説明

腫瘍転移の血管新生と関連するフィブロネクチンのED−A抗原

本発明は、腫瘍転移の治療のための、フィブロネクチンのエキストラドメイン-A(ED-A)アイソフォームに結合する結合メンバーに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転移の検出および治療、すなわち、原発腫瘍の部位とは異なる部位に生じる二次腫瘍の検出および治療に関する。本発明は、フィブロネクチンのED-Aアイソフォームに結合する結合メンバー、特に、フィブロネクチンのED-Aドメインに結合する結合メンバーの使用を含む。
【背景技術】
【0002】
癌に関連する死亡の多くは、疾患の転移性拡散に関連し(HanahanおよびWeinberg 2000)、活発な血管新生が侵攻性腫瘍転移の特徴である。
【0003】
腫瘍は良性または悪性のいずれかに分類される。悪性腫瘍は原発部位(原発腫瘍)から、体内の他の部分に拡散することができるが、良性腫瘍は拡散することができない。悪性腫瘍は侵襲および転移によりその原発部位から拡散することができる。転移の結果として形成される腫瘍は、例えば、転移、二次腫瘍、転移性病変または転移巣として知られる。
【0004】
血管形成は、存在する血管からの新しい血管の増殖を説明するものである。腫瘍は様々な増殖因子(例えば、血管内皮増殖因子)の分泌を通して血管形成を誘導することができる。腫瘍血管形成により、腫瘍は直径数ミリメートルを超えて増殖することができ、また腫瘍転移の前提条件ともなる。血管形成の結果として形成される新血管は、腫瘍または腫瘍転移の血管新生を形成する。
【0005】
フィブロネクチン(FN)は糖タンパク質であり、様々な正常組織および体液中で広く発現される。それは細胞外マトリックス(ECM)の成分であり、細胞接着、細胞移動、ホメオスタシス、血栓形成、創傷治癒、組織分化および癌性形質転換などの多くの生物学的プロセスにおいて役割を果たしている。
【0006】
サイトカインおよび細胞外pHにより調節されるプロセスである、一次転写物FNプレmRNAの3個の領域(ED-A、ED-B、IIICS)の選択的スプライシングにより、異なるFNアイソフォームが生成される(Balza 1988; Carnemolla 1989; Borsi 1990; Borsi 1995)。フィブロネクチンは、選択的スプライシングを受け得る2個のIII型球状エキストラドメイン:ED-AおよびED-Bを含む(ffrench-Constant 1995, Hynes 1990, Kasparら、2006)。マウスフィブロネクチンおよびヒトフィブロネクチンのED-Aは96.7%同一である(2個の90アミノ酸配列間で3アミノ酸のみが異なる、図5を参照)。
【0007】
フィブロネクチンのED-Aの発現は、mRNAレベル(例えば、Jacobsら、2002、Matsumotoら、1999、Oyamaら、1989、Tavianら、1994を参照)、単離されたタンパク質レベル(Borsiら、1987)および免疫組織化学レベル(Borsiら、1998、Heikinheimoら、1991、Koukoulisら、1993、Koukoulisら、1995、Lohiら、1995、Scarpinoら、1999)で、腫瘍細胞および固形腫瘍中で報告されている。また、ED-Aが原発腫瘍の血管新生中に存在することもBorsiら、1998、Exp Cell Res, 240, 244-251により報告されている。しかしながら、ED-Aが腫瘍転移の血管新生と関連するという示唆は以前には為されていない。
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは本明細書において、フィブロネクチンのED-Aが腫瘍転移の血管新生において選択的に発現されることを示す。腫瘍血管は静脈内投与された治療剤にとって容易に接近可能であるため(NeriおよびBicknell 2005、Rybakら、2006、Thorpe 2004、TrachselおよびNeri 2006)、A-FNおよび/またはフィブロネクチンのED-Aに結合する抗体分子などの結合分子は腫瘍転移の治療のための医薬の調製に用いることができる新規薬剤である。腫瘍血管新生の治療法(腫瘍血管標的化)は、腫瘍転移の治療のための有望な手法である。腫瘍血管標的化は、腫瘍自身の中の血管を破壊すること、血流を低下させて腫瘍から酸素および栄養素を枯渇させること、腫瘍細胞死を引き起こすことを目指すものである。
【0009】
本明細書では、腫瘍転移の新しく形成する血管を選択的に認識する抗ED-A抗体が提供される。
【0010】
本発明は、一態様においては、腫瘍転移の治療のための医薬の調製のための、フィブロネクチンのエキストラドメイン-A(ED-A)アイソフォーム(A-FN)に結合する結合メンバー、例えば、抗体分子の使用に関する。別の態様においては、本発明は、腫瘍転移の治療のための医薬の調製のためのフィブロネクチンのED-Aに結合する結合メンバー、例えば、抗体分子の使用に関する。
【0011】
さらなる態様においては、本発明は、腫瘍転移の血管新生への、フィブロネクチンのED-Aアイソフォームに結合する結合メンバー、例えば、抗体分子にコンジュゲートさせた分子の送達のための該結合メンバーの使用に関する。別の態様においては、本発明は、腫瘍転移の血管新生への、フィブロネクチンのED-Aに結合する結合メンバー、例えば、抗体分子の送達のための該結合メンバーの使用に関する。さらなる態様においては、該結合メンバーを、そのような分子の送達のための医薬の製造のために用いることができる。
【0012】
さらなる態様においては、本発明は、腫瘍転移の診断における使用のための診断製品の製造のための、フィブロネクチンのED-Aアイソフォームに結合する結合メンバー、例えば、抗体分子の使用に関する。さらなる態様においては、本発明は、腫瘍転移の診断における使用のための診断製品の製造のための、フィブロネクチンのED-Aに結合する結合メンバー、例えば、抗体分子の使用に関する。
【0013】
また、本発明は、一態様においては、ヒトまたは動物における腫瘍転移を検出または診断する方法であって、
(a) 該ヒトまたは動物に、フィブロネクチンのED-Aアイソフォームに結合する結合メンバー、例えば、抗体分子を投与する工程、および
(b) 該ヒトまたは動物の体内の原発腫瘍により現在または以前に占有された部位から遠くの部位での前記結合メンバーの存在または非存在を決定する工程、
を含み、該ヒトまたは動物における原発腫瘍により現在または以前に占有された部位から遠くの部位への前記結合メンバーの局在化が、腫瘍転移の存在を示す、前記方法にも関する。
【0014】
本発明は、別の態様においては、ヒトまたは動物における腫瘍転移を検出または診断する方法であって、
(a) 該ヒトまたは動物に、フィブロネクチンのED-Aに結合する結合メンバー、例えば、抗体分子を投与する工程、および
(b) 該ヒトまたは動物の体内の原発腫瘍により現在または以前に占有された部位から遠くの部位での該結合メンバーの存在または非存在を決定する工程、
を含み、ヒトまたは動物における原発腫瘍により現在または以前に占有された部位から遠くの部位への前記結合メンバーの局在化が、腫瘍転移の存在を示す、前記方法に関する。
【0015】
本発明はまた、一態様においては、個体における腫瘍転移を治療する方法であって、該個体に、フィブロネクチンのED-Aアイソフォームに結合する結合メンバー、例えば、抗体分子を含む治療上有効量の医薬を投与することを含む前記方法にも関する。別の態様においては、本発明は、個体における腫瘍転移を治療する方法であって、該個体に、フィブロネクチンのED-Aに結合する結合メンバー、例えば、抗体分子を含む治療上有効量の医薬を投与することを含む前記方法に関する。
【0016】
別の態様においては、本発明は、ヒトまたは動物における腫瘍転移の血管新生に分子を送達する方法であって、該ヒトまたは動物に、フィブロネクチンのED-Aアイソフォームに結合する結合メンバー、例えば、抗体分子を投与することを含み、該結合メンバーを該分子にコンジュゲートさせる、前記方法に関する。さらなる態様においては、本発明は、ヒトまたは動物における腫瘍転移の血管新生に分子を送達する方法であって、該ヒトまたは動物に、フィブロネクチンのED-Aに結合する結合メンバー、例えば、抗体分子を投与することを含み、該結合メンバーを該分子にコンジュゲートさせる、前記方法に関する。
【0017】
本発明の結合メンバーは、抗体H1、B2、C5、D5、E5、C8、F8、F1、B7、E8もしくはG9、またはその変異体の1個以上の相補性決定領域(CDR)を含む、フィブロネクチンのED-Aアイソフォームおよび/またはフィブロネクチンのED-Aに結合する抗体であってもよい。好ましくは、本発明の結合メンバーは、抗体B2、C5、D5、C8、F8、B7もしくはG9、またはその変異体の1個以上の相補性決定領域(CDR)を含む、フィブロネクチンのED-Aアイソフォームおよび/またはフィブロネクチンのED-Aに結合する抗体である。最も好ましくは、抗体F8またはその変異体の1個以上の相補性決定領域(CDR)を含む、フィブロネクチンのED-Aアイソフォームおよび/またはフィブロネクチンのED-Aに結合する抗体である。
【0018】
本発明の結合メンバーは、Hおよび/もしくはL CDRの開示されたセット内に10個以下、例えば、1、2、3、4、もしくは5個のアミノ酸置換を有する、抗体H1、B2、C5、D5、E5、C8、F8、F1、B7、E8もしくはG9のHおよび/もしくはL CDRのセット、または抗体H1、B2、C5、D5、E5、C8、F8、F1、B7、E8もしくはG9のHおよび/もしくはL CDRのセットを含んでもよい。好ましくは、本発明の結合メンバーは、Hおよび/もしくはL CDRの開示されたセット内に10個以下、例えば、1、2、3、4、もしくは5個のアミノ酸置換を有する、抗体B2、C5、D5、C8、F8、B7もしくはG9のHおよび/もしくはL CDRのセットを含む。好ましくは、本発明の結合メンバーは、Hおよび/もしくはL CDRの開示されたセット内に10個以下、例えば、1、2、3、4もしくは5個のアミノ酸置換を有する、抗体F8のHおよび/もしくはL CDRのセットを含む。
【0019】
潜在的には、置換を、CDRのセット内の任意の残基で行ってよく、CDR1、CDR2および/またはCDR3内であってもよい。
【0020】
例えば、本発明の結合メンバーは、本明細書に記載される1個以上のCDR、例えば、CDR3と、必要に応じて、CDR1およびCDR2をも含み、CDRのセットを形成してもよい。
【0021】
本発明の結合メンバーはまた、抗体分子、例えば、ヒト抗体分子を含んでもよい。前記結合メンバーは通常、抗体VHおよび/またはVLドメインを含む。結合メンバーのVHドメインも、本発明の一部として提供される。それぞれのVHおよびVLドメイン内には、相補性決定領域(「CDR」)と、フレームワーク領域(「FR」)がある。VHドメインは、HCDRのセットを含み、VLドメインはLCDRのセットを含む。抗体分子は、VH CDR1、CDR2およびCDR3ならびにフレームワークを含む抗体VHドメインを含んでもよい。あるいは、またはまた、それはVL CDR1、CDR2およびCDR3ならびにフレームワークを含む抗体VLドメインを含んでもよい。VHおよびVLドメインならびに抗体H1、B2、C5、D5、E5、C8、F8、F1、B7、E8およびG9のCDRが本明細書に記載される。本明細書に開示される全てのVHおよびVL配列、CDR配列、CDRのセットならびにHCDRのセットおよびLCDRのセットは、本発明における使用のための結合メンバーの態様および実施形態である。本明細書に記載されるように、「CDRのセット」は、CDR1、CDR2およびCDR3を含む。かくして、HCDRのセットはHCDR1、HCDR2およびHCDR3を指し、LCDRのセットはLCDR1、LCDR2およびLCDR3を指す。特に指摘しない限り、「CDRのセット」はHCDRおよびLCDRを含む。
【0022】
本発明の結合メンバーは、相補性決定領域HCDR1、HCDR2およびHCDR3とフレームワークとを含む抗体VHドメインを含んでもよく、ここでHCDR1は配列番号3、23、33、43、53、63、73、83、93、103もしくは113であり、必要に応じて、HCDR2は配列番号4であり、および/またはHCDR3は配列番号5である。好ましくは、HCDR1は配列番号23、33、43、53、73、83または103である。最も好ましくは、HCDR1は配列番号83である。
【0023】
典型的には、VHドメインは、VLドメインと対形成して、抗体抗原結合部位を提供するが、以下でさらに考察するように、VHまたはVLドメインのみを用いて抗原に結合させることができる。かくして、本発明の結合メンバーは、相補性決定領域LCDR1、LCDR2およびLCDR3とフレームワークとを含む抗体VLドメインをさらに含んでもよく、ここでLCDR1は配列番号6、26、36、46、56、66、76、86、96、106もしくは116であり、必要に応じて、LCDR2は配列番号7であり、および/またはLCDR3は配列番号8である。好ましくは、LCDR1は配列番号26、36、46、56、76、86または106である。最も好ましくは、LCDR1は配列番号86である。
【0024】
一態様においては、本発明の結合メンバーは、VHドメインとVLドメインを含む、フィブロネクチンのED-Aのための単離された抗体分子であり、ここで、VHドメインはフレームワークと、相補性決定領域HCDR1、HCDR2およびHCDR3のセットとを含み、VLドメインは相補性決定領域LCDR1、LCDR2およびLCDR3とフレームワークとを含み、HCDR1は配列番号3、23、33、43、53、63、73、83、93、103もしくは113のアミノ酸配列を有し、HCDR2は配列番号4のアミノ酸配列を有し、HCDR3は配列番号5のアミノ酸配列を有し、LCDR1は配列番号6、26、36、46、56、66、76、86、96、106もしくは116のアミノ酸配列を有し、LCDR2は配列番号7のアミノ酸配列を有し、ならびにLCDR3は配列番号8のアミノ酸配列を有する。
【0025】
抗体の1個以上のCDRまたはCDRのセットを、フレームワーク(例えば、ヒトフレームワーク)中に移植して、本発明における使用のための抗体分子を提供することができる。フレームワーク領域は、ヒト生殖系列遺伝子断片配列を含んでもよい。かくして、フレームワークを、生殖系列化することができ、ここで、該フレームワーク内の1個以上の残基を変化させて、最も類似するヒト生殖系列フレームワーク中の等価な位置の残基と一致させる。本発明の結合メンバーは、ヒト生殖系列フレームワーク、例えば、DP47中にHCDRのセットを含むVHドメインを有する単離された抗体分子であってもよい。通常、前記結合メンバーはまた、例えば、ヒト生殖系列フレームワーク中の、LCDRのセットを含むVLドメインを有する。VLドメインのヒト生殖系列フレームワークはDPK22であってよい。
【0026】
本発明のVHドメインは、配列番号1、21、31、41、51、61、71、81、91、101または111のアミノ酸配列を有してもよい。好ましくは、本発明のVHドメインは、配列番号21、31、41、51、71、81または101のアミノ酸配列を有する。最も好ましくは、本発明のVHドメインは、配列番号81のアミノ酸配列を有する。本発明のVLドメインは、配列番号2、22、32、42、52、62、72、82、92、102または112のアミノ酸配列を有してもよい。好ましくは、本発明のVLドメインは、配列番号22、32、42、52、72、82または102のアミノ酸を有する。最も好ましくは、本発明のVLドメインは、配列番号82のアミノ酸を有する。
【0027】
本発明の結合メンバーは、ペプチドリンカーを介して連結されたVHドメインとVLドメインを含む一本鎖Fv(scFv)であってもよい。当業者であれば、リンカーの好適な長さおよび配列、例えば、少なくとも5または10アミノ酸長から約15、20または25アミノ酸長を選択することができる。scFvは、配列番号9のアミノ酸配列からなるか、またはそれを含んでもよい。
【0028】
本発明の結合メンバーは、ペプチドリンカーを介して連結されたVHドメインとVLドメインを有する第1のポリペプチドと、ペプチドリンカーを介して連結されたVHドメインとVLドメインを有する第2のポリペプチドとを含む分子であり、第1のポリペプチドのVHドメインとVLドメインが、それぞれ、第2のポリペプチドのVLドメインとVHドメインと対形成する、ダイアボディ(diabody)(WO 94/13804; Holliger 1993a)であってもよい。第1および第2のポリペプチドは同じであっても(この場合、対形成により二価分子が得られる)、または異なっていてもよい(この場合、対形成により二特異的分子が得られる)。当業者であれば、リンカーの好適な長さおよび配列、例えば、5個以下のアミノ酸長を選択することができる。このリンカーは配列番号28のアミノ酸配列を有してもよい。
【0029】
本発明の結合メンバーは、通常、非抗体タンパク質足場中に1個以上のCDR、例えば、CDRのセットにより提供される、非抗体分子内の抗原結合部位を含んでもよい。非抗体および抗体分子などの結合メンバーは、本明細書の他の場所により詳細に記載されている。
【0030】
本発明の結合メンバーを、殺菌活性または細胞傷害活性を有する分子にコンジュゲートさせることができる。あるいは、本発明の結合メンバーを、放射性アイソトープにコンジュゲートさせることができる。さらなる代替として、本発明の結合メンバーを、検出可能な標識を用いて標識することができる。
【0031】
本発明のこれらの態様および他の態様を、以下でさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】A:健康なマウスに由来する肝臓およびマウス由来F9肝臓転移におけるアクセス可能なタンパク質の比較分析に用いられるかん流に基づくプロテオミクス方法論の模式図を示す。B:F9肝臓転移によりもたらされた大きな転移巣を示す。C:F9肝臓転移の血管の選択的かつ効率的な染色(転移)ならびに正常な肝臓における血管の強力な染色およびいくつかの類洞の標識(肝臓)を示す。染色は暗い方の線に対応し、それは腫瘍を担持するマウスを、末端麻酔下で血漿増量剤として10%デキストラン-40を補給した、PBS、pH 7.4中のスルホスクシンイミジル-6-[ビオチン-アミド]ヘキサノエート(1 mg/ml)の1.8 mM溶液15 mlでかん流した後、ストレプトアビジン-アルカリホスファターゼコンジュゲートを用いて組織化学染色した後に得られる。
