説明

腫瘍治療用組成物およびその応用

【課題】腫瘍を効率的に退縮、消失させて、再発や転移を防止することが可能な腫瘍治療用組成物、腫瘍治療用キットおよび腫瘍の治療方法の提供。
【解決手段】樹状細胞およびインターフェロンγを含む腫瘍治療用組成物。特に、樹状細胞としては、未成熟の樹状細胞単独であってもよく、腫瘍抗原を取り込んだ樹状細胞単独であってもよく、また未成熟の樹状細胞と腫瘍抗原を取り込んだ樹状細胞の両者を含んでいてもよい。好ましくは、腫瘍治療用組成物には、少なくとも未成熟の樹状細胞が含まれていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹状細胞とガンマ型インターフェロンを含む腫瘍治療用組成物、腫瘍治療用キットおよびインターフェロンγと樹状細胞を併用した腫瘍の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療技術の向上や生活環境の改善によってヒトの寿命が長期化し、これに伴い、腫瘍の罹患件数も増加している。また、獣医学分野においても、ヒト同様に医療技術や生活環境が向上し、これによりイヌやネコなどの愛玩動物をはじめとする様々な哺乳動物の寿命が延びつつある。しかしながら、これらの哺乳動物においてもヒト同様の生活習慣病が増加傾向にあり、腫瘍の罹患件数も増加している。
【0003】
現在、ヒトを含む哺乳動物の腫瘍に対して、外科的な摘出のほかは、抗がん剤と放射線照射が主な治療法となっている。抗がん剤と放射線照射ではいくらかの延命効果はみとめられるものの、重篤な副作用のために生活の快適さは望むことができない。また、正常組織内に深く浸潤した腫瘍は外科的に除去することが困難であり、再発や転移を免れない。
【0004】
癌免疫療法は、近年遺伝子治療法とともに第三の治療法として発案され、生体が本来持っている「癌細胞を排除する能力」を高めて癌を治療しようとするものであり、その中でも樹状細胞を用いた治療法は、とくに注目されている。樹状細胞は多数の膜突起を有し、リンパ球と相互作用できる細胞であり、抗原を取り込み、プロセシングした後、T細胞に抗原提示するという役割を担っている。抗原提示を行う細胞、すなわち抗原提示細胞としては、このほかにマクロファージやB細胞が知られているが、樹状細胞は抗原提示能力が最も高い細胞である。一方、癌細胞は、本来免疫機能によって排除されるべき自己の異常細胞が、排除されずに増殖したものである。従って、抗原提示細胞が癌細胞の抗原を特異的細胞障害性T細胞(CTL)へ提示し、それらを活性化させることができれば、その免疫反応によって癌細胞を駆逐できることが期待される。
【0005】
このように、樹状細胞による癌免疫療法は、指標とする癌細胞に対する特異性が極めて高く、他の組織を障害することがないために副作用がほとんどない。また、癌細胞が癌抗原を提示している限り、体内のどこに浸潤、転移していても、癌抗原特異的CTLが血管やリンパ管を通してその部位に到達し、癌細胞への攻撃を行うため、再発、転移を極めて効率的に防止することができる。
【0006】
近年ヒトの癌治療において、患者の末梢血単球を体外で樹状細胞へ分化させて癌抗原を提示させた後、再び患者体内に戻す治療法が試みられており、癌の再発、転移の防止に効果があったという報告もある。しかしながら、樹状細胞の体内での寿命は約7日以下と短く、また、体外で分化させた樹状細胞を体内に戻すと、その免疫反応誘導能が急速に低下するという問題があり、樹状細胞を使用しても効果的に治療できない(非特許文献1〜4)。したがって、これらの問題を解決しない限り、癌治療での大きな効果をのぞむことができない。このため、極めて効率的に強力な抗癌免疫反応を誘導することができ、癌を退縮、消失させ、再発、転移を防止する方法が求められている。
【0007】
また、これまでに、樹状細胞を活性化して、その免疫反応誘導能を高める物質や癌抗原特異的CTLの活性化をさらに亢進する作用を有する物質が知られている。これらの物質としては、例えばIL−2(非特許文献5及び6)やインターフェロンαと顆粒球単球コロニー刺激因子(GM−CFS)の併用(非特許文献7)などが挙げられる。しかしながら、いずれも効果的な治療効果は得られていない。
【非特許文献1】Romani R, Reider D, Heuer M, Ebner S, Kampgen E, Eibl B, Niederwieser D, Schuler G. 1996. Generation of mature dendritic cells from human blood. An improved method with special regard to clinical applicability. J. Immunol. Methods 196:137-151.
【非特許文献2】Nelson EL, Strobl S, Subleski J, Prieto D, Kopp WC, Nelson PJ. 1999. Cycling of human dendritic cell effector phenotypes in response to TNF-alpha: modification of the current 'maturation' paradigm and implications for invivo immunoregulation. FASEB J. 13: 2021-2030.
【非特許文献3】Gitlitz BJ, Belldegrun AS, Zisman A, Chao DH, Pantuck AJ, Hinkel A, Mulders P, Moldawer N, Tso CL, Figlin RA. 2003. A pilot trial of tumor lysate-loaded dendritic cells for the treatment of metastatic renal cell carcinoma. J Immunother 26: 412-9.
