説明

膜付ガラス板の洗浄用ロールブラシ及び洗浄方法

【課題】本発明では、ロールブラシを用いた洗浄でも機能性膜表面に傷や剥離を発生させないロールブラシ及びそれを用いた洗浄方法を提供することを課題とする。
【解決手段】表面に成膜された膜付きガラス板の少なくとも膜表面と40〜60kPaの圧力で洗浄用ロールブラシのブラシ毛を接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に成膜された膜付きガラス板の少なくとも膜表面を洗浄するための洗浄用ロールブラシ及びその洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス表面には、紫外線の吸収や反射、赤外線の吸収や反射、電波の吸収や反射、電磁波の吸収や反射、可視光の反射低減、特定波長の透過や遮蔽、着色などの機能を付与するために、スパッタ法、ゾルゲル法やCVD法などにより金属膜、金属酸化物膜、金属窒化物膜などを成膜されることがある。
【0003】
近年、省エネルギーや二酸化炭素の排出量削減の観点から、ガラスにも様々な機能を持たせる動きがある。例えば、車中、家庭やオフィスでの冷暖房効率を高めるために、自動車用ガラスや建築用の複層ガラスにおいて、ガラス板表面に金属膜を有する構成とすることにより、断熱性能をより高めるケースが増えている。
【0004】
例えば、複層ガラスの中空層に面するガラス板表面に金属膜または金属化合物膜を有する構成とすることにより、熱貫流率を低減させたり、車両用の窓ガラスにおいても、合わせガラスの中間膜に接するガラス板表面に金属膜または金属化合物膜を有する構成とすることにより、熱貫流率を低減させたり、ガラス板の表面にゾルゲル法によりSiOなどの膜を成膜することにより、反射率を低減させる場合がある。
【0005】
上記のような膜付きガラス板は後工程で該膜表面を洗浄する場合があり、例えば、特開平8−283943号公報では、イオンプレーティング法により成膜された物品表面を、潤滑性液体を滴下したスクラブ用回転ブラシでスクラブ処理し、さらにシャワーで異物を除去する方法が開示されている。
【0006】
ただし、一般的に、イオンプレーティング法は真空蒸着法やスパッタ法に比べて、蒸着物質の運動エネルギーが大きく、かつ、被覆中に基材が蒸着物質の衝突によって常に浄化されるため、蒸着物と基材の密着性が強いと言われている。このため、成膜法によらず機能性膜表面を傷や剥離を発生させることなく洗浄する洗浄方法が求められている。
【特許文献1】特開平8−283943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガラス板表面に機能性膜を成膜した後に、該ガラス板を洗浄する場合、膜種や成膜法によっては従来のロールブラシによる洗浄で前記膜表面に傷が付きやすい、または、前記膜が部分的に剥離しやすいという問題があった。そこで本発明では、ロールブラシを用いた洗浄でも前記膜表面に傷や剥離を発生させないロールブラシ及びそれを用いた洗浄方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、表面に成膜された膜付きガラス板の洗浄時に少なくとも膜表面と40〜60kPaの圧力でブラシ毛を接触することを特徴とする膜付きガラス板の洗浄用ロールブラシである。
【0009】
本発明のロールブラシは、筒状のロールの円筒外周部にブラシ毛を固定したものであり、ブラシ毛がそれぞれ固定されたものであっても良いし、ブラシ毛を束ねた帯状体が前記ロールに固定されたものであっても良い。
【0010】
本発明のロールブラシのブラシ毛と膜付きガラス板の膜表面とが接触する際の圧力が40kPa未満では、膜表面を十分に洗浄することが出来ない傾向がある。一方、圧力が60kPaを超える場合では、膜表面に傷や剥離が発生する傾向がある。そのため、好ましい圧力は40〜60kPaであり、より好ましくは45〜55kPaである。
【0011】
本発明のロールブラシのブラシ毛の長さは、200mm以下であることが好ましい。該長さが200mm超の場合、膜表面と接触する際にブラシ毛がしなり、過剰な衝撃力を与えて膜表面に傷や剥離が発生する傾向がある。そのため、好ましいブラシ毛の長さは、200mm以下であり、より好ましくは50〜100mmである。
