説明

腐食試験装置及び腐食試験方法

【課題】実際の自然環境に近い環境によって試験対象物の耐食性を試験することができる腐食試験装置及び腐食試験方法を提供する。
【解決手段】腐食試験装置1は、試験対象物を搬送装置3によって搬送させながら腐食液と接触させるとともに、この試験対象物を乾燥させたり水と接触させたり凍結させたりして、試験対象物の耐食性を試験する。腐食液接触装置4は、試験対象物に腐食液を滴下又は噴霧し、乾燥装置5は試験対象物に熱風を吹き付けてこの試験対象物を乾燥させる。水接触装置6は、試験対象物に水を滴下又は噴霧し、照射装置7は赤外線又は紫外線などの光(電磁波)を照射する。凍結装置8は、試験対象物を冷却又は冷凍させ、設定装置9は試験条件及び/又は試験時間を設定するときに試験者によって操作される。制御装置11は、実際の自然環境と同一環境を再現するように各動作を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試験対象物の耐食性を試験する腐食試験装置及び腐食試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図8は、従来の腐食試験装置を概略的に示す構成図であり、図8(A)は塩水噴霧試験装置の構成図であり、図8(B)は液体浸漬試験装置の構成図である。
電気車などの鉄道車両の集電装置(パンタグラフ)が接触するトロリ線やこのトロリ線を支持する電車線金具などは、耐蝕性の材料を用いなければならない。このため、新しいトロリ線や電車線金具などを開発する場合には、塩水噴霧試験装置を用いた塩水噴霧試験方法(JIS Z 2371)や腐食溶液に浸した液体浸漬試験(材料が銅系材料のときにはJIS K 8085に規定するアンモニア水などを用いた時期割れ試験)などによって材料の評価をする必要がある。例えば、図8(A)に示す従来の塩水噴霧試験装置101は、試験対象物(試験片)Tを収容する容器102と、塩水L10を収容するタンク103と、塩水L10を噴霧するノズル104と、タンク103からノズル104に塩水L10を供給する配管105と、タンク103からノズル104に塩水L10を送出するポンプ106などを備えている。また、図8(B)に示す従来の液体浸漬試験装置201は、試験対象物(試験片)T及び液体L20を収容するタンク202を備えている。このような従来の腐食試験では、腐食判定がし易く、短時間に評価可能であり、設備が簡単であり、実際のフィールドと同じ結果であることなどの特性が要求されている。
【0003】
従来の環境再現システムは、対象となる場所の環境を測定する環境測定部と、この環境測定部が測定した環境測定データを記憶するデータ記憶部と、このデータ記憶部が記憶する環境測定データを読み出して対象となる場所の環境を再現する環境再現部などを備えている(例えば、特許文献1参照)。このような従来の環境再現システムでは、環境測定部の気温センサ、湿度センサ及び風速センサによって対象となる場所の気温、湿度及び風速を測定し、環境再現部の冷暖房装置、除加湿装置及びファンを動作させて環境測定部で測定された環境を再現している。
【0004】
【特許文献1】特開平4-367744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の環境再現システムでは、現地の自然環境を環境再現部で再現することができるが、再現可能な環境が温度や湿度などの気象状況に制限される。このため、従来の環境再現システムでは、腐食や凍結などの影響を受ける実際の自然環境に近い環境を高精度に再現することができない問題点がある。
【0006】
この発明の課題は、実際の自然環境に近い環境によって試験対象物の耐食性を試験することができる腐食試験装置及び腐食試験方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、試験対象物(T)の耐食性を試験する腐食試験装置であって、前記試験対象物と腐食液(L1)とを接触させる腐食液接触手段(4)と、前記試験対象物を凍結させる凍結手段(8)と、前記腐食液接触手段の動作及び前記凍結手段の動作を制御する制御手段(11)とを備える腐食試験装置(1)である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の腐食試験装置において、前記試験対象物と水(L2)とを接触させる水接触手段(6)を備え、前記制御手段は、前記水接触手段の動作を制御することを特徴とする腐食試験装置である。
