説明

腫瘍を処置するための組成物およびその製造方法

【課題】腫瘍細胞に対する高い選択性を有しかつ副作用が小さい抗癌剤を実現する。
【解決手段】極性溶媒を用いてヤナギから抽出された抽出物を含有する、腫瘍を処置するための医薬組成物であって、ヤナギは、Kogome-Yanagi、Ezonokinu-Yanagi、Inukori-Yanagi、Tachi-Yanagi、Shidare-Yanagi、Neko-Yanagi、Shiro-Yanagi、Yoshino-Yanagi、Ootachi-Yanagi、またはOnoe-Yanagiである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍を処置するための組成物およびその製造方法に関するものであり、より詳細には、植物に含まれる物質を主成分とする抗癌剤およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、腫瘍に対する治療法としては、1)腫瘍の外科的な摘出;放射線により生物学的損傷を与える治療法、2)抗癌剤を用いた化学療法、3)抗腫瘍効果を発揮する物質などを発現するDNAを組み込んだベクターを用いる遺伝子治療、4)弱毒化および/または改変したウイルスを接種し、選択的に腫瘍細胞を傷害する方法、などが知られている。
【0003】
腫瘍に対する実際の治療では、これらを組み合わせて行われることが一般的であり、例えば、外科的摘出後に抗癌剤を用いるケース、放射線治療後に抗癌剤を用いるケースなどが挙げられる。
【0004】
従来の化学合成によって開発された抗癌剤は、「抗腫瘍効果が高い場合には副作用が大きくなり、副作用が小さい場合には抗腫瘍効果が低くなる」というものが一般的である。つまり、化学合成された抗癌剤は、一般的に副作用が大きいという欠点を有している。このため、このような欠点を有さない、腫瘍に対する治療薬の開発が望まれている。
【0005】
近年、高い抗癌作用を有しかつ深刻な副作用を引き起こさない物質として、植物由来の天然成分が注目されている。例えば、ブドウ由来のResveratrolが、癌の発生、促進および進行をインビトロで阻害するとともに、さらにマウスの乳房において、腫瘍発生の前段階における病変の拡大に関与する細胞内でのプロセスを阻害することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
ヤナギ(Salix属safsaf種)は、種々の作用(例えば、抗菌活性、抗真菌活性、抗ウイルス活性、および抗寄生虫活性)を有する生理活性物質を含んでいる。近年、ヤナギの葉から水で抽出して得られた抽出物が、インビトロで白血病細胞を殺傷するという報告がなされている(非特許文献2参照)。非特許文献2によれば、上記抽出物に含まれるサリシンが、白血病細胞を殺傷する効果の主成分である。
【0007】
また、本願発明者らによっても、ヤナギの葉の抽出物が、固形腫瘍に対して抗腫瘍作用を示すことが明らかになっている(例えば、特許文献1および非特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2008−44905号公報(公開日:平成20年2月28日)
【非特許文献1】Science 275: 218−220 (1997)
【非特許文献2】Journal of Biochemistry and Molecular Biology 36 (4): 387−389 (2003)
【非特許文献3】P L o S O N E Issue1, e 178: 1−5 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、現在のところ、高い抗癌作用を有しかつ副作用が小さい抗癌剤開発が十分には進んでいない。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、腫瘍に対して高い抗癌作用を有しかつ副作用が小さい抗癌剤を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の医薬組成物は、上記課題を解決するために、極性溶媒を用いてヤナギから抽出された抽出物を含有する、腫瘍を処置するための医薬組成物であって、前記ヤナギは、Kogome-Yanagi、Ezonokinu-Yanagi、Inukori-Yanagi、Tachi-Yanagi、Shidare-Yanagi、Neko-Yanagi、Shiro-Yanagi、Yoshino-Yanagi、Ootachi-Yanagi、またはOnoe-Yanagiであることを特徴としている。