【0012】
また、前記膜表面と接触する前記ロールブラシのブラシ毛の、接触しているブラシ毛部分の長さが1〜5mmであることが好ましい。該ブラシ毛部分の長さが1〜5mmであると、膜表面に対して十分な接触面積を確保でき、十分な圧力を与えることができるとともに、膜表面に傷や剥離が発生しないため好ましい。該ブラシ毛部分の長さが1〜3mmであるとさらに好ましい。
【0013】
本発明のロールブラシのブラシ毛の直径は0.15〜0.35mmであることが好ましい。該直径が0.15mm未満の場合、膜表面と接触する際に十分な圧力を与えることが出来ないため、膜表面を十分に洗浄することが出来ない傾向がある。一方、該直径が0.35mm超の場合、膜表面と接触する際に過剰な圧力を与えて膜表面に傷や剥離が発生する傾向がある。そのため、好ましいブラシ毛の直径は0.15〜0.35mmであり、より好ましくは0.20〜0.30mmである。
【0014】
本発明のロールブラシのブラシ毛の曲げ弾性率は、1000〜2000MPaであることが好ましい。該弾性率が1000MPa未満の場合、膜表面と接触する際に十分な圧力を与えることが出来ないため、膜表面を十分に洗浄することが出来ない傾向がある。一方、該弾性率が2000MPa超の場合、膜表面と接触する際に過剰な圧力を与えて膜表面に傷や剥離が発生する傾向がある。そのため、好ましいブラシ毛の弾性率は、1000〜2000MPaであり、より好ましくは1200〜1800MPaである。なお、該弾性率は、ナイロンなどの樹脂のように乾燥時、湿潤時で弾性率が変化する場合は、湿潤時の弾性率を示す。
【0015】
本発明のロールブラシのブラシ毛の先端形状は、半径0.05〜0.10mmの丸みを帯びた形状であることが好ましい。先端形状が丸みを帯びていない場合、特に先端形状がいびつな場合、膜表面へ接触する際に過剰な圧力を与えて膜表面に傷や剥離が発生する傾向がある。そのため、好ましいブラシ毛の先端形状は半径0.05〜0.10mmの丸みを帯びた形状であり、より好ましくは、ブラシ毛の強度を維持するために、ブラシ毛の先端から5〜10mmスパンで該ブラシ毛に2〜3°のテーバー加工を施すと良い。
【0016】
本発明のロールブラシのロールの回転速度は、100〜300rpmであることが好ましい。該回転速度が100rpm未満の場合、膜表面と接触する際に十分な摩擦力を与えることが出来ないため、膜表面を十分に洗浄することが出来ない傾向がある。一方、該回転速度が300rpm超の場合、膜表面と接触する際に過剰な衝撃力を与えて膜表面に傷や剥離が発生する傾向がある。そのため、好ましいロールの回転速度は100〜300rpmであり、より好ましくは150〜200rpmである。
【0017】
また、本発明は前記ロールブラシを用いて、表面に成膜された膜付きガラス板の少なくとも膜表面を洗浄することを特徴とする膜付きガラス板の洗浄方法である。全面または部分的に成膜されたガラス板の洗浄において、前記ロールブラシを用いることで、該膜表面に傷や剥離を発生させることなく、前記膜付きガラス板を洗浄することができる。
【0018】
また、部分的に成膜されたガラス板の洗浄において、成膜部分を前記ロールブラシが、成膜されていない部分を前記ロールブラシ以外のロールブラシが洗浄することにより、膜付きガラス板の少なくとも膜表面を傷や剥離を発生させることなく洗浄することも可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のロールブラシを用いることで、機能性膜表面に傷や剥離を発生させることなく、機能性膜付きガラス板を洗浄することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の好適な洗浄方法は、膜付きガラス板の少なくとも膜表面に洗浄液を供した後で、及び/または、供しながら前記ロールブラシのブラシ毛を膜表面に40〜60kPaの圧力で接触させることにより行われるものである。
【0021】
また、前記ロールブラシのブラシ毛を膜表面に40〜60kPaの圧力で接触させた後でさらに膜付きガラス板の少なくとも膜表面に洗浄液を供してもよい。
【0022】
また、前記ロールブラシのロールの軸方向の長さは特に限定はされないが、少なくとも膜付きガラス板の短辺以上の長さを洗浄できることが好ましい。
