説明

膜電極接合体、発電体、燃料電池、膜電極接合体の製造方法及び発電体の製造方法

【課題】膜電極接合体毎のアノード触媒層とカソード触媒層との対向面積のばらつきを抑制する。
【解決手段】膜電極接合体は、触媒層形成用組成物を用い、電解質膜10の一方面に一方極の触媒層12が塗布形成され、電解質膜10の他方面に他方極の触媒層14が塗布形成されてなる膜電極接合体であって、一方極の触媒層12及び他方極の触媒層14が、それぞれ、塗布方向に対し、触媒層形成用組成物の塗り始めと塗り終わりに相当する塗布幅が非一定な寸法非一定部と、触媒層形成用組成物の塗り始めと塗り終わり以外に相当する塗布幅が一定な寸法一定部とからなり、一方極の触媒層12の寸法一定部と他方極の触媒層14の寸法一定部のみが、電解質膜10を介して交差して対向している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極接合体、発電体、燃料電池、膜電極接合体の製造方法及び発電体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素と酸素との電気化学反応により発電するシステムであり、発電時に水が発生するだけであるため、クリーンエネルギーシステムとして注目されている。
【0003】
燃料電池として、例えば、固体高分子型燃料電池は、固体高分子膜からなる電解質膜の両面に触媒層を配置し、この両面の触媒層のそれぞれを燃料極と酸素極として機能させてなる膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を、さらに2枚のセパレータで挟持してなるセルを最小単位とし、通常、このセルを複数積み重ねて燃料電池スタック(FCスタック)とし、高圧電圧を得るようにしている。
【0004】
ここで、電解質膜の両面に触媒層を形成する方法として、例えば、直接塗工法が知られており、直接塗工法は、触媒層形成用組成物を電解質膜上に直接塗布し、乾燥させることにより、電解質膜上に触媒層を形成させる方法である。
【0005】
例えば、特許文献1には、ポリイミドを主成分とする多孔質膜に電解質成分を充填してなる電解質膜を用い、直接塗工法により膜電極接合体を製造する方法が提案されている。また、特許文献2には、触媒層形成用組成物である触媒層形成用組成物を電解質膜に直接塗布した後、常圧で減圧乾燥する膜電極接合体の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−247152号公報
【特許文献2】特開2010−33897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
触媒層形成用組成物を電解質膜に直接塗工することにより触媒層を電解質膜の両面に塗布形成する場合、触媒層形成用組成物の塗り始めと塗り終わりに相当する触媒層の端部に幅寸法の変動が生じ、得られた膜電極接合体毎に触媒層の形状にばらつきが生じるおそれがある。その結果、膜電極接合体のアノード触媒層とカソード触媒層との対向面積、すなわち有効発電面積が、各膜電極接合体毎に異なり、このため、各セル毎の発電能力にばらつきが生じるおそれがある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、膜電極接合体毎のアノード触媒層とカソード触媒層との対向面積のばらつきを抑制した膜電極接合体、発電体、燃料電池、膜電極接合体の製造方法及び発電体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の膜電極接合体、発電体、燃料電池、膜電極接合体の製造方法及び発電体の製造方法は以下の特徴を有する。
【0010】
(1)触媒層形成用組成物を用い、電解質膜の一方面に一方極の触媒層が塗布形成され、電解質膜の他方面に他方極の触媒層が塗布形成されてなる膜電極接合体であって、一方極の触媒層及び他方極の触媒層は、それぞれ、塗布方向に対し、触媒層形成用組成物の塗り始めと塗り終わりに相当する塗布幅が非一定な寸法非一定部と、前記触媒層形成用組成物の塗り始めと塗り終わり以外に相当する塗布幅が一定な寸法一定部とからなり、一方極の触媒層の寸法一定部と他方極の触媒層の寸法一定部のみが、前記電解質膜を介して交差して対向している膜電極接合体である。
