説明

腎臓機能改善のためのトレプロスチニルの用途

本発明は、腎臓機能、例えば尿排出、の改善、および腎臓機能不全または障害に関連する症状の治療のためのトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩を用いる新規の方法を記述する。本発明はまた、有効量のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩を含有する、腎臓機能の改善および腎臓機能不全または障害に関連する症状の治療のためのキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎臓の機能、例えば尿産生、の改善、および腎臓機能不全または障害に関連する症状の治療のためのトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩の用途に関する。本発明はまた、本目的のために使用されるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
トレプロスチニルは、UT-15としても知られるが、米国特許第4,306,075号の実施例33に開示される既知の化合物である。トレプロスチニルは、エポプロステノールの合成類似体であるプロスタグランジンF1である。この特許の各種化合物に起因する活性として、平滑筋細胞増殖阻害、血小板凝集阻害、サイトカイン分泌阻害、胃液分泌減少、血管拡張および気管支拡張があげられる。
【0003】
米国特許第5,153,222号は、肺高血圧症の治療のためのトレプロスチニルおよび関連化合物の用途を開示する。米国特許第6,054,486号は、末梢血管疾患、例えば末梢動脈閉塞性疾患および間欠性跛行症の治療のためのトレプロスチニルおよび関連化合物の用途を開示する。Pattersonら[Amer. J. of Cardiology, 75: 26A-33A (1995)]は、クラスIIIまたはクラスIVの心疾患患者に対するトレプロスチニルの血管拡張効果について示している。
【0004】
Clappら[Am. J. Respir. Cell. Mol. Biol., 26(2): 194-201 (2002)]は、トレプロスチニルがヒト肺動脈平滑筋細胞の増殖を阻害することを示している。Raychaudhuriら[J. Biol. Chem., 277(36): 33344-8 (2002)]は、トレプロスチニルが炎症性サイトカイン(腫瘍壊死因子−α、インターロイキン−1β、インターロイキン−6、および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)分泌およびヒト肺胞マクロファージによる遺伝子発現を阻害することを開示している。
【0005】
正常な腎臓機能は、尿を産生し、過剰の水分を体から除去することにより水分平衡を維持し、不要物(例えば、尿素とクレアチニン)を血液から除去し、正常な血液化学(例えば、細胞外液のナトリウム、カリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、硫酸塩、リン酸塩、および水素の適正濃度)を維持し、およびホルモン、例えばレニン(血圧調節を補助する)、エリスロポエチン(赤血球の産生を刺激することによる適正な血液量の維持を補助する)、およびカルシトリオール(食物からのカルシウム吸収を容易にする)を産生することを含む。
【0006】
メサンギウム増殖性糸球体腎炎は、体の膨れ(浮腫)および尿中の血液により特徴付けられる稀な腎臓障害である。この障害は、メサンギウム細胞として知られる糸球体毛細血管の特定の細胞の数の増加に関与する、内部の腎臓構造(糸球体)の炎症により引き起こされる。この障害を引き起こす機構は未知であるが、糸球体の炎症が抗体の堆積を伴うので、ある種の免疫応答(例えば、www.nlm.nih.gov/medlineplus/ency/article/000821.htmを参照せよ)であると信じられている。この腎臓の機能不全の間に、メサンギウム細胞はその大きさと数を増加し、糸球体はでこぼこした外観となる(例えば、www.nlm.nih.gov/medlineplus/ency/article/000487.htmを参照せよ)。
【0007】
糖尿病性腎症は、米国と他の先進国において腎不全の最も一般的な原因である。メサンギウム拡大は、糖尿病性腎症における糸球体基底膜の肥厚化に寄与し、糸球体硬化症を誘導する。これらの生理学的変化に寄与する機構は、高血糖症および微小血管機能不全と直接関連している[Van Dijk, C. & Berl, T. 2004 「糖尿病性腎症の病因論」Reviews in Endocrine and Metabolic Disorders; 5:237-248]。例えば、www.nlm.nih.gov/medlineplus/ency/article/000494.htmを参照せよ。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
トレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩の投与は腎臓機能を改善し、腎臓機能不全または障害と関連した症状を緩和する。トレプロスチニルはプロスタグランジンの安定した類似体であり、静脈内投与に用いることができ、肺を通過する際に分解されず、長い生物学的半減期を有するので、トレプロスチニルはそのような使用にうまく適合する。
