説明

膨張袋体

【課題】対向する一対の面の間隔部分にスムーズに挿入配置できると共に、内部に加圧液体を圧入するだけの簡易な作業によって、対向する一対の面からの荷重に抗してこれらの間隔部分を容易に拡げることのできる膨張袋体を提供する。
【解決手段】対向する一対の面の間隔部分13に配置され、平坦な状態から膨張することにより、対向する一対の面からの荷重に抗して間隔部分13を拡げる膨張袋体10であって、円周方向に継ぎ目のない筒状の織布から形成された外袋14と、水密性を有する筒状のシート材料から形成された、外袋14の内部で外袋14とは独立した動きをすることが可能な内袋15と、加圧液体の注入口部材16とからなり、平坦な状態で外袋14及び内袋15の両端開口が開口接合部14a,15aによって個々に接合されて閉塞されると共に、外袋14及び内袋15の両端部分が折り返し部17として各々折り返された状態で保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に加圧液体が圧入されて平坦な状態から膨張することにより、例えば建物やその他の重量物を持ち上げる際に使用する膨張袋体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば後背湿地、臨海埋立地、三角州低地、おぼれ谷、海岸砂州等を構成する地盤は、泥炭質の地盤や圧密の進行の遅い地盤等によって形成されていることから、軟弱地盤となっている場合が多い。このような軟弱地盤は、地盤支持力が小さく、また引き続き圧密沈下を生じ易いことから、軟弱地盤の上方に建物を構築する場合には、構築された建物に不同沈下(不等沈下)等の沈下が生じやすい。
【0003】
建物に沈下が生じた際に、これを修正する手段としては、例えば建物の沈下した部分を基礎と共にジャッキを用いてリフトアップし、リフトアップすることにより生じた基礎と基礎基盤との間の隙間に、モルタルやグラウト等の固化材を充填固化する方法が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−8398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ジャッキを用いて建物の基礎をリフトアップする従来の方法では、ジャッキを基礎の下方に潜り込ませて設置する作業や、基礎の側方でジャッキを受けるジャッキ受け金具を基礎の側面に取り付ける作業が大掛かりになると共に、安定した状態で基礎を押し上げるためには、多くのジャッキやジャッキ受け金具を必要とし、さらに多くの手間を要することになる。
【0005】
このようなことから、本願発明者等は、先に特願2007−152029において、沈下した部分の建物の基礎の下面と、基礎地盤の表層部分との間に隙間を形成して、この隙間に、扁平な断面形状から内部に流体圧力が負荷されて膨張変形する加圧膨張体として、膨張鋼管や膨張袋体を挿入配置し、これらの加圧膨張体に流体を圧送して膨張変形させることにより、沈下した部分の建物の基礎をリフトアツプする建物の沈下修正工法を提案している。
【0006】
一方、加圧膨張体として膨張袋体を使用する場合、膨張袋体として、例えば消防ホースに用いる強度の大きなシート材料と同様の材質のシート材料のからなるものを使用することが考えられるが、このようなシート材料は、材質が硬く、狭い隙間に挿入配置する作業に手間がかかることから、取り扱いが容易でかつ安定した支持強度を発揮できる新たな膨張袋体の開発が望まれている。また、建物の基礎をリフトアップして沈下修正を行う場合に限定されることなく、他の重量物を持ち上げたり、対向する一対の面の間隔部分を押し広げたりする作業を行う際に、膨張袋体を用いてこれらの作業を簡易に行うことができれば便宜である。
【0007】
本発明は、対向する一対の面の間隔部分にスムーズに挿入配置できると共に、内部に加圧液体を圧入するだけの簡易な作業によって、対向する一対の面からの荷重に抗してこれらの間隔部分を容易に拡げることのできる膨張袋体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、対向する一対の面の間隔部分に配置され、内部に加圧液体が圧入されて平坦な状態から膨張することにより、前記対向する一対の面からの荷重に抗して前記間隔部分を拡げる膨張袋体であって、円周方向に継ぎ目のない筒状の織布から形成され、前記加圧液体による内圧に耐え得る強度を有する外袋と、水密性を有する筒状のシート材料から形成され、前記外袋よりも大きな寸法及び/又は大きな伸度を備えると共に、前記外袋の内部で前記外袋とは独立した動きをすることが可能な内袋と、前記加圧液体の注入口部材とからなり、平坦な状態で前記外袋及び前記内袋の両端開口が個々に接合されて閉塞されると共に、前記外袋及び前記内袋の両端部分が折り返された状態で保持されている膨張袋体を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0009】