【非特許文献4】Morse MA, Deng Y, Coleman D, Hull S, Kitrell-Fisher E, Nair S, Schlom J, Ryback ME, Lyerly HK. 1999. A phase 1 study of active immunotherapy with carcinoembryonic antigen peptide (CAP-1)-pulsed, autologous human cultured dendritic cells in patients with metastatic cultured dendritic cells in patients with metastatic malignancies expressing carcinoembryonic antigen. Clinical Cancer Research. 5: 1331-1338.
【非特許文献5】Ernstoff MS, Crocenzi TS, Seigne JD, Crosby NA, Cole BF, Fisher JL, Uhlenhake JC, Mellinger D, Foster C, Farnham CJ, Mackay K, Szczepiorkowski ZM, Webber SM, Schned AR, Harris RD, Barth RJ Jr, Heaney JA, Noelle RJ. 2007, Developing a rational tumor vaccine therapy for renal cell carcinoma: immune yin and yang. Clin Cancer Res. 13:733s-740s.
【非特許文献6】van Dervliet HJ, Koon HB, Yue SC, Uzunparmak B, Seery V, Gavin MA, Rudensky AY, Atkins MB, Balk SP, Exley MA. 2007, Effects of the administration of high-dose interleukin-2 on immunoregulatory cell subsets in patients with advanced melanoma and renal cell cancer. Clin Cancer Res. 13:2100-8.
【非特許文献7】Mayordomo JI, Andres R, Isla MD, Murillo L, Cajal R, Yubero A, Blasco C, Lasierra P, Palomera L, Fuertes MA, Guemes A, Sousa R, Garcia-PratsMD, Escudero P, Saenz A, Godino J, Marco I, Saez B, Visus C, Asin L, Valdivia G, Larrad L, Tres A. 2007, Results of a pilot trial of immunotherapy with dendritic cells pulsed with autologous tumor lysates in patients with advanced cancer. Tumori 93:26-30.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、腫瘍を効率的に退縮、消失させて、再発や転移を防止することを目的とするものである。具体的には、本発明は、腫瘍を効率的に退縮、消失させて、再発や転移を防止することが可能な腫瘍治療用組成物、腫瘍治療用キットおよび腫瘍の治療方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題に鑑みて、腫瘍の治療効果をより高める観点から研究を行ったところ、腫瘍を患っている哺乳動物の腫瘍患部に、樹状細胞をインターフェロンγとともに投与することによって、該腫瘍を退縮でき、腫瘍を完治近くまで治療できることを見出した。本発明は当該知見に基づきさらに検討を重ねた結果完成されたものであり、下記に掲げるものである。
項1.樹状細胞およびインターフェロンγを含む腫瘍治療用組成物。
項2.樹状細胞が未成熟の樹状細胞および/または腫瘍抗原を取り込んだ樹状細胞である、項1に記載の腫瘍治療用組成物。
項3.イヌ用の腫瘍治療用組成物である、項1または2に記載の腫瘍治療用組成物。
項4.腫瘍が、乳腺癌、線維肉腫、肺細胞癌及び皮脂腺上皮腫から選択される少なくとも1つである、項1〜項3のいずれかに記載の腫瘍治療用組成物。
項5.樹状細胞を含む第1組成物およびインターフェロンγを含む第2組成物を含有する腫瘍治療用キット。
項6.樹状細胞が未成熟の樹状細胞および/または腫瘍抗原を取り込んだ樹状細胞である、項5に記載の腫瘍治療用キット。
項7.イヌ用の腫瘍治療用組成物である、項5または項6に記載の腫瘍治療用キット。
項8.腫瘍が、乳腺癌、線維肉腫、肺細胞癌及び皮脂腺上皮腫から選択される少なくとも1つである、項5〜項7のいずれかに記載の腫瘍治療用組成物。
項9.腫瘍を患っている動物の腫瘍患部に、樹状細胞とインターフェロンγを投与する工程を含む腫瘍の治療方法。但し、ヒトの腫瘍の治療方法を除く。
項10.樹状細胞が未成熟の樹状細胞および/または腫瘍抗原を取り込んだ樹状細胞である、項9に記載の腫瘍の治療方法。
