説明

腹圧性尿失禁の矯正

恥骨尾骨筋の上に支持される水平の近位部分と、遠位部分とを備えた腹圧性失禁を治療する器具であって、遠位部分は、恥骨尾骨筋の前方区域の間を下方に通過する際に、直立した女性の膣に近似した角度で近位部分から下方へ離れる方向に延伸する。遠位部分は、尿道中央部を支持するように位置決めされた突起で終端し、よって尿道膀胱角を維持できる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願への引用
本願は、2009年5月28日付けで提出された米国特許仮出願第61/217,199号の利益を主張し、その米国仮出願は参照して本明細書に援用する。
【0002】
腹圧性尿失禁は女性によくある問題だが、手術によらない治療戦略はほとんどなく、女性がこの問題を経験する最初の数年間には注意がほとんど向けられていない。「外科医: エジンバラ及びアイルランドの王立外科医学会会報、2008年12月; 6(6):
366-72(The Surgeon: Journal of the Royal Colleges of Surgeons of Edinburgh and
Ireland, 2008 Dec; 6(6): 366-72)」において、Long等は、「尿失禁は、成人女性人口の最大で3分の1にとっては社会的な負担である」と述べている。
1995年に、ノルウェー公衆衛生及び一次医療局のSandvikは、13の研究を検討して、若い女性の失禁有症率は20乃至30%で、中年女性ではこの有症率が30乃至40%であり、ほぼ半数は主として腹圧性失禁を患い、3分の1は混合性尿失禁を患っていたと結論づけた。Nygaard、Thompson、Svengalis、及びAlbrightによる研究(1994)は、平均年齢が19.9歳である未経産の大学生である正選手運動競技者156人の28%が、スポーツ中に尿漏れを経験していたことを示した。女性運動競技者のうち17%が、この問題を最初に経験したのは中学時代であったことを報告しており、40%は高校時代にこの問題を最初に経験したと報告している。104人の女性リンピック出場選手(16.7%が未経産)
を対象とした遡及研究(Nygaard, 1997)では、これら競技者のうち35.8%が失禁を経験したことが報告されている。
【0003】
膣ペッサリーは数十年にわたって使用されてきたが、これらは尿失禁よりは骨盤臓器脱の治療に有効であった。こうしたペッサリーは、女性が直立位であるときに膣上部及び膣下部の間に形成される角部分には対応しないし、膣内でのペッサリーの適切な配置を示す図は、ほとんどすべての場合、直線的な膣に挿入されている状態を示している。一般に、失禁は女性が直立姿勢を取っているときに起こるので、ペッサリーの有効性は、この姿勢のときに適切に支持を与えるペッサリーの機能に依存する。既存のペッサリーの形状及び剛性のため、膣内に配置されると、これらペッサリーは、膣を強制的に直線形状にし、尿道よりも膀胱を支持するか、或いは尿道及び膀胱の両方を支持して後部尿道膀胱角をなくしてしまう(図10)。
【0004】
Drogendijk等の米国特許第4,823,814号は、女性の内性器の脱出及び尿失禁両方を治療するためのペッサリーを開示している。このペッサリーは、楕円形状であり楕円の長軸に沿って湾曲している。このペッサリーの縁に沿った弾性細片(elastic
strip)が拡張して尿道を閉じ、かつ尿の流動を禁止できる。
【0005】
骨盤底強化訓練が、医者と患者との間で話題となることがあるが、体系的に行われることはまずない。この問題が特に厄介になるまでは、典型的には、女性は吸水性パッドを使用し、かつ失禁の原因となりそうな行動を控えることによって、この問題に対処している。膣ペッサリーは、これまで失禁よりも骨盤臓器脱に対して好結果を出しており、主として高齢者に使用され、かつ資格を有する保険専門家により処方されたときのみ利用できるという欠点がある。多くの活動的な女性であれば、手術を考慮するほどこの問題が重症になるまでは、月経の不便さをタンポンで対処するように自分で処理することを望むはずである。要求に応じて使用できる使い捨て製品であれば関心を引き起こすはずであり、多くの女性が現在避けている身体的活動を継続できるようにもなろう。
【0006】
米国特許第6,808,485号は、尿失禁を軽減するための圧縮可能な弾性を有した生体適合材料製の螺旋状器具を開示している。この器具は、ユーザにより挿入かつ除去可能である。米国特許第4,823,814号および第6,808,485号は、参照して本明細書に全体を援用する。
