説明

腐食抑止用マイクロカプセル及びそれを用いた水系の金属の腐食抑止方法

【課題】プラントの操業を停止することなく、また水質の制御等を必要とすることなく、更には大量の防食剤の添加を要することなく、水系の金属の局部腐食の進行を効果的に抑止することができるpH応答性腐食抑止用マイクロカプセルであって、十分な強度を有し、内包液の防食剤濃度が高い場合においても、水系に添加した際に、浸透圧にて破壊されることのない腐食抑止用マイクロカプセルを提供する。
【解決手段】水系の金属の局部腐食の進行を抑止するために水系に添加される、マイクロカプセル本体内に防食剤を内包し、該水系のpHに応答して、内包した防食剤を放出する腐食抑止用マイクロカプセル。マイクロカプセル本体は、アルカリ性では実質的に水に溶解せず、酸性から中性において水溶性である単量体を構成単位とする重合体からなり、該重合体は架橋構造を有する。この腐食抑止用マイクロカプセルを水系に添加して、水系の金属の局部腐食の進行を抑止する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系における炭素鋼、ステンレス鋼、銅、銅合金などの金属の局部腐食の進行を抑止するために水系に添加される腐食抑止用マイクロカプセルと、この腐食抑止用マイクロカプセルを用いて水系の金属の局部腐食の進行を効果的に抑止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水系における金属の局部腐食の進行を抑止するために、水系に防食剤を添加することが広く行われている。しかしながら、この方法では、大量の防食剤を添加することが必要であり、しかも腐食反応のカソード、アノード部位と防食剤とを長期間接触させることが必要であった。また、防食剤の大量添加によりスケール障害を引き起こす可能性もあるため、他の共存イオンとの反応を考慮する必要もある。従って、スケール障害等の問題を引き起こすことなく、金属の局部腐食の進行を確実に抑止するためには、製造プラントの操業を停止して防食剤を大量に添加し、スケール障害等を起こさない水質に管理した上で長期間防食剤を添加した水を系内に循環させる必要があった。
【0003】
本出願人は、プラントの操業を停止することなく、また水質の制御等を必要とすることなく、更には大量の防食剤の添加を要することなく、水系の金属の局部腐食の進行を効果的に抑止するために、水系の金属の局部腐食の進行を抑止するために水系に添加される、マイクロカプセル本体内に防食剤を内包した腐食抑止用マイクロカプセルであって、該水系のpHに応答して、内包した防食剤を放出することを特徴とする腐食抑止用マイクロカプセルと、この水系の金属の腐食抑止方法を水素に添加して水系の金属の局部腐食の進行を抑止する方法を提案した(特願2003−151075。以下「先願」という。)。
【0004】
先願の腐食抑止用マイクロカプセルは、添加された水系のpHに応答して内包した防食剤を放出する。即ち、局部腐食が進行する環境のpH条件において防食剤を放出し、局部腐食の進行しないpH条件では防食剤を放出しない。このように、局部腐食が進行する環境下においてのみ防食剤を放出するため、この局部腐食進行領域において防食剤を高濃度に存在させることができ、これにより防食剤を局部腐食の抑止のために有効に作用させて局部腐食の進行を確実に抑止することができる。一方で、局部腐食が進行しない領域では、防食剤によるスケール障害等の問題を引き起こすことがなく、また、防食剤が無駄に消費されることもない。
【0005】
ところで、水系においては、金属の局部腐食の進行と共に、金属の孔食部分の表面を覆うように形成されたさび膜内の水、即ち、局部腐食内部水のpHが低下することが知られている。
【0006】
先願の腐食抑止用マイクロカプセルでは、この局部腐食内部水以外の水系と局部腐食内部水とのpHの違いを利用し、pHの低下に対応して防食剤を放出するマイクロカプセルを用いて孔食の進行を抑止するために、水系のpHがアルカリ性であるときには防食剤を放出せず、中性又は酸性であるときに防食剤を放出するべく、マイクロカプセル本体を構成する物質が、pHに応答して溶解ないし破壊するもの、例えば、pHアルカリ性では水に溶解せず、中性又は酸性で水溶性となるものであることが好ましいとされている。そして、先願には、アルカリ性で溶解せず、中性又は酸性で溶解する物質としては、ポリビニルピリジン、ポリメチルビニルピリジン等のピリジン系物質、ポリビニルイミダゾール、ポリメチルビニルイミダゾール等のイミダゾール類、或いはアミノ酸を側鎖にもつポリマー等が例示され、局部腐食内部水のpHに対する溶解性の点から、マイクロカプセル本体はポリビニルピリジンで構成されていることが好ましいとされている。
【0007】