項11.イヌ用の腫瘍治療用組成物である、項9または項10に記載の腫瘍の治療方法。
項12.腫瘍が、乳腺癌、線維肉腫、肺細胞癌及び皮脂腺上皮腫から選択される少なくとも1つである、項9〜項11のいずれかに記載の腫瘍の治療方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、極めて効率的に強力な抗腫瘍免疫反応を誘導することができ、これにより従来技術では治療できなかった腫瘍を退縮、消失させることができ、腫瘍の再発や転移を遅滞または防止することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の腫瘍治療用組成物
本発明の腫瘍治療用組成物に含まれる樹状細胞は、未成熟の樹状細胞でもよく、また腫瘍抗原を取り込んだ樹状細胞でもよい。ここで、腫瘍抗原とは治療対象の腫瘍の抗原となっているものを指す。また、ここで未成熟の樹状細胞とはその樹状細胞表面に抗原を提示できる能力を有するものである。これは、既に腫瘍抗原を取り込んだものであっても、いまだ腫瘍抗原を取り込んでいないものであってもよい。
【0012】
また、腫瘍抗原を取り込んだ樹状細胞とは既に腫瘍抗原を取り込んでいる樹状細胞であり、既にその表面に抗原を提示している樹状細胞であっても、いまだその表面に抗原を提示していないものの腫瘍を患っている哺乳動物に投与された後に生体内で抗原を提示できる樹状細胞であってもよい。
【0013】
本発明の腫瘍治療用組成物に含まれる樹状細胞としては、未成熟の樹状細胞単独であってもよく、腫瘍抗原を取り込んだ樹状細胞単独であってもよく、また未成熟の樹状細胞と腫瘍抗原を取り込んだ樹状細胞の両者を含んでいてもよい。好ましくは、本発明の腫瘍治療用組成物には、少なくとも未成熟の樹状細胞が含まれていることが好ましい。
【0014】
本発明の腫瘍治療用組成物に含まれる樹状細胞は、単球から分化させることによって得ることができる。単球の由来は限定されず、当業者が適宜選択すればよいが、単球から分化させた樹状細胞を腫瘍を患っている哺乳動物に投与した場合に、生体内において免疫(T)細胞による過剰な拒絶反応が生じないものが好ましい。このため、単球は、腫瘍を患った哺乳動物自身あるいは、腫瘍を患った哺乳動物と同一の組織適合抗原を持った同種の個体から採取したものが好ましい。
【0015】
単球から樹状細胞への分化方法は、上記の未成熟の樹状細胞および/または腫瘍抗原取り込み能を有する樹状細胞が得られる方法であれば限定されない。例えば、単球を分化誘導剤を含む培地で培養することによって、単球を樹状細胞へと分化させる方法が挙げられる。単球の取得方法は、公知の方法に従えばよい。
【0016】
ここで使用される分化誘導剤は限定されない。例えば、一般的に使用される分化誘導剤としてはインターロイキン(IL)−4、顆粒球単球コロニー刺激因子(GM−CSF)、腫瘍壊死因子(TNF)‐α、腫瘍化増殖因子(TGF)‐β、CD40リガンドやこれらの遺伝子組換え体などが例示でき、単球の由来や得ようとする樹状細胞の状態に応じて当業者が適宜選択すればよい。
【0017】
また、特開2007−43912号公報あるいはVet Immunol Immunopathol 2006, Vol. 114, p. 37-48に記載されている分化誘導剤、すなわちT細胞を抗CD3抗体で刺激し
て得たサイトカイン(TCM)を使用することによっても単球から樹状細胞へと分化誘導できる。
【0018】
単球を培養する際の分化誘導剤の濃度は、例えば使用する分化誘導剤の種類や力価によっても異なるため、使用する分化誘導剤の種類、単核の由来、また得ようとする樹状細胞の状態に応じて適宜調整すればよい。例えば、分化誘導剤として、T細胞を抗CD3抗体で刺激して得たサイトカイン(TCM)を使用する場合には、好ましくは4〜100v/v
%、より好ましくは10〜50v/v%、さらに好ましくは25v/v%である。
【0019】
また、単球の培養時間も、使用する分化誘導剤の種類、単核の由来、また得ようとする樹状細胞の状態に応じて適宜調整すればよい。例えば、単球から未成熟の樹状細胞へと分化させる場合には、単球の培養時間は37℃5%CO条件下で好ましくは4〜12日間であり、より好ましくは5〜10日間であり、さらに好ましくは6〜8日間である。このような培養時間であれば、生体内外において腫瘍抗原取り込み能を有する樹状細胞を効率よく得ることができる。また、このような培養時間を著しく超える場合には、腫瘍抗原取り込み能を有さない樹状細胞、すなわち成熟した樹状細胞の割合が、腫瘍抗原取り込み能を有する樹状細胞に対して高くなる。このため、単球の培養時間を著しく長くすることは好ましくない。
【0020】
単球を樹状細胞へと分化させる際に使用する培地は、当業者が適宜選択すればよい。例えば、RPMI1640培地、イーグル培地、ダルベッコ改変イーグル培地など種々の培地を使用することができる。
【0021】
また、単球を、腫瘍抗原を既に取り込んだ樹状細胞へと分化誘導させようとする場合には、単球または樹状細胞をさらに腫瘍抗原と接触させればよい。単球および/または樹状細胞と腫瘍抗原との接触時間は、単球の由来や樹状細胞の状態、腫瘍抗原の種類や濃度などに応じて適宜調整すればよい。例えば、抗原として癌組織の溶解物(ライセート)を用いる場合には、接触時間は18〜24時間とすることもできる。ここで、腫瘍抗原とは治療対象の腫瘍の抗原となっているものを指す。
【0022】
