説明

膝関節運動補助装置

【課題】膝関節運動補助装置を円滑に動作させる。
【解決手段】上腿部に装着される上腿装着部と、下腿部に装着される下腿装着部と、上腿装着部及び下腿装着部の膝関節側端部間を回転可能に連結する連結部8と、この連結部を中心にして上腿装着部と下腿装着部とを相対的に回転運動させながら膝関節側端部間を前後方向に相対的にスライド運動させる駆動部とを備える。駆動部が、周縁カム22と、この周縁カムを挟むように配置されるカムフォロア24及び駆動歯車25とを有し、この周縁カムとカムフォロア及び駆動歯車とが上腿装着部と下腿装着部に夫々取り付けられ、周縁カムの周縁には、駆動歯車が係合する歯列22aと、カムフォロアが接する平滑縁22bとが形成され、駆動歯車の回転により周縁カムが駆動歯車とカムフォロアとの間で回転すると回転運動及びスライド運動が生じるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形性膝関節症の患者等における歩行運動、屈伸動作、リハビリテーション等の補助に使用することができる膝関節運動補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の膝関節は大腿骨、脛骨、膝蓋骨からなる骨の部分と、半月板からなる軟骨と、前十字靭帯、後十字靭帯、内側副靭帯、外側副靭帯等の靭帯によって構成される。
【0003】
図10に示すように、大腿骨1の下部は後方に突出しており、いくつもの大きさの違う円弧を組み合わせたような形状になっている。脛骨2の上面は略平坦でこの上を大腿骨1の下部が滑りながら回転することで膝の屈伸運動が行われる。
【0004】
図11は膝の屈伸運動に伴って大腿骨1の下部の回転中心3が描く軌跡を示す。図11から明らかなように、膝関節が屈伸すると大腿骨1の下部の回転中心3は、ずれながら螺旋状の軌跡を描く。このように膝関節は単なる回転運動を行うのではなく、すべり転がり運動を行っている。
【0005】
また、図10は膝関節の角度とすべり量との関係の一例を示す。図10中、膝関節の屈曲角度U,V,Wはすべり量u,v,wにそれぞれ対応する。膝関節1の屈伸運動の可動域は、膝が伸びた状態のときを0°とすると、0°〜130°程度であり、歩行時に使用している可動域は大体0°〜60°である。この可動域のうち、膝の曲がり始めから10°〜15°の間は、略一軸の転がり運動をし、その後徐々にすべり運動へ移行してすべり転がり運動となる。
【0006】
従来、このような膝関節のすべり転がり運動を考慮して、人体の上腿部に装着される上腿装着部に対して人体の下腿部に装着される下腿装着部を回転させたときに、下腿装着部の膝関節側端部が前後方向にスライドするようにした膝関節運動補助装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この膝関節運動補助装置によれば、人間の膝関節運動への追従性を高めることができ、装具のずれを防止したり、装着違和感等を解決したりすることができる。
【0007】
【特許文献1】特開2007−275482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の膝関節運動補助装置では、モーターの動力をリンク装置によって膝関節に伝えるようになっているので、作動時にリンクが装置本体から食み出たり、人体の一部に接触したりするという問題がある。また、リンクの回動角度によって減速比が変化し、特に膝関節の屈曲角度が大きい場合にトルクが低下しやすくなるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、膝関節の複雑な動きを忠実に再現することが出来ると同時に、上記問題点を解決することができる膝関節運動補助装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は次のような構成を採用する。
【0011】
なお、理解を容易にするため図面の参照番号を括弧付きで付するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0012】
