説明

腐食性材料を処理するための超臨界酸化法

超臨界酸化法であって、超臨界条件下にて水性系を加圧および加熱して流体相を形成し、該流体相に酸化剤を供給して該流体相中にて酸化反応を引き起こし、冷却チャンバーの内表面に隣接している、冷却チャンバーの内周辺部に冷却剤を供給しながら、冷却チャンバーの中央部に得られた流体反応相を促し、流体反応相と該冷却剤とを冷却チャンバー内にて混合し、反応混合物を該冷却チャンバーより取り出し、そしてその後該反応混合物の温度および圧力をさらに低下させ生成混合物を得ることを含む、上記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食性材料を処理するための超臨界酸化法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化物含有水性媒体などの腐食性材料を超臨界条件(すなわち、374℃よりも高い温度かつ22.1 MPaよりも高い圧力)下にて酸化反応を実施することが当該分野において提唱されている。このような条件下では、反応混合物は単一の流体相を形成する。また当該分野において当該技術は、汚染水中の有機不純物を破壊するために汚染水を処理するのに有効であることが知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
酸化反応の終了時には、流体反応相を冷却し、その圧力を低下する必要がある。しかし、処理される汚染水が潜在的な腐食性物質(例えば、硫化化合物など)の前駆体を当初より含有している場合、超臨界条件から温度および圧力を低くすると、高腐食性化学種(例えば、硫酸)が必然的に形成され、これにより反応槽またはさらに下流にある付属の配管を損なうことが予想される。以下、「亜臨界相」という用語は、臨界点を下回るが、温度は依然としてかなり高い(すなわち15O℃よりも高い)水相を指す。この亜臨界相の有する増強された腐食能は、超臨界水酸化法の適用において重大な障害をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0004】
その最も広い実施形態において、本発明は改良された超臨界酸化法を提供する。当該方法は、超臨界条件下にて水性系を加圧および加熱して流体相を形成し、該流体相に酸化剤を供給して該流体相中にて酸化反応を引き起こし、冷却チャンバーの内表面に隣接している、冷却チャンバーの内周辺部に冷却剤を供給しながら、得られた流体反応相を冷却チャンバーの中央部に方向付けし、流体反応相と該冷却剤とを冷却チャンバー内にて混合し、反応混合物を該冷却チャンバーより取り出し、そしてその後該反応混合物の温度および圧力をさらに低下させ生成混合物を得ることを含む。このように本発明によると、超臨界条件から亜臨界相への移行は、冷却チャンバーにおいて、流体反応混合物の温度を300℃から100℃の範囲、好ましくは150℃よりも低い温度に急速に低下し、その後さらに冷却、熱回収および圧力低下することによって行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
以下に詳細に考察されるように、本発明の好ましい態様によると、冷却チャンバーの内部には、中央流域およびそれを囲む周辺領域を備え、それによって反応混合物が当該中央部を流れ、そのために熱い供給物と冷却チャンバーの内表面が即座に直接接触することが妨げられるか、少なくとも遅らせられる。さらに、冷却チャンバーへの冷却剤の導入を適切に制御することによって、保護冷却剤層を冷却チャンバーの内壁上に形成することができる。
【0006】
本発明により処理される水性系は溶液の形態であっても懸濁液の形態であっても良い。特定の好ましい実施形態において、水性系は式:MxSy(式中、Mは金属カチオンであり、xおよびyはそれぞれ、金属および硫黄の化学量論係数である)によって表される硫化物を含む。本発明による方法は鉱石、精鉱および鉱物産業に伴う残留物、ならびに硫化モリブデンなどの触媒(石油産業において用いられる)から金属硫化物を回収するのに特に有用である。
【0007】
本発明によって提供される改良された超臨界酸化法は様々な目的に用いることが可能である点に留意しなければならない。例えば、有機不純物または無機不純物によって汚染されている水および腐食性物質の前駆体によって汚染されている水は、本発明方法によって効率的に精製することができる。別の実施形態において、本方法は濃硫酸溶液の製造に使用することができる。さらに別の実施形態において、本方法を用いて有益な元素および鉱物の濃縮された溶液を製造することができ、当該溶液からはその後容易に当該元素および鉱物を回収することが可能である。