本発明の腫瘍治療用組成物に含まれるインターフェロンγは、臨床で用いられるものであれば限定されず、天然型および組換え型のいずれでもよいが、インターフェロンγを腫瘍を患っている哺乳動物に投与した場合に、生体内において過剰な拒絶反応が生じないものが好ましい。このため、インターフェロンγは、より好ましくは腫瘍を患った哺乳動物と同じ科由来のものである。
【0023】
インターフェロンγ(以下、INFγと称することもある)は、活性化した1型ヘルパーT細胞より分泌されるサイトカインで、樹状細胞を活性化して、その免疫反応誘導能を高めるとともに、樹状細胞が誘導する癌抗原特異的CTLの活性化をさらに亢進するという働きがある。また、インターフェロンγは、ナチュラルキラー細胞(以下、NK細胞と称することもある)などの癌抗原に依存しない免疫活性をも高めることができる。
【0024】
本発明の腫瘍治療用組成物に含まれる樹状細胞とインターフェロンγの含有割合は特に制限されず、投与量等に基づいて、適宜調整すればよい。また、本発明の腫瘍治療用組成物の投与量については、腫瘍を患っている動物腫瘍の程度、年齢、体重等の種々の要因に基づいて、適宜調整すればよい。
【0025】
例えば、本発明の腫瘍治療用組成物を5〜12Kgの哺乳動物に投与しようとする場合、1個体あたり樹状細胞を5万個〜1000万個、インターフェロンγを体重1Kgあたり5000単位〜5万単位を与えることができる。この場合、樹状細胞をリン酸緩衝食塩水などに浮遊させて、その浮遊液に上記用量のインターフェロンγを混合し、癌組織内に注入して投与することができる。
【0026】
そして、例えば5〜12Kgの哺乳動物1個体あたり樹状細胞を30万個〜100万個、インターフェロンγを体重1Kgあたり1万単位を与えようとする場合、本発明の腫瘍治療用組成物は、その単回投与量が、樹状細胞30万個〜100万個とインターフェロンγ5〜12万単位の割合で含むように製造することができる。この場合、本発明の腫瘍治療用組成物には、樹状細胞1cellに対して0.05〜0.4単位のインターフェロンγが含有されていることになる。
【0027】
また、本発明の腫瘍治療用組成物は、標的とする腫瘍に樹状細胞およびインターフェロンγが到達できる限り投与経路は限定されないが、好ましくは非経口投与である。非経口投与としては局所投与、全身投与などが挙げられる。好ましくは局所投与である。
【0028】
非経口的に投与する場合、本発明の腫瘍治療用組成物は腫瘍を患った動物の腫瘍患部に投与すればよい。腫瘍患部とは、腫瘍組織内でもよく、腫瘍組織周辺でもよい。また、投与された樹状細胞およびインターフェロンγは、リンパ節を通って腫瘍組織乃至腫瘍組織周辺の腫瘍患部に到達できるため、樹状細胞およびインターフェロンγが標的とする腫瘍に到達できる限り任意の部分に投与してもよい。好ましくは腫瘍組織内または腫瘍組織周辺であり、さらに好ましくは腫瘍組織内である。また、本発明の腫瘍治療用組成物は、腫瘍摘出処理と併用することもできる。本発明の腫瘍治療用組成物を腫瘍摘出処理と併用する場合には、本発明の腫瘍治療用組成物を腫瘍摘出部位周辺や残存している腫瘍組織内に投与してもよく、また樹状細胞およびインターフェロンγが標的とする腫瘍に到達できる限り任意の部分に投与できる。投与方法は、従来の方法に従えばよい。
【0029】
本発明において処置の対象となる腫瘍は限定されず、生体内での腫瘍免疫反応による処置が要求されるものであれば悪性腫瘍および良性腫瘍のいずれでもよい。悪性腫瘍の例としては、乳腺癌、線維肉腫、悪性組織球腫、肺細胞癌、血管肉腫、悪性リンパ腫などが挙げられる。増殖力の強い良性腫瘍の例としては、混合型乳腺種、皮脂腺上皮腫が挙げられる。好ましくは、乳腺癌、線維肉腫、肺細胞癌及び皮脂腺上皮腫である。
【0030】
また、本発明の腫瘍治療用組成物の適用対象は限定されず、例えばマウス、ラット、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、サルおよびヒトなどの哺乳動物が挙げられる。
【0031】
また、本発明の腫瘍治療用組成物は、その投与経路等に応じて固形状、半固形状または液体状等のいずれもの形態に調製することができる。そして、例えば本発明の腫瘍治療用組成物が固形状や半固形状の場合には、錠剤、カプセル剤、丸剤、粉末(散剤)又は顆粒剤、坐剤等が例示され、これらのものは、使用前に何らかの溶剤に懸濁・溶解して使用されることが好ましい。また液体状の場合には、経口用の液剤、懸濁剤、乳剤、非経口用では注射剤や点滴剤が例示される。投与経路としては非経口投与が好ましいことから、本発明の腫瘍治療用組成物の形態は注射可能な粘度を有する液体状であることが好ましい。
【0032】
また、本発明の腫瘍治療用組成物には、樹状細胞とインターフェロンγ以外にも、本発明の効果を阻害しない限り、薬学的に許容される担体や添加剤を含有していてもよい。薬学的に許容される担体および添加剤の種類並びにその配合量は、本発明の腫瘍治療用組成物の治療効果を療増強効果を妨げるものでなければ特に制限されず、当業者により適宜調整される。例えば、担体としてはリン酸緩衝食塩水、ハンクス液、生理的食塩水などが例示される。また、上記のほかにIL−12、TNFα、CD40リガンドなどを含有してもよい。
【0033】
本発明の腫瘍治療用組成物は、その効果を発揮する限度において投与間隔は制限されず、単独で用いてもよく、またインターフェロンγ単独投与と組合わせて用いてもよい。本発明の腫瘍治療用組成物を単独で用いる場合、その投与回数は1回でも複数回でもよく、対象とする哺乳動物、患っている腫瘍およびその治療効果にあわせて当業者が適宜調整すればよい。
