説明

腫瘍溶解性アデノウイルス組換え体、特に、腫瘍において免疫調節因子GM−CSFを発現する組換え体の構築およびその利用

本発明は腫瘍に対する遺伝子治療に関するものであり、特に、腫瘍溶解性アデノウイルス組換え体の構築に関するものであり、該組換え体は、腫瘍細胞において特異的に複製され、ヒト体内における腫瘍特異的な免疫反応を誘導するための免疫刺激因子を発現する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は腫瘍に対する遺伝子治療に関するものであり、特に、腫瘍溶解性アデノウイルス組換え体の構築に関するものであり、該組換え体は、腫瘍細胞において特異的に複製され、ヒト体内における腫瘍特異的な免疫反応を誘導するための免疫刺激因子を発現する。
【0002】
〔発明の背景〕
腫瘍性の疾患の治療のためにウイルスが用いられてから1世紀以上が経つ。医者は患者がウイルスに感染後、たまに快復することに気付いた。このパズルは、1920年代初頭まで解決されなかったが、その後、多くの科学者および臨床医の興味を引いた。これがウイロセラピー(癌治療のためのウイルスの使用)の始まりであった。1950年代までに、動物または患者において、50以上のウイルスが抗癌活性を試験されている(Mullen and Tanabe(2002)The Oncologist 7:106−119;McCormick F(2001)Nature Review Cancer 1:130−141)。1956年、スミス博士および彼のチームは、野生型アデノウイルスの10のセロタイプが感染したHeLa細胞またはKB細胞の溶解物を、腫瘍内注射、肝臓内動脈注射、または肝臓内静脈注射することにより、30人以上の子宮頸癌患者を治療した。多くの患者における流感の症状を除けば、深刻な副作用は全く観察されなかった;一方、幾人かの患者の腫瘍は縮小し、壊死した。不幸なことに、ウイルスの生産および純化の限界から、この仕事はこれ以上進められなかった。スミス博士の業績は、癌治療のためのウイルスの使用可能性の探求へと、多くの科学者を後押しした(Chiocca EA(2002)Nature Review Cancer 2:938−950)。
【0003】
分子生物学および遺伝子工学の進歩、特に、ヒトに関するウイルスをより深く理解するに従って、科学者らは先の世紀より、ウイルスゲノムを遺伝学的に操作し得るようになった。これには、腫瘍細胞において特異的に複製を行うウイルス変異体の作出に成功したこと(McCormick F(2001)Nature Review Cancer 1:130−141)が含まれる。例えば、神経膠腫特異的ヘルペスウイルス変異体G207(Martuza et al.,(1991)Science 252:854−856)、p53に欠陥のある腫瘍細胞において優先的に複製を行うアデノウイルス変異体Addl1520(Onyx−015)(Bischoff et al.,(1996)Science 274:373−376)、および前立腺癌細胞特異的アデノウイルス変異体CV706(Rodriguez et al.(1997)Cancer Research 57:2559−2563)。上記業績は新規分野、癌ウイロセラピーの形成への土台を敷設した。現在、20を超えるウイルス変異体が臨床試験中である(Mullen and Tanabe(2002)The Oncologist 7:106−119)。
【0004】
腫瘍細胞特異的な腫瘍溶解性ウイルスを作成するためのアプローチはいくつか存在する。腫瘍細胞において選択的に複製を行うウイルス変異体を作成するための1つのアプローチは、例えば、アデノウイルスの、E1A、E1B、E2、およびE4遺伝子のようなウイルスの主要な遺伝子の発現を制御するプロモーターやエンハンサーのような調節因子に腫瘍細胞特異的調節因子を用いることである(DeWeese et al.(2001)Cancer Research 61:7464−7472)。このアプローチによれば、主要なウイルス遺伝子および最終的にはウイルスの複製が、腫瘍細胞特異的調節因子の制御下となる。上記調節因子には、前立腺特異的抗原(PSA)プロモーターおよびエンハンサー、alpha−fetoタンパク質(AFP)プロモーターおよびエンハンサー、ヒトE2F−1プロモーター等が含まれる(McCormick F(2001)Nature Review Cancer 1:130−14)。
【0005】
テロメラーゼは、細胞の染色体末端の長さを制御するための重要な酵素であり、細胞分裂の過程において、染色体末端の長さを制御し得る。テロメラーゼは概ね3つの部分から構成される。RNAおよびテロメラーゼ逆転写酵素遺伝子(hTERT)は、触媒活性を有し、テロメラーゼの活性を制御する。一方、hTERTプロモーターはテロメラーゼの発現と活性を決定する。
【0006】
成体の正常細胞ではテロメラーゼの活性が低いか全くないことが、更なる研究によって示された(Kim N W et al. Science. 1994 Dec.23;266(519):2011−5;Shay J W et al.European Journal of Cancer 1997,33;271−282)。一方、90%以上の腫瘍細胞では、テロメラーゼは高い供給レベルにあった(Hahn and Weinberg(2002)Nature Review Cancer 2:331−341;Shay and Wright(1996)Current Opinion Oncology 8:66−71)。以上のhTERTの特性に基づいて、科学者らは遺伝子の供給のためにhTERTプロモーターをウイルスゲノム内に組み込んだいくつかのベクターの作成に成功した。制限増殖型腫瘍溶解性アデノウイルスのためにhTERTプロモーターを使用することを記述する最近発行された論文もそのうちの1つである(Lanson st al.(2003)Cancer Research 63:7936−7641;Kawashima et al.,(2004)Clinical Cancer Research 10:285−292;Kim et al.(2003)Oncogene 22:370−380;Irving et al.(2004)Cancer Gene Therapy 11:174−185)。
【0007】
アデノウイルスゲノムには、ウイルス遺伝子の発現を制御する少数の内在性の調節因子が存在する(例えば、E1A遺伝子のプロモーターおよびエンハンサー)。これら内在性の調節因子のうち、E1Aのエンハンサーの塩基配列はウイルスのパッケージング配列に重なっている。異種性のプロモーターに対する内在性の調節因子の影響を最小化するために、科学者らはパッケージング配列を本来の左端から右腕へと再配置した(Bristol et al.(2003)Molecular Therapy 7(6):755−764;Jakubczak et al.(2003)Cancer Research 63:1490−1499)。不幸なことに、この様なウイルスパッケージング配列の本来の位置から右端への再配置は、ウイルスゲノムを不安定化させ、大量のウイルス変異体を生成した(WO 02/067861;ASGT 2003 Annual Meeting, Molecular Therapy)。したがって、上述したウイルスパッケージング配列の再配置は、内在性の調節因子の影響を最小化するアプローチとしては適したものではない。内在性のウイルスの調節因子の異種性の因子に対する影響を最小化し、望ましくない大量のウイルス変異体の生成を防ぎ、ウイルスゲノムを安定に保つにはどのようにすればよいのであろうか。
【0008】
ヒトにおけるテロメラーゼの発現レベルについて、科学者らは、胚発生および分化期において、子宮頚部メンバー細胞、前駆体、および幹細胞を含む細胞で一定レベルのテロメラーゼ活性が存在することを認識するようになった(Wright et al.(1996)Development Genetics 18:173−179;Sharma et al.(1995)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:12343−12346;Kolquist et al.(1996)British Journal of Cancer 80:1156−1161;Tahara et al.(1999)Oncogene 18:1561−1567;Tanaka et al.(1998)American Journal of Pathology 153:1985−1991)。低レベルのテロメラーゼの発現活性は、遺伝子治療用ベクターにおいて治療用遺伝子を供給するため、または主要なウイルス遺伝子を成業することにより腫瘍細胞特異的腫瘍溶解性アデノウイルスを作成するために、hTERTプロモーターを使用することへの警告を与えた(Hahn WC(2004)Clinical Cancer Research 10:1203−1205)。前駆体細胞のような、目標としない細胞における低いレベルのテロメラーゼ発現のため、hTERTプロモーターが制御する腫瘍溶解性アデノウイルスは前駆体細胞において大量に複製し得、深刻な副作用をもたらす(Huang et al.(2004)Clinical Cancer Research 10:1439−1445;Hahn WC(2004)Clinical Cancer Research 10:1203−1205;Masutomi et al.(2003)Cell 114:241−253)。したがって、hTERTプロモーターを用いた腫瘍溶解性アデノウイルスの作成において、hTERTプロモーターの腫瘍細胞特異性を向上することは鍵となる課題である。
