説明

腫瘍壊死誘導療法の抗腫瘍効果増強剤

【課題】 効果的、かつ、重篤な有害事象の招来を回避することができる、サイトカインを利用した腫瘍壊死誘導療法の抗腫瘍効果増強剤を提供すること。
【解決手段】 インターフェロンと、Th1サイトカインと、Th2サイトカインと、炎症誘導サイトカインと、樹状細胞誘導サイトカンインを組み合わせて構成されるサイトカインカクテルからなることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍壊死誘導療法の抗腫瘍効果増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
温熱療法、凍結療法、放射線療法、光凝固法、光線力学的治療法、腫瘍血管塞栓療法などの物理療法や、抗癌剤、ホルモン剤、血管新生阻害剤、分子標的薬などによる薬物療法など、腫瘍細胞に壊死を誘導する治療方法は、ある種の癌に対して効果があることは疑いのない事実である。しかしながら、その効果は必ずしも十分なものではなく、臨床患者においては、腫瘍壊死誘導療法だけでは癌の原発巣ならびに転移を完全に抑制することは困難な場合が多い。そこで、腫瘍壊死誘導療法の抗腫瘍効果を増強するために、ある種のサイトカインを腫瘍壊死誘導療法に併用する治療方法が提案されている。この治療方法は、サイトカインによって宿主の免疫系を活性化することで、腫瘍壊死誘導療法の抗腫瘍効果を増強しようとするものである。例えば、非特許文献1には、TNF−αとIL−2を全身温熱療法と併用する治療方法が記載されている。また、非特許文献2や非特許文献3や非特許文献4には、IL−2を局所温熱療法と併用する治療方法が記載されている。また、非特許文献5には、TNF−αとIFN−γと抗癌剤であるメルファラン(melphalan)を局所温熱療法と併用する治療方法が記載されている。
【非特許文献1】Fritz, K.L. et al. J. Surg. Res. 60, 55-60(1996)
【非特許文献2】Geeham, D.M. et al. J. Surg. Oncol. 59, 35-39(1995)
【非特許文献3】Nakayama, J. et al. Br. J. Dermatol. 130, 717-724(1994)
【非特許文献4】Shen, R.-N. et al. Cancer Res. 50, 5027-5030(1990)
【非特許文献5】Lienard, D. et al. J. Clin. Oncol. 10, 52-60(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これまでに提案されている上記の方法は、サイトカインによる宿主の免疫系活性化作用が必ずしも十分ではなく、また、サイトカインを多量に投与しなければならないために重篤な有害事象を招く恐れがあるので、一般的な癌の治療方法にはなり得なかった。
【0004】
そこで本発明は、効果的、かつ、重篤な有害事象の招来を回避することができる、サイトカインを利用した腫瘍壊死誘導療法の抗腫瘍効果増強剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
これまで、癌の免疫療法としては、癌ワクチン療法や、樹状細胞(DC)療法、サイトカイン遺伝子などを用いた遺伝子治療など、多くの臨床試験が試行されてきたが、癌患者のひどい免疫抑制状態による様々なバリアーを克服することは非常に困難である。腫瘍細胞は宿主の免疫防御に打ち勝って増殖しているので、免疫療法のみで癌を退縮させることは難しいかもしれない。免疫療法の抗腫瘍効果を改良するためには、腫瘍細胞に壊死を誘導できる温熱療法や放射線療法などの他の治療方法を併用することが重要かもしれない。免疫療法以外の方法により腫瘍細胞に壊死を誘導した後で、十分な樹状細胞の活性化および細胞障害性T細胞(CTL)やナチュラルキラー細胞(NK)などのキラーリンパ球の効果的な誘導の可否が免疫療法の重要な鍵となる。一方で、感染と華氏102から105度(38.8〜40.6℃)の高熱の後に様々な種類の癌が自然退縮することが知られていて、コーリィ毒素(感染すると高熱を生じる2種類の細菌を熱で不活性化したもの)は、癌患者においてある程度の治療効果を得ている。これらの場合、癌患者にサイトカインストーム(多種多様のサイトカインが嵐のイメージのように同時に誘導されること)が誘導され、免疫抑制状況に打ち勝つ強力な抗腫瘍免疫が確立された可能性がある。そこで、本発明者は、腫瘍壊死誘導療法の1つである温熱療法に対し、多種多様のサイトカインを使用して人工的にサイトカインストームを誘導するサイトカインカクテル療法を試みたところ、その抗腫瘍効果が増強されることを見出した。
【0006】
上記の知見に基づいてなされた本発明の腫瘍壊死誘導療法の抗腫瘍効果増強剤は、請求項1記載の通り、インターフェロンと、Th1サイトカインと、Th2サイトカインと、炎症誘導サイトカインと、樹状細胞誘導サイトカンインを組み合わせて構成されるサイトカインカクテルからなることを特徴とする。
また、請求項2記載の抗腫瘍効果増強剤は、請求項1記載の抗腫瘍効果増強剤において、インターフェロンが、IFN−α、IFN−β、IFN−γから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする。
また、請求項3記載の抗腫瘍効果増強剤は、請求項1または2記載の抗腫瘍効果増強剤において、Th1サイトカインが、IL−2、IL−12、IL−15、IL−18から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする。
また、請求項4記載の抗腫瘍効果増強剤は、請求項1乃至3のいずれかに記載の抗腫瘍効果増強剤において、Th2サイトカインが、IL−4であることを特徴とする。
また、請求項5記載の抗腫瘍効果増強剤は、請求項1乃至4のいずれかに記載の抗腫瘍効果増強剤において、炎症誘導サイトカインが、IL−1α、TNF−αから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする。
