説明

腐食モニタリングセンサ

【課題】ステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金をアノードに用いた腐食モニタリングセンサを提供すること。
【解決手段】ステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金でなる基材(11)と、基材(11)表面の一部に形成された開口パターン(A)を有する絶縁膜(12)と、絶縁膜(12)表面の一部に形成されたカーボン又はステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金より貴な金属を含む導電膜(13)と、でなるセンサ部(1)を備え、センサ部(1)に電解質溶液が付着することで基材(11)に生じる電解腐食を電流によって評価する腐食モニタリングセンサであって、基材(11)と導電膜(13)とは、基材(11)と導電膜(13)との電気的な距離が0.5mm未満となるように配置されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不働態(不動態、Passive State)皮膜(被膜、Film)を有する金属、合金を基材とする腐食モニタリングセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気環境や水溶液環境など所定環境における金属材料の腐食速度を評価するため、ACM(Atmospheric Corrosion Monitor)センサやガルバニックセンサによるモニタリングが行われるようになっている。これらのセンサによる腐食のモニタリングは、金属材料の暴露試験などに比べ短時間かつ簡便に行うことが可能であり、腐食速度の定量評価の迅速化及び経済化を可能にしている。
【0003】
ACMセンサやガルバニックセンサなどの腐食モニタリングセンサは、金属材料でなる基材(基板)の表面に絶縁ペースト(絶縁体)と導電ペースト(導電体)とが積層された構造のセンサ部を有する(例えば、特許文献1参照)。各ペーストは通常、熱処理により乾燥固化される。測定環境にさらす前の段階において、ACMセンサの基材と導電体とは絶縁されており電流は流れない。ACMセンサを大気測定環境にさらすとセンサ部表面へ大気浮遊物質が付着し、相対湿度の上昇に伴う水膜形成により電解質膜が形成され、基材はアノードとなり、導電ペーストはカソードとなってガルバニック電流が流れる。このガルバニック電流の値によって環境をモニタリングする。水溶液中でも同様で、ガルバニックセンサの基材はアノードとなり、導電体はカソードとなってガルバニック電流が流れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−201451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金が用いられる配管や構造部材の腐食状態を適切にモニタリングしてステンレス鋼の腐食速度をより正確に把握するため、ACMセンサやガルバニックセンサのアノードとしてステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属,合金を使用したいという要望がある。しかしながら、例えば、ステンレス鋼が大気中又は水溶液中で酸素を含む雰囲気に触れると、その表面に不働態皮膜であるクロムなどを主体とする酸化膜が形成されステンレス鋼自体の腐食は進行しないため、安定したガルバニック電流を取り出すことは難しい。このため、ステンレス鋼をACMセンサのアノードとして機能させることは困難であった。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、ステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金をアノードに用いたACMセンサやガルバニックセンサなどの腐食モニタリングセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の腐食モニタリングセンサは、ステンレス鋼でなる基材と、前記基材表面の一部に形成された開口パターンを有する絶縁膜と、前記絶縁膜表面の一部に形成されたカーボン又はステンレス鋼より貴な金属を含む導電膜と、でなるセンサ部を備え、前記センサ部に電解質溶液が付着することで前記基材の電解腐食で生じるガルバニック電流によって評価する腐食モニタリングセンサであって、前記基材と前記導電膜とは、前記基材と前記導電膜との電気的な距離が0.5mm未満となるように配置されたことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、腐食モニタリングセンサのセンサ部において、アノードであるステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金を含む基材と、カソードであるカーボン又はステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金より貴な金属を含む導電膜との電気的な距離が十分に近づけられる。このため、ステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金を含む基材を用いる場合でも、十分に電解腐食を進行させてガルバニック電流を得ることが可能になり、ステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金をアノードに用いた腐食モニタリングセンサを実現できる。