なお、防食剤を内包するマイクロカプセルとしては、特表平7−506408号公報に、マイクロカプセル本体がゼラチンで構成されたものが提案されているが、水系のpHに応答して防食剤を放出するマイクロカプセルについては記載がない。
【特許文献1】特願2003−151075
【特許文献2】特表平7−506408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マイクロカプセル本体がポリビニルピリジン等の物質で構成される先願のマイクロカプセルは、強度的に弱く、特に、内包液の防食剤濃度が高い場合には、水系にマイクロカプセルを添加した際に、pHアルカリ性の条件下でもマイクロカプセルが浸透圧によって破壊されることで、腐食進行領域以外の領域で防食剤を放出してしまう場合があるといった不具合を有していた。
【0009】
本発明は、上記先願の不具合を解決し、プラントの操業を停止することなく、また水質の制御等を必要とすることなく、更には大量の防食剤の添加を要することなく、水系の金属の局部腐食の進行を効果的に抑止することができるpH応答性腐食抑止用マイクロカプセルであって、十分な強度を有し、内包液の防食剤濃度が高い場合においても、水系に添加した際に、pHアルカリ性の条件下では破壊されることのない腐食抑止用マイクロカプセルと、この腐食抑止用マイクロカプセルを用いた水系の金属の腐食抑止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは、水系の金属の局部腐食の進行を抑止するために水系に添加される、マイクロカプセル本体内に防食剤を内包した腐食抑止用マイクロカプセルにおいて、該水系のpHに応答して、内包した防食剤を放出する腐食抑止用マイクロカプセルであって、該マイクロカプセル本体は、アルカリ性では実質的に水に溶解せず、酸性から中性において水溶性である単量体を構成単位とする重合体からなり、該重合体は架橋構造を有するものであることを特徴とする。
【0011】
本発明の水系の金属の腐食抑止方法は、水系の金属の局部腐食の進行を抑止する方法において、該水系にこのような本発明の腐食抑止用マイクロカプセルを添加することを特徴とする。
【0012】
本発明の腐食抑止用マイクロカプセルのマイクロカプセル本体は、アルカリ性では実質的に水に溶解せず、酸性から中性において水溶性である単量体を構成単位とする重合体からなるため、局部腐食が進行する酸性〜中性のpH条件においてマイクロカプセル本体が溶解して防食剤を放出する。一方、局部腐食の進行しないアルカリ性のpH条件では、マイクロカプセル本体は溶解せずに防食剤を放出しない。しかも、本発明の腐食抑止用マイクロカプセルのマイクロカプセル本体は、架橋構造を有する重合体よりなるため、十分な強度を有し、内包液の防食剤濃度の高い場合においても、水系内で浸透圧により破壊されることがない。このため、局部腐食が進行する環境下においてのみ確実に防食剤を放出することができるため、この局部腐食進行領域において防食剤を高濃度に存在させることができ、これにより防食剤を局部腐食の抑止のために有効に作用させて局部腐食の進行を確実に抑止することができる。一方で、局部腐食が進行しない領域では、防食剤を放出せず、防食剤によるスケール障害等の問題を引き起こすことがなく、また、防食剤が無駄に消費されることもない。
【0013】
本発明の腐食抑止用マイクロカプセルにおいて、マイクロカプセル本体を構成する重合体は、アルカリ性では実質的に水に溶解せず、酸性から中性において水溶性である単量体と、該単量体と共重合可能な他の単量体とを構成単位とする共重合体であることが好ましく、特に、ビニルピリジン、スチレン、及びジビニルベンゼンを構成単位とする共重合体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水系のpHに応答して、局部腐食進行領域においてのみ内包する防食剤を確実に放出する腐食抑止用マイクロカプセルにより、金属の孔色部分の表面に形成されたさび膜内で防食剤を放出させることにより、プラントの操業を停止することなく、また水質の制御等を必要とすることなく、更には大量の防食剤の添加を要することなく、水系の金属の局部腐食の進行を効果的に抑止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは、マイクロカプセル本体内に防食剤を内包し、水系のpHに応答して、内包した防食剤を放出するものであって、マイクロカプセル本体が、アルカリ性では実質的に水に溶解せず、酸性から中性において水溶性である単量体(以下「可溶性単量体」と称す場合がある。)を構成単位とし、架橋構造を有する重合体からなるものである。この重合体は、可溶性単量体と、該可溶性単量体と共重合可能な他の単量体(以下「他の単量体」と称す場合がある。)とを構成単位とする共重合体であることが好ましい。
【0017】
