説明

腐食部検出方法及び腐食部検出装置

【課題】コンクリート中の鉄筋などの目視不可能な箇所に存在する金属の腐食・劣化具合を非破壊で、しかも精度良く検出する腐食部検出方法及び腐食部検出装置を提供する。
【解決手段】本発明の腐食部検出装置は、被検査対象物中の金属の腐食を検出する腐食部検出装置であって、所定周波数の電磁波を発生する入射波発信部100と、該入射波発信部100で発生した所定周波数の電磁波を被検査対象物にあてる入射波発信用アンテナ部101と、被検査対象物から反射する反射波を受信する反射波受信用アンテナ部201と、該反射波受信用アンテナ部201で受信した反射波のうち該所定周波数の高調波を観測する反射波受信部200と、からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート中の鉄筋などの目視不可能な箇所に存在する金属の腐食・劣化具合を非破壊で、しかも精度良く検出する腐食部検出方法及び腐食部検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、腐食した埋設管等の腐食を検査する方法には決定的なものがなく、例えば配管ならば内部の水溶液の漏洩により兆候を発見して掘削することで目視確認することが基本であった。コンクリート内部のように簡単に掘削できない場合には(1)腐食電位を測定したり、(2)インピーダンスを測定したり、(3)静電容量を測定したり、(4)電流を流して発熱させて輻射の減少から測定したりする方法が提案されている。
【0003】
鉄筋コンクリートの腐食検知装置としては、例えば、特許文献1(特開2003−262631号公報)には、コンクリートの鉄筋腐食検知装置であって、コンクリート内の鉄筋と装置本体との接続が可能な長さに形成され、その一端が前記鉄筋に電気的に接続すると共に他端がコンクリート構造物の外部へ導出される腐食診断用導線を具備することを特徴とする鉄筋腐食検知装置が開示されている。
【特許文献1】特開2003−262631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のものは、鉄筋コンクリート中の鉄筋との電気的な接続を確保した上で腐食の検出を行わなければならない。すなわち、コンクリートを剥がさずに鉄筋コンクリート中の鉄筋との電気的な接続を確保することが可能である場合には、非破壊により腐食の検出を行うことができるが、コンクリートを剥がさなければ鉄筋との電気接続を確保できないようなこともあり得、このよう場合には完全な非破壊検査をすることができない、という問題があった。また、特許文献1に記載の方法では、確度が未だ十分ではないなど実用になっているとは言えない状況である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するものであって、請求項1に係る発明は、被検査対象物中の金属の腐食を検出する方法であって、所定周波数の電磁波を被検査対象物にあて、被検査対象物から反射する該所定周波数の高調波を観測することによって被検査対象物中の金属の腐食を検出する。
【0006】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の腐食部検出方法において、被検査対象物にあてる該所定周波数の電磁波の強度を変化させることによる、被検査対象物から反射する該高調波の強度変化を観測することによって被検査対象物中の金属の腐食を検出する。
【0007】
また、請求項3に係る発明は、請求項2に記載の腐食部検出方法において、該所定周波数の電磁波の強度と、被検査対象物から反射する該高調波の強度とが、直線関係にあるか否かで、被検査対象物中の金属の腐食を検出することを特徴とする。
【0008】
また、請求項4に係る発明は、被検査対象物中の金属の腐食を検出する腐食部検出装置であって、所定周波数の電磁波を発生する入射波発信部と、該入射波発信部で発生した所定周波数の電磁波を被検査対象物にあてる入射波発信用アンテナ部と、被検査対象物から反射する反射波を受信する反射波受信用アンテナ部と、該反射波受信用アンテナ部で受信した反射波のうち該所定周波数の高調波を観測する反射波受信部と、からなることを特徴とする。
【0009】
また、請求項5に係る発明は、請求項4に記載の腐食部検出装置において、該入射波発信部は発生する電磁波の強度を変化させることを特徴とする。
【0010】
また、請求項6に係る発明は、請求項5に記載の腐食部検出装置において、該所定周波数の電磁波の強度と、被検査対象物から反射する該高調波の強度とが、直線関係にあるか否かで、被検査対象物中の金属の腐食を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の腐食部検出方法及び腐食部検出装置によれば、所定周波数の電磁波を、強度を変えつつ被検査対象物にあてて、反射波のうち当該所定周波数の高調波の強度を観測するものであり、これにより、非破壊で確度の高い腐食部の検出を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の実施の形態に係る腐食部検出装置の構成の概要を示す図である。図1において、10は被検査対象物、20はコンクリート部、30は鉄筋部、40は鉄筋部30における腐食部をそれぞれ示している。なお、本明細書において、「腐食部」とは鉄などの金属のさびやさびに起因する構造変形、劣化などを含む。また、本発明はこのような腐食の進行具合を検出するのに有効な方法である。