また、請求項6記載の抗腫瘍効果増強剤は、請求項1乃至5のいずれかに記載の抗腫瘍効果増強剤において、樹状細胞誘導サイトカンインが、IL−3、GM−CSFから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする。
また、請求項7記載の抗腫瘍効果増強剤は、請求項1乃至6のいずれかに記載の抗腫瘍効果増強剤において、サイトカインカクテルが、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、IL−2、IL−12、IL−15、IL−18、IL−4、IL−1α、TNF−α、IL−3、GM−CSFからなることを特徴とする。
また、請求項8記載の抗腫瘍効果増強剤は、請求項1乃至7のいずれかに記載の抗腫瘍効果増強剤において、腫瘍壊死誘導療法が、物理療法であることを特徴とする。
また、本発明の腫瘍壊死誘導療法の抗腫瘍効果増強剤は、請求項9記載の通り、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、IL−2、IL−12、IL−15、IL−18を組み合わせて構成されるサイトカインカクテルからなることを特徴とする。
また、本発明の腫瘍壊死誘導療法の抗腫瘍効果増強剤は、請求項10記載の通り、IL−2、IL−12、IL−15、IL−18を組み合わせて構成されるサイトカインカクテルからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、効果的、かつ、重篤な有害事象の招来を回避することができる、サイトカインを利用した腫瘍壊死誘導療法の抗腫瘍効果増強剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の腫瘍壊死誘導療法の抗腫瘍効果増強剤は、インターフェロンと、Th1サイトカインと、Th2サイトカインと、炎症誘導サイトカインと、樹状細胞誘導サイトカンインを組み合わせて構成されるサイトカインカクテルからなることを特徴とするものである。
【0009】
本発明において、インターフェロンとは、脊椎動物の細胞に抗ウィルス活性を誘導したり、単球やマクロファージやナチュラルキラー細胞の活性を増強したりする作用などを有する低分子量の蛋白質を意味し、具体的には、IFN−α、IFN−β、IFN−γなどを挙げることができる。ここで、IFN−αとは、主に白血球が産生するインターフェロンを意味する。IFN−βとは、主に繊維芽細胞が産生するインターフェロンを意味する。IFN−γとは、IL−12により主にT細胞やナチュラルキラー細胞が産生し、Th2細胞の機能と増殖を阻害する作用を有するインターフェロンを意味する。これらは、哺乳動物(ヒトが望ましい)から単離・精製された天然品でもよいし、以上の意味を有するものである限り、遺伝子工学的手法により人工的に製造されたもの(アミノ酸の置換や欠失や付加などが施されていてもよい)でもよい。
【0010】
本発明において、Th1サイトカインとは、Th1細胞(ヘルパーT細胞タイプ1)が産生またはTh1細胞を誘導・増殖し、その結果、細胞性免疫応答を誘導するサイトカインを意味し、具体的には、IL−2、IL−12、IL−15、IL−18などを挙げることができる。ここで、IL−2とは、Th1細胞が産生し、リンパ球の増殖やナチュラルキラー細胞の活性化、細胞障害性T細胞とリンフォカイン活性化キラー細胞の誘導などの作用を有するサイトカインを意味する。IL−12とは、樹状細胞や単球やマクロファージなどが産生し、ナイーブTh細胞からのTh1細胞への分化を促進したり、T細胞やナチュラルキラー細胞からのIFN−γ産生を誘導したり、ナチュラルキラー細胞活性を増強したりする作用などを有するサイトカインを意味する。IL−15とは、単球やマクロファージ、繊維芽細胞などが産生し、T細胞の増殖やナチュラルキラー細胞の活性化、細胞障害性T細胞とリンフォカイン活性化キラー細胞の誘導などの作用を有するサイトカインを意味する。IL−18とは、単球やマクロファージなどが産生し、T細胞を増殖したり、IL−12とは別の経路によりTh1細胞やナチュラルキラー細胞からのIFN−γ産生を誘導したり、ナチュラルキラー細胞活性を増強したりする作用などを有するサイトカインを意味する。これらは、哺乳動物(ヒトが望ましい)から単離・精製された天然品でもよいし、以上の意味を有するものである限り、遺伝子工学的手法により人工的に製造されたもの(アミノ酸の置換や欠失や付加などが施されていてもよい)でもよい。
【0011】
本発明において、Th2サイトカインとは、Th2細胞(ヘルパーT細胞タイプ2)が産生し、液性免疫応答を誘導するサイトカインを意味し、具体的には、IL−4などを挙げることができる。ここで、IL−4とは、Th2細胞が産生し、Th2細胞の誘導とTh1細胞の誘導抑制作用や、B細胞の増殖や活性化などの作用を有するサイトカインを意味する。これらは、哺乳動物(ヒトが望ましい)から単離・精製された天然品でもよいし、以上の意味を有するものである限り、遺伝子工学的手法により人工的に製造されたもの(アミノ酸の置換や欠失や付加などが施されていてもよい)でもよい。
【0012】
本発明において、炎症誘導サイトカインとは、感染症などに対する宿主反応として生じる発熱、発赤、腫脹、疼痛などを伴う炎症反応を誘導するサイトカインを意味し、具体的には、IL−1α、TNF−αなどを挙げることができる。ここで、IL−1αとは、単球やマクロファージ、Th2細胞などが産生し、Th2細胞やB細胞の増殖・分化促進、単球やマクロファージからのIL−1、IL−6、TNF−αなどの産生の誘導、発熱などの作用を有するサイトカインのうち、等電点が5.0のものを意味する。TNF−αとは、Th1細胞、単球やマクロファージ、繊維芽細胞などが産生し、単球やマクロファージや血管内皮細胞などからのIL−1、IL−6などの産生誘導、好中球機能の増強、発熱活性などの作用を有するサイトカインを意味する。これらは、哺乳動物(ヒトが望ましい)から単離・精製された天然品でもよいし、以上の意味を有するものである限り、遺伝子工学的手法により人工的に製造されたもの(アミノ酸の置換や欠失や付加などが施されていてもよい)でもよい。