そして、本発明の膨張袋体によれば、前記内袋の端部が、前記外袋の折り返された両端部分の内部において、さらに反対側に折り返されていることが好ましい。
【0010】
また、本発明の膨張袋体によれば、前記外袋の折り返された両端部分は、前記外袋よりも伸度の小さいベルト部材によって互いに連結されていることにより、折り返された状態が保持されるようになっていることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明の膨張袋体によれば、前記ベルト部材は、前記外袋の折り返された両端部分の間の部分において、少なくとも1箇所で前記外袋に接合されていることが好ましい。
【0012】
さらにまた、本発明の膨張袋体によれば、前記注入口部材は、前記外袋及び前記内袋の折り返された曲折部分においてこれらを貫通して設けられていることが好ましい。
【0013】
そして、本発明の膨張袋体は、例えば沈下した部分の建物の基礎と基礎基盤との間の間隔部分に配置され、建物をリフトアップすることにより建物の沈下修正を行うジャッキアップバックとして用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の膨張袋体によれば、対向する一対の面の間隔部分にスムーズに挿入配置できると共に、内部に加圧液体を圧入するだけの簡易な作業によって、対向する一対の面からの荷重に抗してこれらの間隔部分を容易に拡げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の好ましい一実施形態に係る膨張袋体10は、図1及び図2に示すように、例えば軟弱地盤の上方に盛土を施して形成された埋立造成地に構築された建物として、例えば住宅建築物が、建築後に例えば数ヶ月〜数十年経過して不同沈下を生じた際に、住宅建築物(図示せず。)の沈下した部分の基礎11を押し上げて、住宅建築物の傾き等を修正する沈下修正工法において採用されたものである。すなわち、本実施形態の膨張袋体10は、例えば上述のジャッキや膨張鋼管を用いて1次リフトアップを行った後に、さらに住宅建築物の基礎11を持ち上げるために、1次リフトアップによって形成された基礎11の下面と基礎地盤12の地盤面との間の、例えば20〜30mm程度の厚さtの隙間を対向する一対の面(基礎11の下面と基礎地盤12の地盤面)の間の間隔部分13とし、この間隔部分13に挿入配置されて、住宅建築物の基礎11の2次リフトアップを行うためのジャッキアップバックとして用いられる。
【0016】
そして、本実施形態の膨張袋体10は、対向する一対の面(基礎11の下面と基礎地盤12の地盤面)の間隔部分13に配置され、内部に加圧液体が圧入されて平坦な状態から膨張することにより、対向する基礎11の下面や基礎地盤12の地盤面からの荷重に抗して間隔部分13を拡げる袋体であって、図3〜図5に示すように、円周方向に継ぎ目のない筒状の織布から形成され、加圧液体による内圧に耐え得る強度を有する外袋14(図4参照)と、水密性を有する筒状のシート材料から形成され、外袋14よりも大きな寸法及び/又は大きな伸度を備えると共に、外袋14の内部で外袋14とは独立した動きをすることが可能な内袋15(図4参照)と、加圧液体の注入口部材16(図3(a),(b)参照)とからなり、平坦な状態で外袋14及び内袋15の両端開口が開口接合部14a,15aによって個々に接合されて閉塞されると共に、外袋14及び内袋15の両端部分が折り返し部17として各々折り返された状態で保持されている。
【0017】
また、本実施形態では、内袋15の端部15bが、折り返し部17として折り返された外袋14の両端部分の内部において、さらに反対側に折り返されている。
【0018】
さらに、本実施形態では、外袋14の折り返し部17は、外袋14よりも伸度の小さいベルト部材18によって互いに連結されることにより、折り返された状態が強固に保持されるようになっている。
【0019】