【0009】
請求項3の発明は、試験対象物(T)の耐食性を試験する腐食試験装置であって、前記試験対象物と腐食液(L1)とを接触させる腐食液接触手段(4)と、前記試験対象物と水(L2)とを接触させる水接触手段(6)と、前記腐食液接触手段の動作及び前記水接触手段の動作を制御する制御手段(11)とを備える腐食試験装置(1)である。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の腐食試験装置において、前記試験対象物を乾燥させる乾燥手段(5)を備え、前記制御手段は、前記乾燥手段の動作を制御することを特徴とする腐食試験装置である。
【0011】
請求項5の発明は、請求項4に記載の腐食試験装置において、前記乾燥手段は、前記試験対象物を60〜100°Cで乾燥させることを特徴とする腐食試験装置である。
【0012】
請求項6の発明は、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の腐食試験装置において、前記試験対象物に光(L3)を照射する照射手段(7)を備え、前記制御手段は、前記照射手段の動作を制御することを特徴とする腐食試験装置である。
【0013】
請求項7の発明は、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の腐食試験装置において、前記制御手段は、実際の自然環境と同一環境を再現するように前記各動作を制御することを特徴とする腐食試験装置である。
【0014】
請求項8の発明は、請求項7に記載の腐食試験装置において、前記制御手段は、前記一年間の実際の自然環境を実際の時間よりも短時間に再現するように前記各動作を制御することを特徴とする腐食試験装置である。
【0015】
請求項9の発明は、試験対象物(T)の耐食性を試験する腐食試験方法であって、前記試験対象物と腐食液(L1)とを接触させる腐食液接触工程(#110,#150)と、前記腐食液接触工程後に前記試験対象物を凍結させる凍結工程(#160)とを含む腐食試験方法(#100)である。
【0016】
請求項10の発明は、請求項9に記載の腐食試験方法において、前記試験対象物と水(L2)とを接触させる水接触工程(#140)を含むことを特徴とする腐食試験方法である。
【0017】
請求項11の発明は、試験対象物(T)の耐食性を試験する腐食試験方法であって、前記試験対象物と腐食液(L1)とを接触させる腐食液接触工程(#110)と、前記腐食液接触工程後に前記試験対象物と水(L2)とを接触させる水接触工程(#140)とを含む腐食試験方法(#100)である。
【0018】
請求項12の発明は、請求項9から請求項11までのいずれか1項に記載の腐食試験方法において、前記腐食液接触工程後に前記試験対象物を乾燥させる乾燥工程(#120)を含むことを特徴とする腐食試験方法である。
【0019】
請求項13の発明は、請求項12に記載の腐食試験方法において、前記乾燥工程は、前記試験対象物を60〜100°Cで乾燥させる工程を含むことを特徴とする腐食試験方法である。
【0020】
請求項14の発明は、請求項12又は請求項13に記載の腐食試験方法において、前記乾燥工程後に前記試験対象物に光(L3)を照射する照射工程(#130)を含むことを特徴とする腐食試験方法である。
【0021】
請求項15の発明は、請求項9から請求項14までのいずれか1項に記載の腐食試験方法において、前記各工程は、実際の自然環境と同一環境になるように再現されることを特徴とする腐食試験方法である。
【0022】
請求項16の発明は、請求項15に記載の腐食試験方法において、前記各工程は、一年間の実際の自然環境が実際の時間よりも短時間で再現されることを特徴とする腐食試験方法である。
【発明の効果】
【0023】