【0013】
本発明において、樹状細胞誘導サイトカンインとは、樹状細胞を誘導する作用を有するサイトカンインを意味し、具体的には、IL−3、GM−CSFなどを挙げることができる。ここで、IL−3とは、T細胞や胸腺上皮細胞が産生し、造血幹細胞や造血前駆細胞の分化、樹状細胞や好酸球の分化などの作用を有するサイトカインを意味する。GM−CSFとは、骨髄支持細胞やマクロファージやT細胞が産生し、骨髄前駆細胞からの樹状細胞やマクロファージ、好中球、好酸球の分化増殖などの作用を有するサイトカインを意味する。これらは、哺乳動物(ヒトが望ましい)から単離・精製された天然品でもよいし、以上の意味を有するものである限り、遺伝子工学的手法により人工的に製造されたもの(アミノ酸の置換や欠失や付加などが施されていてもよい)でもよい。
【0014】
インターフェロンと、Th1サイトカインと、Th2サイトカインと、炎症誘導サイトカインと、樹状細胞誘導サイトカンインを組み合わせて構成されるサイトカインカクテルは、好適には、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、IL−2、IL−12、IL−15、IL−18、IL−4、IL−1α、TNF−α、IL−3、GM−CSFの12種類のサイトカインからなる。各々のサイトカインは、自体公知の方法で製剤化されたものであってよく、これらは、静脈内投与や筋肉内投与や皮下投与などの方法によって非経口的に投与される。各々のサイトカインは、ある閾値以下の投与量では、いくら複数のサイトカインを併用しても各々のサイトカインの効果が生じない可能性がある。抗腫瘍効果を得るためには、必要十分な免疫応答を誘導するための最低投与量以上を併用することが望ましいが、その具体的な投与量は、患者の年齢や体重や性別や症状などに応じて適宜決定すべきものである。一般的には1〜10000万単位/日の範囲内である。腫瘍壊死誘導療法により壊死した腫瘍細胞が存在することが、その後の抗腫瘍免疫応答を誘導するサイトカインカクテル療法には重要である。サイトカインカクテルの投与時期は、例えば、1週間に1〜2度行う腫瘍壊死誘導療法の直前、同時、直後のいずれでもよい。しかしながら、いずれにしても、有効な腫瘍免疫応答を誘導するために、壊死した腫瘍細胞とサイトカインが生体内で少なくても数日程度は同時に存在していることが望ましいと考えられる。サイトカインは生体内での半減期が短いために、反復投与することが重要であるが、例えば、上記の12種類のサイトカインを連日全て投与することは、患者への負荷が大きすぎることが推測されるので、数種類のサイトカインは数日おきに投与することを検討することが望ましい。
【0015】
本発明の抗腫瘍効果増強剤が併用される腫瘍壊死誘導療法は、可能な限り広義に解釈されるべきものであり、腫瘍細胞に壊死を誘導することで癌の治療効果をあげることができる方法であればどのような治療方法であってもよい。具体的には、温熱療法、凍結療法、放射線療法、光凝固法、光線力学的治療法、腫瘍血管塞栓療法などの物理療法が好適に例示される。ここで、物理療法とは、物理的なエネルギーを人体に外部から適用したり、カテーテルなどを介して各種の塞栓物質を血管内に注入することで腫瘍血管を物理的に閉塞させたりするなど、薬剤の直接的な効果だけにはよらない物理的な手技を用いる癌の治療方法を意味する。温熱療法は、物理的なエネルギーとして熱を利用した方法である。具体的には、電磁波、放射線、超音波、温水、機能性磁性微粒子の交流磁場下での発熱などによる熱の力により、表在や深部にある腫瘍細胞を直接壊死させたり、担癌宿主の免疫システムを活性化させて抗腫瘍効果を発揮させたりする方法であって、腫瘍局所を加温する局所加温法と全身加温法に大別される。主にThemotron−RFなどのradiofrequency(RF)波を用いた誘電型加温装置やマイクロ波加温装置が使用されているが、放射型深部加温装置、ring application方式による加温装置、血液の体外循環による加温装置、超音波を用いて深部腫瘍を焼くHigh intensity focused ultrasound(HIFU)による装置などもある。凍結療法は、液体窒素などにより腫瘍組織を凍結融解して破壊する方法である。放射線療法は、物理的なエネルギーとして放射線を利用した方法である。放射線とは、物質を通過するときに衝突によって直接または間接に電離を起こしたり、核変換を起こすのに十分な運動エネルギーをもったりした粒子である。癌治療に用いられる放射線には、ライナックやベータートロンなどの照射装置から発生する高エネルギーX線や高エネルギー電子線、コバルト60遠隔照射装置や高線量率腔内照射装置で使用する60Coや192Irなどから発生するγ線、X線やγ線に比較して線量分布が優れている陽子線、生物学的効果が優れている中性子線、線量分布と生物学的効果の両方が優れている重粒子線などがある。光凝固法と光線力学的治療法は、物理的なエネルギーとして光を利用した方法である。前者は、レーザー光線で腫瘍組織を焼いたり蒸散させたりする方法であり、後者は、腫瘍組織や腫瘍の新生血管に特異的に集積するPhotofrin、BPD−MA、NPe6、ATX−S10、SnET2、ALA、Lutexなどの光センシタイザーを投与してからレーザーを照射し、光の励起により発生する一重項酸素によって腫瘍を破壊する方法である。腫瘍血管塞栓療法は、カテーテルなどを介して血管内にLipiodol、ゼラチンスポンジ、澱粉粒子で作成したDSM、エタノール、シアノアクリレート、金属コイルなどの塞栓物質を投与して腫瘍血管内を塞ぐことで、腫瘍細胞への栄養や酸素供給を途絶させて抗腫瘍効果を生じさせる方法である。なお、腫瘍壊死誘導療法は、抗癌剤、ホルモン剤、血管新生阻害剤、分子標的薬などによる薬物療法であってもよい。