説明

腋芽を増加させる肥料

【課題】農園芸用植物の腋芽形成促進技術を提供する。
【解決手段】亜燐酸基を有する化合物を含有する肥料組成物を農園芸用作物に施用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効果的な施肥技術に関する。
【背景技術】
【0002】
作物を栽培するにあたり、窒素、燐酸、カリウムを中心に多様な肥料成分が作物の種類や生育ステージに応じて施用されている。肥料を施用する目的は収穫量の増大であり、穀類では種子、果物や果菜類では果実、根菜類では塊根、葉菜類や茶では葉、また、芝生、花卉類では腋芽もしくは花芽の増加である。また、収穫部位の最大化を図るために栄養生長期、及び葉菜類や茶においては窒素成分を相対的に増加し、果実や花を収穫物とする作物では生殖生長期に応じて燐酸、カリウムを相対的に増加して施肥することは一般に良く知られた技術である。
【0003】
特定の作物において腋芽の増加は重要な課題である。施肥技術としては一般的に、窒素施肥を抑制しつつ燐酸、カリウムを相対的に増加させることが行われる。スプレー菊栽培や挿し芽用の苗作りなどでは頂芽を取り除いて腋芽の生長を促すことや、芝生では頂芽の生育を促すジベレリンの合成を阻害する薬剤などを利用することも行われている。
【0004】
肥料の重要要素である燐は、多くの場合燐酸塩として配合されている。燐酸イオンは、葉面から吸収され難く、多くは土壌に施用され、土壌中の金属イオンと結合して水に溶解しにくい安定な塩を形成する。従って、地温の低い季節では肥料効果発現の律速成分になっている。一方、亜燐酸は、燐酸に比べて解離定数が大きく、葉面からの吸収効率が高い、また、その金属塩は土壌吸着が少ないといった特性を有するため、ゴルフ場では、発根を促すため初春に利用されている。さらに冬季にベント芝で発生するアントシアンによる紫化現象を防止できるとして特許出願されている(特許文献 特許公開2002−316907参照)。
【0005】
亜燐酸はヨーロッパやアメリカ合衆国においては肥料として使用されるとともに植物に発病抑止能力を付与する効果から殺菌剤としても使われている。現在わが国で使用されている亜燐酸肥料は、亜燐酸カリウムである。カリウム塩以外の亜燐酸肥料はアンモニウム塩が特許出願されている(特許文献 USPatent6824584参照)。亜燐酸カリウムは潮解性を有することもあって多くは液体肥料として使用され、亜燐酸カリウム溶液に緩効性窒素肥料であるアセトアルデヒド縮合物を混合分散させた液状の複合肥料(商品名、亜燐ベース 丸和バイオケミカル株式会社製品)も販売されている。
【0006】
一方、期待する生育向上とは逆に、亜燐酸を添加して水稲の水耕栽培を行うと濃度によっては枯死する場合や、生殖生長が著しく阻害され発根と分げつが昂進することが知られている(非特許文献 栃木県農業試験場研究報告 第5号 昭和36年12月 65〜74頁参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
施肥によって顕著で速効的な花卉や芝生の腋芽形成を期待することは難しい。すなわち、栄養生長や頂芽優先を促す窒素成分と腋芽形成に効果的な燐酸、カリウムとのバランス、また、気象条件によって変動する生育度合いに応じた高度な施肥技術が必要である。例えば、ゴルフ場におけるベント芝は耐暑性が低く、寒冷地以外、夏季の窒素肥料の施用は徒長を招き病害抵抗性を失わせるために大きな問題である。一方、施肥によらない方法として、植物ホルモンであるジベレリンの合成を阻害して腋芽の発達を促す方法は、植物が本来持っている葉の形状を損ない好ましいものではない。また、菊作りなどにおける、頂芽を取り除き有効な腋芽数を確保するには、非常な手間が求められる。
【0008】
わが国で使用されている亜燐酸肥料は、使われる亜燐酸カリウムが高い潮解性を持つために殆どが単肥の液体肥料として利用されているが、同時に、高価であることから汎用されるまでには至っていない。安価で使用が簡便な配合肥料が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、亜燐酸基を有する化合物は燐酸基を有する化合物に比べて燐酸肥料としての効果発現作用に違いがあることに着目して検討を行ってきた。その結果、下記試験例に示すごとく、ベント芝に処理することによって新たに腋芽の増加をもたらすことを見いだした。燐酸が発根及び腋芽発達に有効であることは公知の事実である。しかし、亜燐酸カリウムを用いれば、従来の燐酸に期待する効果をより効率的かつ速効的にもたらすことができる。