【0009】
本発明の腐食モニタリングセンサにおいて、前記基材と前記導電膜との電気的な距離が0.5mm未満となるように、前記導電膜の一部が前記絶縁膜の縁から0.5mm未満の位置に配置されても良い。
【0010】
本発明の腐食モニタリングセンサにおいて、前記導電膜の面積は、前記開口パターンの面積の1.6倍超であっても良い。この構成によれば、導電膜における反応を十分に促進できるため、より大きなガルバニック電流を得ることができる。このため、ステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金をアノードに用いた良好な特性のACMセンサを実現できる。
【0011】
本発明の腐食モニタリングセンサにおいて、前記絶縁膜の開口パターンの幅は、0.01mm〜1mmであっても良い。この構成によれば、開口パターンの幅を孔食の径の1倍〜2倍程度の大きさに対応させることで、孔食の底部をアノードとし、孔食の開口部周囲をカソードとして、ガルバニック電流をセンサ出力として効率的に取り出すことができる。このため、ステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金をアノードに用いた良好な特性のACMセンサを実現できる。
【0012】
本発明の腐食モニタリングセンサにおいて、前記絶縁膜は、メッシュ状の開口パターンを有しても良い。メッシュの開口部の形状は、円形の場合には、直径0.01mm〜1mm程度とし、正方形または長方形の場合には、一片の長さを0.01mm〜1mm程度とする。本発明のACMセンサにおいて、前記絶縁膜は、スリット状の開口パターンを有しても良い。
【0013】
本発明の腐食モニタリングセンサにおいて、前記基材と前記導電膜とは、前記基材と前記導電膜との電気的な距離が0.1mm以下となるように配置されても良い。本発明のACMセンサにおいて、前記基材と前記導電膜との電気的な距離が0.1mm以下となるように、前記導電膜の一部が前記絶縁膜の縁から0.1mm以内の位置に配置されても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、ステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金をアノードとして用いたACMセンサやガルバニックセンサなどの腐食モニタリングセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態1に係るACMセンサの構成例を示す模式図である。
【図2】開口パターンと孔食径との関係を示す模式図である。
【図3】実施の形態2に係るACMセンサの変形例を示す模式図である。
【図4】実施例に係るACMセンサの第1の構成を示す模式図である。
【図5】実施例に係るACMセンサの第2の構成を示す模式図である。
【図6】実施例に係るACMセンサの出力特性を示すグラフである。
【図7】比較例に係るACMセンサの出力特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、カソードにカーボン又はステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金より貴な金属を含む導電材料を用い、かつ、アノードとカソードとの電気的な距離を十分に近づけることで、ステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金を用いたアノードの電解腐食を進行させることができると考えた。そして、この着想に基づいて、ステンレス鋼をアノードに用いた腐食モニタリングセンサを完成させた。
【0017】