【0009】
〔発明の概要〕
1つの局面において、本発明はヒトアデノウイルスの主要なウイルス遺伝子の発現の制御のための組換え体を提供する。上記組換え体は、腫瘍細胞特異的調節因子をアデノウイルスに組み込むことにより取得される。
【0010】
他の局面において、本発明を完成させるため、本発明は腫瘍細胞特異的腫瘍溶解性アデノウイルスに加えて、腫瘍溶解性アデノウイルスおよび免疫調節因子を、遺伝子工学的な手法により結合させることにより取得し得る組換え体を提供する。上記組換え体は、腫瘍細胞特異的プロモーターおよび免疫調節遺伝子をDNAクローニング技術によりアデノウイルスのゲノムに組み込むことにより構築され、その結果得られたものは、腫瘍細胞において複製し得、かつ腫瘍細胞において免疫調節遺伝子を発現し得る融合された塩基配列となる。
【0011】
他の局面において、本発明は免疫刺激因子を発現し得る腫瘍細胞特異的腫瘍溶解性アデノウイルス組換え体を提供する。上記組換え体は概ね、主要ウイルスベクター、腫瘍細胞選択的調節因子、および免疫刺激因子からなる。
【0012】
他の局面において、本発明は制限増殖型腫瘍溶解性ウイルス組換え体を生成する方法を提供する。
【0013】
他の局面において、本発明は、腫瘍の予防および/または治療のための薬物の製造のための、制限増殖型腫瘍溶解性ウイルス組換え体の用途を提供する。
【0014】
他の局面において、本発明は制限増殖型腫瘍溶解性ウイルス組換え体を含んでいる癌の予防および/または治療のための薬物を提供する。
【0015】
他の局面において、本発明は、配列番号2に示される塩基配列のプロモーターを提供する。
【0016】
本発明に係る組換え体は、これらアデノウイルスが腫瘍細胞中のみで複製するようにアデノウイルスを制御するために用い得る。hTERTプロモーターを遺伝学的に改変することにより、本発明に係る組換え体はhTERTプロモーターの腫瘍細胞に対する特異性を実質的に強化している。
【0017】
腫瘍細胞特異性を有する腫瘍溶解性ウイルス組換え体を調製する方法は、本発明に従えば、遺伝子工学を用いて、腫瘍細胞に対する人体の特異的な免疫刺激応答を誘導し得る免疫刺激因子遺伝子を、腫瘍細胞特異的複製型ウイルスのゲノム組み込む工程を包含する。得られるウイルス組換え体は、特異的な細胞集団内において選択的に複製され得、腫瘍細胞において複製され、増殖され得、その結果、該腫瘍細胞を死滅させ得る。したがって、上記組換え体は癌の治療および腫瘍の予防に用いられ得る。
【0018】
本発明はまた、先行技術から知り得るものよりも優れた、制限増殖型腫瘍溶解性アデノウイルス組換え体を増殖させる新規な方法を提供する。先行技術においては、制限増殖型腫瘍溶解性アデノウイルス組換え体または遺伝子操作を受けたウイルスベクターの構築および増殖は、細胞株293のような遺伝子操作を受けた細胞株においておいて行われていた。このような細胞株は、E1が欠損した非増幅型のアデノウイルスベクター、またはウイルス性E1遺伝子が腫瘍細胞選択的な調節因子の制御の下にある制限増殖型腫瘍溶解性アデノウイルス組換え体の機能を補完するために、アデノウイルスのE1タンパク質を発現する。不幸なことに、このような細胞株において生産される組換え体は、一定量の野生型または組換え型アデノウイルス(複製能力のあるアデノウイルス、RCAと称される)を通常含んでいる。組換え体の生産におけるRCAの生成の原因は次のとおりである。すなわち、細胞株293のような生産細胞は、アデノウイルスの遺伝子配列を含んでおり、この「野生型」アデノウイルスの塩基配列の小片と、E1を欠損した、またはE1が改良されたアデノウイルスとが細胞内において組換えられ、「野生型」アデノウイルスまたは組換えアデノウイルスが生じる。このような生産物は、製品規格を満たさない可能性があり、安全上の懸念として、予期しない副作用の原因になり得る。本発明に係る組換え体の構築に用いられる細胞は、アデノウイルス遺伝子配列を含んでおらず、したがって、RCAを避け得、上述した安全上の問題を解決し得る。
【0019】
本発明は、制限増殖型腫瘍溶解性アデノウイルス組換え体であって、該組換え体の腫瘍細胞への結合親和力が向上するようにコートタンパク質が改良され、その結果、該組換え体の腫瘍細胞への感染力が向上された組換え体を提供する。腫瘍細胞において、アデノウイルス受容体5(コクサッキーウイルスBおよびアデノウイルス受容体、CAR)の発現は低いか、全く発現していない一方、すべての腫瘍細胞はCD46(Shayakhmetov et al., 2002.Cancer Research 62:1063−1068)を高レベルに発現していることを、最近の多くの研究は示している。さらなる研究は、アデノウイルスセロタイプ35のための受容体はCD46タンパク質粒子(Sirena et al.(2004)Journal of Virology 78(9):4454−4462)であることを示している。以上より、本発明者らは、CD46タンパク質受容体に結合し得る融合されたアデノウイルスを有する組換え体を構築するために、アデノウイルスセロタイプ5ウイルス組換え体におけるタンパク質配列のファイバーノブを、CD46タンパク質受容体に結合し得る、アデノウイルスセロタイプ35のファイバーノブに置換することを提案する。このような組換え体は、広範囲の腫瘍細胞におけるより優れた感染力を有すると考えられる。
【0020】
本発明に係る制限増殖型腫瘍溶解性ウイルスは、DNAウイルスまたはRNAウイルスであり得、セロタイプ5、2、35、41等を含む任意のアデノウイルスセロタイプであり得、好ましくはセロタイプ5、または改良されたアデノウイルスであり得る。例えば、インターナルリボソームエントリーサイト(IRES)によってE1A遺伝子およびE1B遺伝子が連結されているアデノウイルス組換え体;アデノウイルスタイプ5のファイバーノブがアデノウイルスセロタイプ35のファイバーノブと置換されているアデノウイルス組換え体;ウイルスITRおよびパッケージング配列の下流、ならびにhTERTプロモーターのような異種性のプロモーターの上流に転写終結因子が挿入されているアデノウイルス組換え体;E3領域における10.4K、14.5Kおよび14.7Kをエンコードしている塩基配列が欠損しているアデノウイルス。なお、上記転写終結因子は、SV40初期ポリ(A)シグナル配列のように、任意のRNAポリメラーゼを介した遺伝子の転写を終結させ得る;例えば、E3領域における10.4K、14.5Kおよび14.7Kをエンコードしている塩基配列が欠損しているアデノウイルス組換え体。
【0021】
腫瘍細胞特異的である上記遺伝子調節因子は任意のプロモーター、エンハンサー、サイレンサー、またはこれらの組合せであり、好ましくは配列番号2に示されるような改良されたhTERTプロモーターである。このプロモーターは、転写因子E2F−1に対する結合部位を有している。
【0022】
上記免疫調節因子は、免疫反応を刺激および誘導し得る任意の遺伝子またはその変異体であり得、例えば、IL−2、IL−10、IL−12、IL−15、IL−24、IL−25、GM−CSF、G−CSF および INF−alpha、INF−beta等であり得、好ましくはGM−CSFであり得、分泌型、膜結合型、およびその他の変異体を含む。
【0023】
本発明に係る好ましいアデノウイルス組換え体は、主要ウイルスベクターが改良されたアデノウイルスである組換え体であり、該改良されたアデノウイルスでは、そのアデノウイルスの塩基配列において、ウイルスITRおよびパッケージング配列の下流、ならびに異種性のプロモーターの上流に転写終結因子が挿入されており、免疫刺激遺伝子が、配列番号3に示される塩基配列を有するGM−CSF(KH−901)、または膜結合型のGM−CSF(KH−902)である。
【0024】
本発明に係る他の好ましいアデノウイルス組換え体は、主要ウイルスベクターが改良されたアデノウイルスである組換え体であり、該改良されたアデノウイルスでは、そのアデノウイルスの塩基配列において、ファイバーノブが、アデノウイルスセロタイプ5のそれに代わり、アデノウイルスセロタイプ35由来であり、免疫刺激遺伝子が、配列番号3に示される塩基配列を有するGM−CSF(KH−901)、または膜結合型のGM−CSF(KH−902)である。
【0025】
E1A遺伝子およびE1B遺伝子がIRESにより連結されており、ファイバーノブがセロタイプ35由来であり、ITRおよびパッケージング配列の下流、ならびに異種性のプロモーターの上流に転写終結因子が挿入されている;腫瘍細胞選択的調節因子は配列番号2に示される塩基配列を有するhTERTプロモーターであり、免疫刺激遺伝子がGM−CSFであり、該GM−CSFは好ましくは膜結合型である。
【0026】
本発明に係る他の好ましいアデノウイルス組換え体は、主要ウイルスベクターが改良されたアデノウイルスである組換え体であり、該改良されたアデノウイルスでは、そのアデノウイルスの塩基配列において、ITRおよびパッケージング配列の下流、ならびに異種性のプロモーターの上流に転写終結因子が挿入されている;E3領域における10.4K、14.5Kおよび14.7Kをエンコードしている塩基配列が欠損しているアデノウイルス;腫瘍細胞選択的調節因子は配列番号2に示される塩基配列を有するhTERTプロモーターであり、免疫刺激遺伝子がGM−CSFであり、該GM−CSFは好ましくは膜結合型である(KH−903)。
