは、ステップからCCまでの範囲は2.74mm〜2.88mmの間、平均距離は2.81±0.04mmであり、ステップ−ICの範囲は3.26mm〜4.86mm、平均距離は4.18±0.37mmであり、ステップ−ECは1.92mm〜3.43mm、平均距離は2.68±0.36mmであった。
【0090】
同様に、「レッドゾーン」を13ケースにおいて定義したが、このゾーンでは、トレーサーはPUTにはあまり留まらず、PUTの31%〜67%の範囲、平均は49%±0.05%であり、このことから、CC、ECおよびIC中へ大量に漏出したことが示唆された。これらの注入においては、ステップからCCまでの範囲は0.12mm〜1.99mm、平均距離は1.26±0.16mmであり、ステップからICまでの範囲は0.65mm〜4.08mm、平均距離は2.63±0.27mmであり、ステップからECまでは0.85mm〜4.25mm、平均距離は1.88±0.25mmであった。
【0091】
脳におけるガドテリドール分布容積。8ケースにおいて「グリーンゾーン」にステップを配置した際、被殻において優れたガドテリドールVdが得られ、その範囲は52.9〜174.1mm、平均容積は116.4±0.04mmであった(図2Aおよび2B)。2ケースにおいて、注入の終わりにCC中へのガドテリドールの小量の漏出があったことが見出され、白質路(WMT)におけるガドテリドールVdは、それぞれ2.7mmおよび6.1mmであった。代表的なMRIを図2Cおよび2Fに示す。
【0092】
ステップをブルーゾーンに配置した4ケースでは、被殻におけるガドテリドールVdの範囲は40.7〜261.9mm、平均容積は139.6±0.05mmであった(図2Aおよび2B)。全4ケースでCC中への漏出があったことが見出された。漏出が最初に見られた時点での注入容積の範囲は4.7〜10.5μl、平均容積は6.9±0.9μlであった。WMTにおける最終的なVdの範囲は6.3〜40.7mm、平均容積は19.4±0.01mmであった。代表的なMRIを図2Dおよび2Gに示す。
【0093】
13ケースにおいて「レッドゾーン」にステップを配置した際、ガドテリドールのVdは17.7〜97.5mm、平均容積は62.1±0.01mmとなった(図2Aおよび2B)。全13ケースが、CC中へ相当に漏出し、ばらつきはあるがICおよびEC中へも漏出したことが見出された。漏出が最初に見られた時点での注入容積は1.6〜21.8μlの間、平均容積は7.9±1.7μlであった。WMTにおける最終的なVdの範囲は26.7〜152.2mm、平均容積は66.8±0.01mmであった。CED中に比較的大きい漏出があった17のケースのうち、CC中への漏出は全17ケースにおいて(100%)、IC中へは3ケースにおいて(17.6%)、EC中へは1ケースにおいて(5.9%)見出された。代表的なMRIを図2Eおよび2Hに示す。
【0094】
NHPの3D脳空間の被殻におけるグリーンゾーンについての座標。AC−PCラインの中間点を3D脳空間のゼロ地点(0,0,0)と定義した。MRIによるカニューレステップについての座標計算に基づき、被殻におけるグリーンゾーンについての標的の範囲は、側方が9.57〜14.95mm、平均距離は11.85±0.56mm(X座標)、AC−PC中間点の前方が5.88〜8.93mm、平均距離は7.36±0.49mm(Y座標)、およびAC−PC軸平面の後方が1.64〜4.47mm、平均距離は3.62±0.40mm(Z座標)であった。
【0095】
NHPの被殻におけるカニューレステップについてのRGBゾーン。これらの分析に基づき、本出願人らは、好ましいカニューレの特徴および脳における主要な構造からの最適な距離を特定する被殻注入のための座標を定義してある(RBGゾーン)。「グリーンゾーン」を以下の容積として定義する:腹側からCCまで少なくとも3mm、ACから少なくとも6mm(カニューレ先端からACまでの3mm+先端長さの3mm)垂直に離れ、ECから外側に2.75mm超、ICから内側に3mm超。淡蒼球が含まれる場合には、ICからの最適な距離は4.01mm超である。「ブルーゾーン」は、「グリーンゾーン」を取り巻く厚いシェルと定義され、そのうち、「ブルーゾーン」の外側境界はグリーンゾーンの外縁からおよそ0.5mmである。最後に、「レッドゾーン」を、ブルーゾーンの外側境界から被殻の辺縁までの区域と定義する。これらのパラメーターに基づき、NHPの被殻におけるカニューレ配置のためのRBGゾーンをMRI上で定義した(図3A)。次に、「グリーンゾーン」のみの輪郭を描いてからのグリーンゾーンの容積の計算も行ったところ、10.3mmであり、前方−後方の長さは8.5mmであった(図4A)。
【0096】
NHPの被殻における封入率対分布。前述の試験では、PUT、CC、ICおよび/またはEC中への注入剤の分配比を登録するのに十分な、ごく小量(30μl未満)のトレーサーを注入した。しかし、本出願人らは、グリーンゾーン中へ、より大きい容積を注入すれば、PUT中に確実に分布し、不適当な皮殻外では分布しないことを示すことを望んでいた。NHPにおける他の被殻注入の後ろ向き調査により、本出願人らは、カニューレ配置がグリーンゾーン内であった動物においては、PUT内の注入剤の優れた封入率が、小容積(30μl未満)および大容積(100μl超)の場合に見られることを見出した(図5)。これに対し、ブルーゾーンにおけるカニューレ配置では、注入容積が増すにつれ、WMT中への注入剤の分布が増加した。これらの代表的なデータから、定義した手持ちのRBGゾーンシステムを用いて、本出願人らは、最適なカニューレ配置のみに基づいて最適な注入を特定できたことが確認された。
【0097】
ヒトの脳の被殻におけるRBGゾーン。本出願人らは、NHPから得られたRBGゾーンについてのパラメーターを用いてヒトの脳の被殻におけるRBGゾーンを予測した(図3B、図4)が、この予測結果は、遺伝子移入またはタンパク質投与などの局所療法を臨床療法に移行させる際に、ヒトのPUTにおけるRBGゾーンへのガイドとして役立つ。さらに、本出願人らは、グリーンゾーンの輪郭を連続MR画像上に描き、次いで、各MR画像から面積を計算して、グリーンゾーンの容積は239.5mmであり、前方−後方の距離は19.7mmであると予測した。NHPおよびヒトのPUTにおけるカニューレステップのためのRBGゾーンも、図3に示すように同スケールで比較した。
【0098】
本試験では、NHPのPUTにおける注入カニューレの正確な定位的配置を、PUT中へのMRIトレーサー分布の効率と相関させた。明らかに、何回かの注入は優れたトレーサー封入率を伴ったが、多少効率が劣り、いくらか逆流の証拠を示した注入もあった。しかし、何回かの注入はPUT内にあまり封入されず、主に脳梁のWMT中へのトレーサーの漏出を伴った。これらのデータ(図1)の分析から、被殻封入率の最も決定力のある変数は、カニューレ先端の長さおよびカニューレステップから脳梁までの距離であることが示唆された。ステップから内包および外包までの距離は、封入率とあまり相関しなかった。カニューレの定位座標と、結果として得られたトレーサーのPUT:WMT分配率との間の相関から、本出願人らは、被殻の「グリーンゾーン」、すなわち、カニューレ配置が最適であり被殻中への注入剤の対流が最適である3D空間を定義することができた。同様に、「ブルーゾーン」は準最適ではあるが場合によってはまだ許容できる、「レッドゾーン」は許容できない結果を伴うと定義した。加えて、本出願人らは、「グリーンゾーン」が、WMT中への注入剤の不適当な漏出を回避できるPUT中への有効なVdを予測することも示した。
