説明

脳波測定用電極、脳波測定用電極付きキャップ及び脳波測定装置

【課題】頭皮に対して過度の圧力を加えることなく、頭髪の間を通して頭皮に確実に接触し導通を確保できる脳波測定用電極、脳波測定用電極付きキャップ及び脳波測定装置を提供する。
【解決手段】脳波測定用電極100は、測定対象に当接して測定対象から電気信号を受け取るチップ部と、チップ部60から電気信号を受け取り信号処理装置へ伝達する信号伝達部と、を備え、チップ部60の測定対象と当接する面には導電性と、可撓性又は伸縮性と、を有する突起が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳波測定用電極及び脳波測定用電極付きキャップ及び脳波測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
頭皮表面の電位計測に基づく非侵襲的な脳波測定に用いられる電極は、頭皮と電極との間のインピーダンスを下げるために、使用前に電極の上に導電性ペーストを充填する形式の物が従来多く使われている。ペーストを使用する場合、頭髪が電極と頭皮との間に挟まっても、ペーストが頭髪の裏に回り込むため電極と頭皮との間の導通が確保される。
【0003】
しかし、この形式の電極を使用する場合、装着の度に電極にペーストを充填しなければならないという問題がある。さらに、電極を取り外した後に頭髪や頭皮に残るペーストを除去しなければならないという問題もある。このため、ペーストレス型の電極が求められている。
【0004】
特に、近年その有用性が注目されているブレイン−マシン・インターフェイス(Brain-Machine Interface: BMI)又はブレイン−コンピュータ・インターフェイス(Brain-Computer Interface: BCI)に適した電極として、ペーストレス型の電極の開発が進められている。BMI(以下、特に断りのない限り、本明細書においてBMIはBCIを包含する概念を表す言葉として用いられる。)とは、脳の活動により生じる電気信号等を読み取り、これを直接コンピュータ等の電子機器に入力する形式のインターフェースである。これにより、コンピュータ等の電子機器をより直感的に操作することが可能になると期待されている。また、手足を使わなくてもコンピュータ等を操作することが可能になるため、福祉、医療、介護分野等への応用も期待されている。
【0005】
このようなインターフェースに用いられる電極は、従来の脳波測定に比べてより日常的に、かつ長時間にわたって連続的に使用されることが予想される。したがってこのようなインターフェースに用いられる電極は、装着や取り外しが容易であること、電極交換の手間がかからないように数日乃至数週間の長期にわたって連続的に装着可能であること、頭皮への負担が少ないものであることが通常の脳波測定用電極以上に強く求められている。装着時に導電性ペーストの充填を必要とせず、かつ、取り外し後に頭髪や頭皮に残るペーストを除去する必要のないペーストレス型の電極は、BMIに適した電極であると考えられている。
【0006】
このような技術的背景に基づき、近年様々なペーストレス型電極が考案されている。例を挙げると、金属製電極を直接頭皮に押し当てるもの(例えば特許文献1を参照)、電解質液を含む吸水性素材からなる電極を頭皮に押し当てるもの(例えば特許文献2,3を参照)、有機導電性部材からなる電極を頭皮に押し当てるもの(例えば特許文献4を参照)、導電性を有するゲルを頭皮に押し当てるもの(例えば特許文献5,6を参照)などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−94979号公報
【特許文献2】実開平6−34603号公報
【特許文献3】特開2007−312797号公報
【特許文献4】特開2006−68024号公報
【特許文献5】特開2002−177231号公報
【特許文献6】実開平5−48903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2,3に開示されている吸水性素材に電解質液を含ませたペーストレス型電極の場合、電解質液が吸水性素材から染み出して周囲に広がり、顔面等に垂れてくるという問題がある。さらには、頭皮表面で電解質液が広がり、近傍に配置された電極と短絡を起こす可能性がある。このため、吸水性素材に電解質液を含ませた電極は、導電性ペーストを使用する電極と比べて必ずしも取り扱いが容易であるとは言えない。取り扱いを容易にするために電解質液の量を減らすと、電極と頭皮との間の導通が十分に確保できないという問題がある。一方、特許文献4〜6に開示されているペーストレス型電極は、頭髪が電極と頭皮との間に挟まった場合の導通の確保について十分な考慮がされているとは言えない。
【0009】
特許文献1に開示されている金属製電極は、頭皮と接触する部分に複数の逆U字型金属部材を有している。この金属部材が頭髪の隙間を通じて頭皮と接触することにより、電極と頭皮との間の導通が確保されるよう工夫されている。しかし、この電極は頭皮と接触する部分が可撓性に乏しい金属材料で形成されているため、頭皮に対して適切な圧力で接触させることは難しい。例えば頭皮に対して鉛直方向の圧力が小さすぎる場合、接触が十分でなく導通不良の原因となる。これに対し圧力が大きすぎる場合、導通は確保されるものの、頭皮への負担が大きいという問題がある。
【0010】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、頭皮への負担が少なく、かつ頭髪の隙間を通じて頭皮と確実に接触し導通を確保できる脳波測定用電極、脳波測定用電極付きキャップ及び脳波測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点に係る脳波測定用電極は、
測定対象に当接して前記測定対象から電気信号を受け取るチップ部と、
前記チップ部から前記電気信号を受け取り信号処理装置へ伝達する信号伝達部と、
を備え、
前記チップ部の前記測定対象と当接する面には導電性と、可撓性又は伸縮性と、を有する突起が形成されている。
【0012】
前記脳波測定用電極は、
前記チップ部を前記チップ部と前記測定対象との接触面に対して垂直な回転軸を中心に回動可能に支持する支持部をさらに備え、
前記突起は導電性及び可撓性を有する高分子材料又は高分子組成物で形成されていてもよい。
【0013】
前記脳波測定用電極は、
