説明

膵臓細胞培養における膵臓前駆細胞の細胞増殖促進方法

本発明は、(1)膵臓内分泌細胞においてアポトーシスを減少させるために十分な量のカスパーゼ阻害剤、および(2)活性化Akt量を増加させるために十分な量の成長因子と、細胞とを接触させることによって膵臓前駆細胞の増殖および生存を促進可能である発見に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔関連出願〕
本出願は、参照のために本明細書に組み込まれる、米国仮特許出願第60/760,445号明細書(2006年1月20日出願)に優先して利益を主張するものである。
【0002】
〔発明の属する技術分野〕
本発明は、アポトーシスの制御および膵臓内分泌細胞の培養における増殖の要であるAkt、セリン/スレオニンキナーゼに関する。さらに、本発明の方法および組成は、(1)細胞のアポトーシスを減少させるために十分な量のカスパーゼ抑制剤、および(2)膵臓内分泌細胞の活性化Akt量を上昇させるために十分な量の成長因子、に接触することで、膵臓細胞培養における膵臓内分泌細胞の増殖および生存を促進することを可能にする。
【0003】
〔発明の背景〕
正常血糖(euglycemia)の回復の手段としてのランゲルハンス島移植の出現は、糖尿病治療において主要な画期的出来事とされる。しかし、ヒト臓器提供者の不足は、臓器提供者の臓器に対する臓器移植者の数を増加させるためにランゲルハンス島調整物からインビトロで島の増殖方法を発展させる重要性を浮き彫りにする。げっ歯類における知見では、成熟ベータ細胞は複製能を保っているが、増殖しているヒトベータ細胞は今日まで特定されていない(「Dorら (2004) Nature 429 (6897):41-46」)。ランゲルハンス島増殖の研究において主要な点は、急激に増え、成熟内分泌マーカー(特にインスリン)を発現する可能性を有する膵臓内分泌細胞の同定である。しかし、前記の前駆細胞の性質はいまだに解明されていない。
【0004】
移植片の機能性の欠損と同様に、分離および細胞培養過程の間のランゲルハンス島の損失は、糖尿病患者の治療のために十分な数のランゲルハンス島の確保にとって大きな障害である。インビトロで培養されたヒト膵臓細胞は、内分泌細胞の顕著な損失を導くアポトーシスを起こす。そのため、移植前の多くの措置の間、移植用の島細胞を保存するための確立した方法が決定的に重要である。
【0005】
臓器入手および細胞分離の過程の間、ランゲルハンス島は臓器提供者の脳死、臓器の分離および保存手順、膵臓の酵素学的消化、ランゲルハンス島画分の分離、並びにインビトロ細胞培養による多様な損傷にさらされる。そのため、患者一人への移植に一人以上の臓器供与者の膵臓が必要である。これら全ての手順の間における細胞死機構の活性化は、島移植の前および後に観察される機能的な島集団の大量減少の説明となるかもしれない。このことは、糖尿病治療の手順の有効性の実質的な制限である。
【0006】
カスパーゼはアポトーシス細胞死を導く多くの段階の実行に主要な役割を担っていることが確かめられている(「Chandraら (2001) Diabetes 50(supp 1):S44-S47」)。アポトーシスの抑制は、増殖に利用できる限られた数のヒト膵臓提供者から内分泌細胞を増やすことの一因となることが示された。(例えば、米国特許第6,562,620号明細書; 「Hayek, A.ら (2002) Curr. Diab Rep. 2:371-376」を参照のこと)。特に、ある方法は、ランゲルハンス島の損失に関与する細胞死過程を阻害し、患者への島集団の移植が促進してきた(国際公開第200361551号パンフレット)。1以上のカスパーゼ構成員の抑制により、多くの細胞種(膵臓内分泌細胞を含む)において細胞死を防ぐことができるが、カスパーゼ切断の上流の細胞死を標的とすることがより効果的であろう。
【0007】
数々の成長因子が、膵臓細胞の生存、増殖および機能を増強することが示されてきた(「Garcia-Ocanaら (2001) J. Clin. Endocrinol. Metab. 86:984-988」)。これらの成長因子は全て、多くの細胞種の生存を制御するホスファチジルイノシトール−3キナーゼ(PI3K)シグナル経路の上流で働く(「Stokoe, D. (2005) Expert Rev. MoL Med. 7:1-22; Linら (1999) Cancer Research 59:2891-2897」)。この経路の重要な作動体(effector)は、膜の回復およびリン酸化を介して活性化されるセリン/スレオニンキナーゼ、Aktである。多様な組織におけるインスリン反応およびグルコースの代謝におけるAktの役割は数多く発表されている(Whiteman E.L.ら (2002) Trends Endocrinol. Metab. 10:444-451)。例えば、Akt2遺伝子の欠損を有するマウスは、発育不全を示し、インスリン抵抗性およびグルコース不寛容である。構成的に活性化したAkt1を発現するトランスジェニックマウスは、ベータ細胞の大きさ、ならびに亢進したグルコース寛容および実験的糖尿病への完全な抵抗性を導く島集団全体が増加する(「Turtleら (2001) Nat. Med. 7:1133-1137」)。さらに最近の研究では、ウイルス遺伝子の転移または薬理学的方法のどちらかによるAkt1の構成的発現は、糖尿病マウスにおいてヒト島移植片の状態を改善することが示唆された(「Contrerasら (2001) Transplantation 74:1063-1069」; 「Raoら (2005) Diabetes 54:1664-1675」)。
【0008】
結局のところ、前記の研究のゴールは、細胞死経路を阻害することによりランゲルハンス島集団を増加することであり、さらに、ランゲルハンス島の移植を糖尿病治療の実験的手法とするために、内分泌細胞の増殖および拡張を同時に促進することである。本発明は、細胞においてアポトーシスを減少させるために十分な量の外因性のカスパーゼ抑制剤、および膵臓内分泌細胞において活性化Akt量を増加させるために十分な量の少なくとも1つの外因性の成長因子に細胞を接触させることで、膵臓細胞培養において細胞の生存および増殖を促進する方法を提供することにより、前記のゴールに達する。さらに、カスパーゼ阻害剤および成長因子の組み合わせは、他の細胞種において見られない相乗効果を提供する。
【0009】
〔発明の簡単な要約〕
本発明の一態様は、(1)膵臓内分泌細胞においてアポトーシスを減少させるために十分な量の外因性のカスパーゼ抑制剤、および(2)膵臓内分泌細胞において活性化Akt量を増加させるために十分な量の少なくとも1つの外因性の成長因子、に細胞を接触することで、膵臓細胞培養において膵臓内分泌細胞の増殖を促進する方法を提供する。
【0010】
本発明の一実施形態では、膵臓内分泌細胞はインスリンを産生する凝集体である。
【0011】
本発明の一実施形態では、細胞は外因性のカスパーゼ抑制剤と接触する。本発明に好適に使用されるカスパーゼ抑制剤の典型的な例は、Q−VD−OPH、Z−VAD(OMe)−FMK、Ac−VAD−CHO、Boc−D−FMK、BACMK、BI−9B12、Ac−LDESD−CHO、DEVD−CHO、およびCPP32/アポパイン(Apopain)抑制剤を含み、好ましくはQ−VD−OPHおよびZ−VAD(OMe)−FMKを含む。
【0012】
本発明の一実施形態では、外因性のカスパーゼ抑制剤は、約lμM〜約100μM、好ましくは約10〜約100μMの間、およびより好ましくは約1〜約10μMの間の濃度で存在する(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、および100μM)。
【0013】
本発明の他の実施形態では、膵臓内分泌細胞は、活性化Akt量を増加させるために十分な外因性の成長因子に接触される。以下に限定されるものではないが、本発明における使用に好適な成長因子の典型例は、PDGF−BB、EGF、IGF−I、IGF−II、およびヘレグリン(heregulin)を含む。一実施形態では、外因性の成長因子は、PDGF−BB、並びにIGF−Iおよび/またはIGF−IIのどちらかである。
【0014】
本発明に用いられる外因性の成長因子は、通常、培養液中に約10 ng/ml〜約100ng/ml(例えば、10、15、20、25、30、40、50、60、70、75、80、85、90、95、および100ng/ml)の濃度で存在する。
【0015】
本発明の他の態様は、膵臓内分泌細胞を含む培養液である。前記の培養液は、培養された膵臓内分泌細胞においてアポトーシスを減少させるために十分な量の外因性のカスパーゼ抑制剤を含む。また、前記培養液は、培養された膵臓内分泌細胞において活性化Akt量を増加するために十分な量の少なくとも1つの外因性の成長因子を含む。
【0016】
本発明の一実施形態では、培養液は外因性のカスパーゼ抑制剤を含む。本発明に好適に用いられる典型的なカスパーゼ抑制剤は、Q-VD-OPH、Z-VAD(OMe)-FMK、Ac-VAD-CHO、Boc-D-FMK、BACMK、BI-9B12、Ac-LDESD-CHO、DEVD-CHO、およびCPP32/アポパイン抑制剤を含む。一実施形態では、外因性のカスパーゼ抑制剤はQ-VD-OPH、またはZ-VAD(OMe)-FMKである。
【0017】
培養液中の外因性のカスパーゼ抑制剤は、通常約lμM〜約100μM、好ましくは約10〜約100μM、およびより好ましくは、約1〜約10μMの濃度で存在する(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、および100μM)。
【0018】
また、本発明の他の実施形態では、培養液は、培養細胞において活性化Akt量を増加させるために十分な量の少なくとも1つの外因性成長因子を含む。本発明の使用に好適である典型的な成長因子は、PDGF−BB、EGF、IGF−I、IGF−II、およびヘレグリンである。一実施形態では、外因性成長因子は、PDGF−BB、並びにIGF−I、および/またはIGF−IIのどちらかである。
【0019】
本発明に用いられる外因性の成長因子は、通常培養液中に約10ng/ml〜約100ng/ml(例えば、10、15、20、25、30、40、50、60、70、75、80、85、90、95、および100ng/ml)の濃度で存在する。
【0020】
膵臓細胞が外因性の成長因子および外因性のカスパーゼ抑制剤に接触される順番は、特に重要ではない。例えば、一実施形態では、細胞は外因性の成長因子に接触される前に外因性のカスパーゼ阻害剤に接触される。一実施形態では、細胞は外因性カスパーゼ抑制剤に接触する前に外因性の成長因子に接触される。さらに別の実施形態では、細胞は、外因性のカスパーゼ抑制剤および外因性の成長因子に同時に接触される。
【0021】
〔発明の詳細な説明〕
〔1.定義〕
単位、接頭語(Prefixes)、および記号はSysteme International de Unites (SI)に承認された形式で示される。数値域は、定義された範囲の数が含まれる。本明細書において提供される表題(heading)は、その全体が明細書に参照される本発明の多様な態様または実施形態に限定されない。従って、以下に挙げる定義された用語は、明細書の全体が参照されることでさらに定義される。本明細書において定義されない用語は、当業者により理解される通常の意味を有する。
【0022】
