腐食箇所を有する鋼管部材の補強方法及び当該方法に使用する補強バンド
【課題】鋼管部材の腐食箇所を当該鋼管部材の外周からバンドで被覆して締め付けることにより当該鋼管部材の全周から中心に向かって押圧して、確実かつ容易に補強出来る、腐食箇所を有する鋼管部材の補強方法を提供する。
【解決手段】鋼管部材Bの腐食箇所を含む外周に、鋼管部材Bの外周形状に沿って湾曲した二つの板体1から成る補強バンドAを被せ、各板体1の隣接する板体1との突き合わせ端縁の外面上に、端縁に沿って間隔をあけて複数対のボルトホルダー2を端縁に略直角に設け、これらの各対のボルトホルダー2は夫々一定長のボルト穴を有し、相対向する各ボルト穴が相互に同一軸線上に位置するように設け、これらの各対のボルトホルダー2の各ボルト穴にボルト4を通してボルト4端部にナット5を螺着して締め付け、二つの板体1から成る補強バンドAを鋼管部材Bに固定する。
【解決手段】鋼管部材Bの腐食箇所を含む外周に、鋼管部材Bの外周形状に沿って湾曲した二つの板体1から成る補強バンドAを被せ、各板体1の隣接する板体1との突き合わせ端縁の外面上に、端縁に沿って間隔をあけて複数対のボルトホルダー2を端縁に略直角に設け、これらの各対のボルトホルダー2は夫々一定長のボルト穴を有し、相対向する各ボルト穴が相互に同一軸線上に位置するように設け、これらの各対のボルトホルダー2の各ボルト穴にボルト4を通してボルト4端部にナット5を螺着して締め付け、二つの板体1から成る補強バンドAを鋼管部材Bに固定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋼管部材を用いた鋼構造物、例えば、鉄塔等において、経年劣化等により、当該鋼管部材が腐食し、場合によっては、腐食により穴が開いた場合、当該腐食箇所を補強して、低下した鋼管部材の強度を健全な状態に回復させる、腐食箇所を有する鋼管部材の補強方法及び当該方法に使用する補強バンドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
主として鋼材を用いた構造物においては、長年の風雨等により鋼材が腐食して経年劣化するが、これを防止するために、又は少しでも劣化する時期を延ばすために防錆対策として、例えば、塗装やメッキを行なっている。
【0003】
これらの塗装やメッキの効果を維持するためには、定期的なメンテナンスを行うことが必要である。しかし鋼材の中でも鋼管部材は内部の点検が容易でないため、定期的なメンテナンスが行なわれていても、腐食を完全に防止することが困難である。
【0004】
鋼管部材が腐食し、そのまま進行すれば、腐食により穴が開き、強度が落ちる。構造物を形成している鋼管部材には、圧縮、引張、曲げ、せん断などの強大な荷重がかかっており、強度が落ちたままの鋼管部材をそのままの状態にしておくと、前記荷重に耐え切れなくなり当該鋼管部材が腐食箇所を起点として変形してしまい、構造物を崩壊に至らしめる危険がある。よって、この様な事態を招く前に何等かの手当てを施こすことが求められる。
【0005】
鋼管部材に圧縮のみの荷重、或いは圧縮と曲げの複合荷重が作用し、鋼管部材がこの荷重に耐え切れなくなると座屈する。腐食箇所を有する鋼管部材が座屈すると、図12に示すように、座屈箇所を含む鋼管部材の断面の一部が外側に膨らんだ状態となる。
【0006】
腐食した鋼管部材は新しいものに取り替えれば、元の強度が得られるが、構造上の問題や、又はコストの問題などで、新しい鋼管部材への取替えが不可能な場合がある。
【0007】
この様な場合に、特許文献1に示すように、現場で行なえる安価で簡便な鋼管部材構造物の座屈補強方法として、繊維材料を織り上げ等して成る帯状体から成る補強材を鋼管部材に巻きつけるという方法がある。さらに、特許文献2に示すように、鋼管部材杭の腐食劣化部の補強工法として、鋼管部材杭の腐食劣化部の上端及び下端位置に当該鋼管部材杭の全周にわたって上方リブと下方リブを設け、当該下方リブより下方にフランジを設け、前記鋼管部材杭より大径で、内面に前記上下のリブに対応する位置に1列又は2列のリブを設けた半割鋼管部材を半割り面で溶接して当該鋼管部材杭を囲む外套管を形成し、この外套管を下降させて前記フランジ上に載置し、鋼管部材杭と外套管の間にモルタルを充填するというものがある。
【特許文献1】特開2006−249885号公報
【特許文献2】特公平7−898号公報
【0008】
また、他の方法として、図13に示すような、補強バンドEを用いることが行なわれている。この補強バンドEは、プレート状の金属板21を、取り付ける鋼管部材Fのサイズに合わせて、曲げ加工により半円形状に形成し、この様な金属板21を2枚用意して、鋼管部材Fの腐食箇所22の外周を挟み込み、当該2枚の金属板21の両端の突片を重ねてこれらの上から夫々2つのアングル材23の一辺23aを当接させ、その上からボルト24とナット25で螺着して固定するというものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献1の方法は、現場で行える安価で簡単な座屈補強方法ではあるが、座屈予防方法であって、鋼管部材の全体を帯状体で巻き上げて、当該鋼管部材を全体的に補強するというものであり、腐食した箇所、又は腐食して穴が開いた箇所を重点的に補強すると言うものではない。
【0010】
また、前記特許文献2の方法は、港湾構造物に使用される鋼管部材杭の腐食劣化部の補強方法であり、この様な大々的な方法を、例えば、高所作業を伴う鉄塔に用いるのは、困難であるとともに、当該補強構造自体の重量が、構造物に対して著しい荷重増加をもたらす恐れがある。
【0011】
さらに、前記図13の補強バンドEの場合、鋼管部材Fの変形を抑えることを目的として、使用される金属板21が厚いものとなっている。この様に金属板21が厚いため、当該金属板21の曲げ状態が緩やかなものとなり、鋼管部材Fの両サイドに空間が出来ており、当該補強バンドEの内面が鋼管部材Fの外周面と接するのは、およそ70%と成っている。さらに、当該金属板21の曲面においても、鋼管部材Fの外周面との間に空隙が見られ、当該補強バンドEと鋼管部材Fとの密着性に欠けるものとなっている。
【0012】
これらの結果、当該補強バンドEを鋼管部材Fに取り付けてボルト24とナット25で締め付けると、補強バンドEと鋼管部材Fの接触する箇所だけにボルト24と平行方向に力が働く点接触となり、接触していない箇所が浮いた状態となってしまっている。そのため、当該補強バンドEを鋼管部材Fに取り付けた状態で、座屈試験を行なうと、補強バンドEと鋼管部材Fの接触していない部分、すなわち、鋼管部材Fの両サイドで鋼管部材Fの膨らみが発生してしまい(図13において、白矢印で示す)、強力にボルト24等で締め付けても強度の上昇が見込めない状態となっている。その結果、座屈を防ぐには不十分なものとなっている。