【0023】
また、前記ロールブラシを1本以上使用して、前記膜付きガラス板の膜表面を洗浄しても良いし、前記ロールブラシを複数本使用し前記膜付きガラス板の両面を挟み込むように配置して、該膜付きガラス板の両面を洗浄しても良い。なお、前記膜付きガラス板の両面を洗浄する場合、前記洗浄液を該膜付きガラス板の両面に供することが好ましい。
【0024】
本発明の洗浄方法で膜付きガラス板を洗浄する場合、該膜付きガラス板は所定の搬送機構によって搬送されながら洗浄されることが好ましい。なお、膜付きガラス板の搬送は、該膜付きガラス板面を立てた状態で行っても良いし、傾斜させた状態で行っても良いし、水平に寝かせた状態で行っても良い。
【0025】
また、前記ロールブラシの回転方向、すなわち、前記ブラシ毛と前記膜表面との接触点における該ブラシ毛の移動方向に対し同じ方向に前記膜付きガラス板を移動しながら洗浄することが好ましい。
【0026】
前記洗浄液としては、水、アンモニア水溶液、希フッ酸水溶液、1−プロパノール、2−プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、エチレングリコール、テトラヒドロフラン及びそれらを1種以上含有する混合液、及び前記液にアルカリ、界面活性剤のいずれかを1つ以上含有する液が挙げられる。清浄度を考慮すると、洗浄液として水を用いることがより好ましい。
【0027】
本発明のロールブラシのブラシ毛の材質は、前記のとおり曲げ弾性率が1000〜2000MPaであるものであれば特に限定されないが、耐水性や耐摩耗性を考慮して、ナイロン、PVA、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリブチレンテフタレートから選ばれる一種以上からなるものであることが好ましい。
【0028】
また、前記ロールブラシのブラシ毛は前記ロールの円筒外周部表面に対して垂直に固定されていても良いし、傾斜して固定されていても良い。傾斜して固定される場合、前記ロールの回転方向に対し反対方向に傾斜させると、膜表面に傷や剥離がより発生し難くなるため好ましい。
【0029】
前記ロールブラシのブラシ毛の密度は1200〜2000本/cmであることが好ましい。前記密度であれば、膜表面に十分な圧力を与えることができるとともに、膜表面に傷や剥離が発生しないため好ましい。
【0030】
また、本発明のロールブラシで洗浄可能な膜付きガラス板としては、ガラス板表面に、例えば、Zn、Ti、Sn、Cr、Si等の酸化物膜、窒化物膜、酸窒化物膜、Ag、Al等の金属膜、NiCr、ZnAl,ZnSn等の合金膜、および前記の酸化物膜、窒化物膜、酸窒化物膜、金属膜、合金膜に異種金属を添加した合金膜などが成膜されたものが挙げられる。また、前記の膜は単層膜でも良いし、積層された多層膜でも良い。
【0031】
前記膜の成膜法としては、スパッタ法、真空蒸着法、分子線蒸着法、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法、CVD法、電解メッキ法、ゾルゲル法などが挙げられる。
【0032】
前記膜付きガラス板のガラス種としては、ソーダ石灰ガラス、アルカリ硼珪酸塩ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス、結晶化ガラス等の各種ガラスを使用することができる。また、ガラス板種としては、フロートガラス、TFT用ガラス、PDP用ガラス、光学フィルター用基材ガラス、型板ガラス、化学強化ガラス等の各種強化ガラス、網入りガラス等を使用することができる。
【実施例】
【0033】
〔洗浄後の膜表面の評価〕
洗浄後の膜表面を目視観察し、汚れが除去されているか、また、膜に傷や剥離が発生していないかを確認した。
【0034】
実施例1
(1)汚染された状態の膜付きガラス板の作製
清浄な500mm×300mmのフロートガラス板(厚さ2.1mm)の片側表面にスパッタ法で銀膜を成膜し、該銀膜表面に洗浄により除去すべき汚れ(異物)として直径10〜15μmの炭酸カルシウム微粒子を散布することにより、炭酸カルシウム微粒子で汚染された状態の銀膜付きガラス板を準備した。
【0035】
(2)ロールブラシによる洗浄
