説明

膨化食品

【課題】欧米で広く食されている「ポークリンズ」(Pork rinds)の持つ欠点を解決し、美容や健康によい低カロリーな豚皮を原料とする膨化食品を、日本市場に広く流通させ、産業廃棄物として利用率の低かった豚皮を、食品として有効利用することを課題とする。
【解決手段】原料として豚皮由来のコラーゲン粉末が用いられている膨化食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨化食品に関し、さらに詳しくは、豚皮を原料とする膨化食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、膨化食品の原料としては、小麦などの穀物類や馬鈴薯などの根茎類などのような澱粉を多く含む植物性原料を使用するのが一般的であった。イカやエビなどを用いた膨化食品も存在するが、これらは味付けのために添加されるものであって、主原料が植物性原料であることには変わりがない。
しかし、植物性原料を主として用いた膨化食品は、高カロリーな澱粉を多く含んでおり、肥満の原因となりうる点で敬遠されがちである。
そのため、欧米では、上記植物性原料にかわるものとして、豚皮を原料として用いたスナック「ポークリンズ」(Pork rinds)が広く一般に食されている。豚皮は、従来、産業廃棄物として処理されていたものであり、これを、食品として利用することは非常に有用であるだけでなく、豚皮にはコラーゲンが豊富に含まれ、美容や健康に良いという利点をも有しているため、ポークリンズは非常に優れた膨化食品である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記したとおり、ポークリンズは膨化食品として非常に優れている。それにもかかわらず、国内市場においては、豚皮を原料とした膨化食品は広くは流通していない。これは、日本人にとって豚皮は食用としての印象が薄いため、豚皮をそのまま用いた食品であるポークリンズを見た場合には、直ちに加工前の豚皮を連想してしまい、さらには、異物として敬遠される豚毛の残存が考えられることも影響して、結果として、ポークリンズが日本人に敬遠されてしまうためであると考えられる。
さらに、ポークリンズは、味付けが調味粉末をまぶすだけになってしまい、また、形状の自由度も小さいため、味や形状に関し、バリエーションに乏しい点、原料として豚の生皮を使用するために、鮮度などによる原料のばらつきが生じるおそれがある点、ポークリンズは製造工程で脱脂を行っているが、豚皮をそのままの形で使用しているために、十分な脱脂が難しいうえに、豚脂は酸化しやすいことから、脱脂工程で取りきれなかった豚脂が酸化するという点、において解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、国内において現在一般に流通している膨化食品は肥満の原因になるとして敬遠されている点を、植物性原料よりも低カロリーな原料を用いた膨化食品を開発することにより解決しようと試みた。種々の原料を用いて膨化食品を製造し、検討を重ねていく中で、低カロリーで美容や健康によいものとして欧米で広く一般に食されているポークリンズに着目するとともに、ポークリンズのように豚皮をそのままの形で使用するのではなく、豚皮から得られるコラーゲン粉末として使用し、ポークリンズ様の膨化食品を得ることができれば、ポークリンズの持つ欠点が改善された、さらに優れた膨化食品となりうるのではないか、との着想を得、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、原料として豚皮由来のコラーゲン粉末が用いられている膨化食品である。
さらに、植物性原料も用いられている、ことが好ましい。
また、コラーゲン粉末の不溶性画分が10重量%以上である、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、1)コラーゲンの豊富な豚皮の粉末を用いているため、低カロリーで健康や美容によいポークリンズ様の膨化食品を得ることができるとともに、2)粉末を水で練りこんで成形するため、味や形状のバリエーションが豊富な膨化食品を得ることができ、3)工業的に作られる粉末を使用するため、保管も容易で原料のばらつきもなく、4)豚毛は、豚皮とともに粉末化されるために、異物として認識される可能性はなくなり、5)粉末の場合には、該粉末を製造する際の脱脂工程前において、表面積を大きくすることができることから、ポークリンズと比較して、脱脂を効率的に行うことができ、豚脂の酸化を十分に抑制できる。
【0007】
さらに、植物性原料も用いれば、よりクリスピー感に優れた膨化食品を得ることができる。
