説明

膜電極接合体の製造方法および製造装置

【課題】膨潤状態から乾燥状態まで乾燥したときの収縮率が5%以上である電解質膜を用いたときに、触媒層と拡散層との界面接合性が良好で、優れた耐久性を有する膜電極接合体を提供する。
【解決手段】本発明の膜電極接合体の製造方法は、(a)電解質膜の表面に、触媒層を形成する工程、(b)触媒層が形成された電解質膜を、水で湿潤させる工程、(c)触媒層の上に、拡散層を、電解質膜の収縮率が3%以下となる環境下で、熱接合する工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に含まれる膜電極接合体の製造方法およびその製造装置に関し、具体的には、膨潤および収縮が大きい電解質膜を用いた膜電極接合体の製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、地球温暖化、大気汚染等の環境問題、ならびに資源枯渇の問題を解決し、持続可能な循環型社会を実現させる方策として、燃料電池を用いたエネルギーシステムが提案されている。
【0003】
燃料電池としては、工場や住宅等に設置する定置型のものだけではなく、自動車用や携帯電子機器用の非定置型のものがある。
特に、近年、ACアダプターからの充電が不要であり、燃料を補給すれば機器を継続して作動させることができるユビキタスモバイル電源として、燃料電池の早期実用化が期待されている。
【0004】
このような燃料電池の中で、メタノール、ジメチルエーテル等の有機燃料を水素に改質せずにアノードに直接供給して酸化し発電する直接酸化型燃料電池が注目され、活発な研究開発が行われている。その理由として、有機燃料は理論エネルギー密度が高いこと、有機燃料を用いることにより燃料電池システムを簡素化できること、有機燃料は貯蔵が容易であることが挙げられる。
【0005】
直接酸化型燃料電池は、膜電極接合体(以下、MEAと称す)をセパレータで挟み込んだ単位セルを有している。一般的に、MEAは、固体高分子電解質膜と、その両面にそれぞれ配置されたアノードおよびカソードを含む。アノードおよびカソードは、それぞれ触媒層と拡散層とを含む。この直接酸化型燃料電池は、アノードに燃料と水を供給し、カソードに酸化剤(例えば酸素)を供給することにより発電する。
【0006】
例えば、燃料としてメタノールを用いる直接メタノール型燃料電池(以下、DMFCと称す)の電極反応は、以下の通りである。
アノード:CH3OH+H2O → CO2+6H++6e-
カソード:3/2O2+6H++6e- → 3H2
すなわち、アノードでは、メタノールと水が反応して、二酸化炭素、プロトンおよび電子が生成される。アノードで生成されたプロトンは電解質膜を通ってカソードに到達し、電子は外部回路を経由してカソードに到達する。カソードでは、酸素、プロトンおよび電子が結合して、水が生成される。
【0007】
しかしながら、このDMFCの実用化には、いくつかの問題点が存在している。
その一つは、触媒層と拡散層との界面接合性に関する問題である。MEAは、例えば、電解質膜上に触媒層をスプレー塗布法等により直接塗布形成し、その後、触媒層と拡散層とをホットプレス法により熱接合する方法により作製されている。ここで、ホットプレス法とは、アノード触媒層およびカソード触媒層が形成された電解質膜をアノード拡散層とカソード拡散層とで挟み込み、触媒層と拡散層とを100〜160℃の高温下、50〜100kg/cm2程度の圧力で、熱接合する方法である。
【0008】
しかしながら、上記方法で得られたMEAにおいては、プロトン伝導性を確保するために行われるMEA活性化処理(MEAを水に浸漬させる処理)、およびセル発電時の有機燃料の供給等により、拡散層の一部もしくは全部が触媒層から剥離するという問題が生じた。さらには、このMEAでは、発電時間とともに、カソードの触媒層と拡散層との界面剥離部分に、反応生成水およびアノードから移動してきた水が液体状態で蓄積し、この水により、酸化剤の拡散性が低下し(カソードの濃度過電圧が増加し)、耐久性が悪化するという問題も生じた。
【0009】
その後の調査で、拡散層が触媒層から剥離する現象は、触媒層と拡散層との界面接合性が低下することが主原因であることが明確となった。具体的には、従来のホットプレス法では、電解質膜から水が蒸発して熱収縮した状態で、電解質膜上の触媒層と拡散層とが熱接合される。このため、MEAを水に浸漬するか、またはMEAが有機燃料と接触したときに、電解質膜が急激に膨潤する。しかし、拡散層は、電解質膜の膨潤に追従できないため、触媒層と拡散層との界面接合性が低下すると考えられる。
【0010】
このような問題に対処するための関連提案として、触媒層を電解質膜に熱転写するときの電解質膜の変形を防止するために、電解質膜を予め湿潤させるとともに、触媒層が形成された転写フィルムの外周部に、前記転写フィルムと同様の厚さを有する保護フィルムを配置することが提案されている(特許文献1参照)。
さらには、固体高分子電解質の劣化を抑制して、膜電極接合体の耐久性を向上させるために、触媒層と電解質膜とを熱接合した後に、水蒸気を含む気体雰囲気下で膜電極接合体を熱処理することが提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2007−141674号公報
【特許文献2】特開2005−251419号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記のような従来技術の構成を用いたとしても、触媒層と拡散層との界面接合性が良好で、耐久性に優れた膜電極接合体を得ることは困難である。