本明細書において用いられる「生存培地」という用語は、アポトーシスを減少させるために十分な量の外因性のカスパーゼ抑制剤、および細胞中の活性化Akt量を増加させるために十分な量の少なくとも1つの外因性の成長因子を含む生理学的に条件を満たした細胞培地を表す。生存培地として用いることができる典型的な細胞培地は、SM95、F12、DMEM、Eagles MEM、CMRL1066、RPMI1640培地、もしくはこれらの任意の組み合わせ、または他の生理学的に条件を満たす培地(市販されていても、当業者に知られていてもよい)を含む。カスパーゼ抑制剤は、カスパーゼ抑制剤、または汎カスパーゼ抑制剤を選択してよい。典型的なカスパーゼ抑制剤は、Q−VD−OPH、Z−VAD(OMe)−FMK、Ac−VAD−CHO、Boc−D−FMK、BACMK、BI−9B12、Ac−LDESD−CHO、DEVD−CHO CPP32/Apopain抑制剤を含む。典型的な成長因子は、PDGF−BB、EGF、ヘレグリン、IGF−I、およびIGF−IIを含む。
【0023】
本明細書において用いられる「コントロール培地」は、膵臓内分泌細胞において、アポトーシスを減少させるのに十分な量の添加された外因性カスパーゼ抑制剤、または活性化された全長Akt量を増加させるために十分な量の外因性の成長因子を含まない生理学的な条件を満たす細胞培養培地を表す。
【0024】
本明細書において用いられる「分化培地」は、FBS、または活性化Akt量を増加させるために十分な量のAkt刺激剤PDGF−BBおよびIGFを含まない生理学的な条件を満たす細胞培養培地を表す。分化培地は、膵臓前駆細胞を成熟インスリン産生細胞に分化を誘導する他の成長因子、サイトカインおよび化学物質を含まない。典型的な分化因子は、肝細胞成長因子(HGF)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、エクセンディン−4(exendin−4)、ニコチンアミド、ベータセルリン、およびINGAPを含む。
【0025】
本明細書において用いられる「細胞増殖」という用語は、細胞の生育および細胞の分化により細胞数が増加する過程に用いられる。細胞増殖は、以下に示す本明細書に記載した方法で測定される(限定されないが、Ki−67イムノブロッティング、DNA含有量の分析、および細胞数の計測を含む)。本明細書に用いられるように、外因性のカスパーゼ抑制剤および外因性の成長因子の存在下の細胞増殖の程度が、外因性のカスパーゼ抑制剤および外因性の成長因子の非存在下での細胞増殖の程度よりも大きければ、細胞増殖は促進される。
【0026】
本明細書において用いられるように「膵臓内分泌細胞」という用語は、(I)分化した膵臓内分泌細胞のマーカーを発現し、膵臓ホルモン(例えば、インスリンおよびグルカゴン)を産生する成熟膵臓内分泌細胞(例えば、インスリン産生凝集体)、ならびに(II)分化した膵臓細胞のマーカーを発現しておらず、膵臓ホルモンを産生しないが、膵臓ホルモン(例えば、インスリンおよびグルカゴン)を産生および分泌する成熟膵臓細胞へ分化する能力がある膵臓前駆細胞の両方を表す。
【0027】
本明細書において用いられるように「接触する」という用語は、例えば以下のように言い換えることができる:結合する、添加する、混合する、通り抜ける、培養する、流れる、さらされるなど。
【0028】
本明細書において用いられるように「外因性」という用語は、組織または細胞の外部に起源を有するが、個々の組織または生細胞において存在し作用する任意の因子または物質を表す。
【0029】
「成長因子」という用語は、細胞分化の調節、細胞成熟、および/または細胞生存を調節するように機能する、組織から作製された任意の物質、組織から取り出された細胞によって作製された任意の物質、または研究室で作製された任意の物質を表す。
【0030】
本明細書において用いられるように「カスパーゼ抑制剤」という用語は、カスパーゼ酵素の活性を抑制または減少できる、任意の化合物、分子またはタンパク質を表す。
【0031】
本明細書において用いられるように「アポトーシス」という用語は、「プログラムされた細胞死」と言い換えることができ、細胞死に導かれる一連の遺伝的にプログラムされた現象を含む細胞死の種類を表す。
【0032】
「活性化Akt量を増加させるために十分な量の外因性の成長因子」という語句は、細胞のホモジネート(homogenate)のウエスタンブロット分析、または本明細書に記載したその他の方法により確認できるように、活性化Akt量を検出可能なまで増加させるために十分な量の外因性成長因子の量を表す。
【0033】
本明細書において用いられるように「アポトーシスを減少させるために十分な量の外因性のカスパーゼ抑制剤」という語句は、カスパーゼ活性を減少させるため、または外因性カスパーゼ抑制剤の未処理細胞に比べて処理細胞においてアポトーシスを減少させるために十分な外因性のカスパーゼ抑制剤の量を表す。減少したカスパーゼ活性は、カスパーゼプロファイリング分析、もしくは本明細書に記載した他の方法、または当業者に知られたその他の好適な方法を用いて決定される。アポトーシスは、アネキシン−V−EGFPおよびプロピジウムヨウ化物染色、または本明細書に記載した他の方法、もしくは当業者に知られたその他の方法を用いて検出される。
【0034】
本明細書において用いられるように「活性化Akt」という用語は、野生型全長Aktタンパク質ファミリー構成員、それらの活性化断片、またはそれらの活性化変異体(Akt活性を保っている融合タンパク質)を表す。Aktタンパク質ファミリーは、Akt1、Akt2およびAkt3を含む。野生型全長Aktタンパク質は、PKAおよびPKCの両者と密接に関連する触媒ドメインを有するセリン/スレオニンキナーゼである。Aktという用語は、RACタンパクキナーゼ(AおよびCキナーゼに関連する)、およびPKB(プロテインキナーゼB)と言い換えられる。Aktファミリー構成員は、アミノ末端のプレクストリン相同(PH)ドメイン、およびカルボキシ末端のタンパク質セリン/スレオニンキナーゼ触媒ドメインを特徴としている。
【0035】
本明細書において用いられる「インスリン産生凝集体」という用語は、インスリンを産生および分泌する膵臓内分泌細胞、または膵臓内分泌細胞の集まりを表す。
【0036】
本明細書において用いられる「分化する」または「分化」という用語は、細胞が未分化状態から分化状態、または未成熟状態から成熟状態へ進む過程を表す。例えば、分化していない膵臓細胞は、PDX−1のような特徴的なマーカーを増殖および発現することができる。成熟または分化した膵臓細胞は増殖しないが、大量の膵臓内分泌ホルモンを分泌する(例えば、成熟β細胞はインスリンを大量に分泌する)。細胞の相互作用および成熟の変化は、未分化細胞の欠失するマーカーまたは分化した細胞の獲得するマーカーとして生じる。あるマーカーの欠失または獲得は、細胞が「成熟したか分化したか」を示すことができる。
【0037】
本明細書において用いられる「分化因子」という用語は、成熟インスリン産生β細胞への分化を促進するために膵臓細胞に添加される化合物を表す。典型的な分化因子は、肝細胞成長因子、ケラチノサイト成長因子、エクセンディン−4、塩基性繊維芽細胞成長因子、インスリン様成長因子−I、神経成長因子、上皮細胞成長因子、および血小板由来成長因子を含む。
【0038】
本明細書において用いられる「細胞生存」という用語は、集団内で始原細胞の数と比べて、回収、分離、および無傷臓器に由来する細胞の初代培養のような処理の後に生存している細胞の数を表す。本明細書で用いられるように、仮に外因性カスパーゼ抑制剤および外因性成長因子の存在下における細胞生存の程度が、外因性カスパーゼ抑制剤および外因性成長因子の非存在下における細胞生存の程度と比べて増加していれば、細胞生存は促進される。
【0039】
本明細書において用いられる「生理学的条件を満たす培養培地」という語句は、細胞の摂取および細胞の維持に必要な栄養素および栄養補助剤を含む、培養皿において細胞を覆う培養液を表す。
【0040】
本明細書において用いられる「相乗効果」とは、膵臓前駆細胞の増殖および生存を促進する、外因性成長因子および外因性カスパーゼ抑制剤の複合効果を表す。相乗効果は、外因性のカスパーゼ抑制剤および外因性の成長因子の両者に接触された場合に、各要素を単独で接触させた場合の膵臓前駆細胞の生存および/または増殖と比べて、生存および/または増殖を増加することにより示される。相乗効果は、単独で使用した場合と同じまたは近い効果に達するために必要な外因性の成長因子および/または外因性のカスパーゼ抑制剤の量と比べた場合に、少ない量の外因性成長因子または外因性のカスパーゼ抑制剤が膵臓前駆細胞の生存および/または増殖を同じまたは近い増加に達するために要求されることでも示される。
【0041】
〔2.序文〕
正常血糖の回復の手法としてのランゲルハンス島移植の出現は、糖尿病の治療において大きな画期的事件として表現される。しかし、ヒト臓器提供者は不足しており、臓器提供者の臓器に対する臓器移植者の数を増加するため、限られた数のランゲルハンス島調製物からインビトロでランゲルハンス島を増殖する方法の発展が重要であることを浮き彫りにする。従って、当業者は、培養中において内分泌細胞の増殖および拡張を促進することが糖移植が糖尿病治療のための実際的な手段となるために必要であることを認識する。
【0042】
通常の方法論を用いる成人ヒト膵臓細胞の生体外での細胞培養の間、細胞の大部分の画分は非接触性である。これらの大部分の非接触細胞および多くの接着細胞は、技術的に通常の培養方法を用いると、アポトーシスのため失われる。多くのこれらの細胞(接着性および非接着性の両者)は、成熟内分泌細胞または内分泌前駆細胞の特徴を有する遺伝子を発現する。しかし、前記の細胞には、インビトロでのカスパーゼ抑制により回復させることができる細胞も存在する。これらの所見は、Akt経路を含むカスパーゼ活性化の上流シグナル経路の関与の調査に本発明者らの注意を向けた。膵臓内分泌細胞に現されたようにAkt経路とカスパーゼ経路との間の有効な相互作用が発見されつつある。膵臓内分泌細胞の培養中にカスパーゼ活性を阻害すると、細胞内でアポトーシスの減少に寄与する全長Akt量が細胞内で増加し、さらにアポトーシスが減少する。驚くべきことに、外因性のカスパーゼ抑制剤の添加に加えて、外因性の成長因子の特定の組み合わせを添加すると、培養膵臓内分泌細胞の増殖および生存を促進する相乗効果を有することが発見された。
【0043】
しかしながら、この驚くべき相乗効果は、膵臓内分泌細胞に特異的であることが明らかになった。外因性のカスパーゼ抑制剤と少なくとも1つの外因性Akt活性化成長因子(すなわち生存培地)との組み合わせは、本明細書に記載した方法を用いて培養した肝細胞の増殖および生存に相乗効果を示さない。
【0044】
また、本明細書に開示した方法を用いた成人ヒト膵臓細胞の生体外での培養は、従来の培養方法と比べて非接着性の細胞の数が減少することが明らかとなった。さらに、本明細書において教示された方法により培養された膵臓内分泌細胞は、通常の膵臓内分泌細胞の機能性を保っている。当業者に知られた標準的な方法と比較して本明細書において教示した方法を用いて培養した膵臓内分泌細胞の集団において膵臓の遺伝子発現(例えば、インスリン)の増加は、本明細書に記載した培養方法による膵臓内分泌細胞の増殖および生存を増加する直接的な効果である。従って、本明細書に記載した方法は、膵島細胞の移植をI型糖尿病の治療の実験的な代案および実行可能な代案とするため、限られた数の膵臓内分泌細胞を生体外に拡張するために用いられる。
【0045】
〔3.膵臓内分泌細胞の分離〕
本発明の実践における第1の段階は、膵臓内分泌細胞を分離することである。当業者は、膵臓内分泌細胞を分離するために用いることができる多様な情報および方法を認識する。本明細書に記載した方法は、膵臓の提供者の年齢に依存しない。従って、胚から成人までの臓器提供者から分離された膵臓素材が使用できる。臓器入手および細胞の分離の典型的な手法は、実施例1に詳細に記載している。
【0046】
〔3−A.膵臓からの膵臓内分泌細胞の分離〕
