説明

膨張性組成物、膨張材、およびその製造方法

【課題】十分な膨張性能を有しており、コンクリートのひび割れを抑制する膨張材として好適であり、また焼成段階において、遊離生石灰の成長を効率的に促進し、焼結性を高めることができ、焼成温度を従来よりも低くすることができ、生産効率を高めると共に、製造工程において特別な処理設備を必要とせず、製造コストも大幅に低減できる膨張性組成物ないし膨張材と、その製造方法を提供する。
【解決手段】石灰質原料にフッ化物原料を0.1〜1.0質量%含有した原料調合物を1100〜1450℃で焼成してなり、生石灰を主成分とし、遊離生石灰を45%以上含有することを特徴とする膨張性組成物であり、好ましくは、鉄原料0.5〜2.0質量%、およびシリカ質原料0.1〜9.0質量%を含有する原料調合物を用いた膨張性組成物、あるいはこの膨張性組成物に石膏および水硬性組成物を混和してなる膨張材、およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物、例えば、PCコンクリート製道路橋・鉄道橋床版・トンネル覆工・高欄等の土木構造物や倉庫床版、立体駐車場等の建築構造物のコンクリートにひび割れ抑制のために混和して使用される膨張性組成物、膨張材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンクリート構造物の耐久性が問題視される中で、コンクリートのひび割れを抑止するコンクリート用膨張材が注目され、需要が伸びてきている。
【0003】
コンクリート用の膨張材としては、カルシウムサルホアルミネート等のエトリンガイト生成物質を有効成分とするエトリンガイト系膨張材と遊離生石灰を有効成分とする生石灰系膨張材の二種類が代表的なものとして使用されているが、一般に、石灰系膨張材は水和反応活性が高く、特にコンクリートの大規模な初期収縮を抑制する上での効果に優れることが知られている。
【0004】
石灰系膨張材の製造方法としては、例えば、遊離石灰をエーライトが内包する形で生成させたセメント膨張性クリンカ組成物の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)この膨張性クリンカ組成物の製造方法は、生石灰を有効成分として、生石灰を生成させる必要があり、石灰石原料の脱炭酸化および遊離生石灰結晶の成長化のため、焼成温度を1500℃前後とし、じっくりとクリンカ組成物を焼結させる必要があった。そのため、SPまたはNSP等の予熱装置を使用し且つ多大な燃料消費と時間を要していた。このような処理を行うためには製造コストの増大も避けられないと云う問題があった。
【0005】
また、生石灰生成源として安価な石灰石を使用し、膨張有効成分として生石灰を生成させた膨張性クリンカであって、脱硫装置等の特別な処理装置を必要とすることなく、粉状化がほとんどなく、1回のクリンカ焼成によって、歩留まりが良い膨張性組成物およびその製造方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
上記製造方法は、石灰石原料を主とした調合原料を造粒することにより、焼結性を高めているが、焼成前工程における調合原料の造粒工程等は多大な労力を有し、製造コストが増大する課題があった。
【0007】
一方、焼成キルン内における焼成度を向上させるために、原料を圧密成型等する方法が知られているが、原料成型物の強度が無いために、原料輸送経路における衝撃や焼成キルン内における衝撃あるいは熱間磨り減りにより粉状化し、ロータリーキルン内での焼成を妨害すると共に、製造における歩留まりを悪くするため、圧密成型するだけでは焼結性が高い膨張性クリンカを効率的に且つ安価に製造するという問題の解決には至っていない。
【特許文献1】特開昭50−24320号公報
【特許文献2】特開2008−261063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は従来の上記課題を解決したものであり、生石灰生成源として安価な石灰石を使用し、膨張有効成分として遊離生石灰を生成させた膨張性クリンカであり、遊離生石灰の成長を促進し、焼結性の高まった膨張性組成物を従来に比べて焼成温度を低くすることができ且つ安価のコストで効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下に示す技術構成によって上記課題を解決した膨張性組成物、膨張材、およびその製造方法に関する。