【図2】A:フィブロネクチンドメイン構造上での正常なマウス肝臓(正常)およびマウス由来F9肝臓転移(腫瘍)のプロテオミクス分析において同定されたフィブロネクチンペプチドの位置を示す。B:正常マウス肝臓サンプルおよびマウス由来F9肝臓転移のプロテオミクス分析において同定されたペプチドを、LC-MS/MS実験に提出した。このペプチドをまずHPLCにより分離した後、192画分に溶出させた。それぞれの画分をMALDI標的プレート上に別々のスポットとしてスポットし、それぞれの画分についてMALDI TOF MSスペクトルを獲得した。2つの異なる特定のHPLC画分の質量スペクトル(それぞれ、上段、中段)を、3回の反復F9肝臓転移サンプル(「肝臓転移」と標識されたパネルを参照)および正常マウス肝臓の3回の反復サンプル(「正常肝臓」と標識されたパネルを参照)について示す。イオンピーク高を内部標準に対して正規化し(材料および方法を参照)、かくして、異なるサンプルにおける対応するペプチドの半定量的比較が可能になった。上段においては、矢印で示されたピーク(示される最初のサンプルでは「FN」と標識)は、フィブロネクチンの定常領域(フィブロネクチンIII型ドメイン16)に由来するペプチドFLTTTPNSLLVSWQAPR(配列番号15)に対応する。このペプチドのイオンピークは、F9マウス肝臓転移サンプル(肝臓転移)においてより高いが、正常マウス肝臓サンプル(正常肝臓)中にも存在し、これはフィブロネクチン分子が、原理的には、F9マウス肝臓転移と正常マウス肝臓の両方に存在するが、F9マウス肝臓転移サンプル中でより豊富であるようであることを示している。中段では、右手矢印(「EDA」と標識)で示されたピークは、フィブロネクチンの選択的にスプライシングされたエキストラドメインAに由来するペプチドIAWESPQGQVSR(配列番号16)に対応する。このED-Aペプチドは、F9マウス肝臓転移サンプル(肝臓転移)においてのみ検出可能であり、正常マウス肝臓サンプル(正常肝臓)においては検出不可能である。左手矢印で示された参照ペプチド(「ref」と標識)を用いて、ED-Aペプチドが溶出するHPLC画分を同定した。これは、正常マウス肝臓サンプル(正常肝臓)について示されたスペクトルにおける参照ペプチドのピークの存在が、正常マウス肝臓サンプル中に存在した場合、ED-Aペプチドが検出可能である画分の質量スペクトルが示されることの証拠であることを意味する。下段は、正常肝臓サンプルに由来するこのペプチドが存在しないことを証明するED-Aペプチドイオンピーク(矢印で示される)の位置の質量スペクトルの拡大図を示す。
【図3】A:フラッグタグ付親抗ED-A抗体(抗ED-A)を用いるF9肝臓転移と近接する正常マウス肝臓組織の免疫組織化学染色(暗い方の線)により、転移において染色の強い血管パターンが示されたが、近接する正常肝臓組織においては、特異的染色は検出不可能であったことを示す。陰性対照(対照)においては、フラッグタグ付親抗ED-A抗体を省略した。フラッグタグ付親抗ED-A抗体を用いて観察された染色パターンは、新血管構造の定評のあるマーカーである、フィブロネクチンエキストラドメインBを認識するフラッグタグ付抗ED-B scFv(L19)抗体(抗EDB)を用いて観察された染色パターンと類似する。B:F9DR腫瘍細胞を注入し、3週間後、200μl/マウス、すなわち、60μgの抗体/マウスのAlexa 750標識された親抗ED-A抗体(最終濃度0.3 mg/ml)を尾静脈にさらに注入したSv190マウスの器官(脾臓、心臓、肺および2つの転移を有する肝臓部分)を示す。マウス器官を、Alexa 750標識された親抗ED-A抗体の注入の6時間後に切り出した。Alexa 750標識された親抗ED-A抗体染色を、タングステンハロゲンランプ、Alexa 750に特異的な励起および放射フィルター、ならびにモノクロCCDカメラを備えた自作赤外蛍光画像化装置(Birchlerら、1999)を用いて可視化した。
【図4】ヒト転移におけるED-A発現を示す。フラッグタグ付親抗ED-A抗体を用いて、免疫組織化学によりヒト転移におけるED-Aの発現を評価した。フラッグタグ付親抗ED-A抗体を省略する陰性対照(対照)においては、陽性染色は検出されなかったが、フラッグタグ付親抗ED-A抗体を用いたヒト正常肺組織切片(正常ヒト肺)上では非常に弱いバックグラウンド染色のみが観察され、ヒト肺転移(RCC[腎細胞癌]のヒト肺転移)は、暗い方の線と影で示されるように、フラッグタグ付親抗ED-A抗体(抗ED-A)で強く陽性に染色された。フラッグタグ付親抗ED-A抗体の染色パターンは主に血管であり、新血管構造の定評のあるマーカーである、フィブロネクチンエキストラドメインBを認識するフラッグタグ付抗ED-B scFv(L19)抗体(抗EDB)について観察された染色パターンと類似する。フラッグタグ付親抗ED-A抗体を用いる結腸直腸癌のヒト肝臓転移(CRCのヒト肝臓転移)の免疫組織化学分析により、同様の結果が得られた。フラッグタグ付親抗ED-A抗体は、結腸直腸癌のヒト肝臓転移において強い血管および間質染色パターンを示す。
【図5】ヒトED-A(上の配列)とマウスED-A(下の配列)とのアラインメントを示す。星印はヒトED-AとマウスED-Aのアミノ酸が同一であるアミノ酸位置を示す。
【図6−1】A:抗ED-A抗体H1重鎖(VH)のヌクレオチド配列(配列番号12)を示す。抗ED-A抗体H1の重鎖CDR1のヌクレオチド配列に下線を付す。抗ED-A抗体H1の重鎖CDR2のヌクレオチド配列を、斜体かつ下線付きで示す。抗ED-A抗体H1の重鎖CDR3のヌクレオチド配列を、太字かつ下線付きで示す。B:抗ED-A抗体H1リンカー配列のヌクレオチド配列(配列番号14)を示す。C:抗ED-A抗体H1軽鎖(VL)のヌクレオチド配列(配列番号13)を示す。抗ED-A抗体H1の重鎖CDR1のヌクレオチド配列に下線を付す。抗ED-A抗体H1の軽鎖CDR2のヌクレオチド配列を、斜体かつ下線付きで示す。抗ED-A抗体H1の軽鎖CDR3のヌクレオチド配列を、太字かつ下線付きで示す。
【図6−2】図6−1の続きである。
【図7】A:抗ED-A抗体H1重鎖(VH)のアミノ酸配列(配列番号1)を示す。抗ED-A抗体H1の重鎖CDR1のアミノ酸配列(配列番号3)に下線を付す。抗ED-A抗体H1の重鎖CDR2のアミノ酸配列(配列番号4)を、斜体かつ下線付きで示す。抗ED-A抗体H1の重鎖CDR3のアミノ酸配列(配列番号5)を、太字かつ下線付きで示す。B:抗ED-A抗体H1リンカー配列のアミノ酸配列(配列番号11)を示す。C:抗ED-A抗体H1軽鎖(VL)のアミノ酸配列(配列番号2)を示す。抗ED-A抗体H1の軽鎖CDR1のアミノ酸配列(配列番号6)に下線を付す。抗ED-A抗体H1の軽鎖CDR2のアミノ酸配列(配列番号7)を、斜体かつ下線付きで示す。抗ED-A抗体H1の軽鎖CDR3のアミノ酸配列(配列番号8)を、太字かつ下線付きで示す。
【図8】F9腫瘍担持マウスにおけるF8ダイアボディの生体内分布を示す。4匹のF9腫瘍担持マウスに、I125標識されたF8ダイアボディを静脈内注入した。このマウスを、24時間後に犠牲にし、腫瘍、肝臓、肺、脾臓、心臓、腎臓、腸、尾および血液を取り出した。次いで、腫瘍、肝臓、肺、脾臓、心臓、腎臓、腸、尾および血液の放射活性を計測した。腫瘍、肝臓、肺、脾臓、心臓、腎臓、腸、尾および血液1グラム(g)あたり検出されたI125標識されたF8ダイアボディの注入用量(ID)の割合(%)を、図8に示す。F9腫瘍(腫瘍)は、分析した他のマウス組織のいずれよりも、約4倍多くのIDを含んでいた。
【発明を実施するための形態】
【0033】
用語
フィブロネクチン
フィブロネクチンは、選択的スプライシングを受ける抗原であり、本明細書の他の場所に記載されるように、フィブロネクチンのいくつかの代替的アイソフォームが公知である。エキストラドメインA(EDAまたはED-A)はまた、ED、エキストラIII型リピートA(EIIIA)またはEDIとしても公知である。ヒトED-Aの配列は、Kornblihttら(1984)、Nucleic Acids Res. 12, 5853-5868およびPaolellaら(1988)、Nucleic Acids Res. 16, 3545-3557により公開されている。ヒトED-Aの配列は、アクセッション番号P02751の下で寄託されたアミノ酸配列のアミノ酸1631-1720(フィブロネクチンIII型12;エキストラドメイン2)としてSwissProtデータベース上でも入手可能である。マウスED-Aの配列は、アクセッション番号P11276の下で寄託されたアミノ酸配列のアミノ酸1721-1810(フィブロネクチンIII型13;エキストラドメイン2)としてSwissProtデータベース上で入手可能である。
【0034】
フィブロネクチンのED-Aアイソフォーム(A-FN)は、エキストラドメインA(ED-A)を含む。ヒトA-FNの配列を、アクセッション番号P02751の下でSwissProtデータベース上で入手可能である対応するヒトフィブロネクチン前駆体配列から推定することができる。マウスA-FNの配列を、アクセッション番号P11276の下でSwissProtデータベース上で入手可能である対応するマウスフィブロネクチン前駆体配列から推定することができる。A-FNは、フィブロネクチンのヒトED-Aアイソフォームであってもよい。ED-AはヒトフィブロネクチンのエキストラドメインAであってもよい。
【0035】
ED-Aは、選択的スプライシングによりフィブロネクチン(FN)中に挿入され、FNのドメイン11と12の間に位置する90アミノ酸の配列である(Borsiら、1987, J. Cell Biol., 104, 595-600)。ED-Aは主として、FNの血漿形態中には存在しないが、胚形成、組織再モデリング、線維症、心臓移植および固形腫瘍増殖の間には豊富である。
【0036】
選択的スプライシング
選択的スプライシングとは、異なるmRNAを産生するDNAの一次RNA転写物のスプライシングの異なるパターンの出現を指す。イントロンの切り出し後、選択は、どのエクソンが一緒にスプライシングされてmRNAを形成するかを決定することができる。選択的スプライシングは、異なるエクソンを含む異なるアイソフォームおよび/または異なる数のエクソンの産生を誘導する。例えば、1個のアイソフォームは、1個以上のドメインを含んでもよい、1個以上のエクソンに対応する追加のアミノ酸配列を含んでもよい。
【0037】
結合メンバー
これは、互いに結合する一対の分子の一方のメンバーを記載するものである。結合対のメンバーは、天然由来であっても、または全体的もしくは部分的に合成的に作製されたものであってもよい。前記対の分子の一方のメンバーは、その表面上、または空洞上に、前記対の分子の他方のメンバーの特定の空間構造および極性構造に結合し、従ってそれと相補的である領域を有する。結合対の型の例は、抗原-抗体、ビオチン-アビジン、ホルモン-ホルモン受容体、受容体-リガンド、酵素-基質である。本発明は、抗原-抗体型反応に関する。
【0038】
結合メンバーは通常、抗原結合部位を有する分子を含む。例えば、結合メンバーは、抗原結合部位を含む抗体分子または非抗体タンパク質であってよい。
【0039】
抗原結合部位を、フィブロネクチンもしくはシトクロムBなどの非抗体タンパク質足場上の相補性決定領域(CDR)の配置を用いて(Haan & Maggos, 2004; Koide 1998; Nygren 1997)、またはタンパク質足場内のループのアミノ酸残基を無作為化するか、もしくは突然変異させて、所望の標的に対する結合特異性を付与することにより提供することができる。タンパク質中で新規結合部位を操作するための足場は、Nygrenら(1997)により詳細に概説されている。抗体模倣物質のためのタンパク質足場は、その全体が参照により本明細書に組み入れられるものとするWO 00/34784に開示されており、発明者らは少なくとも1個の無作為化されたループを有するフィブロネクチンIII型ドメインを含むタンパク質(抗体模倣物質)を記載している。1個以上のCDR、例えば、HCDRのセットを移植するのに好適な足場を、免疫グロブリン遺伝子スーパーファミリーの任意のドメインメンバーにより提供することができる。この足場はヒトまたは非ヒトタンパク質であってよい。非抗体タンパク質足場の利点は、それが、少なくともいくつかの抗体分子よりも小さく、および/または製造が容易である足場分子中に抗原結合部位を提供することができることである。小さいサイズの結合メンバーは、細胞に進入する能力、組織中に深く浸透するか、もしくは他の構造内の標的に到達する能力、または標的抗原のタンパク質空洞内に結合する能力などの有用な生理学的特性を付与することができる。非抗体タンパク質足場中での抗原結合部位の使用は、Wess, 2004に概説されている。安定な主鎖および1個以上の可変ループを有するタンパク質が典型的であり、ループのアミノ酸配列を特異的もしくは無作為に突然変異させて、標的抗原に結合する抗原結合部位を作製する。そのようなタンパク質としては、S. aureus由来プロテインAのIgG結合ドメイン、トランスフェリン、テトラネクチン、フィブロネクチン(例えば、第10フィブロネクチンIII型ドメイン)およびリポカリンが挙げられる。他の手法としては、分子内ジスルフィド結合を有する小タンパク質であるシクロチドに基づく合成「ミクロボディ」(Selecore GmbH)が挙げられる。
【0040】
抗体配列および/または抗原結合部位に加えて、本発明に従う結合メンバーは、例えば、折り畳まれたドメインなどのペプチドもしくはポリペプチドを形成するか、または抗原に結合する能力に加えて、該分子に別の機能的特性を与える他のアミノ酸を含んでもよい。本発明の結合メンバーは検出可能な標識を担持してもよく、または毒素もしくは標的化部分もしくは酵素にコンジュゲートさせることができる(例えば、ペプチド結合もしくはリンカーを介して)。例えば、結合メンバーは、触媒部位(例えば、酵素ドメイン中)ならびに抗原結合部位を含んでもよく、該抗原結合部位は該抗原に結合し、かくして、該触媒部位を該抗原に標的化する。触媒部位は、例えば、切断により、抗原の生物学的機能を阻害することができる。
【0041】
注記されるように、CDRを非抗体足場により担持することができるが、本発明のCDRもしくはCDRのセットを担持させるための構造は、一般的にはCDRもしくはCDRのセットが、再配列された免疫グロブリン遺伝子によりコードされる天然のVHおよびVL抗体可変ドメインのCDRもしくはCDRのセットに対応する位置に位置する抗体重鎖もしくは軽鎖配列またはその実質的な部分であろう。免疫グロブリン可変ドメインの構造および位置を、Kabat 1987および現在ではインターネット上(immuno.bme.nwu.eduまたは任意の検索エンジンを用いて「Kabat」を検索する)で入手可能なそのアップデート版を参照することにより決定することができる。
【0042】
CDR領域またはCDRとは、Kabatら(1987)(Kabat 1991a、およびそれより後の版)により定義された免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の超可変領域を示すと意図される。抗体は、典型的には3個の重鎖CDRと3個の軽鎖CDRを含む。用語「CDR」は、本明細書では、必要に応じて、抗原もしくは抗体が認識するエピトープに対する抗体の親和性により、結合を担うアミノ酸残基の大部分を含むこれらの領域の1つもしくはいくつか、またはこれらの領域の全部をも示すように用いられる。
【0043】
6個の短いCDR配列のうち、重鎖の3番目のCDR(HCDR3)は、より大きいサイズの可変性を(それを生じる遺伝子の整列の機構に本質的に依存するより高い多様性)を有する。公知の最も長いサイズは26であるが、それは2アミノ酸の短さであってもよい。機能的には、HCDR3は抗体の特異性の決定において役割を果たしている(Segal 1974; Amit 1986; Chothia 1987; Chothia 1989; Caton 1990; Sharon 1990a; Sharon 1990b; Kabatら、1991b)。
【0044】
抗体分子
これは、天然に産生された、または部分的もしくは全体的に合成的に産生された免疫グロブリンを記載する。この用語はまた、抗体抗原結合部位を含む任意のポリペプチドまたはタンパク質をも包含する。本発明は天然形態の抗体に関するものではない、すなわち、それらはその天然の環境にはないが、それらを天然の起源からの精製により単離もしくは取得するか、または他に遺伝子組換え、もしくは化学的合成により取得することができたものであること、ならびにその後、それらが、後に記載するように非天然アミノ酸を含んでもよいことを理解しなければならない。抗体抗原結合部位を含む抗体フラグメントとしては、限定されるものではないが、Fab、Fab'、Fab'-SH、scFv、Fv、dAb、Fdなどの抗体分子;ならびにダイアボディが挙げられる。
【0045】
モノクローナル抗体および他の抗体を取得し、組換えDNA技術を用いて、標的抗原に結合する他の抗体またはキメラ分子を作製することができる。そのような技術は、抗体の、免疫グロブリン可変領域、もしくはCDRをコードするDNAを、異なる免疫グロブリンの定常領域、もしくは定常領域+フレームワーク領域に導入することを含んでもよい。例えば、EP-A-184187、GB 2188638AまたはEP-A-239400、およびその後の多数の文献を参照されたい。ハイブリドーマまたは抗体を産生する他の細胞を、産生される抗体の結合特異性を変化させてもよい遺伝子突然変異または他の変化に供することができる。
【0046】
抗体を多くの方法で改変することができるため、用語「抗体分子」は、抗原に対する必要な特異性および/または結合を有する抗体抗原結合部位を有する任意の結合メンバーまたは物質を包含すると解釈されるべきである。かくして、この用語は、天然のものであるか、または全体的もしくは部分的に合成された抗体抗原結合部位を含む任意のポリペプチドを含む、抗体フラグメントおよび誘導体を包含する。従って、別のポリペプチド(例えば、別の種に由来するか、または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属するもの)に融合された、抗体抗原結合部位、またはその等価物を含むキメラ分子も含まれる。キメラ抗体のクローニングおよび発現は、EP-A-0120694およびEP-A-0125023、ならびにその後の多数の文献に記載されている。
【0047】
抗体工学の分野で利用可能なさらなる技術により、ヒトおよびヒト化抗体を単離することが可能になった。例えば、ヒトハイブリドーマを、Kontermann & Dubel (2001)により記載のように作製することができる。結合メンバーを作製するための別の確立された技術であるファージディスプレイは、WO 92/01047(以下でさらに考察する)ならびに米国特許第5,969,108号、第5,565,332号、第5,733,743号、第5,858,657号、第5,871,907号、第5,872,215号、第5,885,793号、第5,962,255号、第6,140,471号、第6,172,197号、第6,225,447号、第6,291,650号、第6,492,160号、第6,521,404号およびKontermann & Dubel (2001)などの多くの刊行物に詳細に記載されている。マウス免疫系の他の体分を無傷のままにしながら、マウス抗体遺伝子を不活化し、ヒト抗体遺伝子と機能的に置換するトランスジェニックマウスを、ヒト抗体を単離するために用いることができる(Mendez 1997)。