一度膵臓が臓器提供者から採取されれば、通常、多様な方法を用いて個々の培養細胞または細胞の小集団を産じるために継代される。米国特許第5,830,741号明細書、および米国特許第5,753,485号明細書を参照のこと。前記の一方法では、採取した膵臓組織の洗浄、および酵素消化を必要とする。採取した組織の柔組織を膵臓細胞物質の小さな画分に引き離すために、結合している組織の消化に酵素処理が用いられる。採取された臓器の全体構造から膵臓細胞物質、基礎構造、および個々の膵臓細胞を分離するために、採取された組織は1以上の酵素で処理される。商業的供給者(シグマ−アルドリッチ、St.Lois、MO;ロシュ、インディアナポリス、IN)から容易に入手できるコラゲナーゼ、DNAse、リベラーゼ(liberase)沈殿物、およびその他の酵素は、本明細書において開示した方法に使用できる。
【0047】
しかし、培養のために一度引き離した膵臓組織は、さらなる分離をすることなく本発明の培養方法に直接使用することもできる。また、分離された原料物質は、1以上の所望の細胞集団を濃縮するためにさらに処理できる。臓器提供者に由来する採取された細胞混合物は、通常、異質である。従って、前記の細胞混合物は、α-細胞、β-細胞、δ-細胞、導管細胞、腺房細胞、任意の前駆細胞、および他の種類の膵臓細胞を含む。一実施形態では、分離された膵臓細胞物質は、密度勾配遠心分離により精製される。例えば、米国特許第5,739,033号明細書に開示された方法が使用できる。NYCODENZ(登録商標)、FICOLL(登録商標)、またはPERCOLL(登録商標)を含む多様な密度勾配培地が本発明に使用できる。前記の培地は商業的供給者(例えば、シグマアルドリッチ、St.Louis、MO)から容易に入手できる。
【0048】
典型的な精製手順により、細胞物質が、多くの層または界面中に分離される。典型的には2つの界面が形成される。上部の界面は、ランゲルハンス島細胞が豊富であり、通常10〜100%のランゲルハンス島細胞を懸濁液中に含む。第2の界面は、通常、ランゲルハンス島、腺房細胞、および導管細胞を含有する混合した細胞の集合体である。沈殿は、濃度勾配の底に形成される。前記沈殿は、通常、主に(>80%)腺房細胞、いくらかの沈殿したランゲルハンス島細胞、およびいくらかの導管細胞を含む。
【0049】
さらなる操作から選択された画分の細胞構成要素は、各分離によって変化し、さらなる継代に選択された濃度勾配画分の部分に依存する。例えば、ランゲルハンス島細胞の豊富な集合体は、少なくとも10%〜100%のランゲルハンス島細胞を含む分離された画分から得ることができる。当業者は、本明細書に記載した培養方法が、使用した精製濃度勾配に依存する第2界面、沈殿、または他の画分もしくは界面からの細胞の分離に使用できることを理解する。
【0050】
〔4.細胞培養および膵臓内分泌細胞の培養およびそれらの子孫細胞〕
〔4−A.一般的な細胞培養手順〕
一度膵臓細胞が分離されれば、膵臓細胞は「Freshney, Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique 4th ed., John Wiley & Sons (2000)」に記載されているような一般的な細胞培養方法論を用いて培養される。通常、膵臓細胞は他の哺乳類細胞に好適な条件下で培養される(例えば、加湿培養機で37℃、5%CO雰囲気下)。膵臓細胞は、技術的に公知の多様な基質上で培養できる。前記基質としては、例えば、ホウケイ酸ガラスチューブ、ボトル、ディシュ、表面の変化しないクローニングリング、プラスチック組織培養ディシュ、チューブ、フラスコ、マルチ−ウェルプレート、増加させた生育表面領域(GSA)を備える容器、ドプラ食道モニタ(EDM)、GSAを増加させるための複合内部シートを有するフラスコ、フェンウォールバッグ(fenwal bags)、および他の従来公知の培養容器が挙げられる。細胞は、細胞の生育および分化を促進するための細胞外マトリクス構成要素で予めコートされた培養表面で生育させてもよい。前記構成要素は、例えば、フィブロネクチン、コラーゲンI、エンゲルブレス−ホルム−スワームマトリックス(Engelberth-Holm-Swarm matrix)、および好ましくはコラーゲンIVまたはラミニンが挙げられる。本発明に好適に用いられるこれらの培養条件およびその他の培養条件は当業者に公知である。
【0051】
膵臓細胞の培養において他の重要な要素は、回収された細胞の播種密度、または密集した状態となり新しい担体に移し変える際の細胞数である。播種密度は、培養膵臓細胞の生存可能性に影響を与える。特定の培養条件における適した播種密度は、異なる密度範囲での細胞の播種、ならびに細胞の生存および増殖率の観察により経験的に決定されてよい。ある播種密度は、ホルモンを産生し、培養液中に分泌する細胞に効果的であることが示された。通常、細胞の濃度は、100mmの培養皿あたり約10〜10個の細胞数の範囲に及ぶ(例えば、100mm培養皿あたり10、10、10、10、10、10、または10個の細胞数)。他の培養容器における細胞濃度は、相対的な担体の表面領域および/または培養ガス交換表面領域を計算することで調節されてよい(例えば、Freshney、supraを参照のこと)。培養容器表面領域に対する細胞濃度は、培養表面領域あたりの適した培地容量を用いた培地容量に対する細胞濃度と相関していてもよい(0.2−0.5ml/cmが静置培養の通常の範囲である)。
【0052】
通常の細胞培養増殖技術が本発明の実施に好適である。簡潔に説明すると、P0細胞は、100mmプラスチック組織培養皿に1×10細胞の密度でまかれる。培地は、3日毎に交換し、前記細胞は、90%以上の密度に達すると0.05%トリプシン(トリプシン/EDTA、Invitrogen,Carsbad,CA)を用いてP1に継代培養される。分割比は、通常、1:3であるが、生存培地中で増やした細胞では1:6でもよい。P1培養物は、通常、約3〜5日で90%の密度に到達する。この時点で、コントロール培地中で増やす細胞は1:3、生存培地中で増やす細胞は1:6の割合でP2に継代培養される。この後に続く全ての継代は、P1培養に記載したように行った。培養培地は、通常、3日毎、または培養液のpHが新しい培養液が必要であると示した場合に交換される。
【0053】
〔4−B.細胞培養培地〕
本発明の膵臓細胞は多様な培養液中で培養されてよい。本明細書に記載したように、培地は特定の成分を含むか、または特定の成分を欠いている(例えば、分離および増殖手順の特定の処置に好ましい血清など)。例えば、膵臓から新しく分離された細胞は、細胞を分離手順から回復させるために高濃度の血清培地で維持してもよい。逆に、中期段階の細胞集団の選択および増殖には低血清培地が好ましい。従って、多くの培地の組成が本発明の実施に用いられてよい。本明細書において開示した培地の組成は典型例を示すためであり、培養液の決定的に重要でない成分は、本明細書に記載した分析を用いて細胞の集団の複製または分化の変化への効果を試験することで除外、代用、変更、または追加されてよい。例えば、「Stephanら Endocrinology 140:5841-54 (1999)」を参照のこと。
【0054】
〔4−B−1.コントロール培地〕
培養液は通常基礎培地からなる。前記の基礎培地は、生理学的な条件を満たした培地であり、無機塩類、緩衝液、アミノ酸、ビタミン、エネルギー源、ならびにある場合では、有機中間体および前駆体の形態でタンパク質、核酸、炭水化物、または脂質代謝を含む追加の栄養素を含む。通常、本発明に好適に用いられる基礎培地は、限定されないが、F12、Eagle’s MEM、Dulbecco’s modified MEM (DMEM)、RPMI 1640、CMRL 1066、SM95(組成は表1に示す)、1:1でFl2とDMEMとを混合した培地、および当業者に知られた培地またはこれらの組み合わせを含んでよい。細胞の生育を補助するために、基礎培地は、通常、成長因子、他のタンパク質、ホルモン、および痕跡元素を補われる。これらの補助栄養物質は、細胞の生育、維持、および/または分化を促進し、他の培養液成分の不純物または毒素を補償し、基礎培地中に欠けている微量元素を提供する。多くの培地において、血清はこれらの補助栄養物質の源である。血清は、多様な哺乳類の供給源(例えば、ヒト、ウシ、ヒツジ、ウマなど、および成体、幼体、または胎仔)から補われてよい。「Freshney、supra」を参照のこと。ウシ胎仔血清(FBS)は、通常、補助栄養物質として用いられる。血清の濃度は、培養液の総容量に対する血清の容量の割合として表され、通常、約0.1〜25%(例えば、約0.1、0.2、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20または25%)の範囲である。一実施形態では、血清の濃度は低いが完全に排除されず、定義済み(defined)、または半分定義(semi-defined)された補助栄養物質の混合物が基礎培地に添加される。一用途において、基礎培地は、血清の代わりに添加できる成長因子、ホルモン、および微量栄養素の定義済み(defined)、または半分定義(semi-defined)された混合物を補われる。前記のような定義された培地の調整物は本明細書に開示される;その他の培地は、当業者に知られているか、または商業的供給源から入手可能である(「Freshney、supra」を参照のこと)。
【0055】
一般的に、本明細書に記載した培地に添加する補助成分は、同一の生物学的特性を有する天然または合成産物により交換されてよい。例えば、トリヨードチロニン、ヒドロコルチゾン、およびプロゲステロンは、同一の細胞内受容体(甲状腺受容体、グルココルチコイド受容体、およびプロゲステロン受容体)を活性化することが知られている天然ホルモンまたは合成ホルモンにより全て置換され得る。インスリンおよびEGFは、通常、組換えDNA方法論により作製されたヒトタンパク質であるが、天然源から精製されたポリペプチド、他の生物種に由来するポリペプチド、またはインスリンおよびEGF受容体の他のアゴニストと置換されてよい。ErbB3受容体のリガンドであるヘレグリンは、ヘレグリン異性体ならびに他のErbB3アゴニスト(NRG2、NRG3、およびNRG4、感覚ニューロン由来因子、運動ニューロン由来因子、ニューレスチン(neurestin)、ならびにEbp−1、ヘレグリンα、ヘレグリンβ、ヘレグリンγ、ニューレグリン(neuregulin)−1、およびニューレグリン−2(NRG−I アルファ、NRG−I ベータ、NRG−2 アルファ、およびNRG−2 ベータ)により置換されてよい。
【0056】
【表1】

【0057】
〔4−B−2.生存培地〕
分離された膵臓細胞の培養は、膵臓内分泌細胞の生存および増殖を促進する選択培地において行われる。本明細書において、「生存培地」と記載する前記の選択培地は、膵臓内分泌ホルモンの分泌能力を保持している細胞、または膵臓内分泌ホルモンを大量に分泌する分化した細胞へ成熟する可能性を有する細胞の増殖および生存に有利に働く。一般的に生存培地は、繊維芽細胞および間葉細胞を犠牲にする内分泌細胞または内分泌細胞様細胞の増殖および生存に有利に働く。
【0058】
本明細書で使用される生存培地は、生理学的な条件を満たした0.5〜10%のウシ胎仔血清(FBS)(例えば、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10%)(通常は5%)を含む培地からなる。生存培地は、培養細胞においてアポトーシスを減少させるために十分な量の外因性カスパーゼ抑制剤、および培養膵臓細胞において活性化Akt量を増加させるために十分な量の少なくとも1つの外因性成長因子をも含む。当業者は、任意の濃度または特定の補助栄養物質の必要性について単一製剤の濃度変化、ならびに細胞の増殖、生存、および培養細胞中での活性化Akt量の効果を本明細書に開示した方法を用いて観察することにより経験的に決定してよいことを理解する。
【0059】