前記チップ部を前記チップ部と前記測定対象との接触面に対して垂直方向に所定の圧力で押しつける押圧手段をさらに備えていてもよい。
【0014】
前記高分子組成物は導電性ゲルであることが好ましい。
【0015】
前記突起は複数形成されていることがさらに好ましい。
【0016】
前記突起は前記接触面と平行方向の径が1〜3mmであり、前記接触面と垂直方向の長さが1〜10mmであることが特に好ましい。
【0017】
また、本発明の第1の観点に係る脳波測定用電極は、
前記突起は導電性を有する金属材料で形成されており、
前記突起は弾性部材によって前記測定対象との接触面に対して垂直方向に付勢されることにより伸縮性を有するものとしてもよい。
【0018】
前記脳波測定用電極は、前記チップ部を支持する支持部をさらに備えることが好ましい。
【0019】
前記支持部は前記チップ部と前記測定対象との接触面に対して垂直な回転軸を中心に回動可能に支持することがさらに好ましい。
【0020】
前記突起の前記測定対象と接触する面には凹凸が形成されていることが好ましい。
【0021】
前記突起は複数形成されていることが好ましい。
【0022】
前記弾性部材は複数備えられており、複数の前記突起をそれぞれ独立して付勢することがさらに好ましい。
【0023】
前記突起は前記接触面と平行方向の径が1〜3mmであり、前記接触面と垂直方向の長さが1〜10mmである、
ことが特に好ましい。
【0024】
本発明の第2の観点に係る脳波測定用電極付きキャップは、
本発明の第1の観点に係る脳波測定用電極と、
人間の頭部に装着可能な形状を有し前記脳波測定用電極が挿入されるホルダ部を有するキャップ部と、
を備え、
前記ホルダ部は前記脳波測定用電極を固定して前記チップ部を前記頭部との接触面に対して垂直方向に所定の圧力で押しつける。
【0025】
本発明の第3の観点に係る脳波測定用電極付きキャップは、
測定対象に当接して前記測定対象から電気信号を受け取るチップ部と、前記チップ部から前記電気信号を受け取り信号処理装置へ伝達する信号伝達部と、前記チップ部が挿入される支持部と、を有し前記チップ部の前記測定対象と当接する面には導電性と、可撓性又は伸縮性と、を有する突起が形成されている脳波測定用電極と、
人間の頭部に装着可能な形状を有し前記脳波測定用電極が挿入されるホルダ部を有するキャップ部と、
を備え、
前記脳波測定用電極の前記支持部はその外周面に凹部又は凸部を有し、
前記ホルダ部は前記凹部又は前記凸部と噛み合うことによって前記脳波測定用電極を固定して前記チップ部を前記頭部との接触面に対して垂直方向に所定の圧力で押しつける。
【0026】
前記凹部又は凸部はねじ部であってもよい。
【0027】
前記支持部は、前記チップ部を前記頭部との接触面に対して垂直方向に所定の圧力で押しつける弾性部材をその内部に有していてもよい。
【0028】
本発明の第4の観点に係る脳波測定装置は、
本発明の第1の観点に係る脳波測定用電極を備えることを特徴とする。
【0029】
本発明の第5の観点に係る脳波測定装置は、
本発明の第2又は第3の観点に係る脳波測定用電極付きキャップを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、頭皮への負担が少なく、かつ頭髪の隙間を通じて頭皮と確実に接触して導通を確保できる脳波測定用電極、脳波測定用電極付きキャップ及び脳波測定装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係る脳波測定用電極付きキャップの使用状態を示す模式図である。
【図2A】本発明の第1実施形態に係る脳波測定用電極の縦断面図である。
【図2B】図2Aに示した脳波測定用電極を、突起が形成されている側から見た平面図である。
【図3】図1に示した脳波測定用電極付きキャップの電極部付近の拡大断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態の変形例に係る脳波測定用電極の蓋部の断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態の変形例に係る脳波測定用電極の断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る脳波測定用電極の蓋部の断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る脳波測定用電極がキャップ部に取り付けられた状態を示す断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る脳波測定用電極の蓋部の断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係る脳波測定用電極がキャップ部に取り付けられた状態を示す断面図である。
【図10A】本発明の第4実施形態に係る脳波測定用電極の蓋部の断面図である。
【図10B】本発明の第4実施形態に係る脳波測定用電極のチップ部の断面図である。
【図11】本発明の第4実施形態に係る脳波測定用電極の断面図である。
【図12A】本発明の第4実施形態に係る脳波測定用電極の使用例を説明するための図であって、チップ部がホルダ部に挿入された状態を示す図である。
【図12B】本発明の第4実施形態に係る脳波測定用電極の使用例を説明するための図であって、チップ部が蓋部によって頭部に押しつけられた状態を示す図である。
【図13】本発明の第4実施形態の変形例に係る脳波測定用電極がキャップ部に取り付けられた状態を示す断面図である。
【図14】本発明の第5実施形態に係る脳波測定用電極がキャップ部に取り付けられた状態を示す断面図である。
【図15】本発明の第1〜第5実施形態に係る脳波測定用電極のチップ部を作製するための鋳型の断面図である。
【図16A】本発明の第6実施形態に係る脳波測定用電極がキャップ部に取り付けられた状態を示す模式図である。
【図16B】図16Aに示す脳波測定用電極を、突起が形成されている側から見た平面図である。
【図17】図16Aに示す脳波測定用電極の突起部が頭部に接触している様子を説明するための模式図である。
【図18】図16Aに示す脳波測定用電極の内部構造を説明するための部分断面図である。
【図19】本発明の第7実施形態に係る脳波測定用電極がキャップ部に取り付けられた状態を示す模式図である。
【図20】第6実施形態の変形例に係る脳波測定用電極の構造を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳しく述べる。
【0033】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る脳波測定用電極100は、一般的には図1に示すように、キャップ部10に複数個が挿入されて用いられる。各脳波測定用電極100にはそれぞれリード線30が接続されている。脳波測定用電極100がBMIの入力デバイスとして用いられる場合、リード線30は操作対象であるコンピュータ等の電子機器(図示せず)に接続される。脳波測定用電極100が脳波測定に用いられる場合、リード線30は脳波測定用電極100を介して検出された電気信号を解析する信号解析装置(図示せず)に接続される。
【0034】
脳波測定用電極100は図2Aに示すように、導電性ゲルで形成されているチップ部60と、蓋部50と、金属線40と、を備える。チップ部60の下端には突起部65が形成されている。図2Bに示すように、チップ部60は7つの突起部65を有する。蓋部50は例えばエポキシ樹脂等の樹脂材料で形成されており、その外周面にはねじ山が形成されている。蓋部50の下面にはチップ部60を挿入可能な孔が形成されており、チップ部60はこの孔に挿入されている。金属線40は蓋部50の中心を貫通し、チップ部60のほぼ中心に挿入されてチップ部60と電気的に接続されている。チップ部60は蓋部50との間の摩擦力によって保持されており、蓋部50と摺動可能である。このため、チップ部60は金属線40をおおよその回転軸として蓋部50と独立して回転することができる。すなわち、蓋部50はチップ部60を回動可能に支持している。
【0035】
キャップ部10には図3に示すように、ホルダ部20が取り付けられている。ホルダ部20の内周面には、蓋部50の外周面に形成されているねじ山と螺合可能な溝が形成されている。脳波測定時において、脳波測定用電極100はホルダ部20にねじ込まれ、図1に示すように、測定対象である頭部400に押しつけられる。導電性ゲルで形成されているチップ部60は頭部400から発生する微弱な電気信号を検出し、リード線30を介して操作対象であるコンピュータ等の電子機器、又は信号解析装置へと伝達される。電子機器又は信号解析装置は、伝達された電気信号に対応して所定の動作を行う。
【0036】
頭部400の表面に頭髪がある場合、チップ部60と頭部400との間に頭髪が挟まると十分な導通が確保できず、頭部400から発生する微弱な電気信号を正確に検出できないおそれがある。ここで、脳波測定用電極100は、チップ部60の先端に複数の突起部65を有している。突起部65が頭髪の間に入り込むことにより、脳波測定用電極100と頭部400との間の導通が確保される。このため、脳波測定用電極100は頭部400からの微弱な電気信号を正確に検出することができる。
【0037】
また、頭部400の表面に頭髪がある場合、脳波測定用電極100がホルダ部20にねじ込まれる際にチップ部60の先端に頭髪が巻き付き、頭髪を引っ張って被験者に痛みや不快感を与えるおそれもある。ここで、チップ部60の先端に形成されている突起部65は導電性ゲルで形成されており、可撓性を有する。このため、頭髪が巻き付いても頭髪を強く引っ張ることがなく、被験者に痛みや不快感を与えるおそれが小さい。さらに、突起部65は可撓性を有するため、圧力がかけられると頭部400の曲面に対応して変形し、頭部400との間に十分な接触面積を確保することができる。この結果、チップ部60と頭部400との間の電気抵抗を小さくすることができ、頭部400からの微弱な電気信号をより確実に検出することができる。
【0038】
さらに、脳波測定用電極100のチップ部60は、蓋部50と摺動可能であり、蓋部50とは独立して回転することができる。このため、仮に突起部65に頭髪が巻き付いた状態で蓋部50を回転させても、チップ部60に加わる力がある一定値を超えるとチップ部60はそれ以上回転することがなく、蓋部50のみが独立して回転する。このようにチップ部60が頭髪を強く引っ張ることがないため、被験者に痛みや不快感を与えるおそれが極めて小さい。
【0039】
本実施形態においては、蓋部50の代わりに図4に示すような蓋部51を用いてもよい。蓋部50との違いは、図4に示すように、チップ部60が挿入される部分の内周面に凸部84を有する点である。凸部84は蓋部51の内周面を一周するよう、リング状に形成されている。蓋部51の孔に導電性ゲルからなるチップ部60が挿入されると、図5に示すように、チップ部60は凸部84に圧迫されてわずかに変形する。この結果、チップ部60の不慮の脱落を防ぎ、脳波測定用電極の取り扱いをさらに容易にすることができる。なお、先に述べたように凸部84は蓋部51の内周面を一周するようリング状に形成されているため、チップ部60が水平方向に回転することを妨げない。
【0040】
本実施形態において、ホルダ部20又は蓋部50の少なくともどちらか一方を柔軟性を有するものとしてもよい。例えば、蓋部50がエポキシ樹脂等の硬質樹脂で形成されており、ホルダ部20が柔軟性を有する素材で形成されている場合、脳波測定用電極100を回転させずに押し込むことによってホルダ部20は変形し、径方向に広げられる。脳波測定用電極100がある位置まで押し込まれたところで、次に蓋部50を回転させる。すると蓋部50のねじ山とホルダ部20に形成されているねじ山とが螺合し、以降は蓋部50を回転させることによってチップ部60が押し込まれる深さや測定対象に加える圧力を微調整することが可能となる。これとは逆に、ホルダ部20は硬質樹脂や金属等で形成されており、蓋部50は柔軟性を有する素材で形成されていてもよい。ただし、柔軟な導電性ゲルからなるチップ部60を確実に支持するためには、蓋部50は硬質樹脂等で形成され、ホルダ部20が柔軟性を有する素材で形成されている方が好ましい。なお、これは蓋部50の代わりに、後述する第2実施形態において用いられる、図6に示す蓋部52が用いられる場合においても同様である。蓋部52が用いられる場合、例えば図7に示すホルダ部21を柔軟性を有する素材で形成することによって、脳波測定用電極120の脱着をより容易に行うことができる。
【0041】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る脳波測定用電極120について図6及び図7を参照しながら説明する。脳波測定用電極120に用いられるチップ部60は、第1実施形態に係る脳波測定用電極100のチップ部60と同じである。脳波測定電極100との違いは、蓋部50の代わりに、図6に示すように外周面に凸部85を有する蓋部52が用いられる点である。