【0099】
カニューレ穿刺路の上方への逆流は、PUTにおける注入剤の分布を損なわせる圧力勾配の乱れを引き起こし、Vdの減少につながる。CC中への注入剤の漏出は最もよく見られ、この漏出は、本出願人らが本報告において示すように、ステップからCCまでの近さに依存する。ステップがCCと近接している場合、カニューレ軸がCCを通るという事実と合わせ、カニューレ軸方向に逆流が常に生じると考えられる。
【0100】
本出願人らは、NHPの「グリーンゾーン」を用いて、ヒトのPUTにおける対応するゾーンを予測した。本出願人らのコンピューター分析により、ヒトはNHPと比較すると、比例してより大きいグリーンゾーンを有すること、および、グリーンゾーンの容積における23倍の差は、これまでに示されているように、NHPとヒトとのPUT間のサイズの差によるものであることが示されている(Yinら、2009、J Neurosci Methods、176(2)、200〜5ページ)。サイズの明白な差以外は、グリーンゾーンの全体的な形態は非常によく似ている。この知識は、周囲の解剖学的構造中にあまり漏出させず患者の被殻において治療剤の優れたVdを得る上で決定的に重要である。
【0101】
これまでに記載されているように、ヒト神経疾患の治療においてCEDはより広範に用いられるようになっているので(Eberlingら、2008、Neurology、70(21)、1980〜3ページ)、脳構造内の治療剤の分布の制御は、遺伝子療法または分子療法を利用するあらゆるアプローチにとって必須である。有効性の最適化にとって、脳またはCSF経路の近接する領域を回避しながら標的化された治療容積全体をカバーすることは重要である。CEDにより送達される治療剤の分布を予測することは、こうした環境下での最適なカニューレ配置についての理解不足から、これまで非常に難しかった。このことは、脳腫瘍への化学療法剤の送達にも、PD患者における成長因子、酵素およびウイルスベクターの注入にも言えることである。
【0102】
機能神経外科的な治療的介入(PDにおいて電極を刺激するDBSの、MRI誘導による配置など)の術中画像化のためのiMRI技術の出現(Larsonら、2008、Stereotact Funct Neurosurg、86(2)、92〜100ページ;Martinら、2009、Top Magn Reson Imaging、19(4)、213〜21ページ)は、脳における画像誘導療法の応用のもう1つの例である。CEDのための「グリーンゾーン」の正確な標的化は、頭蓋搭載型の照準デバイスおよびiMRIユニットの使用により達成できる。注入カニューレの正確な配置の可視化に加え、治療剤の所望の分布も、CEDの可視化およびそれに続く注入術の制御により達成できる。
【0103】
要約すると、本試験は、カニューレ配置およびガドテリドール分布のMRIによる最初の定量分析を提供し、NHPの被殻におけるRBGゾーンの定義を紹介するものである。さらに、MRIによるカニューレ配置のリアルタイム可視化、およびそれに続くガドテリドール分布度の正確な制御は、特に、実質への大量注入が必要であり漏出または過剰な分布が望ましくないと考えられる際に、重要な安全性の問題に対処するものである。本出願人らのトランスレーショナルな非ヒト霊長動物試験から開発されたRBGゾーンにおけるカニューレ配置は、PDのための被殻中への多様な治療剤のCEDを扱う臨床試験にとって重要な意味を有する。同様のRBGゾーンは、視床および脳幹など他の脳領域についても定義でき、これにより、臨床における治療剤の神経外科的注入のための信頼できる座標が確立される。
【0104】
【表1】

【0105】
(実施例2)
磁気共鳴画像法による、非ヒト霊長動物の視床および脳幹中へのガドテリドール送達のリアルタイム可視化および特徴付け
この試験では、6匹のNHPが、視床および脳幹中への22回の注入を行った。NHPの脳のリアルタイムMR画像を各RCDから得てGd分布を評価し、カニューレステップの位置を基準に、視床または脳幹におけるカニューレステップから正中、外側境界まで、および、カニューレ進入点から標的構造までの距離を、それぞれ測定した。
【0106】
実験対象および試験デザイン
6匹の正常な成体のNHP(4匹のカニクイザル(2匹がオス、2匹がメス、年齢7〜8歳、平均年齢8.2歳、体重5〜12.8kg)および2匹のアカゲザル(1匹がオス、年齢10歳、体重12.2kg;1匹がメス、年齢8歳、体重6kg)を含む)を本試験に登録した。実験は、国立衛生研究所のガイドラインに従い、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(San Francisco、CA)およびValley Biosystems(Sacramento、CA)の施設内動物実験委員会により承認されたプロトコールの下で実施した。これらの動物は、視床および脳幹中へのガドテリドール(Gd、2mM)の延べ22回の頭蓋内注入を行った。注入は、NHPについてこれまでに確立されたCED手法により実施した。
【0107】
注入術。霊長動物は、解剖学的目標を可視化し、提案される注入標的部位の定位座標を生成するために、外科手術前にベースラインのMRIを受けた。NHPに、視床および脳幹中へのCEDのためのMRI適合性のプラスチックガイドカニューレアレイ(直径12mm×高さ14mm、27個のアクセス孔を有する)を定位的配置した。各ガイドカニューレアレイをプラスチックねじおよび歯科用アクリル樹脂で頭蓋に固定した。ガイドカニューレアレイを配置した後、動物は、注入術の開始前に少なくとも2週間回復させた。注入当日、動物に、イソフルラン(Aerrane、Ohmeda Pharmaceutical Products Division、Liberty Corner、NJ)で麻酔をかけた。次に、各動物の頭部をMRI適合性の定位フレーム中に置き、ベースラインのMRIを実施した。脈拍およびPOなどの生命徴候を、手術の間中モニターした。簡潔に言えば、注入システムは、溶融石英製の逆流防止機能付きカニューレを、装填ライン(Gdを含有する)、油の入った注入ライン、および、トリパンブルー溶液の入った別の注入ラインと接続したもので構成されていた。HarvardのMRI適合性の注入ポンプ(Harvard Bioscience Company、Holliston、Massachusetts)上に載せた1ml注射器(トリパンブルー溶液を充填)により、送達カニューレを通る流体の流れを統制した。MRI座標に基づき、カニューレを、予め配置したガイドカニューレアレイを通して脳の標的領域中に挿入した。
【0108】