【0027】
本発明に係る他の好ましいアデノウイルス組換え体は、ITRおよびパッケージング配列の下流、ならびに異種性のプロモーターの上流に転写終結因子が挿入されており、アデノウイルスのE1A遺伝子およびE1B遺伝子がIRESにより連結されており、腫瘍細胞選択的調節因子は配列番号2に示される塩基配列を有するhTERTプロモーターであり、免疫刺激遺伝子がGM−CSFである(KH−906)。
【0028】
本発明に係るアデノウイルス組換え体は、KH−901、KH−902、KH−903、KH−904、KH−905、およびKH−906を含んでいるが、これらに限定されるものではない。KH−901の塩基配列は配列番号3に示されており、
(1)1−103:アデノウイルスの左側にITR (塩基配列がGenBank No.BK000408に示されるアデノウイルスセロタイプ5);
(2)194−358:アデノウイルスのパッケージング配列、およびE1のエンハンサー配列;
(3)362−534:SV40ポリ(A)シグナル配列、およびリンカー(np362から551が欠損しているアデノウイルスセロタイプ5の塩基配列);
(4)525−811:遺伝学的に改良されたhTERTプロモーターの塩基配列、およびリンカー;
(5)812から右:E1A、E1B、E2等を含んでいる、アデノウイルスの塩基配列;
(6)28995−29436:免疫を刺激するGM−CSF遺伝子;
(7)29437から右:E4遺伝子のアデノウイルス塩基配列、および右端;
KH−900の塩基配列は、配列番号3に示される塩基配列と類似しているが、そのhTERTプロモーターの塩基配列は塩基置換なしの野生型のものである(配列番号1および2を参照)。また、パッケージング配列とhTERTプロモーターとの間にSV40ポリ(A)シグナル配列も存在しない。
【0029】
KH−902の塩基配列は、KH−901と類似しているが、免疫刺激遺伝子GM−CSFが配列番号4に示す塩基配列を有する膜結合型のものと置換されている。
【0030】
KH−903の塩基配列は、KH−901と類似しているが、10.4K、14.5K、および14.7Kをエンコードしている塩基配列が欠損している。欠損した上記塩基配列は、アデノウイルスゲノムのnp29804から30857までの部分である。上記のエンコードしている塩基配列からのタンパク質は、免疫応答、特に、腫瘍壊死因子(TNF)を介した免疫応答を抑制する。したがって、上記のエンコードしている領域の欠損は、制限増殖型腫瘍溶解性アデノウイルスにより誘導される、腫瘍を目標とする免疫応答を強化する。
【0031】
KH−904の塩基配列はKH−901と類似しているが、ファイバーノブが、アデノウイルスセロタイプ5のファイバーノブから、塩基配列が配列番号5に示される、アデノウイルスセロタイプ35のファイバーノブに交換されている。多くの腫瘍細胞が、アデノウイルスセロタイプ5の受容タンパク質CARを発現していないが、高レベルのCD46粒子を発現していることを最近の研究は明らかにしている。CD46粒子は、アデノウイルスセロタイプ35のための受容体である。したがって、アデノウイルスセロタイプ35由来のファイバーノブの存在は、制限増殖型腫瘍溶解性アデノウイルス組換え体の感染力を強化する。
【0032】
KH−905は、KH−904と類似しているが、免疫刺激遺伝子GM−CSFが分泌型から膜結合型へと交換されている。
【0033】
KH−906は、内在性のE1Bプロモーターをインターナルリボソームエントリーサイト(Li et al.,(2001)Cancer Research 62;Zhang et al.(2002)Cancer Research 62:3743−3750)により置換することにより、KH−901から作成された。
【0034】
本発明はまた、配列番号2に示されるような改良されたhTERTプロモーターの塩基配列を提供する。上記プロモーターは転写因子E2F−1への結合部位を有している。
【0035】
本発明はまた、上記改良されたhTERTプロモーターを生成するための方法を提供する。図1に示されるようなhTERTプロモーターの塩基配列に基づいて2つのプライマーが合成された:
A.5’−GTCTGGATCCGCTAGCCCCACG−3’
B.5’−CGACCGGTGATATCGTTTAATTCGC−3’
活性化されたヒトゲノムDNAをテンプレートとした上記のプライマーを用いたPCR法によりhTERTプロモーターが増幅された。PCR反応の条件は以下のとおりである:1サイクル目には、変性反応を94℃で5分間、アニール反応を81℃で1分間、伸張反応を72℃で2分間;続く35サイクルの各サイクルでは、変性反応を93℃で1分間、アニール反応を68℃で1分間、伸張反応を72℃で2分間。PCR反応の産物をアガロースゲル解析に供し、塩基配列決定法による確認のためにhTERTプロモーター断片が回収された。そして、塩基配列が公開された配列(図1)のとおりであることが確認された。純化されたPCR断片のDNAが、pUC19ベクターにクローニングされた。Strategene(部位特異的突然変異誘発法)により記述された突然変異誘発法により、hTERTプロモーターの塩基配列が、図2に示されるような塩基配列へと変換された。
【0036】
したがって、本発明はまた、上記の方法によって取得し得る、配列番号2に示される塩基配列を有する改良されたhTERTプロモーターを提供する。
【0037】
本発明に係るhTERTプロモーターでは、TATA保存配列は存在しないが、2つのE−BOX様のCACGTG配列、および4つのGCリッチなSp−I結合領域が存在する。これらの保存配列はテロメラーゼの発現のために極めて重要である。なぜなら、テロメラーゼの転写は、hTERTプロモーターによりC−Myc/MAxおよびSpーIを介して制御されている(Cong et al(1999)Human Molecular Genetics 8(1):137−142;Kyo et al(2000)Nucleic Acids Research 28(3):669−677)からである。細胞増殖および細胞周期においてMycが重要な役割を果たしていることは、多くの研究が明らかにしている。したがって、上述したようなhTERTプロモーターの改変はテロメラーゼの転写および発現にさらなる影響を与える。
【0038】
例えば前駆細胞のような正常細胞におけるhTERTプロモーターの活性を最小化し、その腫瘍細胞選択性を向上させるために、本発明者らは、hTERTプロモーターにおける転写因子の結合部位の詳細な解析を、コンピューターモデリングにより行った。本発明者らは、コンピューターモデリングに基づいて一連の突然変異群を解析し、その中に、第4のSp−IがE2F−1結合部位に変換されており、塩基配列が’...TTTCCGCGGCCCCGGCC...’(図1)から’...TTTCCGCGGCAACGCCC...’(図2)に変換されている突然変異体を見出した。
【0039】
試験管内における研究は、改良されたhTERTプロモーターが腫瘍細胞において活性を維持し、正常細胞において「促進(プロモート)」する活性を著しく低減させることを示した。したがって、改良されたプロモーターは、前駆体細胞を含む正常細胞における転写活性を著しく低減させる。レポーター遺伝子を用いた短期感染実験により、改良されたhTERTプロモーターは、腫瘍細胞において野生型hTERTプロモーターに比べて約5から10倍高い活性を有している一方、正常細胞では、改良されたhTERTプロモーターは非常に低減された活性を有していることが示された(図6)。本発明者らは、改良されたhTERTプロモーターが主要なウイルス遺伝子を制御する制限増殖型腫瘍溶解性アデノウイルスを構築した。得られた腫瘍溶解性ウイルスは幹細胞に対して有毒ではない(図7)。したがって、得られた腫瘍溶解性アデノウイルスは、臨床への適用に関して、著しく向上した安全性を有している。
【0040】
E2F−1プロモーターは、pRb/E2F/p16パスウェイに欠陥を有する腫瘍細胞において活性を有しているため、広範囲の遺伝子治療、特に、制限増殖型腫瘍溶解性アデノウイルスの構築に用いられて来た(Parr et al.(1997)Nature Medicine 3(10):1145−1149;Jakubczak et al.(2003)Cancer Research 63:1490−1499;Bristol et al.(2003)Molecule Therapy 7(6):755−763)。改良されたhTERTプロモーターは、転写因子E2F−1への結合部位を有しているだけでなく、E2F−1プロモーターが有しているSp−I結合部位およびNF−I結合部位を有している。したがって、テロメラーゼが正に制御されている腫瘍細胞、およびRbパスウェイに欠陥を有している腫瘍細胞において、改良されたhTERTプロモーターは活性を有する。すなわち、改良されたhTERTプロモーターは、これらの2つの種類の腫瘍細胞では活性を有し、幹細胞のような正常細胞では活性を有しない;このことは、高い腫瘍特異性を表す。
【0041】
他方では、インターナルリボソームエントリーサイト(IRES)によってE1A遺伝子およびE1B遺伝子が連結されており、そのためアデノウイルス組換え体の2つの重要な遺伝子であるE1AおよびE1Bの転写が、改良されたhTERTプロモーターの制御下に引き起こされる例えばKH−906のような、制限増殖型腫瘍溶解性アデノウイルス組換え体を、本発明は提供する。