本発明の骨子は、基材としてステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金を用い、その表面に、開口パターンを有する絶縁膜を配置し、絶縁膜の一部の領域にカーボン又はステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金より貴な金属を含む導電膜を配置し、さらに、基材と導電膜との電気的な距離を0.5mm未満にするというものである。絶縁膜の開口パターンは基材の一部が露出するように形成されており、この部分に電解質を含む溶液が付着すると露出した基材の一部が電解腐食してアノードとして機能する。つまり、アノードは、絶縁膜の開口パターンの形状や面積などによって制御される。開口パターンの形状は、スリット状、メッシュ状などである。また、基材(アノード)と導電膜(カソード)との電気的な距離を0.5mm未満にすることで、基材表面の不働態皮膜を部分的に破り、ステンレス鋼の電解腐食を進行させることができる。ここで、電気的な距離とは、電解質の溶液が付着することで基材と導電膜との間に形成される電流経路のうち、最短の経路の長さをいう。絶縁膜が十分に薄い場合、電気的な距離は、導電膜の縁と絶縁膜の縁との平面距離に相当する。
【0018】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、発明の技術的特徴を分かりやすく説明するためのものであるから、発明と関連性の低い構成は省略する場合がある。
【0019】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態に係るACMセンサ(腐食モニタリングセンサ)のセンサ部の構成例を示す模式図である。図1Aはセンサ部1の平面構造を示す平面図であり、図1Bはセンサ部1の断面構造を示す断面図である。
【0020】
図1に示されるように、本実施の形態に係るACMセンサのセンサ部1は、ステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金でなる略直方体形状の基材11と、基材11の一表面上に形成された開口パターンAを有する絶縁膜12と、絶縁膜12の表面の一部に形成されたカーボン又はステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金より貴な金属でなる導電膜13とを備える。ACMセンサにおいて、基材11の一部はアノードとなり、導電膜13はカソードとなる。
【0021】
基材11は、代表的には2つの主表面を備える薄板形状の基板である。基材11としてこのような薄板形状の基板を用いる場合、センサ部1の加工が容易になる。このため、例えば、図1Cに示されるように、センサ部1をセンサ設置対象に対応する形状に曲げることができる。この場合、大気環境における腐食の評価に加え、応力環境における腐食(具体的には、例えば、応力腐食割れ)の評価なども可能になる。なお、基材11は薄板形状の基板であることに限られない。絶縁膜12及び導電膜13を形成可能な主表面を有していれば、ブロック形状その他の形状であっても良い。また、基材11は直方体形状(六面体)であることに限られない。円柱形状(円盤形状)等であっても良い。
【0022】
基材11にはステンレス鋼、又は不働態皮膜を有する金属、合金が用いられる。ステンレス鋼としてはFe−Cr系のマルテンサイト系ステンレス鋼やフェライト系ステンレス鋼、Fe−Cr−Ni系のオーステナイト系ステンレス鋼やオーステナイト・フェライト系(二相系)ステンレス鋼、析出硬化系ステンレス鋼などを挙げることができる。代表的には、耐食性、靭性、延性、加工性等に優れるSUS304、SUS316L(オーステナイト系ステンレス鋼)を用いることができる。ACMセンサのアノードとして、構造材料や配管などの材料となるステンレス鋼を用いることで、より現実に即した適切な評価が可能になる。また、ステンレス鋼が酸素を含む雰囲気にさらされると、その表面には不働態皮膜であるクロムの酸化膜が形成される。このため、基材11としてステンレス鋼を用いることで、センサ機能部分以外の腐食を抑制し、ACMセンサの耐久性を高めることができる。なお、基材11は、ステンレス鋼を構成する元素を含んでいれば他の元素を含んでいても良い。また、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金など不働態皮膜を有する金属、合金であれば、ステンレス鋼でなくとも良い。
【0023】
絶縁膜12は、所定の開口パターンAを有するように基材11の一表面に形成された絶縁性の薄膜である。絶縁膜12は、アノードとなる基材11とカソードとなる導電膜13との接触による導通を防ぐ。絶縁膜12は、基材11と導電膜13との絶縁を保つため、これらを構成する材料との反応性が十分に低い材料を用いて形成されることが望ましい。例えば、絶縁膜12として、SiO、Al、ジルコニアなどのセラミックスを含む絶縁ペーストや、それらを焼成した絶縁皮膜、又は塗料や樹脂の薄膜を用いることができる。また、絶縁膜12は、印刷法などのプロセスによって形成することができる。この場合、絶縁膜12の厚さは5μm〜30μm程度になる。
【0024】
