説明

脳血管れん縮の予防用薬物送達システム

本発明は、血管れん縮の治療及び予防に関する。本発明は、ヒトの脳血管れん縮を治療するためのシステムを提供する。このシステムは、医薬組成物を利用し、治療的に有効な量の医薬組成物をくも膜下腔内の脳動脈に極めて接近した所定位置に投与すると、そこで医薬組成物が局所的薬理効果をもたらし、それによって脳血管れん縮を治療する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの脳動脈を標的にして、脳血管れん縮、及び/又は他の状況、例えば頭部損傷、アテローム性動脈硬化症、若しくは血管形成術及びステント留置術後の狭窄のための少なくとも1つの脳動脈の収縮の発症を予防し、かつ/又はその重症度を軽減する化合物の送達システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト脳は、全体重のたった約2%しか構成していないが、ヒト脳は心拍出量の約15%を受け、その酸素消費量は体全体の消費量の約20%である。これらの値は、脳の高い代謝率と酸素要求を示唆している。これらの必要性は、単位脳重量当たり、対応して高率の血流量によって満たされている。脳循環は、内頚動脈及び椎骨動脈によって供給される。脳への総血流量は約750〜1000ml/分であり;この量の約350mlが各内頚動脈を通って流れ、約100〜200mlが椎骨脳底動脈系を通って流れる。静脈流出量は、内頚静脈及び椎骨静脈によって排出される。
【0003】
本明細書で使用する用語「脳卒中」又は「脳血管発作」は、血管に関係する疾患から生じる、普通は限局的及び急性の神経学的症状及び徴候を意味する。脳卒中は、閉塞性(血管の閉鎖のため)又は出血性(血管からの出血のため)のいずれかである。本明細書で使用する用語「虚血」は、血液供給の不全を意味する。虚血が十分に重症かつ長引く場合、ニューロン及び他の細胞要素が死に、この状態を「梗塞」と称する。
【0004】
出血は、脳表面(実質外)で、例えばウィリス動脈輪における先天性動脈瘤の破裂から起こって、くも膜下出血(SAH)を引き起こしうる。出血は、例えば長期にわたる高血圧によって損傷した血管の破裂から実質内で起こることもあり、大脳半球内、脳幹内、又は小脳内で血液凝固(脳内血腫)を生じさせうる。出血は虚血又は梗塞を伴うことがある。脳内血腫の腫瘤効果が隣接脳組織の血液供給を危うくすることがあり;或いはくも膜下出血が脳表面血管の反応性血管れん縮を引き起こすことがあり、さらなる虚血性脳損傷につながる。梗塞組織が二次的に出血性になることもある。動脈瘤が脳内へ破裂して脳内血腫を生じさせることもあり、また、脳室内へ破裂して脳室内出血を引き起こすこともある。
【0005】
ほとんどの閉塞性脳卒中はアテローム性動脈硬化症及び血栓症が原因であり、ほとんどの出血性脳卒中は高血圧又は動脈瘤と関連するが、いずれのタイプの脳卒中も、心疾患、外傷、感染、新生物、血液疾患、血管奇形、免疫障害、及び外因性毒素などの多くの原因からいずれの年齢でも起こりうる。
【0006】
〔脳動脈〕
図1は、脳の血管の概略図である。各大脳半球は内頚動脈によって供給され、顎の角下の共通の頚動脈から生じ、頚動脈の形成を通じて頭蓋に入り、海綿静脈洞(vacernosus sinus)(眼動脈を発している)を横断し、硬膜に浸透し、前大脳動脈と中大脳動脈に分かれる。前大脳動脈の大表面分岐が、下前頭葉の皮質と白質、前頭葉と頭頂葉の内側面及び脳梁前部を供給する。より小さい浸透性分岐が辺縁系構造、尾状核の頭部、及び内包の前肢などのより深い大脳及び間脳を供給する。中大脳動脈の大表面分岐が、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉、及び島といった半球の弓隆部のほとんどの皮質と白質を供給する。より小さい浸透性分岐が、深い白質及び辺縁系構造、例えば内包の後肢、被殻、外淡蒼球、及び尾状核体を供給する。内頚動脈は海綿静脈洞から出た後、前脈絡叢動脈をも発し、前海馬、及び尾側レベルで内包の後肢を供給する。各椎骨は鎖骨下動脈から生じ、大後頭孔を通って頭蓋に入り、前脊髄動脈と後下小脳動脈を発する。椎骨動脈は、脳橋と髄質の接合部で連結して脳底動脈を形成し、脳橋のレベルで前下小脳動脈と内耳動脈を発し、かつ中脳で、上小脳動脈を発する。次に脳底動脈が2つの後大脳動脈に分かれる。後大脳動脈の大表面分岐が下側頭葉と内側後頭葉と後脳梁を供給し;これらの動脈のより小さい浸透性分岐が、視床及び視床下核、並びに中脳の一部などの間脳構造を供給する(Principles of Neural Sciences, 2d Ed., Eric R. Kandel and James H. Schwartz, Elsevier Science Publishing Co., Inc., New York, 1985, pp. 854-56参照)。
【0007】
脳の血管供給の一部が危ぶまれる場合、血管間の相互連結(吻合)が脳を保護する。ウィリス動脈輪で、2つの前大脳動脈が前交通動脈で連結され、後大脳動脈が後交通動脈で内頚動脈に連結される。他の重要な吻合には、眼動脈と外頚動脈の分岐との間の眼窩による連結、及び脳表面における中大脳動脈、前大脳動脈、及び後大脳動脈の分岐間の連結が含まれる(Principles of Neural Sciences, 2d Ed., Eric R. Kandel and James H. Schwartz, Elsevier Science Publishing Co., Inc., New York, 1985, pp. 854-56)。
【0008】
本明細書で使用する用語「吻合」は、相互交換可能に血管間の相互連結を意味する。これらの相互連結は、脳の血管供給の一部が危ぶまれる場合に脳を保護する。ウィリス動脈輪で、2つの前大脳動脈が前交通動脈で連結され、後大脳動脈が後交通動脈で内頚動脈に連結される。他の重要な吻合には、眼動脈と外頚動脈の分岐との間の眼窩による連結、及び脳表面における中大脳動脈、前大脳動脈、及び後大脳動脈の分岐間の連結が含まれる(Principles of Neural Sciences, 2d Ed., Eric R. Kandel and James H. Schwartz, Elsevier Science Publishing Co., Inc., New York, 1985, pp. 854-56)。
【0009】
典型的に頭と口のある1つの端部を有し、反対側の端部には肛門と尾がある動物について述べると、頭端部は頭蓋端と呼ばれ、尾端部は尾方端と呼ばれる。頭自体内では、吻側は鼻の端部に向かう方向を表し、尾側という用語を用いて尾の方向を表す。重力の引きから離れた、普通は上向きに方向づけられている動物の体の表面又は側面は背面であり、典型的に全ての足で歩くか、泳ぐか又は飛んでいるときに地面に近い側である反対の側面は腹面である。肢又は他の付属器官については、本体により近い点が「近位」であり;より離れている点が「遠位」である。動物解剖学では、3つの基本参照面を使用する。「矢状」面は体を左右の部分に分ける。「正中矢状」面は正中線内にあり、すなわち、正中矢状面は、脊髄などの正中線構造を通過するであろうし、全ての他の矢状面は正中矢状面に平行である。「冠状」面は体を背側部分と腹側部分に分ける。「横断」面は、体を頭側部分と尾側部分に分ける。
【0010】
ヒトについて言えば、体とその部分は、常に体が直立していると仮定して表される。頭端部に近い体の部分は「上」(動物の頭側に対応する)であり、より離れている部分は「下」である(動物の尾側に対応する)。体の前に近い物体は「前」と呼ばれ(動物の腹側に対応する);体の後ろに近い物体は「後」と呼ばれる(動物の背側に対応する)。横軸方向、つまり水平面は、地面に平行なX-Y面であり、下/足から上/頭を分ける。冠状又は前面は、地面に垂直なY-Z面であり、後ろから前を分ける。矢状面は、地面及び冠状面に垂直なX-Z面であり、右から左を分ける。正中矢状面は、体の正確に中央にある特有の矢状面である。
【0011】
体の中央近くの構造は内側と呼ばれ、動物の側面近くの構造は外側と呼ばれる。従って、内側構造は正中矢状面に近く、外側構造は正中矢状面から離れている。体の正中線内の構造は正中構造である。例えば、ヒト対象の鼻の先端は正中線内にある。
同側性は「同じ側に」を意味し、対側性は「他の側に」を意味し、両側性は「両側に」を意味する。体の中心に近い構造は近位又は中枢であり、より離れている構造は遠位又は抹消である。例えば、手は腕の遠位端にあり、肩は近位端にある。
【0012】
〔血管収縮と血管拡張〕
本明細書で使用する用語「血管収縮」は、血管の筋肉壁の収縮によって起こる血管の狭小化を意味する。血管が収縮すると、血流が制限されるか又は遅くなる。血管収縮の反対の意味で本明細書において使用する用語「血管拡張」は、血管の拡幅化を意味する。本明細書で使用する用語「血管収縮薬」、「血管昇圧薬」、又は「昇圧薬」は、血管収縮を引き起こす因子を表す。血管収縮は、普通は血圧の上昇をもたらし、わずかなこともあり、激しいこともある。血管収縮は、疾患、薬物、又は精神状態に起因することもある。血管収縮を引き起こす薬物として、限定するものではないが、抗ヒスタミン薬、うっ血除去薬、メチルフェニダート、感冒薬、プソイドエフェドリン、及びカフェインが挙げられる。
【0013】
血管拡張薬は、血管の平滑筋を弛緩させて血管を拡張する薬物又は化学薬品である。動脈血管(主に細動脈)の拡張は、血圧の低下につながる。平滑筋の弛緩は、収縮のための刺激の除去に頼っており、主に細胞内カルシウムイオン濃度及びミオシン軽鎖(MLC)のリン酸化に依存する。従って、血管拡張は、主に1)細胞内カルシウム濃度を下げるか、又は2)ミオシン軽鎖ホスファターゼの刺激並びにシンポーター及びアンチポーター(細胞内コンパートメントからカルシウムイオンをポンピングする)の誘導を含むMLCの脱リン酸化のいずれかによって働く。エクスチェンジャーによる平滑筋の筋小胞体中へのイオンの再取り込み及び原形質膜を横切る駆除も血管拡張を果たすのに役立つ。これらの作用を果たすための特有の機構は、血管拡張薬ごとに異なり、内因性及び外因性として分類することができる。本明細書で使用する用語「内因性」は、内部から進行するか又は内部に由来することを意味し;外部に原因があるのではなく、生物体内の状態に起因する。本明細書で使用する用語「外因性」は、外部に原因があることを意味し;外的に誘導され;生物体内の状態に起因するのではなく、外部から起こる。
【0014】
血管拡張は、平均動脈圧と心拍出量の間の関係及び総末梢抵抗(TPR)に直接影響を及ぼす。心拍数(拍動/分)と一回拍出量(収縮期中に駆出された血液の量)を乗ずることによって心拍出量を計算することができる。TPRはいくつかの因子によって決まり、因子としては限定するものではないが、血管の長さ、血液の粘度(ヘマトクリットによって決定される)、及び血管の直径が挙げられる。抵抗を決定するのに血管の直径が最も重要な変量である。心拍出量又はTPRのどちらかの増加が平均動脈圧の上昇をもたらす。血管拡張が働いて、大動脈及びより小さい動脈の中膜層内の平滑筋細胞の弛緩によってTPR及び血圧を下げる。
【0015】
温血動物の周囲環境が熱いと、温血動物の表在性血管内で血管拡張が起こり;このプロセスが、動物の皮膚への加熱血液の流れをそらして、熱がさらに容易に大気中に放出されうる。反対の生理的プロセスが血管収縮である。血管拡張と血管収縮は、内皮細胞からの局所パラクリン因子(例えば、ブラジキニン、アデノシン)によって、並びに生物体の自律神経系及び副腎(両方ともノルエピネフリン及びエピネフリン等のカテコラミンを分泌する)によって自然に調節される。
患者が異常に高い血圧、並びに狭心症及びうっ血性心不全を有する場合、血管拡張薬を用いて高血圧などの状態を治療し、より低い血圧を維持すると、他の心臓障害を発症する患者のリスクを低減する。
【0016】
〔くも膜下出血〕
脳は、膜又は髄膜の3つの層、すなわち軟膜、くも膜、及び硬膜で包まれている。くも膜下腔は、くも膜と脳を囲んでいる軟膜との間の領域である。用語「くも膜下出血」(「SAH」とも称する)は、くも膜下腔中への出血を意味する。SAHは、普通は脳動脈瘤から、自発的に起こることがあり、或いは外傷に起因することもある。症状としては、急激に発生する激しい頭痛(時には「雷鳴頭痛」と呼ばれる)、嘔吐、及び意識レベル変化が挙げられる。診断は、一般的にコンピュータ断層撮影(CTスキャン)で行われ、或いは腰椎穿刺によることもある。治療は、再発及び合併症を予防するための綿密な観察、薬物療法並びに早期神経外科的治験及び処置による。
【0017】
SAHは、医学的な緊急事態であり、早期段階で認識かつ治療された場合でさえ、死又は重度の身体障害につながりうる。全SAH症例の半分が致命的であり、10〜15%が病院に到着する前に死亡する。SAHは脳卒中の一種とみなされ、全脳卒中の1〜7%で起こる。頭蓋内動脈瘤の破裂によって起こった場合、出血はくも膜下腔内で見られ、血管内ではあまり一般的でなく、大脳内で最も頻繁に見られる。SAHによる出血は、脳損傷、脳偏位、脳灌流低下及び水頭症をもたらしうる。米国内では、破裂した頭蓋内動脈瘤由来のSAHの発症率が10,000人に1症例と見積もられ、毎年約27,000〜30,000の新しい症例をもたらしている。これらの破裂した動脈瘤は、45%が30日の死亡率である。さらに、生き残った人の推定30%が中度から重度の身体障害を有するであろう。
【0018】
SAHを生き延びた患者も二次合併症のリスクがある。合併症のうち、最も顕著なのは、動脈瘤性の再出血と脳血管れん縮である。脳血管れん縮はSAHの結果であるが、くも膜下腔内で血液を沈着させるいずれの状態後にも起こりうる。さらに具体的には、用語「脳血管れん縮」は、くも膜下腔内への出血後に脳の基底における大容量動脈(すなわち、大脳動脈)の狭小化を意味し、遠位脳領域の灌流低下につながる。
【0019】
〔症状〕
SAHの古典的症状は雷鳴頭痛(数秒〜数分にわたって発症する「史上最悪の」又は「ひどい衝撃」とも表される頭痛)であるが、それは全SAH患者の約3分の1だけにおける症状である。この症状のために医療を求めている患者の約10%が根底にSAHがある。患者が嘔吐を示すこともあり、14人中1人には発作がある。頚部硬直及び髄膜症の他の徴候があることもあり、錯乱、意識レベル低下、又は昏睡でありうる。脳周囲の圧力の上昇に応じて眼内出血が起こることがある。眼底検査で硝子体下(硝子体膜が眼の硝子体を覆っている)出血及び硝子体出血が目に見えることがある。これは、テルソン症候群として知られ(3〜13%の症例で起こる)、より重度のSAHでさらに一般的である。雷鳴頭痛のある患者では、上記徴候がないことが出血を確認及び除外するのに役立つが、他の原因とは対照的に、出血が動脈瘤破裂の結果の場合は発作がより一般的である。動眼神経異常(下向き及び外向きに見るときに障害のある眼、同側の眼瞼を持ち上げることができないが、瞳孔反射は正常)は、後交通動脈近傍に生じている動脈瘤からの出血を示唆しうる。瞳孔の単独散大も、頭蓋内圧上昇の結果としての脳出血を反映しうる。出血の結果として体は大量のアドレナリン及び同様のホルモンを放出し、血圧の急な上昇につながる。心臓が実質的な緊張を受け、出血の発生後急速に神経原性肺水腫、心不整脈、心電図変化(時に巨大な陰性「大脳」T波がある)及び心停止(3%)が起こりうる。
【0020】
SAHは、頭部損傷を受けた人に起こることもある。症状としては、頭痛、意識レベル低下又は不全片麻痺が挙げられる。特にSAHが低いグラスゴー昏睡尺度レベルを伴う場合、SAHは頭部損傷の重度の合併症とみなされる。
【0021】
〔診断〕
SAHの疑いのある人を評価する初期工程は病歴を得る工程及び身体検査を行う工程である。雷鳴頭痛のために入院する患者の10〜25%しかSAHを患っていないので、普通は、可能性のある他の原因、例えば髄膜炎、片頭痛、及び脳静脈洞血栓症等を同時に考慮する。SAHの2倍一般的である脳出血が、SAHと誤診されることもある。
【0022】
治療的背景のみに基づいてSAHの診断を行うことはできない。一般的に、出血を確認又は排除するためには、脳の医用画像が必要である[通常、高感度(特に出血の発生後第1日では>95%の正確な同定)のコンピュータ断層撮影(CTスキャン)]。磁気共鳴画像法(MRIスキャン)はCTに比べて数日後でも高感度でありうる。CT又はMRIスキャンが正常な患者では、腰椎嚢から針で脳脊髄液(CSF)を取り出す腰椎穿刺が、CTが正常であることが分かった群の3%で出血の証拠を示すので、腰椎穿刺は、画像が正常な場合に必須とみなされる。キサントクロミー、すなわち遠心分離液の黄色の外観についてCSFサンプルを調べるか、又はCSF中のヘモグロビンの分解産物であるビリルビンの分光測定を利用してCSFサンプルを調べる。
【0023】
SAHを確認した後、その起源を決定する必要がある。一般的に、動脈瘤を同定するためのCT血管造影法(CTスキャンにおいて造影剤で血管を可視化する)が第1工程であり、より観血的なカテーテル血管造影法(脳動脈に進めたカテーテルを介して造影剤を注入する)は優れた標準検査であるが、合併症のリスクがより高い。同時に、動脈瘤などの出血の起源を抹消する計画がある場合には、カテーテル血管造影法が有用である。
【0024】
〔原因〕
自発的SAHは、脳動脈瘤の破裂のためであることが最も多い(85%)。脳動脈瘤は、肥大化している脳の動脈の壁の弱さである。脳動脈瘤はウィリス動脈輪及びその分岐部内に位置する傾向がある。SAHのほとんどの症例が小さい動脈瘤からの出血のためであるが、より大きい動脈瘤(まれである)は破裂しやすい。自発的SAHの症例の15〜20%では、最初の血管造影図から動脈瘤が検出されない。血液が中脳の領域に限定される非動脈瘤性中脳周辺くも膜下出血はSAH症例の別の10%の原因となる。この場合、一般的に動脈瘤は見つからない。症例の残りの5%が、動脈への血管炎性損傷、血管を冒す他の障害、脊髄血管の障害、及び種々の腫瘍中への出血のためである。ほとんどの外傷性SAHは頭蓋骨折又は脳内挫傷の近傍で起こる。
【0025】
〔分類〕
SAHについていくつかの評価尺度が利用可能である。患者の特性を他の結果と遡及的にマッチングすることによってこれらの評価尺度を誘導した。広範に使用されるグラスゴー昏睡尺度(GCS)に加えて、3つの他の特殊化尺度が使用されている。全ての尺度において、より大きい数値はより悪い結果と関連する。重症度の最初の尺度は、1968年にHunt及びHessによって開示されたもので、患者の臨床状態を分類する。フィッシャー評価は、CTスキャン時のSAHの出現を分類する。フィッシャー尺度は、Claassen及び共同研究者らによって修正され(「Claassen尺度」)、SAHサイズによる付加的リスクを反映し、かつ脳室内出血を付随させる。世界脳神経外科分類はGCS及び局所神経障害を利用して症状の重症度を計測する。結果を予測し、かつ療法を計測するため、包括的分類スキームがOgilvy及びCarterによって示唆された。Ogilvyシステムは5つの評価を有し、以下の5つの各因子の存否で1点を割り付ける:50を超える年齢;Hunt及びHess評価4又は5;フィッシャー尺度3又は4;10mmより大きい動脈瘤サイズ;及び後方循環動脈瘤25mm以上。
【0026】
〔治療〕
SAHの管理は、患者を安定化するための通常処置、出血源を抹消することによって再出血を予防するための特有措置、血管れん縮の予防、及び合併症の予防と治療から成る。
〔通常措置〕
最優先事項は患者を安定化することである。意識レベルが低下している患者には、挿管及び人工呼吸をする必要がある。多くの場合、血圧、脈拍、呼吸数及びグラスゴー昏睡尺度をモニターする。診断を確認したらすぐに、特に入院後最初の数時間で15%がさらに発症(再出血)することを考えれば、集中治療室への入院が好ましい。経口又は経鼻胃管摂食による栄養が早期の優先事項であり、非経口経路によるのが好ましい。鎮静作用は精神状態に影響を及ぼし、ひいては意識レベルをモニターする能力を妨げることがあるので、鎮痛(疼痛管理)は一般的にコデイン等の非鎮静型薬に限定される。加圧下着、ふくらはぎの間欠的空気圧迫、又は両方で深部静脈血栓症を予防する。
【0027】
〔再出血の予防〕
患者意識レベルの低下又は局所神経症状を伴う大きい血腫のある患者は、血液の緊急外科的除去及び出血している動脈瘤の閉塞の候補であろう。脳室中にカテーテル又はチューブを挿入して、水頭症を治療しうる。残りの患者は、さらに長時間安定化した後で、経大腿カテーテル血管造影法又はCT血管造影法を受ける。最初の24時間後、引き続く4週間にわたって約40%に再出血のリスクが残っており、処置がこのリスクを低減することを目的とすべきであることを示唆している。
【0028】
脳動脈瘤が血管造影法で同定されたら、2つの措置(クリッピングとコイリング)を利用して、同じ動脈瘤からのさらなる出血を減らすことができる。クリッピングは、動脈瘤の位置を見つけた後、動脈瘤のネックを横断してクリップ(複数可)を置くため開頭術(頭蓋を開く)が必要である。コイリングは大血管を介して行い:鼠径部内の大腿動脈中にカテーテルを挿入し、大動脈を介して、脳を供給する該動脈(両頚動脈及び両椎骨動脈)に進める。動脈瘤の位置が見つかったら、動脈瘤内に凝血の形成及び閉塞をもたらす白金コイルを配置する。治療を試みるかについての決定は、典型的に脳神経外科医及び神経放射線科医などの学際的チームによって行われる。再出血を予測することは困難であるが、いつでも起こり、憂鬱な予後をもたらしうる。従って、再出血を予防するための措置、主に破裂した動脈瘤のクリッピング及びコイリングは、できる限り早く行われる。
【0029】
中大脳動脈及びその関連血管の動脈瘤は血管造影法で到達しにくく、クリッピングに受け入れられる傾向があるが、脳底動脈及び後大脳動脈の動脈瘤は外科的に到達しにくく、血管内管理が利用しやすい。コイリングの主な欠点は、動脈瘤が再発する可能性であり;このリスクは外科的アプローチでは極端に少ない。コイリングを受けた患者は典型的に、動脈瘤の再発を確実に早期に同定するため、多数年間、血管造影法又は他の措置で経過観察される。
【0030】
〔予後〕
(早期罹患率及び死亡率)
SAHの死亡率は40%〜50%である。最初の入院、治療及び合併症を生き延びた患者のうち、25%超えの患者がその生活様式に有意な制限があり、20%未満の患者が何も症状が残らない。昏睡のない軽症のSAHの診断の遅延(又は急な頭痛を片頭痛と間違える)は、不良結果に寄与する。不良結果のリスク因子には、高齢、不良神経学的評価、初期CTスキャン時の多い血液及び大きい動脈瘤、後方循環内の動脈瘤の位置、収縮期高血圧、及び心臓発作、高血圧、肝臓疾患の以前の診断又は以前のSAHが含まれる。入院中、血管れん縮に起因する遅発性虚血の発症、脳内血腫又は脳室内出血(脳室内への出血)の発症、及び入院の8日目に熱があることも予後を悪くする。
【0031】
完全なカテーテル血管造影法によって動脈瘤を示さないSAHは「血管造影図陰性SAH」と呼ばれることがある。これは、動脈瘤由来のSAHより良い予後をもたらすが、それでもなお虚血、再出血及び水頭症のリスクを伴う。しかし、中脳周辺くも膜下SAH(脳の中脳部周囲での出血)では、再出血又は遅発性虚血が非常に低率であり、このサブタイプの予後は優れる。
【0032】
(長期結果)
疲労、気分障害、及び他の関連症状などの認知神経科学的症状は、SAHを患ったことのある人に共通する。良い神経学的回復をもたらした人でさえ、不安症、うつ病、外傷後ストレス障害及び認知障害は一般的である。60%をえの人が頻繁な頭痛を報告している。動脈瘤性SAHは、視床下部及び脳下垂体の損傷につながることがあり、脳のこの2つの領域はホルモンの調節と産生で中心的役割を果たす。研究は、以前にSAHを患ったことのある人々の25%より多くが、成長ホルモン、プロラクチン又は甲状腺刺激ホルモン等の視床下部-下垂体ホルモンの1種以上の欠乏症にかかりうることを示唆する。
【0033】
SAHの発症率が毎年100,000人当たり平均9.1人であると示唆している研究もある。日本国及びフィンランド国からの研究は、当該国ではさらに高い率(それぞれ100,000人当たり22.7人及び100,000人当たり19.7人)を示しており、その理由は完全には分かっていない。対照的に、北アメリカ及び中央アメリカでは、100,000人当たり平均で4.2人という率である。SAHのリスクのある人の群は、一般的に脳卒中を患う集団より若いが、リスクは年齢と共に増す。若い人は中年の人より、SAHを患う可能性がずっと低い(リスク率0.1%、又は10%)。リスクは年齢と共に増加し続け、高齢者(85歳以上)では45〜55歳の人より60%高い。55歳を超える女性では、SAHのリスクが約25%高く、閉経に起因するホルモン変化を反映している可能性がある。