各注入カニューレの長さを測定して、遠位先端がカニューレステップを3mm越えて延びていることを確認した。これにより、カニューレ先端の近位にあるステップ型デザインが作り出され、CED術中の流体対流は最大化されながら、カニューレ穿刺路に沿った逆流は最小化された。本文書では、本出願人らは、溶融石英先端から溶融石英シースへのこの移行部を「ステップ」と呼び、MRI上ではっきり見えることから全てのポジショニングデータをこのステップのポジションから得る。本出願人らは、注入カニューレ中の正の圧力を、脳への挿入の間維持して、カニューレ挿入中の先端閉塞の可能性を最小化させた。注入カニューレの配置を確保した後、リアルタイムでのMRIデータ取得のためのCED術(リアルタイム対流送達、RCD)を開始した。試験を通じ、注入を行ったNHP全てについて同じ注入パラメーターを用いた。注入速度は次のとおりであった:カニューレを標的区域に下ろす際には0.1μl/分を適用し(先端に組織が入ることを防止するため)、標的に達した際に、10分間隔で0.2μl/分、0.5μl/分、0.8μl/分、1.0μl/分および2.0μl/分に増加させた。注入のおよそ15分後、カニューレを脳から抜去した。4匹の動物は、複数回の注入を行った。各動物には、各注入術間に少なくとも4週間の間隔を与えた。
【0109】
磁気共鳴画像(MRI)。NHPを、ケタミン(Ketaset、7mg/kg、IM)とキシラジン(Rompun、3mg/kg、IM)との混合物で鎮静させた。鎮静後、各動物をMRI適合性の定位フレーム中に置いた。イヤーバーおよびアイバーの測定値を記録し、静脈路を確保した。次に、MRIデータを入手し、その後、動物を、ホームケージ内で常態を取り戻すことができるまで厳密な観察下で回復させた。4匹のNHPにおける14回のCEDでの脳のMR画像を、1.5T Siemens Magnetom Avanto(Siemens AG、Munich、ドイツ)で取得した。三次元(3D)高速グラジエントエコー(MP−RAGE)画像を、以下の条件で得た:繰返し時間(TR)=2110ms、エコー時間(TE)=3.6ms、フリップ角は15°、励起数(NEX)=1(3回繰返し)、マトリックス=240×240、視野(FOV)=240×240×240、スライス厚=1mm。これらのパラメーターの結果、ボクセル容積は1mmとなった。走査時間はおよそ9分であった。
【0110】
2匹のNHPにおける8回のCEDのMR画像を、1.5−T Sigma LXスキャナー(GE Medical Systems、Waukesha、WI)を用い、5インチの表面コイルを対象の頭部に床と並行に載せて取得した。スポイルドグラジエントエコー(SPGR)画像は、T1強調画像であり、以下の条件で得た:スポイルドグラスシーケンス、TR=2170ms、TE=3.8ms、フリップ角15°。NEX=4、マトリックス=256×192、FOV=16cm×12cm、スライス厚=1mm。これらのパラメーターの結果、ボクセル容積は0.391mmとなった。走査時間はおよそ11分であった。
【0111】
NHPの脳における容積および距離の測定。MR画像を各RCDから得、これを用いて、カニューレステップから正中まで(ステップ−正中)、標的領域(視床または脳幹)へのカニューレ進入点まで(ステップ−進入口)、および、標的領域の側面境界まで(ステップ−外側)の距離を測定した。測定は、OsiriX(登録商標)Medical Image Software(v2.5.1)を搭載したApple Macintosh G4コンピューターで行った。OsiriXソフトウェアは、画像保存通信システム(PACS)により得られたDICOM(医用デジタル画像と通信に関する標準規格)フォーマットのMR画像から全てのデータ仕様を読み取る。カニューレステップから前述の各地点までの距離を手作業で定義してから、各地点を選択した後でソフトウェアにより計算した。全ての距離を、全てのMRI断面上で同じ方式にて測定した。
【0112】
グリーンゾーンにおける各カニューレステップ位置のX座標、Y座標およびZ座標の値を、MR画像が全3つの面(軸面、冠状面および矢状面)で投影されるOsiriXソフトウェアにより生成させた2Dの直交MR画像を用いて決定した。本出願人らは、前交連−後交連(AC−PC)ラインの中間点、すなわち交連中間点(MCP)を、三次元(3D)脳空間におけるゼロ地点(0,0,0)として用いた。簡潔に言えば、AC−PCラインを正中矢状面上で引き、MCPを定義した。次に、MCPを通り直交する水平(軸)面および垂直(冠状)面を決定したが、このとき、軸面が、正中矢状面に沿ったAC−PCラインを含有するようにした。次に、カニューレステップから冠状MRI面上の正中までの距離(X値)、前方(または後方)からMRIの軸面上のMCPまでの距離(Y値)、および矢状MRI上のAC−PCラインの上方(または下方)の距離(Z値)を測定することにより、カニューレステップのX値、Y値およびZ値を得た。全ての距離を、各ケースについてMRI断面上で同じ方式にて測定した(単位:ミリメートル)。
【0113】
MR画像は、Gd分布の容量定量化(Vd)にも使用した。各対象の脳におけるGdのVdも、Apple Macintosh G4コンピューターで定量化した。視床または脳幹中および周囲構造中で注入物が強く現れている区域の輪郭を描くことにより対象領域(ROI)を手作業で定義した。次に、Osirixソフトウェアにより各MR画像から面積を計算し、スライス厚を乗じて定義した面積に基づいてROIの容積を確定した(PACS容積)。各分布の境界線を、一連のMRI断面において同じ方式で定義した。分析中の特定の分布についてのPACS ROI容積の合計(評価したMRIスライスの数)により、測定容積を決定した。定義されたROI容積により、BrainLABソフトウェア(BrainLAB、Heimstetten、ドイツ)を用いた3D画像再構成が可能になった。
【0114】
統計分析。Gd分布および距離変数(カニューレステップから正中まで、カニューレステップから領域進入点まで、カニューレステップから各領域の側面境界まで)を、スチューデントt検定により対象群全てに対して比較した。全ての検定についての統計的有意性の判定基準は、p<0.05であった。
【0115】
結果
CED中の視床におけるガドテリドール分布。視床において実施した14回の注入のうち、優れたGd分布は、8ケース(57.1%)において達成され、GdのVdは159.1〜660.3mmの範囲であり平均容積は405.6±66.6mmであった。図6は、視床におけるGdのVd対視床およびWMTにおける合計Vdの比率(%)を示すものであるが、この値が全8ケースにおいて100%であったことから、GdはWMT中に漏出しなかったことが示唆される。
【0116】
6ケース(42.9%)においては、視床における良好なGd分布が得られ、漏出は、WMT中へは5ケースにおいて、レンズ核束(Lenf)中へは4ケースにおいて見られた。視床におけるGdのVdの範囲は58.5〜267.6mm、平均容積は191.3±38.1mmであった。視床におけるVdの比率(%)の範囲は86.0%〜93.1%、平均は89.0%±1.3%であり(図6)、このことから、周囲構造中にいくらか漏出したことが示唆される。漏出Vdの範囲は8.3〜43.7mm、平均容積は24.3±7.0mmであった。優れたVdと良好なVd(漏出あり)との間の、視床におけるGd分布には有意差があった。代表的なMRIは、視床におけるカニューレステップ配置(図6Bおよび6F)とGd分布(図6C〜6Eおよび6G〜6I)とを示すものである。
【0117】