【0042】
脳波測定用電極120は、例えば図7に示すように、内周面に複数の凹部80が形成されているホルダ部21と組み合わせて用いられる。複数の凹部80は、それぞれホルダ部21の内周面を一周するようにリング状に形成されている。脳波測定用電極120がホルダ部21に挿入されると、凸部85が凹部80と噛み合うことにより脳波測定用電極120が固定される。このようにしてチップ部60が測定対象に対して押しつけられ、チップ部60と測定対象との間の導通が確保される。なお、凹部80の形状は限定されないが、リング状に形成されているものは、脳波測定用電極120を挿入する際に凸部85と凹部80との位置合わせを行う必要がないため特に好ましい。なお、測定対象が頭部であって、万一突起部65と頭皮との間に頭髪が入り込んで十分な導通が確保されないような場合、凹部80はリング状に形成されているため、脳波測定用電極120をホルダ部21に挿入し、固定した後で左右に回転させてもよい。このようにすることで、可撓性を有する突起部65は頭皮に押しつけられて変形しながら頭髪を掻き分けてその間に入り込む。この結果、導通を確保することができる。突起部65は導電性ゲルで形成されているため、この場合も被験者に痛みや不快感を与えるおそれは小さい。
【0043】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る脳波測定用電極130について、図8及び図9を参照しながら説明する。脳波測定用電極130に用いられるチップ部60は、第2実施形態に係る脳波測定用電極120のチップ部60と同じである。脳波測定用電極120との違いは、図8に示すように、蓋部53が外筒53aと内筒53bとを有する二重構造になっており、その内部にばね90が配置されている点である。
【0044】
蓋部53の外周面には、図6に示す蓋部52と同様、凸部85が形成されている。図9に示すように、脳波測定用電極130がホルダ部21に押し込まれると、凸部85がホルダ部21の内周面に形成されている凹部80と噛み合うことにより外筒53aが固定される。
【0045】
ここで脳波測定用電極130は、図9に示すように、蓋部53の内部にばね90を備える。ばね90はホルダ部21に固定された外筒53aによって圧縮され、その反発力によって内筒53bを介してチップ部60を測定対象に押しつける。適切な硬さのばね90を選択することにより、チップ部60をより適切な圧力で測定対象に押しつけることが出来る。
【0046】
なお、本実施形態においては外筒53aの外周面に、凸部85の代わりに蓋部50と同様のねじ山が形成されていてもよい。この場合、ホルダ部としては図3に示すような溝が形成されたホルダ部20が用いられる。
【0047】
(第4実施形態)
ここまで、第1〜第3実施形態及びその変形例として蓋部の下面にチップ部60を挿入するための孔が形成されている例を示したが、蓋部の形状はこれに限定されない。次に、本発明の第4実施形態に係る脳波測定用電極140について、図10A〜図12Bを参照しながら説明する。脳波測定用電極140の蓋部54は、図10Aに示すように、チップ部60と接する面が平坦に形成されている。金属線40の先端は蓋部54の下面に露出している。蓋部54の下面と図10Bに示すチップ部60の上面とが接触することによって、金属線40とチップ部60との間の導通が確保される。なおこのような蓋部54が用いられる場合、図11に示すように、蓋部54の下面に導電性グリース70が塗布されることが好ましい。導電性グリース70は、例えば銀粒子等を含有するペースト状の導電性材料である。これにより、チップ部60と金属線40との接触抵抗を小さくすることができる。
【0048】
このような脳波測定用電極140は、あらかじめ図11に示すような形として用いてもよいし、あるいは次のようにして用いることもできる。まず、測定対象である頭部400にホルダ部20が取り付けられているキャップが装着される。次に、図12Aに示すように、ホルダ部20内にチップ部60が挿入される。続いて図12Bに示すように、導電性グリース70が塗布されている蓋部54がホルダ部20内にねじ込まれる。蓋部54はチップ部60をチップ部60と頭部400との接触面に対して垂直方向に押しつける。この結果、金属線40とチップ部60、及びチップ部60と頭部400との間の導通がそれぞれ確保される。この場合、チップ部60は蓋部54の下面によって支持されていると共に、ホルダ部20によっても支持されている。
【0049】
チップ部60はホルダ部20内に挿入可能な大きさであり、さらに蓋部54と完全には固着されていない。したがって、チップ部60は蓋部54とは独立して回転可能である。例えば、チップ部60に頭皮が接触した状態、又は頭髪が巻き付いた状態で蓋部54を回転させると、チップ部60にかかる力がチップ部60と蓋部54との間の静止摩擦力を超えた時点で、蓋部54はチップ部60とは独立して回転し始める。このため、これまでに示した各実施形態に係る脳波測定用電極と同様、本実施形態に係る脳波測定用電極も頭髪を巻き込んで被験者に痛みや不快感を与えるおそれが小さい。本実施形態において導電性グリース70の使用は必須ではないが、導通を確保するためには使用することが好ましい。この際、チップ部60と頭部400との間に導電性グリース70を塗布する必要はないため、頭髪や頭皮に導電性グリース70が付着するおそれはない。
【0050】
これまでの各実施形態では金属線40が蓋部に差し込まれている例を示したが、金属線40が接続される位置はこれに限定されない。蓋部がステンレス等の導電性材料により形成されており、その表面に金属線40が接続されていてもよい。または、例えば図13に示すように、ホルダ部20に金属線40が接続されていてもよい。図13において、ホルダ部20は例えばステンレス等の導電性材料から形成されている。ホルダ部20の内周面には、ほぼ全面に導電性グリース70が塗布されている。チップ部60により検出された電気信号は、ホルダ部20を介して金属線40へと伝達される。金属線40は伝達された電気信号を信号解析装置(図示せず)へと伝達する。チップ部60と蓋部55とは互いに独立して回転可能である点、チップ部60と頭部400との間には導電性グリース70は塗布されないため頭髪や頭皮に付着するおそれがない点は、先に述べた脳波測定用電極140と同様である。なおこの場合、異なる種類の金属がチップ部60に接触すると酸化還元反応により金属イオンの溶出や導電性ゲルの着色を招くおそれがある。これらの現象は脳波測定をただちに不可能とするものではないが、脳波測定用電極やホルダ部20の劣化の原因ともなるため、導電性グリース70はホルダ部20の内周面全面に塗布されており、ステンレス部が露出していないことが好ましい。あるいは、導電性グリース70を使用せず、ホルダ部20とチップ部60とを直接接触させて導通を確保してもよい。