【0048】
例えば、Knappikら(2000)またはKrebsら(2001)により記載のように、好適な発現ベクター内で合成および集合されたオリゴヌクレオチドを用いて作製された遺伝子からの発現により、合成抗体分子を作製することができる。
【0049】
全抗体のフラグメントは、抗原に結合する機能を実行することができることが示されている。結合フラグメントの例は、(i)VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなるFabフラグメント;(ii)VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント;(iii)単一抗体のVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント;(iv)VHもしくはVLドメインからなるdAbフラグメント(Ward 1989; McCafferty 1990; Holt 2003);(v)単離されたCDR領域;(vi)2個の連結されたFabフラグメントを含む二価フラグメントであるF(ab')2フラグメント;(vii)VHドメインとVLドメインが、2個のドメインを結合させて抗原結合部位を形成するペプチドリンカーにより連結された一本鎖Fv分子(scFv)(Bird 1988; Huston 1988);(viii)二特異的一本鎖Fvダイマー(PCT/US92/09965)ならびに(ix)遺伝子融合により構築された多価もしくは多特異的フラグメントである「ダイアボディ」(WO 94/13804; Holliger 1993a)である。Fv、scFvまたはダイアボディ分子を、VHおよびVLドメインを連結するジスルフィド架橋の組込みにより安定化することができる(Reiter 1996)。CH3ドメインに連結されたscFvを含むミニボディを作製することもできる(Hu 1996)。結合フラグメントの他の例は、抗体ヒンジ領域に由来する1個以上のシステインを含む、重鎖CH1ドメインのカルボキシル末端での数残基の付加によりFabフラグメントとは異なるFab'、ならびに定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を担持するFab'フラグメントである、Fab'-SHである。
【0050】
本発明の抗体フラグメントを、ペプシンもしくはパパインなどの酵素による消化ならびに/または化学的還元によるジスルフィド架橋の切断などの方法により、本明細書に記載の抗体分子のいずれか、例えば、本明細書に記載の任意の抗体のVHおよび/もしくはVLドメインまたはCDRを含む抗体分子から出発して取得することができる。別の様式では、本発明の抗体フラグメントを、同様に当業者にはよく知られた遺伝子組換え技術により、または他に例えば、Applied Biosystemsなどの企業により供給されるものなどの自動ペプチド合成装置を用いるペプチド合成により、または核酸合成および発現により取得することができる。
【0051】
本発明に従う機能的抗体フラグメントとしては、半減期が化学的改変、特に、PEG化により、またはリポソーム中への組込みにより増加した任意の機能的フラグメントが挙げられる。
【0052】
dAb(ドメイン抗体)は、抗体の小さいモノマー抗原結合フラグメント、すなわち、抗体重鎖または軽鎖の可変領域である(Holt 2003)。VH dAbはラクダ科動物(例えば、ラクダ、ラマ)において天然に生じ、ラクダ科動物を標的抗原で免疫し、抗原特異的B細胞を単離し、個々のB細胞からdAb遺伝子を直接クローニングすることにより製造することができる。dAbは細胞培養物中でも製造可能である。その小さいサイズ、良好な溶解性および温度安定性により、それらは特に生理学的に有用となり、選択および親和性成熟にとって好適となる。本発明の結合メンバーは、実質的に本明細書に記載のVHもしくはVLドメイン、または実質的に本明細書に記載のCDRのセットを含むVHもしくはVLドメインを含むdAbであってよい。
【0053】
本明細書で用いられる用語「実質的に記載の」とは、本明細書に記載の結合メンバーのVHもしくはVLドメインの関連するCDRの特徴が、該配列が本明細書に記載される特定の領域と同一であるか、または高度に類似していることを意味する。1個以上の可変ドメインの特定の領域に関して、本明細書で用いられる用語「高度に類似する」は、1〜約5、例えば、1〜4、例えば、1〜3、または1もしくは2、または3もしくは4個のアミノ酸置換を、該CDRおよび/またはVHもしくはVLドメイン中で行うことができると意図される。
【0054】
二特異的または二官能性抗体は、2個の異なる可変領域が同じ分子中で組み合わされた第2世代のモノクローナル抗体を形成する(Holliger 1999)。その使用は、腫瘍細胞の表面上に新しいエフェクター機能を動員するか、またはいくつかの分子を標的化する能力から、診断分野および治療分野の両方において証明されてきた。二特異的抗体を用いる場合、これらは様々な方法(Holliger 1993b)により製造する、例えば、化学的に調製するか、もしくはハイブリッドハイブリドーマから調製することができる従来の二特異的抗体であってよく、または上記の二特異的抗体フラグメントのいずれかであってよい。これらの抗体を、化学的方法(Glennie 1987; Repp 1995)または体細胞法(Staerz 1986; Suresh 1986)により取得することができるが、同様にヘテロダイマー化を強制し、かくして求められる抗体の精製プロセスを容易にする遺伝子操作技術(Merchand 1998)により取得することもできる。二特異的抗体の例としては、異なる特異性を有する2個の抗体の結合ドメインを使用し、短い可撓性ペプチドを介して直接連結することができるBiTE(商標)技術のものが挙げられる。これは短い単一のポリペプチド鎖上で2個の抗体を結合させるものである。ダイアボディおよびscFvを、Fc領域を用いずに、可変ドメインのみを用いて構築し、抗イディオタイプ反応の効果を潜在的に低下させることができる。
【0055】
二特異的抗体を、完全なIgG、二特異的Fab'2、Fab'PEG、ダイアボディまたは他に二特異的scFvとして構築することができる。さらに、2個の二特異的抗体を、当業界で公知の日常的な方法を用いて連結して、四価抗体を形成することができる。
【0056】
二特異的全抗体とは反対に、二特異的ダイアボディは、容易に構築し、大腸菌中で発現させることができるため、特に有用でもある。好適な結合特異性のダイアボディ(および抗体フラグメントなどの多くの他のポリペプチド)を、ライブラリーからファージディスプレイ(WO 94/13804)を用いて容易に選択することができる。ダイアボディの一方のアームを、例えば、標的抗原に対する特異性と共に一定に保持しようとする場合、他方のアームを変化させたライブラリーを作製し、好適な特異性の抗体を選択することができる。二特異的全抗体を、Ridgeway 1996に記載の選択的遺伝子操作方法により作製することができる。
【0057】
標的抗原に対する抗体を取得するための様々な方法が当業界で利用可能である。前記抗体は、特に、ヒト、マウス、キメラまたはヒト化起源のモノクローナル抗体であってよく、当業者にはよく知られた標準的な方法に従って取得することができる。
【0058】
一般的には、特に、マウス起源のモノクローナル抗体またはその機能的フラグメントの調製のためには、特に、入門書「Antibodies」(HarlowおよびLane 1988)に記載された技術またはKohlerおよびMilstein, 1975により記載されたハイブリドーマからの調製の技術を参照することができる。
【0059】
モノクローナル抗体を、例えば、A-FN、または前記モノクローナル抗体により認識されるエピトープを含むその断片の1つ、例えば、ED-A、もしくはED-Aのペプチド断片を含むか、もしくはそれからなる断片に対して免疫された動物細胞から取得することができる。A-FN、またはその断片の1つを、特に、A-FNもしくはその断片をコードするcDNA配列に含まれる核酸配列から開始する遺伝子組換えにより、A-FNおよび/もしくはその断片のペプチド配列に含まれるアミノ酸の配列から開始するペプチド合成により、通常の作業方法に従って製造することができる。
【0060】
モノクローナル抗体を、例えば、A-FNまたは該モノクローナル抗体により認識されるエピトープを含むその断片の1つ、例えば、ED-AもしくはED-Aのペプチド断片を含むか、もしくはそれからなる断片が予め固定されたアフィニティカラム上で精製することができる。モノクローナル抗体を、プロテインAおよび/もしくはG上でのクロマトグラフィー、次いで、必要に応じて、それ自身の中の、残留タンパク質夾雑物ならびにDNAおよびLPSを排除することを目的とするイオン交換クロマトグラフィー、次いで、必要に応じて、ダイマーもしくは他のマルチマーの存在に起因する潜在的な凝集物を排除するためのセファロースゲル上での排除クロマトグラフィーにより精製することができる。これらの技術の全部を、同時にまたは連続的に用いることができる。
【0061】
抗原結合部位
これは標的抗原の全部または一部に結合し、かつこれと相補的である分子の部分を記載する。抗体分子中では、これを抗体抗原結合部位と呼び、標的抗原の全部または一部に結合し、かつこれと相補的である抗体の部分を含む。抗原が大きい場合、抗体は該抗原の特定の部分にのみ結合することができ、その部分をエピトープと呼ぶ。抗体抗原結合部位を、1個以上の抗体可変ドメインにより提供することができる。抗体抗原結合部位は、抗体軽鎖可変領域(VL)と抗体重鎖可変領域(VH)を含んでもよい。
【0062】
単離された
これは、本発明の結合メンバーまたはそのような結合メンバーをコードする核酸が、一般的には本発明に従うであろう状態を指す。かくして、本発明の結合メンバー、VHおよび/またはVLドメインを、例えば、その天然の環境から、実質的に純粋な、もしくは均質な形態で、または核酸の場合、必要な機能を有するポリペプチドをコードする配列以外の起源の核酸もしくは遺伝子を含まないか、もしくは実質的に含まない状態で、単離および/もしくは精製して提供することができる。単離されたメンバーおよび単離された核酸は、それらがその天然の環境中に、または調製がin vitroもしくはin vivoで実行される組換えDNA技術による場合、それらが調製される環境(例えば、細胞培養物)中に認められる他のポリペプチドもしくは核酸などの、それらが天然に結合する材料を含まないか、または実質的に含まないであろう。メンバーおよび核酸を、希釈剤もしくはアジュバントと共に製剤化し、さらなる実用的な目的のために、単離することができる。例えば、前記メンバーを、イムノアッセイにおける使用のためにマイクロタイタープレートをコーティングするのに用いる場合、通常はゼラチンもしくは他の担体と混合するか、または診断もしくは治療において用いる場合、製薬上許容し得る担体もしくは希釈剤と混合することができる。結合メンバーを、天然に、もしくは異種真核細胞の系(例えば、CHOもしくはNS0(ECACC 85110503)細胞)によりグリコシル化するか、またはそれらを非グリコシル化(例えば、原核細胞中での発現により製造する場合)することができる。
【0063】
抗体分子を含む異種調製物も本発明の一部を形成する。例えば、そのような調製物は、様々な程度の糖鎖および/またはピログルタミン酸残基を形成するN末端グルタミン酸の環化などの誘導体化されたアミノ酸を有する、完全長重鎖およびC末端リジンを欠く重鎖を有する抗体の混合物であってもよい。
【0064】
抗原、例えば、A-FNまたはフィブロネクチンのED-Aのための1個以上の結合メンバーを、本発明に従う結合メンバーのライブラリーと該抗原またはその断片、例えば、ED-AまたはED-Aのペプチド断片を含むか、またはそれからなる断片とを接触させ、該抗原に結合することができるライブラリーの1個以上の結合メンバーを選択することにより取得することができる。
【0065】
抗体ライブラリーを、反復コロニーフィルタースクリーニング(Iterative Colony Filter Screening (ICFS))を用いてスクリーニングすることができる。ICFSにおいては、いくつかの結合特異性をコードするDNAを含む細菌を液体培地中で増殖させ、指数増殖期に到達したら、それらのうちの数十億個を、好適に予備処理された膜フィルターからなる増殖支持体上に分布させ、完全に密集した細菌コロニーが出現するまでインキュベートする。第2のトラップ基質は、予め加湿され、所望の抗原で被覆された別の膜フィルターからなる。
【0066】
次いで、このトラップ膜フィルターを、好適な培養培地を含むプレート上に置き、上を指している細菌コロニーで被覆された表面を有する増殖フィルターで被覆する。かくして得られたサンドイッチを、室温で約16時間インキュベートする。かくして、トラップ膜上に存在する抗原と特異的に結合する、拡散作用を有する抗体フラグメントscFvがトラップされるため、それらをコードする遺伝子の発現を得ることができる。次いで、トラップ膜を、この目的に一般的に用いられる比色分析技術を用いて、結合した抗体フラグメントscFvを指摘するために処理する。
【0067】
トラップフィルター上の着色スポットの位置により、増殖膜上に存在し、トラップされた抗体フラグメントを産生した対応する細菌コロニーに戻すことができる。そのようなコロニーを収穫し、増殖させて、200〜300万個の細菌を新しい培養膜上に分布させ、上記手順を繰り返す。次いで、トラップ膜上の陽性シグナルが、それぞれ、選択に用いられる抗原に対するモノクローナル抗体フラグメントの起源となる可能性がある、1個の陽性コロニーに一致するまで、同様のサイクルを実行する。ICFSは、例えば、参照により本明細書に組み入れられるものとするWO0246455に記載されている。また、ライブラリーを、粒子もしくは分子複合体、例えば、バクテリオファージ(例えば、T7)粒子などの複製可能な遺伝子パッケージ、またはそれぞれの粒子もしくは分子複合体が、その上にディスプレイされる抗体VH可変ドメイン、および必要に応じて、存在する場合、ディスプレイされるVLドメインをもコードする核酸を含む他のin vitroディスプレイ系上にディスプレイさせることができる。ファージディスプレイは、WO 92/01047ならびに米国特許第5,969,108号、第5,565,332号、第5,733,743号、第5,858,657号、第5,871,907号、第5,872,215号、第5,885,793号、第5,962,255号、第6,140,471号、第6,172,197号、第6,225,447号、第6,291,650号、第6,492,160号および第6,521,404号に記載されており、それぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0068】
抗原に結合することができ、バクテリオファージまたは他のライブラリー粒子もしくは分子複合体上にディスプレイされた結合メンバーの選択後、該選択された結合メンバーをディスプレイするバクテリオファージまたは他の粒子もしくは分子複合体から核酸を取得することができる。前記選択された結合メンバーをディスプレイするバクテリオファージまたは他の粒子もしくは分子複合体から取得された核酸の配列を有する核酸からの発現により、結合メンバーまたは抗体VHもしくはVL可変ドメインのその後の製造において、そのような核酸を用いることができる。
【0069】
前記選択された結合メンバーの抗体VH可変ドメインのアミノ酸配列を有する抗体VH可変ドメインを、単離された形態で提供することができ、同様にそのようなVHドメインを含む結合メンバーも提供することができる。
【0070】
A-FNまたはフィブロネクチンのED-Aまたは他の標的抗原もしくはアイソフォームに結合する能力、例えば、A-FNまたはA-FNの断片、例えば、フィブロネクチンのED-Aへの結合について抗ED-A抗体H1、B2、C5、D5、E5、C8、F8、F1、B7、E8もしくはG9のいずれか1個と競合する能力を、さらに試験することができる。
【0071】
本発明の結合メンバーは、A-FNおよび/またはフィブロネクチンのED-Aに特異的に結合することができる。本発明の結合メンバーは、例えば、scFv形式の抗ED-A抗体H1、B2、C5、D5、E5、C8、F8、F1、B7、E8もしくはG9と同じ親和性で、またはより良好な親和性で、A-FNおよび/またはフィブロネクチンのED-Aに結合することができる。本発明の結合メンバーは、3 x 10-8 MのKDで、またはより良好な親和性で、A-FNおよび/またはフィブロネクチンのED-Aに結合することができる。好ましくは、本発明の結合メンバーは、2 x 10-8 MのKDで、またはより良好な親和性で、A-FNおよび/またはフィブロネクチンのED-Aに結合することができる。より好ましくは、本発明の結合メンバーは、1.7 x 10-8 MのKDで、またはより良好な親和性で、A-FNおよび/またはフィブロネクチンのED-Aに結合することができる。さらにより好ましくは、本発明の結合メンバーは、1.4 x 10-8 MのKDで、またはより良好な親和性で、A-FNおよび/またはフィブロネクチンのED-Aに結合することができる。最も好ましくは、本発明の結合メンバーは、3 x 10-9 MのKDで、またはより良好な親和性で、A-FNおよび/またはフィブロネクチンのED-Aに結合することができる。
【0072】
本発明の結合メンバーは、抗ED-A抗体H1、B2、C5、D5、E5、C8、F8、F1、B7、E8もしくはG9と、A-FNおよび/またはフィブロネクチンのED-A上の同じエピトープに結合することができる。
【0073】
本発明の結合メンバーは、A-FNおよび/またはフィブロネクチンのED-A以外の分子への有意な結合を示さなくてもよい。特に、該結合メンバーはフィブロネクチンの他のアイソフォーム、例えば、ED-Bアイソフォームおよび/またはフィブロネクチンのIIICSアイソフォームに結合しなくてもよい。
【0074】
本明細書で開示される抗体分子の変異体を製造し、本発明において用いることができる。CDR、抗体VHもしくはVLドメインおよび結合メンバーのアミノ酸配列内に置換を作製するのに必要な技術は、一般的には、当業界で利用可能である。活性に対する最小の、もしくは有益な効果を有すると予測され得る置換を有する変異体配列を作製し、A-FNおよび/もしくはフィブロネクチンのED-Aに結合する能力について、ならびに/または任意の他の所望の特性について試験することができる。