本実施形態では、膨張袋体10を構成する外袋14は、耐圧性を向上させるため周方向に継ぎ目のない筒状の織布として、例えばポリエステル繊維製のものが用いられる。より具体的には、例えば経糸としてJIS L 0101及びJIS L 0104による規格が1100dtex/2のポリエステル製の糸を、緯糸としてJIS L 0101及びJIS L 0104による規格が1100dtex/4のポリエステル製の糸を各々使用すると共に、緯糸密度を75.0本/100mmとして織り込んだ筒状の織布を用いて形成することが好ましい。このような繊維を用いて外袋14を形成することにより、外袋14は、例えば0.2〜0.7MPa程度(本実施形態では0.5MPa)の高い内圧が負荷されても破断することのない耐圧強度を備えることになる。また、外袋14は、例えばJIS L 0101による規格が5000dtexのナイロン製の糸を縫製糸として、外袋14の両端開口を縫製によって閉塞したり、折り返し部17にベルト部材18を縫製によって接合したりすることが可能である。
【0020】
外袋14は、膨張袋体10の外層部分を構成するものであり、平坦に折り畳んだ状態での形状が、例えば長さL1が1800mm、折り幅B1が471mm程度の大きさの横長の矩形形状となるように形成される。また、外袋14の内部には、内袋15が、外袋14と共に二重構造の膨張袋体10を形成するように挿入配置される。さらに、外袋14及び内袋15の両端部分は、一体となって折り返されて折り返し部17を形成する。
【0021】
本実施形態では、内袋15は、水密性を有する筒状のシート材料として、例えば0.5mm程度の厚さの塩化ビニル製のものが用いられる。加圧液体による内圧を外袋14が強固に支持するため、内袋15の耐圧強度はそれほど高くなくても良いが、例えば0.1〜0.2MPa(本実施形態では0.1MPa)程度の耐圧強度を備えることが好ましい。また、内袋15は、円周方向に継ぎ目があってもなくても良いが、強固な水密性を確保するために、円周方向の継ぎ目はない方が好ましい。さらに、内袋15は、例えば溶着接合によって強固な水密性を持たせた状態で両端開口を閉塞することが可能である。
【0022】
内袋15は、膨張袋体10の内層部分を構成するものであり、平坦に折り畳んだ状態での形状が、外袋14と略同様に、例えば長さL1が1800mm、折り幅B1が471mm程度の大きさの横長の矩形形状となるように形成される。また、本実施形態では、内袋15は、外袋14よりも若干大きな寸法で形成されると共に、内袋15(塩化ビニル製)は、外袋14(ポリエステル繊維製)よりも大きな伸度を備えている。さらに、内袋15は、例えばその一部においてのみ必要に応じて外袋14と適宜接合されており、その大部分の領域で外袋14と接合一体化されることなく、外袋14の内部に配設されている。これによって、内袋15は、外袋14の内部で外袋14とは独立した動きをすることができるようになっている。
【0023】
ここで、内袋15が外袋14よりも大きな寸法で形成されているか、或いは外袋14よりも大きな伸度を備えていることにより、膨張袋体10の内部に加圧液体を圧入して膨張袋体10を膨張させた際に、内袋15の外周面を外袋14の内周面に確実に密着させて、加圧液体による内圧を外袋14によって強固に支持させることが可能になり、これによって内袋15が破断等するのを効果的に回避することが可能になる。また、内袋15が外袋14と接合一体化されることなく、外袋14の内部で外袋14とは独立した動きをすることができるようになっていることにより、例えば塩化ビニル系材料による内層とポリエステル系材料からなる外層とを接着剤等を介して接合一体化して形成される一重構造のライニングホースと比較して、袋の材質が硬くならず、優れた柔軟性を備えることになる。これによって、膨張袋体10の取り扱いが容易になると共に、膨張袋体10を膨張させた最に、間隔部分13の両側の対向する一対の面(基礎11の下面と基礎地盤12の地盤面)の不陸に追随しやすくなる。
【0024】
そして、本実施形態では、外袋14及び内袋15の両端部分は、各々折り返し部17として折り返されている。すなわち、例えば外袋14の内部に内袋15を挿入配置し、外袋14及び内袋15の両端開口を、外袋14については縫製による開口接合部14aによって、内袋15については溶着による開口接合部15aによって各々閉塞すると共に、外袋14及び内袋15の両端部分17を一体として、外袋14の一方の面の側に例えば200〜300mm程度の長さL2で各々折り返すことによって、膨張袋体10の両端部分に折り返し部17が形成される。
【0025】
ここで、本実施形態では、溶着による開口接合部15aが形成された内袋15の端部15bは、図4及び図5に示すように、折り返し部17として折り返された外袋14の両端部分の内部において、さらに反対側に折り返された状態となっている。すなわち、反対側に折り返される前の状態では、開口接合部15aが外袋14の開口接合部14aと重なる位置まで延設している内袋15の端部15bを、溶着による開口接合部15aが内袋15の表裏のシート材料の間に挟まれて配置されるように、内袋15の内側に折り返した状態となっている。
【0026】
