説明

膜形成用組成物およびこれを備えたスパークプラグ

【課題】 導電性を有するとともに、被接合物に対する密着性に優れた膜形成用組成物およびこれを備えたスパークプラグを提供する。
【解決手段】 本発明の膜形成用組成物は、ランタンを含有するペロブスカイト型酸化物を主成分とし、酸化マンガンおよび酸化珪素を含む膜形成用組成物である。ランタンを含有するペロブスカイト型酸化物を主成分とすることで、導電性を有するとともに、酸化マンガンおよび酸化珪素がガラス相を形成することで、被接合物との密着性に優れた膜形成用組成物とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜形成用組成物およびこれを用いたスパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関の点火に用いられるスパークプラグは、一般に、接地電極が取り付けられる主体金具の内側に、管状の絶縁体が配置され、その絶縁体の内側に中心電極が配置される。
【0003】
この絶縁体は主体金具の後方側開口部から軸方向に延出し、その延出した絶縁体の内側に端子金具が配置され、この端子金具は導電性ガラスシール層や抵抗体等を介して中心電極と接続される。
【0004】
そして、端子金具を介して高電圧を印加することにより、接地電極と中心電極との間に形成された放電ギャップに火花放電が発生し、内燃機関の燃焼室内の混合気が燃焼するように構成されている。
【0005】
ところで、火花放電は瞬間的な電流変化を伴うため、この電流変化によって電波雑音が発生することが知られており、この電波雑音が大きいと、スパークプラグが搭載された車両等を制御するECU(Engine Control Unit)等の電子機器に影響するだけでなく、外
界に対しても電波障害を及ぼすことがある。
【0006】
それゆえ、この電波雑音を小さくすることを目的として、例えば、特許文献1では、主体金具の内側に保持された絶縁碍子の外表面を被覆する被覆層として、ABO型ペロブスカイト型酸化物(AサイトがCa,Sr,Ba,Pb,Laのうちの少なくとも1種類であり、BサイトがZr,Ti,Ce,Alのうちの少なくとも1種類)を含有し、誘電率がアルミナより高い高誘電率部材を用いたスパークプラグが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2009/133683号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、電波雑音を小さくすることを目的として、スパークプラグを構成する絶縁体のような被接合物の外表面を被覆する被覆層には、導電性と、被接合物との密着性とが求められる。それゆえ、導電性に優れるとともに、被接合物との密着性に優れた膜形成用組成物およびこれを備えるスパークプラグが求められていた。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑み、導電性を有するとともに、被接合物に対する密着性が高い膜形成用組成物およびこれを備えたスパークプラグを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の膜形成用組成物は、ランタンを含有するペロブスカイト型酸化物を主成分とし、酸化マンガンおよび酸化珪素を含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明のスパークプラグは、中心電極と、主体金具と、前記中心電極と前記主体金具との間に配置された管状の絶縁体とを有し、該絶縁体の表面の少なくとも一部が、上
記膜形成用組成物によって被覆されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の膜形成用組成物は、ランタンを含有するペロブスカイト型酸化物を主成分とし、酸化マンガンおよび酸化珪素を含むことから、導電性を有するとともに、酸化マンガンおよび酸化ケイ素がガラス相を形成することで、被接合物との密着性に優れた膜形成用組成物とすることができる。
【0013】
また、本発明のスパークプラグは、中心電極と、主体金具と、前記中心電極と前記主体金具との間に配置された管状の絶縁体とを有し、該絶縁体の表面の少なくとも一部が、上記膜形成用組成物によって被覆されていることから、電波雑音を小さくできるほか、長期信頼性に優れたスパークプラグとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態の膜形成用組成物を被覆したスパークプラグの一例を示す、中心線より左側が正面図であり、中心線より右側が断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態の膜形成用組成物は、ランタンを含有するペロブスカイト型酸化物(以下、ランタンを含有するペロブスカイト型酸化物をランタン含有ペロブスカイト型酸化物という。)を主成分とし、酸化マンガンおよび酸化珪素を含むことが重要である。