この発明によると、実際の自然環境に近い環境によって試験対象物の耐食性を試験することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、この発明の実施形態に係る腐食試験装置の構成図である。図2は、この発明の実施形態に係る腐食試験装置の腐食液接触装置を概略的に示す構成図である。図3は、この発明の実施形態に係る腐食試験装置の乾燥装置を概略的に示す構成図である。図4は、この発明の実施形態に係る腐食試験装置の水接触装置を概略的に示す構成図である。図5は、この発明の実施形態に係る腐食試験装置の照射装置を概略的に示す構成図である。図6は、この発明の実施形態に係る腐食試験装置の凍結装置を概略的に示す構成図である。
【0025】
図2〜図6に示すに示す試験対象物Tは、腐食試験の対象となる試験片であり、例えばトロリ線又はこのトロリ線を支持する支持金具などである。試験対象物Tの材質は、例えば、銅又はアルミニウムなどの金属、プラスチックなどの合成樹脂である。
【0026】
図1〜図6に示す腐食試験装置1は、試験対象物Tの耐食性を試験する装置である。腐食試験装置1は、試験対象物Tを搬送装置3によって搬送させながら腐食液L1と接触させるとともに、この試験対象物Tを乾燥させたり水L2と接触させたり凍結させたりして試験対象物Tの耐食性を試験する。腐食試験装置1は、図1〜図6に示すように、収容装置2と、搬送装置3と、腐食液接触装置4と、乾燥装置5と、水接触装置6と、照射装置7と、凍結装置8と、設定装置9と、記憶装置10と、制御装置11などを備えている。
【0027】
図2〜図6に示す収容装置2は、試験対象物Tを収容する手段である。収容装置2は、外部の温度及び湿度などの環境による影響が試験対象物Tなどに作用しないように、この試験対象物Tを密閉して収容する容器などである。収容装置2は、図2に示すように、滴下後の腐食液L1を収容装置2の外部に排出する排出口2aと、図4に示すように噴霧後の水L2を収容装置2の外部に排出する排出口2bとを備えている。
【0028】
図2〜図6に示す搬送装置3は、試験対象物Tを搬送する手段である。搬送装置3は、図2〜図6に示すように、腐食液接触領域S1、乾燥領域S2、水接触領域S3、照射領域S4、凍結領域S5に試験対象物Tが位置するように、この試験対象物Tを間欠的に搬送してこの試験対象物Tを腐食させる。搬送装置3は、図2〜図6に示すように、搭載部3aと、駆動部3bと、位置検出部3cなどを備えている。搭載部3aは、試験対象物Tを搭載する部分であり、中心軸O回りに回転する円板状のテーブルである。駆動部3bは、搭載部3aを回転駆動する部分であり、搭載部3aを中心軸O回りに回転させる駆動力を発生するモータである。位置検出部3cは、搭載部3aの回転位置を検出する部分である。位置検出部3cは、中心軸Oを中心とする搭載部3aの回転角度及び/又は回転位置を検出するエンコーダであり、この検出結果を位置検出情報として制御装置11に出力する。
【0029】
図2に示す腐食液接触装置4は、試験対象物Tと腐食液L1とを接触させる手段であり、例えば試験対象物Tに腐食液L1を滴下する滴下装置である。腐食液接触装置4は、図2に示すように、収容部4aと、滴下部4bと、供給流路4cと、調整部4dなどを備えている。収容部4aは、腐食液L1を収容する部分であり、塩水、水酸化ナトリウム水溶液、硫酸銅水溶液又はアンモニア系水溶液などの腐食液L1を収容するタンクである。滴下部4bは、試験対象物Tに腐食液L1を滴下する部分であり、試験対象物Tの表面に向かって腐食液L1が所定の間隔(例えば、図2に示す滴下間隔Δ)をあけて落下するようにこの腐食液L1を排出する排出口(ノズル)である。供給流路4cは、収容部4aから滴下部4bに腐食液L1を供給する部分であり、収容部4aと滴下部4bとを接続し収容部4a内の腐食液L1を滴下部4bに導く配管である。調整部4dは、供給流路4c内の腐食液L1の流れを調整する部分であり、供給流路4cを開閉してこの供給流路4cの開度を調整するバルブ、又は供給流路4cを流れる腐食液L1の流量を調整して滴下部4bに腐食液L1を送出するポンプである。調整部4dは、例えば、海水が漏出する海底トンネル内などの自然環境を模擬するときには、腐食液L1の滴下量及び/又は滴下間隔を可変して試験対象物Tの表面に腐食液L1を滴下部4bから滴下させる。