視床におけるカニューレステップ配置のためのパラメーターの測定。本出願人らは、何回かの注入では、結果として、トレーサーの良好な視床内封入率がもたらされ、近接するWMTおよびLenf中にいくらか分布したのに対し、トレーサーが視床中にのみ分布した注入もあったことを観察した。CED中、所与の薬剤のVdは、多くの因子に依存する。本出願人らの経験では、成功するCEDの重要な要素はカニューレ配置であると思われる。したがって、MR画像を使用して、視床の、カニューレステップから正中(ステップ−正中)、側面境界(ステップ−外側)およびカニューレ進入点(ステップ−進入口)までの距離を測定した。視床におけるカニューレ配置を図7に示す。
【0118】
視床における優れたGd封入率が見られた7ケースでは、ステップ−正中の範囲は4.99mm〜7.73mm、平均距離は6.24±0.36mmであり、ステップ−進入口の範囲は2.82mm〜4.59mm、平均距離は3.96±0.29mmであり、ステップ−外側の範囲は2.16mm〜6.95mm、平均距離は3.58±0.63mmであった。カニューレと水平方向のラインとの間の角度は58.85〜66.67度の範囲であり平均は63.90±1.02度であった。
【0119】
視床における良好なGd封入率および周囲構造中へのいくらかの漏出が見られた5ケースにおいては、ステップ−正中の範囲は5.92mm〜7.69mm、平均距離は7.18±0.27mmであり、WMT中への漏出が見られた4ケースにおいてはステップ−進入口の範囲は1.26mm〜2.18mm、平均距離は1.79±0.19mmであり、Len中への漏出が見られた3ケースにおいてはステップ−外側の範囲は1.33mm〜1.88mm、平均距離は1.67±0.19mmであった。優れたVd群と良好なVd(漏出あり)群との間でのステップ−進入口およびステップ−外側には有意差があった。カニューレと水平方向のラインとの間の角度は61.08〜69.89度の範囲であり平均は64.65±1.46度であった。
【0120】
注入トレーサーの視床内封入率(%)を各変数に対してプロットすると、カニューレステップからカニューレの進入点まで、または視床の側面境界までの距離が視床中への注入剤の分布の急激な減少と相関することは明らかである(図8および9)。MWT中への漏出が見られた4回の注入では、カニューレステップは視床のカニューレ進入点の近くに配置され、平均距離は1.79mmであった(図8A)。Lenf中への漏出が見られた3回の注入では、カニューレステップは視床の側面境界の近くに配置され、平均距離は1.67mmであった(図9A)。本出願人らは、視床内に注入剤を最適に封入するには、ステップ−進入口およびステップ−外側の距離は、それぞれ約2.8mmおよび2.2mmを超えるべきであると結論付ける。カニューレステップから正中までの距離は、被殻封入率とあまり相関しなかった(図10)。
【0121】
CED中の脳幹におけるガドテリドール分布。脳幹において実施した全8回の注入(100%)において優れたGd分布が達成され、Vdの範囲は224.3〜886.3mm、平均容積は585.2±75.4mmであった。1ケースのみにおいて、注入の最後の時点で視床中への非常にわずかな量のGdの漏出が見られ、視床におけるGdのVdは30.5mmであった。脳幹におけるGdのVd対脳幹および視床における合計Vdの比率(%)は、7ケースにおいて100%、1ケースにおいて95.6%であった(図11A)。脳幹における注入は、この試験で用いた212μlを下回る注入容積で良好に封入された。脳幹注入は、中脳に対しては吻側に、延髄に対しては尾側に分布した。小脳中への分布は見られなかった。代表的なMRIは、脳幹におけるカニューレステップ配置(図11B)とGd分布(図11C〜11E)とを示すものである。
【0122】
脳幹におけるカニューレステップ配置のためのパラメーターの測定。図12は、優れたGd分布が見られた8ケースでの、脳幹におけるカニューレ配置を示すものである。ステップ−正中の範囲は1.56mm〜3.88mm、平均距離は2.58±0.30mmであり、ステップ−進入口の範囲は3.55mm〜12.63mm、平均距離は7.29±0.97mmであり、ステップ−外側の範囲は2.87mm〜5.09mm、平均距離は4.14±0.25mmであった。カニューレと水平方向のラインとの間の角度は60.89〜67.26度の範囲であり平均は64.27±0.83度であった。注入トレーサーの脳幹内封入率(%)を各変数に対してプロットすると、カニューレが適切に配置されたことで、脳幹内の注入剤の最適な封入率が得られたことが明らかである(図13)。
【0123】
視床および脳幹におけるGdの分布容積の三次元再構成。MRI上で見られたGdシグナルの輪郭を、BRainLabソフトウェアを用いて描き、視床(緑色)および脳幹(赤色)においてVdの三次元再構成を得た。この三次元再構成は、視床および脳幹におけるロバストな分布を伴う、構造に関連したGdの分布容積を示すものである。視床および脳幹における分布容積を注入容積(Vi)に対してプロットした。直線状の傾向線から、優れたVd(R=0.997)および良好なVd(漏出あり)(R=0.996)が見られたケースでの視床において、また、脳幹において(R=0.992)、ViとVdとの間の強い相関が明らかになった。これらの知見によれば、Viの3〜4倍大きいVdであれば、Viは視床においては最大158μl、脳幹においては212μlであると予想される。本出願人らの試験において注入された構造間でのリポソームの全体のVd/Vi比は、視床においては3.2、脳幹においては3.9であった。視床における最大分布は、158μlの場合は660.3mm前後で分布比が417.9%、脳幹においては212μlの場合は695.6mm前後で分布比が328.1%となった。
【0124】
NHPの視床および脳幹におけるカニューレステップについてのグリーンゾーン。これらの分析に基づき、本出願人らは、好ましいカニューレの特徴および脳における主要な構造からの最適な距離を特定する、視床および脳幹における注入についての座標を定義してある。
【0125】
カニューレを適切な角度で配置するとき、視床における「グリーンゾーン」は、進入点まで少なくとも2.8mm、視床の側面境界から2.2mm超、正中から5mm超と定義される。同様に、カニューレを適切な角度で配置するとき、脳幹における「グリーンゾーン」は、進入点まで少なくとも3.5mm、脳幹の側面境界から2.9mm超、正中から1.6mm超と定義される。
【0126】
(実施例3)
MRIは、AAV2−GDNFの対流強化送達後のNHPの脳におけるGDNF分布を予測する
対流強化送達(CED)を利用する遺伝子療法には、リアルタイムで薬物注入を厳密にモニターすること、および、薬物分布を正確に予測することが必要であろう。コントラスト(ガドテリドール、Gd)MRIを使用して、CED注入をモニターすると共に、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)をコードする治療剤アデノ随伴ウイルス2型(AAV2)ベクターの発現パターンを予測した。非ヒト霊長動物(NHP)の視床を注入のモデル化に利用して、臨床的に意義のある大容積の送達を可能にした。芳香族L−アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)をコードする細胞内分子AAV2をAAV2−GDNF/Gdと同時注入して、AAV2形質導入と細胞外のGDNF拡散とを区別した。Gdの分布容積(V)はVと線形関係があり、平均V/V比は4.68±0.33であった。Gd分布とAAV2−GDNFまたはAAV2−AADC発現との間には優れた相関があり、GDNFまたはAADC対Gdの発現面積比は、両方とも1に近かった。本出願人らのデータは、CEDによるAAV2注入をモニターしAAV2形質導入の分布を予測するためのコントラスト(Gd)MRIの使用を支持する。