〔1〕石灰質原料にフッ化物原料を0.1〜1.0質量%含有した原料調合物を焼成してなり、生石灰を主成分とし、遊離生石灰を45%以上含有することを特徴とする膨張性組成物。
〔2〕石灰質原料にフッ化物原料を0.1〜1.0質量%含有した原料を焼成してなり、生石灰を主成分とし、遊離生石灰を45%以上含有する膨張性組成物に石膏および水硬性組成物を混和してなる膨張材。
〔3〕石灰質原料50〜97質量%、フッ化物原料0.1〜1.0質量%を含有してなる原料調合物を、焼成温度1100〜1450℃で焼成することにより、生石灰を主成分とし、遊離生石灰を45%以上含有する膨張性組成物を製造することを特徴とする膨張性組成物の製造方法。
〔4〕請求項3の製造方法において、石灰質原料およびフッ化物原料と共に、鉄原料0.5〜2.0質量%、およびシリカ質原料0.1〜9.0質量%を含有する原料調合物を焼成する膨張性組成物の製造方法。
〔5〕石灰質原料として石灰石粉末および生石灰粉末の何れかまたは両方を用いる請求項3または請求項4の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明による膨張性組成物は、従来の石灰系膨張材と比較して十分な膨張性能を有しており、コンクリートのひび割れを抑制する膨張材として有効である。また、焼成段階において、遊離生石灰の成長を効率的に促進し、焼結性を高める。そのため、焼成温度を従来に比べて低くすることができ、生産効率が向上する。しかも、製造工程において特別な処理設備を必要とせず、製造コストも大幅に低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施例と共に具体的に説明する。なお、本発明において%は特に示さない限り質量%である。
本発明の膨張性組成物は、〔1〕石灰質原料にフッ化物原料を0.1〜1.0質量%含有した原料調合物を焼成してなり、生石灰を主成分とし、遊離生石灰を45%以上含有することを特徴とする膨張性組成物である。
また、本発明の膨張材は、〔2〕石灰質原料にフッ化物原料を0.1〜1.0質量%含有した原料を焼成してなり、生石灰を主成分とし、遊離生石灰を45%以上含有する膨張性組成物に石膏および水硬性組成物を混和してなる膨張材である。
【0012】
本発明の膨張性組成物および膨張材において、石灰質原料としては石灰石粉末および生石灰粉末の何れかまたは両方が用いられる。石灰石粉末あるいは生石灰粉末の粉末度は特には限定されないが、調合原料のブレンディング性および圧密成型性の観点からBET比表面積4000cm2/g以上が好ましい。
本発明の膨張性組成物は、生石灰を主成分とし、遊離生石灰を45%以上含有する。膨張性能は遊離生石灰量に大きく起因するため、遊離生石灰が45%未満では遊離生石灰量が不足し、膨張性能が低下するので好ましくない。この遊離生石灰は結晶径16μm以上が好ましい。
【0013】
本発明の膨張性組成物および膨張材は、石灰質原料にフッ化物原料を混合した調合原料を焼成して製造される。フッ化物原料の種類は特に限定されない。一般的には、ホタル石(CaF2)や氷晶石(Na3AlF6)、フッ化ナトリウム(NaF)等が用いられる。
【0014】
上記調合原料において、フッ化物原料の含有量は0.1〜1.0%が適当である。フッ化物原料は、焼成時に液相をより低温で増加させる作用があり、フラックスのような作用を示し、焼成温度を下げ、かつ遊離生石灰の成長を促進して焼結性を高める。フッ化物原料が1.0%を上回ると、フッ素が焼成物中に固溶体として残存することが多くなり、環境上および安全性の面より好ましくない。一方、フッ化物原料が0.1%より少ないと焼成温度を低下させる効果が乏しい。フッ化物原料の粉末度は3000〜6000cm2/gの範囲が好ましい。
【0015】
上記調合原料において、石灰質原料(石灰石粉末および生石灰粉末の何れかまたは両方)の含有量は50〜97%が好ましい。石灰石粉末および生石灰粉末は、膨張物質である遊離生石灰の主原料であり、これが50%未満では遊離生石灰含有率が45%未満となり、膨張性能が低下するので好ましくない。また、これが97%を上回ると相対的にフッ化物原料、シリカ質原料等他の成分が少なくなり、焼結性が低下するので好ましくない。
【0016】