可溶性単量体としては、ビニルピリジン、メチルビニルピリジン等のピリジン系化合物、ビニルイミダゾール、メチルビニルイミダゾール等のイミダゾール類などが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。局部腐食内部水のpHに対する溶解性の点から、可溶性単量体としては特にビニルピリジンが好ましい。
【0018】
本発明に係る架橋構造は重合体の製造に際して架橋剤を用いることにより導入することができる。この架橋剤としては、ジビニルベンゼンやエチレングリコールジメタクリレート、N,N’−メチレンビスアクリルアミドなどの多官能ビニル化合物を好適に用いることができる。架橋剤についても1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0019】
本発明に係る重合体に他の単量体を導入することにより、マイクロカプセルをより一層強固にすることができる。この他の単量体としては、可溶性単量体との共重合性が良いものであれば良く、特に制限はないが、スチレン、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、アクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリレート等を好適に用いることができる。この他の単量体についても1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0020】
マイクロカプセル本体を構成する可溶性単量体、架橋剤及び他の単量体の配合比としては、
可溶性単量体:60〜95モル%
架橋剤:0.1〜5モル%
他の単量体:0〜40モル%
であることが好ましい。
【0021】
可溶性単量体の配合比が上記範囲よりも多いと相対的に架橋剤により導入される架橋構造の割合や他の単量体の割合が少なくなり、マイクロカプセルの強度が低くなる。可溶性単量体の配合比が上記範囲よりも少ないと、可溶性単量体による良好なpH応答性が得られなくなる。架橋剤の配合比が上記範囲よりも多いと局部腐食進行条件下でもマイクロカプセル本体が破壊せずマイクロカプセルから防食剤が十分に放出されない場合があり、逆に、架橋剤の配合比が上記範囲よりも少ないと、架橋構造を導入したことによる本発明の強度向上効果を十分に得ることができない。他の単量体の配合比が上記範囲よりも多いと、相対的に可溶性単量体の配合比が少なくなり、良好なpH応答性が得られなくなる。
【0022】
なお、本発明に係るマイクロカプセル本体を構成する重合体は、上記可溶性単量体、架橋剤及び他の単量体以外の他の単量体成分を含有するものであっても良い。
【0023】
このような本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは、界面重合によって製造することができる。具体的には単量体成分及び架橋剤と乳化剤を溶解させた油層に、防食剤の水溶液を添加混合してW/Oエマルションを形成し、このエマルションと開始剤とをポリビニルアルコール水溶液に添加させた後、溶媒を除去することによって製造することができる。
【0024】
本発明の腐食抑止用マイクロカプセルに内包させる防食剤としては、通常水系の防食剤として用いられている一般的な防食剤で良く、例えば、リン酸、クロム酸、タングステン酸、モリブデン酸の水溶性塩等が挙げられる。これらの防食剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。防食剤は、1〜20重量%水溶液として、マイクロカプセル本体内に内包される。この防食剤水溶液の濃度が低いと水系内で腐食抑止用マイクロカプセルから放出される防食剤濃度が低く、防食効果を十分に得ることができない。また、濃すぎると浸透圧によってマイクロカプセルが破壊される可能性がある。
【0025】
前述の如く、本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは水系に添加され、局部腐食内部水のpHに応答して防食剤を放出するために、その粒径は、各種金属のさび膜の中に浸透する大きさであることが好ましい。従って、マイクロカプセルの粒径は各種金属のさび膜の細孔の大きさによるが、例えば、淡水系における炭素鋼ではさび膜の細孔径が20〜30μmであるため、この細孔径よりも小さいことが好ましく、例えば、30μm以下、特に0.1〜10μmであることが好ましく、さらに好ましくは1〜5μm程度であることが望ましい。
【0026】
なお、マイクロカプセルの粒径の制御法としては種々あるが、例えば、上記マイクロカプセルの製造方法において、W/Oエマルション径を制御することにより、マイクロカプセルの粒径を制御することができる。
【0027】
