説明

膨張化黒鉛及びその製造方法

【課題】グラフェンまたは薄片化黒鉛を機械的剥離処理などにより容易にかつ安定に剥離することが可能な膨張化黒鉛及びその製造方法を提供する。
【解決手段】グラフェン積層体のグラフェン間に層間物質がインターカレートされており、XRDパターンにおいて2θ(CuKα)=26度付近の回折ピーク高さが0カウント以上200カウント以下であって、前記2θ(CuKα)=8度〜12度の範囲の回折ピーク高さが0カウント以上500カウント以下の範囲にある膨張化黒鉛、並びに黒鉛を酸性電解質水溶液中に作用極として浸漬し、対照極としてPtを用い、自然電位以外に0.6V〜0.8Vの範囲の電圧を48時間以上1000時間以下通電することにより電気化学的処理し、膨張化黒鉛を得る方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離によりグラフェンやグラフェンライクシート(薄片化黒鉛)を容易に得ることを可能とする膨張化黒鉛及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛は、多数のグラフェンが積層されてなる積層体である。二次元物質であるグラフェンは、2×10Vs−1程度の高い電子移動度を有するなど、特異な電子物性を有する。従って、グラフェンは、電極材料や透明導電膜などへの応用が期待されている。
【0003】
黒鉛からグラフェンをあるいは黒鉛よりもグラフェン積層数が少ない薄片化黒鉛すなわちグラフェンライクシートを得るために、様々な方法が提案されている。例えば、下記の非特許文献1には、黒鉛に機械的剥離力を与えることにより、黒鉛からグラフェンまたは薄片化黒鉛を得る方法が開示されている。また、下記の非特許文献2には、黒鉛を酸化してなる酸化黒鉛からグラフェンを剥離する方法が開示されている。さらに、下記の非特許文献3には、CVD法を利用して、金属基板上に炭素を成膜しグラフェンを形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y. Ohashi, T. Koizumi, et al., TANSO, 1997 [180] 235-238.
【非特許文献2】K. S. Kim, Y. Zhao, et al., Nature, 2009 [457] 706-710.
【非特許文献3】S. Stankovich, R. S. Ruoff, et al., Carbon, 2007, [45] 1558-1565.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の黒鉛からグラフェンあるいは薄片化黒鉛を得る方法では、グラフェンあるいは薄片化黒鉛を黒鉛から大量にかつ容易に剥離することはできなかった。電極材料や導電膜などの工業材料へ応用する場合、大面積のグラフェンあるいは薄片化黒鉛を大量に得ることが強く求められている。
【0006】
本発明の目的は、グラフェンまたは薄片化黒鉛を大量にかつ容易に得ることを可能とする膨張化黒鉛及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る膨張化黒鉛は、グラフェン積層体のグラフェン間に層間物質が挿入された膨張化黒鉛であって、XRDパターンにおける2θ(CuKα)が8度〜12度の範囲に現れる回折ピークを有し、2θ(CuKα)が25度〜27度の範囲の回折ピーク高さが0カウント以上200カウント以下であって、前記2θ(CuKα)が8度〜12度の範囲に現れる回折ピークの高さが10カウント以上500カウント以下の範囲にある。
【0008】
カウント数は測定条件によっても変わるため、本発明におけるカウント数は次の条件でのXRD測定における回折ピークを指すものとする。管電圧40kV、管電流40mA、スキャンスピード0.25°/分、発散スリット0.5°、散乱スリット0.5°、受光スリット0.15mm、管球CuKα。
【0009】
上記測定条件において、2θ(CuKα)が8度〜12度の範囲内に現れる回折ピーク
の高さが10カウント以上500カウント以下の範囲にあることは、本発明の膨張化黒鉛においては、対向し合っているグラフェン間の角度が様々な範囲にあるものを含んでいることを意味する。すなわち、対向しているグラフェンの主面間が成す角度が様々な角度となっていると考えられる。2θ(CuKα)が8度〜12度の範囲内に現れる回折ピーク高さの、より好ましい範囲は10カウント以上200カウント以下であり、更に好ましい範囲は10カウント以上100カウント以下の範囲である。