すなわち、請求項1に係る発明は、上腿部(4)に装着される上腿装着部(5)と、下腿部(6)に装着される下腿装着部(7)と、上記上腿装着部(5)及び下腿装着部(7)の膝関節側端部間を回転可能に連結する連結部(8)と、この連結部(8)を中心にして上記上腿装着部(5)と下腿装着部(7)とを相対的に回転運動させながら上記膝関節側端部間を前後方向に相対的にスライド運動させる駆動部とを備えた膝関節運動補助装置において、上記駆動部が、周縁カム(22)と、この周縁カム(22)を挟むように配置されるカムフォロア(24)及び駆動歯車(25)とを有し、この周縁カム(22)とカムフォロア(24)及び駆動歯車(25)とが上記上腿装着部(5)及び下腿装着部(7)の一方と他方に夫々取り付けられ、上記周縁カム(22)の周縁には、上記駆動歯車(25)が係合する歯列(22a)と、上記カムフォロア(24)が接する平滑縁(22b)とが形成され、上記駆動歯車(25)の回転により上記周縁カム(22)が上記駆動歯車(25)と上記カムフォロア(24)との間で回転すると上記回転運動及びスライド運動が生じるようにした膝関節運動補助装置を採用する。
【0013】
請求項2に記載されるように、請求項1に記載の膝関節運動補助装置において、上記カムフォロア(24)及び駆動歯車(25)が上記上腿装着部(5)に取り付けられ、上記周縁カム(22)が上記下腿装着部(7)に取り付けられたものとすることができる。
【0014】
請求項3に記載されるように、請求項1又は請求項2に記載の膝関節運動補助装置において、上記連結部(8)が、枢軸(20)と、この枢軸(20)が挿入される長孔(21)とを有し、この枢軸(20)と長孔(21)とが上記上腿装着部(5)及び下腿装着部(7)の一方と他方に夫々設けられたものとすることができる。
【0015】
請求項4に記載されるように、請求項1又は請求項2に記載の膝関節運動補助装置において、上記周縁カム(22)の歯列(22a)と平滑縁(22b)との境界に、上記駆動歯車(25)とカムフォロア(24)が夫々当たることによって、上腿部(4)と下腿部(6)の直立状態又は屈曲状態を保持せしめるストッパ(33)が設けられたものとすることができる。
【0016】
請求項5に記載されるように、請求項1に記載の膝関節運動補助装置において、モーター(29)が上記上腿装着部(5)に取り付けられ、このモーター(29)から上記駆動歯車(25)への動力伝達系が、平歯車及びすぐばかさ歯車(30,31)の一方又は双方からなる歯車列によって構成されたものとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上腿部(4)に装着される上腿装着部(5)と、下腿部(6)に装着される下腿装着部(7)と、上記上腿装着部(5)及び下腿装着部(7)の膝関節側端部間を回転可能に連結する連結部(8)と、この連結部(8)を中心にして上記上腿装着部(5)と下腿装着部(7)とを相対的に回転運動させながら上記膝関節側端部間を前後方向に相対的にスライド運動させる駆動部とを備えた膝関節運動補助装置において、上記駆動部が、周縁カム(22)と、この周縁カム(22)を挟むように配置されるカムフォロア(24)及び駆動歯車(25)とを有し、この周縁カム(22)とカムフォロア(24)及び駆動歯車(25)とが上記上腿装着部(5)及び下腿装着部(7)の一方と他方に夫々取り付けられ、上記周縁カム(22)の周縁には、上記駆動歯車(25)が係合する歯列(22a)と、上記カムフォロア(24)が接する平滑縁(22b)とが形成され、上記駆動歯車(25)の回転により上記周縁カム(22)が上記駆動歯車(25)と上記カムフォロア(24)との間で回転すると上記回転運動及びスライド運動が生じるようにした膝関節運動補助装置であるから、膝関節の動きを再現することが出来ると同時に、作動時に部品、部材等が装置本体から食み出たり、人体や他の物体に接触したりするというおそれがない。また、動力の伝達につき減速比が安定するので、膝関節の屈曲角度が大きい場合等においても膝関節を屈伸させるためのトルクの低下を防止することができる。従って、変形性膝関節症や膝関節機能に障害を有する患者、膝関節機能が低下した高齢者等にとって膝関節の無理のない屈伸運動を補助することができ、患者や高齢者等はごく自然に歩行したり、立ち上がったり、座ったりすることができる。