【0030】
図3に示す乾燥装置5は、試験対象物Tを乾燥させる手段であり、例えば試験対象物Tに熱風を吹き付けてこの試験対象物Tを60〜100°Cで乾燥させる熱風乾燥機である。乾燥装置5は、図3に示すように、送風部5aと、加熱部5bと、整流部5cと、温度検出部5dなどを備えている。送風部5aは、気体を送出する部分であり、収容装置2の外部から空気を取り込み収容装置2の内部に排出するブロワ、圧縮機、ファンなどの送風機である。加熱部5bは、気体を加熱する部分であり、送風部5aが送出する空気を通過させながらこの空気を加熱するヒータである。整流部5cは、気体の流れを調整する部分であり、試験対象物Tに熱風が均一に当たるように、加熱部5bが加熱した空気の流れの向きを調整する整流板である。温度検出部5dは、試験対象物Tの温度を検出する部分である。温度検出部5dは、試験対象物Tの表面温度を検出する温度センサであり、この検出結果を温度情報として制御装置11に出力する。
【0031】
図4に示す水接触装置6は、試験対象物Tと水L2とを接触させる手段であり、例えば試験対象物Tに水L2を噴霧する噴霧装置である。水接触装置6は、図4に示すように、収容部6aと、ノズル部6bと、供給流路6cと、送出部6dなどを備えている。収容部6aは、水L2を収容する部分であり、真水、雨水又はイオン水などの水L2を収容するタンクである。ノズル部6bは、試験対象物Tに水L2を排出する部分であり、試験対象物Tの表面に向かって水L2を噴霧する排出口である。供給流路6cは、収容部6aからノズル部6bに水L2を供給する部分であり、収容部6aとノズル部6bとを接続し、収容部6a内の水L2をノズル部6bに導く配管である。送出部6dは、収容部6aからノズル部6bに水L2を送出する部分であり、上流側の供給流路6c内の水L2を圧縮して下流側の供給流路6cに排出するポンプである。送出部6dは、例えば、雨水を浴びる自然環境を模擬するときには、水L2の噴霧量を可変して試験対象物Tの表面に水L2をノズル部6bから噴霧させる。
【0032】
図5に示す照射装置7は、試験対象物Tに光L3を照射する手段であり、例えば赤外線又は紫外線などの光(電磁波)L3を照射する光照射装置である。照射装置7は、図5に示すように、発光部7aと、反射部7bと、駆動部7cと、光検出部7dなどを備えている。発光部7aは、光L3を放射する部分であり、紫外線を放射する紫外線照射用放電ランプなどの光源である。反射部7bは、発光部7aからの光L3を試験対象物Tに向けて反射する部分であり、発光部7aから等距離に配置された反射鏡などである。駆動部7cは、発光部7a及び反射部7bを駆動する部分である。駆動部7cは、発光部7a及び反射部7bを駆動するモータなどであり、発光部7a及び反射部7bと試験対象物Tとの間の距離を可変して試験対象物Tに照射する光L3の発光強度を調整する。光検出部7dは、試験対象物Tの表面の照度を検出する照度センサなどであり、この検出結果を照度情報として制御装置11に出力する。
【0033】
図6に示す凍結装置8は、試験対象物Tを凍結させる手段であり、例えば試験対象物Tを冷却又は冷凍させる冷凍装置である。凍結装置8は、図6に示すように、圧縮部8aと、凝縮部8bと、膨張部8cと、蒸発部8dと、流路8eと、温度検出部8fなどを備えている。圧縮部8aは、冷媒を圧縮する部分であり、流路8eを流れる低圧の冷媒を圧縮して排出する圧縮機などである。凝縮部8bは、冷媒を凝縮する部分であり、圧縮部8aから排出された気化状態の冷媒を収容装置2の外部の空気と熱交換させて液化状態の冷媒に凝縮する凝縮機などである。膨張部8cは、冷媒を膨張させる部分であり、凝縮部8bから排出された液化状態の冷媒を気化状態の冷媒に膨張させる膨張弁などである。蒸発部8dは、冷媒を蒸発させる部分であり、膨張部8cを通過した冷媒を収容装置2の内部の空気と熱交換させてこの収容装置2の内部を冷却する蒸発器などである。流路8eは、冷媒が流れる部分であり、圧縮部8aから凝縮部8b、膨張部8c及び蒸発部8dを通過して圧縮部8aに戻るまでを1サイクルとして冷媒が流れるようにこれらを接続している。温度検出部8fは、試験対象物Tの温度を検出する部分である。温度検出部8fは、試験対象物Tの表面温度を検出する温度センサなどであり、この検出結果を温度情報として制御装置11に出力する。