【0009】
したがって、本発明は腎臓機能の改善、および/または哺乳動物における腎臓機能不全または障害と関連した症状の治療を提供し、これを必要とする哺乳動物へ有効量のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩を投与することを含有する。本発明はまた、この目的を達成するためのキットを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明者らは、腎臓への血流を強化する療法が機能不全または障害のある腎臓を有する対象の腎臓機能を改善し、その機能不全または障害と関連した症状または疾患を治療するための効果的な療法であると信じる。本発明者らはまた、メサンギウム細胞の不適当な増殖を阻害する療法が腎臓障害、例えばメサンギウム増殖性糸球体腎炎または糖尿病性腎症の患者において改善された腎臓機能を誘導できると信じる。
【0011】
プロスタサイクリンは、大きな血管の拡張、平滑筋の弛緩、平滑筋増殖の抑制、ならびに血小板凝集の抑制を引き起こすことが以前に示されている小分子である。腎臓の微小血管および毛細血管に対するトレプロスチニルによる同様の作用が、腎臓への血流強化の助けとなり、腎臓機能を改善すると信じられる。発明者らはまた、トレプロスチニルによる作用が腎臓障害、例えばメサンギウム増殖性糸球体腎炎において見られるメサンギウム細胞の不適当な増殖を減少させるか、阻害すると信じる。別の作用様式が存在するかもしれないが、対象へのトレプロスチニルの投与は、腎血流を強化するかメサンギウム細胞への抗増殖効果を有することにより、またはその両者の作用により、腎臓機能を改善し、および/または腎臓の機能不全または障害と関連した症状を治療する。
【0012】
本発明は、腎臓機能を改善し、哺乳動物の腎臓機能不全または障害に関連する症状を治療するための方法に関し、それを必要とする対象、好ましくは人間への、有効量のトレプロスチニルおよび/またはその誘導体、および/またはその薬学的に許容されうる塩の投与を含有する。適当な誘導体としては、トレプロスチニルの酸誘導体、プロドラッグ、徐放製剤、吸入剤および経口製剤があげられ、それらは米国特許第6,521,212号および同時係属出願第60/472,407号に開示されるものを含む。
【0013】
本発明は、腎臓機能不全または障害を引き起こす疾患または症状を有する対象において少なくとも一つの腎臓機能を改善する方法を含み、それを必要とする対象に有効量のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩を投与することを含有する。一態様において、腎臓機能は尿産生、過剰体液の除去、血液からの不要物の除去、正常血液化学の維持またはホルモン産生を含有する。別の態様において、腎臓機能不全または障害を引き起こす疾患または症状は、メサンギウム細胞増殖の増加を含有する。別の態様において、腎臓機能不全または障害を引き起こす疾患または症状は、メサンギウム増殖性糸球体腎炎を含有する。本発明はまた、腎臓機能不全または障害を引き起こす疾患または症状を有する対象におけるメサンギウム細胞の増殖を減少させる、または阻害する方法を含有する。
【0014】
本発明はまた、(i)有効量のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩、(ii)一つまたはそれ以上の薬学的に許容されうる担体および/または添加剤、および(iii)腎臓機能を改善し、または腎臓機能不全または障害と関連した症状を治療するための使用指示書を含有する、そのような腎臓改善または症状治療を達成するためのキットに関する。
【0015】
本発明は、(i)有効量のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩、(ii)一つまたはそれ以上の薬学的に許容されうる担体および/または添加剤、および(iii)少なくとも一つの腎臓機能を改善するための使用指示書を含有する、腎臓機能不全または障害を引き起こす疾患または症状を有する対象において、少なくとも一つの腎臓機能を改善するためのキットを含む。一態様において、腎臓機能は尿産生、過剰体液の除去、血液からの不要物の除去、正常な血液化学の維持、またはホルモン産生を含有する。別の態様において、腎臓機能不全または障害を引き起こす疾患または症状はメサンギウム細胞増殖の増加を含有する。別の態様において、腎臓機能不全または障害を引き起こす疾患または症状はメサンギウム増殖性糸球体腎炎を含有する。
【0016】
特別の定めのない限り、本明細書で用いられる用語「a」または「an」は「一つまたはそれ以上」を意味する。
【0017】
本明細書において用いられているように、フレーズ「使用指示書」は、腎臓機能を改善する、あるいは腎臓機能不全または障害と関連した症状を治療するための、トレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩の投与に関するFDAで義務付けられたラベリング、指示書、または添付物のいずれかを意味する。例えば、使用指示書には、制限されないが、腎臓機能不全または障害の表示、トレプロスチニルにより改善される、減衰した腎臓機能に関連する特異的な症状、例えば異常に低い排尿、クレアチニンおよび尿素窒素の血液レベルの増加、尿へのタンパク質の漏出および/または疼痛などの表示、および腎臓機能不全を罹患する対象に推奨される投与量が含まれる。
