説明

腸溶性硬質カプセル用水性組成物、腸溶性硬質カプセルの製造方法及び腸溶性硬質カプセル

腸溶性硬質カプセル用水性組成物、腸溶性硬質カプセルの製造方法及び腸溶性硬質カプセルが開示される。該腸溶性硬質カプセル用水性組成物は、腸溶性基剤、カプセル成形補助剤及び中和剤を含み、該腸溶性硬質カプセルの製造方法は、腸溶性基剤、カプセル成形補助剤、中和剤及びその他添加剤を水に溶解して水性組成物を製造する段階、水性組成物をそのゲル化温度より低い温度に予熱させる段階、ゲル化温度より高い温度に加熱したモールドピンを水性組成物内に浸漬する段階、モールドピンを水性組成物から回収し、モールドピン上に形成された膜を得る段階、及び膜を、ゲル化温度以上の温度で所定時間維持し、モールドピン上に固着させた後で乾燥する段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸溶性硬質カプセル用水性組成物、腸溶性硬質カプセルの製造方法及び当該方法を使用して製造した腸溶性硬質カプセルに関する。さらに詳細には、腸溶性基剤、カプセル成形補助剤及び中和剤を含む腸溶性硬質カプセル用水性組成物、腸溶性硬質カプセルの製造方法、並びにその方法によって製造された腸溶性硬質カプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
医薬や健康機能食品などに使われるカプセルは、通常ゼラチン及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を基剤として製造される。
【0003】
ゼラチン・カプセルの長所としては、高い産業生産性及び価格競争力を挙げることができるが、含有水分が10重量%以下である場合は、可塑性を失い、耐衝撃性が顕著に悪化するという短所も有している。また、最近、ゼラチンの使用が、狂牛病などの問題によって制限を受けており、ゼラチンを使用しない植物性素材であるHPMCカプセルが広く使用されている。
【0004】
一般的に、硬質カプセルの製造方法は、ゲル化特性によって、冷却ゲル化法および熱ゲル化法という2種類の方法に大別される。
【0005】
カプセルは、冷却ゲル化法を使用した方法、即ち、常温でゲル化するゼラチン溶液、または、カラギーナン・寒天・アルギン酸ナトリウム・ゲランガム・ペクチンといった常温でゲル化する物質を含むHPMC溶液を加熱した後、当該溶液のゼラチンやHPMCを熟成させるため、前記溶液を高温に維持する段階;
前記溶液に冷たいモールドピン(mold pin)を浸漬して当該モールドピンに所定量の溶液をコーティングする段階:
前記モールドピンを前記溶液から取り出した後、溶液のゼラチンやHPMCをゲル化させるため、直ちに約20℃の冷風を前記モールドピンに供給し、乾燥させる段階;を含む。
前記冷却ゲル化法で使われるカラギーナン、カラギーナン・寒天・アルギン酸ナトリウム・ゲランガム・ペクチンなどは、カルウム、カルシウム、ナトリウムなどの金属イオンと結合してゲル形成能が増すために、ゲル化剤としてカプセル製造時にしばしば使われている。しかし、カラギーナンのような不純物が添加されたカプセルを経口投与する場合には、前記不純物が胃液内や腸液内に存在する金属塩類と反応し、カプセル構成成分間の結着力が強化され、崩解が阻害される。
【0006】
カプセルは、また、高温時のHPMC溶液中のHPMCがゲル化するという特性を利用した熱ゲル化法によって製造される。常温以上の温度を維持するHPMC溶液に、高温のモールドピンを浸漬し、当該モールドピンの熱によって、前記モールドピンをコーティングしたHPMC溶液のHPMCを熱ゲル化させる。
【0007】
しかし、前記カプセルは経口投与され、胃液中で崩解して体内で吸収されるために、このようなカプセルに充填される医薬及び健康機能食品の主原料や賦形剤などが酸に不安定であったり、胃に刺激を与えたり、またはそれから発生した臭いなどが逆流する場合には使用し難いかもしれない。その場合、通常、カプセル充填後に腸溶性基剤を前記カプセルの表面にコーティングし、腸溶性機能を付与している。
【0008】
しかし、前記カプセルに腸溶性基剤をコーティングする場合には、工程が追加されて生産コストが嵩む。さらに、コーティング時に、コーティング液に由来する有機溶媒などが、カプセル表面に残留する可能性が高く、コーティングによってカプセルの識別コードが見えなくなったり、コーティング後のカプセルの外観上の質が落ちているように見えることもある。