生存培地に添加される外因性のカスパーゼ抑制剤は、汎カスパーゼ抑制剤またはカスパーゼ特異的抑制剤のどちらかであってよい。両者は商業的供給者から広く入手できる(例えば、MP Biomedicals、Solon、OH)。カスパーゼ抑制剤は、通常、約1μM〜約100μMの濃度で添加される(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、または100μM)。本明細書において好適に用いられるカスパーゼ抑制剤の限定されない典型例は、Q−VD−OPH、Z−VAD(OMe)−FMK、Ac−VAD−CHO、Boc−D−FMK、BACMK、BI−9B12、Ac−LDESD−CHO、DEVD−CHO CPP32/アポパイン抑制剤を含んでよい。
【0060】
少なくとも1つの外因性成長因子は、培養細胞において活性化Akt量を増加させるために十分な量を生存培地に添加される。通常、成長因子は、培地に約10ng/ml〜約100ng/mlの範囲の濃度で添加される(例えば、培地中に10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100ng/ml)。本発明に好適に用いられる成長因子の限定されない典型例は、IGF、EGF、およびPDGFファミリーの構成員を含んでよい。ただし、特定のファミリーの全ての構成員が作用するわけではない。例えば、PDGFファミリーの構成員であるVEGFは、本発明において作用しない。しかし、当業者は、活性化Akt量を増加する成長因子は、本明細書に提供した分析を用いて容易に同定できることを認識する。
【0061】
本発明によると、膵臓細胞は、分離に続いて生存培地に直接移されるか、または高濃度の血清培地から低濃度の血清培地へ移された後、生存培地へ移されてよい。膵臓内分泌細胞の培養の生存培地への移動は、繊維芽細胞および間葉細胞を犠牲にして膵臓内分泌細胞の増殖および生存を促進する。生存培地中で培養された膵臓内分泌細胞の集団は、膵臓マーカー(例えば、PDX−1)の高い発現量を維持し、コントロール培地中で培養された細胞と比べて生存培地で継代した場合、細胞の増殖および生存の程度が増加することを示し続ける。生存培地中で増殖する細胞は、本明細書に記載したような分化培地での細胞培養により比較的少ない量の膵臓内分泌ホルモン(例えば、インスリン)を分泌する。成熟分化膵臓細胞は増殖の促進を示さない。そのため、コントロール培地での培養と比較して、分化培地において発現するインスリン量は、細胞の数の増加が直接反映される。膵臓内分泌細胞の分離、培養、および分化に関する詳細は実施例に記載する。
【0062】
〔5.細胞の増殖と生存の測定法〕
細胞の増殖および細胞の生存を測定するための多様な方法が利用可能であり、当業者に知られている。膵臓内分泌細胞培養において細胞の増殖および生存を測定する好適な方法の限定されない典型例は、成体染色色素を用いた細胞数の測定、または自動細胞計数機、増殖マーカー(例えば、Ki−67)を用いた免疫標識、およびトリプシン処理した細胞のDNA含有量の測定を含んでよい。これらの方法は、実施例2にさらに詳細に記載されている。本発明に好適に使用されるその他の方法は当業者に公知である。
【0063】
一実施形態では、細胞の増殖および生存は、生体染色色素トリパンブルーを用いて測定される(例えば、図2Aを参照のこと)。簡潔に説明すると、単一の膵臓細胞懸濁液は、90%の密度に達した培養細胞から0.05%のトリプシンを用いて作製される。トリプシン処理された細胞の希釈液は、生体染色色素トリパンブルーと結合される。生きている細胞は、生体色素を排除し、血球計測器を備えた顕微鏡下で数えられる。この手順は当業者に公知であり、Feshneyらにより報告されている。
【0064】
他の実施形態では、トリプシン処理されたDNA含有物は、メーカーの使用説明書(Molecular Probes Inc., Eugene OR)に従って、CyQUANT(登録商標)細胞増殖試験を用いて測定される。CyQUANT(登録商標)細胞増殖試験の基礎は、細胞の核酸に結合した場合強い蛍光を示す独自の蛍光色素CyQUANT GRである。前記の試験は、単一の色素濃度を用いて、200μl中に50個以下〜少なくとも50,000個の範囲の細胞の直線検波を有する(例えば、図3Cを参照のこと)。
【0065】
さらに、他の実施形態では、細胞増殖は、細胞増殖のマーカーKi−67(Neomarkers, Fremont, CA)に対する抗体で培養した膵臓細胞を免疫学的に標識することで評価される。例えば、図3AおよびBを参照のこと。免疫標識は、当業者に公知の一般的な免疫手順に従って行われる。より詳細には実施例2の記載を参照のこと。
【0066】
〔6.アポトーシスの検出方法と測定方法〕
本発明は、培養中におけるアポトーシスを減少させるためにカスパーゼ抑制剤を用いることで膵臓内分泌細胞の生存を促進する。当業者は、膵臓内分泌細胞培養中のアポトーシスの程度の観察が膵臓細胞培養においてアポトーシスを減少させるために十分な量のカスパーゼ抑制剤が存在する場合のアポトーシスの測定方法だと認識する。以下に記載する方法、および実施例3により詳細に記載した方法が、本発明に好適に使用できる、細胞培養中のアポトーシスの存在を検出するために用いられる方法の限定されない例である。本発明に好適に用いられるその他の方法も当業者に公知である。
【0067】
一実施形態では、カスパーゼ3および7の存在および細胞死の範囲は、メーカーの使用説明書(Promega Inc., Madison, WI)に従って、APO−ONE(登録商標)カスパーゼ試験(例えば、図1を参照のこと)を用いて測定される。
【0068】
膵臓細胞培養においてアポトーシスを起こした早期の細胞および後期の細胞の検出は、アネキシン−V−EGFPおよびプロピジウムヨウ化物(US Biological,Swampscott,MA)を用いて検出することができる。アポトーシスを起こした早期の細胞において、アネキシン−V−EGFPは、細胞の外膜のホスファチジルセリンに結合する(例えば、図2Bを参照のこと)。一方、アポトーシスを起こした後期の細胞は、プロピジウムヨウ化物を取り込み、保持する。アポトーシスを起こした早期の細胞および後期の細胞は、続いて蛍光顕微鏡を用いて定量できる。
【0069】
〔7.増加した活性化全長Aktタンパク質量の測定法〕
Aktは、膵臓内分泌細胞における多様なインスリン媒介性の現象(細胞増殖および生存を含む)の重要な制御因子である。我々の培養において細胞の増殖を促進するために、Akt活性を刺激することが知られている成長因子が用いられる。そのため、当業者は、活性化Akt量が増加するために要求される成長因子の十分な量が存在する場合の指標として、Akt活性の程度を観察することの重要性を認識する。
【0070】
膵臓内分泌細胞における活性化Aktタンパク質量は、当業者に公知の多様な方法を用いて評価できる。活性化Akt量を観察する好適な方法には、免疫細胞化学、またはタンパク質のゲル電気泳動およびウエスタンブロッティングが含まれてよい。例えば、図4および実施例4の記載を参照のこと。活性化Akt量を観察するための方法は、活性化Akt量を定量する目的で濃度測定試験、または当業者に知られた他の好適な方法と組み合わせることができる。
【0071】
〔8.インスリン産生凝集体の分化誘導〕
未成熟膵臓内分泌細胞は、PDX−1のようなマーカーを増殖および発現する。一方、成熟膵臓細胞は、増殖せず、インスリンのような内分泌ホルモンを大量に分泌する。従って、生存培地における膵臓内分泌細胞の拡張に続いて、ランゲルハンス島移植に使用するために、未成熟膵臓内分泌細胞から成熟インスリン分泌細胞に分化することが必要である。技術的に公知の多様な方法および分化因子が、以下に記載したような成熟インスリン分泌細胞への膵臓内分泌細胞の分化を促進するために本発明に好適に使用される。
【0072】
細胞の凝集を誘導することで、膵臓内分泌細胞の分化が誘導できる。細胞の凝集は多用な方法で誘導可能である。例えば、凝集および分化は、ならし培養皿で生育する細胞により誘導できる。例えば、一実施形態では、コラーゲンコートされたプレートは、膵臓内分泌細胞の凝集および分化を誘導するために用いられる。
【0073】
また、凝集および分化は、細胞を密集した状態に増やすこと、または細胞を分化培地(DM)で処理することにより誘導できる。分化培地は、生理学的条件を満たしたFBSを含まない培地、およびPDGF−BBまたはIGFのようなAkt刺激因子を含まない培地である。しかしながら、分化培地は、Aktを刺激しないか、またはAktを活性化するために十分ではない濃度で存在する多様な他の成長因子および分化因子を含んでいる。分化因子の限定されない典型的な例として、肝細胞成長因子、ケラチノサイト成長因子、エクセンディン−4、ニコチンアミド、ベータセルリン、INGAP、b−FGF、NGF、EGF、IGF−1、およびPDGFを含んでよい。肝細胞成長因子は、培養および遺伝子導入動物において膵臓細胞の分化に影響を与えることが示されてきた。例えば、「Mashima, Hら Endocrinology, 137:3969-3976 (1996)」;「Garcia-Ocana, A.らJ. Biol. Chem. 275:1226-1232 (2000)」; および「Gahr, S.らJ. MoI. Endocrinol. 28:99-110 (2002)」を参照のこと。ケラチノサイト成長因子は、遺伝子導入動物において膵臓細胞の分化に影響を与えることが示されてきた。例えば、「Krakowski, M. L.,らAm. J. Path. 154:683-691 (1999)」および「Krakowski, M. L.,らJ. Endocrinol 162:167-175 (1999)」を参照のこと。エクセンディン−4は、培養中において膵臓細胞の分化に影響を与えることが示されてきた。例えば、「Doyle M. E.およびEgan J. M., Recent Prog. Horm. Res. 56:377-399 (2001) 」ならびに「Goke, R.,らJ. Biol. Chem. 268:19650- 19655 (1993) 」を参照のこと。塩基性FGF(bFGF)は、マイクロカプセルに入れられた膵臓ランゲルハンス島においてインスリン分泌を増加することを示してきた。例えば、「Wang W.,らCell Transplant 10(4-5): 465- 471 (2001)」を参照のこと。IGF−Iは、膵管細胞の分化に影響を与える。また、IGF−I代償療法は、I型糖尿病の治療に用いられる。例えば、「Smith FE.,らProc. Natl Acad. Sd. USA. 15;88(14): 6152-6156 (1991)」、「Thrailkill KM.らDiabetes Technol. Ther. 2(1): 69-80 (2000)」を参照のこと。文献によると、NGFは膵臓ベータ細胞機能において重要な自動制御の役割を担っていることが示さされてきた。例えば、「Rosenbaum T.らDiabetes 50(8): 1755-1762 (2001)」、「Vidaltamayo R.らFASEB 16(8): 891-892 (2002)」、および「Pierucci D.らDiabetologia 44(10): 1281-1295 (2001)」を参照のこと。 EGFは、ランゲルハンス島の生育を促進し、インスリン分泌を刺激することが示されてきた。例えば、「Chatterjee AK.らHorm. Metab. Res. 18(12): 873-874 (1986) 」を参照のこと。本発明に公的に使用できるこれ以外の分化因子は当業者に公知である。
【0074】
〔9.膵臓内分泌細胞の特徴およびその継代〕
当業者は、成熟膵臓内分泌細胞が存在かどうか決定するために、膵臓内分泌細胞およびその子孫細胞の分化段階を決定することは有用であると認識する。膵臓細胞の分化段階は、タンパク質およびmRNAマーカー(例えば、PDX−1またはインスリン)の測定、ならびに機能試験(例えば、グルコース刺激に応じたインスリン分泌能力)を含む多様な方法で確認できる。例えば、図6および図8を参照のこと。
【0075】
〔9−A.表現型分析〕