【0011】
本発明の医薬組成物では、前記抽出物は、前記ヤナギの若葉、成熟葉、茎または根から抽出されたものであることが好ましい。
【0012】
本発明の医薬組成物では、前記極性溶媒が水であることが好ましい。
【0013】
本発明の医薬組成物では、前記腫瘍は、膀胱癌、腎癌、皮膚扁平上皮癌、頭頚部癌、肺癌、消化管腫瘍、神経膠腫、中皮腫、または白血病であることが好ましい。
【0014】
本発明の医薬組成物は、経口投与形態であることが好ましい。
【0015】
本発明の医薬の製造方法は、上記課題を解決するために、極性溶媒を用いてヤナギから抽出された抽出物を得る工程を包含する、腫瘍を処置するための医薬の製造方法であって、前記ヤナギは、Kogome-Yanagi、Ezonokinu-Yanagi、Inukori-Yanagi、Tachi-Yanagi、Shidare-Yanagi、Neko-Yanagi、Shiro-Yanagi、Yoshino-Yanagi、Ootachi-Yanagi、またはOnoe-Yanagiであることを特徴としている。
【0016】
本発明の医薬の製造方法では、前記抽出物は、前記ヤナギの若葉、成熟葉、茎または根から抽出されたものであることが好ましい。
【0017】
本発明の医薬の製造方法では、前記極性溶媒が水であることが好ましい。
【0018】
本発明の医薬の製造方法では、前記腫瘍は、膀胱癌、腎癌、皮膚扁平上皮癌、頭頚部癌、肺癌、消化管腫瘍、神経膠腫、中皮腫、または白血病であることが好ましい。
【0019】
本発明の医薬組成物は、上記課題を解決するために、極性溶媒を用いてヤナギの根から抽出された抽出物を含有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明を用いれば、副作用を生じさせることなく患者の腫瘍を処置することができる。また、本発明を用いれば、腫瘍に対して高い抗癌作用を有しかつ副作用が小さい医薬を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(1.医薬組成物、およびその製造方法)
本実施の形態の医薬組成物は、極性溶媒を用いてヤナギから抽出された抽出物を含有するものであって、腫瘍の処置に用いられるものである。なお、本明細書中で使用される場合、用語「ヤナギ抽出物」は「ヤナギから極性溶媒を用いて抽出された抽出物」であることが意図され、「極性溶媒を用いて抽出してヤナギから得られた抽出物」または「極性溶媒を用いてヤナギから抽出された抽出物」と交換可能に使用される。以下に、本実施の形態の医薬組成物およびその製造方法について説明する。
【0022】
本発明において使用されるヤナギとしては特に限定されず、適宜公知のヤナギを用いることが可能である。例えば、ヤナギとしてはSalicaceae科に属する植物でることが好ましく、Salix属に属する植物であることが更に好ましく、safsaf種に属する植物であることが最も好ましい。ヤナギは、野生種のものであってもよいが、人工的に培養されたものが使用されてもよい。
【0023】
更に具体的には、ヤナギとしては、Kogome-Yanagi(S. serissaefolia Kimura)、Ezonokinu-Yanagi(S. pet-susu Kimura)、Inukori-Yanagi(S. integra Thunb. ex Murray)、Tachi-Yanagi(S. subfragilis Anderss.)、Shidare-Yanagi(S. babylonica L. var. lavallei Dode)、Neko-Yanagi(S. gracilistyla Miquel)、Shiro-Yanagi(S. jessoensis Seemen)、Yoshino-Yanagi(S. yoshinoi Koidz)、Ootachi-Yanagi(S. pierotii Miquel)、または、Onoe-Yanagi(S. sachalinenss Fr. Schmidt)を用いることが好ましい。
【0024】
また、抽出物を抽出するためのヤナギの部位としては特に限定されない。例えば、上記ヤナギの部位としては、ヤナギの若葉、成熟葉、茎、または根を用いることが好ましい。なお、本明細書において「若葉」とは、生え出て面積を拡大中の葉を意図し、具体的には生え出てから5日までの葉を意図する。また、本明細書において「成熟葉」とは、上述した若葉よりも、生え出てから時間が経過している葉を意図し、具体的には、生え出てから5日以降の葉を意図する。
【0025】