【発明の概要】
【0007】
本明細書では腹圧性尿失禁を矯正する器具を開示する。この器具は、恥骨尾骨筋の上に支持される水平の近位部分と遠位部分とを備え、遠位部分は、恥骨尾骨筋の前方区域の間を下方に通過する際に、直立した女性の膣に近似した角度で近位部分から下方へ離れる方向に延伸する。遠位部分は、尿道中央部を支持するように位置決めされた突起で終端し、従って尿道膀胱角を維持できる。
【0008】
本器具は膣の形状に一致し、突起(「瘤」)は尿道中央部の後方に位置決めされると共に尿道の過剰運動性を制限するのに十分な圧力を掛け、よって、意図的な排尿時における閉塞を回避しつつ腹圧性尿失禁を防止する。さらに、上部尿道及び膀胱ではなく尿道中央部のみを支持することで、瘤の上方にある構造体が下降可能となり、尿道に屈折点を形成しさらなる意図しない排尿を防止する。この器具のフレームの角度付けした骨格によって、腹腔の下降圧力は、この器具の水平上部分を後方骨盤底筋に押しつけて保持する助けとなり、放出の可能性を減少させる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】従来技術からの女性骨盤の解剖学的図である。
【図2】尿失禁を抑制するために挿入された従来技術のペッサリーリングを示す。 (A)及び(B) 尿失禁を制御するために挿入された従来技術のペッサリーリングを示す。
【図3】直立位の生体女性骨盤のより正確な解剖学的図である。
【図4】尿失禁を抑制するためのペッサリーリングの上面図である。
【図5】図4のペッサリーリングの側面図である。
【図6】尿失禁を抑制するため挿入された図4のペッサリーリングを示す。
【図7】尿失禁を抑制するためのペッサリーリングの別の実施形態の上面図である。 (A) 代替的な実施形態を示す。
【図8】尿失禁を抑制するためのペッサリーリングの側面図であり、瘤の代替的形状を示す。
【図9】尿失禁を抑制するためのペッサリーリングの上面図であり、取り出しを補助するためのループが含まれていることを示す。 (A) 代替的な実施形態を示す。
【図10】従来技術のペッサリーが尿道膀胱角を消滅させる様子を概略的に示す。
【図11】本器具が尿道膀胱角を維持し、尿道の支持を尿道中央部に向ける様子を概略的に示す。
【図12】腹圧性尿失禁の治療器具の代替的な実施形態を示す。
【図13】腹圧性尿失禁の治療器具の代替的な実施形態を示す。
【図14】腹圧性尿失禁の治療器具の代替的な実施形態を示す。
【図15】腹圧性尿失禁の治療器具の代替的な実施形態を示す。
【図16】さらに別の例示的な実施形態を示す。
【図17】腹圧性尿失禁の治療器具のさらなる実施形態を示す。
【図18】腹圧性尿失禁の治療器具のさらなる実施形態を示す。
【図19】腹圧性尿失禁の治療器具のさらなる実施形態を示す。
【図20】尿道支持突起の実施形態を示す。
【図21】尿道支持突起の実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に示したように、女性骨盤の従来技術の解剖学的図は、矢状面で見た場合、膣10を直線又はほぼ直線状に描いたものがほとんどであった。これらの図は死体解剖に基づくものであり、通常の生きた直立成人女性の正確な解剖学的構造を反映したものではない。図2に示した環状膣ペッサリー12は失禁瘤14を備え、数十年にわたって使用されてきたが、こうしたペッサリーは、尿失禁より骨盤臓器脱の治療に好結果を残してきた。こうした環状膣ペッサリー12は、膣上部16及び膣下部18の間の角部分には対応しないし、膣10内でのペッサリーの適切な配置を示す図は、ほとんどすべてが直線状の膣内に配置されている状態を示している。ペッサリーの形状及び剛性によって、膣10内に配置されると、これらペッサリーは膣を強制的に直線状にし、かつ尿道22よりも膀胱20を支持するか、或いは尿道及び膀胱の両方を支持して後部尿道膀胱角をなくしてしまう(図10)。
【0011】
近年において、女性の骨盤の解剖学的構造及び失禁の仕組みに関する理解に変化があった。これまで女性骨盤の解剖学的図は、矢状面で見た場合、膣を直線又はほぼ直線状に描いたものがほとんどであった。これらの図は死体解剖に基づくものであり、通常の生きた直立成人女性の正確な解剖学的構造を反映したものではない。女性の骨盤の解剖学的構造のより正確な描写は図3に示すが(Nichols D
& Randall C. (1989) Vaginal Surgery(膣手術), (p.23) Baltimore, MD.