内袋15の端部15bが、外袋14の折り返し部17の内部でさらに反対側に折り返されていることにより、折り返し部17まで加圧液体が侵入して、その内圧によって内袋15の端部15bが外袋14の内周面に密着する側に押し出された場合でも、当該端部15bは、伸びきる前に外袋14の開口接合部14aの周囲の部分に密着して外袋14によって支持されることになる。したがって、内袋15の強度上の弱点部分である溶着による開口接合部15aに、内圧による大きな荷重が負荷されないことになり、これによって溶着による開口接合部15aが破断するのを効果的に回避することが可能になる。
【0027】
なお、内袋15の端部15bは、開口接合部15aが表裏のシート材料の間に挟まれて配置されるように、内袋15の内側に折り返す必要は必ずしもなく、開口接合部15aが一方のシート材料の外側に重ねて配置されるように外側に折り返すこともできるが、開口接合部15aが表裏のシート材料の間に配置されるように内袋15を内側に折り返すようにすれば、内袋15の端部15bの外袋14との密着性をさらに向上させることが可能になる。
【0028】
本実施形態では、図3(a),(b)に示すように、外袋14の両側の折り返し部17が、外袋14よりも伸度の小さいベルト部材18によって互いに連結されていることにより、折り返し部17が折り返された状態を強固に保持するようになっている。本実施形態では、ベルト部材18は、例えば30KN程度の引張り強度を有するベルト状の部材として、好ましくはポリエステル製のものが用いられる。より具体的には、例えば糸使いとして、JIS L 0101及びJIS L 0104による規格が1670dtex/144の経糸を300本使用すると共に、700dtex/72の緯糸を使用して得られた、緯糸密度が19.0本/25mmの繊維材料からなる、幅B2が例えば46mm程度の帯状のベルト部材を用いることができる。
【0029】
ベルト部材18は、内袋15と共に折り返された折り返し部17が配置された側の外袋14の一方の面において、矩形形状の両側の長辺部の側縁部に沿って、矩形形状の長軸方向と平行に配置されて一対設けられている。またベルト部材18は、その両端部が、縫製によるベルト連結部19によって両側の折り返し部17に各々強固に接合固定されている。
【0030】
外袋14の両側の折り返し部17がベルト部材18によって互いに連結されていることにより、膨張袋体10の内部に加圧液体が圧入されて平坦な状態から膨張した際に(図3(a)参照)、折り返し部17が両側に引っ張られる荷重をベルト部材18によって効果的に支持して、折り返し部17が展開するのを回避すると共に、折り返し部17が折り返された状態を安定して保持することが可能になる。これによって、折り返し部17が展開し、外袋14の縫製による開口接合部14aや内袋15の溶着による開口接合部15aに加圧液体の内圧が負荷されることになって、これらが破断するのを効果的に回避することが可能になる。
【0031】
また、本実施形態では、ベルト部材18は、折り返し部17として折り返された外袋14の両端部分の間の部分において、少なくとも1箇所(本実施形態では1箇所)の縫製による中間接合部20を介して外袋14に各々接合されている。外袋14の両端部分の間の部分でベルト部材18が外袋14に接合されていることにより、ベルト部材18と外袋14との相対的な位置ずれを生じさせないようにすることが可能になる。これによって、膨張袋体10の内部に加圧液体が圧入されて平坦な状態から膨張した際に、例えばキャタピラのようにして折り返し部17の位置が片側にずれて膨張袋体10の片側が展開してしまうことで、当該片側の外袋14の開口接合部14aや内袋15の開口接合部15aが破断するのを効果的に回避することが可能になる。
【0032】
本実施形態では、膨張袋体10の内部に加圧液体を送り込むための注入口部材16は、好ましくは、外袋14及び内袋15の折り返された曲折部21においてこれらを貫通して取り付けられている。注入口部材16としては、密閉空間に圧力流体を圧入することが可能な公知の各種の注入口金具を用いることができる。本実施形態では、好ましくは圧入流路の開閉操作が可能な開閉バルブを備える注入口部材16が用いられる。注入口部材16は、外袋14及び内袋15を貫通させた一端部を、内袋15の内部と連通させるようにして外袋14及び内袋15に接合固定すると共に、他端部に例えばナトム工法において用いられる公知の注水システムから延設する注水配管22を接合して、注水システムから圧送される加圧水(加圧液体)を、内袋15の内部に圧入することができるようになっている。
【0033】