【0034】
〔血管れん縮〕
血管れん縮は、SAH後の局所虚血の最も一般的な原因である。血管れん縮がSAH関連の身体障害及び死亡の23%までを占めるように、血管れん縮はSAHの患者の予後に不利に作用する。全てのタイプの虚血性脳卒中の中で、血管れん縮はある程度予測可能、予防可能、かつ治療可能である点で独特である(Macdonald, R.L. and Weir, B. In Cerebral Vasospasm. 2001. Academic Press, Burlington, MA, USA参照)。
【0035】
毎年、10,000人当たり1人に動脈瘤破裂がある。死亡率及び罹患率は、出血量と共に上昇し、年齢と共に着実に増加する動脈瘤の発生の機会のある患者の年齢及び健康状態を反映する。SAHの量の増加のみならず、脳及び脳室内への拡張の可能性の増加のため、再出血は格別に有害である。動脈瘤破裂に起因するほとんどの死は、最初の出血又は早期の再出血の影響のため病院外又は入院直後に起こる。血管れん縮由来の症状の潜在的顕在化は、最初の2〜3日間を越えて生き延びた当該患者でのみ起こる。
【0036】
血管れん縮の発症率はSAHの発症率より少ない(SAHの患者の一部だけが血管れん縮を発症するので)。血管れん縮の発症率は、所定病院が受け入れる患者のタイプ及び血管れん縮を診断する方法に依存するだろう。無条件の用語「血管れん縮」は、一般的に血管造影法で決定された動脈の狭小化に関連して使用される。臨床上の血管れん縮は、ほとんどの場合、遅発性脳虚血(DCI)と同意語として用いられる。別の様式、例えば、中大脳動脈経頭蓋ドプラ速度上昇に基づいた血管れん縮で使用する場合、これは特殊だろう。
【0037】
SAH後4〜12日の間に血管造影を行った患者の少なくとも2/3には、ある程度の血管造影的狭小化が存在するだろう。このDCIから神経機能の低下を発生する患者の数は、患者をモニターする不断の努力と予防の効果によって変わるが、約1/3と見積もられている。入院したSAH患者のうち、5〜10%が血管れん縮が原因で死亡する。中程度のSAH後患者に比べて、非常に良い状態のSAH後患者は、SAHの量が少ないので、血管れん縮を発生する可能性が低く、非常に良くない状態のSAH後患者は、最初の発症からより早く死亡する可能性が高い。出血の発症にごく接近して行われるコンピュータ断層撮影(CT)スキャンで可視化できる濃厚で広範なくも膜下凝血の存在は重要な予後因子である。最初のCTスキャンで血液が存在しないことは、再出血がない場合には血管れん縮の可能性がほとんどないことを示唆している。血管れん縮とその結果としてのDCIの機会は、凝血にさらされる持続時間を減らす因子によって減少する。反対に、血管れん縮とDCIの発症率は、動脈を凝血にさらす時間を延ばし、他の機構によって虚血を引き起こす可能性のある抗線溶薬の使用によって増加する。良くない入院時臨床評価はDCIに関係があり、おそらく、抗線溶薬の使用とDCIは両方ともより大量のSAHを示唆している。年齢、高血圧、又は性別とDCIとの間の明確な関係は確立されていない。喫煙者は血管れん縮及びDCIによりかかりやすいと考えられる。血管れん縮の発生に無関係の因子には、季節、地理学、造影剤、及び糖尿病が含まれる。
【0038】
血管れん縮を発生する患者は、発生しない患者より悪くなる。外科術又は動脈瘤コイリングを早期に行えば(1日目あたり以内)、治療が遅延した場合より結果は良くなる傾向がある。血管れん縮のピーク時中に優先的に手術を行った場合には、結果は一般的に悪かった。血管れん縮は早期の外科術又はコイリングに起因せず;早期の外科術又はコイリングは、血管れん縮が発症するであろうさらに活発な治療を可能にする。濃厚な凝血が存在する場合、注意深い除去を試みるべきである。手術後の残存凝血の量は、DCIについての予後因子である。開放的手術は患者を開創器圧、静脈の犠牲、一時的クリッピング虚血、脳除去、及び動脈損傷にさらす。研究は、脳血流量、酸素の局所脳代謝率、及び酸素抽出率の手術後の低減を示した。
【0039】
入院時神経学的グレード、加齢、及び広範囲の頭蓋内及び脳室内出血などの独立変量は、血管れん縮よりも予後に密接に関係がある。血管れん縮は段階的プロセスなので、全身の低血圧、心機能不全、無酸素症、及び頭蓋内圧亢進の非存在下では、極端な症例だけが梗塞をもたらすと予測される。既存の高血圧及び高齢も、虚血に対する脳の脆弱性に強く影響する。致命的症例での血管れん縮と梗塞との間の病原学的関係は議論されていない。
外科的又は薬学的に凝血を除去することで血管れん縮を減らせる証拠がある。高血圧及び循環血液量過多によってのみならずカルシウムアンタゴニストによってDCIを減らせることを示唆しているデータもある。機械的又は薬学的血管形成術によっても血管れん縮を消滅させうる。
【0040】
〔血管れん縮の発生率〕
血管造影の血管れん縮の発生率は、SAH後の間隔によって決まる。ピーク発生率はSAH後6〜8日に生じる(範囲、3〜12日)。SAHの時間に加え、血管れん縮の有病率に影響を及ぼす他の主因子はくも膜下血液の量と分布である。
【0041】
〔血管れん縮の予後因子〕
血管れん縮の予後因子には以下のものが含まれる:CTスキャン時の血液;高血圧;解剖学的及び全身的因子;臨床グレード;抗線溶薬;年齢と性別;喫煙;生理学的パラメータ;及び水頭症。
【0042】
〔診断〕
血管れん縮の診断は主に臨床的である。血管れん縮は無症状でありうるが、脳血流量が虚血閾値未満である場合、症状が現れてくる。症状は、典型的に亜急性に発生し、変動しうる。症状としては、過剰な眠気、嗜眠、昏迷、不全片麻痺又は半身不随、無為症、言語障害、視野障害、注視障害、及び脳神経麻痺が挙げられる。局所化する症状もあるが、それらの症状は如何なる病的プロセスとしても診断されないので、X線検査、臨床及び検査室評価を用いて、再出血、水頭症、及び発作などの別の診断を迅速に排除すべきである。脳血管造影は、大脳動脈を可視化して調査するための優れた標準法であり;経頭蓋ドプラ超音波検査も利用される。
【0043】
血管れん縮の病態生理学は、血管の内皮及び平滑筋細胞内における構造変化と生化学的変化に関与しうる。くも膜下腔内の血液の存在がこれらの変化を惹起しうる。さらに、血液量減少及び大脳の自動調節機能低下が同時に大脳灌流を妨害する。これらのプロセスの累積的作用が脳血流量の減少をもたらして、梗塞につながる脳虚血を引き起こしうる。さらに、激しい収縮期が、大脳動脈の壁の形態変化をもたらし、血管作動性物質が継続的に存在せずに、大脳動脈を狭くしたままにしてしまう。冒された動脈によって供給された脳の領域は次に虚血を経験するだろう(血液供給の制限を意味する)。
【0044】
〔他の合併症〕
水頭症(脳脊髄液の流れの閉塞症)は、短期及び長期の両方でSAHを併発することがあり、CTスキャンで検出することができる。意識レベルが低下している場合、過剰な液体の外科的ドレナージ(例えば脳室ドレイン又はシャントによる)が必要なことがある。
血圧の変動及び電解質異常、並びに肺炎及び心不全が、SAHの入院患者の約50%で起こり、予後を悪くしうる。それらは症候的に管理される。
全症例の約1/3で発作が起こる。
【0045】
〔治療〕
経口カルシウムチャネルブロッカーであるニモジピンは臨床治験で不良結果の機会を減らすことを示したが、ニモジピンは血管造影で検出された血管れん縮の量を有意には減らせない。他のカルシウムチャネルブロッカー及び硫酸マグネシウムが研究されたが、現在推奨されていない。ニモジピンを静脈内投与しても利益を示す証拠がない。外傷性SAHでは、ニモジピンは長期結果に影響せず、推奨されない。
【0046】
以前は「三重H」療法と呼ばれた血行動態的操作を血管れん縮を治療するための措置として使用することが多い。これは、高血圧(高い血圧)、循環血液量過多(循環中の過剰流体)及び血液希釈(血液の穏やかな希釈)の状態を達成するため静脈内輸液の使用を伴う。このアプローチの使用の証拠は決定的でないが、高血圧の誘導がこの治療の最も重要な構成要素であると考えられ、今までその利益を実証するために十分多くの無作為化比較試験が試みられていない。
【0047】
症候的血管れん縮が医療措置に耐える場合、血管造影法を試みて血管れん縮の部位を同定し、血管拡張薬(血管壁を弛緩させる)を動脈中に直接投与することができ(薬理学的血管形成)、機械的血管形成(収縮した領域をバルーンで開く)を行なうことができる。
【0048】
〔電位開口型イオンチャネル〕
電位開口型イオンチャネルは、チャネル近傍の電位差の変化によって活性化される膜貫通イオンチャネルの一種であり;このタイプのイオンチャネルはニューロンで特に重要であるが、多くのタイプの細胞に共通する。それらは、電位変化を引き起こすのに応じて、迅速な協調された脱分極を可能にするので、興奮性ニューロン及び筋肉組織において重要な役割がある。
【0049】
〔構造〕
電位開口型イオンチャネルは、一般的に、イオンがその電気化学的勾配の下方に流下できる中心ポアを備えるように配置された数個のサブユニットで構成される。チャネルは、かなりイオン特異的な傾向があるが、同様のサイズ及び同様に荷電したイオンがある程度そのチャネルを通過することもある。
【0050】
〔機構〕
カリウムチャネルの結晶学的構造研究は、この構造が対応する原形質膜内で未変化のままであると仮定した場合、電位差が膜一面に導入されると、付随電磁場がカリウムチャネル内に立体構造変化を引き起こすことを示唆する。この立体構造変化がチャネルタンパク質の形状を十分にゆがめ、チャネル、つまりキャビティが開いて、イオンの流入又は流出がその電気化学的勾配の下方へ、膜を横断して生じるようにする。これが引き続き細胞膜を脱分極するのに十分な電流を生成する。
【0051】
電位開口型ナトリウムチャネル及びカルシウムチャネルは、4つの相同ドメインを有する単一のポリペプチドで構成される。各ドメインは6つの膜貫通αヘリックスを含む。電位感受性ヘリックス、S4は、複数の正電荷を有するので、細胞外部の高い正電荷が該ヘリックスに反発して立体構造変化を生じさせ、チャネルを通ってイオンが流れられるようにする。カリウムチャネルは、それぞれ1つのドメインを含む4つの別個のポリペプチド鎖で構成されることを除き、同様に機能する。これらのチャネルの電位感受性タンパク質ドメイン(「電位センサー」)は一般的にS3b及びS4ヘリックスで構成される領域(その形状のため「パドル」として知られ、保存配列であると思われる)を含む。
【0052】
〔電位依存性カルシウムチャネル〕
電位依存性カルシウムチャネル(VDCC)は、カルシウムイオン(Ca2+)透過性のある興奮性細胞(例えば、筋肉、グリア細胞、ニューロン等)内で見られる一群の電位開口型イオンチャネルである。生理的又は静止膜電位では、VDCCは通常閉じている。脱分極した膜電位でVDCCが活性化される。特定のVDCCの活性化によりCa2+が細胞内に入れるようになり;細胞のタイプに応じて筋収縮、ニューロンの興奮、遺伝子発現の上方制御、又はホルモン若しくは神経伝達物質の放出が起こる。
【0053】
電位依存性カルシウムチャネルは、いくつかの異なったサブユニット、すなわちα1、α2δ、β1-4、及びγの複合体として形成される。α1サブユニットはイオン伝導性ポアを形成し、関連サブユニットはゲーティングの調節を含めたいくつかの機能を有する。
【0054】
(α1サブユニット)
α1サブユニットポア(約190kDaの分子量)はVDCC内で機能するチャネルに必要な主サブユニットであり、特徴的な4つの相同I〜IVドメイン(それぞれ6つの膜貫通αヘリックスを含む)から成る。α1サブユニットは、電位感受性機構と薬物/毒素−結合部位を含むCa2+選択性ポアを形成する。10個のα1サブユニットがヒトで同定されている。
【0055】
(α2δサブユニット)
α2δ遺伝子は、2つのサブユニット、α2とδをコードする。それらがジスルフィド結合によって相互に連結し、合計170kDaの分子量を有する。α2は、細胞外グリコシル化サブユニットであり、α1サブユニットと最も多く相互作用する。δサブユニットは、短い細胞内タンパク質がある単一の膜貫通領域を有し、原形質膜内に該タンパク質をとどめておくのに役立つ。4つのα2δ遺伝子:CACNA2D1(CACNA2D1)、(CACNA2D2)、(CACNA2D3)、及び(CACNA2D4)がある。α2δの同時発現がα1の発現レベルを高めて、電流振幅の増加、より速い活性化及び不活性化キネティクス並びに不活性化の電位依存の過分極性シフトを生じさせる。これらの作用のいくつかはβサブユニットの非存在下で観察されるが、他の場合には、βの同時発現が必要である。α2δ-1及びα2δ-2サブユニットは、少なくとも2つの抗けいれん薬、ガバペンチン及びプレガバリン(慢性神経因性疼痛の治療でも用途のある)の結合部位である。
【0056】
(βサブユニット)
細胞内βサブユニット(55kDa)は、グアニル酸キナーゼ(GK)ドメインとSH3(srcホモロジー3)ドメインを含む、細胞内の膜結合型グアニル酸キナーゼ(MAGUK)様タンパク質である。βサブユニットのグアニル酸キナーゼドメインがα1サブユニットI-II細胞質内ループに結合してHVGCC活性を制御する。βサブユニットの4つの既知イソ型がある:CACNB1、CACNB2、CACNB3、及びCACN4。
【0057】
理論によって制限されるものではないが、細胞質βサブユニットは、最後のα1サブユニットの立体構造を安定化して、それをα1内の小胞体保留シグナルをマスクするその能力によって細胞膜に送達するのに主要な役割を有する。βサブユニットが結合するとマスクされてくる、α1サブユニット内のI-IIループ内に小胞体保留ブレーキが含まれる。従って、βサブユニットは最初に、細胞膜で発現されるα1サブユニットの量を調節することによって電流密度を制御するために機能する。
【0058】
この電位輸送役割に加えて、βサブユニットは、活性化及び不活性化キネティクスを制御し、かつα1サブユニットポアの活性化の電位依存を過分極させる重要な追加機能を有するので、より少ない脱分極のためより多くの電流が通過する。βサブユニットは、チャネルの電気生理学的性質の重要なモジュレーターとして作用する。ドメインIとIIの間のα1サブユニット細胞内リンカー上の高度に保存された18-アミノ酸領域(α相互作用ドメイン、AIDBP)と、βサブユニットのGKドメイン上の領域(α相互作用ドメイン結合ポケット)との間の相互作用がβサブユニットによって発揮される制御効果の原因である。
さらに、βサブユニットのSH3ドメインは、チャネル機能に及ぼす追加の制御効果をも与え、βサブユニットがα1サブユニットポアと複数の相互作用を有しうることを示唆している。AID配列は小胞体保留シグナルを含まないと考えられ;これはI-IIα1サブユニットリンカーの他の領域内にありうる。
【0059】
(γサブユニット)
γ1サブユニットは、骨格筋VGCC複合体と関連することが分かっているが、その証拠は、カルシウムチャネルの他の亜型については決定的でない。γ1サブユニット糖タンパク質(33kDa)は4つの膜貫通ヘリックスで構成される。γ1サブユニットは輸送に影響を及ぼさず、かつ大部分、チャネル複合体を制御するために必要ない。しかし、γ2、γ3、γ4及びγ8は、AMPAグルタミン酸受容体とも関係がある。γサブユニットについては8個の遺伝子がある:γ1(CACNG1)、γ2(CACNG2)、γ3(CACNG3)、γ4(CACNG4)、(CACNG5)、(CACNG6)、(CACNG7)、及び(CACNG8)。
【0060】
電位依存性カルシウムチャネルは構造と形が大きく変化する。カルシウムチャネルはその薬理学的及び電気生理学的性質によってL-、N-、P/Q、T-及びR-型として分類される。これらのチャネル亜型は別々の生理的機能を有する。分子クローニングが各チャネルのα1サブユニット配列を明らかにした。α1サブユニットは個々のチャネル内で活性を誘発するのに特異的役割を有する。それにもかかわらず、各活性に関与する特異的チャネルを明らかにするため、これらのチャネル亜型の選択的ブロッカーが必要である。神経N-型チャネルはω-コノトキシンGVIAによって遮断され;R-型チャネルは他のブロッカー及びトキシンに耐性であり、SNX-482によって遮断され、かつ脳内のプロセスに関与することがあり;密接に関連するP/Q-型チャネルはω-アガトキシンによって遮断される。ジヒドロピリジン感受性L-型チャネルは、骨格筋、平滑筋、及び心筋の興奮収縮連関並びに内分泌細胞内のホルモン分泌の原因であり、かつフェニルアルキルアミン及びベンゾチアゼピンによってアンタゴナイズされる。
【0061】
〔電位開口型カルシウムチャネルの型〕
(L-型カルシウムチャネル)
L-型電位開口型カルシウムチャネルは、平滑筋細胞が脱分極されると開かれる。この脱分極は細胞の伸長によって、又はアゴニスト結合性Gタンパク質共役型受容体(GPCR)によって、又は自律神経系刺激によってもたらされる。L-型カルシウムチャネルの開口は細胞外Ca2+の流入をもたらし、次いでカルモジュリンと結合する。活性化したカルモジュリン分子がミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)を活性化し、厚いフィラメント内でミオシンをリン酸化する。リン酸化されたミオシンは薄いアクチンフィラメントとの架橋を形成することができ、平滑筋線維(すなわち、細胞)は滑りフィラメント機構によって収縮する。
【0062】
L-型カルシウムチャネルは、横紋筋細胞、例えば、骨格筋線維及び心筋線維のt-管内にも富む。平滑筋内のように、L-型カルシウムチャネルはこれらの細胞が脱分極されると開く。骨格筋では、L-型カルシウムチャネルとカルシウム遊離チャネル(リアノジン受容体、つまりRYR)が機械的に相互にゲート開閉するので(後者は筋小胞体(SR)内にある)、L-型カルシウムチャネルの開口がRYRの開口を引き起こす。心筋では、L-型カルシウムチャネルの開口が細胞中へのカルシウムの流入を許容する。カルシウムがSR内のカルシウム遊離チャネル(RYR)に結合し、それらを開口する(「カルシウム誘発カルシウム遊離」又は「CICR」と呼ばれる)。Ca2+がSRから遊離され、RYRがどのように開いたかと無関係に、機械的ゲート開閉又はCICRのどちらかによって、Ca2+はアクチンフィラメント上のトロポニンCに結合しうる。筋肉は次に滑りフィラメント機構によって収縮し、筋節の短縮と筋収縮をもたらす。
【0063】
(R-型カルシウムチャネル)
R-型電位依存性カルシウムチャネル(VDCC)はカルシウム流量の制御に関与する。R-型VDCCは、SAH後に観察される脳血流量低下で重要な役割を果たす。理論によって制限されるものではないが、細胞内の遊離カルシウムイオンの濃度が血管平滑筋の収縮状態を決定するので、小径の大脳動脈内に位置しうるR-型電位依存性Ca2+チャネルが全体的及び局所的な脳血流量を制御することができる。
R-型電位依存性カルシウムチャネルインヒビターはカルシウム流入ブロッカーであり、その主な薬理作用は、R-型電位開口型カルシウムチャネルによるカルシウムの細胞内への流入を妨げるか又は遅くする。遺伝子CaV2.3は、ニューロン内で発現しているR-型電位依存性カルシウムチャネルの主要なポア形成ユニットをコードする。
【0064】
(N-型カルシウムチャネル)
N-型(「神経(Neural)型」の「N」)カルシウムチャネルは、主にシナプス前終末で見られ、神経伝達物質放出に関与する。活動電位による強い脱分極がこれらのチャネルを開かせてCa2+の流入を可能にし、小胞融合及び貯蔵神経伝達物質の放出を惹起する。N-型チャネルはω-コノトキシンによって遮断される。
【0065】
(P/Q-型カルシウムチャネル)
P-型(大脳プルキンエ(Purkinje)細胞の「P」)カルシウムチャネルは、シナプス前終末での神経伝達物質の放出、及び多くのニューロン型のニューロン統合におけるN-型カルシウムチャネルと同様の役割を果たす。P-型カルシウムチャネルは、心臓の電気伝導系内のプルキンエ線維内でもみられる(Llinas, R., et al. (1980). J. Physiol. (Lond.) 305: 171-95; Llinas, R. et al., (1989). Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86 (5): 1689-93参照)。Q-型カルシウムチャネルブロッカーは、小脳顆粒細胞内に存在するようである。それらは活性化の高い閾値及び相対的に遅いキネティクスを有する。
【0066】
(T-型カルシウムチャネル)
T-型(一過性(transient)の「T」)カルシウムチャネルブロッカーは、低電位活性化型である。それらは、ほとんどニューロン内及びペースメーカー活性のある細胞内並びに骨細胞内で見られる。ミベフラジルは、VDCCの他の型よりT-型に対していくらかの選択性を示す。
【0067】
〔カルシウムチャネルのブロッカー及びインヒビター〕
カルシウムチャネルブロッカーは、体の多くの興奮性細胞、例えば心臓の筋肉、血管又は神経細胞の平滑筋に作用を及ぼす薬物及び天然物質の分類である。カルシウムチャネルブロッカーの主作用は血圧を下げることである。
ほとんどのカルシウムチャネルブロッカーは心筋の収縮力を減少させる。これは、カルシウムチャネルブロッカーの「陰性変力作用」として知られる。ほとんどのカルシウムチャネルブロッカーはその陰性変力作用のため、心筋症の個体の治療では好ましい選択でない。
【0068】
多くのカルシウムチャネルブロッカーは、心臓の活動電位のプラトー期中にカルシウムチャネルを遮断することによって、電気的活性の伝導を示す。この「陰性変伝導作用」が心拍数の低減をもたらし、心ブロックを引き起こしうる(カルシウムチャネルブロッカーの「陰性変時作用」として知られる)。カルシウムチャネルブロッカーの陰性変時作用のため、それらは心房細動又は粗動のある個体の心拍数の調節のための一般的に使用される薬の分類となる。
【0069】
カルシウムチャネルブロッカーは、心臓及び血管の筋肉細胞内の電位開口型カルシウムチャネル(VGCC)に作用する。カルシウムチャネルブロッカーは、カルシウムチャネルを遮断することによって、刺激された時に細胞内のカルシウムレベルが大きく増加するのを阻止し、引き続き筋収縮を少なくする。心臓では、拍動毎に使用可能なカルシウムレベルの減少が心収縮力の低減をもたらす。血管では、カルシウムの減少の結果、血管平滑筋の収縮の減少となるので、血管径が増大する。結果として生じた血管拡張作用が全末梢抵抗を減らし、さらに心収縮力の低減が心拍出量を減らす。血圧は、心拍出量及び末梢抵抗、血圧低下によって部分的に決まる。
【0070】
カルシウムチャネルブロッカーは、交感神経系からの入力に対する心臓の応答性を減らさない。血圧の制御は交感神経系で(圧受容器反射によって)行なわれるので、カルシウムチャネルブロッカーは、β-ブロッカーよりも血圧を効率的に維持することができる。しかし、カルシウムチャネルブロッカーは血圧の低減をもたらすので、圧受容器反射は交感神経活性の再帰的増加を惹起することが多く、心拍数及び収縮力の増加につながる。血圧の低減は、血管平滑筋内の、血管拡張につながるVDCCの拮抗作用の直接の効果を反映する可能性もある。β-ブロッカーをカルシウムチャネルブロッカーと併用してこれらの作用を最小限にすることができる。
【0071】
L-型、N-型、及びP/Q-型カルシウムチャネル用ブロッカーは、チャネルのサブユニットを区別するのに利用される。R-型カルシウムチャネルサブユニットでは、その選択性はかなり低いが、ω-アガトキシンIIIAが遮断活性を示す。このペプチドは、L、N、及びP/Qサブユニットなどの高電位活性化型チャネルの全てに結合する(J. Biol.Chem., 275, 21309 (2000))。推定上のR-型(又はクラスα1E)選択性ブロッカー、SNX-482は、3つのジスルフィド結合(1-4、2-5及び3-6配置)のある41個のアミノ酸残基ペプチドである(Biochemistry, 37, 15353 (1998), Peptides 1998, 748 (1999))。このペプチドは、40nMの濃度で神経下垂体神経終末内のクラスEカルシウムチャネル(IC5O=15nM〜30nM)及びR-型カルシウム電流を遮断する。R-型(クラスE)カルシウムチャネル遮断活性は非常に選択的であり;K+及びNa+電流、並びにL-型、P/Q及びT-型カルシウム電流には作用しない。N-型カルシウム電流は、300nM〜500nMの濃度で弱く30〜50%だけ遮断される。局所性に、SNX-482へのR-型電流の異なる感受性が観察され;神経細胞体、網膜神経節細胞及び海馬錐体細胞の標本では、R-型電流の作用が生じない。SNX-482を用いると、小脳のR-型カルシウムチャネル内で別々の薬理学的特性を有する3つのα1E-カルシウムサブユニットが認められる(J. Neurosci., 20, 171 (2000))。同様に、神経下垂体終末内のR-型カルシウム電流によってオキシトシンの分泌が制御されるが、バソプレシンの分泌は制御されない(J. Neurosci., 19, 9235 (1999))。