本発明の膨張性組成物および膨張材において、石灰質原料およびフッ化物原料を含む原料は、さらに鉄原料およびシリカ質原料を含むものが好ましい。
【0017】
鉄原料は、フッ化物原料と同様にフラックス作用を示し、焼結性を高める。上記調合原料において鉄原料の含有量は0.5〜2.0%が好ましい。この量が0.5%未満ではフラックス作用の効果が低く、2.0%を上回ると過度に焼結性が高まり、遅れ膨張に起因するので好ましくない。鉄原料としてはマグネタイト、ヘマタイト等を使用することができる。鉄原料の粉末度は5000〜8000cm2/gの範囲が好ましい。
【0018】
シリカ質原料は強度増進作用の大きいエーライト結晶の生成を促す。上記調合原料においてシリカ質原料の含有量は0.1〜9.0%が適当であり、4.0〜6.0%が好ましい。この量が9.0%を上回ると遊離生石灰量が大きく低下し、膨張性能が低下するので好ましくない。一方、この量が0.1%より少ないとその効果が乏しい。シリカ質原料としては、珪石粉が用いられる。
【0019】
本発明の膨張性組成物および膨張材において、膨張物質の焼結性を阻害しない範囲で石膏や不純物(MgO、Na2O、K2SO4など)が混入していても良い。
【0020】
上記材料を用い、セメントブレンディングサイロやヘンシェルミキサー等で混合して均斉化し原料調合物とする。この調合原料の形態は限定されないが、焼結性を効率的に高めるために、圧密成型することが好ましい。圧密成型は、ロールプレス機等で乾式のまま行えば良い。
【0021】
上記原料調合成型物は1100〜1450℃、好ましくは1230〜1350℃で焼成する。焼成温度が1100℃より低いと焼結性が低く、遊離生石灰の結晶も十分に成長しないため良好な膨張性能が得られず、また、フッ素も逸散しないため好ましくない。また、焼成温度が1450℃を超えると、燃料消費量が増え、焼成コストが高まる上、過度に焼結性が高まり死焼石灰となるので好ましくない。
【0022】
焼成時間は焼成設備の諸条件にもよるが30分〜90分程度が好ましい。焼成時間の長いほうが遊離石灰の結晶が大きくなり、安定した高い膨張性能が得られるが、焼成コストを考慮すると、70分以内がより好ましい。焼結性は、膨張物質の遊離生石灰が効果的に反応制御され、有効な膨張性能を得るため、遊離生石灰結晶径を15μm以上に成長させるようにすることが好ましい。また、焼成設備は特に限定されず、ロータリーキルン焼成や電気炉溶融などによる熱処理工程を適宜利用して製造すれば良い。
【0023】
上記焼成処理によって製造された膨張性組成物(クリンカー組成物)は、石膏類および水硬性物質を配合して膨張材として使用される。石膏類および水硬性物質は膨張性組成物の膨張性能を調整するために用いる。石膏は、膨張性能を調整する役割に加え、低温下における強度発現性の向上、長期的な乾燥収縮の抑制効果を果たす。
【0024】
膨張材に混和する石膏は何れの種類でも良いが、II型無水石膏が好ましい。また、使用する無水石膏の粉末度は3000cm2/g以上のものが、所望の反応活性が得られるので好ましい。より好ましくは粉末度が6000cm2/g以上の石膏が良い。粉末度の上限は特に制限されないが、粉末度を高めるコストが嵩む割にはその効果が鈍化することから概ね15000cm2/g程度が適当である。
【0025】
膨張材に混和する水硬性物質は、一般的には、各種セメント、スラグ、フライアッシュ等が挙げられ、特に限定されない。
【0026】
膨張性組成物と石膏類および水硬性物質を混合する手段は限定されない。一般にはヘンシェルミキサーや噴射型ミキサー等によって均斉化混合することができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。
〔使用材料〕使用材料を表1に示す。
〔原料調合〕調合した原料配合比を表2に示す。調合した原料は、ヘンシェルミキサーにて均斉化混合した。
〔成型方法〕表1に示す材料を用い、表2の配合比に従って調合した原料を、ロールプレス機を用いて圧密成型物を作成した。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
〔実施例1・比較例1〕
〔膨張組成物の製造〕