【0013】
また、本発明の実施の形態に係る腐食部検出のためのセッティングとして、100は入射波発信部、101は入射波発信用アンテナ部、200は反射波受信部、201は反射波受信用アンテナ部をそれぞれ示している。
【0014】
本発明の腐食部検出装置の被検査対象物10は、例としてコンクリート部20中の鉄筋部30を想定しているが、このようなシチュエーションに限定されることはなく、土中や塗装下などに存在する目視不可能な鉄筋や配管などの検出も行い得るものである。また、本発明の腐食部検出方法及び腐食部検出装置は、建築業、土木業、機械工業、電機産業などへの応用が考えられる。
【0015】
入射波発信部100は、被検査対象物10にあてるための高周波の電磁波を発生するものであり、本実施形態では1GHzの電磁波を発生するものとなっている。入射波発信用アンテナ部101は、被検査対象物10に高周波をあてるためのアンテナであり、被検査対象物10に対して集中して電磁波をあてるため、また、被検査対象物10からの反射強度を増すため、また、被検査対象物10以外の箇所への電磁波の漏洩を避けるために設けられている。なお、入射波発信用アンテナ部101から出力される電磁波を、本明細書においては「入射波」として定義する。
【0016】
反射波受信用アンテナ部201は、入射波発信用アンテナ部101から発信され被検査対象物10で反射された電磁波を受信する。この受信側の反射波受信用アンテナ部201もできるたけ、漏洩する電磁波を少なくし、効率的に目的とする電磁波を受信するような構成とすることが好ましい。被検査対象物10で反射された電磁波は、本明細書においては「反射波」として定義する。反射波受信部200は、反射波受信用アンテナ部201で受信した電磁波のうち、入射波発信部100で発生された電磁波の高調波を検出して観測するものである。本実施形態では、反射波受信部200は、入射波発信部100で発信した電磁波の3倍の高調波である3GHzの電磁波を観測する。
【0017】
次に、以上のような構成の本発明の腐食部検出装置における腐食部40の検出方法について説明する。
【0018】
入射波発信部100では、1GHzの電磁波を発生して入射波発信用アンテナ部101に供給するが、この1GHzの電磁波のパワーを小さいパワー(10mW程度)から徐々に上げていく。被検査対象物10で反射された反射波(高調波成分)は反射波受信用アンテナ部201で受信して、その強度を反射波受信部200において観測する。
【0019】
入射波発信部100では、1GHzの小さい強度(10mW程度)から大きい強度(10W程度)までの電磁波を発生させる。このような、パワーの異なる電磁波を入射波発信用アンテナ部101によって被検査対象物10にあてる。被検査対象物10からの反射波は反射波受信用アンテナ部201で捕捉され、反射波受信部200では3GHz成分の電磁波の強度を観測する。
【0020】
このようにして得られた入射波と反射波の関係を図2に示す。図2において、横軸は入射波の1GHz成分の強度を、また縦軸は反射波の3GHz成分の強度を示している。図2からも分かるように、被検査対象物10に腐食部40がない場合は直線上にのるが、被検査対象物10に腐食部40が存在する場合は直線上にのらずに、腐食部が存在しない時より反射波の高調波成分が強くなっている。本発明は、このような観測結果を基にして、被検査対象物10の鉄筋部30に錆などの腐食部40が存在する否かを検出するものである。
【0021】
本発明の以上のような検出装置・検出方法によれば、非破壊で、コンクリート部20中の鉄筋部30に錆などの腐食部40があるかないかを検出することができる。
【0022】
図2の結果によれば、入射波の1GHz成分の強度をx、反射波の3GHz成分の強度をyとすると、被検査対象物10の鉄筋部30に錆などの腐食部40が存在しない場合には、入射の強度が低い範囲内で求められた1次回帰式、
y=ax+b (ただし、a、bは定数) (1)
の関係が入射波の強度が高くなっても同じa,bの1次式に対して成立することが予想される。
【0023】
一方、被検査対象物10の鉄筋部30に錆などの腐食部40が存在する場合には、入射波の強度が低い範囲で求められた式(1)のa,bに対し、入射波の強度が高くなると、
y>ax+b (ただし、a、bは定数) (2)
となることが考えられる。
【0024】
このように、本発明によれば、所定周波数の電磁波を、強度を変えつつ被検査対象物10にあてて、反射波のうち当該所定周波数の高調波の強度を観測するものであり、このことにより、非破壊で確度の高い腐食部の検出を行うことが可能となる。
【0025】
次に本発明の他の実施形態について説明する。図3は本発明の他の実施の形態に係る腐食部検出装置の構成の概要を示す図である。図3において、10は被検査対象物、20はコンクリート部、30は鉄筋部、40は鉄筋部30における腐食部をそれぞれ示している。また、図3において、300は腐食部検出装置、301はアンテナ部、302は入射波発信部、303は反射波受信部、304は表示部をそれぞれ示している。
【0026】
他の実施形態の腐食部検出装置300は、本発明の腐食部検出に用いるための基本的な構成であるアンテナ部301、入射波発信部302、反射波受信部303、表示部304が略一体的になったものである。なお、「入射波」や「反射波」の定義は先の実施形態と同様のものである。
【0027】