【0013】
この発明は、これらの点に鑑みて為されたもので、鋼管部材の腐食箇所を当該鋼管部材の外周からバンドで被覆して、これらの補強バンドを締め付けることにより当該鋼管部材の全周から中心に向かって押圧して、確実かつ容易に補強出来る、腐食箇所を有する鋼管部材の補強方法及び当該方法に使用する補強バンドを提供して前記課題を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1の発明は、腐食箇所を有する鋼管部材の補強方法において、当該鋼管部材の腐食箇所を含む外周に、当該鋼管部材の外周形状に略沿って湾曲又は折曲した複数の板体から成る補強バンドを被せ、当該各板体の隣接する板体との突き合わせ端縁の外面上に、当該端縁に沿って間隔をあけて複数対のボルトホルダーを前記端縁に略直角に設け、これらの各対のボルトホルダーは夫々一定長のボルト穴を有し、相対向する各ボルト穴が相互に同一軸線上に位置するように設け、これらの各対のボルトホルダーの各ボルト穴にボルトを通して当該ボルト端部にナットを螺着して締め付け、前記複数の板体から成る補強バンドを前記鋼管部材に固定する腐食箇所を有する鋼管部材の補強方法とした。
【0015】
請求項2の発明は、鋼管部材の腐食箇所を被う補強バンドにおいて、当該補強バンドは、被覆する鋼管部材の腐食箇所を含む外周を被う、当該鋼管部材の外周形状に略沿って湾曲又は折曲した複数の板体から成り、当該各板体の隣接する板体との突き合わせ端縁の外面上に、当該端縁に沿って間隔をあけて複数対のボルトホルダーを前記端縁に略直角に設け、これらの各対のボルトホルダーは夫々一定長のボルト穴を有し、相対向する各ボルト穴が相互に同一軸線上に位置するように設け、これらの各対のボルトホルダーの各ボルト穴にボルトを通して当該ボルト端部にナットを螺着する構成とし、各板体の被覆する鋼管部材の長手方向の長さは、少なくとも当該鋼管部材の外径の3倍以上とした腐食箇所を有する鋼管部材の補強バンドとした。
【0016】
請求項3の発明は、前記複数の各板体の厚さは、当該各板体を前記鋼管部材に当接させ、ボルトとナットにより締め付けて固定した際、当該各板体が前記ボルトとナットの締め付け力により当該鋼管部材の外周の外形状に追従出来る厚さとした前記請求項2に記載の腐食箇所を有する鋼管部材の補強バンドとした。
【発明の効果】
【0017】
請求項1及び2の各発明によれば、鋼管部材の腐食箇所に、略湾曲又は折曲した複数の各板体を相対向させて当該鋼管部材の略外周に並べて被覆し、同一軸線上に位置するボルトホルダーにボルトとナットで螺着して取り付けたので、当該補強バンドを、鋼管部材の外周をほぼ100%の割合で密着被覆することが出来、鋼管部材を全周から押圧して固定することが出来る。これにより、腐食箇所を有する鋼管部材であっても、確実かつ容易に、座屈に伴う部材の膨らみを抑止することが出来、低下した鋼管部材の強度をほぼ健全な状態に回復することが出来る。
【0018】
また、請求項2の発明によれば、前記板体は、少なくとも、前記鋼管部材の外径の3倍以上の長さを有することとしたので、腐食箇所及びその周囲における部材の変形を確実かつ強固に抑止することが出来、より高い補強効果を発揮させることが出来る。
【0019】
請求項3の発明によれば、前記複数の各板体の厚さは、当該各板体を前記鋼管部材に当接させ、ボルトとナットにより締め付けて固定した際、当該各板体が前記ボルトとナットの締め付け力により当該鋼管部材の外周の外形状に追従出来る厚さとしたので、例えば、鋼管部材が真円でなくても、補強バンドの各板体がその形状に追従出来、当該鋼管部材をほぼ全周から被覆することが出来、真円の鋼管部材の場合と同様の効果を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
腐食箇所を有する鋼管部材の補強方法において、当該鋼管部材の腐食箇所を含む外周に、当該鋼管部材の外周形状に略沿って湾曲又は折曲した複数の板体から成る補強バンドを被せ、当該各板体の隣接する板体との突き合わせ端縁の外面上に、当該端縁に沿って間隔をあけて複数対のボルトホルダーを前記端縁に略直角に設け、これらの各対のボルトホルダーは夫々一定長のボルト穴を有し、相対向する各ボルト穴が相互に同一軸線上に位置するように設け、これらの各対のボルトホルダーの各ボルト穴にボルトを通して当該ボルト端部にナットを螺着して締め付け、前記複数の板体から成る補強バンドを前記鋼管部材に固定した。
【0021】
これにより、確実かつ容易に、座屈に伴う部材の膨らみを抑止することが出来、腐食による断面欠損によって低下した鋼管部材の強度をほぼ健全な状態に回復することが出来る。
【実施例1】
【0022】
以下、この発明の実施例を図に基づいて説明する。
図1は、この発明の実施例の補強バンドAを使用して鋼管部材Bを補強している状態の一部断面側面図である。図2は、同補強バンドAの正面図である。図3は、同平面図である。図4は、同側面図である。
【0023】
図1、2、3及び図4は、この発明の、鋼管部材Bに取付ける補強バンドAを示す。この補強バンドAは、湾曲した板体1を二つ相対向させて合わせたものから成る。この板体1は、側面ほぼ半円弧形状で、正面から見て、被覆する鋼管部材Bの外径の約3倍の長さの長方形状で、後述するように、この補強バンドAを鋼管部材Bに取り付けた際、鋼管部材Bが変形していても、これらの変形に補強バンドAが追従出来る程度の厚さから成る。
【0024】
これらの各板体1の突き合わせ端縁の外面上に、一定長で略ブロック形状のボルトホルダー2を当該各端縁に直角に一定長のボルト穴2aを向けて、各端縁に沿って一定間隔で、溶接により設けている。
【0025】
これらの各ボルトホルダー2のボルト穴2aは、上記二つの各板体1を相対向させて当該各板体1の各端部を夫々突き合わせた際、相対向する他のボルトホルダー2のボルト穴2aと相互に同一軸線3上に位置するように複数対設けられている。
【0026】
次に、この補強バンドAを鋼管部材Bに取付ける。
図5は、この発明の実施例の補強バンドAを使用して鋼管部材Bを補強している状態の正面図である。図6は、同平面図である。
【0027】
