説明

腎臓予後予測アッセイ

本発明は、腎機能の喪失のリスクがある対象を予測する、および/または腎機能の喪失のより大きいリスクがある対象を特定する、および/または腎不全/末期腎臓病のリスクがある対象を特定する方法であって、対象からの試料における遊離軽鎖(FLC)の量を検出することを含み、FLCのより高い量が、腎機能の喪失のリスクの増加および/または腎不全/末期腎臓病のリスクの増加と関連する方法を提供する。本発明のさらなる態様は、腎障害を有する対象からの試料における遊離軽鎖(FLC)の量を検出すること、および該試料におけるFLCの量を、該対象から以前に得られた試料において検出されたFLCの量と比較することを含む腎臓障害を監視する方法であって、以前の試料と比較して検出されたFLCの量の増加が、対象における腎機能の喪失のリスクの増加を示し、前記FLCの量の減少が、対象における腎機能の喪失のリスクの減少を示す方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎機能の喪失のリスクがある対象を予測し、腎機能の喪失のより大きいリスクがある対象を特定する、および/または腎不全もしくは末期腎臓病のリスクがある対象を特定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人らは、患者の広範な単クローン性ガンマグロブリン血症についてアッセイをする方法として、遊離軽鎖を長年にわたって研究してきた。そのような遊離軽鎖を診断に使用することについては、書籍「血清遊離軽鎖分析(Serum Free Light Chain Analysis)第5版(2008年)A.R.Bradwellら、ISBN0704427028」に詳しく説明されている。
【0003】
抗体は、重鎖および軽鎖からなる。それらは通常、二つ折り対称(two‐fold symmetry)で、2つの同一の重鎖および2つの同一の軽鎖で構成され、各々、可変および定常領域を含有する。各々の軽鎖/重鎖対の可変領域は、組み合わさって抗原結合部位を形成し、両鎖が抗体分子の抗原結合特異性に寄与する。軽鎖には、κおよびλの2つのタイプがあり、どの抗体分子も、いずれか一方の軽鎖を用いて作られ、両方が用いられることはない。ヒトでは、λ分子より約2倍多くのκ分子が作られるが、これが異なる哺乳類もいる。通常は、軽鎖は重鎖に結合している。しかし、幾つかの結合していない「遊離軽鎖」が人々の血清または尿中で検出できる。遊離軽鎖は、通常、軽鎖が重鎖に結合することによって隠れている遊離軽鎖の表面に対する抗体を作ることによって特異的に識別しうる。遊離軽鎖(FLC)では、この表面が露出され、それを免疫的に検出することができる。κまたはλ遊離軽鎖検出用の市販のキットとしては、例えば、英国バーミンガム、バインディングサイト社(Binding Site Limited)製の「フリーライト(Freelite)(商標)」が挙げられる。出願人らは、遊離κ/遊離λ比を測定することが患者における単クローン性ガンマグロブリン血症の診断の助けとなることを以前に見出している。それは、例えば、完全型免疫グロブリン多発性骨髄腫(MM)、軽鎖MM、非分泌MM、ALアミロイドーシス、軽鎖沈着症、くすぶり型MM、形質細胞腫およびMGUS(意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症)の診断における助けとして使用されてきた。また、FLCの検出は、例えば他のB細胞悪液質の診断の補助として、実際に単クローン性ガンマグロブリン血症一般の診断のために、尿ベンスジョーンズタンパク質分析の代替物として使用されてきた。
【0004】
従来、λまたはκ軽鎖の1つの増加およびその結果としての異常な割合を探し求める。例えば、多発性骨髄腫は悪性形質細胞の単クローン増殖に起因し、単一のタイプの免疫グロブリンを産生する単一のタイプの細胞の増加をもたらす。これは、個体内で観察される、λまたはκいずれかの遊離軽鎖の量の増加となる。この濃度の増加を測定し、通常は遊離κの遊離λに対する割合を求め、正常範囲と比較する。これは単クローン疾患(monoclonal disease)の診断の助けとなる。さらに、遊離軽鎖アッセイはまた、患者の疾患の治療後にも使用しうる。例えば、ALアミロイドーシスに対する治療後の患者の予後診断を実施しうる。