また、コラーゲン粉末の不溶性画分が10重量%以上であれば、膨化をより確実に行うことができるとともに、よりクリスピー感に優れた膨化食品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明では、豚皮由来のコラーゲン粉末を原料として用いる。
前記コラーゲン粉末は、不溶性画分が10重量%以上であることが好ましい。10重量%以上であれば、膨化処理の段階における加熱によっても、コラーゲン粉末が全て溶解してしまうおそれはなくなり、十分な膨化が可能であるとともに、クリスピー感に優れた膨化食品を得ることができる。クリスピー感に関しては、不溶性画分が多いほど良好となることを確認している。
ここで、不溶性画分は、以下の測定方法により測定する。
0〜5℃に冷却したイオン交換水に、濃度が3.0重量%となるように試料を添加し、温度を0〜5℃に維持した状態で、ホモミキサーを用いて10000rpm×5分間撹拌して、試料を分散させる。
【0009】
分散後、恒温槽で5℃に維持したまま一晩静置する。
分散溶液を75℃に加熱後、さらに1時間同温度を保持し、前記加熱された分散溶液を遠心管に40g取り、18000rpm×15分間、40℃で遠心分離する。遠心分離後、試料の温度を40℃に維持したまま、上清を除去し、沈殿を吸引ろ過した後、105℃で17時間乾燥する。乾燥後に得られた試料の重量を測定する。
イオン交換水に分散させる前の試料の重量に対する、最終的に得られた不溶性分の重量の割合を重量%で表し、これを不溶性画分の値とする。
前記コラーゲン粉末は、下記製造方法の例にみるように、通常、脱脂工程を経て作られるものであるが、多少の油脂分の残存は許容される。具体的には、コラーゲン粉末に残存する油脂分は15重量%以下であることが好ましい。油脂分が15重量%以下であれば保存中における油脂の酸化を十分に抑制できる。
【0010】
なお、前記油脂の酸化をさらに抑制するために、必要に応じて、既存の酸化防止剤(例えば、ビタミンEなど)を適宜添加してもよい。
前記コラーゲン粉末としては、PK−100やSPK(いずれも新田ゼラチン社製)など、既存のものを用いることもできるし、例えば、下記の方法により、豚皮から得ることもできる。ただし、下記方法はコラーゲン粉末の製造方法の一例を示すものであって、コラーゲン粉末の製造方法が、下記方法のみに限定されるものでないことはいうまでもない。
豚皮コラーゲン粉末を製造するために用いる豚について、その種類は特に限定されないが、生存年数の異なる豚を組み合わせて使用し、その混合割合を変化させることにより、コラーゲンの特性を調整することが可能である。豚の経年が短いほど、ゲル化させたときの弾力感が増加する傾向にあることが知られている。
【0011】
豚皮コラーゲン粉末の原料となる豚皮は、新鮮なものほど好ましい。そして、前記豚皮は、例えば、豚を屠殺後、表面の豚毛をバーナーなどで焼き、それをブラシやスクレーパーなどで擦り取った後、皮剥機により皮を剥いで分離することにより得ることができる。その後、水洗などの前処理が適宜施される。
製造する豚皮コラーゲン粉末の品質調整(不溶性画分の割合を調整できる)または表皮部分と真皮部分を切り分ける際の効率化(皮が膨れることによるバンドマシンなどの機械特性向上が期待できる)などの目的で塩酸や石灰などによる酸処理またはアルカリ処理を行っても良い。
【0012】
その後、必要に応じ、バンドマシンなどで表皮部分と真皮部分を切り分けておいてもよい。
豚皮(上記のごとくバンドマシンなどで表皮部分と真皮部分を切り分けておいた場合は、該真皮部分)を、例えば、チョッパー、マスコロイダー、コミトロールなどを用いて微細化またはペースト化することが好ましい。微細化やペースト化によって、後述の脱脂工程を効率的に行うことができる。
次に、豚皮に脱脂処理を施す。前記脱脂の方法としては、例えば、ペースト化した豚皮に適量の加水(例えば、豚皮100重量部に対して、100〜300重量部)を行い加熱する方法がある。前記加熱の温度、時間としては、特に限定されないが、例えば、60〜110℃で1〜3時間行えば、油脂分とコラーゲン分を十分に分離させることができるため好ましい。また、前記方法以外にも、リパーゼなどの酵素を使用する方法、アルコールなどの溶剤や超臨界流体を使用する方法、スチームで溶出する方法、界面活性剤などで洗浄する方法など、従来公知の種々の脱脂方法が挙げられ、これらの一つまたは複数を組み合わせたものを採用してもよい。
【0013】
前記操作により分離されたコラーゲン部分のみを回収し、回収されたコラーゲン部分をドラムドライやスプレードライなどの乾燥機を用いて乾燥する。前記乾燥の温度、時間としては、特に限定されないが、例えばドラムドライを用いる場合、100〜200℃で5〜30分行うことが好ましい。