【0010】
本発明に係る膨張化黒鉛のある特定の局面では、前記グラフェンは、酸化グラフェンである。
【0011】
本発明に係る膨張化黒鉛では、上記層間物質として少なくとも1種のイオンが挿入されている。上記のイオンとしては、硝酸イオン、硫酸イオン、ギ酸イオン及び酢酸イオンなどが挙げられる。これらのイオンが挿入されることにより、膨張化黒鉛からグラフェンあるいは薄片化黒鉛をより一層容易にかつ確実に剥離することができる。
【0012】
本発明に係る膨張化黒鉛の製造方法は、黒鉛を酸性電解質水溶液中に浸漬し、該黒鉛を作用極とし、対照極との間に、自然電位以外に0.6V〜0.8Vの範囲の直流電圧を、48時間以上、1000時間以下印加する電気化学的処理を行うことを特徴とする。このような電気化学的処理により、本発明に係る膨張化黒鉛を確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る膨張化黒鉛では、XRDパターンにおける2θ(CuKα)が8度〜12度の範囲に現れる回折ピークを有し、2θ(CuKα)が25度〜27度の範囲の回折ピーク高さが0カウント以上、200カウント以下であるので、元の黒鉛の層構造はほとんど消失し、グラフェン間の距離が層間物質の挿入により広げられた膨張化黒鉛であり、かつ2θ(CuKα)が8度〜12度の範囲に現れる回折ピークの高さが10カウント以上500カウント以下の範囲にあるため、対向し合っているグラフェンの主面間の角度が様々な範囲にある。従って、対向し合っているグラフェン間の角度が様々であるため、剥離力を与えることにより、本発明の膨張化黒鉛からグラフェンまたはグラフェン積層体である薄片化黒鉛を容易に得ることができる。よって、本発明によれば、グラフェンまたは薄片化黒鉛を黒鉛から大量にかつ安定に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1で得た膨張化黒鉛のXRDパターンを示す図である。
【図2】実施例1で得た膨張化黒鉛のXRDパターンであって、図1の一部を拡大して示す図である。
【図3】実施例1で得た膨張化黒鉛を急速熱処理した電子顕微鏡写真を示す図である。
【図4】比較例1で用意した黒鉛のXRDパターンを示す図である。
【図5】比較例2の膨張化黒鉛のXRDパターンを示す図である。
【図6】比較例3の膨張化黒鉛のXRDパターンを示す図である。
【図7】図6に示した比較例3の膨張化黒鉛のXRDパターンの要部を拡大して示す図である。
【図8】実施例2の膨張化黒鉛のXRDパターンを示す図である。
【図9】比較例4の膨張化黒鉛のXRDパターンである。
【図10】比較例4の膨張化黒鉛のXRDパターンであって図9の要部を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を説明することにより、本発明の詳細を明らかにする。
【0016】
本明細書において、膨張化黒鉛とは、元の黒鉛に層間物質が挿入され、グラフェン間の
距離が広げられた黒鉛をいうものとする。また、本明細書においては、炭素六角網平面からなる1枚のシート状物質をグラフェンとする。薄片化黒鉛とは、グラフェン積層体であって、上記膨張化黒鉛を剥離することにより得られた、膨張化黒鉛よりもグラフェン積層数が少ない積層体、すなわちグラフェンライクシートをいうものとする。
【0017】
また、本発明の膨張化黒鉛に含まれるグラフェンは、酸化グラフェンであってもよい。
【0018】
本発明に係る膨張化黒鉛を得るには、まず、黒鉛を作用極とし、該作用極をPtなどからなる対照極とともに、酸性電解質水溶液中に浸漬し、電気分解する。それによって、黒鉛すなわち層状黒鉛のグラフェン間に酸性電解質イオンをインターカレートすることができ、層間すなわちグラフェン間を広げることができる。
【0019】
上記電解質水溶液としては、硝酸、硫酸などを用いることができる。それによって、硝酸イオンや硫酸イオンなどをグラフェン間に挿入することができる。
【0020】