【0010】
腋芽発達を促すためには頂芽優勢を抑える必要がある。しかし、同時に栄養生長において必要な窒素成分の施用も重要な技術課題である。速効性窒素肥料を分割施肥することもひとつの解決方法であるが、亜燐酸カリウムに緩効性窒素肥料を混合することにより非常に簡便な施肥を可能にする。
【0011】
その他、本発明に関わる肥料においては、各種の肥料成分を目的に応じて混合することができる。例えば、燐酸肥料の効果を促進するとされるマグネシウムなどの微量要素を加えることも、また燐酸肥料の効果を持続させたい場合は通常の燐酸化合物を混合することもできる。さらに、潮解性を有する亜燐酸カリウムを使用して固形の混合肥料を調製する場合は、多孔質珪酸粉末、アルミナ、もしくは少量の界面活性剤を混合することで固結防止を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
亜燐酸基を有する化合物にその他の肥料成分を混合して簡便な腋芽形成技術を提供する。
【0013】
亜燐酸基を有する化合物に緩効性窒素肥料を混合して施肥の手間を減少させ、同時に栄養生長を抑制しながら腋芽形成を促す技術を提供する。
【発明を実施するための最良の形熊】
【0014】
発明の実施の形態を調製例と比較効果試験例に基づき説明する。
(調製例1)
60メッシュ以下に粉砕したアセトアルデヒド縮合肥料(窒素保証値:31%、チッソ株式会社製品)71.0gに亜燐酸カリウム(亜燐酸カリウム保証値:97%以上、大道製薬株式会社製品)14.6g、硫酸アンモニウム(和光純薬工業株式会社商品)10.4g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SIGMA−ALDRICH Inc.商品)0.2g、多孔質珪酸粉末(商品名:カープレックス#80、デグサジャパン株式会社製品)3.8gを加えて混合調製した。
保証成分量、N:P:KO:Mg=23%:8%:5%
【0015】
(調製例2)
60メッシュ以下に粉砕したアセトアルデヒド縮合肥料71.0gに亜燐酸カリウム14.6g、硫酸アンモニウム10.4g、無水硫酸マグネシウム(和光純薬工業株式会社商品)4.0gを加えて混合調製した。
保証成分量、N:P:KO:Mg=23%:8%:5%:0.7%
【0016】
(調製例3)
60メッシュ以下に粉砕したアセトアルデヒド縮合肥料55.0gに、亜燐酸カリウム37.7g、塩化カリウム(和光純薬工業株式会社商品)3.3g、多孔質珪酸粉末4.0gを加えて混合調製した。
保証成分量、N:P:KO=16%:21%:16%
【0017】
(調製例4)
粗粒のアセトアルデヒド縮合肥料54.4gに、亜燐酸カリウム35.6g、多孔質珪酸粉末10.0gを加えて混合調製した。
保証成分量、N:P:KO=16%:20%:13%
【0018】
(調製例5)
粗粒のアセトアルデヒド縮合肥料52.0gに、亜燐酸カリウム33.0g、塩化カリウム3.5g、無水硫酸マグネシウム11.5gを加えて混合調製した。
保証成分量、N:P:KO:Mg=15%:18%:14%:2%
【0019】
(調製例6)
粗粒のアセトアルデヒド縮合肥料52.0gに、亜燐酸カリウム33.0g、塩化カリウム3.5g、無水硫酸マンガン(和光純薬工業株式会社商品)7.5g、多孔質珪酸粉末4.0gを加えて混合調製した。
保証成分量、N:P:KO:Mn=15%:18%:14%:2%
【0020】
(調製例7)
粗粒のアセトアルデヒド縮合肥料54.4gに、亜燐酸カリウム14.6g、燐酸一カリウム(和光純薬工業株式会社商品)26.0g、多孔質珪酸粉末5.0gを加えて混合調製した。
保証成分量、N:P:KO=16%:21%:14%
【0021】
(比較調製例1)
60メッシュ以下に粉砕したアセトアルデヒド縮合肥料71.0gに固体微粒の燐酸一カリウム16.6g、微粒の硫酸アンモニウム10.4g、多孔質珪酸粉末2.0gを加えて混合調製した。
保証成分量、N:P:KO=23%:8%:5%
【0022】
(比較調製例2)
粗粒のアセトアルデヒド縮合肥料54.4gに、燐酸一カリウム42.0g、多孔質珪酸粉末3.6gを加えて混合調製した。
保証成分量、N:P:KO=16%:21%:14%
【0023】
ベント芝に対する上記調製例、比較調製例もしくは慣行施肥による腋芽形成作用を比較検討した。その結果を下記に示す。
【0024】
(芝生の腋芽形成試験1)