また、本実施形態では、注入口部材16は、外袋14及び内袋15の折り返された曲折部21において、膨張袋体10を膨張させた際に外袋14の面方向(外袋の上下の面と平行な又は略平行な方向)に沿って外側に突出配置されるように取り付けられていることが好ましい。注入口部材16が、外袋14及び内袋15の曲折部21に取り付けられていることにより、対向する一対の面(基礎11の下面と基礎地盤12の地盤面)の間の間隔部分13に膨張袋体10を挿入配置して膨張させた際に、注入口部材16がこれらの面に当って邪魔になるのを回避することが可能になる。また、注入口部材16が、外袋14及び内袋15の曲折部21において外袋14の面方向に沿って突出配置されていることにより、膨張袋体10が挿入配置される間隔部分13の外側で、注入口部材16に注水システムから延設する注水配管22を着脱する作業や、開閉バルブを開閉する操作を、よりスムーズに行うことが可能になる。
【0034】
上述の構成を有する本実施形態の膨張袋体10は、膨張する前の平坦な状態では、全体として例えば5〜20mm程度の厚さを有すると共に、適度な柔軟性を備えており、例えば巻き上げた状態とすることにより、軽量でコンパクトな形状まとめることが可能になって運搬や取り扱いも容易である。また、膨張袋体10は、内部に加圧液体を圧入することにより、図3(a)に示すように、平坦な状態から膨張して、例えば30〜300mm程度の厚さTとなることにより、例えば30〜200mm程度の最大のリフトアップ量h(図2(a),(b)参照)で、住宅建築物の基礎11を押し上げることができるようになっている。
【0035】
本実施形態では、図1及び図2に示すように、1次リフトアップによって形成された基礎11の下面と基礎地盤12の地盤面との間の、例えば20〜30mm程度の厚さtの間隔部分13に、平坦に広げた面状の膨張袋体10を、好ましくは合板23によって上下から挟み込んだ状態で挿入配置する(図2(a)参照)。ここで、合板23によって上下から挟み込んだ状態とすることにより、膨張袋体10を間隔部分13に挿入する作業が容易になると共に、厚さの小さな間隔部分13の奥まで、安定した状態で膨張袋体10を面状に敷設することが可能になる。
【0036】
膨張袋体10を基礎11の下面と基礎地盤12の地盤面との間の間隔部分13に挿入配置したら、注入口部材16に注水配管22を装着し、注水システムから圧送される加圧水(加圧液体)を膨張袋体10に圧入して膨張させることにより、基礎11と共に住宅建築物の沈下した部分をリフトアップする(図2(a)参照)。ここで、膨張袋体10は、基礎11をリフトアップする際に、基礎11によって上方から押し付けられつつ膨張変形して、その略全長に亘って面状に基礎11と接触しながら当該基礎11を押し上げるので、広範囲な接触面積を確保して、押し上げ時に基礎11から負荷される住宅建築物の荷重を分散して効率良く支持しつつ、安定した状態で住宅建築物を押し上げることが可能になる。
【0037】
また、膨張袋体10によるリフトアップ量は、注水システムから圧送される加圧水の圧力や供給量を管理することにより、容易にコントロールすることができるので、住宅建築物の基礎11を押し上げ量を制御して、精度の良い住宅建築物の沈下修正を行うことが可能になる。
【0038】
そして、上述の構成を有する本実施形態の膨張袋体10によれば、対向する基礎11の下面と基礎地盤12の地盤面との間の間隔部分13にスムーズに挿入配置できると共に、内部に加圧水を圧入するだけの簡易な作業によって、基礎11の下面を介した住宅建築物からの荷重や、基礎地盤12の地盤面からの支持反力による荷重に抗して、これらの間隔部分13を容易に拡げることが可能になる。
【0039】
すなわち、本実施形態によれば、膨張袋体10は、円周方向に継ぎ目のない筒状の織布から形成された外袋14と、水密性を有する筒状のシート材料から形成された、外袋14とは独立した動きをすることが可能な内袋15と、加圧液体の注入口部材16とからなり、外袋14及び内袋15の両端開口が開口接合部14a,15aによって個々に閉塞されると共に、外袋14及び内袋15の両端部分が折り返し部17として各々折り返された状態で保持されているので、膨張前の平坦な状態で適度な柔軟性を備えることによって、狭い間隔部分13への設置作業をスムーズに行うことが可能になる。また外袋14及び内袋15の特に開口接合部14a,15aでの破断を効果的に回避することが可能になり、基礎11や基礎地盤12からの荷重に抗しつつ、加圧水を圧入するだけの簡単な操作によって、加圧水による相当の大きさの内圧を介して、基礎11と基礎地盤12との間の間隔部分13を安定した状態で拡げることが可能になり、これによって住宅建築物を所定量押し上げてこれの沈下修正を容易に行うことが可能になる。
【0040】