どの時点で膵臓細胞が存在するかを知るためには、培養の特定の段階で膵臓内分泌細胞の表現型を分析することが有用である。特定のタンパク質の発現は、細胞の特性または分化状態と関連するため、細胞は、自身の特性または分化状態を評価するためにマーカー遺伝子またはタンパク質の発現を分析されてよい。例えば、新たに分離された膵臓組織において、細胞はアミラーゼの発現により外分泌腺房細胞として同定される。一方、細胞は、インスリンの発現によりランゲルハンス島内分泌細胞として同定される。同様に、分化早期の段階のランゲルハンス島細胞は、通常、サイトケラチンCK−19に陽性である。一方、成熟ランゲルハンス島細胞では、CK−19の発現は低い。
【0076】
表現型の特性は、細胞対細胞を基準として分析されてもよく、または細胞集団の平均として分析されてよい。分析法は、分析技術の特定の要求および方法論に依存する。従って、固定された切片、またはFACS解析により浮遊細胞で行われる免疫組織化学的手法によるマーカー発現の分析では、個々の細胞が発現する所定のマーカーの頻度および強度を測定する。他方、細胞の全集団のインスリン対アクチンのmRNA発現比率の平均のような特性を測定することが望ましい場合もある。そのような場合、通常、前記の分析は、細胞プール(cell pool)からのmRNAの収集、およびインスリンおよびアクチンのmRNAの全存在量の測定により行われる(例えば、図6および図8Bを参照のこと)。多くの表現型特性は、細胞または細胞集団に基づいて分析され得る。例えば、インスリンの発現は、分泌顆粒におけるインスリンの存在を個々の細胞を染色することにより分析されてもよく、または細胞プールを溶解し、総インスリンタンパク質の分析をすることにより分析されてもよい。同様に、mRNA量は、細胞の溶解およびmRNAの収集によって細胞集団について測定されてよく、またはin situハイブリダイゼーションによって個々の細胞について測定されてよい。
【0077】
前記したように、成熟した膵臓内分泌細胞は増殖しないため、成熟マーカー(例えば、インスリン)量の増加は、内分泌細胞集団の増殖および/または生存の増加を反映する成熟インスリン分泌細胞数の増加の指標となる。インスリン発現の相乗効果による成熟膵臓内分泌細胞の集団の増殖および生存は、生存培地に存在するカスパーゼ抑制剤およびAkt活性化成長因子の組み合わせ処理において観察される。この相乗効果は、図7において明確に示されている。図に示されているように、Aktを活性化する成長因子の単独での添加は、コントロール培地のみで生育した細胞と比べてインスリン/βアクチンmRNA比率は増加しない。このことは、外因性の成長因子単独では、内分泌細胞集団の増殖および/または生存を増加するために十分ではないことを示唆する。しかし、コントロール培地へのカスパーゼ抑制剤(例えば、OPH−109)の添加は、コントロール培地のみで増殖させた細胞に対してインスリン/βアクチンの比率を10倍増加する。このことは、通常、コントロール培地中においてアポトーシスを起こすことを運命付けられた内分泌細胞が、カスパーゼ抑制剤の添加により救出され、生存することを示唆する。驚くべきことに、コントロール培地へのAktを活性化する成長因子およびカスパーゼ抑制剤の両者の添加(すなわち生存培地)は、コントロール培地のみよりもインスリン/βアクチンの割合を16倍増加するという相乗効果を生じる。この相乗効果は、カスパーゼ抑制剤によりアポトーシスから救出された内分泌細胞集団の増殖によるものである。
【0078】
〔9−A−1.細胞分化マーカー〕
多様な内分泌細胞の集団および分化の異なる段階は、当業者に公知の多様な細胞マーカーの発現に基づき同定できる。分離および培養において、臓器提供者の膵臓内分泌細胞は、分化した膵臓内分泌細胞の多様な表現型および遺伝子型の兆候を示し始める。多様な細胞集団および分化の段階の表現型および遺伝子型の兆候は、培養過程間に調節(例えば、増加または減少の調節)される任意の前駆細胞において存在する膨大な数の分子マーカーを含む。
【0079】
発生段階は、発生中の細胞における特定のマーカーの存在または非存在を同定することにより決定できる。ヒト内分泌細胞は、似たような法則で発生するため、多様なマーカーが、膵臓内分泌前駆細胞から成熟インスリン産生凝集体の表現型に移行する細胞の同定に使用できる。
【0080】
本発明の方法によって増殖または分化を誘導された細胞でのマーカーの発現は、正常ヒト膵臓発生において発現するマーカーの順序に対して類似性を有する。目的のマーカーは、膵臓において一時的および組織特異的なパターンで発現する分子である(例えば、「Hollingsworth, Ann N Y Acad Sci 880:38-49 (1999)」を参照のこと)。これらの分子マーカーは、3種の一般的なカテゴリーに分けられる。前記のカテゴリーとは、転写因子、notch経路マーカー、および中間フィラメントマーカーである。転写因子の例は、PDX−1、NeuroD、Nkx−6.1、Isl−1、Pax−6、Pax−4、Ngn−3、およびHES−1を含む。notch経路マーカーは、Notch1、Notch2、Notch3、Notch4、Jagged1、Jagged2、Dll1およびRBPjkを含む。中間フィラメントマーカーの例は、CK19およびネスチン(nestin)を含む。膵臓β細胞の前駆細胞のマーカーの例は、PDX−1、Pax−4、Ngn−3、およびHb9を含む。成熟した膵臓β細胞のマーカーの例は、インスリン、ソマトスタチン、glp−9、およびグルカゴンを含む。
【0081】
〔9−A−2.膵臓細胞の表現型の評価の一般法〕
培養細胞または分離された細胞におけるタンパク質および核酸の発現を評価する方法は、一般的な技術である。また、前記方法は、定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT−PCR)、ノザンブロット、in situハイブリダイゼーション(例えば、「Current Protocols in Molecular Biology (Ausubelら eds. 2001 supplement)」を参照のこと)、ならびに切片にされた材料の免疫組織化学的分析、ウエスタンブロッティング、およびフローサイトメトリー分析(FACS)において無傷細胞に到達できるマーカーのような免疫学的検定を含む(例えば、「Harlow およびLane, Using Antibodies: A Laboratory Manual, New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press (1998)」を参照のこと)。内分泌細胞分化に対する組織化学的な従来マーカーも採用されてよい。免疫組織化学または免疫蛍光分析により試験される細胞は、顕微鏡観察のためガラススライド上で培養されてよい。例えば、「Harlowおよび Lane, supra」を参照のこと。また、従来の組織培養皿中で生育する細胞は、手で培養液から移動され、切片にするためにパラフィンで包埋される。PDX−1抗体は、「Leonard J.ら MoI. Endocrinol., 10:1275-1283 (1993)」の技術により作製できるか、またはIncstar,Inc.(Stillwater,MN)のような商業的供給者から購入できる。膵臓内分泌細胞の表現型の具体的な分析方法は、実施例5により詳細に記載する。
【0082】
〔9−B.機能分析〕
本明細書に記載した方法による増殖および拡張したベータ細胞の重要な機能の1つは、グルコース量によって細胞自身のインスリン分泌を調整することである。通常、静的グルコース刺激(SGS)分析は、異なるグルコース量に反応してインスリンを分泌可能か否かを同定するために、増殖している接着性の膵臓細胞に対して行うことができる。一般的に、細胞は密集度が限界近くになるまで好適な基質上で培養される。SGS試験の1〜3日前に、培養液はインスリンを含まず、1g/Lのグルコースを含む同じ性質の培地に交換される。前記の培地は毎日交換される。また、実施例6に記載したように、SGS試験は4日目に行われる。
【0083】
〔10.カプセル化および移植〕
膵臓内分泌細胞のカプセル化は、カプセル中に細胞の凝集体を形成する。カプセル化は、膵臓細胞を糖尿病の患者に移植することを可能にする。さらに、対象動物の免疫反応を最小限にする。3次元環境中において膵臓前駆細胞のさらなる成熟をも可能にする。カプセル膜の気孔率は、カプセルから分泌する生体材料(例えば、インスリン)により選択できる。さらに、外来細胞を宿主動物の免疫系から保護する。
【0084】
当業者に公知のカプセル化方法は、例えば以下の文献に開示されている:「van Schelfgaardeおよびde Vos, J. MoI. Med. 77:199-205 (1999)」、「Uludagら. Adv. Drug Del Rev. 42:29-64 (2000) 」 および米国特許第5,762,959号明細書、米国特許第5,550,178号明細書、および米国特許第5,578,314号明細書。カプセル化方法は、international application PCT/US02/41616にさらに詳細に記載されており、本明細書に引用して援用する。
【0085】
哺乳類への埋め込みまたは移植、およびそれに続く内分泌細胞機能の観察は、通常、ランゲルハンス島移植に用いられる方法に従って実行されてよい。例えば、「Ryanら Diabetes 50:710-19 (2001)」、「Peckら Ann Med 33:186-92 (2001)」、「Shapiroら N Engl J Med 343(4):230-8 (2000)」、「Carlssonら Ups J Med Sd 105(2): 107-23 (2000)」、および「Kuhtreiber, WM, Cell Encapsulation Technology and Therapeutics, Birkhauser, Boston, 1999」を参照のこと。限定されない典型例として、埋め込む部位は、皮下、および大網袋(omental pouch)のような腹腔内を含む。
【0086】
当業者は、所定の臓器移植者に応じてマイクロカプセルの好適な用量を決定することができる。また、前記の用量は臓器移植者のインスリン要求に依存する。マイクロカプセルから分泌するインスリンの量は、技術的に公知の多くの方法(例えば、免疫学的に、または生物学的活性量により)により決定される。移植者の体重も、前記用量を決定する際に考慮される。もし必要ならば、1以上の埋め込みが実行でき、カプセル化細胞への移植者の反応が観察される。従って、埋め込みへの反応は、カプセル化細胞の用量の指針として用いることができる(例えば、「Ryanら Diabetes 50:710-19 (2001)」を参照のこと)。
【0087】
臓器移植者におけるカプセル化細胞の機能は、グルコースへの移植者の反応を観察することにより決定できる。カプセル化細胞の埋め込みは、血中グルコース量を制御できる。加えて、C−ペプチドまたは膵臓内分泌細胞ホルモン(例えば、インスリン、グルカゴン、およびソマトスタチン)量の増加は、移植されたカプセル化細胞機能の指標ともなる。
【0088】
当業者は、血中グルコースの制御は、異なる方法で観察できることを認識する。例えば、体重およびインスリン要求性として血中グルコースは直接測定できる。経口的ブドウ糖負荷試験も実施できる。また、腎機能は他の代謝パラメータとして決定できる(「Soon-Shiong, Pら PNAS USA 90:5843-5847 (1993)」、「Soon-Shiong, Pら Lancet 343:950-951 (1994)」)。
【0089】
本明細書に引用した全ての特許、特許出願、および他の出版物は、その全体を本明細書に引用して援用する。
【0090】
〔実施例〕