【0072】
全身血管抵抗及び動脈圧を低減するためにジヒドロピリジンカルシウムチャネルブロッカーを使用することが多いが、血管拡張及び低血圧は反射性頻脈をもたらしうるので、狭心症を治療するためには使用しない(慢性の安定した狭心症及び血管れん縮性狭心症を治療するための効能をもたらすアムロジピンを除く)。このカルシウムチャネルブロッカーのクラスは、接尾辞「-ジピン(dipine)」によって容易に確認できる。
【0073】
フェニルアルキルアミンカルシウムチャネルブロッカーは、心筋に対して相対的に選択性である。それらは、心筋の酸素要求量を減らし、冠血管れん縮を逆転させる。それらはジヒドロピリジンに比べて最小限の血管拡張効果を有する。それらの作用は細胞内性である。
ベンゾチアゼピンカルシウムチャネルブロッカーは、その血管カルシウムチャネルの選択性においてフェニルアルキルアミンとジヒドロピリジンの中間クラスである。ベンゾチアゼピンは、その心臓抑制作用及び血管拡張作用のためジヒドロピリジンによって引き起こされる同程度の反射性心刺激を生じさせることなく、動脈圧を下げることができる。
【0074】
L-型VDCCインヒビターは、カルシウム流入遮断薬であり、その主な薬理作用は、L-型電位開口型カルシウムチャネルによる細胞内へのカルシウムの流入を妨げるか又は遅らせることである。L-型カルシウムチャネルインヒビターの例として、限定するのではないが、以下のものが挙げられる:ジヒドロピリジンL-型ブロッカー、例えばニソルジピン、ニカルジピン及びニフェジピン、AHF(例えば(4aR,9aS)-(+)-4a-アミノ-l,2,3,4,4a,9a-ヘキサヒドロ-4aH-フルオレン、HCl)、イスラジピン(例えば4-(4-ベンゾフラザニル)-1,-4-ジヒドロ-2,6-ジメチル-3,5-ピリジンジカルボン酸メチル1-メチルエチルエステル)、カルシセプチン/カルシセプチン(例えばブラックマンバ(Dendroaspis polylepis polylepis)から単離)、H-Arg-Ile-Cys-Tyr-Ile-His-Lys-Ala-Ser-Leu-Pro-Arg-Ala-Thr-Lys-Thr-Cys-Val-Glu-Asn-Thr-Cys-Tyr-Lys-Met-Phe-Ile-Arg-Thr-Gln-Arg-Glu- Tyr-Ile-Ser-Glu-Arg-Gly-Cys-Gly-Cys-Pro-Thr-Ala-Met-Trp-Pro-Tyr-Gl-n-Thr-Glu-Cys-Cys-Lys-Gly-Asp-Arg-Cys-Asn-Lys-OH、カルシクルジン(例えばマンバ(Dendroaspis angusticeps)(東緑マンバ(eastern green mamba)から単離)、(H-Trp-Gln-Pro-Pro-Trp-Tyr-Cys-Lys-Glu-Pro-Val-Arg-Ile-Gly-Ser-Cys-Lys-Lys-Gln-Phe-Ser-Ser-Phe-Tyr-Phe-Lys-Trp-Thr-Ala-Lys-Lys-Cys-Leu-Pro-Phe-Leu-Phe-Ser-Gly-Cys-Gly-Gly-Asn-Ala-Asn-Arg-Phe-Gln-Thr-Ile-Gly-Glu-Cys-Arg-Lys-Lys-Cys-Leu-Gly-Lys-OH、シルニジピン(例えばFRP-8653も、ジヒドロピリジン-型インヒビター)、ジランチゼム(Dilantizem)(例えば(2S,3S)-(+)-cis-3-アセトキシ-5-(2-ジメチルアミノエチル)-2,3-ジヒドロ-2-(4-メトキシフェニル)-1,5-ベンゾチアゼピン-4(5H)-オン塩酸塩)、ジルチアゼム(例えばベンゾチアゼピン-4(5H)-オン、3-(アセチルオキシ)-5-[2-(ジメチルアミノ)エチル]-2,3-ジヒドロ-2-(4-メトキシフェニル)-,(+)-cis-、一塩酸塩)、フェロジピン(例えば4-(2,3-ジクロロフェニル)-1,4-ジヒドロ-2,6-ジメチル-3,5-ピリジンカルボン酸エチルメチルエステル)、FS-2(例えばDendroaspis polylepis polylepis venomからの分離株)、FTX-3.3(例えばヒナタクサグモ(Agelenopsis aperta)からの分離株)、ネオマイシン硫酸塩(例えばC.sub.23H.sub.46N.sub.6O.sub.13.3H.sub.2SO.sub.4)、ニカルジピン(例えば1,4-ジヒドロ-2,6-ジメチル-4-(3-ニトロフェニル)メチル-2-[メチル(フェニルメチル)アミノ]-3,5-ピリジンジカルボン酸エチルエステル塩酸塩、またYC-93、ニフェジピン(例えば1,4- ジヒドロ-2,6-ジメチル-4-(2-ニトロフェニル)-3,5-ピリジンジカルボン酸ジメチルエステル)、ニモジピン(例えば4-ジヒドロ-2,6-ジメチル-4-(3-ニトロフェニル)-3,5-ピリジンジカルボン酸2-メトキシエチル1-メチルエチルエステル)又は(イソプロピル2-メトキシエチル1,4-ジヒドロ-2,6-ジメチル-4-(m-ニトロフェニル)-3,5-ピリジンジカルボキシラート)、ニトレンジピン(例えば1,4-ジヒドロ-2,6-ジメチル-4-(3-ニトロフェニル)-3,5-ピリジンジカルボン酸エチルメチルエステル)、S-ペタシン(S-Petasin)(例えば(3S,4aR,5R,6R)-[2,3,4,4a,5,6,7,8-オクタヒドロ-3-(2-プロペニル)-4a,5-ジメチル-2-オキソ-6-ナフチル]Z-3'-メチルチオ-1'-プロペノアート)、フロレチン(例えば2',4',6'-トリヒドロキシ-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオフェノン、また3-(4-ヒドロキシフェニル)-1-(2,4,6-トリヒドロキシフェニル)-1-プロパノン、またb-(4-ヒドロキシフェニル)-2,4,6-トリヒドロキシプロピオフェノン)、プロトピン(例えばC2OH19NO.5Cl)、SKF-96365(例えば1-[b-[3-(4-メトキシフェニル)プロポキシ]-4-メトキシフェネチル]-1H-イミダゾール、HCl)、テトランジン(Tetrandine)(例えば6,6',7,12-テトラメトキシ-2,2'-ジメチルベルバマン)、(.+-.)-メトキシベラパミル又は(+)-ベラパミル(例えば5-[N-(3,4-ジメトキシフェニルエチル)メチルアミノ]-2-(3,4-ジメトキシフェニル)-2-イソ-プロピルバレロニトリル塩酸塩)、及び(R)-(+)-Bay K8644(例えばR-(+)-1,4-ジヒドロ-2,6-ジメチル-5-ニトロ-4-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]-3-ピリジンカルボン酸メチルエステル)。前記例は、L-型電位開口型カルシウムチャネルに特異的であるか又はより広い範囲の電位開口型カルシウムチャネル、例えばN-型、P/Q-型、R-型、及びT-型を阻害しうる。
【0075】
〔エンドセリン〕
エンドセリンは、主に内皮で産生される血管収縮性ペプチドである。エンドセリンは、血圧及び血管緊張を高める。このファミリーのペプチドには、エンドセリン-1(ET-1)、エンドセリン-2(ET-2)及びエンドセリン-3(ET-3)が含まれる。これらの小型ペプチド(21個のアミノ酸)は、血管の恒常性維持において重要な役割を有する。ET-1は、大部分が血管の内皮細胞によって分泌される。優勢なET-1イソ型は脈管構造内で発現され、最も強力な血管収縮薬である。ET-1は、変力性、走化性及び分裂促進的性質をも有する。ET-1は交感神経系を刺激し、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系(RAAS)バソプレシン及び心房性ナトリウム利尿ペプチドに対するその作用を通じて塩分と水分の恒常性維持に影響を与える。エンドセリンは、既知の最強血管収縮薬の一種であり、心臓、全身循環及び脳などのいくつかの臓器系の血管疾患に関係づけられている。
【0076】
2つの重要なエンドセリン受容体の型、すなわちETA及びETBがある。ETA及びETBは、別々の薬理特性を有する。ETA受容体の親和性は、ET-3に対してよりET-1に対してずっと高い。ETA受容体は血管平滑筋細胞にあるが、内皮細胞にはない。ETAへのエンドセリンの結合は血管収縮及びナトリウムの保留を増やし、血圧上昇をもたらす。ETB受容体は主に、血管の内側を裏打ちする内皮細胞上にある。ETB受容体へのエンドセリンの結合は、ナトリウム利尿及び利尿を増やし、かつ酸化窒素を放出することによって血圧を下げる。ET-1及びET-3は、ET受容体を等しく活性化し、次にNO及びプロスタグランジンの産生による血管拡張をもたらす。エンドセリン-1(1-31)は、ETA受容体刺激による血管平滑筋収縮を引き起こし、かつETB受容体による内皮細胞内でのNO産生を誘発することも実証されている。ETB受容体は血管平滑筋内にあり、そこでETB受容体は血管収縮を媒介しうる。いくつかのエンドセリン受容体は種々の因子によって制御される。虚血及びシクロスポリンはエンドセリン受容体の数を増やすのに対して、アンギオテンシンII及びホルボールエステルはエンドセリン受容体を下方制御する。
【0077】
いくつかのペプチド及び非ペプチドETアンタゴニストが研究されている。ETA受容体アンタゴニストとしては、限定するものではないが、A-127722(非ペプチド)、ABT-627(非ペプチド)、BMS 182874(非ペプチド)、BQ-123(ペプチド)、BQ-153(ペプチド)、BQ-162(ペプチド)、BQ-485(ペプチド)、BQ-518(ペプチド)、BQ-610(ペプチド)、EMD-122946(非ペプチド)、FR 139317(ペプチド)、IPI-725(ペプチド)、L-744453(非ペプチド)、LU 127043(非ペプチド)、LU 135252(非ペプチド)、PABSA(非ペプチド)、PD 147953(ペプチド)、PD 151242(ペプチド)、PD 155080(非ペプチド)、PD 156707(非ペプチド)、RO 611790(非ペプチド)、SB-247083(非ペプチド)、クラゾセンタン(非ペプチド)、アトラセンタン(非ペプチド)、シタクスセンタンナトリウム(非ペプチド)、TA-0201(非ペプチド)、TBC 11251(非ペプチド)、TTA-386(ペプチド)、WS-7338B(ペプチド)、ZD-1611(非ペプチド)、及びアスピリン(非ペプチド)が挙げられる。ETA/B-受容体アンタゴニストとしては、限定するものではないが、A-182086(非ペプチド)、CGS 27830(非ペプチド)、CP 170687(非ペプチド)、J-104132(非ペプチド)、L-751281(非ペプチド)、L-754142(非ペプチド)、LU 224332(非ペプチド)、LU 302872(非ペプチド)、PD 142893(ペプチド)、PD 145065(ペプチド)、PD 160672(非ペプチド)、RO-470203(ボセンタン、非ペプチド)、RO 462005(非ペプチド)、RO 470203(非ペプチド)、SB 209670(非ペプチド)、SB 217242(非ペプチド)、及びTAK-044(ペプチド)が挙げられる。ETB受容体アンタゴニストとしては、限定するものではないが、A-192621(非ペプチド)、A-308165(非ペプチド)、BQ-788(ペプチド)、BQ-017(ペプチド)、IRL 1038(ペプチド)、IRL 2500(ペプチド)、PD-161721(非ペプチド)、RES 701-1(ペプチド)、及びRO 468443(ペプチド)が挙げられる。
【0078】
ET-1は、最初に212個のアミノ酸ペプチド(プレプロエンドセリン-1)に翻訳される。それがさらに分泌性配列の除去後にプロエンドセリン-1に変換される。次にプロエンドセリン-1がフューリンによって切断されて生物学的に不活性な前駆体ビッグエンドセリン-1が生成する。いくつかのエンドセリン変換酵素(ECE)の1つによってエンドセリン-1が切断されると成熟ET-1が形成される。ECE-1の2つのスプライスバリアントがあり;それはECE-1a及びECE-1bである。それぞれ機能的に異なる役割と組織分布を有する。ECE-1aはエンドセリン産生性細胞のゴルジ網内で発現され、ビッグエンドセリン-1を切断してET-1を形成する。ECE-1bは原形質膜にあり、細胞外のビッグエンドセリン-1を切断する。ECE-1aとECE-1bは両方ともメタロプロテアーゼインヒビターホスホラミドンによって阻害される。ECEは平滑筋細胞内のα-アクチンフィラメント上にもある。ホスホラミドンによるECEの阻害がビッグエンドセリン-1に対する血管収縮作用を完全に遮断する。ECEインヒビターとしては、限定するものではないが、B-90063(非ペプチド)、CGS 26393(非ペプチド)、CGS 26303(非ペプチド)、CGS 35066(非ペプチド)、ホスホラミドン(ペプチド)、PP-36(ペプチド)、SM-19712(非ペプチド)、及びTMC-66(非ペプチド)が挙げられる。
【0079】
健康な個体では、血管収縮と血管拡張の間の微妙な均衡が一方ではエンドセリン及び他の血管収縮物質によって、他方では酸化窒素、プロスタサイクリン及び他の血管拡張物質によって維持される。エンドセリン受容体アンタゴニストは、局所又は全身の血管収縮及び細胞増殖と関係がある心臓、血管及び腎臓の疾患、例えば本態性高血圧症、肺高血圧症、慢性心不全及び慢性腎不全の治療で役割がありうる。
【0080】
〔一過性受容器電位チャネル〕
一過性受容器電位(TRP)チャネルファミリーは、カルシウムチャネル群のメンバーである。これらのチャネルには、一過性受容器電位及びその相同体、バニロイド受容体亜型I、伸張を抑制できる非選択性カチオンチャネル、嗅覚の機械感受性チャネル、インスリン様成長因子I-制御型カルシウムチャネル、及びビタミンD-応答性アピカル、上皮カルシウムチャネル(ECaC)が含まれる。これらの各分子は、少なくとも700個のアミノ酸の長さであり、一定の保存構造特徴を共有する。これらの保存構造特徴のうち主なものは、6つの膜貫通ドメインであり、さらに5番目と6番目の膜貫通ドメイン間に疎水性ループが存在する。このループは膜挿入時に形成されるチャネルのポアの活性に不可欠であると考えられる。TRPチャネルタンパク質は、1つ以上のアンキリンドメインをも含み、N-末端にプロリンに富む領域を示すことが多い。
【0081】
一過性受容器電位(TRP)カチオンチャネルは血管平滑筋内に存在し、膜伸張などの刺激に対する平滑筋の脱分極性応答に関与する。ウリジン三リン酸(UTP)は、内向きの整流作用を示し、急速には脱感作されず、Gd3+によって遮断されるカチオン電流を活性化することによって、膜の脱分極及び血管平滑筋の収縮を呼び起こす。標準的な一過性受容器電位(TRPC)タンパク質は、種々の哺乳類組織内でCa2+透過性の非選択性カチオンチャネルを形成する。このファミリーのチャネル、TRPC6の1つのメンバーの抑制は、培養ウサギ門脈筋細胞内でα1-アドレナリン受容体(adenoreceptor)活性化カチオン電流を阻止すると報告されている。しかし、脳血管平滑筋内のTRPC6チャネルの抑制は、UTP-誘発膜脱分極及び血管収縮を減弱しない。対照的に、TRPC3は、TRPC6と異なり、P2Y受容体のUTP活性化後にラット大脳動脈で観察されるように、アゴニスト誘発脱分極を媒介することが分かっている。従って、血管平滑筋内のTRPC3チャネルは、抵抗サイズの大脳動脈内で血管収縮に寄与するアゴニスト誘発脱分極を媒介する。
【0082】
TRP1チャネルファミリーは、シグナル及び感覚伝達経路の整列を媒介する大群のチャネルを含む。哺乳類のTRPCサブファミリーのタンパク質は、PLC共役受容体に応じて活性化されると思われるカチオンチャネルの少なくとも7つの遺伝子コーディングの産物である。推定上のイオンチャネルサブユニットTRPC3、TRPC6、及びTRPC7は、哺乳類TRPCチャネルファミリーの構造的に関連する亜群を含む。これらのタンパク質によって形成されるイオンチャネルは、ホスホリパーゼC(PLC)の下流で活性化されると思われる。TRPC6及びTRPC7のPLC依存性活性化はジアシルグリセロールに関与することが分かっており、Gタンパク質又はイノシトール1,4,5-三リン酸(IP3)と無関係である。
【0083】
TRPCチャネルは広範に細胞型の間で発現され、受容体媒介Ca2+シグナル伝達で重要な役割を果たしうる。TRPC3チャネルは、ホスホリパーゼC共役受容体に応答して活性化されるCa2+伝導チャネルであることが知られている。TRPC3チャネルは、細胞内イノシトール1,4,5-三リン酸受容体(InsP3Rs)と直接相互作用することが示されており、そのチャネル活性化はInsP3Rsへの結合によって媒介される。
【0084】
動脈血流量を増やすか、血管収縮を阻害するか又は血管拡張を誘発するために有用な薬剤は、TRPチャネルを阻害する薬剤である。これらのインヒビターは、TRPチャネルアンタゴニストである化合物を包含する。該インヒビターは、活性インヒビター又はTRPチャネル活性インヒビターと呼ばれる。本明細書で使用する場合、用語「活性インヒビター」は、TRPチャネルを妨害又は阻止する薬剤を表す。活性インヒビターはTRPチャネルがUTPなどのアゴニストに結合する能力を妨害することができる。活性インヒビターは、TRPチャネル上の活性化結合部位と相互作用するための、TRPチャネルの天然に存在するアクチベーターと競合する薬剤でありうる。或いは、活性インヒビターは、活性化結合部位と異なる部位でTRPチャネルに結合しうるが、そうすることで、活性インヒビターは、例えば、TRPチャネルの立体構造変化を引き起こすことがあり、それが活性化結合部位に伝達され、それによって天然のアクチベーターの結合を妨げる。或いは、活性インヒビターは、TRPチャネルを妨害するのではなく、TRPチャネルの上流又は下流の成分を妨害することがある。この後者のタイプの活性インヒビターは機能性アンタゴニストと呼ばれる。活性インヒビターであるTRPチャネルインヒビターの非限定例は、塩化ガドリニウム、塩化ランタン、SKF 96365及びLOE-908である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0085】
脳血管れん縮を予防又は軽減するための現在の治療は、二次的脳損傷を予防するか又は最小限にし、カルシウムチャネルブロッカー、血行動態管理及び血管内療法を用いる措置から成る。療法は患者に予防的に開始されることが多く、以下の段階が含まれる:(段階1で)正常血液量を維持すること、血圧を管理すること、及びL-型電位開口型カルシウムチャネルアンタゴニストの経口投与などの血行動態の安定化;及び(段階2で)さらなる血行動態の操作又は血管れん縮性動脈への血管拡張薬の注入又は血管れん縮性動脈をバルーンで拡張する。しかし、上記治療は高価で、時間がかかり、かつ部分的にしか有効でない。
【0086】
35年以上の間、医師は、血管れん縮を予防又は軽減しようと努力しており、現在の薬剤の副作用又は効力の欠如のため効果が制限されていた。現在、血管れん縮の予防又は遅延型脳虚血(DCI)としても知られる遅延型虚血性神経障害の軽減用にFDAで認可された薬剤はない。現在の血管れん縮の予防法は、効力の欠如又は安全性の問題、主に高血圧及び脳水腫のため失敗している。現在、FDAで認可された唯一の利用可能な薬剤はニモジピンであり、これはSAH患者の予後を改善したが、血管れん縮を軽減しない。
【0087】
電位開口型カルシウムチャネルアンタゴニストは血管れん縮を予防し、ある程度回復させるのに有効かもしれないが、従来技術の治療与薬は、最大の薬理作用を発揮するには少なすぎる。エンドセリン受容体アンタゴニストも血管れん縮を予防し、ある程度回復させるのに有効かもしれないが、血管れん縮のこの回復又は予防は、血管れん縮の軽減によって予測されるほど顕著には予後の改善とはならない。理論によって制限されるものではないが、電位開口型カルシウムチャネルアンタゴニスト及びエンドセリン受容体アンタゴニストの全身送達は、血管れん縮に対する有利な効果を軽減する副作用、例えば、全身低血圧及び肺水腫による肺血管拡張を引き起こしうるので、より高用量の投与を妨げる。肺の血管の拡張が肺水腫及び肺損傷を引き起こすこともある。
【0088】
実験による証拠は、血管れん縮の原因である主な根底にある機構として、電位開口型カルシウムチャネルによるカルシウム流入及びエンドセリン媒介収縮の両方の役割を強く支持する。或いは、収縮は、推定上の一過性受容器電位タンパク質によるカルシウム流入のためかもしれず、これらのチャネルを遮断することも血管れん縮を予防又は回復しうる。
従って、脳血管れん縮を予防するか又は脳血管れん縮の重症度を軽減する送達システム及び/又は方法が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0089】
〔概要〕