【0075】
配列が本明細書に具体的に開示されたVHおよびVLドメインのいずれかの可変ドメインアミノ酸配列変異体を、考察されるように、本発明に従って用いることができる。特定の変異体は、1個以上のアミノ酸配列変化(アミノ酸残基の付加、欠失、置換および/もしくは挿入)を含んでもよく、それは約20個以下の変化、約15個以下の変化、約10個以下の変化または約5個以下の変化であってもよく、5、4、3、2または1個の変化であってもよい。変化を、1個以上のフレームワーク領域および/または1個以上のCDR中で作製することができる。この変化は通常、機能の喪失をもたらさず、かくして変化したアミノ酸配列を含む結合メンバーはA-FNおよび/またはフィブロネクチンのED-Aに結合する能力を保持することができる。それは、例えば、本明細書に記載のアッセイにおいて測定されるように、変化が作製されていない結合メンバーと同じ定量的結合を保持することができる。かくして変化したアミノ酸配列を含む結合メンバーは、A-FNおよび/またはフィブロネクチンのED-Aに結合する改善された能力を有し得る。
【0076】
本発明のCDR由来配列を担持する新規VHまたはVL領域を、1個以上の選択されたVHおよび/またはVL遺伝子の無作為突然変異誘発を用いて作製して、可変ドメイン全体内に突然変異を作製することができる。いくつかの実施形態においては、1または2個のアミノ酸置換を、可変ドメイン全体またはCDRのセット内に作製する。用いることができる別の方法は、VHまたはVL遺伝子のCDR領域に対して突然変異誘発を指令することである。
【0077】
上記のように、本明細書に実質的に記載されたCDRアミノ酸配列を、ヒト抗体可変ドメインまたはその実質的な部分中にCDRとして担持させることができる。本明細書に実質的に記載されたHCDR3配列は、本発明の実施形態であり、例えば、これらの各々を、ヒト重鎖可変ドメインまたはその実質的な部分中にHCDR3として担持させることができる。
【0078】
本発明において用いられる可変ドメインを、任意の生殖腺もしくは再配列されたヒト可変ドメインから取得もしくは誘導することができるか、またはそれらは公知のヒト可変ドメインの共通配列もしくは実際の配列に基づく合成可変ドメインであってもよい。可変ドメインを、非ヒト抗体から誘導することができる。本発明のCDR配列(例えば、CDR3)を、組換えDNA技術を用いて、CDR(例えば、CDR3)を欠く可変ドメインのレパートリー中に導入することができる。例えば、Marksら(1992)は、可変ドメイン領域の5'末端に対する、もしくはそれに隣接する共通プライマーを、ヒトVH遺伝子の第3のフレームワーク領域に対する共通プライマーと共に用いて、CDR3を欠くVH可変ドメインのレパートリーを提供する、抗体可変ドメインのレパートリーを製造する方法を記載している。Marksらはさらに、このレパートリーを特定の抗体のCDR3と結合させる方法を記載している。同様の技術を用いて、本発明のCDR3由来配列を、CDR3を欠くVHもしくはVLドメインのレパートリーを用いてシャッフルし、シャッフルされた完全なVHもしくはVLドメインを、同族のVLもしくはVHドメインと結合させて、本発明の結合メンバーを提供することができる。次いで、このレパートリーを、WO 92/01047(その全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする)、またはKay, Winter & McCafferty (1996)などのその後の多数の文献に記載のファージディスプレイ系などの好適な宿主系においてディスプレイし、好適な結合メンバーを選択することができる。レパートリーは、104個以上の任意の数のメンバー、例えば、少なくとも105個、少なくとも106個、少なくとも107個、少なくとも108個、少なくとも109個または少なくとも1010個のメンバーからなっていてもよい。
【0079】
同様に、1種以上の、または3種全部のCDRを、VHもしくはVLドメインのレパートリー中に移植した後、A-FNおよび/またはフィブロネクチンのED-Aのための結合メンバーについてスクリーニングすることができる。
【0080】
抗体H1、B2、C5、D5、E5、C8、F8、F1、B7、E8もしくはG9の1種以上のHCDR1、HCDR2およびHCDR3、またはHCDRのセットを用いることができ、ならびに/または抗体H1、B2、C5、D5、E5、C8、F8、F1、B7、E8もしくはG9の1種以上のX LCDR1、LCDR2およびLCDR3または抗体H1、B2、C5、D5、E5、C8、F8、F1、B7、E8もしくはG9のLCDRのセットを用いることができる。
【0081】
同様に、本明細書に開示された他のVHおよびVLドメイン、CDRのセットならびにHCDRのセットおよび/もしくはLCDRのセットを用いることができる。
【0082】
A-FNおよび/またはフィブロネクチンのED-Aを、腫瘍転移の治療のための医薬の調製における使用のために、結合メンバー、例えば、抗体分子についてのスクリーニングにおいて用いることができる。このスクリーニングは、本明細書の他の場所に開示されたレパートリーのスクリーニングであってもよい。
【0083】
いくつかの実施形態においては、免疫グロブリン可変ドメインの実質的部分は、その介在フレームワーク領域と共に、少なくとも3個のCDR領域を含むであろう。この部分はまた、第1および第4のフレームワーク領域のいずれかもしくは両方の少なくとも約50%を含み、その50%は第1のフレームワーク領域のC末端の50%および第4のフレームワーク領域のN末端の50%である。前記可変ドメインの実質的部分のN末端もしくはC末端のさらなる残基は、通常は天然の可変ドメイン領域と結合しないものであってよい。例えば、組換えDNA技術により作製された本発明の結合メンバーの構築は、クローニングまたは他の遺伝子操作工程を容易にするために導入されるリンカーによりコードされるNもしくはC末端残基の導入をもたらし得る。他の遺伝子操作工程は、本発明の可変ドメインを、抗体定常領域、他の可変ドメイン(例えば、ダイアボディの製造における)または本明細書の他の場所でより詳細に考察される検出可能/機能的標識に連結するためのリンカーの導入を含む。
【0084】
本発明のいくつかの態様においては、結合メンバーは一対のVHおよびVLドメインを含むが、VHもしくはVLドメイン配列のいずれかに基づく単一結合ドメインも本発明のさらなる態様を形成する。単一の免疫グロブリンドメイン、特に、VHドメインは、特異的様式で標的抗原に結合することができることが知られている。例えば、上記のdAbの考察を参照されたい。
【0085】
いずれかの単一結合ドメインの場合、これらのドメインを用いて、A-FNおよび/またはフィブロネクチンのED-Aに結合することができる2ドメインの結合メンバーを形成することができる相補的ドメインについてスクリーニングすることができる。HもしくはL鎖クローンのいずれかを含む個々のコロニーを用いて、他方の鎖(LもしくはH)をコードするクローンの完全なライブラリーを感染させ、得られる2鎖結合メンバーを、その参考文献に記載のものなどのファージディスプレイ技術に従って選択する、WO 92/01047(その全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする)に開示されたいわゆる階層的二重コンビナトリアル手法を用いるファージディスプレイスクリーニング方法により、これを達成することができる。この技術もMarks 1992に開示されている。
【0086】
本発明の結合メンバーはさらに、抗体定常領域またはその一部、例えば、ヒト抗体定常領域またはその一部を含んでもよい。例えば、VLドメインを、そのC末端で、ヒトCκもしくはCλ鎖、例えば、Cλなどの抗体軽鎖定常ドメインに結合させることができる。同様に、VHドメインに基づく結合メンバーを、そのC末端で、任意の抗体アイソタイプ、例えば、IgG、IgA、IgEおよびIgMならびに任意のアイソタイプサブクラス、特にIgG1およびIgG4から誘導された免疫グロブリン重鎖の全部または一部(例えば、CH1ドメイン)に結合させることができる。これらの特性を有し、可変領域を安定化させる任意の合成的または他の定常領域変異体も、本発明の実施形態において有用である。
【0087】
本発明の結合メンバーを、検出可能な、または機能的な標識を用いて標識することができる。標識は、限定されるものではないが、蛍光、放射性標識、酵素、化学発光もしくは光感作物質などのシグナルを生成するか、または生成するように誘導することができる任意の分子であってよい。かくして、結合を、蛍光もしくは発光、放射活性、酵素活性または光吸収を検出することにより検出および/または測定することができる。検出可能な標識を、当業界で公知の従来の化学を用いて、本発明の抗体に結合させることができる。
【0088】
標識が外部的手段、例えば、視覚的試験、電磁気放射、熱、および化学試薬により検出可能なシグナルを生成することができる多くの方法が存在する。また、標識を、本発明の抗体に結合する別の結合メンバー、または支持体に結合させることもできる。
【0089】
標識された結合メンバー、例えば、検出可能な標識で標識されたscFvを、in vivo、ex vivoもしくはin vitroで診断的に、および/または治療的に用いることができる。
【0090】
例えば、放射性標識された結合メンバー(例えば、放射性アイソトープに結合させた結合メンバー)を、放射性診断および放射線療法において用いることができる。本発明の結合メンバーに結合させることができる放射性アイソトープとしては、94mTc、99mTc、186Re、188Re、203Pb、67Ga、68Ga、47Sc、111In、97Ru、62Cu、64Cu、86Y、88Y、90Y、121Sn、161Tb、153Sm、166Ho、105Rhおよび177Luなどのアイソトープが挙げられる。
【0091】
例えば、検出可能な標識で標識された本発明の結合メンバーを用いて、ヒトまたは動物における腫瘍転移を検出、診断またはモニターすることができる。結合メンバーを、ヒトまたは動物、通常はヒト患者に投与し、該ヒトまたは動物の体内で原発腫瘍により現在もしくは以前に占有された部位から遠くの部位での前記抗体の存在または非存在を決定することができる;ヒトまたは動物中の原発腫瘍により現在もしくは以前に占有された部位から遠くの部位への前記抗体分子の局在化は、腫瘍転移の存在を示す。
【0092】
本発明の結合メンバーを、腫瘍転移を診断するのに用いるための診断用生成物の製造に用いることができる。
【0093】
本発明はまた、ヒトまたは動物中の腫瘍転移を検出または診断する方法であって、
(a) 該ヒトまたは動物に、例えば、フィブロネクチンのED-Aアイソフォームおよび/もしくはフィブロネクチンのED-Aに結合する、検出可能な標識で標識された本発明の結合メンバーを投与する工程、ならびに
(b) 該ヒトまたは動物の体内で原発腫瘍により現在もしくは以前に占有された部位から遠くの部位での該結合メンバーの存在もしくは非存在を決定する工程、
を含み、ヒトまたは動物中での原発腫瘍により現在もしくは以前に占有された部位から遠くの部位への該結合メンバーの局在化が、腫瘍転移の存在を示す、前記方法も提供する。前記結合メンバーを検出可能な標識で標識する場合、検出可能な標識の存在または非存在を、該標識を検出することにより決定することができる。
【0094】
本明細書に記載の結合メンバーを、競合アッセイにおいて抗原レベルを測定する、すなわち、競合アッセイにおいて本発明により提供された結合メンバーを用いることにより、サンプル中の抗原のレベルを測定する方法に用いることもできる。これは、未結合の抗原からの結合した抗原の物理的分離が必要ない場合であってよい。結合上での物理的もしくは光学的変化が生じるように、リポーター分子を結合メンバーに連結することが1つの可能性である。リポーター分子は、定量可能であってよい、検出可能なシグナルを直接的または間接的に生成することができる。リポーター分子の連結は、直接的または間接的なもの、例えば、ペプチド結合を介するものなどの共有的なもの、または非共有的なものであってよい。ペプチド結合を介する連結は、抗体およびリポーター分子をコードする遺伝子融合物の組換え発現の結果としてのものであってよい。
【0095】
また、競合アッセイをエピトープマッピングにおいて用いることもできる。一例においては、エピトープマッピングを用いて、結合メンバーにより結合したエピトープを同定することができる。そのようなエピトープは、線状または立体的であってもよい。立体的エピトープは、A-FNまたはフィブロネクチンのED-Aの少なくとも2個の異なる断片を含んでもよく、該断片は、A-FNまたはフィブロネクチンのED-Aがその三次もしくは四次構造に折り畳まれて、A-FNまたはフィブロネクチンのED-Aの結合メンバーにより認識される立体エピトープを形成する場合、互いに近位に位置する。競合に関する試験においては、前記抗原のペプチド断片、特に、目的のエピトープを含むか、または本質的にそれからなるペプチドを用いることができる。エピトープ配列及びいずれかの末端の1個以上のアミノ酸を有するペプチドを用いることができる。本発明に従う結合メンバーは、抗原に対するその結合が、所与の配列を有するか、またはそれを含むペプチドにより阻害されるようなものであってよい。
【0096】
本発明のさらなる態様は、本発明の結合メンバーと、病変中の標的細胞上で殺菌もしくは細胞傷害作用を示す分子との間のコンジュゲートもしくは融合物ならびにそのような病変中に存在する細胞外マトリックス成分に対する抗体を用いる。例えば、殺菌性分子または細胞傷害性分子は、インターロイキン-2 (IL-2)、ドキソルビシン、インターロイキン-12 (IL-12)、インターフェロン-γ(IFN-γ)、腫瘍壊死因子α(TNFα)または組織因子(好ましくはトランケートされたもの)であってよい。そのようなコンジュゲートを、治療的に、例えば、本明細書で言及される腫瘍転移および/または腫瘍の治療に用いることができる。結合メンバーと、殺菌性または細胞傷害性分子との融合物またはコンジュゲートの製造および使用は、例えば、参照により本明細書に組み入れられるものとするWO 01/62298に記載されている。
【0097】
一態様においては、本発明は、腫瘍転移を治療する方法であって、本発明の結合メンバーを含む治療上有効量の医薬を個体に投与することを含む前記方法を提供する。この結合メンバーは、(i)細胞相互作用により標的細胞に対して殺菌作用もしくは細胞傷害作用を示す分子と、(ii)フィブロネクチンのED-Aアイソフォームおよび/またはフィブロネクチンのED-Aのための結合メンバーとのコンジュゲートであってよい。
【0098】
別の態様においては、本発明は、腫瘍転移の治療のための医薬の調製のための本発明の結合メンバーの使用を提供する。この結合メンバーは、本明細書に記載のような殺菌作用または細胞傷害作用を示す分子にコンジュゲートまたは融合されたものであってよい。結合メンバーは、(i)細胞相互作用により標的細胞に対して殺菌作用もしくは細胞傷害作用を示す分子と、(ii)本発明に従うヒトフィブロネクチンのための結合メンバーとのコンジュゲートであってよい。
【0099】
さらなる態様においては、本発明は、療法によるヒトまたは動物の身体の治療方法における使用のための、(i)細胞相互作用により標的細胞に対して殺菌作用もしくは細胞傷害作用を示す分子と、(ii)本発明に従うヒトフィブロネクチンのための結合メンバーとのコンジュゲートを提供する。そのような治療は、腫瘍転移のものであってよい。
【0100】
本発明のさらなる態様は、(i)細胞相互作用により標的細胞に対して殺菌作用もしくは細胞傷害作用を示す分子と、(ii)本発明に従うヒトフィブロネクチンのための結合メンバーとのコンジュゲートを提供する。そのようなコンジュゲートは、殺菌性もしくは細胞傷害性分子と、前記結合メンバーとを含む融合タンパク質、または、結合メンバーが2鎖もしくは多鎖である場合、殺菌性もしくは細胞傷害性分子と、前記結合メンバーのポリペプチド鎖成分とを含む融合タンパク質を含むのが好ましい。好ましくは、前記結合メンバーは、一本鎖ポリペプチド、例えば、scFvなどの一本鎖抗体分子である。かくして、本発明のさらなる態様は、殺菌性もしくは細胞傷害性分子と、本発明の一本鎖Fv抗体分子とを含む融合タンパク質を提供する。
【0101】
細胞相互作用により標的細胞に対して殺菌作用もしくは細胞傷害作用を示す分子は、標的細胞と直接相互作用してもよく、標的細胞上の膜結合受容体と相互作用するか、または細胞膜の電気化学ポテンシャルを摂動させてもよい。膜結合受容体と相互作用する分子としては、ケモカイン、サイトカインおよびホルモンが挙げられる。細胞膜の電気化学ポテンシャルを摂動させる化合物としては、ヘモリシン、イオノフォア、イオンチャンネル上で作用する薬剤が挙げられる。例示的な好ましい実施形態においては、前記分子は、インターロイキン-2、組織因子(好ましくはトランケートされたもの)またはドキソルビシンである。他の実施形態は、インターロイキン-12、インターフェロン-γ、IP-10および腫瘍壊死因子-α(TNF-α)を使用してもよい。
【0102】
以下にさらに考察されるように、特異的結合メンバーは、好ましくは抗体であるか、または抗体抗原結合部位を含む。都合がよいことに、特異的結合メンバーは、一本鎖抗体などの一本鎖ポリペプチドであってよい。これにより、一本鎖抗体と殺菌性もしくは細胞傷害性分子(例えば、インターロイキン-2もしくは組織因子)とを含む融合タンパク質の都合のよい製造が可能になる。他の実施形態においては、抗体抗原結合部位を、別々のポリペプチド中、例えば、完全な抗体中またはFabもしくはダイアボディなどの抗体フラグメント中での抗体VHドメインと抗体VLドメインとの結合により提供する。特異的結合メンバーが2鎖または多鎖分子(例えば、それぞれ、Fabもしくは全抗体)である場合、殺菌性または細胞傷害性分子を、特異的結合メンバー中の1個以上のポリペプチド鎖との融合ポリペプチドとしてコンジュゲートさせることができる。
【0103】
結合メンバーを、ペプチド結合により、すなわち、殺菌性または細胞傷害性分子と、該特異的結合メンバーもしくはそのポリペプチド鎖成分とを含む融合ポリペプチド内で、前記分子とコンジュゲートさせることができる。IL-2を含む融合ポリペプチドの調製において有用なIL-2の配列情報については、Taniguchiら(1983) Nature 302, 305-310; Maedaら(1983) Biochem. Biophys. Res. Comm. 115: 1040-1047; Devosら(1983) Nucl. Acids Res. 11: 4307-4323を参照されたい。トランケートされた組織因子に関する配列情報は、Scarpatiら(1987) Biochemistry 26: 5234-5238およびRufら(1991) J. Biol. Chem. 226: 15719-15725により提供されている。コンジュゲーションのための他の手段としては、化学的コンジュゲーション、特に、二官能性試薬を用いる架橋(例えば、DOUBLE-REAGENTS(商標) Cross-linking Reagents Selection Guide, Pierceを用いる)が挙げられる。