【0005】
Katzmanら(Clin.Chem.(2002);48(9):1437‐1944)は、単クローン性ガンマグロブリン血症の診断における遊離κおよび遊離λ免疫グロブリンに関する血清基準範囲および診断範囲について考察している。21〜90才の人々を免疫アッセイによって調査し、免疫固定によって得た結果と比較し、B細胞悪液質をもつ人々における単クローン遊離軽鎖(FLC)を検出するための免疫アッセイを最適化
した。
【0006】
κおよびλFLCの量およびκ/λ比を記録し、B細胞悪液質の検出を目的として基準範囲を確定することができた。
【0007】
腎不全は、多発性骨髄腫(MM)の患者おける罹患および死亡の主な原因である。初期のMMの発現で、最大50%の患者が、腎障害を有し、12〜20%が急性腎不全を有し、10%超える患者が透析依存になる。これは、透析人口の約2%超にあたる(Bradwell A.R.血清遊離軽鎖分析(Serum Free Light Chain
Analysis)第5版 バインディングサイト社(The Binding Site Ltd)2008年)。単クローン性FLCは、不可逆的な腎不全の最も強力な原因の1つである。例えば、FLCは、尿細管を物理的に塞ぎうる。
【0008】
単クローン性FLCは、幾つかの異なる機序によって腎不全を引き起こし、そのいずれも、急性骨髄腫腎および慢性腎不全の両方に寄与しうる。MMでは、単クローン性sFLCは広範な濃度であることができる。さらに、それらの毒性は大きく異なることがこれまで示されている。
【0009】
MMにおける腎障害を引き起こすのに必要なsFLC(血清遊離軽鎖)の濃度は研究されている。くわえて、尿FLC排出速度もまた研究されている。FLC排出は、腎損傷の原因であることに加えて、その指標であることが判明した。
【0010】
研究は、sFLCκ/λ比は、MMおよび急性腎不全をもつ患者における単クローン性FLC産生を特定するための簡単な方法であることを示した。
【0011】
しかし、sFLCの濃度を非MM患者における腎不全のリスクと相互に関連付ける取り組みは実施されてこなかった。
【発明の概要】
【0012】
今回、出願人は、MMまたは関連病態をもたない個人における、総FLCと進行性腎不全を発症するリスクとの間の相関関係を特定した。これは、MMで時に生じ、観察される急性腎不全とは異なる。MM患者における尿細管の物理的な閉塞は、典型的に、>500mg/Lの血中FLCにて生じる。
【0013】
出願人らは、例えば、慢性腎臓疾患におけるFLC(典型的に50〜200mg/L)は、腎機能低下の進展のリスクを予測するマーカーでありうることを見出した。これら濃度でのポリクローナルFLCは、大きな損傷を腎臓に引き起こすことはこれまで報告されていないが、糸球体ろ過の減少および何らかの炎症の増加のマーカーである。
【0014】
明らかに健康な個人からの血清におけるポリクローナルFLCの濃度は、産生速度および除去速度によって影響され、個人の腎臓のFLCをろ過する能力によって決定される。FLCクリアランスが限られる人では、血清に見られるFLCレベルに増加がある。結果として、今日、FLCは腎機能のマーカーと考えられている。単量体FLCカッパ分子(25kDa)および二量体ラムダ分子(50kDa)は、クレアチニンの113Daに対して著しく異なる大きさの分子であるので、それらは共に、糸球体ろ過の代替的なマーカーを提供する。しかし、クレアチニンと対照的に、FLCの産生の増加は多くの疾患の結果として起こりうるため、血清FLCは典型的に単独で腎機能マーカーとして使用されないことになる。
【0015】
しかし、B細胞増殖/活性のマーカーは重要であり、B細胞はFLCの生成に関与する
ので、これは臨床的に有用である。FLC産生は、B細胞上方制御の初期指標である。この点において、それはT細胞によって媒介される炎症反応のマーカーであるCRPの使用を補完することができる。