【0011】
(2)触媒層形成用組成物を用い塗布幅が一定な塗布手段により、電解質膜の一方面に一方極の触媒層が塗布形成され、電解質膜の他方面に他方極の触媒層が塗布形成されてなる膜電極接合体であって、一方極の触媒層及び他方極の触媒層は、それぞれ、中央部における直線部と端部における曲線部とにより縁取られ、一方極の触媒層の直線部と他方極の触媒層の直線部とが交差し、かつ、一方極の触媒層の中央部と他方極の触媒層の中央部が電解質膜を介して対向するように配置され、一方極の触媒層の曲線部と他方極の触媒層の曲線部とは電解質膜を介して対向しない膜電極接合体である。
【0012】
(3)上記(1)または(2)に記載の膜電極接合体において、一方極の触媒層と他方極の触媒層は、電解質膜を介して垂直交差している膜電極接合体である。
【0013】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の膜電極接合体の一方面及び他方面の触媒層に、それぞれガス拡散層が形成されている発電体である。
【0014】
(5)上記(4)に記載の発電体と前記発電体を挟持する一対のセパレータとから構成されるセルが積層して形成される燃料電池である。
【0015】
(6)電解質膜を走行させ、塗布幅が一定な塗布手段を用い、電解質膜の一方面に、触媒層形成用組成物を塗工し乾燥させて一方面に一方極の触媒層を形成する工程と、電解質膜の走行方向を転換し、電解質膜を走行させ、塗布幅が一定な塗布手段を用い、電解質膜の他方面に、触媒層形成用組成物を塗工し乾燥させて他方面に他方極の触媒層を形成する工程と、を有し、一方極の触媒層及び他方極の触媒層は、それぞれ、塗布方向に対し、触媒層形成用組成物の塗り始めと塗り終わりに相当する塗布幅が非一定な寸法非一定部と、前記触媒層形成用組成物の塗り始めと塗り終わり以外に相当する塗布幅が一定な寸法一定部とからなり、一方極の触媒層の寸法一定部と他方極の触媒層の寸法一定部のみが、前記電解質膜を介して交差して対向している膜電極接合体の製造方法である。
【0016】
(7)電解質膜を走行させ、塗布幅が一定な塗布手段を用い、電解質膜の一方面に、触媒層形成用組成物を塗工し乾燥させて一方面に一方極の触媒層を形成する工程と、電解質膜の走行方向を転換し、電解質膜を走行させ、塗布幅が一定な塗布手段を用い、電解質膜の他方面に、触媒層形成組成物を塗工し乾燥させて他方面に他方極の触媒層を形成する工程と、を有し、一方極の触媒層及び他方極の触媒層は、それぞれ、中央部における直線部と端部における曲線部とにより縁取られ、一方極の触媒層の直線部と他方極の触媒層の直線部とが交差し、かつ、一方極の触媒層の中央部と他方極の触媒層の中央部が電解質膜を介して対向するように配置され、一方極の触媒層の曲線部と他方極の触媒層の曲線部とは電解質膜を介して対向しない膜電極接合体の製造方法である。
【0017】
(8)上記(6)または(7)に記載の膜電極接合体の製造方法において、他方面に他方極の触媒層を形成する工程では、電解質膜の走行方向を垂直転換させ、一方極の触媒層と他方極の触媒層は、電解質膜を介して垂直交差している膜電極接合体の製造方法である。
【0018】
(9)上記(6)から(8)のいずれか1つに記載の膜電極接合体の製造方法により得られた膜電極接合体のうち、電解質膜の両面にそれぞれ複数の触媒層が塗布形成された膜電極接合体を走行させ、膜電極接合体の一方面に形成された複数の触媒層のそれぞれにガス拡散層を積層する工程と、膜電極接合体の走行方向を転換し、膜電極接合体の他方面に形成された複数の触媒層のそれぞれにガス拡散層を積層する工程と、膜電極接合体における電解質膜の両面にそれぞれ触媒層とガス拡散層とが積層されて形成された発電体ごとに、電解質膜を切断する工程と、を有する発電体の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、膜電極接合体毎のアノード触媒層とカソード触媒層との対向面積、すなわち有効発電面積のばらつきが抑制され、各セル毎の発電のばらつきが抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態における膜電極接合体の一例を示す構成概略図である。