【0104】
ゆっくりとした放出が望ましい場合、例えば、殺菌性もしくは細胞傷害性分子がドキソルビシンもしくは細胞膜の電気化学ポテンシャルを摂動させる他の分子である場合、化学的コンジュゲーションは、特異的結合メンバー(抗体もしくは抗体フラグメントなどのポリペプチド)の一次アミノ基と、ドキソルビシンなどの殺菌性もしくは細胞傷害性分子の酸化された糖部分(ダウノサミン)との間のSchiff塩基(イミン)の形成によるものであってよい。
【0105】
本発明はさらに、本発明の結合メンバーをコードする単離された核酸を提供する。核酸はDNAおよび/またはRNAを含んでもよい。一態様においては、本発明は、上記で定義された本発明のCDRもしくはCDRのセットまたはVHドメインもしくはVLドメインまたは抗体抗原結合部位もしくは抗体分子、例えば、scFvもしくはIgG、例えば、IgG1をコードする核酸を提供する。好ましいヌクレオチド配列は、本明細書に開示されるVHおよび/またはVLドメインをコードするヌクレオチド配列である。
【0106】
本発明はまた、上記の少なくとも1個のポリヌクレオチドを含む、プラスミド、ベクター、転写物または発現カセットの形態の構築物を提供する。
【0107】
本発明はまた、上記の1個以上の構築物を含む組換え宿主細胞を提供する。提供される任意のCDRもしくはCDRのセットまたはVHドメインもしくはVLドメインまたは抗体抗原結合部位もしくは抗体分子、例えば、scFvもしくはIgG1もしくはIgG4をコードする核酸は、それ自身、本発明の態様を形成し、コードする核酸からの発現を含む、コードされた産物の産生方法も同様である。好適な条件下で、前記核酸を含む組換え宿主細胞を培養することにより、発現を都合良く達成することができる。発現による産生後、VHもしくはVLドメイン、または結合メンバーを、任意の好適な技術を用いて単離および/または精製した後、必要に応じて用いることができる。
【0108】
本発明に従う核酸は、DNAまたはRNAを含んでもよく、全体的または部分的に合成されたものであってもよい。本明細書に記載のヌクレオチド配列に対する参照は、特定の配列を有するDNA分子を包含し、また、本文が別途必要としない限り、TがUに置換された特定の配列を有するRNA分子も包含する。
【0109】
さらなる態様は、コードする核酸からの発現を引き起こすことを含む、抗体VH可変ドメインの製造方法を提供する。そのような方法は、前記抗体VH可変ドメインの製造のための条件下で宿主細胞を培養することを含んでもよい。
【0110】
VL可変ドメインならびにVHおよび/またはVLドメインを含む結合メンバーの製造のための類似する方法を、本発明のさらなる態様として提供する。
【0111】
製造方法は、前記産物の単離および/または精製の工程を含んでもよい。製造方法は、前記産物を、製薬上許容し得る賦形剤などの少なくとも1種の追加成分を含む組成物中で製剤化することを含んでもよい。
【0112】
様々な宿主細胞中でのポリペプチドのクローニングおよび発現のための系がよく知られている。好適な宿主細胞としては、細菌、哺乳動物細胞、植物細胞、繊維性菌類、酵母およびバキュロウイルス系ならびにトランスジェニック植物および動物が挙げられる。原核細胞中での抗体および抗体フラグメントの発現は、当業界でよく確立されている。総論については、例えば、Pluckthun 1991を参照されたい。一般的な細菌宿主は大腸菌である。
【0113】
培養中の真核細胞中での発現も、例えば、Chadd & Chamow (2001)、Anderson & Krummen (2002)、Larrick & Thomas (2001)など、結合メンバーの製造のためのオプションとして当業者には利用可能である。異種ポリペプチドの発現のために当業界で利用可能な哺乳動物細胞系としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、NS0マウスメラノーマ細胞、YB2/0ラットミエローマ細胞、ヒト胚性腎細胞、ヒト胚性網膜細胞および他の多くの細胞が挙げられる。
【0114】
プロモーター配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列、エンハンサー配列、マーカー遺伝子および好適な他の配列などの好適な調節配列を含む好適なベクターを選択または構築することができる。ベクターは、必要に応じて、プラスミド、例えば、ファージミド、またはウイルス、例えば、「ファージ」であってよい。さらなる詳細については、例えば、Sambrook & Russell (2001)を参照されたい。例えば、核酸構築物の調製、突然変異誘発、配列決定、DNAの細胞中への導入および遺伝子発現における核酸の操作、ならびにタンパク質の分析のための多くの公知の技術およびプロトコルが、Ausubel 1999に詳細に記載されている。
【0115】
本発明のさらなる態様は、本明細書に開示された核酸を含む宿主細胞を提供する。そのような宿主細胞は、in vitroにあっても、培養物中にあってもよい。そのような宿主細胞はin vivoにあってもよい。in vivoでは、宿主細胞の存在により、「イントラボディ」または細胞内抗体としての本発明の結合メンバーの細胞内発現が可能になる。イントラボディを、遺伝子療法に用いることができる。
【0116】
さらなる態様は、本発明の核酸を宿主細胞中に導入することを含む方法を提供する。この導入は、任意の利用可能な技術を用いることができる。真核細胞については、好適な技術として、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン、エレクトロポレーション、リポソーム媒介トランスフェクションおよびレトロウイルスもしくは他のウイルス、例えば、ワクシニア、または昆虫細胞については、バキュロウイルスを用いる形質導入が挙げられる。宿主細胞、特に、真核細胞中への核酸の導入は、ウイルスまたはプラスミドに基づく系を用いることができる。プラスミド系を、エピソームとして維持するか、または宿主細胞もしくは人工染色体中に組込むことができる。組込みは、単一または複数の遺伝子座での1個以上のコピーの無作為な、または標的化された組込みによるものであってよい。細菌細胞については、好適な技術としては、塩化カルシウム形質転換、エレクトロポレーションおよびバクテリオファージを用いるトランスフェクションが挙げられる。
【0117】
前記導入を行った後、例えば、遺伝子の発現のための条件下で宿主細胞を培養することにより、核酸からの発現を引き起こすか、または可能にすることができる。発現産物の精製を、当業者には公知の方法により達成することができる。
【0118】
本発明に従えば、本発明の核酸を、宿主細胞のゲノム(例えば、染色体)中に組込むことができる。標準的な技術に従って、ゲノムとの組換えを促進する配列の含有により、組込みを促進することができる。
【0119】
本発明はまた、上記の結合メンバーまたはポリペプチドを発現させるための発現系中で上述の構築物を用いることを含む方法も提供する。
【0120】
本発明の結合メンバーを、ヒトまたは動物被験体、例えば、ヒトにおける診断または治療の方法において用いられるように設計する。結合メンバーを、腫瘍転移の診断または治療において用いることができる。
【0121】
従って、本発明のさらなる態様は、提供される結合メンバーの投与を含む治療方法、そのような結合メンバーを含む医薬組成物、および例えば、該結合メンバーを製薬上許容し得る賦形剤と共に製剤化することを含む、医薬または医薬組成物を作製する方法における、投与のための医薬の製造におけるそのような結合メンバーの使用を提供する。製薬上許容し得るビヒクルはよく知られており、その性質および選択される活性化合物の投与の様式の関数として、当業者により適合させることができるであろう。
【0122】
通常、本発明の結合メンバーを、該結合メンバーに加えて、少なくとも1種の成分を含んでもよい医薬組成物の形態で投与することができる。かくして、本発明に従う、および本発明に従う使用のための医薬組成物は、活性成分に加えて、製薬上許容し得る賦形剤、担体、バッファー、安定化剤または当業者にはよく知られる他の材料を含んでもよい。そのような材料は、非毒性的であるべきであり、前記活性成分の効力を阻害するべきではない。担体または他の材料の正確な性質は、経口、吸入または注入、例えば、静脈内注入であってよい投与の経路に依存するであろう。
【0123】
例えば、ナノボディなどの経口投与のための医薬組成物も、本発明において想定される。そのような経口製剤は、錠剤、カプセル、粉末、液体または半固体の形態にあってもよい。錠剤は、ゼラチンまたはアジュバントなどの固形担体を含んでもよい。一般的には、液体医薬組成物は、水、石油、動物油もしくは野菜油、鉱物油または合成油などの液体担体を含む。生理食塩溶液、デキストロースもしくは他の糖溶液または、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールなどのグリコールを含有させることができる。
【0124】
静脈内注入、または苦痛の部位での注入のためには、前記活性成分は、発熱源を含まず、好適なpH、等張性および安定性を有する非経口的に許容し得る水性溶液の形態にあるであろう。当業者であれば、例えば、塩化ナトリウム注入液、リンゲル注入液、乳酸加リンゲル注入液などの等張性ビヒクルを用いて、好適な溶液を調製することができるであろう。保存剤、安定化剤、バッファー、酸化防止剤および/または他の添加物を、必要に応じて用いることができる。医薬製剤の調製のための多くの方法が、当業者には公知である。例えば、Robinson, 1978を参照されたい。
【0125】
治療しようとする症状に応じて、組成物を単独で投与するか、または同時にもしくは連続的に、他の治療と組み合わせて投与するか、または別の治療剤もしくは薬剤との組合せ調製物として投与することができる。
【0126】
A-FNおよび/またはフィブロネクチンのED-Aのための結合メンバーを、追加の薬剤成分と組合せた組合せ療法の一部として用いることができる。組合せ治療、特に、A-Fnおよび/またはフィブロネクチンのED-Aに結合する結合メンバーと、1種以上の他の薬剤との組合せを用いて、有意な相乗効果を提供することができる。A-FNおよび/またはフィブロネクチンのED-Aのための結合メンバーを、本明細書に列挙される1種以上の症状の治療のために、同時にもしくは連続的に投与するか、または別の治療剤もしくは薬剤との組合せ調製物として投与することができる。
【0127】
例えば、本発明の結合メンバーを、腫瘍転移の治療のための既存の治療剤と組み合わせて用いることができる。腫瘍転移の治療のための既存の治療剤としては、ドキソルビシン、タキソール、ゲムシタビン、ソラフェニブ、メルファラン、およびアバスチンが挙げられる。
【0128】
本発明の結合メンバーおよび1種以上の上記追加医薬成分を、医薬の製造において用いることができる。前記医薬は、個体への個別の、または組み合わせた投与のためのものであってよく、従って、組合せ調製物として、または別々の調製物として、前記結合メンバーと前記追加成分とを含んでもよい。別々の調製物を用いて、別々の、および連続的または同時的投与を容易にすることができ、異なる経路、例えば、経口投与と非経口投与による前記成分の投与が可能になる。
【0129】
本発明に従えば、提供される組成物を哺乳動物に投与することができる。投与は「治療上有効量」にあってよく、これは患者に対する利益を示すのに十分なものである。そのような利益は、少なくとも1種の症候の少なくとも改善であってよい。投与される実際の量、ならびに投与の速度および時間経過は、治療しようとするものの性質および重篤度、治療する特定の哺乳動物、個々の患者の臨床症状、障害の原因、前記組成物の送達部位、結合メンバーの型、投与方法、投与の日程ならびに医師には公知の他の因子に依存するであろう。治療の処方、例えば、投薬量に関する決定などは、一般開業医および他の医師の責任の範囲内にあり、症候の重篤度および/または治療する疾患の進行に依存し得る。
【0130】
抗体の好適な用量は、当業界でよく知られている(Ledermann 1991およびBagshawe 1991)。投与する薬剤の型に関して必要に応じて、本明細書、またはPhysician's Desk Reference (2003)に示される特定の用量を用いることができる。本発明の結合メンバーの治療上有効量または好適な用量を、動物モデルにおけるそのin vitroでの活性と、in vivoでの活性とを比較することにより決定することができる。マウスおよび他の試験動物における有効用量をヒトに外挿する方法は公知である。正確な用量は、抗体が診断、予防もしくは治療のためのものであるかどうか、治療しようとする領域のサイズおよび位置、抗体(例えば、全抗体、フラグメントもしくはダイアボディ)の正確な性質、ならびに検出可能な標識もしくは該抗体に結合させた他の分子の性質などの、いくつかの因子に依存するであろう。典型的な抗体用量は、全身適用のためには100μg〜1gの範囲にあり、局所適用のためには1μg〜1mgの範囲にあるであろう。最初はより高い負荷用量を、次いで、1種以上のより低い用量を投与することができる。抗体は、全抗体、例えば、IgG1またはIgG4アイソタイプであってよい。これは、成人患者の単回治療のための用量であり、子供および幼児については比例的に調整し、また他の抗体形式については分子量に比例して調整することもできる。治療を、毎日、週に2回、毎週または毎月の間隔で、医師の裁量で繰り返すことができる。治療は、皮下投与については2〜4週間毎、静脈内投与については4〜8週間毎であってもよい。本発明のいくつかの実施形態においては、治療は定期的であり、投与間の期間は約2週間以上、例えば、約3週間以上、約4週間以上、または月に約1回である。本発明の他の実施形態においては、治療を、外科手術の前および/または後に与えてもよく、外科的処置の解剖学的部位に投与するか、または直接適用することができる。
【0131】
本発明のさらなる態様および実施形態は、以下の実験的例示を含む本開示を与えられた当業者にとっては明らかであろう。
【0132】
(実施例)
実験
材料および方法
動物モデル
動物実験は、Swiss Federal Veterinary Officeにより認可されたものであり、Swiss Animal Protection Ordinanceに従って実施した。マウスを規則的にモニターした。疼痛もしくは苦痛の徴候を示す場合、または体重減少が15%を超えた場合、動物を安楽死させた。雄のSv129マウス(RCC, Fullingsdorf, Switzerland)は、Dario Rusciano (SIFI, Catania, Italy)の厚意により提供された約106個の突然変異F9マウス奇形癌細胞(Terranaら、1987)の静脈内注入を受けた。マウスを、腫瘍細胞注入の3週間後に、in vivoでのビオチン化、標的化実験または免疫組織化学のための器官切除のために用いた。
【0133】
in vivoでのビオチン化
in vivoでのビオチン化実験を、以前に記載のように実施した(Roesliら、2006, Rybakら、2005)。簡単に述べると、麻酔したマウスの胸部を、胸骨正中切開術を介して切開した。左心室をかん流針を用いて穿刺し、小切片を右心房中で作製して、かん流溶液の流出を可能にした。その直後、全身循環のかん流を、1.5 ml/分の流速、100 mm Hgの圧力で実施した。第1の工程においては、血漿増量剤として10%(w/v)デキストラン-40(Amersham Biosciences, Uppsala, Sweden)を補給した、PBS、pH 7.4中の1 mg/mlのスルホ-NHS-LC-ビオチン(Pierce, Rockford, IL, USA)を含有する15 mlのビオチン化溶液(38℃に予め温める)を用いて、かん流を実行した。その後、ビオチン化反応と競合することができる血液成分は、かん流の最初の数分以内に循環から排除され、様々な組織中の使用し得る一次アミン含有タンパク質(ならびに特定の糖脂質およびリン脂質)を、ビオチンを用いて共有的に改変することができる。未反応のビオチン化試薬を中和するために、in vivoでのビオチン化、次いで、38℃に予め温めた、PBS, pH 7.4中の50 mM Tris、10%(w/v)デキストラン-40を用いる10分間の洗浄工程を行った。ビオチン化試薬を用いるかん流の間(およびクエンチング溶液を用いる以後のかん流の最初の3分間)に、心臓の周囲の領域を、PBS, pH 7.4(38℃)中の50 mM Trisを用いて洗浄して、流出する未反応のビオチン化試薬をクエンチし、器官表面の分子の望ましくない標識を回避した。かん流後、器官および腫瘍を切除し、標本を、器官ホモジェネートの調製のために新鮮に簡易凍結するか、または組織化学的分析のための凍結切片の調製のために、凍結埋込み化合物(Microm, Walldorf, Germany)中に埋込み、液体窒素中のイソペンタン中で凍結した。かん流していないマウスを、プロテオミクス分析のための陰性対照として用いた。
【0134】
プロテオミクス分析のためのタンパク質抽出物の調製
標本を、組織1 mgあたり40μlの溶解バッファー(PBS, pH 7.4中の2%SDS、50 mM Tris、10 mM EDTA、完全Eプロテイナーゼ阻害剤カクテル(Roche Diagnostics, Mnnheim, Germany))に再懸濁し、Ultra-Turrax T8ディスペンサー(IKA-Werke, Staufen, Germany)を用いて均質化した。ホモジェネートを、Vibra-cell (Sonics, New Town, CT, USA)を用いて超音波処理した後、99℃で15分間インキュベートし、15000 x gで20分間遠心分離した。上清を総タンパク質抽出物として用いた。タンパク質濃度を、BCAタンパク質アッセイ試薬キット(Pierce)を用いて決定した。
【0135】
ビオチン化タンパク質の精製