絶縁膜12の開口パターンAの形状はスリット状である。絶縁膜12が所定形状の開口パターンAを備えることにより、基材11の表面が開口パターンAにおいて露出する。このため、当該露出した表面において、基材11の電解腐食(ガルバニック腐食)を進行させることができる。ここで、表面に不働態皮膜が形成されるステンレス鋼において、電解腐食は孔食(ピッティングコロージョン)の態様で進行する。このため、開口パターンAの幅(スリット幅)WAを、孔食の径(直径)の1倍〜2倍に相当する0.005mm〜5mmとし、好ましくは、0.01mm〜1mmとする。開口パターンAの幅WAをこのような範囲とすることで、開口パターンの幅が、孔食の径の1倍〜2倍程度となり、孔食の底部をアノード、孔食の開口部周囲をカソードとして、ガルバニック電流をセンサ出力として効率的に取り出すことができる。このため、ステンレス鋼又はステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金をアノードに用いた良好な特性のACMセンサを実現できる。
【0025】
図2は、開口パターンAと孔食径との関係を示す模式図である。図2Aは、開口パターンAの幅WAを孔食直径の1倍〜2倍程度とした場合の配置関係を示し、図2Bは、開口パターンAの幅WAを孔食直径の2倍より大きくした場合の配置関係を示している。図2Aに示されるように、開口パターンAの幅WAを孔食直径の1倍〜2倍程度とした場合、開口パターンAの周囲の導電膜(カソード)が孔食(アノード)と近接するため、アノードとカソードとが電気化学的に短絡してガルバニック電流が発生する。この場合、良好な特性のACMセンサが実現する。一方、図2Bに示されるように、開口パターンAの幅WAが孔食直径の2倍より大きい場合、開口パターンAの周囲の導電膜(カソード)と孔食(アノード)とが離れてしまい、アノードとカソードが電気化学的に短絡されない場合がある。この場合、孔食の発生領域によっては、ガルバニック電流が発生しないため、ACMセンサの特性は低下してしまう。
【0026】
図1において、絶縁膜12は、開口パターンAによって略長方形状の二つの絶縁パターンに分断された態様となっている。ただし、絶縁膜12の態様はこれに限られない。左右二つの絶縁パターンが繋がっていても良い。また、開口パターンAの数は複数であっても良い。開口パターンAの数を増すことで基材11の露出面積を増大させることができる。これにより、大気環境における電解腐食を促進させることが可能となり、電流検出精度を高めることができる。なお、開口パターンAが占める面積は、導電膜13の面積などを考慮して適切な値に設定することが好ましい。
【0027】
導電膜13は、絶縁膜12の表面の一部に形成された導電性の薄膜である。導電膜13は、絶縁膜12の形状に対応するように左右に分断された略長方形状の導電パターンで構成されている。また、導電膜13は、基材11と接触しないように少なくとも絶縁膜12の縁より内側に配置されている。
【0028】
導電膜13には、カーボン又はステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金より貴な金属が用いられる。ステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金より貴な金属としては、例えば、Pt、Au、Pd、Rh、Irなどが挙げられる。導電膜13にこのような材料を用いる場合、アノード側にステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金を用いる場合であってもアノードとカソードとの電位関係が逆転せずに済む。このため、安定した特性のACMセンサを実現できる。導電膜13は、例えば、カーボンを含む導電ペーストを用い、印刷法などのプロセスによって形成することができる。なお、導電膜13は、カーボン又はステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金より貴な金属を含んでいれば他の材料を含んでいても良い。
【0029】
導電膜13の面積は、開口パターンAの面積の1.6倍超であることが好ましい。このように導電膜13の面積を大きくすることで、導電膜13における反応を十分に促進できる。このため、より大きなガルバニック電流を得ることが可能となり、良好な特性のACMセンサを実現できる。
【0030】
絶縁膜12の絶縁パターンと、これに重なる略長方形状の導電パターンとにおいて、導電パターンの開口パターンA側の一辺(例えば、辺a1)と絶縁パターンの開口パターンA側の一辺(例えば、辺b1)との間隔WBは、0.5mm未満、好ましくは0.3mm以下、より好ましくは0.1mm以下である。つまり、開口パターンA側において、導電膜13の一部が絶縁膜12の縁から0.5mm未満、好ましくは0.3mm以内、より好ましくは0.1mm以内の領域Bに配置される。
【0031】
