説明

腎疾患治療剤

本発明は、コロニー刺激因子(CSF)を有効成分とする腎疾患治療剤及びコロニー刺激因子(CSF)を有効成分とする腎組織修復・再生剤に関する。コロニー刺激因子としては顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な腎疾患治療剤及び腎組織修復・再生剤に関する。本発明の腎疾患治療剤及び腎組織修復・再生剤はコロニー刺激因子(CSF)を有効成分として含む。
【背景技術】
【0002】
ヒトG−CSFは顆粒球系造血幹細胞の分化誘導因子として発見された造血因子であり、生体内では好中球造血を促進することから、骨髄移植や癌化学療法後の好中球減少症治療剤として臨床応用されている。また、上記作用のほかにもヒトG−CSFは幹細胞に作用してその分化増殖を刺激する作用や骨髄中の幹細胞を末梢血中に動員する作用がある。実際に後者の作用に基づいて、臨床の現場では強力な化学療法を施行した後の癌患者の造血回復促進を目的として、ヒトG−CSFにより動員された末梢血造血幹細胞を移植する末梢血幹細胞移植術が行われている。しかし、G−CSFが腎疾患の治療に用いられるとの報告はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、腎疾患の治療方法及び腎を修復又は再生させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、G−CSFの腎疾患治療効果及び腎臓の修復・再生効果について検討した。その結果、破壊された腎組織がG−CSF投与により修復され、G−CSFが腎疾患治療剤及び腎組織の修復・再生剤として有用であることを見出した。本発明はこの知見に基づき完成したものである。
【0005】
すなわち、本発明は以下のものを提供する。
(1)コロニー刺激因子(CSF)を有効成分とする腎疾患治療剤。
(2)コロニー刺激因子が顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)である前記(1)に記載の治療剤。
(3)腎疾患が慢性腎不全である前記(1)又は(2)に記載の治療剤。
(4)腎疾患が急性腎不全である前記(1)又は(2)に記載の治療剤。
(5)腎疾患が腎障害である前記(1)又は(2)に記載の治療剤。
(6)腎疾患が糖尿病性腎障害である前記(5)に記載の治療剤。
(7)腎疾患が動脈硬化性腎障害である前記(5)に記載の治療剤。
(8)コロニー刺激因子(CSF)を有効成分とする腎組織修復・再生剤。
(9)コロニー刺激因子が顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)である前記(8)に記載の修復・再生剤。
(10)腎組織又は腎組織に存在する細胞にG−CSFを接触させることにより、腎組織又は腎組織に存在する細胞を増殖又は再生する方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の腎疾患治療剤は、コロニー刺激因子(CSF)を有効成分とする。CSFとしては、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(CM-CSF)などを挙げることができるが、本発明においてはG-CSFを用いることが好ましい。
【0007】
本発明の治療剤が対象とする腎疾患は特に限定されず、腎不全、腎障害、閉塞性腎症など、いかなる腎疾患でもよいが、腎不全または腎障害が好ましい。
【0008】
腎不全は一般的に、腎機能が低下し、窒素代謝産物の代謝、排泄、水・電解質、酸塩基平衡の維持、腎特異のホルモンなど生理活性物質の産生、分泌、代謝が阻害される病態をいう(新臨床内科学、医学書院、2002年、1289-1296、1331-1335)。
【0009】
腎不全は慢性腎不全(chronic renal failure :CRF)と急性腎不全(acute renal failure: ARF)に区別されるが、本発明の治療剤の対象は慢性腎不全、急性腎不全どちらでもよい。急性腎不全は、腎血流量の減少で生じる腎前性急性腎不全、両側性の尿路閉塞で生じる腎後性急性腎不全、腎実質の障害で生じる腎性急性腎不全などに分けられる。慢性腎不全の病因としては、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、腎硬化症、多発性?胞腎などが挙げられる。
【0010】
本発明の治療剤が対象とする腎障害は特に限定されず、全身性疾患による腎障害、薬剤による腎障害、重金属による腎障害など、いかなる腎障害でもよい。全身性疾患による腎障害としては、糖尿病による腎障害、動脈硬化による腎障害、全身性エリテマトーデスによる腎障害、進行性全身硬化症による腎障害、慢性関節リウマチによる腎障害、混合性結合組織病による腎障害、クリオグロブリン血症による腎障害、結節性多発動脈炎による腎障害、Wegener肉芽腫症による腎障害、Schonlein-Henoch紫斑病による腎障害などを挙げることができるが、好ましくは糖尿病性腎障害または動脈硬化症性腎障害である。薬剤による腎障害としては、抗癌剤、抗生物質(ペニシリン系、セフェム系、アミノ配糖体系、ポリペプチド系、抗真菌薬系など)、鎮痛剤(非ステロイド性抗炎症薬など)、免疫抑制剤(シクスポリンAなど)、造影剤、ペニシラミン、リチウム、ヘロイン、トルブタミド、プロベネシド、シメチジンなどによる腎障害を挙げることができる。重金属による腎障害としては、水銀、鉛、白金、金、銀、銅、カドミウム、鉄などによる腎障害を挙げることができる。
【0011】
又、本発明の治療剤は、腎修復又は再生剤として用いることも可能である。従って、本発明はコロニー刺激因子、特にG-CSFを有効成分とする腎修復・再生剤に関する。
【0012】
本発明において修復・再生する腎は、傷害をうけた腎、壊死した腎、切除された腎など、いかなる腎でもよい。例えば、薬剤などにより傷害をうけた腎、血流量の不足により壊死した腎など、腎組織を修復又は再生する必要のある場合に本発明の修復・再生剤を用いることが可能である。