【0034】
本発明の腫瘍治療用組成物を、インターフェロンγ単独投与と組合わせて投与する場合、本発明の腫瘍治療用組成物を投与した後にインターフェロンγを投与してもよく、また本発明の腫瘍治療用組成物の投与に先立ってインターフェロンγを投与してもよい。本発明の腫瘍治療用組成物を投与した後にインターフェロンγを投与することが好ましい。ここで使用されるインターフェロンγは、臨床で用いられるものであれば限定されず、天然型および組換え型のいずれでもよいが、インターフェロンγを腫瘍を患っている哺乳動物に投与した場合に、生体内において過剰な拒絶反応が生じないものが好ましい。このため、インターフェロンγは、より好ましくは腫瘍を患った哺乳動物と同じ科由来のものおよび本発明の腫瘍治療用組成物に含まれているインターフェロンγと同じものである。特に好ましくは、本発明の腫瘍治療用組成物に含まれているインターフェロンγと同じものである。
【0035】
本発明の腫瘍治療用組成物を投与した後にインターフェロンγを投与する場合、本発明の腫瘍治療用組成物の投与回数およびインターフェロンγの投与回数は限定されない。例えば、本発明の腫瘍治療用組成物とインターフェロンγとを1回ずつ交互に投与してもよく、本発明の腫瘍治療用組成物を数回投与するごとにインターフェロンγを1回投与してもよく、またインターフェロンγを数回投与するごとに本発明の腫瘍治療用組成物を1回投与してもよい。インターフェロンγを数回投与するごとに本発明の腫瘍治療用組成物を1回投与することが好ましい。
【0036】
また、本発明の腫瘍治療用組成物とインターフェロンγとを併用する場合には、これらは同日に投与してもよく、また異なる日に投与してもよいが、腫瘍治療用組成物とインターフェロンγは同日に投与することが好ましい。また、これらは毎日投与してもしなくてもよく、投与間隔は治療効果にあわせて当業者が適宜調整すればよい。例えば、腫瘍を患った哺乳動物に本発明の腫瘍治療用組成物とインターフェロンγを同日投与し、この2日後からインターフェロンγのみを2日ごとに5回投与し、さらにその4日後、再び本発明の腫瘍治療用組成物とインターフェロンγを同日投与し、この2日後からインターフェロンγのみを2日ごとに5回投与することができる。
【0037】
本発明は、前述の従来の技術によれば解決されなかった問題、すなわち腫瘍を効率的に退縮、消失させて、再発や転移を防止することを目的とするものであり、本発明の腫瘍治療用組成物によれば、腫瘍を効率的に退縮、消失させることが可能である。
【0038】
本発明の腫瘍治療用キット
本発明の腫瘍治療用キットは、樹状細胞を含む第1組成物とインターフェロンγを含む第2組成物とを含有するものである。
【0039】
本発明の腫瘍治療用キットの第1組成物に含まれる樹状細胞は、未成熟の樹状細胞でもよく、腫瘍抗原を取り込んだ樹状細胞でもよく、これらは上述と同様である。該樹状細胞は上述の方法に従い単球から分化させることによって得ることができ、単球の由来をはじめ、分化誘導剤、分化誘導剤の濃度、単球の培養時間および培地も上述の通りである。該樹状細胞が腫瘍抗原と接触させた樹状細胞である場合には、上記と同様にして単球および/または樹状細胞と腫瘍抗原とを接触させればよい。本発明の腫瘍治療用キットの第2組成物に含まれるインターフェロンγも特に制限されず、上述の通りである。
【0040】
本発明の腫瘍治療用キットの第1組成物に含まれる樹状細胞の含有割合と、第2組成物に含まれるインターフェロンγの含有割合についても、適用対象、腫瘍の程度、投与量などに応じて適宜設定される。また、該第1組成物及び第2組成物のそれぞれの投与量、これらの投与経路、適用対象となる腫瘍患部も上述する腫瘍治療用組成物の場合と同様である。
【0041】
本発明の腫瘍治療用キットの第1組成物と第2組成物の剤形についても特に制限されず、例えば、注射剤や点滴剤が例示される。これら樹状細胞とインターフェロンγの投与経路としては非経口投与が好ましいことから、第1組成物と第2組成物は注射可能な粘度を有する液体状であることが好ましい。
【0042】
また、本発明の腫瘍治療用キットの第1組成物および第2組成物には、それぞれ樹状細胞およびインターフェロンγ以外にも、本発明の効果を阻害しない限り、上述の通り薬学的に許容される担体や添加剤などを含有していてもよい。
【0043】
本発明の腫瘍治療用キットの第1組成物と第2組成物は、その効果を発揮する限度において投与間隔は制限されず、第1組成物と第2組成物とを同時に投与してもよく、また第1組成物投与した後に第2組成物を投与してもよい。さらに、また第2組成物を数回投与するごとに第1組成物を1回投与してもよい。
【0044】
なかでも、最初に第1組成物と第2組成物とを同時に投与し、その後は第2組成物を数回投与するごとに第1組成物を1回投与し、ここで第1組成物を投与する際には同時に第2組成物を投与することが好ましい。
【0045】
本発明の腫瘍治療用キットは、本発明の腫瘍治療用キットには含まれていないインターフェロンγと併用してもよく、この場合、腫瘍治療用キットには含まれていないインターフェロンγは、一般に臨床で使用されるものであれば限定されず、上述の通りである。
【0046】