抗癌剤とは、塩基と結合してDNA鎖内やDNA鎖間にcrosslinkを形成したり、DNA鎖を切断したり、DNAやRNAの合成阻害をしたり、RNAに機能障害を生じさせたり、DNA複製に必要なトポイソメラーゼを阻害したり、細胞分裂装置である微小管の重合・脱重合を阻害したりすることなどによって抗腫瘍効果を生じる化合物である。具体的には、thiopeta,melphalan,cyclophosphamide,ifosfamide,busulfan,carmustine(BCNU),lomustine(CCNU),ranimustine(MCNU),nimustine(ACNU),procarbazine,dacarbazine,cisplatin,carboplatin,nedaplatinなどのアルキル化剤、mitomycin C,bleomycin,peplomycin,actinomycin D,daunorubicin(daunomycin),doxorubicin(adriamycin),epirubicin,mitoxantrone,pirarubicin,idarubicin,amrubicinなどの抗癌性抗生物質、vincristine,vinblastine,vindesine,navelbine,etoposide,irinotecan,nogitecan,paclitaxel,docetaxelなどの植物アルカロイド、methotrexate,cytosine arabinoside,behenoyl cytosine arabinoside,gemcitabine,5−fluorouracil,tegafur,UFT,carmofur,doxifluridine,S1,hydroxyurea,pentostatin,capecitabine,fludarabine,cladribineなどの代謝拮抗剤、その他、L−asparaginas,all trans retinoic acid,sobuzoxane,亜砒酸などがある。ホルモン剤とは、ホルモン依存性の癌に対してそのホルモンの効果を阻害することにより抗腫瘍効果を生じる化合物である。具体的には、女性ホルモン(エストロゲン)依存性の乳癌に対しては、抗エストロゲン作用を有する、tamoxifen,toremifene,medroxyprogesterone,fadrozole,anastrozole,exemestaneなどが、男性ホルモン(アンドロゲン)依存性の前立腺癌に対しては、抗アンドロゲン作用を有する、estramustine,flutamide,fosfestrol,leuprorelin,bicalutamide,goserelinなどがある。血管新生阻害剤とは、腫瘍に栄養や酸素を供給する腫瘍血管の新生を阻害することにより抗腫瘍効果を生じる化合物である。具体的には、血管新生に関与する遺伝子産物を標的としたMatrix Metalloproteinase(MMP)阻害薬や、血管内皮増殖因子(VEGF)阻害薬、血管内皮細胞受容体Tie2のチロシンキナーゼ阻害薬などがある。分子標的薬とは、癌細胞の分子生物学的特徴に注目し、正常細胞には影響の少ない新しい治療薬として開発され、腫瘍細胞の増殖、分裂、浸潤や転移に関与する遺伝子産物の機能を阻害することにより抗腫瘍効果を生じる化合物である。具体的には、慢性骨髄性白血病や胃腸管間質腫瘍(GIST)に対するKITチロシンキナーゼ阻害薬のimatinib、非小細胞肺癌に対する上皮増殖因子受容体阻害薬のgefitinib、乳癌に対するレセプター型チロシンキナーゼHER2/neu(c−erbB2)に対するモノクローナル抗体のtrastuzumab、非ホジキンリンパ腫(NHL)に対するCD20を標的としたモノクローナル抗体のrituximabや抗CD20抗体に放射性同位元素を抱合させた90Y ibritumomab tiuxetan、CD33陽性急性骨髄性白血病に対するCD33抗体と抗癌性抗生物質のcalicheamicinとの結合体であるgemtuzumab ozogamicinなどがある。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって何ら限定して解釈されるものではない。
【0017】
実施例1:ルイス肺癌細胞(LLC細胞)を接種したマウスを用いた検討
(実験方法)
6〜8週齢の雄のC57BL/6Jマウスを日本クレアから購入した。マウスは5〜6匹ずつプラスチックケージに入れて、SPFコンディション(細菌やウィルス感染などがないきれいな環境)下、水と標準的な実験飼育用の餌を与えた。LLC細胞は理研細胞開発銀行から取り寄せた。LLC細胞の培養には日水2のDMEM培地に10%FBS(牛胎児血清)・l−グルタミン・重炭酸を加えたものを使用した。100万個の生きたLLC細胞を0.05mlのリン酸バッファー生食液(PBS)に懸濁し、マウスの右足背に皮下投与した。
【0018】
LLC細胞を接種したマウスは次の7つのグループに分け、腫瘍接種後9日目より治療を開始した。
a)グループ1:PBS投与のコントロール群
b)グループ2:局所温熱療法群(43.5℃±0.2℃×90分を10、17、24日目に施行)
c)グループ3:12種類のサイトカインカクテル投与群(IFN−α、IFN−β、IFN−γ、IL−2、IL−12、IL−15、IL−18、IL−4、IL−1α、TNF−α、IL−3、GM−CSF)
d)グループ4:IFN投与群(IFN−α、IFN−β、IFN−γ)+局所温熱療法群(同上)
e)グループ5:Th1サイトカイン投与群(IL−2、IL−12、IL−15、IL−18)+局所温熱療法群(同上)
f)グループ6:Th1サイトカイン投与群(同上)+IFN投与群(同上)+局所温熱療法群(同上)
g)グループ7:12種類のサイトカインカクテル投与群(同上)+局所温熱療法群(同上)
【0019】