本発明は、脳血管れん縮及び/又は他の状態、例えば頭部損傷、アテローム性動脈硬化症、若しくは血管形成術及びステント術後の狭窄の発生を予防し、かつ/又はその重症度を軽減するため少なくとも1つの脳動脈を標的とする化合物の送達システムに関する。一態様では、本発明は、ヒトの脳血管れん縮を治療する方法であって、以下の工程:a)医薬組成物を準備する工程;b)治療的に有効な量の前記医薬組成物を、くも膜下腔内の脳動脈に極めて接近した所定位置に投与する工程;c)前記医薬組成物が局所的薬理効果をもたらし、それによって脳血管れん縮を治療する工程;を含む方法を提供する。本方法の一実施形態によれば、医薬組成物は治療薬と医薬担体を含む。別の実施形態によれば、治療薬がカルシウムチャネルブロッカーである。別の実施形態によれば、治療薬がカルシウムチャネルアンタゴニストである。別の実施形態によれば、治療薬がカルシウムチャネルインヒビターである。別の実施形態によれば、治療薬が一過性受容器電位タンパク質ブロッカーである。別の実施形態によれば、治療薬がエンドセリン受容体である。別の実施形態によれば、担体がゲル化合物である。別の実施形態によれば、担体が半固体化合物である。別の実施形態によれば、担体が徐放性固体化合物である。別の実施形態によれば、治療薬が、アムロジピン、アラニジピン、アゼルニジピン、バミジピン(bamidipine)、ベニジピン、ベプリジル、シナルジピン(cinaldipine)、ジルチアゼム、エホニジピン、フェロジピン、ガロパミル、イスラジピン、ラシジピン、レミルジピン、レルカニジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、マニジピン、プラニジピン(pranidipine)、ベラパミル又はその組合せから成る群より選択される。別の実施形態によれば、治療薬が、A-127722、ABT-627、BMS 182874、BQ-123、BQ-153、BQ-162、BQ-485、BQ-518、BQ-610、EMD-122946、FR 139317、IPI-725、L-744453、LU 127043、LU 135252、PABSA、PD 147953、PD 151242、PD 155080、PD 156707、RO 611790、SB-247083、クラゾセンタン、アトラセンタン、シタクスセンタンナトリウム、TA-0201、TBC 11251、TTA-386、WS-7338B、ZD-1611、アスピリン、A-182086、CGS 27830、CP 170687、J-104132、L-751281、L-754142、LU 224332、LU 302872、PD 142893、PD 145065、PD 160672、RO-470203、ボセンタン、RO 462005、RO 470203、SB 209670、SB 217242、TAK-044、A-192621、A-308165、BQ-788、BQ-017、IRL 1038、IRL 2500、PD-161721、RES 701-1、及びRO 468443から成る群より選択される。別の実施形態によれば、治療薬が、SKF 96365及びLOE 908から成る群より選択される。別の実施形態によれば、工程(b)の所定位置が脳動脈から約0.001mm〜約10mmである。別の実施形態によれば、医薬組成物を外科的注入によって投与する。別の実施形態によれば、医薬組成物を移植によって投与する。別の態様では、本発明は、少なくとも1つの脳動脈内のくも膜下出血後の血管れん縮についてヒトを治療する方法であって、以下の工程:a)医薬組成物を準備する工程;b)治療的に有効な量の前記治療薬を脳動脈に極めて接近した所定位置に投与する工程;c)前記医薬組成物が局所的薬理効果をもたらし、それによって血管れん縮を治療する工程;を含む方法を提供する。本方法の一実施形態によれば、医薬組成物は治療薬と医薬担体を含む。別の実施形態によれば、治療薬がカルシウムチャネルブロッカーである。別の実施形態によれば、治療薬がカルシウムチャネルアンタゴニストである。別の実施形態によれば、治療薬がカルシウムチャネルインヒビターである。別の実施形態によれば、治療薬が一過性受容器電位タンパク質ブロッカーである。別の実施形態によれば、治療薬がエンドセリン受容体アンタゴニストである。別の実施形態によれば、担体がゲル化合物である。別の実施形態によれば、担体が半固体化合物である。別の実施形態によれば、担体が徐放性固体化合物である。別の実施形態によれば、治療薬が、アムロジピン、アラニジピン、アゼルニジピン、バミジピン、ベニジピン、ベプリジル、シナルジピン、ジルチアゼム、エホニジピン、フェロジピン、ガロパミル、イスラジピン、ラシジピン、レミルジピン、レルカニジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、マニジピン、プラニジピン、ベラパミル又はその組合せから成る群より選択される。別の実施形態によれば、治療薬が、A-127722、ABT-627、BMS 182874、BQ-123、BQ-153、BQ-162、BQ-485、BQ-518、BQ-610、EMD-122946、FR 139317、IPI-725、L-744453、LU 127043、LU 135252、PABSA、PD 147953、PD 151242、PD 155080、PD 156707、RO 611790、SB-247083、クラゾセンタン、アトラセンタン、シタクスセンタンナトリウム、TA-0201、TBC 11251、TTA-386、WS-7338B、ZD-1611、アスピリン、A-182086、CGS 27830、CP 170687、J-104132、L-751281、L-754142、LU 224332、LU 302872、PD 142893、PD 145065、PD 160672、RO-470203、ボセンタン、RO 462005、RO 470203、SB 209670、SB 217242、TAK-044、A-192621、A-308165、BQ-788、BQ-017、IRL 1038、IRL 2500、PD-161721、RES 701-1、及びRO 468443から成る群より選択される。別の実施形態によれば、治療薬が、SKF 96365及びLOE 908から成る群より選択される。別の実施形態によれば、工程(b)の所定位置が脳動脈から約0.001mm〜約10mmである。別の実施形態によれば、医薬組成物を移植によって投与する。別の実施形態によれば、医薬組成物を外科的注入によって投与する。
【0090】
別の態様では、本発明は、a)治療的に有効な量の治療薬、及びb)医薬担体を含む、ヒトの脳血管れん縮を治療するためのくも膜下腔内への投与用医薬組成物を提供する。
本方法の一実施形態では、治療薬が、アムロジピン、アラニジピン、アゼルニジピン、バミジピン、ベニジピン、ベプリジル、シナルジピン、ジルチアゼム、エホニジピン、フェロジピン、ガロパミル、イスラジピン、ラシジピン、レミルジピン、レルカニジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、マニジピン、プラニジピン、ベラパミル、A-127722、ABT-627、BMS 182874、BQ-123、BQ-153、BQ-162、BQ-485、BQ-518、BQ-610、EMD-122946、FR 139317、IPI-725、L-744453、LU 127043、LU 135252、PABSA、PD 147953、PD 151242、PD 155080、PD 156707、RO 611790、SB-247083、クラゾセンタン、アトラセンタン、シタクスセンタンナトリウム、TA-0201、TBC 11251、TTA-386、WS-7338B、ZD-1611、アスピリン、A-182086、CGS 27830、CP 170687、J-104132、L-751281、L-754142、LU 224332、LU 302872、PD 142893、PD 145065、PD 160672、RO-470203、ボセンタン、RO 462005、RO 470203、SB 209670、SB 217242、TAK-044、A-192621、A-308165、BQ-788、BQ-017、IRL 1038、IRL 2500、PD-161721、RES 701-1、RO 468443、SKF 96365及びLOE 908から成る群より選択される。別の実施形態によれば、治療薬がカルシウムチャネルブロッカーである。別の実施形態によれば、治療薬がカルシウムチャネルアンタゴニストである。別の実施形態によれば、治療薬がカルシウムチャネルインヒビターである。別の実施形態によれば、治療薬が一過性受容器電位タンパク質ブロッカーである。別の実施形態によれば、治療薬がエンドセリン受容体アンタゴニストである。別の実施形態によれば、医薬担体がゲル化合物である。別の実施形態によれば、別の実施形態によれば、医薬担体が徐放性固体化合物である。別の実施形態によれば、医薬担体が半固体化合物である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】脳動脈の説明図を示す。
【図2A】本発明の一実施形態の、前交通動脈へのカルシウムチャネルブロッカー、エンドセリン受容体アンタゴニスト、又は推定上の一過性受容器電位タンパク質ブロッカーゲル、徐放性固体若しくは半固体化合物の適用の典型図を示す。
【図2B】中大脳動脈へのカルシウムチャネルブロッカー、エンドセリン受容体アンタゴニスト、又は推定上の一過性受容器電位タンパク質ブロッカーゲル、徐放性固体若しくは半固体化合物の適用の一実施形態の図を示す。
【図2C】内頚動脈へのカルシウムチャネルブロッカー、エンドセリン受容体アンタゴニスト、又は推定上の一過性受容器電位タンパク質ブロッカーゲル、徐放性固体若しくは半固体化合物の適用の一実施形態の図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0092】
〔発明の詳細な説明〕
【0093】
本発明は、脳血管れん縮を予防又はその重症度を軽減するため脳動脈に送達する治療薬の送達システムに関する。さらに詳細には、本発明は、脳血管れん縮を予防又はその重症度を軽減する医薬の脳動脈への送達システムに関する。本発明は、静脈内及び動脈内送達などの以前に研究された従来技術の治療とは対照的に、該医薬の局所放出を達成し、かつ脳血管れん縮によって引き起こされる遅発性脳虚血(DCI)の軽減によって良い結果につながる、脳動脈周囲の特定領域への治療薬の送達を提供する。一態様では、本発明は、血管れん縮の発生で活性化される経路を交互に入れ替えると考えられているチャネルを遮断する活性薬として一過性受容器電位タンパク質ブロッカーの使用を提供する。
【0094】
一態様では、本発明は、カルシウムチャネルブロッカー又はカルシウムチャネルインヒビター、又はカルシウムチャネルアンタゴニスト、又はエンドセリン受容体アンタゴニスト、又は一過性受容器電位タンパク質を利用して脳血管れん縮を予防又はその重症度を軽減する改良された方法である。本明細書で使用する場合、用語「アンタゴニスト」は、別の物質の作用と対抗する物質を意味する。本明細書で使用する場合、用語「アゴニスト」は、受容体を活性化して全体的又は部分的な薬理反応を誘発することができる化学物質を意味する。本明細書で使用する場合、用語「ブロッカー」は、別の物質の生理作用を抑制する物質を意味する。本明細書で使用する場合、用語「一過性受容器電位タンパク質ブロッカー」は、他のカルシウムチャネルブロッカーと構造的に異なり、かつ受容体媒介カルシウム流入のため細胞内における細胞内カルシウムの増加を遮断するタンパク質を意味する。本明細書で使用する場合、用語「一過性受容器電位タンパク質アンタゴニスト」は、他のカルシウムチャネルアンタゴニストと構造的に異なり、かつ受容体媒介カルシウム流入のため細胞内における細胞内カルシウムの増加をアンタゴナイズするタンパク質を意味する。一過性受容器電位タンパク質ブロッカー及びアンタゴニストとしては、限定するものではないが、SK&F 96365(1-(β-[3-(4-メトキシ-フェニル)プロポキシ]-4-メトキシフェネチル)-1H-イミダゾール塩酸塩)及びLOE 908 (RS)-(3,4-ジヒドロ-6,7-ジメトキシイソキノリン-1-γ1)-2-フェニル-N,N-ジ-[2-(2,3,4-トリメトキシフェニル)エチル]アセトアミド)が挙げられる。
【0095】
別の態様では、本発明は、脳血管れん縮を予防又はその重症度を軽減するための方法を提供する。一実施形態では、本方法は、くも膜下腔内で脳動脈に極めて接近した所定位置に治療的に有効な量のカルシウムチャネルブロッカーを投与する工程を含む。別の実施形態では、本方法は、くも膜下腔内で脳動脈に極めて接近した所定位置に治療的に有効な量のカルシウムチャネルインヒビターを投与する工程を含む。別の実施形態では、本方法は、くも膜下腔内で脳動脈に極めて接近した所定位置に治療的に有効な量のカルシウムチャネルアンタゴニストを投与する工程を含む。別の実施形態では、本方法は、くも膜下腔内で脳動脈に極めて接近した所定位置に治療的に有効な量の一過性受容器電位タンパク質ブロッカーを投与する工程を含む。別の実施形態では、本方法は、くも膜下腔内で脳動脈に極めて接近した所定位置に治療的に有効な量のエンドセリン受容体アンタゴニストを投与する工程を含む。
【0096】
図1に示すように、用語「大脳動脈」は、前交通動脈、中大脳動脈、内頚動脈、前大脳動脈、眼動脈、前脈絡叢動脈、後交通動脈、及び脳底動脈などの少なくとも1つを指す。本明細書で使用する場合、「極めて接近して」という表現は、くも膜下腔内で前記動脈の約0.001mm〜約10mm以内を意味する。これらの各実施形態では、治療的に有効な量の医薬をくも膜下腔内に移植及び/又は大脳動脈(複数可)に極めて接近して置くことが望ましい。
【0097】
1種以上の活性薬の「治療的に有効な量」又は「有効量」という用語は、治療の意図した利益を与えるのに十分な量を表す。活性薬の使用可能な有効量は、一般的に0.1mg/kg(体重)及び約50mg/kg(体重)の範囲である。しかし、薬用量レベルは、種々の因子に基づき、因子としては、損傷のタイプ、年齢、体重、性別、患者の医学的状態、状態の重症度、投与経路、及び使用する特定の活性薬が挙げられる。従って、投与計画は広範に変化しうるが、標準的方法を用いて外科医が日常的に決定することができる。
【0098】
本明細書で使用する用語「治療薬」は、治療効果をもたらす薬物、分子、核酸、タンパク質、組成物又は他の物質を意味する。本明細書で使用する用語「活性」は、意図した治療効果の原因である本発明の組成物の構成要素、成分又は構成成分を指す。用語「治療薬」と「活性薬」は、相互交換可能に使用される。活性薬は、カルシウムチャネルインヒビター、カルシウムチャネルアンタゴニスト、カルシウムチャネルブロッカー、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー、又はエンドセリンアンタゴニストであってよい。
【0099】
本明細書で使用する用語「治療成分」は、一定割合の集団で特定疾患の徴候の進行を排除、低減、又は阻止する、治療的に有効な薬用量(すなわち、投与の用量と頻度)を指す。常用される治療成分の例は、ある集団の50%で特定疾患の徴候にとって治療的に有効である特定薬用量における用量を表すED50である。
【0100】
本明細書で使用する用語「治療効果」は、治療の結果、すなわち望ましく、かつ有益であると判定される治療の結果を意味する。治療効果には、直接的又は間接的に、疾患の徴候の抑止、軽減、又は排除が含まれる。また、治療効果には、直接又は間接的に疾患の徴候の進行の抑止、軽減、又は排除も含まれる。
【0101】
本明細書で使用する用語「薬物」は、治療薬又は疾患の予防、診断、軽減、治療、若しくは治癒で使用される食物以外のいずれの物質をも指す。
本明細書で使用する用語「治療」又は「治療する」とは、以下の1つ以上を達成することを意味する:(a)障害の重症度を軽減すること;(b)治療している障害の特徴的な症状の発生を制限すること;(c)治療している障害の特徴的な症状の悪化を制限すること;(d)以前に該障害にかかったことのある患者の障害の再発を制限すること;及び(e)以前に該障害の症状を示した患者の症状の再発を制限すること。
【0102】
本明細書で使用する用語「軽減」又は「軽減する」とは、該障害を発症するリスクのある個体で該障害の発生を制限することを意味する。
本明細書で使用する用語「投与する」には、in vivo投与、及び組織に直接のex vivo投与が含まれる。一般的に、所望により、通常の無毒な医薬的に許容しうる担体、アジュバント、及びビヒクルを含む用量単位製剤で組成物を経口、口腔、非経口のいずれかで全身に投与し、又は局所的に、吸入又は吹送法によって(すなわち、口又は鼻を介して)、又は直腸に投与するか、或いは限定するものではないが、注射、移入、移植、局所適用などの手段によって局所投与し、又は非経口的に投与してよい。
【0103】
本明細書で使用する用語「非経口」は、例えば、皮下(すなわち、皮膚の下への注射)、筋肉内(すなわち、筋肉内への注射)、静脈内(すなわち、静脈内への注射)、くも膜下腔内(すなわち、脊髄の回りの空間への注射又は脳のくも膜下の注射)、胸骨内注射、又は点滴法などの注入の方法で(すなわち、注射による投与)で体内に導入することを意味する。非経口投与組成物は、針、例えば外科用針を用いて送達される。本明細書で使用する「外科用針」は、流体(すなわち、流動できる)組成物を、選択した解剖学的構造内への送達に適したいずれの針をも指す。適切な分散又は湿潤剤及び懸濁剤を用いて公知技術に従って注射製剤、例えば無菌の水性又は油性注射用懸濁液を調製しうる。
【0104】
用語「局所的」は、適用点に、又はその直下に組成物を投与することを意味する。「局所的に投与する」という表現は、上皮表面などの1つ以上の表面上に適用することを意味する。局所投与は、経皮投与と対照的に、一般的に全身的よりも局所的効果をもたらす。本明細書では、特に断らない限り、用語「局所投与」及び「経皮投与」を相互交換可能に使用する。
【0105】
本明細書で使用する場合、用語「疾患」又は「障害」は、健康障害又は異常機能の状態を表す。本明細書で使用する場合、用語「症候群」は、いくつかの疾患又は状態を示すパターンの症状を意味する。本明細書で使用する場合、用語「損傷」は、物理的又は化学的であってよい外部の因子又は力によって引き起こされる体の構造又は機能に損傷を与えるか又は害を及ぼすことを表す。本明細書で使用する場合、用語「状態」は、種々の健康状態を表し、いずれかの根底にある機構又は障害、損傷によって引き起こされる障害又は疾患、並びに健康な組織及び器官の促進を包含することを意味する。
【0106】
本明細書で使用する「調節する」という用語は、一定の程度又は割合に制御、変更、適応、又は調整することを意味する。
用語「対象」又は「個体」又は「患者」は、ヒトを含めた哺乳類起源の動物種のメンバーを表すために相互交換可能に使用される。
本明細書で使用する用語「高血圧」は、高い全身血圧;心臓の血管損傷又は他の有害な結果を誘発する可能性のあるレベルへの全身血圧の一過性又は持続性上昇を意味する。
本明細書で使用する用語「低血圧」は、異常に低い全身血圧;いずれかの種類の血圧又は緊張の低下を意味する。
【0107】
本明細書では、用語「くも膜下出血」又は「SAH」を用いて、血液がくも膜の下に集まる状態を表す。くも膜下腔と呼ばれるこの領域は、一般的に脳脊髄液を含む。このくも膜下腔内に血液が蓄積すると脳卒中、発作、及び他の合併症につながることがある。さらに、SAHは、永久的な脳損傷及び脳内にいくつかの有害な生化学的事象を引き起こしうる。SAHの原因には、脳動脈瘤、血管形成異常、外傷からの出血、及び一次脳内出血からのくも膜下腔内への拡大が含まれる。SAHの症状としては、例えば、急激かつ激しい頭痛、悪心及び/又は嘔吐、髄膜刺激の症状(例えば、頚部硬直、腰背痛、両脚痛)、羞明及び視覚変化、及び/又は意識喪失が挙げられる。SAHは、多くの場合、頭部損傷又は動脈瘤として知られる血管障害の二次的なものである。場合によっては、SAHは脳血管れん縮を誘発し、次に虚血性脳卒中につながることがある。SAHの共通の徴候は、CSF内に血液が存在することである。SAHのある対象は、いくつかの症状で同定される。例えば、くも膜下出血のある対象は、一般的に大量の血液があるくも膜下を呈する。くも膜下出血のある対象は、平均動脈圧を近似する頭蓋内圧によって、又は脳灌流圧の降下によって、又は急激な一過性意識喪失(時には激しい頭痛が先行する)によっても同定される。およそ半分の症例では、激しい頭痛を示し、労作を伴うこともある。くも膜下出血に伴う他の症状として、悪心、嘔吐、記憶損失、不全片麻痺及び失語症が挙げられる。SAHのある対象は、そのCSF内のクレアチンキナーゼBBイソ酵素活性の存在によって同定されることもある。この酵素は脳内に富むが、一般的にCSF内には存在しない。従って、CSF内におけるその存在は、脳からくも膜下腔内への「漏出」を示唆している。CSF内のクレアチンキナーゼBBイソ酵素活性のアッセイはCoplinら(Coplin et al 1999 Arch Neurol 56, 1348-1352)に記載されている。さらに、脊椎穿刺又は腰椎穿刺を用いて、くも膜下出血の強い徴候であるCSF内に血液が存在するかを実証してもよい。頭蓋CTスキャン又はMRIを用いてくも膜下領域内の血液を同定することもできる。また、血管造影法を用いて、出血が起こったかのみならず、出血の位置をも決定することができる。くも膜下出血は、一般的に頭蓋内嚢状動脈瘤の破裂又は脳内又は脳につながる動静脈系の奇形の結果として生じる。従って、くも膜下出血を有するリスクのある対象には、嚢状動脈瘤のある対象及び動静脈系の奇形のある対象が含まれる。嚢状動脈瘤の共通部位は、脳底動脈の頂部及び脳底動脈と上小脳動脈又は前下小脳動脈の接合部である。くも膜下出血のある対象は、目の検査によって同定され、緩徐な目の動きは脳損傷を示唆しうる。嚢状動脈瘤のある対象は、日常的な医学的画像処理技術、例えばCT及びMRIによって同定される。嚢状動脈瘤及び脳動脈瘤は、キノコ様又は桑実様形状を形成する(「首のあるドーム」と呼ばれることもある)。
【0108】
本明細書で使用する用語「血管れん縮」は、動脈壁内の平滑筋の収縮の結果生じる脳動脈の内径の急な減少を指し、血液流量の減少をもたらす、一般的に全身の血管抵抗の増加はない。血管れん縮の結果として、脳血流量が減少し、脳血管抵抗が増すこととなる。理論によって制限されるものではないが、血管れん縮は、血管に対する局所的損傷、例えば、アテローム性動脈硬化症並びに外傷性頭部損傷、動脈瘤のくも膜下出血及び他の原因のくも膜下出血などの他の構造損傷の結果として生じる血管に対する局所的損傷によって引き起こされると考えられる。脳血管れん縮は、CSN内の血液の存在によって誘発されうる自然に起こる血管収縮であり、動脈瘤の破裂後又は外傷性脳損傷に続いて一般に起こる。脳血管れん縮は、血液供給の中断のため、脳の虚血及び梗塞の形態で、究極的に脳細胞傷害につながることがある。本明細書で使用する用語「脳血管れん縮」は、くも膜下出血後の脳の基底部における大容量動脈の狭小化の遅延性発生を指し、冒された血管に遠位の領域内の灌流低下を伴うことが多い。脳血管れん縮は、動脈瘤の破裂後いつでも起こりうるが、最も一般的には、出血後7日にピークがあり、体が血液を吸収した場合には14日以内に回復することが多い。
【0109】
本明細書で使用する「血管れん縮のある対象」という表現は、血管れん縮と関連する診断マーカー及び症状を示す対象を意味する。診断マーカーには、限定するものではないが、CSF内の血液の存在及び/又はくも膜下出血の最近の病歴が含まれる。血管れん縮関連症状としては、限定するものではないが、体の片側の麻痺、言葉を声に出せないこと又は話す言葉若しくは書かれた言葉を理解できないこと、並びに空間分析を要する課題を行えないことが挙げられる。このような症状は、数日にわたって生じることもあり、或いはその出現がゆらぐこともあり、或いは症状が突然現れることもある。本明細書で使用する用語「脳血管れん縮のある対象」は、脳血管れん縮の症状を有するか又は脳血管れん縮と診断されたことがある対象を意味する。
【0110】
脳血管れん縮のリスクのある対象は、脳血管れん縮の発生の1つ以上の病因を有する対象である。病因には、限定するものではないが、くも膜下出血の発生が含まれる。最近、SAHを体験した対象は、最近SAHを体験したことがない対象より脳血管れん縮の発生の有意に高いリスクがある。MR血管造影術、CT血管造影術及びカテーテル血管造影術を用いて脳血管れん縮を診断することができる。血管造影術は、造影剤を血流に導入して、血流及び/又は動脈を視察する技術である。血流及び/又は動脈は定型的なMRスキャンでは弱くしか現れないことがあるので、造影剤が必要である。適切な造影剤は、使用する画像処理法によって変わるだろう。例えば、MRスキャンでは造影剤として一般的にガドリニウムを使用する。他のMRの適切な造影剤は技術上周知である。
【0111】
経頭蓋ドプラ超音波法を用いて、血管れん縮の進行を診断及びモニターすることもできる。前述したように、CTスキャンを利用して脳脊髄液内の血液の存在を検出することができる。しかし、CTで検出するには血液の量が少なすぎる場合には、腰椎穿刺が是認される。血管れん縮のリスクがある対象には、脳脊髄液内に検出可能な血液がある対象、又はCTスキャンで検出した場合に検出可能な動脈瘤があるが、まだ血管れん縮を有することに付随する症状を体験し始めていない対象が含まれる。血管れん縮のリスクがある対象は、外傷性頭部損傷を体験したことがある対象でもありうる。外傷性頭部損傷は、一般的に固体の落下又は固体との強力な接触という形の頭部領域への物理的な力の結果生じる。血管れん縮のリスクがある対象には、最近(例えば、最近2週間又は数カ月以内に)くも膜下出血を体験した当該対象も含まれる。
【0112】
本明細書に記載のカルシウムチャネルインヒビター、アンタゴニスト、及びブロッカーは単離分子である。単離分子は、実質的に純粋であり、意図した用途に実用的かつ適切な程度まで、天然又はin vivo系内で普通は見られる他の物質が無い分子である。特に、カルシウムチャネルインヒビター、アンタゴニスト、及びブロッカーは、例えば、医薬製剤を製造するか、又はカルシウムチャネルインヒビター、アンタゴニスト、又はブロッカーが核酸、ペプチド、若しくは多糖の場合には配列決定するのに役立つように、十分に純粋であり、かつ宿主細胞の他の生体構成成分が十分には無い。カルシウムチャネルインヒビター、カルシウムチャネルブロッカー、又はカルシウムチャネルアンタゴニストは、医薬製剤において医薬的に許容しうる担体と混合してよいので、カルくシウムチャネルインヒビター、カルシウムチャネルブロッカー、又はカルシウムチャネルアンタゴニストは、製剤の小割合のみを構成してよい。それにもかかわらず、カルシウムチャネルインヒビター、カルシウムチャネルブロッカー、又はカルシウムチャネルアンタゴニストは、それが実質的に生体系内又は合成中に付随しうる物質から分離されているという意味で実質的に純粋である。
【0113】