本発明の特徴は、上記電気化学的処理に際し、自然電位以外に0.6V〜0.8Vの直流電圧を48時間以上、1000時間以下印加することにある。自然電位以外の直流電圧の範囲が、この範囲内にあれば、膨張化黒鉛のグラフェン間に硝酸イオンや硫酸イオンなどの酸性電解質イオンを確実にインターカレートすることができる。それによって、本発明に従って、対向し合っているグラフェンの主面間の角度が様々な範囲にある本発明の膨張化黒鉛を確実に得ることができる。より好ましくは、上記電気化学的処理に際し、自然電位以外に0.6V〜0.7Vの直流電圧を印加する。
【0021】
なお、自然電位以外の直流電圧印加時間が、48時間以上であればよいが、長すぎると生産性が低下し、かつ電解質イオンをインターカレートする効果も飽和する。従って、自然電位以外の直流電圧印加時間は1000時間以下とすればよい。
【0022】
上記のように、自然電位以外に0.6V〜0.8Vの直流電圧を48時間以上印加することにより、得られる膨張化黒鉛の酸化度が上昇する。膨張化黒鉛の酸化度が高くなると、膨張化黒鉛のグラフェン面のエッジ部分には、水酸基やカルボキシル基が付与される。そのため、本発明によれば、他の物質の反応性に富む膨張化黒鉛を得ることができる。
【0023】
上記電解質水溶液の濃度は、黒鉛に電解質イオンをインターカレートするには、その酸化度に依存するため、特に限定されないが、0.5〜20モル/リットルが好ましい。上記電解質水溶液が酸化力の強い電解質の場合は、高い電解質濃度が好ましい。上記電解質水溶液が酸化力の弱い電解質の場合は、低い電解質濃度が好ましい。上記電解質水溶液が硝酸水溶液の場合には、上記電解質水溶液の濃度は10〜13モル/リットルが好ましい。上記電解質水溶液が硫酸水溶液の場合には、上記電解質水溶液の濃度は0.5〜5モル/リットルが好ましい。上記電解質水溶液がギ酸水溶液の場合には、上記電解質水溶液の濃度は0.5〜5モル/リットルが好ましい。この範囲内であれば、電解質イオンをより一層確実にグラフェン間にインターカレートすることができる。
【0024】
また、上記電気分解に際しての電解質水溶液の温度は特に限定されず、5度〜45度程度の温度とすればよい。
【0025】
本願発明者らは、上記のように、電気化学的処理により膨張化黒鉛を得るにあたり、電圧印加条件を種々検討した結果、上記のように、自然電位以外の直流電圧の値を0.6V〜0.8Vの範囲かつ印加時間を48時間以上とすれば、本発明に従って、対向し合っているグラフェンの主面間の角度が様々な膨張化黒鉛を安定にかつ確実に得ることを見出し、本発明を成すに至った。電圧印加時間はより好ましくは60時間以上であり、更に好ましくは80時間以上である。
【0026】
すなわち、本発明の膨張化黒鉛は、上記のようにして得られ、XRDパターンにおいて、2θ(CuKα)が8度〜12度の範囲内に位置する回折ピークを有し、25度〜27度の範囲内の回折ピーク高さが0カウント以上200カウント以下である。2θ(CuKα)が25度〜27度の範囲内にある回折ピークは、元の黒鉛の(002)面によるピークであり、本発明の膨張化黒鉛は、この25度〜27度の範囲内の回折ピークが小さいため、元の黒鉛とは構造が異なるものである。また、2θ(CuKα)が8度〜12度の範囲内にある回折ピークは、膨張化黒鉛の(002)面による回折ピークであり、従って、本発明は、グラフェン間に硝酸イオンなどの酸性電解質イオンがインターカレートされている、すなわち層間物質挿入黒鉛である。
【0027】
本発明の膨張化黒鉛では、上記のような層間物質の挿入により、もとの黒鉛よりもグラフェン間の距離が広げられ、膨張化黒鉛とされている。そして、本発明では、上記8度〜12度の範囲内に現れる回折ピークの高さ10カウント以上500カウント以下の範囲にある。この回折ピークの高さが10カウント以上500カウント以下であることは、対向
し合っているグラフェンの主面間の成す角度が様々であることを意味する。すなわち、対向し合っているグラフェンの主面間の角度が様々であるため、上記回折ピークの形がブロードとなっている。
【0028】
よって、本発明に係る膨張化黒鉛では、上記硝酸イオンなどがインターカレートされて膨張化黒鉛とされているが、この膨張化黒鉛を形成するグラフェンの主面同士が成す角度が様々であるため、剥離力を加えることにより容易にグラフェンを剥離することができる。より具体的には、対向し合っているグラフェンの主面同士が平行でない場合には、グラフェン積層部分の一方側におけるグラフェン主面間の距離が他方側のグラフェン主面間の距離よりも大きくなる。そのため、剥離力を加えることにより、グラフェンを容易に他方のグラフェンから剥離することができる。
