説明

腐食位置の特定方法およびシステム

【課題】コンクリート中の鋼材の腐食の箇所をより正確に容易に特定できるようにする。
【解決手段】まず、ステップS101で、コンクリート中に埋設された鋼材に作用電極を接続する。次に、ステップS102で、参照電極および対極が接続された電解質からなるプローブをコンクリートの外側表面に接触させる。次に、ステップS103で、作用電極の電位を参照電極に対して一定に制御して作用電極と対極と間に流れる電流を測定する。次に、プローブの接触箇所を移動させ、ステップS102−ステップS103を繰り返し、これらの複数の測定で得られた複数の電流値の中の最大値が得られたプローブを配置した箇所より鋼材の腐食位置を特定する(ステップS104)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート中の鋼材の腐食位置を特定する腐食位置の特定方法およびシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリートによる構造物の劣化においては、鉄筋(鋼材)の腐食が問題となる。従って、コンクリート中の鉄筋の腐食状態を把握することが、重要視されるようになってきている。コンクリート中の鉄筋の腐食状態を求める方法として、交流インピーダンス法や電位ステップ法が用いられている(非特許文献1)。この方法は、鉄筋とコンクリートの界面の腐食速度を分極抵抗(電荷移動抵抗)としてとらえるため、非破壊に近い低侵襲で鉄筋の腐食状態を求めることができる。この方法では、鉄筋の腐食速度により鉄筋の腐食状態を判定しており、例えば、腐食速度が0であれば、鉄筋は腐食していないものと判定している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】斎藤 博之 他、「中性化したコンクリート中での鋼材の腐食と外側からの塗装による防食効果の検討」、防錆管理、5月号、1−5頁、1995年。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、コンクリート中の鋼材においては、腐食が全域に発生することはあまりなく、腐食は局所的に発生することが多い。これに対し、上述した技術では、腐食の発生している箇所が測定箇所から離れている場合、腐食の状態を正確に測定できず、局所的に発生している腐食の箇所を正確に特定することが容易ではないという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、コンクリート中の鋼材の腐食の箇所をより正確に容易に特定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る腐食位置の特定方法は、コンクリート中に埋設された鋼材に作用電極を接続する第1ステップと、参照電極および対極が接続された電解質からなるプローブをコンクリートの外側表面に接触させる第2ステップと、作用電極の電位を参照電極に対して一定に制御して作用電極と対極との間に流れる電流を測定する第3ステップと、プローブの接触箇所を移動させて複数の第2ステップおよび第3ステップを繰り返して得られた複数の電流値の中の最大値が得られたプローブを配置した箇所より鋼材の腐食位置を特定する第4ステップとを少なくとも備える。
【0007】
また、本発明に係る腐食位置の特定システムは、コンクリート中に埋設された鋼材に接続する作用電極と、参照電極および対極が接続された電解質からなるプローブと、作用電極の電位を参照電極に対して一定に制御して作用電極と対極との間に流れる電流を測定する測定手段と、コンクリートの異なる表面にプローブを接触させて測定手段で測定した複数の電流値の中の最大値が得られたプローブの接触箇所より鋼材の腐食位置を特定する腐食部特定手段とを備える。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明によれば、プローブの接触箇所を移動させて得られた複数の電流値の中の最大値が得られたプローブを配置した箇所より鋼材の腐食位置を特定するようにしたので、コンクリート中の鋼材の腐食の箇所がより正確に容易に特定できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の実施の形態における腐食位置の特定方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】図2は、本発明の実施の形態における腐食位置の特定システムの構成例を示す構成図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態における腐食位置の特定システムの構成例を示す構成図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態における腐食位置の特定システムの構成例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における腐食位置の特定方法を説明するためのフローチャートである。この特定方法は、まず、ステップS101で、コンクリート中に埋設された鋼材に作用電極を接続する。次に、ステップS102で、参照電極および対極が接続された電解質からなるプローブをコンクリートの外側表面に接触させる。次に、ステップS103で、作用電極の電位を参照電極に対して一定に制御して作用電極と対極との間に流れる電流を測定する。
【0011】
次に、プローブの接触箇所を移動させ、ステップS102−ステップS103を繰り返し、これらの複数の測定で得られた複数の電流値の中の最大値が得られたプローブを配置した箇所より鋼材の腐食位置を特定する(ステップS104)。
【0012】
次に、上記特定方法を実施するシステムについて図2を用いて説明する。図2は、本発明の実施の形態における腐食位置の特定システムの構成例を示す構成図である。図2では、断面を模式的に示している。このシステムは、まず、コンクリート201中に埋設された鋼材202に接続する作用電極203を備える。鋼材202は、例えば鉄筋である。また、作用電極203は、鋼材202との間で電流を流すための電極であり、自身が変化しない材料から構成することが好ましい。従って、作用電極203は、例えば、白金や金などの貴金属、あるいは炭素などの材質から構成することが好適である。