【0013】
腎の修復・再生は、本発明の修復・再生剤を生体内に投与することにより行うことも可能であり、又、in vitroで腎組織を培養する際に本発明の修復・再生剤を添加することも可能である。
【0014】
本発明の腎組織修復・治療剤により、低下した又は失われた腎機能を回復することが可能である。腎機能の評価は一般的に知られており、当業者に公知の方法により評価することが可能である。例えば、BUN(血液尿素窒素)値、クレアチニン値などを指標に評価することが可能である。
【0015】
本発明はさらに、腎組織又は腎組織に存在する細胞にG−CSFを接触させることにより、腎組織又は腎組織に存在する細胞を増殖又は再生する方法に関する。G−CSFと腎組織又は腎組織に存在する細胞との接触はインビボで行ってもよいし、あるいはインビトロで行ってもよい。
【0016】
腎組織は腎実質(糸球体、近位尿細管、ヘンレ係蹄、遠位尿細管、集合管、ボウマン嚢、輸出細動脈など)や腎盂などで構成されており、腎組織に存在する細胞としては、メサンギウム細胞、内皮細胞、上皮細胞、レニン分泌細胞、集合管主細胞(P cell)、集合管介在細胞(I cell)などを挙げることができる。
【0017】
本発明の腎疾患治療剤または腎修復・再生剤の有効成分であるG−CSFは、どのようなG−CSFでも用いることができるが、好ましくは高度に精製されたG−CSFであり、より具体的には、哺乳動物G−CSF、特にヒトG−CSFと実質的に同じ生物学的活性を有するものである。G−CSFの由来は特に限定されず、天然由来のG−CSF、遺伝子組換え法により得られたG−CSFなどを用いることができるが、好ましくは遺伝子組換え法により得られたG−CSFである。遺伝子組換え法により得られるG−CSFには、天然由来のG−CSFとアミノ酸配列が同じであるもの、あるいは該アミノ酸配列中の1または複数のアミノ酸を欠失、置換、付加等したもので、天然由来のG−CSFと同様の生物学的活性を有するもの等であってもよい。アミノ酸の欠失、置換、付加などは当業者に公知の方法により行うことが可能である。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Gotoh, T. et al. (1995) Gene 152, 271-275;Zoller, M.J. and Smith, M. (1983) Methods Enzymol. 100, 468-500;Kramer, W. et al. (1984) Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456;Kramer, W. and Fritz, H.J. (1987) Methods Enzymol. 154, 350-367;Kunkel, T.A. (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82, 488-492;Kunkel (1988) Methods Enzymol. 85, 2763-2766)などを用いて、G−CSFのアミノ酸に適宜変異を導入することにより、G−CSFと機能的に同等なポリペプチドを調製することができる。また、アミノ酸の変異は自然界においても生じうる。一般的に、置換されるアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に置換されることが好ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D.F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81, 5662-5666;Zoller, M.J. & Smith, M. Nucleic Acids Research (1982) 10, 6487-6500;Wang, A. et al., Science 224, 1431-1433;Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79, 6409-6413)。
【0018】
又、G−CSFと他のタンパク質との融合タンパク質を用いることも可能である。融合ポリペプチドを作製するには、例えば、G−CSFをコードするDNAと他のタンパク質をコードするDNAをフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよい。本発明のG−CSFとの融合に付される他のタンパク質としては、特に限定されない。
【0019】
又、化学修飾したG−CSFを用いることも可能である。化学修飾したG−CSFの例としては、例えば、糖鎖の構造変換・付加・欠失操作を行ったG−CSFや、ポリエチレングリコール・ビタミンB12等、無機あるいは有機化合物等の化合物を結合させたG−CSFなどを挙げることができる。
【0020】
本発明で用いるG−CSFは、いかなる方法で製造されたものでもよく、例えば、ヒト腫瘍細胞やヒトG−CSF産生ハイブリドーマの細胞株を培養し、これから種々の方法で抽出し分離精製したG−CSF、あるいは遺伝子工学的手法により大腸菌、イースト菌、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、C127細胞、COS細胞、ミエローマ細胞、BHK細胞、昆虫細胞、などに産生せしめ、種々の方法で抽出し分離精製したG−CSFなどを用いることができる。本発明において用いられるG−CSFは、遺伝子工学的手法により製造されたG−CSFが好ましく、哺乳動物細胞(特にCHO細胞)を用いて製造されたG−CSFが好ましい(例えば、特公平1−44200号公報、特公平2−5395号公報、特開昭62−129298号公報、特開昭62−132899号公報、特開昭62−236488号公報、特開昭64−85098号公報)。