【0051】
(第5実施形態)
第1〜第4実施形態及びその変形例ではチップ部60が蓋部との摩擦力によって回動可能に支持されている例を示したが、チップ部60を回動可能に支持する方法はこれに限定されない。例えば、図14に示す脳波測定用電極150のように、蓋下部55bとチップ部60とが固定されており、蓋上部55aと蓋下部55bとが例えばベアリング部56を介して結合されていることにより、チップ部60を蓋上部55aと独立して回転可能に支持していてもよい。本実施形態においても、蓋部55がホルダ部20にねじ込まれる際、蓋上部55aと蓋下部55bとは独立して回転可能であるためチップ部60が頭髪を巻き込むことがなく、被験者に痛みや不快感を与えるおそれが小さい。
【0052】
なお、本実施形態においては、蓋下部55bはステンレス等の導電性材料で形成されていることが好ましく、少なくとも蓋下部55bとホルダ部20との間には導電性グリース70等が充填されていることが好ましく、蓋上部55aは例えば樹脂等の非導電性材料で形成されていることが好ましい。このような構成とすることによって、チップ部60を介して伝達された電気信号を信号処理装置に効率よく伝達することができる。導電性グリース70はホルダ部20の内周面全面に塗布されている方が好ましい点は、先の変形例と同様である。
【0053】
蓋上部55aと蓋下部55bとを互いに独立して回転可能に構成する手段は、ベアリング部56に限られない。例えば、蓋上部55aと蓋下部55bとの間にグリース、オイル等が塗布されていてもよい。または、例えば平滑な表面を有するフッ素樹脂シート又はフッ素樹脂皮膜のように、摩擦係数の小さい部材が蓋上部55aと蓋下部55bとの間に配置されていてもよい。
【0054】
ここまで、本発明に係る脳波測定用電極のうち、チップ部60全体が導電性ゲルで形成されている実施形態について図面を参照しながら詳細に述べたが、突起部65が導電性と、可撓性又は伸縮性と、を有していればよい。例えば、突起部65のみが導電性ゲルで形成されていても差し支えない。
【0055】
導電性ゲルとしては、親水性ゲル、親油性ゲルのどちらであっても用いることができる。親水性ゲルの例としては、導電性を付与するための各種無機イオンと、ポリビニルアルコールや多糖類等の親水性ポリマーと、水又は各種親水性溶媒とを混合し、固化させたものが挙げられる。このうち親水性溶媒としては、例えばエチレングリコール、グリセリン、若しくはプロピレングリコールなどの多価アルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド又はソルビトールなどが挙げられる。一方、親油性ゲルの例としては、各種イオン性液体を内包するポリビニルクロライドや、各種有機イオン又は各種イオノフォアと親油性溶媒とを内包するポリマーなどが挙げられる。
【0056】
さらに、導電性ゲルの代わりに、導電性と可撓性とを有する他の高分子材料又は高分子組成物が用いられてもよい。このような高分子材料又は高分子組成物の例として、例えば金属粉や導電性カーボンが配合された導電性ゴム、ポリピロールやポリアニリン等の有機導電性物質等が挙げられる。
【0057】
(第6実施形態)
次に、本発明に係る脳波測定用電極のうち、測定対象と接触する部分が金属材料で形成されている脳波測定用電極の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。脳波測定用電極160は、図16Aに示すように、チップ部62と、支持部57と、金属線40と、を備える。チップ部62と支持部57とは固定されている。チップ部62の下端には突起部67が形成されている。図16Bに示すように、脳波測定用電極160は7つの突起部67を有する。
【0058】
突起部67は、例えば白金で形成され、金属線40と電気的に接続されている。図17に示すように、突起部67の頭部400と接触する面には微小な凹凸が形成されている。この凹凸は、例えばサンドブラスト加工等の公知の方法により形成される。突起部67は直径が約1.3mmであり、長さが約6mmである。
【0059】
支持部57は例えばエポキシ樹脂等の樹脂材料で形成されている。支持部57の外周面には、図16Aに示すように、凸部86が形成されている。凸部86は図16Aに示すように、支持部57が脳波測定用キャップのホルダ部21に押し込まれた際に、ホルダ部21の内周面に形成された凹部80と噛み合って支持部57を固定し、突起部67を測定対象に押しつける役割を果たす。なお、このホルダ部21の構造や材質は、第2実施形態において説明したホルダ部21と同一である。
【0060】
図18に示すように、チップ部62はその内部に複数のばね92を備える。ばね92は複数の突起部67に対してそれぞれ独立に備えられている。ばね92は、突起部67が測定対象である頭部(図示せず)に押しつけられた際、頭皮に対して所定の圧力で各突起部67を押しつけるよう、各突起部67を付勢する。圧力は測定対象や測定の目的に応じて任意に選択されるが、圧力が低すぎる場合は十分な導通が確保できず、高すぎる場合は頭皮への負担が増大する。圧力は1〜100N/cmが好ましく、10〜80N/cmがさらに好ましく、20〜50N/cmが特に好ましい。
【0061】
突起部67は頭髪の間に入り込むため、頭皮と確実に接触することができる。さらに突起部67はそれぞればね92によって付勢されているため、頭部の形状に合わせてそれぞれ独立に動き、所定の圧力で頭皮と接触する。このため、脳波測定用電極160は頭部との導通を確保し、微弱な電気信号を正確に検出することができる。検出された電気信号は、金属線40を通じて電子機器や信号解析装置へと伝達される。本実施形態では、ばね92によって頭皮に与える圧力を調整することができるため、頭皮と電極との間の導通を確保しつつ、頭皮への負担を軽減することができる。なお、本実施形態では直径が約1.3mmで長さが約6mmの突起部を例示したが、大きさはこれに限定されない。直径は太すぎると突起部の先端と頭皮との間に頭髪が挟まるので好ましくない。一方、細すぎると頭皮に局所的に力が加わり頭皮への負担が増大する、頭皮との接触面積が減り接触インピーダンスが増大する、等の問題がある。突起部の直径は1〜3mm程度が好ましい。長さは頭髪の量等にも依存するため特に限定されないが、あまり長いと強度上問題があるため、電極の直径を越えないことが好ましい。