特許文献1に開示される技術においては、電解質膜のみをあらかじめ浸潤させている。このため、100℃を超える高温条件下で、電解質膜の水分蒸発(水蒸気散逸)を抑制しながら、触媒層と拡散層とを熱接合することは極めて困難である。
特許文献2に開示される技術においては、膜電極接合体を作製した後に、水蒸気を含む気体雰囲気下で、膜電極接合体の熱処理を行っている。よって、特許文献2に開示される技術では、電解質膜が熱収縮した状態で触媒層と熱接合する現象を抜本的に解決することはできない。
【0012】
本発明は、前記従来の課題を解決するものであり、触媒層と拡散層との界面接合性が良好で、優れた耐久性を有する膜電極接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記のように、触媒層と拡散層とを熱接合する際、電解質膜から水が蒸発し、電解質膜が熱収縮する。つまり、電解質膜が収縮した状態で、電解質膜上の触媒層と拡散層とが熱接合される。このため、MEA活性化処理においてMEAが水に浸漬されるか、または発電時の有機燃料の供給によりMEAが有機燃料と接触したときに、電解質膜が急激に膨潤する。しかし、拡散層は、電解質膜の膨潤に追従できないため、触媒層と拡散層との界面接合性が低下する。このことが主原因となり、拡散層が触媒層から剥離すると考えられる。そこで、本発明においては、電解質膜内部に水が存在している状態を維持したまま、触媒層と拡散層とを熱接合させている。
【0014】
すなわち、本発明は、電解質膜と、触媒層と、拡散層とを有し、電解質膜を水で膨潤させた状態から乾燥状態まで変化させたときに、電解質膜の収縮率が5%以上である、膜電極接合体の製造方法であって、
(a)電解質膜の表面に、触媒層を形成する工程、
(b)触媒層が形成された電解質膜を、水で湿潤させる工程、
(c)触媒層の上に、拡散層を、電解質膜の収縮率が3%以下となる環境下で、熱接合する工程を有する、製造方法に関する。
【0015】
前記工程(c)での熱接合は、温度100〜160℃、相対湿度50%R.H.以上の雰囲気中で行うことが好ましい。
【0016】
前記工程(c)において、前記熱接合は、前記電解質膜に連通する水リザーバーが設けられたホットプレス手段を用いて行われ、かつ前記熱接合は、前記水リザーバー内に液体状態の水が収容された状態で行なわれることが好ましい。このとき、熱接合は、密閉空間内で行われることがさらに好ましい。
【0017】
また、本発明は、電解質膜と、触媒層と、拡散層とを有する膜電極接合体の製造装置であって、
(i)電解質膜の上に形成された触媒層と、拡散層とを熱接合するためのホットプレス手段、および
(ii)前記触媒層と前記拡散層とを熱接合するときに、前記電解質膜を加湿するための加湿手段
を備える、製造装置に関する。
【0018】
前記ホットプレス手段は、前記電解質膜、前記触媒層および前記拡散層を挟み込む2つの板状部材を含み、前記加湿手段は、前記ホットプレス手段に設けられた水リザーバーを含み、かつ前記水リザーバーは、前記2枚の板状部材の間に配置される前記電解質膜に水を供給することが好ましい。
【0019】
前記水リザーバーと、前記電解質膜が配置される前記2つの板状部材の間とは、連通していることが好ましい。
【0020】
前記触媒層と前記拡散層とを熱接合するとき、前記電解質膜が配置される前記2つの板状部材の間を、密閉することが好ましい。
【0021】
前記製造装置は、前記ホットプレス手段および前記加湿手段を収容する、密閉可能なチャンバーをさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、電解質膜を水で膨潤させた状態での寸法を基準として、電解質膜の収縮率が3%以下となる環境下で触媒層と拡散層とを熱接合するものである。このため、本発明により、水に浸漬した場合または有機燃料と接触した場合でも、触媒層と拡散層との界面接合性が良好で、優れた耐久性を有する膜電極接合体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の製造方法は、電解質膜と、触媒層と、拡散層とを有する膜電極接合体の製造方法であって、
(a)電解質膜の表面に、触媒層を形成する工程、
(b)触媒層が形成された電解質膜を、水で湿潤させる工程、
(c)触媒層の上に、拡散層を、電解質膜の収縮率が3%以下となる環境下で、熱接合する工程を有する。本発明は、水で膨潤させた状態から乾燥状態まで変化させたときの収縮率が5%以上である電解質膜を用いる場合に有効である。
【0024】
図1に、本発明の製造方法により作製された膜電極接合体の一例の縦断面図を示す。
図1の膜電極接合体1は、電解質膜10と、電解質膜10を挟むアノード11およびカソード12とを含む。アノード11は、電解質膜10に接するアノード触媒層13と、アノード拡散層14とを含む。カソード12は、電解質膜10に接するカソード触媒層15と、カソード拡散層16を含む。
【0025】
上記のように、本発明において、電解質膜10としては、プロトン伝導性、耐熱性、化学的安定性等に優れているとともに、湿潤状態から乾燥状態まで乾燥させたときに、収縮率が5%以上であるものが用いられる。
【0026】
アノード触媒層13は、アノード触媒金属微粒子を担持した導電性炭素粒子またはアノード触媒金属微粒子と、高分子電解質とを主成分とすることができる。アノード触媒金属微粒子には、例えば、白金(Pt)−ルテニウム(Ru)合金微粒子を用いることができる。高分子電解質は、プロトン伝導性、耐熱性、化学的安定性等に優れていれば、特に限定されない。アノード触媒層13に含まれる高分子電解質としては、例えば、電解質膜と同じ材料を用いることができる。