【0009】
このために、多くの研究者らが腸溶性硬質カプセルの開発を行なってきた。しかし、高い品質と高い生産性とを有した腸溶性硬質カプセルは未だ商業化されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、腸溶性基剤、カプセル成形補助剤及び中和剤を含む腸溶性硬質カプセル用水性組成物を提供する。
本発明は、また、前記水性組成物を使用する腸溶性硬質カプセルの製造方法を提供する。
本発明は、また、前記腸溶性硬質カプセルの製造方法によって製造された腸溶性硬質カプセルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様は、腸溶性基剤、カプセル成形補助剤及び中和剤を含む腸溶性硬質カプセル用水性組成物である。
【0012】
前記腸溶性基剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)及びヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含んでもよい。
【0013】
前記カプセル成形補助剤は、セルロースエーテルを含んでもよい。
【0014】
前記セルロースエーテルは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)及びメチルセルロース(MC)からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含んでもよい。
【0015】
前記中和剤は、塩基性化合物であってもよい。
【0016】
前記腸溶性基剤の含有量は、前記水性組成物の総重量を基準に、8〜25%であってもよい。
【0017】
前記カプセル成形補助剤の含有量は、前記水性組成物の総重量を基準に、1〜12%であってもよい。
【0018】
前記中和剤の含有量は、前記水性組成物の総重量を基準に、1〜5%であってもよい。
【0019】
前記腸溶性硬質カプセル用水性組成物は、前記水性組成物の総重量を基準に、1.0%以下の乳化剤をさらに含んでもよい。
【0020】
前記腸溶性硬質カプセル用水性組成物は、前記水性組成物の総重量を基準に、4.0%以下の可塑剤をさらに含んでもよい。
【0021】
本発明の他の態様は、腸溶性基剤、カプセル成形補助剤及び中和剤を水に溶解し、常温で熟成させて水性組成物を製造する段階と、前記水性組成物を、前記水性組成物のゲル化温度より低い第1温度まで予熱させる段階と、前記ゲル化温度より高い第2温度に加熱したモールドピンを前記水性組成物内に浸漬する段階と、前記モールドピンを前記水性組成物から回収し、前記モールドピン上に形成された膜を得る段階と、前記膜を前記モールドピン上に固着させるため、前記ゲル化温度以上の温度である第3温度で第1時間維持し、第4温度で第2時間乾燥させてカプセル・シェル(shell)を得る段階と、を含む腸溶性硬質カプセルの製造方法である。
【0022】
前記第1温度は、前記ゲル化温度より4〜12.0℃低くてもよい。
【0023】
前記第2温度は、前記ゲル化温度より10〜31℃高くてもよい。
【0024】
前記第3温度は、60〜80℃であり、前記第1時間は、1〜15分であってもよい。
【0025】
前記第4温度は、20〜40℃であり、前記第2時間は、30〜60分であってもよい。
【0026】
本発明のさらに他の態様は、前記腸溶性硬質カプセルの製造方法によって製造された腸溶性硬質カプセルである。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一具現例によれば、腸溶性基剤、カプセル成形補助剤及び中和剤を含む水性組成物を使用し、腸溶性基剤の自体ゲル化特性を製造に利用することによって、品質が向上した腸溶性硬質カプセル及びその製造方法を提供することができる。前記腸溶性カプセルは、従来の硬質カプセルと同じ規格と機能とを有し、胃液条件(pH1.2付近)では、2〜4時間崩解及び溶出されず、小腸液条件(pH6.8付近)では、10分以内の短時間内に崩解及び溶出がなされる腸溶性機能を有する。また、前記腸溶性硬質カプセルは、従来の装備をそのまま使用して製造することができ、前記水性組成物が腸溶性硬質カプセルの生産に直接適用される物理学的特性を有することによって、商業的に大量生産が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一具現例による腸溶性硬質カプセル用水性組成物について詳細に説明する。