【図2】本発明の実施の形態における触媒層の形状の一例を説明する図である。
【図3】本発明の実施の形態における触媒層形成用組成物の塗工方向を電解質膜の一方面と他方面とで変えて触媒層を形成した場合の膜電極接合体の一例を示す構成概略図である。
【図4】本発明の実施の形態における電解質膜の一方面に一方極の触媒層を形成する工程の一例を説明する図である。
【図5】本発明の実施の形態における一方面に一方極の触媒層の形成された電解質膜の他方面に他方極の触媒層を形成する工程を説明する図である。
【図6】本発明の実施の形態における膜電極接合体の製造方法の一例を説明するフロー図である。
【図7】本発明の実施の形態における発電体の製造方法の一例を説明するフロー図である。
【図8】本発明の実施の形態における膜電極接合体及び発電体の一例を示す断面図である。
【図9】電解質膜の両面のそれぞれに触媒層形成用組成物を同一方向から塗布して触媒層を形成した場合の膜電極接合体の一例を示す構成概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0022】
[膜電極接合体]
以下に、本実施の形態における膜電極接合体について説明する。
【0023】
図9に示すように、例えば、電解質膜10の両面のそれぞれに触媒層形成組成物を用い、直接塗工方法により、同一方向で一方極の触媒層12(図9にて実線記載)と他方極の触媒層14(図9にて破線記載)を塗布形成した場合、触媒層形成用組成物の塗り始めと塗り終わりに相当する触媒層の端部における塗布幅の寸法に変動が生じる場合がある。そのため、電解質膜10の両面にそれぞれ塗布形成される一方極の触媒層12の形状と他方極の触媒層14の形状にばらつきが生じる。さらに、一方極の触媒層12と他方極の触媒層14との中央部同士のみならず、端部同士が一部重複することにより、膜電極接合体の一方極の触媒層12と他方極の触媒層14との対向面積(以下「有効発電面積」ともいう)が、各膜電極接合体毎に異なり、最終的に、各セル毎に発電のばらつきが発生するおそれがある。
【0024】
そこで、本発明における実施の形態の膜電極接合体の一例は、図1に示すように、触媒層形成用組成物を用い、電解質膜10の一方面に一方極の触媒層12が塗布形成され、電解質膜10の他方面に他方極の触媒層14が塗布形成されてなる膜電極接合体であって、一方極の触媒層12及び他方極の触媒層14が、それぞれ、塗布方向に対し、触媒層形成用組成物の塗り始めと塗り終わりに相当する塗布幅が非一定な寸法非一定部と、触媒層形成用組成物の塗り始めと塗り終わり以外に相当する塗布幅が一定な寸法一定部とからなり、一方極の触媒層12の寸法一定部と他方極の触媒層14の寸法一定部のみが、電解質膜10を介して交差して対向している。なお、触媒層形成用組成物の塗り始めと塗り終わりに相当する部分は、触媒層の端部や縁部を形成することが一般的であるが、これに限るものではない。
【0025】
図1に示す本実施の形態における膜電極接合体は、一方極の触媒層12の寸法一定部と他方極の触媒層14の寸法一定部のみが、電解質膜10を介して交差して対向しているので、一方極の触媒層12と他方極の触媒層14における塗布幅が非一定である寸法非一定部同士が対向することがなく、その結果、膜電極接合体毎の有効発電面積16のばらつきが抑制される。
【0026】
ここで、本願の特許請求の範囲及び明細書において、「塗布幅が一定な」とは、予め定められた塗布領域において塗布幅の変動が実質的にないことを意味する。「塗布幅が非一定な」とは、予め定められた塗布領域において塗布幅に増加、減少が明らかに認められる場合を意味する。例えば、塗布幅が、触媒層の中央から縁に向かうにつれて減少する場合などである。また、「一方極の触媒層の寸法一定部と他方極の触媒層の寸法一定部のみが、電解質膜を介して交差して対向している」とは、一方極の触媒層の寸法一定部と他方極の触媒層の寸法一定部が、実質的に、電解質膜を介して交差して対向していることを意味し、寸法一定部同士の交差対向において多少のクリアランスの存在も許容する意味である。