【0016】
高いFLC濃度は、慢性の腎臓障害もしくは炎症性の障害またはB細胞悪液質の指標である。つまり、異常なFLCアッセイ結果は、現在のところ幾つかの診断テストを組合せることを必要とする、さまざまな障害のマーカーでありうる。その裏返しとして、FLCアッセイ結果が正常な場合、良好な腎機能、炎症性の状態が無い状態およびB細胞悪液質の証拠がないことを示す。
【0017】
本発明は、腎機能の喪失のリスクがある対象を予測する、および/または腎機能の喪失のより大きいリスクがある対象を特定する、および/または腎不全/末期腎臓病のリスクがある対象を特定する方法であって、対象からの試料における遊離軽鎖(FLC)の量を検出することを含み、FLCのより高い量が、腎機能の喪失の増加したリスクおよび/または腎不全/末期腎臓病の増加したリスクと関連する方法を提供する。
【0018】
対象は、明らかに健康か、または慢性腎疾患(CKD)などの腎臓障害の指標を有しうる。
【0019】
本発明のさらなる態様は、対象からの試料におけるFLCの量を検出することを含む、腎障害をもつ対象の予後診断の方法であって、FLCのより高い量が、腎機能の喪失のリスクの増加と関連する方法を提供する。
【0020】
本発明のさらなる態様は、腎障害を有する患者からの試料における遊離軽鎖(FLC)の量を検出すること、およびその試料におけるFLCの量を、その患者から以前に得られた試料において検出されたFLCの量と比較することを含む腎障害を監視する方法であって、以前の試料と比較した検出されたFLCの量の増加が、患者における腎機能の喪失のリスクの増加を示し、FLCの量の減少が、患者における腎機能の喪失のリスクの減少を示す方法を提供する。例えば、これを使用して、降圧剤または免疫抑制剤などの治療の有効性を監視しうる。
【0021】
FLCは、カッパまたはラムダFLCでありうる。しかし、カッパFLCまたはラムダFLCを単独で検出することは、例えば、患者における単クローン産生されたどちらか一方のFLCの異常に高いレベルを見逃しうるので、好ましくは総FLC濃度(ラムダおよびカッパFLC)を測定する。
【0022】
総遊離軽鎖とは、試料中の遊離ラムダ軽鎖と遊離カッパ遊離の総量を意味する。
【0023】
好ましくは、対象は必ずしもB細胞関連疾患の症状を有することはない。症状としては、再発性感染、骨痛および疲労が挙げられうる。そのようなB細胞関連疾患は、好ましくは、単クローンFLC疾患(monoclonal FLC disease)でない。典型的に、それは、骨髄腫(完全型免疫グロブリン骨髄腫、軽鎖骨髄腫、非分泌性骨髄腫など)、MGUS、ALアミロイドーシス、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症、ホジキンリンパ腫、濾胞中心細胞リンパ腫、慢性リンパ性白血病、マントル細胞リンパ腫、プレB細胞白血病または急性リンパ芽球性白血病ではない。さらに、典型的に、個人は骨髄機能が低下していない。典型的に、個人は、多くのそのような疾患で典型的に見られる異常なλ:κFLC比を有さない。
【0024】
試料は、典型的に、対象からの血清の試料である。しかし、全血、血漿、尿、または組織もしくは体液のその他試料もまた、場合により利用しうる。
【0025】
典型的に、総FLCなどのFLCは、ELISAアッセイなどの免疫アッセイ、またはルミネックス(Luminex)(商標)ビーズなどの蛍光標識されたビーズを利用することによって測定する。
【0026】