実施例1の調合原料を1240〜1400℃で焼成して膨張性組成物を製造した。詳しくは、表2の原料調合比で調合した原料圧密成型物を、焼成温度1240℃、1320℃、1400℃、焼成時間は50分一定とし、電気炉焼成し、膨張組成物を製造した。焼成した膨張組成物の遊離生石灰結晶径をEPMA(電子プローブエックス線マイクロアナライザ)分析装置により観察して測定し、遊離生石灰の成長度を確認した。この結果を表3に示す。
【0031】
表3に示すように、実施例(水準No.1〜12)については、焼成温度(1240〜1400℃)に関らず、遊離生石灰の結晶径は16μm以上であり、遊離生石灰が成長し、焼結していることが確認された。また、焼成温度が高くなるにつれて、遊離生石灰が成長し焼結している傾向があり、1240℃の低温下でも遊離生石灰が17〜22μmに成長し焼結していることが認められた。また、実施例(水準No.1〜12)の遊離生石灰の含有量は何れも45%以上である。
【0032】
一方、フッ化物原料を添加していない比較例(水準No.13〜18)については、焼成温度1320℃以下では焼結性が乏しく、遊離生石灰は10μm以下であった。焼成温度1400℃では、生石灰粉末を使用した比較例(水準No.18)で遊離生石灰は14μmに留まり、石灰石粉末を使用した比較例(水準No.17)では遊離生石灰は7μmであり、焼結性が低い結果であった。
【0033】
【表3】

【0034】
〔実施例2・比較例2〕
〔膨張材の製造〕
焼成温度1320℃以下で焼成した表3の膨張組成物を試験用ボールミルにて粉末度2500cm2/gに調整し、膨張材中の遊離生石灰含有量が50±2%となるように石膏および普通セメントをヘンシェルミキサーにて混和して、膨張材を作成した。作成した膨張材を表4に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
〔膨張材を混和したモルタルの膨張性能評価〕
膨張材30gに普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)415gとJIS標準砂1350g、および水(水道水)を加え、ホバートミキサーで規格(JIS A 6202)に準拠した方法で練り混ぜ、鋼製型枠(4×4×16cm)にこのモルタルを入れて成形した。成形したモルタルは、モルタルを練り混ぜ開始後から24時間後に脱型し、角柱試験体とした。各角柱試験体は、20℃水中下で養生し、7日材齢膨張率を規格(JIS A 6202)に準拠した方法で測定した。測定結果を表5に示す。
【0037】
表7に示すように、実施例(1〜8)については、モルタル拘束膨張率は6.30〜8.59×10-4と高い膨張性能が確認された。一方、膨張性組成物の焼成でフッ化物原料を添加していない比較例(1〜4)は、何れの水準もモルタル拘束膨張率は4.21×10-4以下であり、実施例と比べて低い膨張性を示した。
【0038】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
石灰質原料にフッ化物原料を0.1〜1.0質量%含有した原料調合物を焼成してなり、生石灰を主成分とし、遊離生石灰を45%以上含有することを特徴とする膨張性組成物。
【請求項2】
石灰質原料にフッ化物原料を0.1〜1.0質量%含有した原料を焼成してなり、生石灰を主成分とし、遊離生石灰を45%以上含有する膨張性組成物に石膏および水硬性組成物を混和してなる膨張材。
【請求項3】
石灰質原料50〜97質量%、フッ化物原料0.1〜1.0質量%を含有してなる原料調合物を、焼成温度1100〜1450℃で焼成し、生石灰を主成分とし、遊離生石灰を45%以上含有する膨張性組成物を製造することを特徴とする膨張性組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項3の製造方法において、石灰質原料およびフッ化物原料と共に、鉄原料0.5〜2.0質量%、およびシリカ質原料0.1〜9.0質量%を含有する原料調合物を焼成する製造方法。
【請求項5】
石灰質原料として石灰石粉末および生石灰粉末の何れかまたは両方を用いる請求項3または請求項4の製造方法。

【公開番号】特開2010−150113(P2010−150113A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332991(P2008−332991)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】