【0018】
用語「酸誘導体」は、窒素が一つまたは二つのC1-4アルキル基により置換されてもよいアミドを含む、C1-4アルキルエステルおよびアミドを意味するように、本明細書において用いられる。
【0019】
本発明はまた、トレプロスチニルの生物前駆体(bioprecursors)または「プロドラッグ」、すなわち、生体内でトレプロスチニルまたはその薬学活性誘導体に変換される化合物を含む。
【0020】
本発明のさらなる特徴は、腎臓機能改善または哺乳動物における腎臓機能不全または障害に関連する症状の治療のための医薬製造におけるトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩の使用に関する。
【0021】
本発明は、トレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩の使用方法を包含する。一態様において、方法は、レモジュリン(REMODULIN)(登録商標)の商品名で市販される、トレプロスチニルナトリウムを用いる。FDAは、投与濃度1.0 mg/mL、2.5 mg/mL、5.0 mg/mLおよび10.0 mg/mLの注射による肺動脈高血圧症の治療のためのトレプロスチニルナトリウムを承認している。トレプロスチニルナトリウムの化学構造式は次のとおりである:
【0022】
【化1】

【0023】
トレプロスチニルナトリウムは、時々化学名:(a) [(lR, 2R, 3aS, 9aS)-2, 3,3a, 4,9,9a-ヘキサヒドロ-2-ヒドロキシ-1-[(3S)-3-ヒドロキシオクチル]-1H-ベンズ[f]インデン-5-イル]オキシ]酢酸;または(b) 9-デオキシ-2',9-α-メタノ-3-オキサ-4,5,6-トリノール- 3,7-(1',3'-インターフェニレン)-13,14-ジヒドロ-プロスタグランジンF1により示される。トレプロスチニルナトリウムはまた、UT-15;LRX-15;15AU81;UNIPROSTTM;BW A15AU;およびU- 62,840として知られる。トレプロスチニルナトリウムの分子量は390.52であり、その実験式はC23H34O5である。
【0024】
本発明は、トレプロスチニルの生理学的に許容されうる塩、ならびに本発明の薬理学的に活性のある化合物の調製に用いられるかもしれないトレプロスチニルの生理学的に許容されない塩を用いる方法に及ぶ。
【0025】
トレプロスチニルの生理学的に許容されうる塩は、塩基に由来する塩を含む。塩基性塩は、アンモニウム塩(四級アンモニウム塩など)、ナトリウムおよびカリウムの塩などのアルカリ金属塩、カルシウムおよびマグネシウムの塩などのアルカリ土類金属塩、ジシクロヘキシルアミンおよびN-メチル-D-グルカミンなどの有機塩基との塩、およびアルギニンおよびリジンなどのアミノ酸との塩を含む。
【0026】
四級アンモニウム塩は、例えばメチル、エチル、プロピル、およびブチルの塩化物、臭化物およびヨウ化物などの低級ハロゲン化アルキルとの反応、ジアルキル硫酸塩との反応、デシル、ラウリル、ミリスチル、およびステアリルの塩化物、臭化物、およびヨウ化物などの長鎖ハロゲン化物との反応、およびベンジルおよびフェネチルの臭化物などのハロゲン化アラルキルとの反応より形成できる。
【0027】
望みの効果を得るために、本発明の医薬または診断補助薬に必要なトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩の量は、多数の要因、例えば特定の用途、用いられる特定の化合物の性質、投与の様式、用いられる化合物の濃度、および患者の体重と症状などに依存する。腎臓機能を改善し、および/または腎臓機能不全または障害と関連した症状を治療するための患者あたりの日用量は、体重キログラムあたり、一日あたり、25 μg乃至250 mgの範囲;0.5 μg乃至2.5 mgの範囲;または7 μg乃至285 μgの範囲であってよい。例えば、一日あたり、体重キログラムあたり0.5 μg乃至1.5 mgの範囲の静脈内投与は、好都合なことに、1分あたり、体重キログラムあたり0.5 ng乃至1.0 μgの輸液として投与されうる。一つの可能な投薬量は2.5 ng/kg/分であり、12週間にわたって、各週2.50 ng/kg/分の量ずつ、標的の投与量、例えば15 ng/kg/分に達するまで増加させる。この目的に適した輸液は例えば、ミリリットルあたり10 ngから1.0 μgを含んでいる。注射のためのアンプルは例えば、0.1 μgから1.0 mgを含み、錠剤またはカプセル剤のような経口投与可能な単位用量製剤は例えば、0.1から100 mg、一般には1から50mgを含む。診断目的のために、一回単位用量製剤が投与される。生理学的に許容されうる塩の場合、上で示された重量は、活性のある化合物イオン、すなわち、トレプロスチニル由来のイオンの重量を示す。
【0028】