【0008】
本発明により処理される水性系を重力またはポンプもしくは一連の高圧ポンプを使用して、超臨界条件(温度および圧力がそれぞれ好ましくは400℃を超える温度および25 MPaを超える圧力)にする。水性系の温度を、1または複数の熱交換器を通し、また水性系を熱い媒体と接触させるか、または電熱器と直接接触させることによって上昇させる。
【0009】
超臨界条件下にて酸化を行うための反応槽は好ましくは、チューブ状の栓流反応器、または水性系の流動パラメーター、反応器の容積ならびに酸化剤の量および流動特性に応じて所望される滞留時間を可能とする類似の装置が好ましい。
【0010】
本発明に用いられる好適な酸化剤としては、最も好ましくは酸素、空気および過酸化水素が挙げられる。これらの酸化剤は、前記のチューブ状の栓流反応器に高圧源より、またはインラインポンプもしくはコンプレッサーによって、化学量論量、より好ましくはやや過剰量で供給する。超臨界条件下で実施される酸化反応を完了させる。つまり、そこに存在する有機物を二酸化炭素および水へと酸化し、またそこに存在する硫化物を酸化する。酸化反応の間、熱が生じ、好ましくは当該熱を回収する。
【0011】
酸化反応が完了したら、反応混合物を冷却チャンバーに移す。当該冷却チャンバーは、そこを通過する反応混合物の温度を、300℃未満、好ましくは15O℃未満に急速に低下できるように設計されている。本発明の重要な特徴は、反応混合物が冷却チャンバーに入ると、当該反応混合物を冷却チャンバーの中央部を通過させ、それによって反応混合物と冷却チャンバー壁の接触を妨げるか、少なくとも遅らせることにある。例えば、本発明の一実施形態においては、該冷却チャンバーの流入口内の中心に配置された好適なノズルより、反応混合物を冷却チャンバー内に供給する。ノズルは反応混合物を、冷却剤で満たされた冷却チャンバー内に注入する。
【0012】
好ましくは本発明方法は、酸化反応より得られた流体反応相を冷却チャンバー内に同軸同心円状に設けられた中央部に、該中央部と該冷却チャンバーの内表面との間に規定された環状周辺部に1または複数の冷却剤流を接線方向に導入しながら通すことを含む。図1および2は、本発明の実施形態を実施するのに好適な配置を示す。
【0013】
図1を参照すると、冷却チャンバーの壁1は耐食性金属からなり、当該金属は好ましくはタンタル、チタン、ハスタロイ、インコネルおよび高温ステンレス鋼からなる群から選択される。冷却チャンバーの内表面は必要に応じて、複合材料または好適なプラスティックによってコーティングしても良い。加圧反応槽(示していない)から出る反応混合物は、供給ライン2から冷却チャンバー3の内部へと流れる。供給ラインの一部分が冷却チャンバー内に入っており、この供給ラインの一部分は該冷却チャンバーの内部に同軸上、好ましくは同心円状に設置されている。冷却チャンバーの長さは数10センチ〜数10メートルの範囲で様々であり、冷却チャンバーの内部に入っている供給ラインの一部分は、冷却チャンバーの長さの約5〜95%を占めても良い。参照符号 1inおよび1outはそれぞれ、冷却チャンバーの入口および出口を示し、それに応じて矢印は流れの方向を示すために用いられている。冷却チャンバーは、図に示すように水平に、または垂直に、または斜めに傾けて設置しても良いことは理解されよう。
【0014】
図1に示すように、冷却チャンバーの内部空間は通常円筒状であるが、錐台形であっても良く、すなわち、冷却チャンバーの内部空間の直径が次第に小さくなって形成される円錐形(参照表示5で示される)であっても良い。
【0015】
供給ラインチューブの終端には、開口部6が備えられており、当該開口部の直径は通常、供給ラインチューブの直径の5〜100%である。ノズル開口部6は冷却チャンバーに沿って、および冷却チャンバーのいたる所に、流れを向けたり分配したりするのに役立つように構成されている。
【0016】
冷却剤流7は、冷却チャンバーに対して好ましくは正接であり、それによって冷却剤流の流れを冷却チャンバー上に循環させ、冷却チャンバーの表面を保護する。角度は完全に正接方向から完全に半径方向、および縦角(lengthwise angle)−45°〜+45°と様々であり得る。
【0017】
図1に示す実施形態において、流体反応相は中央部より開口部6を通過して冷却チャンバー内の下流へと押し出され、それによって冷却剤と混合される。
【0018】