後述する実施例にて明示しているが、用いるヤナギの部位によって、抗腫瘍作用を示す機構が異なると考えられる。例えば、「若葉」、「成熟葉」または「茎」を用いて医薬組成物を作製すれば、当該医薬組成物は、主としてアポトーシスに基づいて抗腫瘍作用を示すと考えられる。一方、「根」を用いて医薬組成物を作製すれば、当該医薬組成物は、主として癌細胞から正常細胞への再分化に基づいて抗腫瘍作用を示すと考えられる。したがって、生体への副作用を更に軽減するためには、ヤナギの部位としては「根」を用いることが好ましい。
【0026】
また、ヤナギは、窒素に富んだ条件下、または窒素が欠乏した条件下で生育させられることが好ましい。なお、ヤナギを窒素に富んだ条件下で生育させるか、または窒素が欠乏した条件下で生育させるかに関しては、医薬組成物の製造に用いるヤナギの種類およびヤナギの部位に応じて選択すればよい。例えば、Kogome-Yanagiの若葉を用いて医薬組成物を作製する場合には、窒素が欠乏した条件下でヤナギを生育させることが好ましい。また、Ezonokinu-Yanagiの若葉を用いて医薬組成物を作製する場合には、窒素に富んだ条件下でヤナギを生育させることが好ましい。上記構成によれば、主として癌細胞から正常細胞への再分化に基づいて抗腫瘍作用を示す医薬組成物を作製することができる。
【0027】
なお、窒素に富んだ条件とは特に限定されないが、例えば、好ましくは3mM以上、更に好ましくは5mM以上、最も好ましくは10mM以上の窒素濃度(例えば、硝酸としての窒素濃度)の水溶液を1個体あたり毎日0.5L以上潅水することによって、窒素に富んだ条件を実現することができる。一方、窒素が欠乏した条件とは特に限定されないが、例えば、0mMの窒素濃度(例えば、硝酸としての窒素濃度)の水溶液を個体に与えることによって、窒素が欠乏した条件を実現することができる。
【0028】
抽出に用いる極性溶媒としては特に限定されない。例えば、水、アルコール水溶液(例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなど)、またはこれらの混合溶液を用いることが好ましい。目的とする物質を効果的に抽出するとともに、医薬組成物を簡便に作製するという観点からは、これらの極性溶媒の中では、水を用いることが更に好ましい。
【0029】
上記極性溶媒の温度は特に限定されないが、温度が高い方が好ましい。上記温度としては特に限定されないが、例えば、50℃〜100℃であることが好ましく、70℃〜100℃であることが更に好ましく、90℃〜100℃であることが最も好ましい。上記構成によれば、抗腫瘍効果を低下させることなく、目的とする物質の抽出効果を上昇させることができる。なお、上述した様々な事項を考慮すれば、極性溶媒としては、熱水(例えば、沸騰水など)を用いることが最も好ましい。
【0030】
ヤナギから抽出物を抽出するときの具体的な操作も特に限定されず、適宜公知の方法に基づいて行うことが可能である。例えば、超音波照射機、攪拌機などを用いて抽出することが可能であるが、これらの方法に限定されない。例えば、上記溶媒として水を用いる場合には、ヤナギを沸騰水によって煮沸することによって、目的とする物質を抽出すればよい。なお、煮沸する時間としては特に限定されないが、例えば、10分間〜30分間であることが好ましく、15分間〜25分間であることが更に好ましく、20分間であることが最も好ましい。上記構成によれば、目的とする物質に無駄な熱をかけることなく、当該物質を効果的に抽出することができる。なお、当該抽出操作の間、抽出液に対して超音波処理を行ったり、当該抽出液を攪拌することが可能である。
【0031】
本実施の形態の医薬組成物は、腫瘍を処置するために用いられ得る。
【0032】
「腫瘍」とは新生物(neoplasm)としても知られ、新生物細胞(new growth)を含む。また「新生物細胞」は増殖性疾患の原因となる細胞としても知られており、異常に高速に増殖する細胞が意図される。新生物は異常な組織成長物であり、概して個別の細胞集団を形成し、それらは正常な組織成長物よりもよりも急速な細胞増殖によって成長する。新生物、は部分的または全体的に、正常組織との構造的な組織化の欠陥、および/または機能的協調の欠陥を呈する。
【0033】
腫瘍は、良性(良性腫瘍)または悪性(悪性腫瘍または癌)に分類され得る。悪性腫瘍は、大きく3つの主要タイプに分類され得る。上皮構造から発生した悪性腫瘍は、癌腫と呼ばれる。筋肉、軟骨組織、脂肪、または骨のような結合組織由来の悪性腫瘍は肉腫と呼ばれ、免疫系成分を含む造血構造(血液細胞形成に関連する構造)に影響を及ぼす悪性腫瘍は白血病またはリンパ腫と呼ばれる。他の新生物としては、神経線維腫を挙げることが可能である。