【0029】
本発明の一具現例による腸溶性硬質カプセル用水性組成物は、腸溶性基剤、カプセル成形補助剤及び中和剤を含む。本明細書で、「水性組成物」とは、少なくとも腸溶性基剤、カプセル成形補助剤及び中和剤が水に溶解された状態で存在する組成物を意味する。
【0030】
前記腸溶性基剤は、高温の水溶液にてゲル化するものであり、pHが約1.2の胃液では2〜4時間以上溶解されず、pHが約6.8の小腸液では10分以内の短時間で溶解する。腸溶性基剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)及びヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含んでもよい。前記HPMCPの例としては、三星精密化学株式会社のHPMCP HP−55(メトキシ含有量:18〜22%、ヒドロキシプロポキシ含有量:5〜9%、フタル酸含有量:27〜35%、置換度タイプ200731、粘度範囲:32〜48cst)、HPMCP HP−55S(メトキシ含有量:18〜22%、ヒドロキシプロポキシ含有量:5〜9%、フタル酸含有量:27〜35%、置換度タイプ200731、粘度範囲:136〜204cst)、及び、HPMCP HP−50(メトキシ含有量:20〜24%、ヒドロキシプロポキシ含有量:6〜10%、フタル酸含有量:21〜27%、置換度タイプ220824、粘度範囲:44〜66cst)がある。
本明細書で、メトキシ及びその他置換体の含有量とは、下記化学式のように、置換されたセルロースの反復単位を構成する元素の原子量総合のうち、それぞれの置換体を構成する元素の原子量総合の比率を意味する。
【0031】
【化1】

【0032】
前記化学式で、m及びnは、それぞれ1以上の整数である。
【0033】
前記腸溶性基剤の含有量は、前記水性組成物の総重量を基準に、約8〜25%、例えば約12〜21%であってもよい。このとき、前記水性組成物の粘度は、常温で約1,000〜3,000cpsであってもよい。前記腸溶性基剤の含有量が、前記水性組成物の総重量を基準に8%未満であるならば、前記水性組成物の粘度が低く、この組成物で製造されたカプセルの被膜が過度に薄くなり、カプセルの腸溶性機能も低下する。また、前記腸溶性基剤の含有量が、前記水性組成物の総重量を基準に25%を超えれば、前記水性組成物の粘度が高く、この組成物で製造されたカプセルの厚みが過度に厚くなる。
【0034】
前記カプセル成形補助剤は、壊れ易い腸溶性カプセル被膜の弾性及びカプセルの成形性を向上させ、前記水性組成物のゲル化温度を生産可能温度(20〜70℃)に調節するためのものであり、セルロースエーテルを含むことができる。前記セルロースエーテルは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)及びメチルセルロース(MC)からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含んでもよい。前記HPMCは、ヒドロキシプロポキシ含有量が約4〜12%、例えば約4〜7.5%であり、メトキシ含有量が約19〜30%、例えば約27〜30%であってもよい。また、2重量%のHPMC水溶液の粘度は約3〜50cps、例えば約3〜15cpsであってもよい。また、前記カプセル成形補助剤の含有量は、前記水性組成物の総重量を基準に約1〜12%、例えば約3〜10%であってもよい。前記カプセル成形補助剤の含有量が、前記水性組成物の総重量を基準に、1%未満であるならば、製造されたカプセルの弾性が低下し、12%を超えれば、製造されたカプセルの腸溶性機能が低下する。
【0035】