【0027】
さらに、本実施の形態における膜電極接合体の一例において、図1に示すように、一方極の触媒層12と他方極の触媒層14を、電解質膜10を介して垂直交差させることにより、一方極の触媒層12の寸法一定部と他方極の触媒層14の寸法一定部のみを容易に対向させることができ、その結果、膜電極接合体毎の有効発電面積16のばらつきが抑制される。
【0028】
ここで、本願の特許請求の範囲及び明細書において、「垂直交差させる」とは、実質的に、垂直に交差させることを意味し、90°に交差することに限定するものではない。
【0029】
また、本発明における実施の形態の膜電極接合体の他の例は、図1,図2に示すように、触媒層形成用組成物を用い塗布幅が一定な塗布手段により、電解質膜10の一方面に一方極の触媒層12が塗布形成され、電解質膜10の他方面に他方極の触媒層14が塗布形成されてなる膜電極接合体であって、一方極の触媒層12及び他方極の触媒層14は、それぞれ、中央部における直線部と端部における曲線部とにより縁取られ、一方極の触媒層12の直線部と他方極の触媒層14の直線部とが交差し、かつ、一方極の触媒層12の中央部と他方極の触媒層14の中央部が電解質膜10を介して対向するように配置され、一方極の触媒層12の曲線部と他方極の触媒層14の曲線部とは電解質膜10を介して対向しない。
【0030】
図1,図2に示す本実施の形態における膜電極接合体は、一方極の触媒層12の直線部と他方極の触媒層14の直線部とが交差し、かつ、一方極の触媒層12の中央部と他方極の触媒層14の中央部が電解質膜10を介して対向するように配置され、一方極の触媒層12の曲線部と他方極の触媒層14の曲線部とは電解質膜10を介して対向しないので、一方極の触媒層12と他方極の触媒層14における曲線部により縁取られた塗布幅が非一定な端部同士が対向することがなく、その結果、膜電極接合体毎の有効発電面積16のばらつきが抑制される。
【0031】
さらに、本実施の形態における膜電極接合体の他の例において、図1,図2に示すように、一方極の触媒層12と他方極の触媒層14を、電解質膜10を介して垂直交差させることにより、一方極の触媒層12の寸法一定部と他方極の触媒層14の寸法一定部のみを容易に対向させることができ、その結果、膜電極接合体毎の有効発電面積16のばらつきが抑制される。
【0032】
本実施の形態で用いられる電解質膜の樹脂としては、例えば、デュポン社製の「Nafion」(商品名)、旭硝子(株)製の「Flemion」(商品名)、旭化成(株)製の「Aciplex」(商品名)、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」(商品名)などのパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーなどのフッ素系樹脂が用いられる。
【0033】
また、本実施の形態において用いられる触媒層形成用組成物は、触媒粒子、イオン伝導性電解質及び分散媒を含み、例えばペースト状の組成物である。
【0034】
触媒粒子は、公知又は市販のものを使用することができ、燃料電池のアノード又はカソードにおける燃料電池反応を起こさせるものであれば特に限定されない。例えば白金、白金合金、白金化合物等が挙げられる。白金合金としては、例えば、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、モリブデン、イリジウム、鉄等からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と白金との合金等が挙げられる。一般的に、カソード用触媒層として用いられる場合の触媒粒子は白金、アノード用触媒層として用いられる場合の触媒粒子は上述した合金である。
【0035】
また、触媒粒子は、触媒微粒子が炭素粉に担持された、いわゆる触媒担持炭素粉であってもよい。触媒担持炭素粉を構成する炭素粒子は特に制限されず、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等のカーボンブラック、黒鉛、活性炭、カーボン繊維、カーボンナノチューブ等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