以下の実施例は、具体例を提供する目的を含み、いかなる方法においても本発明を限定することが目的とは解釈されない。当業者により実施例に開示した技術(以下に示された技術)は、本発明の実験において発明者によりその機能が明らかとされ、従って、本発明の実施に好ましい形態で表現できる。しかし、当業者は、本発明の開示の観点から見て、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示された特定の実施例において同様の結果を得たまま、多くの変更ができる。
【0091】
〔実施例1.膵臓内分泌細胞の培養〕
〔1−A.臓器入手〕
膵臓細胞は、死体の膵臓から分離した。臓器の採取は、United Network for Organ Sharing(「UNOS」)および地方の臓器移植団体が取りまとめている。移植者の研究の同意書へのサインのみが使用される。
【0092】
膵臓の採取のために、腹大動脈を腎動脈の結合部の下部に挿入し、門脈の灌流のために下腸間膜動脈を介してカニューレを挿入した。前記のカニューレを脾静脈(SV)が門脈(PV)に結合している上部の門脈に挿入した。緩い2−0結索部は、門脈の結合部でSVの周辺に配置し、他の緩い2−0結索部は脾動脈(SA)の周辺に配置した。SVの結索部を脾臓側に連結し、灌流を開始する前に直ちに切開した。このことは、ランゲルハンス島に損傷を与える大動脈/門脈の二重終末圧を無くし、膵臓の灌流をより効率的にする。また、全ての門脈の灌流液を肝臓に流入させ、脾臓および膵臓から肝臓に入る灌流液の脱水を避けることも可能にする。続いて、網嚢を切開し、正常生理食塩水(NS)の流出を膵臓全体に観察した。1Lの大動脈灌流の後、SAを連結した。膵臓は、肝臓および腎臓が採取された場合、より厳重に保護されるべきである。前記の膵臓を膵臓移植手術において公知で技術的に使用されている手段で取り出した。
【0093】
前記の臓器を臓器保存のための冷却保存溶液である「ベルザー溶液(Belzer solution)」で満たされたプラスチックの袋に保存した。例えば、「UhlmannらJ Surg Res. 105(2)」: 173-80 (2002)」を参照のこと。ベルザーUW溶液(Belzer UW solution)は、VIASPAN(登録商標)(Barr Laboratories,Inc.,Pomona,NY)という名称でも商業的供給者から入手できる。
【0094】
〔1−B.膵臓の消化〕
ランゲルハンス島は、酵素学的な膵臓の消化により分離した。リベラーゼ(Liberase)(1バイアル瓶、0.5g、Roche)は、333mlのHBSS(1.5mg/ml、37℃)に溶解し、腺管へのカニューレ挿入により膵臓に注入した。前記の臓器は、800mlの焼き戻しビーカーで、10〜20分の間37℃で組織が溶け始めるまで培養した。
【0095】
前記の半消化された組織の塊を金属の消化チャンバーに移し、自動環状消化(automaticcirculating digestion)を開始した。組織は消化チャンバーの攪拌により分離した。
【0096】
大部分のランゲルハンス島が周辺の組織から離れた時点で消化薬を回収し、A10培地(RPMI中10%ウシ胎仔血清)で希釈した。前記の消化手順を約30分続けた。細胞をA10培地で4℃、1,000rpm、2分間で3回洗浄し、続いて細胞を分離した。
【0097】
〔1−C.膵臓細胞の分離〕
前節に記載した洗浄および遠心分離手順から得られた沈殿を320mlの膵臓ランゲルハンス島精製溶液(「PIPS」)(13.7%溶液のNYCODENZ(登録商標)AG(Axis-Shield PoC AS, Oslo, Norway)と混合した。前記のNYCODENZ(登録商標)は、合成名5−(N−2,3−ジヒドロキシプロピルアセトアミド)−2,4,6−トリ−ヨード−N,N’−ビス(2,3ジヒドロキシプロピル)イソフタルアミド)で、VIASPAN(登録商標)ベルザーUW溶液(密度1.114)中で調整され、氷上で10分間静置された遠心分離密度勾配溶液である。
【0098】
8本の各250mlの平底遠心チューブを70mlのPIPSで満たした(密度1.090)。40mlの細胞/PIPS懸濁液は、各チューブの下層に移動する。一方、60mlの2%FBSを含むRPMI1640は、PIPSの上層に移動する。前記のチューブを1,500rpmで05ARCロータを備えたSorvall RC−3CPlusを用いて継続的に6分間遠心した。
【0099】
上層の界面(A層、精製されたランゲルハンス島細胞)、下層の界面(B層、取り込まれたランゲルハンス島細胞、断片化したランゲルハンス島細胞、腺房細胞および導管細胞)および沈殿(主に腺房細胞および導管細胞)が分離して集められる。細胞は、A10培地でさらに2回洗浄され、所望のように用いられる。
【0100】
〔1−D.膵臓細胞培養〕
膵臓細胞は、5%FBSを含む10ml SM95/RPMI1640(1:1の比率)(コントロール培地として指定)、または以下の補助栄養物質を含み5%のFBSを含むSM95/RPMI1640(1:1の比率)培地のどちらかに1×10cells/mlの濃度で100mmプラスチック組織培養皿(BD Biosciences, San Jose, CA)に撒かれる。前記の補助栄養物質は、外因性成長因子rhPDGF−BB(70ng/ml)、rhIGF−I(50ng/ml)、およびrhIGF−II(50ng/ml)(全てR&D Systems Inc.)、および外因性カスパーゼ抑制剤である非O−メチル化VD−OPH(100μM)(MP Biomedical, Solon, OH)(生存培地として指定)。培養液は3日毎に交換した。細胞が90%の密集度に到達すれば、0.05%トリプシン(トリプシン/EDTA、Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いてP1に継代した。前記の細胞の分離比率は、コントロール培地においては1:4、生存培地においては1:6である。P1培養は、約5日で90%の密集度に到達した。この時点で分離比率1:3でP2に継代した。以降の全ての継代はP1培養に記載したように行った。
【0101】
〔実施例2.生存培地における膵臓前駆細胞の増殖〕
〔2−A.トリパンブルーを用いた生細胞数の測定〕
生存培地で培養した膵臓前駆細胞の増殖および生存をコントロール培地での培養と比べて評価するために、培養過程の異なる段階の間で細胞数および増殖を評価した。90%以上の密集度に達した前記の細胞から0.05%トリプシンを用いて単一膵臓細胞懸濁液を作製した。細胞の生存を評価するためトリパンブルーを用いて、血球計数機により生存細胞数を数えた。その結果、生存培地で培養すると生存細胞の数がコントロール培地での培養に比べて増加した。
【0102】
〔2−B.細胞増殖マーカー(Ki−67)に対する抗体を用いた免疫標識〕
生存培地において生育および拡大された膵臓内分泌細胞は、コントロール培地において生育および拡張した膵臓内分泌細胞よりも高い割合で増殖および生存する。このことを確認するために、細胞を4ウェルチャンバースライドで生育し、4%パラホルムアルデヒドを用いて室温で固定した。細胞をブロック液(PBS/3%BSA/1%正常ヤギ血清)中で1時間培養した後、PBS/0.2%トリトンXを用いて5分間透過化した。続いて細胞をブロッキング液で洗浄した。次に、モルモット抗ヒトC−ペプチド抗体(DAKO Inc.,Carpinteria, CA)またはウサギ抗Ki−67抗体(Neomarkers, Fremont, CA)と1時間室温で培養した。細胞をそれぞれ15分間PBS/1% トリトンX/1%BSAで3回洗浄し、二次抗体としてアレクサ488抗体(Molecular Probes, Eugene, OR)と1時間培養した。次に、細胞を3回、各15分間洗浄し、再び4%のパラホルムアルデヒドで固定した。次に、細胞をPBS/RNAseで5分間洗浄し、DAPI核染色(Vector Labs, Burlingame, CA)を含むベクターシールド(Vectashield)で包埋した。図3Aは、前記のKi−67で免疫標識されたコントロール培地または生存培地のどちらかで生育した膵臓細胞を示す。この結果は、生存培地で生育した細胞では、コントロール培地中で生育した細胞と比較して細胞のKi−67標識が約5倍増加することを示す(図3Bを参照のこと)。
【0103】
〔2−C.細胞増殖の指標としてのDNA含有量〕
Ki−67標識により示された細胞数の増加は、メーカーの使用説明書に従ってCYQUANT細胞増殖試験(Molecular Probes, Inc. Eugene, OR)を用いてトリプシン処理細胞数を測定することにより確認した。細胞は、CYQUANT GR色素を含有する緩衝液の添加により溶解した。蛍光マイクロプレートリーダーは、続いて試料の蛍光の直接測定に用いた。前記の分析は、単一色素濃度を用いて200μlの容量あたり50〜50,000個の細胞範囲に及ぶ直線的検出範囲(linear detection range)を有する。対数期にない細胞は、高いDNA含有量を示し、コントロール培地での生育と比較して生存培地中で生育した場合では細胞数が約30%増加する(図3Cを参照のこと)。
【0104】
〔実施例3.膵臓細胞および繊維芽細胞培養中のアポトーシスおよび活性化カスパーゼの検出〕
〔3−A.膵臓細胞および繊維芽細胞におけるアポトーシス〕
アポトーシスの最初の兆候の1つは、原形質膜の内部から外葉への膜リン脂質ホスファチジルセリン(PS)の転位である。一度PSが細胞外環境にさらされると、その結合部位がアネキシンV(PSに高親和性を有する、35〜36kDa、Ca2+依存性、リン脂質結合タンパク質)に利用可能となる。初期のアポトーシスを起こす細胞を検出するために、P0膵臓細胞、または正常ヒト繊維芽細胞を4−ウェルチャンバースライドに静置し、本明細書に記載された条件下で生育した。継代の前に、メーカーの使用説明書に従って前記の細胞をアネキシンV、アネキシンV−EGFPの蛍光共役体と5分間、500μlの結合緩衝液中で培養した(U.S. Biological, Swampscott, MA)。アポトーシスを起こした細胞をそれぞれFITCおよびローダミンの二重フィルターを用いて蛍光顕微鏡を利用して可視化し数を数えた。次に、アネキシンVに陽性の染色された膵臓細胞と、染色されない正常環状繊維芽細胞とを比較した。我々は、アネキシンVによる染色はP0膵臓細胞に特異的だと確認した。アネキシンVの結合は、カルシウム依存的であり、コントロールとしてカルシウムのキレート剤である1μMのEGTA(Sigma,St Louis,MI)をP0膵臓培養へ添加すると染色が阻害されるためである。失われる細胞は、接着性および非接着性細胞集団のPDX−1、Ngn3、NeuroD、およびインスリンmRNAの特長により示されたようなベータ細胞および内分泌細胞と推定される細胞であった。加えて、1:1000希釈での抗ヒトC−ペプチド(DAKO, Carpinteria, CA)およびアネキシンVを用いた二重免疫蛍光染色は、多くのベータ細胞(抗ヒトC−ペプチド陽性)が、アネキシンV陽性であることを明らかにした(図2を参照のこと)。これらの結果は、インビトロでのヒト膵臓細胞の培養は、有用な内分泌系統細胞がアポトーシスを起こし減少すること示す。
【0105】
〔B.膵臓内分泌細胞および繊維芽細胞培養中のカスパーゼ活性化におけるカスパーゼ抑制剤の効果〕
アポトーシスの顕著な特徴の1つはカスパーゼの活性化である。カスパーゼ3および7はその下流に共通配列DEVDを有する。培養におけるアポトーシスの程度を決定するため、我々は、メーカーの使用説明書に従ってApo−ONE分析システム(Promega)を用いた(図1)。細胞を96ウェルプレートに移し、細胞溶解液をカスパーゼ活性を支持する緩衝液(Promega,Madison,WI)中で調製した。また、励起波長485nmおよび発光波長530nmでApo−ONEカスパーゼ3/7蛍光分析(Promega, Madison, WI)を用いて蛍光プレートリーダーで分析した。我々の分析により、アポトーシスおよびカスパーゼ活性の潜在的誘導剤であるスタウロスポリンで処理した繊維芽細胞培養量に相当する量の接着細胞由来のP0培養の内分泌細胞においてカスパーゼが活性化されたことが示された。広い範囲のカスパーゼ抑制剤であるVD−OPH−19(MP Biomedicals, Solon, OH)を1μMの濃度で添加するとカスパーゼの活性化が完全に消滅した(図1を参照のこと)。