【0021】
本発明の腎疾患治療剤または腎修復・再生剤には、その投与方法や剤型に応じて必要により、懸濁化剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、保存剤、吸着防止剤、界面活性化剤、希釈剤、賦形剤、pH調整剤、無痛化剤、緩衝剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を適宜添加することができる。
【0022】
懸濁剤の例としては、メチルセルロース、ポリソルベート80、ポリソルベート20,ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、トラガント末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等を挙げることができる。
【0023】
溶液補助剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80、ポリソルベート20,ニコチン酸アミド、マグロゴール、ヒマシ油脂肪酸エチルエステル等を挙げることができる。
【0024】
安定化剤としては、デキストラン40、メチルセルロース、ゼラチン、亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0025】
等張化剤としては例えば、D−マンニトール、ソルビート等を挙げることができる。
【0026】
保存剤としては例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾール等を挙げることができる。
【0027】
吸着防止剤としては例えば、ヒト血清アルブミン、レシチン、デキストラン、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。
【0028】
界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリテート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチエレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン水素ヒマシ油)等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビットミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン等のポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオキシエチレン脂肪酸アミド等のHLB6〜18を有するもの;陰イオン界面活性剤、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数10〜18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、エチレンオキシドの平均付加モル数が2〜4でアルキル基の炭素原子数が10〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が8〜18のアルキルスルホコハク酸エステル塩;天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のフィンゴリン脂質;炭素原子数12〜18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル等を典型的例として挙げることができる。本発明の製剤には、これらの界面活性剤の1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。好ましい界面活性剤は、ポリソルベート20,40,60又は80などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであり、ポリソルベート20及び80が特に好ましい。また、ポロキサマー(プルロニックF−68(登録商標)など)に代表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールも好ましい。
【0029】
含硫還元剤としては例えば、N−アセチルシステイン、N−アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、炭素原子数1〜7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等が挙げられる。
【0030】
酸化防止剤としては例えば、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、L−アスコルビン酸及びその塩、L−アスコルビン酸パルミテート、L−アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤が挙げられる。
【0031】
さらには、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩;クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、酢酸ナトリウムなどの有機塩などの通常添加される成分を含んでいてもよい。
【0032】
本発明の腎疾患治療剤又は腎修復・再生剤は、注射剤(皮下、皮内、筋肉内、静脈内、腹腔内、腎臓内など)として、または経皮、経粘膜、経鼻などの投与に適した剤形、又は経口投与に適した剤形(錠剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤、懸濁剤など)として投与することが可能である。本発明は投与経路や剤形などによって限定されるものではない。
【0033】