【0036】
イオン伝導性電解質は、水素イオン伝導性のものであればよく、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂等が挙げられる。また、電気陰性度の高いフッ素原子を導入することにより、化学的に非常に安定し、スルホン酸基の乖離度が高く、良好な水素イオン伝導性が実現できる。このようなイオン伝導性電解質の具体例としては、例えば、デュポン社製の「Nafion」、旭硝子(株)製の「Flemion」、旭化成(株)製の「Aciplex」、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」等が挙げられる。また、イオン伝導性電解質として炭化水素系のイオン伝導性電解質を用いてもよく、例えば、アルドリッチ社のスルホン化(ポリスチレン−ブロック−ポリ(エチレン−ran−ブチレン)−block−ポリスチレン)等が挙げられる。
【0037】
なお、「−ran−」はランダム型のコポリマー(共重合体)の命名に用いられる接続記号であって、例えば、モノマーAとモノマーBとからなるランダム型のコポリマーに対して「poly-(A−ran−B)」と表記する。同様に「−block−」はブロック型のコポリマーを示す接続記号である。
【0038】
使用される分散媒としては公知又は市販のものを使用することができる。例えば、各種アルコール、各種エーテル、各種ジアルキルスルホキシド、水又はこれらの混合物等が挙げられる。これらのうち、炭素数1〜4のアルコールが好ましく、具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール等が挙げられる。これらの中では、2−プロパノールが最も好ましい。
【0039】
本実施の形態において、主分散媒とは、ペースト組成物に含まれる全分散媒のうち、最も多く含まれている分散媒であり、好ましくは全分散媒中において25重量%以上、より好ましくは50重量%以上含まれる分散媒をいう。
【0040】
本実施の形態における触媒層形成用組成物中に含まれる上記触媒粒子、イオン伝導性電解質及び分散媒の割合は限定されるものではなく、広い範囲内で適宜選択できる。
【0041】
例えば、触媒粒子1質量部(触媒担持炭素粉の場合は、当該触媒担持炭素粉1質量部)に対して、イオン伝導性電解質が0.1〜2質量部(好ましくは0.2〜1質量部)程度、分散媒が5〜35質量部(好ましくは10〜25質量部)程度含まれていればよい。
【0042】
なお、本実施の形態の触媒層形成用組成物には、本発明の効果を阻害しない程度であれば、その他の公知の添加剤等を含有していてもよい。
【0043】
[発電体及び燃料電池]
本実施の形態における発電体は、上述した本実施の形態における膜電極接合体の一方面の一方極の触媒層12及び他方面の他方極の触媒層14に、それぞれガス拡散層が形成されている。また、本実施の形態における燃料電池は、上述した本実施の形態における発電体と発電体を挟持する一対のセパレータとから構成されるセルが積層して形成されてなる。
【0044】
本実施の形態における膜電極接合体を用いるので、発電体毎の有効発電面積のばらつきが抑制され、また、本実施の形態における発電体を用いたセル毎の発電能力のばらつきが抑制されるので、本実施の形態の燃料電池の発電効率も安定する。また、各セル間での発電ばらつきが抑制されるため、スタック状の燃料電池のシステム制御が簡便になり、最終的にこの燃料電池を搭載した車両のドライバビリティやコスト、耐久信頼性が向上する。
【0045】
[膜電極接合体の製造方法]
本実施の形態の膜電極接合体の製造方法について、以下に説明する。
【0046】