Williams & Wilkinsの図1.17より引用)、これは、膣下部18(尿道22の後方)と膣上部16との間の角度が概ね135度であることを示し、従って、膣上部は、当該膣上部が骨盤底26の挙筋24によって支持されている概ね水平の面上に位置している。この解剖学的構造は、健康な成人女性のMRI画像によって確認されている(Fielding JR,
et al., "MR Imaging of the Female Pelvic Floor in the Supine and Upright
Positions.(背臥位及び直立位における女性の骨盤底のMRI画像)" JMRI
1996(6): 961-3; Harvey M & Versi E. 2003. "MRI Studies in the
Evaluation of Pelvic Floor Disorders.(骨盤底疾患の評価におけるMRI研究)" In
Drutz HP, Herschon S & Diamant NE (Eds.), Female Pelvic Medicine and
Reconstructive Pelvic Surgery (女性の骨盤医学及び骨盤再建手術)(pp.145-157) London:
Springer)。膣の最初の部分は約45度の角度で立ち上がり、恥骨尾骨筋の間を通っている。これら筋肉は、直腸の後方で正中線において結合しかつ一体化している。膣上部は、この一体化した筋肉により水平位置に支持され、直腸が、この筋肉の上面と膣の下面との間を通過している。
【0012】
ほとんどのペッサリーは比較的平坦かつ円形状であり、膣内部の所定位置に配置されると、その側部が恥骨尾骨筋の分離した前方区域により支持される一方、ペッサリーの上端部は、膣上部と同様に一体化部分の上に位置する。頸部が存在すれば、ペッサリーの上部分は典型的には頸部後方の後腟円蓋に配置される。この位置から、ペッサリーは膀胱及び子宮を支持可能だが、尿道は支持できない。これは、後に詳述するように、従来のペッサリーが、尿失禁をしばしば防止できないことの一因となっている。
【0013】
尿自制は、安静時及び身体活動時に嚢内(膀胱)の圧力を上回る尿道内圧によって維持される。尿自制の「ハンモック仮説」(Delancey JO,
"Structural support of the urethra as it relates to stress urinary
incontinence: the hammock hypothesis.(腹圧性尿失禁に関わる尿道の構造的支持:ハンモック仮説)" Am J
Obstet Gynecol. 1994 Jun;170(6): 1713-20)によれば、咳をすると、尿道が、尿道と膀胱頸部の下に位置したハンモック様支持層の堅い支持部(firm
backstop)に対して圧縮されるので咳の最中に尿道閉鎖圧が上昇する。この「ハンモック」を含む組織への損傷によって、くしゃみ、咳、笑い、及び身体活動などの上方からの物理的な力に応答して、尿道の過剰な動きが可能となる。この尿道の過剰運動性によって、膀胱内部の圧力が一時的に尿道内圧を上回り、不随意性の尿漏れに至る。
【0014】
自制に関わる別の要因は、尿道が膀胱に進入する部位で形成される後部尿道膀胱角である。通常の角度は図3に明確に示されている。尿道22は膣下部18と同じ方向で体内に侵入し、さらに、膣が水平位置に配向されるので、膀胱20の後方部分はその上に位置して、この後部尿道膀胱角を形成する。
【0015】
現時点で使用可能な支持器具(すなわちペッサリー)は、膣が直線状であるという前提に基づいて設計されている。従って、これらは直立位における正確な解剖学的構造に対応していない。ほとんどの失禁は女性が直立状態にあるときに起こるので、これは、この器具による尿失禁の適切な矯正の失敗を頻繁にもたらす一因となる重大な欠陥である。失禁の矯正を意図したペッサリーは、一般に、尿道又は膀胱頸部を圧縮することを意図した瘤を備えている。これは図2、2A、及び2Bで例証されており、従来技術ペッサリーの位置を示している。詳細に検討してみると、それぞれの図で膣が直線的に図示されていることが分かる。しかし、ペッサリーは水平の恥骨尾骨筋の上に位置しているので、支持瘤は、尿道又は膀胱頸部を支持するための意図した位置ではなく、膀胱の後方部分に当接して位置していることが多い。