アノード触媒層13は、電解質膜10上に、例えば、スプレー塗布法等の湿式塗布技術を用いて直接形成することができる。
【0027】
アノード拡散層14としては、燃料の拡散性、発電により発生した二酸化炭素の排出性および電子伝導性を併せ持つ導電性多孔基材を用いることができる。このような導電性多孔基材としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス等が挙げられる。前記導電性多孔基材には、公知技術に基づいて、撥水処理を施してもよい。さらには、導電性多孔基材のアノード触媒層13側の表面に撥水性のカーボン層(図示せず)を設けてもよい。
【0028】
カソード触媒層15は、カソード触媒金属微粒子を担持した導電性炭素粒子と、高分子電解質とを主成分とすることができる。カソード触媒金属微粒子には、例えば、白金(Pt)微粒子を用いることができる。高分子電解質は、プロトン伝導性、耐熱性、化学的安定性等に優れていれば、特に限定されない。カソード触媒層15に含まれる高分子電解質としても、例えば、電解質膜と同じ材料を用いることができる。
カソード触媒層15は、電解質膜10上に、例えば、スプレー塗布法等の湿式塗布技術を用いて直接形成することができる。
【0029】
カソード拡散層16としては、酸化剤の拡散性、発電により発生した水やアノードから移動してきた水の排出性および電子伝導性を併せ持つ導電性多孔基材を用いることができる。このような導電性多孔基材としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス等が挙げられる。前記導電性多孔基材には、公知技術に基づいて、撥水処理を施してもよい。さらには、導電性多孔基材のカソード触媒層15側の表面に撥水性のカーボン層(図示せず)を設けてもよい。
【0030】
本発明の製造方法においては、まず、(a)電解質膜の表面に、触媒層が形成される。具体的には、電解質膜の一方の面にアノード触媒層が形成され、電解質膜の他方の面にカソード触媒層が形成される。アノード触媒層およびカソード触媒層の形成は、上記のように、湿式塗布技術を用いて行うことができる。
【0031】
次いで、(b)アノード触媒層およびカソード触媒層を形成した電解質膜を、水で湿潤させる。この湿潤工程(b)は、触媒層を形成した電解質膜を、水に浸すことにより行うことができる。
【0032】
次に、(c)触媒層の上に、拡散層を、湿潤後の電解質膜の収縮率が3%以下となる環境下で、熱接合させる。
湿潤後の電解質膜の収縮率が3%以下となる環境下で熱接合を行うことにより、電解質膜内部に水が存在している状態を維持したまま、触媒層と拡散層とを熱接合することができる。このため、電解質膜が水に浸漬されたり、有機燃料と接触したりして、電解質膜が再度膨潤した場合でも、触媒層と拡散層との界面接合性を確保することが可能となる。その結果、膜電極接合体の耐久性、つまり燃料電池の耐久性を向上させることができる。
【0033】
湿潤後の電解質膜の収縮率が3%より大きい環境下で熱接合を行った場合、電解質膜が再度膨潤したときに、拡散層が、触媒層から剥がれてしまうことがある。
【0034】
一方、電解質膜を加湿しながら、熱接合を行うことにより、湿潤後の電解質膜の収縮率を3%以下とすることができる。例えば、電解質膜の加湿は、電解質膜に水を供給することにより行うことができる。
【0035】
触媒層と拡散層とを熱接合するときの温度は、100〜160℃であることが好ましく、圧力は、50〜100kg/cm2であることが好ましく、時間は、1〜10分間であることが好ましい。
【0036】
前記工程(c)において、熱接合は、温度100〜160℃、相対湿度50%R.H.以上の雰囲気中で行うことが特に好ましい。これにより、100℃以上の高温条件下において、電解質膜の水分蒸発(水蒸気散逸)を抑制しながら、触媒層と拡散層とを十分に熱接合することができる。
【0037】
なお、熱接合を行うときの温度が160℃を超えると、プロトン伝導に関与する電解質膜の分子構造が破壊されることがある。
【0038】
本発明において、前記工程(c)は、例えば、図2に示すような製造装置(ホットプレス装置)を用いて行うことができる。図2に、本発明の一実施形態に係る製造装置の概略図を示す。
図2の製造装置20は、(i)電解質膜の上に形成された触媒層と、拡散層とを熱接合するためのホットプレス手段30、および(ii)触媒層と拡散層とを熱接合するときに、前記電解質膜を加湿するための加湿手段を含む。さらに、図2の製造装置20は、加圧子でもある上部ヒーターブロック21、基台でもある下部ヒーターブロック22、上部ヒーターブロック21および下部ヒーターブロック22の温度を制御する温度コントローラー23、チャンバー24、ならびに開閉可能なシャッター25を備える。
【0039】
ホットプレス手段30には、触媒層が形成された電解質膜と拡散層とが、触媒層と拡散層とが接するように、配置される。
ホットプレス手段30を、上部ヒーターブロック21と下部ヒーターブロック22との間に挟み、ホットプレス手段30を、所定の温度および所定の圧力で、加圧することにより、触媒層と拡散層とを熱接合することができる。
【0040】
図3および4に、ホットプレス手段30の一例を示す。図3は、本発明で用いられるホットプレス手段の一例の斜視図であり、図4は、図3のホットプレス手段の分解斜視図である。
【0041】