入射波発信部302は、被検査対象物10にあてるための高周波の電磁波を発生するものであり、本実施形態では1GHzの電磁波を発生するものとなっている。
【0028】
アンテナ部301は、被検査対象物10に高周波をあてるためのアンテナであり、かつ、被検査対象物10で反射された電磁波を受信する。本実施形態では、アンテナ部301が発信受信用で一体となっているために、被検査対象物10に対して集中して電磁波をあてることができ、かつ被検査対象物10以外の箇所への電磁波の漏洩を避け、効率的に反射波の受信を行うことができる。
【0029】
反射波受信部303は、アンテナ部301で受信した電磁波のうち、入射波発信部302で発生された電磁波の高調波を検出して観測するものである。本実施形態では、反射波受信部303は、入射波発信部302で発信した電磁波の3倍の高調波である3GHzの電磁波を観測する。
【0030】
表示部304は、腐食部検出装置300によって実施した検出結果を表示するユーザーインターフェイス装置であり、例えば液晶パネルなどからなる。このような表示部304に表示させる画面例としては、入射波の1GHz成分の強度と、反射波の3GHz成分の強度との関係を示したものなどが挙げられる。
【0031】
次に、他の実施形態による腐食部40の検出方法について説明する。入射波発信部302では、1GHzの電磁波を発生してアンテナ部301に供給するが、この1GHzの電磁波のパワーを小さいパワー(10mW程度)から徐々に上げていく。被検査対象物10で反射された反射波(高調波成分)はアンテナ部301で受信して、その強度を反射波受信部303において観測する。
【0032】
入射波発信部302では、1GHzの小さい強度(10mW程度)から大きい強度(10W程度)までの電磁波を発生させる。このような、パワーの異なる電磁波をアンテナ部301によって被検査対象物10にあてる。被検査対象物10からの反射波はアンテナ部301で捕捉され、反射波受信部303では3GHz成分の電磁波の強度を観測する。このようにして観測された結果は表示部304で表示する。検査対象物10の鉄筋部30に錆などの腐食部40が存在する否かの判定する方法については先の実施形態と同様である。
【0033】
このような他の実施形態によっても、所定周波数の電磁波を、強度を変えつつ被検査対象物10にあてて、反射波のうち当該所定周波数の高調波の強度を観測するものであり、このことにより、非破壊で確度の高い腐食部の検出を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態に係る腐食部検出装置の構成の概要を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る腐食部検出方法で観測される入射波と反射波の関係を示す図である。
【図3】本発明の他の実施の形態に係る腐食部検出装置の構成の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
10・・・被検査対象物、20・・・コンクリート部、30・・・鉄筋部、40・・・鉄筋部30における腐食部、100・・・入射波発信部、101・・・入射波発信用アンテナ部、200・・・反射波受信部、201・・・反射波受信用アンテナ部、300・・・腐食部検出装置、301・・・アンテナ部、302・・・入射波発信部、303・・・反射波受信部、304・・・表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査対象物中の金属の腐食を検出する方法であって、
所定周波数の電磁波を被検査対象物にあて、被検査対象物から反射する該所定周波数の高調波を観測することによって被検査対象物中の金属の腐食を検出する腐食部検出方法。
【請求項2】
被検査対象物にあてる該所定周波数の電磁波の強度を変化させることによる、被検査対象物から反射する該高調波の強度変化を観測することによって被検査対象物中の金属の腐食を検出する請求項1に記載の腐食部検出方法。
【請求項3】
該所定周波数の電磁波の強度と、被検査対象物から反射する該高調波の強度とが、直線関係にあるか否かで、被検査対象物中の金属の腐食を検出することを特徴とする請求項2に記載の腐食部検出方法。
【請求項4】
被検査対象物中の金属の腐食を検出する腐食部検出装置であって、
所定周波数の電磁波を発生する入射波発信部と、
該入射波発信部で発生した所定周波数の電磁波を被検査対象物にあてる入射波発信用アンテナ部と、
被検査対象物から反射する反射波を受信する反射波受信用アンテナ部と、
該反射波受信用アンテナ部で受信した反射波のうち該所定周波数の高調波を観測する反射波受信部と、からなることを特徴とする腐食部検出装置。
【請求項5】
該入射波発信部は発生する電磁波の強度を変化させることを特徴とする請求項4に記載の腐食部検出装置。
【請求項6】
該所定周波数の電磁波の強度と、被検査対象物から反射する該高調波の強度とが、直線関係にあるか否かで、被検査対象物中の金属の腐食を検出することを特徴とする請求項5に記載の腐食部検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−298658(P2008−298658A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146398(P2007−146398)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】