これらの図5及び図6に示すように、鋼管部材Bの側面の腐食して穴Cが開いた箇所を中心にして、この補強バンドAの二つの板体1を相対向させて、鋼管部材Bの外周に被せる。そして、これらの二つの各板体1の相対向する各対のボルトホルダー2の一方からボルト4をそのボルト穴2a内及び他方のボルトホルダー2のボルト穴2a内に挿入し、当該他方のボルトホルダー2のボルト穴2aの他端から突出したボルト4の端部にナット5を螺着する。
【0028】
そして、各対のボルトホルダー2の各ナット5を締め付ける。これにより、補強バンドAは鋼管部材Bに取付けられる。
【0029】
この時、図4に示すように、補強バンドAのバンド締付部(ボルト4の軸線上)とバンド本体(板体1の端縁)との距離(L1)を極力短く出来たため、また、各ボルトホルダー2のボルト穴2aを一定長の長さを有するものとしたため、当該各ボルトホルダー2には、ボルト4締め付け時のボルトの締付力による曲げモーメントの作用が働き難いので、各ボルトホルダー2の溶接部2bのせん断力によって補強バンドAの強度が決定される。また、この補強バンドAの厚さは、この補強バンドAを鋼管部材Bに取り付けた際、鋼管部材Bが変形していても、これらの変形に補強バンドAが追従出来る程度の厚さであるので、鋼管部材Bのほぼ全周に難無く密着させることが出来る。
【0030】
これらの結果、図1に示すように、各ボルト4による締付力が効率よく各板体1に伝わり、各板体1から鋼管部材Bをほぼ全周から均一かつ強固に締め付けることが出来る。なお、図1では、ボルト4の締付力は上下からの太い矢印で示し、板体1から鋼管部材Bへの締付力は、鋼管部材Bの中心軸に向けられた矢印で示す。
【0031】
続いて、この補強バンドAの効果を確認する試験を行なった。
供試体は、サイズP89.1×3.2、材質STK400の鋼管部材とし、穴が無い健全な鋼管部材、人工的に穴をあけた鋼管部材、人工的に穴をあけた鋼管部材に前記補強バンドを取り付けて補強した鋼管部材を夫々用意した。補強バンドは、材質SS400、厚さ3.2mmの鋼板に曲げ加工を施して形成した。
【0032】
さらに、供試体及び補強バンドとしては、以下のものを用意した。
細長比(細長比=座屈長さ/断面二次半径)=40・80・160の3種類(供試体の長さに換算して、夫々122・243・486cm)。穴の大きさ=大(断面欠損率20%)・小(断面欠損率10%)の2種類(穴は円形状とした)。穴の位置(軸方向)=鋼管部材の中央・鋼管部材の端部の2種類。補強バンドの長さ=1D・3D・6D(Dは供試体の外径=89.1mm)。穴の位置(周方向)=X軸上(鋼管部材の両端に設けたU字継手スリットと直行する向き)・Y軸上(鋼管部材の両端に設けたU字継手スリットと平行な向き)の2種類。
【0033】
圧縮試験には、3,000kN長柱試験機を用い、軸方向の圧縮力を載荷して供試体を座屈させ、最大の圧縮力が載荷された点を座屈強度とした。圧縮力の載荷速度は30kN/分とした。供試体の両端部にはU字継手を設け、試験機に固定されたガセットプレートと前記U字継手を3本のボルトで締結した構造とした。
【0034】
【表1】
【0035】
前記表1は、この発明の実施例の補強バンドAを使用した鋼管部材の各種供試体の一覧表である。この表1のNo.8とNo.20は、実際に圧縮試験を行なわず、FEM解析で圧縮試験を行い、健全鋼管部材に対する強度低下率を算出した(穴あき鋼管部材と同時に健全鋼管部材のFEM解析も行った)。FEM解析には非線形構造解析プログラム「ADINA」を用い、シェル要素で供試体を模擬した。シェルの1辺の長さは2〜13mmとした。端部はU字継手と同様な挙動を示すナイフエッジを模擬した構造でモデル化した(図示省略)。材料特性はバイリニア型を用い、降伏応力度σyは供試体の材料引張試験で得た値、1次勾配は206kN/mm2、2次勾配は2.06kN/mm2とした。初期たわみの形状は正弦半波を用い、たわみの最大値は供試体の長さの1/2,000とした。
【0036】
図7は、前記表1における供試体No.1〜No.7の強度比を表したグラフ図である。この細長比=40、穴の大きさ=大の場合、前記図7に示す、前記No.1に対する、No.2〜7の比較であり、前記No.1の強度を1.000とした場合、補強バンドが無い前記No.2(前記健全鋼管部材に対する強度比、0.568)、No.4(強度比0.721)、No.6(強度比0.786)は、穴付近で局部座屈変形を起こし、座屈強度が低下していた。これに補強バンドを取り付けると、前記No.3は0.964、No.5は0.917、No.7は0.931の各強度比となり、穴付近の局部座屈変形が抑制され、座屈強度が健全部材近くまで回復した。
【0037】
図8は、前記表1における供試体No.1、No.8〜No.13の強度比を表したグラフ図である。この細長比=40、穴の大きさ=小の場合、前記図8に示す、No.1に対する、No.8〜13の比較であり、前記No.1の強度を1.000とした場合、穴が中央にあるNo.8は強度比0.807、補強バンドを取り付けることによって、No.10は強度比0.962となり、穴付近の局部座屈変形が抑制され、座屈強度が健全部材近くまで回復した。これは、補強バンドの長さが1DのNo.9(強度比0.953)であっても同じ傾向であった。穴が端部にあるNo.11(強度比0.907)は、穴付近の局部座屈変形よりも全体座屈変形の様相を示しており、穴付近に補強バンドを取り付けたNo.12(強度比0.933)、No.13(強度比0.920)では効果が見られなかった。
【0038】
図9は、前記表1における供試体No.14に対する、No.15〜No.19の強度比を表したグラフ図である。この細長比=80、穴の大きさ=大の場合、前記図9に示す、供試体No.14とNo.15〜19の比較であり、前記No.14の強度を1.000とした場合、穴が中央にあるNo.15の強度比0.667は、補強バンドを取り付けることによって、No.16では強度比が1.002となり、穴付近の局部座屈変形が抑制され、座屈強度が健全部材まで回復していた。補強バンドの長さを6DにしたNo.17では強度比が1.096となり、穴付近の局部座屈変形を抑制した上に、その後に現れる全体座屈変形も抑制するので、座屈強度は健全部材を上回っていた。
【0039】
図10は、前記表1における供試体No.14、No.20〜No.23の強度比を表したグラフ図である。この細長比=80、穴の大きさ=小の場合、前記図10に示す、供試体No.14に対する、No.20〜23の比較であり、前記No.14の強度を1.000とした場合、穴が中央にあるNo.20では強度比0.784であるが、補強バンドを取り付けることによって、No.21では強度比が1.065となり、穴付近の局部座屈変形が抑制され、座屈強度が健全部材まで回復していた。穴が端部にあるNo.22は強度比が1.086であるが、穴付近の局部座屈変形ではなく完全に全体座屈変形の様相を示しており、穴付近に補強バンドを取り付けたNo.23(強度比1.124)では効果は見られなかった。