【0106】
〔実施例4.ゲル電気泳動およびウエスタンブロッティングを用いた活性化Akt量の決定〕
Akt量について我々の膵臓細胞培養条件の効果を評価するために、ウエスタンブロット分析により定常状態でのAktタンパク質量を測定した(図4Aおよび4B)。培養3日後および1回の培地の交換後、ゲル電気泳動および免疫ブロット分析のため膵臓細胞培養に由来する接着性画分および非接着性画分の両者を採取した。陽性コントロールとしてスタウロスポリン(アポトーシスおよびカスパーゼ活性の潜在的誘導剤)で処理した細胞、または陰性コントロールとしてスタウロスポリン未処理の細胞のどちらかをコントロールとしてヒト初代繊維芽細胞を調べた。細胞単層および細胞懸濁液は、冷やしたPBSで2回洗浄し、プロテアーゼ抑制剤のカクテル(Roche,Palo Alto)を含むRIPA緩衝液中において4℃で溶解した。前記のRIPA緩衝液は、50mM Tris−HCL pH7.4、1% NP−40、150mM NaCl、0.25% Na−デオキシコール酸塩、1mM EDTA、1mM PMSF、1mM β−グリセロリン酸エステル、および1mM NaFを含む。不純物を除くために細胞溶解液を4℃で遠心した。タンパク質の濃度をメーカーの使用説明書に従ってBIORADタンパク質分析試薬(Biorad)を用いて各上清について決定した。等量の2×レムリ(Laemmli)SDSサンプル緩衝液を各試料に添加した。試料を加熱し、等量のタンパク質をゲルにのせた。前記タンパク質をSDS−PAGEにより分離し、続いてPDVF膜に転写した。前記のPDVF膜を3%無脂肪粉ミルクを含むPBS中で室温で2時間ブロッキングし、ウエスタンブロット分析を行った。ゲル電気泳動およびウエスタンブロッティングを前記のように行い、リン酸化特異的抗体で標識された膜の場合を除いて、ブロッキング緩衝液は3%BSAを含むPBSとした。タンパク質のブロットを1:100に希釈された抗体(抗Akt抗体および抗リン酸化セリン473−Akt抗体)(Cell Signaling, Beverly, MA)で標識した。コントロールとしてGAPDHに対する抗体(Santa Cruz)を1:500希釈で使用した。続いてブロットを1:15,000で希釈したHRP共役抗体(二次抗体)(Pierce)中で培養した。タンパク質の検出は、化学蛍光促進剤(ECL)(Pierce)を用いて行った。非接触細胞において全長Aktの切断、および多くのタンパク質分解断片の存在を明らかにした抗Akt抗体による免疫ブロット法分析は、接着性細胞画分では前記の切断および断片は少ないことも明らかにした。この現象は、スタウロスポリン(アポトーシスの潜在的誘導剤)で処理した初代繊維芽細胞においては観察されないが、Akt不活性化の新しい機構を表す。さらに、接着性細胞においてもAktが切断されることは、前記の細胞がアポトーシスを運命付けられていることを示す。このことは、多くの接着性の細胞がアネキシンVに陽性に染色された先の知見と一致する。Akt活性化成長因子の添加は、細胞の定常状態のAkt量を上昇させ(図4C)、細胞の生存とAktタンパク質の増加との間の相関関係を証明するものである。
【0107】
抗リン酸化セリン−473抗体を用いた免疫ブロット法は、全長Aktがリン酸化されており、おそらく接着性の膵臓細胞において活性であることを明らかにした(図4B)。リン酸化された断片は、非接着性細胞において顕著であり、接着性細胞集団においては少量であった。培地へのPDGF−BBの添加(R &D Systems, Minneapolis, MN)(50ng/ml)は、全長リン酸化Aktの増加を生じる(図4を参照のこと)。これらの結果は、Aktの脱リン酸化は、Aktのカスパーゼ不活性化を必要としないことを示し、その上、リン酸化され活性化したAkt断片はアポトーシスの間に機能可能であることを示している。
【0108】
〔実施例5.生存培地において処理および拡張された細胞の表現型分析〕
〔5−A.免疫蛍光法〕
膵臓細胞の増殖における生存培地の効果を測定するために、増殖細胞のマーカーであるKi−67の発現を調べた(図3)。免疫蛍光法のため、細胞は4ウェルチャンバースライドで生育し、対数期の細胞を4%パラホルムアルデヒドを用いて室温で固定した。細胞は、ブロッキング緩衝液(PBS/3%BSA/1%の正常ヤギ血清)で1時間培養した。続いて、PBS/0.2%トリトンXで5分間透過化した。次に、洗浄し、モルモット抗ヒトC−ペプチド抗体(ポリクローナル抗体)(DAKO)、または1:500に希釈したKi67に対する抗体(Neomarkers, Fremont, CA)と1時間培養した。細胞をPBS/1%トリトンX/1%BSAで3回各15分洗浄し、アレクサ488共役抗体(1:200)(二次抗体)(Molecular Probes, Carlsbad, CA)と1時間培養した。次に、細胞を15分間洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで再び固定した。5分間のPBS/RNAseでの洗浄後、細胞を核染色DAPIを含むベクターシールドを用いて封入した(Vector Labs, Burlingame, CA)。その結果、Ki67陽性細胞は劇的な増加を示し、生存培地において拡張された細胞の増殖率をさらに増大する。従って、生存培地の使用は、内分泌細胞系統集団の迅速な拡張により、少ない臓器提供者から培養を開始する細胞集団を最大化する方法を示す。
【0109】
〔5−B.免疫組織化学〕
内分泌細胞系統集団における生存培地の効果をさらに測定するために、これらの細胞において発現しているインスリンおよびPDXタンパク質の量を測定した(図5)。膵臓細胞は、ダルベッコリン酸緩衝液(DPBS)で洗浄し、Bouin fluidで1時間固定し、等級アルコールにおいて脱水し、パラフィン包埋した。4μmの薄さのパラフィン切片を切断し、ガラスプレート上に静置した。スライドは、通常の組織学的方法を用いて処理し、続いて外因性のぺロキシダーゼ活性を止めるために0.3%H中で培養した。全てのスライドを10%の好適な種の正常血清を用いてブロックした。一次抗体は以下に挙げる希釈倍率で、組織に室温で60分間反応させた。用いた抗体は、モルモット抗C−ペプチド抗体(1 :2000; DAKO, Carpinteria, CA)、ウサギ抗PDX−1(1 :1000; Incstar, Stillwater, MN)である(図5)。抗体の結合の特異性は、類似した正常血清または非特異的IgGで希釈した一次抗体を置換することで調節した。続いて、スライドは、メーカーの使用説明書に従って好適なビオチン化された二次抗体と培養した(Vector Lab, Burlingame, CA)。抗体は、ABC/DABキット(DAKO)を用いて可視化した。また、組織切片はヘマトキシリンで対比染色した。その結果、生存培地で拡充した細胞集団では、より多くの細胞がC−ペプチドおよびPDX−1に陽性に染色された。これらの結果は、RT−PCRおよび免疫蛍光染色により示したように、より多くの内分泌細胞が生存培地で処理した細胞に存在するという我々の最初の発見を裏付けるものである。
【0110】
〔5−C.リアルタイム定量RT−PCR〕
内分泌系統細胞における生存培地の効果を測定するために、我々は、例えば図6に示したように定量的RT−PCRにより拡充した内分泌細胞の遺伝子発現を調べた。細胞のRNAは、Nucleospin RNA IIキット(BD Biosciences, Inc.)を用いて細胞から分離した。逆転写は、5μgの全RNA MMLV逆転写酵素(Invitorogen)を用い、10mM DTT、0.5mM dNTP(Sigma, St. Louis, MO)、25ng/μlのオリゴ(dt)12−18プライマー(Sigma)、RNase抑制剤(Sigma)および1×First−strand緩衝液(Invitrogen)を用いて行った。前記の混合物を65℃で5分間加熱した。その後、逆転写酵素を加え、60分間、37℃で培養した。反応を終了し、リアルタイム定量PCRを5倍希釈したcDNA0.5mlの存在下で、Light Cycler machines1.0および2.0(Roche)を用いてメーカーの使用説明書に従って行った。インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、PDX−1、Neuro−D1、CK−19、アミラーゼ、HNF3ベータ、およびベータアクチンのプライマー配列を公表されたヒトmRNA配列に基づいて設計した。mRNAデータは、絶対的定量法を用いた予測に従って表されるか、コントロールに対する増加率として表される。異なる遺伝子の全ての発現量をベータアクチンに対して標準化した。生存培地で拡張した細胞での内分泌細胞および前駆細胞マーカーの遺伝子発現の増加は、内分泌細胞系統集団が保護され、拡張されることを示唆する(例えば、図6を参照のこと)。従って、膵臓内分泌細胞は、コントロール培地における増殖および生存に比べて生存培地において増殖および生存率が増加する。
【0111】
〔実施例6.生存培地において処理および拡充された細胞の機能分析〕
〔6−A.細胞のマイクロカプセル封入〕
細胞の拡張において、最終的に分化したベータ細胞の機能を評価するために細胞を分化させる必要がある。細胞のアルギン酸塩マイクロカプセルへの封入は、分化の典型例を提供する。ここで、マイクロカプセル化された単細胞は凝集し、DM(分化培地)の存在下で最終的に分化する。採取した細胞は、1.6%(w/v)のアルギン酸ナトリウム溶液に浮遊した状態で、以下に記載された空気ジェットを用いてアルギン酸塩−ポリ−L−リシン(PLL)−アルギン酸塩マイクロカプセルにカプセル化した(Soon-Shiongら Transplantation 54:769-74, (1992))。細胞の凝集を促進するために、初期のカプセル内でゲル化したアルギン酸塩の中心部は、55mMのクエン酸ナトリウム(pH7.2 290mOsm/kg)中でカプセルを培養することで液化する。前記のカプセル化した細胞凝集体は、SM95培地を含む組織培養フラスコ中に静置した。細胞を回復させた後、培地をDMに交換した(分化培地)。その後、一週間に二度完全な培地交換を行った。培養1〜3週間後、カプセル化細胞凝集体を静的グルコース刺激に用いた(例えば、図8を参照のこと)。
【0112】
〔6−B.静的グルコース刺激(SGS)分析〕
ベータ細胞の機能について生存培地の効果を調べるために、カプセル化した細胞(200−250マイクロカプセル(mics))を5mlの低グルコース(100mg/dl)と一晩(37℃、5%CO)インスリン欠損培地で培養した。カプセル化細胞は、Krebs Ringer溶液中で60分間連続培養(37℃、5%CO)することにより機能性を試験した。前記のKrebs Ringer溶液は、60mg/dlグルコース(低濃度1)、450mg/dlグルコース(Sigma)(高濃度)、および60mg/dlグルコース(低濃度2)を含む。各段階の後、溶液を回収し、以降の試験のために保存した。最終段階の後、解剖用顕微鏡下でカプセルの数を数えた。各溶液のヒトC−ペプチド含有量は、超高感度C−ペプチドELISA(Mercodia, Uppsala, Sweden)を用いてメーカーの使用説明書に従って定量した。C−ペプチドの放出は、緩衝液1mlあたりに凝集体として発現する(各培養段階の後に回収した)か、または低濃度グルコース(低濃度1)によって得られるインスリンの分泌により区別される高濃度グルコース溶液(高濃度)において得られるインスリンの分泌である相対的な刺激指数(SI)として発現する。前記の値は、カプセルあたりに同数の細胞を含むカプセル数に対して標準化した。図8Aおよび8Bに示した結果は、より高い内分泌細胞遺伝子発現と同様に生存培地中で拡張された細胞においてグルコース刺激への高い反応性を示し、我々の内分泌系統細胞の濃縮の知見を支えるものである。加えて、前記の拡張は細胞の機能を失わない。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】図1は、ヒト膵臓細胞培養においてカスパーゼが活性化されていることを示す。培養した膵臓細胞の細胞溶解液中でのカスパーゼ活性の量を測定することでアポトーシスの程度を決定するために、カスパーゼ3/7比色実験を行った。陰性および陽性コントロールとして、カスパーゼ活性を、カスパーゼ依存性のアポトーシスを誘導するために1nMのスタウロスポリンで12時間処理した培養ヒト繊維芽細胞、または無処理の培養ヒト繊維芽細胞において測定した。カスパーゼ阻害剤、非O−メチル化Q−VD−OPH(OPH−109)は、濃度依存的にカスパーゼ抑制を示した。これらの値は独立した3つの実験の代表値である。