【0018】
請求項2に記載されるように、請求項1に記載の膝関節運動補助装置において、上記カムフォロア(24)及び駆動歯車(25)が上記上腿装着部(5)に取り付けられ、上記周縁カム(22)が上記下腿装着部(7)に取り付けられたものとすれば、モーター(29)等の駆動源を上腿部(4)側に設置することができ、患者等への負担を軽減することができる。
【0019】
請求項3に記載されるように、請求項1又は請求項2に記載の膝関節運動補助装置において、上記連結部(8)が、枢軸(20)と、この枢軸(20)が挿入される長孔(21)とを有し、この枢軸(20)と長孔(21)とが上記上腿装着部(5)及び下腿装着部(7)の一方と他方に夫々設けられたものとすれば、膝関節運動補助装置の構造を簡素化することができる。
【0020】
請求項4に記載されるように、請求項1又は請求項2に記載の膝関節運動補助装置において、上記周縁カム(22)の歯列(22a)と平滑縁(22b)との境界に、上記駆動歯車(25)とカムフォロア(24)が夫々当たることによって、上腿部(4)と下腿部(6)の直立状態又は屈曲状態を保持せしめるストッパ(33)が設けられたものとすれば、膝関節運動補助装置を直立状態や屈曲状態に確実に停止させることができる。したがって、患者等は直立姿勢、着座姿勢を容易に保持することができ、また、着座姿勢から容易に立ち上がり動作に移行することができる。
【0021】
請求項5に記載されるように、請求項1に記載の膝関節運動補助装置において、モーター(29)が上記上腿装着部(5)に取り付けられ、このモーター(29)から上記駆動歯車(25)への動力伝達系が、平歯車及びすぐばかさ歯車(30,31)の一方又は双方からなる歯車列によって構成されたものとすれば、クラッチ等を設けずとも人体側からの入力に対してその動きを制限することがない。したがって、モーター(29)の非稼動時に患者等は自由に脚を動かせることができるのはもちろんのこと、稼動時において患者等が転倒するような場合であってもすこぶる安全である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0023】
図1乃至図3に示すように、この膝関節運動補助装置は、人体の脚に装着されるもので、脚の膝関節から上腿部4にかけて装着される上腿装着部5と、膝関節から下腿部6にかけて装着される下腿装着部7と、上腿装着部5及び下腿装着部7の膝関節側端部間を回転可能に連結する連結部8と、連結部8を中心にして上腿装着部5と下腿装着部7とを相対的に回転させながら上記膝関節側端部間を前後方向に相対的にスライド運動させる駆動部とを具備する。
【0024】
図4及び図5に示すように、上腿装着部5は、膝関節の側面に沿うように設けられる板状の基部9を有する。
【0025】
この基部9には、図1乃至図5に示すように、細長い板状の上添え部10が連結されて基部9と一体化される。この上添え部10が上腿部4の外側面に沿って立ち上がる。図1乃至図3に示すように、上添え部10の上端部は患者の腰に巻き付けられた腰ベルト11に連結具12を介して連結され、上添え部10の上記基部9に隣接した部分が上腿当て部13、面ファスナ14等を介して上腿部4に連結される。
【0026】
また、図1乃至図5に示すように、下腿装着部7は細長い板状の下添え部15を有し、この下添え部15の上端部が上記基部9に膝関節側から重なり合い、そこから下腿部6の外側面に沿って垂下する。図1乃至図3に示すように、下添え部15の上記基部9に隣接する部分が下腿当て部16、面ファスナ17等を介して下腿部6の膝下部分に連結され、下添え部15の下端部が足首当て部18、面ファスナ19等を介して下腿部6の足首に連結される。
【0027】
上腿装着部5と下腿装着部7の膝関節側端部間は、連結部8によって回転可能に連結される。
【0028】