【0016】
ランタン含有ペロブスカイト型酸化物は、電子伝導性が高いので、膜形成用組成物の導電性を高くするとともに、酸化マンガンおよび酸化珪素がガラス相を形成して、ランタン含有ペロブスカイト型酸化物の結晶粒子と、被接合体を構成する結晶粒子とを強く結び付けるので、被接合体に対する密着性が高くなる。
【0017】
ここで、ランタン含有ペロブスカイト型酸化物としては、例えば、ランタンクロマイト系,ランタンストロンチウムマンガナイト系,ランタンストロンチウム鉄コバルタイト系,ランタンストロンチウムフェライト系,ランタンストロンチウムコバルトフェライト系,ランタンニッケルフェライト系またはランタンコバルタイト系のペロブスカイト型酸化物を用いることができる。また、本実施形態における主成分とは、膜形成用組成物を構成する成分のうち、60質量%以上を占める成分をいう。
【0018】
特に上記ランタン含有ペロブスカイト型酸化物のうち、ランタンクロマイト系酸化物(以下、ランタンクロマイト系酸化物をランタンクロマイトという。)であることが好適である。ペロブスカイト型酸化物がランタンクロマイトであると、密度を十分高くすることができるので、被接合物との密着性を向上することができるとともに、電子伝導性をさらに高くすることができる。
【0019】
また、ランタン含有ペロブスカイト型酸化物がランタンクロマイトである場合には、マグネシウム、チタン,バナジウム,マンガン,鉄およびコバルトの少なくともいずれか1
種がランタンクロマイトに固溶していてもよい。
【0020】
さらに、ランタンクロマイトは、ランタンクロマイトを構成するクロムイオン(Cr3+)の一部がマグネシウムイオン(Mg2+)に置換されたランタンマグネシウムクロマイトおよびカルシウムイオン(Ca2+)に置換されたランタンカルシウムクロマイトの少なくともいずれか1種であることが好適である。このような場合には、正孔(ホール)が多く生じるので、電子はこれらの正孔を移動しやすくなり、高い電子伝導性を得ることができる。
【0021】
ランタンクロマイトは、組成式が、例えば、La(Cr1―(x+y)(Mはマグネシウムおよびカルシウムの少なくともいずれか1種であり、Nはチタン,バナジウム,マンガン,鉄およびコバルトの少なくともいずれか1種である。また、xお
よびyは、いずれも0より大きく0.3以下であって、zは0.9以上1以下である。)である。
【0022】
なお、ランタン含有ペロブスカイト型酸化物は、エネルギー分散形X線分光器を装着した透過型電子顕微鏡を用いて、その化学量論的組成および含有量を求めることができる。
【0023】
一方、本実施形態の膜形成組成物は、酸化マンガンおよび酸化珪素を含有する。例えば、本実施形態の膜形成組成物を用いて、被接合物を被覆する被膜とする場合に、酸化マンガンおよび酸化珪素がガラス相を形成することとなる。それにより、ランタン含有ペロブスカイト型酸化物の結晶粒子と、被接合物を構成する結晶粒子との間に進入して、それぞれの結晶粒子同士を強く結合することができる。それにより、被膜と被接合物との密着性を向上することができる。
【0024】
なお、酸化マンガンおよび酸化珪素は、X線回折法を用いて同定することができる。また、酸化マンガンおよび酸化珪素の各含有量は、蛍光X線分析法またはICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法によってマンガンおよび珪素の各含有量を求め、それぞれ酸化マンガン、酸化珪素に換算することにより求めることができる。
【0025】
特に、本実施形態の膜形成用組成物は、ランタン含有ペロブスカイト型酸化物の含有量と、酸化マンガンおよび酸化珪素の合計の含有量が、それぞれ80質量%以上96質量%,4質量%以上20質量%以下であって、酸化マンガンと酸化珪素との質量比(MnO:SiO)が3:12以上12:3以下であることが好適であり、これらの酸化物の範囲がこの範囲であると、導電性を十分に確保できるとともに、被接合物に対する密着性をさらに高くすることができる。
【0026】
図1は、本実施形態の膜形成用組成物よりなる被膜を備えるスパークプラグの一例を示す、中心線より左側が正面図であり、中心線より右側が断面図である。
【0027】