【0127】
本試験の目的は、標的領域へのAAV2ベースの遺伝子療法ベクターの送達における安全性および予測可能性の向上のための方法を開発することであった。具体的には、本試験は、MRIトレーサーのガドテリドール(Gd、Prohance)の同時注入を用いて、ヒト線条体におけるAAV2を介したGDNF発現の容積およびパターンを予測する方法に焦点を合わせている。GdとAAV2−GDNFとの同時注入により、反復MRI T1シーケンスを用いた注入のほぼリアルタイムでのモニターが可能になる。MRI誘導型のモニターシステムの開発は、本出願人らの前臨床のAAV2−GDNF遺伝子療法プログラムを臨床的に現実的なものに移行するうえで決定的に重要である。
【0128】
高齢でパーキンソン病の非ヒト霊長動物(NHP)への対流強化送達(CED)によるAAV2−GDNFの被殻送達の前臨床試験から、この遺伝子療法戦略にとって被殻は理想的な送達領域であることが証明されている。しかし、PD患者の被殻は、パーキンソン病のNHPの被殻のおよそ5倍大きいことから、臨床試験においてヒトの被殻に必要な被覆率をモデル化するまで、注入容積を拡大する必要がある。しかし、NHPの被殻は、被殻を取り巻く白質路中に注入剤があふれることから、30〜40μLを超えない容積で注入することしかできない。ヒトの被殻の被覆率の最大化に関与する注入臨床パラメーターをより良好に概算するために、本出願人らは、NHPの被殻のおよそ1.4倍のサイズであるが周囲構造への近さという点では被殻に匹敵するNHPの視床を標的化した。したがって、本試験においては、本出願人らは、AAV2−GDNFベクターを臨床的に意義のある容積(約150μL)でNHPの視床に注入して、Gd分布のパターンを、それに続く組織切片上でのGDNF発現と相関させる。
【0129】
これまでの試験では、脳内にAAV2−GDNFを注入する結果、細胞内の神経細胞体および線維の染色だけでなく細胞外での免疫反応も生じることが示されており、このことから、形質導入されたGDNFタンパク質は細胞外空間中へ放出されることが示唆される。このことは、細胞外のGDNFタンパク質が濃度勾配を介した拡散により外へ広がりかねない可能性を高める。したがって、GDNF分布は、AAV2ベクターの対流および形質導入にだけでなく、おそらく、細胞外のGDNFタンパク質拡散によっても影響を受けると考えられる。ウイルス形質導入とGDNFタンパク質拡散とをより良好に区別するために、本出願人らは、第2のAAV2ベクターを同時注入して、非分泌型の細胞内分子である芳香族L−アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)をAAV2−GDNF/Gdと共に発現させた。内因性AADCは、通常はNHPの視床にはないので、形質導入AADCが視床において発現すれば、AAV2ベクターの形質導入および分布の境界線について、信頼できる予測可能性が得られるであろう。
【0130】
材料および方法
実験対象および試験デザイン。3匹の正常な成体のNHPが本試験の対象であった。実験作業は、国立衛生研究所のガイドラインと、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(San Francisco、CA)の施設内動物実験委員会により承認されたプロトコールとに従って実施した。3匹のNHPは、視床中へのAAV2ベクターおよび遊離ガドテリドール(1mM、Gd、Prohance、Brancco Diagnostics、Princeton、NJ)の頭蓋内注入を行った。注入は、NHPについてこれまでに確立されたCED手法により実施した。
【0131】
注入製剤。ガドテリドール(Gd、C1729Gd、Prohance)をBaracco Diagnostics Inc.(Princeton、NJ)から購入した。サイトメガロウイルスプロモーターの制御下でヒトGDNF(AAV2−GDNF)またはヒトAADC(AAV2−AADC)のいずれかについてのcDNA配列を有するAAV2ベクターを、CsClグラジエント遠心分離により引き続き精製を行うトリプルトランスフェクション技術を用いて、フィラデルフィア小児病院でAAV Clinical Vector Coreによりパッケージングした。AAV2−GDNF/AAV2−AADCストックを、定量PCRにより定量されるように1ml当たり2×1012ベクターゲノム(vg/ml)に濃縮してから、使用前に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)−0.001%(v/v)Pluronic F−68中の1〜1.2×1012ベクターゲノム(vg/ml)に直ちに希釈した。
【0132】
注入術。NHPは、MRI適合性のガイドアレイを視床にわたりポジショニングするための神経外科手術を受けた。それぞれカスタマイズしたガイドアレイを特定の長さに切り、頭蓋に開けた骨孔を通してその標的に定位的に誘導し、歯科用アクリル樹脂により頭蓋に固定した。アレイの、直径がより大きい脚部は、外径および内径がそれぞれ0.53mmおよび0.45mmであった。先端部分の外径および内径は、それぞれ0.436mmおよび0.324mmであった。注入術中に簡単に操作できるように、ガイドアレイ組立体の最上部にスタイレットのねじで栓をした。動物は、注入術の開始前に少なくとも2週間回復させた。
【0133】
NHPを、ケタミン(Ketaset、7mg/kg、IM)とキシラジン(Rompun、3mg/kg、IM)との混合物で鎮静させ、イソフルラン(Aerrane、Ohmeda Pharmaceutical Products Division、Liberty Corner、NJ)で麻酔をかけた。各動物の頭部をMRI適合性の定位フレーム中に置き、解剖学的目標を可視化し、各動物について、提案される標的注入部位の定位座標を生成するために、注入前にベースラインのMRIを実施した。心拍数およびPOなどの生命徴候を、手術の間中モニターした。簡潔に言えば、注入システムは、3mmのステップを有する溶融石英製の逆流防止機能付きカニューレを、装填ライン(ベクターおよびGdを含有する)、油の入った注入ライン、および、トリパンブルー溶液の入った別の注入ラインと接続したもので構成されていた。微量注入ポンプ(BeeHive、Bioanalytical System、West Lafayette、IN)上に載せた1ml注射器(トリパンブルー溶液を充填)により、このシステムを通る流体の流れを統制した。MRI座標に基づき、カニューレを、予め配置したガイドアレイを通して脳の標的領域に手作業で誘導した。カニューレ先端の3mmのステップは、CED術中は流体分布を最大化し、カニューレ穿刺路に沿った逆流を最小化するようにデザインした。注入カニューレの配置を確保した後。注入カニューレの配置を確保した後、取得中のリアルタイムMRIデータを用いてCED術(リアルタイム対流送達、RCD)を開始した。試験を通じ、注入を行ったNHP全てについて同じ注入パラメーターを用いた。注入速度は次のとおりであった:カニューレを標的区域に下ろす際には1μl/分を適用し、20〜30分間隔で1.5μl/分および2.0μl/分に増加させた。注入後、カニューレを脳から抜去し、動物を、ホームケージ内で常態を取り戻すことができるまで厳密な観察下で回復させた。