ペッサリーが失禁を成功裏に矯正する場合では、ペッサリーが尿道閉鎖圧を増大させ、尿道の移動性を減少させることが示されている。また、この圧力増大及び移動性の減少は尿自制に関わるハンモック仮説と一致している。こうした状況において、ペッサリーの瘤は、最初は間違いなく膀胱頸部に位置決めされているが、そうではなくなることがあり、ペッサリーが所定の位置に維持されない要因が幾つか存在する。ペッサリーの上縁部は、通常、頸部の後ろで滑り上がり、この位置にとどまってしまう。ペッサリーの長さが十分でなければ、瘤は膀胱頸部に届かずに尿道膀胱接合部の直ぐ上にある膀胱三角の下に位置することになる。この位置では、ペッサリーは、後部尿道膀胱角を消失させてしまい、失禁の問題を悪化させてしまう。ペッサリーは典型的には円形なので、その長さは、個別の女性の膣が収容できる幅によって制限される。これにより瘤が適切に位置決めされなくなる。又、ペッサリーは単一平面内に位置し、事実上は二次元的なので、容易に回転して支持の部が中心からずれてしまい、膀胱頸部に到達する十分な長さがあっても膀胱頸部を支持できないことがある。これは、便がペッサリーの直ぐ後方で直腸を通過するとき、特に便秘症の女性において時々発生する(直腸と膣は恥骨尾骨筋の上で最も近接する)。
【0016】
本明細書に記載した器具は、幾つかの様態で従来のペッサリーとは異なる。この器具の近位部分は、従来のペッサリーと同様に、恥骨尾骨筋の上に位置して支持される。しかし、近位部分から離れる方向で下方に水平から下に約45度(すなわち、水平部分から約135度の角度で)延伸する遠位部分があり、この遠位部分には尿道を支持する突起が設けられている。(「近位」及び「遠位」という用語は、ユーザの体に対するこの器具の位置に基づいて割り当てられている。従って、器具の「近位」部分はユーザの体幹に近い方であり、「遠位」部分はそれより外側に位置する。)この角度は約100度から約160度、約100度から約150度、約105度から約150度、約120
度から約145度、約115度から約145度、約125度から約145度、約 130度から約140度、約135度、及び/又は正確に135度の範囲でよい。この延伸部分は膣の自然の配向をたどり、膀胱頸部又はそれより高い地点でなく、尿道中央部の下に支持を配置する。膀胱の後方部分又は膀胱頸部からの尿道中央部への支持の移動は、以前は膀胱頸部の支持のために行われていたが、現在は尿道中央部の高さで行われているスリング手術の進歩によく似ている。これはハンモック仮説に一致し、かつ、後部尿道膀胱角の消失を防止する(図11)。
【0017】
尿道の下方の支持要素を移動させることに加え、平坦な器具でなくより立体的な器具を製作すると、この器具と膣との間でより自然に適合し、この器具の位置を安定化する。膣の自然な角度に一致した角度が器具に存在することで、この器具が膣上部に向かって摺動して支持瘤が定位置からずれてしまうことを禁止する。又、延伸部分は恥骨尾骨筋の間を下方に突出するので、この筋肉が支持瘤の回転変位を防ぐ。この器具の上部分は、膣の上部まで完全に延伸する必要はなく、これは、従来のペッサリーを使用すると時として見られるような、後腟円蓋における膣の粘膜の刺激又はびらんを防止するはずである。事実、上部付近で器具の右側と左側との間に結合部が存在する必要はなく、それらを結合しないことに利点があることがある。1つの利点は、便が、ペッサリーを所望の位置から移動させてしまう地点を無くすことである。第2の利点は、独立したアームがタンポン様挿入器内で互いと一部重なることができるので、この器具を挿入器に容易に予め組み込み可能となりうる点である。独立した支持アームとすれば、アームは、恥骨尾骨筋に沿ってさらに前方に延伸できる(すなわち、水平面内で遠位方向に延伸する)。アームは尿道の各側に沿って通過し、恥骨結合の後方部分におけるそれらの挿入点付近で、恥骨尾骨筋のより安定した部分を利用することによって、この器具をより安定化させる。また、アームは、上部尿道を付加的に支持する。
【0018】