本発明の医薬または診断補助薬、以後「製剤」と称する、の製造において、トレプロスチニルおよび/またはその誘導体、および/またはその薬学的に許容されうる塩は、とりわけ許容されうる担体と混合してもよい。担体はもちろん、製剤中のどのような他の成分とも適合性(compatible)であるという意味において、許容されねばならず、対象に有害であってはならない。担体は固体または液体または両者であってもよく、化合物とともに、好ましくは単位用量製剤、例えば錠剤として製剤化され、該製剤は活性化合物の重量として0.05%から95%を含んでもよい。一つまたはそれ以上のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩は、本発明の製剤に組み込まれ、成分を混合するための調剤のよく知られているいずれかの技術により調製される。
【0029】
トレプロスチニルに加えて、腎臓機能の改善、または哺乳動物における腎臓機能不全または障害と関連した症状の治療に有益であると知られている他の薬理学的に活性のある物質が、本発明の製剤に存在してもよい。
【0030】
本発明の製剤には、非経口(例えば、皮下、筋肉内、皮内、または静脈内)、経口、吸入(固体および液体の形態で)、直腸、局所、口腔(例えば、舌下)および経皮投与に適した製剤を含む。とはいえ、どのような場合にでも、最も適した経路は、治療されるべき症状の性質と重篤度、および用いられるトレプロスチニル、ならびに生理学的に許容されうる塩またはその誘導体の特定の形態の性質に依存する。
【0031】
非経口投与に適した本発明の製剤は好都合なことに、トレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩の無菌水性製剤を含有し、該製剤は対象となる受容者の血液と等張であってよい。これらの製剤は皮下注射によって投与できる。とはいえ、投与は、静脈内への投与または筋肉内または皮内注射により行われてもよい。そのような製剤は、都合よく、前記化合物を水あるいはグリシンまたはクエン酸緩衝液と混合し、得られた溶液を滅菌し、血液と等張にすることによって調製できる。本発明の注射製剤は0.1から5%(w/v)の活性化合物を含んでもよく、0.1 ml/分/kgの割合で投与できる。あるいは、本発明では、0.625乃至50 ng/kg/分の割合で投与できる。あるいは、本発明では、10乃至15 ng/kg/分の割合で投与できる。
【0032】
経口投与に適した製剤は、別個の単位、例えば規定量のトレプロスチニルまたは生理学的に許容されうる塩またはその誘導体をそれぞれ含むカプセル剤、カシェ剤(cachet)、薬用ドロップ(lozenge)または錠剤として、;粉末または顆粒として;水または非水性液体中の溶液または懸濁液として;あるいは水中油乳剤または油中水乳剤として存在しうる。そのような製剤は、活性化合物と適当な担体(一つまたはそれ以上の副成分を含んでよい)を結合させる工程を含む調剤のいずれかの適当な方法により調製できる。
【0033】
一般に、本発明の製剤は、活性化合物を液体または微粉化した担体、または両方と均一に、かつ密接に混合し、必要ならば得られた混合物を成形することにより調製される。例えば、錠剤を、任意に一つまたはそれ以上の副成分とともに、活性化合物を含む粉末または顆粒を圧縮または成形することにより調製することができる。圧縮錠剤は、適当な機械で、任意に結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤および/または界面活性/分散剤と混合した流動性の形態、例えば粉末または顆粒の化合物を圧縮することにより調製できる。成型錠剤は、適当な機械で、不活性な液状結合剤により湿らせた粉末化合物を成形することにより製造できる。
【0034】
口腔(例えば、舌下)投与に適した製剤としては、味付けした基剤、通常はショ糖およびアカシアまたはトラガカントにトレプロスチニルまたは生理学的に許容されうる塩またはその誘導体を含有する薬用ドロップ;および不活性基剤、例えばゼラチンおよびグリセリン、またはショ糖およびアカシアに前記化合物を含有するトローチ(pastille)をあげることができる。
【0035】
直腸内投与に適した製剤は好ましくは、単位投与量坐剤として提供される。これらは、トレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩を一つまたはそれ以上の慣用の固体の担体、例えばカカオバターと混合し、得られた混合物を成形することにより調製できる。
【0036】
皮膚への局所適用に適した製剤は好ましくは、軟膏、クリーム、ローション、ペースト、ゲル、スプレー、エアロゾル、またはオイルの形態を取る。使用できる担体としては、ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール類、アルコール類、およびその二つまたはそれ以上の組み合わせをあげることができる。活性化合物は一般に、0.1乃至15%(w/w)、例えば0.5から2%(w/w)の濃度で存在する。経皮投与のための製剤は、イオン導入(例えば、Pharmaceutical Research、3 (6): 318 (1986)を参照)により送達され、典型的には、トレプロスチニルまたはその塩またはその誘導体の、任意に緩衝化された、水溶液の形態を取る。適当な製剤には、クエン酸またはビス/トリス緩衝液(pH 6)またはエタノール/水が含まれ、0.1から0.2Mの活性成分を含んでいる。