【0034】
癌(腫瘍)には、白血病のように造血組織またはリンパ組織であっても、悪性化したあとは常時血液中を移動しながら増殖して、全身の造血組織およびその他の臓器に広がるものが存在する。また、癌(腫瘍)には、白血病以外の多くの腫瘍のように、特定の組織臓器に腫瘍塊として存在しているものも存在する。
【0035】
本実施の形態の医薬組成物が適用され得る腫瘍としては特に限定されないが、例えば、膀胱癌、腎癌、皮膚扁平上皮癌、頭頚部癌(例えば、扁平上皮細胞頭頚部癌)、肺癌(例えば、非小細胞肺癌(NSCLC))、消化管腫瘍(例えば、食道腫瘍、胃癌、小腸腫瘍、および大腸腫瘍(例えば、結腸および縁部のポリープならびに肛門直腸癌))、神経膠腫、中皮腫、および白血病などに用いられることがこのましい。なお、これら腫瘍の中では、本実施の形態の医薬組成物は、白血病に用いられることが、更に好ましい。
【0036】
なお、本明細書において「腫瘍を処置する」とは、腫瘍の成長(増殖)を抑制または阻止することが意図される。つまり、腫瘍を処理することにより、処理されていない同一の腫瘍と比較して、腫瘍が低重量化または小型化することが意図される。
【0037】
本実施の形態の医薬組成物は、ヤナギ抽出物以外に薬学的に受容可能な担体を含んでもよい。医薬組成物中に使用される薬学的に受容可能な担体は、医薬組成物の投与形態および剤型に応じて選択され得る。
【0038】
本明細書中で使用される場合、薬学的に受容可能な担体としては、製剤素材として使用可能な各種有機または無機の担体物質が用いられ、当該担体物質は、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、または崩壊剤、あるいは、液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁剤、等張化剤、緩衝剤、または無痛化剤などとして医薬組成物中に配合され得る。
【0039】
上記賦形剤としては特に限定しないが、例えば、乳糖、白糖、D-マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、デンプン、結晶セルロースなどを用い得る。
【0040】
上記滑沢剤としては特に限定しないが、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカなどを用い得る。
【0041】
上記結合剤としては特に限定しないが、例えば、α化デンプン、メチルセルロース、結晶セルロース、白糖、D-マンニトール、トレハロース、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどを用い得る。
【0042】
上記崩壊剤としては特に限定しないが、例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウムなどを用い得る。
【0043】
上記溶剤としては特に限定しないが、例えば、注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油、トリカプリリンなどを用い得る。
【0044】
上記溶解補助剤としては特に限定しないが、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどを用い得る。
【0045】
上記懸濁剤としては特に限定しないが、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤、あるいは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子を用い得る。
【0046】
等張化剤としては特に限定しないが、例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトールなどを用い得る。
【0047】
緩衝剤としては特に限定しないが、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などを用い得る。
【0048】
無痛化剤としては特に限定しないが、例えば、ベンジルアルコールなどを用い得る。
【0049】
防腐剤としては特に限定しないが、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などを用い得る。
【0050】