例えば、サンドイッチアッセイは、抗体を使用して特異的抗原検出する。アッセイに使用する1つの以上の抗体を、検出可能な検体に基質を変換できる酵素を用いて標識しうる。そのような酵素としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼおよび当該技術分野において公知の他の酵素が挙げられる。代替的に、他の検出可能なタグまたは標識を、酵素の代わりに、または酵素と一緒に使用しうる。これらとしては、放射性同位元素、当該技術分野において公知の、広範な着色および蛍光標識、例えばフルオレセイン、アレクサフルオル、オレゴングリーン、ボディピー、ローダミンレッド、カスケードブルー、マリーナブルー、パシフィックブルー、カスケードイエロー、金、およびビオチンなどの複合体(例えば、英国インビトロジェン社から入手可能)が挙げられる。また、染料ゾル、化学発光ラベル、金属ゾルまたは着色ラテックスも使用しうる。1つ以上のこれら標識を、本明細書において記載されているさまざまな発明に従ってELISAアッセイに使用するか、または代替的に、本明細書において記載されている他のアッセイ、標識された抗体もしくはキットに使用しうる。
【0027】
サンドイッチ型アッセイの構造はそれ自体、当該技術分野において周知である。例えば、FLCに対して特異的な「捕捉抗体」を基質に固定する。「捕捉抗体」は、当該技術分野において周知である方法によって基質に固定しうる。試料中のFLCは、「捕捉抗体」を介してFLCを基質に結合する「捕捉抗体」によって結合される。
【0028】
結合していない免疫グロブリンは洗い流しうる。
【0029】
ELISAまたはサンドイッチアッセイでは、結合している免疫グロブリンの有無は、目的のFLCの結合抗体とは異なる部分に対して特異的な、標識された「検出抗体」を使用することによって測定しうる。
【0030】
フローサイトメトリー使用して、目的のFLCの結合を検出しうる。本技法は、例えば細胞選別など当該技術分野において周知である。しかし、それを使用して、ビーズなどの標識された粒子を検出し、それらのサイズを測定することもできる。実用フローサイトメトリー(Practical Flow Cytometry)、第3版(1994年)、H.Shapiro、Alan R.Liss、ニューヨーク、およびフローサイトメトリー第一原則(Flow Cytometry,First Principles)(第2版)2001年、A.L.Given、Wiley Lissなどの多数のテキストが、フローサイトメトリーについて説明している。
【0031】
FLCに対して特異的な抗体などの結合抗体の1つを、ポリスチレンまたはラテックスビーズなどのビーズに結合する。ビーズを、試料および第2の検出抗体と共に混合する。検出抗体は、好ましくは、検出可能な標識で標識し、試料中で検出されるFLCに結合する。これにより、アッセイされるFLCが存在する場合、標識されたビーズをもたらす。
【0032】
また、本明細書において記載されている他の検体に特異的な他の抗体を使用して、それら検体の検出を可能にしうる。
【0033】
次いで、標識されたビーズを、フローサイトメトリーを介して検出しうる。異なる蛍光標識などの異なる標識を、例えば抗遊離λおよび抗遊離κ抗体に対して使用しうる。また、本明細書において記載されている、細菌特異的な抗原などの他の検体に対して特異的な
他の抗体を、このアッセイまたは本明細書において記載されている他のアッセイに使用して、それら検体の検出を可能にしうる。これにより、結合したFLC各種の量を同時に測定でき、その他の検体の有無を決定できる。
【0034】
代替的にまたは付加的に、異なる大きさのビーズを、異なる抗体、例えば異なるマーカーに特異的な抗体に対して使用しうる。フローサイトメトリーは異なる大きさのビーズを識別することができ、よって試料中の各FLCまたはその他の検体の量を迅速に測定することができる。
【0035】
代替的な方法は、例えば、市販のルミネックス(商標)ビーズなどの蛍光標識されたビーズに結合する抗体を使用する。異なるビーズを異なる抗体と使用する。異なるビーズを、異なるフルオロフォア混合物で標識し、それ故に異なる検体を蛍光波長によって測定できる。ルミネックスビーズは、アメリカ合衆国、テキサス州オースチン、ルミネックスコーポレーション(Luminex Corporation)より入手可能である。
【0036】
好ましくは、アッセイは、比ろう法または比濁法を使用する。λ‐またはκ‐FLCの検出に関する比ろう法および比濁法のアッセイは、一般に当該技術分野において公知であるが、総FLCアッセイに関してはそうではない。それらは、アッセイとして最も良い感度のレベルを有し、λおよびκFLC濃度は別々に測定されうるか、総FLC用の単一のアッセイに到達する。そのようなアッセイは、抗κおよび抗λFLC抗体を典型的に60:40の割合で含有するが、50:50などの他の割合も使用されうる。