【0034】
図1に示す設定装置9は、腐食試験装置1の種々の動作を設定する手段である。設定装置9は、腐食試験の試験条件を設定するときに試験者によって操作される操作パネルなどである。設定装置9は、例えば、鉄道車両が走行する実際の海岸地域、山岳地域、積雪地域又は豪雪地域などの気象データや、これらの地域の一年間の時間を短縮した時間に基づいて試験条件を設定する。設定装置9は、腐食液接触工程、乾燥工程、水接触工程、照射工程又は凍結工程を任意に選択して組み合わせたり、これらの工程を任意の順序に設定したりする。設定装置9は、例えば、実際の対象物が配置される現場の一年間の実際の自然環境と同一環境を試験条件として設定する。設定装置9は、設定後の試験条件を試験条件情報として制御装置11に出力する。
【0035】
記憶装置10は、設定装置9によって設定された腐食試験の試験条件を記憶する手段である。記憶装置10は、例えば、腐食液接触工程、乾燥工程、水接触工程、照射工程又は凍結工程の各試験期間、乾燥工程又は凍結工程の温度、照射工程の発光強度などの試験条件を試験条件情報として記憶するメモリである。
【0036】
図1〜図6に示す制御装置11は、腐食試験装置1の種々の動作を制御する手段である。制御装置11は、搬送装置3、腐食液接触装置4、乾燥装置5、水接触装置6、照射装置7及び凍結装置8の動作を制御したり、実際の自然環境と同一環境を再現するように各動作を制御したりする。制御装置11は、例えば、図2〜図6に示す搬送装置3の位置検出部3cが出力する位置検出情報に基づいて搭載部3aの動作を制御したり、図2に示す腐食液接触装置4の調整部4dの動作を制御したり、図3に示す乾燥装置5の送風部5aの送付量及び加熱部5bの加熱温度を温度検出部5dが出力する温度情報に基づいて制御したり、図4に示す水接触装置6の送出部6dの送出量を制御したり、図5に示す照射装置7の光検出部7dが出力する照度情報に基づいて発光部7aの発光量及び駆動部7cの駆動量を制御したり、図6に示す凍結装置8の温度検出部8fが出力する温度情報に基づいて圧縮部8aの動作を制御したりする。また、制御装置11は、例えば、実際の対象物が配置される現場の一年間の実際の自然環境を実際の時間よりも短時間に再現するように各動作を制御する。
【0037】
次に、この発明の実施形態に係る腐食試験方法を説明する。
図7は、この発明の実施形態に係る腐食試験方法を一例として示す工程図である。以下では、ある現場の1年間のサイクル(春夏秋冬)を再現する場合を例に挙げて説明する。
図7に示す腐食試験方法#100は、図2〜図6に示す試験対象物Tの耐食性を試験する方法であり、腐食液接触工程#110と、乾燥工程#120と、照射工程#130と、水接触工程#130と、腐食液接触工程#140と、凍結工程#150と、腐食液接触工程#160などを含む。
【0038】
腐食液接触工程#110は、図2に示すように、試験対象物Tと腐食液L1とを接触させる工程である。腐食液L1の滴下量及び/又は滴下間隔などの試験条件を設定装置9によって試験者が設定すると、これらの試験条件が試験動作情報として設定装置9から制御装置11に出力されて、制御装置11が記憶装置10にこの試験動作情報を記憶させる。記憶装置10から制御装置11が試験動作情報を読み出して制御装置11が一連の腐食試験動作を実行する。図2に示す搭載部3a上に試験対象物Tが搭載されると、搬送装置3の駆動部3bの回転量を制御装置11が動作制御して、試験対象物Tが腐食液接触領域S1に位置するまで駆動部3bに搭載部3aの回転を指令する。試験対象物Tが腐食液接触領域S1に位置すると、腐食液接触装置4の調整部4dを制御装置11が動作制御して、所定の滴下量及び/又は滴下間隔で収容部4a内の腐食液L1が滴下部4bから試験対象物Tの表面に落下し、試験対象物Tと腐食液L1とが接触する。
【0039】