従来のペッサリーの別の欠点は、過剰に嵩張る傾向があるため挿入するのが困難なことである。従来のペッサリーは、尿失禁に加え骨盤臓器脱を治療するよう設計されているので、嵩張りかつ堅い。尿道の過剰運動を防止するには比較的小さい力しかないため、専用の失禁器具に関しては、適切な支持位置の方が強度や剛性より重要である。これによって、本器具は、より細長い部材製とすることができ、従って、現在のペッサリーに比べてより魅力があり、恐怖心を抱かせない。
【0019】
腹圧性尿失禁は尿道の過剰運動性が原因で発生するが、膀胱20の過剰保持による後部尿道膀胱角を無くす外科的支持手法は、手術前に存在しない場合でも失禁を誘発してしまうことがあることが分かっている。腹圧性尿失禁の矯正の鍵は、後部尿道膀胱角を無くすことなく尿道の運動性を制限することである。事実、尿道中央部30を支持しつつ膀胱20又は上部尿道28を後方に下降させ、従って「屈折効果」をもたらすことで、腹圧性尿失禁の矯正のために行われる尿道中央部スリング手術の成功に大きな役割を果たしうる。
【0020】
図4の上面図及び図5の側面図に示した器具32の一実施形態は、後部尿道膀胱角を無くすことなく尿道の運動性を制限することで女性の腹圧性尿失禁を防止する。器具32は、女性骨盤の解剖学的構造及び機能により正確に一致させることで既存の設計の不適切性を克服する。器具32は、タンポンのように使用される使い捨て器具として消費者市場に投入するのに適している。
【0021】
図示した器具32は、長軸36と当該長軸に直交する短軸38とを備えた骨格34を備えている。図6を参照すると、骨格34は、屈曲点40で角度付けされて横方向で見たときに通常の膣10の形状に一致し、瘤42は、器具の骨格フレーム34によって尿道中央部の後方で適切な位置に保持されている。骨格34に幾らかの剛性は必要である。瘤42が膀胱20に向かって上に移動しないようにするには、器具の長さ方向の剛性が最も重要である。
【0022】
図4及び5を再度参照すると、屈曲点40の角度(α)118度を示したが、使用時には、この角度が器具32の使用時には幾らか変動するように、骨格34のある程度の柔軟性は有益であることは臨床試験で示すことができる。100度乃至160度の角度が許容範囲であると考えられている。これ以外の可能な角度範囲は他の箇所に記載してある。骨格32の幅方向の柔軟性は、挿入を容易にするための圧縮と膣内での保持を向上するためのその後の拡張とを促進させうる。骨格32の中央部分に設けられたスペース44と骨格の角形成とが相まって膀胱の後方への下降を許容し、後部尿道膀胱角を維持し、かつ上述の「屈折効果」をもたらしうる。月経時の失禁器具/吸収性タンポンの組合せ使い捨て器具として使用するために、随意選択で、吸収材料46を付加することでこのスペース44の一部を無くしてもよい。
【0023】
又、治験を実行すれば、現在市販されているペッサリーのように瘤42に剛性を付与するのが好ましいか、快適性及び意図的な排尿を容易にするためいくらか圧縮可能とするのが好ましいかが判断されるはずである。今まで行われてきた失禁治験では、尿道を支持するために膣でポリ酢酸ビニルスポンジ材料を用いると好結果が得られ、タンポン組成物で使用されているような綿/レーヨンの組合せが望ましいことが示されている。
【0024】
直立位における健康な女性の骨盤のダイナミックMRI映像法では、バルサルバ試験時に尿道を支持する骨盤筋系が収縮し、自制に貢献することが示されている。腹圧性尿失禁の初期段階にある多くの女性では、主たる異常は、骨盤底筋を無傷に保ちつつ尿道と尿道恥骨懸垂組織(urethropubic
suspensory tissue)とを骨盤内筋膜によって支持する上での不具合である。骨盤底筋の収縮は活動時に不随意に発生し、器具32の瘤42を前方かつ上方に移動する助けとなり、尿道の移動性をより好適に制限する。これによって、ある程度圧縮可能な材料製の瘤42が十分に機能することができ、意図的な排尿時には尿道の閉塞を回避するという利点がある。又、既存のペッサリーは、その堅い形状が膣を通常に比べより垂直位置へ直線化するため、活動及びバルサルバ操作時における腹腔から骨盤への下方向の力によってこうしたペッサリーが放出されることがある。この器具の角度付けした骨格により、こうした圧力は、この器具の水平上部分48を後方骨盤底筋に押しつけて保持する助けとなり、放出の可能性を減少させる。さらに、前方における骨盤底の持ち上げ力と、後方における腹腔からの押し下げ力との組合せが梃子効果をもたらし、尿道中央部に対する瘤の支持を増大させることができる。