【0042】
本発明は、ITRおよびウイルスのパッケージング配列の下流、ならびにhTERTプロモーターのような異種性のプロモーターの上流に転写終結因子が挿入されている腫瘍溶解性アデノウイルス組換え体を提供する。SV40初期ポリ(A)のような転写終結シグナルは任意のRNAポリメラーゼを介した転写を阻害し得る。SV40初期ポリ(A)のような転写終結シグナルの存在のおかげで、ITR、およびパッケージング配列に重なる塩基配列であって、エンハンサーとしての効果を有する塩基配列の、hTERTプロモーターに対して与える影響がごく小さくなることが、試験管内での研究により示された。
【0043】
本発明に係る腫瘍溶解性アデノウイルス組換え体は、免疫刺激遺伝子を有している。いくつかの知られている腫瘍溶解性アデノウイルス組換え体では、GM−CSF遺伝子が免疫刺激遺伝子として用いられていた。本発明において説明される腫瘍溶解性アデノウイルス組換え体もまた免疫刺激遺伝子としてGM−CSF遺伝子を含んでいるが、GM−CSF遺伝子に限定されるものではなく、その他の免疫刺激遺伝子、例えばサイトカインも用いることができる。しかしながら、GM−CSFは長時間継続する免疫応答を誘導することでよく知られている(Dranoff et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:3539−3543)。分泌された糖タンパク質は、顆粒球、単球、マクロファージ、および樹状細胞の分化を刺激し得、抗原提示細胞におけるMHCおよびB7副刺激分子の発現を増加させ得る。GM−CSFはまた、免疫細胞の組織への浸潤と、B細胞の分化とを促進する。上述したGM−CSFの特性の故に、従来から、科学者は、癌の治療のために、化学療法との組合せにおいてGM−CSFを用いてきた。GM−CSFを発現し得る腫瘍細胞からなる多くの腫瘍ワクチンが、現在臨床試験中である(Armitage(1998)Blood 92:4491−4508;Mach et al.(2000)Cancer Research 60:3239−3246;Gilboa(2004)Nature Reviews Cancer 4:401−411)。GM−CSFを発現する制限増殖型腫瘍溶解性アデノウイルスは、癌細胞を死滅させるだけでなく、腫瘍細胞においてGM−CSFを発現して腫瘍細胞特異的な免疫応答を誘導し、その結果、癌の免疫治療効果を有する。したがって、このような自己腫瘍ワクチンの樹立の過程は、腫瘍ワクチンの調製のための複雑な過程を排除するだけでなく、試験管内での処理がなく腫瘍細胞を抗原の発現を含めてより完全な形に維持する。腫瘍細胞における抗原の発現は、癌ワクチンをその場所でより効果的にする。したがって、上述した腫瘍溶解性ウイルスは、該ウイルスが供給された場所にて腫瘍細胞を死滅させ得、同時に、GM−CSFを介した免疫応答により遠方の腫瘍細胞を死滅させ得る。本明細書に記述した本発明に係る方法は、より優れた腫瘍溶解性ウイルスを作成する独自のアプローチである。
【0044】
本発明に係る腫瘍溶解性アデノウイルス組換え体のうち2つは、膜結合型のGM−CSF(mbGM−CSF)を含み、発現する。膜結合型のGM−CSFは、樹状細胞との相互作用を促進し得、分泌型のGM−CSFに比べてより優れた免疫応答を誘導し得ることを従来の研究が明らかにしている(Soo Hoo et al.(1999)Journal of Immunology 169:7343−7349;Yei et al.(2002)Gene Therapy 6:1302−1311)。しかし、遺伝学的に組換えられた活性成分を得るための、制限増殖型腫瘍溶解性アデノウイルス組換え体における膜結合型GM−CSFの発現は、未だ報告されていない。
【0045】
本発明はまた、腫瘍溶解性ウイルス組換え体の作成方法を提供する。上記作成方法は、以下の工程を含んでいる:
(a)hTERTプロモーターを含んでいるアデノウイルスゲノムの左腕部を構築する;
(b)免疫刺激遺伝子を含んでいるアデノウイルスゲノムの右腕部を構築する;
(c)アデノウイルスゲノムの左腕部を含んでいるプラスミド、およびアデノウイルスゲノムの右腕部を含んでいるプラスミドを、293細胞、HeLa細胞、HeLa−S3細胞、またはA549細胞にコトランスフェクションする。組換え体が相同組換えにより生成される。
【0046】
本発明に係る組換え体は、以下の過程により取得され得る:哺乳類細胞中においてウイルス組換え体が相同組換えを介して作成される。まず、一般的なクローニング技術により、内在性のE1A遺伝子のプロモーターがpXC.1(アデノウイルスセロタイプ5の左端を含んでいるプラスミド、Microbix,Canadaから購入)から削除され、SV40ポリ(A)終結シグナルおよび改良されたhTERTプロモーターにより置換され、その結果pKH−901aが得られた。他方で、pBHGE3(アデノウイルスの右部分を含んでいるプラスミド、Microbix,Canadaより購入)のgp19Kをエンコードする塩基配列が、GM−CSF遺伝子により置換され、pKH−901bと呼ばれるプラスミドが得られた。
【0047】
pKH−901aおよびpKH−901bのプラスミドDNAがHeLa細胞にコトランスフェクションされ、プラークから単一クローンが拾い上げられ、KH−901と名づけられた。同様の手順に従い、組換え体KH−900、KH−902、KH−903、KH−904、KH−905およびKH−906が構築された。
【0048】
実際には、組換え体は、任意の哺乳類細胞または非哺乳類細胞において作成し得る。
【0049】
以上に概略を述べた計画に基づいて、pXC.1の362から551(それぞれ制限酵素SspIおよびPinAI(AgeI)に対応)のヌクレオチドからのDNA断片がPCRにより増幅された。hTERTプロモーターDNA断片がヒトゲノムDNAからPCRにより増幅され、ポリ(A)に連結された。2つの制限酵素、SspIおよびPinAIが上記DNA断片の両端に添加された。上記DNA断片がSspIおよびPinAIにより消化され、同じ制限酵素により消化されたpXC.1にライゲーションされた。ライゲーション産物により、E.coli細胞DH5−alpha細胞(Invitro gene,USA)を形質転換した。10のコロニーを拾い上げ、インキュベーター内で24時間培養した。DNAが抽出され、制限酵素により解析され、プラスミドは塩基配列決定法により確認され、pKH−901aと名づけられた。
【0050】
5‘−ATAACCATGTGGCTGC−3’および5‘−AAATTACTCCTGGACTGG−3’のプライマーを用いて、GM−CSFをエンコードするDNA断片が、活性化されたマクロファージから抽出されたcDNAをテンプレートとしたPCRにより増幅された。GM−CSF遺伝子の全長はpUC19にクローンされ、塩基配列決定法により確認された。続いて、GM−CSF遺伝子のcDNA断片はpBHGE3におけるgp19kをエンコードする領域にクローニングされ、得られたプラスミドは、KH901bと名づけられ、塩基配列決定法に供され、制限酵素解析により確認された。
【0051】
pKH−901aおよびpKH−901bのプラスミドDNAが相同組換えのためにHeLa細胞にコトランスフェクションされた。感染の前に、上記プラスミドDNAはClaIにより直鎖化され、リポフェクチン(Lipofectin、USA Invitrogen)に媒介されHeLa細胞に感染させられた。感染の10日後、細胞は収穫され、3サイクルの凍結/融解を行い、HeLa細胞上でのプラーキングのために100mLを収集した。プラーキングの8日後、アガロースの下に単離されたプラークが観察された。6のプラークが拾い上げられ、HeLa細胞に接種された。接種から4から6日後に細胞溶解物が収穫された。上記細胞溶解物からアデノウイルスDNAが抽出され(Qiagen‘s kit)、制限酵素による消化、PCR、およびサザンブロット解析によりウイルス構造が確認された。得られたウイルスはKH−901と名づけられた。
【0052】
本発明に係るウイルス組換え体は、癌の治療および/または予防のための薬学的組成物を調製するために用い得る。上記ウイルス組換え体は、より優れた治療上の効果を得るために、放射線および化学療法と組合せて用い得る。
【0053】
本発明に係るウイルス組換え体は、静脈内投与、腫瘍内注射、筋肉内注射、皮下注射、器官内注射、腹膜内注射等のための注射可能な組成物として処方され得る。
【0054】
大規模調製のために、本発明に係るウイルス組換え体は、HeLa細胞、HeLa−S3細胞、またはA549細胞において、細胞培養、ならびにウイルスの感染、増殖、濃縮、および純化を経て製造され得る。上記過程を経て製造されたウイルス組換え体は、一般的な処方技術を用いて薬学的に受容可能な担体と共に臨床的に注射可能な組成物に処方するための原材料として用い得る。
【0055】
本発明の適用可能性および好ましい効果を示す実験が以下に記載される:
〔実験1:hTERTプロモーターの活性、および野生型hTERTプロモーターと改良されたhTERTプロモーターとの間における腫瘍細胞特異性の比較〕