あるいは、冷却チャンバーを通過する流体反応相の流れはその中央部に限定され、そして該中央部内にて流体反応相と冷却剤流とが混合される。本発明のこの実施形態は、図2に示される配置を用いて実施することができる。この配置においてチューブ2は、冷却チャンバーの全長に沿って伸び、そこに中央流域を規定する。当該チューブは複数のノズル8をその表面に沿って備える。チューブ2と冷却チャンバーの外壁の内表面10との間に形成された環状空間9は加圧冷却剤(これは当該複数のノズル8を通って様々な角度でチューブ2に押し込まれる)を保持し、チューブ2内の一連の供給および冷却流体の両方の回転および長手方向の流れを可能とする。冷却剤流は、接線方向にもしくは半径方向に、またはそれらの組合せで環状空間に供給され得る。例えば、冷却チャンバーに沿って配置された環状の注入手段より冷却剤流体を複数の流れで注入することができ、それによって冷却チャンバーの内壁上に冷却された境界層を設けることもできる。
【0019】
冷却剤流体は水であっても良いし、アルカリ性水溶液(例えば、水酸化ナトリウム溶液)であっても良いし、反応自体の冷却された生成物流出物であっても良いし、液化ガスであっても良い。例えば、当該方法が濃硫酸溶液の製造または有価物質の回収も目的としている場合、当該溶液の濃度が所望されるレベルに達するまで、当該方法により得られた冷却された硫酸溶液を再循環することおよび注入される冷却剤として使用することが可能である。当該溶液濃度の所望されるレベルはさらなる処理のためにその一部が取り出されることによって維持される。別の実施形態において、フラッシングおよび蒸発も冷却を促進するために用いられる。
【0020】
このように、冷却チャンバーを出る水性反応混合物の温度は十分に低下し、その結果当該チャンバー内に存在する化学種の腐食能を十分に低減して、その後の温度および圧力低下をステンレス鋼、プラスティックまたは複合材料からなる従来装置にて実施することが可能となる。これは当該分野において周知の様々なタイプの構築物(例えば、バルブ、膨張容器、タービン(エネルギーの一部を回収するのに役立ち得る)、長いチューブ、圧力ブレーカー、加圧ポンプ)または重力により達成することができる。
【0021】
最終の処理した水系が得られると、有価金属 (例えば、その酸化物/水酸化物の形態で)を当該水系より回収することができる。硫酸を含有する当該溶液は再循環し、冷却剤流として使用して、本発明方法に従って冷却チャンバーに注入する。
【0022】
本発明方法を実施するのに好適な装置を図1に示す。当該装置は特に、金属硫化物(例えば、硫化モリブデンまたは硫化銅)の酸化および有価金属(例えば、モリブデンまたはレニウム)の回収に適合している。
【0023】
材料硫化モリブデンを、貯蔵タンク21よりフライスボール(milling ball)を備えた物理的サイズを小さくする装置22に移し、その後、分類および大きさを分け (23, 24) 所望の画分を回収し、貯蔵タンク25に移す。26 および27を用いて水性系を約250気圧に圧縮し、熱交換器 28によって加熱し、そしてさらに電熱器 29によって400℃まで加熱し、超臨界水相を形成する。次いでこの超臨界水相はリアクター30および31に入り、このリアクターに酸化剤、すなわち酸素を32から供給する。栓流チューブ状リアクター30および31において、酸化反応を開始し、終了する。次いで、超臨界反応相を急速冷却チャンバー33(その様々な構成については上記にて詳細に考察している)に通過させる。ここで当該反応相は、再循環する液体34により約200〜250℃未満に冷却される。次いで、熱交換器28および35によってさらに冷却され、フラッシング容器36を流れ、その後、生成物の容器37に入る。生成物の容器にて当該溶液に由来する冷却液を、ポンプ38を使用して冷却チャンバー33に送り再循環する。得られた金属酸化物および硫酸を、さらなる処理のためにポンプ39によって40に送る。
【実施例】
【0024】
実施例1
図3を参照して、硫化モリブデン濃縮物を水と混合し(固体:液体の比率= 1:4)、そしてスラリーとして供給タンク25に送る。このコレクターよりスラリーをポンプ26, 27を用いて汲み上げ、ヒーターを通して、T=390℃を有するリアクター30および31に送る。酸化剤を22〜25 MPaの圧力でリアクターに供給する。
【0025】
このような条件下にて、硫化モリブデンの酸化を行う:
MoS2 + 3H2O + 4.5O2 = H2MoO4 + 2H2SO4