【0029】
よって、本発明に係る膨張化黒鉛を用いることにより、グラフェンや複数枚のグラフェン積層体である薄片化黒鉛を、剥離力を加えることにより容易に得ることができる。
【0030】
上記膨張化黒鉛からグラフェンまたは薄片化黒鉛を得るための剥離工程については、上記機械的剥離力を加える方法や、超音波などのエネルギーを加える方法などを挙げることができる。剥離方法の一例を説明すると、上記のようにして得られた膨張化黒鉛を適宜の溶媒中に浸漬し、超音波を加える方法を挙げることができる。
【0031】
上記超音波を加える前の加熱温度としては、溶媒や黒鉛層間に挿入されたイオン種により適正範囲は異なるが、溶媒が水の場合は5℃〜100℃程度の温度とすればよい。この温度範囲で加熱することにより、グラフェン間の距離をさらに広げることができる。また、上記超音波を加える際に用いる溶媒としては、特に限定されず、水、エタノール、ブタノール、キシレンなどを挙げることができる。
【0032】
あるいは、本発明により得られた膨張化黒鉛を、必要に応じて層間に挿入されたイオンを除去した後に、樹脂と混練し、混練に際して加えられる剪断力により、膨張化黒鉛を剥離し、グラフェンや薄片化黒鉛としてもよい。この場合には、本発明の膨張化黒鉛から剥離されたグラフェンあるいは薄片化黒鉛が分散された樹脂複合材料を得ることができる。
【0033】
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を明らかにする。
【0034】
(実施例1)
1mmの厚みの黒鉛を作用極として、Ptからなる対照極及びAg/AgClからなる参照極とともに60重量%濃度の硝酸中に浸漬し、自然電位以外に直流電圧を印加し、電気化学処理を行った。電気化学処理に際しては、0.7Vの電圧を120時間印加した。このようにして、作用極として用いた黒鉛の結晶構造をXRDにより評価した。電気化学処理により、黒鉛は膨張化黒鉛に変性したことが確認された。図1は膨張化黒鉛のXRDパターンであり、図2はその一部を拡大して示すXRDパターンである。また、図3は、上記のようにして得た膨張化黒鉛を急速加熱して得た黒鉛の走査型電子顕微鏡写真(倍率7000倍)を示す図である。
【0035】
図2から明らかなように、2θ(CuKα)が25度〜27度付近に回折ピークが現れ、ピーク高さは約40カウントであった。これに対して、2θ(CuKα)が9度付近に回折ピークが存在していることがわかる。後述の比較例1についての図4に示すXRDパターンでも示されるように、電気化学処理前の黒鉛では、2θ(CuKα)=26度付近に大きな回折ピークが現れる。この回折ピークが、図1ではほとんど消失していることがわかる。
【0036】
黒丸印を付している26度付近の回折ピークは、黒鉛の(002)面に由来する回折ピークであり、図1においてこの回折ピークがほとんど見られないことから、黒鉛のグラフェン間に、硝酸イオンがインターカレートされ、黒鉛の層構造がほぼ消失したと考えられる。なお、■印は膨張化黒鉛のピークを示す。また、9度付近で現れる回折ピークは、グラフェン層間距離が開いている膨張化黒鉛の(002)面による回折ピークであり、従って、上記処理により硝酸イオンがグラフェン間にインターカレートされていることがわかる。
【0037】
また、この9度付近の回折ピークは比較的ブロードでピーク高さが低く、そのピーク高さは約40カウントであった。ピーク高さが低くピークがブロードであることは、グラフェンの主面間の対向している角度がある程度広い分布を有していることを示すと考えられる。従って、実施例で得た膨張化黒鉛では、機械的剥離力や超音波による剥離力を与えることにより容易に剥離し、グラフェンや薄片化黒鉛を得ることができる。
【0038】
後述の図4から明らかなように、元の黒鉛では、2θ(CuKα)=26度付近に非常に大きな回折ピークが現れているのに対し、図1及び図2に示したXRDパターンでは、このような大きな回折ピークは現れていないことがわかる。
【0039】
(実施例2)