【0037】
本発明の化合物は、米国特許第4,306,075号、米国特許第6,528,688号および米国特許第6,441,245号に記載される方法と同一またはそれらと類似の方法により好都合に調製される。
【0038】
さらなる態様が発明の範囲内にある。例えば一態様において、腎臓機能不全または障害を引き起こす疾患または症状を有する対象(例えば人間)の少なくとも一つの腎臓機能を改善するための方法は、それを必要とする対象に、有効量のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩を投与することを含有する。
【0039】
別の態様において、腎臓機能不全または障害を引き起こす疾患または症状を有する対象(例えば人間)の少なくとも一つの腎臓機能を改善するためのキットは、(i)有効量のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩、(ii)一つまたはそれ以上の薬学的に許容されうる担体および/または添加剤、および(iii)少なくとも一つの腎臓機能を改善するための指示書を含有する。
【0040】
ある態様において、腎臓機能は尿産生、過剰体液の除去、血液からの不要物の除去、正常血液化学の維持、ホルモン産生、またはそれらの組み合わせから選択される。他の態様において、腎臓機能不全または障害を引き起こす疾患または症状には、メサンギウム細胞増殖の増加が含まれる。別の態様において、方法にはさらに、腎臓機能不全または障害を引き起こす疾患または症状を有する対象におけるメサンギウム細胞増殖の減少または阻害が含まれる。
【0041】
ある態様において、トレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩は、皮下持続注入による皮下投与、静脈内投与、錠剤およびカプセル剤からなる群から選択される経口可能な形態による投与、および/または吸入による投与がなされる。他の態様において、有効量のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩は、少なくとも1.0 ng/体重kg/分である。
【0042】
あるキットの態様において、トレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩は、皮下投与、持続的皮下注入、静脈内投与、または吸入に適した形態である。他のキットの態様において、トレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩は、錠剤およびカプセル剤からなる群から選択される経口可能な形態である。別のキットの態様において、有効量のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩は、少なくとも1.0 ng/体重kg/分である。
【実施例】
【0043】
腎臓機能不全/障害に罹患しているヒトへのトレプロスチニルの投与
腎臓機能が弱っている患者にトレプロスチニルが0.625から1.25 ng/kg/分の投薬量で投与され、この投薬量は標的投薬量に達するまで、または患者に許容されない投薬量まで、時間とともに次第に増量される。標的投薬量は患者に対する臨床効果の滴定により決定される。該医薬品は、皮下に設置されたカテーテルに接続された小ポンプにより送達される。この方法で、長期継続的皮下注入により、次第に投薬量を増加させながら、トレプロスチニルが患者に投与される。最大の投薬量での通常の副作用が予想され、その副作用として頭痛と吐き気があげられる。ある標的投薬量の例は10 ng/kg/分である。
【0044】
ある実験において、腎臓機能が弱っており、また透析をしている、少なくとも二人の患者が、数週間のうちにトレプロスチニルによる治療により尿産生の改善を示した。
【0045】
トレプロスチニル治療を受ている患者は腎臓機能、例えば尿産生が改善した。トレプロスチニルの投与により、腎臓機能不全または障害を罹患している、または腎臓疾患、例えばメサンギウム増殖性糸球体腎炎または糖尿病性腎症に関連する症状を示す患者の腎臓機能が改善される。
【0046】
当業者には、様々な修正変更が本発明の構成および方法になされることが明白であろう。従って、そのような修正および変更が添付の請求の範囲およびそれと均等の範囲内にあるかぎり、本発明はそのような修正および変更をカバーすることは意図されたことである。
【0047】
上で引用された全ての刊行物の開示を、それぞれを個々に参照して組み入れるのと同様に、その全体を参照して明確に本明細書に組み入れる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎臓機能不全または障害を引き起こす疾患または症状の患者の少なくとも一つの腎臓機能を改善する方法であって、それを必要とする患者に有効量のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩を投与することを含有する方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、前記誘導体がトレプトスチニルの酸誘導体、トレプトスチニルのプロドラッグ、トレプトスチニルの徐放製剤、トレプロスチニルの吸入製剤、トレプロスチニルの経口製剤、トレプロスチニルの多型体またはトレプロスチニルの異性体である方法。