本発明の腫瘍治療用キットの第1組成物と第2組成物、さらには本発明の腫瘍治療用キットには含まれていないインターフェロンγの投与回数や投与間隔は、対象とする動物、患っている腫瘍およびその治療効果にあわせて上述の通り適宜調整すればよい。例えば、腫瘍を患った哺乳動物に第1組成物と第2組成物とを同時に投与し、この2日後から第2組成物のみを2日ごとに5回投与し、さらにその4日後、再び第1組成物と第2組成物とを同時に投与し、この2日後から第2組成物のみを2日ごとに5回投与することができる。
【0047】
また、本発明の腫瘍治療用キットにおける樹状細胞およびインターフェロンγ、ならびに第1組成物および第2組成物の含有量および含有割合は、上記投与間隔や本発明の腫瘍治療用キットには含まれていないインターフェロンγとの併用の有無により、適宜調整される。例えば、本発明の腫瘍治療用キットを5〜12Kgの哺乳動物に適用しようとする場合には、1個体あたり、第1組成物に含まれる樹状細胞を5万個〜1000万個、第2組成物に含まれるインターフェロンγを体重1Kgあたり5000単位〜5万単位与えることができる。このため、これらを満たすように、本発明の腫瘍治療用キットに第1組成物および第2組成物が含有されるように調整されていればよい。
【0048】
本発明は、前述の従来の技術によれば解決されなかった問題を解消、すなわち従来技術では効果的に治療できなかった腫瘍を効率的に退縮、消失させて、再発や転移を防止することを目的とするものであり、本発明の腫瘍治療用キットによれば、腫瘍を効率的に退縮、消失させることが可能である。
【0049】
本発明の腫瘍の治療方法
本発明の腫瘍の治療方法は、腫瘍を患っている哺乳動物に対して、樹状細胞とインターフェロンγを投与する工程を含み、該哺乳動物の腫瘍を退縮、消失させるものである。該方法では上述と同様の樹状細胞とインターフェロンγを使用することができる。また、腫瘍を患っている哺乳動物への樹状細胞とインターフェロンγの投与量、投与経路、腫瘍患部、投与順序および投与間隔も上述の通りであり、これらは上述の形態で保持乃至投与することができる。また、本発明の腫瘍の治療方法は、上述と同様の腫瘍を治療対象とすることができ、また上述と同様の哺乳動物を治療対象とすることができる。本発明の腫瘍の治療方法は、簡便には、上述する腫瘍治療用組成物又は腫瘍治療用キットを投与することにより実施される。
【0050】
本発明の腫瘍の治療方法によれば、従来技術では効果的に治療できなかった腫瘍を効率的に退縮、消失させることが可能である。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を以下の実施例を用いて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
1.症例1及び症例2
細胞診断によって乳腺癌と診断されたイヌ1匹(症例1)および組織診断によって皮脂腺上皮腫と診断されたイヌ1匹(症例2)のがん罹患犬に対して、以下に述べる処置を行った。
処置方法
(手順1)各々の罹患犬の末梢血(約10ml)から単球を分離し、樹状細胞への分化誘導培養に供した。末梢血からの単球の分離方法および樹状細胞への分化誘導法は、Vet. Immunol Immunopathol 2006, Vol. 114, p. 37-48および特開2007−43912号公報に記載された方法を用いた。
(手順2)上記培養開始から7日後に、未成熟の樹状細胞にまで分化した培養細胞を回収し、30万個〜100万個の樹状細胞をイヌインターフェロンγ(1万単位/Kg体重)とともに腫瘍組織内に注入した。
(手順3)手順2の2日後から、イヌインターフェロンγ(1万単位/Kg体重)を2日ごとに5回腫瘍組織内に注入した。
(手順4)手順2の14日後にイヌインターフェロンγ(1万単位/Kg体重)を腫瘍組織内に注入した。同日末梢血(約10ml)を採取し、手順1と同様に単球を分離し、樹状細胞への分化誘導培養に供した。
(手順5)手順4の7日後に培養細胞を回収し、同様にして樹状細胞をイヌインターフェロンγ(1万単位/Kg体重)とともに腫瘍組織内に注入した。
(手順6)手順5の7日後から、イヌインターフェロンγ(1万単位/Kg体重)を7日ごとに腫瘍組織内に注入し、治療効果を観察した。
結果
症例1では、図1に示すように、腫瘍の大きさは、処置後縮小していき、処置開始後14日で約半分の大きさとなり、開始後50日で肉眼的には認められなくなった。処置前には、図2に示すような異型細胞(癌細胞)が認められたが、開始後50日の腫瘍跡には、図3に示すようにマクロファージなどのわずかな炎症性細胞が認められるだけで異型細胞は認められなかった。
【0052】
症例2では、図4に示すように、処置前には、ゴルフボール大であった腫瘍は、処置開始後80日で約十分の一の大きさまで縮小した。この腫瘍は、組織学的に皮脂腺上脾腫であった(図5)。処置開始後の腫瘍縮小部位では、正常な表皮の再生(図6)が認められ、組織学的にも治療効果が証明された。このように、本方法によれば、従来技術では実現できなかった程度にまで、効果的に腫瘍を治療することが可能であった。
2.症例3
細胞診断によって線維肉腫と診断され、該線維肉腫の摘出手術を受けた後、イヌインターフェロンγのみの治療によって効果を示さなかったイヌ1匹(症例3)のがん罹患犬に対して、以下に述べる処置を行った。ただし、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。前述のイヌインターフェロンγのみの治療によって効果を示さなかったイヌとして、後述する「比較症例1」(図18)を例示できる。