なお、IL−1α、IL−3、IL−4、IL−12、IL−15、IFN−γ、TNF−α、GM−CSFはPeproTech社から購入した。IL−2は塩野義製薬社から購入した。IL−18はMBL社から購入した。IFN−α、IFN−βはR&D System社から購入した。IL−2とIL−15はヒト由来のものを用いた(ヒト由来のものでもマウス由来のものでも同じ活性を示す)。他のサイトカインはマウス由来のものを用いた。各々のサイトカインは0.05mlのPBSに懸濁してマウスの後肢か臀部に皮下投与した。各々のサイトカインの1回投与量は、IL−1α:50000IU、IL−2:3500IU、IL−3とIL−4とIL−12:1000IU、IL−15:500IU、IL−18:227IU(0.25μg)、IFN−αとIFN−β:2500IU、IFN−γ:10000IU、TNF−α:2000IU、GM−CSF:2500IUとした。IL−1α、IL−3、IL−4、IL−12、IL−18、IFN−γ、TNF−αは2〜3日毎に計10回投与した(腫瘍接種後9、11、14、16、18、21、23、25、28、30日目)。IL−2、IL−15、IFN−α、IFN−β、GM−CSFは週1回計4回投与した(腫瘍接種後9、16、23、30日目)。
【0020】
局所温熱療法はタイテック社製のThermominder SX−10Rで循環させた温水中にマウスの両後肢の膝下をつけることにより施行した。マウスの中心体温としてPhysitemp社製の温度測定器BAT−10Rに接続したRET−3プローブにて直腸温を5〜10分間隔でモニターした。0.2〜0.25mlのペントバルビタール(大日本製薬社製ネンブタール)の腹腔内投与による麻酔と70%エタノールの背中への散布下(直腸温の上昇を防ぐために使用)で局所温熱療法中のマウスの中心体温は34℃から38℃の間に維持した。各グループ間でマウスの中心体温に有意差はなかった。腫瘍表面の温度は、局所温熱療法5分後には設定した水温と同じになることを確認した。2匹の別のマウスで腫瘍中心の温度も設定した水温と同じになっていることをPhysitemp社製の29ゲージのプローブにて確認した(腫瘍中心部の温度測定のためには細くても針をさすために腫瘍から出血を起こすので、当該実験のマウスでは行えない)。
【0021】
(実験結果)
図1に示す。図1において、縦軸は生存率を示し、横軸は腫瘍接種後の経過日数を示す。カッコ内は実験に使用したマウスの数である。図1から明らかなように、腫瘍接種後35日目の時点で、グループ7(Hyperthermia+cytokine cocktail)だけが全てのマウスが生存していた。Kaplan−Meire法にてグループ7の生存率が有意に最も高く、グループ1(PBS)、グループ2(Hyperthermia)、グループ4(Hyperthermia+IFN)に対してはp<0.01で、グループ3(Cytokine cocktail)に対してはp<0.05で、グループ5(Hyperthermia+Th1 cytokine)に対してはp=0.05であった。なお、グループ6(Hyperthermia+Th1 cytokine/IFN)は、5匹中2匹のマウスが2回目の温熱療法中に腫瘍からの出血のために死亡したので、解析から除いた。
原発腫瘍(各癌腫瘍接種部位に生じた腫瘍)に対し、ノギスを用いて2方向の直径を測定した。腫瘍体積をV=0.5(ab2)(a、bは腫瘍の直径で、bが短径)で計算したところ、足背に形成された原発腫瘍の増殖は、グループ5、グループ6、グループ7において抑制された。腫瘍接種後9日目に治療を開始したが、その時の各グループでの腫瘍の平均径には一方向ANOVAにて有意差は認められなかった(p>0.05)。腫瘍接種21日目以後になると、原発腫瘍の増大やそこからの出血、肺転移により数匹のマウスが死亡したので、21日目の原発腫瘍径の平均値を比較した。その結果、温熱治療のみのグループ2(693mm3)では、コントロール群であるグループ1(2162mm3)に比較して統計学的に有意な腫瘍抑制効果が認められなかった。しかし、グループ5(560mm3)、グループ6(369mm3)、グループ7(255mm3)では、有意に抑制された(スチューデントのt検定あるいはウェルチのt検定でp<0.01)。原発腫瘍の増殖はグループ6とグループ7で最も抑制され、両方のグループとも5匹中2匹のマウスで腫瘍の一時的な縮小が認められた。実験を終了した腫瘍接種後35日目までの時点で統計学的な解析が可能であったグループは2、5、7の3群であった。治療を開始した9日目から35日目のグループ7の腫瘍増殖曲線は、グループ2と5のそれに比較して、統計学的に有意に抑制された(多重比較検定法でp<0.01)。腫瘍接種後23日目以後に解剖したマウスにおいて肉眼的な肺転移の有無を解析した。その結果、グループ7では、肺転移は5匹中1匹だけに認められた。グループ1と5では5匹中4匹に、グループ2、グループ3、グループ4、グループ6では5匹中5匹のマウスに肺転移が認められた。グループ7では、グループ2、グループ3、グループ4、グループ6と比較して有意に肺転移が抑制された(フィッシャーの直接確率計算法でp<0.05)。
【0022】
実施例2:B16−BL6悪性黒色腫細胞を接種したマウスを用いた検討
(実験方法)
6〜8週齢の雄のC57BL/6Jマウスを日本クレアから購入した。マウスは5〜6匹ずつプラスチックケージに入れて、SPFコンディション(細菌やウィルス感染などがないきれいな環境)下、水と標準的な実験飼育用の餌を与えた。B16−BL6悪性黒色腫細胞はテキサス大学アンダーソン癌センターのFidler博士から分与していただいた。B16−BL6細胞の培養にはGibco社製のDMEM培地に7.5%FBS・l−グルタミン・重炭酸を加えたものを使用した。100万個の生きたB16−BL6細胞を0.05mlのリン酸バッファー生食液(PBS)に懸濁し、マウスの右足背に皮下投与した。
【0023】
B16−BL6細胞を接種したマウスは次の4つのグループに分け、腫瘍接種後11日目より治療を開始した。
a)グループ1:PBS投与のコントロール群
b)グループ2:局所温熱療法群(43.0℃±0.2℃×120分を12、19日目に施行)
c)グループ3:12種類のサイトカインカクテル投与群(IFN−α、IFN−β、IFN−γ、IL−2、IL−12、IL−15、IL−18、IL−4、IL−1α、TNF−α、IL−3、GM−CSF)