【0037】
また、抗体は、遊離λおよび遊離κ軽鎖の混合物に対して作られうる。
【0038】
総FLCの量は、標準の所定値と比較され、正常値より高いか低いかを決定されうる。
【0039】
以下で詳細に論じるように、出願人らは、血清FLCのより高い濃度が、患者における腎機能の喪失の可能性の著しい増加に関連することを見出している。例えば、低い血清FLCレベルをもつ人々よりもその関連性がある。
【0040】
>68mg/LのFLCの絶対レベル、または単位GFR当たり>1.7 mg/LのFLCの修正レベルが、腎機能の喪失または腎不全のリスクの増加と関係した。
【0041】
歴史的に見て、アッセイキットは、カッパおよびラムダFLCを別々に測定し、割合を計算できるように製作されてきた。それらは、従来、疾患症状をすでに呈している個人に使用されている。
【0042】
好ましくは、アッセイは、例えば約1mg/L〜100mg/Lまたは1mg/L〜80mg/Lの試料中のFLC、例えば総FLCを測定することができる。これは、圧倒的多数の人々において、異なる希釈にて試料を再アッセイすることを必要とせずに、血清FLC濃度を検出することが期待されている。
【0043】
好ましくは、該方法は、例えば抗遊離κ軽鎖および抗遊離λ軽鎖抗体またはその断片の混合物を利用することによる、免疫アッセイを利用して試料中の総遊離軽鎖の量を検出することを含む。そのような抗体は、50:50の抗κ:抗λ抗体の割合でありうる。FLCに結合する抗体または断片は、標識された抗体または断片を使用することによって直接的に、または抗遊離λもしくは抗遊離κ抗体に対する標識された抗体を使用して間接的に検出しうる。
【0044】
抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナルでありうる。ポリクローナルは同一鎖の
異なる部分に対して作られるので同一タイプの軽鎖間の若干のばらつきを許容するという理由で使用されうる。ポリクローナル抗体の作製については、例えば国際公開第97/17372号に記載されている。
【0045】
好ましくは、特定され、腎機能の喪失の増加した可能性を示すのに有意であることが見出された総FLCなどの血清FLCの量は、少なくとも68mg/L、または少なくとも単位GFR当たり1.7mg/LのFLCである。
【0046】
また、FLC用の、例えば本発明の方法で使用するためのアッセイキットも提供される。該キットは、試料中の総FLCの量を検出しうる。それらは、本発明の方法に使用するための取扱説明書と組み合せて提供されうる。
【0047】
また、1つ以上の抗FLC抗体、および血清クレアチニン、尿素もしくはシスタチンCなど腎機能の他のマーカーの検出のための1つ以上の試薬および/またはアルブミンもしくは尿遊離軽鎖などの腎臓機能の尿マーカーのアッセイのための試薬を含むアッセイキットも、本発明に記載の方法において使用される。
【0048】
アッセイキットは、25mg/L未満、最も好ましくは20mg/L未満または約10mg/L、5mg/Lもしくは4mg/L未満の試料中の総遊離軽鎖(FLC)の量を検出するように構成されうる。検量用の材料は、典型的には、1〜100mg/Lの範囲を測定する。アッセイキットは、例えば比ろう法アッセイキットでありうる。好ましくは、キットは、FLCに対する1つ以上の抗体を含む免疫アッセイキットである。典型的に、キットは、抗κおよび抗λFLC抗体の混合物を含む。典型的に、抗遊離κと抗遊離λ抗体が50:50の混合物が使用される。キットは、試料中の1〜100mg/Lまたは、好ましくは1〜80mg/Lの総遊離軽鎖の量を検出するように構成されうる。
【0049】
また、(Fab)またはFab抗体などのFLCに結合することができる抗体断片も使用されうる。
【0050】
抗体または断片は、例えば前述のような標識を用いて標識されうる。標識された抗免疫グロブリン結合抗体またはその断片が提供され、FLCに結合する抗遊離λまたは抗遊離κが検出されうる。