また、本実施形態によれば、膨張袋体10は、適度な柔軟性を備えていると共に、外袋14と内袋15の両端開口が開口接合部14a,15aによって個々に閉塞されているので、例えば内層と外層とを接着剤等を介して接合一体化して形成された硬い材質の一重構造の消防ホースの如く、両端開口の閉塞に専用の金物を用いる必要を生じて嵩張ることがなく、また専用の金物を用いることによるコストアップを抑制することが可能になる。
【0041】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、注入口部材を介して内部に圧入して膨張袋体を膨張させる加圧液体は、加圧水である必要は必ずしもなく、油圧を付与する油等のその他の種々の加圧液体であっても良い。また、膨張袋体によって拡げられる対向する一対の面の間隔部分は、建物の基礎と基礎基盤との間の間隔部分である必要は必ずしもなく、その他の重量部と支持基盤との間の間隔部分であって良い。さらに、壁面等の対向する一対の垂直な面や一対の傾斜する面の間の間隔部分を広げるために、本発明の膨張袋体を用いることもでできる。さらにまた、本発明の膨張袋体は、その大きさや形状を適宜変更することができ、例えば長手方向の延長を長くして、間隔部分のさらに奥まで挿入配置できるようにすることも可能である。また、持ち運び可能なコンパクトな形状に形成することにより、例えば車両をリフトアップするためのジャッキアップバックとして用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の好ましい一実施形態に係る膨張袋体を用いて住宅建築物の基礎をリフトアッブする状況を説明する、(a)は略示断面図、(b)は略示上面図である。
【図2】(a),(b)は、本発明の好ましい一実施形態に係る膨張袋体を用いて住宅建築物の基礎をリフトアッブする状況を説明する拡大断面図である。
【図3】(a)は、本発明の好ましい一実施形態に係る膨張袋体の膨張させた状態の側面図、(a)は平坦にした状態の底面図である。
【図4】図3(a)のA部拡大断面図である。
【図5】図4のB部における内袋の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0043】
10 膨張袋体
11 基礎
12 基礎地盤
13 基礎の下面と基礎地盤の地盤面との間隔部分(対向する一対の面の間隔部分)
14 外袋
14a 外袋の開口接合部
15 内袋
15a 内袋の開口接合部
15b 内袋の端部
16 注入口部材
17 折り返し部
18 ベルト部材
19 ベルト連結部
20 中間接合部
21 曲折部
22 注水配管
23 合板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する一対の面の間隔部分に配置され、内部に加圧液体が圧入されて平坦な状態から膨張することにより、前記対向する一対の面からの荷重に抗して前記間隔部分を拡げる膨張袋体であって、
円周方向に継ぎ目のない筒状の織布から形成され、前記加圧液体による内圧に耐え得る強度を有する外袋と、水密性を有する筒状のシート材料から形成され、前記外袋よりも大きな寸法及び/又は大きな伸度を備えると共に、前記外袋の内部で前記外袋とは独立した動きをすることが可能な内袋と、前記加圧液体の注入口部材とからなり、
平坦な状態で前記外袋及び前記内袋の両端開口が個々に接合されて閉塞されると共に、前記外袋及び前記内袋の両端部分が折り返された状態で保持されている膨張袋体。
【請求項2】
前記内袋の端部が、前記外袋の折り返された両端部分の内部において、さらに反対側に折り返されている請求項1に記載の膨張袋体。
【請求項3】
前記外袋の折り返された両端部分は、前記外袋よりも伸度の小さいベルト部材によって互いに連結されていることにより、折り返された状態が保持されるようになっている請求項1又は2に記載の膨張袋体。
【請求項4】
前記ベルト部材は、前記外袋の折り返された両端部分の間の部分において、少なくとも1箇所で前記外袋に接合されている請求項3に記載の膨張袋体。
【請求項5】
前記注入口部材は、前記外袋及び前記内袋の折り返された曲折部分においてこれらを貫通して設けられている請求項1〜4のいずれかに記載の膨張袋体。
【請求項6】
沈下した部分の建物の基礎と基礎基盤との間の間隔部分に配置され、建物をリフトアップすることにより建物の沈下修正を行うジャッキアップバックとして用いられる請求項1〜5のいずれかに記載の膨張袋体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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