図4及び図5に示すように、上腿装着部5の膝関節側端部は上記上添え部10が連結された基部9が該当し、下腿装着部7の膝関節側端部は上記下添え部15の上端部が該当する。
【0029】
図4乃至図6に示すように、連結部8は、ピン状の枢軸20とこの枢軸20が挿入される長孔21を具備する。枢軸20は基部9に固定され、基部9から下添え部15の上端部へと突出する。下添え部15の上端部には基部9に対向するように後述する駆動部の周縁カム22が固定され、この周縁カム22の中央部に上記長孔21が形成される。枢軸20はこの長孔21を下添え部15へと貫通する。図5及び図6に示すように、枢軸20の先端には周縁カム22を基部9側に拘束する頭部20aが設けられる。下添え部15にはこの頭部20aが移動可能な覗き孔23が上記長孔21と相似形に形成される。
【0030】
これにより、上腿装着部5と下腿装着部7は、連結部8の枢軸20を中心にして相対的な回転運動が可能であり、かつ、枢軸20が長孔21内をスライド可能であることによって上腿装着部5と下腿装着部7の膝関節側端部間は前後方向に相対的にスライド運動が可能となる。
【0031】
なお、枢軸20と長孔21とは、上腿装着部5と下腿装着部7との間で入れ替えることも可能である。
【0032】
上腿装着部5と下腿装着部7の上記回転運動とスライド運動は、図4乃至図6に示す駆動部の駆動によって行われる。
【0033】
この駆動部は、周縁カム22と、この周縁カム22を挟むように配置されるカムフォロア24及び駆動歯車25とを有する。駆動部は、図3に示すように、カバー28によって覆われる。カバー28は基部9に対して着脱可能である。
【0034】
周縁カム22は上述したように下腿装着部7の下添え部15の上端部に固定される。図6中、符号26は周縁カム22を下添え部15の上端部に固定するための固定ネジを示す。
【0035】
カムフォロア24及び駆動歯車25は、上腿装着部5の基部9に回転可能に枢支され、基部9から上記枢軸20と同じ方向に突出する。カムフォロア24は回転自在なローラとして基部9に取り付けられる。駆動歯車25はピニオンとして形成され、その軸25aが基部9にベアリング27を介して回転自在に支持される。カムフォロア24と駆動歯車25は、上記枢軸20の中心を通って周縁カム22を横切るように伸びる線上に配置され、周縁カム22を挟んで対峙するように設けられる。
【0036】
図6に示すように、周縁カム22の周縁には、駆動歯車25が係合する歯列22aと、カムフォロア24が接する平滑縁22bとが形成される。歯列22a及び駆動歯車25の歯は望ましくはすぐ歯として形成される。
【0037】
これにより、駆動歯車25が回転すると、周縁カム22が駆動歯車25とカムフォロア24との間で回転すると同時に揺動する。したがって、図6乃至図9に示すように、上腿装着部5と下腿装着部7とが枢軸20を支点にして相対的な回転運動を行うと同時に、枢軸20が長孔21内をスライドし、上腿装着部5と下腿装着部7の膝関節側端部間は前後方向に相対的にスライド運動を行うこととなる。このときの上腿装着部5と下腿装着部7の動きは、図10に示した膝関節の回転運動ないしすべり転がり運動に近似し、また、大腿骨1の下部における回転中心3は、図11に示した螺旋状の軌跡を描くように移動する。
【0038】
上記周縁カム22の周縁の輪郭は、上記のような膝関節の運動を生じるように形成される。すなわち、実際の膝関節は、図10及び図11に示したように、膝関節角がまっすぐな0°から曲がり始めの15°の間は、すべりのない単純な回転運動を行うことから、周縁カム22の輪郭のうち膝関節角の0°〜15°に対応する部分は、真円状の円弧に形成され、膝関節角が15°〜105°の間では、膝関節は回転すべり運動を行うことから、周縁カム22の輪郭は横方向に延びる楕円状の円弧に形成され、膝関節角が105°以上では膝関節は再び回転運動を行うことから、周縁カム22の輪郭は真円状の円弧に形成される。これにより、上腿装着部5と下腿装着部7には、実際の膝関節の動きに近似した動きが実現される。
【0039】
膝関節の動きは患者の体型、年齢、性等によって違いが生じるが、これには周縁カム22の輪郭を適宜変更することによって対処可能である。