【0051】
キットは、示された範囲でアッセイを検量できるように検量用の液を含みうる。検量用の液は、好ましくは、例えば、100mg/L〜1mg/L、25mg/L未満、20mg/L未満、10mg/L未満、5mg/L未満または1mg/Lまでの所定の濃度のFLCを含有する。キットはまた、抗体の量、およびラテックス粒子上にコーティングした「ブロッキング」タンパク質の量を最適化することによって、ならびに、例えばポリエチレングリコール(PEG)などの補助試薬の濃度を最適化することによって構成されうる。
【0052】
キットは、例えばFLCについて複数の標準対照を含みうる。標準対照を使用して、FLCまたは生じる他の構成要素の濃度に関する標準曲線を有効にしうる。そのような標準対照は、先に検量された標準曲線が使用される試薬および状態に対して妥当であることを確認する。典型的に、それらは対象からの試料のアッセイと実質的に同時に使用される。標準は、FLCについて20mg/L未満、より好ましくは15mg/L未満、約10mg/L未満、またはアッセイがより低い濃度の遊離軽鎖を検量できるように5mg/L未満の、1つ以上の標準を含みうる。
【0053】
アッセイキットは、比ろう法または比濁法キットでありうる。それは、ELISA、フ
ローサイトメトリー、蛍光、化学発光もしくはビーズタイプアッセイまたはディップスティックでありうる。一般に、そのようなアッセイは当該技術分野において公知である。
【0054】
アッセイキットはまた、本発明の方法で使用される取扱説明書を含みうる。取扱説明書は、正常値であると考えられている総遊離軽鎖の濃度の指標を含み、例えば、それ未満または実際にはそれを超えると、個人が腎機能を喪失する確率の増加または減少のどちらかの指標を示しうる。そのような濃度は、上記で定義された通りでありうる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
本発明を、実施例を単なる例示として、以下の図を参照して説明する。
【図1】図1は、血清中の総FLC濃度(mg/L)と比較した腎機能の変化(デルタGFR)を示す。
【図2】図2は、混合した抗λおよび抗κ遊離軽鎖抗体を使用する総FLCアッセイキットと比較した、別々の市販の抗遊離κおよび抗遊離λアッセイキットを使用して得られた総FLC濃度間の比較である。
【実施例】
【0056】
腎機能予後予測
方法
さまざまな程度の腎機能障害をもつ1300人の患者から、血清試料を採集し(「基準」)、その後、最長63カ月の期間にわたって追跡調査した。
【0057】
より詳細には、患者は、バーミンガム大学病院の腎臓クリニックから募った。患者は、減少したGFR、蛋白尿、血尿、慢性腎臓疾患(すべての病期)、末期腎不全(血液透析および腹膜透析)および腎移植レシピエントを含む、さまざまな腎臓に関する問題を有した。
【0058】
行われたテストおよび評価は以下の通り:
血清クレアチニンおよび推定糸球体ろ過率(eGFR)
単位GFR当たりFLCの修正レベルは次のように計算した:総血清FLC濃度(mg/L)をコッククロフト・ゴールト式(REF)によりmls/min/1.73mで計算した推定糸球体ろ過率で除した。よって、腎機能に依存しない単位GFR当たりmg/Lでの、患者の血清総FLCレベルを得た。
参照文献:
Cockcroft DW,Gault MH:血清クレアチニンからのクレアチニンクリアランスの予測(Prediction of creatinine clearance from serum creatinine)Nephron 16:31−41、1976年
尿アルブミン/クレアチニン比
カッパおよびラムダの両方の血清FLC濃度(フリーライト、バインディングサイト(The Binding Site)、英国バーミンガム)
総血清FLC濃度は、カッパFLCおよびラムダFLCの値を足すことによって計算した。
【0059】
追跡調査:
患者を腎機能の低下の速度について追跡調査した。
【0060】
結果