本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは、水系に添加されると、金属孔食部分の表面に形成されたさび膜内に浸透し、pH中性又は酸性の局部腐食内部水に接触してマイクロカプセル本体が溶解ないし破壊して内部の防食剤を放出する。このさび膜内で放出された防食剤が金属の孔食部分に直接作用して局部腐食の進行を効果的に抑止する。
【0028】
なお、水系に添加された本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは、さび膜内に浸透する前の循環水系内に存在するときは、マイクロカプセル本体が溶解ないし破壊することはなく、従って、防食剤が放出されることはないため、防食剤が無駄に消費されることはなく、また、水系内で放出された防食剤により、スケール障害等の他の障害を引き起こすことはない。従って、プラントの操業を停止することなく、水質の制御等を必要とすることなく、適量の腐食抑止用マイクロカプセルの添加により、水系の金属の局部腐食の進行を確実に防止することができる。
【0029】
なお、水系への腐食抑止用マイクロカプセルの添加量は、処理対象水系の状況に応じて十分な局部腐食の進行抑止効果が発揮されるように適宜決定されるが、通常、内包された防食剤添加量(有効成分量)として20〜100mg/Lの範囲で添加制御を行うことが好ましい。
【実施例】
【0030】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0031】
実施例1
本発明の腐食抑止用マイクロカプセルを以下の製造方法で作製した。
【0032】
まず、以下の油相に水相を添加し、超音波発振器で5分処理してW/Oエマルションを調製した。
水相:ヘキサメタリン酸ナトリウム5重量%水溶液 5g
油相:モノマー濃度5重量%のジクロロメタン溶液 10.5g
全モノマー量 5×10−3モル
モノマー組成(モル%):ビニルピリジン/スチレン/ジベニルベンゼン
=80/19/1
乳化剤:グリセリン系エステル界面活性剤
(阪本薬品工業社製「CRS−75」)0.1g
【0033】
調製されたW/Oエマルションを以下のポリビニルアルコール水溶液に添加し、窒素置換後、窒素雰囲気で撹拌下(100rpm)、30℃で8時間保持した。なお、途中4時間後に初期添加と同量の開始剤を添加した。
ポリビニルアルコール水溶液:ポリビニルアルコール濃度5重量%
少量のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン
開始剤:過硫酸アンモニウム/テトラメチルエチレンジアミン
各4×10−4モル
その後、1時間かけて41℃まで昇温し、更に41℃で2時間保持した後溶媒を除去した。
【0034】
得られた腐食抑止用マイクロカプセルの粒径は約10〜20μmであり、ヘキサメタリン酸ナトリウム5重量%水溶液を内包するものであった。
【0035】
得られた腐食抑止用マイクロカプセルを、内包されるリン酸ナトリウムの総和が300mg/Lとなるよう、表1に示す各試験水に浸漬し、上澄後のリン酸イオン濃度を測定し、結果を表1に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
表1より、本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは、pHに応答してヘキサメタリン酸ナトリウムを放出することが分かる。
【0038】
また、マイクロカプセルの強度不足による内包液の溶出具合を調べるために、得られた腐食抑止用マイクロカプセルを下記表2に示す模擬冷却水(pH9)に浸漬し、水中のリン酸イオン濃度の経時変化を測定し、結果を図1に示した。
【0039】
【表2】

【0040】
図1より、本発明の腐食抑止用マイクロカプセルは、十分な強度を有し、pHアルカリ性において内包液の溶出の問題がないことが分かる。
【0041】
比較例1
先願の腐食抑止用マイクロカプセルを以下の製造方法で作製した。
【0042】
まず、ジクロロメタン100mLにポリビニルピリジン5gを溶解させた。そこに5重量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を滴下してヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を内包したカプセルを形成させた。それをポリビニルピリジンが溶解しないpH9程度の水溶液に滴下することによりヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液内包ポリビニルピリジン膜マイクロカプセルを作製した。得られた腐食抑止用マイクロカプセルの粒径は約20μmであった。
【0043】