d)グループ4:12種類のサイトカインカクテル投与群(同上)+局所温熱療法群(同上)
【0024】
なお、各々のサイトカインに関する詳細と投与量は実施例1と同じである。各々のサイトカインの投与方法はIL−1α、IL−3、IL−4、IL−12、IL−18、IFN−γ、TNF−αは毎日計10回投与した(腫瘍接種後11日目から20日目まで)。IL−2、IL−15、IFN−α、IFN−β、GM−CSFは3日毎に計4回投与した(腫瘍接種後11、14、17、20日目)。
【0025】
局所温熱療法は実施例1と同様にして行った。
【0026】
(実験結果)
図2に示す。図2において、縦軸は生存率を示し、横軸は腫瘍接種後の経過日数を示す。カッコ内は実験に使用したマウスの数である。図2から明らかなように、腫瘍接種後245日目の時点で、グループ4(Hyperthermia+cytokine cocktail)の生存率が最も高く、5匹中3匹のマウスが生存しており、Kaplan−Meire法にて、グループ1(PBS)、グループ3(Cytokine cocktail)に対してp<0.01であった。
原発腫瘍の増殖抑制効果を実施例1と同様にして測定した。その結果、グループ2(Hyperthermia)、グループ3、グループ4において原発腫瘍の増殖は抑制された。腫瘍接種後11日目に治療を開始した時点での各グループの腫瘍の平均径は、一方向ANOVAにて有意差は認められなかった(p>0.05)。治療が終了した腫瘍接種後21日目の時点で原発腫瘍径の平均値を比較した。その結果は、グループ1で988mm3、グループ2で394mm3、グループ3で231mm3、グループ4で31mm3であった。治療群では、コントロール群のグループ1に対して、スチューデントのt検定あるいはウェルチのt検定で有意に腫瘍の増大が抑制された(グループ3、グループ4対グループ1はp<0.01、グループ4対グループ3はp<0.01、グループ2対グループ1はp<0.05)。全てのグループで最後に統計学的な解析が可能であった腫瘍接種後25日目の時点で、原発腫瘍径の平均値は、グループ1で1456mm3、グループ2で1031mm3、グループ3で400mm3、グループ4で7mm3となり、グループ4ではグループ2に比較しても有意に腫瘍の増大が抑制された(ウェルチのt検定でp<0.05)。グループ4では5匹中3匹のマウスで原発腫瘍が完全に消失し、腫瘍接種後245日間の観察期間中に再発は認められなかった。残りの2匹のマウスにおいても、1匹では原発腫瘍は一時的に完全に消失し、他の1匹でも腫瘍からの出血死をするまでの間に原発腫瘍は徐々に縮小を続けた。肉眼的に認められた肺転移数の平均値は、グループ1で23.6個、グループ2で7.5個、グループ3で3個であった。一方、グループ4では、全てのマウスで肺転移は認められなかった。グループ4ではグループ1、グループ2と比較して肺転移が有意に抑制された(フィッシャーの直接確率計算法でp<0.05)。腫瘍形成をした左後肢の膝リンパ節への転移の有無は、グループ1で92%(11/12)、グループ2で100%(4/4)、グループ3で60%(3/5)、グループ4で20%(1/5)であった。グループ4ではグループ1と比較して膝リンパ節への転移が有意に抑制された(フィッシャーの直接確率計算法でp<0.01)。左鼠径(左後肢の付け根)リンパ節への転移の有無は、グループ1で92%(11/12)、グループ2で50%(2/4)、グループ3で40%(2/5)、グループ4で0%(0/5)であった。グループ4ではグループ1と比較して左鼠径リンパ節への転移が有意に抑制された(フィッシャーの直接確率計算法でp<0.01)。また、治癒したマウス3匹の病理組織学的な解析で、リンパ節や胸腺・脾臓などのリンパ系組織の過形成が観察された。また、腫瘍細胞移植後245日も経過した時点で、肺においてのみリンパ球の集積が複数箇所において認められた。他の治療群では観察された肺転移像は全く認められなかった。これらの治癒マウスにおいては、一度生じた肺転移が、本治療方法によって誘導されたキラーリンパ球によって消滅した可能性も考えられる。
【0027】
実施例1と実施例2のまとめ:
実施例1のLLC細胞を用いた実験では、Th1サイトカイン類(IL−2、IL−12、IL−15、IL−18)は温熱療法の抗腫瘍効果を増強した。Th1サイトカイン類の温熱療法との併用により、原発腫瘍の増大がコントロール群に比較して有意に抑制された。この知見は、これまでに報告されたことがない新規かつ有益性に富むものであり、本発明の一部を構成する。IL−2、IL−12、IL−15は細胞障害性T細胞(CTL)を誘導することが報告されている。IL−18は樹状細胞(DC)からのIFN−γの強力な誘導剤であり、IL−12との併用により数種類のマウス腫瘍の増殖を抑制することが報告されている。また、IFN類(IFN−α、IL−β、IL−γ)をTh1サイトカイン類(同上)と組み合わせて併用すると、原発腫瘍径の平均値はTh1サイトカイン類単独併用時よりも小さくなった。この知見も、これまでに報告されたことがない新規かつ有益性に富むものであり、本発明の一部を構成する。IFN−γは細胞障害性T細胞を誘導したり、ナチュラルキラー細胞(NK)やマクロファージを活性化したり、樹状細胞などの抗原提示細胞や腫瘍細胞において腫瘍組織適合抗原(MHC)のclass Iとclass IIの発現を増強することが報告されている。IFN−αとIFN−βは、IFN−γと同様にナチュラルキラー細胞やマクロファージを活性化したり、腫瘍組織適合抗原(MHC)のclass Iとclass IIの発現を増強したり、また抗ウィルス効果を誘導したりすることが報告されている。しかし、IFN類だけの併用では温熱療法の抗腫瘍効果を増強できなかった。その増強には、IFN類とTh1サイトカイン類の併用が重要である。IFN−αとIFN−βは細胞膜上の受容体以後の細胞内情報伝達経路は共通であると考えられているので、温熱療法などの腫瘍壊死誘導療法とサイトカイン類の併用時にはどちらか一方でもよいのかもしれない。