本実施の形態における膜電極接合体の製造方法は、図4から図6に示すように、電解質膜20を走行させ(例えば、図4,5の白抜き矢印方向に走行させ)、塗布幅が一定な塗布手段である塗布装置30を用い、電解質膜20の一方面に、触媒層形成用組成物を塗工し乾燥させて一方面に一方極の触媒層12を形成する工程(S100)と、電解質膜20の走行方向を転換し(S102)、電解質膜20を走行させ(例えば、図5の白抜き矢印方向に走行させ)、塗布幅が一定な塗布手段である塗布装置30を用い、電解質膜20の他方面に、触媒層形成組成物を塗工し乾燥させて他方極の触媒層14を形成する工程(S104)と、を有し、図3に示すように、一方極の触媒層12及び他方極の触媒層14は、それぞれ、塗布方向に対し、触媒層形成用組成物の塗り始めと塗り終わりに相当する塗布幅が非一定な寸法非一定部と、前記触媒層形成用組成物の塗り始めと塗り終わり以外に相当する塗布幅が一定な寸法一定部とからなり、一方極の触媒層12の寸法一定部と他方極の触媒層14の寸法一定部のみが、前記電解質膜を介して交差して対向しているように塗布形成する製造方法である。
【0047】
ここで、本実施の形態の膜電極接合体の製造方法に用いられる「電解質膜20」は、例えば、燃料電池のセルに用いる1枚分の電解質膜であっても、また、燃料電池のセルに用いる電解質膜の短手方向幅を有し、且つ長手方向の長さが燃料電池のセルに用いる電解質膜の長手方向の長さよりも長いロール状の電解質膜であってもよい。ロール状の電解質膜を用いる場合には、まさに図4,図5に示すように、電解質膜の両面にそれぞれ複数の触媒層が塗布形成される。
【0048】
本実施の形態における膜電極接合体の製造方法は、図3に示すように、一方極の触媒層12の寸法一定部と他方極の触媒層14の寸法一定部のみが、電解質膜10を介して交差して対向しているので、一方極の触媒層12と他方極の触媒層14における塗布幅が非一定である寸法非一定部同士が対向することがないので、膜電極接合体毎の有効発電面積16のばらつきが抑制される。
【0049】
また、本実施の形態における他の膜電極接合体の製造方法は、図4から図6に示すように、電解質膜20を走行させ(例えば、図4,5の白抜き矢印方向に走行させ)、塗布幅が一定な塗布手段である塗布装置30を用い、電解質膜20の一方面に、触媒層形成用組成物を塗工し乾燥させて一方面に一方極の触媒層12を形成する工程(S100)と、電解質膜20の走行方向を転換し(S102)、電解質膜20を走行させ(例えば、図5の白抜き矢印方向に走行させ)、塗布幅が一定な塗布手段である塗布装置30を用い、電解質膜20の他方面に、触媒層形成組成物を塗工し乾燥させて他方極の触媒層14を形成する工程(S104)と、を有し、図1,2に示すように、一方極の触媒層12及び他方極の触媒層14は、それぞれ、中央部における直線部と端部における曲線部とにより縁取られ、一方極の触媒層12の直線部と他方極の触媒層14の直線部とが交差し、かつ、一方極の触媒層12の中央部と他方極の触媒層14の中央部が電解質膜を介して対向するように配置され、一方極の触媒層12の曲線部と他方極の触媒層14の曲線部とは電解質膜を介して対向しないように塗布形成する製造方法である。
【0050】
上記膜電極接合体の製造方法は、図3に示すように、一方極の触媒層12の直線部と他方極の触媒層14の直線部とが交差し、かつ、一方極の触媒層12の中央部と他方極の触媒層14の中央部が電解質膜10を介して対向するように配置され、一方極の触媒層12の曲線部と他方極の触媒層14の曲線部とは電解質膜10を介して対向しない電解質膜10を介して交差して対向しているので、一方極の触媒層12と他方極の触媒層14における曲線部により縁取られた塗布幅が非一定な端部同士が対向することがなく、その結果、膜電極接合体毎の有効発電面積16のばらつきが抑制される。
【0051】
さらに、本実施の形態の膜電極接合体の製造方法及び他の膜電極接合体の製造方法において、他方面に他方極の触媒層を形成する工程で、図5の弧状矢印方向に、電解質膜20の走行方向を垂直転換させ、一方極の触媒層12と他方極の触媒層14を電解質膜20を介して垂直交差させている。すなわち、触媒層形成用組成物の塗工方向を、MD方向(Machine Direction:流れ方向)からTD方向(Transverse Direction:垂直方向)に転換し、一方極の触媒層12と他方極の触媒層14を電解質膜20を介して垂直交差させることにより、一方極の触媒層12の寸法一定部と他方極の触媒層14の寸法一定部のみを容易に対向させることができ、その結果、図3に示すように、膜電極接合体毎の有効発電面積16のばらつきが抑制される。