【0040】
図11は、前記表1における供試体No.24、No.25〜No.27の強度比を表したグラフ図である。この細長比=160、穴の大きさ=大の場合、前記図11に示す、供試体No.24とNo.25〜27の比較であり、前記No.24の強度を1.000とした場合、細長比がこの程度まで大きくなったNo.25(強度比1.005)は、穴付近の局部座屈変形ではなく、完全に全体座屈変形の様相を示しており、No.26(強度比1.014)のように長さ3D程度の補強バンドを取り付けても効果は無かった。しかし、No.27(強度比1.112)のように長さ6D程度の補強バンドを取り付けると全体座屈変形を抑制する効果が現れるため、座屈強度は健全部材を上回っていた。
【0041】
以上のことから、穴あき鋼管部材の座屈強度は、穴付近の局部座屈変形と、全体座屈変形のいずれか影響の大きい方で決定されることが確認された。定性的には細長比が小さい領域は穴付近の局部座屈変形で、細長比が大きい領域は全体座屈変形で座屈強度が決定される。この発明の補強バンドは、前記穴付近の変形及び全体座屈変形を夫々抑制し、低下した強度を回復する効果があることが確認された。穴付近の局部座屈変形が優勢な時は、前記No.3(強度比0.964)、No.5(強度比0.917)及びNo.7(強度比0.931)等の様に、穴付近に穴を覆う程度の長さの補強バンドを取り付けることによって高い効果が得られることが確認された。また、全体座屈変形が優勢な時は、前記No.27(強度比1.112)の様に中央にある程度の長さの補強バンドを取り付けることによって高い効果が得られることが確認された。
【0042】
前記実施例においては、補強バンドAの長さを鋼管部材Bの外径の1倍、3倍又は6倍としているが、補強バンドAの長さとしては、これに限るものではなく、少なくとも腐食による穴Cを覆う程度の長さがあれば良いが、より効果的には鋼管部材Bの軸方向に、外径の3倍以上の長さがあれば良い。また、腐食による穴の長さが鋼管部材Bの外径よりも長い場合、当該穴の長さに、当該穴に隣接する前後に鋼管部材Bの外径の長さ分を夫々加えた長さとする。
【0043】
また、補強バンドAに取り付けるボルトホルダー2としてブロック形状としているが、ボルトホルダー2の形状は、これに限るものではなく、ボルト4による締付力を効率よく各板体1に伝達出来、鋼管部材Bを全周から締め付けられるものであれば良く、ボルトホルダー2の数量としては使用時に最適なものを採用すれば良い。
【0044】
また、鋼管部材Bに腐食により穴Cがあいた箇所に補強バンドAを取り付けて説明したが、もちろん穴があいていない場合にも使用できるもので、さらに、この場合、外側の腐食に限らず、鋼管部材Bの内側の腐食箇所にも使用することが出来るものである。さらに、補強バンドAとして、側面半円弧形状のものを使用したが、取り付ける鋼管部材の断面形状によっては折曲形状のものを使用する場合もある。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明の実施例の補強バンドを使用して鋼管部材を補強している状態の一部断面側面図である。
【図2】この発明の実施例の補強バンドの正面図である。
【図3】この発明の実施例の補強バンドの平面図である。
【図4】この発明の実施例の補強バンドの側面図である。
【図5】この発明の実施例の補強バンドを使用して鋼管部材を補強している状態の正面図である。
【図6】この発明の実施例の補強バンドを使用して鋼管部材を補強している状態の平面図である。
【図7】前記表1における供試体No.1に対するNo.2〜No.7の強度比を表したグラフ図である。
【図8】前記表1における供試体No.1に対するNo.8〜No.13の強度比を表したグラフ図である。
【図9】前記表1における供試体No.14に対するNo.15〜No.19の強度比を表したグラフ図である。
【図10】前記表1における供試体No.14に対するNo.20〜No.23の強度比を表したグラフ図である。
【図11】前記表1における供試体No.24に対するNo.25〜No.27の強度比を表したグラフ図である。
【図12】従来の鋼管部材に座屈が発生し、当該座屈箇所が外側に膨らんだ状態を示す概念図である。
【図13】従来の補強バンドを腐食箇所を有する鋼管部材に取り付け、これらをボルト及びナットで締め付けた際の力がかかる状態を表した概念図である。
【符号の説明】
【0046】
A 補強バンド B 鋼管部材
C 腐食による穴 D 鋼管部材
E 従来の補強バンド F 鋼管部材
1 板体 2 ボルトホルダー
2a ボルト穴
3 ボルトホルダーの同一軸線
4 ボルト 5 ナット
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋼管部材を用いた鋼構造物、例えば、鉄塔等において、経年劣化等により、当該鋼管部材が腐食し、場合によっては、腐食により穴が開いた場合、当該腐食箇所を補強して、低下した鋼管部材の強度を健全な状態に回復させる、腐食箇所を有する鋼管部材の補強方法及び当該方法に使用する補強バンドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
主として鋼材を用いた構造物においては、長年の風雨等により鋼材が腐食して経年劣化するが、これを防止するために、又は少しでも劣化する時期を延ばすために防錆対策として、例えば、塗装やメッキを行なっている。
【0003】
これらの塗装やメッキの効果を維持するためには、定期的なメンテナンスを行うことが必要である。しかし鋼材の中でも鋼管部材は内部の点検が容易でないため、定期的なメンテナンスが行なわれていても、腐食を完全に防止することが困難である。
【0004】
鋼管部材が腐食し、そのまま進行すれば、腐食により穴が開き、強度が落ちる。構造物を形成している鋼管部材には、圧縮、引張、曲げ、せん断などの強大な荷重がかかっており、強度が落ちたままの鋼管部材をそのままの状態にしておくと、前記荷重に耐え切れなくなり当該鋼管部材が腐食箇所を起点として変形してしまい、構造物を崩壊に至らしめる危険がある。よって、この様な事態を招く前に何等かの手当てを施こすことが求められる。
【0005】