【0028】
実施例1のLLC細胞を用いた実験でも、実施例2のB16−BL6細胞を用いた実験でも、本発明の12種類のサイトカインを組み合わせて構成されるサイトカインカクテルは、最も強力に温熱療法の抗腫瘍効果を増強した。この12種類のサイトカインカクテルと温熱療法との併用療法は、いずれの細胞の原発腫瘍の増大も抑制した。実施例1のLLC細胞を用いた実験では、IFN類とTh1サイトカイン類と温熱療法との併用よりも、12種類のサイトカインカクテルと温熱療法との併用療法の方が、腫瘍接種後21日目の原発腫瘍の平均径をより小さくした(369mm3対255mm3)。さらに、実施例1のLLC細胞を用いた実験でも、実施例2のB16−BL6細胞を用いた実験でも、12種類のサイトカインカクテルと温熱療法との併用療法は、いずれの細胞の肺転移も強力に抑制した。他の治療法はいずれの細胞の肺転移も抑制しなかった。最終的な生存率も、この治療方法で最も長い結果が得られた。特に実施例2のB16−BL6細胞を用いた実験では、この治療方法により60%のマウスで腫瘍が消失し、それらのマウスでは245日の観察期間中に局所再発も肺・リンパ節への転移も生じなかった。IL−3とGM−CSFは樹状細胞を誘導・分化させることが報告されている。樹状細胞(DC)は腫瘍関連抗原をその細胞膜上に提示して細胞障害性T細胞を誘導することで、腫瘍特異的な免疫応答を生じさせるのに重要である。TNF−αはナチュラルキラー細胞(NK)を活性化したり、リンパ球を増殖させたり、マクロファージから炎症誘導サイトカインであるIL−1やIL−6を誘導したり、血管内皮細胞を活性化させたり、発熱反応を生じさせることが報告されている。IL−1αは、リンパ球や血管内皮細胞を活性化させたり、炎症部位で局所組織を破壊することによりエフェクター細胞の侵入を容易にしたり、単球やマクロファージからのIL−1、IL−6、TNF−αなどの炎症誘導サイトカインの産生を誘導したり、発熱反応を生じさせることが報告されている。
【0029】
Th2リンパ球とTh1リンパ球はお互いに制御してバランスを取り合っている。Th1リンパ球から産生されるIFN−γはTh2リンパ球の分化と増殖を抑制し、Th2リンパ球から産生されるIL−4やIL−10はTh1リンパ球の分化と増殖を抑制する。12種類のサイトカインを組み合わせて構成されるサイトカインカクテルにより、最も強力に温熱療法の抗腫瘍効果が増強されたことは、担癌状態では従来言われているTh1リンパ球だけでなく、Th2リンパ球、樹状細胞(DC)、マクロファージ、多核白血球など、全ての免疫関連細胞が抑制されている可能性がある。実際に、卵白アルブミンを人工的に遺伝子導入したマウス腫瘍細胞の系を用いた免疫療法実験では、治癒機転としてTh1リンパ球が誘導される場合とTh2リンパ球が誘導される場合があることが報告されている。また、細胞障害性T細胞の増殖と活性化に必要なIL−2が、逆に一度活性化されたTリンパ球の機能を抑制するCTLA−4という分子を誘導するという知見もある。一種類のサイトカインだけを使用すると、担癌状態といえども生体内でその経路に対する抑制経路が生じて、十分な抗腫瘍効果が得られない可能性も考えられる。これまでの多くの知見より、強い免疫抑制状況にある担癌状態においては1〜2種類のサイトカインを用いても、抗腫瘍効果に関与する免疫系全体を活性化することは極めて困難なことであると考えられる。培養細胞や正常のマウスを使用して得られたサイトカインの免疫活性化作用の実験結果は、担癌状態では機能していない可能性もある。実際に、ペプチドワクチンを用いた臨床試験では、せっかく細胞障害性T細胞が誘導されていても免疫抑制環境の強い腫瘍内では腫瘍細胞に対して障害活性を示さないという報告もされている。多種類のサイトカインを併用することにより、担癌状態での多種類の免疫抑制機序に対処し、多種類の免疫細胞を同時に活性化して有効な腫瘍免疫応答を誘導できる可能性がある。サイトカインストームを人工的に起こすことにより、自己免疫疾患を引き起こす可能性も否定できないので、その点は治療対象の選択と長期間の観察などの注意が必要である。今回の実施例2のB16−BL6細胞を用いた実験で、245日間の経過観察をした3匹の治癒マウスでは、治療終了後は体重減少、脱毛、神経麻痺などの症状は見られなかった。逆に、Th1サイトカイン類とTh2サイトカイン類の併用により、どちらか一方だけが活性化されることを防ぎ、生体内で免疫応答のバランスが適切にとれる可能性も期待できる。また、多種類のサイトカインを併用することで、一つ一つのサイトカインの投与量を減らせる可能性があり、有害事象を減らせる可能性も期待できる。
【0030】
温熱療法に併用した12種類のサイトカインカクテル療法の抗腫瘍効果は、B16−BL6細胞を用いた実施例2の方がLLC細胞を用いた実施例1よりも強かった。前者では60%(3/5)のマウスで足背の原発腫瘍が消失し、また全てのマウスで肺転移が認められなかった。しかし、治癒マウス3匹のうち2匹のマウスでは、治療中に腫瘍形成した左足が壊死により欠失し、また全てのマウスで後肢に一時的な脱毛が生じた。一方で、後者では足の欠失や脱毛は見られなかったが、原発腫瘍は完全には消失せず、肺転移も認められた。これらの理由としては、LLC細胞の増殖速度がB16−BL6細胞よりも速かったこと、治療開始時点の腫瘍径の平均値の違い(LLC細胞群:72.6mm3、B16−BL6細胞群:40.6mm3)が考えられる。また、2つの実験では、温熱療法の温度と処理時間(前者は43.5℃±0.2℃×90分、後者は43.0℃±0.2℃×120分)、サイトカイン類の投与間隔(前者は2〜3日毎か1週間毎、後者は連日か3日毎)が異なっていた点もある。
【0031】