この腐食抑止用マイクロカプセルを、実施例1と同様にして、模擬冷却水に浸漬して水中のリン酸イオン濃度の経時変化を測定したところ、図1に示す如く、マイクロカプセルの強度不足のために、pH9の模擬冷却水中で、経時によりリン酸イオンの溶出があることが確認された。
【0044】
実施例2
図2に示すようなモデル熱交試験装置を用いて、実施例1で作製した腐食抑止用マイクロカプセルの局部腐食進行抑止効果を評価した。
【0045】
図2の装置において、11はチューブ側通水熱交換器であり、冷却塔12のピット12Aからの冷却水がポンプ13により配管14より通水され、戻り配管15により循環される。16は流量計、17は補給水供給配管である。熱交換器11のチューブ11Aの管材としては炭素鋼管(STB−340)を用いた。この熱交チューブ11A内の冷却水流速は0.5m/sとし、蒸気加熱により熱交換器11の入口11aと出口11bの冷却水温度差が20℃となるようにした。熱交換器11で暖められた冷却水は、冷却塔12にて冷却され、水温が30℃となるようにした。熱交チューブ11Aの炭素鋼管はリン亜鉛高濃縮による皮膜形成を行った。即ち、合成水に全リン酸濃度100mg/L、全亜鉛濃度20mg/Lとなるように腐食抑制剤を添加し、室温レベルの水温で循環させ、熱交換器11の炭素鋼表面に防食皮膜を形成させた。皮膜形成期間は1日間とした。
【0046】
また、冷却水としては前記表2に示す水質の模擬冷却水を用いた。この模擬冷却水においてはスケール抑制のために高分子を添加している。この模擬冷却水のpHは約8.8である。
【0047】
試験期間中の水質は一定となるように冷却水のブロー、合成水の補給を行いながら濃縮管理を行った。試験開始5日後からブロー量に応じて、実施例1で作製した腐食抑止用マイクロカプセルを100mg/L(as PO3−)添加し、経時毎に、熱交換器11のチューブ11Aの炭素鋼管表面に認められた局部腐食の最大深さを調べ、結果を表3に示した。
【0048】
比較例2
実施例2において、腐食抑止用マイクロカプセルを添加しなかったこと以外は同様にして試験を行い、結果を表3に示した。
【0049】
【表3】

【0050】
表3より明らかなように、腐食抑止用マイクロカプセルを添加しなかった比較例2の場合よりも、腐食抑止用マイクロカプセルを添加した実施例2の場合の方が明らかに局部腐食の最大深さが浅く、本発明の腐食抑止用マイクロカプセルによる局部腐食の進行抑止効果が確認された。
【0051】
試験終了後、循環水を採取し、遠心分離機にかけ、腐食抑止用マイクロカプセルを沈殿させた後、上澄みのリン酸イオン濃度を測定したところリン酸イオン濃度は0mg/Lであり、循環水系内では、防食剤が放出されていないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例1及び比較例1におけるリン酸イオン溶出試験結果を示すグラフである。
【図2】実施例2及び比較例2で用いたモデル熱交試験装置を示す構成図である。
【符号の説明】
【0053】
11 熱交換器
11A チューブ
12 冷却塔
13 ポンプ
16 流量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系の金属の局部腐食の進行を抑止するために水系に添加される、マイクロカプセル本体内に防食剤を内包した腐食抑止用マイクロカプセルにおいて、
該水系のpHに応答して、内包した防食剤を放出する腐食抑止用マイクロカプセルであって、
該マイクロカプセル本体は、アルカリ性では実質的に水に溶解せず、酸性から中性において水溶性である単量体を構成単位とする重合体からなり、該重合体は架橋構造を有するものであることを特徴とする腐食抑止用マイクロカプセル。
【請求項2】
請求項1において、前記重合体は、アルカリ性では実質的に水に溶解せず、酸性から中性において水溶性である単量体と、該単量体と共重合可能な他の単量体とを構成単位とする共重合体であることを特徴とする腐食抑止用マイクロカプセル。
【請求項3】
請求項2において、前記重合体は、ビニルピリジン、スチレン、及びジビニルベンゼンを構成単位とする共重合体であることを特徴とする腐食抑止用マイクロカプセル。
【請求項4】
水系の金属の局部腐食の進行を抑止する方法において、該水系に請求項1ないし3のいずれか1項に記載の腐食抑止用マイクロカプセルを添加することを特徴とする水系の金属の腐食抑止方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−83454(P2006−83454A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271820(P2004−271820)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】