【図2】図2(2Aおよび2B)は生存培地(Survival Medium)がヒト膵臓細胞をアポトーシスから救うことを示す。図2Aは、トリパンブルー排除染色により決定された継代前の膵臓細胞の生存の定量的評価(総細胞数に対する生存細胞の割合)を示す。図2Bは、コントロール培地または生存培地中で生育したヒト膵臓細胞のC−ペプチドとアネキシンV−EGFPとの共染色を示す。中央のパネルは、正常ウサギIgGを用いた抗体染色の特異性を調べるためのコントロールを示す。
【図3】図3(A−C)は、生存培地中で培養された膵臓細胞の増殖を表す。図3Aは、DAPI(左列)でラベルされたヒト膵臓細胞、またはウサギ抗Ki67抗体(右列)で免疫染色されたヒト膵臓細胞の密集度80%の対数期培養を示す。細胞は、コントロール培地(上段パネル)または生存培地(中段パネル)のどちらかで生育した。正常ウサギIgGを抗体染色の特異性を調べるためのコントロールとして用いた(下段パネル)。図3Bは、総DAPI陽性細胞の割合として表したKi−67陽性細胞の数の定量分析を示す。図3Cの細胞数は、細胞数を数えることで算出した細胞数、およびコントロール培地または生存培地のどちらかで増殖させた密集培養中のDNA含量を測定することで算出した細胞数である。
【図4】図4Aおよび4Bは、培養膵臓細胞から調製され(継代後3日)、抗Akt抗体(図4A)または抗AktSer473リン酸化特異的抗体(図4B)で標識された全細胞溶解液をイムノブロット分析したものを示す。未処理の繊維芽細胞(図Aおよび図Bレーン1)、スタウロスポリンで処理された繊維芽細胞(図Aおよび図Bレーン2)、並びに培養膵臓細胞の接着性画分(図Aおよび図Bレーン3)、および非接着性(図Aおよび図Bレーン4)画分の免疫ブロットを示す。100nMPDGFで処理した膵臓細胞培養のコントロール溶解物をコントロール(図Bレーン5)として示した。図4Cは、生存培地で処理した細胞の定常状態のAkt発現量を示す。コントロール培地または生存培地のどちらかにおいて生育した接着性細胞および非接着性細胞の全細胞溶解液を抗Akt抗体で標識し、免疫ブロッティングを行った。
【図5】図5(A−F)は、生存培地で処理した後、C−ペプチドおよびPDX−1で免疫標識した膵臓細胞を示す。図A−Dは、コントロール培地(パネルAおよびD)または生存培地(パネルBおよびE)のどちらかで生育した細胞に由来する膵臓細胞凝集体のパラフィン包埋切片について行った免疫細胞化学の結果を示す。抗C−ペプチド抗体染色を上段のパネル、抗PDX−1抗体染色を下段に示す。C−ペプチド(+)細胞の割合(パネルC)およびPDX−1(+)細胞の割合(パネルF)を示す。実験は3回行い、4つの独立した領域の平均を定量化した。
【図6】図6(A−D)は、生存培地において生育した膵臓細胞は、内分泌細胞および前駆細胞のマーカーの発現が増加することを示す。コントロール培地(各パネルの左の棒グラフ)または生存培地(各パネルの右の棒グラフ)のどちらかにおいて3回継代され、維持されたヒト膵臓細胞のRNA溶解物について、qRT−PCRを用いてインスリン、NeuroD、PDX−1およびHNF3−βの発現を調べた。遺伝子の発現は、βアクチンmRNAに対する遺伝子の比率として示した。データは、コントロールと比べて生存培地において各遺伝子の比率が何倍も上昇することも表す。例えば、インスリンは、コントロール培地中で生育した細胞と比べて生存培地中で生育した細胞では28倍増加した。同様に、コントロール培地で生育した細胞と比べて生存培地で生育した細胞ではNeuroDは15倍、PDX−1は275倍増加し、HNF3−βは88倍増加した。
【図7】図7は、膵臓内分泌細胞培養中のインスリン遺伝子発現においてAkt活性化成長因子とカスパーゼ抑制剤との間の相乗効果を示す。このデータは、コントロール培地単独での細胞の生育から得られた比率の何倍もの増加を示すβアクチンmRNAで標準化したインスリンmRNAの比率であるこの結果は、Akt活性化成長因子のコントロール培地への添加は、コントロール培地のみで生育した細胞に比べてインスリン遺伝子発現を増加する効果はないことを示す。このことは、成長因子は、内分泌細胞集団の増殖または生存を増加させないことを示す。しかし、カスパーゼ抑制剤(OPH−109)を添加すると、コントロール培地のみで生育した細胞に比べてインスリン遺伝子発現が10倍増加する。このことは、内分泌細胞集団においてアポトーシスが減少し、生存する細胞が増加したことを示す。驚くべきことに、コントロール培地におけるAkt活性化成長因子とカスパーゼ抑制剤との複合効果は、相乗的に働きコントロール培地のみで生育した細胞よりもインスリン遺伝子発現が16倍増加する。この相乗効果は、成長因子またはカスパーゼ抑制剤のどちらか単独でコントロール培地に加えて生育した細胞と比べて、内分泌細胞集団の増殖および生存が増加することを示す。
【図8】図8(A−B)は、コントロール培地または生存培地において生育し、分化因子で処理したカプセル化細胞の静的刺激および遺伝子発現分析を示す。図8Aにおいて、60mg/dlのグルコースおよび450mg/dlのグルコースを添加したクレブス溶液(Krebs solution)中での連続培養によってカプセル化細胞の機能性を評価した。ヒトC−ペプチド含有量は、超高感度C−ペプチドELISAを用いて定量した。C−ペプチド分泌は緩衝液(A)の1mlあたりの累積として表した。細胞は、カプセルから回収され、溶解、およびqRT−PCR分析を行い、βアクチンmRNAに対する遺伝子の比率として図8Bに示したように遺伝子発現を決定した。実験は3回行い、独立した2つの実験の平均を表した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)膵臓内分泌細胞においてアポトーシスを減少させるために十分な量の外因性カスパーゼ抑制剤、および
(2)膵臓内分泌細胞において活性化Aktの量を増加するために十分な量の少なくとも1つの外因性成長因子、
に接触させることにより、膵臓内分泌細胞の増殖および生存を促進する方法。
【請求項2】
上記膵臓内分泌細胞がインスリン産生凝集体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記カスパーゼ抑制剤は、Q−VD−OPH、Z−VAD(OMe)−FMK、Ac−VAD−CHO、Boc−D−FMK、BACMK、BI−9B12、Ac−LDESD−CHO、およびDEVD−CHO CPP32/アポパイン抑制剤からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記カスパーゼ抑制剤の濃度は、約1μmから約100μmである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記カスパーゼ抑制剤は、Q−VD−OPHおよびZ−VAD(OMe)−FMKからなる群から選択された不可逆の汎カスパーゼ抑制剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
上記カスパーゼ抑制剤はQ−VD−OPHである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記成長因子は、EGF、IGF−I、IGF−II、ヘレグリン、およびPDGF−BBからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
上記成長因子はPDGF−BB、ならびにIGF−IおよびIGF−IIからなる群の1以上の成長因子である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
上記各成長因子の培地中の濃度は、約10ng/mlから100ng/mlである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
以下の(1)から(3)を含む、膵臓内分泌細胞の増殖および生存のための細胞培養培地組成物:
(1)膵臓内分泌細胞を含む培地;
(2)膵臓内分泌細胞においてアポトーシスを減少させるために十分な量の外因性カスパーゼ抑制剤;
(3)膵臓内分泌細胞において活性化Aktの量を増加させるために十分な量の少なくとも1つの外因性成長因子。
【請求項11】
上記膵臓内分泌細胞はインスリン産生凝集体である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
生理学的に条件を満たした上記培地が、CMRL1066、RPMI1640、DMEM/F12、およびSM95からなる群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
上記カスパーゼ抑制剤が、Ac−VAD−CHO、Boc−D−FMK、BACMK、BI−9B12、Ac−LDESD−CHO、およびDEVD−CHO CPP/アポパイン抑制剤からなる群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項14】
上記カスパーゼ抑制剤の濃度が、約1μMから100μMである、請求項10に記載の組成物。
【請求項15】
上記カスパーゼ抑制剤が、Q−VD−OPHおよびZ−VAD(OMe)−FMKからなる群から選択された不可逆の汎カスパーゼ抑制剤である、請求項10に記載の組成物。
【請求項16】
上記カスパーゼ抑制剤がQ−VD−OPHである、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
上記カスパーゼ抑制剤の濃度は、約1μMから約100μMである、請求項10に記載の組成物。
【請求項18】
上記成長因子はEGF、IGF−I、IGF−II、ヘレグリン、およびPDGF−BBからなる群より選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項19】
上記成長因子はPDGF−BB、ならびにIGF−IおよびIGF−IIからなる群の1以上の成長因子である、請求項10に記載の組成物。
【請求項20】
上記各成長因子の培地中の濃度は、約10ng/mlから約100ng/mlである、請求項10に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−523449(P2009−523449A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551438(P2008−551438)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/001555
【国際公開番号】WO2007/084730
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(508218707)リニューロン インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】ReNeuron,INC.
【Fターム(参考)】