本発明の一態様では、血管れん縮を有するか又は血管れん縮を有するリスクのある対象に、血管れん縮を治療するために治療的に有効な量のカルシウムチャネルインヒビターを投与する。血管れん縮を治療するために治療的に有効な量は、血管れん縮に関連する1つ以上の症状、好ましくは血管れん縮の結果生じる脳損傷、例えば梗塞を含めた症状を全部で寛解させ、軽減し、又は排除するのに必要な量であってよい。脳損傷を医学的画像処理法で解剖学的に計測して、梗塞サイズを測定しうる。これとは別にか又はこれと併せて、脳損傷を対象の認知、感覚若しくは運動又は他のスキルについて機能的に測定することができる。別の実施形態では、血管れん縮を有するか又は血管れん縮を有するリスクのある対象に、血管れん縮を治療するために治療的に有効な量のカルシウムチャネルブロッカーを投与する。別の実施形態では、血管れん縮を有するか又は血管れん縮を有するリスクのある対象に、血管れん縮を治療するために治療的に有効な量のカルシウムチャネルアンタゴニストを投与する。血管れん縮を有するか又は血管れん縮を有するリスクのある対象に、血管れん縮を治療するために治療的に有効な量の一過性受容器電位タンパク質ブロッカーを投与する。血管れん縮を有するか又は血管れん縮を有するリスクのある対象に、血管れん縮を治療するために治療的に有効な量のエンドセリンアンタゴニストを投与する。
インヒビターを他の治療薬、例えば抗高血圧薬及び/又は抗脳血管れん縮薬と併用し、局所投与してよい。インヒビターと他の治療薬を同時又は逐次投与してよい。他の治療薬を同時に投与する場合、他の治療薬を同一又は別の製剤で投与してよいが、同時に投与する。他の治療薬とインヒビターの投与が時間的に離れる場合、他の治療薬を互いにインヒビターと逐次的に投与する。これらの薬剤の投与間の時間の間隔は、およそ数分でよく、又はそれより長くてもよい。治療薬は、カルシウムチャネルアンタゴニスト、カルシウムチャネルブロッカー、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー、又はエンドセリンアンタゴニストであってよい。
【0114】
カルシウムチャネルブロッカー、カルシウムチャネルインヒビター、又はカルシウムチャネルアンタゴニストは、L-型カルシウムチャネル、R-型カルシウムチャネル、N-型カルシウムチャネル、P/Q-型カルシウムチャネル及びT-型 カルシウムチャネルなどの電位開口型カルシウムチャネルに対して有効な薬剤であってよい。薬剤には、いくつかの医薬のいずれかが含まれ、限定するものではないが、アムロジピン、アラニジピン、アゼルニジピン、バミジピン、ベニジピン、ベプリジル、シナルジピン、クレビジピン(clevidipine)、ジルチアゼム、エホニジピン、フェロジピン、ガロパミル、イスラジピン、ラシジピン、レミルジピン、レルカニジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、マニジピン、プラニジピン、ベラパミル又はその組合せが挙げられる。
【0115】
一態様では、本発明は、カルシウムチャネルアンタゴニストニモジピンの送達システムを提供する。ニモジピンは高い効力、必要な7〜10日持続するのに十分長い半減期、及び適切な脂質溶解度を有する。治療的に有効な薬用量で外科的に移植すると、ニモジピンは望ましくない副作用なしで血管れん縮を予防できる。
別の態様では、本発明は、エンドセリン受容体アンタゴニストクラゾセンタンの送達システムを提供する。クラゾセンタンは、脳動脈上の収縮性エンドセリン受容体に対して高い効力を有する。治療的に有効な薬用量で外科的に移植すると、それは望ましくない副作用なしで血管れん縮を予防できる。
【0116】
別の態様では、本発明は、エンドセリン受容体アンタゴニストアトラセンタンの送達システムを提供する。アトラセンタンは、脳動脈上の収縮性エンドセリン受容体に対して高い効力及び必要な7〜10日持続するのに十分長い半減期を有する。治療的に有効な薬用量で外科的に移植すると、それは望ましくない副作用なしで血管れん縮を予防できる。
【0117】
別の態様では、本発明は、一過性受容器電位アンタゴニストSKF 96365の送達システムを提供する。SKF 96365は、脳動脈上の一過性受容器電位タンパク質を部分的に構成する非選択性カチオンチャネルに対して高い効力を有する。治療的に有効な薬用量で外科的に移植すると、それは望ましくない副作用なしで血管れん縮を予防できる。
【0118】
別の態様では、本発明は、一過性受容器電位アンタゴニストLOE 908の送達システムを提供する。LOE 908は、脳動脈上の一過性受容器電位タンパク質を部分的に構成する非選択性カチオンチャネルに対して高い効力を有する。治療的に有効な薬用量で外科的に移植すると、それは望ましくない副作用なしで血管れん縮を予防できる。
【0119】
別の態様では、本発明は、カルシウムチャネルアンタゴニストクレビジピンの送達システムを提供する。クレビジピンは血漿エステラーゼによって迅速に代謝され、治療的に有効な薬用量で外科的に移植すると、望ましくない副作用なしで血管れん縮を予防できる。クレビジピンは血漿エステラーゼによって代謝されるので、全身の副作用の徴候、主に低血圧が軽減又は排除されるであろう。
別の態様では、本発明は、カルシウムチャネルアンタゴニストニモジピンの送達システムを提供する。
【0120】
別の実施形態では、本発明は、脳血管れん縮を予防又はその重症度を軽減する方法であって、ゲル、徐放性固体又は半固体化合物を、場合によっては持続放出ゲル、徐放性固体又は半固体化合物として移植する工程を含み、前記ゲル、徐放性固体又は半固体化合物が、治療的に有効な量の活性薬及び被膜を含む、方法を提供する。活性成分は、上記カルシウムチャネルアンタゴニスト、カルシウムチャネルインヒビター、カルシウムチャネルブロッカー、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー、又はエンドセリンアンタゴニストのいずれであってもよい。いくつかの該実施形態では、カルシウムチャネルアンタゴニストがニカルジピン又はニモジピンである。いくつかの該実施形態では、カルシウムチャネルアンタゴニストがクレビジピンである。いくつかの該実施形態では、カルシウムチャネルアンタゴニストがニモジピンである。いくつかの該実施形態では、活性成分が一過性受容器電位タンパク質ブロッカーである。いくつかの該実施形態では、一過性受容器電位タンパク質ブロッカーがSKF 96365である。いくつかの該実施形態では、一過性受容器電位タンパク質ブロッカーがLOE 908である。いくつかの該実施形態では、活性成分がエンドセリンアンタゴニストである。いくつかの該実施形態では、エンドセリンアンタゴニストがクラゾセンタンである。いくつかの該実施形態では、エンドセリン受容体アンタゴニストがアトラセンタンである。被膜は、いずれの所望材料のものでもよく、好ましくはポリマー又は異なるポリマーの混合物である。任意に、ポリマーを顆粒化段階中に利用して、活性成分の所望放出パターンを得るように、活性成分とのマトリックスを形成してもよい。ゲル、徐放性固体又は徐放性半固体化合物を、脳動脈に極めて接近して移植することによって、活性薬の放出が局所的な薬理作用をもたらす。
【0121】
本方法の別の実施形態では、本方法は、患者に、ニカルジピンゲル、ニカルジピン徐放性固体を外科的に移植若しくは注入するか又はニカルジピン半固体化合物を外科的に移植若しくは注入して、血管れん縮の部位に薬物を送達する工程を含む。ニカルジピンゲル、ニカルジピン徐放性固体若しくはニカルジピン半固体薬を該部位に特異的に(局所的に)送達するので、血管れん縮を予防するために必要な薬用量は、全身のより高用量の投与を妨げる主な副作用、例えば低血圧を軽減、防止又は回避するのに適するであろう。さらに、ニカルジピンの高い効力、最適な半減期、及び適切な脂質溶解特性のため、有効量のこの薬剤を特異的部位に送達する(望ましくない副作用なしで)ことが望ましい。一過性受容器電位タンパク質ブロッカー又はエンドセリンアンタゴニストの場合でこれもそうであろう。
【0122】
別の実施形態では、本方法は、クレビジピンゲル、クレビジピン徐放性固体又はクレビジピン半固体薬を外科的に移植又は注入して、血管れん縮の部位に薬物を送達する工程を含む。クレビジピンゲル、クレビジピン徐放性固体又はクレビジピン半固体化合物を該部位に特異的に(局所的に)送達するので、血管れん縮を予防するために必要な薬用量は適切であり、全身のより高用量の投与を妨げる主な副作用、例えば低血圧を軽減、防止又は回避できる。さらに、クレビジピンの高い効力、最適な半減期、及び適切な脂質溶解特性のため、有効量のこの薬物を特異的部位に送達することが(望ましくない副作用なしで)望ましい。
【0123】
別の実施形態では、本方法は、ニモジピンゲル、ニモジピン徐放性固体又はニモジピン半固体薬を外科的に移植又は注入して、血管れん縮の部位に薬物を送達する工程を含む。ニモジピンゲル、ニモジピン徐放性固体又はニモジピン半固体化合物を該部位に局所的に送達するので、血管れん縮を予防するために必要な薬用量は適切であり、全身のより高用量の投与を妨げる主な副作用、例えば低血圧を軽減、防止又は回避できる。
【0124】
別の実施形態では、本方法は、一過性受容器電位タンパク質ブロッカーゲル、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー徐放性固体又は一過性受容器電位タンパク質ブロッカー半固体薬を外科的に移植又は注入して、血管れん縮の部位に薬物を送達する工程を含む。一過性受容器電位タンパク質ブロッカーゲル、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー徐放性固体又は一過性受容器電位タンパク質ブロッカー半固体化合物を該部位に局所的に送達するので、血管れん縮を予防するために必要な薬用量は適切であり、全身のより高用量の投与を妨げる主な副作用、例えば低血圧を軽減、防止又は回避しうる。
【0125】
別の実施形態では、本方法は、エンドセリンアンタゴニストゲル、エンドセリンアンタゴニスト徐放性固体又はエンドセリンアンタゴニスト半固体薬を外科的に移植又は注入して、血管れん縮の部位に薬物を送達する工程を含む。エンドセリンアンタゴニストゲル、エンドセリンアンタゴニスト徐放性固体又はエンドセリンアンタゴニスト半固体化合物を該部位に局所的に送達するので、血管れん縮を予防するために必要な薬用量は適切であり、全身のより高用量の投与を妨げる主な副作用、例えば低血圧を軽減、防止又は回避しうる。
【0126】
一実施形態では、標的脳動脈に極めて接近してゲル、徐放性固体又は半固体薬を外科的に移植又は注入する工程を含む。所望又は必要に応じて、ゲル、徐放性固体又は半固体薬を脳動脈に近く配置して、所望の局所的薬理効果をもたらしうる。
【0127】
1つの該実施形態では、ゲル、徐放性固体又は半固体薬の分布を前交通動脈動脈瘤に合わせうる。別のいくつかの該実施形態では、ゲル、徐放性固体又は半固体薬の分布を中脳動脈動脈瘤に合わせうる。別のいくつかの該実施形態では、ゲル、徐放性固体又は半固体薬の分布を内頚動脈動脈瘤に合わせうる。別のいくつかの該実施形態では、ゲル、徐放性固体又は半固体薬の分布を、くも膜下腔内の他のところにある動脈瘤に合わせうる。いくつかの該実施形態では、ゲルがカルシウムチャネルブロッカーゲルである。いくつかの該実施形態では、ゲルがカルシウムチャネルアンタゴニストゲルである。いくつかの該実施形態では、ゲルがカルシウムチャネルブロッカーゲルである。いくつかの該実施形態では、ゲルがカルシウムチャネルインヒビターゲルである。いくつかの該実施形態では、ゲルが一過性受容器電位タンパク質ブロッカーゲルである。いくつかの該実施形態では、ゲルがエンドセリンアンタゴニストゲルである。いくつかの該実施形態では、徐放性固体薬がカルシウムチャネルブロッカー徐放性固体薬である。いくつかの該実施形態では、徐放性固体薬がカルシウムチャネルアンタゴニスト徐放性固体薬である。いくつかの該実施形態では、徐放性固体薬がカルシウムチャネルブロッカー徐放性固体薬である。いくつかの該実施形態では、徐放性固体薬がカルシウムチャネルインヒビター徐放性固体薬である。いくつかの該実施形態では、徐放性固体薬が一過性受容器電位タンパク質ブロッカー徐放性固体薬である。いくつかの該実施形態では、徐放性固体薬がエンドセリンアンタゴニスト徐放性固体薬である。いくつかの該実施形態では、半固体薬がカルシウムチャネルブロッカー半固体薬である。いくつかの該実施形態では、半固体薬がカルシウムチャネルアンタゴニスト半固体薬である。いくつかの該実施形態では、半固体薬がカルシウムチャネルブロッカー半固体薬である。いくつかの該実施形態では、半固体薬がカルシウムチャネルインヒビター半固体薬である。いくつかの該実施形態では、半固体薬が一過性受容器電位タンパク質ブロッカー半固体薬である。いくつかの該実施形態では、半固体薬がエンドセリンアンタゴニスト半固体薬である。
【0128】
別の実施形態では、本発明は、脳血管れん縮を治療する方法であって、治療的に有効な量のカルシウムチャネルブロッカー、カルシウムチャネルアンタゴニスト、カルシウムチャネルインヒビター、エンドセリン受容体アンタゴニスト、又は一過性受容器電位タンパク質ブロッカーを準備する工程;及び前記治療的に有効な量のカルシウムチャネルブロッカー、カルシウムチャネルアンタゴニスト、カルシウムチャネルインヒビター、エンドセリン受容体アンタゴニスト、又は一過性受容器電位タンパク質ブロッカーをくも膜下腔内で脳動脈に極めて接近した所定位置に投与する工程を含む方法を提供する。別の実施形態では、治療薬を脳動脈に極めて接近した所定位置に皮下投与する。別の実施形態では、脳動脈が、内頚動脈、前大脳動脈、前交通動脈、後交通動脈、中大脳動脈、後大脳動脈、脳底動脈又は椎骨動脈を含む。
【0129】
一実施形態では、本方法は、図2A〜2Cに示すように、ニカルジピンゲル、ニカルジピン徐放性固体又はニカルジピン半固体薬を標的脳動脈に極めて接近して外科的に移植又は注入する工程を含む。所望又は必要に応じて、ニカルジピンゲル、ニカルジピン徐放性固体又はニカルジピン半固体薬を脳動脈に近く配置して、所望の局所化薬理効果をもたらすことができる。図2Aに示す1つの該実施形態では、ニカルジピンゲル、ニカルジピン徐放性固体又はニカルジピン半固体薬の分布を前交通動脈動脈瘤に合わせうる。図2Bに示す別のいくつかの該実施形態では、ニカルジピンゲル、ニカルジピン徐放性固体又はニカルジピン半固体薬の分布を中大脳動脈動脈瘤に合わせうる。図2Cに示す別のいくつかの該実施形態では、ニカルジピンゲル、ニカルジピン徐放性固体又はニカルジピン半固体薬の分布を頭蓋内動脈動脈瘤に合わせうる。別のいくつかの該実施形態では、ニカルジピンゲル、ニカルジピン徐放性固体又はニカルジピン半固体薬の分布をくも膜下腔内の他のところにある動脈瘤に合わせうる。
【0130】
別の実施形態では、本方法は、図2A〜2Cに示すように、クレビジピンゲル、クレビジピン徐放性固体又はクレビジピン半固体薬を標的脳動脈に極めて接近して外科的に移植又は注入する工程を含む。所望又は必要に応じて、クレビジピンゲル、クレビジピン徐放性固体又はクレビジピン半固体薬を脳動脈に近く配置して、所望の局所化薬理効果をもたらすことができる。図2Aに示す1つの該実施形態では、クレビジピンゲル、クレビジピン徐放性固体又はクレビジピン半固体薬の分布を前交通動脈動脈瘤に合わせうる。図2Bに示す別のいくつかの該実施形態では、クレビジピンゲル、クレビジピン徐放性固体又はクレビジピン半固体薬の分布を中大脳動脈動脈瘤に合わせうる。図2Cに示す別のいくつかの該実施形態では、クレビジピンゲル、クレビジピン徐放性固体又はクレビジピン半固体薬の分布を頭蓋内動脈動脈瘤に合わせうる。別のいくつかの該実施形態では、クレビジピンゲル、クレビジピン徐放性固体又はクレビジピン半固体薬の分布をくも膜下腔内の他のところにある動脈瘤に合わせうる。
【0131】
別の実施形態では、本方法は、ニモジピンゲル、ニモジピン徐放性固体又はニモジピン半固体薬を標的脳動脈に極めて接近して外科的に移植又は注入する工程を含む。所望又は必要に応じて、ニモジピンゲル、ニモジピン徐放性固体又はニモジピン半固体薬を脳動脈に近く配置して、所望の局所化薬理効果をもたらすことができる。1つの該実施形態では、ニモジピンゲル、ニモジピン徐放性固体又はニモジピン半固体薬の分布を前交通動脈動脈瘤に合わせうる。別のいくつかの該実施形態では、ニモジピンゲル、ニモジピン徐放性固体又はニモジピン半固体薬の分布を中大脳動脈動脈瘤に合わせうる。別のいくつかの該実施形態では、ニモジピンゲル、ニモジピン徐放性固体又はニモジピン半固体薬の分布を頭蓋内動脈動脈瘤に合わせうる。別のいくつかの該実施形態では、ニモジピンゲル、ニモジピン徐放性固体又はニモジピン半固体薬の分布をくも膜下腔内の他のところにある動脈瘤に合わせうる。
【0132】
別の実施形態では、本方法は、図2A〜2Cに示すように、一過性受容器電位タンパク質ブロッカーゲル、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー徐放性固体又は一過性受容器電位タンパク質ブロッカー半固体薬を標的脳動脈に極めて接近して外科的に移植又は注入する工程を含む。所望又は必要に応じて、一過性受容器電位タンパク質ブロッカーゲル、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー徐放性固体又は一過性受容器電位タンパク質ブロッカー半固体薬を脳動脈に近く配置して、所望の局所化薬理効果をもたらすことができる。図2Aに示す1つの該実施形態では、一過性受容器電位タンパク質ブロッカーゲル、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー徐放性固体又は一過性受容器電位タンパク質ブロッカー半固体薬の分布を前交通動脈動脈瘤に合わせうる。図2Bに示す別のいくつかの該実施形態では、一過性受容器電位タンパク質ブロッカーゲル、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー徐放性固体又は一過性受容器電位タンパク質ブロッカー半固体薬の分布を中大脳動脈動脈瘤に合わせうる。図2Cに示す別のいくつかの該実施形態では、一過性受容器電位タンパク質ブロッカーゲル、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー徐放性固体又は一過性受容器電位タンパク質ブロッカー半固体薬の分布を頭蓋内動脈動脈瘤に合わせうる。別のいくつかの該実施形態では、一過性受容器電位タンパク質ブロッカーゲル、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー徐放性固体又は一過性受容器電位タンパク質ブロッカー半固体薬の分布をくも膜下腔内の他のところにある動脈瘤に合わせうる。
【0133】
別の実施形態では、本方法は、図2A〜2Cに示すように、エンドセリンアンタゴニストゲル、エンドセリンアンタゴニスト徐放性固体又はエンドセリンアンタゴニスト半固体薬を標的脳動脈に極めて接近して外科的に移植又は注入する工程を含む。所望又は必要に応じて、エンドセリンアンタゴニストゲル、エンドセリンアンタゴニスト徐放性固体又はエンドセリンアンタゴニスト半固体薬を脳動脈に近く配置して、所望の局所化薬理効果をもたらすことができる。図2Aに示す1つの該実施形態では、エンドセリンアンタゴニストゲル、エンドセリンアンタゴニスト徐放性固体又はエンドセリンアンタゴニスト半固体薬の分布を前交通動脈動脈瘤に合わせうる。別のいくつかの該実施形態では、エンドセリンアンタゴニストゲル、エンドセリンアンタゴニスト徐放性固体又はエンドセリンアンタゴニスト半固体薬の分布を中大脳動脈動脈瘤に合わせうる。図2Cに示す別のいくつかの該実施形態では、エンドセリンアンタゴニストゲル、エンドセリンアンタゴニスト徐放性固体又はエンドセリンアンタゴニスト半固体薬の分布を頭蓋内動脈動脈瘤に合わせうる。別のいくつかの該実施形態では、エンドセリンアンタゴニストゲル、エンドセリンアンタゴニスト徐放性固体又はエンドセリンアンタゴニスト半固体薬の分布をくも膜下腔内の他のところにある動脈瘤に合わせうる。
【0134】
別の態様では、本発明は、治療的に有効な量のカルシウムチャネルブロッカーを少なくとも1つの脳動脈に極めて接近した所定位置に硬膜下、くも膜下、又は軟膜下投与する工程を含む方法を提供する。治療的に有効な量のカルシウムチャネルブロッカーを少なくとも1つの脳動脈に極めて接近した所定位置に硬膜下、くも膜下、又は軟膜下に移植することが望ましい。
【0135】
〔組成物〕
組成物を治療的に有効な量で送達する。用語「有効な量」は、所望の生物学的効果を実現するために必要又は十分な量を意味する。本明細書で提供する教示と併せて、種々の活性化合物の中から選択し、効力、相対的なバイオアベイラビリティー、患者の体重、副作用の重大度及び好ましい投与様式などの因子の重みを加えることによって、実質的な毒性をもたらさないで特定の対象を治療するのに有効な予防処置又は治療処置計画を立てることができる。いずれかの特定用途に有効な量は、治療する疾患若しくは状態、投与する特定のカルシウムチャネルインヒビター、カルシウムチャネルアンタゴニスト、カルシウムチャネルブロッカー、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー、若しくはエンドセリンアンタゴニスト、対象の大きさ、又は疾患若しくは状態の重症度のような因子によって変化しうる。当技術分野の当業者は、過度の実験を必要とすることなく、特定のインヒビター及び/又は他の治療薬の有効な量を経験的に決定することができる。一般的に、最高用量、すなわち、何らかの医学的判断に従う最高の安全用量を使用することが好ましい。本明細書では「用量」と「薬用量」を相互交換可能に使用する。
【0136】
本明細書に記載のいずれの化合物についても、最初に、予備的なin vitro試験及び/又は動物モデルから治療的に有効な量を決定することができる。ヒトで試験したことがあるカルシウムチャネルインヒビター、カルシウムチャネルアンタゴニスト、カルシウムチャネルブロッカー、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー、又はエンドセリンアンタゴニストのヒトデータ及び同様の薬理活性を示すことが分かっている化合物、例えば他の関連活性薬のヒトデータから治療的に有効な量を決定することもできる。投与化合物の相対的バイオアベイラビリティー及び効力に基づいて適用量を調整しうる。上述した方法及び技術上周知の他の方法に基づいて用量を調整して最大効力を達成することは、当業者の能力の十分範囲内である。
【0137】
日常的に医薬的に許容しうる濃度の塩、緩衝剤、保存剤、適合担体、アジュバント、及び必要に応じて他の治療成分を含有しうる医薬的に許容しうる溶液で、カルシウムチャネルインヒビター、カルシウムチャネルアンタゴニスト、カルシウムチャネルブロッカー、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー、又はエンドセリンアンタゴニストの製剤を投与しうる。
【0138】
治療用途では、インヒビターを所望表面に送達するいずれの様式によって対象に有効量のカルシウムチャネルインヒビター、カルシウムチャネルアンタゴニスト、カルシウムチャネルブロッカー、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー、又はエンドセリンアンタゴニストを与してもよい。当業者に既知のいずれの手段によっても医薬組成物の投与を達成することができる。投与経路としては、限定するものではないが、くも膜下腔内、動脈内、非経口(すなわち静脈内)、又は筋肉内が挙げられる。根底にある状態又はくも膜下出血などの副作用を治療するため外科手術中又は動脈内手順中に対象にインヒビター及び他の治療薬を送達しうる。
【0139】
カルシウムチャネルインヒビター、カルシウムチャネルアンタゴニスト、カルシウムチャネルブロッカー、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー、又はエンドセリンアンタゴニストを局所送達することが望ましい場合、注入、例えばボーラス注入又は持続点滴によって非経口投与用にそれらを製剤化しうる。単位剤形、例えば、保存剤を添加したアンプル又は多用量容器内で注入用製剤を提供することができる。組成物は、油性若しくは水性ビヒクル中の懸濁液、溶液又はエマルションの形を取ることができ、懸濁剤、安定剤及び/又は分散剤などの製剤化に必要な薬剤を含むことができる。非経口投与用の医薬製剤には、水に溶ける形の活性化合物の水溶液が含まれる。さらに、活性化合物の懸濁液を適切な油性注入懸濁液として調製することができる。適切な親油性溶媒又はビヒクルとしては、ゴマ油などの脂肪油、又はオレイン酸エチルなどの合成脂肪酸エステル又はトリグリセリド、又はリソソームが挙げられる。水性注入懸濁液は、該懸濁液の粘度を高める物質、例えばナトリウムカルボキシセルロース、ソルビトール、又はデキストランを含むことができる。任意に、懸濁液は、適切な安定剤又は該化合物の溶解度を高めて高濃度溶液を調製できるようにする薬剤を含んでもよい。或いは、活性化合物は、使用前に適切なビヒクル、例えば、発熱物質なしの無菌水で構成するための散剤形であってもよい。