図1に示す例のスパークプラグ3は、中心電極33と主体金具31との間に管状の絶縁体32を備えている。
【0028】
主体金具31には、中心電極33と放電ギャップ38を隔てて対向する接地電極35が固定されている。絶縁体32の外周部には、段付部32bが形成されている。主体金具31の一端側には、絶縁体32に向かって径方向内方へ突出する支持部313が形成されており、絶縁体32の段
付部32bが、主体金具31の支持部313にて支持されている。
【0029】
絶縁体32の他端部側には、段付部32aが形成されている。そして、絶縁体32の段付部32aが、主体金具31の他端側の支持部314にて支持されている。
【0030】
このようなスパークプラグ3の一端部3b側が内燃機関の燃焼室(図示せず)に挿入され、中心電極33と接地電極35との間に放電用高電圧(約−10kV〜−35kV)を印加することにより、放電ギャップ38に火花放電が発生し、燃焼室内の混合気が燃焼する。また、放電ギャップ38近傍では、上記燃焼に伴いイオンが発生するため、中心電極33と接地電極35との間にはイオン電流が流れる。
【0031】
主体金具31の外周部にはネジ山31aが形成されており、それによりエンジンブロック(
図示せず)にスパークプラグ3が脱着可能に装着されるようになっている。
【0032】
そして、絶縁体32は主体金具31の内部に保持され、絶縁体32の両端部がそれぞれ主体金具31から延出している。また、絶縁体32の内部には、中心電極33およびステム部34が保持されている。
【0033】
なお、中心電極33の一端部が絶縁体32の一端部から、また、ステム部34の一端が絶縁体32の他端部から延出しており、中心電極33の他端部とステム部34の他端部とが電気的に接続されている。
【0034】
また、絶縁体32の段付部32aと主体金具31の支持部314との間は、耐熱性に優れた材料
、例えば鉄や銅からなるパッキン36にて封止されている。同様に、絶縁体32の段付部32bと主体金具31の支持部313との間は、耐熱性に優れた材料、例えば鉄や銅からなるパッキン37にて封止されている。つまり、支持部314,313は、それぞれパッキン36,37を介して
段付部32a,32bを支持している。
【0035】
なお、段付部32bにパッキン37を配置してから、主体金具31の他端部側から主体金具31の内部へ絶縁体32を挿入し、その後、段付部32aにパッキン36を配置してから、主体金具31の他端部側を内方へ曲げるようにかしめることにより、パッキン36、37が、段付部32a,32bと支持部314,313との間で押圧されて変形する。この変形により、パッキン36,37が、段付部32a,32bおよび支持部314,313に密接した状態となる。
【0036】
そして、絶縁体32の表面の少なくとも一部、例えば、絶縁体32の主体金具31の支持部314の近傍に位置する部位が、本実施形態の膜形成用組成物からなる被膜39によって被覆さ
れている。
【0037】
この部位は、段付部32aの全周と、段付部32aから間隙C側(絶縁体32の他端部側)に所定寸法(例えば、6mm)だけ延びる延部32cの全周と、絶縁体32の外周部のうち、段付部32aから間隙Cの反対側(絶縁体32の一端部側)に所定寸法(例えば、1mm)だけ延びる延部32dの全周とからなる。
【0038】
また、延部32cは、支持部314に対向する対向部と、対向部から間隙C側(段付部32a
の反対側)に延びる延部とからなる。なお、間隙Cの径方向の寸法Lは、例えば、0.4m
mである。
【0039】
そして、被膜39は、段付部32aの全周に形成される第1部位39aと、延部32cの全周に形成される第2部位39cと、延部32dの全周に形成される第3部位39dとからなる。
【0040】
そして、被膜39の第1部位39aが、全周にわたってパッキン36を介して主体金具31に、また、被膜39の第3部位39dが、全周にわたって主体金具31にそれぞれ電気的に接続されている。
【0041】
ここで、主体金具31の外表面に被覆された、本実施形態の膜形成用組成物からなる被膜39が、導電性を有していることから、被膜39に分散したプラス電荷は主体金具31側へ常に少量ずつ放出されることとなる。それにより、絶縁体32の外周部におけるプラス電荷の局部的な蓄積を抑制することができ、電波雑音を小さくすることができる。
【0042】
また、本実施形態において、被膜39が管状の絶縁体32の主成分と同一成分をさらに含有してなることが好適である。例えば、被膜39の組成として、絶縁体32の主成分と同一成分を含有する場合には、その主成分と、酸化マンガンと、酸化珪素とでガラス相を形成する
ことから、絶縁体32に対する密着性がさらに高くなる。