抗酸化剤としては特に限定しないが、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸などを用い得る。
【0051】
本実施の形態の医薬組成物は、製薬分野における公知の方法によって製造され得る。
【0052】
本実施の形態の医薬組成物におけるヤナギ抽出物の含有量は、投与形態、投与方法などを考慮して設定され得る。例えば、当該医薬組成物を用いたときに後述の投与量範囲でヤナギ抽出物を投与し得るような量であれば特に限定されない。
【0053】
本実施の形態の医薬組成物の形態は、血中にて高濃度をもたらし得る形態、すなわち、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内、皮下、または関節内の注射に適切な形態(換言すれば、注入可能な形態)であることが好ましいがこれらに限定されない。
【0054】
例えば、錠剤、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含むが、徐放性であることが好ましい)、散剤、顆粒剤、シロップ剤などの経口剤、あるいは、注射剤、坐剤、ペレット、点滴剤などの非経口剤であり得る。本実施の形態の医薬組成物は、毒性が低いので経口的または非経口的に投与され得る。本明細書中において「非経口」とは、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内、皮下、および関節内の注射および注入を含む投与の様式をいう。
【0055】
本実施の形態の医薬組成物が経口剤の形態をとる場合には、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩などが医薬用担体として利用され得る。また経口剤を調製する際に、更に結合剤、崩壊剤、界面活性剤、潤滑剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料などを配合してもよい。
【0056】
本実施の形態の医薬組成物が非経口剤の形態をとる場合には、当該分野において公知の方法に従って、希釈剤としての注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、ゴマ油、ラッカセイ油、ダイズ油、トウモロコシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどに、本発明の有効成分を溶解ないし懸濁させ、所望により殺菌剤、安定剤、等張化剤、無痛化剤などを加えることにより、本実施の形態の医薬組成物を調製することができる。
【0057】
本実施の形態の医薬組成物は、製剤形態に応じた適切な投与経路で投与され得る。投与方法も特に限定されず、内用、外用、または注射によって投与することができる。本実施の形態の医薬組成物が注射剤としての形態を備えていれば、例えば静脈内、筋肉内、皮下、皮内などに投与し易い。よって、本実施の形態の医薬組成物は、流体であっても固体であってもよく、エアロゾルの形態であってもよい。
【0058】
本実施の形態の医薬組成物の投与量は、その形態、投与方法、使用目的および当該医薬の投与対象である患者の年齢、体重、症状によって適宜設定され得る。一般的には、製剤中に含有される有効成分の投与量としては、好ましくは成人1日当り0.1〜2000mg/kgである。もちろん投与量は、種々の条件によって変動可能であって、上記投与量よりも少ない量で十分な場合もあるし、あるいは上記投与量よりも多い量が必要な場合もある。
【0059】
投与は、所望の投与量範囲内において、1日内において単回で行ってもよいし、または数回に分けて行ってもよい。また、本実施の形態の医薬組成物は、そのまま経口投与するほか、任意の飲食品に添加して日常的に摂取させることも可能である。
【0060】
本実施の形態の医薬組成物に使用され得る薬学的に受容可能な賦形剤は、一般に、組成物の重量の5%〜99.9%、好ましくは25%〜80%を構成し、そして、他の補助剤の不存在においては、組成物の残余部分を構成し得る。好ましくは、賦形剤の重量の少なくとも80重量%が水である。好ましくは、水が、医薬組成物の少なくとも50重量%、最も好ましくは60〜80重量%を構成する。
【0061】
(2.食用組成物)
本発明は、ヤナギ抽出物を含有、添加および/または希釈してなる食用組成物(すなわち、食品、飲料または飼料)を提供する。本発明の食用組成物は、ヤナギ抽出物の有する生理作用に起因して極めて有用である。
【0062】
本発明において、「含有」とは、食用組成物(すなわち、食品、飲料、または飼料)中にヤナギ抽出物が含まれるという態様を、「添加」とは、食用組成物の原料に、ヤナギ抽出物を添加するという態様を、「希釈」とはヤナギ抽出物を、食用組成物の原料で希釈するという態様をいう。