前記中和剤は、前記腸溶性基剤を可溶化させるためのものであり、水酸化ナトリウム、アンモニア水、水酸化カリウム、水酸化カルシウムのような塩基性物質であってもよい。また、このような中和剤は、塩の種類によって、ゲル化温度を下げる効果を有することができる。また、前記中和剤の含有量は、前記水性組成物の総重量を基準に約1〜5%、例えば約2〜4%であってもよい。前記中和剤の含有量が、前記水性組成物の総重量を基準に、1%未満であるならば腸溶性基剤を溶解させ難く、5%を超えれば可溶化速度を短縮させるが、水性組成物が強塩基性を示したり、腸溶性機能が弱まるという問題点がある。
【0036】
また、前記水性組成物は、カプセル成形能を向上させるための乳化剤をさらに含んでもよい。前記乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)、ショ糖脂肪酸エステル及びそれらの混合物が使われてもよい。SLSは、優れたカプセル成形能を有する。前記乳化剤の含有量は、前記水性組成物の総重量を基準に、0.01〜1.0%、例えば0.05〜0.5%であってもよい。前記乳化剤の含有量が前記水性組成物の総重量を基準に0.01%未満であるならば、モールドピンに塗布された溶液が巻き上がってしまい、カプセル成形性が落ちる。また、前記乳化剤の含有量が前記水性組成物の総重量を基準に1.0%を超えればカプセルの品質が低下し、例えば胃腸障害が発生する虞がある。
【0037】
また、前記水性組成物は、カプセルの被膜強度を向上させるための可塑剤をさらに含んでもよい。可塑剤としては、ジアセチル化モノグリセリド、クエン酸トリエチル(TEC)、トリアセチン(TA)、ポリエチレングリコール(PEG)及びプロピレングリコール(PG)からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含有するとよい。特に、ジアセチル化モノグリセリドは、優れた耐酸性を有する。また、前記可塑剤の含有量は、前記水性組成物の総重量を基準に約0.1〜4.0%、例えば約0.2〜2.0%でありうる。前記可塑剤の含有量が、前記水性組成物の総重量を基準に、0.1%未満であるならば、被膜に可塑性を付与できず、4.0%を超えれば、可塑性は大きくなるが、カプセルの透明度が低下してしまう。
【0038】
前記水性組成物は、下記のような方法で製造されてもよい。
【0039】
すなわち、中和剤、及び選択的に、乳化剤及び可塑剤のような添加剤を水に溶解させて水溶液を製造し、前記水溶液に、腸溶性基剤及びカプセル成形補助剤を添加して溶解させることによって、水性組成物を得ることができる。
【0040】
次に、前記水性組成物を使用して腸溶性硬質カプセルを製造する方法について詳細に説明する。
【0041】
本発明の一具現例による腸溶性硬質カプセルの製造方法は、下記段階を含む。
(1)腸溶性基剤、カプセル成形補助剤及び中和剤を水に溶解して水性組成物を製造する段階。前記水性組成物のpHは約4.5〜6.5であり、粘度は、常温で約1,000〜3,000cps、例えば約1,500〜2,500cpsでありうる。前記腸溶性基剤の熱ゲル化温度は約75℃であるが、前記水性組成物の熱ゲル化温度は前記腸溶性基剤と前記カプセル成形補助剤との混合比によって異なり、その値は、例えば約50〜60℃の範囲に調節されてもよい。またその場合、前記水性組成物に、二酸化チタン及び/または鉱物性色素、天然色素、タール色素のような色素をさらに配合することができる。
【0042】
(2)前記水性組成物を、前記水性組成物のゲル化温度より低い第1温度まで予熱させる段階。
【0043】
(3)前記ゲル化温度より高い第2温度に加熱したモールドピンを、前記水性組成物内に浸漬する段階。
【0044】
(4)前記モールドピンを前記水性組成物から回収し、前記モールドピン上に形成された膜を得る段階。
【0045】
(5)前記膜を、前記ゲル化温度以上の温度である第3温度で第1時間維持し、前記モールドピン上に固着させた後、第4温度で第2時間乾燥させてカプセル・シェルを得る段階。
【0046】
具体的には、前記腸溶性硬質カプセルの製造方法は、3種類の主な要素により特徴付けられる。
最初の要素は、前記水性組成物の温度である。前記水性組成物の温度は、モールドピンにコーティングされた水性組成物の流動性を決定する。前記水性組成物の温度は、通常、そのゲル化温度より約4〜12℃、例えば約5〜10℃ほど低い温度(第1温度)に維持されてもよい。前記第1温度が前記水性組成物のゲル化温度マイナス4℃より高ければ、モールドピンを水性組成物から取り出した直後に水性組成物が固着して当該水性組成物の流動性が失われて適正フィルムを得られない。一方、前記第1温度が前記水性組成物のゲル化温度マイナス12℃より低ければ、過度なフロー性によって、カプセル成形が困難になる。