鋼管部材に圧縮のみの荷重、或いは圧縮と曲げの複合荷重が作用し、鋼管部材がこの荷重に耐え切れなくなると座屈する。腐食箇所を有する鋼管部材が座屈すると、図12に示すように、座屈箇所を含む鋼管部材の断面の一部が外側に膨らんだ状態となる。
【0006】
腐食した鋼管部材は新しいものに取り替えれば、元の強度が得られるが、構造上の問題や、又はコストの問題などで、新しい鋼管部材への取替えが不可能な場合がある。
【0007】
この様な場合に、特許文献1に示すように、現場で行なえる安価で簡便な鋼管部材構造物の座屈補強方法として、繊維材料を織り上げ等して成る帯状体から成る補強材を鋼管部材に巻きつけるという方法がある。さらに、特許文献2に示すように、鋼管部材杭の腐食劣化部の補強工法として、鋼管部材杭の腐食劣化部の上端及び下端位置に当該鋼管部材杭の全周にわたって上方リブと下方リブを設け、当該下方リブより下方にフランジを設け、前記鋼管部材杭より大径で、内面に前記上下のリブに対応する位置に1列又は2列のリブを設けた半割鋼管部材を半割り面で溶接して当該鋼管部材杭を囲む外套管を形成し、この外套管を下降させて前記フランジ上に載置し、鋼管部材杭と外套管の間にモルタルを充填するというものがある。
【特許文献1】特開2006−249885号公報
【特許文献2】特公平7−898号公報
【0008】
また、他の方法として、図13に示すような、補強バンドEを用いることが行なわれている。この補強バンドEは、プレート状の金属板21を、取り付ける鋼管部材Fのサイズに合わせて、曲げ加工により半円形状に形成し、この様な金属板21を2枚用意して、鋼管部材Fの腐食箇所22の外周を挟み込み、当該2枚の金属板21の両端の突片を重ねてこれらの上から夫々2つのアングル材23の一辺23aを当接させ、その上からボルト24とナット25で螺着して固定するというものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献1の方法は、現場で行える安価で簡単な座屈補強方法ではあるが、座屈予防方法であって、鋼管部材の全体を帯状体で巻き上げて、当該鋼管部材を全体的に補強するというものであり、腐食した箇所、又は腐食して穴が開いた箇所を重点的に補強すると言うものではない。
【0010】
また、前記特許文献2の方法は、港湾構造物に使用される鋼管部材杭の腐食劣化部の補強方法であり、この様な大々的な方法を、例えば、高所作業を伴う鉄塔に用いるのは、困難であるとともに、当該補強構造自体の重量が、構造物に対して著しい荷重増加をもたらす恐れがある。
【0011】
さらに、前記図13の補強バンドEの場合、鋼管部材Fの変形を抑えることを目的として、使用される金属板21が厚いものとなっている。この様に金属板21が厚いため、当該金属板21の曲げ状態が緩やかなものとなり、鋼管部材Fの両サイドに空間が出来ており、当該補強バンドEの内面が鋼管部材Fの外周面と接するのは、およそ70%と成っている。さらに、当該金属板21の曲面においても、鋼管部材Fの外周面との間に空隙が見られ、当該補強バンドEと鋼管部材Fとの密着性に欠けるものとなっている。
【0012】
これらの結果、当該補強バンドEを鋼管部材Fに取り付けてボルト24とナット25で締め付けると、補強バンドEと鋼管部材Fの接触する箇所だけにボルト24と平行方向に力が働く点接触となり、接触していない箇所が浮いた状態となってしまっている。そのため、当該補強バンドEを鋼管部材Fに取り付けた状態で、座屈試験を行なうと、補強バンドEと鋼管部材Fの接触していない部分、すなわち、鋼管部材Fの両サイドで鋼管部材Fの膨らみが発生してしまい(図13において、白矢印で示す)、強力にボルト24等で締め付けても強度の上昇が見込めない状態となっている。その結果、座屈を防ぐには不十分なものとなっている。
【0013】
この発明は、これらの点に鑑みて為されたもので、鋼管部材の腐食箇所を当該鋼管部材の外周からバンドで被覆して、これらの補強バンドを締め付けることにより当該鋼管部材の全周から中心に向かって押圧して、確実かつ容易に補強出来る、腐食箇所を有する鋼管部材の補強方法及び当該方法に使用する補強バンドを提供して前記課題を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1の発明は、腐食箇所を有する鋼管部材の補強方法において、当該鋼管部材の腐食箇所を含む外周に、当該鋼管部材の外周形状に略沿って湾曲又は折曲した複数の板体から成る補強バンドを被せ、当該各板体の隣接する板体との突き合わせ端縁の外面上に、当該端縁に沿って間隔をあけて複数対のボルトホルダーを前記端縁に略直角に設け、これらの各対のボルトホルダーは夫々一定長のボルト穴を有し、相対向する各ボルト穴が相互に同一軸線上に位置するように設け、これらの各対のボルトホルダーの各ボルト穴にボルトを通して当該ボルト端部にナットを螺着して締め付け、前記複数の板体から成る補強バンドを前記鋼管部材に固定する腐食箇所を有する鋼管部材の補強方法とした。
【0015】
請求項2の発明は、鋼管部材の腐食箇所を被う補強バンドにおいて、当該補強バンドは、被覆する鋼管部材の腐食箇所を含む外周を被う、当該鋼管部材の外周形状に略沿って湾曲又は折曲した複数の板体から成り、当該各板体の隣接する板体との突き合わせ端縁の外面上に、当該端縁に沿って間隔をあけて複数対のボルトホルダーを前記端縁に略直角に設け、これらの各対のボルトホルダーは夫々一定長のボルト穴を有し、相対向する各ボルト穴が相互に同一軸線上に位置するように設け、これらの各対のボルトホルダーの各ボルト穴にボルトを通して当該ボルト端部にナットを螺着する構成とし、各板体の被覆する鋼管部材の長手方向の長さは、少なくとも当該鋼管部材の外径の3倍以上とした腐食箇所を有する鋼管部材の補強バンドとした。
【0016】
請求項3の発明は、前記複数の各板体の厚さは、当該各板体を前記鋼管部材に当接させ、ボルトとナットにより締め付けて固定した際、当該各板体が前記ボルトとナットの締め付け力により当該鋼管部材の外周の外形状に追従出来る厚さとした前記請求項2に記載の腐食箇所を有する鋼管部材の補強バンドとした。
【発明の効果】
【0017】
請求項1及び2の各発明によれば、鋼管部材の腐食箇所に、略湾曲又は折曲した複数の各板体を相対向させて当該鋼管部材の略外周に並べて被覆し、同一軸線上に位置するボルトホルダーにボルトとナットで螺着して取り付けたので、当該補強バンドを、鋼管部材の外周をほぼ100%の割合で密着被覆することが出来、鋼管部材を全周から押圧して固定することが出来る。これにより、腐食箇所を有する鋼管部材であっても、確実かつ容易に、座屈に伴う部材の膨らみを抑止することが出来、低下した鋼管部材の強度をほぼ健全な状態に回復することが出来る。