得られたスラリーを上記構成を有する冷却チャンバー33に移し、これに冷却溶液 (10℃〜25℃)を注入する。この溶液を原料の溶液に2:1の比率で循環させることによって、スラリーの温度を約200℃に急速に下げた。
【0026】
再循環する硫酸溶液の濃度が所定の値を超えたら、さらなるモリブデン回収のためにこのプロセスから取り出す。
【0027】
実施例2
同様の実験を混合硫化銅(黄銅鉱)を用いて実施した。固体:液体の比率は1:5である(T=4OO℃, P= 20〜25 MPa)。実施例1と同様に、冷却剤として再循環溶液 (10℃〜25℃)を原料の溶液に対して2:1の比率で用いて、反応をクエンチングした。この方法により、所望されるスラリーの温度(T<=200℃)を冷却チャンバー内にて得た。最終溶液は80 g/l Cu; 20 g/l H2SO4; 5 g/l Feを含有していた。
【0028】
実施した実験より、冷却した再循環溶液 (T=10℃〜25℃)を用いてクエンチングすることによって、冷却チャンバーおよび連結された金属製品の腐食を防ぎながら、200℃未満に温度を下げることが示される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は冷却チャンバーの好ましい実施形態を示す。
【図2】図2は冷却チャンバーの別の好ましい実施形態を示す。
【図3】図3は本発明の超臨界酸化法を実施するための装置を図式的に示す。
【符号の説明】
【0030】
1 冷却チャンバーの壁
2 供給ライン
3 冷却チャンバー
6 開口部
7 冷却剤流
8 ノズル
9 環状空間
10 内表面
21 貯蔵タンク
25 貯蔵タンク
28 熱交換器
29 電熱器
30 リアクター
31 リアクター
33 冷却チャンバー
36 フラッシング容器
37 生成物の容器
38 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界酸化法であって、超臨界条件下にて水性系を加圧および加熱して流体相を形成し、該流体相に酸化剤を供給して該流体相中にて酸化反応を引き起こし、冷却チャンバーの内表面に隣接している、冷却チャンバーの内周辺部に冷却剤を供給しながら、得られた流体反応相を冷却チャンバーの中央部に向け、流体反応相と該冷却剤とを冷却チャンバー内にて混合し、反応混合物を該冷却チャンバーより取り出し、そしてその後該反応混合物の温度および圧力をさらに低下させ生成混合物を得ることを含む、上記方法。
【請求項2】
該中央部と該冷却チャンバーの内表面との間に規定された環状周辺部に1または複数の冷却剤流を接線方向に導入しながら、冷却チャンバー内に同軸同心円状に設けられた中央部に流体反応相を通過させることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
流体反応相を冷却チャンバー内の中央流域下流から押し出し、それによって冷却剤と混合する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
冷却チャンバーを通過する流体反応相の流れがその中央部に限定され、該中央部内にて流体反応相と冷却剤流とが混合される、請求項2記載の方法。
【請求項5】
水性系が1または複数の金属硫化物を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
生成混合物を処理してそこから金属を回収し、硫酸溶液を含むその液相を再循環し、冷却剤流として使用する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
反応生成物を再循環して濃硫酸を生成する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
反応生成物を再循環して回収可能な元素および化合物の冨化された溶液を生成する、請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−525844(P2009−525844A)
【公表日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552957(P2008−552957)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【国際出願番号】PCT/IL2007/000150
【国際公開番号】WO2007/091248
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(508236055)メタル−テック リミテッド (2)
【Fターム(参考)】