電気分解に際しての自然電位以外の直流電圧を0.7Vとし、通電時間を48時間としたことを除いては、実施例1と同様にして膨張化黒鉛を得た。得られた膨張化黒鉛のXRDパターンを図8に示す。
【0040】
同じ電圧を印加した実施例1に比べ、通電時間が48時間と短いが、8〜12度の範囲に膨張化黒鉛由来の回折ピークが現れ、黒鉛の(002)面由来の26度付近の回折ピークも非常に小さいことがわかる。
【0041】
(比較例1)
比較例1は、実施例1で原材料として用意した通常の黒鉛である。図4は、この元の黒鉛のXRDパターンを示す。元の黒鉛では、26度付近に非常に大きな回折ピークが現れている。これば、前述した黒鉛の(002)面による回折ピークである。他方、8度〜12度の範囲には、回折ピークは現れていない。従って、膨張化黒鉛の(002)面が存在していないことがわかる。
【0042】
(比較例2)
電気分解に際しての自然電位以外の直流電圧を0.7V、通電時間を24時間としたことを除いては、実施例1と同様にして膨張化黒鉛を得た。得られた膨張化黒鉛のXRDパターンを図5に示す。
【0043】
図5から明らかなように、24時間の通電では、26度付近に現れる回折ピークは約500カウントと比較的大きかった。他方、8度〜12度の範囲内に回折ピークが現れており、上記電気化学的処理により硝酸イオンが幾分かインターカレートしていることがわかる。もっとも、前述したように、依然として、2θ(CuKα)=26度付近の回折ピークが比較的大きく、従って、グラフェン間に十分に硝酸イオンがインターカレートされていないことがわかる。
【0044】
(比較例3)
電気分解に際しての自然電位以外の直流電圧を0.5V、通電時間を24時間としたことを除いては、実施例1と同様にして、膨張化黒鉛を得た。得られた膨張化黒鉛のXRDパターンを図6及び図7に示す。
【0045】
図6から明らかなように、通電時間が24時間と短いため、2θ(CuKα)=26度付近に回折ピークが比較的大きく現れている。従って、硝酸イオンのインターカレートが十分でないことがわかる。また、膨張化黒鉛の(002)面由来の回折ピークが8度付近に現れており、この回折ピークの高さが、26度付近に現れる回折ピークの高さよりも低いため、硝酸イオンのグラフェン間へのインターカレートは比較例2よりも進んでいない。
【0046】
(比較例4)
電気分解に際しての自然電位以外の直流電圧を0.5V、通電時間を48時間としたことを除いては、実施例1と同様にして膨張化黒鉛の作製を試みた。得られた膨張化黒鉛のXRDパターンを図9に示す。
【0047】
図9から明らかなように、2θ(CuKα)=26度付近に回折ピークが現れており、8〜12度の範囲においても小さな回折ピークが現れている。実施例2に比べれば、直流電圧値を低くしたため、硝酸イオンのインターカレートが進まず、依然として、黒鉛の(002)面由来の2θ(CuKα)=26度付近の回折ピークが比較的大きいことがわかる。従って、硝酸イオンのインターカレートが十分でないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン積層体のグラフェン間に層間物質が挿入された膨張化黒鉛であって、XRDパターンにおける2θ(CuKα)が8度〜12度の範囲に現れる回折ピークを有し、2θ(CuKα)が25度〜27度の範囲の回折ピーク高さが0カウント以上、200カウント以下であって、前記2θ(CuKα)が8度〜12度の範囲に現れる回折ピーク高さが10カウント以上、500カウント以下の範囲にある、膨張化黒鉛。
【請求項2】
前記グラフェンが酸化グラフェンとされている、請求項1に記載の膨張化黒鉛。
【請求項3】
請求項1ないし2に記載の膨張化黒鉛がイオンを層間に挿入することにより得られることを特徴とする膨張化黒鉛。
【請求項4】
請求項1から3に記載の膨張化黒鉛の製造方法であって、黒鉛を酸性電解質水溶液中に浸漬し、該黒鉛を作用極とし、対照極との間に、自然電位以外に0.6V〜0.8Vの範囲の直流電圧を、48時間以上、1000時間以下印加する電気化学的処理を行う、膨張化黒鉛の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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