【0062】
ペーストレス型電極において、頭皮と接触する部分が白金等の金属材料で形成されている場合、先の実施形態において示した導電性ゲルからなる突起部と比べて頭皮との間の接触抵抗が大きくなる場合がある。頭部から発生する電気信号は微弱であるため、頭皮との接触抵抗が大きいと、得られる信号のS/N比が悪化したり、外部からのノイズの影響を受けやすくなったりするという問題がある。
【0063】
ここで、先に述べたように、脳波測定用電極160の突起部67の測定対象と接触する面には微小な凹凸が形成されている。この突起部67が頭部400に押しつけられると、図17に示すように、頭皮からの汗500等の分泌物が突起部67の凹凸の内部に入り込む。汗500は導電性を有するため、突起部67と頭部400との接触面積を増大させ、接触抵抗を減少させる。この結果、脳波測定用電極160はペーストレスでも頭部400からの微弱な電気信号を正確に検出することができる。なお、本実施形態では微小な凹凸をサンドブラスト等で形成する例を示したが、凹凸の形成方法はこれに限られず、公知の手段を用いることができる。例えば、研磨剤や研磨器具による表面研磨、電析による金属微粒子の形成、薬品や電解処理によるエッチング加工などを用いることができる。
【0064】
検出された電気信号は、先に説明した各実施形態と同様、金属線40に接続されたリード線(図示せず)を介して操作対象であるコンピュータ等の電子機器、又は信号解析装置へと伝達される。電子機器又は信号解析装置は、伝達された電気信号に対応して所定の動作を行う。このようにして、BMIを利用した電子機器の操作や、信号解析装置による脳波の測定・解析が可能となる。
【0065】
(第7実施形態)
次に、第7実施形態に係る脳波測定用電極170について図19を参照しながら説明する。脳波測定用電極170は、図14に示した第5実施形態に係る脳波測定用電極150と同様の構成を有する。具体的には、図19に示すように、チップ部62が蓋下部55bに固定されており、蓋上部55aと蓋下部55bとは例えばベアリング部56を介して結合されている。この結果、チップ部62は蓋上部55aと独立して回転可能に支持されている。
【0066】
本実施形態においては、蓋部55がホルダ部20にねじ込まれる際、蓋上部55aと蓋下部55bとが独立して回転可能であるため、チップ部62に形成されている突起部67が頭髪を巻き込むことがない。このため、脳波測定用電極170は装着時に被験者に痛みや不快感を与えるおそれが小さい。
【0067】
本実施形態においては、蓋下部55bはステンレス等の導電性材料で形成されていることが好ましく、少なくとも蓋下部55bとホルダ部20との間には導電性グリース70等が充填されていることが好ましい。一方、蓋上部55aは例えば樹脂等の非導電性材料で形成されていることが好ましい。このような構成とすることによって、チップ部62を介して伝達された電気信号を信号処理装置に効率よく伝達することができる。
【0068】
蓋上部55aと蓋下部55bとを互いに独立して回転可能に構成する手段として、ここでは、ベアリング部56を例示したが、これに限定されない。例えば、蓋上部55aと蓋下部55bとの間にグリース、オイル等が塗布されていてもよい。または、例えば平滑な表面を有するフッ素樹脂シート又はフッ素樹脂皮膜のように、摩擦係数の小さい部材が蓋上部55aと蓋下部55bとの間に配置されていてもよい。
【0069】
以上、本発明に係る脳波測定用電極のうち、測定対象と接触する部分が金属材料で形成されている脳波測定用電極の実施形態について図面を示しながら詳細に説明したが、本発明の範囲はこれに限定されない。
【0070】
第6実施形態及び第7実施形態では突起部67が白金で形成されている例を示したが、良好な導電性を有する金属材料であればよく、特に限定されない。例えば白金、イリジウム、ロジウム、金、銀等の貴金属の他、白金イリジウムなどの貴金属合金、ステンレス、チタン等のその他の導電性の金属や合金等を用いることもできる。この中では、酸化しにくく、金属アレルギー等の原因にもなりにくい白金、金が好ましい。中でも、白金は金よりも硬度が高く、多数回の使用に耐えるため最も好ましい。
【0071】
突起部は、複数の材料を組み合わせて形成されてもよい。例えば、突起部67の心材を別の金属材料で形成しておき、後にその先端を化学めっき、電解めっき、スパッタリング、真空蒸着等の公知の手法により白金や金の皮膜で覆うようにしてもよい。または、ペースト状の有機金属化合物を表面に塗布し、焼成して有機物を除くことによって金属皮膜を形成することもできる。この場合、表面をサンドブラスト等により粗面化した心材を金属皮膜で覆ってもよく、又は金属粒子を焼結した多孔質の金属材料を心材に用い、その表面を白金や金の皮膜で覆うようにしてもよい。
【0072】
または、金属皮膜を形成する代わりに、突起部の先端に金や白金等を取り付けてもよい。具体的には、真鍮等の一般的な導電性材料で形成された突起部の先端に、金又は白金をスポットウェルディング法により取り付けて用いる方法が挙げられる。この場合、取り付けられた金や白金を前述の手法により粗面化してもよく、又は金又は白金の微粒子の焼結体をスポットウェルディング法によって取り付けてもよい。いずれの場合においても、突起部67は測定対象との接触面に微小な凹凸を有することが好ましい。
【0073】
第6実施形態及び第7実施形態ではチップ部62が支持部57に直接固定されている例を示したが、支持部57はその内部にさらに弾性部材を備えていてもよい。具体的には、図20に示す脳波測定用電極180のように、支持部としての蓋部53の内部にチップ部62を付勢するためのばね90を備えていてもよい。この場合、チップ部62と蓋部53とは摺動可能に構成されている。蓋部53は、エポキシ樹脂やフッ素樹脂等で形成されている。蓋部53がキャップ部に装着されると、ばね90がチップ部62を付勢して測定対象に所定の圧力で押しつける。ばね90と、各突起部67に備えられているばね92(図20では省略されている)と、が突起部67と測定対象との間の圧力を好ましい範囲に保つ。この結果、脳波測定用電極180は測定対象である頭皮に過度の負担を与えることなく、頭皮との間の導通を確保することができる。