【0013】
また、本システムは、参照電極204および対極205が接続された電解質からなるプローブ206を備える。参照電極204は、電位測定の基準となる電極であり、例えば、銀塩化銀電極などから構成するなど、適宜設計すればよい。プローブ206は、コンクリート201に接した状態で用いる。プローブ206を構成する電解質は、既知の電気抵抗および容量をもつ固体電解質から構成すればよい。また、電解質は、コンクリートとの接触抵抗が少ないほど望ましい。また、プローブ206とコンクリート201との間に、水または電解質水溶液を入れる(配置させる)ことも考えられる。
【0014】
また、本システムは、作用電極203の電位を参照電極204に対して一定に制御して作用電極203と対極205との間に流れる電流を測定する測定部207を備える。測定部207は、例えば、ポテンシオスタットである。また、コンクリート201の異なる表面にプローブ206を接触させて測定部207で測定した複数の電流値の中の最大値が得られたプローブ206の接触箇所より鋼材202の腐食位置を特定する腐食部特定部208を備える。腐食部特定部208は、例えば、CPUと主記憶装置と外部記憶装置となどを備えたコンピュータ機器であり、主記憶装置に展開されたプログラムによりCPUが動作することで、上述した各機能が実現される。
【0015】
本システムにより、プローブ206のコンクリート201に対する接触位置(配置)を変化(移動)させ、様々な位置で測定部207による測定を行うことで、複数の測定結果(電流値)を取得する。このようにして取得した複数の電流値の中の最大値が得られたプローブ206の位置より、鋼材202の腐食位置を特定する。ここでは、コンクリート201の表面の延在方向に、鋼材203が延在している構造体を例にしている。一般的な鉄筋コンクリート構造では、このように、構造の表面(コンクリートの表面)の延在方向と鉄筋の延在方向とがほぼ平行な状態となっている。
【0016】
ここで、鋼材202に腐食があると、この部位における上述した測定の電気抵抗は小さくなり、大きな電流値が測定されるようになる。ところで、図3に示すように、プローブ206のコンクリート201に対する接触面の法線方向に、対極205を投影した領域が、実質的な測定領域311となる。
【0017】
このような測定領域311以外の領域の鋼材202に腐食部301が存在する場合(図3の場合)、腐食部301と対極205との距離が離れている状態となる。
【0018】
一方、プローブ206を移動させ、図4に示すように、腐食部301が測定領域311に入れば、腐食部301と対極205との距離は、最も近い状態となる。
【0019】
コンクリート201の抵抗は無視できないので、上述したように対極205と腐食部301との間の距離に差があると、より離れている状態の方が、電圧降下の影響を受けて検出される電流値が小さくなる。一方、最も近い状態である、腐食部301が測定領域311に入った状態の測定値が、最も大きな電流値となる。言い換えると、最も大きな電流値が得られた測定箇所の測定領域311に、腐食部301が存在することになる。
【0020】
従って、プローブ206のコンクリート201に対する接触位置(配置)を変化させ、様々な位置で測定部207による測定を行い、これら複数の測定結果を測定位置とともに記録しておき、記録してある複数の電流値の中の最大値が得られたプローブ206の位置を特定すれば、この場合の測定領域311に、腐食部301が存在するものとなる。ところで、鋼材の電位としては、鋼材を構成する金属の溶出が起こる電位であればよい。例えば、酸性環境下、アルカリ性環境下における金属の腐食電位、鋼材以外の物質の酸化分解電位等を考慮し、鋼材の腐食に対応する反応が確実に進行し、これ以外の反応がなるべく進行しない電位が好ましい。
【0021】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、腐食部特定部208は、表示部を備え、複数の測定値の中より、最大値を表示するようにしてもよい。また、抵抗値を表示するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0022】
201…コンクリート、202…鋼材、203…作用電極、204…参照電極、205…対極、206…プローブ、207…測定部、208…腐食部特定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート中に埋設された鋼材に作用電極を接続する第1ステップと、
参照電極および対極が接続された電解質からなるプローブを前記コンクリートの外側表面に接触させる第2ステップと、
前記作用電極の電位を前記参照電極に対して一定に制御して前記作用電極と前記対極との間に流れる電流を測定する第3ステップと、
前記プローブの接触箇所を移動させて複数の前記第2ステップおよび前記第3ステップを繰り返して得られた複数の電流値の中の最大値が得られた前記プローブを配置した箇所より前記鋼材の腐食位置を特定する第4ステップと
を少なくとも備えることを特徴とする腐食位置の特定方法。
【請求項2】
コンクリート中に埋設された鋼材に接続する作用電極と、
参照電極および対極が接続された電解質からなるプローブと、
前記作用電極の電位を前記参照電極に対して一定に制御して前記作用電極と前記対極との間に流れる電流を測定する測定手段と、
前記コンクリートの異なる表面に前記プローブを接触させて前記測定手段で測定した複数の電流値の中の最大値が得られた前記プローブの接触箇所より前記鋼材の腐食位置を特定する腐食部特定手段と
を備えることを特徴とする腐食位置の特定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−181130(P2012−181130A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44974(P2011−44974)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)