【0052】
ここで、本願の特許請求の範囲及び明細書において、「電解質膜の走行方向を垂直転換させ」とは、実質的に、電解質膜の走行方向を垂直に転換させることを意味し、90°で走行方向を転換する場合に限定するものではない。
【0053】
上述した塗布幅が一定な塗布手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナイフコーター、バーコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等が適宜選択して用いられる。
【0054】
また、電解質膜に触媒層形成用組成物を塗工した後の乾燥としては、例えば、常圧で加温乾燥、減圧で常温乾燥等が挙げられるが、乾燥後の触媒層のクラック防止を考慮すると、減圧で常温乾燥が好ましい。
【0055】
[発電体の製造方法]
本実施の形態における発電体の製造方法は、図7に示すように、電解質膜を走行させ、塗布幅が一定な塗布手段を用い、電解質膜の一方面に、触媒層形成用組成物を塗工し乾燥させて一方面に一方極の触媒層を形成する工程(S100)と、電解質膜の走行方向を転換し(S102)、電解質膜を走行させ、塗布幅が一定な塗布手段である塗布装置30を用い、電解質膜の他方面に、触媒層形成組成物を塗工し乾燥させて他方面に他方極の触媒層を形成する工程(S104)とを経て得られた膜電極接合体のうち、図4,5に示すような電解質膜の両面にそれぞれ複数の触媒層が塗布形成された膜電極接合体を走行させ、膜電極接合体の一方面に形成された複数の触媒層のそれぞれにガス拡散層を積層する工程(S106)と、膜電極接合体の走行方向を転換し(S108)、膜電極接合体の他方面に形成された複数の触媒層のそれぞれにガス拡散層を積層する工程(S110)と、膜電極接合体における電解質膜の両面にそれぞれ触媒層とガス拡散層とが積層されて形成された発電体ごとに、電解質膜を切断する工程と、を有する発電体の製造方法である。
【0056】
上述の製造方法により得られた発電体は、図8に示すように、電解質膜10を介して両面の一方極の触媒層12,他方極の触媒層14の塗布幅が一定な寸法一定部同士が対向してなる膜電極接合体22において、一方極の触媒層12,他方極の触媒層14のそれぞれにガス拡散層18が設けられている。これにより、発電体毎の有効発電面積のばらつきが抑制され、その結果、この発電体24をセパレータを介してスタック状に積層された燃料電池の発電制御システムも簡便になり、最終的にこの燃料電池を搭載した車両のドライバビリティやコスト、耐久信頼性が大きく向上する。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の膜電極接合体およびその製造方法は、燃料電池を用いる用途であれば、如何なる用途にも有効であるが、特に車両用の燃料電池に供することができる。
【符号の説明】
【0058】
10,20 電解質膜、12 一方極の触媒層、14 他方極の触媒層、16 有効発電面積、18 ガス拡散層、22 膜電極接合体、24 発電体、30 塗布装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒層形成用組成物を用い、電解質膜の一方面に一方極の触媒層が塗布形成され、電解質膜の他方面に他方極の触媒層が塗布形成されてなる膜電極接合体であって、
一方極の触媒層及び他方極の触媒層は、それぞれ、塗布方向に対し、触媒層形成用組成物の塗り始めと塗り終わりに相当する塗布幅が非一定な寸法非一定部と、前記触媒層形成用組成物の塗り始めと塗り終わり以外に相当する塗布幅が一定な寸法一定部とからなり、
一方極の触媒層の寸法一定部と他方極の触媒層の寸法一定部のみが、前記電解質膜を介して交差して対向していることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項2】
触媒層形成用組成物を用い塗布幅が一定な塗布手段により、電解質膜の一方面に一方極の触媒層が塗布形成され、電解質膜の他方面に他方極の触媒層が塗布形成されてなる膜電極接合体であって、
一方極の触媒層及び他方極の触媒層は、それぞれ、中央部における直線部と端部における曲線部とにより縁取られ、