【0074】
第1〜第7実施形態においては発明の理解を容易にするために突起部が7つである例を示したが、突起部の数はこれに限定されず、1つであっても、複数であってもよい。ただし、頭皮との接触面積を確保し、さらに頭皮への負担を軽減するためには、突起部は複数形成されていることが好ましい。突起部の数は例えば1〜20が好ましく、5〜10が特に好ましい。
【0075】
また、本発明に係る脳波測定用電極はいずれも、検出した電気信号を増幅するための増幅回路や、検出した電気信号に対する外部ノイズの影響を除くためのバッファ回路等をさらに備えていてもよい。増幅回路やバッファ回路を備えることで、外部からのノイズの影響を受けにくくすることができる。
【実施例1】
【0076】
本発明に係る脳波測定用電極及び脳波測定用電極付きキャップについて、実施例を示しながらさらに詳細に説明する。実施例1では、図2Aに示した第1実施形態に係る脳波測定用電極100と同様の形状を有する脳波測定用電極及びこれを備える脳波測定用電極付きキャップを作製した。まず、市販の頭部保護用キャップに、直径16mmの円形孔を数カ所形成した。この円形孔に市販のステンレス製雌ねじ(直径16mm)をシリコン系接着剤を用いて取り付けた。この雌ねじは、実施形態におけるホルダ部として機能するものである。
【0077】
蓋部は、所定の形状の鋳型にエポキシ系常温硬化樹脂テクノビット(登録商標)4004を流し込み、硬化させることにより作製した。このとき、直径0.5mm、長さ20mmの銀線を中心に差し込み、両端が蓋部の外に出る形で硬化させた。この際、銀線のうち電極チップに挿入される長さは約5mmとなるよう位置を調整した。硬化後、成形物を取り出した。蓋上部から露出している銀線にリード線をはんだ付けした。
【0078】
電極チップは図15に示す鋳型300を用いて作製した。鋳型300は上鋳型310と下鋳型320とから構成されている。上鋳型310と下鋳型320とは分離可能である。本実施例においては、鋳型300として、上部の高さが5mm、円筒形貫通孔の内径が16mm、下部には内径1.5mm、深さ5mmの円筒形の孔が7箇所形成されているものを用いた。ここに、ポリビニルアルコール6.5%、塩化カリウム9.7%、プロピレングリコール41.9%及び水41.9%(いずれも重量基準)で混合し、約90℃に加熱して均一にしたものを流し込んだ。これを冷却して固化させた後、鋳型の上下を分離して取り出し、電極チップを得た。これを蓋部に挿入することにより、本発明に係る脳波測定用電極が得られた。なおこの際、電極チップを消毒用アルコールで湿らせることにより、電極チップを消毒するとともに蓋部への挿入を容易にすることができた。
【実施例2】
【0079】
次に、実施例2に係る脳波測定用電極付きキャップの作製について詳細に説明する。実施例2では、図11に示した第4実施形態に係る脳波測定用電極140と同様の構造を有する脳波測定用電極及びこれを備えるキャップを作製した。キャップ部、電極チップ部は、それぞれ実施例1と同様の手順により作製した。
【0080】
蓋部は、所定の形状の鋳型にエポキシ系常温硬化樹脂テクノビット(登録商標)4004を流し込み、硬化させることにより作製した。このとき、直径0.5mm、長さ20mmの銀線を中心に差し込み、一端が蓋部の上面から外に出る形で硬化させた。硬化後、成形物を取り出した。蓋部下面を紙ヤスリにより研磨し、銀線の端部を露出させた。一方で、蓋上部から露出している銀線の端部にリード線をはんだ付けした。蓋部下面に銀の微粒子を含む導電性グリースを適量塗布し、ここに導電性ゲルで形成された電極チップ部を貼り付けることによって、本発明に係る脳波測定用電極が得られた。
【実施例3】
【0081】
次に、実施例3に係る脳波測定用電極付きキャップの作製について詳細に説明する。実施例3では、図16Aに示した第6実施形態に係る脳波測定用電極160と同様の構造を有する脳波測定用電極及びこれを備えるキャップを作製した。突起部としては、心材の表面にサンドブラスト加工によって凹凸を形成した後、金めっきを施した物にばねを装着して用いた。この突起部を組み込んだチップ部を支持部に固定し、図16Aに示すような構造を得た。なお、比較のために、サンドブラスト加工を行わず金めっきを施したものを突起部として用いた電極も作製した。
【0082】
(脳波測定)
上記の方法により作製されたキャップ、蓋部及び電極チップを用いて脳波測定を以下の手順により実施した。まず被験者にキャップを被せた。次にキャップに取り付けられている各電極ホルダの貫通孔に、実施例1において作製した脳波測定用電極をそれぞれ突起が頭部を向くように挿入した。なお、電極チップは使用する直前に消毒用エタノールにより消毒して用いた。蓋部を回転させながら電極ホルダにねじ込み、所定の位置で固定した。電極ホルダに電極をねじ込む際、最初は蓋部の回転に伴い電極チップも回転したが、電極チップの先端の突起が頭髪又は頭皮と接触すると、以降は電極チップは回転せず、蓋部のみが独立して回転することによって電極チップを頭皮に対して垂直方向に押圧した。このため、電極チップやその突起部が被験者の頭髪を巻き込むことはなかった。この際、被験者に装着感を確認したが、痛みや不快感を訴える被験者はいなかった。本発明に係る脳波測定用電極が、頭髪を巻き込んだり、頭皮に対して過度の圧力を加えたりして被験者に痛みや不快感を与えるおそれは小さいことが確認された。
【0083】
電極チップが所定の位置と圧力で固定された後、蓋部に接続されているリード線を市販の脳波計測器(g.tec社製)に接続し、2電極間のインピーダンスを測定した。測定値はいずれも15kΩ以下であり、BMIに十分な程度の導通が確保されていることが確認された。実施例2、実施例3において作製した脳波測定用電極についても同様に測定を行い、こちらも測定値が15kΩ以下であることが確認された。これに対し、比較のために作製した電極(前述の通り、真鍮の突起の先端をサンドブラスト加工せずに金メッキ加工をしたもの)では装着後約10秒程度で測定値が40〜50kΩ程度まで低下したものの、その後は測定値の大きな低下は見られなかった。このように、本発明に係る脳波測定用電極及び脳波測定用電極付きキャップによれば、頭皮に対して過度の圧力を加えることなく、頭髪の間を通して頭皮に確実に接触し導通を確保できることが確認された。