各サンプルにつき、960μlのストレプトアビジン-セファロース(Amersham Biosciences, Uppsala, Sweden)スラリーをバッファーA(PBS中のNP40 1%、SDS 0.1%)中で3回洗浄し、ペレット化し、15ミリグラムの総タンパク質抽出物と混合した。ビオチン化タンパク質の捕捉を、回転式ミキサー中、RTで2時間進行させた。上清を除去し、樹脂をバッファーAで3回、バッファーB(PBS中のNP40 0.1%、NaCl 1M)で2回、および50 mM重炭酸アンモニウムで1回洗浄した。最後に、樹脂を重炭酸アンモニウムの50 mM溶液400μlに再懸濁し、20μlの配列決定等級改変ブタトリプシン(50 mM重炭酸アンモニウム中の40 ng/μlのストック溶液)を添加した。プロテアーゼ消化を、一定の攪拌下、37℃で一晩実行した。ペプチドを脱塩し、精製し、C18マイクロカラム(ZipTip C18, Millipore, Billerica, MA, USA)を用いて濃縮した。凍結乾燥後、ペプチドを-20℃で保存した。
【0136】
MALDI標的プレート上にスポットする自動オンライン画分を用いるナノキャピラリー-HPLC
トリプシンペプチドを、UltiMateナノスケールLC系およびChromeleonソフトウェア(Dionex, Sunnyvale, CA, USA)により制御されるFAMOSマイクロ自動サンプラー(LC Packings, Amsterdam, The Netherlands)を用いる逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)により分離した。移動相Aは、水中の2%アセトニトリルおよび0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)からなり、移動相Bは水中の80%アセトニトリルおよび0.1% TFAであった。流速は300 nl/分であった。1.5 mgの総タンパク質から精製されたビオチン化タンパク質親和性の消化から誘導された凍結乾燥ペプチドを、5μlのバッファーAに溶解し、カラム(内径:75μm、長さ15 cm、C18 PepMap 100を充填、3μm、100Åビーズ;LC Packings)上に載せた。ペプチドを、0〜30%のBの勾配で7分間、30〜80%のBで67分間、80〜100%のBで3分間、および100%のBで5分間溶出させた;カラムを100%のAで20分間平衡化した後、次のサンプルを分析した。溶出する画分を、水中の3 mg/mlのα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸、277 pmol/mlのニューロテンシン(内部標準)、0.1%TFA、および70%アセトニトリルの溶液と混合し、オンラインProbot系(Dionex)を用いて192穴MALDI標的プレート上に示させた(depose)。MALDI-マトリックス溶液の流速を1.083μl/分に設定した。かくして、20秒間に回収された各画分は、361 nlのMALDI-マトリックス溶液および100 nlのサンプルを含んでいた。ニューロテンシンの最終濃度は、ウェルあたり100 fmolであった。
【0137】
MALDI-TOF/TOF質量分析
MALDI-TOF/TOF質量スペクトル分析を、4700 Proteomics Analyzer (Applied Biosystems, Framingham, MA, USA)を用いて行った。前駆体イオン選択のために、全画分をMS様式で測定した後、MS/MSを実施した。サンプルスポットあたり最大15個の前駆体を、衝突誘起解離によるその後の断片化のために選択した。コンピューター内で消化されたタンパク質のデータベースに対してMSおよびMS/MSデータを一致させるための内部MASCOT (Matrix Science, London, UK)ソフトウェアを用いる、Global Protein Server Workstation (Applied Biosystems)により、スペクトルを処理および分析した。得られたデータを、NCBIホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)からダウンロードしたマウスデータベースに対してスクリーニングした。MASCOTソフトウェアにより実施されたタンパク質同定を、最良のペプチドイオンに関して95%の信頼区間内で正確なコールであると考えた。
【0138】
MALDI-TOFおよびMALDI-TOF/TOF質量スペクトル分析を、4700 Proteomics Analyzer (Applied Biosystems)を用いて実行した。ペプチド質量を、750〜4000 m/zの範囲で、2000 m/zの焦点質量で獲得した。MSスペクトルを、355 nmおよび200 Hzで操作するNd:YAGレーザーからの2000個のレーザーショットから合計した。自動プレート補正を、6個の補正ウェル中の5つのペプチド標準(質量900〜2400 m/z; Applied Biosystems)を用いて実施した。このプレート補正を用いて、装置のデフォルト質量補正を更新し、全てのMSおよびMS/MSスペクトルに適用した。さらに、MALDIマトリックスに添加した内部標準ペプチドを用いる各MSスペクトルの内部補正を実施した。100を超えるシグナルノイズ比を有するサンプルウェルあたり最大で15個の前駆体を、衝突誘起解離によるその後の断片化のために選択した。MS/MSスペクトルを、2500〜5000個のレーザーショットから合計した。コンピューター内で消化されたタンパク質のデータベースに対してMSおよびMS/MSデータを一致させるための内部MASCOT (Matrix Science)ソフトウェアを用いる、Global Protein Server Workstation (Applied Biosystems)により、スペクトルを処理および分析した。MASCOTの検索パラメーターは、(i)2006年9月9日にEuropean Bioinformatics Institute (EBI)のホームページ(ftp.ebi.ac.uk/pub/databases/SPproteomes/fasta/proteomes/59.M_musculus.fasta.gz)からダウンロードしたマウスデータベース;(ii)酵素:トリプシンおよび半トリプシン;(iii)許容される誤切断の数:1;(iv)可変的翻訳後修飾:メチオニン酸化;(v)ペプチド寛容性:±30 ppm;(vi)MS/MS寛容性:±0.2 Da;(vii)ペプチド電荷:+1;(viii)ペプチドにかんする最小イオンスコアC.I.%:95ならびに(ix)最大ペプチドランク:1であった。さらに、以下のパラメーターを有するMS/MSピークフィルタリングを用いた:(i)質量範囲:前駆体質量以下の60 Da〜20 Da;(ii)最小シグナルノイズ比:6;(iii)ピーク密度フィルター:200 Daあたり最大30ピークならびに(iv)スペクトルあたりの最大ピーク数:65。
【0139】
抗体
抗ED-B抗体フラグメントscFv(L19)の単離は、以前に記載されている(Piniら、1998)。親抗ED-A抗体を、公開された手順(Giovannoni, Nucleic. Acid Research, 2001, 29(5):E27)を用いてETH-2ライブラリーから単離した。高親和性抗ED-A抗体をもたらす、親抗ED-A抗体の親和性成熟は、以下の節に記載されている。
【0140】
親抗ED-A抗体の親和性成熟
親抗ED-A抗体(ETH-2由来抗体)を、親和性成熟ライブラリーの構築のための鋳型として用いた。ライブラリーのVH CDR1 (DP47生殖系列)およびVL CDR1 (DPK22生殖系列)中の配列可変性を、VH CDR1の位置31、32および33ならびにVL CDR1の位置31、31aおよび32で無作為突然変異を作製するプロセスにおいて、部分的縮重プライマー5'-CTGGAGCCTGGCGGACCCAGCTCATMNNMNNMNNGCTAAAGGTGAATCCAGA-3'(配列番号17)(VH用)および5'-CCAGGTTTCTGCTGGTACCAGGCTAAMNNMNNMNNGCTAACACTCTGACTGGCCCTGC-3'(配列番号18)(VL用) (全てのオリゴヌクレオチドを、Operon Biotechnologies, Cologne, Germanyから購入した)を用いるPCRにより導入した。VHVL組合せを、鋳型としてゲル精製されたVHおよびVL断片を用いる、プライマーLMB3long (5'-CAGGAAACAGCTATGACCATGATTAC-3')(配列番号19)およびfdseqlong (5'-GACGTTAGTAAATGAATTTTCTGTATGAGG-3') (配列番号20)を用いるPCR集合によりscFv形式で集合させた。集合させたVH-VL断片を、NcoI/NotIで二重消化し、NcoI/NotI消化されたpHEN1ファージミドベクター(Hoogenboomら、1991)中にクローニングした。得られる連結産物を、Vitiら、2000に従ってエレクトロコンピテント大腸菌TG-1細胞中にエレクトロポレーションし、1.5 x 107個の抗体クローンを含有するライブラリーを生じさせ、改善された親和性でED-Aに結合する抗体についてスクリーニングした。
【0141】
抗ED-A抗体の選択
上記の抗体ライブラリーを、BIAcore分析を用いて、親抗ED-A抗体よりも高い親和性でED-Aに結合した抗体についてスクリーニングした。BIAcore分析において用いた抗原(11A12)は、ヒトフィブロネクチンのED-Aドメインを含み、以下のアミノ酸配列(配列番号120)を有する:

【0142】
抗原(11A12)のヌクレオチド配列(配列番号121)は以下の通りである:

【0143】
前記抗原のヌクレオチド配列を、5'および3'にそれぞれBamHIおよびBglII制限部位を含むプライマーを用いるPCRにより増幅した。得られるPCR産物およびベクターpQE12 (QIAGEN)をBamHIおよびBglII制限エンドヌクレアーゼで消化した後、挿入物:ベクター比3:1を含む反応物中に連結した。得られるベクターを配列決定して、配列が正確であるかを調べた。
【0144】
抗原を以下のように調製した。
【0145】
10 mlの2TY、Amp、1%グルコース中のTG1エレクトロコンピテント前培養物を、11A12のDNAミニプレップ1μlの存在下でエレクトロポレーションした。次いで、前培養物を1:100に希釈し(800 mlの2TY、Amp、0.1%グルコース中に8 ml)、0.4〜0.6のOD600まで増殖させた後、IPTGで一晩誘導した。次の日、細胞を遠心分離し、上清を濾過した(Millipore 0.22μm)。培養培地の遠心分離および清澄化後、11A12をFPLC上のHitrapカラムを用いて精製した。Ni/カラムを以下のように再生した:カラムを、カラムの5倍量(CV)のH2Oで洗浄した後、3CVの0.5 M EDTA/0.2 M Tris pH 8を適用して、カラムから古いニッケルを洗浄除去した。次いで、カラムを5CVのH2Oで洗浄した。次いで、カラムに2CVの100 mM NiSO4を再度載せた後、カラムを数CVのH2Oで洗浄した。次いで、カラムを5CVの溶解バッファー(20 mMイミダゾール/250 mM NaCl/PBS pH 7.4)で平衡化させた。細胞溶解物を濾過し(Millipore 0.45μm)、カラムに載せた(手動で)。次いで、カラムをFPLC上に戻し、UVシグナルが安定するまで(一定)、約3CVの溶解バッファーを流出させた。次いで、溶出プログラムを開始した:5CV中の溶出バッファー(400 mMイミダゾール/250 mM NaCl/PBS pH 7.4)の0%〜100%の勾配。溶出された抗原を含む画分をプールし、PBS中に一晩透析させた。
【0146】
抗ED-A抗体の発現および精製
抗ED-A抗体を以下のように発現させ、精製した:10 mlの2TY、Amp、1%グルコース中のTG1エレクトロコンピテント前培養物を、抗ED-A抗体の1つのDNAミニプレップ1μlの存在下でエレクトロポレーションした。次いで、前培養物を1:100に希釈し(800 mlの2TY、Amp、0.1%グルコース中の8 ml)、0.4〜0.6のOD600まで増殖させた後、IPTGで一晩誘導した。次の日、細胞を遠心分離し、上清を濾過した(Millipore 0.22μm)。scFvをAタンパク質-セファロースカラム上で精製し、トリエチレンアミンを用いて、カラムからscFvを溶出させた。溶出したscFvを含む画分を、PBS中、4℃で一晩透析した。次いで、scFv画分を、PBSと共にSuperdex 75カラム上に入れ、0.5 ml/分で流出させ、0.25 mlの画分を回収した。モノマー画分をBIAcore分析に用いた。
【0147】
BIAcore分析1
BIAcore Chipを、HBS-EPバッファーBIACORE、0.01 M Hepes pH 7.4、0.15 M NaCl、3 mM EDTA、0.005%界面活性剤P20(アッセイに用いたのと同じバッファー)を用いて、5μl/分の流速で一晩フラッシュした。抗原(11A12)を、酢酸バッファー(pH 4.0)中に50μg/mlの濃度に希釈し、チップ上のCOOH基を、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)およびエチル-N-(ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(EDC)の混合物50μlの注入により活性化した。40μlの11A12抗原をチップ上に注入し、残留した遊離COOH基を30μlのエタノールアミンで阻害した。0.22μmの濾過後、20μlの各細菌上清をチップ上に注入し、抗原との相互作用をリアルタイムでモニターした。
【0148】
BIAcore分析2
親抗ED-A抗体および抗ED-A抗体B2、C5、D5、C8、F8、B7およびG9のkon、koffおよびKDを、表面プラスモン共鳴を用いて評価した。チップを、5μl/分のバッファー流速で、アッセイの間に用いたのと同じバッファーを用いて一晩平衡化した。コーティング手順全体をこの流速で実施した。抗原11A12を、酢酸バッファーpH 4.00(BIACOREにより提供)で1:25に希釈して、20μg/mlの最終濃度を得た。次いで、NHSおよびEDCを混合し、50μlを注入して、CM5チップ上のCOOH基を活性化した。次いで、40μlの抗原を注入した(これは約40分続く)。次いで、30μlのエタノールアミンを注入して、最終的な遊離COOHの反応性を阻害した。
【0149】
各サンプルを20μl/分の流速でアッセイした。20μlの未希釈のモノマータンパク質(それはゲル濾過から流出するため)を注入した。解離時間を約200分まで行った。次いで、10μlのHCl 10 mMを注入して、チップを再生した。モノマータンパク質の注入を、異なる希釈率、すなわち、1:2希釈率(PBS中)で反復した後、HClを用いて再生した。次いで、1:4の希釈率でタンパク質の3回目の注入を行った後、再度HClで再生した。各抗ED-A抗体のkon、koffおよびKD値を、BIAevaluationソフトウェアを用いて評価した。
【0150】
組織化学
in vivoでのビオチン化の成功を検証するために、ビオチン化構造の染色をRybakら、2005に記載のように実施した。切片(10μm)を新鮮に凍結された標本から切断し、アセトンで固定し、ストレプトアビジン:ビオチン化アルカリホスファターゼ複合体(Biospa, Milano, Italy)およびFast-Red TR (Sigma)[内因性アルカリホスファターゼを阻害するために1 mMのLevamisoleの存在下で]と共に連続的にインキュベートし、ヘマトキシリン溶液(Sigma)で対抗染色した。
【0151】
FLAG-タグを担持した、scFv-抗体を用いる免疫組織化学染色を、以前に記載のように実施した(例えば、Brackら、2006を参照)。簡単に述べると、切片を、scFvフラグメント(最終濃度、2〜10μg/mL)およびモノクローナル抗Flag抗体M2と共に同時にインキュベートした。結合した抗体を、ウサギ抗マウス免疫グロブリン抗体(Dakocytomation, Glostrup, Denmark)、次いで、マウスモノクローナルアルカリホスファターゼ抗アルカリホスファターゼ複合体(Dakocytomation)を用いて検出した。Fast Red (Sigma)を、ホスファターゼ基質として使用し、切片をヘマトキシリン(Sigma)を用いて対抗染色した。
【0152】
全切片をGlycergel (DakoCytomation, Glostrup, Denmark)と共にマウントし、Axiovisionソフトウェア(Carl Zeiss)を用いるAxiovert S100 TV顕微鏡(Cark Zeiss, Feldbach, Switzerland)を用いて分析した。
【0153】
抗ED-A抗体を用いるin vivoでの標的化
親抗ED-A抗体scFvを、提供者のプロトコルに従って、市販の赤外フルオロフォア誘導体Alexa Fluor 750カルボン酸スクシニジルエステル(Invitrogen)で標識した。標識された抗体を、PD-10カラム(GE Healthcare)を用いるゲル濾過により未反応の色素から分離した。Invitrogenの標識プロトコルに従って見積もられた標識の程度は、抗体分子あたり5色素分子であった。Alexa 750標識された親抗ED-A scFv抗体(0.3 mg/mlの最終濃度)を、F9DR腫瘍細胞の注入の3週間後にSv190マウスの尾静脈中に注入した(200μl/マウス、すなわち、60μgの抗体/マウス)。マウスの器官を、標識された抗体の注入の6時間後に切除し、タングステンハロゲンランプ、Alexa 750に特異的な励起および放射フィルター、ならびにモノクロCCDカメラを備えた自作の赤外蛍光画像化装置(Birchlerら、1999)を用いて画像化した。
【0154】
F8ダイアボディの生体内分布
F8ダイアボディは、例えば、scFv形式で用いられるように、抗ED-A抗体F8と同じVHおよびVLドメインを含む。F8ダイアボディおよび抗ED-A scFv F8は、VHおよびVLドメインの間に異なるリンカー配列を有する。F8ダイアボディリンカーのアミノ酸配列は、GSSGG(配列番号28)(ヌクレオチド配列:gggtccagtggcggt(配列番号29))である。従って、F8ダイアボディリンカー配列は、5アミノ酸長であるが、抗ED-A scFv F8においては、リンカーは20アミノ酸長である(配列番号11を参照)。VLおよびVHドメインの間のリンカーの長さの減少は、VLおよびVHドメインの分子内対形成よりも分子間対形成の方が好ましいことを意味している。結果として、1個のF8ポリペプチドのVLドメインは、それが同じF8ポリペプチドのVHドメインと対形成するよりも、別のF8ポリペプチドのVHドメインと対形成する可能性が高い。
【0155】
F8ダイアボディを、以下のように大腸菌TG1細胞中で発現させた:F8ダイアボディをコードするDNAを、エレクトロポレーションを用いてエレクトロコンピテント大腸菌TG1細胞中に導入した。エレクトロポレーションされた大腸菌細胞を、10 mlの2YT培地、Amp、1%グルコース中で前培養した。前培養物を800 mlの2YT、Amp、0.1%グルコース中に1:100に希釈し、培養物を0.6の密度(OD600 nm)まで増殖させた。次いで、F8ダイアボディの発現を、1 mMのIPTGを用いて誘導した。