前記銀膜付きガラス板の膜面側に対し1本、非膜面側に1本のロールブラシを該膜付きガラス板の膜面に対し平行に、短辺に対し直角に配置して、該膜付きガラス板の両面を挟み込むようにして両面を洗浄した。なお、前記膜付きガラス板がロールブラシのブラシ毛に接触する前に、及び接触している最中に、及び接触した後に、洗浄液として水を該膜付きガラス板の両面に吐出して供した。また、前記ロールブラシの回転方向、すなわち、前記ブラシ毛と前記膜表面との接触点における該ブラシ毛の移動方向に対し同じ方向に前記膜付きガラス板を移動させながら洗浄した。
【0036】
洗浄に用いたロールブラシのブラシ毛はナイロンで、その曲げ弾性率は湿潤時1200MPaであり、前記ロールの円筒外周部表面に対して垂直に固定されたもので、ブラシ毛の密度は1500本/cmである。また前記ブラシ毛の長さは55mm、ブラシ毛の直径は0.28mmであり、前記ブラシ毛の先端形状は半径0.055mmの丸みを帯びた形状であり、前記ブラシ毛の先端から5mmスパンで該ブラシ毛に2°のテーバー加工を施したものである。また、前記銀膜面と接触するブラシ毛部分の長さが2mmとなるように、前記ロールブラシを配置し、該ロールブラシを回転させながら、前記銀膜表面と50kPaの圧力で前記ブラシ毛を接触させた。なお、前記ロールブラシの、ロールの回転速度は、150rpmとした。
【0037】
洗浄後の銀膜表面を目視観察したところ、汚れ(異物)が除去されており、また、膜に傷や剥離が発生していないことを確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に成膜された膜付きガラス板の洗浄時に少なくとも膜表面と40〜60kPaの圧力でブラシ毛を接触することを特徴とする膜付きガラス板の洗浄用ロールブラシ。
【請求項2】
前記ロールブラシの、ブラシ毛の長さが200mm以下、膜付きガラス板の膜表面と接触しているブラシ毛部分の長さが1〜5mm、ブラシ毛の直径が0.15〜0.35mm、ブラシ毛の曲げ弾性率が1000〜2000MPa、ブラシ毛の先端形状が半径0.05〜0.10mmの丸みを帯びた形状であり、ブラシ毛の密度が1200〜2000本/cmであることを特徴とする請求項1に記載の膜付きガラス板の洗浄用ロールブラシ。
【請求項3】
前記ロールブラシのブラシ毛が、ナイロン、PVA、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリブチレンテフタレートから選ばれる一種以上からなるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の膜付きガラス板の洗浄用ロールブラシ。
【請求項4】
表面に成膜された膜付きガラス板の少なくとも膜表面と40〜60kPaの圧力で洗浄用ロールブラシのブラシ毛を接触させることを特徴とする膜付きガラス板の洗浄方法。
【請求項5】
前記ロールブラシの、ブラシ毛の長さが200mm以下、膜付きガラス板の膜表面と接触しているブラシ毛部分の長さが1〜5mm、ブラシ毛の直径が0.15〜0.35mm、ブラシ毛の曲げ弾性率が1000〜2000MPa、ブラシ毛の先端形状が半径0.05〜0.10mmの丸みを帯びた形状であり、ブラシ毛の密度が1200〜2000本/cmであることを特徴とする請求項4に記載の膜付きガラス板の洗浄方法。
【請求項6】
前記ロールブラシのブラシ毛が、ナイロン、PVA、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリブチレンテフタレートから選ばれる一種以上からなるものであることを特徴とする請求項4または5に記載の膜付きガラス板の洗浄方法。
【請求項7】
前記ロールブラシのロールの回転速度が100〜300rpmであること特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の膜付きガラス板の洗浄方法。

【公開番号】特開2011−147879(P2011−147879A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10903(P2010−10903)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】