図4に示されるように、ホットプレス手段30は、触媒層が形成された電解質膜および拡散層を挟み込む2つの板状部材、つまり、矩形の下板34および上板36を含む。下板34と上板36との間には、触媒層が形成された電解質膜および拡散層の位置決めのために、矩形の中板35、ならびに矩形の耐熱シート37および38が配置されている。なお、図4には、アノード触媒層(図示せず)およびカソード触媒層15が形成された電解質膜10、アノード拡散層14、およびカソード拡散層16も示している。アノード触媒層は、電解質膜10のカソード触媒層15が形成された面とは反対側の面に設けられている。
下板34、中板35、および上板36の構成材料としては、例えば、アルミニウムを用いることができる。
【0042】
下板34の上面の周縁部には、固定ピン40および41が設けられている。中板35の固定ピン40および41に対向する位置には、貫通孔48および49が設けられ、上板36の固定ピン40および41に対向する位置には、貫通孔65および66が設けられている。固定ピン40が中板35の貫通孔48および上板36の貫通孔65に挿入され、固定ピン41が、中板35の貫通孔49および上板36の貫通孔66に挿入されることにより、下板34と中板35および上板36との位置ズレが防止される。
【0043】
さらに、下板34の固定ピンが設けられた面の中央部には、矩形の台部42が設けられている。台部42の上に、耐熱シート37およびアノード拡散層14が配置される。アノード拡散層14は、耐熱シート37に設けられた開口部50に配置される。
【0044】
台部42の周縁部には、固定ピン43および44が設けられている。また、耐熱シート37の固定ピン43および44に対向する位置には、貫通孔51および52が設けられている。固定ピン43が貫通孔51に挿入され、固定ピン44が貫通孔52に挿入されることにより、耐熱シート37の位置ズレが防止される。
【0045】
中板35の台部42と対向する部分は、開口部45となっており、開口部45に、台部42が嵌る。よって、台部42の厚さと中板35の厚さを同じとすることにより、下板34に中板35を積層したときに、台部42の上面の高さと、中板35の上面との高さを同じとすることができる。このため、下板34上に中板35を重ね合わせたときに、電解質膜10に形成されたアノード触媒層とアノード拡散層14とを隙間なく積層することができる。
【0046】
中板35の上板36に対向する面には、開口部45の長手方向に平行な第1の辺に沿って、複数の固定ピン46が設けられ、開口部45の長手方向に平行な第2の辺に沿って、複数の固定ピン47が設けられている。複数の固定ピン46および47は、開口部45に隣接するように設けられている。
【0047】
電解質膜10の固定ピン46に対向する位置には、貫通孔56が設けられ、電解質膜10の固定ピン47に対向する位置には、貫通孔57が設けられている。さらに、電解質膜10の固定ピン43および44に対向する位置には、貫通孔58および59がそれぞれ設けられている。固定ピン43および44、ならびに固定ピン46および47が、電解質膜10の貫通孔58および59、ならびに貫通孔56および57に挿入されることにより、電解質膜10の位置ズレを防止することができる。
【0048】
電解質膜10の上には、耐熱シート38が配置される。耐熱シード38のカソード触媒層15と対向する部分には、開口部53が設けられている。耐熱シート38の固定ピン43および44と対向する位置には、貫通孔54および55が設けられている。固定ピン43および44が、貫通孔54および55に挿入されることにより、耐熱シート38の位置ズレが防止される
【0049】
耐熱シート38の開口部53には、カソード拡散層16が、カソード触媒層15と直接接するように配置される。
【0050】
なお、耐熱シート37の厚みはアノード拡散層の厚みよりも薄いことが好ましい。また、耐熱シート37の材質は耐熱性および機械的強度に優れていれば、特に限定されない。このことは、耐熱シート38についても同様である。
【0051】
カソード拡散層16および耐熱シート38の上には、上板36が積層される。上板36の中板35に対向する面には、下板34と同様に、台部60が設けられている。台部60を設けることにより、上記と同様に、中板35上に上板36を重ね合わせたときに、カソード触媒層15とカソード拡散層16とを隙間なく積層することが可能となる。
【0052】
上板36の固定ピン46および47に対向する位置には、貫通孔61および62が設けられている。上板36の固定ピン43および44に対向する位置には、貫通孔63および64が設けられている。固定ピン46および47は、貫通孔61および62に挿入され、固定ピン43および44は、貫通孔63および64に挿入される。
【0053】
上記のように、本発明の製造装置は、触媒層と拡散層とを熱接合するときに、前記電解質膜を加湿するための加湿手段を備える。例えば、図3および4に示されるホットプレス手段30の場合、前記加湿手段は、電解質膜10に連通する水リザーバーを含むことができる。
【0054】
触媒層を形成した電解質膜および拡散層を挟んだ状態で、下板34と上板36とを積層すると、上板36に設けられた貫通孔61、62、63および64は、電解質膜10と連通することとなる。つまり、図3および4に示されるホットプレス手段30の場合、貫通孔61、62、63および64が、水リザーバーとして機能する。このとき、貫通孔の直径は、それに挿入される固定ピンの直径よりも大きいことが好ましい。貫通孔の直径とは、下板34と上板36との積層方向に対して垂直な方向における貫通孔の最大径のことをいう。固定ピンの直径とは、下板34と上板36との積層方向に対して垂直な方向における固定ピンの最大径のことをいう。
【0055】