【0040】
なお、周縁カム22とカムフォロア24及び駆動歯車25とは、上記上腿装着部5及び下腿装着部7との間で入れ替えることも可能である。
【0041】
図4及び図5に示すように、駆動部の動力源としてのモーター29が上記上腿装着部5の基部9に縦向きに取り付けられる。また、このモーター29から上記駆動歯車25への動力伝達系もこの基部9に取り付けられる。
【0042】
動力伝達系は、具体的には、平歯車及びすぐばかさ歯車の組合せからなる歯車列によって構成される。この歯車列の一部はモーター29内の図示しない歯車減速機として設けられる。この歯車減速機は例えば平歯車列によって構成される。図5に示すように、歯車減速機の終端歯車の軸29aがモーター29のケーシングから略垂直下方に向かって突出し、その軸29aの先端にすぐばかさ歯車30が固定される。このすぐばかさ歯車30には他のすぐばかさ歯車31が噛み合っており、このすぐばかさ歯車31が上記駆動歯車25の軸25aに固定される。
【0043】
これにより、モーター29が回転すると、その動力が駆動歯車25に伝達され、上述したような相対的回転運動及びスライド運動が上腿装着部5と下腿装着部7との間に生じることになる。また、このように動力伝達系が平歯車及びすぐばかさ歯車30,31の一方又は双方からなる歯車列によって構成されることから、クラッチ等を設けずとも人体側からの入力に対してその動きを制限することがない。したがって、セルフロックが回避されることとなり、モーター29の非稼動時に患者等は自由に脚を動かせることができるのはもちろんのこと、モーター29の稼動時において患者等が転倒するような場合であってもモーター29に抗するように脚を動かせることができるのですこぶる安全である。
【0044】
上記モーター29は図4に示す制御部32によって制御され、上記周縁カム22の所定の角度範囲内において正転し又は逆転する。
【0045】
例えば、この膝関節運動補助装置を装着した患者等が、図6に示す起立状態から図7に示す中間状態を経て図8に示す屈曲状態に姿勢を変更しようとする場合は、駆動歯車25が矢印Aの方向に回転しつつ周縁カム22の回りを矢印aの方向に公転する。これにより、上腿装着部5と下腿装着部7が連結部8を中心にして屈曲し、例えば患者の上腿部4は椅子等に着座可能になる。
【0046】
図6に示すように、上腿装着部5が下腿装着部7に対して真っ直ぐに伸びた状態から少しばかり屈曲するまでは、枢軸20が長孔21の一端21aに当たって停止し、長孔21内を滑ることなく回転のみ可能である。これは、膝関節角の0°〜15°に対応し、この角度範囲内では、膝関節はすべりのない単純な回転運動を行う。
【0047】
図7に示すように、上腿装着部5が下腿装着部7に対して更に曲がろうとすると、枢軸20が長孔21内をその一端21aから他端21bに向かって滑りつつ回転運動を行う。これは、膝関節角の15°〜105°に対応する。これにより、図8に示すように、患者の上腿部4は下腿部6に対して約90°屈曲し、患者は無理なく椅子等に着座することができる。
【0048】
また、この膝関節運動補助装置を装着した患者が、図8に示す椅子等への着座状態から起立しようとする場合は、患者の上腿部4は下腿部6に対して90°を超えて更に屈曲しようとする。その場合の膝関節角は105°〜135°であり、この角度範囲内では膝関節は再び回転運動のみを行う。これにより、膝関節角が105°に到達するまでは、図8中、枢軸20が長孔21内をその一端21aから他端21bに向かって滑りつつ回転運動を行い、膝関節角が105°に到達すると、図9に示すように、枢軸20が長孔21の他端21bに当って停止し、膝関節が105°〜135°の範囲内で屈曲する際は枢軸20はその停止位置で回転運動のみ行う。
【0049】
その後、制御部32からの指令によってモーター29が逆転し、図9、図8、図7および図6で順次示すように、駆動歯車25が矢印Bの方向に回転しつつ周縁カム22の回りを矢印bの方向に公転する。これにより、患者は椅子等への着座状態から起立することが可能になる。