処置方法
(手順1)症例3の罹患犬の末梢血(約10ml)から単球を分離し、樹状細胞への分化誘導培養に供した。末梢血からの単球の分離方法および樹状細胞への分化誘導法は、Vet. Immunol Immunopathol 2006, Vol. 114, p. 37-48および特開2007−43912号公報に記載された方法を用いた。
(手順2)上記培養開始から7日後に、未成熟の樹状細胞にまで分化した培養細胞を回収し、30万個〜100万個の樹状細胞をイヌインターフェロンγ(1万単位/Kg体重)とともに腫瘍組織内に注入した。同日末梢血(約10ml)を採取し、手順1と同様に単球を分離し、樹状細胞への分化誘導培養に供した。
(手順3)手順2の2日後および5日後にイヌインターフェロンγ(1万単位/Kg体重)を腫瘍組織内に注入した。
(手順4)手順2の7日後から7日毎に手順2と同様に未成熟の樹状細胞にまで分化した培養細胞を回収し、30万個〜100万個の樹状細胞をイヌインターフェロンγ(1万単位/Kg体重)とともに腫瘍組織内に注入した。なお、前記腫瘍組織内へ注入する樹状細胞は、樹状細胞とイヌインターフェロンγの腫瘍組織内への注入と同日に採取された末梢血(約10ml)から分離した単球を、樹状細胞への分化誘導培養に7日間供することにより得た。
(手順5)手順4の樹状細胞とイヌインターフェロンγの注入の毎2日後および毎5日後にイヌインターフェロンγ(1万単位/Kg体重)を腫瘍組織内に注入した。
結果
図7に示すように処置開始から30日後には、腫瘍部位は壊死組織様の外観を呈し、図8に示すように組織学的に好中球の著しい浸潤と変性壊死した腫瘍細胞(矢印)が認められ、壊死組織に置換されていることが判明した。このように、本方法によれば、従来技術では実現できなかった程度にまで、予想外に効果的に腫瘍を治療することが可能であった。
3.症例4
細胞診断によって乳腺癌と診断されたイヌ1匹(症例4)のがん罹患犬に対して、以下に述べる処置を行った。ただし、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
処置方法
(手順1)症例3の罹患犬の末梢血(約10ml)から単球を分離し、樹状細胞への分化誘導培養に供した。末梢血からの単球の分離方法および樹状細胞への分化誘導法は、Vet. Immunol Immunopathol 2006, Vol. 114, p. 37-48および特開2007−43912号公報に記載された方法を用いた。
(手順2)上記培養開始から7日後に、未成熟の樹状細胞にまで分化した培養細胞を回収し、30万個〜100万個の樹状細胞をイヌインターフェロンγ(1万単位/Kg体重)とともに腫瘍組織内に注入した。同日末梢血(約10ml)を採取し、手順1と同様に単球を分離し、樹状細胞への分化誘導培養に供した。
(手順3)手順2の7日後から7日毎に手順2と同様に未成熟の樹状細胞にまで分化した培養細胞を回収し、30万個〜100万個の樹状細胞をイヌインターフェロンγ(1万単位/Kg体重)とともに腫瘍組織内に注入した。なお、前記腫瘍組織内へ注入する樹状細胞は、樹状細胞とイヌインターフェロンγの腫瘍組織内への注入と同日に採取された末梢血(約10ml)から分離した単球を、樹状細胞への分化誘導培養に7日間供することにより得た。
結果
処置前の症例4では、図9に示すように乳頭周囲に盛り上がりがみられ、図10に示すように、ニードルバイオプシーによって乳腺癌と診断された。処置開始から30日後には、図11に示すように乳頭周囲に盛り上がりはなくなって白色を示し、瘢痕組織となっていた。このように、本方法によれば、予想外に優れた治療効果を得ることが可能であった。
4.症例5
細胞診断によって肺細胞癌と診断されたイヌ1匹(症例5)のがん罹患犬に対して、以下に述べる処置を行った。ただし、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
処置方法
(手順1)症例5の罹患犬の末梢血(約10ml)から単球を分離し、樹状細胞への分化誘導培養に供した。末梢血からの単球の分離方法および樹状細胞への分化誘導法は、Vet. Immunol Immunopathol 2006, Vol. 114, p. 37-48および特開2007−43912号公報に記載された方法を用いた。
(手順2)上記培養開始から7日後に、未成熟の樹状細胞にまで分化した培養細胞を回収し、30万個〜100万個の樹状細胞をイヌインターフェロンγ(1万単位/Kg体重)とともに胸腔内に注入した。同日末梢血(約10ml)を採取し、手順1と同様に単球を分離し、樹状細胞への分化誘導培養に供した。
(手順3)手順2の3日後および5日後にイヌインターフェロンγ(1万単位/Kg体重)を胸腔内に注入した。
(手順4)手順2の7日後から7日毎に手順2と同様に未成熟の樹状細胞にまで分化した培養細胞を回収し、30万個〜100万個の樹状細胞をイヌインターフェロンγ(1万単位/Kg体重)とともに胸腔内に注入した。なお、前記胸腔内へ注入する樹状細胞は、樹状細胞とイヌインターフェロンγの胸腔内への注入と同日に採取された末梢血(約10ml)から分離した単球を、樹状細胞への分化誘導培養に7日間供することにより得た。
(手順5)手順4の樹状細胞とイヌインターフェロンγの注入の毎3日後および毎5日後にイヌインターフェロンγ(1万単位/Kg体重)を胸腔内に注入した。