【0156】
発現されたF8ダイアボディを、以下のように125Iで標識した:10μlの滅菌PBSをヨードゲンチューブ(クロロホルム中の50μlの0.1 mg/mlヨードゲンでコーティング)中に添加した後、2μlの125Iヨウ化ナトリウム(約200μCi)を添加し、室温(RT)で5分間インキュベートした。
【0157】
次いで、OD 0.2 (約60μg)の400μlのF8ダイアボディをヨードゲンチューブに添加し、RTで25分間インキュベートした。この混合物の1/100を回収して、混合物中に含まれる放射活性を測定した(「INPUT」と呼ぶ)。次いで、標識されたF8ダイアボディをサイズ排除クロマトグラフィーカラム(PD10:Sephadex G-25 M, GE Healthcare)上に載せて、遊離ヨウ素からヨウ素化されたF8ダイアボディを分離した。回収されたヨウ素化F8ダイアボディの放射活性を測定し、ヨウ素のF8ダイアボディへの取込み率(%) (ヨウ素化F8ダイアボディのCPM[1分あたりの計数]/CPM INPUT)を算出したところ、30〜40%であった。
【0158】
4匹のF9腫瘍を担持するマウスを、Lugol上に2日間入れて(300 ml中に600μl)、甲状腺を阻害し、各マウスに200μlのヨウ素化F8ダイアボディ(マウスあたり約5〜8μgのヨウ素化F8ダイアボディ[18μCi])を静脈内注入した。24時間後、マウスを犠牲にし、腫瘍、肝臓、肺、脾臓、心臓、腎臓、腸、尾および血液を取り出し(本明細書では集合的にマウス「組織」と呼ぶ)、放射活性計測に用いた。各組織サンプル中の放射活性のレベルを、Perkinガンマ計測器を用いて測定した。注入用量(CPM中)の割合を、組織の重量(グラム)により割ることにより(%ID/g)、「output」を算出した。
【0159】
結果
示差的に発現されたタンパク質およびスプライス変異体の同定
肝臓およびF9肝臓転移におけるアクセス可能なタンパク質の比較分析に用いたかん流に基づく化学的プロテオミクス方法(Terranaら、1987)を、図1Aに示す。これらの腫瘍は、マウス肝臓の表面および内側に大きい転移巣を形成する(図1B)。末端麻酔下で、腫瘍担持マウスを、血漿増量剤として10%デキストラン-40を補給した、PBS, pH 7.4中のスルホスクシンイミジル-6-[ビオチン-アミド]ヘキサノン酸(1 mg/ml)の1.8 mM溶液15 mlを用いてかん流した。典型的には、この手順を10分間継続し、血管の内腔および外側面の両方上での、主要な循環器の全てからの血管の除去およびアクセス可能なタンパク質の選択的ビオチン化が可能になった。実際には、ストレプトアビジン-アルカリホスファターゼコンジュゲートを用いる組織化学的染色により確認されるように、F9肝臓転移の全ての血管が、この手順で効率的かつ選択的に標識された(図1C)。正常な肝臓においては、血管は強く染色されたが、肝臓の生理学的濾過機能と適合して、いくつかの類洞の標識も検出された(図1C)。in vivoでのビオチン化を、一次アミンを含む溶液を用いるかん流によりクエンチした。続いて、肝臓転移の標本を肝臓から切除し、ホモジェナイズし、ストレプトアビジン樹脂上での親和性クロマトグラフィーによる強い界面活性剤SDSの存在下でのビオチン化タンパク質の回収に用いた(図1A)。宿主の肝臓中での転移性タンパク質の拡散の危険性を最小化するために、in vivoでビオチン化された健康なマウスに由来する肝臓を、正常な肝臓の血管の研究に用いた。また、F9腫瘍マウスに由来する宿主の肝臓の使用は、残存する健康な組織が少ないため、および微小転移巣の不在を巨視的に排除するのが困難であるため、問題が多かった。総合すれば、7匹のin vivoでビオチン化された健康なマウスおよび9匹のin vivoでビオチン化されたF9腫瘍担持マウスに由来するサンプルを、プロテオミクス分析に用いた。さらに、2匹の健康なマウスおよび3匹の転移を担持する非ビオチン化マウスに由来する標本を、陰性対照として用いた。ストリンジェントな洗浄手順ならびにF9転移および正常肝臓に由来するストレプトアビジン捕捉タンパク質の樹脂上でのトリプシン消化(平行して処理)によりペプチドの集合が得られ、ナノ-HPLCおよびMALDI-TOF/TOF質量スペクトル分析手順を用いて、これを分離、同定および比較することができる(Roesliら、2006)。
【0160】
総合すれば、1291個の異なるペプチドが同定され(95%を超えるMascot信頼レベル)、Mascotソフトウェアにより480個の異なるペプチドセットに分類した。これらのペプチドセットのうちの数個は、非ビオチン化マウスに由来する陰性対照にも認められた(コファクターとしての内因性ビオチン、夾雑物としてのケラチンを担持するカルボキシラーゼなど、または血清アルブミンなどの非常に豊富なタンパク質)。残りの435個の同定されたペプチドセットのうち、331個は単一タンパク質にMascotソフトウェアにより明確に注釈を付けることができたが、104個のペプチドセットを複数の(合計358個)タンパク質に注釈を付けた。多くの場合、同じペプチドセットに注釈を付けられた複数のタンパク質は、関連するタンパク質ファミリー(例えば、免疫グロブリン)に属するか、または異なるデータベースエントリーを有する同じタンパク質であってよい。435個の異なるペプチドセットのうち、117個は転移標本において専ら認められ、193個は健康な肝臓標本においてのみ、125個は両方の型の組織に認められた。例えば、フィブロネクチンに一致するペプチド(National Center for Biotechnology Information [NCBI]アクセッション番号P11276)は、4個の健康な肝臓標本、8個の転移標本において認められた。
【0161】
健康な肝臓および転移標本の両方において認められたタンパク質(例えば、フィブロネクチン)は、2つのサンプル中で実質的に異なるレベルで存在する場合がある。これがその場合である場合、これは、タンパク質が検出された標本数および/または肝臓および転移サンプル中で観察されたペプチド数(ならびに正規化されたペプチドシグナル強度;(Scheurerら、2005、Scheurerら、2005))において反映されるべきである。例えば、フィブロネクチン(NCBIアクセッション番号P11276)に由来する38個のトリプシンペプチドは、転移標本においてのみ認められたが、1個のペプチドは健康な肝臓標本においてのみ認められた。11個のペプチドは両方の型の標本において認められた。
【0162】
肝臓がフィブロネクチン生合成の部位であるという事実にも関わらず、肝臓転移において検出されたフィブロネクチン由来ペプチドの著しい量により、本発明者らはフィブロネクチン由来ペプチドの相対量および選択的にスプライスされるドメインの過剰発現における差異を調査するように刺激された。表1は、プロテオミクス分析において同定された全てのフィブロネクチンペプチドを列挙する。マウスフィブロネクチンは、選択的スプライシングを受ける2個のIII型球状エキストラドメイン:ED-AおよびED-Bを含む(ffrench-Constant 1995, Hynes 1990, Kasperら、2006)。さらに、IIICS断片は、マウスとヒトにおいて異なるスプライシングパターンを受ける。興味深いことに、3種全部のED-A由来ペプチドならびにIIICS由来ペプチドは、腫瘍サンプルにおいてのみ観察された。
【0163】
ED-B由来ペプチドは、ED-Bがリジン残基を含まず、2個のアルギニンが検出のためにはサイズが大きすぎるペプチドを生じるという事実に起因して、この分析においては可視的ではないであろう。図2Aは、フィブロネクチンドメイン構造上で腫瘍標本(腫瘍)および健康な肝臓標本(正常)において同定されたペプチドの位置を示す。図2Bは、2個のフィブロネクチン由来ペプチド:ED-Aドメイン内に位置するIAWESPQGQVSR(配列番号16)およびドメイン14に位置するFLTTTPNSLLVSWQAPR(配列番号15)に関する正規化されたMSシグナルの相対強度を示す。後者のペプチドは、転移標本においてより豊富であったが、正常肝臓対応物においても明確に検出可能であった。対照的に、ED-A由来ペプチドは転移サンプルにおいて強いシグナルを与えたが、正常肝臓においては完全に検出不可能であった(すなわち、100倍以上低いシグナル)。
【0164】
免疫組織化学
肝臓構造と転移性血管新生との間の最も顕著な区別が、フィブロネクチンのED-AおよびED-Bドメインについて観察された。両方の場合において、転移血管の強く特異的な染色が観察されたが、正常肝臓および実質的に全ての正常器官(増殖期の子宮内膜および卵巣のいくらかの血管については例外)はこの免疫組織化学分析において陰性のスコアであった(図3A)。重要なことに、ED-Aはヒト肺転移および肝臓転移の血管新生において強く発現されることもわかった(図4)。
【0165】
in vivoでの標的化
リガンドに基づく転移の血管標的化のための標的としてのED-Aの有用性を試験するために、近赤外線蛍光画像化を用いるin vivo標的化実験を実施した。親抗ED-A scFv抗体を、Alexa Fluor 750で標識し、F9転移を担持するマウスに静脈内注入した。切除された器官の近赤外線蛍光画像化により、転移病変における標的化剤の顕著な蓄積が示された(図3B)。
【0166】
抗ED-A抗体の選択
BIAcore分析1
BIAcore分析は、以下のように抗原に対する抗体の親和性を推定するために分析されたそれぞれの抗ED-A抗体に関するグラフをもたらした:それぞれのグラフのx軸は時間に対応し、y軸は共鳴単位(BIAcoreチップ上にコーティングされた抗原に対する試験された抗体の結合親和性を示す尺度)に対応する。それぞれのグラフは、3個のピークおよびバッファーの交換に対応し、従って、結果の解釈について無関係である1個の落ち込みを示す。
【0167】
各グラフの上部は、結合期を表す。グラフのこの部分における曲線が急勾配になるほど、抗体の抗原との結合が速くなる。各グラフの下部は、抗体の抗原からの解離期を表す。グラフのこの部分における曲線が平坦になるほど、抗体の抗原からの解離がゆっくりになる。
【0168】
抗ED-A抗体H1、B2、C5、D5、E5、C8、F8、F1、B7、E8およびG9は全部、それらが誘導された親抗ED-A抗体よりも平坦な解離曲線を示したが、これは、それらが親抗ED-A抗体よりも高い親和性でED-Aに結合し、従って、A-FNにも結合することを示している。抗体E5、F1、F8およびH1に関するグラフは、試験した全ての抗ED-A抗体の最も平坦な解離曲線を示した。抗体H1、C5、D5、E5、C8、F8およびF1の結合曲線は、親抗ED-A抗体について観察されたものよりも平坦であったが、抗体B2、B7、E8およびG9について観察された結合曲線は、親抗ED-A抗体について観察された結合曲線と同じぐらい急勾配であった。しかしながら、IPTGに誘導される大腸菌TG-1細胞の細菌上清を、抗体H1、B2、C5、D5、E5、C8、F8、F1、B7、E8およびG9のBIAcore分析に用いたため、試験した抗体サンプルの濃度は未知であったが、比較に用いた親抗ED-A抗体サンプルの濃度よりも低い可能性が最も高い。結果として、抗体H1、B2、C5、D5、E5、C8、F8、F1、B7、E8およびG9の結合曲線は、BIAcore分析に用いたサンプル中の抗体の濃度が低いことに起因して、人工的に低いかもしれない。しかしながら、濃度はBIAcore分析においてはその標的抗原からの抗体の解離に影響しないため、抗体H1、B2、C5、D5、E5、C8、F8、F1、B7、E8およびG9について観察された平坦な解離曲線は、これらの抗体が、親抗ED-A抗体と少なくとも等しい、おそらくはより高い親和性でED-Aに結合することを示している。結果として、抗ED-A抗体H1、B2、C5、D5、E5、C8、F8、F1、B7、E8およびG9は、本明細書の他の場所に記載された親抗ED-A抗体を用いて行われた同じin vivoおよび免疫組織化学試験において用いられた場合、同じか、またはより良好な結果を生じる可能性が非常に高い。従って、親抗ED-A抗体を用いて得られたin vivoおよび免疫組織化学データは、抗ED-A抗体H1、B2、C5、D5、E5、C8、F8、F1、B7、E8およびG9を腫瘍転移の治療に用いることができるという証拠を提供する。
【0169】
BIAcore分析2
各抗ED-A抗体のkon、koffおよびKD値を、BIAevaluationソフトウェアを用いて評価した。抗原11A12に対する親抗ED-A抗体および抗ED-A抗体B2、C5、D5、C8、F8、B7およびG9のkon、koffおよびKD値を、表3に詳細に記載する。抗ED-A抗体B2、C5、D5、C8、F8、B7およびG9は全て、それらが誘導された親抗ED-A抗体よりも良好な抗原11A12のKD値を有し、これは、それらが親抗ED-A抗体よりも高い親和性でED-Aに結合し、従ってA-FNにも結合することを示している。結果として、抗ED-A抗体B2、C5、D5、C8、F8、B7およびG9は、本明細書の他の場所に記載された親抗ED-A抗体を用いて行われた同じin vivoおよび免疫組織化学試験において用いられた場合、同じか、またはより良好な結果を生じる可能性が非常に高い。従って、親抗ED-A抗体を用いて得られたin vivoおよび免疫組織化学データは、抗ED-A抗体B2、C5、D5、C8、F8、B7およびG9を腫瘍転移の治療に用いることができるという証拠を提供する。
【0170】
F8ダイアボディの生体内分布
マウス組織1グラム(g)あたり検出されたI125標識(ヨウ素化)F8ダイアボディの注入用量(ID)の割合(%)は、肝臓、肺、脾臓、心臓、腎臓、腸、尾および血管について非常に類似しており、また、腎臓を除いて、全て2% ID/g未満を示した(図8)。対照的に、F9腫瘍は、分析した他のマウス組織のいずれかよりも、平均で約4倍以上のIDを含んでいた(図8)。これは、F8ダイアボディがF9マウス腫瘍に選択的に標的化されることを証明している。他の組織において検出されるIDの割合は、マウスに存在するF8ダイアボディのバックグラウンド負荷または他のマウス組織の非特異的標識を示す可能性が最も高い。本明細書の他の場所に記載のように、4匹のマウスを用いて生体内分布実験を行ったが、F9腫瘍において検出されるF8ダイアボディの割合を変化させたマウス組織あたり検出されるIDの割合(図8の誤差バーを参照されたい)は、いずれの試験した他のマウス組織におけるよりも一貫して高かった。
【0171】
生体内分布試験をF9原発腫瘍に対して行ったところ、その結果は、本発明に従う抗ED-A抗体がin vivoで腫瘍組織に選択的に標的化されることを示す。この結果は、本発明の抗ED-A抗体を用いて、本明細書の他の場所に記載の親抗ED-A抗体を用いて行ったのと同じin vivo試験および免疫組織化学試験において用いられた場合、同じか、またはより良好な結果を達成することができるというさらなる指標を提供する。
【0172】
配列決定
抗ED-A抗体H1、B2、C5、D5、E5、C8、F8、F1、B7、E8およびG9は全てscFv抗体であり、従来の方法を用いてこれらを配列決定した。抗ED-A抗体H1のヌクレオチド配列を図6に示す。抗ED-A抗体H1のアミノ酸配列を図7に示す。
【0173】
抗ED-A抗体B2、C5、D5、E5、C8、F8、F1、B7、E8およびG9のVHおよび/またはVLをコードする好ましいヌクレオチド配列は、軽鎖(VL)および重鎖(VH)のH1 CDR1をコードするヌクレオチド配列が、対応する抗体の表2に列挙された軽鎖(VL)および重鎖(VH)CDR1をコードするヌクレオチド配列と置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVHおよび/またはVLをコードするヌクレオチド配列と同一である。
【0174】
抗ED-A F8ダイアボディのVHおよび/またはVLドメインをコードするいくつかの好ましいヌクレオチド配列は、軽鎖(VL)および重鎖(VH)のH1 CDR1をコードするヌクレオチド配列が、抗ED-A抗体F8の表2に列挙された軽鎖(VL)および重鎖(VH)CDR1をコードするヌクレオチド配列と置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVHおよび/またはVLドメインをコードするヌクレオチド配列と同一である。抗ED-A F8ダイアボディのVHおよびVLドメインを連結するリンカーをコードする好ましいヌクレオチド配列は、gggtccagtggcggt(配列番号29)である。
【0175】
抗ED-A抗体B2、C5、D5、E5、C8、F8、F1、B7、E8およびG9は、軽鎖(VL)および重鎖(VH)のH1 CDR1のアミノ酸配列を、対応する抗体の表2に列挙された軽鎖(VL)および重鎖(VH)のアミノ酸配列と置換する以外は、抗ED-A抗体H1と同一のアミノ酸配列を有する。抗ED-A F8ダイアボディのVHおよびVLドメインのアミノ酸配列は、軽鎖(VL)および重鎖(VH)のH1 CDR1のアミノ酸配列が、抗ED-A抗体F8の表2に列挙された軽鎖(VL)および重鎖(VH)CDR1のアミノ酸配列と置換され、H1中のリンカーのアミノ酸配列が、リンカーアミノ酸配列GSSGG(配列番号28)と置換された以外は、抗ED-A抗体H1のアミノ酸配列と同一である。抗ED-A抗体B2 VHドメイン(配列番号21)のアミノ酸配列は、H1のVH CDR1が配列番号23に置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVHドメインのアミノ酸配列と同一である。
【0176】
抗ED-A抗体C5 VHドメイン(配列番号41)のアミノ酸配列は、H1のVH CDR1が配列番号43に置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVHドメインのアミノ酸配列と同一である。
【0177】
抗ED-A抗体D5 VHドメイン(配列番号51)のアミノ酸配列は、H1のVH CDR1が配列番号53に置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVHドメインのアミノ酸配列と同一である。
【0178】
抗ED-A抗体E5 VHドメイン(配列番号61)のアミノ酸配列は、H1のVH CDR1が配列番号63に置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVHドメインのアミノ酸配列と同一である。
【0179】
抗ED-A抗体C8 VHドメイン(配列番号71)のアミノ酸配列は、H1のVH CDR1が配列番号73に置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVHドメインのアミノ酸配列と同一である。