図3および4に示されるホットプレス手段30を用いる場合、電解質膜10に連通する水リザーバー内に液体状態の水が収容された状態で、触媒層と拡散層との熱接合が行われることが好ましい。触媒層が形成された電解質膜および拡散層が配置されたホットプレス手段の内部の空気が水蒸気で置換され、水蒸気雰囲気中でホットプレスを行うことが可能となる。このため、電解質膜が乾燥し熱収縮する前に、触媒層と拡散層とを熱接合することができる。つまり、前記構成により、湿潤後の電解質膜の収縮率が3%以下となる環境下で、熱接合を行うことができる。
【0056】
なお、ホットプレスの行う前に、液体状態の水が外部に漏れないように、ホットプレス手段30の2つの板状部材の間を密閉することが好ましい。つまり、本発明の製造装置は、2つの板状部材の間を密閉する手段を備えることが好ましい。例えば、ホットプレス手段30の側面部32を、耐熱テープ、耐熱ゴム等の耐熱部材33で被覆することにより、2つの板状部材34および36の間を密閉することができる。
【0057】
水リザーバーに収容しておく水の量は、熱接合を行う温度にもよるが、例えば、30cc以上とすることが好ましい。
【0058】
本発明において、前記工程(c)での熱接合は、密閉された空間内で、前記ホットプレス手段を用いて行われることが好ましい。つまり、本発明の製造装置は、ホットプレス手段および加湿手段を収容する、密閉可能なチャンバーを含むことが好ましい。
ホットプレス手段および加湿手段を収容するチャンバーを密閉可能とすることにより、ホットプレス手段の内部を、高水蒸気圧雰囲気(相対湿度100%R.H.)とすることができる。このため、電解質膜が乾燥して熱収縮することを十分に抑制しながら、触媒層と拡散層とを熱接合することができる。
さらには、密閉可能なチャンバーを用いることにより、温度100〜160℃、相対湿度50%R.H.以上の雰囲気を容易に実現することができる。
【0059】
図2の製造装置20においては、上部ヒーターブロック21および下部ヒーターブロック22は、耐熱性および耐圧性を有する材料からなるチャンバー24内の空間26に配置されている。前記チャンバー24は、シャッター25を閉じることで、密閉することができる。
【0060】
なお、ホットプレスが行われる雰囲気の相対湿度には、以下のような値を用いることができる。ホットプレスの最中に、ホットプレス手段30の側面部32に設置した湿度測定手段27を用いて、ホットプレス手段30の側面部32付近の雰囲気の相対湿度を計測する。得られた値を、ホットプレスが行われる雰囲気の相対湿度とすることができる。湿度測定手段27としては、例えば、高温ディジタル温湿度計を用いることができる。
【実施例】
【0061】
本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、これらの実施例は、本発明を何ら限定するものではない。
《実施例1》
図1に示されるような膜電極接合体を作製した。
アノード触媒層を、以下のようにして作製した。アノード触媒として、平均粒径3nmのPt−Ru合金微粒子(Pt:Ruの重量比=2:1)を用いた。
【0062】
前記アノード触媒をイソプロパノールの水溶液中に超音波分散させた。得られた分散液に、高分子電解質を5重量%含有した水溶液を添加し、得られた混合物をディスパーで攪拌して、アノード触媒インクを調製した。この際、アノード触媒インク中のPt−Ru合金微粒子と高分子電解質との重量比を2:1とした。高分子電解質としては、パーフルオロカーボンスルホン酸イオノマー(旭硝子(株)製のFlemion)を用いた。
【0063】
次に、スプレー式塗布装置を用いて、アノード触媒層を電解質膜10上に6cm×6cmのサイズで形成した。アノード触媒層に含まれるPt−Ru触媒の量は、6.2mg/cm2であった。なお、Pt−Ru触媒の量は、アノード触媒層の投影単位面積(アノード触媒層の主面を法線方向から見た場合のアノード触媒層の単位面積)あたりに含まれるPt−Ru触媒の重量である。
【0064】
電解質膜10としては、15cm×10cmのサイズに切断した炭化水素系電解質膜(ポリフューエル社製、膜厚62μm)を用いた。
【0065】
カソード触媒層を、以下のようにして作製した。カソード触媒として、平均粒径3nmのPtを用いた。カソード触媒は、平均一次粒子径30nmの導電性炭素粒子に担持させた。前記導電性炭素粒子としては、カーボンブラック(三菱化学(株)製のケッチェンブラックEC)を用いた。導電性炭素粒子とPtとの合計重量に占めるPtの割合は46重量%とした。
【0066】
前記カソード触媒をイソプロパノールの水溶液中に超音波分散させた。得られた分散液に、高分子電解質を5重量%含有した水溶液を添加し、ディスパーで攪拌して、カソード触媒インクを調製した。この際、カソード触媒インク中の導電性炭素粒子の重量に対する高分子電解質の重量の比率を0.45とした。高分子電解質としては、パーフルオロカーボンスルホン酸イオノマー(旭硝子(株)製のFlemion)を用いた。
【0067】
次に、スプレー式塗布装置を用いて、電解質膜のアノード触媒層が形成されている面とは反対側の面上に、アノード触媒層に対向するように、6cm×6cmのサイズのカソード触媒層を形成した。カソード触媒層に含まれるPt触媒の量は1.25mg/cm2であった。なお、Pt触媒の量は、上記と同様に、カソード触媒層の投影単位面積(カソード触媒層の主面を法線方向から見た場合の触媒層の単位面積)あたりに含まれるPt触媒の重量である。
【0068】
アノード触媒層およびカソード触媒層が形成された電解質膜を、70℃のイオン交換水中に6時間浸漬させた。この後、前記電解質膜の表面に付着した水をキムワイプ(テックジャム製ケイドライ)で拭き取った。
【0069】
