説明

膨張黒鉛シート及びその製造方法

【課題】ある程度の低灰分化を図りつつ可撓性の低下を抑制することにより、所望の形状に成型する際、表面にひび割れが生じたり、欠けが生じることを抑制することにより、品質と歩留りとを飛躍的に向上させることができる膨張黒鉛シートを提供することを目的としている。
【解決手段】板状の膨張黒鉛シート3の一端が固定される回転体2と、上記膨張黒鉛シート3の他端に固定される錘7と、上記回転体2を回動した場合の上記膨張黒鉛シート3の曲げ位置を決定する曲げ位置決定部材5とを有する可撓性測定装置を用いた場合に、上記膨張黒鉛シート3の折り曲げ可能な回数を可撓性とする可撓性測定試験において可撓性が25回以上であって、且つ灰分含有量が500ppm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低灰分で可撓性を有する膨張黒鉛シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、膨張黒鉛シートは、天然黒鉛、熱分解黒鉛、キッシュ黒鉛等を硫酸、硝酸等の混合溶液で処理し、水洗、乾燥後、膨張炉で約1000℃に膨張化処理させ、これをロール等で圧延によりシート化されている。膨張黒鉛シートは、耐熱性に優れ、気液不浸透性に優れているのでパッキン、ガスケット、ホットプレスの離型シート、カーボンるつぼの中敷、電子機器等の放熱部材等に使用されている。
【0003】
ここで、上記膨張黒鉛シートにおいて灰分が多いと、パッキンやガスケット等として用いた場合に、相手材である金属等を傷つけるおそれがあり、また、ホットプレス等の離型用として用いる場合には、成型する材料に転写して凹凸や模様等が生じることがある。
【0004】
そこで、膨張黒鉛シートを800℃以上のハロゲンガス雰囲気下で高純度化処理し、不純物の含有量を低減できる高純度膨張黒鉛シートを得ることが開示されており、このものは半導体製造工程でも使用されている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平04−21509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、膨張黒鉛シートを高純度化した場合には低灰分化できるものの、可撓性が低下するため、上述したパッキンやガスケット等として使用するために所望の形状に成型する際、ひび割れが生じたり、欠けが生じることがある。このため、成型品の品質が低下したり歩留りが低下するという課題を有していた。
【0007】
そこで本発明は、ある程度の低灰分化を図りつつ可撓性の低下を抑制することにより、所望の形状に成型する際、ひび割れが生じたり、欠けが生じることを抑制することにより、品質と歩留りとを飛躍的に向上させることができる膨張黒鉛シート及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するために、板状の膨張黒鉛シートの一端が固定される回転体と、上記膨張黒鉛シートの他端に固定される錘と、上記回転体を回動した場合の上記膨張黒鉛シートの曲げ位置を決定する曲げ位置決定部材とを有する可撓性測定装置を用い、上記膨張黒鉛シートの幅を10mm、厚さを0.42mm、上記回転体からの垂下部分の長さを90mm、上記錘を50g、上記回転体の左右方向の回動角を鉛直方向からそれぞれ30°とし、且つ、上記曲げ位置決定部材の配置位置が上記膨張黒鉛シートの下端から20mmとした場合に、上記膨張黒鉛シートの折り曲げ可能な回数を可撓性とする可撓性測定試験において可撓性が25回以上であって、且つ灰分含有量が500ppm以下であることを特徴とする。
上記構成であれば、ある程度の低灰分化を図りつつ可撓性の低下を抑制することができる。したがって、膨張黒鉛シートを所望の形状に成型する際に、表面にひび割れが生じたり、欠けが生じることを抑制することができるので、成型品の品質と歩留りとを飛躍的に向上させることができる。
尚、本明細書において灰分とは、アルミニウム、鉄等の金属成分、若しくは金属成分に由来する不純物をいうものとする。
【0009】
ここで、硫黄の含有量が500ppm以上であることが望ましく、特に、灰分含有量が300ppm以下で、硫黄の含有量が1000ppm以上であることが望ましい。
このような構成であれば、上記作用効果が一層発揮される。
【0010】
灰分が0.1重量%以下の黒鉛材料を、硫酸を含む酸処理液に浸漬して、攪拌することにより、酸処理黒鉛を作製するステップと、上記酸処理黒鉛を中和処理するステップと、上記中和処理がなされた酸処理黒鉛を加熱することにより膨張化処理を行って、膨張黒鉛を作製するステップと、上記膨張黒鉛を加圧するステップと、を有することを特徴とする。