【0063】
本実施の形態の食用組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、調理、加工および一般に用いられている食品または飲料の製造法による製造を挙げることができ、製造された食品または飲料にヤナギ抽出物が含有、添加および/または希釈されていればよい。
【0064】
本実施の形態の食用組成物としては特に限定はないが、菓子類(例えば、チューインガム、キャンディー、ゼリー、ビスケット、チョコレート、米菓)、乳製品(例えば、ヨーグルト)、健康食品(例えば、カプセル、タブレット、粉末)、飲料(例えば、清涼飲料、乳飲料、野菜・果汁飲料、茶)、ドリンク剤などが挙げられるがこれらに限定されない。菓子類は、携行利便性の観点から好ましく、乳製品は、菓子類と比較すると1回当たりの摂取量が多く、毎日摂取しやすいという観点からより好ましい。
【0065】
本実施の形態の食用組成物(食品、飲料または飼料)としては、ヤナギ抽出物が含有、添加および/または希釈されており、その生理作用を発現させるための有効量が含有されていれば特にその形状に限定はなく、タブレット状、顆粒状、カプセル状などの経口的に摂取可能な形状物も包含する。
【0066】
本発明は、以下の実施例によってさらに詳細に説明されるが、これに限定されない。
【実施例】
【0067】
〔実施例1:ヤナギ抽出物の抗腫瘍作用〕
表1に示す10種類のヤナギの若葉を実験に供した。
【0068】
【表1】

【0069】
ヤナギの若葉10gを、それぞれ100mlの蒸留水に浸潤し、20分間煮沸して成分を抽出した。このようにして得た抽出液を滅菌したフィルター(Miracloth)に通した後、濾液に対して15000rpmにて15分間の遠心分離処理を行った。遠心分離処理後の上清を、ヤナギ抽出物とした。
【0070】
次いで、上記ヤナギ抽出物の抗腫瘍効果を検討する対象である細胞について説明する。
【0071】
カイロ大学国立がん研究所(National Cancer Institute, Cairo University)に承認された白血病患者(18〜65歳)から分離した細胞を用いて、上記ヤナギ抽出物の抗腫瘍効果を検討した。
【0072】
更に具体的には、上記白血病患者の血液を、Ficoll hypaque density gradient (Pharmacia, Uppsala, Sweden)に従って行う単核細胞分離に供した。次いで、当該分離操作によって得られた細胞をPBSで3回洗浄し、細胞数を10細胞/0.1mlに調整した(成熟細胞および未成熟細胞の両方を含む)。
【0073】
培養培地を、1.2g/lの炭酸ナトリウムとL−グルタミン(Gibco, Grand island, USA)、10%非働化ウシ胎仔血清(Gibco)、ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したmodified Earles−saltを用いて調製した。次いで、この培養培地を0.22μm孔のフィルターに通して濾過し、その1mlを1.8mlのスクリューキャップ式滅菌済プラスティックチューブに移した。
【0074】
次いで、10個の細胞が含まれている細胞懸濁液0.1mlをチューブに加えた。これらのチューブに対して、ヤナギ抽出物0.1mlを加えた。また、陰性コントロールとしては、ヤナギ抽出物の代わりに培養培地を用いた。
【0075】
これらのチューブを、5%CO存在下にて37℃で2日間培養した。2日間の培養の後、trypan Blue exclusion test (Bennett et al., 1976)によって、細胞の生存率、生存細胞数について試験した。なお、各サンプルにつき200個の細胞を計数し、生存細胞(Alive)および死細胞(Death)の割合を計算した。
【0076】
その結果を図1に示す。図1から明らかなように、サンプル番号1〜10の何れのヤナギにおいても、陰性コントロール(C)と比較して、有意に死細胞の割合が増加していた。当該死細胞の増加は、アポトーシスによるものであると考えられる。なお、図1中、「Pre」とは、陰性コントロールとして培養培地を細胞に加えた直後、つまり、2日間の培養を行っていない状態での生存細胞(Alive)および死細胞(Death)の割合を示す。
【0077】