次に、触媒層を形成した電解質膜および拡散層を、上記で説明したように、ホットプレス手段30に挟み込んだ。
具体的には、中板35の固定ピン46および47に、触媒層が形成された電解質膜10を取り付けた。一方で、下板34の台部42上の固定ピン43および44に、耐熱シート37を取り付けた。この後、耐熱シート37の開口部50にアノード拡散層14を配置した。アノード拡散層14としては、カーボンペーパー(東レ(株)製のTGP−H090)を用いた。前記カーボンペーパーの片面には、撥水性のカーボン層(PTFE40%含有)を約30μmの厚さで設けておいた。アノード触媒層とアノード拡散層とは、アノード拡散層の撥水性のカーボン層がアノード触媒層に接するように積層した。
【0070】
次に、下板34に中板35を重ね合わせて、アノード拡散層とアノード触媒層とを接触させた。この後、電解質膜10の貫通孔58および59から突出している固定ピン43および44に、耐熱シート38を取り付けた。耐熱シート38の開口部53に、カソード拡散層16を配置し、カソード触媒層とカソード拡散層とを接触させた。カソード拡散層16としては、片面に撥水性のカーボン層が付与されたカーボンクロス(E−TEK(株)製のLT2500W)を用いた。カソード触媒層とカソード拡散層とは、カソード拡散層の撥水性のカーボン層がカソード触媒層に接するように積層した。
【0071】
次いで、中板35の固定ピン46および47が、上板36の貫通孔61および62に挿入され、固定ピン43および44が、上板36の貫通孔63および64に挿入されるように、中板35に上板36を重ね合わせた。
【0072】
次に、下板34と上板36との間が密閉されるように、ホットプレス手段30の側面部32を、耐熱部材33(日東電工(株)製のニトフロン粘着テープ)で被覆した。この後、上板36の複数の貫通孔61および62、ならびに貫通孔63および64にイオン交換水を注入して、水リザーバーを設けた。注入したイオン交換水の合計量は、約40ccであった。
【0073】
このようにして組み立てたホットプレス手段30を、ホットプレス装置20の上部ヒーターブロック21および下部ヒーターブロック22との間に挿入し、温度120℃、圧力41kg/cm2、および3分間の条件で、電解質膜上の触媒層と拡散層とを熱接合した。この際、シャッター25は開放された状態とした。ホットプレス終了段階でのホットプレス手段30の側面部32付近の雰囲気の相対湿度は51%R.H.であった。
【0074】
以上のような方法で得られた膜電極接合体を、膜電極接合体Aとした。
【0075】
次に、膜電極接合体Aを用いて、直接酸化型燃料電池を作製した。
まず、膜電極接合体Aのアノード11およびカソード12の周囲に、ぞれぞれ、ガスケットを、電解質膜10を挟み込むように設置した。ガスケットとしては、ポリエーテルイミド層を中間層として、その両側にシリコーンゴム層を設けた3層構造体を用いた。
【0076】
次に、膜電極接合体Aを、外寸がそれぞれ12cm×12cmのセパレータ、集電板、シート状のヒーター、絶縁板、ならびに端板で両側から挟み込み、締結ロッドで固定した。締結圧は、セパレータの単位面積あたり、12kgf/cm2とした。
セパレータとしては、厚さが4mmの樹脂含浸黒鉛材(東海カーボン(株)製のG347B)を用いた。前記樹脂含浸黒鉛材の電極と接する面には、幅1.5mm、深さ1mmのサーペンタイン型流路を形成しておいた。集電板としては、金メッキ処理を施したステンレス鋼板を使用した。シート状のヒーターには、サミコンヒーター(坂口電熱(株)製)を用いた。
【0077】
以上のようにして得られた直接酸化型燃料電池を、燃料電池Aとした。
【0078】
《実施例2》
ホットプレスを行うときの温度を130℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、膜電極接合体Bを作製した。ホットプレス終了段階でのホットプレス手段30の側面部32付近の雰囲気の相対湿度は35%R.H.であった。
【0079】
膜電極接合体Bを用い、実施例1と同様にして、燃料電池Bを作製した。
【0080】
《実施例3》
ホットプレス装置20のシャッター25を閉じることにより、ホットプレス手段および加湿手段を収容した空間26を密閉化したこと以外は、実施例1と同様にして、膜電極接合体Cを作製した。ホットプレス終了段階でのホットプレス手段30の側面部32付近の雰囲気の相対湿度は97%R.H.であった。
【0081】
膜電極接合体Cを用い、実施例1と同様にして、燃料電池Cを作製した。
【0082】
《比較例1》
ホットプレス手段30の水リザーバー内にイオン交換水を注入することなく、ホットプレスを行ったこと以外は、実施例1と同様にして、比較膜電極接合体1を作製した。ホットプレス終了段階でのホットプレス手段30の側面部32付近の雰囲気の相対湿度は2%R.H.であった。
【0083】
比較膜電極体1を用い、実施例1と同様にして、比較燃料電池1を作製した。
【0084】
《比較例2》
温度を130℃とし、ホットプレス手段30の水リザーバー内にイオン交換水を注入することなく、ホットプレスを行ったこと以外は、実施例1と同様にして、比較膜電極接合体2を作製した。ホットプレス終了段階でのホットプレス手段30の側面部32付近の雰囲気の相対湿度は1%R.H.であった。
【0085】
比較膜電極接合体2を用い、実施例1と同様にして、比較燃料電池2を作製した。
【0086】
《比較例3》
温度を130℃とし、時間を8分間とし、ホットプレス手段30の水リザーバー内にイオン交換水を注入することなく、ホットプレスを行ったこと以外は、実施例1と同様にして、比較膜電極接合体3を作製した。ホットプレス終了段階でのホットプレス手段30の側面部32付近の雰囲気の相対湿度は1%R.H.であった。