図7に示す乾燥工程#120は、試験対象物Tを乾燥させる工程である。腐食液接触工程#110において試験対象物Tに腐食液L1が所定時間だけ排出された後に、図3に示す駆動部3bの回転量を制御装置11が動作制御して、試験対象物Tが乾燥領域S2に位置するまで駆動部3bに搭載部3aの回転を指令する。次に、乾燥装置5の送風部5a及び加熱部5bを制御装置11が動作制御して、60〜100°C程度の高温の熱風によって試験対象物Tの表面が加熱され乾燥される。
【0040】
図7に示す照射工程#130は、試験対象物Tに光L3を照射する工程である。乾燥工程#120において試験対象物Tが所定時間だけ熱風乾燥された後に、図5に示す駆動部3bの回転量を制御装置11が動作制御して、試験対象物Tが照射領域S4に位置するまで駆動部3bに搭載部3aの回転を指令する。次に、照射装置7の発光部7a及び駆動部7cを制御装置11が動作制御して、試験対象物Tの表面に紫外線が照射される。
【0041】
図7に示す水接触工程#140は、試験対象物Tと水L2とを接触させる工程である。照射工程#150において試験対象物Tに所定時間だけ紫外線が照射された後に、図4に示す駆動部3bの回転量を制御装置11が動作制御して、試験対象物Tが水接触領域S3に位置するまで駆動部3bに搭載部3aの回転を指令する。次に、水接触装置6の送出部6dを制御装置11が動作制御して、収容部6a内の水L2がノズル部6bから試験対象物Tの表面に噴射されて、試験対象物Tと水L2とが接触する。
【0042】
図7に示す腐食液接触工程#150は、腐食液接触工程#110と同一の工程である。水接触工程#140において試験対象物Tに所定時間だけ水L2が噴霧された後に、図2に示すように試験対象物Tが腐食液接触領域S1に再度搬送されて、腐食液L1が滴下部4bから試験対象物Tの表面に落下し、試験対象物Tと腐食液L1とが接触する。
【0043】
図7に示す凍結工程#160は、試験対象物Tを凍結させる工程である。腐食液接触工程#150において試験対象物Tに所定時間だけ腐食液L1が排出された後に、図6に示す駆動部3bの回転量を制御装置11が動作制御して、試験対象物Tが凍結領域S5に位置するまで駆動部3bに搭載部3aの回転を指令する。次に、凍結装置8の圧縮部8aを制御装置11が動作制御して、収容装置2の内部を冷却して試験対象物Tを凍結させる。
【0044】
図7に示す腐食液接触工程#170は、腐食液接触工程#110,150と同一の工程である。凍結工程#160において試験対象物Tが所定時間だけ凍結された後に、図2に示すように試験対象物Tが腐食液接触領域S1に再度搬送されて、腐食液L1が滴下部4bから試験対象物Tの表面に落下し、試験対象物Tと腐食液L1とが接触し、一連の腐食試験が終了する。
【0045】
この発明の実施形態に係る腐食試験装置及び腐食試験方法には、以下に記載するような効果がある。
(1) この実施形態では、試験対象物Tと腐食液L1とを腐食液接触装置4が接触させるとともに、この試験対象物Tを凍結装置8が凍結させ、腐食液接触装置4の動作及び凍結装置8の動作を制御装置11が制御する。このため、例えば、春季や夏季に塩水を浴び冬季にこの海水が凍結するような自然環境に配置される材料の耐食性を試験することができる。また、腐食後の試験対象物Tに亀裂が発生してこの亀裂に腐食液や水が浸入したときに、凍結後にこの腐食液や水が膨張して試験対象物Tが破壊されるか否かを確認することができる。
【0046】
(2) この実施形態では、試験対象物Tと水L2とを水接触装置6が接触させ、この水接触装置6の動作を制御装置11が制御する。このため、例えば、塩水だけではなく夏季に雨が降るような自然環境に配置される材料の耐食性を試験することができる。
【0047】
(3) この実施形態では、試験対象物Tと腐食液L1とを腐食液接触装置4が接触させるとともに、この試験対象物Tと水L2とを水接触装置6が接触させ、腐食液接触装置4の動作及び水接触装置6の動作を制御装置11が制御する。このため、例えば、春季や夏季に塩水を浴び夏季に雨水を浴びる海岸付近などの自然環境に配置される材料の耐食性を試験することができる。
【0048】