【0180】
抗ED-A抗体F8 VHドメイン(配列番号81)のアミノ酸配列は、H1のVH CDR1が配列番号83に置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVHドメインのアミノ酸配列と同一である。抗ED-A F8ダイアボディのVHドメインは、抗ED-A scFv抗体F8のVHドメイン(すなわち、配列番号81)と同じアミノ酸配列を有する。
【0181】
抗ED-A抗体F1 VHドメイン(配列番号91)のアミノ酸配列は、H1のVH CDR1が配列番号93に置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVHドメインのアミノ酸配列と同一である。
【0182】
抗ED-A抗体B7 VHドメイン(配列番号101)のアミノ酸配列は、H1のVH CDR1が配列番号103に置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVHドメインのアミノ酸配列と同一である。
【0183】
抗ED-A抗体E8 VHドメイン(配列番号111)のアミノ酸配列は、H1のVH CDR1が配列番号113に置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVHドメインのアミノ酸配列と同一である。
【0184】
抗ED-A抗体G9 VHドメイン(配列番号31)のアミノ酸配列は、H1のVH CDR1が配列番号33に置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVHドメインのアミノ酸配列と同一である。
【0185】
抗ED-A抗体B2 VLドメイン(配列番号22)のアミノ酸配列は、H1のVL CDR1が配列番号26に置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVLドメインのアミノ酸配列と同一である。
【0186】
抗ED-A抗体C5 VLドメイン(配列番号42)のアミノ酸配列は、H1のVL CDR1が配列番号46に置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVLドメインのアミノ酸配列と同一である。
【0187】
抗ED-A抗体D5 VLドメイン(配列番号52)のアミノ酸配列は、H1のVL CDR1が配列番号56に置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVLドメインのアミノ酸配列と同一である。
【0188】
抗ED-A抗体E5 VLドメイン(配列番号62)のアミノ酸配列は、H1のVL CDR1が配列番号66に置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVLドメインのアミノ酸配列と同一である。
【0189】
抗ED-A抗体C8 VLドメイン(配列番号72)のアミノ酸配列は、H1のVL CDR1が配列番号76に置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVLドメインのアミノ酸配列と同一である。
【0190】
抗ED-A抗体F8 VLドメイン(配列番号82)のアミノ酸配列は、H1のVL CDR1が配列番号86に置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVLドメインのアミノ酸配列と同一である。抗ED-A F8ダイアボディのVLドメインは、抗ED-A抗体F8のVLドメイン(すなわち、配列番号82)と同じアミノ酸配列を有する。
【0191】
抗ED-A抗体F1 VLドメイン(配列番号92)のアミノ酸配列は、H1のVL CDR1が配列番号96に置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVLドメインのアミノ酸配列と同一である。
【0192】
抗ED-A抗体B7 VLドメイン(配列番号102)のアミノ酸配列は、H1のVL CDR1が配列番号106に置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVLドメインのアミノ酸配列と同一である。
【0193】
抗ED-A抗体E8 VLドメイン(配列番号112)のアミノ酸配列は、H1のVL CDR1が配列番号116に置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVLドメインのアミノ酸配列と同一である。
【0194】
抗ED-A抗体G9 VLドメイン(配列番号32)のアミノ酸配列は、H1のVL CDR1が配列番号36に置換された以外は、抗ED-A抗体H1のVLドメインのアミノ酸配列と同一である。
【0195】
必要に応じて、抗ED-A抗体H1、B2、C5、D5、E5、C8、F8、F1、B7、E8、G9のVHドメインの位置5のアミノ酸は、図7Aに示されるようにバリン残基(V)よりもむしろ、ロイシン残基(L)であってよい。さらに、またはあるいは、抗ED-A抗体H1、B2、C5、D5、E5、C8、F8、F1、B7、E8、G9のVLドメインの位置18のアミノ酸は、図7Cに示されるようにリジン残基(K)よりもむしろ、アルギニン残基(R)であってもよい。
【0196】
参考文献
上記のいずれかで引用されたものなどの本明細書のいずれかで引用される全ての参考文献は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0197】



【表1】


【表2】

【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍転移の治療のための医薬の調製におけるフィブロネクチンのエキストラドメイン-A(ED-A)アイソフォームに結合する結合メンバーの使用。
【請求項2】
前記結合メンバーがフィブロネクチンのED-Aに結合する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記結合メンバーが検出可能な標識にコンジュゲートさせたものである、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記結合メンバーが、殺菌活性または細胞傷害活性を有する分子にコンジュゲートさせたものである、請求項1または2に記載の使用。
【請求項5】
前記結合メンバーが放射性アイソトープにコンジュゲートさせたものである、請求項1または2に記載の使用。
【請求項6】
フィブロネクチンのED-Aアイソフォームに結合する結合メンバーにコンジュゲートさせた分子の腫瘍転移の血管新生への送達のための医薬の調製における前記結合メンバーの使用。
【請求項7】
前記結合メンバーがフィブロネクチンのED-Aに結合する、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記分子が検出可能な標識である、請求項6または7に記載の使用。
【請求項9】
前記分子が殺菌活性または細胞傷害活性を有する、請求項6または7に記載の使用。
【請求項10】
前記コンジュゲートされた分子が放射性アイソトープである、請求項6または7に記載の使用。
【請求項11】
前記結合メンバーがVHドメインを含み、
該VHドメインがフレームワークと、相補性決定領域HCDR1、HCDR2およびHCDR3のセットとを含み、該HCDR1が配列番号3、23、33、43、53、63、73、83、93、103もしくは113のアミノ酸配列を有し、該HCDR2が配列番号4のアミノ酸配列を有し、ならびに該HCDR3が配列番号5のアミノ酸配列を有するか、または、
該VHドメインが、相補性決定領域HCDR1、HCDR2およびHCDR3内に10個以下のアミノ酸置換を有する相補性決定領域のセットを含む、
請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記VHドメインフレームワークがヒト生殖系列フレームワークである、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記VHドメインが、配列番号1、21、31、41、51、61、71、81、91、101または111のアミノ酸配列を有する、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記結合メンバーが相補性決定領域LCDR1、LCDR2およびLCDR3のセットと、フレームワークとを含むVLドメインをさらに含む、請求項11〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
LCDR1が配列番号6、26、36、46、56、66、76、86、96、106もしくは116のアミノ酸配列を有し、LCDR2が配列番号7のアミノ酸配列を有し、ならびにLCDR3が配列番号8のアミノ酸配列を有するか、または、
前記VLドメインが相補性決定領域LCDR1、LCDR2およびLCDR3内に10個以下のアミノ酸置換を有する相補性決定領域のセットを含む、
請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記VLドメインフレームワークがヒト生殖系列フレームワークである、請求項14または15に記載の使用。
【請求項17】
前記VLドメインが配列番号2、22、32、42、52、62、72、82、92、102または112のアミノ酸配列を有する、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記結合メンバーが一本鎖Fvである、請求項14〜17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
前記結合メンバーがダイアボディである、請求項14〜17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項20】
VHドメインを含む、フィブロネクチンのエキストラドメイン(ED-A)アイソフォームおよび/またはフィブロネクチンのED-Aに結合する結合メンバーであって、
該VHドメインがフレームワークと、相補性決定領域HCDR1、HCDR2およびHCDR3のセットとを含み、該HCDR1が配列番号3、23、33、43、53、63、73、83、93、103もしくは113のアミノ酸配列を有し、該HCDR2が配列番号4のアミノ酸配列を有し、ならびに該HCDR3が配列番号5のアミノ酸配列を有するか、または、
該VHドメインが、相補性決定領域HCDR1、HCDR2およびHCDR3内に10個以下のアミノ酸置換を有する相補性決定領域のセットを含む、
前記結合メンバー。
【請求項21】
前記VHドメインフレームワークがヒト生殖系列フレームワークである、請求項19に記載の結合メンバー。
【請求項22】
前記VHドメインが配列番号1、21、31、41、51、61、71、81、91、101または111のアミノ酸配列を有する、請求項20に記載の結合メンバー。
【請求項23】
前記結合メンバーが相補性決定領域LCDR1、LCDR2およびLCDR3のセットと、フレームワークとを含むVLドメインをさらに含む、請求項19〜21のいずれか1項に記載の結合メンバー。
【請求項24】
LCDR1が配列番号6、26、36、46、56、66、76、86、96、106もしくは116のアミノ酸配列を有し、LCDR2が配列番号7のアミノ酸配列を有し、ならびにLCDR3が配列番号8のアミノ酸配列を有するか、または、
前記VLドメインが相補性決定領域LCDR1、LCDR2およびLCDR3内に10個以下のアミノ酸置換を有する相補性決定領域のセットを含む、
請求項22に記載の結合メンバー。
【請求項25】
前記VLドメインフレームワークがヒト生殖系列フレームワークである、請求項22または23に記載の結合メンバー。
【請求項26】
前記VLドメインが配列番号2、22、32、42、52、62、72、82、92、102または112のアミノ酸配列を有する、請求項24に記載の結合メンバー。
【請求項27】
前記結合メンバーが一本鎖Fvである、請求項22〜25のいずれか1項に記載の結合メンバー。
【請求項28】
前記結合メンバーがダイアボディである、請求項22〜25のいずれか1項に記載の結合メンバー。
【請求項29】
前記結合メンバーが検出可能な標識にコンジュゲートさせたものである、請求項19〜26のいずれか1項に記載の結合メンバー。
【請求項30】
前記結合メンバーが殺菌活性または細胞傷害活性を有する分子にコンジュゲートさせたものである、請求項19〜26のいずれか1項に記載の結合メンバー。
【請求項31】
前記結合メンバーが放射性アイソトープにコンジュゲートさせたものである、請求項19〜26のいずれか1項に記載の結合メンバー。
【請求項32】
腫瘍転移を診断するための診断製品の製造におけるフィブロネクチンのED-Aアイソフォームに結合する結合メンバーの使用。
【請求項33】
前記結合メンバーがフィブロネクチンのED-Aに結合する、請求項30に記載の使用。
【請求項34】
腫瘍転移を診断するための診断製品の製造における、請求項19〜27のいずれか1項に記載の結合メンバーの使用。
【請求項35】
ヒトまたは動物における腫瘍転移を検出または診断する方法であって、
(a)該ヒトまたは動物に、フィブロネクチンのED-Aアイソフォームに結合する結合メンバーを投与する工程、および、
(b)該ヒトまたは動物の体内の原発腫瘍により現在または以前に占有された部位から遠くの部位での該結合メンバーの存在または非存在を決定する工程、
を含み、該ヒトまたは動物において原発腫瘍により現在または以前に占有された部位から遠くの部位への該結合メンバーの局在化が腫瘍転移の存在を示す、前記方法。
【請求項36】
前記結合メンバーがフィブロネクチンのED-Aに結合する、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記結合メンバーが検出可能な標識にコンジュゲートさせたものである、請求項33または34に記載の方法。
【請求項38】
前記結合メンバーが放射性アイソトープにコンジュゲートさせたものである、請求項33または34に記載の方法。
【請求項39】
フィブロネクチンのED-Aアイソフォームに結合する結合メンバーを含む治療上有効量の医薬を個体に投与することを含む、個体において腫瘍転移を治療する方法。
【請求項40】
前記結合メンバーがフィブロネクチンのED-Aに結合する、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記結合メンバーが検出可能な標識にコンジュゲートさせたものである、請求項37または38に記載の方法。
【請求項42】
前記結合メンバーが殺菌活性または細胞傷害活性を有する分子にコンジュゲートさせたものである、請求項37または38に記載の方法。
【請求項43】
前記結合メンバーが放射性アイソトープにコンジュゲートさせたものである、請求項37または38に記載の方法。
【請求項44】
フィブロネクチンのED-Aアイソフォームに結合する結合メンバーをヒトまたは動物に投与することを含む、該ヒトまたは動物において腫瘍転移の血管新生に分子を送達する方法であって、該結合メンバーが該分子にコンジュゲートさせたものである、前記方法。
【請求項45】
前記結合メンバーがフィブロネクチンのED-Aに結合する、請求項42に記載の方法。
【請求項46】
前記分子が検出可能な標識である、請求項42または43に記載の方法。
【請求項47】
前記分子が殺菌活性または細胞傷害活性を有する、請求項42または43に記載の方法。
【請求項48】
前記分子が放射性アイソトープである、請求項42〜43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記結合メンバーがVHドメインを含み、
該VHドメインがフレームワークと、相補性決定領域HCDR1、HCDR2およびHCDR3のセットとを含み、該HCDR1が配列番号3、23、33、43、53、63、73、83、93、103もしくは113のアミノ酸配列を有し、該HCDR2が配列番号4のアミノ酸配列を有し、ならびに該HCDR3が配列番号5のアミノ酸配列を有するか、または、
該VHドメインが、相補性決定領域HCDR1、HCDR2およびHCDR3内に10個以下のアミノ酸置換を有する相補性決定領域のセットを含む、
請求項33〜46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記VHドメインフレームワークがヒト生殖系列フレームワークである、請求項47に記載の方法。
【請求項51】
前記VHドメインが配列番号1、21、31、41、51、61、71、81、91、101または111のアミノ酸配列を有する、請求項48に記載の方法。
【請求項52】
前記結合メンバーが、相補性決定領域LCDR1、LCDR2およびLCDR3のセットと、フレームワークとを含むVLドメインをさらに含む、請求項47〜49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
LCDR1が配列番号6、26、36、46、56、66、76、86、96、106もしくは116のアミノ酸配列を有し、LCDR2が配列番号7のアミノ酸配列を有し、ならびにLCDR3が配列番号8のアミノ酸配列を有するか、または、
前記VLドメインが相補性決定領域LCDR1、LCDR2およびLCDR3内に10個以下のアミノ酸置換を有する相補性決定領域のセットを含む、
請求項50に記載の方法。
【請求項54】
前記VLドメインフレームワークがヒト生殖系列フレームワークである、請求項51に記載の方法。
【請求項55】
前記VLドメインが配列番号2、22、32、42、52、62、72、82、92、102または112のアミノ酸配列を有する、請求項52に記載の方法。
【請求項56】
前記結合メンバーが一本鎖Fvである、請求項50〜53のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記結合メンバーがダイアボディである、請求項50〜53のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−523541(P2010−523541A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501612(P2010−501612)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【国際出願番号】PCT/IB2008/000965
【国際公開番号】WO2008/120101
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(507147231)
【Fターム(参考)】