茨城県龍ヶ崎カントリークラブのベント芝育成圃場において、1区10mで2006年6月13日、7月13日の2回、調製例1、調製例7、比較調製例1、及び比較調製例2による肥料を水に懸濁させジョウロを用いて3g/m/500ml相当散布した。対照の慣行区は、6月に窒素8%、P8%、KO8%の配合肥料を12g/m、および窒素13%、P0%、KO2%の配合肥料を8g/m散布した。試験期間中、週1回から2回の芝刈りを行った。8月3日に打ち抜き面積10.5cmのソイルサンプラーで処理区、及び慣行区から各2ヶ所抜き取り、洗根して根長を測定した。また、地際から1.5cm以下を切り取り、70℃で48時間乾燥して重量を測定した。同時に、打ち抜き面積1.0cmの芽数サンプラーにより抜き取り、その芽数を計数した。その結果の平均値を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
(芝生の腋芽形成試験2)
茨城県霞ヶ浦ゴルフクラブのペンクロスベント芝育成圃場において、1区10mで2006年6月5日、6月29日の2回、調製例1による肥料を水に懸濁させ、3g/m/500ml相当散布した。対照の慣行区は、6月に窒素3%、P3%、KO2%の配合肥料を0.5g/m、7月に窒素25%、P20%、KO13%の配合肥料を0.5g/m散布した。試験期間中、週1回から2回の芝刈りを行った。8月3日に打ち抜き面積10.5cmのソイルサンプラーで処理区、及び慣行区から各2ヶ所抜き取り、洗根して根長を測定した。また、地際から1.5cm以下を切り取り、70℃で48時間乾燥して重量を測定した。同時に、打ち抜き面積1.0cmの芽数サンプラーにより抜き取り、その芽数を計数した。その結果の平均値を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
(芝生の腋芽形成試験3)
北海道札幌ベイカントリークラブのベント芝育成圃場において、1区10mで2006年6月8日、7月8日の2回、調製例1による肥料を水に懸濁させ、3g/m/500m1相当散布した。対照の慣行区は、6月に窒素10%(内2%は緩効性窒素オキサミド由来)、P2%、KO6%の配合肥料を15g/m、7月に尿素を5g/mを散布した。試験期間中、週1回から2回の芝刈りを行った。8月8日に打ち抜き面積10.5cmのソイルサンプラーで処理区、及び慣行区から各2ヶ所抜き取り、洗根して根長を測定した。また、地際から1.5cm以下を切り取り、70℃で48時間乾燥して重量を測定した。同時に、打ち抜き面積1.0cmの芽数サンプラーにより抜き取り、その芽数を計数した。その結果の平均値を表3に示す。
【0029】
【表3】

【0030】
(芝生の腋芽形成試験4)
北海道苫小牧カントリークラブブルックスコースのドミネントベント芝育成圃場において、1区10mで2006年6月7日、7月6日の2回、調製例1による肥料を水に懸濁させ、3g/m/500ml相当散布した。対照の慣行区は、6月と7月に各1回、緩効性窒素を含む窒素1.4g、P1.2g、KO1.4gを散布した。試験期間中、週1回から2回の芝刈りを行った。8月7日に打ち抜き面積10.5cmのソイルサンプラーで処理区、及び慣行区から各2ヶ所抜き取り、洗根して根長を測定した。また、地際から15cm以下を切り取り、70℃で48時間乾燥して重量を測定した。同時に、打ち抜き面積1.0cmの芽数サンプラーにより抜き取り、その芽数を計数した。その結果の平均値を表4に示す。
【0031】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜燐酸基を有する化合物およびその他の肥料成分を有効成分として含有する組成物を施用して農園芸用作物の腋芽形成を促進させる方法。
【請求項2】
亜燐酸基を有する化合物および緩効性窒素肥料を有効成分として含有する組成物を施用して農園芸用作物の腋芽形成を促進させる方法。
【請求項3】
亜燐酸基を有する化合物およびその他の肥料成分を有効成分として含有し、植物の腋芽形成を促進させる農園芸用組成物。
【請求項4】
亜燐酸基を有する化合物および緩効性窒素肥料を有効成分として含有し、植物の腋芽形成を促進させる農園芸用組成物。

【公開番号】特開2008−143879(P2008−143879A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−357088(P2006−357088)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(593182923)丸和バイオケミカル株式会社 (25)
【Fターム(参考)】