【0087】
比較膜電極接合体3を用い、実施例1と同様にして、比較燃料電池3を作製した。
【0088】
実施例1〜3および比較例1〜3で用いた電解質膜の膨潤状態から乾燥状態まで変化させたときの収縮率は、以下の方法により算出した。
まず、電解質膜の表面に寸法測定の基準となる直線を引いた。次に、電解質膜を70℃のイオン交換水中に6時間浸漬させた後の基準直線の長さAを測定した。その後、上記電解質膜を70℃のヒーター上で2時間減圧乾燥させた直後の長さBを測定した。長さBの値を長さAの値で除すことで収縮率を算出した。その結果、実施例1〜3および比較例1〜3に使用した電解質膜の湿潤状態から乾燥状態まで乾燥させたときの収縮率は7.0%であった。
【0089】
[評価]
実施例1〜3で作製した膜電極接合体A〜Cおよび比較例1〜3で作製した比較膜電極接合体1〜3について、熱接合時の電解質膜の収縮率の測定、および触媒層と拡散層との界面接合状態の観察を行った。さらに、燃料電池A〜Cおよび比較燃料電池1〜3の耐久特性についても評価した。
【0090】
(熱接合時の電解質膜の収縮率)
まず、電解質膜表面の触媒層を形成する領域内に寸法測定の基準となる直線を引いた。次に、電解質膜を70℃のイオン交換水中に6時間浸漬させた後の基準直線の長さAを測定した。電解質膜の表面付着水をキムワイプ(テックジャム製のケイドライ)で拭き取った後、ホットプレス手段30の中板35に取り付けた。次に、アノード拡散層とカソード拡散層の代わりにポリテトラフルオロエチレンシート(ニチアス社製のナフロンPTFEシート)を設置した。前記以外は、実施例1と同様の手順にて、ホットプレス手段30を組み立てた。
【0091】
その後、得られたホットプレス手段をホットプレス装置の上部ヒーターブロックと下部ヒーターブロックとの間に挿入し、実施例1と同一条件でホットプレスを行った。ホットプレス直後に、ホットプレス手段30を分解して、電解質膜表面の基準直線の長さBを測定した。長さBの値を長さAの値で除すことで収縮率を算出した。
得られた結果を表1に示す。表1において、収縮率は百分率値で表している。
【0092】
(触媒層と拡散層との界面接合状態)
実施例1〜3および比較例1〜3で作製した膜電極接合体を70℃のイオン交換水中に3時間浸漬させた後、触媒層と拡散層との界面接合状態を目視で観察した。結果を表1に示す。表1では、拡散層が触媒層から剥離していない場合を記号「○」、拡散層の一部が触媒層から剥離している場合を記号「△」、拡散層が触媒層から完全に剥離した場合を記号「×」で示す。
【0093】
(耐久特性)
実施例1〜3および比較例1〜3で作製した燃料電池を、以下のような評価に供した。
4Mメタノール水溶液を流量0.27cc/minでアノードに供給し、空気を流量0.26L/minでカソードに供給し、0.4Vの定電圧で、各燃料電池を連続発電させた。発電時の電池温度は60℃とした。発電開始から4時間経過した時点の電流密度値から電力密度値を算出した。得られた値を初期電力密度とした。さらに、発電開始から1000時間経過した時点の電流密度値から電力密度値を算出した。初期電力密度に対する1000時間経過したときの電力密度の比率を電力密度維持率とした。得られた結果を表1に示す。表1において、電力密度維持率は百分率値で表している。
【0094】
【表1】

【0095】
表1に示されるように、実施例1〜3においては、熱接合時の電解質膜の収縮率は小さい値を示した。さらに、膜電極接合体A〜Cにおける触媒層と拡散層との界面接合性は良好な結果を示した。
本発明においては、触媒層が形成された電解質膜および拡散層を配置するホットプレス手段内部の空気が水蒸気で置換され、ホットプレス手段内部が水蒸気で満たされる。ホットプレス手段内部が水蒸気で満たされた状態で、触媒層と拡散層とのホットプレスを行うことが可能となるために、電解質膜が乾燥し熱収縮する前に、触媒層と拡散層とを熱接合することができる。このため、触媒層と拡散層との界面接合性を良好に維持できたと考えられる。
【0096】
特に、実施例3のように、密閉された空間内でホットプレスを行った場合に、熱接合時の電解質膜の収縮率は最も小さい値を示した。この方法では、ホットプレス手段内部の空気を水蒸気で置換し、かつホットプレス手段内部の雰囲気における水蒸気の圧力をより高くすることができる。よって、ホットプレス時に、電解質膜が乾燥し熱収縮することが十分に抑制されたために、実施例3における熱接合時の電解質膜の収縮率が最も小さい値を示したと考えられる。
【0097】
以上のように、実施例1〜3においては、電解質膜内部に水が存在している状態を維持したまま、すなわち、電解質膜の収縮を抑制した状態で、触媒層と拡散層とを熱接合することができる。このため、MEA活性化処理およびセル発電時の電解質膜の寸法変化を低減でき、よって、触媒層と拡散層との界面接合性を確保することが可能となる。その結果、実施例1〜3で作製した燃料電池A〜Cは、優れた耐久特性を示したと考えられる。
【0098】
一方、比較例1〜3においては、熱接合時の電解質膜の収縮率は大きな値を示した。さらに、比較膜電極接合体1〜3における触媒層と拡散層との界面接合性は悪化していた。
比較例1〜3の場合には、ホットプレス時に、電解質膜が加湿されないため、電解質膜から水が蒸発して熱収縮し、電解質膜が収縮した状態で、電解質膜上の触媒層と拡散層とが熱接合される。得られた膜電極接合体を水に浸漬した場合、電解質膜が、触媒層と拡散層との界面接合力に打ち勝って膨潤するため、触媒層と拡散層との界面接合性が悪化したと考えられる。