第2の要素は、モールドピンの温度である。あらかじめ予熱させたモールドピンの温度は、カプセルの被膜厚を決定する重要な要素である。前記温度を下げれば、被膜厚を薄く調節することができ、前記温度を上げれば、被膜厚を厚く調節することができる。前記モールドピンの温度は、カプセルのサイズ別に差はあるが、普通、前記水性組成物のゲル化温度より10〜31℃高い温度(第2温度)に維持されてもよい。前記第2温度が、前記水性組成物のゲル化温度プラス10℃より低ければ、カプセルの被膜厚が過度に薄くなる。前記第2温度が、前記水性組成物のゲル化温度プラス31℃より高ければ、カプセルの被膜厚が過度に厚くなる。
第3の要素は、乾燥温度である。乾燥温度は、モールドピンにコーティングされた水性組成物の流動性を制御する。一般的に、前記モールドピンにコーティングされた水性組成物は、乾燥器に移送されて乾燥される。このとき、乾燥の初期には、乾燥温度を熱ゲル化温度以上の温度(第3温度)に所定時間(第1時間)維持させ、前記モールドピンにコーティングされた水性組成物が流れないように、完全に固着させる。前記第3温度は約60〜80℃であり、前記第1時間は約1〜15分、例えば約3分とすればよい。前記第3温度が60℃未満であったり、前記第1時間が1分未満であるならば、コーティングされた水性組成物がモールドピンに固着されず、フローが発生し、カプセル成形されない。一方、前記第3温度が80℃を超えたり前記第1時間が15分を超えれば、過乾燥を起こし、カプセル被膜の水分が短時間内に減少し、カプセルに亀裂が生じうる。その後には、前記モールドピンを第4温度に維持される乾燥器で第2時間放置し、カプセルを完全に乾燥させる。前記第4温度は約20〜40℃であり、前記第2時間は約30〜60分とすればよい。前記第4温度が20℃未満であったり、前記第2時間が30分未満であるならば、コーティングされた水溶性組成物は多くの水分を有することになって変形可能性が高くなる。一方、前記第4温度が40℃を超えたり、前記第2時間が60分を超えれば、過乾燥を起こし、少ない水分含有量のために、カプセルの強度が弱くなって亀裂を発生させることがある。
【0047】
前記3種の要素を適切に調節することによって、商用化されている他カプセル剤と同様に、品質が向上した腸溶性硬質カプセルを製造することができる。前記製造方法によって製造された腸溶性硬質カプセルは、医薬品及び健康機能食品などの多様な用途に使われる。
【0048】
以下、実施例を挙げて、発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこのような実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
〔実施例1〜16〕
下記表1に示した組成で、下記水性組成物の製造方法によって水性組成物を製造し、下記表2に示した条件で腸溶性カプセルを製造した。その後、製造されたカプセルを胃液と類似したpH1.2の試験液に最長2時間まで浸漬して崩解するか否かを観察し、次に、小腸液と類似したpH6.8の試験液に浸漬して崩解時間を測定した。
【0050】
前記試験結果を下記表2に示した。
【0051】
(水性組成物の製造)
中和剤、乳化剤、可塑剤、及び選択的に色素を水に投入した後、腸溶性基剤及びカプセル成形補助剤を添加して溶解させることにより水性組成物を製造した。
【0052】
(腸溶性カプセルの製造)
上述のようにして製造したそれぞれの水性組成物の温度を、その熱ゲル化温度より4〜12℃低い温度に調節した。その後、前記水性組成物の熱ゲル化温度より10〜31℃高い温度に予熱させたモールドピン(TECHNOPHAR社製、ピン、#0)を前記水性組成物に浸漬し、前記モールドピンに前記水性組成物をコーティングした。その後、このコーティングされた水溶性組成物をゲル化させた。次に、前記水性組成物がコーティングされたモールドピンを60〜80℃の温度で3分間維持させた後、20〜40℃で30〜60分間乾燥させた。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