一方極の触媒層の直線部と他方極の触媒層の直線部とが交差し、かつ、一方極の触媒層の中央部と他方極の触媒層の中央部が電解質膜を介して対向するように配置され、一方極の触媒層の曲線部と他方極の触媒層の曲線部とは電解質膜を介して対向しないことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の膜電極接合体において、
一方極の触媒層と他方極の触媒層は、電解質膜を介して垂直交差していることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の膜電極接合体の一方面及び他方面の触媒層に、それぞれガス拡散層が形成されていることを特徴とする発電体。
【請求項5】
請求項4に記載の発電体と前記発電体を挟持する一対のセパレータとから構成されるセルが積層して形成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
電解質膜を走行させ、塗布幅が一定な塗布手段を用い、電解質膜の一方面に、触媒層形成用組成物を塗工し乾燥させて一方面に一方極の触媒層を形成する工程と、
電解質膜の走行方向を転換し、電解質膜を走行させ、塗布幅が一定な塗布手段を用い、電解質膜の他方面に、触媒層形成用組成物を塗工し乾燥させて他方面に他方極の触媒層を形成する工程と、を有し、
一方極の触媒層及び他方極の触媒層は、それぞれ、塗布方向に対し、触媒層形成用組成物の塗り始めと塗り終わりに相当する塗布幅が非一定な寸法非一定部と、前記触媒層形成用組成物の塗り始めと塗り終わり以外に相当する塗布幅が一定な寸法一定部とからなり、
一方極の触媒層の寸法一定部と他方極の触媒層の寸法一定部のみが、前記電解質膜を介して交差して対向していることを特徴とする膜電極接合体の製造方法。
【請求項7】
電解質膜を走行させ、塗布幅が一定な塗布手段を用い、電解質膜の一方面に、触媒層形成用組成物を塗工し乾燥させて一方面に一方極の触媒層を形成する工程と、
電解質膜の走行方向を転換し、電解質膜を走行させ、塗布幅が一定な塗布手段を用い、電解質膜の他方面に、触媒層形成用組成物を塗工し乾燥させて他方面に他方極の触媒層を形成する工程と、を有し、
一方極の触媒層及び他方極の触媒層は、それぞれ、中央部における直線部と端部における曲線部とにより縁取られ、
一方極の触媒層の直線部と他方極の触媒層の直線部とが交差し、かつ、一方極の触媒層の中央部と他方極の触媒層の中央部が電解質膜を介して対向するように配置され、一方極の触媒層の曲線部と他方極の触媒層の曲線部とは電解質膜を介して対向しないことを特徴とする膜電極接合体の製造方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の膜電極接合体の製造方法において、
他方面に他方極の触媒層を形成する工程では、電解質膜の走行方向を垂直転換させ、一方極の触媒層と他方極の触媒層は、電解質膜を介して垂直交差していることを特徴とする膜電極接合体の製造方法。
【請求項9】
請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の膜電極接合体の製造方法により得られた膜電極接合体のうち、電解質膜の両面にそれぞれ複数の触媒層が塗布形成された膜電極接合体を走行させ、膜電極接合体の一方面に形成された複数の触媒層のそれぞれにガス拡散層を積層する工程と、
膜電極接合体の走行方向を転換し、膜電極接合体の他方面に形成された複数の触媒層のそれぞれにガス拡散層を積層する工程と、
膜電極接合体における電解質膜の両面にそれぞれ触媒層とガス拡散層とが積層されて形成された発電体ごとに、電解質膜を切断する工程と、
を有することを特徴とする発電体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−59596(P2012−59596A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202841(P2010−202841)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】