【0018】
また、請求項2の発明によれば、前記板体は、少なくとも、前記鋼管部材の外径の3倍以上の長さを有することとしたので、腐食箇所及びその周囲における部材の変形を確実かつ強固に抑止することが出来、より高い補強効果を発揮させることが出来る。
【0019】
請求項3の発明によれば、前記複数の各板体の厚さは、当該各板体を前記鋼管部材に当接させ、ボルトとナットにより締め付けて固定した際、当該各板体が前記ボルトとナットの締め付け力により当該鋼管部材の外周の外形状に追従出来る厚さとしたので、例えば、鋼管部材が真円でなくても、補強バンドの各板体がその形状に追従出来、当該鋼管部材をほぼ全周から被覆することが出来、真円の鋼管部材の場合と同様の効果を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
腐食箇所を有する鋼管部材の補強方法において、当該鋼管部材の腐食箇所を含む外周に、当該鋼管部材の外周形状に略沿って湾曲又は折曲した複数の板体から成る補強バンドを被せ、当該各板体の隣接する板体との突き合わせ端縁の外面上に、当該端縁に沿って間隔をあけて複数対のボルトホルダーを前記端縁に略直角に設け、これらの各対のボルトホルダーは夫々一定長のボルト穴を有し、相対向する各ボルト穴が相互に同一軸線上に位置するように設け、これらの各対のボルトホルダーの各ボルト穴にボルトを通して当該ボルト端部にナットを螺着して締め付け、前記複数の板体から成る補強バンドを前記鋼管部材に固定した。
【0021】
これにより、確実かつ容易に、座屈に伴う部材の膨らみを抑止することが出来、腐食による断面欠損によって低下した鋼管部材の強度をほぼ健全な状態に回復することが出来る。
【実施例1】
【0022】
以下、この発明の実施例を図に基づいて説明する。
図1は、この発明の実施例の補強バンドAを使用して鋼管部材Bを補強している状態の一部断面側面図である。図2は、同補強バンドAの正面図である。図3は、同平面図である。図4は、同側面図である。
【0023】
図1、2、3及び図4は、この発明の、鋼管部材Bに取付ける補強バンドAを示す。この補強バンドAは、湾曲した板体1を二つ相対向させて合わせたものから成る。この板体1は、側面ほぼ半円弧形状で、正面から見て、被覆する鋼管部材Bの外径の約3倍の長さの長方形状で、後述するように、この補強バンドAを鋼管部材Bに取り付けた際、鋼管部材Bが変形していても、これらの変形に補強バンドAが追従出来る程度の厚さから成る。
【0024】
これらの各板体1の突き合わせ端縁の外面上に、一定長で略ブロック形状のボルトホルダー2を当該各端縁に直角に一定長のボルト穴2aを向けて、各端縁に沿って一定間隔で、溶接により設けている。
【0025】
これらの各ボルトホルダー2のボルト穴2aは、上記二つの各板体1を相対向させて当該各板体1の各端部を夫々突き合わせた際、相対向する他のボルトホルダー2のボルト穴2aと相互に同一軸線3上に位置するように複数対設けられている。
【0026】
次に、この補強バンドAを鋼管部材Bに取付ける。
図5は、この発明の実施例の補強バンドAを使用して鋼管部材Bを補強している状態の正面図である。図6は、同平面図である。
【0027】
これらの図5及び図6に示すように、鋼管部材Bの側面の腐食して穴Cが開いた箇所を中心にして、この補強バンドAの二つの板体1を相対向させて、鋼管部材Bの外周に被せる。そして、これらの二つの各板体1の相対向する各対のボルトホルダー2の一方からボルト4をそのボルト穴2a内及び他方のボルトホルダー2のボルト穴2a内に挿入し、当該他方のボルトホルダー2のボルト穴2aの他端から突出したボルト4の端部にナット5を螺着する。
【0028】
そして、各対のボルトホルダー2の各ナット5を締め付ける。これにより、補強バンドAは鋼管部材Bに取付けられる。
【0029】
この時、図4に示すように、補強バンドAのバンド締付部(ボルト4の軸線上)とバンド本体(板体1の端縁)との距離(L1)を極力短く出来たため、また、各ボルトホルダー2のボルト穴2aを一定長の長さを有するものとしたため、当該各ボルトホルダー2には、ボルト4締め付け時のボルトの締付力による曲げモーメントの作用が働き難いので、各ボルトホルダー2の溶接部2bのせん断力によって補強バンドAの強度が決定される。また、この補強バンドAの厚さは、この補強バンドAを鋼管部材Bに取り付けた際、鋼管部材Bが変形していても、これらの変形に補強バンドAが追従出来る程度の厚さであるので、鋼管部材Bのほぼ全周に難無く密着させることが出来る。
【0030】
これらの結果、図1に示すように、各ボルト4による締付力が効率よく各板体1に伝わり、各板体1から鋼管部材Bをほぼ全周から均一かつ強固に締め付けることが出来る。なお、図1では、ボルト4の締付力は上下からの太い矢印で示し、板体1から鋼管部材Bへの締付力は、鋼管部材Bの中心軸に向けられた矢印で示す。
【0031】
続いて、この補強バンドAの効果を確認する試験を行なった。
供試体は、サイズP89.1×3.2、材質STK400の鋼管部材とし、穴が無い健全な鋼管部材、人工的に穴をあけた鋼管部材、人工的に穴をあけた鋼管部材に前記補強バンドを取り付けて補強した鋼管部材を夫々用意した。補強バンドは、材質SS400、厚さ3.2mmの鋼板に曲げ加工を施して形成した。
【0032】
さらに、供試体及び補強バンドとしては、以下のものを用意した。
細長比(細長比=座屈長さ/断面二次半径)=40・80・160の3種類(供試体の長さに換算して、夫々122・243・486cm)。穴の大きさ=大(断面欠損率20%)・小(断面欠損率10%)の2種類(穴は円形状とした)。穴の位置(軸方向)=鋼管部材の中央・鋼管部材の端部の2種類。補強バンドの長さ=1D・3D・6D(Dは供試体の外径=89.1mm)。穴の位置(周方向)=X軸上(鋼管部材の両端に設けたU字継手スリットと直行する向き)・Y軸上(鋼管部材の両端に設けたU字継手スリットと平行な向き)の2種類。
【0033】
圧縮試験には、3,000kN長柱試験機を用い、軸方向の圧縮力を載荷して供試体を座屈させ、最大の圧縮力が載荷された点を座屈強度とした。圧縮力の載荷速度は30kN/分とした。供試体の両端部にはU字継手を設け、試験機に固定されたガセットプレートと前記U字継手を3本のボルトで締結した構造とした。
【0034】
【表1】
【0035】