また図2に、上述した2日間の培養の後の、単位培養培地中に含まれる生存細胞数、死細胞数および全細胞数を示す。図2から明らかなように、陰性コントロール(C)では、細胞の増殖能によって全細胞数(特に生存細胞数)が増加していた。当該増加は癌細胞の特徴である異常な細胞増殖活性によるものであると考えられる。
【0078】
一方、サンプル番号1〜10の何れのヤナギにおいても、陰性コントロール(C)と比較して全細胞数(特に生存細胞数)の増加は認められなかった。例えば、サンプル番号10などにおいては、図1において生存細胞の割合が高いにもかかわらず、図2に示すように全細胞の増加は認められなかった。なお、サンプル番号10以外の他のサンプルについても同様であった。このことは、サンプル番号1〜10の何れのヤナギの抽出物も、癌細胞をアポトーシスに導くのみならず、細胞の増殖活性を低下させる効果を有することを示している。つまり、これらのヤナギ抽出物は、癌細胞を正常細胞へと再分化させて、それによって細胞の増殖活性を低下させる効果を有するものと考えられる。
【0079】
つまり、ヤナギ抽出物はアポトーシスに基づく抗腫瘍作用と、再分化に基づく抗腫瘍作用との2種類の抗腫瘍作用を有すると考えられた。
【0080】
〔実施例2:ヤナギの各部位が有する抗腫瘍作用〕
ヤナギ(Kogome-Yanagi、またはEzonokinu-Yanagi)を窒素に富んだ条件下、または窒素が欠乏した条件下にて生育させ、当該ヤナギの各部位が有する抗腫瘍作用について検討した。なお、窒素に富んだ条件は、5mMの窒素濃度(硝酸としての窒素濃度)の水溶液を、1個体のヤナギに対して毎日0.5L潅水することによって実現した。一方、窒素が欠乏した条件は、0mMの窒素濃度(例えば、硝酸としての窒素濃度)の水溶液を、1個体のヤナギ対して毎日0.5L潅水することによって実現した。また、上記ヤナギの各部位としては、若葉(GP)、成熟葉(Leaves)、茎(Stem)、根(Roots)を用いた。
【0081】
具体的には、各部位10gを、それぞれ100mlの蒸留水に浸潤し、20分間煮沸して成分を抽出した。このようにして得た抽出液を滅菌したフィルター(Miracloth)に通した後、濾液に対して15000rpmにて15分間の遠心分離処理を行った。遠心分離処理後の上清を、ヤナギ抽出物とした。
【0082】
上記ヤナギ抽出物を細胞に与えて各抽出物の抗腫瘍作用を検討したが、その具体的な方法は実施例1に記載したので、ここではその詳細な説明を省略し、実験結果のみを以下に説明する。
【0083】
図3は、各ヤナギ抽出物を加えた場合の生存細胞の割合を示すグラフである。なお、図3において「No.1」は、窒素に富んだ条件下で生育したKogome-Yanagiのデータを示し、「No.2」は、窒素に富んだ条件下で生育したEzonokinu-Yanagiのデータを示し、「No.3」は、窒素が欠乏した条件下で生育したKogome-Yanagiのデータを示し、「No.4」は、窒素が欠乏した条件下で生育したEzonokinu-Yanagiのデータを示している。
【0084】
図3に示すように、ヤナギの各部位の中でも、特に「根」において生存細胞の割合が高いことが明らかになった。つまり、ヤナギの各部位の中でも「根」は他の部位と比較して、癌細胞を正常細胞へと再分化させて、それによって細胞の増殖活性を低下させる効果が高いと考えられた。
【0085】
また、図4は、各ヤナギ抽出物を加えた場合の死細胞の割合を示すグラフである。なお、図4において「No.1」は、窒素に富んだ条件下で生育したKogome-Yanagiのデータを示し、「No.2」は、窒素に富んだ条件下で生育したEzonokinu-Yanagiのデータを示し、「No.3」は、窒素が欠乏した条件下で生育したKogome-Yanagiのデータを示し、「No.4」は、窒素が欠乏した条件下で生育したEzonokinu-Yanagiのデータを示している。
【0086】
図4に示すように、ヤナギの各部位の中でも、特に「若葉」、「成熟葉」および「茎」において死細胞の割合が高かった。つまり、ヤナギの各部位の中でも「若葉」、「成熟葉」および「茎」は、「根」と比較して、癌細胞をアポトーシスに導く効果が高いと考えられた。
【0087】
また、図4からも、「根」が有する抗腫瘍作用は、アポトーシスに基づく抗腫瘍作用よりは、むしろ再分化に基づく抗腫瘍作用に起因することが明らかになった。
【0088】
また、図5は、2日間の培養の後の、単位培養培地中に含まれる生存細胞数を示すグラフである。なお、図5において「No.1」は、窒素に富んだ条件下で生育したKogome-Yanagiのデータを示し、「No.2」は、窒素に富んだ条件下で生育したEzonokinu-Yanagiのデータを示し、「No.3」は、窒素が欠乏した条件下で生育したKogome-Yanagiのデータを示し、「No.4」は、窒素が欠乏した条件下で生育したEzonokinu-Yanagiのデータを示している。