追跡調査の期間中、進行のリスク(腎機能の喪失またはデルタGFR)は、総血清FLC濃度に強く関連した:
【0061】
【表1】

【0062】
図1に示すように、より高い総FLCレベルは、eGFRのより大きい喪失と関連する。
【0063】
多変量解析では、腎機能の喪失を独立して予測した要因は、患者の年齢と総FLCだけであった。要約すると、デルタGFRを連続的尺度で測定し、その値の分布の検討は、これらが正規分布することを示唆した。したがって、線形回帰を解析に使用した。初めに、各予測変数の個々の回復への影響を検討した(単変量解析)。続いて、説明変数の各結果への連合効果を多変量解析で検討した。この方法の利点は、各説明変数の結果への影響が、回帰モデル中の他のすべての説明変数の影響に対して調整されることである。したがって、これにより、単に他の変数の影響を反映しているかもしれないものではなく、結果への潜在的な影響を有する変数のより正確な状況が得られる。後向き選択手順(backwards selection procedure)を使用して、統計的に有意であるそれら変数のみを保持した。これは、残りの変数すべてが統計的に有意であるまで、有意でない変数を1つずつモデルから除去することを含む。単変量解析(p<0.2)から結果への影響を幾らか示す変数のみを、多変量解析に考慮する。
【0064】
【表2】

【0065】
(*)説明変数の10単位増加に対して付与される係数
(#)対数尺度で解析された変数
【0066】
総FLCは、独立して、腎機能の喪失を予測する。
【0067】
考察
結果は、総FLCは、進行性腎不全を発症するリスクがある患者を独立して特定することを示す。これは、臨床医に、腎臓障害をもつ患者の管理のための、全く新規のリスク分類手段を提供する。これは、CKDを有すると特定された増え続ける患者集団を診る役割を任されている一般開業医にとって最も意味がある可能性がある。総血清FLC濃度は、この集団をリスクによって分類するための新規手段を彼らに提供する。
【0068】
アッセイキット
本発明の方法は、以下のアッセイキットを利用しうる。アッセイキットは、患者試料内の、例えば血清中に存在する総遊離κプラス遊離λ軽鎖を定量する。これは、抗遊離κおよび抗遊離λ軽鎖ヒツジ抗体の50:50混合物を用いて、100nmカルボキシル修飾ラテックス粒子をコーティングすることによって達成しうる。以下に例示されたアッセイでは、総遊離軽鎖に関する測定範囲は、1〜80mg/Lである。しかし、他の測定範囲も同じように考慮されうる。
【0069】
抗遊離κおよび抗遊離λ抗血清は、一般に当該技術分野において公知の技術を使用して、この特定の場合ではヒツジで作製した。一般的な免疫方法は、国際公開第97/17372号に記載されている。
【0070】
抗κおよび抗λ抗血清を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を使用して等しい濃度まで希釈した。それら抗体を混ぜ合わせ、50%の抗κ抗体および50%の抗λ抗体を含む抗血清を作成した。
【0071】
抗体を、10mg/lotのコーティング量(coat load)でカルボキシル修飾ラテックスにコーティングした。これは、標準的な手順を使用して達成した。例えば、「微粒子試薬最適化:微粒子の専門家からの実験室参照マニュアル(Microparticle Reagent Optimization: A laboratory reference manual from the authority on microparticles)」編者Caryl Griffin、Jim Sutor、Bruce Shull、著作権 Seradyn Inc、1994年(P/N0347835(1294)を参照されたい。
【0072】
この参照文献はまた、ポリエチレングリコール(PEG)を使用したアッセイキットの最適化の詳細も提供する。
【0073】