前記表1は、この発明の実施例の補強バンドAを使用した鋼管部材の各種供試体の一覧表である。この表1のNo.8とNo.20は、実際に圧縮試験を行なわず、FEM解析で圧縮試験を行い、健全鋼管部材に対する強度低下率を算出した(穴あき鋼管部材と同時に健全鋼管部材のFEM解析も行った)。FEM解析には非線形構造解析プログラム「ADINA」を用い、シェル要素で供試体を模擬した。シェルの1辺の長さは2〜13mmとした。端部はU字継手と同様な挙動を示すナイフエッジを模擬した構造でモデル化した(図示省略)。材料特性はバイリニア型を用い、降伏応力度σyは供試体の材料引張試験で得た値、1次勾配は206kN/mm2、2次勾配は2.06kN/mm2とした。初期たわみの形状は正弦半波を用い、たわみの最大値は供試体の長さの1/2,000とした。
【0036】
図7は、前記表1における供試体No.1〜No.7の強度比を表したグラフ図である。この細長比=40、穴の大きさ=大の場合、前記図7に示す、前記No.1に対する、No.2〜7の比較であり、前記No.1の強度を1.000とした場合、補強バンドが無い前記No.2(前記健全鋼管部材に対する強度比、0.568)、No.4(強度比0.721)、No.6(強度比0.786)は、穴付近で局部座屈変形を起こし、座屈強度が低下していた。これに補強バンドを取り付けると、前記No.3は0.964、No.5は0.917、No.7は0.931の各強度比となり、穴付近の局部座屈変形が抑制され、座屈強度が健全部材近くまで回復した。
【0037】
図8は、前記表1における供試体No.1、No.8〜No.13の強度比を表したグラフ図である。この細長比=40、穴の大きさ=小の場合、前記図8に示す、No.1に対する、No.8〜13の比較であり、前記No.1の強度を1.000とした場合、穴が中央にあるNo.8は強度比0.807、補強バンドを取り付けることによって、No.10は強度比0.962となり、穴付近の局部座屈変形が抑制され、座屈強度が健全部材近くまで回復した。これは、補強バンドの長さが1DのNo.9(強度比0.953)であっても同じ傾向であった。穴が端部にあるNo.11(強度比0.907)は、穴付近の局部座屈変形よりも全体座屈変形の様相を示しており、穴付近に補強バンドを取り付けたNo.12(強度比0.933)、No.13(強度比0.920)では効果が見られなかった。
【0038】
図9は、前記表1における供試体No.14に対する、No.15〜No.19の強度比を表したグラフ図である。この細長比=80、穴の大きさ=大の場合、前記図9に示す、供試体No.14とNo.15〜19の比較であり、前記No.14の強度を1.000とした場合、穴が中央にあるNo.15の強度比0.667は、補強バンドを取り付けることによって、No.16では強度比が1.002となり、穴付近の局部座屈変形が抑制され、座屈強度が健全部材まで回復していた。補強バンドの長さを6DにしたNo.17では強度比が1.096となり、穴付近の局部座屈変形を抑制した上に、その後に現れる全体座屈変形も抑制するので、座屈強度は健全部材を上回っていた。
【0039】
図10は、前記表1における供試体No.14、No.20〜No.23の強度比を表したグラフ図である。この細長比=80、穴の大きさ=小の場合、前記図10に示す、供試体No.14に対する、No.20〜23の比較であり、前記No.14の強度を1.000とした場合、穴が中央にあるNo.20では強度比0.784であるが、補強バンドを取り付けることによって、No.21では強度比が1.065となり、穴付近の局部座屈変形が抑制され、座屈強度が健全部材まで回復していた。穴が端部にあるNo.22は強度比が1.086であるが、穴付近の局部座屈変形ではなく完全に全体座屈変形の様相を示しており、穴付近に補強バンドを取り付けたNo.23(強度比1.124)では効果は見られなかった。
【0040】
図11は、前記表1における供試体No.24、No.25〜No.27の強度比を表したグラフ図である。この細長比=160、穴の大きさ=大の場合、前記図11に示す、供試体No.24とNo.25〜27の比較であり、前記No.24の強度を1.000とした場合、細長比がこの程度まで大きくなったNo.25(強度比1.005)は、穴付近の局部座屈変形ではなく、完全に全体座屈変形の様相を示しており、No.26(強度比1.014)のように長さ3D程度の補強バンドを取り付けても効果は無かった。しかし、No.27(強度比1.112)のように長さ6D程度の補強バンドを取り付けると全体座屈変形を抑制する効果が現れるため、座屈強度は健全部材を上回っていた。
【0041】
以上のことから、穴あき鋼管部材の座屈強度は、穴付近の局部座屈変形と、全体座屈変形のいずれか影響の大きい方で決定されることが確認された。定性的には細長比が小さい領域は穴付近の局部座屈変形で、細長比が大きい領域は全体座屈変形で座屈強度が決定される。この発明の補強バンドは、前記穴付近の変形及び全体座屈変形を夫々抑制し、低下した強度を回復する効果があることが確認された。穴付近の局部座屈変形が優勢な時は、前記No.3(強度比0.964)、No.5(強度比0.917)及びNo.7(強度比0.931)等の様に、穴付近に穴を覆う程度の長さの補強バンドを取り付けることによって高い効果が得られることが確認された。また、全体座屈変形が優勢な時は、前記No.27(強度比1.112)の様に中央にある程度の長さの補強バンドを取り付けることによって高い効果が得られることが確認された。
【0042】
前記実施例においては、補強バンドAの長さを鋼管部材Bの外径の1倍、3倍又は6倍としているが、補強バンドAの長さとしては、これに限るものではなく、少なくとも腐食による穴Cを覆う程度の長さがあれば良いが、より効果的には鋼管部材Bの軸方向に、外径の3倍以上の長さがあれば良い。また、腐食による穴の長さが鋼管部材Bの外径よりも長い場合、当該穴の長さに、当該穴に隣接する前後に鋼管部材Bの外径の長さ分を夫々加えた長さとする。
【0043】
また、補強バンドAに取り付けるボルトホルダー2としてブロック形状としているが、ボルトホルダー2の形状は、これに限るものではなく、ボルト4による締付力を効率よく各板体1に伝達出来、鋼管部材Bを全周から締め付けられるものであれば良く、ボルトホルダー2の数量としては使用時に最適なものを採用すれば良い。
【0044】