(4) この実施形態では、試験対象物Tを乾燥装置5が乾燥させ、この乾燥装置5の動作を制御装置11が制御する。このため、例えば、塩水や雨水を浴びるだけではなく夏季の日差しの強い自然環境に配置される材料の耐食性を試験することができる。また、この実施形態では、乾燥装置5が試験対象物Tを60〜100°Cで乾燥させるため、炎天下の状況を簡単に再現して耐食性を試験することができる。
【0049】
(5) この実施形態では、試験対象物Tに光L3を照射装置7が照射し、この照射装置7の動作を制御装置11が制御する。このため、例えば、夏季の日差しの強い自然環境に配置される材料の耐食性を試験することができるとともに、紫外線や赤外線などを浴びる材料の耐候性を試験することができる。
【0050】
(6) この実施形態では、実際の自然環境と同一環境を再現するように制御装置11が各動作を制御する。このため、海岸付近や海底トンネル内などに配置される材料の耐食性を実際の自然環境に合わせて評価することができる。
【0051】
(7) この実施形態では、一年間の実際の自然環境を実際の時間よりも短時間に再現するように制御装置11が各動作を制御する。このため、実際の自然環境を模擬した腐食試験を短期間に効率的に実施することができる。
【0052】
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、腐食液接触装置4が滴下装置である場合を例に挙げて説明したが、試験対象物Tに腐食液L1を噴霧する噴霧装置、又は試験対象物Tを腐食液L1に浸漬する浸漬装置である場合についてもこの発明を適用することができる。同様に、水接触装置6が噴霧装置である場合を例に挙げて説明したが、試験対象物Tに水L2を滴下する滴下装置、又は試験対象物Tを水L2に浸漬する浸漬装置である場合についてもこの発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、図7に示すようなある現場の1年間のサイクル(春夏秋冬)を再現する場合を例に挙げて説明したが、各現場の状況に応じて各工程を任意に組み合わせて腐食試験することもできる。
【0053】
(2) この実施形態では、1つの試験対象物Tの耐食性を試験する場合を例に挙げて説明したが、耐食性の評価の基準となる基準用試験片と耐食性を評価する評価用試験片とを腐食させ、基準用試験片と評価用試験片とを比較して基準用試験片に対する評価用試験片の腐食度を判定することもできる。また、この実施形態では、搬送装置3が回転テーブル状である場合を例に挙げて説明したが、搬送装置がコンベヤ状である場合についてもこの発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、腐食液L1として塩水などを例に挙げて説明したが、試験期間を短縮するときには塩水以外の腐食性の強い任意の腐食液L1を選択することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】この発明の実施形態に係る腐食試験装置の構成図である。
【図2】この発明の実施形態に係る腐食試験装置の腐食液接触装置を概略的に示す構成図である。
【図3】この発明の実施形態に係る腐食試験装置の乾燥装置を概略的に示す構成図である。
【図4】この発明の実施形態に係る腐食試験装置の水接触装置を概略的に示す構成図である。
【図5】この発明の実施形態に係る腐食試験装置の照射装置を概略的に示す構成図である。
【図6】この発明の実施形態に係る腐食試験装置の凍結装置を概略的に示す構成図である。
【図7】この発明の実施形態に係る腐食試験方法を一例として示す工程図である。
【図8】従来の腐食試験装置を概略的に示す構成図であり、(A)は塩水噴霧試験装置の構成図であり、(B)は液体浸漬試験装置の構成図である。
【符号の説明】
【0055】
1 腐食試験装置
2 収容装置
3 搬送装置
4 腐食液接触装置
5 乾燥装置
6 水接触装置
7 照射装置
8 凍結装置
9 設定装置
10 記憶装置
11 制御装置
T 試験対象物
1 腐食液
2
3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験対象物の耐食性を試験する腐食試験装置であって、