【0089】
図5に示すように、ヤナギの各部位の中では、「根」において生存細胞数が高かった。つまり、ヤナギの各部位の中でも「根」は、アポトーシスに基づく抗腫瘍作用よりはむしろ、癌細胞を正常細胞へと再分化させることによる抗腫瘍作用の方が高いと考えられた。
【0090】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明を用いれば、腫瘍に対して高い抗癌作用を有しかつ副作用が小さい医薬を提供することができるので、医薬分野の発展に大いに寄与することができる。また、本発明を用いれば、副作用を生じさせることなく患者の腫瘍を処置することができるので、医学の発展に大いに寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】10種類のヤナギの若葉が有する抗腫瘍作用を示すグラフである。
【図2】10種類のヤナギの若葉が有する抗腫瘍作用を示すグラフである。
【図3】ヤナギ抽出物を加えた場合の生存細胞の割合を示すグラフである。
【図4】ヤナギ抽出物を加えた場合の死細胞の割合を示すグラフである。
【図5】ヤナギ抽出物を加えた場合の単位培養培地中に含まれる生存細胞数を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性溶媒を用いてヤナギから抽出された抽出物を含有する、腫瘍を処置するための医薬組成物であって、
前記ヤナギは、Kogome-Yanagi、Ezonokinu-Yanagi、Inukori-Yanagi、Tachi-Yanagi、Shidare-Yanagi、Neko-Yanagi、Shiro-Yanagi、Yoshino-Yanagi、Ootachi-Yanagi、またはOnoe-Yanagiであることを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
前記抽出物は、前記ヤナギの若葉、成熟葉、茎または根から抽出されたものであることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記極性溶媒が水であることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記腫瘍は、膀胱癌、腎癌、皮膚扁平上皮癌、頭頚部癌、肺癌、消化管腫瘍、神経膠腫、中皮腫、または白血病であることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
経口投与形態であることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
極性溶媒を用いてヤナギから抽出された抽出物を得る工程を包含する、腫瘍を処置するための医薬の製造方法であって、
前記ヤナギは、Kogome-Yanagi、Ezonokinu-Yanagi、Inukori-Yanagi、Tachi-Yanagi、Shidare-Yanagi、Neko-Yanagi、Shiro-Yanagi、Yoshino-Yanagi、Ootachi-Yanagi、またはOnoe-Yanagiであることを特徴とする製造方法。
【請求項7】
前記抽出物は、前記ヤナギの若葉、成熟葉、茎または根から抽出されたものであることを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記極性溶媒が水であることを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
前記腫瘍は、膀胱癌、腎癌、皮膚扁平上皮癌、頭頚部癌、肺癌、消化管腫瘍、神経膠腫、中皮腫、または白血病であることを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項10】
極性溶媒を用いてヤナギの根から抽出された抽出物を含有することを特徴とする腫瘍を処置するための医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−43006(P2010−43006A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206084(P2008−206084)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】