また、鋼管部材Bに腐食により穴Cがあいた箇所に補強バンドAを取り付けて説明したが、もちろん穴があいていない場合にも使用できるもので、さらに、この場合、外側の腐食に限らず、鋼管部材Bの内側の腐食箇所にも使用することが出来るものである。さらに、補強バンドAとして、側面半円弧形状のものを使用したが、取り付ける鋼管部材の断面形状によっては折曲形状のものを使用する場合もある。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明の実施例の補強バンドを使用して鋼管部材を補強している状態の一部断面側面図である。
【図2】この発明の実施例の補強バンドの正面図である。
【図3】この発明の実施例の補強バンドの平面図である。
【図4】この発明の実施例の補強バンドの側面図である。
【図5】この発明の実施例の補強バンドを使用して鋼管部材を補強している状態の正面図である。
【図6】この発明の実施例の補強バンドを使用して鋼管部材を補強している状態の平面図である。
【図7】前記表1における供試体No.1に対するNo.2〜No.7の強度比を表したグラフ図である。
【図8】前記表1における供試体No.1に対するNo.8〜No.13の強度比を表したグラフ図である。
【図9】前記表1における供試体No.14に対するNo.15〜No.19の強度比を表したグラフ図である。
【図10】前記表1における供試体No.14に対するNo.20〜No.23の強度比を表したグラフ図である。
【図11】前記表1における供試体No.24に対するNo.25〜No.27の強度比を表したグラフ図である。
【図12】従来の鋼管部材に座屈が発生し、当該座屈箇所が外側に膨らんだ状態を示す概念図である。
【図13】従来の補強バンドを腐食箇所を有する鋼管部材に取り付け、これらをボルト及びナットで締め付けた際の力がかかる状態を表した概念図である。
【符号の説明】
【0046】
A 補強バンド B 鋼管部材
C 腐食による穴 D 鋼管部材
E 従来の補強バンド F 鋼管部材
1 板体 2 ボルトホルダー
2a ボルト穴
3 ボルトホルダーの同一軸線
4 ボルト 5 ナット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食箇所を有する鋼管部材の補強方法において、
当該鋼管部材の腐食箇所を含む外周に、当該鋼管部材の外周形状に略沿って湾曲又は折曲した複数の板体から成る補強バンドを被せ、
当該各板体の隣接する板体との突き合わせ端縁の外面上に、当該端縁に沿って間隔をあけて複数対のボルトホルダーを前記端縁に略直角に設け、
これらの各対のボルトホルダーは夫々一定長のボルト穴を有し、相対向する各ボルト穴が相互に同一軸線上に位置するように設け、これらの各対のボルトホルダーの各ボルト穴にボルトを通して当該ボルト端部にナットを螺着して締め付け、前記複数の板体から成る補強バンドを前記鋼管部材に固定することを特徴とする、腐食箇所を有する鋼管部材の補強方法。
【請求項2】
鋼管部材の腐食箇所を被う補強バンドにおいて、
当該補強バンドは、被覆する鋼管部材の腐食箇所を含む外周を被う、当該鋼管部材の外周形状に略沿って湾曲又は折曲した複数の板体から成り、
当該各板体の隣接する板体との突き合わせ端縁の外面上に、当該端縁に沿って間隔をあけて複数対のボルトホルダーを前記端縁に略直角に設け、
これらの各対のボルトホルダーは夫々一定長のボルト穴を有し、相対向する各ボルト穴が相互に同一軸線上に位置するように設け、これらの各対のボルトホルダーの各ボルト穴にボルトを通して当該ボルト端部にナットを螺着する構成とし、
各板体の被覆する鋼管部材の長手方向の長さは、少なくとも当該鋼管部材の外径の3倍以上としたことを特徴とする、腐食箇所を有する鋼管部材の補強バンド。
【請求項3】
前記複数の各板体の厚さは、当該各板体を前記鋼管部材に当接させ、ボルトとナットにより締め付けて固定した際、当該各板体が前記ボルトとナットの締め付け力により当該鋼管部材の外周の外形状に追従出来る厚さとしたことを特徴とする、前記請求項2に記載の腐食箇所を有する鋼管部材の補強バンド。
【請求項1】
腐食箇所を有する鋼管部材の補強方法において、
当該鋼管部材の腐食箇所を含む外周に、当該鋼管部材の外周形状に略沿って湾曲又は折曲した複数の板体から成る補強バンドを被せ、
当該各板体の隣接する板体との突き合わせ端縁の外面上に、当該端縁に沿って間隔をあけて複数対のボルトホルダーを前記端縁に略直角に設け、
これらの各対のボルトホルダーは夫々一定長のボルト穴を有し、相対向する各ボルト穴が相互に同一軸線上に位置するように設け、これらの各対のボルトホルダーの各ボルト穴にボルトを通して当該ボルト端部にナットを螺着して締め付け、前記複数の板体から成る補強バンドを前記鋼管部材に固定することを特徴とする、腐食箇所を有する鋼管部材の補強方法。
【請求項2】
鋼管部材の腐食箇所を被う補強バンドにおいて、
当該補強バンドは、被覆する鋼管部材の腐食箇所を含む外周を被う、当該鋼管部材の外周形状に略沿って湾曲又は折曲した複数の板体から成り、
当該各板体の隣接する板体との突き合わせ端縁の外面上に、当該端縁に沿って間隔をあけて複数対のボルトホルダーを前記端縁に略直角に設け、
これらの各対のボルトホルダーは夫々一定長のボルト穴を有し、相対向する各ボルト穴が相互に同一軸線上に位置するように設け、これらの各対のボルトホルダーの各ボルト穴にボルトを通して当該ボルト端部にナットを螺着する構成とし、
各板体の被覆する鋼管部材の長手方向の長さは、少なくとも当該鋼管部材の外径の3倍以上としたことを特徴とする、腐食箇所を有する鋼管部材の補強バンド。
【請求項3】
前記複数の各板体の厚さは、当該各板体を前記鋼管部材に当接させ、ボルトとナットにより締め付けて固定した際、当該各板体が前記ボルトとナットの締め付け力により当該鋼管部材の外周の外形状に追従出来る厚さとしたことを特徴とする、前記請求項2に記載の腐食箇所を有する鋼管部材の補強バンド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−243173(P2009−243173A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91768(P2008−91768)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000225201)那須電機鉄工株式会社 (22)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000225201)那須電機鉄工株式会社 (22)
【Fターム(参考)】
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