【0050】
なお、図6及び図9に示すように、膝関節角0°及び135°に対応して、周縁カム22にはストッパ33が設けられる。すなわち、周縁カム22の歯列22aと平滑縁22bとの境界に、駆動歯車25とカムフォロア24が夫々当たることによって、上腿部4と下腿部6の直立状態又は屈曲状態を保持せしめるストッパ33が凸状に設けられる。
【0051】
図6に示すように、上腿装着部5が下腿装着部7に対して直立状態になると、駆動歯車25がストッパ33に当たって停止し、その結果、患者は直立姿勢を容易に保持することができる。また、図9に示すように、上腿装着部5が下腿装着部7に対して所定の膝関節角の屈曲状態になると、カムフォロア24がストッパ33に当たって停止し、その結果、患者は着座姿勢から容易に立ち上がり動作に移行することができる。
【0052】
また、図9中、周縁カム22における歯列22aと平滑縁22bの各々をより長く形成することによって、上腿装着部5が下腿装着部7に対して例えば約160°屈曲可能とすることもできる。その場合は、患者は正座をすることができる。
【0053】
次に、上記構成の膝関節運動補助装置の作用について説明する。
【0054】
まず、図1(A)及び図2に示すように、膝関節運動補助装置が変形性膝関節症を発症した患者の脚に装着される。
【0055】
すなわち、膝関節運動補助装置の連結部8が患者の膝関節の側面に当てられ、上腿装着部5の上添え部10が上腿部4の側面に当てられ、下腿装着部7の下添え部15が下腿部6の側面に当てられる。
【0056】
そして、上添え部10の上端部が患者の腰に巻き付けられた腰ベルト11に連結具12を介して連結され、上添え部10の基部9に隣接した部分が上腿当て部13、面ファスナ14等を介して上腿部4の膝上部分に連結される。
【0057】
また、下添え部15の基部9に隣接する部分が下腿当て部16、面ファスナ17等を介して下腿部6の膝下部分に連結され、下添え部15の下端部が足首当て部18、面ファスナ19等を介して下腿部6の足首に連結される。
【0058】
その他、図示しないが電池が腰ベルト11に取り付けられ、この電池にモーター29が電気的に接続される。
【0059】
モーター29の図示しないON/OFFスイッチが入れられると、モーター29が起動し、その動力が駆動部の歯車列を介して駆動歯車25に入力される。
【0060】
モーター29は制御部32によって歩行用、着座用等の各種の制御モードで制御される。
【0061】
歩行用の制御モードにセットされた場合は、図6のごとく膝関節が伸長した状態で駆動歯車25が矢印Aの方向に回り始め、周縁カム22の回りを矢印a方向に公転し、その結果、上腿装着部5と下腿装着部7とが相対的回転運動を行って図7のごとく膝関節を屈曲させる。この回転運動による膝関節の回転角度は例えば0°〜60°の範囲内である。
【0062】
また、同時に周縁カム22が駆動歯車25とカムフォロア24との間で周縁カム22の直径方向に揺動することから、枢軸20が図6の位置から及び図7の位置へと長孔21内を後方にスライドする。
【0063】
このように、上腿装着部5と下腿装着部7とが枢軸20を支点にして屈曲する回転運動を行うと同時に、枢軸20が長孔21内を後方にスライド運動することから、上腿装着部5と下腿装着部7は、図10に示した人体の膝関節のすべり転がり運動に近似した動きをすることとなり、患者は無理なく自然に脚を屈曲させることができる。
【0064】
駆動歯車25が周縁カム22の回りを矢印a方向に所定角度だけ公転すると、モーター29が逆転に切り替えられ、駆動歯車25が矢印Bの方向に回り始め、周縁カム22の回りを矢印b方向に公転し、その結果、上腿装着部5と下腿装着部7とが相対的回転運動を行って図6のごとく膝関節を伸長させる。
【0065】
また、同時に周縁カム22が駆動歯車25とカムフォロア24との間を周縁カム22の直径方向に揺動することから、枢軸20が図7の位置から及び図6の位置へと長孔21内を前方にスライドする。
【0066】