混ぜ合わせた抗体を市販のκおよびλフリーライト(商標)キット(英国バーミンガム、バインディングサイトグループ社(the Binding Site Group Limited)から入手)を使用して得られた結果と比較した。そのようなフリーライト(商標)キットは、κ遊離軽鎖の量およびλ遊離軽鎖の量を、別々のアッセイにて特定する。総FLCキットを使用して曲線を作製し、それを対照濃度を使用して確認した。校正曲線は、1〜80mg/Lの間の総遊離軽鎖について得ることができた。下記の結果の表において、κフリーライト(商標)、λフリーライト(商標)および総遊離軽鎖アッセイを使用して、κ遊離軽鎖(κFLC)、λ遊離軽鎖(λFLC)および総FLCについて結果を得た。これらの結果を15の異なる正常血清試料について示す。比濁法により測定した結果を下表および図2に示す。
【0074】
予備結果は、抗κおよび抗λ遊離軽鎖抗体に基づく総遊離軽鎖アッセイを使用する原理は実行可能であることを示す。
【0075】
結果
【0076】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎機能の喪失のリスクがある対象を予測する、および/または腎機能の喪失のより大きいリスクがある対象を特定する、および/または腎不全/末期腎臓病のリスクがある対象を特定する方法であって、対象からの試料における遊離軽鎖(FLC)の量を検出することを含み、FLCのより高い量が、腎機能の喪失のリスクの増加および/または腎不全/末期腎臓病のリスクの増加と関連する方法。
【請求項2】
腎臓障害を有する対象からの試料における遊離軽鎖(FLC)の量を検出すること、および前記試料におけるFLCの量を、前記対象から以前に得られた試料において検出されたFLCの量と比較することを含む腎障害を監視する方法であって、前記以前の試料と比較して検出されたFLCの量の増加が、対象における腎機能の喪失のリスクの増加を示し、前記FLCの量の減少が、対象における腎機能の喪失のリスクの減少を示す方法。
【請求項3】
前記対象がB細胞関連疾患の症状を呈さない請求項1および2に記載の方法。
【請求項4】
前記対象が多発性骨髄腫の症状を呈さない請求項1〜3に記載の方法。
【請求項5】
前記遊離軽鎖の量が前記試料における総遊離軽鎖の量である請求項1〜4に記載の方法。
【請求項6】
前記FLCが、前記対象の血清の試料において測定される請求項1〜5に記載の方法。
【請求項7】
前記総FLCが、抗遊離軽鎖抗体を使用する免疫アッセイにより測定される請求項1〜6に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体が、抗遊離κ軽鎖および抗遊離λ軽鎖抗体の混合物である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記FLCの量を比ろう法または比濁法によって検出することを含む請求項1〜8に記載の方法。
【請求項10】
前記方法において使用される取扱説明書を追加として含む、請求項1〜9に記載の前記方法で使用するためのアッセイキット。
【請求項11】
前記アッセイキットを使用して得られたFLCの濃度が対象の生存の増加を示す正常値を追加として含む、請求項10に記載のアッセイキット。
【請求項12】
1つ以上の抗FLC抗体、および腎機能の他のマーカー(血清クレアチニン、尿素もしくはシスタチンCなど)に関する1つ以上のアッセイおよび/または腎機能の尿マーカー(アルブミンもしくは尿遊離軽鎖など)のアッセイのための試薬を含む、請求項1〜11に記載の方法において使用するアッセイキット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−521490(P2013−521490A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555534(P2012−555534)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際出願番号】PCT/IB2011/050919
【国際公開番号】WO2011/107965
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(510184449)ザ バインディング サイト グループ リミテッド (6)