このように、基材11と導電膜13との電気的な距離を十分に小さくすることで、アノード側の腐食反応速度を高めることができる。これにより、ACMセンサのアノードとして、不働態皮膜が形成されるステンレス鋼のような材料を用いることが可能になる。電気的な距離とは、センサ部1の表面に電解質の溶液が付着することで基材11と導電膜13との間に形成される電流経路のうち、最短の経路の長さである。上述したように、絶縁パターンが5μm〜30μm程度と薄く絶縁パターンの厚みが無視できる場合、電気的な距離は、導電パターンの縁と絶縁パターンの縁との平面距離(最短の間隔WB)に相当する。
【0032】
導電パターンと絶縁パターンとの間隔WBを0.5mmより大きくすると、アノード側の腐食反応はほとんど進行しないため、センサ出力はほとんど得られず、ACMセンサとして機能しない。一方、間隔WBを0.5mm未満、例えば、0.1mmとした場合には、十分なセンサ出力を得ることができる。詳細は不明だが、基材11と導電膜13との電気的な距離がしきい値(0.5mm)より大きい場合、カソードである導電膜がアノードである基材11表面から遠くなり、電気化学的に電解質や水溶液で短絡されなくなる場合があり、不働態皮膜を破壊する孔食や応力腐食割れなどの腐食反応が進行しない、あるいは一時的に腐食が生じても再度不働態皮膜が生成して腐食反応が止まってしまう。これに対し、基材11と導電膜13との電気的な距離がしきい値(0.5mm)より小さい場合、基材11表面の不働態皮膜を破壊する孔食や応力腐食割れなどの腐食反応を開始し継続できるためと推測される。このように、実用に足るセンサ出力を得るためには、導電パターンと絶縁パターンとの間隔WBは0.5mm未満とすることが重要である。
【0033】
また、絶縁膜12の絶縁パターンと、これに重なる略長方形状の導電パターンとにおいて、導電パターンの開口パターンA側以外の一辺(例えば、辺a2)と、これに近接する絶縁パターンの一辺(例えば、辺b2)との間隔は0.5mmである。つまり、間隔WBは、導電パターンと絶縁パターンの他の近接辺同士の間隔と比較して小さくなっている。この場合、基材11における電解腐食は、開口パターンA近傍において選択的に進む。これを利用して、腐食を進行させる領域を開口パターンA付近に限定することが可能である。
【0034】
なお、図1に示されるセンサ部1は、開口パターンA側の間隔WBが他の近接辺同士の間隔と比較して小さくなっているが、ACMセンサの構成はこれに限られない。開口パターンA側の間隔WBと、他の近接辺同士の間隔とを同様に0.5mm未満(例えば、0.3mm以下)としても良い。この場合、基材11における電解腐食は、絶縁パターンの周囲においても進む。また、導電パターンと絶縁パターンの他の近接辺同士の間隔は、0.5mmであることに限られない。0.5mmより大きくしても良い。
【0035】
このように構成されたACMセンサにおいて、センサ部1に大気中の水などが付着して電解質の溶液が生じると、アノード側(基材11側)では金属が溶け出しイオン化する。例えば、基材11としてステンレス鋼を用いる場合、次の反応によりステンレス鋼の鉄がイオン化する。
Fe → Fe2+ + 2e
【0036】
また、カソード側(導電膜13側)では、例えば、中性環境において次の反応が生じる。
2HO + O + 4e → 4(OH)
【0037】
基材11と導電膜13が抵抗を介して接続されると、アノード側の電子が抵抗を介してカソード側に供給される。すなわち、カソード側からアノード側へと電流(腐食電流)が流れる。このため、例えば、この抵抗を流れる電流値を測定することで環境をモニタリングすることができる。
【0038】
このように本実施の形態のACMセンサは、アノードであるステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金からなる基材と、カソードであるカーボン又はステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金より貴な金属を含む導電膜との電気的な距離を十分に近づけているため、ステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金からなる基材を用いる場合でも、十分に電解腐食を進行させてガルバニック電流を得ることが可能である。このため、ステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金をアノードに用いたACMセンサを実現できる。
【0039】
(実施の形態2)
本実施の形態では、メッシュ状の開口パターンが形成されたセンサ部の構成例について説明する。以下において、実施の形態1との相違点について主に説明し、繰り返しの説明は省略する。また、上述した実施の形態1と同一の構成については同一の符号を用いる。
【0040】