【0025】
図7を参照すると、治験を実行すれば、器具32の圧縮性瘤42‘は異なる材料製とする必要がなく、さらに、角度だけで機能性を発揮するのに十分であれば、この器具を一体成形品とすればよいことを実証する可能性がある。2つの材料を含む上述の実施形態(図4及び5)は、当初は器具の角度付き骨格を備えない圧縮性材料をテストすることから得られたものである。圧縮性材料はうまく機能したが、これは最終的には不要かもしれない。
【0026】
図7Aは、その近位端から遠位端まで連続的に狭くなり、屈曲点において顕著に狭くなっている代替的な実施形態を示す。このリングは屈曲点において厚くなっており、その地点ではより近位及び遠位領域に比べて剛性が増大している。
【0027】
図8を参照すると、瘤42は、尿道の過剰運動性を制限し、屈折効果をもたらすのに十分な圧力を尿道中央部に加える効果がある任意形状とすればよい。接触面50がより角張り、かつ丸みが減少するように瘤42を成形すればこの目的が達成される。
【0028】
図9を参照すると、好適には、器具32の除去を補助するため瘤42に隣接して位置した引き抜き補助器52が設けられている。この引き抜き補助器は、タンポンに設けられるもののような紐などの単純なものでよい。或いは、図示したように、骨格34の一体化部材として形成してもよい。引き抜き補助器52は、瘤42を超えて延伸し、かつ器具32の除去のために指で引っかけるように寸法決めされたリングでよい。図9Aは、図7Aのものと似た代替的な実施形態を示す。他の実施形態では、引き出し補助器を器具のアームに取り付けてもよく、これらは、除去のために器具の圧縮を容易とするように配置すればよい。
【0029】
図12乃至15は、腹圧性尿失禁矯正器具の別の例示的な実施形態を示す。図12は、上左方向からの透視図である。図13は、器具の近位部分が恥骨尾骨筋を表す厚紙上に置かれ、遠位部分が恥骨尾骨筋の前方区域の間を下方に通過することを示す前方からの図である。図14は、図13と同じ構成の側面図である。図15は、解剖学的模型内に配置した器具であり、ここでも近位部分が恥骨尾骨筋の前方区域の上に置かれ、遠位部分が前方区域の間を下方に通過することを示している。上述の実施形態と異なり、この器具は、近位リングを形成しない2つの独立した隣接アームを含む。その代わり、各隣接アームは、近位部分62と、内側に向いた屈曲点66においてその近位部分と連続した遠位部分64であって、尿道支持突起42において終端する遠位部分64とを含む。図8及び9の実施形態と同様に、屈曲点において、この器具のアームは両方とも同一領域で内側に曲がると共に下方に角度が付けられているが、これは、膣が前方で恥骨尾骨筋の前方区域(anterior
segments)の間の空間を下方に通過しているので、女性の解剖学的構造を模倣している。近位アームは、ループ68のような付加的材料を含んでもよい。この付加的材料は、筋肉支持のための付加的な接触面をもたらす。これは、器具の近位部分における質量を増大して、重心を筋肉面の上の位置に移動する助けとなり、使用時に器具を安定化する助けとなりうる。これら近位アームは、恥骨尾骨筋に接触する支持面を増やす遠位延伸部分70を備えてもよい。
【0030】
これらアームは、様々な方向に異なる量の柔軟性を備えるように設計された断面を備えてもよい。例えば、後述するように、比較的大きな又は小さな解剖学的構造を備えた女性が単一サイズの器具を容易に使用可能とするため、横方向に相当な量の柔軟性及び弾力性を備えることが望ましいことがある。又、横方向に柔軟性及び弾力は、器具の筋系に対する安定化する助けとなりうる。しかし、同時に、器具が移動せず、尿道支持突起が好適な配向から逸れてしまわないことを保証するため、垂直方向における相対的な剛性が好ましいことがある。垂直方向に比べて横方向に比較的大きな柔軟性を備えるように、これらアームの断面は、高さが幅より大きくなるように形成してもよい。適切な形状は、I形梁、長方形、卵形、楕円などを含み、これら何れの形状も長い方の寸法が垂直方向に延伸するように配向される。
【0031】
図16は、内方及び下方に曲がった屈曲を備えた器具の別の実施形態を示す。
【0032】