これにより、上腿装着部5と下腿装着部7とが枢軸20を支点にして脚を伸ばす方向に回転運動を行うと同時に、枢軸20が長孔21内を前方にスライド運動することから、上腿装着部5と下腿装着部7は、図10に示した人体の膝関節のすべり転がり運動に近似した動きをすることとなり、患者は無理なく自然に脚を伸ばすことができる。
【0067】
枢軸20が図7の位置から及び図6の位置へと長孔21内を前方にスライドすると、長孔21の他端21bに当たって停止する。
【0068】
また、駆動歯車25が周縁カム22のストッパ33に当たって停止する。これにより、上腿装着部5と下腿装着部7の逆向きの屈曲が阻止され、患者の起立状態が保持され膝関節が保護される。
【0069】
その後、モーター29の正逆転の繰り返しによって、上記駆動歯車25の回転が矢印Aの方向と矢印Bの方向に交互に切り替えられ、上腿装着部5と下腿装着部7の伸長と屈曲とが繰り返され、図1(A)(B)に示すように、患者の歩行動作が補助される。
【0070】
モーター29が制御部32によって着座用の制御モードにセットされた場合は、図6のごとく膝関節が伸長した状態で駆動歯車25が矢印Aの方向に回り始め、周縁カム22の回りを矢印a方向に公転し、その結果、上腿装着部5と下腿装着部7とが相対的回転運動を行い、図7の状態を経て、図8のごとく膝関節を屈曲させる。この回転運動による膝関節の回転角度は例えば0°〜90°の範囲内である。
【0071】
また、同時に周縁カム22が駆動歯車25とカムフォロア24との間を周縁カム22の直径方向に揺動することから、枢軸20が図6の位置から図8の位置へと長孔21内を後方にスライドする。
【0072】
これにより、枢軸20は図10に示した膝関節のすべり転がり運動に倣うように運動する。
【0073】
駆動歯車25が周縁カム22の回りを矢印a方向に所定角度だけ公転すると、モーター29が停止し、上腿装着部5と下腿装着部7との相対的回転運動も停止し、患者は椅子等に着座可能となる。
【0074】
患者が椅子から起立しようとする場合は、患者の上腿部4は下腿部6に対して90°を超えて更に屈曲しようとする。これに対応して、モーター29が正転を開始し、膝関節角が105°になったところで枢軸20が長孔21の他端21bに当って停止し、膝関節角が105°〜135°の範囲内において枢軸20はその停止位置で回転運動のみ行う。
【0075】
なお、膝関節角が135°になると、図9に示すように、カムフォロア24がストッパ33に当たって停止する。これにより、上腿装着部5と下腿装着部7の更なる屈曲が阻止され、膝関節が保護される。
【0076】
続いて、モーター29が逆転に切り替えられ、駆動歯車25が矢印Bの方向に回り始め、周縁カム22の回りを矢印b方向に公転し、その結果、上腿装着部5と下腿装着部7とが相対的回転運動を行って図6のごとく膝関節を伸長させる。
【0077】
また、同時に周縁カム22が駆動歯車25とカムフォロア24との間を周縁カム22の直径方向に揺動することから、枢軸20が図8の位置から及び図6の位置へと長孔21内を前方にスライドする。
【0078】
これにより、枢軸20は図10に示した膝関節のすべり転がり運動に倣うように運動する。
【0079】
枢軸20が図8の位置から及び図6の位置へと長孔21内を前方にスライドすると、長孔21の他端21bに当たって停止する。
【0080】
また、駆動歯車25がストッパ33に当たって停止する。これにより、上腿装着部5と下腿装着部7が真っ直ぐに伸びた状態に保持される。また、逆向きの屈曲が阻止され、膝関節が保護される。
【0081】
なお、図9中、周縁カム22における歯列22aと平滑縁22bの各々をより長く形成することによって、上腿装着部5が下腿装着部7に対して例えば約160°屈曲可能とすることもできる。その結果、患者は正座も可能になる。
【0082】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、膝関節運動補助装置を右脚用として示したが、右脚用のものを略対称形にすることによって左足用のものとすることも可能である。また、左右両脚に膝関節運動補助装置を装着することも可能である。また、駆動源としてモーターを用いたが他の種類の駆動源を使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明に係る膝関節運動補助装置の使用状態を示す説明図であり、(A)は脚を伸ばした状態を示し、(B)は脚を曲げた状態を示す。