<カプセル透明性>
乾燥したカプセルを蛍光灯に照らして見たとき、濁度を肉眼観察し、下記のように4等級で評価した。
◎:澄んで見えるとき
○:やや濁ってみえるとき(カプセル面がやや粗く見えたり、溶解されていない異物などがあるとき)
△:かすんでみえるとき
×:非常に粗かったり、くすんで見えるとき
<成形時ゲル化力>
モールドピンを水溶性組成物から取り出した後、常温下に置いたとき(t=0)、コーティングされた水溶性組成物が流れ始めた時間(t=t)を測定し、下記のように4等級で評価した。
◎:水溶性組成物が60秒間流動しなかったとき
○:水溶性組成物が30〜60秒の間に流動したとき
△:水溶性組成物が20〜30秒の間に流動したとき
×:水溶性組成物が20秒以内に流動したとき
<弾性>
乾燥したカプセル10個を手で強く5回押したときに割れたカプセル個数を測定し、下記のように4等級で評価した。
◎:0〜2個
○:3〜5個
△:5〜7個
×:7個以上
【0056】
前記表2を参照すれば、実施例1〜16で製造されたカプセルは、いずれも胃液条件では、少なくとも2時間崩解していないが、小腸液条件では、5分以内に崩解され、腸溶性機能を有するということが明らかになった。また、前記各実施例で製造されたカプセルの性状も、いずれも良好であることが判明した。
【0057】
〔比較例1〜2及び参考例1〕
下記表3に示した組成を有する水溶性組成物を以下の方法に従って製造し、下記表4に示した条件で腸溶性カプセルを製造した。その後、製造されたカプセルを、胃液と類似したpH1.2の試験液に最長2時間まで浸漬して崩解するか否かを観察し、次に、小腸液と類似したpH6.8の試験液に浸漬して崩解時間を測定した。
【0058】
前記試験結果を下記表4に示した。
【0059】
(水性組成物の製造)
下記表3に列挙された成分を水に混合し、水性組成物を製造し、または製造を試みた。
【0060】
(腸溶性カプセルの製造)
前記で製造したそれぞれの水性組成物の温度を60℃に調節した。その後、25℃に冷却したモールドピン(TECHNOPHAR社製、ピン、#0)を前記水性組成物に浸漬し、前記モールドピンに前記水性組成物をコーティングした。その後、このコーティングされた水溶性組成物をゲル化させた。次に、前記水性組成物がコーティングされたモールドピンを20〜40℃で30〜60分間乾燥させた。
【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
表4を参照すれば、カプセル成形補助剤の代わりに、ゲル化剤を使用した比較例1(特開2006−16372号公報(Qualicaps社))で製造したカプセルは、胃液条件では2時間で崩解され、小腸液条件では25分で崩解されて腸溶性機能に欠けるものであると認められた。また、中和剤を全く使用していない比較例2では、水性組成物の製造自体が不可能であると分かった。比較例2は、腸溶性基剤を溶解させずに溶融させ、インジェクション・モールディング法でカプセルを製造する米国特許第4,655,840号明細書(Warner-Lambert社)に開示の方法によるものである。
また、腸溶性基剤、カプセル成形補助剤及び中和剤をいずれも使用して水性組成物を製造した後、熱ゲル化法の代わりに冷却ゲル化法を使用してカプセル製造を試みた参考例1では、成形時にゲル化力を十分に発揮させられず、カプセル成形が不可能であると認められた。
【0064】
以上、実施例を参照しつつ本発明による望ましい実施例について説明したが、それらは例示的なものに過ぎず、当技術分野で当業者であるならば、それらから多様な変形及び均等な他実施例が可能であるという点を理解することができるであろう。従って、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲によって決まるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸溶性基剤、カプセル成形補助剤及び中和剤を含む腸溶性硬質カプセル用水性組成物。
【請求項2】
前記腸溶性基剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)及びヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の腸溶性硬質カプセル用水性組成物。