【0140】
医薬組成物は、適切な固体若しくはゲル相担体又は賦形剤を含むこともできる。該担体又は賦形剤の例としては、限定するものではないが、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、及びポリマー、例えばポリエチレングリコールが挙げられる。
【0141】
適切な液体又は固体医薬製剤形は、例えば、マイクロカプセル化され、妥当な場合には1種以上の賦形剤と共に、渦巻状化される(encochleated)か、微視的金粒子上にコーティングされるか、リポソーム中に含まれるか、組織への移植用のペレットか、又は組織に擦り込まれる物体上で乾燥させられる。このような医薬組成物は、活性化合物が遅延放出する顆粒、ビーズ、散剤、錠剤、コーディング錠、(マイクロ)カプセル剤、座剤、シロップ、エマルション、懸濁液、クリーム、液滴又は製剤の形態であってもよい。上述したように、これらの製剤の賦形剤及び添加剤及び/又は補助剤、例えば崩壊剤、結合剤、コーディング剤、湿潤剤、潤沢剤、又は安定剤が常用される。本医薬組成物は、種々の薬物送達システムで使うのに適している。薬物送達方法の簡単な総説については、参照によって本明細書に組み込まれるLanger 1990 Science 249, 1527-1533を参照されたい。
【0142】
カルシウムチャネルインヒビター、カルシウムチャネルブロッカー、及び/又はカルシウムチャネルアンタゴニスト、並びに必要に応じて他の治療薬をそれ自体(ニート(neat))又は医薬的に許容しうる塩の形で投与してよい。他の治療薬には、限定するものではないが、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー及びエンドセリンアンタゴニストが含まれる。医薬に使用する場合、塩は医薬的に許容しうるべきであるが、便宜上医薬的に許容しえない塩を用いてその医薬的に許容しうる塩を調製することができる。該塩としては、限定するものではないが、以下の酸:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸、ナフタレン-2-スルホン酸、及びベンゼンスルホン酸から調製される当該塩が挙げられる。また、該塩をアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、例えばカルボン酸基のナトリウム、カリウム又はカルシウム塩として調製することもできる。「医薬的に許容しうる塩」とは、ゾンデ医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応等なしでヒト及び下等動物の組織と接触して使うのに適し、かつ合理的な利益/危険比で釣り合っている当該塩を意味する。医薬的に許容しうる塩は、技術上周知である。例えば、P. H. Stahlらは、「Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use」(Wiley VCH, Zurich, Switzerland: 2002)で医薬的に許容しうる塩について詳述している。本発明内で開示する化合物の最終単離又は精製中に塩をin situ調製するか、又は遊離塩基官能を適切な有機酸と反応させることによって個別に塩を調製しうる。代表的な酸付加塩として、限定するものではないが、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、樟脳スルホン酸塩、ジグルコン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩(イセチオン酸塩)、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、シュウ酸塩、パモン酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、リン酸塩、グルタミン酸塩、炭酸水素塩、p-トルエンスルホン酸塩及びウンデカン酸塩が挙げられる。また、塩基性窒素含有基を低級アルキルハライド、例えばメチル、エチル、プロピル、及びブチルクロリド、ブロミド、ヨージド;硫酸ジアルキル、例えば硫酸ジメチル、ジエチル、ジブチル及びジアミル;長鎖ハライド、例えば臭化ベンジル及びフェネチルなどのような薬剤で四級化してよい。それによって、水溶性若しくは油溶性又は水分散性若しくは油分散性生成物が得られる。医薬的に許容しうる酸付加塩を形成するために使用可能な酸の例としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸及びリン酸などの無機酸並びにシュウ酸、マレイン酸、コハク酸及びクエン酸などの有機酸が挙げられる。本発明内で開示する化合物の最終単離又は精製中に、カルボン酸含有部分を医薬的に許容しうる金属カチオンの水酸化物、炭酸塩若しくは炭酸水素塩などの適切な塩基と反応させるか、或いはアンモニア又は一級、二級若しくは三級アミンと反応させることによって、塩基付加塩を調製しうる。医薬的に許容しうる塩としては、限定するものではないが、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属に基づくカチオン及びアンモニウム塩など、並びに無毒の四級アンモニア及びアミンカチオン、例えばアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、エチルアミン等が挙げられる。塩基付加塩の形成に有用な他の代表的有機アミンとしては、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペリジン、ピペラジン等が挙げられる。医薬的に許容しうる塩は、技術上周知の標準手順を利用して、例えばアミン等の十分に塩基性の化合物を、医薬的に許容しうるアニオンを与える適切な酸と反応させることによっても得られる。カルボン酸のアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム又はリチウム)塩又はアルカリ土類金属(例えば、カルシウム又はマグネシウム)塩も調製しうる。
【0143】
製剤は、便宜上、単位剤形で提供され、薬学の分野で周知のいずれの方法によっても調製されうる。全ての方法は、カルシウムチャネルインヒビター、カルシウムチャネルブロッカー、カルシウムチャネルアンタゴニスト、エンドセリンアンタゴニスト、及び/又は一過性受容器電位タンパク質ブロッカー、又はその医薬的に許容しうる塩若しくは溶媒和物(「活性化合物」)を、1つ以上の付属薬剤を構成する担体と会合させる工程を含む。一般的に、製剤は、活性薬を液状担体若しくは微粉固形担体又は両方と均一かつ親密に会合させてから、必要な場合、その生成物を所望の製剤形態に形づくることによって、調製される。
【0144】
医薬又はその医薬的に許容しうるエステル、塩、溶媒和物又はプロドラッグを、所望作用を与えない他の活性物質と、又は所望作用を補充する物質と混合してよい。非経口、内皮、皮下、動脈内、又は局所適用のために使用する溶液又は懸濁液としては、限定するものではないが、例えば、下記成分が挙げられる:無菌希釈剤、例えば注射用水、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒;抗菌剤、例えばベンジルアルコール又はメチルパラベン;抗酸化剤、例えばアスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウム;キレート化剤、例えばエチレンジアミン四酢酸;緩衝液、例えば酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液又はリン酸緩衝液及び浸透圧の調整用薬剤、例えば塩化ナトリウム又はデキストロース。ガラス又はプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器又は多用量バイアルに非経口製剤を封入してよい。
【0145】
非経口注入用の医薬組成物は、医薬的に許容しうる無菌の水性又は非水性溶液、分散液、懸濁液又はエマルション及び無菌の注入用溶液又は分散液に再構成するための無菌散剤を含む。好適な水性及び非水性担体、希釈剤、溶媒又はビヒクルの例として、水、エタノール、ポリオール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール等)、その適切な混合物、植物油(オリーブ油など)及び注射用有機エステル、例えばオレイン酸エチルが挙げられる。例えば、レシチン等の被膜の使用、分散液の場合に必要な粒径の維持、及び界面活性剤の使用によって、適切な流動性を維持することができる。
【0146】
これらの組成物は、保存剤、湿潤剤、乳化剤、及び分散剤などのアジュバントを含んでもよい。種々の抗細菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などによって、微生物の作用を確実に阻止することができる。等張剤、例えば、糖、塩化ナトリウム等を含めることも望ましいだろう。吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの使用によって、注入用医薬形態の持続性吸収をもたらすことができる。
【0147】
座剤は、活性化合物に加えて、懸濁剤、例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンエステル、微結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天、トラガカント、及びその混合物を含んでよい。
【0148】
注入用デポー形態は、ポリラクチド-ポリグリセリド等の生分解性ポリマー中の薬物のマイクロカプセル化マトリックスを形成することによって調製される。薬物とポリマーの比及び使用する特定ポリマーの性質によって、薬物放出の速度を制御することができる。適切なポリマー又は疏水性物質(例えば許容しうる油中のエマルションとして)又はイオン交換樹脂を用いて、或いは難溶性誘導体として、例えば難溶性塩としてこのような長期作用製剤を調製することができる。体組織に適合性のリポソーム又はマイクロエマルションに薬物を捕捉させることによってもデポー注入用製剤を調製する。
【0149】
例えば、細菌保持フィルターに通すろ過によって、又は使用直前に無菌水又は他の無菌注入用媒体に溶解又は分散させうる無菌の固体組成物の形で滅菌剤を組み入れることによって局所的注入用製剤を滅菌することができる。適切な分散剤又は湿潤剤を用いて、技術上周知な方法に従って注入用製剤、例えば、無菌の注入用水性又は油性懸濁液を調製することができる。無菌の注入用製剤は、無毒の非経口的に許容性の希釈剤又は溶媒中の無菌の注入用溶液、懸濁液又はエマルション、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液であってもよい。利用できる許容性ビヒクル及び溶媒には、水、リンゲル溶液、U.S.P.及び等張性塩化ナトリウム溶液がある。さらに、無菌の固定油を溶媒又は懸濁媒体として使用すると便利である。この目的のため、合成モノグリセリド又はジグリセリドを含めたいずれのブランドの固定油も使用しうる。さらに、オレイン酸などの脂肪酸を注入用製剤に使用する。
【0150】
非経口(限定するものではないが、皮下、皮内、筋肉内、静脈内、くも膜下腔内及び動脈内が挙げられる)投与用製剤は、抗酸化剤、緩衝液、静菌物及び製剤に意図したレシピエントの血液との等張性を与える溶質を含有しうる水性及び非水性の無菌注入溶液;並びに懸濁剤及び増粘剤を含みうる水性及び非水性無菌懸濁を包含する。単用量又は多用量容器、例えば、封止アンプル及びバイアルで製剤を提供することができ、使用直前に無菌の液状担体、例えば、食塩水、注射用水を添加するだけでよい凍結乾燥状態で貯蔵することができる。前述した種類の無菌の散剤、顆粒及び錠剤から即時注入溶液及び懸濁液を調製することができる。
【0151】
本明細書に記載の組成物の製剤化の別の方法は、水溶性を高めるポリマーに本明細書に記載の化合物を共役させる工程を含む。適切なポリマーの例としては、限定するものではないが、ポリエチレングリコール、ポリ-(d-グルタミン酸)、ポリ-(1-グルタミン酸)、ポリ-(1-グルタミン酸)、ポリ-(d-アスパラギン酸)、ポリ-(1-アスパラギン酸)、ポリ-(1-アスパラギン酸)及びそのコポリマーが挙げられる。約5,000〜約100,000の分子量、約20,000〜約80,000の分子量を有するポリグルタミン酸を使用でき、約30,000〜約60,000の分子量も使用しうる。参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第5,977,163号に基本的に記載されているプロトコルを用いて、発明に関連するエポチロンの1つ以上のヒドロキシルにポリマーをエステル結合によって共役させる。特定の共役部位には本発明の21-ヒドロキシ-誘導体の場合の炭素-21が含まれる。他の共役部位として、限定するものではないが、炭素-3のヒドロキシル及び/又は炭素-7のヒドロキシルが挙げられる。
【0152】
好適な緩衝剤として、酢酸と塩(1〜2w/v);クエン酸と塩(1〜3%w/v);ホウ酸と塩(0.5〜2.5%w/v);及びリン酸と塩(0.8〜2%w/v)が挙げられる。好適な保存剤としては、塩化ベンザルコニウム(0.003〜0.03%w/v);クロロブタノール(0.3〜0.9%w/v);パラベン(0.01〜0.25%w/v)及びチメロサール(0.004〜0.02%w/v)が挙げられる。
【0153】
本発明で記載する医薬組成物は、治療的に有効な量のカルシウムチャネルインヒビター、カルシウムチャネルアンタゴニスト、カルシウムチャネルブロッカー、エンドセリンアンタゴニスト、及び/又は一過性受容器電位タンパク質ブロッカー並びに必要に応じて他の治療薬を含み、医薬的に許容しうる担体に包含される。本明細書で使用する用語「医薬的に許容しうる担体」は、ヒト又は他の脊椎動物への投与に適した1種以上の適合性固体又は液体フィラー、希釈剤又は封入物質を意味する。本明細書で使用する「担体」は、天然又は合成の有機又は無機成分を指し、活性成分と併用して、その適用を容易にする。実質的に所望の医薬効率を損なうであろう相互作用が無いような方法で医薬組成物の成分を混合することもできる。
カルシウムチャネルインヒビター、カルシウムチャネルアンタゴニスト、カルシウムチャネルブロッカー、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー、及び/又はエンドセリンアンタゴニストを粒子で提供することができる。本明細書で使用する用語「粒子」は、全体的又は部分的にカルシウムチャネルインヒビター、カルシウムチャネルアンタゴニスト、若しくはカルシウムチャネルブロッカー又は本明細書に記載の他の治療薬(限定するものではないが、エンドセリンアンタゴニスト及び一過性受容器電位タンパク質ブロッカーが挙げられる)を含有しうるナノ粒子又はマイクロ粒子(又は場合によっては、より大きい粒子)を指す。粒子は、被膜で囲まれたコア内に治療薬を含むことができる。粒子全体に治療薬を分散させてもよい。治療薬を粒子に吸着させてもよい。粒子は、いずれの次数の放出キネティクスのものでもよく、ゼロ次放出、一次放出、二次放出、遅延放出、持続性放出、即時放出など、及びいずれかの放出の組合せが含まれる。粒子は、治療薬に加えて、薬学及び医学の分野で日常的に使用される当該物質のいずれかを含むことができ、限定するものではないが、浸食性、非浸食性、生分解性、若しくは非生分解性物質又はその組合せが挙げられる。粒子は、カルシウムチャネルインヒビター、カルシウムチャネルアンタゴニスト、及び/又はカルシウムチャネルブロッカーを溶液又は半固体状態で含むマイクロカプセルであってよい。粒子は、実質的にいずれの形状のものでもよい。
【0154】
治療薬を送達するための粒子の製造では、非生分解性及び生分解性の両ポリマー材料を使用しうる。該ポリマーは天然又は合成ポリマーであってよい。ポリマーは、所望の放出時間に基づいて選択される。特に興味深い生体接着性ポリマーとして、その教示内容を本明細書に引用したものとするMacromolecules (1993) 26, 581-587に、Sawhneyらによって記載されている生体内分解性ヒドロゲルが挙げられる。これには、ポリヒアルロン酸、カゼイン、ゼラチン、グルチン、ポリ酸無水物、ポリアクリル酸、アルギナート、キトサン、ポリ(メチルメタクリラート)、ポリ(エチルメタクリラート)、ポリ(ブチルメタクリラート)、ポリ(イソブチルメタクリラート)、ポリ(ヘキシルメタクリラート)、ポリ(イソデシルメタクリラート)、ポリ(ラウリルメタクリラート)、ポリ(フェニルメタクリラート)、ポリ(メチルアクリラート)、ポリ(イソプロピルアクリラート)、ポリ(イソブチルアクリラート)、及びポリ(オクタデシルアクリラート)が挙げられる。
【0155】
治療薬は、制御放出システム内に含まれる。薬物の効果を延長するため、多くの場合、皮下、くも膜下腔内、又は筋肉内注射からの薬物の吸収を遅らせることが望ましい。これは、水溶性に乏しい結晶性又は非晶質材料の液体懸濁液の使用によって達成されうる。その時、薬物の吸収速度は、その溶解速度によって決まり、順次、結晶サイズ及び結晶形によって決まりうる。用語「制御放出」は、製剤からの薬物の放出の様式及びプロファイルが制御されているいずれの薬物含有製剤をも表すことを意図する。これは、即時放出及び非即時放出を表し、非即時放出製剤には、限定するものではないが、徐放及び遅延放出製剤が含まれる。本明細書では、用語「徐放」(「持続性放出」とも呼ばれる)をその通常の意味で用いて、長期間にわたって、薬物を徐々に放出する薬物製剤を表し、かつ必ずしもではないが、好ましくは、長期間にわたって、薬物の実質的に一定の血中レベルをもたらす。或いは、薬物を油ビヒクルに溶解又は懸濁させることによって、非経口投与薬物形の遅延吸収を達成する。本明細書では、用語「遅延放出」をその通常の意味で使用して、製剤の投与と製剤からの薬物の放出との間に時間の遅れがある薬物製剤を表す。「遅延放出」は、長時間にわたる薬物の徐々な放出を含んでも含まなくてもよいので、「徐放」であってもなくてもよい。
【0156】
慢性状態の治療のためには、長期の徐放移植片の使用が特に好適である。本明細書で使用する場合、用語「長期」放出は、移植片が構築され、かつ少なくとも7日、好ましくは約30〜約60日間、移植片が治療レベルの活性成分を送達することを意味する。長期の徐放移植片は当業者に周知であり、上記放出システムのいくつかを包含する。
【0157】
〔送達システム〕
本発明は、治療薬の半固体送達システム及び治療薬の併用半固体、多粒子、治療薬送達システムを提供する。一態様では、本発明は、局所的治療効果を促進するように、体内又は体上に注入、配置又は移植するため、半固体の生分解性の生体適合性送達システム又は注入用の半固体の生分解性の生体適合性送達システム内で分散及び懸濁した生分解性の生体適合性多粒子を利用する送達システムを含む。本明細書で使用する用語「生分解性」は、簡単な化学プロセス又は体酵素の作用又は人体内の他の同様の機構によって能動的又は受動的に分解する物質を指す。本明細書で使用する用語「生体適合性」は、臨床的危険/利益評価に基づいた治療終了前に装置除去を必要とする局所部位で臨床的に関連がある組織の刺激又は壊死を引き起こさないことを意味する。本明細書で使用する用語「体内で」、「空隙容量」、「切除ポケット」、「陥凹」、「注入部位」、「沈着部位」又は「移植部位」は、制限することなく全ての組織を包含することを意味し、かつ注入、外科的切開、腫瘍若しくは組織の除去、組織損傷、膿瘍形成からそこに形成された空洞、又はこうして臨床的評価の作用、疾患若しくは病態に対するその非限定例としての治療又は生理反応によって形成されたいずれの他の同様の空洞、空間、又はポケットをも表しうる。一実施形態では、治療薬がカルシウムチャネルインヒビター、カルシウムチャネルアンタゴニスト、カルシウムチャネルブロッカー、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー、及び/又はエンドセリンアンタゴニスト又はそれらの医薬的に許容しうる塩である。
【0158】
一態様では、半固体送達システムが部分的又は全体的に、生体適合性、生分解性の粘性半固体を含み、該半固体がヒドロゲルを含む。本明細書で使用する用語「ヒドロゲル」は、ゼラチン状又はゼリー様塊を生じさせるために必要な水性成分を含有する固体、半固体、擬塑性、又は塑性構造をもたらす物質を表す。ヒドロゲルは、水性環境の存在下で最終的に平衡含量に達する有意量のH2Oを取り込み、保持する。一実施形態では、モノオレイン酸グリセリル(以後、GMOと称する)が意図した半固体送達システム又はヒドロゲルである。しかし、粘性/剛性について同様の物理的/化学的性質を有する多くのヒドロゲル、ポリマー、炭化水素組成物及び脂肪酸誘導体が半固体送達システムとして機能しうる。
【0159】
一実施形態では、GMOをその融点(40〜50℃)以上に加熱し、かつ温水ベース緩衝液又は電解質溶液、例えば、リン酸緩衝液若しくは生理食塩水を添加して、三次元構造を生じさせることによってゲルシステムを作製する。水ベース緩衝液は、他の水溶液又は半極性溶媒を含有する配合物で構成されていてもよい。
GMOは、親油性材料を取り込む能力を有する主に液体ベースのヒドロゲルを与える。本明細書で使用する用語「親油性」は、極性又は水性環境に比べて無極性環境に対する親和性を好むか又は持つことを意味する。GMOは、親水性化合物を取り込み、送達する内部水性チャネルをさらに与える。本明細書で使用する用語「親水性」は、水などの極性物質に対して親和性を有する材料又は物質を指す。室温(約25℃)では、ゲルシステムは広範な粘性の程度を含む異なる相を示しうることが認められる。
【0160】
一実施形態では、2つのゲルシステム相を、それらの室温並びに生理的温度(約37℃)及びpHでの特性のため利用する。2つのゲルシステム相内では、第1の相が約5%〜約15%のH2O含量及び約95%〜約85%のGMO含量の層状相である。この層状相は適度に粘性の流体であり、操作し、注ぎ、注入しやすい。第2の相は約15%〜約40%のH2O含量及び約85%〜約60%のGMO含量から成る立方相である。それは約35質量%〜約40質量%の平衡含水量を有する。本明細書で使用する用語「平衡含水量」は過剰の水の存在下における最大含水量を意味する。従って、立方相は、約35質量%〜約40質量%で水を取り込む。立方相は粘性が高い。例えば、Brookfield粘度計によって粘度を測定することができる。粘度は120万センチポアズ(cp)を超え;120万cpは、Brookfield粘度計のカップとおもり(bob)の配置によって得られる粘度の最大の度合である。くつかの該実施形態では、治療薬がニカルジピンである。くつかの該実施形態では、治療薬がニモジピンである。くつかの該実施形態では、治療薬がクレビジピンである。くつかの該実施形態では、治療薬がニカルジピンである。くつかの該実施形態では、治療薬がクラゾセンタンである。くつかの該実施形態では、治療薬がアトラセンタンである。くつかの該実施形態では、治療薬がSKF 96365である。くつかの該実施形態では、治療薬がLOE 908である。くつかの該実施形態では、治療薬がカルシウムチャネルブロッカーである。くつかの該実施形態では、治療薬がカルシウムチャネルアンタゴニストである。くつかの該実施形態では、治療薬がカルシウムチャネルインヒビターである。くつかの該実施形態では、治療薬がエンドセリン受容体アンタゴニストである。くつかの該実施形態では、治療薬が一過性受容器電位タンパク質ブロッカーである。くつかの該実施形態では、体内で種々の放出速度にて局所的な生物学的、生理学的、又は治療効果をもたらすため、他の治療薬、生理学的に活性な薬剤、薬物、医薬及び不活性物を半固体に組み入れることができる。
【0161】