前記試験対象物と腐食液とを接触させる腐食液接触手段と、
前記試験対象物を凍結させる凍結手段と、
前記腐食液接触手段の動作及び前記凍結手段の動作を制御する制御手段と、
を備える腐食試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の腐食試験装置において、
前記試験対象物と水とを接触させる水接触手段を備え、
前記制御手段は、前記水接触手段の動作を制御すること、
を特徴とする腐食試験装置。
【請求項3】
試験対象物の耐食性を試験する腐食試験装置であって、
前記試験対象物と腐食液とを接触させる腐食液接触手段と、
前記試験対象物と水とを接触させる水接触手段と、
前記腐食液接触手段の動作及び前記水接触手段の動作を制御する制御手段と、
を備える腐食試験装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の腐食試験装置において、
前記試験対象物を乾燥させる乾燥手段を備え、
前記制御手段は、前記乾燥手段の動作を制御すること、
を特徴とする腐食試験装置。
【請求項5】
請求項4に記載の腐食試験装置において、
前記乾燥手段は、前記試験対象物を60〜100°Cで乾燥させること、
を特徴とする腐食試験装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の腐食試験装置において、
前記試験対象物に光を照射する照射手段を備え、
前記制御手段は、前記照射手段の動作を制御すること、
を特徴とする腐食試験装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の腐食試験装置において、
前記制御手段は、実際の自然環境と同一環境を再現するように前記各動作を制御すること、
を特徴とする腐食試験装置。
【請求項8】
請求項7に記載の腐食試験装置において、
前記制御手段は、前記一年間の実際の自然環境を実際の時間よりも短時間に再現するように前記各動作を制御すること、
を特徴とする腐食試験装置。
【請求項9】
試験対象物の耐食性を試験する腐食試験方法であって、
前記試験対象物と腐食液とを接触させる腐食液接触工程と、
前記腐食液接触工程後に前記試験対象物を凍結させる凍結工程と、
を含む腐食試験方法。
【請求項10】
請求項9に記載の腐食試験方法において、
前記試験対象物と水とを接触させる水接触工程を含むこと、
を特徴とする腐食試験方法。
【請求項11】
試験対象物の耐食性を試験する腐食試験方法であって、
前記試験対象物と腐食液とを接触させる腐食液接触工程と、
前記腐食液接触工程後に前記試験対象物と水とを接触させる水接触工程と、
を含む腐食試験方法。
【請求項12】
請求項9から請求項11までのいずれか1項に記載の腐食試験方法において、
前記腐食液接触工程後に前記試験対象物を乾燥させる乾燥工程を含むこと、
を特徴とする腐食試験方法。
【請求項13】
請求項12に記載の腐食試験方法において、
前記乾燥工程は、前記試験対象物を60〜100°Cで乾燥させる工程を含むこと、
を特徴とする腐食試験方法。
【請求項14】
請求項12又は請求項13に記載の腐食試験方法において、
前記乾燥工程後に前記試験対象物に光を照射する照射工程を含むこと、
を特徴とする腐食試験方法。
【請求項15】
請求項9から請求項14までのいずれか1項に記載の腐食試験方法において、
前記各工程は、実際の自然環境と同一環境になるように再現されること、
を特徴とする腐食試験方法。
【請求項16】
請求項15に記載の腐食試験方法において、
前記各工程は、一年間の実際の自然環境が実際の時間よりも短時間で再現されること、
を特徴とする腐食試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−206017(P2007−206017A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−28109(P2006−28109)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】