乾燥した前記コラーゲン部分を、例えば、ジェットミルやハンマーミルなどの粉砕機を用いて粉砕する。
前記粉砕によって得られる粉末の平均粒径は、特に限定するものではないが、0.1mm以下に調整すれば、豚毛が異物として認識される可能性をほぼ完全になくすることができるため好ましい。
【0014】
上記方法により得られるコラーゲン粉末のうち、不溶性画分10重量%以上、かつ、油脂分15重量%以下であるものは、本発明で使用されるコラーゲン粉末として特に好ましいものである。
本発明にかかる膨化食品は、原料として豚皮由来の前記コラーゲン粉末が用いられているものである。
以下に、コラーゲン粉末を原料とした膨化食品の製造方法の一例を示す。ただし、本発明の範囲は、下記製造方法に限定されるものでないことはいうまでもない。
コラーゲン粉末に水を加える。このときのコラーゲン粉末と水との割合は、作業性や機械特性を考慮し、任意に決定できる。
【0015】
後の操作において成形後に乾燥を行う場合には、得られる生地に含有されるコラーゲン粉末が、10〜30重量%となるように水を加えることが好ましい。10重量%未満では、後の乾燥工程での効率が悪くなるおそれがあり、30重量%を超えると、コラーゲン粉末と水との混合物の粘度が高くなってしまい、作業性が悪くなるおそれがある。
前記コラーゲン粉末のほかに、植物性原料を添加すれば、よりクリスピー感に優れた膨化食品を得ることができるため好ましい。
前記植物性原料としては、特に限定されないが、例えば、小麦やとうもろこしなどの穀物類や馬鈴薯などの根茎類などが挙げられる。
【0016】
植物性原料の添加量としては、食感やカロリー量を考慮して任意に決定できるが、得られる生地に5〜50重量%含有されるよう添加することが好ましい。
また、味付けの目的で各種調味料や油脂など、それら以外の目的では香料や色素などを適宜添加してもよい。
水、コラーゲン粉末およびその他の各種添加物を含む混合物を十分に撹拌して、本発明にかかる膨化食品を製造するための生地が得られる。
前記撹拌には、通常用いられるミキサーを使用すればよく、撹拌時間としては、使用するコラーゲン粉末の粒径、不溶性画分の量、最終的に得られる膨化食品の状態などを考慮し、任意に決定できる。また、撹拌時の温度は、可溶性画分が溶解する温度であれば、特に限定されず、好ましくは50〜90℃である。
【0017】
得られたコラーゲン粉末混合物を所望の形状の膨化食品を得るために、任意に設定された形状の型に流し込み、冷却してゲル化する。ゲル化の際の温度としては、5〜10℃が好ましい。ゲル化後に、型から取り出し、その後に切断などを行って、さらに形状を整えることもできる。
成形後、送風により乾燥する。前記乾燥の温度は、特に限定するわけではないが、5〜20℃の温度から適時段階的に状態を見ながら昇温させていくのが好ましい。乾燥時間は、形状により異なるため、形状に応じて適宜決定すればよい。さらに、前記乾燥は、乾燥後の水分含量が5〜20重量%となるように行うのが好ましい。水分含量が5重量%未満では、後述する膨化が起こり難く、ポークリンズ様のサクサクした食感が得られなくなるおそれがあり、20重量%を超えると、膨化せずに溶解してしまうおそれがある。
【0018】
特に限定するわけではないが、具体的には、例えば、2cm四方で厚さが0.5mm程度の形状のものを乾燥する場合、10〜20℃で10時間送風し乾燥した後、さらに60〜70℃で送風し乾燥すれば、上記所望の水分含量のものを得ることができる。
乾燥後、膨化処理を行うが、膨化の方法は、特に限定されず、通常用いられる方法が採用できる。具体的には、例えば、フライ処理を採用することができる。この場合、使用するフライヤーはバッチ式と連続式のいずれでもよい。使用する油の温度としては、150〜250℃であることが好ましく、フライ処理の時間としては、1〜10分であることが好ましい。また、得られる膨化食品の食感を変化させるために、フライ処理を減圧下で行ってもよい。
【0019】
その他の膨化方法として、熱風加熱、マイクロ波加熱、焙焼などの方法を採用することもできる。
さらに、別の膨化方法として、エクストルーダーを用いて、生地を高温・高圧で押し出すことにより、フライ処理などによらず、直接膨化させる方法も採用できる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
PK−100(ポークコラーゲンパウダー、新田ゼラチン社製、不溶性画分30重量%)を20重量部、塩を0.8重量部、NB−4051(エキス調味料、新田ゼラチン社製)を0.5重量部、水を78.7重量部の割合で混合し、ミキサー(プライミクス社製)により、85℃で10000rpm×5分間撹拌した。
撹拌後、得られた混合物を型に流し込み、5℃に冷却してゲル化させた。
【0021】