上記方法の如く、ハロゲンガスによる高純度化処理を経ることなく膨張黒鉛シートを作製すれば、硫酸中の硫黄成分が膨張黒鉛シート内に残存することになるため、膨張黒鉛シートの可撓性が向上する。また、灰分が0.1重量%以下の黒鉛材料を用いているので、高純度化処理を経なくても、灰分量がある程度低減された膨張黒鉛シートを得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ある程度の低灰分化を図りつつ可撓性の低下を抑制することができるので、所望の形状に成型する際、表面にひび割れが生じたり、欠けが生じることを抑制することができる。したがって、膨張黒鉛シートを用いた製品の品質と歩留りとを飛躍的に向上させることができるといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】膨張黒鉛シートの可撓性を測定する可撓性測定装置の正面図である。
【図2】可撓性測定装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
先ず、濃度98%の濃硫酸100重量部に酸化剤としての過酸化水素を5重量部添加した酸処理液に、灰分が0.01重量%以下の天然黒鉛を30分浸漬し攪拌して反応させることにより、酸処理黒鉛を得た。次に、この酸処理黒鉛を上記酸処理液から取り出した後、十分水洗することにより、pHを7に近付け、更に乾燥を行った。
【0014】
次いで、上記水洗後の酸処理黒鉛を温度800℃の電気炉に投入して過熱膨張化処理を行って膨張黒鉛を作製した。この後、ローラ間に上記膨張黒鉛を通すことによって膨張黒鉛を加圧して、かさ密度0.9g/cmの膨張黒鉛シートを作製した。尚、この膨張黒鉛シートの長さは100mm、幅は10mm、厚さは0.42mmである。
【0015】
(その他の事項)
(1)原料である黒鉛としては、上記天然黒鉛に限定するものではなく、熱分解黒鉛、キッシュ黒鉛などであっても良いが、工業的に入手が容易な天然鱗片状黒鉛を使用するのが好ましい。但し、如何なる黒鉛を用いた場合であっても、灰分量は0.1重量%以下に規制する必要がある。また、黒鉛の粒度は30〜100メッシュのものを使用することが望ましい。
【0016】
(2)上記酸処理時に用いる硫酸としては、濃硫酸に限定するものではなく、無水硫酸、発煙硫酸等、硫黄成分を含んでいれば良いが、工業的には、濃度90%以上、好ましくは濃度95〜98%の濃硫酸を使用するのが望ましい。また、黒鉛の浸漬、撹拌時間は30分に限定するものではないが、一般的には、15〜60分程度であることが望ましい。
【0017】
(3)酸化剤としては、上記過酸化水素に限定するものではなく、過酸化アンモニウム、過酸化カリウム等であっても良く、またその添加量は硫酸100重量部に対して、1〜10重量部であれば良い。
【0018】
(4)酸処理黒鉛を中和する方法としては十分な水洗を行うことに限定するものではなく、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩等から選択される固体中和剤を用いて行っても良い。
【0019】
(5)膨張黒鉛シートのかさ密度は0.9g/cmに限定するものではないが、0.5〜1.3g/cm(特に、0.7〜1.3g/cm)であることが好ましい。また、膨張黒鉛シートの厚みは0.42mmに限定するものではないが、0.2〜1.0mmであることが好ましい。この範囲は、膨張黒鉛シートが実際に用いられる主体となる厚みであり、シートの実用上と可撓性とのバランスが良好にできる範囲である。
【実施例】
【0020】
(実施例)
上記発明を実施するための形態と同様にして膨張黒鉛シートを作製した。
このようにして作製した膨張黒鉛シートを、以下、本発明シートAと称する。
【0021】
(比較例1)
原料である天然黒鉛として、灰分量が0.5重量%のものを用いた他は、上記実施例と同様にして膨張黒鉛シートを作製した。
このようにして作製した膨張黒鉛シートを、以下、比較シートZ1と称する。
【0022】
(比較例2)
原料である天然黒鉛として、灰分量が0.5重量%のものを用いると共に、シート作製後に、塩素ガスを供給しながら2000℃で10時間保持するという高純度化処理を行った他は、上記実施例と同様にして膨張黒鉛シートを作製した。
このようにして作製した膨張黒鉛シートを、以下、比較シートZ2と称する。
【0023】
(実験)
上記本発明シートA及び比較シートZ1、Z2における灰分量、硫黄量、可撓性(膨張黒鉛シートの折り曲げ可能な回数)外観(通常の外観、巻きつけ後の外観)を測定したので、それらの結果を表1に示す。尚、灰分量、硫黄量、可撓性の測定方法は下記の通りであり、外観は目視により行った。
【0024】
〔灰分量の測定方法〕
膨張黒鉛シートの灰分量の測定は、磁性ルツボに高純度膨張黒鉛シート15g以上を秤量しこれを電気炉に入れ、850℃で48時間加熱し、加熱前の質量と加熱後の質量から灰分を測定した。
【0025】
〔硫黄量の測定方法〕
酸素気流中燃焼−赤外線吸収法(測定装置:LECO社製硫黄分析装置)にて測定した。
【0026】
〔可撓性の測定方法〕