hTERTプロモーターの改良版の特異性を試験するために、野生型hTERTプロモーター(telo)および改良されたhTERTプロモーター(Mtelo)がレポーター遺伝子ルシフェラーゼ(luc)に連結され、その結果物のプラスミドが一連のヒト癌細胞およびヒト正常細胞に感染させられた。上記細胞は感染から48時間後に収穫され、その細胞溶解物がルシフェラーゼの発現レベルを決定するために用いられた。上記感染の際に、様々なタイプの細胞における感染効率を正規化するために、第2のレポーター遺伝子LacZのレポートプラスミドが用いられた。図6に示される結果が示すように、(1)腫瘍細胞において、改良されたプロモーターMteloは野生型hTERTプロモーター(telo)に比べて非常に高いルシフェラーゼ活性を示した。例えば、Hep3B細胞(正に制御されたテロメラーゼ、およびRbパスウェイ欠陥)において、Mteloはteloに比べて6倍以上のルシフェラーゼ活性を示し、LNCaP細胞(正に制御されたテロメラーゼ、およびRbパスウェイ欠損)において、Mteloは野生型hTERTプロモーターに比べ18倍以上のルシフェラーゼ活性を生み出した;(2)ヒト正常細胞において、野生型hTERTプロモーターteloは低レベルの転写活性をもたらす一方、改良されたhTERTプロモーターMteloは実質的にバックグラウンドレベルの転写活性を有していた。例えば、MRC−5細胞(テロメラーゼ陰性、および正常なRbパスウェイ)において、Mteloプロモーターは野生型のhTERTプロモーターteloに比べて6分の1以下の活性を示した。この結果が示すように、E2F結合部位の付加はhTERTプロモーターの著しく向上した腫瘍細胞特異性および転写能力をもたらす。
【0056】
この結論は試験によってさらに確認された。上記試験では改良されたhTERTプロモーターの改良された選択性、および該プロモーターの転写活性が、組換え体が感染した細胞においてE1Aメッセンジャーのコピー数を測ることにより決定された。4つのウイルスがこの研究に含まれる:ポジティブコントロールとして野生型アデノウイルス、ネガティブコントロールとして非増幅型アデノウイルスdl312(E1A欠損)、KH−900(野生型hTERTプロモーターを有する)、およびKH−901(改良されたhTERTプロモーターを有する)。ヒト包皮角化細胞(hFKs)、およびヒト乳頭腫ウイルスタイプ16(HPV−16)のE6遺伝子により形質転換されたhFK細胞であるhFKs−E6が試験に用いられた。hFK−E6は正に制御されたテロメラーゼ活性を有することが以前に示されている(Horikawa et al.(2001)Journal of Virology 75(9):4467−4472)。細胞は、ウイルスに1プラーク形成単位(pfu)の感染の多重度(MOI)で感染させられ、E1AメッセンジャーRNAの数は、逆転写PCR(RT−PCR)により決定された。図7において示される結果が示すように、dl312が感染したhFKおよびhFK−E6細胞では、E1AメッセンジャーmRNAは全く検出されなかった。Ad5が感染した細胞では約4000コピーのE1AメッセンジャーRNAが検出されたが、hFKs細胞とhFKs−E6細胞との間にmRNAコピー数の顕著な違いはなかった。しかし、KH−900が感染した細胞では、少ないコピー数のE1A mRNAがhGK細胞において検出された一方、20倍以上のコピー数のE1A mRNAがhFKs−E6細胞において検出された。さらに興味深いことに、hFK細胞に比べ100倍以上のコピー数のE1A mRNAが、KH−901が感染したhFKs−E6において検出された。一方、KH−900が感染したhFK細胞に比べて、KH−901が感染したhFK細胞ではE1A mRNAのコピー数はむしろ低くなっていた。以上を併せれば、Mteloプロモーターは、レポーター遺伝子と連結されているとき、teloプロモーターに比べ、高いレベルの活性および腫瘍細胞特異性を有していること;同時に、上記プロモーターがアデノウイルスのゲノムに挿入されたとき、改良された腫瘍選択性は事実であることが示された。主要的なウイルス遺伝子を制御するために用いられる場合、Mteloプロモーターは野生型プロモーターに比べてより優れた腫瘍特異性を有する。
【0057】
この結果は、培養されたヒト骨髄細胞においてさらに確認された。細胞生存率測定において、293細胞およびヒト骨髄間葉系幹細胞(hBMsc)を、感染の多重度1で感染させるためにKH−900およびKH−901が用いられた。図8に示される結果が示すように、KH−901は、KH−900と同程度の効率で293細胞を死滅させた。しかし、KH−900はhBMsc細胞について一定レベルの細胞を死滅させたにもかかわらず、KH901は全く死滅させなかった。
【0058】
〔実験2:4種の制限増殖型腫瘍溶解性アデノウイルス組換え体の、腫瘍細胞を死滅させる能力の比較〕
4種の制限増殖型腫瘍溶解性アデノウイルスの、腫瘍細胞を死滅させる能力を比較するために、肺癌細胞株A549が用いられた。細胞は6−cemの培養皿に播種され、細胞が85%コンフルエントになったときウイルスがMOI1にて適用された。細胞生存率は感染後の様々な時点において測定された(Hallenbeck et al.(1997) Human Gene Therapy 11:1172−1179)。図9に示される結果が示すように、KH−904は、KH−901およびKH−902に比べ細胞をより効果的に死滅させた。一方、KH−900は最も弱いものであった。
【0059】
この結果は、改良されたhTERTプロモーターが、野生型hTERTプロモーターに比べてより強力な活性を有していることを示唆した。また、ファイバー内のノブの遺伝子をセロタイプ35由来のものに置換したものは、セロタイプ5に比べてより優れた感染力を有し得ることを示唆した。この結論は、一連の癌細胞およびヒト正常細胞において確認された(表1)。一連のヒト腫瘍細胞およびヒト正常細胞が、異なるアデノウイルス変異体に72時間感染させられ、上述した方法で細胞生存率が測定された。50%の細胞を死滅させるために必要なウイルスの量として、EC50が計算された。EC50が低い程、ウイルスはより効果的に細胞を死滅させる。表2に示される結果が示唆するように、(1)KH−901は、KH−900に比べてより効果的に腫瘍細胞を死滅させる。これは、改良されたhTERTプロモーターが、よりすぐれた腫瘍特異性を有していることをさらに確認する;(2)KH−902およびKH−903は、KH−901と同様に細胞を死滅させる一方、KH−904が最も強力であった。対照的に、改良されたMteloプロモーターを含んでいるウイルス(KH−901、KH−902、KH−903、およびKH−904)は、野生型のhTERTプロモーターを有するウイルスであるKH−900に比べて、少ない数の正常細胞を死滅させた。ウイルスのE1B遺伝子がIRESによりE1Aに連結されているKH−906は、殺傷能力は比較的低かったが、良好な腫瘍細胞特異性を有していた。
【0060】
(表1:KH−901に感染した細胞におけるGM−CSFの発現)
【0061】
【表1】

【0062】
(表2:KH−900、KH−901、KH−902、KH−903、KH−904、およびKH−905のEC50)
【0063】
【表2】

【0064】
さらに興味深いことに、KH−901,KH−902、KH−903、およびKH−904を含む、遺伝学的に改良されたMteloプロモーターを含むように組換えられているウイルス組換え体はすべて、野生型hTERTプロモーターを含むように組換えられているKH−900に比べ、ヒト正常細胞に対して非常に弱い殺傷能力(EC50の高い値により示される)を示した。
【0065】
さらに、E1A遺伝子およびE1B遺伝子の間にインターナルリボソームエントリーサイトが挿入されており、したがって、E1A遺伝子およびE1B遺伝子の転写は、改良されたMteloプロモーターの制御下にあるアデノウイルス組換え体KH−906は、腫瘍細胞を死滅させる能力は他に比べてわずかに弱かったが、他のウイルス組換え体に比べてより高い腫瘍細胞選択性を示した。
【0066】
〔実験3:KH−901は、腫瘍細胞において高レベルの生物学的に活性なGM−CSFを生産する〕
5種の腫瘍細胞株および1種のヒト正常細胞株が、MOI1または10でKH−901に感染させられた。ELIZA、および従前に記述されたような(Li et al.(2001)Cancer Research 61:6428−6436)TF−1分析によるGM−CSF濃度の測定のために、感染の48時間後細胞が収穫された。図14に示される結果が示すようにKH−901が感染した5種の腫瘍細胞は、高レベルのGM−CSFを産生した。例えば、KH−901が感染したLNCaP細胞において、細胞において検出されたGM−CSFの量は231ng/106細胞・24時間であった。対照的に、KH−901が感染したヒト正常細胞では、非常に低いレベルのGM−CSFしか検出され得なかった。さらに、腫瘍細胞において発現したGM−CSFが、生物学的に活性であったことが、生物学的検定法により明らかになった(表2を参照)。
【0067】
〔実験4:腫瘍モデルにおける腫瘍溶解性アデノウイルス組換え体の抗腫瘍効果〕
ヌードマウスの前立腺癌LNCaP腫瘍モデルにおいて、腫瘍溶解性アデノウイルスの抗腫瘍効果が評価された。600万個のLNCaP細胞をヌードマウスの皮下に接種し、4週間以内において、腫瘍の体積が200mm3に達したときに、ウイルスが腫瘍内へと注射された。ウイルスの注射は、第1日目、第5日目、および第9日目の3回、様々なウイルス(KH−901、KH−904、およびE1B−p55欠損腫瘍溶解性アデノウイルスであるaddl1520)の3×1010粒子の投与量にて行われた。腫瘍の体積は週に2回測定され、結果が図10に示された。