いくつかの実施形態では、半固体の親油性を変えるか、或いは別の方法では、半固体内に含まれる水性チャネルを変えるように、別の半固体、修正された製剤及び製造方法を利用する。従って、種々の濃度で種々の治療薬が半固体から異なる速度で拡散することができ、或いは半固体の水性チャネルによって経時的に半固体から放出されうる。親水性物質を利用して、水性成分の粘度、流動性、表面張力又は極性の変更によって、半固体の粘稠度又は治療薬の放出を変えることができる。例えば、脂肪酸部分の炭素9と炭素10が単結合ではなく二重結合であること以外、GMOと構造的に同一であるモノステアリン酸グリセリル(GMS)は、加熱し、水性成分を添加してもGMOのようにゲルにならない。しかし、GMSは界面活性剤なので、GMSはH2Oに約20%w/wまで混和しうる。本明細書で使用する用語「界面活性剤」は表面活性剤を意味し、限定濃度のH2O及び極性溶媒に混和しうる。加熱及び撹拌すると、80%のH2O/20%のGMSの組合せがハンドローションに似た粘稠度を有する、塗ることができるペーストを生じさせる。次にこのペーストを溶融GMOと混ぜ合わせて、これまでに述べたように、粘性の高い立方相ゲルを形成する。いくつかの該実施形態では、治療薬がニカルジピンである。いくつかの該実施形態では、治療薬がニモジピンである。いくつかの該実施形態では、治療薬がクラゾセンタンである。いくつかの該実施形態では、治療薬がSKF 96365である。いくつかの該実施形態では、治療薬がLOE 908である。いくつかの該実施形態では、治療薬がクレビジピンである。いくつかの該実施形態では、治療薬がカルシウムチャネルインヒビターである。いくつかの該実施形態では、治療薬がカルシウムチャネルアンタゴニストである。いくつかの該実施形態では、治療薬がカルシウムチャネルブロッカーである。いくつかの該実施形態では、治療薬が一過性受容器電位タンパク質ブロッカーである。いくつかの該実施形態では、治療薬がエンドセリンアンタゴニストである。いくつかの該実施形態では、治療薬がニカルジピン、ニモジピン、クレビジピン、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー、又はそれらの医薬的に許容しうる塩である。
【0162】
別の実施形態では、水性成分を変えるため加水分解したゼラチン、例えば商業的に入手可能なGelfoamtmTMを利用する。質量で約6.25%〜12.50%濃度のGelfoamTMをそれぞれ質量で約93.75%〜87.50%濃度のH2O又は他の水ベース緩衝液中に置くことができる。加熱及び撹拌すると、H2O(又は他の水性緩衝液)/GelfoamTMの組合せが濃厚なゼラチン状物質を生成する。結果として生じた物質をGMOと混ぜ合わせることにより、そのようにして形成された生成物が膨潤し、純粋なGMOのみに比べて展性の低い高粘度の半透明ゲルを形成する。
【0163】
別の実施形態では、水性成分を変えて薬物の可溶化を助けるためにポリエチレングリコール(PEG)を利用する。質量で約0.5%〜40%濃度のPEG(PEGの分子量に依存する)をそれぞれ質量で約99.5%〜60%濃度のH2O(又は他の水性緩衝液)/PEGの組合せが粘性液体乃至半固体物質を生成する。結果として生じた物質をGMOと混ぜ合わせることにり、そのようにして形成された物質が膨潤し、高粘度ゲルを形成する。
【0164】
理論によって制限されるものではないが、治療薬は、おそらく二相様式で拡散を介して半固体から遊離すると想定される。第1の相は、例えば、親油性膜内に含まれる親油性薬物がそこから水性チャネル内へ拡散することに関係する。第2の相は、水性チャネルから外部環境への薬物の拡散に関係する。薬物は親油性なので、その推定される脂質二層構造内でそれ自体をGMOの内部へ方向づけうる。このようにして、薬物、例えばBCNUの約7.5質量%より多くをGMO中に取り込むことにより、三次元構造の完全性が失われることで、ゲルシステムはもはや半固体立方相を維持せず、粘性の層状相液体に戻る。いくつの該実施形態では、治療薬がニカルジピンである。いくつかの該実施形態では、治療薬がニモジピンである。いくつかの該実施形態では、治療薬がクレビジピンである。いくつかの該実施形態では、治療薬がカルシウムチャネルインヒビターである。いくつかの該実施形態では、治療薬がカルシウムチャネルアンタゴニストである。いくつかの該実施形態では、治療薬がカルシウムチャネルブロッカーである。いくつかの該実施形態では、治療薬が一過性受容器電位タンパク質ブロッカーである。いくつかの該実施形態では、治療薬がエンドセリンアンタゴニストである。いくつかの該実施形態では、治療薬がニカルジピン、ニモジピン、クレビジピン、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー、又はそれらの医薬的に許容しうる塩である。別の実施形態では、正常な三次元構造を破壊せずに生理的温度でGMOゲル内へ約1質量%〜約45質量%の治療薬を取り込む。結果として、このシステムは、薬用量と共に有意にフレキシビリティーが上昇する能力を与える。本送達システムは展性があるので、移植部位内で、体内の壁、空間、又は他の空隙の輪郭に接着かつ適合するのみならず存在する全ての空洞を完全に満たすように、例えば、脳動脈又はくも膜下腔に隣接して送達及び操作することができる。本送達システムは、移植部位のいたるところで薬物の分布及び均一な薬物送達を保証する。空間、例えば、限定するものではないが、くも膜下腔内での本送達システムの送達及び操作の容易さは、半固体送達装置によって促進される。半固体送達装置は、送達システムの標的送達及び制御送達を容易にする。
【0165】
一実施形態では、多粒子成分が生体適合性、生分解性のポリマー又は非ポリマーシステムで構成され、このシステムを利用して、限定するものではないが、ノンパレイル(nonpareil)、ペレット、結晶、凝集体、ミクロスフェア、又はナノ粒子などの固体構造を生じさせる。
【0166】
別の実施形態では、多粒子成分がポリ(乳酸-コ-グリコリド)(PLGA)を含む。PLGAは、体内で制御された持続性治療薬送達のために使用される生分解性ポリマー材料である。このような送達システムは、頻繁な定期的全身投与に比べて治療薬効率を高め、全体的な毒性を軽減する。理論によって制限されるものではないが、異なるモル比のモノマーサブユニットから成るPLGAシステムは、ポリマーの分解速度の変化を通じて標的治療薬の送達を適応させるための正確な放出プロファイルを操作する際にフレキシビリティーを高めると想定される。一実施形態では、生体適合性であり、かつ生分解によって生体適合性のままであるように、PLGA組成物が十分に純粋である。一実施形態では、PLGAポリマーの中に治療薬を捕捉しているミクロスフェアを設計かつ形成することによって、さらに詳細に後述する方法で治療薬をミクロスフェアから連続的に放出する。いくつの該実施形態では、治療薬がニカルジピンである。いくつかの該実施形態では、治療薬がニモジピンである。いくつかの該実施形態では、治療薬がクレビジピンである。いくつかの該実施形態では、治療薬がカルシウムチャネルインヒビターである。いくつかの該実施形態では、治療薬がカルシウムチャネルアンタゴニストである。いくつかの該実施形態では、治療薬がカルシウムチャネルブロッカーである。いくつかの該実施形態では、治療薬が一過性受容器電位タンパク質ブロッカーである。いくつかの該実施形態では、治療薬がエンドセリンアンタゴニストである。いくつかの該実施形態では、治療薬がニカルジピン、ニモジピン、クレビジピン、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー、又はそれらの医薬的に許容しうる塩である。
【0167】
別の実施形態では、多粒子成分がポリd,l(乳酸-コ-カプロラクトン)を含む。これは、PLGAポリマーの薬物放出機構と同様の機構による体内での制御された持続性治療薬送達のために使用される生分解性ポリマー材料を提供する。一実施形態では、生分解性及び/又は生体適合性の非ポリマー材料、例えばGMSを用いて多粒子ミクロスフェアをも生成する。
【0168】
別の実施形態では、カプセル化又はコーディングするために使用す方法で、同一若しくは異なる薬物を有する同一組成のポリマー、同一若しくは異なる薬物を有する異なるポリマーを用いて、或いは薬物を含まないか又は同一薬物、異なる薬物、若しくは複数の薬物を含む多層化プロセスによって、多粒子成分をさらに修飾する。これは、単一又は複数の薬剤の広範な薬物放出プロファイルを同時に有する多層化(カプセル化)多粒子システムの生成を可能にする。別の実施形態では、多粒子からの物理的な薬物の拡散速度を制御するコーディング材料を単独又は上述した好ましい実施形態及び想定される実施形態と合わせて利用する。
【0169】
別の態様では、本発明は、PLGAを利用する送達システムを提供する。PLGAポリマーは、加水分解に不安定なエステル結合を含む。本明細書で使用する用語「不安定な」とは、さらなる分解を受けやすいことを表す。H2OがPLGAポリマーに浸透すると、そのエステル結合が加水分解され、水溶性であるモノマーがPLGAポリマーから除去され、こうして経時的に捕捉薬物の物理的放出を促進する。いくつかの該実施形態では、人体内での制御された持続性治療薬送達のために他分類の生分解性、生体適合性合成ポリマーを使用することができる。該ポリマーとしては、ポリ酸無水物、ポリ(ホスファート)、ポリジオキサノン、セルロース誘導体及びアクリル樹脂が挙げられ、これらは非限定例として拡張される。いくつかの該実施形態では、人体内での制御された持続性治療薬送達のために非ポリマー材料を利用することができる。非ポリマー材料としては、限定するものではないが、ステロール、スクロース脂肪酸エステル、脂肪酸、及びコレステリルエステルが挙げられ、これらは非限定例として拡張される。
【0170】
別の態様では、本発明は、治療薬の局所送達のビヒクルとして作用する半固体送達システムを提供する。このシステムは、親油性、親水性又は両親媒性の固体又は半固体物質を含み、その融点以上に加熱された後、温水成分を包含して、含水量に基づいて粘度が変化するゼラチン状組成物を生成する。半固体システムの混合及び形成前に、治療薬を溶融親油性成分又は水性緩衝成分中に組み入れて分散させる。その後の留置、又は配置のため、ゼラチン状組成物を半固体送達装置内に置く。本ゲルシステムは展性なので、移植部位内で半固体送達装置によって容易に送達かつ操作され、本ゲルシステムは体内の移植部位、空間、又は他の空隙の輪郭に接着して適合するのみならず、存在する全ての空隙を完全に満たす。或いは、生体適合性ポリマー又は非ポリマーシステムで構成される多粒子成分を利用して、中に治療薬を捕捉しているミクロスフェアを生成する。最後の加工法後、ミクロスフェアを半固体システムに組み入れ、引き続き半固体送達装置内に置くので、容易にそこから移植部位又は匹敵する部位にミクロスフェアが送達され、そこで治療薬がミクロスフェアから薬物放出機構によって治療薬が放出される。
【0171】
〔カルシウムチャネルインヒビター、カルシウムチャネルアンタゴニスト、及びカルシウムチャネルブロッカーの同定〕
本明細書に記載の指導に従って当業者は他の活性なインヒビター、ブロッカー又はアンタゴニストを同定することができる。
薬剤又は他の推定薬剤のライブラリーをスクリーニングして、新規の有用なカルシウムチャネルインヒビター、カルシウムチャネルアンタゴニスト、及びカルシウムチャネルブロッカーを同定することができる。ペプチド又は他の生体分子から推定化合物を合成することができる。生体分子としては、限定するものではないが、サッカリド、脂肪酸、ステロール、イソプレノイド、プリン、ピリミジン、上記物質の誘導体若しくは構造類似体、又はそれらの組合せなどが挙げられる。ファージディスプレイライブラリー及び化学コンビナトリアルライブラリーを用いて、カルシウムチャネルを阻害、アンタゴナイズ、及び/又は遮断することができる合成化合物を展開かつ選択することができる。本発明では、ペプトイド、ランダムバイオ-オリゴマー(米国特許第5,650,489号)、ベンゾジアゼピン、ダイバーソマー(diversomer)、例えばジダントイン(dydantoin)、ベンゾジアゼピン及びジペプチド、ペプチドでないペプチド模倣体(β-D-グルコース足場がある)、オリゴカルバマート又はペプチジルホスホナート製の化合物の使用も想定する。
【0172】
ライブラリー技術を用いて、カルシウムチャネルリガンド結合部位、つまりカルシウムチャネルのタンパク質相互作用ドメインに結合する小型ペプチドなどの小分子を同定することができる。アンタゴニストの同定のためにライブラリーを使用することの1つの利点は、小さい反応体積で(すなわち、合成及びスクリーニング反応で)小型サイズの数百万の異なる推定候補の容易な操作である。ライブラリーの別の利点は、特に非ペプチド成分の場合、天然に存在する起源を用いては得られないであろうカルシウムチャネルインヒビター、カルシウムチャネルアンタゴニスト、及び/又はカルシウムチャネルブロッカーを合成する能力である。
【0173】
組換え体又は化学ライブラリーを用いて、これら薬剤の全部ではないが多くを合成することができる。合成又は天然化合物のライブラリーから無数の候補化合が生成しうる。細菌、真菌、植物及び動物抽出物の形の天然化合物のライブラリーを入手可能であり、又は容易に作製することができる。天然及び合成して作製したライブラリー及び化合物を、変換の化学的、物理的、及び生化学的手段を介して容易に修飾することができる。さらに、カルシウムチャネルに結合することによってカルシウムチャネルのアンタゴニスト、インヒビター、又はブロッカーとして作用することが分かっている化合物を、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化等の定方向又はランダム化学修飾にさらして、同様にか又はおそらくさらに特異的に機能しうる構造類似体を作製することができる。
【0174】
小分子のコンビナトリアルライブラリーをも作製することができる。小型有機化合物のコンビナトリアルライブラリーは、多様性の1つ以上の点で相互に異なる密接に関連した類似体のコレクションであり、多工程プロセスを用いて有機技術で合成される。例として、塩化ガドリニウム又は塩化ランタンの類似体を作製することができ、それらはカルシウムチャネルインヒビター、カルシウムチャネルブロッカー又はカルシウムチャネルアンタゴニストとして機能するが、他のチャネルを阻害、アンタゴナイズ、又は遮断しない。コンビナトリアルライブラリーを用いてこれらの化合物の類似体を合成することができる。
【0175】
コンビナトリアルライブラリーは無数の小型有機化合物を含む。平行合成法を利用して、あるタイプのコンビナトリアルライブラリーを調製して化合物アレイを生成する。本明細書で使用する用語「化合物アレイ」は、デカルト座標のそれらの空間的アドレスによって同定可能で、各化合物が共通の分子コアと、1つ以上の可変の構造的多様性要素とを有するように配置された化合物のコレクションを表す。該化合物アレイ内の化合物は、平行して別の反応容器で生成され、各化合物は、その空間的アドレスによって同定かつ追跡される。平行合成混合物及び平行合成方法の例は、1995年7月13日に公開されたPCT公開特許出願WO95/18972及び1998年1月27日に承諾された米国特許第5,712,171号、及びその対応するPCT公開特許出願WO96/22529で提供されている。これらの内容を参照によって本明細書に引用したものとする。
【0176】
本明細書に記載の組換え体及び化学ライブラリーを用いて作製された化合物を最初にそのカルシウムチャネルに結合する能力に基づいてスクリーニングして推定薬剤を同定することができる。in vitroでカルシウムチャネルに結合するその能力について、当業者に周知かつ後述する標準的結合アッセイを用いて、ライブラリーメンバー等の化合物をスクリーニングすることができる。カルシウムチャネルへの結合のため、カルシウムチャネルは、いくつかの状態で現れうる。該状態として、限定するものではないが、問題のカルシウムチャネルを発現している細胞、カルシウムチャネルの単離された細胞外ドメイン、それらのフラグメント、又はカルシウムチャネルの細胞外ドメインの融合タンパク質、及び別のタンパク質、例えばイムノグロブリン若しくはGSTポリペプチド又は精製(例えば、組換え技術によって産生された)形が挙げられる。いくつの高処理能力スクリーニングアッセイでは、カルシウムチャネル、その細胞外ドメイン又はその細胞外ドメインと別のタンパク質の融合の精製形の使用が好ましいだろう。周知の方法に従って、溶液又は固体中で結合相手の単離を行うことができる。
【0177】
標準的結合アッセイは技術上周知であり、これらのいくつかは本発明で適し、ELISA、競合結合アッセイ、サンドイッチアッセイ、カルシウムチャネルの放射能標識リガンド又は基質を用いるラジオレセプターアッセイ(天然の放射能標識アクチベーターの結合が推定上のアンタゴニスト、インヒビター、又はブロッカーと競合する)、電気泳動移動度シフトアッセイ、イムノアッセイ、細胞ベースアッセイ、例えばツーハイブリッド又はスリーハイブリッドスクリーニング等が挙げられる。少数のライブラリーメンバーの結合を検出するのに十分感受性であるという条件で、アッセイの性質は重要でない。
【0178】
種々の他の試薬を結合混合物に含めてもよい。これらには、最適な分子相互作用を促すために使用しうる塩、緩衝液、中性タンパク質(例えば、アルブミン)、洗浄剤などの試薬が挙げられる。該試薬は、反応成分の非特異的又はバックグラウンドの相互作用を減らすこともできる。アッセイの効率を改善する他の試薬を使用してもよい。カルシウムチャネルが正常に1つ以上のそのアクチベーターと特異的に結合する条件下で前記アッセイ材料の混合物をインキュベートする。成分の添加順序、インキュベーション温度、インキュベーションの時間、及び該アッセイの他のパラメーターを容易に決定できる。このような実験法は、アッセイの基本的構成ではない、アッセイパラメーターの最適化のみを含む。インキュベーション温度は典型的に4℃〜40℃である。インキュベーション時間は、好ましくは、迅速な高処理能力スクリーニングを促すために最小限であり、典型的に0.1〜10時間である。インキュベーション後、使用者に利用可能ないずれかの便利な方法で化合物間の特異的結合の存否を検出する。
【0179】
典型的に、複数のアッセイ混合物を異なる薬剤濃度を用いて平行して行って、種々の濃度に対する異なる反応を得る。これらの濃度の1つは、ネガティブコントロールとして、すなわち、薬剤のゼロ濃度又はアッセイ検出限界未満の薬剤濃度で役立つ。
化合物がカルシウムチャネルと相互作用できることが同定されたら、これらの化合物を、これらのカルシウムチャネルを横断するイオン流動を調節するその能力についてさらにスクリーニングすることができる。
【0180】
〔一過性受容器電位タンパク質ブロッカーの同定〕
本明細書に記載の指導に従って、当業者は一過性受容器電位タンパク質の他の活性なインヒビター、ブロッカー又はアンタゴニストを同定することができる。
薬剤又は他の推定薬剤のライブラリーをスクリーニングして、新規の有用な一過性受容器電位タンパク質活性インヒビター、一過性受容器電位タンパク質活性アンタゴニスト、一過性受容器電位タンパク質活性ブロッカーを同定することができる。ペプチド又は他の生体分子から推定化合物を合成することができる。生体分子としては、限定するものではないが、サッカリド、脂肪酸、ステロール、イソプレノイド、プリン、ピリミジン、上記物質の誘導体若しくは構造類似体、又はそれらの組合せなどが挙げられる。ファージディスプレイライブラリー及び化学コンビナトリアルライブラリーを用いて、一過性受容器電位タンパク質を阻害、アンタゴナイズ、及び/又は遮断することができる合成化合物を展開かつ選択することができる。本発明では、ペプトイド、ランダムバイオ-オリゴマー(米国特許第5,650,489号)、ベンゾジアゼピン、ダイバーソマー、例えばジダントイン(dydantoin)、ベンゾジアゼピン及びジペプチド、ペプチドでないペプチド模倣体(β-D-グルコース足場がある)、オリゴカルバマート又はペプチジルホスホナートから作製された化合物の使用も想定する。
【0181】
ライブラリー技術を用いて、一過性受容器電位タンパク質結合部位、つまり一過性受容器電位タンパク質のタンパク質相互作用ドメインに結合する小型ペプチドドなどの小分子を同定することができる。アンタゴニストの同定のためにライブラリーを使用することの1つの利点は、小さい反応体積で(すなわち、合成及びスクリーニング反応で)小型サイズの数百万の異なる推定候補の容易な操作である。ライブラリーの別の利点は、特に非ペプチド成分の場合、天然に存在する起源を用いては得られないであろう一過性受容器電位タンパク質インヒビター、一過性受容器電位タンパク質アンタゴニスト、及び/又は一過性受容器電位タンパク質ブロッカーを合成する能力である。
【0182】
組換え体又は化学ライブラリーを用いて、これら薬剤の全部ではないが多くを合成することができる。合成又は天然化合物のライブラリーから無数の候補化合物を生成することができる。細菌、真菌、植物及び動物抽出物の形の天然化合物のライブラリーを入手可能であり、又は容易に作製することができる。天然及び合成して作製したライブラリー及び化合物を、変換の化学的、物理的、及び生化学的手段を介して容易に修飾することができる。さらに、一過性受容器電位タンパク質に結合することによって一過性受容器電位タンパク質のアンタゴニスト、インヒビター、又はブロッカーとして作用することが分かっている化合物を、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化等の定方向又はランダム化学修飾にさらして、同様にか又はおそらくさらに特異的に機能しうる構造類似体を作製することができる。
【0183】
小分子のコンビナトリアルライブラリーをも作製することができる。小型有機化合物のコンビナトリアルライブラリーは、多様性の1つ以上の点で相互に異なる密接に関連した類似体のコレクションであり、多工程プロセスを用いて有機技術で合成される。例として、SKF 96365又はLOW 908の類似体を生成することができ、それらは一過性受容器電位タンパク質インヒビター、一過性受容器電位タンパク質ブロッカー又は一過性受容器電位タンパク質アンタゴニストとして機能するが、他のチャネルを阻害、アンタゴナイズ、又は遮断しない。コンビナトリアルライブラリーを用いてこれらの化合物の類似体を合成することができる。
【0184】
コンビナトリアルライブラリーは無数の小型有機化合物を含む。平行合成法を利用して、あるタイプのコンビナトリアルライブラリーを調製して、化合物アレイを生成する。本明細書で使用する用語「化合物アレイ」は、デカルト座標のそれらの空間的アドレスによって同定可能で、各化合物が共通の分子コアと、1つ以上の可変の構造的多様性要素とを有するように配置された化合物のコレクションを表す。該化合物アレイ内の化合物は、平行して別の反応容器で生成され、各化合物は、その空間的アドレスによって同定かつ追跡される。平行合成混合物及び平行合成方法の例は、1995年7月13日に公開されたPCT公開特許出願WO95/18972及び1998年1月27日に承諾された米国特許第5,712,171号及びその対応するPCT公開特許出願WO96/22529で提供されている。これらの内容を参照によって本明細書に引用したものとする。
【0185】
本明細書に記載の組換え体及び化学ライブラリーを用いて作製された化合物を最初にその一過性受容器電位タンパク質に結合する能力に基づいてスクリーニングして推定薬剤を同定することができる。in vitroで一過性受容器電位タンパク質に結合するその能力について、当業者に周知かつ後述する標準的結合アッセイを用いて、ライブラリーメンバー等の化合物をスクリーニングすることができる。一過性受容器電位タンパク質への結合のため、一過性受容器電位タンパク質は、いくつかの状態で現れうる。該状態として、限定するものではないが、問題の一過性受容器電位タンパク質を発現している細胞、一過性受容器電位タンパク質の単離された細胞外ドメイン、それらのフラグメント、又は一過性受容器電位タンパク質の細胞外ドメインの融合タンパク質、及び別のタンパク質、例えばイムノグロブリン若しくはGSTポリペプチド又は精製(例えば、組換え技術によって産生された)形が挙げられる。いくつの高処理能力スクリーニングアッセイでは、一過性受容器電位タンパク質、その細胞外ドメイン又はその細胞外ドメインと別のタンパク質の融合の精製形の使用が好ましいだろう。周知の方法に従って、溶液又は固体中で結合相手の単離を行うことができる。
【0186】