【0134】
磁気共鳴画像(MRI)。脳のMR画像を1.5−T Siemens Magnetom Avanto(Siemens AG、Munich、ドイツ)で取得した。三次元高速グラジエントエコー(MP−RAGE)画像を、以下の条件で得た:繰返し時間(TR)=17ms、エコー時間(TE)=4.5ms、フリップ角=15°、励起数(NEX)=1(3回繰返し)、マトリックス=256×256、視野(FOV)=240×240×240、スライス厚=1mm。これらのパラメーターの結果、ボクセル容積は1mmとなった。走査時間は、1シーケンス当たりおよそ5分であり、注入術にわたり連続的な走査を行った。
【0135】
MR画像からのGdの分布容積および面積の定量化。注入された各脳領域内のGdの分布容積を、OsiriX Medical Imageソフトウェア(v.3.6)で定量化した。このソフトウェアは、MR画像から全てのデータ仕様を読み取る。Gdシグナルについてのピクセル閾値を定義した後、このソフトウェアは、定義された閾値でのシグナルを計算し、各MRI系統についての対象領域(ROI)の面積を確定し、NHPの脳についてのROIの分布容積Vを算出する。これにより、Vを任意の所与の時点で決定することが可能になり、三次元画像の形で再構成できる。
【0136】
組織学的術。動物にペントバルビタールナトリウム(25mg/kg、静脈内投与)で深麻酔をかけ、ベクター投与のおよそ5週間後に安楽死させた。脳を回収し、脳マトリックスを用いて冠状にスライスした。脳ブロックを4%パラホルムアルデヒド(PFA)で後固定してから、クライオスタット中で40μmの冠状切片に切った。切片を免疫組織化学(IHC)染色のために加工した。連続切片を、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)およびヒト芳香族l−アミノ酸デカルボキシラーゼ(hAADC)について染色した。20枚目の切片ごとにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で洗浄し、1%H中で20分間インキュベートして、内因性のペルオキシダーゼ活性を遮断した。PBS中で洗浄した後、切片をブロッキング溶液のSniper(登録商標)ブロッキング溶液(Biocare Medical、Concord、CA)中にて30分間室温でインキュベートし、次いで、Da Vinci(登録商標)希釈剤(Biocare Medical)中の一次抗体(GDNF、1:500、R&D Systems、Minneapolis、MN;AADC、1:1000、Chemicon、Billerica、MA;TH、1:10000、Chemicon)で、一晩室温にてインキュベートした。PBS中にてそれぞれ5分間室温で3回すすいだ後、切片をMach2またはGoat HRPポリマー(Biocare Medical)中にて1時間室温でインキュベートし、次いで数回洗浄し、比色分析用に発色させた(DAB、Vector Laboratories、Burlingame、CA;Vulcan Fast Red、Biocare Medical)。免疫染色した切片をスライドに載せ、Cytoseal(登録商標)(Richard−Allan Scientific、Kalamazoo、Ml)で密封した。
【0137】
GDNFおよびAADCの発現区域の性格付け。GDNFおよびAADCの発現の分析を、Zeiss光学顕微鏡を用いて実施した。GDNF陽性およびAADC陽性の区域を低倍率で特定し、陽性に染まった細胞を高倍率下で確認した。低倍率のGDNF染色画像をImageJソフトウェアで分析し、陽性に染まった区域を閾値機能で特定した。AADC−IR区域の輪郭を高倍率顕微鏡画像法に基づき手作業で描いた。Gd分布を示すMR画像を参照せずにOsiriXソフトウェアを用いて、対応するベースラインのMRI画像上で陽性の区域の輪郭を手作業で描くことにより、GDNFまたはAADCについて陽性に染まった区域を、対応する霊長動物のMRIに転写した。
【0138】
統計分析。Gd分布面積、GDNFまたはAADC発現面積を、スチューデントt検定およびピアソンの相関検定により比較した。全ての検定についての統計的有意性の判定基準は、p<0.05であった。
【0139】
【表2】

【0140】
結果
視床におけるGd分布。この試験では、3匹の霊長動物(アカゲザル)に、約150μL(V)のAAV2−GDNF/Gd(1〜1.2×1012vg/ml、n=5)を視床に注入したが、これらの注入のうち3つは、AAV2−AADC(1×1012vg/ml、n=3)を含んでいた(表2)。注入前および注入中に磁気共鳴画像法(MRI)を実施し、1cmずつ離して冠状の脳画像を得て、Gd分布(V)を評価した。
【0141】
T1強調MRIを5分間隔で実施し、画像から、Gdを注入した解剖学的領域は、周囲の非注入組織と明確に区別できることが示された(図15a〜15e)。注入開始時点で、Gd分布の円筒環がカニューレ先端周囲に形成された(図15a)。Vが増すにつれ、注入物は放射状に広がって、より球形のパターンを呈した(図15b〜15e)。OsiriXソフトウェアを用いた、注入終了時点でのGd分布の3D再構成は、涙滴形状のシグナルを示した(図15f)。
【0142】
多様な時点でのGdの分布容積(V)を、OsiriXソフトウェアを用いて定量化した。注入中の肉眼的なMR画像の外観(図15a〜15e)と一致して、GdのVは、Vと共に直線的に増加し(R=0.904、P<0.0001)(図16)、最終的な容積の範囲は700〜900mmであったが、これは、NHPの視床の合計容積のおよそ70〜90%をカバーする値であった。各注入部位のV/V比は一定のままであり、平均値は4.68±0.33であった。
【0143】
GdとGDNF組織像との相関。動物を5週間後に安楽死させ、視床を含有する脳ブロックを後固定し、冠状に切片化した。0.8mm離した一連の連続切片を、GDNFに対する抗体で染色した。免疫組織化学的分析から、注入部位におけるGDNFタンパク質の発現パターンはGd分布と類似していることが実証された(図17aおよび17b)。定量分析から、GDNF発現面積はGd分布面積と高度に相関していることが示された(図17dおよび17e)。GDNF染色面積対Gd分布面積の平均比率は1.08±0.17であった。高倍率顕微鏡観察法の画像から、GDNF染色は神経細胞の細胞質中ならびに細胞外空間中で観察されることが示され、染色パターンから、GDNFが細胞外マトリックスと結合していることが示唆された(図17c)。
【0144】
視床へのAAV2−GDNF注入後、全ての動物において、針穿刺経路から離れた異なる皮質領域においてロバストなGDNF染色が観察された(図17b、18bおよび19b)。本出願人らは、AAV2−AADCを同時注入したNHPの皮質においてもAADC染色を見出した(図18cおよび19c)。皮質にGDNFまたはAADCタンパク質が存在するのは、視床から軸索輸送されたことによるものであった。したがって、本試験においては、本出願人らは、視床皮質線維および皮質における染色を遺伝子発現の測定面積から除外して、Gd分布を、視床内での直接的な対流送達から主に得られたGDNFまたはAADC発現と、より良好に比較されるようにした。