【0068】
この試験において、3種の組換え体、すなわち、KH−901、KH−904、およびKH−907(示さず、GM−CSF遺伝子を有さないこと以外はKH901に同じ)が腫瘍への注射に用いられた;また、Addl1520がコントロールとして試験された。
【0069】
図10に示されるように、偽薬処置をした腫瘍は非常に速く成長し、48日までに腫瘍の体積はベースラインの1200%に達した。KH−901により処置したグループでは腫瘍はベースラインと同じ体積のまま維持され。一方、KH−904により処置された腫瘍は、ベースラインの15%まで体積が減少した。同じ期間において、addl1520により処置された腫瘍はベースラインの850%にまで成長した。
【0070】
この結果は、KH−901およびKH−904はAddl1520(Onyx−015)に比べより優れた抗癌活性を有することを示した。興味深いことに、試験管内の研究において示されたように、KH−904はKH−901に比べより優れた抗腫瘍効果を有していた。
【0071】
同研究において、GM−CSFの発現もまた記録された。KH−907により処置された動物、およびAddl1520により処置された動物では、GM−CSFは検出されなかった。一方、KH−901またはKH−904により処置した動物では高レベルのGM−CSFが検出し得た。例えば、第14日目において、KH−901またはKH−904により処置された動物において検出されたGM−CSFの量は、それぞれ2.322g/mLまたは2.776g/mLであった。この結果は、腫瘍溶解性ウイルスKH−901およびその仲間が、GM−CSFを腫瘍細胞中だけで産生するのではなく、腫瘍を有する動物の生体内においても高レベルに発現させることを示唆した。
【0072】
これらの研究の結果は、感染後に高レベルのGM−CSFの発現が検出される様々な腫瘍細胞中において、KH−901およびその仲間が複製されていることを示した。
【0073】
上述した他の腫瘍溶解性ウイルスもまた、同様の手順により特徴付けられ、それぞれの実施例においてより詳細に記述され得る。
【0074】
本発明における組換え体である制限増殖型腫瘍溶解性アデノウイルスは、以下の特徴を有している。
【0075】
(1.構造上の特徴)
これらの組換え体は生きているウイルスであり、腫瘍細胞において複製および増殖し得る。これらは、合成された、または遺伝学的に操作された薬品とは異なっている。これらは腫瘍細胞中において複製し得、異種由来の遺伝子を発現し、抗癌活性と共に高い生物学的活性を有する。これらの組換え体は免疫刺激遺伝子を有しており、したがって、該免疫刺激遺伝子はウイルスが感染した細胞において発現し得、腫瘍細胞特異的免疫応答を誘導し得る。また、腫瘍特異的な調節因子が存在するため、これらは安全である。
【0076】
(2.適用可能性)
組換え体ウイルスにおける腫瘍特異的調節因子は、90%以上、すなわち大多数の腫瘍細胞において活性である。これらの組換え体ウイルスの重要な遺伝子は腫瘍特異的プロモーターの制御下にある。そのため、これらの組換え体ウイルスは、大多数の腫瘍細胞において複製し得、該腫瘍細胞を死滅させ得る。したがって、これらの組換え体ウイルスは、頭部および頸部癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌、膀胱癌、胃癌、肝癌等の治療を含む様々な適用の可能性を有している。
【0077】
これらの組換え体ウイルスは上述したような免疫刺激遺伝子を有しているため、該ウイルスは、腫瘍細胞を死滅させることによる腫瘍溶解効果を有するだけでなく、腫瘍細胞におけるサイトカインの発現に続く腫瘍特異的な免疫応答を刺激する。したがって、これらのウイルスは、局所的な腫瘍に効果的なだけでなく、遠方の腫瘍細胞に対しても効果を有する。
【0078】
本発明に係る組換え体ウイルスは以下のような特性を有する:(1)これらは腫瘍細胞に対しより特異的であり、正常な体細胞および幹細胞には感染しない;したがって、これらのウイルスは臨床的な適用においてより少ない副作用を有し得る;(2)これらは、分泌型および膜結合型を含む免疫刺激遺伝子を発現する。このサイトカインは腫瘍特異的免疫応答を刺激する。そのため、遠方の腫瘍に対しても効果的である;(3)ウイルスのコートタンパク質に対する改変により、これらのアデノウイルスはより優れた細胞感染力を有する。そのため、より優れた抗癌活性を有し得る。
【0079】
本発明は以下のような貢献をなす:
(1)部位特異的突然変異誘発法による改変により、腫瘍特異的調節因子hTERTプロモーターがより高い転写活性および腫瘍得異性を有している。得られたプロモーターはより優れたターゲット能力を有し、正常体細胞、ならびに、特に、生殖細胞、前駆体細胞、および幹細胞における、連結した遺伝子の転写活性を著しく低減させる。重要な遺伝子が改良されたhTERTプロモーターの制御下にある腫瘍溶解性アデノウイルスは、骨髄細胞において複製し得ないが、多くの腫瘍細胞において高い効能を有する。
【0080】
(2)GM−CSFがウイルスが感染した細胞でのみ発現するように、免疫刺激GM−CSFが組換え体アデノウイルス内に組換えられている。このようなウイルスは、腫瘍内注射に続いて腫瘍溶解効果により腫瘍細胞を死滅させ得、他方、腫瘍溶解作用に続いて、該ウイルスに感染した細胞が腫瘍細胞に対する強力な免疫応答を刺激するGM−CSFを発現する。特に、GM−CSFを発現する腫瘍溶解性アデノウイルスは予防効果も有する。なぜなら、上記ウイルスは、腫瘍溶解効果(細胞の殺傷および抗原の提示)および患者の免疫細胞を教育することによる免疫応答の組合せを通して、患者の免疫システムを教育するからである。したがって、このようなウイルスは、腫瘍の再発から患者を予防し得る。
【0081】
(3)ウイルスコートタンパク質(Capsid)の改変により、得られた組換え腫瘍溶解性アデノウイルスは、より優れた腫瘍への感染力を有する。アデノウイルスセロタイプ5へのアデノウイルス受容体CARの低いまたは全く存在しない発現のために、Ad5はしばしば腫瘍細胞に良好に感染し得ない。しかしながら、アデノウイルスセロタイプ35の受容体のための結合部位および塩基配列が、Ad5のゲノムに組み込まれた場合、大多数の腫瘍細胞への感染力が大幅に向上し得る。試験管内および生体内における研究が、上記の観察を確認した。
【0082】
(配列表における配列の説明)
配列番号1は、SP−1(GC−box)、E−Box(Mycへの結合部位)、およびNF−1(NF因子への結合部位)を含むいくつかの転写因子結合部位を含んでいるヒトTERTプロモーターからの塩基配列を含んでいる塩基配列を示す。
【0083】
配列番号2は、より高い腫瘍細胞選択性および転写活性を有する、突然変異により改良されたヒトTERTプロモーターを示す;E2F−1:転写因子E2Fへの結合部位。
【0084】
配列番号3は、KH−901の全長からの塩基配列を示し、
(1)1−103:アデノウイルスの左側のITR(GenBank No.BK000408に示されるアデノウイルスセロタイプ5の塩基配列);
(2)194−358:アデノウイルスパッケージング配列およびE1へのエンハンサー配列;
(3)362−534:SV40ポリ(A)シグナルシーケンスおよびリンカー(np352から551が欠損したアデノウイルスセロタイプ5の塩基配列);
(4)525−811:改良されたhTERTプロモーターの塩基配列およびリンカー;
(5)812から右:E1A、E1B、E2等を含んでいる、アデノウイルスの塩基配列;
(6)28995−29436:免疫を刺激するヒトGM−CSF遺伝子;
(7)29437から右:E4遺伝子を含む、アデノウイルスの塩基配列、および右端。
【0085】
配列番号4は、組換え体のゲノムに含まれる膜結合型の免疫調節因子GM−CSF(mbGM−CSF)を示す。
【0086】
配列番号5は、ファイバー遺伝子のファイバーノブがヒトアデノウイルスのセロタイプ35由来である、組換え体KH−904のゲノムにおけるキメラファイバータンパク質の塩基配列を示す。
【0087】
〔実施例〕
以下の実施例は本発明をさらに詳細に説明するためのものであり、本発明になんら限定を加えるものではない。
【0088】
〔実施例1〕
1.増殖型腫瘍溶解性アデノウイルス組換え体KH−901の構築物およびその解析(図4および図5参照のこと)。
【0089】
2.図1に示したhTERTプロモーターの配列に従って、2つのプライマー:
A. 5’−GTCTGGATCCGCTAGCCCCACG−3’;および
B. 5’−CGACCGGTGATATCGTTTAATTCGC−3’
を合成した。
【0090】
PCR法によるhTERTプロモーターの増幅のために、活性化したヒトRNAをテンプレートとして用いた。PCR反応は、1サイクル目には以下の反応条件:変性反応を94℃で5分間;アニール反応を81℃で1分間;および伸張反応を72℃で2分間、で行った。そして、2サイクル目以降のPCR反応においては、変性反応を93℃で1分間行った。PCR反応後の増幅物をアガロースゲル解析に供し、hTERTプロモーター断片を回収した。塩基配列決定法によって、アガロースゲル解析で得られた上記hTERTプロモーター断片が図1に示した配列と同一であることが示された。このDNA断片をpUC19ベクターにクローニングした。Strategene(Strategene,CA)が提供しているキットを用いた突然変異生成によって、上記DNA断片をクローニングしたpUC19ベクターを、図2に示した配列に再構築した。