【0084】
以上、実施の形態及び実施例を挙げて本発明について詳細に説明したが、本発明の範囲は上記の実施の形態に限定されるものではないことは言うまでも無い。当業者により為される改良、置換、組み合わせ等は、本発明の要旨を超えない限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0085】
10 キャップ部
20,21 ホルダ部
30 リード線
40 金属線(銀線)
50,51,52,53,54,55,57 蓋部(支持部)
53a 外筒
53b 内筒
55a 蓋上部
55b 蓋下部
56 ベアリング部
60 チップ部(導電性ゲル)
62 チップ部(金属材料)
65 突起部(導電性ゲル)
67 突起部(金属材料)
70 導電性グリース
80 凹部
84,85,86 凸部
90,92 ばね(弾性部材)
100,110,120,130,140,150,160,170,180 脳波測定用電極
200 脳波測定用電極付きキャップ
300 鋳型
310 上鋳型
320 下鋳型
400 頭部
500 汗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象に当接して前記測定対象から電気信号を受け取るチップ部と、
前記チップ部から前記電気信号を受け取り信号処理装置へ伝達する信号伝達部と、
を備え、
前記チップ部の前記測定対象と当接する面には導電性と、可撓性又は伸縮性と、を有する突起が形成されている、
脳波測定用電極。
【請求項2】
前記チップ部を前記チップ部と前記測定対象との接触面に対して垂直な回転軸を中心に回動可能に支持する支持部をさらに備え、
前記突起は導電性及び可撓性を有する高分子材料又は高分子組成物で形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の脳波測定用電極。
【請求項3】
前記チップ部を前記チップ部と前記測定対象との接触面に対して垂直方向に所定の圧力で押しつける押圧手段をさらに備える、
ことを特徴とする請求項2に記載の脳波測定用電極。
【請求項4】
前記高分子組成物は導電性ゲルである、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の脳波測定用電極。
【請求項5】
前記突起は複数形成されている、
ことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の脳波測定用電極。
【請求項6】
前記突起は前記接触面と平行方向の径が1〜3mmであり、前記接触面と垂直方向の長さが1〜10mmである、
ことを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載の脳波測定用電極。
【請求項7】
前記突起は導電性を有する金属材料で形成されており、
前記突起は弾性部材によって前記測定対象との接触面に対して垂直方向に付勢されることにより伸縮性を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の脳波測定用電極。
【請求項8】
前記チップ部を支持する支持部をさらに備える、
ことを特徴とする請求項7に記載の脳波測定用電極。
【請求項9】
前記支持部は前記チップ部と前記測定対象との接触面に対して垂直な回転軸を中心に回動可能に支持する、
ことを特徴とする請求項8に記載の脳波測定用電極。
【請求項10】
前記突起の前記測定対象と接触する面には凹凸が形成されている、
ことを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の脳波測定用電極。
【請求項11】
前記突起は複数形成されている、
ことを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項に記載の脳波測定用電極。
【請求項12】
前記弾性部材は複数備えられており、複数の前記突起をそれぞれ独立して付勢する、
ことを特徴とする請求項11に記載の脳波測定用電極。
【請求項13】
前記突起は前記接触面と平行方向の径が1〜3mmであり、前記接触面と垂直方向の長さが1〜10mmである、
ことを特徴とする請求項7乃至12のいずれか1項に記載の脳波測定用電極。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載の脳波測定用電極と、
人間の頭部に装着可能な形状を有し前記脳波測定用電極が挿入されるホルダ部を有するキャップ部と、
を備え、
前記ホルダ部は前記脳波測定用電極を固定して前記チップ部を前記頭部との接触面に対して垂直方向に所定の圧力で押しつける、
ことを特徴とする脳波測定用電極付きキャップ。
【請求項15】
請求項2乃至6及び8乃至13のいずれか1項に記載の脳波測定用電極と、
人間の頭部に装着可能な形状を有し前記脳波測定用電極が挿入されるホルダ部を有するキャップ部と、
を備え、
前記脳波測定用電極の前記支持部はその外周面に凹部又は凸部を有し、
前記ホルダ部は前記凹部又は前記凸部と噛み合うことによって前記脳波測定用電極を固定して前記チップ部を前記頭部との接触面に対して垂直方向に所定の圧力で押しつける、
ことを特徴とする脳波測定用電極付きキャップ。
【請求項16】
前記凹部又は凸部はねじ部である、
ことを特徴とする請求項15に記載の脳波測定用電極付きキャップ。
【請求項17】
前記支持部は、前記チップ部を前記頭部との接触面に対して垂直方向に所定の圧力で押しつける弾性部材をその内部に有する、
ことを特徴とする請求項15又は16に記載の脳波測定用電極付きキャップ。
【請求項18】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載の脳波測定用電極を備える、
ことを特徴とする脳波測定装置。
【請求項19】
請求項14乃至17のいずれか1項に記載の脳波測定用電極付きキャップを備える、
ことを特徴とする脳波測定装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−120866(P2011−120866A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119930(P2010−119930)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)