図3は、本実施の形態に係るACMセンサのセンサ部1aの構成例を示す模式図である。図3Aはセンサ部1aの平面構造を示す平面図であり、図3Bはセンサ部1aの断面構造を示す断面図である。図3に示されるように、本実施の形態に係るACMセンサのセンサ部1aは、ステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金でなる略直方体形状の基材11と、基材11の一表面上に形成された開口パターンAaを有する絶縁膜12aと、絶縁膜12aの表面の一部に形成されたカーボン又はステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金より貴な金属でなる導電膜13aとを備える。ACMセンサにおいて、基材11はアノードとなり、導電膜13aはカソードとなる。
【0041】
絶縁膜12aは、所定の開口パターンAaを有するように基材11の一表面に形成された絶縁性の薄膜である。本実施の形態において、絶縁膜12の開口パターンAaの形状はメッシュ状になっている。また、開口パターンAaの幅(スリット幅)WAは、孔食の径に相当する0.01mm〜5mmであり、好ましくは、0.05mm〜1mmである。絶縁膜12aの材質等は絶縁膜12と同様である。
【0042】
導電膜13aは、絶縁膜12aの表面の一部に形成された導電性の薄膜である。導電膜13aは、絶縁膜12aの形状に対応するようにメッシュ状の導電パターンで構成されている。また、導電膜13aは、基材11と接触しないように少なくとも絶縁膜12aの縁より内側に配置されている。導電膜13aの材質等は導電膜13と同様である。
【0043】
導電膜13aの面積は、開口パターンAaの面積(面積の総和)の1.6倍超であることが好ましい。このように導電膜13aの面積を大きくすることで、導電膜13aにおける反応を十分に促進できる。このため、より大きなガルバニック電流を得ることが可能となり、良好な特性のACMセンサを実現できる。
【0044】
絶縁膜12aのメッシュ状の開口パターンの縁と、導電膜13aのメッシュ状の開口パターンの縁との間隔WBは、0.5mm未満、好ましくは0.3mm以下、より好ましくは0.1mm以下である。つまり、導電膜13aの一部が絶縁膜12aの縁から0.5mm未満、好ましくは0.3mm以内、より好ましくは0.1mm以内の領域Baに配置される。このように、基材11と導電膜13aとの電気的な距離を十分に小さくすることで、カソードとアノードが電気化学的に電解質や水溶液で短絡されやすくなり、腐食反応を生じやすくなるため、ガルバニック電流を効率的に取り出すことができる。これにより、ACMセンサのアノードとして、不働態皮膜が形成されるステンレス鋼のような材料を用いることが可能になる。
【0045】
このように本実施の形態のACMセンサは、絶縁膜12aの開口パターンと、導電膜13aの開口パターンとがメッシュ状になっているため基材11の露出領域をより細やかに制御できる。このため、より良好な特性のACMセンサを実現できる。
【0046】
なお、開口パターンにおける開口の形状は矩形であることに限られない。開口の形状は多角形、円形など適当な形状とすることができる。本実施の形態は、他の実施の形態に示される構成と適宜組み合わせて実施可能である。
【0047】
(実施例)
以下、発明の効果を確認するために行った実施例について説明する。図4及び図5は、本実施例に係るACMセンサのセンサ部1の構成を示す図である。本実施例のセンサ部1は、SUS304でなる基材11と、開口パターンAを有する絶縁膜12と、カーボンペーストでなる導電膜13とを備える。開口パターンAの幅WAは1mmとした。絶縁膜12と導電膜13との間隔WBは0.1mmとした。また、図4及び図5に示されるように、導電膜13の形状(面積)が異なる2種類のセンサ部1を用意した。図4に示されるセンサ部1は8mm×8mmの太幅の導電膜13を有し、図5に示されるセンサ部1は8mm×1mmの細幅の導電膜13を有する。
【0048】
上記構成のACMセンサにつき、湿度とセンサ出力との関係を確認した。ここでは、あらかじめ1m当たり1gの海塩を電解質としてセンサ部1に塗布した。また、センサ部1を曲げた場合の特性と、センサ部1を曲げない場合の特性とを確認した。図6は、湿度(%)とACMセンサ出力(μA)との関係を示す特性図である。図6に示されるように、8mm×8mmの太幅の導電膜13を有するACMセンサ(図4)は相対湿度30%〜60%において十分な出力が得られているのに対し(図6の8mm)、8mm×1mmの細幅の導電膜13を開口パターンAの両側有するACMセンサ(図5)はほとんど出力が得られなかった(図6の1mm)。
【0049】
図4に示されるACMセンサにおいて、導電膜13の面積は約128mmであった。図5に示されるACMセンサにおいて、導電膜13の面積は約16mmであった。また、開口パターンAの面積は約10mmであった。このことから、導電膜13の面積は、開口パターンAの面積の少なくとも1.6倍超が必要であり、12.8倍超であるのが望ましいと言える。
【0050】
(比較例)