ゲル化後、型から取り出し、短冊状に切断した。
切断後、15℃で10時間送風して乾燥し、その後60℃に昇温してさらに3時間送風し乾燥を行った。
乾燥後、200℃の大豆油で30秒フライし、膨化食品を得た。
〔実施例2〕
SPK(ポークコラーゲンパウダー、新田ゼラチン社製、不溶性画分50重量%)を20重量部、塩を0.8重量部、NB−4051(エキス調味料、新田ゼラチン社製)を0.5重量部、水を78.7重量部の割合で混合し、実施例1と同様の方法により、膨化食品を得た。
【0022】
〔実施例3〕
PK−100(ポークコラーゲンパウダー、新田ゼラチン社製、不溶性画分30重量%)を10重量部、コーンスターチを10重量部、塩を0.8重量部、NB−4051(エキス調味料、新田ゼラチン社製)を0.5重量部、水を78.7重量部の割合で混合し、実施例1と同様の方法により、膨化食品を得た。
〔比較例1〕
ゼラチンGBL−200微粉(ゼリー強度が200gである豚骨ゼラチン、新田ゼラチン社製)を20重量部、塩を0.8重量部、NB−4051(エキス調味料、新田ゼラチン社製)を0.5重量部、水を78.7重量部の割合で混合し、実施例1と同様の方法により、膨化食品を得た。
【0023】
〔評価試験〕
上記のようにして得られた各膨化食品について、下記の基準により評価した。結果を、表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
<食べた軽さ>
◎:口溶けが良い
○:口溶けは普通である
×:口溶けが悪い
<クリスピー感>
◎:とてもサクサクしている
○:サクサクしている
×:あまりサクサクしていない
<油脂酸化臭>
なし:酸化臭が感じられない
あり:酸化臭が感じられる
〔考察〕
実施例1〜3、比較例1のいずれの膨化食品についても、従来の植物性原料を主とした膨化食品よりも低カロリーである、ポークコラーゲンパウダーまたは豚骨ゼラチンを用いており、従来の膨化食品と比べて肥満は軽減されることになる。また、豚脂が酸化して発生する油脂酸化臭が生じていないことから、原料である粉末が十分な脱脂を施されたものであることがわかる。
【0026】
しかし、比較例1に示す豚骨ゼラチンを用いた膨化食品では、表1に示すとおり、食べた軽さやクリスピー感の点で問題がある。
他方、実施例1〜3の膨化食品は、食べた軽さやクリスピー感において問題はない。しかも、コラーゲン粉末を用いているため、ポークリンズのように、味付けや形状に関する制約を受けることもなく、また、粉末状では、豚皮を連想させることも、豚毛が異物として認識されることもない。
また、実施例1および2を見ると、実施例2の方がクリスピー感に優れているが、このことは、不溶性画分がクリスピー感を向上させる一つの要因であって、不溶性画分が多いほどクリスピー感が向上することを裏付けている。
【0027】
実施例3は、実施例1と同様の豚皮コラーゲン粉末PK−100を用いているにもかかわらず、クリスピー感が実施例1よりも優れていることから、植物性原料であるコーンスターチを添加することによって、さらにクリスピー感が付与されたということが分かる。
以上のとおり、本発明にかかる膨化食品は、従来の植物性原料を主として用いた膨化食品より、低カロリーで、かつ、コラーゲンを多く含む点で美容や健康に優れており、ポークリンズより、味付けや形状に関する自由度が高く、豚皮を連想させず、豚毛も異物として認識される可能性のない点で優れた膨化食品である。また、コラーゲン粉末は、保管が容易であるとともに、工業的に生産されるため、鮮度などによるバラツキを防止することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の膨化食品は、美容と健康によい豚皮を原料とする膨化食品につき、国内市場に流通しなかったポークリンズが有する種々の課題を解決したことにより、国内における新規市場の開拓を可能とする。さらに、産業廃棄物として利用率の低かった豚皮を、食品として有効利用することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料として豚皮由来のコラーゲン粉末が用いられている膨化食品。
【請求項2】
植物性原料も用いられている、請求項1に記載の膨化食品。
【請求項3】
前記コラーゲン粉末の不溶性画分が10重量%以上である、請求項1または2に記載の膨化食品。

【公開番号】特開2008−35829(P2008−35829A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217307(P2006−217307)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000190943)新田ゼラチン株式会社 (43)