【0091】
3.以下の2つのプライマー:
C. 5’―TAATATTTGTCTAGGGCCGCGGGGGATCTCTGC―3’;および
D. 5’―GGATCCAGACATGATAAGATACATTGAGAG―3’
を用いて、ポリ(A)シグナル配列をPCR法によって増幅した。
【0092】
ここで、Pcmv/ZERO(Invitrogen,USA)をテンプレートとして用い、PCR反応における増幅の条件は、上記PCR反応の反応条件と同じである。PCR反応後の断片を純化し、塩基配列決定法によってその塩基配列を確認した。
【0093】
4.純化した上記hTERTプロモーターおよびポリ(A)DNA断片を一緒に、95℃で5分間変性し、室温にまで冷却した。この混合物をテンプレートとして用いてPCR反応を行った。約500塩基対のDNA断片が、プライマーAおよびプライマーDで増幅された。純化および配列確認されたPCR断片をSspIおよびAgeIを用いて消化した。そして、ポリ(A)シグナル配列とhTERTプロモーターとを含み、かつ消化したDNA断片を、以下のクローニング工程に用いた。
【0094】
5.pXC.1(Microbix,カナダから購入した)をテンプレートとして用い、突然変異生成によって、pXC.1に2つの制限酵素部位(ヌクレオチド番号339にSspI部位を、ヌクレオチド番号551にPinAI部位)を導入した。変異を導入した上記pXC.1をSspIおよびPinAIで消化した後、ベクターである大きな断片として、pXC.1を純化した。ポリ(A)シグナル配列とhTERTプロモーターとを含む上記DNA断片を挿入物として用いて、pXC.1ベクターをライゲーションした。次の20時間において、通常のクローニング技術を用いて、E.Coli DH5を、ライゲーションした上記pXC.1ベクターで形質転換した。4℃で30分間インキュベートした後、42℃で30秒間熱刺激を与え、さらに4℃で2分間インキュベートした。その後、1mlのLB培養液を用いて、37℃で45分間培養した。培養液を、アンピシリンを含むアガロース培養プレートに移し、24時間培養した。プレート上の細菌を滅菌した爪楊枝で拾い上げ、消毒した培養ビンに入れた1mlのLB培養液に移し、24時間培養した。培養したE.ColiからプラスミドDNAを純化し、酵素で消化することによってその構造を確認した。上記プラスミドDNAをpKH−901aと命名した。このプラスミドは、左側のITR、パッケージング配列、ポリ(A)配列、hTERTプロモーター(Mtelo)、E1AおよびE1Bの一部を備えている。
【0095】
6.上記アデノウイルスの右末端の構築
pGEM−7ベクター(Promegaから購入可能)。以下の4つのプライマー:
E. 5’―AACCAAGGCGAACCTT―3’;
F. 5’―CCACATGGTTATCTTGG―3’;
G. 5’―CCAGTCCAGGAGTAATTTAC―3’;および
H. 5’―TGCGCTTTAGGCAGCAGATG―3’
の内の2組を用いて2つのDNA断片を増幅した。
【0096】
以下のプライマー:
M. 5’―CCACCCAAGATAACCATGTGGCTGC―3’;および
N. 5’―AACTTAGTAAATTACTCCTGGACTGG―3’
を用いてGM−CSF遺伝子をクローニングした。
【0097】
2.の項に記載した反応条件でPCRを行うことによって、活性化マクロファージから調製したcDNAテンプレートから大量のGM−CSFのcDNA断片を増幅した。GM−CSFの上記cDNA断片の配列を、該cDNA断片を純化した後、塩基配列決定法によって確認した。GM−CSFの上記cDNA断片を、pBHGE3から増幅された2つのDNA断片と混合した。混合した3つのDNA断片を、大きなDNA断片を作成するための、プライマーEおよびプライマーHを用いて行うPCR反応のテンプレートとして用いた。プライマーEおよびプライマーHを用いて行ったPCRで得られたDNA断片の配列を塩基配列決定法によって確認し、該DNA断片を、BsiWIおよびNotIで消化したpGEM−7にクローニングした。プライマーEおよびプライマーHを用いて行ったPCRで得られた上記DNA断片とBsiWIおよびNotIで消化したpBHGE3とをライゲーションすることによって、pKH−901bを作製した。この右末端のプラスミドは、E1Bの大部分、E2遺伝子の全長、E3遺伝子の全長、GM−CSF遺伝子およびE4遺伝子の全長を備えている。
【0098】
7.組換えアデノウイルスKH−901の構築
プラスミドDNAであるpKH−901aを、制限酵素であるNdeIを用いて直鎖状にし、かつプラスミドDNAであるpKH−901bを制限酵素であるClaIを用いて直鎖状にした。直鎖状にした2つのプラスミドを純化した後、HeLa細胞に(Invitrogenから購入したtransfectinを用いて)コトランスフェクションした。コトランスフェクション後、37℃で10日間培養したHeLa細胞を回収した。回収した細胞を3回、凍結融解することによって、プラーク試験法に用いる上清100μlを得た。上記上清を添加して8〜12日間、低融点のアガロースで培養したところ、単一のプラークが観察された。10μlの自動ピペットマンで拾い上げたアガロースを含む10μlの液体を、予め蒔いておいたHeLa細胞に接種した。接種から4〜8日後に、細胞溶解物を観察および回収した。200μlの上記細胞溶解物をDNA抽出に用いた。ウイルス構成物を、PCRおよびサザンブロッティングで確認した。個々のプラークをHeLa細胞で純化し、ウイルスストックを得るためにHeLa細胞で増殖させた。ウイルスストックは、−80℃のフリーザーで保存した。ウイルスストックの一定量を塩基配列の確認のために用いた。以上の操作によって得られたウイルスを、KH−901と命名した。
【0099】
大量のKH−901を産生させる方法について、別々に、しかしここでは簡単に説明する。細胞数が1リットルにつき300万個に達するまで、HeLa−S3細胞(無血清培地で増殖できるように適応させたHeLa細胞)3リットルのバイオリアクターで培養した。培養した細胞にKH−901を感染させ、2〜3日培養する。感染細胞を回収し、ウイルスをCsCl2濃度勾配純化またはイオン交換カラムによって純化した。純化したウイルスを、PBSやグリセロールなどの適当なバッファーに希釈して保存した。
【0100】
〔実施例2〕
KH−900は、KH−901の作製方法と同様の方法で構築した。ただし、KH−900の作製方法は、以下の点:pKH−900aプラスミドにはポリ(A)が含まれていないこと;hTERTプロモーター断片に変異が導入されていないこと;およびKH−900aに含まれる配列が配列番号1に示された配列と同じであること、においてKH−901の作製方法とは異なっている。得られたプラスミドは、pKH−900aと命名した。pKH−900aは、KH−900を作製するために、pKH−901bとともにHeLa細胞にコトランスフェクションした。
【0101】
〔実施例3〕
KH−902の構築のために、pKH−900bに含まれているGM−CSFのcDNAを、膜結合型のGM−CSFのcDNA(配列番号4で示された塩基配列)に置換した。得られたプラスミドを、pKH−902bと命名した。KH−902を作製するために、pKH−900aとpKH−902bとをHeLa細胞にコトランスフェクションした。
【0102】
〔実施例4〕
KH−903を作製するために、pKH−901bにおける10.4k、14.5kおよび14.7kのためのコード領域を従来の遺伝子工学的手法によって欠損させたpKH−903bを作製した。KH−903を作製するために、pKH−900aとpKH−903bとをHeLa細胞にコトランスフェクションした。
【0103】
〔実施例5〕
KH−904を作製するために、ファイバーのノブの遺伝子が、配列番号5に示されているように、つまりアデノウイルスセロタイプ5型のファイバー遺伝子のノブに対応する部分を、アデノウイルスセロタイプ35型のファイバー遺伝子のノブに対応する部分に置換した。これによって得られたプラスミドをpKH−904bと命名した。
【0104】
〔実施例6〕
KH−905を作製するために、pKH−904bにおけるGM−CSF遺伝子のcDNAを、配列番号5に示されているように、膜結合型のGM−CSF遺伝子のcDNAに置換した。これによって得られたプラスミドをpKH−905bと命名した。pKH−901aとpKH−905bとをHeLa細胞にコトランスフェクションすることによって、KH905を作製した。ウイルスの構造は、PCR法および塩基配列決定法によって確認した。
【0105】
〔実施例7〕
KH−906を作製するために、E1Bに対する内在性のプロモーターを、インターナルリボソームエントリーシグナル(internal ribosome entry signal)と置換した。これによって得られたプラスミドをpKH−906aと命名した。pKH−906aとpKH−901bとを、HeLa細胞にコトランスフェクションすることによってKH−906を作製した(Li et al.(2001)Cancer Research 62:2667−2674を参照のこと)。ウイルスの構造は、PCR法および塩基配列決定法によって確認した。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】ヒトテロメラーゼ逆転写酵素プロモーターの、塩基配列および転写因子への結合部位を示す図である。