【0145】
GDNFとAADC組織像との相関。AAV2−GDNFを視床に送達した結果、細胞内および細胞外でのロバストなGDNF免疫反応が生じた。MRIトレーサーのGdが広範に分布していると仮定すると、本試験における相当なGDNF分布は、注入されたベクターの容積(約150μL)の分散に起因すると考えられる。しかし、GDNFの細胞外拡散レベルも、分布に影響する可能性がある。そこで、遺伝子発現の合計面積に及ぼす細胞外拡散の効果を調べるために、AAV2−AADCを同時注入した動物において、GDNF発現面積を細胞内分子AADCの発現面積と比較した。こうして、細胞形質導入と遺伝子産物の分泌および拡散とを区別できた。
【0146】
2匹の霊長動物(2番および3番)に、AAV2−GDNFおよびAAV2−AADCを視床中に同時注入したが、1匹は片側注入を行い、他の一匹は両側注入を行った。視床注入物を含有する近接する脳切片を、GDNFおよびAADCそれぞれについて染色した。加えて、AADC免疫染色は、NHPにおいて、形質導入AADCおよび内因性AADCを両方とも検出できるので(図18cおよび18e)、本出願人らは、形質導入AADCを、TH陽性プロファイルを有する同時局在化している内因性AADCと区別するために、二色染色法を開発した。切片を、AADCについては薄い茶色で、内因性のチロシンヒドロキシラーゼ(TH)については明るい赤色で二重標識した(図18d)。内因性AADCを含有するほぼ全てのニューロンは、THについて陽性であった。したがって、内因性AADCならびにTHを含有する細胞を二重標識し、濃い赤色で染色し(図18f)、外因性AADCを有する形質導入された当該ニューロンだけを単一のクロマゲン(chromagen)で染色すると、薄い茶色に見えた(図18i)。近接するAADC染色切片をAADC/TH二重染色切片と重ねることにより、形質導入AADC発現の境界線の輪郭を描くことができた(図18c、青色の線)。
【0147】
1匹の霊長動物(2番)の視床中へのAAV2−GDNFおよびAAV2−AADCの片側同時注入により、内因性AADCと形質導入AADCとの容易な区別が可能になったが、その理由は、形質導入AADCは、注入された側の脳で観察されただけだったためである。これに対し、THと同時局在している内因性AADCは、尾状核、被殻および黒質中に両側性に存在した(図18d)。この特定の霊長動物の場合、視床への注入物が被殻の内側面に広がるにつれ、AADC陽性細胞が内側被殻の縁で見出された(図18h)が、このことは、内因性AADC陽性の線維のみを含有した左被殻とは対照的であった(図18g)。右被殻におけるこれらのAADC陽性細胞は、青色で輪郭を描いたとおり、測定面積に含めた(図18h)。右側の被殻および尾状核における全体的なAADC染色の強度は、左側と比較して高いようであった(図18c、18gおよび18h)。本出願人らは、GDNF染色切片においても類似のパターンを観察した(図18b)。右側の被殻および尾状核でAADCまたはGDNFの免疫活性が高まったのは、この霊長動物において注入物が広がった背側黒質から発現遺伝子産物が順行性輸送されたことによる可能性が最も高い。したがって、これらの面積は、直接的なベクター形質導入面積として含めなかった。
【0148】
近接するGDNFとAADC/TH染色切片とを比較することにより、視床におけるGDNFおよび外因性AADCの発現パターンはほぼ同一であることがわかった。加えて、GDNFおよびAADCの発現は、MRIのGd分布と実質的に重なり合った(図18a)。一連のMRI冠状面におけるGd、GDNFおよびAADCの分布面積は、互いに高度に相関した(図18j)。AADC染色面積対Gd分布面積の平均比率は1.07±0.06であり、GDNF対Gd(1.08±0.17)と等価である。これらのデータは全て、AADC分布とGDNF分布との間に優れた一致があることを強く示唆した。
【0149】
他の霊長動物(3番)の視床中へのAAV2−GDNFおよびAAV2−AADCの両側同時注入は、本出願人らの知見をさらに実証した(図19)。形質導入されたGDNFおよびAADCタンパク質の大部分は視床の両側に留まり(図19bおよび19c)、この場合の発現パターンはGd分布と高度に相関した(図19a、19dおよび19e)。
【0150】
本試験では、治療剤AAV2−GDNFの分布を予測するために、MRIコントラスト剤を使用して、ほぼリアルタイムで注入を可視化した。NHPの視床を、ヒトの被殻における注入のモデル化に利用して、臨床的に意義のある容積の送達を可能にした。本出願人らは、CEDにより、逆流または漏出を伴わずに、視床中に約150μLのVでベクターを投与することができた。GdのVはVと線形関係があり、平均V/V比は4.68±0.33であった。Gd分布とAAV2−GDNF発現およびAAV2−AADC発現の両方との間には優れた相関があり、GDNFまたはAADC対Gdの発現面積比は両方とも1に近く、このことから、コントラスト(Gd)MRIを用いて、AAV2形質導入の分布およびそれに続く遺伝子発現を予測できることが強く示唆された。加えて、GDNFおよびAADCの発現パターンはほぼ同一であることから、AAV2−GDNF形質導入後にGDNFタンパク質の検出可能な拡散はなかった。したがって、将来的な臨床試験においてAAV2−GDNFの投与を受ける患者において予測されるGDNF発現は、形質導入された領域からのGDNFの拡散による追加的な被覆が一切なくても、同時注入されたGdのVよりおよそ4〜5倍大きいと予想できる。この情報は、臨床試験のためのAAV2−GDNFベクターの用量を正確に選択するために、決定的に重要である。
【0151】
CEDを用いた、罹患領域中への強力な治療剤の直接的な脳内注入は、神経障害を治療するための有効な戦略となる。本試験では、CEDを用いた、MRIコントラスト強化剤Gdと治療剤AAV2−GDNFとの同時注入は、注入をモニターし治療剤分布を推定するうえで有用であることが証明された。Gdを用いたリアルタイムMR画像法により、周囲組織と容易に区別できる注入領域が明らかになった(図15A〜15E)。この明確に定義された注入領域により、注入パラメーターのほぼリアルタイムでの調節および正確な容量分析が可能になった。
【0152】
CED注入中、GdとAAVベクターとの間の分布の差は予想より小さいが、おそらくそれは、濃度勾配を介した拡散ではなく、圧力勾配を介した流体移流が主な駆動力であることによる。したがって、MRIのGdシグナルは、注入中、AAV2ベクターの分布を高い信頼性で再現できる。注入が終わった後の時間尺度がより長い場合、脳における形質導入細胞により放出された、AAV2ベクター、ならびに、細胞外のGDNFの分布は、濃度勾配および該組織における注入剤の拡散率にのみ依存する可能性がある。本出願人らは、注入中のほぼリアルタイムのMRIに基づくGd分布が、注入の5週後のGDNF発現と高度に相関し、Gd対GDNF比が1に近かったことを見出した。さらに、GDNF分布は細胞内分子AADCとほぼ同一であった。これらの知見は、これまでの試験と一致し、注入が中止した後ではAAV2ベクターまたはGDNFの拡散が限定されることを強く示唆した。したがって、CED注入によるGd分布は、急性に、かつ、より長い時期にわたり、AAV2−GDNF分布を有効に予測し得る。
【0153】