膨張黒鉛シートの可撓性の測定には、図1及び図2に示す可撓性測定装置を用いた。この可撓性測定装置は基台1を有しており、この基台1の上端近傍には、基台1に対して回転自在な回転体2が配置されている。この回転体2は、円柱状の本体部2aと、この本体部2aの下部に固定されて膨張黒鉛シート3を保持する挟持部2bとから構成されている。また、上記回転体2には、回転体2に固定されて回転体2と共に回動する回動板8が固定されており、この回動板8には、回動板8を図1の矢符方向に回動させるためのハンドル4が固定されている。また、回動板8の下端部近傍には、上記回転体2(回動板8)を回動した場合に、上記膨張黒鉛シート3の曲げ位置を決定する曲げ位置決定部材5(直径:6mm)が固定されている。
【0027】
また、上記膨張黒鉛シート3の下端には、連結具6によって錘7が固定されており、これにより、上記回転体2(回動板8)を回動した場合に、上記膨張黒鉛シート3に負荷が加わり、曲げ位置決定部材5で膨張黒鉛シート3が曲がる構成である(図1の二点鎖線参照)。ここで、上記膨張黒鉛シート3の幅L5は10mm、長さL1は100mmであり、上記回転体2の下端と上記曲げ位置決定部材5との距離L2は70mm、曲げ位置決定部材5と膨張黒鉛シート3の下端部との距離L3は20mm、曲げ位置決定部材5間の距離L4は2.5mmである。また、上記錘の重量は50g、上記回転体の左右方向の回動角θは30°とした。更に、上記膨張黒鉛シート3の厚さは0.42mmとし、また、膨張黒鉛シート3の揺動サイクル(膨張黒鉛シート3が垂下位置→左端位置→右端位置→垂下位置に達するまでの時間)は2秒とした。尚、実験時の温度は室温(25℃)である。また、可撓性を測定する際の試料数は、各10枚である。尚、表中の可撓性の回数とは、膨張黒鉛シート3が切断するまでの揺動サイクルの回数である。
【0028】
【表1】

【0029】
上記表1から明らかなように、通常の外観において、本発明シートAと比較シートZ2とでは灰分の凝集は認められないのに対して、比較シートZ1では直径0.5mm程度の灰分の凝集が認められた。これは、本発明シートAと比較シートZ2とでは灰分量がそれぞれ300ppm、30ppmであるのに対し、比較シートZ1では灰分量が5000ppmであって、極めて多くなっていることに起因するものと考えられる。
【0030】
また、巻きつけ後の外観において、本発明シートAと比較シートZ1とでは表面にひび割れや凹凸等の変化は認められないのに対して、比較シートZ2では表面にひび割れが認められ、且つ、本発明シートAと比較シートZ1とでは可撓性が30〜35回であるのに対して、比較シートZ2では可撓性が5〜10回であることが認められた。これは、本発明シートAと比較シートZ1とでは硫黄量がそれぞれ1000ppm、1200ppmであるのに対し、比較シートZ2では硫黄量が0ppmであることに起因するものと考えられる。
【0031】
以上のことから、本発明シートAは、通常の外観及び巻きつけ後の外観が良好で、しかも可撓性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、パッキン、ガスケット、ホットプレスの離型シート、カーボンるつぼの中敷、電子機器等の放熱部材等に用いることができる。
【符号の説明】
【0033】
2:回転体
3:膨張黒鉛シート
5:曲げ位置決定部材
7:錘

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の膨張黒鉛シートの一端が固定される回転体と、上記膨張黒鉛シートの他端に固定される錘と、上記回転体を回動した場合の上記膨張黒鉛シートの曲げ位置を決定する曲げ位置決定部材とを有する可撓性測定装置を用い、上記膨張黒鉛シートの幅を10mm、厚さを0.42mm、上記回転体からの垂下部分の長さを90mm、上記錘を50g、上記回転体の左右方向の回動角を鉛直方向からそれぞれ30°とし、且つ、上記曲げ位置決定部材の配置位置が上記膨張黒鉛シートの下端から20mmとした場合に、上記膨張黒鉛シートの折り曲げ可能な回数を可撓性とする可撓性測定試験において可撓性が25回以上であって、且つ灰分含有量が500ppm以下であることを特徴とする膨張黒鉛シート。
【請求項2】
硫黄の含有量が500ppm以上である、請求項1に記載の膨張黒鉛シート。
【請求項3】
灰分含有量が300ppm以下で、硫黄の含有量が1000ppm以上である、請求項2に記載の膨張黒鉛シート。
【請求項4】
灰分が0.1重量%以下の黒鉛材料を、硫酸を含む酸処理液に浸漬して、攪拌することにより、酸処理黒鉛を作製するステップと、
上記酸処理黒鉛を中和処理するステップと、
上記中和処理がなされた酸処理黒鉛を加熱することにより膨張化処理を行って、膨張黒鉛を作製するステップと、
上記膨張黒鉛を加圧するステップと、
を有することを特徴とする膨張黒鉛シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−87008(P2012−87008A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235259(P2010−235259)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】