【請求項3】
前記カプセル成形補助剤はセルロースエーテルを含むことを特徴とする請求項1に記載の腸溶性硬質カプセル用水性組成物。
【請求項4】
前記セルロースエーテルは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)及びメチルセルロース(MC)からなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする請求項3に記載の腸溶性硬質カプセル用水性組成物。
【請求項5】
前記中和剤は塩基性であることを特徴とする請求項1に記載の腸溶性硬質カプセル用水性組成物。
【請求項6】
前記腸溶性基剤の含有量は、前記水性組成物の総重量を基準に8〜25%であることを特徴とする請求項1に記載の腸溶性硬質カプセル用水性組成物。
【請求項7】
前記カプセル成形補助剤の含有量は、前記水性組成物の総重量を基準に1〜12%であることを特徴とする請求項1に記載の腸溶性硬質カプセル用水性組成物。
【請求項8】
前記中和剤の含有量は、前記水性組成物の総重量を基準に1〜5%であることを特徴とする請求項1に記載の腸溶性硬質カプセル用水性組成物。
【請求項9】
前記水性組成物の総重量を基準に、1.0%以下の乳化剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の腸溶性硬質カプセル用水性組成物。
【請求項10】
前記水性組成物の総重量を基準に、4.0%以下の可塑剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の腸溶性硬質カプセル用水性組成物。
【請求項11】
腸溶性基剤、カプセル成形補助剤及び中和剤を水に溶解させた後、常温で熟成させて水性組成物を製造する段階と、
前記水性組成物を前記水性組成物のゲル化温度より低い第1温度まで予熱させる段階と、
前記ゲル化温度より高い第2温度に加熱したモールドピンを、前記水性組成物内に浸漬する段階と、
前記モールドピンを前記水性組成物から回収し、前記モールドピン上に形成された膜を得る段階と、
前記膜を前記モールドピン上に固着させるため、前記ゲル化温度以上の温度である第3温度で第1時間維持し、第4温度で第2時間乾燥させてカプセル・シェルを得る段階と、を含む腸溶性硬質カプセルの製造方法。
【請求項12】
前記第1温度は前記ゲル化温度より4〜12.0℃低いことを特徴とする請求項11に記載の腸溶性硬質カプセルの製造方法。
【請求項13】
前記第2温度は前記ゲル化温度より10〜31℃高いことを特徴とする請求項11に記載の腸溶性硬質カプセルの製造方法。
【請求項14】
前記第3温度は60〜80℃であり、前記第1時間は1〜15分であることを特徴とする請求項11に記載の腸溶性硬質カプセルの製造方法。
【請求項15】
前記第4温度は20〜40℃であり、前記第2時間は30〜60分であることを特徴とする請求項11に記載の腸溶性硬質カプセルの製造方法。
【請求項16】
請求項11ないし請求項15の何れか1項に記載の腸溶性硬質カプセルの製造方法によって製造された腸溶性硬質カプセル。

【公表番号】特表2013−504565(P2013−504565A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528723(P2012−528723)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【国際出願番号】PCT/KR2009/005870
【国際公開番号】WO2011/030952
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(500323513)三星精密化学株式会社 (22)
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG FINE CHEMICALS CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】190 YEOCHEON−DONG, NAM−GU, ULSAN−CITY 680−090, REPUBLIC OF KOREA
【Fターム(参考)】