Gd分布(V)は、注入剤の容積(V)と共に直線的に増加し、V対V比は4.68±0.33であったが、この値は、先行研究(およそ4〜5;)と比べると狭い範囲内であった。MRI誘導型のCED送達プラットフォームにおけるVとVとのこの一定の線形関係により、AAV2−GDNFベクターの臨床用量を計画するための基礎づくり、ならびに、PD患者におけるさまざまな治療剤の分布の予測が可能になると考えられる。
【0154】
要約すると、本出願人らは、ほぼリアルタイムのMRI画像化法を用いて、CEDにより標的脳領域にAAV2−GDNFベクターを正確に注入することができる。加えて、コントラストMRIは、AAV2ベクター注入を誘導するための価値ある手段を提供し、AAV2−GDNF発現を高い信頼性で予測することから、PD患者においてこのベクターを用いると、より高い安全性、正確性、および臨床的に意義のある被殻の被覆率が可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
霊長動物の脳の標的領域に治療剤を送達する方法であって、
カニューレ挿入のためのポジションを選択するステップであって、先端のポジションを漏出経路から少なくとも約1mm離間させるステップと、
前記送達カニューレを通して前記標的領域に前記治療剤を送達するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記治療剤が対流強化送達により送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記送達カニューレが逆流防止機能付きステップ型カニューレである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記霊長動物が非ヒト霊長動物である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記霊長動物がヒトである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記脳の前記標的領域が大脳内にある、請求項4または請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記送達カニューレの配置が、漏出経路から少なくとも約2mmであるように選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記送達カニューレの配置が、漏出経路から少なくとも約3mmであるように選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記漏出経路が、脳梁(CC)、前交連(AC)、外包(EC)および内包(IC)から選択される軸索路である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記脳の前記標的領域が、線条体、尾状核、被殻、淡蒼球、側坐核、中隔核および視床下核から選択される、請求項6から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記標的領域が被殻である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記脳の前記標的領域が視床または視床下部である、請求項4または請求項5に記載の方法。
【請求項13】
前記送達カニューレ先端の配置が、進入点から少なくとも2.5mm、側面境界から少なくとも1.8mm、および正中から少なくとも4.5mmであるように選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記送達カニューレ先端の配置が、進入点から少なくとも3mm、側面境界から少なくとも2.2mm、および正中から少なくとも5mmであるように選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記脳の前記標的領域が脳幹内にある、請求項4または請求項5に記載の方法。
【請求項16】
前記送達カニューレ先端の配置が、進入点から少なくとも2.8mm、側面境界から少なくとも2.5mm、および正中から少なくとも1.25mmであるように選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記送達カニューレ先端の配置が、進入点から少なくとも3.5mm、側面境界から少なくとも2.92mm、および正中から少なくとも1.6mmであるように選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記標的領域が、黒質、赤核、橋、オリーブ核および脳神経核から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか一項に記載の方法により治療剤を投与するステップを含む、中枢神経系障害を治療する方法。
【請求項20】
霊長動物の脳に治療剤を送達するためのシステムであって、カニューレを漏出経路から少なくとも約1mm離してポジショニングするための定位システムを備え、前記定位システムが、前記霊長動物の前記標的領域において注入剤の定量的な封入をもたらすように画定される所定ゾーン内に送達カニューレをポジショニングするための座標セットを備えるシステム。
【請求項21】
送達カニューレをさらに備える、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記治療剤が対流強化送達により送達される、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記送達カニューレが逆流防止機能付きステップ型カニューレである、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
送達カニューレポジショニングのための、霊長動物の脳の標的領域におけるグリーンゾーンを決定する方法であって、前記グリーンゾーン内にポジショニングされる送達カニューレが前記標的領域における注入剤の定量的な封入をもたらし、
送達カニューレを通して前記脳の前記標的領域に造影剤を送達するステップと、
注入された造影剤の分布を決定するステップと、
送達カニューレ配置の部位を所望の前記分布と相関させるステップと
を含み、最適な配置のための座標のセットが、適切に封入された注入剤をもたらす座標である方法。
【請求項25】
前記脳の前記標的領域について異なる霊長動物種におけるグリーンゾーンを三次元モデル化することにより決定するステップをさらに含む、請求項24に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2013−502997(P2013−502997A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526947(P2012−526947)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【国際出願番号】PCT/US2010/046680
【国際公開番号】WO2011/025836
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(506115514)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (87)