【0043】
従って、絶縁体32の主成分が酸化アルミニウムである場合には、膜形成用組成物は酸化アルミニウムを含有してなることが好適となり、この場合、例えば、ランタン含有ペロブスカイト型酸化物の含有量が80質量%以上96質量%であり、酸化マンガン,酸化珪素および酸化アルミニウムの含有量の合計が4質量%以上20質量%である。そして、酸化マンガンと酸化珪素との質量比(MnO:SiO)が3:12以上12:3以下であって、残部が酸化アルミニウムであることが好適である。
【0044】
なお、上述の例では被膜39を構成する組成物が、絶縁体32の主成分と同一成分を含有する例を示したが、例えば、絶縁体32の主成分の一部が被膜39に拡散することで、結果的に被膜39を構成する組成物が、絶縁体32の主成分と同一成分を含有するものであってもよい。
【0045】
ここで、酸化アルミニウムは、X線回折法を用いて同定することができる。また、酸化アルミニウムの含有量は、蛍光X線分析法またはICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法によってアルミニウムの含有量を求め、酸化アルミニウムに換算することにより求めることができる。
【0046】
また、被膜39の膜厚は、30μm以上55μm以下とすることが好適である。被膜39の膜厚がこの範囲であると、被膜39を効率よく作製することができるとともに、内燃機関の燃焼室における混合気の燃焼状態やノッキングの発生状態を検出するために用いられるイオン電流検出手段(図示しない)の誤検出の原因となるスパイク状ノイズを抑制しやすくなる。
【0047】
また、絶縁体32の外周部のうち、主体金具31より突出している他端部側のほぼ側面全周には、例えば、ガラス系材料からなる絶縁性被膜が形成されていることが好適である。
【0048】
次に、本実施形態の膜形成用組成物およびスパークプラグの製造方法について説明する。
【0049】
まず、ランタン含有ペロブスカイト型酸化物の粉末を、例えば、80質量%以上96質量%,また、酸化マンガンの粉末および酸化珪素の粉末を、例えば、4質量%以上20質量%以下であって、酸化マンガンと酸化珪素との質量比(MnO:SiO)が3:12以上12:3以下となるように調合し、これら各粉末をテルピネオール等の有機溶剤とともに乳鉢,ポットミル等を用いて混合することにより、ペースト状の本実施形態の膜形成用組成物を得ることができる。
【0050】
また、絶縁体32が酸化アルミニウムを主成分とする場合には、膜形成用組成物は、ランタン含有ペロブスカイト型酸化物の粉末を、例えば、80質量%以上96質量%とし,酸化マンガンの粉末,酸化珪素の粉末および酸化アルミニウムの粉末、例えば、それぞれ1質量%以上10質量%以下,1質量%以上10質量%以下,0質量%以上10質量%以下として調合し、これら各粉末をテルピネオール等の有機溶剤とともに乳鉢,ポットミル等を用いて混合することにより、ペースト状の本実施形態の膜形成用組成物を得ることができる。
【0051】
このペースト状の膜形成用組成物を絶縁体32の段付部32a,延部32cおよび延部32dの各全周にスクリーン印刷法を用いて塗布し、温度および保持時間をそれぞれ1350℃以上1550℃,1時間以上4時間以下として熱処理することにより被膜39を得ることができ、この被膜39を被覆した絶縁体32を主体金具31に取り付けることにより図1に示す例の本実施形態のスパークプラグ3を得ることができる。
【符号の説明】
【0052】
3:スパークプラグ
31:主体金具
32:絶縁体
33:中心電極
35:接地電極
38:放電ギャップ
39:被膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタンを含有するペロブスカイト型酸化物を主成分とし、酸化マンガンおよび酸化珪素を含むことを特徴とする膜形成用組成物。
【請求項2】
前記ペロブスカイト型酸化物は、ランタンクロマイト系酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の膜形成用組成物。
【請求項3】
中心電極と、主体金具と、前記中心電極と前記主体金具との間に配置された管状の絶縁体とを有し、該絶縁体の表面の少なくとも一部が、請求項1または2に記載の膜形成用組成物によって被覆されていることを特徴とするスパークプラグ。
【請求項4】
前記膜形成用組成物が、前記管状の絶縁体の主成分と同一成分をさらに含有してなることを特徴とする請求項3に記載のスパークプラグ。

【図1】
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