【0099】
さらに、比較例1〜3で作製した比較燃料電池1〜3は、耐久性が悪化していた。上記のように、これらの比較燃料電池に用いられる膜電極接合体は、触媒層と拡散層との間の接合性が低下している。このため、比較燃料電池1〜3においては、発電時間とともに、カソード触媒層とカソード拡散層との界面剥離部分に反応生成水およびアノードから移動してきた水が液体状態で蓄積する。この水により、酸化剤である酸素の拡散性が低下し、カソード過電圧が増加する。その結果、耐久性が悪化したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の製造方法により作製された膜電極接合体は、触媒層と拡散層との界面接合性が良好で、優れた耐久性を有するため、前記膜電極接合体を含む直接酸化型燃料電池は、優れた耐久性を有する。よって、前記直接酸化型燃料電池は、例えば、携帯電話、ノートパソコン、ディジタルスチルカメラ等の携帯用小型電子機器用の電源として好適に用いることができる。さらに、前記直接酸化型燃料電池は、例えば、電動スクータ、自動車等の電源としても好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の製造方法により作製された膜電極接合体の一例を示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る膜電極接合体の製造装置を示す概略図である。
【図3】本発明の製造装置に含まれるホットプレス手段一例の斜視図である。
【図4】図3のホットプレス手段の分解斜視図である。
【符号の説明】
【0102】
1 膜電極接合体
10 電解質膜
11 アノード
12 カソード
13 アノード触媒層
14 アノード拡散層
15 カソード触媒層
16 カソード拡散層
20 ホットプレス装置
21 ヒーターブロック上部
22 ヒーターブロック下部
23 温度コントローラー
24 チャンバー
25 シャッター
26 チャンバー内の空間
27 湿度測定手段
30 ホットプレス手段
32 側面部
33 耐熱部材
34 下板
35 中板
36 上板
37、38 耐熱シート
40、41、43、44 下板に設けられた固定ピン
42、60 台部
45、50、53 開口部
46、47 中板に設けられた固定ピン
48、49 中板に設けられた貫通孔
51、52 耐熱シート37に設けられた貫通孔
54、55 耐熱シート38に設けられた貫通孔
56、57、58、59 電解質膜に設けられた貫通孔
61、62、63、64、65、66 上板に設けられた貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、触媒層と、拡散層とを有し、前記電解質膜を膨潤状態から乾燥状態まで乾燥したときの前記電解質膜の収縮率が5%以上である膜電極接合体の製造方法であって、
(a)前記電解質膜の表面に、触媒層を形成する工程、
(b)前記触媒層を形成した電解質膜を、水で湿潤させる工程、および
(c)前記触媒層の上に、拡散層を、前記電解質膜の収縮率が3%以下となる環境下で、熱接合する工程
を有する、膜電極接合体の製造方法。
【請求項2】
前記工程(c)において、前記熱接合が、相対湿度50%R.H.以上の雰囲気中、100〜160℃の温度で行われる、請求項1記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項3】
前記工程(c)において、前記熱接合が、前記電解質膜に連通する水リザーバーが設けられたホットプレス手段を用いて行われ、かつ前記熱接合が、前記水リザーバー内に液体状態の水が収容された状態で行なわれる、請求項1または2記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項4】
前記工程(c)において、前記熱接合が、密閉空間内で行われる、請求項3記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項5】
電解質膜と、触媒層と、拡散層とを有する膜電極接合体の製造装置であって、
(i)電解質膜の上に形成された触媒層と、拡散層とを熱接合するためのホットプレス手段、および
(ii)前記触媒層と前記拡散層とを熱接合するときに、前記電解質膜を加湿するための加湿手段
を備える、膜電極接合体の製造装置。
【請求項6】
前記ホットプレス手段は、前記電解質膜、前記触媒層および前記拡散層を挟み込む2つの板状部材を含み、
前記加湿手段は、前記ホットプレス手段に設けられた水リザーバーを含み、前記水リザーバーは、前記2枚の板状部材の間に配置される前記電解質膜に水を供給する、請求項5記載の膜電極接合体の製造装置。
【請求項7】
前記水リザーバーと、前記電解質膜が配置される前記2つの板状部材の間とが、連通している、請求項6記載の膜電極接合体の製造装置。
【請求項8】
前記触媒層および前記拡散層を挟み込む2つの板状部材の間を密閉する手段をさらに備える、請求項6または7記載の膜電極接合体の製造装置。
【請求項9】
前記ホットプレス手段および前記加湿手段を収容する、密閉可能なチャンバーをさらに備える、請求項5〜8のいずれかに記載の膜電極接合体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−170895(P2010−170895A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13196(P2009−13196)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】