比較例として、間隔WBを0.5mmとしたACMセンサについて同様の特性評価を行った。ACMセンサのセンサ部の構成は、図4及び図5に示されるものとした。
【0051】
図7は、湿度(%)とACMセンサ出力(μA)との関係を示す特性図である。図7に示されるように、比較例の構成では、導電膜13の形状に関わらず(8mm又は1mm)、ほとんど出力が得られなかった。
【0052】
当該結果は、ACMセンサにおいて、基材11と導電膜13との間隔WB、すなわち、基材11と導電膜13との電気的な距離が極めて重要なパラメータであることを示している。間隔WBは少なくとも0.5mm未満とする必要があり、0.3mm以下とするのが好ましく、0.1mm以下とするとより好ましい。
【0053】
以上に述べたように、本発明の腐食モニタリングセンサは、アノードであるステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金からなる基材と、カソードであるカーボン又はステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金より貴な金属を含む導電膜との電気的な距離を十分に近づけているため、ステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金からなる基材を用いる場合でも、十分に電解腐食を進行させてガルバニック電流を得ることが可能である。このため、ステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金をアノードに用いた腐食モニタリングセンサを実現できる。
【0054】
なお、上記実施の形態において、添付図面に示されている構造の大きさ、形状などは、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の腐食モニタリングセンサは、腐食速度の定量評価をはじめとする各種モニタリングに有用である。
【符号の説明】
【0056】
1、1a センサ部
11 基材
12、12a 絶縁膜
13、13a 導電膜
A 開口パターン
B 領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金でなる基材と、前記基材表面の一部に形成された開口パターンを有する絶縁膜と、前記絶縁膜表面の一部に形成されたカーボン又はステンレス鋼などの不働態皮膜を有する金属、合金より貴な金属を含む導電膜と、でなるセンサ部を備え、前記センサ部に電解質溶液が付着することで前記基材に生じる電解腐食を電流によって評価する腐食モニタリングセンサであって、
前記基材と前記導電膜とは、前記基材と前記導電膜との電気的な距離が0.5mm未満となるように配置されたことを特徴とする腐食モニタリングセンサ。
【請求項2】
前記基材と前記導電膜との電気的な距離が0.5mm未満となるように、前記導電膜の一部が前記絶縁膜の縁から0.5mm未満の位置に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の腐食モニタリングセンサ。
【請求項3】
前記導電膜の面積は、前記開口パターンの面積の1.6倍超であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の腐食モニタリングセンサ。
【請求項4】
前記絶縁膜の開口パターンの幅は、0.01mm〜1mmであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の腐食モニタリングセンサ。
【請求項5】
前記絶縁膜は、メッシュ状の開口パターンを有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の腐食モニタリングセンサ。
【請求項6】
前記絶縁膜は、スリット状の開口パターンを有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の腐食モニタリングセンサ。
【請求項7】
前記基材と前記導電膜とは、前記基材と前記導電膜との電気的な距離が0.1mm以下となるように配置されたことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の腐食モニタリングセンサ。
【請求項8】
前記基材と前記導電膜との電気的な距離が0.1mm以下となるように、前記導電膜の一部が前記絶縁膜の縁から0.1mm以内の位置に配置されたことを特徴とする請求項7に記載の腐食モニタリングセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−208088(P2012−208088A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75716(P2011−75716)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】