【請求項3】
態様1の方法であって、該腎臓機能が尿産生、過剰体液除去、血液からの不要物除去、正常血液化学の維持、ホルモン産生またはこれらの組合せから選択される方法。
【請求項4】
態様1の方法であって、該腎臓機能が尿産生を含有する方法。
【請求項5】
態様1の方法であって、前記の腎臓機能不全または障害を引き起こす疾患または症状がメサンギウム細胞の増殖の増加を含有する方法。
【請求項6】
態様1の方法であって、腎臓機能不全または障害を引き起こす疾患または症状の患者のメサンギウム細胞の増殖の減少または阻害をさらに含有する方法。
【請求項7】
態様1の方法であって、トレプロスチニルの薬学的に許容されうる塩が投与される方法。
【請求項8】
態様1の方法であって、該患者が人間である方法。
【請求項9】
態様1の方法であって、前記のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩が皮下に投与される方法。
【請求項10】
態様1の方法であって、前記のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩が皮下持続注入により投与される方法。
【請求項11】
態様1の方法であって、前記のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩が静脈内に投与される方法。
【請求項12】
態様1の方法であって、前記のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩が錠剤およびカプセル剤からなる群から選択される経口使用製剤で投与される方法。
【請求項13】
態様1の方法であって、前記のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩が吸入により投与される方法。
【請求項14】
態様1の方法であって、前記の有効量が少なくとも1.0 ng/kg体重/分である方法。
【請求項15】
腎臓機能不全または障害を引き起こす疾患または症状の患者の少なくとも一つの腎臓機能を改善するキットであって、(i)有効量のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩、(ii)一つまたはそれ以上の薬学的に許容されうる担体および/または添加剤、および(iii)少なくとも一つの腎臓機能を改善するための指示書を含有するキット。
【請求項16】
態様15のキットであって、該腎臓機能が尿産生、過剰体液除去、血液からの不要物除去、正常血液化学の維持、ホルモン産生またはこれらの組合せから選択されるキット。
【請求項17】
態様15のキットであって、該腎臓機能が尿産生を含有するキット。
【請求項18】
態様15のキットであって、前記の腎臓機能不全または障害を引き起こす疾患または症状がメサンギウム細胞の増殖の増加を含有するキット。
【請求項19】
態様15のキットであって、成分(i)がトレプロスチニルの薬学的に許容されうる塩であるキット。
【請求項20】
態様15のキットであって、該患者が人間であるキット。
【請求項21】
態様15のキットであって、成分(i)が皮下投与に適した剤型のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩であるキット。
【請求項22】
態様15のキットであって、成分(i)が皮下持続注入による投与に適した剤型のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩であるキット。
【請求項23】
態様15のキットであって、成分(i)が静脈内投与に適した剤型のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩であるキット。
【請求項24】
態様15のキットであって、成分(i)が錠剤およびカプセル剤からなる群から選択される経口使用できる剤形のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩であるキット。
【請求項25】
態様15のキットであって、成分(i)が吸入に適した剤型のトレプロスチニルまたはその誘導体、あるいはその薬学的に許容されうる塩であるキット。
【請求項26】
態様15のキットであって、前記の有効量が少なくとも1.0 ng/kg体重/分であるキット。


【公表番号】特表2007−513999(P2007−513999A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545379(P2006−545379)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2004/042119
【国際公開番号】WO2005/058329
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(505431536)ユナイテッド セラピューティクス コーポレイション (6)
【Fターム(参考)】