【図2】図1に示した膝関節運動補助装置の装着状態を示す斜視図である。
【図3】本発明に係る膝関節運動補助装置の要部を示す斜視図である。
【図4】図3に示す膝関節運動補助装置の中心部を保護カバーを除いて示す正面図である。
【図5】図4中、V−V線矢視断面図である。
【図6】図5中、VI−VI線矢視断面図であり、膝関節が伸長した状態を示す。
【図7】図6と同様な断面図であり、膝関節が歩行時に屈曲した状態を示す。
【図8】図6と同様な断面図であり、膝関節が着座時に屈曲した状態を示す。
【図9】図6と同様な断面図であり、膝関節が立上がりに際し更に屈曲した状態を示す。
【図10】膝関節の運動を示す説明図である。
【図11】大腿骨の下部の回転中心が膝関節の屈曲と共に移動する様子を示す説明図である。
【符号の説明】
【0084】
4…上腿部
5…上腿装着部
6…下腿部
7…下腿装着部
8…連結部
20…枢軸
21…長孔
22…周縁カム
22a…歯列
22b…平滑縁
24…カムフォロア
25…駆動歯車
29…モーター
30,31…すぐばかさ歯車
33…ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上腿部に装着される上腿装着部と、下腿部に装着される下腿装着部と、上記上腿装着部及び下腿装着部の膝関節側端部間を回転可能に連結する連結部と、この連結部を中心にして上記上腿装着部と下腿装着部とを相対的に回転運動させながら上記膝関節側端部間を前後方向に相対的にスライド運動させる駆動部とを備えた膝関節運動補助装置において、上記駆動部が、周縁カムと、この周縁カムを挟むように配置されるカムフォロア及び駆動歯車とを有し、この周縁カムとカムフォロア及び駆動歯車とが上記上腿装着部及び下腿装着部の一方と他方に夫々取り付けられ、上記周縁カムの周縁には、上記駆動歯車が係合する歯列と、上記カムフォロアが接する平滑縁とが形成され、上記駆動歯車の回転により上記周縁カムが上記駆動歯車と上記カムフォロアとの間で回転すると上記回転運動及びスライド運動が生じるようにしたことを特徴とする膝関節運動補助装置。
【請求項2】
請求項1に記載の膝関節運動補助装置において、上記カムフォロア及び駆動歯車が上記上腿装着部に取り付けられ、上記周縁カムが上記下腿装着部に取り付けられたことを特徴とする膝関節運動補助装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の膝関節運動補助装置において、上記連結部が、枢軸と、この枢軸が挿入される長孔とを有し、この枢軸と長孔とが上記上腿装着部及び下腿装着部の一方と他方に夫々設けられたことを特徴とする膝関節運動補助装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の膝関節運動補助装置において、上記周縁カムの歯列と平滑縁との境界に、上記駆動歯車とカムフォロアが夫々当たることによって、上腿部と下腿部の直立状態又は屈曲状態を保持せしめるストッパが設けられたことを特徴とする膝関節運動補助装置。
【請求項5】
請求項1に記載の膝関節運動補助装置において、モーターが上記上腿装着部に取り付けられ、このモーターから上記駆動歯車への動力伝達系が、平歯車及びすぐばかさ歯車の一方又は双方からなる歯車列によって構成されたことを特徴とする膝関節運動補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−63581(P2010−63581A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231777(P2008−231777)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(302042689)サンコールエンジニアリング株式会社 (10)