図17乃至19は、支持突起から離れるに従って広がる柔軟な近接アームを備えた別の実施形態を示す。比較的大型の器具を必要とする女性では、アームはその最大限度まで開く。比較的小さなサイズを必要とする女性では、アーム上部の幅は恥骨尾骨筋により拘束されると共に、アームの下部分が恥骨尾骨筋の間を通過する。膣内での器具の幅全体を恥骨尾骨筋により定めさせるこの機能によって、様々な女性が、単一サイズの器具を試着することなく使用できる。図17は、滑らかな湾曲部を備えた器具を示し、図18は、器具の位置を確保する助けとなる恥骨尾骨筋に対する「くぼみ」を備えた器具を示す。図19は、これら実施形態の側面図を示す。
【0033】
アームが薄く柔軟である場合は、重心は、支持突起の質量によって下方に移動する。従って、突起それ自体は空洞としてもよく(図20)、かつ/又は下位壁を除去して(図21)重心を筋肉平面の上方に移動することができる。上述したように、材料を近位アームの近位端に付加してもよい。図17及び18は、材料がアームの内側に付加された状態を示すが、この材料は付加的に又は代替的にアームの外側に付加してもよい。
【0034】
付加的特徴は次を含むことができる。
【0035】
1. 本器具は一体構造であり、すなわち継ぎ目のない単一部品から形成されている。幾つかの実施形態によれば、本器具は、互いに固定された同一又は異なる材料製の複数部材によって形成することもできる。
【0036】
2. 遠位部分は、長さ全体の概ね40%を占める。
【0037】
3. 本器具は「叉骨形状」として、遠位部分がより急勾配で湾曲し(開示した下方向角度で)、立ち上がり部又は瘤若しくは突起を叉骨の中心点に位置させてもよい。
【0038】
4. 近位部分は、遠位部分と同じ剛性又は遠位部分より大きな剛性を備えていてもよい。
【0039】
5. 本器具は、全体を同一材料で製造してもよいし、或いは、異なる部材を異なる材料製としてもよい。これら異なる材料は異なる柔軟性を備えていてもよい。代替的には、異なる断面形状を付与すれば、同一材料から製作された部材が異なる量の柔軟性を備えることもできる。実施形態によっては、近位部分の柔軟性は、遠位部分の柔軟性より大きくしてもよい。
【0040】
6. 本器具は、ポリメタクリル酸メチル及びその共重合体、ナイロン樹脂(ナイロン11又はナイロン12)及びその共重合体、シリコン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂又はその他の種類のポリエチレン樹脂、並びに類似の高分子材料などの多様な生体許容性樹脂を用いて製造できる。これら樹脂の混合物も使用できる。尿道支持突起は、本器具のその他部分と同一材料製としても異なる材料製としてもよい。幾つかの実施形態では、ポリビニルアルコールスポンジ又はそれに類似した容易に変形可能な重合体製としてもよい。
【0041】
7. 又、本器具は、不浸透性の樹脂コーティングを施した柔軟性及び/又は弾性金属製の芯で作製できる。金属製の芯は、縦方向の柔軟性より横方向の柔軟性を大きくするため、(例えばリボンのように)幅より高さを大きくしてもよい。
【0042】
8. X線撮影による位置特定を容易にするため、X線遮蔽剤(radio
opacifying agent)を樹脂に組み込んでもよい。
【0043】
9. 挿入及び洗浄を容易にし、かつ細菌種によるコロニー形成を減少するため、本器具は、滑らかな摩擦を軽減した表面を含んでもよい。
【0044】
例示的な実施形態を幾つかの説明してきた。しかしながら、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく多くの修正が可能なことは理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腹圧性尿失禁の治療器具であって、
水平に配向された近位部分と、
遠位部分であって、
屈曲点において前記近位部分と連続すると共に、
前記近位部分と前記遠位部分との間の測定において約100度から約160度までの範囲の角度で、前記近位部分から離れる方向で下方へ延伸し、
前記遠位部分の平面に対して横断する突起を含む遠位部分とを含み、
前記遠位部分は、前記近位部分より前記屈曲点において幅が狭く、前記器具は、立位女性の膣に配置されたときに、
前記近位部分が、前記女性の恥骨尾骨筋の分離した後方線維によって保持され、
前記遠位部分が前記女性の生殖器開口部を介して下降しており、かつ、