LLC細胞を用いた実施例1とB16−BL6細胞を用いた実施例2の2つの実験結果より、十分な抗腫瘍効果を得るためには12種類のサイトカインの投与は1週間に2回以上必要であることが推測される。抗腫瘍効果を高めて有害事象を減らすためには、腫瘍壊死誘導療法の最適化、例えば、温熱療法、凍結療法、放射線療法、光凝固法、光線力学的治療法、腫瘍血管塞栓療法などの物理療法の場合には、その強度や処理時間や処理間隔の最適化、抗癌剤、ホルモン剤、血管新生阻害剤、分子標的薬などによる薬物療法の場合には、その投与量や投与間隔の最適化などに加え、サイトカイン類の投与量や投与間隔や投与量の最適化などを検討して、個々の患者に対する最適な方法を確立しなければいけない。また、各サイトカインの併用時における作用機序やその有用性についても検討しなければいけない。過去に施行した別のB16−BL6細胞を用いた実験では、温熱療法のみで腫瘍形成させた足が欠失した場合には、1週間前後で必ずその断端への局所再発や膝リンパ節への転移が生じ、腫瘍の根治は決してできなかった。しかし、今回の温熱療法に12種類のサイトカインカクテル療法を併用した場合には、局所再発や膝リンパ節への転移が認められたのは20%(1/5)のみであった。サイトカインが免疫応答の調節を担っていること、治癒マウスにおいてリンパ系組織の過形成と腫瘍の転移先である肺においてのみリンパ球の集積が認められたことより、温熱療法とサイトカインカクテル療法により、何らかの抗腫瘍免疫学的なメカニズムが作用した可能性が示唆される。
【0032】
温熱療法、凍結療法、放射線療法、光凝固法、光線力学的治療法、腫瘍血管塞栓療法などの物理療法の他、抗癌剤、ホルモン剤、血管新生阻害剤、分子標的薬などによる薬物療法を含め、腫瘍に壊死を誘導する様々な治療方法が施行されている。それらの腫瘍壊死誘導療法においては、いかに効率よく多くの腫瘍細胞を壊死させられるかという点が重要である。腫瘍壊死誘導療法の抗腫瘍効果を増強する目的で、前述の通り、いくつかの種類のサイトカインとの併用が試行されてきた。腫瘍壊死誘導療法とサイトカインの併用による癌治療は、壊死した腫瘍細胞をもとに、担癌宿主において抗腫瘍免疫応答を誘導して腫瘍の縮小や再発・転移予防を行うことを目的としている。その際、腫瘍壊死誘導療法の種類によって、抗腫瘍効果の点で併用するサイトカインの種類が変わるという報告はこれまでのところ存在しない。むしろ、メラノーマにはIFN−γが、肝臓癌にはIFN−αやIFN−βが、腎臓癌にはIL−2が効くなど、腫瘍の種類や個々の腫瘍の性質によって抗腫瘍効果のあるサイトカインの種類が規定されていて、サイトカインと併用する腫瘍壊死誘導療法は様々な種類が試みられている。以上の点に鑑みれば、今回の知見で得られたサイトカインカクテルは、腫瘍に壊死を誘導できる方法であれば、物理療法に限らず薬物療法に対しても、その抗腫瘍効果を増強できるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、効果的、かつ、重篤な有害事象の招来を回避することができる、サイトカインを利用した腫瘍壊死誘導療法の抗腫瘍効果増強剤を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1における各試験群についての生存率を示す図である。
【図2】実施例2における各試験群についての生存率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターフェロンと、Th1サイトカインと、Th2サイトカインと、炎症誘導サイトカインと、樹状細胞誘導サイトカンインを組み合わせて構成されるサイトカインカクテルからなることを特徴とする腫瘍壊死誘導療法の抗腫瘍効果増強剤。
【請求項2】
インターフェロンが、IFN−α、IFN−β、IFN−γから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1記載の抗腫瘍効果増強剤。
【請求項3】
Th1サイトカインが、IL−2、IL−12、IL−15、IL−18から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1または2記載の抗腫瘍効果増強剤。
【請求項4】
Th2サイトカインが、IL−4であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の抗腫瘍効果増強剤。
【請求項5】
炎症誘導サイトカインが、IL−1α、TNF−αから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の抗腫瘍効果増強剤。
【請求項6】
樹状細胞誘導サイトカンインが、IL−3、GM−CSFから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の抗腫瘍効果増強剤。
【請求項7】
サイトカインカクテルが、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、IL−2、IL−12、IL−15、IL−18、IL−4、IL−1α、TNF−α、IL−3、GM−CSFからなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の抗腫瘍効果増強剤。
【請求項8】
腫瘍壊死誘導療法が、物理療法であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の抗腫瘍効果増強剤。
【請求項9】
IFN−α、IFN−β、IFN−γ、IL−2、IL−12、IL−15、IL−18を組み合わせて構成されるサイトカインカクテルからなることを特徴とする腫瘍壊死誘導療法の抗腫瘍効果増強剤。
【請求項10】
IL−2、IL−12、IL−15、IL−18を組み合わせて構成されるサイトカインカクテルからなることを特徴とする腫瘍壊死誘導療法の抗腫瘍効果増強剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−306824(P2006−306824A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159492(P2005−159492)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】