標準的結合アッセイは技術上周知であり、これらのいくつかは本発明で適し、ELISA、競合結合アッセイ、サンドイッチアッセイ、一過性受容器電位タンパク質の放射能標識リガンド又は基質を用いるラジオレセプターアッセイ(天然の放射能標識アクチベーターの結合が推定上のアンタゴニスト、インヒビター、又はブロッカーと競合する)、電気泳動移動度シフトアッセイ、イムノアッセイ、細胞ベースアッセイ、例えばツーハイブリッド又はスリーハイブリッドスクリーニング等が挙げられる。少数のライブラリーメンバーの結合を検出するのに十分感受性であるという条件で、アッセイの性質は重要でない。
【0187】
種々の他の試薬を結合混合物に含めてもよい。これらには、最適な分子相互作用を促すために使用しうる塩、緩衝液、中性タンパク質(例えば、アルブミン)、洗浄剤などの試薬が挙げられる。該試薬は、反応成分の非特異的又はバックグラウンドの相互作用を減らすこともできる。アッセイの効率を改善する他の試薬を使用してもよい。一過性受容器電位タンパク質が正常に1つ以上のそのアクチベーターと特異的に結合する条件下で前記アッセイ材料の混合物をインキュベートする。成分の添加順序、インキュベーション温度、インキュベーションの時間、及び該アッセイの他のパラメーターを容易に決定できる。このような実験法は、アッセイの基本的構成ではない、アッセイパラメーターの最適化のみを含む。インキュベーション温度は典型的に4℃〜40℃である。インキュベーション時間は、好ましくは、迅速な高処理能力スクリーニングを促すために最小限であり、典型的に0.1〜10時間である。インキュベーション後、使用者に利用可能ないずれかの便利な方法で化合物間の特異的結合の存否を検出する。
【0188】
典型的に、複数のアッセイ混合物を異なる薬剤濃度を用いて平行して行って、種々の濃度に対する異なる反応を得る。これらの濃度の1つは、ネガティブコントロールとして、すなわち、薬剤のゼロ濃度又はアッセイ検出限界未満の薬剤濃度で役立つ。
化合物が一過性受容器電位タンパク質と相互作用できることが同定されたら、これらの化合物を、これらの一過性受容器電位タンパク質を横断する活性を調節するその能力についてさらにスクリーニングすることができる。
【0189】
〔エンドセリン受容体アンタゴニストの同定〕
本明細書に記載の指導に従って、当業者はエンドセリン受容体のアンタゴニストを同定することができる。
薬剤又は他の推定薬剤のライブラリーをスクリーニングして、新規の有用なエンドセリン受容体活性インヒビター、エンドセリン受容体活性アンタゴニスト、エンドセリン受容体活性ブロッカーを同定することができる。ペプチド又は他の生体分子から推定化合物を合成することができる。生体分子としては、限定するものではないが、サッカリド、脂肪酸、ステロール、イソプレノイド、プリン、ピリミジン、上記物質の誘導体若しくは構造類似体、又はそれらの組合せ等が挙げられる。ファージディスプレイライブラリー及び化学コンビナトリアルライブラリーを用いて、エンドセリン受容体を阻害、アンタゴナイズ、及び/又は遮断することができる合成化合物を展開かつ選択することができる。本発明では、ペプトイド、ランダムバイオ-オリゴマー(米国特許第5,650,489号)、ベンゾジアゼピン、ダイバーソマー、例えばジダントイン(dydantoin)、ベンゾジアゼピン及びジペプチド、ペプチドでないペプチド模倣体(β-D-グルコース足場がある)、オリゴカルバマート又はペプチジルホスホナートから作製された化合物の使用も想定する。
【0190】
ライブラリー技術を用いて、エンドセリン受容体結合部位、つまりエンドセリン受容体のタンパク質相互作用ドメインに結合する小型ペプチドドなどの小分子を同定することができる。アンタゴニストの同定のためにライブラリーを使用することの1つの利点は、小さい反応体積で(すなわち、合成及びスクリーニング反応で)小型サイズの数百万の異なる推定候補の容易な操作である。ライブラリーの別の利点は、特に非ペプチド成分の場合、天然に存在する起源を用いては得られないであろうエンドセリン受容体インヒビター、エンドセリン受容体アンタゴニスト、及び/又はエンドセリン受容体ブロッカーを合成する能力である。
【0191】
組換え体又は化学ライブラリーを用いて、これら薬剤の全部ではないが多くを合成することができる。合成又は天然化合物のライブラリーから無数の候補化合物を生成することができる。細菌、真菌、植物及び動物抽出物の形の天然化合物のライブラリーを入手可能であり、又は容易に作製することができる。天然及び合成して作製したライブラリー及び化合物を、変換の化学的、物理的、及び生化学的手段を介して容易に修飾することができる。さらに、エンドセリン受容体に結合することによってエンドセリン受容体のアンタゴニスト、インヒビター、又はブロッカーとして作用することが分かっている化合物を、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化等の定方向又はランダム化学修飾にさらして、同様にか又はおそらくさらに特異的に機能しうる構造類似体を作製することができる。
【0192】
小分子のコンビナトリアルライブラリーをも作製することができる。小型有機化合物のコンビナトリアルライブラリーは、多様性の1つ以上の点で相互に異なる密接に関連した類似体のコレクションであり、多工程プロセスを用いて有機技術で合成される。例として、クラゾセンタンの類似体を生成することができ、それらはエンドセリン受容体インヒビター、エンドセリン受容体ブロッカー又はエンドセリン受容体アンタゴニストとして機能するが、他のチャネルを阻害、アンタゴナイズ、又は遮断しない。コンビナトリアルライブラリーを用いてこれらの化合物の類似体を合成することができる。
【0193】
コンビナトリアルライブラリーは無数の小型有機化合物を含む。平行合成法を利用して、あるタイプのコンビナトリアルライブラリーを調製して化合物アレイを生成する。本明細書で使用する用語「化合物アレイ」は、デカルト座標のそれらの空間的アドレスによって同定可能で、各化合物が共通の分子コアと、1つ以上の可変の構造的多様性要素とを有するように配置された化合物のコレクションを表す。該化合物アレイ内の化合物は、平行して別の反応容器で生成され、各化合物は、その空間的アドレスによって同定かつ追跡される。平行合成混合物及び平行合成方法の例は、1995年7月13日に公開されたPCT公開特許出願WO95/18972及び1998年1月27日に承諾された米国特許第5,712,171号及びその対応するPCT公開特許出願WO96/22529で提供されている。これらの内容を参照によって本明細書に引用したものとする。
【0194】
本明細書に記載の組換え体及び化学ライブラリーを用いて作製された化合物を最初にそのエンドセリン受容体に結合する能力に基づいてスクリーニングして推定薬剤を同定することができる。in vitroでエンドセリン受容体に結合するその能力について、当業者に周知かつ後述する標準的結合アッセイを用いて、ライブラリーメンバー等の化合物をスクリーニングすることができる。エンドセリン受容体への結合のため、エンドセリン受容体は、いくつかの状態で現れうる。該状態として、限定するものではないが、問題のエンドセリン受容体を発現している細胞、エンドセリン受容体の単離された細胞外ドメイン、それらのフラグメント、又はエンドセリン受容体の細胞外ドメインの融合タンパク質、及び別のタンパク質、例えばイムノグロブリン若しくはGSTポリペプチド又は精製(例えば、組換え技術によって産生された)形が挙げられる。いくつの高処理能力スクリーニングアッセイでは、エンドセリン受容体、その細胞外ドメイン又はその細胞外ドメインと別のタンパク質の融合の精製形の使用が好ましいだろう。周知の方法に従って、溶液又は固体中で結合相手の単離を行うことができる。
【0195】
標準的結合アッセイは技術上周知であり、これらのいくつかは本発明で適し、ELISA、競合結合アッセイ、サンドイッチアッセイ、エンドセリン受容体の放射能標識リガンド又は基質を用いるラジオレセプターアッセイ(天然の放射能標識アクチベーターの結合が推定上のアンタゴニスト、インヒビター、又はブロッカーと競合する)、電気泳動移動度シフトアッセイ、イムノアッセイ、細胞ベースアッセイ、例えばツーハイブリッド又はスリーハイブリッドスクリーニング等が挙げられる。少数のライブラリーメンバーの結合を検出するのに十分感受性であるという条件で、アッセイの性質は重要でない。
【0196】
種々の他の試薬を結合混合物に含めてもよい。これらには、最適な分子相互作用を促すために使用しうる塩、緩衝液、中性タンパク質(例えば、アルブミン)、洗浄剤などの試薬が挙げられる。該試薬は、反応成分の非特異的又はバックグラウンドの相互作用を減らすこともできる。アッセイの効率を改善する他の試薬を使用してもよい。エンドセリン受容体が正常に1つ以上のそのアクチベーターと特異的に結合する条件下で前記アッセイ材料の混合物をインキュベートする。成分の添加順序、インキュベーション温度、インキュベーションの時間、及び該アッセイの他のパラメーターを容易に決定できる。このような実験法は、アッセイの基本的構成ではない、アッセイパラメーターの最適化のみを含む。インキュベーション温度は典型的に4℃〜40℃である。インキュベーション時間は、好ましくは、迅速な高処理能力スクリーニングを促すために最小限であり、典型的に0.1〜10時間である。インキュベーション後、使用者に利用可能ないずれかの便利な方法で化合物間の特異的結合の存否を検出する。
【0197】
典型的に、複数のアッセイ混合物を異なる薬剤濃度を用いて平行して行って、種々の濃度に対する異なる反応を得る。これらの濃度の1つは、ネガティブコントロールとして、すなわち、薬剤のゼロ濃度又はアッセイ検出限界未満の薬剤濃度で役立つ。
化合物がエンドセリン受容体と相互作用できることが同定されたら、これらの化合物を、これらのエンドセリン受容体を横断する活性を調節するその能力についてさらにスクリーニングすることができる。
【0198】
ある範囲の値が与えられた場合、各介在値は、その文脈が明白に別に指定しない限り、当該範囲及び他のいずれかの記載値又は当該記載範囲の介在値の上限と下限の間の下限の単位の10分の1まで、本発明に包含されるものと解釈する。これらのより小さい範囲の上限と下限(該より小さい範囲に独立に含まれうる)も、記載範囲内のいずれもの具体的に除外された限界次第で、本発明に包含される。記載範囲が一方又は両方の限界を含む場合、当該含まれた両限界のどちらかを除外する範囲も本発明に含まれる。
【0199】
特に断らない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、この発明が属する技術分野の当業者が一般的に解釈するのと同じ意味を有する。本明細書で記載したのと同様又は均等ないずれの方法及び材料をも本発明の実施又は試験で使用しうるが、今は、好ましい方法と材料を記載している。本明細書で言及した全ての刊行物は、該刊行物を引用している方法及び/又は材料に関して開示かつ記載するため、参照によって本明細書に組み込まれる。
本明細書で論じた刊行物は、単に本出願の出願日前のそれらの開示のために提供されているだけである。本明細書では、本発明が、先行発明という理由で該刊行物に先行する権利がないと承認するものと解釈すべきでない。さらに、提供した刊行物の日付は、実際の公開日と異なることがあり、独立に確認する必要がありうる。
本発明の精神又は基本的特性から逸脱することなく、他の特有の形態で本発明を例示することができるので、本発明の精神を示すものとして、前述の明細書ではなく、添付の特許請求の範囲を参照すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの脳血管れん縮を治療する方法であって、以下の工程:
a)医薬組成物を準備する工程;
b)治療的に有効な量の前記医薬組成物を、くも膜下腔内の脳動脈に極めて接近した所定位置に投与する工程;
c)そこで前記医薬組成物が局所的薬理効果をもたらし、それによって前記脳血管れん縮を治療する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記医薬組成物が、治療薬及び医薬担体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記治療薬がカルシウムチャネルブロッカーである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記治療薬がカルシウムチャネルアンタゴニストである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記治療薬がカルシウムチャネルインヒビターである、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記治療薬が一過性受容器電位タンパク質ブロッカーである、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記治療薬がエンドセリン受容体アンタゴニストである、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記担体がゲル化合物である、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記担体が半固体化合物である、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記担体が徐放性固体化合物である、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記治療薬が、アムロジピン、アラニジピン、アゼルニジピン、バミジピン、ベニジピン、ベプリジル、シナルジピン、ジルチアゼム、エホニジピン、フェロジピン、ガロパミル、イスラジピン、ラシジピン、レミルジピン、レルカニジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、マニジピン、プラニジピン、ベラパミル又はその組合せから成る群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記治療薬が、A-127722、ABT-627、BMS 182874、BQ-123、BQ-153、BQ-162、BQ-485、BQ-518、BQ-610、EMD-122946、FR 139317、IPI-725、L-744453、LU 127043、LU 135252、PABSA、PD 147953、PD 151242、PD 155080、PD 156707、RO 611790、SB-247083、クラゾセンタン、アトラセンタン、シタクスセンタンナトリウム、TA-0201、TBC 11251、TTA-386、WS-7338B、ZD-1611、アスピリン、A-182086、CGS 27830、CP 170687、J-104132、L-751281、L-754142、LU 224332、LU 302872、PD 142893、PD 145065、PD 160672、RO-470203、ボセンタン、RO 462005、RO 470203、SB 209670、SB 217242、TAK-044、A-192621、A-308165、BQ-788、BQ-017、IRL 1038、IRL 2500、PD-161721、RES 701-1、及びRO 468443から成る群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記治療薬が、SKF 96365及びLOE 908から成る群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
工程(b)の前記所定位置が、脳動脈から約05mm〜約10mmである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記医薬組成物を移植によって投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記医薬組成物を外科的注入によって投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つの脳動脈内のくも膜下出血後の血管れん縮についてヒトを治療する方法であって、以下の工程:
a)医薬組成物を準備する工程;
b)治療的に有効な量の前記治療薬を脳動脈に極めて接近した所定位置に投与する工程;
c)そこで前記医薬組成物が局所的薬理効果をもたらし、それによって前記血管れん縮を治療する工程
を含む方法。
【請求項18】
前記医薬組成物が、治療薬及び医薬担体を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記治療薬がカルシウムチャネルブロッカーである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記治療薬がカルシウムチャネルアンタゴニストである、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記治療薬がカルシウムチャネルインヒビターである、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記治療薬が一過性受容器電位タンパク質ブロッカーである、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記治療薬がエンドセリン受容体アンタゴニストである、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記担体がゲル化合物である、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記担体が半固体化合物である、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記担体が徐放性固体化合物である、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
前記治療薬が、アムロジピン、アラニジピン、アゼルニジピン、バミジピン、ベニジピン、ベプリジル、シナルジピン、ジルチアゼム、エホニジピン、フェロジピン、ガロパミル、イスラジピン、ラシジピン、レミルジピン、レルカニジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、マニジピン、プラニジピン、ベラパミル又はその組合せから成る群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項28】
前記治療薬が、A-127722、ABT-627、BMS 182874、BQ-123、BQ-153、BQ-162、BQ-485、BQ-518、BQ-610、EMD-122946、FR 139317、IPI-725、L-744453、LU 127043、LU 135252、PABSA、PD 147953、PD 151242、PD 155080、PD 156707、RO 611790、SB-247083、クラゾセンタン、アトラセンタン、シタクスセンタンナトリウム、TA-0201、TBC 11251、TTA-386、WS-7338B、ZD-1611、アスピリン、A-182086、CGS 27830、CP 170687、J-104132、L-751281、L-754142、LU 224332、LU 302872、PD 142893、PD 145065、PD 160672、RO-470203、ボセンタン、RO 462005、RO 470203、SB 209670、SB 217242、TAK-044、A-192621、A-308165、BQ-788、BQ-017、IRL 1038、IRL 2500、PD-161721、RES 701-1、及びRO 468443から成る群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項29】
前記治療薬が、SKF 96365及びLOE 908から成る群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項30】
工程(b)の前記所定位置が脳動脈から約05mm〜約10mmである、請求項17に記載の方法。
【請求項31】
前記医薬組成物を移植によって投与する、請求項17に記載の方法。
【請求項32】
前記医薬組成物を外科的注入によって投与する、請求項17に記載の方法。
【請求項33】
a)治療的に有効な量の治療薬;及び
b)医薬担体
を含む、ヒトの脳血管れん縮を治療するためのくも膜下腔内への投与用医薬組成物。
【請求項34】
前記治療薬が、アムロジピン、アラニジピン、アゼルニジピン、バミジピン、ベニジピン、ベプリジル、シナルジピン、ジルチアゼム、エホニジピン、フェロジピン、ガロパミル、イスラジピン、ラシジピン、レミルジピン、レルカニジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、マニジピン、プラニジピン、ベラパミル、A-127722、ABT-627、BMS 182874、BQ-123、BQ-153、BQ-162、BQ-485、BQ-518、BQ-610、EMD-122946、FR 139317、IPI-725、L-744453、LU 127043、LU 135252、PABSA、PD 147953、PD 151242、PD 155080、PD 156707、RO 611790、SB-247083、クラゾセンタン、アトラセンタン、シタクスセンタンナトリウム、TA-0201、TBC 11251、TTA-386、WS-7338B、ZD-1611、アスピリン、A-182086、CGS 27830、CP 170687、J-104132、L-751281、L-754142、LU 224332、LU 302872、PD 142893、PD 145065、PD 160672、RO-470203、ボセンタン、RO 462005、RO 470203、SB 209670、SB 217242、TAK-044、A-192621、A-308165、BQ-788、BQ-017、IRL 1038、IRL 2500、PD-161721、RES 701-1、RO 468443、SKF 96365及びLOE 908から成る群より選択される、請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項35】
前記治療薬がカルシウムチャネルブロッカーである、請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項36】
前記治療薬がカルシウムチャネルアンタゴニストである、請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項37】
前記治療薬がカルシウムチャネルインヒビターである、請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項38】
前記治療薬が一過性受容器電位タンパク質ブロッカーである、請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項39】
前記治療薬がエンドセリン受容体アンタゴニストである、請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項40】
前記医薬担体がゲル化合物である、請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項41】
前記医薬担体が徐放性固体化合物である、請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項42】
前記医薬担体が半固体化合物である、請求項33に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2A−2C】
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【公表番号】特表2010−529205(P2010−529205A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512324(P2010−512324)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/066576
【国際公開番号】WO2008/154585
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(509341813)
【出願人】(509341824)
【Fターム(参考)】