【図2】より高い腫瘍細胞選択性および逆転者活性を有する、突然変異により改良されたヒトTERTプロモーターを示す図である。
【図3−1】本発明に係る組換え体の構造を示す図である。
【図3−2】本発明に係る組換え体の構造を示す図である。
【図4−1】組換えアデノウイルス変異体KH−901を生成する過程を示す図である。
【図4−2】組換えアデノウイルス変異体KH−901を生成する過程を示す図である。
【図4−3】組換えアデノウイルス変異体KH−901を生成する過程を示す図である。
【図5】組換え体KH−901の構築の詳細を示す図である。
【図6】野生型hTERTプロモーター(telo)および改良されたmhTERTプロモーター(Mtelo)の両者のプロモーター活性を示す図である。
【図7】hFK細胞、およびHPV E6遺伝子を変化し得るhFK−E6細胞における組換えアデノウイルスのE1AメッセンジャーRNAの発現を示す図である。
【図8】正常ヒト骨髄間葉系幹細胞に対する組換えアデノウイルスの細胞溶解活性を示す図である。
【図9】A549細胞における組換えアデノウイルスの細胞溶解活性(細胞生存率%)を示す図である。
【図10】組換えアデノウイルスの腫瘍内注射後の、前立腺癌LNCaP異種移植モデルにおける抗癌効果を示す図である。
【符号の説明】
【0107】
SP−1(GC−box) SP1結合部位
E−Box Myc結合部位
NF−1 NF結合部位
E2F−1 転写因子E2Fの結合部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制限増殖型ウイルス組換え体であって、
該組換え体は、主要ウイルス、腫瘍細胞特異的調節因子、および免疫調節遺伝子を含んでおり、
該主要ウイルスは、DNAウイルスまたはRNAウイルスであることを特徴とする組換え体。
【請求項2】
上記主要ウイルスが、アデノウイルスまたは遺伝学的に改良されたアデノウイルス変異体であることを特徴とする請求項1に記載の組換え体。
【請求項3】
上記アデノウイルスが、以下のアデノウイルスセロタイプ:Ad2、Ad5、Ad35およびAd41を含んでなる群から選ばれることを特徴とする請求項2に記載の組換え体。
【請求項4】
上記改良されたアデノウイルス変異体が、インターナルリボソームエントリーサイト(IRES)により自らのE1A遺伝子およびE1B遺伝子が連結されているアデノウイルスであることを特徴とする請求項2に記載の組換え体。
【請求項5】
上記改良されたアデノウイルス変異体が、アデノウイルスセロタイプ35のファイバーノブによって、自らのアデノウイルスセロタイプ5のファイバーノブが置換されているアデノウイルスであることを特徴とする請求項2に記載の組換え体。
【請求項6】
上記改良されたアデノウイルス変異体が、ITRおよびパッケージング配列の下流、ならびに異種性のプロモーターの上流に転写終結因子が挿入されているアデノウイルスであることを特徴とする請求項2に記載の組換え体。
【請求項7】
上記改良されたアデノウイルス変異体が、自らのE3領域における10.4K、14.5Kおよび14.7Kをエンコードしている塩基配列が欠損しているアデノウイルスであることを特徴とする請求項2に記載の組換え体。
【請求項8】
上記改良されたアデノウイルス変異体が、インターナルリボソームエントリーサイト(IRES)により自らのE1A遺伝子およびE1B遺伝子が連結されており、アデノウイルスセロタイプ35のファイバーノブによって、自らのアデノウイルスセロタイプ5のファイバーノブが置換されており、かつ、ITRおよびパッケージング配列の下流、ならびに異種性のプロモーターの上流に転写終結因子が挿入されているアデノウイルスであることを特徴とする請求項2に記載の組換え体。
【請求項9】
上記転写終結因子が、SV40初期ポリ(A)シグナル配列であることを特徴とする請求項6に記載の組換え体。
【請求項10】
上記腫瘍細胞特異的調節因子が、任意の腫瘍細胞選択的プロモーター、エンハンサー、サイレンサー、またはこれらの組合せてあることを特徴とする請求項1に記載の組換え体。
【請求項11】
上記プロモーターが、配列番号2に示されるhTERTプロモーターであることを特徴とする請求項10に記載の組換え体。
【請求項12】
上記免疫調節遺伝子が、ヒトの免疫応答を向上させ得る細胞因子の遺伝子であり、
該細胞因子が、IL−2、IL−10、IL−12、IL−15、IL−24、IL−25、GM−CSF、G−CSF、INF−alpha、INF−beta、およびこれらの変異体を含んでなる群より選ばれることを特徴とする請求項1に記載の組換え体。
【請求項13】
上記ヒトの免疫応答を向上させ得る細胞因子が、ヒトGM−CSFであることを特徴とする請求項12に記載の組換え体。
【請求項14】
上記GM−CSFが膜結合型であることを特徴とする請求項13に記載の組換え体。
【請求項15】
上記主要ウイルスが、自らのアデノウイルス塩基配列において、インターナルリボソームエントリーサイト(IRES)により自らのE1A遺伝子およびE1B遺伝子が連結されており、アデノウイルスセロタイプ35のファイバーノブによって、自らのアデノウイルスセロタイプ5のファイバーノブが置換されており、かつ、ITRおよびパッケージング配列の下流、ならびに異種性のプロモーターの上流に転写終結因子が挿入されている改良されたアデノウイルスであり、
上記腫瘍細胞特異的調節因子が、配列番号2に示されるhTERTプロモーターであり、
上記免疫調節遺伝子が、GM−CSF遺伝子であることを特徴とする請求項1に記載の組換え体。
【請求項16】
上記主要ウイルスが、自らのアデノウイルス塩基配列において、ITRおよびパッケージング配列の下流、ならびに異種性のプロモーターの上流に転写終結因子が挿入されている改良されたアデノウイルスであり、
上記腫瘍細胞特異的調節因子が、配列番号2に示されるhTERTプロモーターであり、
上記免疫調節遺伝子が、配列番号3に示される塩基配列からなるGM−CSF遺伝子であることを特徴とする請求項1に記載の組換え体。
【請求項17】
上記主要ウイルスが、自らのアデノウイルス塩基配列において、アデノウイルスセロタイプ35のファイバーノブによって、自らのアデノウイルスセロタイプ5のファイバーのノブが置換されている改良されたアデノウイルスであり、
上記腫瘍細胞特異的調節因子が、配列番号2に示されるhTERTプロモーターであり、
上記免疫調節遺伝子が、GM−CSF遺伝子であることを特徴とする請求項1に記載の組換え体。
【請求項18】
上記主要ウイルスが、自らのアデノウイルス塩基配列において、ITRおよびパッケージング配列の下流、ならびに異種性のプロモーターの上流に転写終結因子が挿入されており、かつ、自らのE3領域における10.4K、14.5Kおよび14.7Kをエンコードしている塩基配列が欠損している改良されたアデノウイルスであり、
上記腫瘍細胞特異的調節因子が、配列番号2に示されるhTERTプロモーターであり、
上記免疫調節遺伝子が、GM−CSF遺伝子であることを特徴とする請求項1に記載の組換え体。
【請求項19】
上記GM−CSFが膜結合型であることを特徴とする請求項15〜18の何れか1項に記載の組換え体。
【請求項20】
配列番号2に示される塩基配列を有することを特徴とするプロモーター。
【請求項21】
請求項1〜18の何れか1項に記載の組換え体を含んでいることを特徴とする薬学的組成物。
【請求項22】
注射として適用されるために処方されていることを特徴とする請求項21に記載の薬学的組成物。
【請求項23】
化学療法および放射線治療と共に適用されることを特徴とする請求項21に記載の薬学的組成物。
【請求項24】
腫瘍の予防および/または治療のための薬物の製造のために用いることを特徴とする請求項1に記載の組換え体。
【請求項25】
請求項1に記載の組換え体を調製する方法であって、以下の(a)〜(c)の工程を含んでいることを特徴とする方法:
(a)hTERTプロモーター配列を含んでいる、アデノウイルスの左腕部を生成する工程;
(b)免疫刺激遺伝子を含んでいる、アデノウイルスの右腕部を生成する工程;ならびに
(c)293細胞、HeLa細胞、HeLA−S3細胞またはA549細胞に、該アデノウイルスの左腕部および該アデノウイルスの右腕部のプラスミドDNAをコトランスフェクションし、相同組換えを介して該組換え体を生成する工程。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−501349(P2008−501349A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−526164(P2007−526164)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【国際出願番号】PCT/CN2004/001321
【国際公開番号】WO2005/121343
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(506405437)ツェンドゥー カンホン バイオテクノロジーズ カンパニー リミテッド (3)
【Fターム(参考)】