注射剤とする場合には、上記の成分をリン酸緩衝液(好ましくはリン酸一水素ナトリウム−リン酸二水素ナトリウム系)及び/又はクエン酸緩衝液(好ましくはクエン酸ナトリウムの緩衝液)及び/又は酢酸緩衝液などの溶液製剤の分野で公知の水性緩衝液に溶解することによって溶液製剤を調製する。緩衝液の濃度は一般には1〜500mMであり、好ましくは5〜100mMであり、さらに好ましくは10〜20mMである。また、注射剤は溶液製剤であっても凍結乾燥製剤であってもよい。
【0034】
本発明のG−CSFを有効成分とする腎疾患治療剤又は腎修復・再生剤の投与量、投与回数は対象の疾患患者の病状を配慮して当業者が適宜決定することができるが、通常、成人一人あたり0.1〜500 μg/kg/day、好ましくは0.5〜20 μg/kg/dayの用量でG−CSFを投与することができる。投与回数は一週間に1〜7日間投与することができる。しかし、本発明はヒトG−CSFの用量によって限定されるものではない。
【0035】
又、本発明の腎疾患治療剤または腎修復・再生剤は、他の薬剤と併用してもよい。
【0036】
本発明の腎疾患治療剤または腎修復・再生剤の効果を、左腎動脈を結紮する虚血再灌流術を施した腎障害のモデルマウスを用いて試験した。その結果、尿細管障害と甲状腺化においてG−CSF投与群がコントロール群に比べて改善されていた。またBUN(血液尿素窒素)値もコントロール群に比べ、G-CSF投与群に有意な改善が認められた。従って、G-CSFは腎疾患の治療剤として有用であることが確認された。さらに、これらの結果は、動脈を結紮することにより壊死した腎組織が、G-CSFの投与により修復・再生していることを示しており、従って、G-CSFは腎の修復・再生剤として有用であると考えられる。
【0037】
本発明を以下の実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれに限定されない。本発明の記載に基づき種々の変更、修飾が当業者には可能であり、これらの変更、修飾も本発明に含まれる。
【実施例】
【0038】
実施例1
B6マウスに左腎動脈を結紮する60分間の虚血再灌流術を施し、翌日からG-CSF、100μg/kgを朝夕2回/日、5日間皮下(s.c.)投与した。術1ヵ月後に病理解剖に付し、左右の腎臓をホルマリンで固定後、病理評価を行った。コントロールとしてvehicle投与群を準備した。なお、vehicleとしてG-CSFを溶解する際に用いた溶解剤を投与した。
【0039】
本モデルでは腎に尿細管障害と甲状腺化が強く認められ、腎障害モデルと考えられている。このモデルの腎病変は主に尿細管の萎縮又は一部の壊死で虚血による腎障害を呈しており、臨床の動脈硬化性の腎症、糖尿病による動脈硬化性腎症に類似する。
【0040】
今回、腎の病理組織を尿細管障害と甲状腺化に注目して評価した。評価基準は以下のとおりである。
【0041】
(1)尿細管障害
-;変化なし
±;遠位尿細管軽度障害
+;遠位尿細管が主に障害
++;遠位尿細管に近位尿細管の病変が加わった
+++;尿細管が全体に萎縮
(2)甲状腺化(蛋白尿が溜まって甲状腺様に観察される)
-;変化なし
±;わずかに認める
+;1/4程度認める
++;1/3程度認める
+++;1/2以上に認める

以下に病理評価の結果を示す。
【0042】
【表1】

【0043】
尿細管萎縮はvehicle群で++が72%と最も多かったが、G-CSF投与群は++40%と減少した。
【0044】
甲状腺化はvehicle群で++が63%と最も多かったが、G-CSF投与群は++10%と減少した。
【0045】
腎機能に及ぼす影響を末梢血中のBUN(血液尿素窒素)値で検討した。その結果、BUNはコントロール群(32.1 +/- 1.4 mg/dL)に比べ、G-CSF投与群が24.7 +/- 0.7 mg/dL(p<0.001)と有意な改善が認められた。
【0046】
以上の結果から、G-CSFは腎疾患の治療剤として有用であると考えられる。
【0047】
又、これらの結果は、動脈を結紮することにより壊死した腎組織が、G-CSFの投与により修復・再生していることを示しているので、G-CSFは腎の修復・再生剤として有用であると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロニー刺激因子(CSF)を有効成分とする腎疾患治療剤。
【請求項2】
コロニー刺激因子が顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)である請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
腎疾患が慢性腎不全である請求項1又は2に記載の治療剤。
【請求項4】
腎疾患が急性腎不全である請求項1又は2に記載の治療剤。
【請求項5】
腎疾患が腎障害である請求項1又は2に記載の治療剤。
【請求項6】
腎疾患が糖尿病性腎障害である請求項5に記載の治療剤。
【請求項7】
腎疾患が動脈硬化性腎障害である請求項5に記載の治療剤。
【請求項8】
コロニー刺激因子(CSF)を有効成分とする腎組織修復・再生剤。
【請求項9】
コロニー刺激因子が顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)である請求項8に記載の修復・再生剤。
【請求項10】
腎組織又は腎組織に存在する細胞にG−CSFを接触させることにより、腎組織又は腎組織に存在する細胞を増殖又は再生する方法。

【国際公開番号】WO2005/034986
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514647(P2005−514647)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015127
【国際出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】