結果
処置前の症例5では、図12に示すようにX線検査像において右肺野に陰影(星印)がみられ、図13に示すように、右胸腔内のニードルバイオプシーによって肺腺癌(肺細胞癌)と診断された。処置開始から24日後には、図14に示すように右肺野の陰影(星印)は軽減されていた。このように、本方法によれば、従来技術では実現できなかった程度にまで、顕著な治療効果を発揮することが可能であった。
5.比較症例1
図15に示す症例(比較症例1)は、イヌの口腔内に発生した腫瘍で、ニードルバイオプシー標本(図16)による組織学的検査で線維肉腫と診断された。この悪性腫瘍を可能な限り摘出し(図17)、再発防止のためにイヌインターフェロンγ(1万単位/Kg体重)のみの腫瘍組織内隔日注入による処置を行ったが、10日後には、肉眼で認められるほど腫瘍が増殖し、再発が明らかになった(図18)。
6.比較症例2
前述の症例2(皮脂腺上皮腫)では、初めの40日間において、イヌインターフェロンγ(1万単位/Kg体重)のみの腫瘍組織内隔日注入による処置を行った。しかしながら、図19及び図20に示すように腫瘍の大きさはほとんど変化しなかった。
7.比較症例3及び4
前述の症例1と同様な炎症性乳腺癌(比較症例3)および微小乳腺癌(比較症例4)の2つの症例に対して、イヌインターフェロンγ(1万単位/Kg体重)のみの腫瘍組織内隔日注入による処置を行ったが、腫瘍の増殖を阻止できず、死亡した。
8.評価
上記症例1〜5の及び比較症例1〜4の臨床評価をRECIST(response evaluation criteria in solid tumors)による判定基準に基づいてまとめたものを以下の表1に示す。なお、CRは完全奏功、PRは部分奏功、SDは病気(病変)の安定、PDは病気(病変)の進行を表す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から明らかなように、樹状細胞とインターフェロンγの併用投与による本発明の処置方法によれば、各種腫瘍を有意に治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】症例1の処置前、処置後の腫瘍の肉眼的所見を示す。
【図2】症例1の処置前腫瘍部位のニードルバイオプシー標本を示す。矢印は腫瘍細胞を示す。
【図3】症例1の処置後の腫瘍跡のニードルバイオプシー標本を示す。矢印はマクロファージを示す。
【図4】症例2の処置前、処置後の腫瘍の肉眼的所見を示す。
【図5】症例2の処置前の腫瘍部位のバイオプシー標本を示す。異型性の高い上皮様細胞(皮脂腺上脾腫)(E)の周りを異型性の低いやや分化した脂肪腫細胞(A)が取り囲んでいる。(F)は結合組織を示す。
【図6】症例2の処置後の腫瘍収縮跡のバイオプシー標本を示す。図6(A):異型細胞は認められず、メラニンが沈着した再生正常表皮が認められる。また、リンパ球の軽度な浸潤がみられる。図6(B):腫瘍収縮跡の真皮には、拡張した毛包が認められるものの、異型細胞は認められない。
【図7】症例3の処置開始30日後の腫瘍の肉眼的所見を示す。
【図8】症例3の処置開始30日後の患部のスタンプ標本を示す。
【図9】症例4の処置前の腫瘍の肉眼的所見を示す。
【図10】症例4の処置前の腫瘍部位のニードルバイオプシー標本を示す。
【図11】症例4の処置後の腫瘍の肉眼的所見を示す。
【図12】症例5の処置前の腫瘍の腫瘍部分のX線検査像を示す。
【図13】症例5の処置前の腫瘍部位のニードルバイオプシー標本を示す。
【図14】症例5の処置開始24日後の腫瘍の腫瘍部分のX線検査像を示す。
【図15】比較症例1の処置前の腫瘍の肉眼的所見を示す。
【図16】比較症例1の処置前の腫瘍部位のニードルバイオプシー標本を示す。
【図17】比較症例1の腫瘍摘出後の外観を示す。
【図18】比較症例1の処置後の腫瘍の肉眼的所見を示す。
【図19】比較症例2の処置前の腫瘍の肉眼的所見を示す。
【図20】比較症例2の処置後の腫瘍の肉眼的所見を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹状細胞およびインターフェロンγを含む腫瘍治療用組成物。
【請求項2】
樹状細胞が未成熟の樹状細胞および/または腫瘍抗原を取り込んだ樹状細胞である、請求項1に記載の腫瘍治療用組成物。
【請求項3】
イヌ用の腫瘍治療用組成物である、請求項1または2に記載の腫瘍治療用組成物。
【請求項4】
腫瘍が、乳腺癌、線維肉腫、肺細胞癌及び皮脂腺上皮腫から選択される少なくとも1つである、請求項1〜3のいずれかに記載の腫瘍治療用組成物。
【請求項5】
樹状細胞を含む第1組成物およびインターフェロンγを含む第2組成物を含有する腫瘍治療用キット。
【請求項6】
樹状細胞が未成熟の樹状細胞および/または腫瘍抗原を取り込んだ樹状細胞である、請求項5に記載の腫瘍治療用キット。
【請求項7】
腫瘍を患っている哺乳動物(但し、ヒトを除く)の腫瘍患部に、樹状細胞とインターフェロンγを投与する工程を含む腫瘍の治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−13166(P2009−13166A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−143465(P2008−143465)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】