前記突起が前記女性の尿道を尿道中央部位置で支持するよう位置決めされるように、
その寸法及び形状が定められている、器具。
【請求項2】
前記器具は、その重心が前記屈曲点の上に位置するように釣り合いが取られている、請求項1に記載の器具。
【請求項3】
前記近位部分は、前記屈曲点から近位方向に延伸する2つの近位アームを含む、請求項1に記載の器具。
【請求項4】
前記アームの近位端が結合し、従って前記近位部分がループを形成する、請求項3に記載の器具。
【請求項5】
前記アームが、互いに結合しない近位端で終端する、請求項3に記載の器具。
【請求項6】
前記アームの前記近位端は、前記器具の重心を前記屈曲点の上にある位置に移動させるように厚くされている、請求項5に記載の器具。
【請求項7】
前記アームは、水平面内で遠位方向にさらに延伸している、請求項3に記載の器具。
【請求項8】
前記遠位部分は、前記屈曲点から離れる方向で下方に前記角度で延伸する2つの遠位アームを含み、各遠位アームは、それぞれの近位アームと連続しており連続アームを形成する、請求項3に記載の器具。
【請求項9】
前記遠位アームが、前記突起が取り付けられた遠位端で終端する、請求項8に記載の器具。
【請求項10】
前記近位アームは、前記屈曲点に対して近位の箇所よりも、前記屈曲点においてより厚みがある、請求項8に記載の器具。
【請求項11】
前記アームは高さが幅より大きい断面を備え、従って縦方向より横方向に大きな柔軟性を備える、請求項8に記載の器具。
【請求項12】
各連続アームは、前記屈曲点で内側に屈曲している、請求項8に記載の器具。
【請求項13】
前記連続アームは、前記近位アームの前記近位端における又はその付近の最も幅広の点から前記遠位アームの遠位端における又はその付近の最も狭い点まで互いに近づく、請求項8に記載の器具。
【請求項14】
前記連続アームは互いに滑らかに近づく、請求項13に記載の器具。
【請求項15】
前記連続アームは、前記屈曲点に対して近位では滑らかに互いに近づき、前記屈曲点において急激に近づき、さらに、前記屈曲点に対して遠位では滑らかに互いに近づく、請求項13に記載の器具。
【請求項16】
前記近位アームは横方向で外側に付勢されており、横方向に圧縮されると、横方向外側の反力を示す、請求項3に記載の器具。
【請求項17】
前記角度が約115度乃至約145度の範囲である、請求項1に記載の器具。
【請求項18】
前記角度が約135度である、請求項1に記載の器具。
【請求項19】
前記遠位部分は、前記近位部分より大きな剛性を備える、請求項1に記載の器具。
【請求項20】
前記器具が一体構造である、請求項1に記載の器具。

【図1】
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【図2】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図7A】
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【図8】
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【図9】
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【図9A】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2012−527985(P2012−527985A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513323(P2012−513323)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/036689
【国際公開番号】WO2010/138892
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(511286425)コンタイン コーポレーション (1)
【氏名又は名称原語表記】CONTINE CORPORATION
【住所又は居所原語表記】342 Montauk Avenue, New London, CT 06320 (US).
【Fターム(参考)】